〇ILO 懇談会 (第 18 回)議事要旨から
熊本県における公契約のあり方 中間とりまとめ
~ 公契約条例についての検討 ~
はじめに
第x x契約条例と本県の取組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p2第二 関係団体の調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p13第三 地方公共団体の調査結果等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・p16第四 中間まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p23
平成27年8月24日
熊本xx契約のあり方検討チーム
はじめに
長引く不況と財政状況の悪化などにより公共事業が減少し、それに伴い、事業者間の価格競争が激化、その結果、労働者の賃金が抑えられるなど労働条件の悪化が指摘されるようになった。
このような背景のもとで、労働者側団体などは国に公契約法の制定、地方公共団体に公契約条例の制定を求めるようになった。
熊本県では、県が発注する公共工事や業務委託等の契約の相手方となる事業者には、労働条件の適正化はもとより、障がい者の雇用など、様々な分野での法令遵守や社会 的責任が強く求められるとの認識の下、平成26年1月に「公契約のあり方検討チー ム」を関係14課で設置し、庁内検討を行ってきた。
今回の中間とりまとめでは、まず、公契約に係る業務に従事する労働者の賃金をはじめとする適正な労働条件を確保するための公契約条例の制定の必要性を中心に整理した。
経 過
〇平成23年11月県議会定例会
<請願>公契約条例を制定し生活保護水準を下回る賃金の改善を求める。
<説明>労働条件等は労使間で合意されるべきもので政府介入するのは不当との政府見解であり、県としても同様の考え、条例制定は困難。
<結果>不採択
〇平成24年12月県議会定例会
<質問>公契約条例制定について(西議員)
<知事>課題等について調査検討を行う。
〇平成25年12月県議会定例会
<質問>公契約条例制定について(xx議員)
<知事>様々な課題もあるが、庁内検討チームを設置し、関係団体の意見も伺いながら研究を深めていく。
〇平成26年12月県議会定例会
<質問>公契約条例制定について(西議員)
<会計管理者>地方公共団体や関係団体調査を実施。その結果として27年
3月を目途に中間とりまとめを行う。
第x x契約条例と本県の取組
1 公契約・公契約条例とは
(1)公契約とは
公契約とは、当事者の少なくとも一方が国や地方公共団体などの公の機関である公共工事や業務委託等の契約をいう。
参考資料:「公契約法と公契約条例 -日本と諸外国における公契約事業従事者のxxな賃金・労働条件の確保-(xxxxx、xxx)」
(参考)
※ 国では、「国又は独立行政法人等を当事者の一方とする契約で国又は独立行政法人等以外の者のする工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物品の納入に対し国又は独立行政法人等が対価の支払をすべきもの」と定義している。(「国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律」第 10 条第 1 項)
(2)公契約条例とは
公契約法(条例)とは、ILO(国際労働機関)第94号条約「公契約における労働条項に関する条約」(日本は批准していない。)の考え方を基に法制化
(条例化)しようとするもので、国や地方公共団体が発注する公共工事、業務委託などにおいて、労働者の労働条件や事業者の法令遵守などを契約の条件として義務付けるものをいうこととする。
○1949 年の労働条項(公契約)条約(第 94 号)
・正 式 名 : 公契約における労働条項に関する条約
(第32回総会で1949年6月29日採択。条約発効日:1952年9月20日。)
・条約の主題別分類:賃金-賃金支払制度 条約のテーマ:賃金
[ 概 要 ]
この条約は、公の機関を一方の契約当事者として締結する契約においては、その契約で働く労働者の労働 条件が、団体協約または承認された交渉機関、仲裁裁定あるいは国内の法令によってきめられたものよりも有利な労働条件に関する条項を、その契約の中に入れることをきめたものである。この契約に挿入される条項及びこの条項の変更は、権限のある機関が、関係労使団体がある場合はその労使団体と協議した上で、その国の国内事情にもっとも適当と認められる方法でこれを決定しなければならないことになっている。
① 有効な批准国
61の国と地域(フランス、イタリア、フィリピン、シンガポールなど)
② 日本の批准状況未批准
(理由)雇用条件は一般原則として国家の介入なしに当事者間の自主交渉で決定されるのが最善
(主な未批准国)米国、カナダ、ドイツなど
※英国は、1950年に批准したが、1982年に破棄
③日本における公契約法・条例の動向
○国内法整備の検討
・昭和25年「國等の契約における労働条項に関する法律案」の作成
・国会への提出が目指されていたが、「関係方面の了解が得られないことを理由として」提出断念
➢特に経済界からの反発
➢時期尚早といった経済的観点からの反対論
○昭和30年代以降の主な議論
・批准の前提となる国内法令の整備が困難であるとして、公契約法の制定や条約の批准を否定。
○平成以降の動き
・平成21年 xx内閣(衆議院本会議 鳩山総理答弁(平成22年2月2日(社会民主党xx議員質問))
賃金などの労働条件は、労働基準法や最低賃金法などを守ることは当然とし、「その具体的なあり方は労使間で自主的に決めること」が原則としつつ、
「公契約における賃金などの労働条件のあり方に関しては、発注者である国の機関や地方自治体も含めて幅広く議論を進めていくことが重要」との見解。
・平成23年 x内閣(衆議院本会議 x総理答弁(平成23年1月27日)
(日本共産党xx議員質問))
公契約法の制定については、公契約の契約先企業における賃金等の労働条件については、関係法令を守ることは当然として、その具体的なあり方は、当該企業の労使間で自主的に決定されることが原則。こうした労働条件のあり方に関しては、発注者である国の機関や地方公共団体も含めて幅広く議論を進めるべきと考える。
〇ILO 懇談会 (第 18 回)議事要旨から
・日時 平成24年4月17日(火)
・主管課 厚生労働省 大臣官房国際課
・出席者 労働者側、使用者側、政府側
・議題 未批准条約(ILO 第94号条約)について
(労働者側)
公契約における支出費用の源泉は税金であり、税金を使う公的事業で利益を得ている企業は、その雇用する労働者に対して人間らしい生活・労働条件を保障するべきであること、また、発注者である公的機関はそれを担保するための責任を負うこと、という考え方に基づき、第94号条約において公契約に関する規定が設けられていると我々は考えている。国内の法整備を行い、第94号条約の批准を経て、政府としてもそのような取組を加速するべきである。
(使用者側)
趣旨は理解できるが、日本で本当にできるのか疑問を感じる。条約批准 の問題ではなく、国の予算制約の問題がxxにあるのではないかと思われ、今後の展開は現実的に難しいと考える。
(政府側)
最近の公共事業その他の公契約の賃金所得は、職種に関わらず、限りな く最低ラインに近い状況であり、公契約の在り方に問題意識を持っている。現在、公契約条例等を制定した地方自治体の取組に関する情報収集を行っ ており、今後、さらに研究を進め、具体的なスケジュール感が出せるよう 努力したい。
参考資料:「ILO駐日事務所HP」
「公契約における労働条項 国立国会図書館社会労働課 調査と情報第731号(xxxxx、xxxx)」
(3)公契約条例の制定状況
平成27年4月1日時点で公契約条例等を制定した地方公共団体は、6県21市・区(うち京都府と佐賀市は要綱)となっており、その内容から2つの類型に分類される。
【 2つの類型 】
入札・契約の適正化のための公共調達の基本的事項や品質・履行の確保、地域経済の健全な発展といった基本的な理念や考え方を示す。
基本理念等に加え、労働環境の改善を重視し、公契約に従事する労働者の賃金の下限額を規定する。
賃金下限額確保型
基本理念型
都道府県 | 市・区町村 | ||
基本理念型 | xx県(25)奈良県(26)山形県(20)岩手県(26) 岐阜県(26) | 江戸川区(21)、xx市(24)xx市(24)、四日市市(26) | |
要綱等 | 京都府(24) | ||
賃金下限額確保型 | xx市(21)、xx市(22)多摩市(23)、相模原市(23)xx区(24)、国分寺市(24)厚木市(24)、xx区(25)xx市(25)、xx市(25)xxx区(25)、高知市(26)xx市(26)、世田谷区(26) xxx市(26)、加西市(27) | ||
要綱等 | 佐賀市(25) | ||
検討中 | 神奈川県、愛知県ほか |
※( )は制定年度。条例制定済みの地方公共団体は H27.4.1 時点。
2 労働者の労働条件について
(1)法体系について
賃金をはじめとする労働者の労働条件は、労働者と使用者の合意によって決定されるが、労働者の保護のため、労働基準法、最低賃金法等で最低ラインが決められている。
【参考】
◆日本国憲法 第 27 条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
(参考)労働基準法第 11 条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
◆労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)第 2 条
労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
◆最低賃金法(昭和 34 年法律第 137 号)第 4 条第 1 項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
◆労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第 6 条
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃 金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
(2)労働条件等に関する国・県との関係について
国は全国的・広域的に国民に保障すべき行政サービス水準に関する施策を推進しており、労働者派遣法、雇用保険法、労働基準法に基づき、労働安定行政や雇用保険制度、労働基準行政等の業務を行っている。
さらに、職業安定法に基づく職業紹介や雇用対策法、労働関係調整法等に基づく業務を県等と連携しながら行っている。
県は、国と連携してこれらの施策の推進を図るとともに、熊本県の地域特性や経済情勢を踏まえて、産業・雇用創出や雇用対策・人材育成等で機動的な施策を展開している。
(熊本県労働・人材育成計画「人と仕事いきいきプラン」参考)
【国(労働局)】
全国的・広域的に保障すべき行政水準
連
携
【県】
県の地域特性や経済情勢を踏まえた産業・雇用創出や雇用対策、人材育成等
国及び地方公共団体の責務を規定している主な法律
【職業安定行政】
雇用対策法、職業安定法、高齢者
雇用安定法、障害者雇用促進法
【労政行政】
労働組合法、労働関係調整法、個別労働紛争解決促進法
【雇用均等行政】
男女雇用機会均等法、育児・介護休業法
国の責務等を規定している主な法律
【職業安定関係】
労働者派遣法、雇用保険法
【労働基準関係】
労働基準法、最低賃金法
【労働安全衛生関係】労働安全衛生法
【根拠法令等からみた労働行政】
(3)熊本県の労働行政の体系
熊本県では、「人が輝く、働きたい、安心して働ける熊本づくり」を基本目標に、3つの基本方向と5つの重点プロジェクトを掲げ、労働・人材育成を推進している。(熊本県労働・人材育成計画「人と仕事いきいきプラン」より)
1 キャリア教育の充実
基本方向1
産業人材の育成
2 地域産業や企業を支える人材の育成等
基本方向2
就労支援
4 雇用の創出
3 多様な就労ニーズに対応した就労支援
基本方向3
労働環境の整備
5 生活から就労までの総合支援
基本方向1 「産業人材の育成」
「キャリア教育の充実」では、就学前から学校までのキャリア教育の推進や熟練技能士等を活用したものづくり教育の推進等を行っている。
また、「地域産業や企業を支える人材の育成等」として、産業人材強化支援センターを中心として連携した人材強化の推進や地域産業から求められる技術・技能のニーズに対応した即戦力となる人材育成を図るため熊本高等技術専門校で取り組んでいる。
基本方向2 「就労支援」
「多様な就労ニーズに対応した就労支援」では、ジョブカフェを中心とした若年 者の就職支援やフリーター等の常用雇用化のための能力開発や支援も行っている。また、「雇用の創出」では、企業等の農業参入を進めたり、創造的企業誘致等に
よる雇用の創出等を行っている。
基本方向3 「労働環境の整備」
「生活から就労までの総合支援」では、しごと相談・支援センターでの労働相談体制及び就業支援相談を充実させるとともに、ワークライフバランスの実現への支援などのため、企業の支援、普及啓発に努めている。
また、快適な職場づくりの促進や支援のため、仕事と生活の調和推進構想を策定するとともに、男女共同参画センターにおける啓発など働く女性に対する支援も行っている。
また、県では、「しごと相談・支援センター」において、解雇、労働条件、賃金に関する職場でのトラブルなどについて、専門の相談員が中立的な立場からアドバイスする労働相談を実施。労働者、使用者、労働組合のいずれからの相談も受け付けている。
国(国土交通省)でも、平成27年度から「建設業フォローアップ相談ダイヤル」を設け、例えば、元請負人と下請負人の取引の際の法令違反のおそれがある情報などを収集するとともに、立入検査の有無等を判断することとしている。また、建設業取引に関するトラブル対応のために、(公財)建設業適正取引推進機構が、「建設業取引適正化センター」を設け、相談に応じている。
建設産業においては、県は、行政、教育機関、民間・業界を構成員とした建設産業における「人材確保・育成」の在り方検討会を立ち上げ、人材の確保、人材の育成に関する方向性、対応策について平成27年3月にとりまとめを行った。
特に人材育成部門では、専門教育機関の確保ということで、九州測量専門学校土木建設科の運営に対する協力や若手技術者の確保・育成のために総合評価制度における加点の検討や振興局単位での若手技術者表彰の検討等を行うこととしている。
3 本県の入札制度や人材育成を通じた労働条件改善の取組
本県では、これまでも入札における競争性、xx性、透明性、履行品質の確保等の観点から様々な取り組みを行ってきた。また、働くことを通して県民一人ひとりの個性や能力が発揮され自己実現のできる豊かな地域社会づくりをめざし、地域産業や企業を支える人材育成等にも取り組んでいる。
【本県における取組の例】(詳細は別紙のとおり)
(1)xxで適正な契約による地域経済の健全な発展
本県ではこれまでも、談合を防止し、よりxxで透明性及び競争性の高い公共調達の実現を図るため、平成19年に「熊本県公共調達改革基本方針」を定めるなど、入札制度の改革に取り組んできた。
○ xx性・競争性の確保
・一般競争入札の導入・拡大
〇 契約の過程や内容の透明性の確保
・電子入札の運用・拡大
平成20年4月から電子入札の本格運用を開始。
・発注見通しや落札結果の公表など情報公開の推進
○ 不正行為、不良・不適格業者等の排除
・談合等不正行為に対するペナルティの強化
談合や競売入札妨害などの不正行為に対しては、指名停止措置を講じるなど対策を強化している。
・暴力団関係者の排除
平成11年に建設業等の県との契約の相手方から暴力団等を排除。また、平成22年に熊本県暴力団排除条例が制定されたことを受け、指名停止措 置要領において暴力団等の排除に関する措置基準を設けた。
(2)県民への安全かつ良質なサービスの提供
○ ダンピングの防止
・最低制限価格制度、低入札価格調査制度の導入
平成26年度に「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が改正され、公共工事の担い手の中長期的な育成・確保に配慮した予定価格の設定等が発注者の責務として明確化された。そのため、平成27年4月からの予定価格の端数処理の廃止や同6月からの建設コンサルタント業務においても最低制限価格制度を導入した。
庁舎清掃業務、人的警備業務などの労働集約型業務委託については、平成16年度から最低制限価格制度を導入。平成21年度には最低制限価格を80%に引き上げ、平成26年度には消防設備保守業務を追加した。
○ 価格以外の多様な要素も考慮した総合的に優れた内容の確保
・総合評価入札方式の導入・拡充
建設工事では平成17年度から総合評価方式の試行を開始、xx試行運用を拡充している。また、業務委託等(建設工事に係るものを除く)でも平成15年に総合評価入札方式を一部業務に導入し、平成18年度には対象業務を拡充した。
(3)持続可能で活力ある地域社会の実現への配慮
○ 県内の中小事業者の受注機会の確保
・県内業者への発注促進
熊本県中小企業振興基本条例の趣旨を踏まえ、県内中小事業者への発注促進に努めている。
〇 雇用の確保
・工事入札参加者資格審査における新規学卒者の継続雇用の状況に応じた加点
(4)社会的責任を果たす事業者の育成への配慮
県と契約している事業者には、労働条件の適正化はもとより、障がい者の雇用など、様々な分野での法令遵守や社会的責任が強く求められていると考え、そうした事業者の育成に資するよう配慮している。
〇 賃金水準や雇用の確保など労働環境の整備
・経営事項審査における社会保険等加入状況の事業者への確認と未加入の場合の減点
・工事入札参加資格における新規学卒者の継続雇用状況に応じた加点
〇 環境に配慮した事業活動
・工事入札参加資格におけるエコアクション21取得者、事業活動温暖化対策計画、エコ通勤配慮計画の取組みに応じた加点
〇 障がい者の雇用促進、男女共同参画社会の形成
・入札参加資格審査における障がい者雇用や育児・介護休暇制度の制定状況に応じた加点
〇 その他の社会貢献活動
・工事入札参加資格における国、県、市町村との防災協定締結による加点
・工事入札参加資格におけるボランティア活動、保護観察協力事業所、消防団協力事業所登録に応じた加点
(5)地域産業や企業を支える人材育成
○ 開かれた技術短期大学校(技短)・高等技術専門校(専門校)
・県の職業能力開発施設である技短・専門校を人材育成の中核施設としの位置づけで各種取組みを推進している。
○ 在職者訓練の推進
・企業における職業能力開発への支援強化として、技短・専門校等で実施している職業訓練等事業について、連携を図りながら実施している。また、在職者の技能向上のために、各機関が連携を図るとともに、中小企業のニーズ把握及び調整を十分に行い、長期研修やオーダーメイド型の訓練なども実施
している。
・認定職業訓練事業の推進
事業主が雇用する労働者の技能向上を単独又は共同で実施(知事の認定により運営経費等を助成)。
・技能士育成確保プロジェクト支援事業
技能士の資格取得につながる講習会等を実施して、手当の創設等の処遇改善につなげる支援事業を実施している。
(6)建設産業における人材育成
建設産業においては、これまでも、新熊本県建設産業振興プランの後期アクションプログラムにおいて「魅力ある職場づくりの推進」や「若手技術者の確保・育成」を推進事業に掲げ、継続学習やワークライフバランスの取組み、若手学卒者の継続雇用等への格付加点を行う等の支援策を進めている。
更に、平成27年3月には行政、教育機関、業界が参加し「人材確保・育成の在り方」についての最終取りまとめを行い、今後とも、人材確保のための労働環境の整備、技術者・技能者の人材育成にも取り組んでいくこととしている。
〇 若手技術者育成支援
・高校生資格取得支援
高校生が在学中に資格試験を受験するための交通費及び小型車両系建設機械講習実施。
・企業等による資格取得支援
若手(40歳未満)の従業員に指定の資格試験を受験させた場合の「受験手数料」「講座受講料」「入学料」「教材費等」を補助(1/2以内、1人あたり3万円以内)。
・企業等による研修費用への補助
若手(40歳未満)の従業員に訓練日数が100日以上の建設工事に関する人材育成のための研修を受講させた場合の「授業料」「入学料」「教材費」「資格取得費」「全寮制の寮生活費」(1/2以内、1人あたり50万円以内)。
〇 若手技能者雇用促進
・認定訓練実施企業への賃金一部助成
若手(40歳未満)の従業員を職業訓練施設で技能者として育成した場合の「賃金」を補助。
第二 関係団体の調査結果
1 調査概要
労働者の労働条件や事業者の法令遵守などを契約の条件として義務付ける公契約のあり方について、事業者団体などから平成26年9月から11月にかけて意見を聴取した。
【労働者側団体】
日本労働組合総連合会熊本県連合会(連合熊本)熊本県建築労働組合
【事業者側団体】
熊本県建設業協会熊本県建築協会
熊本県建設専門工事業団体協議会熊本県ビルメンテナンス協会
2 意見聴取における主な意見等
労働者側団体からは、公共工事の労務単価上昇分が、下請の労働者の賃金まで波及しておらず、早期の条例制定が必要との意見。
一方、事業者側団体からは、賃金は経験、能力、技能によって決められるものであり、各会社の賃金体系との整合性が取れないとの意見。
双方に意見の隔たりあり。
賃金下限額を定めることについて
労働者側団体、事業者側団体ともに、資格要件として、県の政策実現のために
社会的責任等を課すことについては、必要最低限であるべきとの意見。
公契約の相手方としての資格要件について
意見聴取項目 | 労働者側団体の主な意見 | 事業者側団体の主な意見 |
【1】県の入札・契約制度の課題等 | ・競争による入札価格の下落により、労働者の賃金にしわ寄せがきて、いわゆる「官製ワーキングプア」が生じている。 ・労働者が生活できる賃金を確保してほしい。 ・国はILO条約を批准していないため、地方公共団体が公契約条例 を制定してほしい。 | ・最低制限価格を引き上げてほしい。 ・仕事が無い期間も従業員への賃金支払いがあるので、発注を平準化してほしい。 ・実勢価格に即した資材・労務単価で設計・積算してほしい。 |
【2】労働者の賃金に下限額を設定することについて | ・最低賃金に近い単価で働いている人たちの賃金を上げるため、賃金下限額を設定した条例は必 要。 ・公共の仕事の従事者の賃金が上がれば、民間の仕事で働く人の賃金も上がると考える。 ・賃金支払額の確認は、十分実効性が確保されるものでなければならない。 | ・賃金は職人の技能や能力によって異なるので、一律に設定するのはなじまない。 ・公共と民間の従事者で単価を変えるのは困難。賃金下限額をどのラインに設定するのかが課題。 ・賃金計算が複雑になるなど対応困難。 ・賃金支払額の確認業務量が増加 となり、そのための経費の増額も必要。 |
【3】公共工事の労務単価と実質賃金 | ・ほとんど反映されていない。 | ・会社によりアップ率は異なるが、賃金は上がっている(下請からの見積価格は上昇している。)。 |
【4】公契約の相手方となる資格要件の拡充 | ・法令遵守は当然だが、遵守すると倒産や廃業につながる事業所もあるのではないか。 ・労働法違反やブラック企業対策として、是非厳格にやっていただきたい。 | ・下請業者には評価項目の条件等を満たすゆとりはないので、資格要件を下請まで拡大することは 難しいのではないか。 ・本業を支える技術者・技能者を育てる余力がなければ困難。 ・目指すべき理念としては良いと思うが、入札の条件や品質確保に どのような影響があるのか不明。 |
3 団体から出された意見に対する本県の取組
(1)労働者側団体
① 労務単価の上昇分が賃金に反映されていない
・建設工事に係る設計単価については、近年減少傾向にあったが、平成25年4月に主要51職種平均で13.5%、平成26年2月に7.1%、平成27年2月に5.2%の引上げを行うとともに、その都度、業界団体に対して適切な水準の賃金支払いを要請済み。
(2)事業者側団体
① 最低制限価格の引上げ
・建設工事では、中央公契連モデル(国の主要な発注機関の申合せ事項)に本県 独自の補正係数を乗じて概ね90%となるように平成25年4月に改定。これは、平成25年5月に改定された中央公契連モデル(概ね88%)を上回っている状 況。
・庁舎清掃業務、人的警備業務など労働集約型業務委託の最低制限価格の割合を平成21年度に10分の6から10分の8に引き上げ。
② 発注の平準化
・建設工事について、ゼロ県債や繰越制度の活用、翌年度にわたる入札契約を可能とする取扱いの導入、余裕期間を見込んだ早期契約制などを導入。
③ 実勢価格に対応した設計積算
・建設工事に係る設計単価については、価格改定基準を撤廃し、調査期間を短縮するなど価格改定の弾力的な運用を行い、最新の実勢価格を速やかに設計価格に反映。平成25年度からは、実勢価格を反映した適切な予定価格の設定のために、取引価格を毎月調査し、設計労務単価、資材等の実績価格の反映に取り組んでいる。
④ 社会貢献等の理念と入札の条件や品質確保
・今日の企業には、社会的責任やコンプライアンスが求められていると言われて おり、障がい者雇用等の法定事項の遵守や地域社会への貢献等を格付け等で評価。
第三 地方公共団体の調査結果等
1 条例を制定した地方公共団体の状況
(1)基本理念型の条例について
適正な労働条件の確保に関する基本的な考え方を示し、行政には、適正な履行確保のための必要な措置を講ずることを義務付け、事業者には法定労働条件等の遵守を求める内容を規定。また、労使関係者や有識者等で構成する審議会を設置し、契約に関する重要事項について調査審議することを規定したところもある。さらに、事業者に地域貢献(ボランティア等)や社会的責任(育児休暇制度等)を求め、事業者の格付けや総合評価等で評価する仕組みとなっている。
施行後の条例効果の把握はこれからであり、引き続き注視していく。
基本理念型の特徴と課題
長野県の契約に関する条例
【制定年月日等】 平成26年3月20日制定、平成26年4月1日施行
【制定の背景】 平成22年9月 知事の選挙公約
【主な内容】 ① 入札・契約の適正化や社会貢献等の基本的考えを条文化し、具体的内容は「契約審議会」で決定する仕組み。
② 契約審議会は有識者含む。具体的取組みは今後。
③ 障がい者雇用等を格付けで評価、適正賃金支払いを総合評価方式で評価。
奈良xx契約条例
【制定年月日等】 平成26年7月10日制定、平成27年4月1日施行
【制定の背景】 平成23年4月 知事の選挙公約
【主な内容】 ① 法定労働条件の遵守や社会的価値実現の基本的考えを条文化。
② 社会保険等加入を格付けで評価(建設工事)。
③ 3億円以上(*1)の工事等で賃金支払額等の報告徴取、立入調査、元請業者に下請業者の指導義務。
(*1)対象事業 | 公共工事 | 3億円以上 |
委託業務 | 3千万円以上 | |
指定管理 | 3千万円以上 |
長野県の契約に関する条例の内容及び具体的取組み | ||
項目 | 内容 | 具体的取組み(抜粋) |
目的 | ・契約制度のxxかつ適切な運用 ・県の行政目的の実現 | |
県の責務 | ・契約の確実な履行に必要な措置 | |
受注者の責務 | ・県民の福祉の増進に資することの自覚 ・持続可能で活力ある地域社会の実現、社会的責任を果たす事業者の育成に留意した契約の履行 | |
基本理念 (1)xxで適 正な契約による地域経済の健全な発展 | ・契約の過程、内容の透明性の確保 ・競争のxx性の確保 ・不正行為の排除の徹底 | □発注見通しの公表 □予定価格の適切な設定 □暴力団関係者などの排除等不適切な相手方と の契約の防止 |
(2)県民への安全かつ良質なサービスの提供 | ・適正な履行が見込まれない契約の防止 ・価格以外の多様な要素の考慮 | ○建設工事等において低入札価格調査制度における適切な失格基準価格を研究 ○庁舎等の清掃業務で最低制限価格制度の拡大検討 □入札参加資格審査において工事成績や企業表彰等を評価 □建設工事等で技術者等の配置を評価する総合評価落札方式の実施 |
(3)持続可能 で活力ある地域社会の実現 への配慮 | ・雇用の確保 ・県産品の利用 | □建設工事の入札参加資格審査において新卒者採用を評価 □建設工事において県産材の優先使用に努める ことなどを仕様書に記載・配慮 |
・中小企業者の受注機会の確保 ・事業者の育成 ・専門的な技術の継承 ・その他持続可能で活力ある地域社会の実現 | ○建設工事において、緊急時に迅速な対応が可能となる地域要件を設定する受注希望型競争入札を検討 ○建設工事において、総合評価落札方式の評価項目で、対象とする登録基幹技能者の職種を拡大検討 ○建設工事の入札参加資格審査において、「消防団協力事業所等知事表彰」の受賞歴を評価項目として追加を検討 | |
(4)社会的責 任を果たす事業者の育成への配慮 | ・賃金水準など労働環境の整備 | ○入札参加資格の審査項目に県内事業者の障がい者雇用など労働環境の整備への取り組みを評価する項目の追加を検討 ○建設工事において、労働賃金の支払実態を検証しつつ、適正な労働賃金の支払いを評価する総合評価落札方式等を試行 ○清掃及び警備業務において、適正な賃金水準 を検討するため、実態調査の実施を検討 |
・環境に配慮した事業活動 ・障がい者雇用の促進 ・男女共同参画社会の形成 ・その他の社会貢献活動 | ||
特定の公契約に関する規定 | なし | |
審議会 | あり | 県の取組方針に関し調査審議する。外部委員含む。 |
※具体的取組み欄中、「□」は既に実施している取組(一部実施も含む)、「○」は今後、検討を進める取組を示す。
奈良xx契約条例の内容及び具体的取組み | ||
項目 | 内容 | 具体的取組み(抜粋) |
目的 | ・適正な労働条件の確保 ・社会的価値の実現・向上 | |
県の責務 | ・業者の適切な選定 ・履行確保のための必要な措置 | |
受注者の責務 | ・社会的責任の自覚 ・適正な履行 | |
基本方針 (1)社会的価値の評価 | ・適正な労働条件の確保その他の社会的な価値の実現及び向上に対する寄与の程度を勘案 | 1 評価項目の種類 ①社会保険加入 ②障害者雇用率 ③奈良県社員・シャイン職場づくり推進企業登録 ④保護観察対象者等雇用 2 評価方法 ・建設工事における業者格付け ・業務委託における特定公契約の総合評価入札の評価(①を除く) ・指定管理における特定公契約の公募に係る審 査(①を除く) |
(2)法令の順守 | ・最低賃金以上の賃金の支払 ・健康保険・厚生年金保険・雇用保険、労災保険関係の届出 | |
特定の公契約に関する規定 | 対象:工事 3億円以上 委託 3千万円以上 指定管理 3千万円以上 ・下請負者等への指導 ・賃金支払状況等の定期報告 ・立入調査 ・罰則(過料5万円以下、公表) | ・特定公契約履行責任者の選任・報告 ・下請負者等への明示及び指導 ・労働者への明示 ・定期の支払賃金等の報告 ・疑義がある場合の説明等 ・立入調査への協力 ・必要な措置の結果報告 |
審議会 | あり | 条例運用に関し調査審議する。外部委員含む。 |
委員会 | あり | 罰則適用等について調査審議 |
(2)賃金下限額確保型の条例について
その他、賃金下限額を設けると、高い賃金の熟練工などの賃金が引き下げられ
る恐れがあることや、下限額以下の若手労働者を公契約に従事させないことにより、若手労働者の経験を積む機会が減少し、人材育成が阻害される懸念もある。
基本理念型が規定している適正な労働条件の確保に関する基本的考えに加え、
地方公共団体が定める賃金以上の額を労働者に支払うことを義務付けている。 条例制定市では、賃金下限額を設定した結果、一定の賃金下支えといった効果
があると評価しているものの、条例制定前後の賃金実態の動向調査が難しく、条
例効果の把握が困難、業務量の増大への対応が課題となっている。
賃金下限額確保型の特徴と課題
野田市公契約条例
【制定年月日等】 平成21年9月30日制定、平成22年2月1日施行
【制定の背景】 平成17年12月 市議会での市長答弁
【主な内容】 ① 条例前文で、国の「法制化」が不可欠と明記。そのための先導的な役割であるとの位置づけ。
② 最低賃金以上の支払義務、工事5千万円以上では労務単価の
85%以上支払義務。下請にも適用。
③ 報告義務、立入検査、是正措置など
川崎市契約条例
【制定年月日等】 平成22年12月21日改正、平成23年4月1日施行
【制定の背景】 平成21年12月 市議会での市長答弁
【主な内容】 ① 工事6億円、委託1千万円以上が対象。労務単価の90%以上、生活保護基準以上の支払義務
② 賃金台帳等報告義務、立入検査、是正措置など
野田市及びxx市の賃金下限額確保に関する内容
項目 | xx市 | xx市 |
対象事業 | 工事:5千万円以上委託:1千万円以上 指定管理:全ての指定管理 | 工事:6億円以上 委託:1千万円以上 指定管理:全ての指定管理 |
労働者の範囲 | 専ら当該業務等に従事するすべての者 | 当該契約に従事する労働基準法第9条 の労働者等 |
賃金の設定 | 工事:労務単価の85%以上 委託・指定管理:xx市の労務職(用務員)18歳初任給等を勘案。 | 工事:労務単価の90%以上 委託・指定管理:生活保護法第8条第1項に定める基準において適用される額 |
実効性の確保 | 報告及び立入検査、是正措置、公契約 の解除、公表 | 報告・立入調査、是正措置、契約の解除 |
2 条例化を検討した地方公共団体の状況
公契約条例については、複数の地方公共団体で検討が行われているが、賃金下限額確保型の条例を制定した都道府県は現時点ではない。
また、賃金下限額確保型の条例案を提案したものの過去に否決された団体(市)
もあった。
(1)条例化を検討中の地方公共団体
神奈川県
【 検討経緯 】 県議会での知事答弁、平成25年7月に公契約に関する協議会設置。
【現在の状況】 平成26年3月、中間報告を取りまとめ、その後継続検討中。
【 課 題 】①労使の意見の一致が見られなかった。
②条例の必要性の検証を進めるため、賃金等の実態を継続調査。
愛知県
【 検討経緯 】 県議会での知事答弁、平成24年11月庁内研究チーム設置。
【現在の状況】 平成26年3月、外部有識者会議で検討結果を取りまとめた。
【 課 題 】①県の政策推進に公契約を活用する方策の検討
②作業報酬下限額に肯定的な意見、否定的な意見の双方があった。
(2)条例案を否決した地方公共団体
尼崎市
【提案の経緯】 平成20年12月 議員提案による
【 否決理由 】
・平成21年5月議会で否決、廃案。
札幌市
・条例による労働条件設定の違法性の恐れ、市民とは限らない労働者の賃金を上乗せする理由が不十分などが理由。
【提案の経緯】 平成24年2月 執行部から議案提出
【 否決理由 】
・関係業界からの理解が十分ではないなどの理由から、継続審査となった。
・その後、関係業界との協議や議会での議論を踏まえ、条例案の見直しが適当と判断。平成25年9月市議会で当初の条例案を撤回し、改めて見直し案を提出したが、賛成少数で否決。
山形市
【提案の経緯】 平成25年9月 執行部から議案提出
【 否決理由 】
・公契約条例の制定に当たり、事業者との更なる検討を求むなどとして継続審議となった。
・その後の継続審議を経て、平成26年6月市議会において賛成少数で否決。
(3)要綱等を制定した地方公共団体
京都府
・平成24年5月に公契約大綱を策定。公契約の基本方針、府が取り組むべき内容のほか、公契約の相手方に求める内容、評価・検証による改善について、建設工事を中心とした取組みをまとめた。
佐賀市
・平成25年6月から工事請負契約に係る労働環境の確認に関する要綱により一定の予定価格以上の請負契約に関し、労働環境の基準を定め確認を行っ
ていた。
平成26年6月、別に業務委託契約に係る要綱も制定・施行し、労働環境基準を定め、市が定める最低労働賃金単価の支払いやチェックシートの提出を義務付けている。
(4)他の都道府県の動向
北海道
〇 労働条件は労使当事者間で自主的に取り決められるべきもの。労働内容を直接規制する条例制定は受注企業の経営への影響も懸念。国や地方公共団体の議論を注意深く見守りたい(平成23年9月 知事答弁)
埼玉県
〇 労基法や最賃法等の労働関係法令の遵守徹底により対応すべき。また、法制定を国に求めることについては、あたかも屋上屋を架することになるので、国の働きかけというものは考えていない。(平成23年9月 知事答弁)
島根県
〇 現時点で条例を制定するという考えには至っていない。今後、検討、研究課題だろうというふうに理解している。(平成22年2月 知事答弁)
第四 中間まとめ
1 これまでの経緯
長引く不況の影響などによる公共事業の減少に伴い、事業者間の価格競争が激化し労働条件の悪化が指摘されるようになった。そのため、労働者側団体などは地方公共団体に公契約条例の制定を求めるようになった。平成21年9月にxx市でxx市公契約条例が制定されたのを皮切りに、複数の地方公共団体で条例の制定が検討されるようになった。本県では、平成23年11月県議会定例会における公契約条例制定を求める請願、平成24年12月定例会含め3回の公契約条例制定についての一般質問が行われた。
このような社会情勢や県議会からの質問等を契機として、平成26年1月に県として初めて「公契約」について検討する「公契約のあり方検討チーム」を設置し、先進地方公共団体調査や県内事業者側団体及び労働者側団体から意見を伺いながら庁内検討を行ってきた。
今回のとりまとめにあたっては、労働者の労働条件改善に向けた課題等を整理・検討するとともに、公契約と労働関係法令との関係性について調査・検討を行った。
また、併せて、入札・契約制度とともに、県が行っている人材確保・人材育成等の取組も含め、幅広く整理を行った。
今回の取りまとめにあたっては、主に次の6点を中心に課題を検討・整理した。
2 調査結果及び本県の考え方
(1)本県の入札制度や人材育成を通じた労働条件改善の取組
労働者の労働条件改善のため、県の役割としては、入札制度の改善や人材育成等が重要である。
① 入札・契約制度の改善
本県では、労働者の労働条件等の改善は重要であるとの考えに立ち、これまでも入札・契約制度の改善に取り組み、最低制限価格制度や設計労務単価の引き上げ、総合評価方式の適用の拡大等様々な施策を展開してきた。
労働者側団体からは、競争による入札価格の下落により、労働者の賃金にしわ寄せが来ているとの意見があったが、建設工事においては、最低制限価格制度で
平成25年4月に予定価格の概ね90%となるように改定したほか、低入札価格調査制度の見直しを行うなど、ダンピング防止、適正利潤の確保のための対応を行っている。
更に、平成25年度からは、実勢価格を反映した適切な予定価格の設定のために、取引価格を毎月調査している。
また、平成26年度に「公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下、「品確法」という。)」が改正されたため、平成27年4月からの予定価格の端数処理の廃止や同6月からの建設コンサルタント業務においても最低制限価格制度を導入した。
庁舎清掃業務、人的警備業務などの労働集約型業務委託については、平成16年度から最低制限価格制度を導入。平成21年度には最低制限価格を80%に引き上げ、平成26年度には消防設備保守業務を追加した。
県としては賃金等労働条件の悪化の一因とされたダンピング受注を防止し、発注仕様書に基づいた適切な履行を確保するために、入札契約制度を適宜改善してきたところである。このような施策が労働条件の改善に一層つながっていくよう事業者に対して働きかけていく必要がある。
② 労働者の人材育成
労働者の人材育成については、「熊本県労働・人材育成計画」を基に、「人が輝く、働きたい、安心して働ける熊本づくり」を基本目標に、3つの基本方向と5つの重点プロジェクトを掲げ推進している。
在職者の技能向上のために、中小企業のニーズ把握及び調整を十分に行い、長期研修やオーダーメイド型の訓練などの実施や資格取得・処遇改善費用の補助等に取り組んでいる。
建設産業においては、これまでも、新熊本県建設産業振興プランの後期アクションプログラムにおいて「魅力ある職場づくりの推進」や「若手技術者の確保・育成」を推進事業に掲げ、継続学習やワークライフバランスの取組み、若手学卒者の継続雇用等への格付加点を行う等の支援策を進めている。
更に、平成27年3月に「人材確保・育成の在り方」についての取りまとめを行い、今後とも、人材確保のための労働環境の整備、技術者・技能者の人材育成にも取り組んでいくこととしている。
また、平成27年度からは建設業者が若者を雇用する際に助成金を支給し、技能者の新規雇用を支援する独自の新制度を開始している。
労働者の賃金等労働条件の改善には、企業等の経営改善は勿論であるが、一人一人の労働者の技能向上や資格取得等により労働力の価値を高める取組も必要である。また、魅力ある職場づくりなど人材確保等も不可欠であるとの基本的考えのもとにニーズに合った施策を実施しているところである。今後とも産業界の意見を聞きながら取り組んでいく必要がある。
③ 労働相談の実施
しごと相談・支援センターでは、解雇、労働条件、賃金に関する職場でのトラブルなどについて、相談を受け付けている。
なお、国(国土交通省)では、平成27年度から「建設業フォローアップ相談ダイヤル」を開設し、建設業に関する様々な相談を受け付けている。
(2)労働者の賃金向上の取組について
公契約条例制定の主要な論点である「労働者の賃金向上」については、特に平成25年度以降は、建設工事に係る設計労務単価について、平成25年4月に主要51職種平均で13.5%、平成26年2月に7.1%、平成27年2月に
5.2%と、大幅な労務単価の改定(引上げ)を行った。
労働者団体からは、下請までにはなかなか実感として反映していないとの意見がある一方、事業者団体からは、下請からの見積価格は上昇しているなどといった意見もあった。
これまで国、県ともに設計労務単価の上昇に応じた適正な賃金支払いを事業者に要請してきたところである。事業者の対応については個々の企業の経営状況により異なるものの、引き続き、設計労務単価の上昇を踏まえた適正な賃金支払いを要請していく。
(3)公契約条例と労働関係法令について
労働者の賃金等労働条件は、関係法令の遵守のもと、労使双方の合意で決まるものとされている。このような労働条件のあり方に関して、公契約に限って条件付けを行う条例を制定した地方公共団体があるものの、一方で「労働条件への介入は法律事項」との考えや「労使協議で決定すべきもの」との原則論の立場の地方公共団体もある。
国は、平成23年1月27日衆議院本会議でのx総理答弁にもあるように、法制化について「労使間で自主的に決定されることが原則」、「国の機関や地方公共団体も含めて幅広く議論を進めるべき」との考えである。
このように、公契約条例を通じて労働条件の改善を図る手法については、労働関係法令や労使交渉制度との関係など基本的な課題が残る。よって今後とも国の動向を注視していく必要がある。
(4)公契約条例の様々な課題
① 賃金について
賃金については特に労使双方の考え方に隔たりがある。県内の労働者側からは、
「一般的な生活ができる賃金水準を目指すには、条例制定は一定の効果がある」、
事業者側からは「技能・能力等によって賃金が異なるので、一律の設定は難しい」との主張があっている。
先行して賃金下限額の設定について検討を行っている地方公共団体でも、導入に肯定的な意見、慎重な意見それぞれが出されている。
肯定的な意見としては、質の高い公共サービスを提供するには、労働者の賃金や適正な労働環境を確保する必要があるといったものや県が制定することで市町村も制定に前向きになるといった間接的効果を期待したものがある。
一方、慎重な意見では、賃金は労働者の技能等に応じて決めるべきものであり下限額を設定することは難しいといった意見や条例適用対象以外の契約への波及する可能性が低いといった意見、賃金等の労働条件は、国が主導して行うべきといったものがあり、意見の一致は見られていない。
② 条例を制定した地方公共団体について
公契約条例を制定した地方公共団体では、未だ施行から日が浅い等、条例効果を把握するに至っておらず、条例効果等の課題も残る。また、条例施行に伴う行政側・事業者側双方に事務的負担の増大が共通的課題となっていて、効果拡大のために条例の対象とする契約の種類や金額などの範囲を拡大することに対して慎重にならざるを得ない状況にもある。
(5)事業者の法令遵守・社会貢献等の実現について
県と契約する事業者には、労働条件の適正化はもとより、障がい者の雇用など、様々な分野での法令遵守や地域貢献等と言った社会的責任が強く求められるものと考えている。
本県では、既に、他の自治体でも取り組まれている社会貢献活動への配慮といった事柄について、障がい者の雇用状況や育児休暇制度・介護休暇制度の制定状況など事業者の評価項目の指標(入札参加資格での加点)の一つとして取り組んでいる。また、社会保険等加入状況の事業者への確認・指導とともに未加入の場合の減点も行っている。
引き続き、社会経済情勢の変化に対応し、必要な施策を講じていく。
(6)情報発信
労働者の労働条件等に関しては、労使が対等な立場において労使協議により決 定することが基本であるなか、県の入札契約制度や労働関係法令など関係する情 報については、これまで、契約の相手方となる事業者を中心に周知してきたとこ ろである。労働者が事業者と対等な立場に立つ上でも正確な情報は不可欠であり、今後、分かりにくい施策なども含め「見える化」を行い、適切な情報提供が必要 と考える。
3 今後の方向性について
労働者の労働条件の改善は、県としての重要な政策課題である。また、労働条件については、国が中心となって対応すべき課題でもあるため、県としては、国との適切な役割分担のもと、前述したとおり、入札・契約制度の改善や人材育成等様々な施策を展開し対応してきたところである。
一方、公契約条例の制定には、労働関係法令との関係など基本的な課題も残っており、また既に条例を制定した地方公共団体においては、条例効果を具体的に把握するに至っていない状況にある。
よって、公契約条例については、現時点では制定する状況が整っているとは言えず、引き続き条例を制定した地方公共団体の情報収集や国・他県の動向を注視していく。
また、今後、国や県が取り組んできた各種施策の「見える化」を行い、情報提供していくとともに、関係団体等との意見交換を行う。引き続き、庁内連絡調整体制も維持する。
【参考】 公契約のあり方検討チーム
○ 平成26年1月23日、「公契約のあり方検討チーム」を設置。また、検討チームで必要な調査、研究を行うためのワーキンググループも設置。
【構成課】
管財課、障がい者支援課、環境立県推進課、男女参画・協働推進課、商工政策課、労働雇用課、農林水産政策課、技術管理課、監理課、土木技術管理課、企業局総務経営課、施設課、警察本部会計課、管理調達課
○ H26. 1.23 第1回検討会開催(ワーキンググループ合同) H26. 3.25 ワーキンググループ会議開催
H26. 5~ 8 月 先進地方公共団体調査 H26. 9~11 月 関係団体意見聴取
H26.11.18 第2回検討会開催(ワーキンググループ合同) H27. 2.18 ワーキンググループ会議開催
H27. 4.21 第3回検討会開催