特集 基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手 '21/9月号_No.614
1.為替業務の意義
為替業務とは、隔地者間において直接現金の輸送をすることなく、資金の授受の目的を達成する業務です。JAの信用事業においては、貯金業務、貸付業務と並んで三大業務の一つに位置づけられる重要な業務といえます。
隔地者間において、直接現金の授受を行う場合には、紛失・盗難のおそれもありますし、移動に伴う時間的ロスや交通費等の経費もかかります。したがっ
て、これらの不都合を軽減し、安全で迅速に資金決済を行うことができる為替取引は、組合員・利用者にとって利便性の高い決済手段となっています。
基礎を押さえて実務に活かそう
内国為替と手形・小切手
①内国為替の実務
IT化の進展や新たな決済サービスが浸透する昨今、JAならではの温かい窓口対応と事務の堅確性がより重要視されているといえる。信用事業の軸である内国為替の基本知識をブラッシュアップしておこう。
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このように、JAをはじめとした金融機関は、お客様に現金の輸送に代わる決済手段を提供し、お金の移動の仲介者の役割を果たすとともに、お客様から為替手数料を得て、これが経営の重要な収益の一つとなっているという意義もあります。
本稿では、為替業務のうち内国為替の基本を学び、業務の堅確性をアップしていただくこと
を目的に、内国為替の種類のうち「振込」と「代金取立」を取り上げて解説します。
2.内国為替業務を支える全国銀行内国為替制度
特
集
全国銀行内国為替制度は、法律上内国為替業務を営むことが認められた銀行、その他の金融機関相互間の、内国為替取引および同取引によって生じる為替貸借の決済等を、統一的手続およびオンラインシステムによって処理することにより、内国為替事務の合理化を図ることを目的とした制度です。
そして、本制度は、参加する加盟金融機関間の、内国為替取引に関する事務手続を定める
行政書士xx法務事務所
代表 xx xx
「金融」を専門領域としたリーガルサポートを提供することで、金融機関、金融商品取引業のコンプライアンス経営を支援する。金融機関での実体験にもとづき、法務知識の向上の支援などコンプライアンスサポートを専門分野として活動中。
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「内国為替取扱規則」および加 盟金融機関間の内国為替取引に よって生じる為替貸借の決済に 関する事項を定める「内国為替 決済規則」の各規則に定めると ころにより取り扱われています。
全国銀行内国為替制度は、法律上内国為替業務を営むことが認められたすべての金融機関を包摂する制度であり、わが国の集中決済制度の中心として経済社会に大きく貢献しています。
3.内国為替取引の範囲
内国為替取扱規則では、内国為替取引を図表1にある四つの為替種類に区分し、さらにそれを為替種目に区分しています。
このうち、①送金、②振込、
基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手
特
集
【図表1】内国為替取扱規則における「為替種類」と「為替種目」
為替種類
為替種目
①
送金
普通送金、国庫送金
振込
振込(国庫金振込を含む)
為替取引
代金取立
代金取立
付替、請求
資金決済取引
'21/9月号_No.614
③代金取立の取引は「為替取引」に該当し、④雑為替は「資金決済取引」に該当します。
4.内国為替取引の当事者と為替通知
⑴ 内国為替取引の当事者
内国為替取引の当事者には、次の四者が存在します。
① 依頼人
仕向銀行または委託銀行に対して、為替取引を依頼する者です。振込の場合には受取人への資金移動を依頼する者が、代金取立の場合には手形・小切手等の証券類の所持人が、依頼人となります。
② 受取人・支払人
振込の場合には為替資金の受領者を受取人といい、代金取立の場合には約束手形の振出人等の取立証券類を支払う人を支払人といいます。
③ 仕向銀行・委託銀行
依頼人から振込の依頼を受けた金融機関を仕向銀行といい、代金取立では、依頼人から証券類の取立依頼を受けた金融機関を委託銀行といいます。
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➃ 被仕向銀行・受託銀行
振込において、受取人の預貯金口座がある金融機関を被仕向銀行といいます。また、代金取立において、委託銀行から証券類の取立依頼を受け、これを支払金融機関に呈示して取立てを行う金融機関を受託銀行といいます。
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⑵ 為替通知
金融機関間の内国為替取引においては、振込依頼を受けた仕向銀行は、被仕向銀行あてに振込通知を発信し、証券類の取立依頼を受けた受託銀行は、委託銀行あてに入金報告や不渡通知を発信します。
そして、これらを受信した被仕向銀行や委託銀行は、これらの通知をもとに入金や支払等の事務処理を行います。
②
③
➃
雑為替
このように、内国為替取引では、仕向銀行と被仕向銀行(代金取立の場合には、委託銀行と受託銀行)の間で、内国為替取引の内容を表す為替通知が授受され、これが重要な役割をもっています。
5.振込
⑴ 振込の仕組み
振込は、依頼人から資金とともに振込依頼を受けた仕向銀行が、依頼人の指定した被仕向銀行に対して、受取人の預貯金口座にその金額を入金することを委託し、被仕向銀行がその委託に基づきその預貯金口座に入金処理するものです。
振込は、被仕向銀行が振込通知を受信し、受取人の預貯金口座に入金記帳することによって完了します。
振込の仕組みは、次のとおりです(次頁図表2)。
①依頼人は、仕向銀行に振込を依頼する。
②依頼人から振込依頼を受けた仕向銀行は、依頼人が指定した被仕向銀行あてに振込通知を発信する。
③仕向銀行から振込通知を受信した被仕向銀行は、振込通知の記載内容に従って受取人の
基礎を押さえて実務に活かそう
内国為替と手形・小切手
②手形・小切手のキホン
金融のベーシックな手段として、手形・小切手取引は知っておくべき基礎的知識といえるため、ここでおさらいとして取り上げる。また、約束手形の利用廃止等の動向も押さえておきたい。
・
特
集
三井住友銀行 総務部 法務室
弁護士 xx xx
特集 基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手 '21/9月号_No.614
従来、手形・小切手取引については、法整備と並行して手形交換所の設立や不渡処分制度の創設等により手形・小切手取引
済、約束手形の利用廃止等に向けた動向について説明します
(注1)。
なお、本稿のうち意見にわた
に現金を支払わず、一定期間後、特定の日に支払う旨約束する」場合に利用されます。
売り手は(代金を受け取る前
口座(注2) を開設し、振出金額以上の残高を用意する必要があります。小切手も同様です。
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(注2)手形振出人は各金融機関が
の利便性
信頼性を高める対応
る部分は筆者の個人的見解であ
に自身の商品を引き渡すため)
策定した当座勘定規定に服する
ことになり、金融機関は当該規
がなされてきました。
これらの対応により、現在も日本の企業間の取引において、手形・小切手は支払手段として広く利用されており、企業間の手形・小切手を用いた取引において、金融機関は密接に関与しています。
本稿では、手形・小切手の要件を含む基本的事項、取立を中心に用いられている手形交換制度・当該制度を用いた資金決
り、所属組織とは無関係です。
(注1)電子化という観点では「でんさい」(電子記録債権)の利用も重要となる(でんさいについては特集③を参照)。
1.手形のキホン
⑴ 約束手形の用いられ方
約束手形は、主に商品の売買時、「買い手が商品受取と同時
買い手が事後的に代金を支払っ
てくれる旨信用し、約束の日
(支払期日)まで支払いを猶予することになります。約束手形により、買い手は約束手形の振出時に現金を用意する(または当座預貯金に手形金額相当分の残高を確保する)必要はなくなり、資金繰りに資することになります。
なお、手形を振り出す際は、振出人が取引銀行に当座預貯金
定に従って手形・小切手を現金化する(口座に振り込む)。
⑵ 約束手形の要件
約束手形の要件には次のものがあり(手形法一条・七五条)、原則としてこれらを欠く手形は無効となります( 同法xxx項・七六条。図表1)。なお、手形を含め小切手も昭和四〇xx二月一日より全銀協が採用し
た統一手形用紙制度により、各銀行において同一形式の用紙が使用されています(一般的に、これと異なる様式の手形・小切手は金融機関で取り扱うことができない)。
〈手形要件〉
基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手
➃満期日
⑤支払地
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'21/9月号_No.614
特集 基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手
①約束手形であることを示す文字( 手形文句)、②支払文句、
③金額、④満期日(支払期日)、
⑤支払地、⑥受取人、⑦振出日、⑧振出地(市区町村まで記載)、⑨振出人の署名(記名捺印が一般的)
①~⑨のうち、①②⑤はす でに印刷済であり、それ以外を振出人は記載することになります。なお、後述のとおり、手形法上、「支払場所」は手形要件ではありません。
③金額
②支払文句
⑧振出地
⑨振出人の署名
また、印紙税法により手形には金額に応じて収入印紙を貼付することが定められていますが、貼付漏れ・金額不足でも手形そのものは有効です。これに対し、小切手は金額の大小にかかわらず印紙は不要です。
【図表1】約束手形の記載例
①手形文句
⑥受取人
⑦振出日
⑶ 約束手形における各記載事項
① 約束手形であることを示す文字(手形文句)
当該証券が約束手形であるこ とを示す文句、標題のことを指 し、これを手形文句といいます。
特
集
② 支払文句
手形は振出人による支払いの
約束・支払いの委託をすることを目的とする証券であるため、当該文句は手形の中核をなす意思表示です。文言は「上記金額をあなたまたはあなたの指図人へこの約束手形と引替えにお支払いいたします」と統一されています。
もし仮に「〇〇という商品と引替えを条件とします」といった条件を付すと、当該手形は無効となります(このように、記載することで手形が無効となる事項を有害的記載事項という。また、後述する0号不渡事由となる)。
③ 金額
手形は金銭の支払いを目的とする以上、金額の記載は必須です。
手形・小切手法では文字と数字が記載されている場合は、文字が優先され、同じ種類の記載が重複する場合は最小金額を手形金額とする旨定めています
(小切手も同様。手形法六条・七七条、小切手法九条)
もっとも、大量の手形・小切
手を取り扱う金融機関の事務を滞りなく実施するべく、金融機関が定める当座勘定規定では、金額記載に関し、ⓐ復記のいかんにかかわらず、所定の金額欄記載の金額で取り扱うこと、ⓑアラビア数字で記載した場合は、チェックライターを使用し、金額の頭部には「¥」を、末尾には「※」等の終止符号を印字し、文字による復記を禁止する旨規定されているのが一般的です。
➃ 満期日( 小切手と違いあ
り)
手形は、次の四種類の満期日とする記載が認められています
(手形法xx条・七七条)。
ⓐ確定日払(特定の日に払う。例:〇年〇月〇日)
ⓑ一覧払( 所持人が支払呈示
(所持人による金融機関を用いた現金化方法。詳細後述)をしたとき)
ⓒ日附後定期払(振出日から一定期間経過した日。例:日附後三ヵ月)
ⓓ一覧後定期払(所持人が手形
特
集
株式会社全銀電子債権ネットワーク
(通称「でんさいネット」)
基礎を押さえて実務に活かそう
内国為替と手形・小切手
特集 基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手 '21/9月号_No.614
③知っておきたい「でんさい」の仕組み
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「でんさいネット」は、二〇xx年二月にサービスの提供を開始。現在、四九七の金融機関が参加している。「手形・小切手機能の電子化」に対する社会的要請が高まっている流れを踏まえ、「でんさい」とは何かをぜひ知っておきたい。
「でんさい」は、一般社団法人全国銀行協会(以下、「全銀協」という)の一〇〇%出資会社である株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称「でんさいネット」)が提供する電子記録債権で、手形債権や売掛債権の課題を克服した金銭債権です。本稿においては、でんさいの基本的な仕組みから、昨今のでんさいを取り巻く環境や、当該環境を踏まえたでんさいネットの取組みについて説明します。
1.でんさいの基本的な仕組み
まず、でんさいの特長とxxxx、取引方法を説明します。
⑴ でんさいの特長とメリット
でんさいの特長は、従来の手形と同様の利用方法により、取引金融機関を通じて、全国の金融機関で利用可能なことです
(図表1)。
また、でんさいを利用することで、従来の手形と比べ、支払企業および受取企業の双方で、コスト削減・リスク低減・事務負荷軽減等のメリットが生じます(図表2・3)。
⑵ でんさいの利用方法
でんさいを利用した基本的な資金決済の方法については、次
のとおりです(図表4)。
❶ 発生記録請求
まず、支払企業であるX社が、手形の振出しに相当する
「発生記録請求」を、IB(インターネット・バンキング)などを通じて行います。請求にあたり、債権金額や支払期日などの支払情報を入力し、でんさいを発生させます。これを受け、納入企業のY 社には、電子メール等で発生記録の結果通知が届きます。
❷ 譲渡記録請求
次に、X社からでんさいを受け取ったY社が、Z社に当該でんさいを譲渡するとします。Y社は、手形の裏書譲渡に相当す
る「譲渡記録請求」を、IBなどを通じて行います。請求にあたり、譲渡日や譲渡先などの情報を入力し、でんさいを譲渡します。これを受け、納入企業の Z社には、電子メール等で譲渡記録の結果通知が届きます。
ここでのポイントとしては、でんさいには分割機能があり、必要な金額を分割して譲渡することができます。そのため、手形を利用する時のように、支払企業に分割して振り出してもらう等の依頼が不要になります。
❸ 口座間送金
最終的には、口座間送金により、支払期日になると自動的に支払企業のX社の決済口座から
特
基礎を押さえて実務に活かそう
集 内国為替と手形・小切手
引き落とされ、受取企業のZ社
の決済口座に入金されます。そのため、支払企業のX社は、支払期日までに決済口座に決済資金を準備します。資金の受け取り側であるZ社は、支払期日に予め登録した決済口座にでんさいの決済資金が入金されていることを確認します。
【図表1】でんさいの特長
手形と同様の利用方法を採用 | ・記録できる事項(金額、期日等)は手形と同様 ・手形の取引停止処分制度と類似の制度を整備 |
取引金融機関を通じてサービスを利用 | ・取引金融機関のインターネットバンキング(IB)・窓口で利用可能 ・既存口座で決済資金の引落・入金が可能(別口座で の管理不要) |
全国の金融機関で利用可能 | ・全国の銀行・信用金庫・信用組合等で利用が可能 ・相手先企業の取引金融機関を考慮する必要なし |
2.でんさいを取り巻く環
境
近年、わが国においては、構
造的な社会的課題である企業等の生産性向上、社会的コストの削減、人手不足へのさらなる対応の観点から、「手形・小切手機能の電子化」を推進すること
【図表2】支払企業のメリット
コスト削減 | ・印紙税が課税されず、郵送費用も生じない |
リスク低減 | ・電子記録で管理されるため、紛失・盗難リスクが生じない |
事務負荷軽減 | ・IB 等で請求可能であり、手形への宛先・金額等の記入、押印、郵送等の発行作業を削減可能 |
が重要なテーマの一つとなって
おり、政府の「xx投資戦略二
〇一七」(二〇一七年六月九日閣議決定)を受け、金融界においては、「(二〇xxxから二〇xx年までの)五年間で全国手形交換枚数の約六割が電子的な方法に移行することを中間的な目標」として設定し、各種取組
【図表3】受取企業のメリット
コスト削減 | ・でんさいで受け取った旨を記入した領収書は印紙税が課税されない ・相手との合意次第で領収書不要扱いも可能 |
リスク低減 | ・支払企業と同様、紛失・盗難リスクが生じない |
事務負荷軽減 | ・電子記録で管理されるため、現物管理の事務が生じない ・自動で決済されるため、取立依頼は不要 |
資金繰り円滑化 | ・支払期日に入金され次第、資金を利用可能 ・手形割引と同様の簡易な手続きで支払期日前の資金化が可能(取扱いは金融機関で異なる) |
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'21/9月号_No.614 特集 基礎を押さえて実務に活かそう内国為替と手形・小切手
を着実に進めてきました。
このようななか、二〇二〇年度に、約束手形の利用の廃止に関する議論や、書面・押印・対面手続の見直しが進められるなど、手形・小切手機能の電子化に対する社会的要請がさらに高まったことを受け、二〇二一年四月には、産業界・関係省庁と
図表4】でんさいを利用した資金決済の方法
支払債務
支払債務
X 社(支払企業) Y 社(納入企業①)
Z 社(納入企業②)
物品販売・納入 部品販売・納入
➊発生記録請求
❷譲渡記録請求
❸口座間送金 期日に自動送金 !
窓口金融機関
窓口金融機関
窓口金融機関
でんさいネット
記録原簿
①発生記録 ②譲渡記録
③支払等記録