RETIO. 2016. 10 NO.103
RETIO. 2016. 10 NO.103
最近の判例から
⑿−貸主のサブリース契約解除請求−
サブリース会社に対する建物のオーナーの賃貸借契約解除及び建物明渡し請求が認容された事例
(東京地判 平27・8・5 ウエストロージャパン) xx xx
サブリース会社との間で賃貸借契約を締結して、家賃保証及び満室保証を受けていた建物のオーナーが、老朽化した自宅の補修改築のためにまとまった資金を必要とし当該建物を空き家状態で売却することを望んで、サブリース会社に対して賃貸借契約の解除及び明渡しを求めた事案において、正当事由を補完するものとして50万円の立退料支払いを条件に認容された事例(東京地裁 平成27年8月 5日判決 認容 ウエストロージャパン)
1 事案の概要
本件建物の所有者であったAは、平成15年 11月18日、Y(被告・賃借人兼転貸人)との間で、賃貸借契約及び満室保証契約(以下「本件契約」という。)を締結した。Aは、平成 16年11月26日に死亡し、その父であるX(原告・賃貸人)が本件建物を単独で相続した。 Xは、平成21年12月15日、Yとの間で下記
約定のとおり、本件契約を合意更新した。
・期間:平成22年1月5日~同26年1月4日
・家賃:月額10万円
・満室保証:Yは、Xに対し、転借人に有無、若しくは転借人の家賃滞納のいかんに拘らず、上記の賃料を支払うものとする。
・契約の解除及び解約:本件契約を期間満了にて終了する場合は、相手側に対し期間満了の6か月前までに書面にてその旨通知し、双方合意の上、執り行うものとする。
・地位の承継:本件契約が終了又は解除した場合は、Xは転借人に対するYの地位を引
き継ぐものとする。 Xは、平成25年5月、本件建物の転借人B
が同年6月24日に退去することになった旨の報告をYから受け、Yに対し、同年5月28日付書面及び同年6月18日付書面をもって、平成26年1月4日の期間満了後、本件契約を更新しない旨を通知するとともに、Bの退去後、入居者を募集しないように求めた。
平成25年6月24日頃、Bが本件建物から退去したが、Yは、同年7月15日、新たにC(訴外・転借人)との間で、賃料12万6千円で本件建物を賃貸する賃貸借契約を締結した。
Yは、Xの更新拒絶には正当な理由がないとして、本件契約は約定に基づき平成26年1月4日に自動更新された旨主張したため、Xが賃借人兼転借人であるYに対し、本件契約の解除及び本件建物の明渡しを求めて提訴したものである。
2 判決の要旨
裁判所は次のとおり判示して、Xの請求を立退料50万円の支払いを条件に認容した。
1.借地借家法28条の適用の有無について 本件契約は、Xから本件建物を賃借したY
が第三者に転貸することを目的としている点、満室保証契約が一体化している点に特徴があるが、本件契約で合意されていた中核的な内容は、XがYに対して本件建物を使用収益させ、YがXに対してその対価として賃料を支払うというものであるから、建物の賃貸借契約であることは明らかである。
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2.正当事由の有無について
⑴ Xの居住する自宅は築60年を超える老朽化した木造草ぶきxxxの建物であり、その補修改築のためにまとまった資金を必要としているところ、その資金を捻出するためには、本件建物を可能な限り高額で売却する必要があること、このような理由から、Xとしては、占有者(賃借人、転借人)のいない空き家の状態で本件建物を売却することを望んでいるものの、本件契約上、本件契約が終了した場合でもXは転借人の賃借権を引き受ける旨の条項があり、本件建物を売却する時期及び条件については難しい判断を迫られていたこと、このような中、Xは、本件契約の期間満了日である平成26年1月4日の約6か月前の平成27年6月24日に転借人(D)が退去することとなった旨の連絡をYから受け、このタイミングで本件契約を終了させるのが極めて好都合であったことから、Yに対し、本件契約の約定に従って、更新拒絶の通知をするとともに次の入居者の募集を停止するよう求めたことが認められる。
これによれば、Xは、本件建物につき、本来的な意味での自己使用の必要性があるわけではないものの、占有負担のない形での売却を可能にするため、平成26年1月4日の期間満了日をもって本件契約を終了させるべき強い必要性があったということができる。
⑵ 他方、Yは、本件建物を賃貸(転貸)して賃料を得ているにすぎないものであるから、本件建物を使用する必要性としては、本件建物を転貸して経済的利益を得ることに尽きるところ、その経済的利益は月額3万3000円(13万3000円-10万円)にすぎず、本件契約の終了によってYの経営に影響を及ぼすような重大な不利益が生ずるものとは認められない。
⑶ 以上のとおり、X側の事情は、本来的な
意味での自己使用の必要性をいうものではなく、それだけで正当事由を充足するということはできないが、他方、Y側にとっても本件建物を使用する強い必要性があるわけではなく、これらの事情を総合すれば、相当額の立退料を支払わせることで、正当事由を補完することができるというべきである。その立退料の額は、これまでに認定した一切の事情及び賃料相当損害金の支払義務の状況等を総合勘案して、50万円と認めるのが相当である。
3 まとめ
本件は、建物のオーナーが別途所有する古い自宅の補修改築の費用捻出のため、賃借人であるサブリース会社に建物明渡しを求めたところ、相応の立退料支払いを正当事由補完条件として、賃貸借契約の解除が認められた事例であり、同種の裁判例一般における判断基準に沿ったものと言えよう。
本件判決では、転借人との契約解除は争点になっていないため、転借人との契約関係存続の可否については言及されていない。
一般的には、転借権は賃借権の上に成立しているものであり、賃借権が消滅すれば、転借権はその存在の基礎を失うとされているが、サブリース契約に関連する最高裁判例で、
「賃借人の更新拒絶により賃貸借契約が終了しても、賃貸人はxxxxxx終了を再転借人に対抗できない」とされた事例(最一判平14・3・28 RETIO 53-78) があり、転借人の利益を保護する方向性が示されているので併せて参考にされたい。
(調査研究部xx調整役)
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