借 地 権 の 種 類 旧法の借地権(平成4年7月31日までに設定されたもの) 借地借家法による借地権(平成4年8月1日以降に設定されたもの) 借地借家法による借地権 (平成4年8月1日以降、平成19年12月31日までに設定されたもの) (平成20年1月1日以降に設定されたもの) 普通借地権 一般定期借地権借地権の存続期間を50年 以 上 と し て、・借地借家法の契約更新に関する規定を適用しない旨・建物の再築による存続期間の延長の規定を適用しない旨・建物の買取請求権を認めない旨...
(平成3.10.4)最近改正 平成23.5.25 法53号
平成4年8月1日から新しい「借地借家法」が施行され、同日をもって従来の「借地法」「借家法」「建物ノ保護ニ関スル法律」は廃止されました。しかし、新法の施行前からすでに締結されている借地契約、借家契約即ち既存の契約には、新法の定める存続期間や更新などに関する多くの規定が適用されず、「なお、従前の例による」ものとされ、旧法が適用されることになっています(法附則第5条以下)。
(借地権について)
1.借地権の意義
建物所有を目的とする他人の土地の利用権には、地上権と土地賃借権・使用借権がありますが、借地借家法で
「借地権」というのは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権のことです(法第2条第1項)。
地上権は、物権であり土地を直接に支配できる強い権能をもちます。すなわち、地上権者は地主の承諾を得ないで、第三者に地上権を譲渡したり、賃貸することができます。これに対し、賃借権は債権であり、賃貸人の行為を通じて土地を間接的に支配できるのみで権能は物権ほど強くありません。そこで、賃借権を強化して両者の権能の差を少なくし(賃借権の物権化)、賃借人を保護するため大正10年に借地法が制定され、平成4年施行の借地借家法に引き継がれています。
なお、建物所有目的以外の目的、例えば、屋外の駐車場、材料や資材置場などのための土地賃借権は、借地借家法でいう「借地権」でありません。
2.借地権の種類と内容
借地権の類型を図示すると次のとおりです。
旧借地法による借地権
借地借家法による借地権 ①普通借地権
②定期借地権 ア.一般定期借地権イ.事業用借地権
ウ.建物譲渡特約付借地権
③一時使用の賃貸借(一時使用の場合に設定される借地権で、存続期間、更新等に関する借地借家法の多くの規定が適用されない。「一時使用」にあたるかどうかは、契約書の文言にとらわれず、諸般の事情を総合的・客観的に判断して決定される。)
なお、他人の土地を利用する形態には上記の借地権のほか使用貸借というのがあります。これは、物を無償で借り使用収益を行う権利ですが、不動産という重要な資産を無償で貸すというのは一般的には考えられないことです。実際には、当事者が親子関係である等、特別な事情がある場合に限り利用されています。この使用貸借には借地借家法の適用はなく、専ら民法の規定が適用されます。
借地権の内容を、借地の「存続期間」と「更新」に関する事項を中心にまとめると次のようになります(一時使用の賃貸借は省略)。
借 地 権 の 種 類 | 旧法の借地権 (平成4年7月31日までに設定されたもの) | 借地借家法による借地権 (平成4年8月1日以降に設定されたもの) | 借地借家法による借地権 | |||
(平成4年8月1日以降、平成19年 12月31日までに設定されたもの) | (平成20年1月1日以降に設定されたもの) | |||||
普通借地権 | 一般定期借地権 借地権の存続期間を50年 以 上 と し て、 ・借地借家法の契約更新に関する規定を適用しない旨 ・建物の再築による存続期間の延長の規定を適用しない旨 ・建物の買取請求権を認めない旨 の3つの特約を定 めたもの。 契約は公正証書等の書面によることが必要。 | 建物譲渡特約付借地権 借地権設定後30年以上を経過した日に、借地上の建物を相当の対価で地主に譲渡する旨の特約を定めたも の。 当該建物の譲渡により借地権は消滅する。 | 事業用借地権 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を10年以上20年以下としたもの。 ・法定更新、再築による期間の延長等 ・建物買取請求権 ・建物の再築についての裁判所の許可 の規定が適用されない。 契約は必ず公正証書によらなければならない。 | 事業用定期借地権 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を10年以上50年未満としたもの。 10年以上30年未満の期間をを設定した契約については ①法定更新、再築による期間の延長等 ②建物買取請求権 ③建物の再築についての裁判所の許可 の規定が適用されない。 30年以上50年未満の期間を設定した契約については、上記①②③を適用しない旨の特約を定めたものであれば適用されない。 U 及び の契約は必ず公正証書によらなければならない。 | ||
存続期間 | 〔期間の定めがある場合〕 コンクリート造り等の堅固な建物は30年、その他(木造等)の建物は20年より短い期間を定めた場合には、期間の定めがないものとみなされ る。 〔期間の定めがない場合〕 堅固な建物は60年、その他の建物は30年。 | ・原則30年 ・当事者でこれより長い期間を定めた場合はその期間 | 50年以上 | 30年以上 | 10年以上20年以下 | 10年以上50年未満 |
更 新 | 原則として期間満了により借地権は消滅するが、以下のいずれかに該当するときは更新される。 | 更新はなく、借地権は期間満了とともに消滅する。 | 借地上の建物を地主に譲渡することで、更新することなく借地権は消滅する。 ただし、借地期間の終了時に借地権者が建物の使用を継続しているときは、借地権者の請求により、地主との間で当該建物について期間の定めのない借家契約が締結されたものとみなされる。 | 更新はなく、借地権は期間満了とともに消滅する。 | 10年以上30年未満の期間を設定した契約については更新はなく、借地権は期間満了とともに消滅する。 30年以上50年未満の期間を設定した契約の場合,契約の更新に関する規定を適用しない旨の特約を定めたときは更新はなく借地権は期間満了とともに消滅す る。 | |
①当事者で合意した場合 ②借地権者が契約更新を請求したときで、建物が現存する場合 ③借地期間満了後も借地権者が土地の使用を継続しているとき | ①当事者で合意した場合 ②借地権者が契約更新を請求したときで、建物が現存する場合 ③借地期間満了後も借地権者が土地の使用を継続し、現に建物がある場合 | |||||
ただし、②の更新請求・③の使用継続がなされた場合でも地主が遅滞無く正当事由(注)ある異議を唱えた場合には更新されない。 〔更新期間〕 | ||||||
堅固な建物 は30年、それ以外は20年 | 最初の更新 は20年、2回目以降の更新は10年 | |||||
なお、合意による更新の場合で当事者間で上記期間より長い期間を定めた場合にはその期間となる。 |
(注)「正当事由」とは
借地人の更新請求や使用継続に対する借地権設定者(多くは土地所有者)の異議は「正当事由」がなければ述べることができません。旧借地法は、正当事由の内容を「土地所有者が自ら土地を使用することを必要とする場合その他正当の事由」と概括的に規定していましたが、新法ではこれを明確にし、
Ⅰ 借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情
Ⅱ 借地に関する従前の経過
Ⅲ 土地の利用状況
Ⅳ 借地権設定者が土地の明渡しの条件として、又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
の4項目が正当事由の考慮要素であるとしています(法第6条)。なおⅠが基本的な要素であるとされており、またⅣは、いわゆる立退料のことです。
3.借地権に関するその他の留意事項
借地権について重要事項説明をする場合には、存続期間・更新に関する事項のほか、以下の点にも留意する必要があります。
なお、以下に掲げる事項は、基本的には借地権全般にあてはまるものですが、 の「建物の再建築による存続期間の延長」や の「建物買取請求権」のように、定期借地権に一部適用されない事項がありますので、注意してください。
(1)建物の再建築による存続期間の延長
① 当初の存続期間満了前の再建築
当初定めた借地権の存続期間の満了前に建物が滅失した場合に、借地権者が借地権の残存期間を超えて存続する建物を再築したときには、地主がその再築を承諾した場合に限り、当該借地権の期間が延長されます。
この場合、借地権者が地主に建物の再築の通知をし、地主が通知受領後2ヵ月以内に意義を述べなかった場合には、再築が承諾されたものとみなされます。
上記により借地権の期間が延長された場合、その期間は原則として、
・承諾があった日
・建物が再築された日
のいずれか早い日から20年となります。
ただし、残存期間が20年より長いとき、又は当事者で20年より長い期間を定めた場合にはその期間が存続期間となります。
② 更新後の再建築
借地契約の更新後に、借地人が地主の承諾を得ずに残存期間を超えて存続する建物を再築した場合には、地主は借地契約の解約を申し入れることができます。
ただし、建物の再築につきやむを得ない事情があるにもかかわらず、地主が承諾しない場合には、裁判所は、借地人の申立により、地主の承諾に代わる許可を与えることができるとされています。
もし、地主の承諾も裁判所の許可も得られない場合には、借地人の方からの解約申入れが認められています。これらの規定は、一般定期借地権及び事業用借地権(ただし、30年以上50年未満の期間を設定した契約では
適用しない旨の特約を設定した場合のみ)については適用されません。
(2)借地権の譲渡・転貸
ここで「譲渡」とは、借地人が借地権を第三者に売買・贈与などにより移転することであり、「転貸」とは、借地人が自己と地主との借地関係はそのまま残しておいて、借地を第三者に自ら貸主として賃貸することです。地上権については、譲渡・転貸を自由にすることができますが、賃借権の場合には地主(賃貸人)の承諾なしに行うこ
とはできません。
① 地主の承諾がある場合
賃借権の譲渡又は転貸について地主(土地所有者)の承諾を得た場合は、これを地主に対抗することができます。譲渡のときは、従来と同内容の契約が継続します。しかし、存続期間は従前の契約の残存期間のみとなります。また、転貸のときも従前の契約の残存期間の範囲内の契約となります。なお、借地人から転借した者は地主と直接には契約関係が生じませんが、地主は借地人、転借人のいずれにも地代を請求できます(民法第
613条)。
② 地主の承諾のない場合
賃借権の譲渡、転貸を地主に無断で行い、目的物を使用させると、信頼関係がいまだ破壊されていないという特段の事情がない限り原則として地主は借地契約を解除することができます(民法第612条)。もっとも、地主が承諾しないときは、建物の譲受人は地主に対して建物買収請求権を行使できます(法第14条)。
(地主の承諾に代わる裁判所の許可)
賃借人がその建物を他人に譲渡しようとする場合に、地主が土地の賃借権の譲渡又は転貸を拒むときは、裁判所は賃借人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可をすることができます(法第19条)。なおこの場合、地主に優先的な買受権が認められています(同条第3項)。
(3)借地上の建物の増改築
借地契約では、借地権者は地主の承諾なく借地上の建物の増改築をしてはならない旨を特約で定めるケースが一般的です。
ただし、借地借家法では、こうした増改築禁止特約がある場合に、借地権者が土地の通常の利用上相当と認められる増改築をするために地主の承諾を求めたにもかかわらず当事者間の協議がまとまらない場合には、裁判所が地主の承諾に代わって許可することができることとされています(法第17条第2項)。
(4)地代等の増減額請求
地代又は土地の賃料が、土地に対する公租公課の増減、土地の価格の高騰・下落その他の経済事情の変動により、又は近傍類地の土地の地代・賃料に比較して不相当となったときは、当事者は地代等の増減を請求することができます。もっとも、当事者間において一定期間増額しない旨の特約があった場合には、経済事情の変動があっても増額請求はできません(法第 1条)。
地代等の増減額をめぐる紛争については、訴訟を提起する前に、まず調停申立てをしなければなりません。
ぜん ち
これを調停前置主義といいます。また、当事者が調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面の合意を調停申立後にした場合には、調停委員会の定める調停条項に拘束されます。これらは、民事調停法に規定されています。
(5)建物買取請求権
① 借地人は、次の2つの場合には借地上の建物を借地権設定者に対し、買い取るべき旨を請求できます。
Ⅰ 借地人の建物買取請求権(更新されない場合の建物買取請求権)
借地権の存続期間が満了した後更新されない場合には、借地権者は時価で建物その他の付属物を借地権設定者に買い取るべきことを請求できます(法第13条)。
Ⅱ 建物取得者の建物買取請求権(建物の譲渡等が承諾されない場合の買取請求権)
第三者が賃借人から建物を譲り受けた場合に、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときも同様に買取請求ができます(法第14条)。
② 建物買取請求権を行使した場合の効果
建物買取請求権は形成権であり、相手方の承諾がなくても売買契約が成立したのと同じ結果になります。買主の地位に立つ借地権設定者が建物の代金を支払うまで、借地人は建物とその敷地の引渡しを拒絶できます(同時履行の抗弁権あるいは留置権に基づく)。しかし、引渡しを拒む間の地代・賃料相当額は、借地権設定者に返還しなければなりません。
※借地人の賃料不払いによって賃貸借契約が解除された場合には、建物買取請求権は発生しないと解釈されています。このような場合にまで、借地人を保護するのは不公平だからです。
なお、①Ⅰの「更新されない場合の建物買取請求権」については、一般定期借地権及び事業用借地権(ただし、30年以上50年未満の期間を設定した契約では適用しない旨の特約を設定した場合のみ)には適用されません。実際の契約においては「更新されない場合の建物買取請求権」を借地権者に認めない旨を特約で定めることになります。この特約により、一般定期借地権及び事業用借地権の借地権者は期間の満了とともに、借地上の建物を取壊し、更地にして地主に返還する義務を負うことになります。
(6)借地権の対抗力
借地権に対抗力があるというのは、借地権の存する土地の所有権を買った者や、その土地の抵当権者などに対し、借地人が自分の借地権を主張できるということです。
借地権が対抗力を有する方法には、借地権の登記と借地上の建物の登記があります。借地権が対抗できれば、借地関係はそのまま新しい土地所有者に承継され、また土地の抵当権者に対しても自己の権利を主張することができ、何の影響も及ぼさないことになります。
① 借地権の登記
地上権も賃借権も登記することによって第三者への対抗力をもちます。地上権は物権ですから地主に登記協力義務があり、地主がこれに応じなければ裁判所の確定判決で登記の強制をすることができます。
ところが、賃借権は債権ですから、地主に登記協力義務がなく、その登記を法律で強制できません。したがって、一般に土地賃借権の登記は行われず、新地主に対抗することができなくなってしまいます(売買は賃借権を破る。)。民法の一般原則によればそのような結果となります。そこで、借地人を保護するため、次の借地借家法第10条の規定があります。
② 借地上の建物の登記
借地人が借地の上の「建物」の登記をしているときは、例え地上権又は賃借権の登記がなくても、その「土地」の賃借権を第三者に対抗することができます(法第10条第1項)。前述①の民法の不備を補い、登記請求権のない土地賃借人を保護しています(建物登記は、借地権者が単独ですることができます。)。この登記は表示の登記でも足りますが、建物の登記名義人が借地権者の妻や長男の場合には、対抗力がないというのが判例です。
③ 建物滅失の場合の対抗力の保持
上記②のように借地人を保護していても、もし借地上の建物が滅失するとその建物の登記も無効となってしまうので、対抗力も失われ、滅失後にその土地を譲り受けた者のような第三者に対抗できなくなってしまうという問題点がかねてから指摘されていました。そこで、新法は建物の滅失があっても、借地権者がその建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨をその土地の上の見やすい場所に掲示すれば、滅失の日から2年を経過するまでの間に建物を再築し、かつ登記をする限り、その間は対抗力を有することとしました(法第10条第2項)。
(7)自己借地権
自己借地権とは、借地権設定者が自ら土地に借地権者として設定する借地権のことをいいます。民法上では、所
こんどう
有権と制限物件その他用益権が同一人に帰すると、所有権以外の権利は消滅するという混同の法理というものがあり、土地所有者が自らその土地の借地権者になることはできないものと考えられています。しかし、これを貫くと借地権付きマンションを分譲する場合、土地所有者はあえて形の上だけ誰かに借地権を設定し、その準共有持分を専有部分とともに譲渡するという遠回りな方法をとらざるを得ません。そこで、このような不便を解消するため、新法は借地権を設定するにあたって他の者とともに有することとなるときに限り、借地権設定者(土地所有者)が借地権を有することができることとしました(法第15条第1項)。また、借地権が借地権設定者に帰した場合でも、
他の者とともにその借地権を有するときには、混同が生ぜず借地権は消滅しないものとしました(同条第2項)。
(借家権について)
1.借家権の意義
借家権というのは、広くは建物の賃借権のことをいいますが、通常は借地借家法の適用を受ける賃借権のことをいいます。建物の一部であってもアパートの1室のように独立性のある場合は借家法の適用がありますが、いわゆる間借りのように、その部屋自体に独立性のない場合は借地借家法の適用はありません。
2.借家権等の種類と内容
建物を借りる契約の種類には次のようなものがあります。
一般借家契約
定期借家契約
Ж 取壊し予定期限付き借家契約
一時使用の賃貸借
使用貸借
また、特殊なタイプとして、
「高齢者の居住安定確保に関する法律」による終身建物賃貸借というものがあります。
以下それぞれの内容についてポイントを解説します。
(1)一般借家契約
契約期間の定めがある場合とない場合があります。ア.存続期間の定めがある場合
借家では借地のような最短期間の定めはありません。しかし、1年未満の期間を定めた場合は、期間の定めのない契約とみなされます(法第29条)。期間満了と同時に明渡しを求めるには、期間満了前1年から6ヵ月前までの間に借家人に対し予告しなければ更新の拒絶ができず、これをしなければ従前と同一条件で更新されることになります(法第26条)。
また、家主が更新を拒絶するには、正当な事由が存在することが必要です(法第28条)。借家人に不利な特約は無効となります(法第30条)から、契約書の条項に「家主の都合によりいつでも解約し、又更新を拒絶することができる」旨の記載をしても、その部分は効力を生じません。
イ.存続期間の定めがない場合
家主は、いつでも解約の申入れをすることができます(民法第617条)。しかし、そのためには正当事由がなければなりません(法第28条)。
解約の効果は、その解約申入れから6ヵ月を経過したときにはじめて生じます(法第27条)。したがって、借家人は家主の解約申入れが正当な事由によるものであっても6ヵ月間は居住を継続できることになります。
また、6ヵ月を経過した場合でも、借家人が立ち退かず、それに対して家主が遅滞なく異議を述べないときは、6ヵ月前の解約申入れの効力が失われ、あらためて解約申入れをしなければなりません。
期間の定めがない場合は、借家人も、いつでも解約の申入れをすることができます。この場合、正当事由は不要です。解約の効果は、申入れから3ヵ月経過したときに生じます(民法第617条第1項、解約予告期間につき任意規定)。
(2)定期借家契約
平成12年3月から施行された「良質な賃貸住宅等の促進に関する特別措置法(いわゆる定期借家法)」に基づくもので、更新しない特約を認めた新しいタイプの借家権です。
定期借家のポイントは次のとおりです。
契約で定めた期間の満了により契約が確定的に終了する借家契約。一般借家契約のような「更新」という概念がなく、契約を継続する場合には「再契約」をする必要がある。
② 契約期間の長短に制限なし(一般借家契約では、1年未満の契約は期間の定めのない契約をみなされる。)。
③ 契約締結の際、貸主は借主に対し、定期借家である旨を書面を交付して説明する義務がある。
④ 契約は公正証書等の書面によることが必要。
⑤ 契約期間が1年以上の場合、貸主は期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に、借主に対し、契約終了の通知をする必要がある。この通知を怠ると、その通知から6ヵ月間は契約の終了を借主に対抗できない。
⑥ 期間内の解約(中途解約)は原則として認められない。ただし、居住用で、かつ、床面積が20㎡未満の場合には、転勤や病気の療養等やむをえない事情がある場合に限り、借主からの中途解約が認められる。
(3)取壊し予定建物の借家
法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合には、建物を取り壊すこととなる時期に賃貸借が終了する旨の賃貸借契約を締結することができます。ただ、この場合も契約内容を明確にするとともに脱法的な契約を防止するため、その特約について建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってしなければならないものとされています(法第39条第1項、第2項)。
(4)一時使用目的の借家
借主が、一時使用のために建物の賃貸借契約をしたことが明らかな場合には、借地借家法の借家に関する規定は適用されません(法第40条)。
(5)使用貸借
P117の「(借地権について)2.借地権の種類と内容」参照のこと。
(6)「高齢者の居住の安定確保に関する法律」による終身建物賃貸借
P107を参照のこと。
3.借家契約に係るその他の留意点
借家契約に関する重要事項説明にあたっては、まず2で述べた借家契約の種類をはっきりと明示し、それぞれの種類に応じた説明をするとともに、次のような点にも留意する必要があります。
(1)借家契約の更新拒絶又は解約申入れの要件 正当事由
一般借家契約のうち存続期間の定めのある借家契約について、家主がその契約の更新を拒絶する場合あるいは存続期間の定めのない借家契約について解約の申入れをする場合には、「正当な事由」がなければなりません。この有無の判断は、かなり困難であって、個々のケースについて具体的に決定されなければならず、従来から裁判の上では家主、借家人双方の建物使用の必要度の比較や賃貸借の解約をすることによって生じる双方の利害得失などを比較衡量して、更に社会公益的見地からも公平に判断した上で正当事由の存否が判断されてきました。しかし、新借地借家法はその判断基準を明確にしました。すなわち、その考慮要素は、
建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情
② 建物の賃貸借に関する従前の経過
③ 建物の利用状況及び建物の現況
④ 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、又は建物の明渡しと引換えに賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
であるとしています(法第28条)。なお、が基本的な要素であるとされており、また④は、いわゆる立退料のことです。
なお、定期借家契約においては更新がありませんので、ここでの規定は関係ありません。
(2)家賃の増減額請求
契約で定められていた家賃が、
土地・建物に対する租税その他の公課の増減
② 土地・建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
③ 付近の土地・建物の賃料
に比べて不相当となったときには、賃貸人及び賃借人のいずれからでも、家賃を将来に向かって「相当な額」まで増額又は減額するよう請求することができます。
家賃をめぐる紛争については、原則として訴訟を提起する前に、まず調停の申立てをしなければならないこと、調停委員会の決定に服する旨の合意の制度があること等は既に借家における地代等の増減額請求権の箇所で説明したものと同じです。
なお、家賃の増減にかかる特約に関しては、借地権のところで述べたのと同様に、一定期間増額しない旨の特約が有効であるということが法律上規定されているだけです。
したがって、いわゆるスライド条項(固定資産税の増額に応じて家賃も増額する。)のような特約の有効性は法律上保証されておらず、もっぱら裁判上の判断に委ねられています。
ただし、新しく創設された定期借家に限っては、特約が明記されている場合は、その特約を優先して適用することが、法律で規定されています。
4.造作買取請求権
家主の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作があるときは、借家人は借家契約が終了した場合に、家主に対して時価でその造作を買い取るよう請求することができます。また、借家人が家主より買い受けた造作も同様です(法第 3条)。
なお、この規定は家主が同意しないと造作を付けられないという意味で、必ずしも賃借人に有利な規定とはいえなかったため、新法では当事者間においてこの規定を排除する旨の特約が認められることになりました(法第37条)。
5.借家権の対抗力
借家権は建物賃借権の登記があれば、もちろんその建物を買い受けた者などの第三者に対抗できますが、法は登記がなくても建物の「引渡し」さえあれば、第三者に対抗することができるものとし、借家人を保護しています
(法第31条)。
なお、借家権は対象の建物が滅失すれば消滅します。目的建物が存在しなくなるからです。借家契約の内容を表にまとめましたので、参考にしてください。
一 般 借 家 | 定 期 借 家 | 取壊し予定期限付建 物 賃 貸 借 | 一時使用 | |
(1) 存続期間 | 1年~ (法第29条、法第29条第2項、民法第604条) ②期間の定めがない場合 (1年未満の定めの場合を含む(法第29条)。) | 当事者が合意した期間 (法第38条) (契約を書面で行う。) | ・法令又は契約により一定の期間を経過した後に建物を取り壊すべきことが明らかな場合、その時までの期間(法第39条) | ・新法第3 章(借家)の規定の適用はない(法第 40条)。 |
解約の申入れから6ヵ月経過により終了(法第27条第1項) | ||||
・建物転借人…… 期限不知の場合は1年以内の明渡し猶予。(法第35条) | ||||
(2) 更 新 | ・従前契約と同一の内容で更新 ただし、更新後は期間の定めのない賃貸借となる。 ・期間の満了の1年前から6ヵ月までに更新拒絶の通知がないとき。 ・上記通知をしても、期間満了後継続して使用している場合、遅延なく異議を述べなかったとき(法第 26条第1項、第2項)。 なお上記通知には正当事由が必要なので、上記通知があっても正当事由がないときは法定更新となる。 | 更新がなく、期間満了により終了 (あらかじめ書面を交付して説明) | ・更新のない特約 (書面化が必要) | 同 上 |
法定更新 | ||||
・建物が転借されている場合、転借人の建物使用継続も賃借人の場合と同様(法第26条第3項)。 | ||||
②更新拒絶 (正当事由) | 貸主、借主双方が建物の使用を必要とする事情 ②建物の賃貸借に関する従前の経過 ③建物の利用状況及び建物の現況 ④貸主が提供する財産上の給付の申出の事実 | 同 上 | ||
③更新期間 | ・契約で定める。 ・法定更新の場合は期間の定めがないものとなる。 | |||
(3) 造作買取請求権 | ・任意規定 (特約により排除可) ・転借人の買取請求権もある (法第 3条第1項、第2項)。 | ・任意規定(特約により排除可) | ・任意規定(特約により排除可) | 同 上 |
(4) 家賃の増減額請求 | 家賃増減額請求権(法第32条) ②調停前置主義 ③調停条項(確定判決と同一効力) (民調第24条の2、同第24条の3) | 同左(ただし、賃料改定特約をしたときは、家賃増減額請求権なし) | 同 左 | 同 上 |
※ 借家権の対抗力と関連して、抵当権と賃貸借の法律関係が問題になることがあります。次の重要事項追加説明を参照してください。
重 要 事 項 追 加 説 明[短期賃貸借保護制度の廃止について]
平成16年4月1日から
「短期賃貸借制度」が廃止され「明渡猶予制度」が導入されています
法務省民事局
平成16年4月1日以降の新規の建物賃貸借
平成16年4月1日以降の新規の賃貸借契約により、抵当権が設定されている借家・賃貸マンション等に入居された方については、将来抵当権が実行されて競売になった場合の賃借人保護のルールが変わりました(民法第395条の改正)。
これまでの「短期賃貸借制度」が廃止され、新たに「明渡猶予制度」が導入されています。
短 期 賃 貸 借 制 度
期間3年以内の建物賃貸借による入居者は、競売開始前の賃貸借契約(競売開始前の更新を含む。)による賃借期間が、競落人の代金納付(所有権移転)の時点でまだ残っている場合には、競落後も賃借人として保護されるという制度
保護の要件を満たしている場合には、
○ 競売による家主の交代後も、残りの賃借期間は居住できます。
○ 新しい家主に対し敷金返還を請求することができます。
【短期賃貸借制度の問題点】
競売手続中に賃借期間が満了した入居者は、競売手続中に更新をしても、全く保護されない(直ちに立退き)。
② 高額の敷金差入れを仮装して不当な利益を得るなどの執行妨害の手段として濫用されている。
明 渡 猶 予 制 度
建物賃借期間の長短に関係なく、競売開始前から入居しているすべての賃借人が、競落人の代金納付(所有権移転)の時から6ヵ月間は、そのまま居住できるという制度
○ 競売による家主の交代があっても、確実に6ヵ月間の居住が確保されます(この間は、家賃相当額を新しい家主に対して支払うことになります。)。
○ 敷金返還は、元の家主に対して請求することになります。
平成16年3月31日までに締結された短期賃貸借
平成16年3月31日までの短期賃貸借については、同年4月1日以降に更新された場合も含めて、引き続き短期賃貸借制度が適用されることになります。
※ 土地の賃貸借は、明渡猶予制度の対象にはなりませんが、期間5年以内の土地の賃貸借で平成16年3月31日までの契約分については、同年4月1日以降に賃貸借契約を更新した場合も含めて、引き続き短期賃貸借制度が適用されることになります。
※ 今回の改正法では、賃借権に優先する抵当権者の同意が得られる場合には、賃借権が優先する旨の同意の登記をすることにより、競売による家主の交代後も従前どおり賃借することができる(更新も可能)という制度も、新たに設けられています(民法第387条)。
抵当権が設定されている建物の賃貸借についての
「短期賃貸借制度」と「明渡猶予制度」の比較
短 期 賃 貸 借 制 度 (平成16年3月31日までに締結された賃貸借に適用) | 明 渡 猶 予 制 度 (平成16年4月1日以降の新規の賃貸借に適用) | ||
期間3年以内の短期賃貸借 | 競売開始前の賃貸借(競売開始前の更新)による賃借期間が、競落人の代金納付時に残存 | 【競落後の居住】 契約の残期間に限り可 【敷金返還】 新しい家主に請求 | 【競落後の居住】 6ヵ月間は可 【敷金返還】 元の家主に請求 |
競売開始前の賃貸借(競売開始前の更新)による賃借期間が、競落人の代金納付前に満了 | 【競落後の居住】 不可(直ちに立退き) 【敷金返還】 元の家主に請求 | 【競落後の居住】 6ヵ月間は可 【敷金返還】 元の家主に請求 | |
期間3年を超える長期賃貸借 | 【競落後の居住】 不可(直ちに立退き) 【敷金返還】 元の家主に請求 | 【競落後の居住】 6ヵ月間は可 【敷金返還】 元の家主に請求 |