Contract
資料2
平成 20 年 5 月 2 日
「任意解除」に関する標準契約書モデル及びその解説(案)
1.問題状況
・ 背景:契約ガイドラインには以下のとおり規定されている。
5-1 公共施設等の管理者等の解除権
7.任意解除
・管理者等の政策変更や住民要請の変化等により、選定事業を実施する必要がなくなった場合や施設の転用が必要となった場合には、管理者等は一定期間前にPFI事業契約を解除する旨選定事業者に通知することにより、任意にPFI事業契約を解除できる旨規定されることが通例である。これは、選定事業が公共サービスを提供するものであり、不必要なものを提供することが社会的に無駄であるという特殊性から、管理者等の解除権の要件を約定により追加するものである。但し、管理者等による任意解除権は選定事業者にとって予測できないリスクであり、管理者等がこれを行使する場合には、選定事業者から請求される損害賠償の範囲や額について慎重な考慮が必要となる。
・ 現在の契約条項:任意解除規定の有無は事業によって異なる。任意解除規定がある場合、通常損失補償の規定もあるが、具体的算定方法までは書かれていないことが多い。
・ 課題:①民間事業者の保護は十分か、②公共は本当に行使できるか(現在の規定では、具体的補償額がxx)。
2.対処に関わる基本的な考え方
(1) 契約の安定化の必要性:そもそもPFI契約の全ての当事者は、契約を全て履行する意図をもって契約締結を行い、契約関係に入るべきである。
(2) 任意解除規定の必要性:上記のとおり、政策変更、住民ニーズの変化などにより、発注者による解除が必要になることがある。一方、官民の対等なパートナーシップというP FIの本来の関係から、官民双方の権利義務は明確に契約上に規定されることが望まれる。したがって、任意解除の規定を設け、その場合の権利義務関係を明確にすることにより、民間事業者及び融資機関の立場を不安定とすることを防止すべきである。
(3) 損失補償額の明確化:官民のリスク分担を明確にすることによりVFMを実現するというPFIの基本理念に照らせば、損失補償の内容もできる限り明確化すべきである。
(4) 補償内容:理由を限定しない解除権を発注者に与える場合、あくまで抑制的であること
(すなわち簡単に行使されないようにすること)が基本である。したがって、安易に発注者が解除することができないよう、解除時に支払われるべき補償の額を発注者の債務
不履行時の補償額と同額とすべきである1。
(5) 事業の性質に応じた補償額算定メカニズム:損失補償範囲の明確化の際は、不合理な結論にならないよう、事業の性質等を十分考慮してメカニズムを作成する必要がある。
(6) 解除手続に伴う負担:任意解除の規定があり、かつ損失補償の算定方法についての規定があるとしても、実際にそれを行使するとなると、損失補償の算定などが両当事者にとって非常に大きな負担となる可能性があることに留意すべきである。
3.具体的な規定の内容
(1) 任意解除規定及び損失補償
公共の任意解除権及び損失補償の支払義務を規定する。特に要件の限定のない任意解除の規定の場合には、基本的には発注者の債務不履行による解除の場合と同様の損失補償が認められるべきである。この場合、補償内容を明確にするため、補償の対象項目及び算定方法を明確に規定することが望ましい。
(2) 優先貸付人への期限前弁済に伴い支払う補償
マーケットプラクティス等に照らし不合理な合意がなされている場合を除き、全て支払 う(スワップ解約コスト等を含む)。合理的な慣行であることを確認するためには、コス トに見合う場合には融資契約や関連諸契約のデューデリジェンスを行うことが望ましく、そのほかの場合であっても少なくとも期限前弁済補償の額に影響を与えるような条項の 内容等を把握することが望ましい。
(3) 委託先への損失補償
マーケットプラクティス等に照らし不合理な合意がなされている場合を除き、全て支払う。このため、発注者は関連諸契約の期限前の解除の際の支払額に影響を与えるような条項の内容等を把握することが望ましい。合理的な解除規定の内容は、委託する業務の内容やリスクに応じて異なり、例えば、代替性や初期投資の有無によって異なる。
(4) 株主劣後貸付人2、株主への支払
例えば以下のような方法があり、いずれによるかは事業の内容等によることとなる。
1) 財務モデルに基づき算定する方法
当事者間で予め合意した財務モデル3において想定されている将来の収支等をもと
1 英国では、無限定の解除権を認めつつも(補償額は発注者の債務不履行時と同様)、一定の日に解除した場合には、補償額の一部を定額化する方法が採用されている。
2 株主が劣後融資をしている場合には、基本的には株式と同様の扱いをすべきである。劣後融資は、xxxxx・xxリターンであることが多く、優先貸付人と同様の基準で支払うことはリスクを無視することになるからである。株主以外の者が劣後融資をしている場合、劣後融資・優先融資の間にメザニン融資がある場合などは、それぞれの融資の性質(リスク、リターン)に応じて扱いを決定する必要がある。
3 財務モデルとは、将来のSPCの収支等の予想で、資産、負債、キャッシュフロー等の予測及
びその前提となる仮定などが含まれている。(Joint Service Procurement Pack Model 11 Instruction and Guidance 参照)
に算定する方法である。これを、どのように使用するかについては様々な方法がありえる4が、将来の逸失利益をすべて補償するのではなく、一定の範囲に限るのが一般的である。この際、以下の点に留意すべきである。
① 財務モデルの合意:現在、我が国では詳細な財務モデルについて予め合意するという慣行は存在しない。しかし、財務モデルを合意することは、解除の際の損失補償のほか、各種変更が生じた際の算定の根拠になるものであるので、今後は財務モデルを合意する慣行を形成していくことが望ましい。なお、サービス購入型でも比較的単純な事業については、入札時に提出した事業計画をベースに算定することも考えられる。
② 当初の財務モデルと現実が異なる場合:当初想定していた収益率と現実が異なる場合どちらを基準にすべきか、さらに将来におけるリスクをどのように考慮すべきかなどの判断が難しい。現実の収益率をベースにする方法もありえるが、解除時点の収益率が将来も続くと仮定することが常に合理的とはいえないことに留意する必要がある。
③ リスクの考慮:財務モデルに基づく収入をもとに算定する場合には、その収益が得られる確実性(すなわちリスク)にも考慮する必要がある。一般的に高い収益が見込まれる案件は、リスクも高いために、リスクに応じた調整(割引率を高く設定するなど)が必要であることに留意する必要がある。
④ 割引率:割引率(又はその算定方法)についても予め合意しておくことが望ましい。
2) 予め定めた算式による方法
財務モデル等に基づき、予め具体的金額(または算定方法)を合意しておく方法もある。この方法を使用する場合、支払金額は双方にとって合理的か、議会及び住民に対する説明という点でも問題が生じないかを検討した上で内容を定め、かつ入札段階で民間事業者に条件を提示するべきである。
例:英国 SoPC4 では、一定の時点で解除した場合の劣後貸付人、株主への支払の定額化(具体的金額は入札時に応札者が提案)という方法が新たに提案されている(現実的に機能するかは、まだ例がないので今後の課題である)。
(5) その他の補償項目:上記以外で補償すべき項目について更に検討が必要である。
(6) わが国において採用された方法の例:わが国においては、契約解除時期とそれぞれの時期に解除された場合の補償金額総額のみを定めた補償金額算定表を採用した例がある
(加古川市立総合体育館整備PFI事業)。
4 例えば、英国 SoPC4 では、①予め合意した財務モデルにおけるEIRRに基づき算出した「解 除時」までのリターンに相当する額、②解除時の市場価格、③解除日以降に、予め合意したx xモデルに基づいて受領する予定だった金額(解除日から支払予定日までの期間について財務 モデルにおけるEIRRを割り引いて算出)の3者から事業者が予め選択する額とされている。
4.留意点
(1) 事業類型との関係:逸失利益の計算は、事業類型によっても考慮すべき点が異なる。サービス購入型の場合、サービスを担う対価からコストを控除したものが利益となる。発注者が支払うサービス対価には明確に上限があるため、サービスのコストの大まかな状況を推定できる場合、事業者があえて利益を上乗せして、補償を要求することは想定しにくい。一方、民間事業者にとってxxxxx・xxリターンの案件、すなわち需要リスクを大幅に民間に移転する案件については、受注者の収入に明確な上限があるわけではないため、合理的な推定は成立しにくいという状況にある。
(2) 解除事由を限定する考え方:任意解除については、上記の考え方の他、任意解除を完全な任意解除とせず任意解除ができる場合は限定するが(例:完全な任意にせず解除できる場合を限定、又は一定期間任意解除を禁止)、損失補償の額についても債務不履行による解除に比べて軽減するという考え方もある(この場合については、地方自治法第 238条の5第 4 項、第 5 項(損失補償として位置づけられている)も参照)。
(3) その他の留意点:
1) 損失補償額の算定方法を詳細には記載しない場合でも、優先貸付人に不測の損害が及ばないことが明らかになるような書き方にすることが望ましい。
2) 優先貸付人への利息、委託先への支払い、劣後貸付人・株主への支払いについては、相互に関連していること(委託先への支払いが大きくなると、株主への支払いが小さくなるなど)に留意する必要がある。その結果、例えばPFI契約締結前に劣後貸付人・株主への支払分だけ決めようとしても委託先への支払いが定まっていない段階では難しいという問題が生じうる。
3) 任意解除にあたっては議会の議決を必要とすることも考えられる(この場合、地方自治法との関係等、制度面の検討が必要となる)。
5.条文例
(甲=発注者、乙=SPC)
(甲の任意による契約解除)
第○条 (1)甲は、本契約の終了前はいつでも、6月以上前に乙に対して通知することにより本契約の全部又は一部を解除することができる。
(2)前項により本契約が解除された場合、乙は、甲に対して、当該終了により被った合理的な損失の補償を請求することができるものとする。
[(2)別案 前項により本契約が解除された場合、乙は、甲に対して、以下の損失補償を請求できるものとする。
①・・・
②・・・] (3)[損失補償及び未払いの施設整備費相当分等の支払方法について規定]
以上