Contract
Ⅲ. - 5:117 条 履行場所に対する効果
(1) 譲渡された債権が特定の場所における金銭の支払債務に関するものである場合には、譲受人は、同一国内のいずれの場所でも支払を求めることができる。その国が EU の加盟国であるときは、譲受人は、EU 内のいずれの場所でも支払を求めることができる。ただし、譲渡人は、履行場所の変更により債務者に生じる増加費用について、債務者に対し責任を負う。
(2) 譲渡された債権が特定の場所において履行されるべき非金銭債務に関するものである場合には、譲受人は、他の場所で履行を求めることはできない。
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A.金銭債務の履行場所に対する債権譲渡の効果
債務者が債権者の営業所において、または債権者の銀行口座への振込みによって支払をしなければならない場合、債権譲渡は必然的に履行場所の変更を伴う。一定の国の中では支払場所は通常ほとんど意味がない。なぜならば、およそ重要な支払のほとんどは銀行間振込みで行われており、債務者が譲渡人の口座への支払を譲受人の口座への支払へと変更することはたやすいからである。これとは異なる考慮が必要となるのは、支払場所が別の国の支払場所へ変更される場合である。債務者が本条1項により譲渡人から償還を受けることができる増加費用は別として、債務者は、通貨管理、振込みリスクの増大および振込み完了までの時間の増大を認容する必要性により影響を受けるかもしれない。それゆえ、 1項に定める一般規定は、譲受人は支払がされるべき場所とは異なる国で支払を求めることができないという。しかしながら、元の支払場所が欧州連合の加盟国の中にある場合に
は、この規律は修正され、譲受人はその国でも別の加盟国でも支払を請求できる。事実上、欧州連合は本条1項の適用においては単一の国と看做される。このことは、単一市場とし
ての欧州連合という構想および欧州通貨連合ならびに欧州通貨連合加盟国の強制的な共通通貨としてのユーロの出現を反映している。この規律は、各国法に見られる規律を超えているが、単一市場の場面では便利である。
設例1
ハンブルクのSがパリのBに商品を売り、支払はハンブルクのSの銀行口座に銀行間 振込みで行うこととされた。Xが債権をミラノのAに譲渡した。債権譲渡の通知により、 AはBにミラノのAの口座へ支払うよう請求できる。
設例2
事実は、Sがニューヨークの業者でBはニューヨークのSに支払を求められていたという点以外は設例1と同じである。xxxの譲受人AのBに対する支払いの請求は、アメリカ合衆国内ではどこにおいてもできるが、他の国ではできない。
[p.1063]
B.非金銭債権の履行場所は変更できない
非金銭債権にはまったく異なる考慮が必要となる。というのは同じ国内においてすら新しい履行場所への変更は債務の性質を本質的に変えてしまうかもしれないからである。たとえば、サウサンプトンで船積渡しを行う契約上の債務がある場合、船積場所はその契約の本質的条項であり、債権譲渡を理由に、債務をリヴァプールでの船積渡し債務に転換されてはならない。それゆえ2項は、非金銭債務の履行場所についての債権の譲受人は、債務者の履行の場所を変更することはできない、と定める。
ノート
1. 金銭債権の譲渡は、ほぼ例外なく債務者の履行場所の変更を伴う。すなわち、譲渡人の営業所または銀行口座が譲受人の営業所または銀行口座に代わる。譲受人が譲渡人への支払に代えて自らに支払を求めることは、たしかに金銭債権の譲渡性に固有のことである。それゆえほとんどの法体系は譲受人への支払に関する明示の規定を持たないように思われるが、一般に認められているところでは、少なくとも同一国内で支払が行われるべきものである限り、債務者に生じた増加費用について譲渡人が責任を負うものの、譲受人はその場所で支払を求めることができる。北欧法は、北欧約束手形法3条でこの趣旨の明確な規定を設けている数少ない法に属する。ギリシアの学説は別れていて、債務者は譲渡人の住所地で支払をする権利を保有するとする説がある(たとえば、Xxxxxxxxxx and Xxxxxxxxxx (-Kritikos), art.455, no.60)一方で、譲受人の住所地で良いとする見解もある(Georgiades, 421, note 57)。ドイツ法は住所地を変えた債権者に増加費用と送金のリスクを負担させる(民法270条3項)。同様の規律は、オランダ法(民法6編116条・ 117条)、商事法関係についてのスロヴァキア法(商法337条2項)、エストニア債務法85条3項にも見られる。チェコ商法337.2条および国際物品売買契約に関する国際連合条約
(CISG)57条は、債権譲渡に類推適用できると考えられている。CISGの解説には類推適用に反対するものもあるが、元の履行場所で支払を求める債務者の権利に固執するのは、債権の譲渡性と整合しないというのがより優れた見解である。オーストリアでは、民法1396条から、履行場所は変更しないという結論になるはずである。スロヴェニア法では、債権譲渡前より債務者の地位を悪化させるようなことを債務者は債務者になんら請求できる権利がない、というように思われる。これは債務法421条1項に明確に規定されている。同条2項[訳注:原文はthe Articleとあり本条2項とされているが、ここで論じているのは金銭債権なので the articleの誤記でありスロヴェニア債務法421条2項を指すものと思
われる。]の規律は、譲受人は譲渡人が有していなかった権利を取得できないという一般原則と一致するスコットランド法およびイングランド法の立場でもある。チェコ民法はこの問題について何も明示的な規定を持たないが、学者は、譲受人は元々合意された履行場所以外を一方的に指示することはできないという厳格な見解を主張してい
る(Švestka/Xxxxxxxx/Xxxxxxx, OZ9, 936)。
2. ポーランド法は、履行場所に関して、債権譲渡にも適用される一般的な法規定を定めている。一般に、金銭債務の履行は履行時点における債権者の住所または営業所のある場所で行わなければならない。[p.1064]債権の発生後に住所または営業所の場所を変えたときは、債権者は追加的に必要となる給付の費用を負担しなければならない(民法454条)。非金銭債権については、その場所が定められておらず、債務の性質からも 導かれないときは、履行は債権の発生時の債権者の住所または営業所のある場所で行わなければならない。スコットランド法では、支払は債権者の営業所の場所で行われなければならないというのが一般的な規律であり、通知のされた債権譲渡が生じたときは譲受人がこの規律の債権者となる(McBryde, Law of Contract in Scotland, no.24.19)。
3. スペイン民法は履行場所に関して金銭債権と非金銭債権を区別しない。民法1171条の定めるところによれば、債務の履行の場所は契約条項で定めた場所か、そのような定めがない場合には、債務者の住所である。履行場所の変更には、明示または黙示の両当事者の合意を要する。さらに、債務者の地位は債権譲渡によって悪化されてはならない。それゆえ、債務者は、譲渡人に対して対抗することができたあらゆる抗弁を譲受人に対抗することができる(Xxxxxxx Xxxxx, La cesión de créditors, 352)。
4. フランスとベルギーでは同様の規律は明示的には存在しない。おそらく、履行場所に関する規律が、金銭債権については債務者の住所であり、その他の引渡債務では物の存在している場所と定めているからであろう。