(2015 年)<http://www.meti.go.jp/press/2014/03/20150325006/20150325006.html> accessed on Jan. 1st 2017.
フランチャイズ契約の更新拒絶について
フランチャイズ契約の更新拒絶について
x x x x
第1章 はじめに
第2章 民法(債権法)改正の基本方針と民法(債権関係)の改正に関するxxxx第3章 裁判例の分析
第4章 フランチャイズ契約更新に関する学説第5章 結びにかえて
第1章 はじめに
第1節 本稿の問題意識と検討課題
コンビニエンスストア(以下,コンビニとする。)は,日本の国民生活に不可欠な「社会インフラ」であるとされている(1)。このコンビニ店舗の多
()1 経済産業省「コンビニエンスストアの経済・社会的役割に関する研究会」報告書
(2015 年)<xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000.xxxx> accessed on Jan. 1st 2017.
報告書では,「コンビニエンスストアは,1970 年代の日本への導入以来,国民の様々な生活ニーズに応える形で,常にその機能を進化させ,災害時にも物資の流通に積極的に取り組むなど,今や日本経済や国民生活に不可欠なものになっています。こうしたコンビニエンスストアに対しては,流通の一形態を超えて,経済の活性化,更なる少子高齢化への対応,地域コミュニティの維持・充実,環境問題への対応等,我が国が抱える課題に対処していく上でも,大きな期待が寄せられています。」との分
くはフランチャイズ契約による加盟店である。しかし,コンビニフランチャイズ加盟店オーナー(フランチャイジー)のみが苦しい現状におかれていることがすでにいわれて久しい(2)。すなわち,コンビニフランチャイズ本部(フランチャイザー)の業績は好調であり,コンビニを利用する消費者は,社会インフラとなったコンビニの利便性を享受している。一方で,このコンビニフランチャイズ業界の繁栄を支えているはずのコンビニフランチャイズ加盟店オーナーは,フランチャイズ契約の内容によって,十分な報酬を与えられないばかりか,コンビニフランチャイズ本部によって生活のすべてを奪われる,すなわち,フランチャイズ契約の更新を拒絶されるのではないのかという不安に怯えている(3)。
現在の日本では,フランチャイズシステムはあらゆる業界で採用されており,このフランチャイズ契約更新拒絶の問題はコンビニフランチャイズ業界だけの問題ではない。フランチャイズシステムはあらゆる産業に進出し,急成長を遂げている(4)。そして,現在のフランチャイズ産業の日本における役割を鑑みると,むしろ,フランチャイズ産業は今後,ますます発展していくべき産業である(5)。このためには,フランチャイズ本部だけで
析をしている。
()2 拙稿「フランチャイズシステムとフランチャイズ契約締結準備段階における売上予測(1)(2・完)」大阪学院法学29 巻2号149 頁(2003 年),大阪学院法学30 巻1・2号55 頁(2004 年)。その他,コンビニ加盟店オーナーが長時間労働を強いられているにもかかわらず,収入が高いと言えない実態を分析したものとして,xxxx「コンビニエンスストアにおける経営と労働」日本労働研究雑誌678 号41 頁以下(2017 年)。
()3 この点については,筆者が出演した NHK クローズアップ現代+「『好調』コンビニに “異変” 有り」2016 年11 月17 日木曜日放送をご覧いただきたい。<xxxx://xxx. xxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxx/0000/0.xxxx> accessed on Sep. 1st 2017.
()4 詳細については,日本フランチャイズチェーン協会による統計調査を参照。<http:// xxx.xxx-xx.xx.xx/xxxxxxxx/00.xxxx> accessed on Sep. 1st 2017.
()5 拙稿「コンビニへの期待」中部経済新聞2016 年10 月19 日8面。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
はなく,フランチャイズ加盟店オーナー,そして,そこで買い物をする消費者のすべてがともに繁栄し幸せになる制度が必要であると考えている。フランチャイズ加盟店オーナーがフランチャイズ本部によって,恣意的に生活の全てを奪われることがあってはならないのである(6)。そこで,本稿では,この問題意識から日本におけるフランチャイズ契約の更新拒絶の問題を取り上げたい。
第2節 拙稿「カリフォルニア州フランチャイズ関係法の改正について」愛知大学法経論集212 号1頁(2017 年)での分析
筆者は,拙稿「カリフォルニア州フランチャイズ関係法の改正について」愛知大学法経論集212 号1頁(2017 年)(以下,前稿とする。)において,アメリカ合衆国における更新拒絶の問題について分析をした。前稿においてアメリカ合衆国各州のフランチャイズ法と裁判例を分析した結果,アメリカ合衆国各州のフランチャイズ法や裁判例では,フランチャイズ契約でフランチャイジーに更新の権利が与えられる旨の明確な合意がなされない限り,フランチャイジーにフランチャイズ契約更新の権利は認められていないことが分かった。しかし,そうだからといってフランチャイザーが自由にフランチャイズ契約の更新拒絶をできるかといえばそうではなく,フ
()6 この点については,2016 年に施行された改正フランチャイズ関係法の改正の際にも議論されている。カリフォルニア州下院に法案 AB (Assembly Bill) 525 を提出したカリフォルニア州下院与党の院内総務 Xxxxx Xxxxxx は,「不当な契約と州法の弱さの影に隠れることによって誰かのxxを崩壊させることを可能にしてはならない」と述べている。すなわち,フランチャイジーはxxな補償なしに不当にフランチャイズ契約を解消されている。フランチャイザーがxxxxxxxxの生活を支配しこれを奪うことを許してはいけないという強い考えからこの法案が提出された。拙稿「カリフォルニア州フランチャイズ関係法の改正について」愛知大学法経論集212 号1頁
(2017 年)。
ランチャイザーにはフランチャイズ契約の更新について誠実に交渉する義務(誠実かつxxな取扱い義務)が課せられている点を指摘した。アメリカ合衆国各州のフランチャイズ契約の更新に関するルールでは,⑴フランチャイジーにフランチャイズ契約の更新権は認められていない,⑵フランチャイザーにはフランチャイズ契約更新の際に誠実交渉義務が課せられているという2点が特徴となっている(7)。
また,アメリカ合衆国各州のフランチャイズ法と裁判例において,フランチャイズ契約の更新を拒絶するには,正当事由が必要とされている。そして,アメリカ合衆国の一部の州の州法や裁判例では,フランチャイザー側の経済的事情,例えば,地理的市場からの撤退はフランチャイズ契約を終了する正当事由になることを認める傾向にある。しかしながら,フランチャイザーの側の事情によるフランチャイズ契約の終了が,何らの制約なしに認められているわけではない。市場の変化の存在,更新拒絶の適切
()7 なお,オーストラリアでは,フランチャイズ規約6条において,誠実行動義務が課せられている。契約にかかわる取引,契約交渉,契約条項の執行すべてに対して,当事者が誠実に行動することが求められている。オーストラリアにおけるフランチャイズ契約については拙稿「フランチャイズ契約締結準備段階における売上・利益予測情報の提供─オーストラリア法の考察を中心に─(1)(2)(3・完)」愛知大学法経論集 167 号29 頁,168 号27 頁,169 号79 頁(2005 年)。xxxxx・xxxxxx,xxxx,xxxx「オーストラリアにおける不当条項規制」消費者法ニュース110 号40 頁以下(2017 年)。その他の海外のフランチャイズ法の状況については本稿でふれることはできないが,フランスにおけるフランチャイズ契約の状況については,xxxx「フランスにおけるフランチャイズ契約(1)(2・完)」関学64巻3号882 頁(2013年),64 巻4号233 頁(2014 年),xxxx「フランチャイズ契約締結過程における情報提供義務違反の判断要素に関する考察─フランスにおける議論を通じて─」関学 65 巻4号259 頁(2015 年),xxxx「フランチャイザーの情報提供義務違反と合意の瑕疵との関係性─フランスにおける議論を参考に」関学67 巻1号407 頁(2016 年)が詳しい。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
性,必要性などのある一定の要件のもと,フランチャイザー側の事情によるフランチャイズ契約の終了が認められている。すなわち,アメリカ合衆国の一部の州の州法や裁判例では,⑶フランチャイズ契約更新の拒絶には正当事由が必要であること,⑷フランチャイズ契約更新拒絶の正当事由にはフランチャイザー側の経済的事情も含まれるが,市場の変化の存在,更新拒絶の適切性,必要性の要件がみたされなければならないという特徴がある。
また,前稿で分析した2016 年に施行された改正カリフォルニア州フランチャイズ関係法では,フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶がなされた場合には,フランチャイジーの投資の回収やフランチャイズの財産的価値(グッドウィル)の補償が認められている。すなわち,カリフォルニア州ではフランチャイズ契約の更新拒絶が認められるには,
⑸フランチャイジーの投資の回収,⑹フランチャイズ店舗のグッドウィルの補償がなされなければならないとされている(8)。
第3節 フランチャイズ契約の更新拒絶に対する本稿における分析の視点以上の前稿での検討を踏まえて,本稿では,前稿で十分に論じることの できなかった日本におけるフランチャイズ契約更新拒絶の問題をさらに詳
細に分析・検討をしていくことを目的にしている。
その分析の視点であるが,前稿でのアメリカ合衆国での検討を踏まえ,筆者はフランチャイズ契約の更新拒絶について,少なくとも以下の要件はみたされなければならないのではないかと考えている。
⑴契約自由の原則がある以上,フランチャイザーにフランチャイズ契約の更新を強制することは認められないが,フランチャイザーによるフラン
()8 California Franchise Relations Act Code § 20022, § 20035 (Cite as Cal. Bus. & Prof. Code § 20022, § 20035).
チャイズ契約の更新の拒絶にはフランチャイズ契約当事者間に信頼関係が破壊されている等のxxx上の制限がある。すなわち,フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶には正当事由が必要である。(信頼関係破壊の原則)
⑵フランチャイジーが行った投資(投下資本)が回収されていない場合には,フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶は正当事由がないものとなり認められない。(投資の回収)
⑶フランチャイズ契約の更新拒絶をフランチャイザーが行う場合には,フランチャイジーの店舗価値(グッドウィル)に対して補償を行わなければならない(9)。(グッドウィルの補償)
⑷フランチャイザーがフランチャイズ契約の更新を拒絶する場合であっても,フランチャイザーは誠実に更新の交渉を行わなければならない。(誠実交渉義務)
⑸フランチャイザーによるフランチャイズ契約更新の基準は全ての店舗に対してxxでなければならず,特定の店舗を差別的に取扱ってはならない。(差別的取扱いの禁止)
日本のフランチャイズ契約においてxxxxxxxxにより更新拒絶が行われる場合,果たしてこれらの要件を満たすことが必要であろうか。さらには,これらは,フランチャイジーの保護に有益なフランチャイズ契約更新拒絶の制限となるであろうか。これらを検討すべく,民法(債権法)改正の基本方針と民法(債権関係)の改正に関するxxxx,フランチャイズ契約の更新拒絶の裁判例,日本の学説を分析・検討する。最初に,次の章では,民法(債権法)改正の基本方針と民法(債権関係)の改正に関するxxxxの分析を行う。
()9 ただし,フランチャイズの営業権をフランチャイジーが対価を得て第三者に譲渡した場合には,補償は不要であると考える。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
第2章 民法(債権法)改正の基本方針と民法(債権関係)の改正に関するxxxx
本章では,民法(債権法)改正の基本方針(以下,基本方針とする。)と民法(債権関係)の改正に関するxxxx(以下,xxxxとする)を分析する。なお,基本方針とxxxxの双方とも,フランチャイズ契約そのものではなく継続的契約についての規定である。いうまでもなく,フランチャイズ契約も継続的契約の一つである。したがって,フランチャイズ契約の更新拒絶の問題についても多大な影響を与える議論がなされているので,本章で取り上げることにする。
第1節 民法(債権法)改正の基本方針
1 民法(債権法)改正の基本方針「期間の定めのある契約の終了」 2009 年の民法(債権法)改正検討委員会(以下,検討委員会とする。)に
よる基本方針では,フランチャイズ契約のような継続的契約の期間の定めのある契約の終了について次のような提案がなされた。
【3.2.16.14】(期間の定めのある契約の終了)
⑴期間の定めのある継続的契約は,期間の満了により終了する。
⑵当事者間に,契約締結時またはその後期間満了時までの間に⑴の契約を更新する明示または黙示の合意が成立したものと認められる場合には,その契約は更新される。
⑶ ⑵の合意が認められない場合であっても,契約の目的,契約期間,従前の更新の経緯,更新を拒絶しようとする当事者の理由その他の事情に照らし,更新を拒絶することがxxx上相当でないと認められるときは,当事者は,相手方の更新の申し出を拒絶することができない。
⑷ ⑵または⑶による更新がされたときは,当事者間において,従前の契約と同一の条件で引き続き契約がされたものと推定する。ただし,その期間は,定めがないものと推定する。
本規定は,継続的契約において,更新の合意が認められない場合でも,xxx上の制限により更新拒絶ができないことがあるという規定である。すなわち,「契約の目的,契約期間,従前の更新の経緯,更新を拒絶しようとする当事者の理由その他の事情」によって,「更新を拒絶することがxxx上相当でない」場合には,更新の拒絶は許されないとしている。xxx上,更新拒絶が認められないことがありうることを示すとともに,その具体的な評価要素が規定されている(10)。
2 契約自由の原則を重視する考えからの本規定に対する批判 2‒1 批判の内容とこれに対する検討委員会の考え
この提案に対しては,合意の効力を弱め,法律関係を不安定にするという批判があった。契約自由の原則からすれば,契約の締結を強制されたり,合意に反する内容を強制されることがあってはならないというわけである。
しかし,この点については,① ⑶は合意を補うものであること,②この規定により更新された場合であっても,期間の定めのない契約の解約申入れをなしうる可能性があり,相手方を永久に拘束するものではないので,私的自治を大きく損なうものではないこと,③この規定により当事者間の交渉を促進する機能も期待されること,を理由に検討委員会はこの条
()10 民法(債権法)改正検討委員会編『詳解債権法改正の基本方針 V 各種の契約(2)』 409 頁以下(商事法務,2010 年)。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
文の提案を行った(11)。
2‒2 「交渉を促進する機能」についての私見
すでに述べた通り,この提案はフランチャイズ契約だけではなく,継続的契約全般に関するものであるが,特にこの提案理由の③交渉を促進する機能は非常に興味深い。これは,検討委員会が,フランチャイズ契約の更新拒絶の是非にxxx上の判断基準が持ち込まれることによって,当事者間のフランチャイズ契約更新の交渉が促進されると考えていることを示しているのではないだろうか。アメリカの各州では,フランチャイジーにフランチャイズ契約の更新権は認められていないが,フランチャイザーはフランチャイズ契約の更新交渉を誠実に行わなければならない義務(誠実かつxxな取扱い義務 “Duty of Good Faith and Fair Dealing”)が課せられている。フランチャイズ契約の更新を行うかどうか以前の問題として,フランチャイズ契約の更新について誠実に交渉を行う義務が課せられているのである(12)。このアメリカの各州と同じように,検討委員会は,フランチャイズ契約におけるxxx上の正当事由のない更新拒絶はもちろん,たとえxxx上の正当事由のある更新拒絶が行われる場合であっても,フランチャイズ契約更新についての誠実な交渉のないまま行われる更新拒絶も好ましくないと債権法改正検討委員会は考えていることを示しているのではないだろうか。フランチャイズ契約の更新拒絶にxxx上の正当事由があるかどうか以前の問題として,フランチャイズ契約の更新交渉が誠実に行われていることが必要である。フランチャイザーにはフランチャイジーのフランチャイズ契約更新要求に従う義務はないが,フランチャイズ契約の更新拒絶をフランチャイザーが行う場合には,フランチャイザーは適切
()11 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,411 頁以下。
()12 拙稿・前掲注⑹。
な回答や主張を行い,必要に応じて説明や資料の提示を行いフランチャイジーの納得を得られるように努力しなければならないのである。
3 本規定のフランチャイズ契約への適用
検討委員会は,継続的契約の更新拒絶について,各種の契約類型について特有の規範が存在する場合には,その規範によることになるとしている(13)。そもそもこの規定の趣旨はxxxの具体化であるから,たとえば,フランチャイズ契約であれば自動的に更新されるということにはならず,あくまでも個別の契約における諸事情に照らして判断されるというものであるにすぎないというわけである。
4 フランチャイズ契約解消についての規定 4‒1 はじめに
検討委員会は,フランチャイズ契約においては,一方で,「契約の仕組み」として,統一イメージによるフランチャイズ網を前提とするために,契約条項の尊重の要請があり,他方で,当事者の情報・情報処理能力の非対称性,フランチャイザーの債務内容の不確定性,フランチャイジーの初期投資,契約存続中の依存関係によるフランチャイジー保護の要請があるとの前提にたった上で,フランチャイズ契約終了時においては,解消の要件と効果が問題となるとした(14)。
そして,検討委員会は,フランチャイズ契約の解消については,継続的契約についての一般的規律で足りるであろうとしている。しかし,ここでも,フランチャイザーが,合理的な理由なく,あるフランチャイジーのみについて契約を解消することは,隠された不適切な意図があるのではない
()13 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,411 頁以下。
()14 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,422 頁以下。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
かと疑われ,その観点からのフランチャイズ契約解消の規律をおくことには意味があると考えられるとしている(15)。そこで,多数当事者型継続的契約の規定が基本方針におかれた。この多数当事者型継続的契約の規定は,フランチャイジー間の差別的取扱いの禁止を規定するものであるが,詳細は次項で検討する。
そして,フランチャイズ契約解消時の清算ないし調整のための措置として,顧客補償や在庫・原材料等の買戻に関する規定を置くことが検討委員会では検討された。しかし,これを一般的・抽象的に規定することは困難であり,規定するとすれば,商法によって具体的な中間流通業者の形態に応じてすることが適当であろうとして,フランチャイズ契約解消の際の補償に関する規定は,基本方針にはおかれなかった(16)。
4‒2 フランチャイズ契約解消の際の補償に関する規定を検討委員会がおかなかったことについて
確かに継続的契約は様々なものがあるため,継続的契約すべてに適用できる一般的・抽象的な規定は難しいであろうし,フランチャイズ契約だけみても様々な業種で拡大しているものであるから,一般的・抽象的に規定することは困難であるという検討委員会の考えは理解できる。しかしながら,フランチャイズ契約においては,特にフランチャイズ店舗が生活基盤のすべてとなっているフランチャイジーにとっては,xxxによるフランチャイズ契約更新拒絶の制限だけでは,xxxxxxxxの保護として不十分である。フランチャイズ契約解消の際の補償,すなわち,フランチャイジーによる投資の回収とフランチャイジー店舗のグッドウィルへの補償が必要である。
()15 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,424 頁以下。
()16 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,424 頁以下。
検討委員会が提案した上記継続的契約「期間の定めのある契約の終了」の規定についても同様のことがいえる。本規定では,「契約の目的,契約期間,従前の更新の経緯,更新を拒絶しようとする当事者の理由その他の事情」次第で,フランチャイズ契約の更新拒絶が認められる場合があるとしている。すなわち,フランチャイザー側の事情,例えば,市場からの撤退などによってフランチャイズ契約が更新されない場合もあり得る。しかし,特にこのような場合には,フランチャイジーの投資の回収やグッドウィルへの補償がなければならないのではないだろうか。フランチャイズ店舗が生活のすべてであるフランチャイジーにとって,フランチャイザー側の事情によって生活の全てが奪われることがあってはらないからである。したがって,フランチャイジーによる投資の回収やフランチャイズ店舗へのグッドウィルへの補償がなければ,フランチャイズ契約更新拒絶の正当事由があるとはいえず,フランチャイザーはフランチャイズ契約の更新拒絶はできないと考えるべきであろう。
5 多数当事者型継続的契約
5‒1 民法(債権法)改正検討委員会による多数当事者型継続的契約の規定の提案
検討委員会は,フランチャイズ契約など,1人の中軸となる当事者と多数の相手方との間での継続的契約における中軸当事者の義務を定める提案として,多数当事者型継続的契約について次のような規定の提案を行っている。
【3.2.16.17】多数当事者型継続的契約
当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約であって,それぞれの契約の目的を達成するために他の契約が締結されることが相互に予定されているものにおいては,その当
フランチャイズ契約の更新拒絶について
事者は,契約の履行及び解消に当たって,相手方のうちの一部の者を,合理的な理由なく,差別的に取扱ってはならない。
当事者の一方が多数の相手方との間で同種の給付について共通の条件で締結する継続的契約であって,それぞれの契約の目的を達成するために他の契約が締結されることが相互に予定されているものについて,その当事者は,契約の履行及び解消に当たって,相手方のうちの一部の者を,合理的な理由なく差別的に取扱ってはならないとする規定を民法に設けるべきであるとの提案が検討委員会によってなされている(17)。この提案は,フランチャイズ契約等の一人の中軸となる当事者と多数の相手方との間で継続的契約が締結される場合を念頭に置いたものであり,ハブ・アンド・スポーク形式で団体性のある契約がされる場合についての規律を民法典に用意することを目的とするものとされている(18)。
5‒2 多数当事者型継続的契約の規定に対する批判
もっとも,このような考え方に対しては,ハブ・アンド・スポークス形式による契約には多種多様なものがあり,不平等な取扱いの態様も千差万別であることから,これらを統一的に規律するxxの規定を設けることは現実的に困難であるとの指摘がされている(19)。
さらには,法制審議会では,この規定に対して,反対意見が出された。例えば,「継続的契約は多くの場合,個別的交渉で決まるという側面を持っていますから,多数当事者型継続的契約の規定化の検討に当たって
()17 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,418 頁以下。
()18 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,419 頁以下。
()19 民法(債権法)改正検討委員会編・前掲注()10,426 頁以下。民法(債権関係)部会第20 回会議議事録,商事法務編『民法(債権関係)部会資料集第1集〈第5巻〉』 164 頁以下(商事法務)。
は,状況により異なる取扱いをする合理的な理由もあるという実態についても考慮していただければと思います。」(20)や「第一に,多数当事者間の契約であっても,契約としては1対1の契約の積み重ねによるものであって,それぞれの契約では,契約の締結の時期,交渉経緯,信用力,立地条件などにより,条件面で差違が生じることは当然のこととして,お互い納得ずくで取引関係に入っています。第二に,当事者間の交渉力の不均衡については,現在,独占禁止法又は小売商業振興法で対処するということになっており,現時点ではこれで足りるというふうに考えています。例えば独占禁止法では,xx取引委員会の「フランチャイズシステムに関する独占禁止法の考え方について」において……フランチャイズ契約締結後の本部と加盟者の取引においては,加盟者に一方的に不利を与えたり,加盟者のみを不当に拘束するものであってはならないとして,本部・加盟者間の関係のxxを規律しており,加盟者同士の取扱いの平等は要求しておりません。」(21)などである。
5‒3 多数当事者型継続的契約の規定に対する私見
この規定はフランチャイズ契約の更新拒絶の問題解決にとって非常に有
()20 民法(債権関係)部会第20 回会議議事録のxx委員の発言を参照。商事法務編・前掲注()19,164 頁以下。なお,xx委員は「⑵の多数当事者型継続的契約についてでございますけれども,例えばフランチャイズ契約において,フランチャイジーのAとBがそれぞれ同じ契約違反をした場合に,フランチャイジーBから支払われるロイヤリティーが高額であることから,フランチャイジーAについては契約を解除するけれども,フランチャイジーBについては契約を解除せずに指導を継続するということもあり得ます。」とxxxxxxxxごとに更新拒絶の基準が異なることに賛成している。
()21 民法(債権関係)部会第20 回会議議事録のxxx関係官の発言を参照。商事法務編・前掲注()19,164 頁以下。xxx関係官は,「多数当事者間契約の規定を設けることには反対します。」と明確に反対の立場を示している。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
益な規定であると考える。フランチャイザーによる差別的取扱いが禁止されているため,フランチャイジーが営業する全ての店舗が同じ基準で更新の有無を判断されなければならないということになるからである。
フランチャイズ契約では,フランチャイジーは店舗経営によって得られる利益によって,生活を営んでいる場合が多い。すなわち,店舗が生活の糧のすべてであり,これを奪われることは,生活の全てを奪われることである。当然のことながら,フランチャイジーはフランチャイズ契約の更新を期待しており,これは多くのフランチャイジーに共通していえることである。現実に,フランチャイジーはフランチャイズ契約の更新がされないことを恐れ,フランチャイズ契約更新の有無の判断基準を明確にして欲しいと望んでいる(22)。フランチャイジーはフランチャイザーの方針に意見を言うと,xxxxxxxによるいわば「しっぺ返し」として,フランチャイズ契約の更新拒絶をされてしまうのではないかと疑ってもいるのである(23)。フランチャイザーは,フランチャイズ契約の終了に当たって,相手
()22 NHK クローズアップ現代+「『好調』コンビニに “異変” 有り」2016 年11 月17 日木曜日放送,前掲注⑶参照。
()23 例えば,見切り販売について,xxxx,2009 年6月22 日にxx取引委員会がセブン‐イレブン・ジャパンに対して,見切り販売の妨害は独占禁止法上の優越的地位の濫用にあたるとして排除措置命令を出しているが,それでも見切り販売をコンビニ加盟店オーナーが行わない理由として,加盟店オーナーが契約の更新をされないリスクを恐れているからだとの分析している。xxxx「コンビニオーナーが見切り販売をしない5 つの理由」<xxxxx://xxxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxx/ iderumi/20170902-00075267/> accsessed on Sep. 2nd 2017.
見切り販売に関係して,コンビニ会計の問題については,xxxxx参議院議員の HP を参照されたい。<xxxx://xxx.xxxxxxx-xxxxxx-xxxx.xxx/xxxxx/> accessed on Sep. 2nd 2017. また,拙稿「フランチャイズ契約における廃棄ロスとチャージ,そして見切り販売制限(1)(2)(3)(4・完)」愛知大学法経論集187 号47 頁(2010 年),189号83 頁(2011 年),190 号35 頁(2011 年),195 号1頁(2013 年)も参照されたい。
方のうちの一部の者を,合理的な理由なく,差別的に取扱って良いはずはなく,差別的,恣意的な基準によってフランチャイズ契約の更新拒絶を行うことが許されるはずはない。すべての店舗が同じ統一された基準によって,フランチャイズ契約更新の有無が判断されるべきである。したがって,この多数当事者型継続的契約の規定があれば,フランチャイズ契約更新の有無の判断基準が明確になって,フランチャイジーは安心して店舗経営をすることができるようになり,これによってフランチャイザーとフランチャイジーの信頼関係がより増してフランチャイズシステムの理念である共存共栄が実現されると考える(24)。しかしながら,xxxxではこの規定はおかれず,民法改正案でも取り上げられることはなかった。
第2節 民法(債権関係)の改正に関するxxxx
1 民法(債権関係)の改正に関するxxxxによる「期間の定めのある継続的契約の終了」の規定の提案
xxxxでは,多数当事者間契約の規定はなくなり,期間の定めのある継続的契約の終了について,下記の提案がなされた。
第34 継続的契約
1 期間の定めのある契約の終了
⑴期間の定めのある契約は,その期間の満了によって終了するものとする。
⑵上記⑴にかかわらず,当事者の一方が契約の更新を申し入れた場合にお
()24 筆者が出演した NHK クローズアップ現代+「『好調』コンビニに “異変” 有り」 2016 年11 月17 日木曜日においても,フランチャイズ契約更新や再契約の基準を明確にして欲しいというフランチャイジーの要望が紹介された。フランチャイザーによる恣意的なフランチャイズ契約更新拒絶がなされているのかという疑いを持っている加盟店もある。NHK クローズアップ現代+「『好調』コンビニに “異変” 有り」2016 年 11 月17 日木曜日放送,前掲注⑶参照。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
いて,当該契約の趣旨,契約に定めた期間の長短,従前の更新の有無及びその経緯その他の事情に照らし,当該契約を存続させることにつき正当な事由があると認められるときは,当該契約は,従前と同一の条件で更新されたものとみなすものとする。ただし,その期間は,定めがないものとする。
(注)これらのような規定を設けない(解釈に委ねる)という考え方がある。
xxxxでは,継続を存続させることにつき,正当事由があれば更新できるとしており,xxx上相当でない場合には更新拒絶できないとした基本方針から修正がされている。xxxxでは,フランチャイズ契約の更新を望むフランチャイジーは正当事由の証明をせねばならず,フランチャイジーの保護の観点からすれば,基本方針から一歩後退したといえる。しかしながら,フランチャイズ契約の更新を望むフランチャイジーは正当事由があれば更新できるのであり,フランチャイズ契約をフランチャイザーが自由に更新を拒絶できるのではないとしている点は評価できる。
2 xxxxによる「期間の定めのある継続的契約の終了」の規定の提案理由
xxxxによるこの規定の提案理由をみてみる。xxxxの「概要」によると,「いわゆる継続的契約の中には,フランチャイズ契約等のように典型契約とはされていないものがある。そのため,契約の終了の場面を中心として継続的契約をめぐる法的紛争が生ずることが少なくないにもかかわらず,その解決は解釈に委ねられることが多いとの指摘がある。そこで,個別の典型契約の規律とは別に,継続的契約の終了に関する一般的な規律を設けることが望ましいと考えられる。」と規定を設ける理由が述べられている(25)。そして,原則として,期間の定めのある契約は期間の満了
()25 「民法(債権関係)の改正に関するxxxx(概要付)」135 頁。
によって終了し,当事者の一方から更新の申入れがあっても相手方は自由に拒絶することができるとしつつも,例外的に更新の申入れを拒絶することができずに契約が更新される場合があり得る旨を定めている。すなわち,正当事由があれば更新できるという内容である。
概要では,期間の定めのある継続的契約の終了に関する裁判例及び学説における一般的な理解を明文化するものであるとして,札幌高決昭和62年9月30 日判時1258 号76 頁,xxx判平成19 年6月19日判タ1265号253頁の裁判例が挙げられている。そこで,この2つの裁判例をみてみたい。
第3節 民法(債権関係)の改正に関するxxxxで紹介された裁判例
1 札幌高決昭和62 年9月30 日判時1258 号76 頁
札幌高決昭和62 年9月30 日は,フランチャイズ契約ではなくて農機具
(トラクター)の販売代理店契約の事例である。有効期間1年の定めのある販売代理店契約において期間満了3か月前に農機具メーカーによって終了の告知が行われたが,裁判所はこの終了の告知によっても契約は終了しないと判断した。裁判所は「本件のような独占的販売総代理店契約において
(三か月以上前の終了告知により契約は終了するとの)定めがあるからといって,この一事によって期間満了により当然契約が終了するものと解することは相当でなく,当事者の一方的告知により期間満了によって終了するかどうかは契約締結の経緯,その性質,終了によって受ける当事者の利害得失等,事案の特質に則して考察しなければならない。」とした。そして,本件契約の解釈により「本件契約締結時の事情,本件契約の特質,その実態,基本契約書改定の経緯,当事者の利害得失等に照らせば,たとえ基本契約書に本件契約の有効期間を一年間とする。期間満了xxx前に当事者の申し出のない限り更に一ケ年延長する旨の定めがあったとしても,それが期間満了xxx前の当事者の一方的終了の意思表示によって契約を終了させ得るものと解することは妥当ではなく,債務不履行又はこれに準ずる
フランチャイズ契約の更新拒絶について
事由には限らないが,契約を存続させることが当事者にとって酷であり,契約を終了させてもやむを得ないという事情がある場合には契約を告知し得る旨を定めたものと解するのが相当である。そして,相手方の主張する合理化の必要性その他の事由は未だ本件契約を終了させることを肯認するに足るやむを得ない事由とは認め難い。」と述べ,やむを得ない事由がある場合にのみ契約を終了させることができるとした。
このように札幌高決昭和62 年9月30 日は正当事由がある場合にのみ更新できるのではなくて,正当事由がなければ更新拒絶ができないとしている。継続的契約は原則的に更新され,当事者の一方にやむを得ない事由がある場合だけ,当該当事者は更新を拒絶することができるとされた。そして,本決定は債務不履行またはこれに準ずる事由や契約を存続させることが当事者にとって酷であるという事情がやむを得ない事由に該当するとしている。
2 xxx判平成19 年6月19 日判タ1265 号253 頁
xxx判平成19 年6月19 日もフランチャイズ契約ではなくて,新聞販売店契約の新聞社による更新拒絶の事例である。裁判所は,「他方,新聞販売店としても,その後も店舗確保のために新たに建物賃貸借契約を締結し,当該建物の増改築に資金を投下したりしていること,また,新聞販売店の経営のために従業員を雇用し,セールス業者に報酬を支払い,販売拡大のために景品等を提供するなど,相当多額の投資をしてきたことが認められ,もとより新聞販売店での営業を生活の基盤としていることは明らかである。そうであれば,新聞社が継続的契約である新聞販売店との本件新聞販売店契約の更新をしないというためには,正当な事由,すなわち,新聞販売店が本件新聞販売店契約を締結した趣旨に著しく反し,信頼関係を破壊したことにより,同契約を継続していくことが困難と認められるような事情が存在することが必要であるものというべきである。」とし,更新
拒絶には信頼関係の破壊が必要であるとし,本件では信頼関係の破壊はないとした。
3 民法(債権関係)の改正に関するxxxxの概要で示された裁判例における正当事由の内容
このようにxxxxの概要にある裁判例では,信頼関係破壊等の正当事由がある場合にだけ継続的契約の当事者の一方は更新を拒絶できるとしている。
札幌高決昭和62 年9月30 日は,⑴自動更新をされることに主眼がおかれた契約であること,⑵田植機販売総代理店契約の特殊性,の2点から正当事由がないとされた。⑵田植機販売総代理店契約の特殊性とは,⑴田植機販売事業そのものは,購入する農家にとって高額な投資となるため,
1.5 年から3年の営業期間が必要であること,⑵高額の在庫を保有することは単年度の営業を前提としては考えられないこと,⑶抗告人は本件契約以来本件田植機のソフト面における研究開発等及びその普及のため多大の資本と労力を投入していること,それによって今日の販売実績があがっていること,⑷田植機販売については各メーカー毎に販売網が系列化されており,抗告人が新規に他の第三者メーカーと田植機販売代理店契約を締結することは事実上不可能であること,⑸本件契約が相手方の本件契約終了通告によって終了するものとすると抗告人はこれまで十数年に亘って形成してきた田植機の販売権益の全てを失しなうことになるばかりか,田植機販売事業が抗告人の営業面において重要な比重を占め,単年度の粗利益で約三億円もの利益を計上し得なくなって企業の存立に重大な影響を与えかねないこと,⑹以上のように抗告人は莫大な損害を被むるのに反し,相手方は何らの犠牲を払うこともなく,抗告人がこれまでに開拓した販売権益をその手中に納めることができ,極めて不合理であることである。すなわち,契約の特殊性とは,⑴長期にわたる継続的な契約であることを予定さ
フランチャイズ契約の更新拒絶について
れていること,⑵更新が拒絶されると高額な在庫や今までの労力・投資が無駄になること,⑶これまで培って来た販売権益を全て失い企業の存立に重大な影響を与えかねないこと,である。この⑵と⑶について言えば,正当事由が認められるには,⑵投資の回収が必要であり,⑶グッドウィルの補償が必要であるということになろう。
xxx判平成19 年6月19 日では,⑴業績不振と営業努力不足,⑵虚偽報告,⑶帳票類提示拒否,⑷販売地区分割案拒否を更新拒絶の理由としてあげているが,新聞社の方にも責任や過失があるとして,更新を拒絶する正当事由にはならないとした。そして,裁判所は「新聞販売店としても,その後も店舗確保のために新たに建物賃貸借契約を締結し,当該建物の増改築に資金を投下したりしていること,また,新聞販売店の経営のために従業員を雇用し,セールス業者に報酬を支払い,販売拡大のために景品等を提供するなど,相当多額の投資をしてきたこと」を更新拒絶が制限される理由に挙げている。すなわち,⑴新聞販売店が多額の投資をしていることや,⑵新聞販売店のオーナーは新聞販売店での営業を生活の基盤としていることの2点が,更新拒絶が制限される理由になると裁判所は述べている。新聞販売店の投資の回収がなされないままの更新拒絶は許されないと本件では裁判所に判断されたのである。
すでに述べた通り,これらの裁判例はフランチャイズ契約に関するものではない。これらの裁判例で示された正当事由の内容が,フランチャイズ契約の更新拒絶の事例にもあてはまるであろうか。特にフランチャイジーの保護の観点からすれば,フランチャイズ契約の更新拒絶に必要な正当事由とは何かが明確でなければならないと考える。フランチャイズ契約の更新拒絶に関する裁判例については次章で分析するが,その前に法制審議会民法(債権関係)部会資料の補足説明でフランチャイズ契約の裁判例が取
り上げられているのでそれにふれたい(26)。
第4節 法制審議会民法(債権関係)部会資料の補足説明
法制審議会民法(債権関係)部会資料の補足説明では,以下の2件のフランチャイズ契約更新拒絶に関する裁判例が取り上げられた。
法制審議会民法(債権関係)部会資料の補足説明では一方当事者による契約の更新の拒絶が許されるかどうかや,許される場合の要件について,
「⑴契約の更新を拒絶することが公序良俗やxxxに反する特段の事情のない限り,期間の満了とともに契約は終了するとするもの(弁当店のフランチャイズ契約に関する名古屋地判xxx年10 月21 日判時1377号90頁等)もあるが,⑵契約の更新を拒絶するには信頼関係の破壊等の契約を継続し難いやむを得ない事由が必要であるとするもの(弁当店のフランチャイズ契約に関する名古屋地判平成2年8月31日判時1377号94頁)も少なくない。」として,⑵の裁判例の傾向に沿う立法提案として,契約の目的,契約期間,従来の更新の経緯,更新を拒絶しようとする当事者の理由その他の事情に照らし,更新を拒絶することがxxx上相当でないと認められるときは,更新の申出を拒絶することができないとする規定を設けるべきであるとの考え方が提示されているとした(27)。
しかし,次章で詳しく分析するが,⑴名古屋地判xxx年10 月21 日もxxxによって更新拒絶ができない場合があることは認めている。もっとも,⑴名古屋地判xxx年10 月21 日は⑵名古屋地判平成2年8月31日判時1377 号94 頁のように正当事由が必要であるとまでは言明していない(28)。
()26 民法(債権関係)部会資料19-2・商事法務編『民法(債権関係)部会資料集第1集
〈第5巻〉』481 頁以下(商事法務)。
()27 民法(債権関係)部会資料19-2。商事法務編・前掲注()27,481 頁以下。
()28 xx弁護士は名古屋地判xxx年10 月31 日判時1377 号90 頁と名古屋地判平成2年
8月31 日判時1377 号90 頁は結論を異にする結果となっているが,名古屋地判xxx・
フランチャイズ契約の更新拒絶について
これらxxxxで検討された裁判例など,フランチャイズ契約に関する更新拒絶の裁判例の詳細な分析は次章で行う。
第4節 xxxxのその後
最終的に,「期間の定めのある継続的契約の終了」の規定の考え方に対しては,当事者が合意して期間の定めを設けているにもかかわらず,xxx上相当でないと認められるときでなければ更新を拒絶することができないとするのは,当事者の意思を無視することになりかねないとの批判や,継続的契約には多種多様なものがあるにもかかわらず,一般的に契約の両当事者をともに拘束する規律を設けることは適当でないとの批判があった(29)。その結果,最終的には,本規定は民法改正案には盛り込まれなかった。
10・31 は,公序良俗違反により契約条項を無効とするのではなく,その一歩手前で契約の文言を修正解釈することにより有効としつつフランチャイジーの保護をはかっている。その意味で,これらの両判決は矛盾しないとする。xxxx「第4回フランチャイズ契約の終了に関する判例の分析」NBL915 号68 頁以下(2009 年)。しかしながら,名古屋地判xxx年10 月31 日はフランチャイザーの更新拒絶が認められており,フランチャイジーの保護がなされたとはいい難いのではないだろうか。更新拒絶にはxxxや公序良俗による制限があることが認められている点が名古屋地判xxx年10 月31 日と名古屋地判平成2年8月31 日に共通する。xxxx「フランチャイズ契約の更新拒絶に関する若干の考察」沖縄法政研究7号82 頁(2004 年)参照。
この点について,xxxxは,「公序良俗・xxx違反の有無の勘案という程度では個別具体的事情を斟酌する余地を認めているのであり,そのことは観念的には「やむを得ざる事由」よりは更新拒絶の自由に対しては弱い制約のように思われるが,実際上の裁判所の考慮の程度としては,(上記両判決には)それほど差があるとは思われない。」との分析を示している。xxxx「フランチャイズ契約の更新拒絶」ジュリスト1042 号130 頁以下(1994 年)。
()29 民法(債権関係)部会資料19-2・商事法務編・前掲注()26,481 頁以下。
このように民法改正によるフランチャイズ契約更新拒絶に関する問題解決は失敗したわけであるが,上記に示したように基本方針やxxxxにおける「期間の定めのある継続的契約の終了」の提案は今までの裁判例で示された考えをもとに行われている。そこで,次章では,フランチャイズ契約に関する更新拒絶の裁判例の分析を行う。
第3章 裁判例の分析
本章では,フランチャイズ契約の更新拒絶に関する裁判例の分析を行う。なお,フランチャイズ契約の更新拒絶に関する裁判例はサブフランチャイズ契約(マスターフランチャイズ契約,エリアフランチャイズ契約と言われる場合もある。フランチャイズ契約の一種である。)(30)に関するものばかりであり,フランチャイズ本部(フランチャイザー)とフランチャイズ加盟
()30 サブフランチャイズ契約(マスターフランチャイズ契約,エリアフランチャイズ契約)は,フランチャイズ契約としての側面の他に,企業間における業務提携契約・共同事業契約としての側面を強く持つ。サブフランチャイズ契約については,xxxx
「サブ・フランチャイズ契約の制度設計,フランチャイズ契約の対第三者関係」判タ 1265 号43 頁以下(2008 年)が詳しい。
また,本章で分析する裁判例の多くは,持ち帰り弁当の「ほっかほっか亭」フランチャイズチェーンの事件である。この訴訟の背景にはほっかほっか亭チェーン内での覇権争いが存在する。プレナスは,ほっかほっか亭総本部の大手エリア・フランチャイザーであるとともにほっかほっか亭総本部の発行済株式の44% を有していたが,他方,別地域のエリアフランチャイザーであった訴外 ㈱ハークスレイは,ほっかほっか亭総本部の発行済株式の56% を取得するとともに,同社の代表取締役はほっかほっか亭総本部の代表取締役に就任していたという事情があった。xxx「《WLJ判例コラム》第26 号エリア・フランチャイズ契約における当事者の役割分担と信頼関係」文献番号 2014WLJCC008, <xxxxx://xxx.xxxxxxxxxxxx.xxx/xxx/xxxxxx_ law/20140519.pdf> accessed on Sep. 1st 2017.
フランチャイズ契約の更新拒絶について
店(フランチャイジー)間の狭義のフランチャイズ契約とは異なる面もある(31)。しかし,これらの裁判例では,フランチャイズ契約更新拒絶の際の正当事由とは何かなどが議論されており,今後のフランチャイズ契約の更新拒絶に影響を与えるような議論が多く見られる。したがって,これらの裁判例を分析することは意義のあることであると考える。以下,xxxxxxx契約の更新拒絶に関する裁判例の分析を行う。
なお,本章の裁判例で問題となったフランチャイズシステムは,マス
()31 xxxxは,本章の裁判例でとりあげるチェーンは「ほっかほっか亭」フランチャイズチェーンの事件であるが,このフランチャイズシステムでは,契約の更新に対するフランチャイジーの期待を保護する要因として階層的なフランチャイズシステムを採用している点を挙げることができるとしている。xxxx「マスター・フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新」ジュリスト1457 号117 頁以下(2013 年)。
すなわち,このフランチャイズチェーンは,特定の地域内でフランチャイジーを募集する権利を特定の事業者に与え,その事業者が当該地域内のフランチャイザー(サブフランチャイザー)として末端のフランチャイジーとの間にフランチャイズ契約を締結するものであって,サブフランチャイザーはマスターフランチャイザーとの関係ではフランチャイジーであり,フランチャイズチェーン参加の加盟店との関係では,フランチャイザーという立場に立つことになる。このような契約の場合,当事者間の結び付きと相互依存関係が強く,サブフランチャイザーは,末端のフランチャイジーの獲得,教育・研修等を行い,そのための設備投資等も行っているが,これら市場開拓のための種々の営業努力をフランチャイザーと一体となって行いっていた。xxx
「名古屋地判平成2年8月31日評釈・フランチャイズ契約の更新拒絶には,契約を更新し難いやむを得ざる事由が必要であるとして,フランチャイザーの更新拒絶が否定された事例」判時1397 号47 頁。
xxxxは,末端のフランチャイジーとは異なり,サブフランチャイザーは継続的に資本を投下し,フランチャイズシステムの発展に貢献してきたため,このことに対する補償の必要性から,更新拒絶は債務不履行になるとの分析を行っている。xx・前掲,117 頁以下。しかし,末端のフランチャイジーも投資を行いフランチャイズシステムの発展に貢献している。したがって,この点において違いは無いと考える。
ターフランチャイザー(総本部)→エリアフランチャイザー(地域本部)
→ディストリクトフランチャイザー(地区本部)→フランチャイジー(加盟店)という階層制のあるフランチャイズシステムである。そして,例えば,マスターフランチャイザー(総本部)とエリアフランチャイザー(地域本部)間のフランチャイズ契約(サブフランチャイズ契約)において,フランチャイザーに当たるのがマスターフランチャイザー(総本部)であり,フランチャイジーに当たるのがエリアフランチャイザー(地域本部)である。一方で,エリアフランチャイザー(地域本部)とディストリクトフランチャイザー(地区本部)間のフランチャイズ契約(サブフランチャイズ契約)において,フランチャイザーに当たるのがエリアフランチャイザー
(地域本部)であり,フランチャイジーに当たるのがディストリクトフランチャイザー(地区本部)である。したがって,表記の混乱を避けるために,本章では,個別の裁判例に関する件については,それぞれ,総本部,地域本部,地区本部と表記する。しかし,フランチャイズ契約の全般についての規範となるものについては,フランチャイザー,フランチャイジーと表記することにしたい。
第1節 裁判例の分類
最初に,フランチャイズ契約更新拒絶の要件について,裁判例の分類から行う。
1 フランチャイズ契約は期間の満了をもって終了することが原則とする裁判例
(裁判例1)名古屋地判xxx年10 月21 日(判時1377 号90 頁,仮処分異議申立事件,申請人:エリアフランチャイザー(地域本部),被申請人:マスターフランチャイザー(総本部),仮処分決定取消し。)
裁判所は,「本件契約のように,有効期間が予め定められているフラン
フランチャイズ契約の更新拒絶について
チャイズ契約においては,特に契約の更新及び制限等について当事者の特約がなく,または更新を拒絶して契約を終了させることが公序良俗やxxxに反する等の特段の事情がない限り,期間の満了とともに終了するものと解するのが相当である。」として,フランチャイズ契約は期間の満了とともに終了するとした。そして,「本来私人間の契約の内容は,公序良俗に反しない限り,自由に定められるべきものであり,期間に関する定めもその例外ではない。」として契約自由の原則から契約は期間の満了とともに終了するのが原則であるとし,「他の継続的契約の場合を見ても,契約関係の維持を図るべき要請の強い雇用契約,賃貸借契約,代理商契約等においても,期間の定めがある場合について,当然契約が終了することを前提とした規定があり,更新拒絶について制限を定めた借地,借家契約においても,賃貸人が更新拒絶できる要件を法定して,法的安定性を最小限維持しようとしているのであり,フランチャイズ契約についてのみ,なんら法律の定めがないのに,契約期間が定まっていない場合や契約期間中の解約と異なり,更新拒絶という契約の終了事由について制限をすることはできないからである。」とフランチャイズ契約についてのみ更新拒絶に制限をすることはできないと裁判所は判断した。
2 フランチャイズ契約は期間の満了をもって終了するのが原則としつつも投資の回収の必要性から更新拒絶にはやむを得ざる事由(信頼関係破壊など)を必要とする裁判例
(裁判例2) 名古屋地判平成2 年8 月31日( 判時1377 号94 頁,LEX/ DB27808372,仮処分異議申立事件,申請人:エリアフランチャイザー(地域本部),被申請人:マスターフランチャイザー(総本部),仮処分決定認可。)
裁判所は,「一般に契約の存続期間の定めがなされた場合には,契約は右期間の満了をもって終了するのが原則であり,フランチャイズ契約といえども直ちにこの例外とすベき法律的根拠はない。」とフランチャイズ契
約は期間の満了をもって終了するのが原則であるとしつつも,「期間の定めのある場合には,その間にフランチャイジーが営業権使用許諾を得るためにフランチャイザーに支払った対価を回収しようとすることは合理的期待として保護されるベきである。」と判断している。そして,投資の回収の必要性から,「従って期間の満了によって契約終了と主張される場合にも,期間の経過の一事によって契約は終了するものではなく,前記フランチャイズ契約の実情,フランチャイジーの保護の見地から期間の長短も含めて特約の内容を各契約の成立の経緯,内容も合わせ考えることによって検討するのが相当である。」と裁判所は判断した。したがって,裁判所は
「特約によって180 日前に申出ることによって自動更新しないで契約を終了させるには,当事者双方のxxの見地から判断してこれを継続し難いやむをえざる事由が必要であると解すべき」であるとして,フランチャイズ契約の更新拒絶には継続し難いやむを得ざる事由が必要であるとした。本件では,裁判所によりフランチャイズ契約の更新を拒絶するやむを得ざる事由はないと判断されている。
(裁判例3)東京高決平成20年9月17日(判時2049号21頁,LEX/DB25451506,標章使用等差止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件,抗告人:マスターフランチャイザー(総本部),被抗告人:エリアフランチャイザー(地域本部),棄却。)
裁判所は,「フランチャイズ契約のような長期にわたって継続的にフランチャイジーが多額の投資を行うことが必要とされる契約については,フランチャイジーの営業保護の観点からも,たとえ契約の文言上は契約期間が定められていたとしても,やむを得ない事由がなければフランチャイザーは契約の更新を拒絶することができないものと解するのが相当である。」として,フランチャイズ契約の更新拒絶にはやむを得ない事由が必要であるとした。そして,「総本部である抗告人と地域本部である相手方
フランチャイズ契約の更新拒絶について
との信頼関係は破壊されるに至ったものと認めるのが相当であり,総本部は本件契約の更新を拒絶することができるものというべきであって,総本部が本件地区本部契約(フランチャイズ契約)の更新拒絶の意思表示をしたことはやむを得ない事由があったものというべきである。」と裁判所は判断した。
(裁判例4)東京地判平成22年5月11日(判時2182 号75 頁,判タ1331 号159頁,LEX/DB25464075,損害賠償請求事件,原告:マスターフランチャイザー
(総本部),被告:エリアフランチャイザー(地域本部),原告の請求棄却。(裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日の下級審。)
裁判所は,「フランチャイズ契約のような長期にわたって継続的にフランチャイジーが相当多額の投資を行うことが必要とされる契約については,フランチャイジーの契約継続に対する期待を考慮すると,フランチャイジーの営業保護の観点から,たとえ契約の文言上は契約期間が定められていたとしても,フランチャイザーは,やむを得ない事由がなければ契約の更新を拒絶することはできないものと解するのが相当である。」として,フランチャイズ契約の更新拒絶にはやむを得ない事由が必要であるとした。そして,裁判所は「フランチャイズ契約は,当事者間の信頼関係を基礎とする継続的取引であるから,フランチャイジーがそのフランチャイズ契約の継続を著しく困難なものとしたような場合には,上記のやむを得ない事由があるものというべきであり,フランチャイザーは,そのフランチャイズ契約の更新を拒絶できるものといわなければならない。」として,
「本件契約はフランチャイズ契約であり,当事者間の信頼関係を基礎とする継続的取引であるから,その契約の当事者の一方が,そのフランチャイズ契約によりxxx上要求される義務に違反して,その信頼関係を破壊することにより,契約関係の継続を著しく困難なものとしたときは,他方の当事者は,そのフランチャイズ契約を解約することができるものと解する
のが相当である」と,信頼関係が破壊されていればやむを得ない事由になるとした。本件では,「本件更新拒絶の時点において,総本部と地域本部との間の信頼関係が被告により破壊されて上記各契約の継続が著しく困難なものとなっていたものと認めることは難しいから,上記のやむを得ない事由があったものと認めることはできないというべきである。」と裁判所は判断した。
(裁判例5)東京地判平成24年1月30日(判時2149 号74 頁,判タ1382 号162頁,LEX/DB25480582,損害賠償請求事件,原告:エリアフランチャイザー(地域本部),被告:マスターフランチャイザー(総本部),原告の請求一部認容。
(裁判例9)東京高判平成25 年6月27日の下級審。)
裁判所は,「地域本部において,本件契約は,契約期間が満了しても,更新されて継続すると期待する合理的な理由があったというべきであって,このような期待は法的に保護されるべきものであるから,総本部は,やむを得ない事由がない限り,更新を拒絶することは許されなかった」として,フランチャイズ契約の更新拒絶にはやむを得ない事由が必要であるとした。そして,「地域本部にとって,本件フランチャイズチェーンにおける持ち帰り弁当販売事業は,長期にわたって,相当の資本を継続的に投下してきた主力事業」であって,「本件更新拒絶は,本件契約の全てについてこれが更新されることに対する地域本部の合理的な期待を侵害する」ものとして,地域本部に総本部との信頼関係を破壊する行為があったとは認めることはできないから,本件フランチャイズ契約の更新拒絶にやむを得ない事由があったとはいえないと裁判所は判断した。
3 契約の更新拒絶に軽度のやむを得ない事由(信頼関係破壊)が必要とする裁判例
(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28日(LEX/DB28061024,地位確認
フランチャイズ契約の更新拒絶について
請求事件,原告:ディストリクトフランチャイザー(地区本部),被告:エリアフランチャイザー(地域本部),原告の請求棄却。(裁判例7)xxx判平成8年11 月27 日の下級審。)
裁判所は,「地区本部側の契約継続に対する信頼は,契約の更新にあたっても,合理的なものとして保護されなければならない。」とした。そして,本件フランチャイズ契約において,「契約書の更新については,契約期間満了の180 日前に本契約当事者双方より特別の申し出のない限り,自動的に更新するものとする。」と定められているのは,「契約を継続し難いやむを得ない事情」がある場合には,地域本部は契約期間満了の180 日前に,地区本部に対し更新拒絶の申出をすれば,期間満了日に契約は終了するとの趣旨と解釈すべきであると裁判所は判断した。その上で,フランチャイズ契約更新拒絶の場合の信頼関係破壊理論の特徴として,解除権行使に必要とされる信頼関係を破壊する事情に比較すると更新拒絶に必要とされる契約を継続し難いやむを得ない事由は軽度のもので足りると考えられる裁判所は判断した(32)。本件においては,裁判所は,「更新拒絶の意思表示がなされた当時,地区本部と地域本部間には地域本部の地区本部に対する更新拒絶を正当化するだけの契約を継続し難いやむを得ない事情が存したと認められる。」と判断した。
()32 更新拒絶に必要とされる「契約を継続し難いやむを得ない事由」は軽度のもので足りる理由として,裁判所は,⑴解除権行使の場合と異なり,更新拒絶の場合には,債務不履行による解除権行使の場合の12 条に相当する約定はないので,加盟店に対する権利を地域本部が自動的に取得するわけではないこと,⑵加盟店が地区本部から離反しない限りは地区本部には大きな損失はないこと,⑶加盟店からロイヤリティー収入を失う地域本部にとって不利益な結果になること,⑷契約期間満了の180 日前までに更新拒絶の意思表示をする必要があり,地区本部にとって更新拒絶の意思表示が到達してから,契約終了日までに,食材,包材の調達,配送及び地区本部からの離反防止のための加盟店の働きかけなどが一応可能であること,をあげている。
4 更新拒絶にはxxxによる制限があるとする裁判例
(裁判例7)xxx判平成8年11月27日(LEX/DB28061026,地位確認請求事件,控訴人:ディストリクトフランチャイザー(地区本部),被控訴人:エリアフランチャイザー(地域本部),原判決の取消。(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28 日の控訴審。)
裁判所はフランチャイズ契約の期間満了にあたって契約の更新を拒絶するための要件として,信頼関係破壊要件が必要であるということはできないとしている。その理由として,⑴本件契約は,経済的合理性を追求する企業間の契約であること,⑵同契約には地域本部において契約の更新拒絶をするための要件として信頼関係破壊等の特別の事情を要する旨の条項はないこと,⑶本件契約のようなフランチャイズ契約について,借地・借家関係のように一方当事者を保護する特別の法的規制をした立法もないことを挙げている。しかし,フランチャイザーの更新拒絶には,xxxによる制限があり,本件契約更新拒絶の意思表示は,xxの観念に照らして,xxx上許されないものというべきであるとした。
(裁判例8) 鹿児島地判平成12 年10 月10 日( 判タ1098 号179 頁,LEX/ DB28072511,仮の地位を定める仮処分申立事件,債権者:ディストリクトフランチャイザー(地区本部),債務者:エリアフランチャイザー(地域本部),一部認容。)
本件では,信頼関係破壊の要件は問題とされておらず,フランチャイズ契約の更新拒絶がxxx上許容されるかが争われた。裁判所は,本件フランチャイズ契約の更新拒絶については,xxx上許容されるものであると認めるに足りないとし,本件フランチャイズ契約の更新拒絶は無効であるとした。
(裁判例9)東京高判平成25 年6月27日(LEX/DB25501382,損害賠償請
フランチャイズ契約の更新拒絶について
求控訴事件,控訴人:マスターxxxxxxxx(総本部),被控訴人:xxxxxxxxxxx(地域本部),一審被告(マスターフランチャイザー)の敗訴取消。(裁判例5)東京地判平成24 年1月30日の控訴審。)
裁判所は,「本件各契約の更新に関する規定に照らすと,所定の期間より前に更新拒絶の意思表示がされ,予定されていた契約期間が満了することにより,原則として本件各契約は終了するものとされていることは明らかである。」と述べ,原則として,フランチャイズ契約は期間の満了により終了するとした。しかし,裁判所は「長期間にわたり取引関係を継続することが当初から予定されているフランチャイズ契約においては,その関係が更新の繰返しにより継続され,当事者もそれに基づいて人的物的に多大の投資を重ねて,事業を展開し,拡大を図るのが通常であり,このような契約においては,所定の契約期間が満了するに当たり更新拒絶の意思表示がされた場合であっても,当事者の投資等を保護し,継続的に事業を展開することに対する期待についても一定の法的保護を図ることを要すると解するべきである。」と述べ,「更新拒絶の意思表示と期間の満了により当然に契約関係が終了するのではなく,xxxxの原則による一定の制限があり,更新を拒絶することについて正当な事由がある場合に限り期間満了により契約関係が終了すると解するのが相当である。」とした。そして,
「この場合の正当な事由の有無については,更新に関する約定の内容,従前の更新の経緯,契約の目的内容と実情,更新拒絶の経緯と理由その他の諸事情を総合的に考慮して,xxx上の相当性の観点からこれを判断するのが相当である。」と裁判所は述べた。本件では,「一審原告である地域本部の一連の行為ないし対応は,本件フランチャイズチェーンの運営にとって極めて重大で,一審被告である総本部としては看過できないものであったというべきであり,総本部による本件更新拒絶にはxxx上正当な事由があったと認めるのが相当である。」として,総本部によるフランチャイズ契約の更新拒絶にはxxx上の正当事由ありとされた。なお,本件では,
「本件更新拒絶がされた時点では,既に当事者間の信頼関係が著しく破壊され,本件各契約に基づき共同して事業を継続的に推進していくことは最早困難な状況となっており,そのような認識に基づく本件更新拒絶にはxxx上正当な事由があったものと認めるのが相当である。」として,フランチャイザーとxxxxxxxx間の信頼関係の破壊がフランチャイズ契約の更新拒絶を認めるxxx上の正当事由としている点が特徴的である。
5 やむを得ない事由を必要とする裁判例
(裁判例10)東京高判平成24 年10月17日(判時2182号60頁,LEX/DB25483383,損害賠償請求控訴事件,控訴人:マスターフランチャイザー(総本部),被控訴人:xxxxxxxxxxx(地域本部),原判決変更・控訴人の請求一部認容。(裁判例4)東京地判平成22 年5月11 日の控訴審。)
裁判所は,「控訴人である総本部が,被控訴人である地域本部からの商標使用料等の請求や「基本合意書」の締結の要求を拒否し,地域本部との合意が得られる見通しも立たない状況下において,本件各契約を更新することができないと考えたことはもっともなことであったというべきであり,総本部には,当時,本件各契約を継続し難いやむを得ない事由があったと解するのが相当である。」としている。本件では,信頼関係破壊やxxxにはふれず,フランチャイズ契約の更新拒絶にはやむを得ない事由が必要であるとするのみである。
第2節 本稿での検討課題
第1章で述べた通り,本稿での検討課題として,⑴信頼関係破壊の原則,⑵投資の回収,⑶グッドウィルの補償,⑷誠実交渉義務,⑸差別的取扱いの禁止の点から上記裁判例を分析したい。しかし,残念ながら⑸差別的取扱いの禁止についてふれている裁判例は見当たらず,⑷誠実交渉義務そのものが問題となった裁判例もない。そこで,⑴信頼関係破壊の原則,
フランチャイズ契約の更新拒絶について
⑵投資の回収,⑶xxxxxxの補償の3点を中心に分析をし,その中で
⑷誠実交渉義務についてもふれたい。まずは,フランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係が破壊されたとする判断要素とxxxxxxx契約更新拒絶が認められる判断基準から分析をしたい。
第3節 フランチャイズ契約の更新拒絶の際に必要なフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係破壊とは
1 フランチャイズ契約においてフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係が破壊されたとする要件
裁判例の中には,(裁判例1)名古屋地判xxx年10 月21 日のようにフランチャイズ契約は期間の満了をもって終了するのが原則とするものや
(裁判例7)xxx判平成8年11 月27 日のように,フランチャイズ契約の更新拒絶にあたっては,信頼関係破壊の要件が必要であるとはいえないとする裁判例もある。しかし,(裁判例1)名古屋地判xxx年10 月21 日はフランチャイズ契約の更新拒絶にxxxの制限があることは認めており(33),(裁判例7)xxx判平成8年11 月27 日もフランチャイズ契約の更新拒絶にはxxxの制限があるとしている。その他,(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28 日のようにフランチャイズ契約の更新拒絶には軽度のやむを得ない事由が必要とする裁判例や(裁判例8)鹿児島地判平成12 年
()33 (裁判例1)名古屋地判xxx年10 月21 日(判時1377 号90 頁)は,フランチャイズ契約の更新拒絶にはxxxだけでなく,公序良俗による制限があることは認めており,更新拒絶が認められる可能性を否定しているわけではない。
この点については,xxxxも本判決は「「更新を拒絶して契約を終了させることが公序良俗やxxxに反する等の特段の事情がない限り」とも述べており,あくまでも契約法理の一般論としての枠組みではあるが,特段の事情があれば更新拒絶ができないこともありうることを示している。」との分析をしている。xx・前掲注()28,82頁。
10 月10 日のようにxxxのみを判断基準としている裁判例,(裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日のようにやむを得ない事由のみを検討している裁判例もある。このようにフランチャイズ契約の更新拒絶の制限について,その根拠とする理由は様々であるが,フランチャイザーはフランチャイズ契約の更新拒絶が自由にできるわけではなく,一定の制限があることについてはすべての判例で認められていると言って良いだろう。
多くの裁判例は,フランチャイザーとxxxxxxxx間の信頼関係破壊の要件を必要とするものである。(裁判例9)東京高判平成25 年6月27日において,「本件更新拒絶がされた時点では,既に当事者間の信頼関係が著しく破壊され,本件各契約に基づき共同して事業を継続的に推進していくことは最早困難な状況となっており,そのような認識に基づく本件更新拒絶にはxxx上正当な事由があったものと認めるのが相当である。」と述べられている通り,フランチャイザーとxxxxxxxx間の信頼関係の破壊が更新拒絶を認めるxxx上の正当事由,すなわちやむを得ない事由となると解することが妥当であると考える。フランチャイズ契約の更新拒絶が認められるやむを得ない事由とは,xxx上の正当事由のことであり,xxx上の正当事由がみたされる要素としてフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係の破壊が必要だとすべきである(34)。以下,この点を踏まえて,裁判例において示されたフランチャイザーとxxxxxxxx間の信頼関係破壊の判断要素を分析する。
()34 もっとも,(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28 日では,フランチャイズ契約の更新拒絶には軽度のやむを得ない事由が必要としているが,これは,フランチャイズ契約の解除と比較してのことであり,フランチャイズ契約の更新拒絶にやむを得ない事由が必要であることが否定されたわけではない。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
2 裁判例におけるフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係破壊の判断要素
このように多くの裁判例でフランチャイザーがxxxxxxx契約の更新拒絶をするには,xxxxxxxxとxxxxxxxx間の信頼関係が破壊されていることが必要であるとしている。それでは,信頼関係破壊が破壊されているとする判断要素は何であろうか。
(裁判例2)名古屋地判平成2年8月31 日では,報告義務の懈怠,ロイヤルティ支払の遅滞などの債務不履行が問題となった。しかし,本件では,ロイヤルティの支払額が地域本部から振り込まれる総額と比べると微々たるものであり,報告義務の懈怠についても適式な報告のないことを発見した段階で地域本部にこれを促すなどの働きかけをしていないなど総本部に過失があると判断した。すなわち,⑴ロイヤルティの不払いや報告義務の懈怠などの債務不履行は信頼関係破壊の要件に該当するが,⑵信頼関係が破壊されたといえるには不払いについては微々たるものであってはならず,報告義務については催告などをおこなってもなお行われていないことが必要である。裁判所は,「突如としてこれ(上記義務違反)を盾に更新を拒絶するに及んだことは信頼関係の強く妥当する継続的契約たる本件契約の性質に照らせば必ずしも当を得たものとはいい難い。」とフランチャイズ契約を信頼関係の強く妥当する継続的契約であると述べており,信頼関係破壊の必要性を強調している点が(裁判例2)名古屋地判平成2年8月31 日の特徴である。
(裁判例3)東京高決平成20 年9月17 日は,フランチャイズ契約の更新拒絶にはやむを得ない事由が必要であり,本件では,総本部と地域本部である相手方との信頼関係は主として相手方の上記のような行為によって破壊されるに至ったものと認めるのが相当であり,総本部は本件契約の更新を拒絶することができるとしている。それでは,どのようなフランチャイジーの行為が信頼関係を破壊したと判断されたのか。裁判所は,⑴地域本
部は,総本部が主催する全国地区本部長会議に意図的に欠席し続けていたこと(35),⑵地域本部は,総本部に対し,商標についてその使用料相当額の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したこと(36),⑶地域本部が消費期限を経過した商品の販売に対する販売実態調査やコールセンターの設置にも協力しなかったこと(37),⑷地域本部が独自のデザインの店舗の出
()35 (裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は地域本部と総本部間に信頼関係の破壊は無かったとされた裁判例であるが,⑴地域本部は,総本部が主催する全国地区本部長会議に意図的に欠席し続けていたことについて,「本件契約上,同会議に出席する義務があったと認めるに足りる証拠はないし,同会議において重要な意思決定が行われるなど,同会議に出席しないことが本件フランチャイズチェーンの運営に重大な悪影響を及ぼすものであったと認めるに足りる証拠もない。したがって,同会議に出席しないことが信頼関係を破壊するものであるとはいえない。」と判断している。
()36 地域本部は平成16 年3月に商標を保有する東日本地域を担当する株式会社を吸収合併したことから,商標について,平成18 年12 月,総本部に対し,その使用料相当額の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。
(裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は地域本部と総本部間に信頼関係の破壊は無かったとされた裁判例であるが,⑵地域本部は,総本部に対し,商標についてその使用料相当額の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したことについて,
「地域本部は,別の地域本部を吸収合併したことにより,本件商標権を適法に取得したものであり……地域本部が,本件商標権について,その商標使用料相当額の支払を総本部に請求することができると考え,裁判所の判断を求めたことが総本部との間の信頼関係を破壊する不当なものであるとはいい難い。」と判断している。
()37 (裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は地域本部と総本部間に信頼関係の破壊は無かったとされた裁判例であるが,⑶地域本部が消費期限を経過した商品の販売に対する販売実態調査やコールセンターの設置にも協力しなかったことについて,「地域本部は,記者からの問合せの後,約10 日間で,傘下の店舗を対象とした消費期限の偽装に関する調査を行ったこと,調査結果が判明した翌日,消費期限の偽装に関する雑誌が発売されたことから,社会的信用を回復するため,把握している情報を一刻も早く公表する必要があったことが認められるのであって,このような事情に照らすと地域本部の対応が不適切なものであったとはいえない。」「地域本部は,総本部からの
フランチャイズ契約の更新拒絶について
店や統一マークの入った看板すら設置しない店舗で営業を続けたこと(38),
⑸地域本部がフランチャイズ店舗のコンセプトに反する商品の販売方法を行ったこと,⑹地域本部が消費期限を経過した商品のラベルを張り替えて販売していたこと,⑺地域本部がラベルの張り替えを拒否した従業員が解雇されていたことが大きく報道され,その従業員を相手方の直営店で再雇
問合せに対し,営業に関するノウハウに関する事項を除き,全て回答し,総本部がコールセンターを設置するに際しても,店舗リストの提出の求めに応じている。したがって,本件フランチャイズチェーンの信頼関係への取組に地域本部が協力しようとしていなかったとはいえない。」と判断している。
()38 本件契約7条2項3号・4号では「地域本部はチェーンの名称が,社会的または消費者から受ける信用と信頼を守るためにショップが提供する商品とサービスの統一性を維持するために次のことに同意する。」としており,「ショップは,総本部により前もって示され,認められたプランと仕様明細に基づいて建築しなければならない。即ち,総本部によって決定された統一基準と仕様明細に従って,外装・内装・設置・装飾されなければならない。」,「ショップは,総本部が開発した各種マニュアルに基づきマニュアルに示された事柄をxxに励行することによって,清潔感に溢れた調理場・売場を維持し統一性のある均質の商品とサービスを提供させるものでなければならない。」と定められていた。
しかし,(裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は地域本部と総本部間に信頼関係の破壊は無かったとされた裁判例であるが,本判決はこの点について,「確かに,本件契約では,「総本部によって決定された統一基準と仕様明細に従って,外装・内装・設備・装飾されなければならない」と定められている。しかし,本件フランチャイズチェーンにおいては,必ずしもすべての店舗の外装が統一されていたものではないのであって,実際に統一基準に基づく外装になっていたとはいえない。また,総本部は,三地域本部制の導入後は,地域における営業管理等を地域本部に委ね,自らは店舗管理等をするだけの役割にとどまっていたし,店舗の外装を改装することは,評判の悪かった外装を改め,売上を伸ばすための営業努力の一環であった。このような事情に照らせば,地域本部が茶褐色を基調としたデザインを店舗の外装として採用していたとしても,信頼関係を破壊するものとはいえない。」と判断している。
用せざるを得ない事態となったこと(39),により信頼関係が破壊されたと判断した。まとめると,⑴会議への不参加等業務怠慢,⑵訴訟等の提起,⑶問題発生時の問題解決のため調査への非協力,⑸統一デザインや統一コンセプトを無視する等フランチャイズの統一イメージを無視する,⑹反社会的行為が,本件において信頼関係破壊の判断要素となった。
(裁判例4)東京地判平成22 年5月11 日は,総本部と地域本部間の信頼関係が破壊されたとは言えないとしているが,その理由として,⑴一方または双方から特段の申し出のない限り当然に更新される旨の自動更新の規定が定められていること,⑵地域本部が最初に総本部との間で地域本部契約を締結してから原告による本件更新拒絶がされるまでには約27 年が経過していたこと,⑶地域本部が契約に違反する行為をしていないことが,本件においてその理由とされている(40)。
()39 (裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は地域本部と総本部間に信頼関係の破壊は無かったとされた裁判例であるが,⑺ラベルの張り替えを拒否した従業員が解雇されていたことが大きく報道され,その従業員を相手方の直営店で再雇用せざるを得ない事態となったことについて,「この問題は,地域本部傘下の加盟店のうち1店舗のみで生じたものであること,地域本部は,上記の問題を把握してから,実態の調査を行い,解雇された従業員を地域本部の直営店で雇用するとともに,同加盟店との契約を終了させ,新たに直営店として営業を再開したことが認められる。」として,信頼関係は破壊されていないと判断している。
()40 一審判決(裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日と二審判決(裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日において結論が異なった理由として,xx弁護士は,「フランチャイズシステムにおいて,マスターフランチャイザーが⒜商標等の使用許諾,⒝経営ノウハウの提供,⒞店舗運営についての指導および援助を行う義務の機能を自ら実際に果たすことをどれだけ重視するかに違いがあるとしている。一審判決はこれを重視し,⒝と⒞を地域本部に委ねていたと判断してマスターxxxxxxxxによる更新拒絶を認めなかった。二審判決では,⒝についてはxxxxに係る権利や権限がマスターフランチャイザーにあることを前提に地域本部に委託したにすぎないことを重視し,商標やノウハウを巡る認識の相違から紛争が発生した状況下ではマスター
フランチャイズ契約の更新拒絶について
(裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日は,総本部と地域本部間の信頼関係の破壊はなかったためフランチャイズ契約の更新拒絶が認められなかった事例である。信頼関係破壊の理由とされた商標訴訟,全国地区本部長会議の欠席,統一デザインに従わないこと,消費期限の切れた商品の販売,消費期限の偽装,消費期限の切れた商品販売の調査やコールセンター設置への非協力,地区本部傘下の加盟店が消費期限の切れた商品のラベルを張りかえて販売し,張り替えを拒否した従業員を解雇したことなど,他の裁判例では信頼関係の破壊があったとする事実について,本件では,信頼関係の破壊はなかったと裁判所は判断している(41)。
(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28 日は,フランチャイズ契約の更新拒絶には軽度の信頼関係破壊で足りるとしているが特徴である。そして具体的には,軽度に信頼関係が破壊された事実として,⑴食材独自仕入等の地区本部の本件契約違反はxx継続反復されていること,⑵契約違反につき地域本部から注意があるだけでなく,フランチャイズシステムからの逸脱解消を実行しない場合には契約の解消を含めて如何なる処置をとられても異存ない旨記載した誓約書を提出していること,⑶食材の独自仕入等の契約違反を継続反復すれば,地域本部が本件契約の更新拒絶の意思表示をしてくることが予想できたこと,⑷地区本部は地域本部の営業指導等にあまり依存せず独自に食材の調達等をして営業を継続してきたこともあって依然として独自食材の仕入率が高くその営業につき地域本部に対する依存性は高くないこと,⑸地区本部は8年余り営業を継続しており鹿児島県内において相当な暖簾等の蓄積があること,⑹本件更新拒絶の意思表示は
xxxxxxxxによる更新拒絶にはやむを得ない事由があったと判断された。」と分析している。xxxx「フランチャイズ契約の更新拒絶・解約はどのような場合に許されるのか─ほっかほっか亭総本部 vs プレナス一審判決と二審判決の比較─」 NBL989号7頁以下(2002 年)。
()41 前掲・注()35から注()39まで参照。
契約終了日の8ヶ月余り前になされていることをあげている。まとめると
⑴契約違反行為の継続反復,⑵契約違反行為の改善警告があるにもかかわらず,違反行為をくりかえす,⑶更新拒絶の予見可能性,⑷店舗営業に対するフランチャイザーへの依存性の低さ,⑸更新拒絶の意思表示から相当期間経過後に契約が終了するということから,軽度に信頼関係が破壊されたと裁判所は判断した。
(裁判例7)xxx判平成8年11 月27 日は,フランチャイズ契約の更新拒絶ができるか否かについて,地域本部と地区本部間の信頼関係の破壊が必要だと述べず,xxxによる判断をしている。そして,本件更新拒絶はxxxの観点から許されないと裁判所はしている。その理由として,⑴総本部はもとより,地域本部に食材の調達及び供給並びに消費者のニーズに応える商品開発等について能力・体制が欠けていたため,地区本部がフランチャイズシステムの維持・拡大を図るために独自に食材の調達及び供給ルートの確立並びに消費者のニーズに応える商品開発の努力をしなければならなかったこと,⑵商号,商標,サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部の貢献によるものであること(42),⑶地域本部による
()42 なお,⑵商号,商標,サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部の貢献によるものであることについて,(裁判例3)東京高決平成20 年9月17日では次のように判断された。本件において地域本部は「フランチャイズシステムがエリアフランチャイザーである地域本部の多大な貢献によって発展してきたことを前提として,本件契約の更新拒絶にやむを得ない事由がない」と主張したが,「⑴フランチャイズチェーンの名称による持ち帰り弁当事業のフランチャイズシステムを始めたのは総本部というべきであること,⑵仮にその後のフランチャイズシステムの発展に地域本部が貢献してきたとしても,本件契約6条によれば,総本部は,地域本部にフランチャイズシステムを習熟させ,調査・分析を行って地域本部を指導・指示することとされており,実際にも,総本部は,商標権の使用許諾,財団法人日本フランチャイズチェーンへの加盟,フランチャイズチェーン全体の情報収集や商圏の維持・拡大,全国地区本部長会議の開催,食中毒等の問題が発生した場合の対応,地区本部の職員を
フランチャイズ契約の更新拒絶について
契約更新の拒絶が認められると,地区本部が商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,⑷加盟店が地区本部との加盟店契約を解消することになれば,地区本部がxxにわたる投資と努力の結果築き上げた加盟店を,地域本部が労せず獲得するという結果になりかねないこと,⑸地域本部は地区本部の契約違反を理由に本件契約の解除や和解案の提示をする一方,地域本部傘下の加盟店に対し前記の通りの喧伝・唆しをして離反を促し,本件契約の更新拒絶の意思表示に及んでいること,⑹地区本部の代表取締役として地域本部に差し入れた誓約書は,それを提出しなければ地域本部が整備した体制・経営方針に副わなくなったことによるものであり,地区本部らの側には酌むべき事情もあること,⑺本件契約は更新が原則となっていること,である。まとめると,⑴フランチャイズシステムが不十分でフランチャイジーの営業努力によりフランチャイズシステムの維持・拡大したこと,⑵商号,商標,サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専らフランチャイジーの貢献によるものであること,⑶契約更新の拒絶が認められると,フランチャイジーが商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,⑷フランチャイジーのグッドウィルが補償されるフランチャイザーのフリーライドを許す結果になること,⑸フランチャイザーが誠実に更新交渉を行っていない,⑸フランチャイジーの側には酌むべき事情もあること,⑹フランチャイズ契約は更新が原則となっていることにより,本件では地域本部のフランチャイズ契約更新拒絶は認められなかった。
この点については,(裁判例8)鹿児島地判平成12 年10 月10 日も,⑴フ
随伴しての米国への研修視察の実施,クレームに対応するためのコールセンターの設置等,マスターフランチャイザーとして少なからぬ機能を果たしてきたと認められるのであり,総本部がノウハウの提供等を何ら行うことがなかったとは認め難いものである。」と判断している。
ランチャイズシステムが不十分で地区本部の営業努力によりフランチャイズシステムの維持・拡大したこと,⑵商号,商標,サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部の貢献によるものであること,⑶契約更新の拒絶が認められると,地区本部が商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,⑷地区本部のグッドウィルに対するフランチャイザーのフリーライドを許す結果になること,⑹フランチャイズ契約は更新が原則となっていることをあげて,裁判所は地域本部によるフランチャイズ契約の更新拒絶を認めなかった。
(裁判例9)東京高判平成25 年6月27 日は,信頼関係の破壊が更新拒絶を認めるxxx上の正当事由としている点が特徴である。それでは,何が信頼関係にあたるかというと,⑴商標権も巡る紛争,⑵地域本部が本件各契約の更新覚書の作成を拒否,⑶(総本部の権限や権利を減らす)従前の枠組みとは全く異なる新たな契約関係の形成を企図する基本合意書の地位本部による提案とこれに関する争い,⑷重要な商標を使用しない外観の店舗の開店,⑸総本部主催の全国本部長会議への出席を地域本部が一方的に拒否した行為,⑹地域本部による本件フランチャイズチェーンの基本的なコンセプトに反する行為が,本件では挙げられている。
(裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日では,総本部と地域本部間の信頼関係が破壊されるような事実があり,総本部には,当時,本件各契約を継続し難いやむを得ない事由があったと判断されている。本件では,「総本部が,地域本部からの商標使用料等の請求や「基本合意書」の締結の要求を拒否し,地域本部との合意が得られる見通しも立たない状況下において,本件各契約を更新することができないと考えたことはもっともなことであったというべきであり,総本部には,当時,本件各契約を継続し難いやむを得ない事由があったと解するのが相当である。」とされている。要するに,合意が得られないような紛争,本件では⑴商標使用料に関する訴訟や⑵フランチャザーの権限や権利を削減する基本合意書に関する争いが
フランチャイズ契約の更新拒絶について
起きていたことにより,本件では,総本部と地域本部間の信頼関係が破壊されたとされた(43)。
4 裁判例による信頼関係破壊の判断要素のまとめ以上の裁判例をまとめる。
信頼関係が破壊されたと判断される要素として
⑴フランチャイジーによるロイヤルティの不払いや報告義務の懈怠,会議への欠席,消費期限の過ぎた商品の販売,食材の独自仕入などのフランチャイズ契約上の重大な義務違行為を継続反復(裁判例2)(裁判例3)(裁判例6)(裁判例9)
⑵上記⑴のロイヤルティ不払いについては微々たるものであってはならない。(裁判例2)
⑶xxxxxxxxによる訴訟の提起(裁判例3)(裁判例9)(裁判例10)
⑷統一デザインや統一コンセプトを無視する等フランチャイジーによるフランチャイズの統一イメージを無視する行為(裁判例3)(裁判例9)
⑸フランチャイジーの反社会的行為や社会的信用を失墜させる行為(裁判例3)
()43 (裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日が一審判決(裁判例4)東京地判平成22年5月11 日と結論を異にした点につき,xx弁護士は,「マスターフランチャイズ契約は,フランチャイズ契約としての側面の他に,企業間における業務提携契約・共同事業としての側面を持つため,企業間で長期にわたる共同事業が営まれた場合,事業を進めるにつれて契約当事者の関係や経済環境が変化することも少なくないが,企業間の共同事業契約の安定性の観点からは,全く想定外の事態が生じない限り,契約外の事情で当初の契約の枠組みを変更すべきでないことから,(裁判例10)東京高判平成24 年10 月17 日の結論は妥当ではない。」としている。xxx「エリア・フランチャイズ契約における更新拒絶,xxx上の競業避止義務違反の有無」フランチャイズエイジ2014 年7月号31 頁以下。
⑹フランチャイザーから契約違反行為の改善警告があるにもかかわらず,フランチャイジーが違反行為をくりかえすこと(裁判例2)(裁判例6)
⑺フランチャイズ契約の重要な部分に関するフランチャイザーとフランチャイジー間の意見の相違による紛争の発生(裁判例9)(裁判例10)
信頼関係が破壊されたとはいえないとする要素としては下記のものが挙げられている。
⑴一方または双方から特段の申し出のない限り当然に更新される旨の自動更新の規定がフランチャイズ契約に定められていること(裁判例4)(裁判例7)(裁判例8)
⑵フランチャイズ契約締結より長期間の経過(裁判例4)(裁判例6)
⑶フランチャイジーに重大な契約上の義務違反がないこと(裁判例4)
⑷フランチャイザーに対するフランチャイジーの依存度が低いこと(44() 裁判例6)
⑸フランチャイザーによるフランチャイズ契約更新拒絶の意思表示によって契約が終了するまで相当期間が経過したこと(裁判例6)
⑹フランチャイザーにフランチャイズシステムを維持するだけの能力がなかったこと(裁判例7)(裁判例8)
⑺フランチャイズシステムが不十分でフランチャイジーの営業努力によりフランチャイズシステムの維持・拡大したこと(裁判例7)(裁判例8)
⑻商号,商標,サービスマーク等のフランチャイズイメージの定着及び普及は専らフランチャイジーの貢献によるものであること(裁判例7)(裁判例8)
()44 xxxxは,依存性については,それが契約の特徴ないし構造と関連づけられなければ,契約の解消を制限するという法的保護の論拠としては,説得力が無いと主張する。xxx「特約店契約およびフランチャイズ契約の特徴とその解消について(1)」法学新報105 巻8・9号194 頁以下(1999 年)。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
⑼フランチャイズ契約更新の拒絶が認められると,フランチャイジーが商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること(裁判例7)(裁判例
8)
⑽フランチャイジーのグッドウィルが補償されないとフランチャイザーのフリーライドを許す結果になること(裁判例7)(裁判例8)
⑾フランチャイザーが誠実に更新交渉を行っていない(裁判例7)とまとめることができるであろう。
信頼関係が破壊されたかどうかについては,これらの要素を考慮して,裁判例に示されているように「フランチャイズ契約の実情,フランチャイジーの保護の見地から期間の長短も含めて特約の内容を各契約の成立の経緯,内容も合わせ考えることによって検討する」ことになる。
なお,(裁判例7)xxx判平成8年11月27日では,誠実に更新の交渉を行っていたかどうかを信頼関係が破壊されているかどうかの判断要素とされている。やはり,フランチャイジーの重要な契約違反が重なるなど更新交渉前に信頼関係が破壊されている場合は別として,フランチャイザーがフランチャイズ契約を更新拒絶しようとする場合,特にフランチャイザー側の事情によって更新拒絶をする場合には,その理由について誠実に説明し交渉する義務がフランチャイザーにあると考えるべきである。
また,(裁判例7)xxx判平成8年11月27日や(裁判例8)鹿児島地判平成12 年10 月10 日のようにグッドウィルに対する補償が行われているかどうかも判断要素としている裁判例もあるようである。筆者は,xxxxxxxxがフランチャイズ契約の更新拒絶をするには,xxxxxxxxのグッドウィルに対する補償が必要であると考える。そこで,次に,フランチャイジーの投資の回収の必要性とグッドウィルの補償に焦点をあてて,分析を行いたい。
第3節 投資の回収の必要性とグッドウィルの補償
1 はじめに
上記の裁判例で分析した通り,xxxxxxxxによる更新拒絶が制限される理由の一つに,フランチャイザーの更新拒絶によって,フランチャイジーの契約中の投資が回収不可能になることがあげられている。すなわち,フランチャイザーによってフランチャイジーの投資の価値を奪い,営業努力を無価値にすることに対する問題意識である(45)。フランチャイジーは投資や営業努力によって,自己の利益だけでなく,フランチャイザーのものである商標やトレードマークの価値を高めている。こうしたフランチャイジーの投資や営業努力に対する補償なしにフランチャイザーによる更新拒絶が認められて良いのだろうか。そこで,次に投資の回収とxxxxxxの補償という視点から裁判例を分析する。
2 裁判例の分析
(裁判例2)名古屋地判平成2年8月31 日では,「フランチャイズ契約は,様々の営業領域において利用され,且つ契約内容も多種多様であって一定の標準が存在するとはいえない契約形態であり,期間の定めのある場合には,その間にフランチャイジーが営業権使用許諾を得るためにフランチャイザーに支払った対価を回収しようとすることは合理的期待として保護されるべきである。」として,フランチャイジーが投資を回収しようとすることは合理的期待として保護されるべきであるとしている。それでは,何を考慮すべきかという点であるが,裁判所はフランチャイズ契約の⑴実情,⑵期間の長短,⑶内容,⑷成立の経緯を合わせ考えることによって投資の回収について検討するのが相当であるとしている。
()45 xxxx「フランチャイズ契約の解除・終了(1)」武蔵大学論集46 巻1号19頁以下(1998 年)。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
(裁判例5)東京地判平成24 年1月30 日では,更新拒絶には信頼関係を破壊するやむを得ない事由が必要であるとされたが,本件において更新拒絶にはやむを得ない事由が必要な理由として,⑴地域本部は,本件フランチャイズチェーンのサブフランチャイザーとして20 年以上担当区域で営業していたこと,⑵総本部が本件契約の解除の意思表示をする直前における地域本部の連結売上高のうち,本件フランチャイズチェーンによる販売事業の売上高の占める割合は,9割に近いものになっていたこと,⑶これらの事実によれば,地域本部にとって,本件フランチャイズチェーンにおける販売事業は,長期にわたって,相当の資本を継続的に投下してきた主力事業であったことなどから,本件更新拒絶は,本件契約の全てについてこれが更新されることに対する地域本部の合理的な期待(46)を侵害するといった点があげられている。すなわち,フランチャイズ契約の更新拒絶にはフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係破壊が必要であるのは,長期間にわたる相当な投資をした者に対する保護のためである。したがって,フランチャイザーによる更新拒絶には今までの投資の回収やその投資によるフランチャイズ店舗の価値上昇分(グッドウィルへの補償)が必要であると本件では判断されたといえる。
(裁判例9)東京高判平成25 年6月27 日はフランチャイザーとフラン
チャイジー間の信頼関係の破壊がフランチャイズ契約の更新拒絶を認めるxxx上の正当事由としているが,「また,地域本部は,20 年以上もの長期間にわたって,本件フランチャイズチェーンにおいて販売事業を継続し,本件更新拒絶を受けた段階では,フランチャイジーとして約1000 店の直営店を経営するとともに,日常的なノウハウの開発等を行って,傘
()46 xxxxは,「継続性という性質」や「継続への期待」については,それがどうして要請されるのかが明らかにならなければ,解消を制限することの根拠にはならないと主張される。xx・前掲注()44,194 頁以下。
下の加盟店に提供し,その結果,東証一部に上場するまでに至り,年間 1000 億円を超える売上高を挙げていたことに照らしても,地域本部は,販売事業を拡大するために相当多額の資本を継続的に投下していたことも容易に推認することができるところである。」と裁判所は述べている。すなわち,本件では,フランチャイジーの投資の回収の必要性から,フランチャイズ契約の更新拒絶にはフランチャイザーとフランチャイジー間の信頼関係破壊が必要であるとしている。
(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28 日では,更新拒絶の際に信頼関係破壊が必要である理由として,「本件契約は相互依存性の高度な契約当事者間の結びつきの強いものであることから,地域本部により契約の更新が拒絶された場合には,地区本部は商号,商標,サービスマーク等の一切の使用ができなくなることやxxの自己の投資と努力により築いてきた加盟店において,右更新拒絶を契機に,地区本部との加盟店契約を解約し,商標等の使用権をもち,資本力も強く,食材,包材の調達,配送についても整備されたシステムを持つ地域本部との間で加盟店契約を締結して,以後も商標等を使用して営業を継続しようとする加盟店がでてくることが予想される」ということをあげている。すなわち,xxxxxxxxがxxの投資と資本によって築いてきたグッドウィルを保護するために更新の拒絶には信頼関係破壊が必要であるとしている。
(裁判例7)xxx判平成8年11 月27 日では,本件更新拒絶はxxxの観点から許されないと裁判所はしているが,⑴地域本部のフランチャイズシステムが不十分でフランチャイジーの営業努力によりフランチャイズシステムの維持・拡大したこと,⑵商号,商標,サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部の貢献によるものであること,⑶地域本部によるフランチャイズ契約更新の拒絶が認められると,地区本部が商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,が挙げられている。すなわち,フランチャイザーが自由にフランチャイズ契約の更新拒
フランチャイズ契約の更新拒絶について
絶をすることができるようになれば,フランチャイザーのフリーライドを許す結果になることを裁判所は問題にしており,この結果,フランチャイズ契約が更新されないとフランチャイジーの今までの営業努力を無にしてしまうため,フランチャイジーに酷な結果となるから,xxxにより更新拒絶が認められないと裁判所は判断した。本件においては,フランチャイジーの店舗経営の努力であるグッドウィルの補償がなければ更新拒絶は許されないと判断されたといえる。なお,この点については,(裁判例8)鹿児島地判平成12 年10 月10 日も同様の判断をしている。
3 本節のまとめ
以上の裁判例に共通する点は,フランチャイズ契約締結をするためにそしてフランチャイズ契約締結後の投資の回収やその投資やその後の営業努力については,フランチャイズ契約の更新拒絶ができるかどうかの判断材料となるとしている点である。例えば,(裁判例2)名古屋地判平成2年8月31日では,「フランチャイジーが営業権使用許諾を得るためにフランチャイザーに支払った対価を回収しようとすることは合理的期待として保護されるべきである。」として,投資の回収の必要性が述べられている。
(裁判例5)東京地判平成24 年1月30日や(裁判例9)東京高判平成25 年
6月27 日では,フランチャイジーが長期にわたり投資を行っていたこと,
(裁判例6)鹿児島地判平成4年8月28日と(裁判例7)xxx判平成8年 11月27日と(裁判例8)鹿児島地判平成12 年10 月10 日では,フランチャイジーが長期にわたる投資と営業の努力をしてきたことがフランチャイズ契約の更新拒絶を制限する理由としている。これは,長期にわたる投資と努力によって築いてきたグッドウィルをフランチャイザーに奪われ,フランチャイザーのフリーライドを許す結果になるためである。
以上の点からいえることは,フランチャイジーによる投資の回収(47)やグッドウィルに対する補償(48)がなされているかどうかは,フランチャイザーの更新拒絶が制限されるかどうか,すなわち,フランチャイザーの更新拒絶に正当事由があるかどうかの重要な判断要素であるということである(49)。逆に言えば,フランチャイジーによる投資の回収や,フランチャイジーへのグッドウィルの補償があれば,フランチャイザーによる更新拒絶に正当事由が認められる可能性が高くなるといえる(50)。このように解すれ
()47 xxxxは,契約の特質から解消の制限を根拠づける考えが基本的に正当であるとの考えに立ち,フランチャイズ契約の特質から契約を解消する制限を根拠づける理由の一つとして,フランチャイジーが出捐した費用や投資が無駄になることを挙げている。xx・前掲注()44,194 頁以下。
()48 xxxxはフランチャイズ契約終了の際のグッドウィルの補償について,ドイツ法での議論を参考に,フランチャイジーのこれまでの営業努力により当該フランチャイズ店にもたらされたグッドウィルを評価することになるが,しかし,仮にそのフランチャイズ店が繁盛していたとしても,そのうちどこまでがチェーン全体の信用に基づくものであり,どれだけがフランチャイジーの営業努力に帰せられるべきかを,明確に説明することは困難であると主張される。xxxxx『フランチャイズ契約論』 169 頁以下(有斐閣,2006 年)。
()49 xxxxはフランチャイザーによるフランチャイズ契約更新拒絶によってフランチャイジーにもたらされる経済的不利益(投資の未回収やフリーライド)がxxx違反になるか否かの判断要素として考慮されているとする。xx・前掲注()28,82 頁を参照。
xxxは,フランチャイザーがフランチャイジーの営業努力の成果に見合う代償を支払った上で契約を終了させれば,フランチャイザーのフリーライドとはならずxxx違反の問題は生じないとしている。xxx・前掲注()30,47 頁。
()50 xxxxは,「総合的に見て,やはり,投下資本の回収という判断要素は,フランチャイズ契約解消の認否の上で,一つの重要なものとなっていたということが結論づけられると思われる。判例理論構成としては,「やむを得ない事由」「信頼関係破壊」
「xxx違反」という要件が設定される根拠として,フランチャイズ契約が継続的な契約関係であり,かつ,特にフランチャイジーの側に投下資本の回収の期待が当然の
フランチャイズ契約の更新拒絶について
ば,xxxxxxxxによる投資の回収やフランチャイジーへのグッドウィルの補償が行われないままの更新拒絶は激減するであろう(51)。
第4節 本章のまとめ
裁判例を分析し検討した結果,信頼関係の破壊が更新拒絶を認めるxxx上の正当事由,すなわちやむを得ない事由となると解すべきであると考える。そして,信頼関係が破壊されたと判断される要素としては,⑴フラ
ものとして存在するということが掲げられているということが見て取れよう。」と述べている。投下資本の回収の期待が,フランチャイズ契約更新拒絶に正当事由が必要となる理由であるとの考えである。そして,xxxxxxx契約の解除が争われた名古屋地判平成13 年6月28 日(判時1791 号101 頁)について,xxxxは,「フランチャイズ契約の解消が,フランチャイジーのそれまでの投下資本を無にし,職を失うことにつながるという要素を,直接的・実質的には解消認否の判断要素に結びつけている。」としていると分析している。xxx「裁判例におけるフランチャイズ契約解消認否の基準─「投下資本の回収」というキーフレーズを焦点にあてて─」xx経済大学論集59 巻1号1頁(2016 年)。xxxxによる直接の言及はないが,フランチャイズ契約終了により生活の基盤を失うことに対する補償も必要であると筆者は考える。
()51 xxxxは,フランチャイジーの法的保護の諸態様として,⑴在庫の引き取り,⑵固定顧客の価値の補償,⑶投資賠償請求権を挙げている。⑴在庫の引き取りについては,残存する在庫の処分は,フランチャイジーにとって困難であるため,フランチャイジーに在庫の個別契約についての法定解除権が与えられるとしている。⑵固定顧客の価値の補償については,固定顧客が存続したであろう期間にわたってフランチャイジーが,その固定顧客から取得したであろう利益が不当利得として賠償されるべきであるとしている。⑶投資賠償請求権については,フランチャイザーからの積極的な勧めまたは要請に応じてした投資が,契約終了によって回収をされないまま無価値になった時は,フランチャイジーは,民法650 条1項の費用償還請求権を取得するとしている。xxx「特約店契約およびフランチャイズ契約の特徴とその解消について
(3・完)」法学新報105 巻12 号158 頁以下(1999 年)。
ンチャイジーによるロイヤルティの不払いや報告義務の懈怠,会議への欠席,消費期限の過ぎた商品の販売,食材の独自仕入などのフランチャイズ契約上の重大な義務違行為を継続反復したこと,⑵上記⑴のロイヤルティ不払いについては微々たるものではない,⑶フランチャイジーによる訴訟の提起,⑷統一デザインや統一コンセプトを無視する等フランチャイジーによるフランチャイズの統一イメージを無視する行為,⑸フランチャイジーによる反社会的行為や社会的信用を失墜させる行為,⑹フランチャイザーから契約違反行為の改善警告があるにもかかわらず,xxxxxxxxが違反行為をくりかえすこと,⑺フランチャイズ契約の重要な部分に関する意見の相違による紛争の発生である。信頼関係が破壊されたとはいえないとする要素としては⑴一方または双方から特段の申し出のない限り当然に更新される旨の自動更新の規定がフランチャイズ契約に定められていること,⑵フランチャイ契約締結より長期間の経過,⑶フランチャイジーによる重大な契約上の義務違反がないこと,⑷フランチャイジーのフランチャイザーに対する依存度が低いこと,⑸フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶の意思表示によって契約が終了するまで相当期間が経過した,⑹フランチャイザーにフランチャイズシステムを維持するだけの能力がなかったこと,⑺フランチャイズシステムが不十分でフランチャイジーの営業努力によりフランチャイズシステムが維持・拡大したこと,⑻商号,商標,サービスマーク等のフランチャイズイメージの定着及び普及は専らフランチャイジーの貢献によるものであること,⑼フランチャイズ契約の更新拒絶が認められると,フランチャイジーが商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,⑽フランチャイジーのグッドウィルが補償されないとフランチャイザーのフリーライドを許す結果になること,⑾フランチャイザーが誠実にフランチャイズ契約の更新交渉を行っていないこととまとめた。すなわち,裁判例では,「フランチャイズ契約の実情,フランチャイジーの保護の見地から期間の長短も含めて
フランチャイズ契約の更新拒絶について
特約の内容を各契約の成立の経緯,内容も合わせ考えることによって検討する」としているものが多いが,具体的には上記に挙げた要素によって信頼関係が破壊されているかどうかが判断されている。
そして,誠実交渉義務もフランチャイズ契約更新拒絶を認めるかどうかの重要な判断要素である。フランチャイジーの重要な契約違反が重なるなど更新交渉前に信頼関係が破壊されている場合は別として,フランチャイザーがフランチャイズ契約の更新拒絶をする場合,特にフランチャイザー側の事情によりフランチャイズ契約を更新拒絶する場合には,フランチャイザーにはフランチャイズ契約が更新できない事情を説明し,誠実に更新交渉を行うべきである。
さらには,投資の回収やグッドウィルに対する補償がなされているかどうかも,更新拒絶に正当事由があるかどうかの重要な判断要素である。フランチャイジーは自己のフランチャイズ店舗の営業のために多額の投資をし,自己のフランチャイズ店舗の価値を高める努力をしている。この投資が回収されないまま,フランチャイズ契約の更新拒絶が認められて良いはずは無いと多くの裁判例においても示されていることが分かった。そして,xxxxxxxxの努力によって築かれたxxxxxxがxxxxxxxxによるフランチャイズ契約の更新拒絶によって,フランチャイザーに奪われてはならない。これは,多くの裁判例で述べられている通り,xxxxxxxxによるフリーライドを認めることになるからである。
そもそも,フランチャイズ契約において投資は,xxxxxxxxがするのにもかかわらず,その内容には,フランチャイザーの利益の確保をも目的として契約によって拘束や制限が加えられている。すなわち,フランチャイザーは,自己に利益をもたらす投資を,フランチャイジーに対し,その責任においてさせている(52)。フランチャイズ契約においては,その利
()52 xxx「フランチャイズ契約の特質─フランチャイジーの投資賠償請求を題材とし
得に関しては排他的にフランチャイジーに帰属するとはいえないため,フランチャイズ更新拒絶の際にはフランチャイザーに応分の負担を求めることができるのではないだろうか。このように解すれば,xxxxxxxxが更新拒絶をするために,xxxxxxxxによる投資の回収やフランチャイジーへのグッドウィルの補償を行うことは,フランチャイザーの義務であるといえる。
第4章 フランチャイズ契約更新に関する学説
本章では,日本におけるフランチャイズ契約更新に関する学説を分析する(53)。
第1節 学説の状況
1 契約の更新を原則とする説(xx説)
裁判例の傾向とは異なり,xxxxはフランチャイズ契約の更新を原則としている。xxxxは契約の期間満了時に当事者の一方の意思によりその更新を拒絶できるかについて,フランチャイズ契約におけるノウハウの供与のような取引特殊性のある財を取引の対象とする契約は,当事者の投下資本回収という点からも継続的とならざるを得ず,期間の定めのある場合においても契約が更新されるのが原則であって,少なくとも直ちに契約の終了を認めるべきではないとする(54)。
て─」『現代契約法の展開 xxxx先生古稀記念論文集』403 頁以下(経済法令研究会,2000 年)。
()53 なお,拙稿・前掲注⑹においても簡単な分析を行っているため,一部重複をしている部分がある。日本における学説や裁判例の議論状況については,xx・前掲注()31, 114 頁以下が詳しい。前稿と同様に本稿でも参考にさせていただいている。
()54 xxxx「いわゆる継続的契約に関する一考察」『日本民法学の形成と課題(下)』
フランチャイズ契約の更新拒絶について
2 契約状態が続いている場合には更新が認められるとする説(川越説)xxxxは継続的な取引関係は定められた期間の経過によって終了する
が,契約の内容や取引の実態等に鑑み,期間の設定が当事者の真意に反する場合や,契約状態が続いているといった事情がある場合には,更新拒絶の法律上の効力が否認され,または更新義務が発生するとしている(55)。契約自由の原則からフランチャイズ契約の更新を原則とすることはできないとしつつも,フランチャイズ契約は継続的な取引関係であるという特殊性からフランチャイズ契約の更新を認めるといった説である。
3 契約自由の原則を重視する説(xx説)
xxxxは契約自由の原則からフランチャイザーによる更新の拒絶は自由に認められるべきであり,更新の義務は無いとする考えである。フランチャイズ契約は当事者間の契約であって原則として契約自由の妥当する領域であり,契約期間が不当に短くフランチャイジーの正当な利益を害するとき等には,期間の定めに関する条項の効力が検討されるべきであるが,原則として契約期間の定めはその効力が認められるとする(56)。もっとも,xxxxはフランチャイズ契約の解消に際して,在庫に関する個別的売買契約の解約権を認め,当事者の責めに帰することのできない事由による特別の解約によってフランチャイジーに生じる投資の無価値化による損害や,契約締結の後にフランチャイジーがした追加投資について生じる同様の損害については,供給者・フランチャイザーも一定の範囲で費用償還義務を負うべきであるとの解釈を示している(57)。すなわち,契約自由の原
717 頁以下(有斐閣,1996 年)。
()55 xxxx『継続的取引契約の終了』別冊 NBL19号23 頁(商事法務,1999 年)。
()56 xx・前掲注()51,134 頁以下。
()57 xx・前掲注()52,391 頁以下。
則を尊重しつつも,フランチャイジー保護の必要性からフランチャイジーの投資回収の権利は認められなければならないとする考えである。
4 投資の回収を更新拒絶の判断要素とする説(xx説)
xxxxは,フランチャイズ契約に限定しているわけではないが,更新拒絶による契約の終了を制限することは,合意に基礎をなす契約の自由を制限することに繋がりかねないとしている。しかし,当事者間で契約を継続させる意思があり,当事者の一方が投資回収の利益を図るとの前提のもとで契約を締結したといえる場合には,本件更新拒絶の時点で,当事者の一方が投資を回収できたと評価できるのかという観点から更新拒絶の効力を判断する必要がある。その結果,当事者の一方の投資回収のために必要とされる合理的な期間を経過する前に更新拒絶が行われた場合には,この更新拒絶は当該契約の締結時に合意された内容に基づいてなされたものとはいえないため,契約条項の内容を制限的に解し,当事者の一方の更新拒絶に正当な理由を必要とするという解釈が導かれることになるとする(58)。
5 更新拒絶に理由を要求する説(xx説)
xxxxは,期間の合意があるにもかかわらず更新拒絶に理由を要求するという考え方にも,一定の合理性が認められるとの前提に立ち,更新拒絶の問題について,つぎのような解決策を提案されている(59)。第一に,更新拒絶の理由は,「やむを得ざる理由」に至らずとも,それなりの合理性を持つ一応の理由であれば足りる。フランチャイザー側の経営方針等も,
()58 xxxx「代理店・特約店契約の更新拒絶─新聞販売店契約の更新拒絶判決を契機として─」法経論集227 号568 頁以下(2008 年)。同じく,xxxxは日本の裁判例において,「投下資本の回収」という判断要素は,フランチャイズ契約解消の認否の上で,一つの重要なものとなっているとする。xx・前掲注()50,1頁以下。
()59 xx・前掲注()48,176 頁以下。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
客観的な事情に照らして相当性があれば,更新拒絶の理由となる。第二に,フランチャイザーが補償(あるいは「フランチャイズ権」の買い取り)を申し出た場合や,契約終了後の競業避止義務が相当に限定的な場合には,それに応じて,要求される更新拒絶の理由は,軽減される。第三に,フランチャイズ権(フランチャイズ契約の当事者たる地位)が第三者との間で取引できる状況にあれば,更新拒絶の理由は不要と解して良い。以上を原則とした上で,具体的な事案の中でフランチャイザーの言動が契約の更新に対する信頼を惹起したと認定される場合には,フランチャイザーによる更新拒絶は許されないとxxxxはしている。
第2節 学説の検討
xx説は,投資の回収という観点からも,契約が更新されることを原則としている。しかし,契約法自由の原則からフランチャイザーが契約の更新を強制されるとするのは難しい。この点はアメリカ合衆国においても同様であり,フランチャイジーにフランチャイズ契約の更新拒絶は認められていない(60)。しかしながら,フランチャイジーによる投資の回収がないま
()60 Breslerʼs 33 Flavors Franchising Corp. v. Wokosin, 591 F. Supp. 1533 (E. D. Wis. 1984) では,「アメリカのビジネスは自由な市場経済による競争を基本原理としているため,フランチャイザーのビジネス上の判断は尊重されなければならない」と述べられ,フランチャイザーが契約の更新を強制されることは認められないとしている。これがフランチャイズを含めたアメリカのビジネスの基本的な考えのようである。 Consumers Oil Corporation v. Phillips Petroleum Company, 488 F.2d 816 (3d Cir. 1973) においては,裁判所は,「被告が強制的にフランチャイズを継続させられることは被告のビジネスに不合理な負担を負わせることになり,被告の自由と財産を奪うことになる。このため,被告にフランチャイズを続けないという選択肢を与えるべきであると判断した。」と述べている。Ziegler Co., Inc. v. Rexnord, Inc. 433 N.W. 2d 8 (Wis. 1988), Bus. Franchise Guide (CCH) 9317 においては,裁判所は「権利付与者が,自身の問題を解決するために,販売者とのビジネスの方法の変更を試みることができ
ま,フランチャイザーが恣意的にフランチャイズ契約の更新拒絶を行えるというのは妥当ではない。したがって,フランチャイジーによる投資の回収がない場合には,フランチャイジーによる重大な契約上の義務違反が無い限り,フランチャイズ契約更新拒絶ができないと考えるべきであろう。xxxxは契約状態が続いているといった事情がある場合には,更新拒 絶の法律上の効力が否認され,または更新義務が発生するとしている。契約状態が続いている,すなわち,フランチャイジーが契約の更新を期待している場合には,契約の更新を原則とするという考えには賛同できる。しかし,この点に関して,アメリカ合衆国では,フランチャイザーの経済的事情(市場から撤退など)がフランチャイズ契約の更新拒絶の正当事由になるとする考えが強い(61)。したがって,例外的にフランチャイザーが更新
拒絶をできる要件を明確にする必要があるであろう。
xx説はフランチャイザーによる更新拒絶を認める考えである。この点,契約自由の原則が認められるからといって,xxxxxxxxによる恣意的な更新拒絶は認められるべきではなく,契約の更新拒絶にはxxxxxxxxとxxxxxxxx間の信頼関係の破壊が必要だと考えるべきである。そして,仮にxxxxxxxxが更新の拒絶を望む場合でも,フランチャイジーとの誠実な交渉は必要であり,差別的な取扱いを禁止する意味でもフランチャイズ契約を更新せざるを得ない理由についてフランチャイザーは誠実に説明を行うべきである。そして,xx説は,在庫に関する個別的売買契約の解約権を認め,当事者の責めに帰することのできない事由による特別の解約によってフランチャイジーに生じる投資の無価値
ないという議論は,受け入れ難い。」と述べている。フランチャイザーの経営判断は尊重されなければならないとする考えがアメリカにおいては強い。詳細は,拙稿・前掲注⑹,56 頁以下。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
化による損害や,契約締結のあとにフランチャイジーがした追加投資について生じる同様の損害については,フランチャイザーも一定の範囲で費用償還義務を負うべきであるとしている。フランチャイズ契約の更新拒絶に投資の回収が必要なのはその通りであるが,フランチャイジーの営業努力によるフランチャイズ店舗の価値上昇分についての補償,すなわち,グッドウィルについての補償も必要であろう。フランチャイジーはフランチャイズ契約が続くことを期待して,この店舗が生活基盤の全てだと思ってフランチャイズ店舗を営業している。だから,フランチャイジーは自身のフランチャイズ店舗の価値を上げようと営業努力を行うのである。したがって,フランチャイジーによるフランチャイズ店舗の価値上昇分はフランチャイジーが当然受け取る利益である。しかしながら,xxxxxxx契約が終了するとこの努力は無となり,xxxxxxxxは生活の基盤を失ってしまう。よって,投資の回収だけでなくグッドウィルに対する補償も必要であろう(62)。
xx説についても同じことが言える。xx説は投資の回収をフランチャイズ契約における更新拒絶の判断要素とする説であるが,果たしてフランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶の際に,xxxxxxxxが補償されるべきものは投資の回収のみで良いのであろうか。グッドウィルも必要なのではないかと考える。
xx説は,更新拒絶に理由を要求する説であるが,xxxxxxxxが更新拒絶できる場合の要件を詳細に分析されている。まず,更新拒絶の理由は,「それなりの合理性を持つ一応の理由」であれば足りる。フランチャイザー側の経営方針等も,客観的な事情に照らして相当性があれば,更新拒絶の理由となるとしている。この点については,第2章以下で分析するが,やはり信頼関係破壊等のやむを得ない理由が必要なのではな
いだろうか。第二に,フランチャイザーが補償(あるいは「フランチャイズ権」の買い取り)を申し出た場合や,契約終了後の競業避止義務が相当に限定的な場合には,それに応じて,要求される更新拒絶の理由は,軽減される。この点については,フランチャイジー保護の視点からしてもフランチャイジーの補償が十分に行われれば,フランチャイジーへの保護は十分であり,更新拒絶に必要な正当事由は軽減されてしかるべきであろう。第三に,フランチャイズ権(フランチャイズ契約の当事者たる地位)が第三者との間で取引できる状況にあれば,更新拒絶の理由は不要と解して良い。この点については,第三者との間で取引できる状況にあるだけでなく,実際にフランチャイズ権が対価を得て譲渡されたこと,すなわち,フランチャイジーがフランチャイズ店舗の価値(グッドウィル)を補償されたことが必要なのではないだろうか(63)。もっとも,xxxxはフランチャイズ契約終了の際のグッドウィルの補償について,ドイツ法での議論を参考に,フランチャイジーのこれまでの営業努力により当該フランチャイズ店にもたらされたグッドウィルを評価することになるが,しかし,仮にそのフランチャイズ店が繁盛していたとしても,そのうちどこまでがチェーン全体の信用に基づくものであり,どれだけがフランチャイジーの営業努力に帰せられるべきかを,明確に説明することは困難であると主張される。しかし,生活の基盤を失うフランチャイジーへの補償が無いままフランチャイザーが更新を拒絶できることには疑問を感じる。
()63 なお,xxxxは最後の要件として,「具体的な事案の中でフランチャイザーの言動が契約の更新に対する信頼を惹起したと認定される場合には,フランチャイザーによる更新拒絶は許されない」としている。この点については,投資の回収やグッドウィルへの補償のように,フランチャイジーへの補償で解決される場合もあると思われる。xx・前掲注()48,176 頁以下。
フランチャイズ契約の更新拒絶について
第5章 結びにかえて
第1節 総括
本稿では,フランチャイズ本部(フランチャイザー)だけではなく,フランチャイズ加盟店オーナー(フランチャイジー),そして,そこで買い物をする消費者のすべてがともに繁栄し幸せになるフランチャイズシステムを創設すべく,日本におけるフランチャイズ契約の更新拒絶の問題を取り上げた。
第1章では,フランチャイズ契約更新拒絶の分析の視点として,xxxxxxxxによる更新拒絶が認められるには,⑴信頼関係破壊の原則,⑵投資の回収,⑶xxxxxxの補償,⑷誠実交渉義務,⑸差別的取扱いの禁止という5つの要件が必要ではないかとの問題提起を行った。
第2章では,民法(債権法)改正の基本方針と民法(債権関係)の改正に関するxxxxを分析した。民法(債権法)改正の基本方針「期間の定めのある契約の終了」では,契約自由の原則を重視する考えから批判があったが,⑴ ⑶は合意を補うものであること,⑵この規定により更新された場合であっても,期間の定めのない契約の解約申入れをなしうる可能性があり,相手方を永久に拘束するものではないので,私的自治を大きく損なうものではないこと,⑶この規定により当事者間の交渉を促進する機能も期待されること,を理由に検討委員会はこの条文の提案を行った。この提案理由の⑶交渉を促進する機能については,検討委員会が,フランチャイズ契約の更新拒絶の是非にxxx上の判断基準が持ち込まれることによって,当事者間のフランチャイズ契約更新の交渉が促進されると考えていることを示している。すなわち,更新拒絶にxxx上の正当事由があるかどうか以前の問題として,フランチャイズ契約の更新交渉が誠実に行われていることが必要であるとの結論を出した。
また,フランチャイズ契約解消時の清算ないし調整のための措置として,顧客補償や在庫・原材料等の買戻に関する規定を置くことが検討委員会では検討されたが,フランチャイズ契約解消の際の補償に関する規定は,基本方針にはおかれなかった。しかし,フランチャイズ契約においては,特にフランチャイズ店舗が生活基盤のすべてとなっているフランチャイジーにとっては,xxxによる更新拒絶の制限だけではフランチャイジーの保護として不十分である。投資の回収やグッドウィルへの補償がなければ,フランチャイズ契約更新拒絶の正当事由があるとはいえず,フランチャイズ契約の更新拒絶はできないと考えるべきであるとの結論を示した。
検討委員会による多数当事者型継続的契約の規定は,xxxxではおかれなかったが,この規定があれば,差別的な取扱いが禁止される結果,フランチャイズ本部による恣意的な更新拒絶は認められなくなり,同一フランチャイズチェーンのすべての店舗がxxかつ統一の基準に従って更新拒絶の有無が判断されることになる。したがって,多数当事者型継続的契約の規定は非常に有益な規定であるとの私見を示した。
第3章では,基本方針や上記に示したように債権法改正の指針やxxxxにおける「期間の定めのある継続的契約の終了」の提案は民法改正案には盛り込まれなかったが,今までの裁判例で示された考えをベースに行われているため,フランチャイズ契約に関する更新拒絶の裁判例の分析を行った。裁判例を分析した結果,信頼関係の破壊が更新拒絶を認めるxxx上の正当事由,すなわちやむを得ない事由となると解すべきであると考えを示した。裁判例では,「フランチャイズ契約の実情,フランチャイジーの保護の見地から期間の長短も含めて特約の内容を各契約の成立の経緯,内容も合わせ考えることによって検討する。」としているものが多いが,具体的には下記に挙げた要素によって信頼関係が破壊されているかどうかが判断されている。信頼関係が破壊されたと判断される要素として
フランチャイズ契約の更新拒絶について
は,⑴フランチャイジーによるロイヤルティの不払いや報告義務の懈怠,会議への欠席,消費期限の過ぎた商品の販売,食材の独自仕入などのフランチャイズ契約上の重大な義務違行為を継続反復したこと,⑵上記⑴のロイヤルティ不払いについては微々たるものではない,⑶フランチャイジーによる訴訟の提起,⑷統一デザインや統一コンセプトを無視する等フランチャイジーによるフランチャイズの統一イメージを無視する行為,⑸フランチャイジーによる反社会的行為や社会的信用を失墜させる行為,⑹フラチャイザーから契約違反行為の改善警告があるにもかかわらず,フランチャイジーが違反行為をくりかえすこと,⑺フランチャイズ契約の重要な部分に関する意見の相違による紛争の発生である。信頼関係が破壊されたとはいえないとする要素としては,⑴一方または双方から特段の申し出のない限り当然に更新される旨の自動更新の規定がフランチャイズ契約に定められていること,⑵フランチャイズ契約締結より長期間の経過,⑶フランチャイジーに重大な契約上の義務違反がないこと,⑷フランチャイジーのフランチャイザーに対する依存度が低いこと,⑸更新拒絶の意思表示によって契約が終了するまで相当期間が経過したこと,⑹フランチャイザーにフランチャイズシステムを維持するだけの能力がなかったこと,⑺フランチャイズシステムが不十分でフランチャイジーの営業努力によりフランチャイズシステムが維持・拡大したこと,⑻商号,商標,サービスマーク等のフランチャイズイメージの定着及び普及は専らフランチャイジーの貢献によるものであること,⑼フランチャイズ契約更新の拒絶が認められると,フランチャイジーが商号,商標,サービスマーク等が使用できなくなること,⑽フランチャイジーのグッドウィルが補償されないとフランチャイザーのフリーライドを許す結果になること,⑾フランチャイザーが誠実にxxxxxxx契約更新交渉を行っていないことである。
そして,誠実交渉義務もフランチャイズ契約更新拒絶を認めるかどうかの重要な判断要素である。フランチャイジーの重要な契約違反が重なるな
ど更新交渉前に信頼関係が破壊されている場合は別として,フランチャイザーがフランチャイズ契約を更新拒絶する場合,特にフランチャイザー側の事情によりフランチャイズ契約を更新拒絶するには,その理由を誠実に説明する義務があると考えるべきである。
さらには,投資の回収やグッドウィルに対する補償がなされているかどうかも,更新拒絶に正当事由があるかどうかの重要な判断要素である。フランチャイジーによる投資の回収や,フランチャイジーへのグッドウィルの補償があれば,フランチャイザーによる更新拒絶に正当事由が認められる可能性が高くなるといえる。このように解することにより,フランチャイジーによる投資の回収やフランチャイジーへのグッドウィルの補償が行われないままの更新拒絶を減らすことができるはずである。
第4章では,日本におけるフランチャイズ契約更新の学説を分析した。しかしながら,日本の学説は,xxxxxxxx保護の点で不十分である。フランチャイザーが更新拒絶をできる要件を明確にし,フランチャイジーによる投資の回収やフランチャイジーの営業努力によるフランチャイズ店舗の価値上昇分についての補償,すなわち,グッドウィルについての補償がない場合には,フランチャイズ契約の更新拒絶ができないと考えるべきである。
第2節 結びにかえて
以上の検討を踏まえ,フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶が認められる場合の要件について私見を述べる。フランチャイズ契約の更新拒絶が認められるには,xxxxxxxxとxxxxxxxx間の信頼関係の破壊が必要であると考える。信頼関係の破壊が更新拒絶を認めるxxx上の正当事由,すなわちやむを得ない事由となると解すべきである。そして,フランチャイザーによるフランチャイズ契約の更新拒絶が投資の回収やグッドウィルに対する補償がなされているかどうかも,更
フランチャイズ契約の更新拒絶について
新拒絶に正当事由があるかどうかの重要な判断要素である。フランチャイジーにより投資の回収やフランチャイジーへのグッドウィルの補償がなされていない場合には,フランチャイザーによる更新拒絶に正当事由は認められない。これらの補償があることがフランチャイザーによる更新拒絶に正当事由が認められる要件である。
そして,更新拒絶に正当事由が認められるか否か以前の問題として,フランチャイズ契約の更新交渉は誠実に行われなければならない。特にフランチャイザー側の経済事情によりフランチャイズ契約の更新を拒絶しようとする場合には,フランチャイザーは根拠となる資料等を提示してやむを得ない事由がある旨をフランチャイジーに説明し,誠実に交渉して,フランチャイジーの理解と納得を得るように努力するべきであるからである。また,フランチャイズ契約の更新については,差別的な取扱いは禁止さ れると考える。フランチャイズ本部による恣意的な更新拒絶は認められてはならない。同一フランチャイズチェーンのすべての店舗がxxかつ統一
の基準に従って更新の有無が判断されるべきである。
第xxでもふれたが,フランチャイズ産業は,日本の経済を牽引する巨大産業である。2015 年度の日本国内のフランチャイズチェーン数は1329チェーンを数え,6年連続の増加,国内の総店舗数(直営店と加盟店の合計)は26万992 店舗で7年連続の増加,売上高は24 兆5945 億円で6年連続のプラス成長している。なかでも,コンビニは,社会インフラとしての位置づけを確固なものとし,大手企業を中心に堅実に成長を続けており,増加店舗数の約7割,増加売上高の約8割を占める結果となり,フランチャイズビジネスの発展に大きく貢献している(64)。そして,xxxxは,社会インフラとして日本の諸問題を解決する救世主としての役割をも期待
()64 詳細は,日本フランチャイズチェーン協会の統計調査を参照。<xxxx://xxx.xxx-xx. xx.xx/xxxxxxxx/00.xxxx> accessed on Sep. 1st 2017.
されている(65)。
フランチャイズビジネスの理念は,フランチャイザーとxxxxxxxxの共存共栄である。フランチャイズビジネスには,フランチャイザーとxxxxxxxxが信頼関係で結ばれ,共に十分な利益を得て繁栄し,社会に貢献していくという理想があるはずである。このための第一歩として,フランチャイザーによる更新拒絶に怯えることなく,フランチャイジーが安心して店舗の営業に取り組めることが必要である。共存共栄の理念を実現し,フランチャイズ本部だけではなく,フランチャイズ加盟店オーナー,そして,そこで買い物をする消費者のすべてがともに繁栄し幸せになるフランチャイズシステムになるためにも,本稿がその一助となることを願う。
()65 拙稿・前掲注⑸,8面。