X(原告)は、宅建業者Y(被告)に対し、 Yの名刺を使用して仲介業務の補助業務を行いたいと申し入れ、Yとの間で「業務提携に関する覚書」(以下「本件覚書」という 。)を締結したうえで、不動産売買の仲介等に関する業務提携契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件覚書には次の記載がある。第1条(目的)
最近の判例から
⑿−媒介補助業務と報酬請求権−
契約は自分の情報提供を契機として成立したものであるとして、業務提携契約を締結した媒介業者に対して報酬の支払を求めた事案において、報酬請求が否認された事例
(東京地判 平25・4・26 ウエストロー・ジャパン) xx xx
xx業者と不動産仲介業務の補助業務に関する業務提携契約を締結した者が、当該xx業者の仲介により成立した売買契約は、自分の情報提供を契機として成立したものであるとして、当該xx業者に対し、相当額の報酬の支払を求めた事案において、本件契約は原告の情報提供を契機として成立したものとも、原告の買主等への働きかけや提案が成約に寄与したとも認められないとして、請求を棄却した事例(東京地裁 平成25年4月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X(原告)は、xx業者Y(被告)に対し、 Yの名刺を使用して仲介業務の補助業務を行いたいと申し入れ、Yとの間で「業務提携に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を締結したうえで、不動産売買の仲介等に関する業務提携契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件覚書には次の記載がある。第1条(目的)
甲(被告)と乙(原告)は、不動産の流動化、土地・建物の有効利用に関する企画、調査、設計業務、その他これに付帯する業務(以下「本件業務」という)において、お互いの強みを生かす分野での業務提携を行う。
第3条(報酬)
本覚書に基づく報酬はその業務への関与比率に応じ別途定めるものとする。
Yは、平成22年12月頃までに、甲不動産等
(以下「本件不動産」という。)について仲介業務を行い、売買価格を約140億円とする売買契約(以下「本件売買契約」という。)を成立させて、仲介手数料を得た。
Xは、Yに対し、本件契約に基づく報酬の一部として2000万円を請求した。
これに対し、Yは、本件不動産に関する情報は、Xから情報を得る前に、CやDからすでに情報提供されていたものであり、Xからの情報提供を契機として成約したものではないとして、支払を拒絶した。
Xは、本件覚書は仲介業務が成功したか否かにかかわらず、相当額の報酬を請求することができるものであり、また、本件契約は、 Xが提供する情報に関し、売主からの直接の情報であり、かつ、未だ不動産業界に出回っていない情報に限定して成功報酬の対象とする旨の合意も存在しない等と主張して、報酬の支払を求めて提訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示して、Xの請求を棄却した。
⑴ Xの報酬について、X・Y間にどのような内容の合意があったかについて
「業務提携に関する覚書に基づく報酬について(案)」と題する書面には、「本件覚書に基づく報酬については下記の通りとします」
との書き出しによる始まり、成功報酬に関する記載はあるが、成功報酬以外の報酬については何ら記載がないこと、その他の事実によれば、XとYは、本件契約の締結に際し、Xの情報提供に基づき売買契約が成立した場合に限り、Xの関与の度合いに応じて成功報酬を支払う旨を合意したものと認められる。
他方で、Xの成功報酬の対象となる情報提供について、売主からの直接の情報に限る旨の合意があったものと認めるに足りる証拠はない。また、XとYが、Xの成功報酬の対象となる情報提供について、未だ不動産業界に出回っていない情報である場合に限る旨を合意したものと認めるに足りる的確な証拠もない。ただし、Xの報酬について、成功報酬とする旨を合意し、その報酬額について、「業務への関与比率に応じるもの」とされていることに照らせば、何ら新規性のない情報提供等の売買契約の成約に寄与しないXの活動については、成功報酬の対象とならないものと解するのがXとYの合理的意思に合致するというべきである。
⑵ Xに対して支払うべき報酬額について Xは、平成22年1月12日、Y等に対し、「〇〇
町再開発ビルの内、売買対象土地建物概要」と題する書面、写真等を「△不動産の前に2社いるルートの情報ですのでご参考です。」などと記載した電子メールに添付して送信し、これを確認したCが、平成22年1月14日、 X及びYに対し、「本件、AM会社から直接、聞きました。非常に中のいい人間からなので、取得希望者が見つかれば、いつでも話できます。」と返信したことが認められる。そうすると、Xが同月12日にYに対し提供した本件不動産に関する情報には、新規性があったものと認めるのが相当である。
しかしながら、①Cは、平成22年5月ないし6月頃、旧知の間柄であるAM会社に確認
したが、既に入札開始直前であり、今から新しい買主候補を検討しても間に合わないとの回答があったこと、②AM会社は、同年8月頃、Cに対し、上記の入札により決定した優先交渉権者との交渉が決裂したため、本件依頼をしたこと、③Cは、これを受けて、Yとともに本件不動産を買主に提案し、売主と買主との間で、同年12月頃までにYの仲介のもと本件売買契約が成約するに至ったことが認められる。
以上によれば、本件契約は、Xの平成22年 1月12日の情報提供を契機として成約したものであるとも、XのAM会社、Y及び買主への直接又は間接の働きかけや提案を契機として成約したものであるとも認められず、また、 Xの働きかけや提案がその成約に寄与したものとも認められない上、本件全証拠を検討しても、他に本件売買契約の成約にXが寄与したものと認めるに足りる証拠はないから、本件売買契約に基づきXに支払われるべき報酬は存在しない。
3 まとめ
業務提携をした者から提供された情報は、新規性があったものの、その後の経緯から売買契約は当該情報提供・提案等を契機として成約したとは認められないとして請求を棄却したものである。裁判所は、丁寧に事実認定を行っているが、紙面の関係で割愛している部分が多いので、本事案に興味のある読者は判決文を参照されたい。なお、従業員でない者に会社の名刺を利用させて、媒介業務等を行わせていることは、名義貸し(xx業法13条)の疑念がある。
(調査研究部上席xx研究員)
最近の判例から
⒀−保証協会の認証拒否−
契約の形式が宅地建物取引の要件を満たしても、実質はその要件に該当しないとして、認証請求が棄却された事例
(東京地判 平25・4・22 ウエストロー・ジャパン) xxx x
xx業者が訴外xx業者に売主として土地建物の売却を委託し、また買主として別のマンションの買い付けを委託した委託契約でそれぞれに生じた債権につき、訴外xx業者が社員となる宅地建物取引業保証協会に認証を求めた事案について、当該委託契約の形式が宅地建物に係る売買その他の宅地建物取引の要件を満たすものであっても、当該委託契約の実質が上記要件に該当しない場合は、認証制度の対象となる「宅地建物取引業に関する取引」に該当しないとして認証の請求を棄却した事例(東京地判 平成25年4月22日判決控訴棄却 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
保証協会Y(被告)社員である宅地建物取引業者(以下、「訴外業者」という。)の代表取締役Cは、xx業者X(原告)の代表取締役Aに対し、平成19年4月頃、㈱dから土地建物を5,000万円で購入し、その後、1か月程度で㈱dの代表取締役Dに、同物件を 5,800万円で売却するという取引を持ちかけ、 Aは、800万円の利益が出ることが見込まれたため、Cの提案に応じた。
Xと㈱dとの間で、4月25日付けで、Xが
㈱dから土地建物を5,000万円で買い受ける旨の売買契約書が作成され、そして4月24日、 Xは、㈱dに対して、代金5,000万円を支払っている。5月7日、売買を原因として土地建物の所有権を㈱dからXへ移転する旨の所有権移転登記がされた。5月20日、Xは、訴
外業者との間で、土地建物の販売から引渡しまでに関する一切の業務を委託する旨の業務委託契約書を締結した。そして、6月28日付けで、XとDとの間でXが土地建物を5,800万円でDに売却する旨の売買契約書が作成され、同年7月23日、同日売買を原因としてXからDへと所有権移転登記がされた。
5月10日、Xは、訴外業者との間で、㈱d所有のマンションの販売から引渡しまでに関する一切の業務を委託する旨の業務委託契約書を締結した。Xは、訴外業者にマンションの代金の一部として1,000万円を預託したが、 Xと㈱dとの間でマンションの売買契約が成立することはなく、Xへマンション所有権移転登記がされることもなかった。
㈱dは、平成19年6月4日から20年6月23日までの間、23回にわたって、合計2,192万 7,600円を訴外業者の預金口座に振込送金した。㈱dないしDは、平成19年6月29日から 20年3月7日までの間、7回にわたって計
1,590万円をXに交付した。 Xは、訴外業者に対し、通知の到達後10日
以内に、土地建物の代金のxx回収の代金の支払と、マンションに係る預託金の返還をするよう求めるとともに、返還がされない場合には法的手段を執る旨の通知をし、同通知は遅くとも平成22年4月15日には、訴外業者に到達した。
Xは、Yに対し、平成22年3月9日、①訴外業者がXのために代理受領した土地建物の売買残代金4,210万円に係るXの訴外業者に
対する債権、②Xが訴外業者にマンションの買付けを委任した際に預託した1、000万円に係るXの訴外業者に対する債権等が、宅地建物取引業に関する取引により生じた債権に当たるとして、宅地建物取引業法64条の8第 2項に基づく認証を求める申出をした。
Yは、Xに対し、平成23年9月12日、上記
①の債権は、Xが訴外業者に対して代理権を与えたことや、買主Dから訴外業者に代金が支払われた証拠はないとし、上記②の債権も、 Xが訴外業者に対して代理権を与えたことや売主㈱dから訴外業者に対して1,000万円が返還された証拠は無い等として、Xの上記申出の認証を拒否した。
2 判決の要旨
裁判所は次のとおり判示して、Xの認証の請求を棄却した。
⑴ Yによる弁済業務及び弁済を受けることができる金額についての認証の制度は,Yの社員が行った宅地建物取引業に関する取引によって被害を被った者の保護を図るための制度であるところ,一社につき弁済に充てることができる金額には上限があり,被害を被った者のxxを確保する上では,「宅地建物取引業に関する取引」に該当するかどうかについては厳格に判断される必要があると解されるところであり,当該契約の形式が,宅地建物に係る売買その他の上記要件を満たすものであるとしても,当該契約の実質が上記要件に該当しないものである場合には,認証の対象となる「宅地建物取引業に関する取引」に該当しないと解されるべきである。
⑵ 一連の取引は、5,000万円の資金を投入することによって、予め金額が800万円と確定している収益を得るための手段に過ぎない。㈱d及びDがXに800万円もの利益を与える理由は、5,000万円の資金繰りが得られ
ることにあった。
⑶ マンションの購入は、㈱dから5,000万円で買い受け、5,800万円でDに売却するものであるとのAの供述があるが、Aが自ら押印し、作成した訴外業者に対する業務委託契約書においては「売却代金は、金4,000万円とする。」と定められており、書面の内容とも食い違うこと等の事情に照らせば、Xにおいて、xx、訴外業者に対して、マンションの買付けを委託したのかどうかも、甚だ疑問である。
⑷ Xから訴外業者への業務委託契約は、形式的には売買契約及びこれに係る業務委託となってはいるが、その実質も、各当事者の意図としても、真に宅地建物の所有権を移転することを念頭に置いたものではなく、Xが、
㈱dないし訴外業者に5,000万円ないし1,000万円の資金を投入することにより、Xが相応の対価又は収益を受けることを予定した取引であった。
⑸ Xは、真に不動産の売主又は買主となるために、土地建物又はマンションを目的とする売買取引に係る業務を訴外業者に委託したものと認められない。
3 まとめ
本件は、保証協会の認証制度の対象債権とするための判断を示した事例である。
なお、保証協会の弁済業務は、保証協会及びその社員の負担において、債権の支払いを担保する仕組みである。また、申出人の認証申出が認証され、申出人に還付が完了すると、保証協会は、当該案件の社員に対し、認証額に応じて還付充当金額と諸経費を請求する。その社員の債務が免責されるわけではないことに注意する。
最近の判例から
⒁−私道合意の承継−
私道使用契約に基づく通行権、妨害禁止請求及び損害賠償請求の一部が認容された事例
(東京地判 平25・3・26 ウエストロー・ジャパン) xx xx
私道に接する宅地を売主業者から購入した買主が、当該宅地の元の所有者が私道の所有者と交わした私道使用契約に基づく通行権の確認、妨害禁止請求等を求めた事案において、売主業者と私道の所有者が交わした私道使用契約に基づく通行権が承継されること、及び私道の所有者らの妨害行為も認定できるとして、損害賠償請求が一部認容された事例(東京地裁 平成25年3 月26日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
X1及びX2(原告 以下「Xら」という)は、平成22年10月18日、株式会社O(以下「O社」という)から、宅地(以下「本件土地」という)を購入した。
O社は、これに先立って同年5月に本件土地を元の所有者Aから購入するにあたり、 Y1、Y2(被告 以下「Y1ら」という)が所有する私道に面しているため、AとY1らとの間で私道使用契約(以下「本件私道使用契約」という)を締結した。
本件私道使用契約の中には、一般自家用車両の無料通行、障害物設置禁止、第三者へ譲渡の際は承継することが約定されていた。
さらに、O社は、同年7月、Xら及びY1らに利用させるため、ごみ集積所を本件係争地(略図参照、以下「本件係争地」という)に設定することとし(以下「本件ごみ集積所」という)、 K区清掃事務所における手続きを行った。Y1らは、以降、本件係争地上にごみを出している。
Xらは、本件土地上に建物(以下「本件建物」という)を建築し、同年8月には、公道に接する南東角部分をXらの車庫とした。
Xらは、同年5月に本件建物に引越した後、本件ごみ集積所を使用せず、xx隣地境界付近に設定したごみ集積所を使用している。
同年9月、第三者の運転する自動車が本件土地上のブロック塀に衝突し、ブロック塀及び門扉が損壊された。Xxは、別訴で、工事妨害禁止仮処分決定を取得して、同年4月にブロック塀等の修復工事を実施した。
P4
本件土地
11
P7
12
本件私道
5.47
道路
北↑
本件係争地
1.005
2.830
Xらは、Y1らに対して、①AとY1らとの間で平成22年5月に結ばれた私道使用契約に基づく通行権(自動車による通行を含む)を有することの確認、②Y1らは、Xらが本件係争地の土地を通行すること(自動車による通行を含む)を妨害してはならない、などを求めて提訴したものである。
1.000
2 判決の要旨
判所は、以下のとおり判示して、Xらの請
求を一部認容した。
⑴ 本件係争地に係る本件私道使用契約に基づく通行権について
Y1らは、Xらの本件建物の新築工事が終了した後には、本件私道使用契約の効力は失われると主張する。
しかし、本件私道使用契約では、車両による通行につき、工事車両だけでなく、一般自家用車両を含むとの約定もされており、本件私道使用契約書の文言には、A所有の建物の解体工事及びO社が予定していた新築工事に限定して合意されたとの記載もないから、前記工事に限定された本件私道の使用関係の合意がされたとは解されず、Xらの本件建物の建築工事終了後には本件私道使用契約の効力が失われるとも認められないから、Y1らの供述は採用できない。他に、Y1らの主張を認めるに足りる証拠はないから、Y1らの主張は理由がない。
したがって、AがY1らとの間で本件私道使用契約を締結し、O社から本件土地を取得したXらも本件私道使用契約に基づく通行権を承継したことが認められるから、Xらが、 Y1らとの間で、本件係争地について本件私道使用契約に基づく通行権(自動車による通行を含む。)を有していることを認めることができる。
⑵ Xらが本件係争地を通行することの妨害禁止を求めることの可否について
認定事実のとおり、Y2は、平成23年9月 23日から平成24年7月19日までの間、多数回にわたって執拗に、XらがX1所有の自動車で本件係争地を通行することを妨げるため、あえて、前記自動車の後輪のすぐ後ろにごみを置いたり、防鳥用ネットを置いていたといえ、Y2は、今後もXらによる本件係争地の通行(自動車による通行も含む。)を妨害するおそれがあると認められる。
また、Y1は、Xらによる本件係争地の通行の妨害行為を直接行ったとは認められないものの、Y2による妨害行為を容認していたのであり、Y1も、Xらによる本件係争地の通行(自動車による通行も含む。)を妨害するおそれがあると認められる。
したがって、Xらは、本件私道使用契約に基づき、Y1らに対し、本件係争地の通行(自動車による通行も含む。)を妨害することを禁止することを求めることができる。
⑶ 損害賠償請求の可否について
上記2に認定の事実により、Y2の行為は、 Xらに対する不法行為となり、Xらは精神的苦痛を受けたことが認められる。この不法行為と相当因果関係のある精神的損害を金銭で評価すると、30万円を下らない。
以上によって、本件私道使用契約に基づく通行権(自動車による通行を含む。)を有することの確認請求、本件係争地の通行(自動車による通行を含む。)の妨害禁止請求は理由があるからこれらを認容し、XらのY2に対する不法行為に基づく損害賠償請求は35万円及び(弁護士費用の)内金5万円の限度で認容し、その余のY1らに対する請求は理由がないから、これを棄却する。
3 まとめ
私道を挟んだ個人の土地所有者間で交わされた私道使用契約に基づく通行権が、売買契約書上、元の所有者から不動産会社を通じて購入した買主にも引き継がれるとされた事例である。
本件のような私道の使用及び通行をめぐる問題は、不動産取引においては、しばしばトラブルになるケースであり、xx業者としては十分に留意して取引に関与することが肝要である。
最近の判例から
⒂−境界確定−
土地の境界確定において、地積測量図には現況に復元できるだけの信用性がないとした事例
(東京地判 平24・8・8 ウエストロー・ジャパン) xx xx
土地所有者らが、隣接土地の所有者に対し、境界の確定を求めた事案において、土地所有者らが依拠する昭和49年作成の地積測量図は現況に復元できるだけの信用性がないとして、隣接土地所有者の主張する境界を境界と確定した事例(東京地裁 平24年8月8日判決(控訴棄却)ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
本件事案は、X1及びX2並びにX3(原告、以下「Xら」という。)が、所有地(以 下「X土地」という。)の東側に隣接するY(被告)の所有地(以下「Y土地」という。)との境界の確定を求めたものである。なお、X土地とY土地(以下「本件2土地」という。)の南側は公道、X土地西側は水路、Y土地東側は私道(位置指定道路)である。
本件2土地及び周辺土地を所有していた土地売主A(訴外)は、所有地を数次にわたって分合筆し、昭和49年11月の分筆により、本件2土地及び他の2つの土地の公簿面積等は、本件事案提訴時の状態となった。
昭和49年11月(前記⑵の12日前)、X1及びその配偶者は、X土地を売買によりAより取得した。なお、本件2土地の間及びX土地と西側水路の間には万年塀があり、本件2土地間の万年塀(以下「XY塀」という。)には Y土地側、水路側の万年塀(以下「水路塀」という。)にはX土地側に控え柱が付いている。
昭和58年9月、Y土地の元の所有者と地方公共団体の間で、南側の公道に関する官民境
界の確認(以下「官民確認」という。)が行われ、本件2土地の境界線の端点には刻印と赤ペンキが入れられた。また、確認の結果作成された現況求積図のX土地上には「立会済」の記載がされた。
平成20年9月、X土地は、X1の配偶者の死亡により、X1並びにX1らの子のX2及びX3が相続した。平成22年頃まで、Y土地は所有者を何度か変えたが、XらとY土地所有者との間では境界に関して争いはなかった。同年4月頃、Xらは、Y土地の前所有者から境界確認を求められたことをきっかけに、前記⑵の分筆時の地積測量図(以下「分筆測量図」という。)を見つけた。
平成22年6月、Yは、売買によりY土地の所有権を取得した。
平成23年1月、Xらは、Yに対して、本件 2土地の境界は、分筆測量図に基づいて決められるべきで、地方公共団体の調査によって判明しているX土地の水路側の境界を起点として分筆測量図を重ね合わせて再現した直線であるとして、XY塀のY土地側であると主張した。また、Xらは官民確認に立ち会っておらず、Yが主張する位置が境界の端点であると確認したことはないと主張し、境界を確定することを求め提訴した。
これに対し、Yは、次のように主張した。
① 通常、万年塀を立てるときは、所有者側に控付柱を立てる慣習があり、XY塀は Y土地側に控付柱(いわゆる脚)がある。したがって、XY塀はY土地の所有者が所
有していたもので、塀の底地もY土地に含まれる。
② 官民確認の際に、X1及びその配偶者との間でも境界の確認が行われており、 XY塀のX土地側に刻印等が入れられ、Xらは、長年、XY塀のX土地側を境界線と認識していた。
2 判決の要旨
裁判所は次のように判示し、Yの主張する直線が境界であることを確定した。
⑴ Xの主張に基づくと、Y土地北側の土地が、現在公道となっている土地にはみ出してしまう。
⑵ Xらが依拠している分筆測量図の作成年月日は昭和49年10月25日で、基点の表示もなく、現地復元性がない図面であって、分筆測量図を現況に反映させると、誤差とはいえない齟齬が生じ、その齟齬を合理的に説明しうる証拠はない。
⑶ 分筆測量図が作成されたのは40年近くも前であって、当時の測量技術等を考慮すると、分筆測量図に記載された土地の辺の長さや角度に基づいてこれを現況に復元できるだけの信用性はないというべきであって、分筆測量図に基づいたXらの主張は採用できない。
⑷ XY塀は昭和49年当時からすでに存在していたことに加え、Y土地側に控え柱が付いていたこと、平成22年ころまでは境界について特に争いがなく、X1らは、X土地を取得するに当たり、Aから境界について特段のことを聞いておらず、境界ついては万年塀の存在以外に格別の認識はなかった。
⑸ 以上の各事実を考慮すると、境界は、Yが主張するとおり、万年塀のX土地側であると認めるのが相当である。
3 まとめ
本事案では、昭和49年作成の測量図について「作成は40年近くも前であって、当時の測量技術等を考慮すると現況に復元できるだけの信用性はない」としたが、本件測量図は売買対象地の分筆予定の内容を明示しただけの図面であり、設置済みの境界杭等のポイントを測量の基準点としていないものであったため、現地復元性が無い図面と判断されたと解するのが適切であろう。
本事案は、取引に関与する宅建業者(媒介業者)に対して、取引の安全の確保及び紛議の防止のためには、対象土地の明示に際して、塀の形態及び当事者間の紛議の有無だけでなく、境界線とされる端点の表示及び官民確認の内容等を確認する必要性があることを示したものと理解すべきであろう。
なお、境界の特定に関する紛議の解決方法としては、境界確定の訴えの他に、筆界特定登記官が行う「筆界特定制度」(不動産登記法第123条〜150条)がある。