Contract
第 1 部 基本編 −労働協約とは−
1 労働協約とは
(1)労働協約は労働組合活動の結晶
労働者が会社に就職するとき、希望どおりの労働条件で採用されることは少なく、多くの場合、使用者によってあらかじめ決められた労働条件、つまりこういう労働条件ならば雇いましょう、ということで採用されるのが普通です。労働者と使用者との1 対1 の関係で取り決める労働契約では、どうしても使用者の力が強いため、労働者が「今までよりも高いレベルの生活がしたい」「職場環境のよい安心して働くことのできる職場で働きたい」と望んでも、そのとおり希望がかなえられることはなかなか困難です。また、 ようやく合意に達しても口頭の約束では後でその履行をめぐってトラブルが生じることもあります。
そこで労働者は、自らの希望する労働条件を得、それを維持向上させるために団結して労働組合という組織をつくり、その集団の力を背景に使用者と団体交渉をすることになります。そうすることによって初めて使用者と対等の立場に立つことができ、労働条件を改善していくことができるのです。
こうして労働組合が結成されますと、その活動を通して労使間で合意に達した事項を書面で取りかわすようになります。そして、労使双方が約束したある一定期間、たとえば 1 年間とか 2 年間はお互いに合意したことを遵守することになります。
これが労働協約といわれるもので、それは労働組合活動の中から必然的に生まれたものであり、労働協約の歴史はそのまま労働組合活動の歴史といっても過言ではありません。
(2)労働協約は労使双方に有意義なもの
労働組合と使用者の間で組合員の賃金、労働時間、休日、休暇等の労働条件や団体交渉のルール、組合活動等の事項について交渉を行い、その結果を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印したものを労働協約といいます(労働組合法第 14 条)。
この労働協約は、労働者と使用者が合意して個々に結ぶ労働契約や、最終的に使用者が決めることができる就業規則とは区別され、これらに優先して、労働者及び労働組合と使用者の関係を規律する効力が与えられています。したがって、労働契約や就業規則は労働協約に反することはできません(労働組合法第 16 条、労働基準法第 92 条、労働契約法第 13 条)。
労働協約が締結されますと、当事者である労働者や労働組合、使用者を拘束することになりますから、労働協約の締結によって労働条件や労使関係、ある
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いは企業経営にどのような影響が生じるのかということを労使双方があらかじめ知っておかなければなりません。
労働組合の目的は、端的にいいますと労働協約の締結にあるといえます。いったん労働協約が締結されますと、労働者にはその有効期間中は一定の労働条件が維持確保されますので、その間は安心して働くことができます。また使用者にとっても、その有効期間中は企業の平和が維持され労使関係が安定することになりますから、労働協約は労使双方にとって有意義なものといえます。
2 労働協約を結ぶときの留意点
(1)合意に達したものから一つずつ締結を図る
労働協約は、 組合員の労働条件やその他についての労使の自主的な合意ですから、 何をどのように約束するかは当事者の自由です。したがって、 特に難しく考える必要はなく、 労使が当面必要と思われる事項をxx締結していけばよいわけです。
労働協約のない状態から、一気にすべての事項を網羅した包括労働協約を締結するのは大変なことです。もちろん、組合員の労働条件や組合と使用者との約束すべてが含まれた労働協約を結ぶのは理想ですが、それに至るには長い時間と交渉の積み重ねを必要とするでしょう。
労使の間で合意に達した部分があっても、他の問題が合意に達しないため、労働協約の締結が延び延びになっている例もみられます。そのようなことがないように、合意に達した部分を個別的に締結し、xx積み重ねていく方法がよいでしょう。
また、なかには団体交渉それ自体円滑に開かれないといったところもあるようです。そのようなところでは、少なくとも団体交渉のルールだけでも初めに決めておくようにしましょう。
(2)段階的に内容を向上させていく
労働協約の内容を質的に高めていくことは、労働組合にとって大切なことですが、理想的な労働条件や人事条項等は組合結成後すぐに得られるというものではないでしょう。それらは、日ごろから熱心な活動を続け、組合活動の活発化を通して労使関係の近代化を図りつつ達成していくものです。
したがって、初めはあまり背伸びせず、組合や使用者の置かれた状況をよく考え、現時点で可能なものから協約化し、その上に立ってxx内容を改善し、
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