Contract
民事再生手続におけるリース契約の取扱い
Xxxxxxx Xxxxxxxxx
弁護士 xx x
第1 はじめに
民事再生手続において、再生債務者は、リース会社との別除権協定に向けた折衝を避けることができない。再生債務者自身がリース物件を継続使用しながら営業を続けていく収益弁済型やスポンサー型の再生案件はもちろん、事業譲渡型の再生案件であっても、できるだけ早くリース会社と別除権協定を締結してリース物件を継続利用できる環境を確保することにより、事業譲渡価格の交渉が有利に進められるからである。また、清算型の再生案件であっても、資産を処分して事業を収束させるまでに一定の期間を要し(10 年程度を要する場合もある)、その間営業を継続する必要がある。
このように、リース会社との協定に向けた交渉を円滑に進めることは、再生債務者の事業の再生のために不可欠なものであるが、リース料の減額を求めたい再生債務者側の意向と、リース物件の引揚げを主張してリース料の減額に難色を示すリース会社との交渉は、必ずしも円滑に進むものばかりではない。債権者平等の原則から、強硬な態度を示すリース会社だけを特に優遇することもできない。したがって、当該リース物件が事業の継続 に不可欠であり、代替物件の調達が困難である(もしくは調達に相当な時間を要するため事業に支障が生じる)にもかかわらず、リース会社がリース契約を解除してリース物件を引揚げようとする場合には、再生債務者として、中止命令(民事再生法 31 条)や担保権消
滅請求制度(同法 148 条以下)の利用も検討しなければならない。
そして、リース料債権を別除権と考える場合に、担保対象物をどのように捉えるかによ
って中止命令や担保権消滅請求権行使の時的限界や効果が異なってくるものと思われ、ユーザーである再生債務者にとっても、これらの制度を利用する意義に相違が生じる。
本稿では近時の裁判例の動向も踏まえ、ま ず典型的なフルペイアウト方式のファイナン ス・リース契約1について、リース債権の性質 及び担保対象物の捉え方について検討を加え、その後、他の類型のリース契約についても検 討を行いたい。
第2 リース料債権の性質(共益債権か別除権か)
リース契約は、リース会社がリース物件をユーザーに使用させる点において賃貸借契約に類似しているが、両契約の間には法的性質を異にする点も多く2、民事再生手続におけるリース料の処遇は、賃貸借契約における賃料債権とは大きく異なる。
すなわち、賃貸借契約の賃借人である再生債務者が、賃借物件を継続使用する場合、賃貸人が賃借人に目的物を継続使用させる債務と、賃借人が賃貸人に賃料を支払う債務とは双方未履行の関係に立つことから、賃貸人が
1 リース会社が契約期間中にリース物件の取得費、金利及びその他の経費等を全額回収できるように リース料の総額が算定されているリース契約。
2 賃貸借契約とリース契約とは、①賃貸物件は賃貸人の在庫の中から選定されるがリース物件はユーザーが市場から選定した物件となる、②賃借人は賃貸借契約を中途解約できるがユーザーは原則
としてリース契約を中途解約することができない、
③賃貸借契約では保守・修繕義務、瑕疵担保責任は賃貸人が負担するが、リース契約ではこれらはユーザーが負担する、等の点で相違がある。また、後述のとおり、この他にも判例上認められている相違点が存在している。
再生債務者に対して取得する賃料債権は、共益債権となる。
これに対して、フルペイアウト方式のファ イナンス・リース契約は、その実質はユーザ ーに対して金融上の便宜を付与するものであ ることから、リース料債務は契約の成立と同 時に全額について発生し、リース料の支払が 毎月一定額によることと約定されていても、 それはユーザーに対して期限の利益を与える ものにすぎず、各月のリース物件の使用とリ ース料の支払とは対価関係に立つものではな いといする最高裁判例があり3、その趣旨から して会社更生法においてはリース料債権を更 生担保権として取り扱うのが実務となってい る。 民事再生手続においても、上記最高裁判 例と平仄を合わせる形で考えるべきであろう。
したがって、リース会社が再生債務者に対して有する未払リース料債権は、再生手続開始決定前に全額発生しているものとして、担保権付再生債権、すなわち別除権として取扱われることになる。
第3 担保権消滅請求の類推適用の可否
民事再生手続においては、担保目的財産が事業の継続に不可欠な場合に債務者の申立てによる担保権消滅請求の制度が設けられている。
そこで、リース料債権を別除権と考えた場合、再生債務者が担保権消滅請求を行うことができるかが問題となる4。
担保権消滅請求をリース契約に類推適用することを否定する見解は、同制度はその対象
3 最高裁平成 7・4・14 第二小法廷判決(金融法務事情 1425 号 6 頁)
4 担保権消滅請求の制度は競売手続を前提に規定されているため、非典型担保の一つであるファイナンス・リースに関しては、正確には「類推適用」の可否の問題であることを指摘するものとして、xxxxほか「ファイナンス・リースの担保権能に関する法律構成を示した東京地裁判決」(金融法務事情 1709 号 4 頁)
を民事再生法53 条1 項に規定する担保権とし、また担保権の目的財産の価額に相当する金銭 を裁判所に納付して、裁判所は民事執行の規 定に基づいて配当すべきものとされているが、ファイナンス・リース契約は、同条に規定す る別除権には直接該当しないこと、裁判所へ の目的財産の価額の納付、配当という同制度 に定められたスキームによって果たして処理 できるのかという問題に加えて、担保権を消 滅させた場合の所有権と利用権の帰属をどの ように解するのか等(目的物の所有権が債務 者に移ることが予定されている譲渡担保や所 有権留保付売買とは異なる)、ファイナンス・リースの目的物が担保権消滅請求の対象にな ると解するには理論上乗り越えるべき問題が 多々あることを論拠としている5。
しかし、本制度が別除権を対象とし、事業の再生に不可欠な財産を保持する趣旨のものであり、非典型担保の目的物であっても再生のために必要不可欠であるという場合も多いことに鑑みれば、別除権たるリース契約にも担保権消滅請求の類推適用を認めるべきである6。
第4 担保権の目的をどのように捉えるか
1 所有権説と利用権説
リース会社が別除権者であるとして、その担保権の対象を何と考えるかについては、担保権の目的はリース物件自体(所有権)であるとする考え方と、担保権の目的はユーザーのリース物件に対する利用権であるとする考え方に分かれており、未だ最高裁での決着を見ない。
担保の目的物をリース物件の所有権と考え
5 xxxx「ファイナンス・リース契約の民事再生手続上の取扱い」(金融法務事情 1641 号 5 頁)
6 xxxx「担保権消滅請求制度」(金融・商事判例 1086 号 60 頁)、xxxxほか「詳解民事再生法」 414 頁、xxxx「倒産手続におけるリース契約 の処遇」(金融法務事情 1680 号 14 頁)など。
る説(所有権説)は、リース契約の実質がユーザーに対して金融上の便宜を付与するものである点を重視し、リース会社とユーザーとの関係を、所有権留保における債権者と債務者との関係とパラレルに捉えるものである。この見解によれば、担保権の実行は、リース会社がリース契約を解除し、ユーザーよりリース物件の返還を受けて精算する方法によることになる7。
しかし、所有権説に対しては、リース契約においては、リース物件の所有権は終始リース会社にあり、リース期間満了後もユーザーへの移転が予定されていない(所有権留保と異なり、ユーザーに実質的な所有権はない)との批判がなされている。
これに対して、担保権の目的をリース物件の利用権と考える立場(利用権説)は、リース会社は、ユーザーの有するリース物件上の利用権に対して質権又は譲渡担保権を設定していると捉えるものである8。この見解によれば、担保権の実行は、リース会社がリース契約を解除してリース物件の利用権をリース会社に移転させる方法により、これによって利用権は混同により消滅し、リース会社はリース物件について完全な所有権を回復することになる。いささか技巧的ではあるものの、所有権説が抱える上記批判に比べてより問題の尐ない考え方であるとの意見がある。近時の下級審判例は、利用権説を採用する傾向にある9。
7 所有権留保の担保権実行手続は対象動産を引揚げることしか考えられないことから、その取戻しを中止命令によりコントロールする方法を取るべきことを示唆するものとして、xxxx「自動車の所有権留保売買と買主の倒産」(金融法務事情 1786 号 4 頁)
8 xxxx「倒産手続におけるリース契約の処遇」
(金融法務事情 1680 号 8 頁)
9 大阪地決平成 13・7・19(金融法務事情 1636 号 58 頁)、東京地判平成 15・12・22(金融法務事情 1705 号 50 頁)、東京高判平成 19・3・14
両説を整理すると、次のとおりとなる。
所有権説 | 利用権説 | |
担保権の目的 | リース物件の所有権 | リース物件の利用権 |
リース契約が | リース契約に | |
ユーザーに対 | おいてリース | |
論拠 | して金融上の 便宜を付与す | 会社がリース 物件の完全な |
るものである | 所有権を有す | |
点を重視 | る点を重視 | |
リース契約を | ||
担保権の | 解除してリー | リース契約の |
実行方法 | ス物件の返還 | 解除 |
を受ける |
2 私見
このように、両説のいずれによるべきか、実務の取扱いは統一されていないが、所有権説に基づいた処理がなされるべきであろう。
その理由は以下のとおりである。
⑴ 企業会計処理の実務
平成 5 年 6 月に企業会計審議会より公表された「リース取引に関する会計基準」では、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類し、ファイナンス・リース取引については、経済的実態に着目し、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を採用することとされていた。なお、ファイナンス・リース取引のうち所有権移転外ファイナンス・リース取引については、一定の注記を要件として通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を採用することが認められており、多くの企業においてこの例外処理が採用されていたようであるが、平成 19 年 3 月に「リース取引に関する会計基準」及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」の改正版が公表され、この例外的処理は廃止されるに至った。
中小企業には、上記改正後の会計基準及び
適用指針は適用されないが、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を採用するのが原則であることに変わりはない。
このように、企業会計上、リース取引は賃 貸借取引にかかる方法に準じた処理ではなく 売買取引にかかる方法に準じた処理が行われ、ユーザーは、その貸借対照xxにおいてリー ス物件を資産に計上し、リース料債務を負債 として計上することとされているが、このよ うな処理は、所有権説と親和性がある10。
リース取引の実態に鑑み、尐なくとも企業会計の場面においては、リース物件はユーザーの資産として取扱われ、その所有権が終始リース会社に帰属するとの形式は貫徹されていないのである11。
⑵ 再生手続の実務における慣行
再生債務者であるユーザーは、事業継続に必要なリース物件については、リース会社と交渉してある程度の減額をしたリース料相当額(協定額)を支払うことで、継続使用の合意をすることが多い12。この場合の協定額はリース物件の「交換価値」を念頭に交渉が進められ(リース会社が引揚げて処分すれば回収できる額を下回る金額で協定することは困難である)、契約期間中の利用権の価額が意識されることは稀である。また、協定額を完済
10 最高裁平成 20・12・16 第三小法廷判決(金融法務事情 1869 号 42 頁)のxx裁判官の補足意見も、ファイナンス・リース取引は経済取引の一種である以上、その法的性質を検討するにあたっては、企業会計上の取扱いを理解することが不可欠であ
した時点でリース物件の所有権はリース会社から再生債務者へ移転するとの条項が設けられることも尐なくない。すなわち、リース契約を解約して新たな別除権協定を締結する場合には、従前のリース契約は、所有権留保を伴う割賦販売類似の契約として再構築され、リース物件の所有権は非担保債権の弁済後もリース会社に残るとの原則は、ここでも貫徹されていないのである。
このように、所有権説は、実務にも受け入れやすい見解である。
⑶ リース会社の所有権の相対化
ファイナンス・リース契約については、そ の金融取引としての性格から賃貸借契約とは 異なる効果が判例上認められてきているとこ ろであり(リース会社は、ユーザーの債務不 履行を理由として物件の返還を受けたときで も、リース期間全部についてのリース料債権 を失うものではない13。また、リース会社は、 リース物件の使用が不可能になったとしても、これがリース会社の責めに帰すべき事由によ るものでないときは、ユーザーにおいて月々 のリース料の支払を免れるものではない14)、そうすると、倒産処理手続の場面においての み、にわかにその賃貸借契約類似の側面を強 調してリース会社が完全な所有者であると解 することは妥当でない15。
また、非典型担保の一つである譲渡担保や所有権留保は、いずれも形式的には債権者が所有者であるものの、実質的には債務者が所
ると述べており、リース物件をユーザーの資産と
して計上する企業会計の実務を重視する見解を示している。
11 国際会計基準(IFRS)が現在検討している改定案では、物件の「使用権」を資産とし、リース料の支払義務を負債として計上する考え方が取り入れられているようである(日経新聞 2009 年 10 月 10 日朝刊)。このように、今後ユーザーの資産に計上されるものが、リース物件自体ではなく利用権であると再構成される可能性もある。
12 全国倒産処理弁護士ネットワーク編「倒産手続きと担保権」164 頁。
13 最高裁昭和 57・10・19 第二小法廷判決
14 最高裁平成 5・11・25 第xx法廷判決(金融法務事情 1395 号 49 頁)
15 前掲の東京地判平成 15・12・22(金融法務事情 1705 号 50 頁)は、判決理由中においてこのように述べ、リース会社の所有権は完全なものではないことを理由にリース料債権を別除権と判断したが、担保権の目的についてはリース会社に所有権が帰属することを理由に利用権説に立っている。このように所有権の帰属について技巧的な説明を要する点が、利用権説の課題といえよう。
有者であるとして、倒産手続においては目的物の所有権を担保とする別除権として取り扱う解釈運用が定着している16。当事者間において、所有権がいずれに帰属するかという合意があったとしても、それが経済取引上の実態と異なる場合、倒産手続の場面においては、実態に即した解釈が採用されてよい。
さらに、ファイナンス・リースの類型の中にも、リース物件の所有権がユーザーに移転することが予定されているものも存在しており、リース契約と所有権留保を伴う与信取引との区別は相対化しているのである。
⑷ 債務者の責任財産の確保
リース物件の所有権が終始リース会社に帰属するという法的性質の根拠は、リース会社とユーザーとの間の合意に求められる。すなわち、リース契約により、所定のリース料を支払った後もユーザーがリース会社に返還を求めないという合意がある結果、リース物件の所有権は終始リース会社に帰属することになるのである。
しかし、ユーザーが支払不能状態となり全債権者のために責任財産の保全が求められる倒産手続の場面においては、契約自由の原則は必ずしも妥当しない。私人間の合意によって、債務者の資産を責任財産から除外することはできず、リース物件の所有権の所在は、取引実態に合わせて検討する必要がある。
このように、平常時において、リース物件の所有権を当事者の合意によって終始リース会社に帰属させることと、民事再生などの倒産手続において、リース物件を債務者の責任財産として把握することは、必ずしも矛盾するものではないと考える。
近時、ファイナンス・リース契約中のユーザーについて民事再生手続開始の申立があっ
力が争われた事案において、原審が、利用権 説に立ったうえで、このような特約に基づく 解除を認めると「再生債務者の事業又は経済 生活の再生を図ることが困難となる」ことを 理由に上記解除特約は無効であると結論付け たのに対し17、最高裁は、「ファイナンス・リ ース契約におけるリース物件は、リース料が 支払われない場合には、リース業者において リース契約を解除してリース物件の返還を求 め、その交換価値によって未払リース料や規 定損害金の弁済を受けるという担保としての 意義を有する」ものであり、上記解除特約に よる解除を認めることは「このような担保と しての意義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、民事再生手続開始前に債務者の責任財産から 逸出させ、民事再生手続の中で債務者の事業 等におけるリース物件の必要性に応じた対応 をする機会を失わせることを認めることにほ かならない」ことを理由として、原審の判断 を結論として是認している18。
原審が、再生債務者のリース物件に対する利用権を確保する必要性に着目して解除特約を無効と判断したのに対し、最高裁は、担保権の内容を、リース物件の交換価値(処分)によって弁済を受けるものと捉えており、利用権説に立つものではないと思われる(利用権説では、リース物件の利用権がリース会社に帰属することによって同利用権は混同により消滅し、同時に担保権の実行は終了すると考えられており、リース物件の換価は担保権の実行行為に含まれない)。さらに、上記最高裁判決は、リース物件が、リース会社にとっては担保としての意義を有するにすぎない反面、再生債務者にとってはその責任財産に含まれることを明確に述べており、所有権説の
たことを契約の解除事由とする旨の特約の効
17 東京高判平成 19・3・14(金融法務事情 1869 号 47 頁)
16 xxxx・xxxx編「条解民事再生法第 2 版」 224 頁以下
18 最高裁平成 20・12・16 第三小法廷判決(金融法務事情 1869 号 42 頁)
立場からリース契約当事者間の関係を把握しているものと考えるのが自然である。
⑸ 利用権説が抱える課題
利用権説は、リース会社が賃貸借契約における賃貸人のような完全な所有権を有するものではないとしてリース料債権を別除権と把握しながら、具体的な担保権の目的についてはリース会社の所有権を強調し、ユーザーが取得するのはリース物件の利用権にすぎないとする点において一貫性を欠く感がある。また、リース物件の利用権が用益物権であるか債権であるか明らかでないし19、債権と構成した場合には賃貸借契約との相違が明確でなく、リース会社が自らに対する債権(自己の債務)に対して担保の設定を受けると構成する点で極めて技巧的であり、リース契約当事者の合理的意思と乖離しているといわざるをえない。
⑹ 中止命令の実効性
利用権説を支持する近時の下級審判例は、再生債務者の事業の再生のためにはリース物件の継続使用を認めることが必要であることに配慮し、担保権消滅の許可や中止命令との関係で倒産解除特約が制限されることはあり得ると判示したり20、再生債務者の事業又は経済生活の再生を図ることが困難となることを理由に倒産解除特約自体が無効であると判示したりしている21。
しかし、具体的にどのようにして再生債務者がリース物件を確保できるのかが明らかにされていない。
すなわち、中止命令は、すでに係属し又は開始している担保権の実行手続を中止するもので、担保権の実行を事前に禁止する効力を
19 xxx「ファイナンス・リース契約と担保権消滅許可」(金融法務事情 1638 号 12 頁)
20 前掲・東京地判平成 15・12・22(金融法務事情 1705 号 50 頁)
21 前掲・東京高判平成 19・3・14(金融法務事情 1869号 47 頁)
有するものではない22。利用権説によれば、 リース会社による担保権の実行は、リース契 約の解除をもって完了するから(その後のリ ース物件の返還請求は、リース会社の完全な 所有権に基づくものとなる)、果たして再生債 務者に中止命令を求める機会が存在するのか、実効性に疑問がある23。
これに対して、所有権説によれば、リース会社による担保権の実行行為は、リース契約を解除するのみならずリース物件を引揚げることを要することから、再生債務者は、リース物件の返還前に中止命令を利用することによって、再生債務者との間の利害を調整することが可能となる。
⑺ 担保権消滅請求の実効性
前述のとおり、リース契約にも担保権消滅請求の類推適用を認めるべきであるが、本制度は別除権を対象として、事業の再生に不可欠な財産を保持する趣旨で設けられたものであるから、別除権の対象を判断するにあたっても、本制度を設けた趣旨を没却することのないような解釈がなされるべきである。
それでは、利用権説と所有権説のいずれが、担保権消滅請求制度の趣旨に適するであろうか。
ア 担保権消滅請求の行使時期について
担保権消滅請求は、担保権が存在している間に行使されなければならない。
利用権説によれば、リース会社がリース契約を解除することによって担保権の実行が完了することから、リース契約解除後は、再生
22 新注釈民事再生法(上)144 頁。
23 東京高判平成 18・8・30(金融商事判例 1277 号 21 頁)は、債権譲渡担保において、第三者に対する対抗要件具備行為である債権譲渡通知は「担保権の実行」に相当するものとして、裁判所は中止を命じることができるとした。このように担保権実行の着手前であっても中止命令を得ることができると解せば、利用権説によっても、リース会社がリース契約を解除する前に中止命令を申立てることができると思われる。
債務者はもはや担保権消滅請求を行使することはできないものと思われる。
これに対し、所有権説によれば、リース会社による担保権の実行は、リース会社がリース契約を解除して再生債務者よりリース物件の返還を受けて精算する方法によることになるため、再生債務者としてもリース物件を返還するまでは担保権消滅請求を行使することができることになろう。
イ 担保目的財産の価額について
担保権消滅請求を行うには、担保権の目的となった財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付しなければならない。この場合の価額は「処分価格」により評価することとされているが(民事再生規則 79 条 1 項)、その「処分価格」についても、所有権説によるか、利用権説によるかによって、評価方法が変わってくると思われる。
この点、利用権説によれば、目的財産の価額は、リース契約満了日までのリース物件の利用権となる。この利用権の処分価格を算定することは困難であるが、汎用性のある物件であれば当該価格は市場の平均的なリース料相当額となると考えられるのに対し、汎用性のない物件の場合には、ノミナルな価額にとどまる場合もあるとの指摘がある24。
また、利用権説によれば、再生債務者はリース料相当額、すなわち物件取得代金相当額を支払ったとしても、リース物件の所有権を取得することができず、リース契約期間満了と同時に物件返還義務を負うことになる。そして、利用権の処分価格が所有権の処分価格より低廉となるとは限らない。さらに、仮に約定のリース料よりも低廉な価額をもって担保権を消滅させたとしても、本来分割払いであったリース料を一括して支払うことにメリットがあるのか、汎用性のある物件であれば市場で再調達した方がよいのではないか等の
問題もあり、法が担保権消滅請求権を再生債務者に与えた意義を没却し、事業の再生に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。
これに対して所有権説によれば、目的財産の価額は、リース物件自体の処分価格となり、再生債務者はこの価格を支払うことによってリース物件について担保権の負担のない所有権を取得することができる。
ウ 担保権消滅請求の効果について
利用権説によれば、リース会社は、再生債務者のリース物件に対する利用権を担保取得しているものであるから、担保権消滅請求を行うことによって再生債務者には担保権の負担のない利用権が帰属することになる。但し、この利用権はあくまでリース契約に基づき発生した権利であることから、リース契約期間が満了すると消滅し、再生債務者はリース物件の利用権を失う。そして、再生債務者はリース会社より再リースを受けることができる保証はない。
これに対して所有権説によれば、リース会 社は、再生債務者が実質的に所有するリース 物件を譲渡担保ないし所有権留保と同様に担 保取得しているものであるから、担保権消滅 請求を行うことによって、再生債務者は担保 権の負担のない所有権を取得することになる。
再生債務者は、事業の再生に不可欠な財産を保持するために担保目的財産の価額を一括して支払うのであるから、所有権説によることが担保権消滅請求制度の趣旨に合致するものである。
エ 以上のとおり、担保権消滅請求を行使するにあたり、所有権説と利用権説との間には次のとおり相違が生じるものと思われる。
24 xxxxほか「詳解民事再生法」416 頁
所有権説 | 利用権説 | |
担保権消滅請求の 行使期限 | リース物件が返還されるま で | リース契約が解除されるま で |
リース期間中 | ||
目的財産 | リース物件自 | におけるリー |
の価額 | 体の処分価額 | ス物件の利用 |
権の処分価額 | ||
担保権消滅請求の効果 | リース物件の所有権は再生債務者に移転 する | リース物件の所有権は再生債務者に移転 しない |
この点、事業再生のためには、再生債務者が必要とする物件を確実に確保することが不可欠であり、リース会社の利益は、価額の当否について、担保権消滅請求の手続の中で考慮することが可能である。
したがって、担保権消滅請求の活用の場面においても、所有権説によった方が法の趣旨に適い、妥当な結論が導かれることになる。
3 小括
以上述べたとおり、リース物件は再生債務者の責任財産を構成し、リース会社にとってはあくまでも担保の意義しかないという実質が重視されるべきであり、再生債務者が物件の価額を支払えば、その所有権を取得できるという現実的にも妥当な結論を導く理論構成を取るべきである。
したがって、リース契約における別除権の担保目的については、所有権説によって解釈・運用することが妥当である。
第5 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約以外のリース契約について
1 リース料債権の性質
これまで、リース契約の典型例であるフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について、その性質及び担保権消滅請求の類推適用の可否について検討してきたが、それ
以外の類型のリース契約についても若干の検討を行いたい。
リース期間満了時に残価が設定されているノン・フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約は、リース会社がユーザーに対してリース物件の購入価格(及び諸費用)相当額の与信を行い、その一部をリース料にて回収し、残額については返還を受けたリース物件の売却代金から回収するものであり、実質的な金融取引である点においてフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約と異なるところはないから、リース料債務は契約の成立と同時に全額について発生しており、各月のリース物件の使用とリース料の支払とは対価関係に立つものではないと考える。このため、既に述べたとおり、ユーザー倒産時の未払リース料債権は、会社更生法においては更生担保権とされ、民事再生法においても別除権として取り扱われるべきものである。
これに対して、リース会社がリース物件に関する一定のメンテナンス義務を負う、いわゆるメンテナンス・リース契約については、双方未履行の双務契約としての性質を有するとして、リース料債権を共益債権とする取扱いも行われていたようである25。しかし、自動車のリース契約と同車両の整備を行う特約のように、尐なくともメンテナンスサービスの存在が当該リース契約の要素として不可欠なものでなく、メンテナンスサービス特約がファイナンス・リース契約に付加されているにすぎない類型のメンテナンス・リース契約については、ユーザーに金融上の便宜を付与するというファイナンス・リース契約の性質を未だ失っていないということができる。このため、未払リース料の全額を共益債権として取扱うことは、ファイナンス・リース契約と均衡を失するものである。
25 xxxxx「大阪地裁における再建型倒産処理の概況」(金融法務事情 1359 号 58 頁)
したがって、このような類型のメンテナン ス・リース契約については、メンテナンスサ ービスの対価部分にかかるリース料債権につ いてのみ双務契約の対価として共益債権とし、残額については別除権として取扱われるべき ものと考える。
2 担保権消滅請求制度の類推適用についてノン・フルペイアウト方式のファイナン ス・リース契約、メンテナンス・リース契約のいずれについても、与信としての実質に着目してリース料債権を別除権と解する以上、担保権の目的もフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約と同様に、リース物件の所有権と取扱うべきである。また、別除権である以上、前述のとおり、担保権消滅請求制
度の類推適用も認められるべきである。
なお、ノン・フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約において、リース物件が担保する被担保債権は、残リース料債権と同一ではないことに留意する必要がある。リース会社のユーザーに対する与信総額はあくまでもリース物件の購入価格(及び諸費用)であり、リース料はその一部に対して設定されているに過ぎないからである。このため、残リース料がリース物件の価額を下回る場合でも、リース物件の価額(規定損害金と表記されていることもある)を納付することが必要である。
また、メンテナンス・リース契約について、メンテナンスサービスの対価にかかるリース料債権をリース物件が担保するかが問題となる。この点、メンテナンスサービスの対価にかかるリース料債権も期限の利益喪失の対象となることを前提に、リース物件はリース会社のユーザーに対する一切の債権を担保するものであるとして、メンテナンスサービスの対価にかかるリース料債権も被担保債権になるとの考え方も成り立ち得る。しかし、尐なくともメンテナンスサービスの提供とその対価の支払いがファイナンス・リース契約に付
加されているにすぎない類型のメンテナン ス・リース契約については、メンテナンスサ ービスは、本体のファイナンス・リース契約 に付加された別契約と考えるべきであるから、双方未履行であるメンテナンスサービスの対 価にかかるリース料債権は期限の利益喪失の 対象とならず、被担保債権にも含まれないと 考えるべきである。このため、再生債務者は、 リース物件の価額相当額を裁判所へ納付して 担保権を消滅させたとしても、メンテナンス の継続を望む限り、その対価を別途共益債権 として弁済することを要することになる。
第6 結語
今般、最高裁が、判決理由中の判断ではあ るものの、倒産手続においてはリース会社の リース物件に対する所有権も絶対的なもので はなく、リース物件は債務者の責任財産を構 成しうる資産であるとの理解を示したことは、リース会社が有する担保権の目的について利 用権説を採用しながら、担保権消滅請求など 債務者側が取ることができる対抗手段につい て明確な指針を示していなかった近時の下級 審判例の流れに重要な示唆を与えるものであ る。
リース会社が有する担保権の目的について所有権説を採用することにより、事業再生を図る債務者の利益と担保権者たるリース会社の利益とを、所有権留保など他の担保物権の処理と平仄を合わせて調整することが可能となり、実際の現場で債務者とリース会社との協議に基づき行われている別除権協定の実態や企業会計の実務とも整合することとなる。現在、債権法改正作業が進められており、 ファイナンス・リース契約も典型契約として明文化されるようであるが、倒産法上の取扱いも含めて、早期に実務の取扱いが統一され
ることを期待したい。
以 上