ERP 選定のポイント
失敗しないための
ERP 選定のポイント
免責事項
この文書では、日立システムズの一般的な製品の方向性に関する概要を説明しています。この文書の主たる目的は情報提供であり、いかなる契約にも組み込むことはできません。資料、コードまたは機能を提供するものでもなく、購入の際にその根拠として使用されるものでもありません。
目次
はじめてEPR を導入する企業、あるいはリプレースに伴い ERP の再検討を予定する企業に所属する情報システム部門の担当者・役職者を対象としています。
日本における ERP の普及率は、クラウド利用も含めて 5 割を超えたと推測されますが、中小企業を中心に導入検討はこれからという企業も多いと思われます。
1990 年代前半にBPR(Business Process Reengineering)、すなわち業務プロセス改革のツールとして登場した ERP パッケージでしたが、その後は統合業務管理システムとして基幹系業務システムを置き換えるものとして普及しました。また、2008 年の J-SOX 法の実施以降は、内部統制実現のためのツールとしても活用されるようになりました。さらに 2010 年代に入ると、SAP が AWS(Amazon Web Services)を正式サポートしたことをきっかけにクラウドでの利用が急激に普及しました。
このようにさまざまな目的や形態で ERP が利用されるようになり、これから導入やリプレースの検討をする企業にとっては、最新動向の情報は豊富であるにも関わらず、基本的な情報が不足しているように感じられるのではないでしょうか。
このホワイトペーパーでは、基本的な情報の中でもニーズが高いと考えられる ERP 選定のポイントについてまとめ、製品、導入形態(オンプレミス/クラウド)および委託先を検討する際に役立つ内容としました。
ERP 選定の考え方
以下に、ERP を選定するための考え方について解説します。
ERP 選定手順
最初にERP を選定する手順について考えてみましょう。
▲ERP を選定する手順
まず重要なことは、導入目的と適用範囲を決定することです。導入目的によって選定する ERP 製品・導入形態・委託先ベンダーが変わりますし、適用範囲によっても評価ポイントが変わってくるからです。
導入目的と適用範囲を決定するためには、中長期計画などの経営戦略を明示した文書を参照することと、自社システムの現状分析が必要となり、これらが導入目的と適用範囲を考えるためのインプットになります。
導入目的と適用範囲を決定した段階で、一度経営層の承認を得ておきます。
続いて、情報収集を実施します。ネットで検索した後、候補となるベンダーに RFI(情報提供依頼)を発行し、それへの対応を見て、RFP(提案依頼書)を発行するベンダーを絞り込みます(適用範囲によっては、ベンダーの支援がなくても導入できるケースもありますが、ベンダーの支援を得ることが ERP導入においては一般的なので、その前提で説明します)。
ベンダーをある程度絞り込めたら RFP を発行し、提案書の提出を依頼します。RFP には導入の背景や目的、予算規模、スケジュール、体制案、適用範囲および現時点での業務分析結果などを記述します。必要に応じて、プレゼンテーションや製品デモンストレーションを依頼してもよいでしょう。
提案書が出そろい、プレゼンテーションや製品デモンストレーションなどが完了したら、評価ポイントにしたがって提案内容を比較します。ERP 選定の場合には、情報システム部門だけではなく、経営層および利用部門も参加して選定することが重要です。ERP 導入では業務の変更を伴うことが多く、利用部門や経営層からの反発を招くことがあるので、検討段階からで幅広い関係者を参画させることで反発を抑えるようにします。ただし、意思決定が遅くなっては本末転倒なので、意思決定の方法論があることと、その方法について関係者の合意を初期段階で得ておくことが重要成功要因になります。
以下に、選定方法の一例を示します。
① 評価ポイントの一覧を選定主体部門(通常は情報システム部門、ほかに経営企画部門など)から提示する。
② 評価ポイントの中から“MUST”(絶対)のものを全員の合意で選ぶ。
③ 評価ポイントの重みづけ(例:1~5 の 5 段階)の基準を全員で話し合い、合意しておく。
④ 評価ポイントの得点(例:0~5 点)の基準を全員で話し合い、合意しておく。
⑤ 重みづけの基準にしたがい、全員で話し合って、“MUST”以外の評価ポイントのそれぞれに重みづけをする。
⑥ “MUST”の評価ポイントについて、各ベンダーの提案が満たしているかを全員で確認する。満たしていないポイントが 1 つでもあれば、そのベンダーの評価を終了する。
⑦ “MUST”以外の評価ポイントについて全員で話し合って、各ベンダーの提案内容に得点を付ける
⑧ 各ベンダーの得点を集計し(Σ(得点×重み))、得点を比較して選定先を決定する(次ページの表ならばB 社に決定)。
この方式の要点は、以下のとおりです。
∙ 導入がスムーズに進むようにできるだけ多くの関係者に選定に参加してもらう。
∙ 基準も含めて全員で合意する。
∙ 定性的な評価ポイントについても数値化して客観性を持たせる。
これらが満たされればどのような形式でもかまいません。上の例を参考にして、自社に合った意思決定方式を考えてください。
ERP を導入する目的は企業によってさまざまです。主な目的は以下のものでしょう。
∙ 業務プロセスを全面的に改革したい
∙ 分野ごとに個別に導入してきた基幹系システムを統合したい
∙ 一部の基幹系システムをERP でリプレースしたい
∙ 内部統制を実現したい
∙ 海外拠点の設立や新規事業の開始のために短期間で基幹系システムを構築したい
ERP 導入の目的は、以上のように企業の業績に大きく影響するものばかりなので、情報収集の段階で意中の製品が出てきたとしても、製品ありきで考えずに幅広くベンダーからの提案を集めて成功確率を高めるほうが得策です。
また ERP 選定のための RFP 作成には、業務分析など高度なスキルが要求されるため、経験豊富なシステムインテグレーターやコンサルティング会社への作成支援依頼も検討に値します。
ERP 選定のための評価ポイント
以下、ERP を選定するための評価ポイントを考えていきましょう。コスト・納期・品質・そのほかで考えていけば、もれなく挙げることができます。
▲ERP の評価ポイントの分類
コストは ERP に関わらず、企業が商品やサービスを導入するにあたって最も重要視する評価ポイントの 1 つです。
コストの内訳としては、パッケージ製品やハードウェアの価格、導入やアドオン開発にかかる費用など初期コストとパッケージ製品の保守費や運用にかかるランニングコストがあります。
初期コストにおいては、単純に価格の安いほうが良いとは限りません。見積もり時点では低価格でしたが、見落としがあって追加コストが発生することがあります。そのようなことがないように十分な検
討がされているかチェックしなければなりません。
導入予算の決定にあたっては、できる限りのリスク分析をして、必要なリスク対策費を計上しておきましょう。ベンダー側の見積もりが高すぎると感じる場合は、そちらにもリスク対策費が計上されていることが多いので、あらかじめリスクを想定していることを伝えて価格交渉をするとスムーズに進むことがあります。
新規事業の開始や海外拠点の立ち上げのために ERP を導入することがあります。この場合、納期は数ヵ月から半年ぐらいで、しかも納期順守が絶対となります。このことを RFP で明確に伝える必要があります。
新規事業や海外展開の場合、事業伸展の予測が難しいため、最初にどのぐらいのコンピューターリソースを用意すべきか算定しにくいものです。ERP 製品の中にはオンプレミスでの導入では、コンピュータリーソース量でライセンス価格を決定するものがあります。このような場合は、初期はクラウドで導入し、必要リソース量の伸びを見て、オンプレミスに切り替えるのかクラウドのまま継続するのかを判断するのが良いでしょう。
品質に関する評価ポイントを列挙する際には、ソフトウェアの品質特性(ISO/IEC9126)を参照すると便利です。品質特性には大きく、機能性・信頼性・使用性・効率性・保守性・移植性の 6 つがあり、機能性に関する要件を機能要件、それ以外を非機能要件と言います。順に見ていきましょう。
品質特性
品質特性 | 意味 | 副特性 |
機能性 | ユーザー要求を満足する一連の機能 | 合目的性・正確性・相互運用性・機密性・標準適合性 |
信頼性 | 一定の期間・条件下での所定性能維持能力 | 成熟性・障害許容性・回復性・標準適合性 |
使用性 | 使い勝手の良さ | 理解性・習得性・運用性・魅力性・標準適合性 |
効率性 | 一定条件下での性能・資源効率 | 時間効率性・資源効率性・標準適合性 |
保守性 | 変更のしやすさ | 解析性・変更性・安定性・試験性・標準適合性 |
移植性 | 別環境への移しやすさ | 環境適応性・設置性・共存性・置換性・標準適合性 |
機能性でまず評価すべきポイントは、製品自体の業務適合度の高さです。カスタマイズなしで、どれだけ自社が実現したい業務を実現できるかを評価します。
見落としがちなことは、用語の適合度です。設定変更だけで業務用語を自社に適合できれば問題あり
ませんが、そのためだけにアドオン開発が必要になったり、ソースコードレベルでの変更が必要になったりするようでは、将来のバージョンアップでまたコストがかかる怖れが出てきます。
このあたりは、導入方針によっても重要度が変わってきます。アドオン開発なしで導入するという方針であれば、業務適合度はかなり高くないと導入の成功が難しくなります。
業態との適合性も重要なポイントです。たとえば工場の存在を前提にしている生産管理システムですと、ファブレスでは利用できません。生鮮食品の加工業であれば、在庫は実質上持ちませんので、それに適した製品が必要です。貿易中心の企業であれば、輸出入の機能が豊富なことが必須条件になります。
管理の単位(粒度)も問題になってきます。単品で管理したいのにロットでしか扱えなければ機能不足ですし、逆にロット単位で十分なのにいちいち単品レベルでの登録が必要なのであれば効率に悪影響を及ぼします。製造番号ごとに原価管理したい企業もあるでしょうし、部品に階層がある(たとえば共通部品で納入部品を組み立てるなど)工場もあるでしょう。これらをアドオン開発なしで対応できれば費用対効果が高くなります。
ハンディ―ターミナル等の入力デバイスへの対応も重要なポイントです。現在ならスマートデバイス
(スマートフォンやタブレット端末)との親和性も重要な要件になるでしょう。
他システムとの連携性も十分考慮することが必要です。ERP の全システムを一気に導入することもありますが、部分的に導入することも多いでしょう。その場合は、既存の基幹系システムとのデータ連携容易性が重要な評価ポイントになります。データウェアハウス等情報系システムへのデータの受け渡しが容易かというのも同じく重要です。
もう 1 つ重要なことが、セキュリティです。アプリケーションレベルでの権限設定が十分か、不正アクセス時にアラートが発生するか、アクセスログの情報は十分か、脆弱性が発見されたときに修正プログラムがタイムリーに配布されるか、などを確認しましょう。
欠陥が少なく、障害が発生しにくい製品を選択するのは当然のことです。導入実績が多く、長期にわ たって市場に存在している製品やベンダーが安心なのはこのためです。ERP 製品だけでなく、ハードウ ェアの信頼性も考慮すべきですし、クラウドを利用するのであれば提供業者の信頼性が問題になります。
万が一の故障のときに回復が早いか、あるいは障害が発生しても障害範囲だけを切り離したり、自己回復ができたりするかなども評価のポイントとなり得ます。
欠陥があった場合の修正プログラムがタイムリーに配布されているかなども確認しておきましょう。
ERP の導入は、業務規定や関連規約の変更を伴うことが多く、これらの教育は必須です。もちろん操
作教育などシステム関連の教育も必要になりますが、これらにはできるだけ手間をかけないで済ませたいものです。したがって操作が直感的でスムーズであるのに越したことはありません。画面のレイアウトや出力内容の理解性が高いことも重要です。“マイメニュー”を作成できるなど、ユーザーフレンドリーな機能を備えているとなお良いでしょう。
利用部門での操作だけでなく、運用管理に関しても簡単なほうが良いでしょう。システム運用やマスターメンテナンスなどはもちろん、欠品時にアラートが発生するなど業務運用の観点でも行き届いた製品を選びたいものです。
レスポンス速度に関しては、ERP 製品単独では決まりませんが、少なくともERP 製品の性能がボトルネックにならないことを確認しましょう。ベンチマークデータや検証環境などがあるかが重要なポイントになります。オンラインだけでなく、バッチ処理が制限時間内に完了するかどうかも確認します。
CPU・メモリ・ディスクなどのコンピューターリソースに関しては、効率的に使用されることが望ましいですが、近年ハードウェア価格が低下していることと、仮想化による総合的な効率化が図られているため、以前ほど重要視されなくなりました。むしろ、資源が不足したときのスケールアウトが簡単かつ柔軟にできるかのほうが重要だと言えます。
クリスマス商戦など年間レベルでのピークが発生する場合には、その期間だけクラウドを利用してリソース不足を乗り切るという対策が一般化してきています。このような運用に柔軟に対応できるか(多くの場合、製品の機能ではなくライセンスの問題が発生します)が、今では大きな評価ポイントになってきています。
既に述べていますが、製品に機能的な欠陥やセキュリティに関する脆弱性があったときに修正プログラムをタイムリーに配布しているかどうかは、極めて重要なポイントです。
ソフトウェア保守に関してはこのほかに、アドオン開発分の保守性が問題になってきます。ソースコードを開示してもらえるのか、著作権は誰に帰属するのか、ベンダーの変更があった場合に開示や著作権の問題はどうなるのか、将来周辺の基本ソフトがバージョンアップあるいは変更になった場合に互換性はあるのか、なければ変更開発の費用負担はどうなるのかなど、考慮すべきポイントは多岐にわたります。
業務を拡張したい場合に、簡便な方法があるかどうかも重要なポイントです。手順マスターや汎用検索機能など業務変更や追加への対応手段を持っている製品も存在します。
複数の OS やデータベースシステムに対応している製品であれば、将来プラットフォームが変更になったときにも簡単に移植できる可能性が高いでしょう。マルチプラットフォームの製品は、新しいプラットフォームが登場してもすぐに対応できるような構造になっているので、将来性も高いといえます。
導入のしやすさも重要なポイントです。業務テンプレートなどがあると導入の容易性が高まります。分野ごと(会計・人事・生産・販売など)の段階的な導入がスムーズにできることも大切です。システム移行やデータ移行がしやすいようなツールが提供されているとなお良いでしょう。
その他の重要なポイントを挙げておきます。
どのようなシステムでも重要なことですが、ベンダーの実績、技術力、業務知識や現場への理解、会社としての継続性などは、長期的な付き合いが前提になる ERP においては極めて重大なポイントになります。
組織力だけでなく、担当者、特にマネージャークラスの力量も重要になります。プレゼンテーション をした人がベンダー側のマネージャーとして実際の導入も担当すると思い、そのベンダーを採用したら、実際には実力の劣る人が担当者となり、導入に失敗したという事例が数多くあります。
システムインテグレーターに機器調達を含めて委託した場合には、開発マネージャーだけでなく、営業担当者の力量も導入の成功を大きく左右することがあります。負荷テストの段階になってリソースが足りないことが発覚し、急きょサーバーの追加を決定したところ、営業担当者がこのリスクを考慮して手配していたおかげでリリース予定日に間に合ったという事例があります。
忘れがちですが重要なこととしてライセンスの柔軟性があります。たとえば、規模の大きいグループ企業であれば、ホールディングスが一括で基本契約を締結し、グループ各企業での導入に関しては直接の個別契約で進めたいというケースがよくあります。このような対応ができるベンダーばかりとは限りません。
オンプレミスに導入した ERP に関して、ピーク時にクラウドのリソースを利用したいというケースでもライセンスの問題でできないことがあります。
ライセンスの制限と、制限があった場合の代替策を含めた対応の仕方については選定の段階でよく調
べておく必要があります。
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