Contract
集合動産譲渡担保権設定契約書(参考例)解説書
使用上の留意点
1 本契約は、設定者として法人を想定しており、自然人を想定しておりません。
2 本契約は、借入人が設定者となることを前提としており、第三者が物上保証人として設定者になることを前提としておりません。また、本契約又は譲渡担保権に関して被担保債権に関する消費貸借契約上規定されている条項と重複する規定があり得るため、その場合の取捨や矛盾のないことの確認が必要になります。
3 本契約は、融資形態として証書貸付(タームローン)を前提としており、貸出基準額(ボロイング・ベース)を設定するタイプの融資(以下、「ボロイング・ベース型融資」という。)を前提としておりません。ボロイング・ベース型融資については、巻末に「参考資料」として解説を掲載するとともに、ボロイング・ベース型融資を前提とする場合に、条文に変更等の影響が想定される箇所については、該当する条項に解説を記載しております。
4 本契約は、相対での貸付を前提としており、シンジケートローンのように貸付金融機関兼担保権者が複数になる場合を前提としておりません。
5 本解説で使用される用語については、経済産業省が発行する借り手向けテキスト「在庫や売掛債権を活用しよう ABLのご案内 在庫や売掛債権を活用した新たな資金調達の方法」(以下、「ABLのご案内」)、貸し手向けテキスト「動産・債権等の活用による資金調達手段 ~ABL(Asset Based Lending)~ テキスト 金融実務編」、 ABLテキスト一般編「動産・債権担保融資(ABL)の普及・インフラ構築に関する調査研究 テキスト編」等の各種テキストを参照してください。
目次
前文 1
第 1 条 (被担保債権の表示) 2
第 2 条 (本件譲渡担保権の設定) 3
第 3 条 (引渡し) 4
第 4 条 (動産譲渡登記) 5
第 5 条 (明認方法) 6
第 6 条 (甲による本件譲渡動産の管理及び処分等) 7
第 7 条 (損害保険契約の締結) 9
第 8 条 (甲による表明・保証) 10
第 9 条 (甲による表明・保証違反の効果) 13
第 10 条 (資料の提出) 14
第 11 条 (面談) 16
第 12 条 (実査) 17
第 13 条 (遵守事項) 19
第 14 条 (権利主張等がなされた場合の通知) 23
第 15 条 (質問に対する回答) 24
第 16 条 (増担保) 25
第 17 条 (期限の利益の喪失) 26
第 18 条 (本件譲渡動産の処分権限の消滅) 28
第 19 条 (本件譲渡動産の引渡し等) 29
第 20 条 (資料の提出) 31
第 21 条 (本件譲渡動産の処分) 32
第 22 条 (本件譲渡動産の甲による譲渡) 33
第 23 条 (本件譲渡担保権の放棄) 34
第 24 条 (通常実施xxの許諾) 35
第 25 条 (本件場所についての使用貸借契約) 36
第 26 条 (物xx位権の行使) 37
第 27 条 (地位の譲渡) 38
第 28 条 (守秘義務) 38
第 29 条 (通知) 38
第 30 条 (費用) 39
第 31 条 (準拠法) 40
第 32 条 (管轄裁判所) 40
第 33 条 (xxx) 40
第 34 条 (xx証書の作成) 40
別紙 「担保動産の表示」
参考資料 「ボロイング・ベース型融資について」
前文
▲▲▲株式会社(以下「甲」という。)と株式会社●●銀行(以下「乙」という。)は,甲が乙に対し負担する債務を担保するため,xが有する動産につき譲渡担保権を設定するべく,以下のとおり取り決める(以下「本契約」という。)。
【趣旨】
譲渡担保権の設定者(甲)と貸付金融機関である担保権者(乙)とが、設定者(甲)が有する動産に対して譲渡担保権を設定するために、本契約を締結することを記載している。
【解説】
本契約では、借入人が譲渡担保権の設定者であることを前提としている。本契約が想定している動産担保融資のスキームを下図に示す。
【留意点:借入人の関係者等が譲渡担保権を設定する場合について】
借入人の関係者等が物上保証人として譲渡担保権を設定する場合には、借入人が設定者であることを前提とした規定 1を修正して用いる必要がある。また、このような場合には、担保権者は、被担保債権に係る貸付契約その他の合意書等において、必要な事項 2を合意しておく必要がある。
図 本契約が想定している動産担保融資のスキーム
1 例えば、被担保債権の表示に関する第 1 条、設定者(甲)の表明・保証に関する第 8 条、設定者(甲)の遵守事項に関する第 13 条、本契約の違反が被担保債権の期限の利益喪失に結び付く旨の第 17 条等がある。
2 例えば、借入人に対する増担保請求の規定、本約の違反を被担保債権の期限の利益喪失に結び付ける規定等が含まれる。
第1条
(被担保債権の表示)
本契約によって設定される譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)により担保される債
権(以下「本件被担保債権」という。)は,甲乙間の平成●年●月●日付金銭消費貸借契約証書その他これに付帯して甲と乙との間で交わされる合意書等(以下,これらを総称して「貸付契約」という。)に基づき,乙が甲に対して貸し付ける金●●●円の貸付元本債権及びこれに付帯する
利息・損害金その他一切の債権とする。
【趣旨】
本条は、被担保債権が、特定の金銭消費貸借証書等に基づく貸付元本債権、付帯する利息・遅延損害金その他の債権(証書貸付による特定債権)であることを規定している。
【留意点1:包括的な被担保債権の定めによる契約の有効性について】
「担保権者(乙)が設定者(甲)に対して現在及び将来有する一切の債権」といった包括的な被担保債権の定めによる契約は有効性に議論があることに留意する必要がある。
【留意点2:根譲渡担保となる場合について】
当座貸越やコミットメントライン 3による取引 4を前提として、融資枠(額)を担保対象物の評価額の変動に連動させる仕組み(ボロイング・ベース型融資)とする場合には、予め貸出基準額
(ボロイング・ベース)等に関する合意書類を作成する必要がある 5。なお、この場合には、いわゆる根譲渡担保として、根抵当権に関する取り扱いに準じて、被担保債権については、①極度額 6、②債権の範囲(債権発生の原因となる契約書等を列挙)を規定するのが通常である。
民法には根譲渡担保について直接xxの規定はないが、根抵当権に関する民法上の確定請求に準じて担保権者による確定請求に関する規定を置くこともある。担保権者がコミットメントライン契約上貸付実行義務を負担しているにもかかわらず、被担保債権について元本の確定が行われた場合には、担保権者は当初想定していた担保権による債権保全を実現できないこととなる。そのため、設定者による確定請求を禁止する規定や確定請求が行われたことを期限の利益の喪失事由とする規定が置かれることもあるが、その有効性については議論がある。
3 コミットメントラインとは、一般に、一定の期間において貸付金額の上限の範囲であれば、借入人が貸付金融機関に対していつでも貸付の実行を求めることができることを約した契約に基づく取引を意味する。
「ABLのご案内」p30 参照のこと。
4 リボルビング型の取引を想定している。
5 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
6 コミットメントライン契約等、被担保債権の発生原因となる契約に明確に極度額、貸出基準額が定められている場合には、②債権の範囲を規定することでこれを兼ねる扱いとすることが多い。極度額については、
「ABLのご案内」p30 参照のこと。貸出基準額については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第2条
(本件譲渡担保権の設定)
甲は,乙に対し,前条に定める債権を担保するため,本日,別紙記載の保管場所(以下「本件場
所」という。)に現在保管し,将来搬入する別紙記載の種類に属するすべての動産(以下「本件譲渡動産」という。)を譲渡した。
【趣旨】
本条は、第 1 条に規定した被担保債権を担保するために、譲渡担保権を設定したことを規定している。
【解説】
譲渡担保権のうち、倉庫内の在庫のように入出庫により変動を繰り返す集合動産を担保対象動産とする譲渡担保権を設定する場合、担保対象動産の範囲を、動産の①種類、②所在場所、③量的範囲等によって特定する必要がある 7。
担保対象動産の範囲の特定性は、これらの諸要素を総合的に考慮して判断されるため、個々の要素について、どの程度具体的に規定していれば足りるかは具体的事案によるが、実務上は疑義を挟まないためにも、個々の要素についてできる限り具体的な規定とするのが望ましい。
① 種類
動産の種類とは、当該動産の性質・形態等、共通の点をもつものごとに分けたそれぞれの類型をいうところ、個別事案にもよるが、包括的な規定(例えば、原材料、家財、金属製品)は避け、可能な限り、品目レベルでの具体的な規定(例えば、コーヒー豆、箪笥、ネックレス)とするのがよい。
② 所在場所
所在場所については、当該動産の保管場所を所在地等によって特定する。動産譲渡登記との関係では文字により所在場所を特定することが必要であるが、譲渡担保権を実行する場面における執行を容易にするために、住宅地図、測量図面、建築図面、写真等を併用することも考えられる。
③ 量的範囲
保管場所内の一定量とした場合に、客観的な標識等が特別に施されているような場合を除けば、どの部分が譲渡担保権の対象であるかが判然とせず、特定性に欠けるとされるおそれもある。そ こで、実務上は、特定の保管場所における特定の種類の動産の「すべて」を譲渡担保権の対象と することが多い。
【留意点:対抗要件に動産譲渡登記を用いる場合について】
集合動産譲渡担保の対抗要件 8に動産譲渡登記を用いる場合には、登記実務に応じた担保対象動産の特定が必要になることに留意する必要がある。
7 構成部分の変動する集合動産であっても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の対象となりうる、とするのが判例(最判昭 54.2.15)の考え方である。
8 「対抗要件」とは、当事者間では効力の生じた権利関係を主として第三者に主張するために必要とされる手続、要件のことである。ABLで主に使われるのは譲渡担保であるが、担保権者が、譲渡担保によって移転された動産や債権から優先して債権を回収できる権利を第三者に主張するためには、動産や債権が譲渡担保に関する契約によって設定者から担保権者に移転したことを第三者がわかるようにしておく必要がある。
(このことを、担保のためにされた譲渡について第三者対抗要件を具備する、という。)「ABLのご案内」
p30 参照のこと。
第3条
(引渡し)
1. 甲は,乙に対し,本件譲渡動産について,本日,占有改定の方法により引渡しを完了した。
2. 甲と乙は,本件譲渡動産のうち将来本件場所に搬入される動産についても,甲が直接占有する動産につき第1項の占有改定の方法による引渡しがなされているものとする。
【趣旨】
本条は、民法上の対抗要件を具備するために、「占有改定」の方法により引渡しがなされることを規定している。
【解説】
(第 1 項)
在庫等の設定者の営業用動産に対して譲渡担保権を設定する場合には、譲渡担保権の設定後も担保対象物の現実の占有 9を設定者(倉庫業者等設定者以外の者が占有している場合には当該倉庫業者等)に残す必要がある。本契約では、担保対象物となる動産を設定者が直接占有している場合を想定して、「占有改定 10」の方法により引渡しを行うことを規定している。(これに対し、倉庫業者等設定者以外の者が担保対象物を直接占有している場合には、「占有改定」ではなく、
「指図による占有移転 11」の方法を用いることになる 12。)
(第 2 項)
集合動産譲渡担保権を設定する場合には、動産の①種類、②所在場所、③量的範囲等によって担保対象動産の範囲が特定され、本契約の締結後新たに当該場所に搬入された当該種類の動産についても、搬入された時点で担保権の効力が及ぶことが想定されている。当該搬入された動産に関する対抗要件具備の時点については議論のあるところであるが、本契約では、当該搬入された動産についても譲渡担保権の設定時に行われた引渡しの時点で対抗要件が具備されているとの考え方に沿った規定としている。
【留意点:権利が競合した場合について】
権利が競合した場合の優劣は、対抗要件具備の先後によって決定されることから、対抗要件具備の時期を明確にするために、本契約に基づき引渡しが完了したことを明確にするために本契約書締結直後に確定日付を得ておくことが多い。本契約では、第 4 条の通り動産譲渡登記を重ねて行うこととしているが、少なくとも占有改定又は指図による占有移転による対抗要件具備を行うのが一般的である。
9 「現実の占有」とは、対象となる物を現実に支配しているという状態をいう。「ABLのご案内」p30 参照のこと。
10 「占有改定」(民法第 183 条)とは、動産を占有している A が B に動産を譲渡する場合に A が今後は B のために占有すると相手に意思表示をすることによって B に占有を移転させることである。占有改定による場合には、自分が占有している物について、それ以降は相手のために占有するという意思を表示すればよく、物自体は自分の手元に残りながら相手が占有者となる。(占有改定がなされた場合には、もとの占有者は新たな占有者の占有代理人となる。)「ABLのご案内」p30 参照のこと。
11 「指図による占有移転」(民法第 184 条)とは、A の動産を C が占有しているときに、A が C に対して今後
B のために占有することを指図し、B がこれを承諾することによって B に占有を移転させることである。
12 この場合、倉庫業者等が未払いの保管代金・出庫費用等の支払請求権に関して商事留置権を有し得るため、担保権者の譲渡担保権との競合が問題となり得ることに留意する必要がある。
第4条
(動産譲渡登記)
1. 甲と乙は,甲の費用にて本契約締結後直ちに本件譲渡動産の全部について,動産及び債権の譲
渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に基づき,存続期間を〔●〕年とする動産譲渡登記を行うものとし,相互にその手続に協力する。登記の任意的記載事項その他の細目事項については,乙が別途定めるものとする。
2. 甲は,乙に対し,前項に基づき動産譲渡登記手続が完了したときは,速やかに当該動産譲渡の事実が記載された登記事項証明書,及び,甲を譲渡人とする全ての動産譲渡の概要が記載された登記事項概要証明書を提出するものとする。
3. xは,乙から請求のあったときは,第1項に定める動産譲渡登記の延長登記に協力するものと
する。
【趣旨】
本条は、民法上の対抗要件(占有改定)に重ねて、特例法 13上の対抗要件を具備するために、動産譲渡登記がなされることを規定している。
【解説】
(第 1 項)
動産譲渡登記について即時取得 14(動産譲渡担保権の即時取得を含む。)を排除する制度的効力が認められていない。しかし、譲受人が金融機関等の場合は、登記を確認しなかったことへの過失が認められ、即時取得(動産譲渡担保権の即時取得を含む。)が認められない可能性がある。そのため、本契約では、第 3 条に規定する民法上の対抗要件具備(占有改定や指図による占有移転)に重ねて、登記による対抗要件具備及び公示を行い、権利者であることを主張し、紛争を予防する目的で動産譲渡登記も具備することとしている。
なお、動産譲渡登記の存続期間は、原則最長 10 年間であるが、例外として特別の事情がある場合(例えば、在庫の証券化、被担保債権の返済期間が 10 年を超える長期融資の場合等)には、 10 年を超えて存続期間を定めることができる(特例法第 7 条第 3 項)。そこで、通常は、被担保債権の返済期間等を考慮して必要な存続期間の動産譲渡登記を具備することとなる。
(第 2 項)
登記完了後に登記の内容確認等を行うため、登記事項証明書の提出を義務づけている。設定者を譲渡人とする全ての動産譲渡の概要が記載された登記事項概要証明書を提出するのは、本契約に基づく譲渡担保権以外に第三者への譲渡又は譲渡担保権の設定がなされていないことを確認するためである。担保権者としては、本契約の締結前にこのような確認を行っておくべきであるが、そのような事前確認の後、登記完了時までの間に第三者への譲渡又は譲渡担保権の設定がなされていないことを確認するため、事後的にも提出を求めるものである。
【留意点:第三者が登記手続中である場合について】
現在、登記事項証明書等の各種の証明書は、前執務日までの登記の有無・内容を証明するにとどまるため、登記事項証明書等を取得しても、申請時に第三者が登記手続中であり、登記がなされる可能性は否定されない。そのため、申請時若しくは完了後に、登記上に先行する担保権の存在が判明し、劣後する可能性があるため、注意が必要である。
13 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
14 「即時取得」(民法第 192 条)とは、取引行為により、平穏かつ公然に動産の占有を始めた者が善意・無過失であるときは、即時に所有xxを取得する制度である。
第5条
(明認方法)
1. 甲は,本件場所において,甲の費用にて本件譲渡動産が全て乙の所有に属することを公示する
明認方法を施すものとする。明認方法の具体的方法,様式等は,乙が別途定めるものとする。
2. 前項の定めにかかわらず,乙が甲に対し,明認方法を留保する旨を通知したときは,甲は,その通知に定められた範囲において,明認方法を施すことを要しないものとする。乙がかかる留保を解除した場合には,甲は速やかに明認方法を施すものとする。
3. 前二項の定めに基づき甲が明認方法を施さなければならない場合であるにもかかわらず,甲がこれを施さないときは,乙は自ら明認方法を施すことができる。乙が自ら明認方法を施すときは,甲は,乙に対し,鍵の交付,暗証番号の開示等乙が本件場所に立ち入るために必要な措置を講じなければならない。
4. 甲は,本条の定めに基づき施される明認方法を維持するものとし,乙の事前の書面による承諾
なくこれを破棄・抹消してはならない。
【趣旨】
本条は、第三者による担保対象動産の即時取得を予防するため、担保対象動産が全て担保権者(乙)の所有に属することを公示する明認方法 15について規定している。
【解説】
第 3 条に定める引渡しにより譲渡担保権の設定についての対抗要件が具備されたとしても、第三者により担保対象動産が即時取得された場合には、権利を喪失する。そこで本契約では、第三者に当該担保権の存在を認識させ、あるいは認識しなかったことについて過失があったとして、即時取得の成立を防止するため、明認方法を施すことを原則としている。ただ、必ずしも全ての場面で明認方法を施すことが現実的でない場合も多く、担保権者が設定者に対して明認方法を施すことを留保することも許容できる規定としている。
【留意点:明認方法を施す場合について】
明認方法は、第三者に当該担保権の存在を認識させるものであるため、担保対象動産の保管場所において目に付きやすい場所、大きさ等の表示方法には工夫が必要である。
例えば、対象動産に担保権者の所有物であることが記載されたシールを貼付し、また、対象動産が置かれている場所に担保権者の所有である旨のプレートを取り付けるなどによる方法が考えられる。
15 「明認方法」とは、民法等のxxの規定にはないものの、担保権者による譲渡担保権が設定されていることを表示することにより認められる公示の方法である。
第6条
(甲による本件譲渡動産の管理及び処分等)
1. 甲は,本件譲渡動産を善良なる管理者の注意義務をもって,乙のために無償で管理するものと
する。
2. 乙は,甲に対し,甲が本件譲渡動産の全部又は一部を通常の営業の範囲に限り,自ら使用し,又は第三者に相当価格で譲渡することを認める。
3. 甲は,前項の定めに基づき本件譲渡動産の全部又は一部を第三者に譲渡したときは,その譲渡
代金を乙に開設する甲名義の銀行口座において入金,管理しなければならない。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)が事業を継続するため、担保対象動産を通常の営業の範囲で使用・譲渡し得ることを規定し、併せて設定者(甲)の担保対象動産の管理についての善管注意義務等について規定している。
【解説】
ABLにおける集合動産譲渡担保においては、担保対象動産として、設定者がその事業サイクルの中で現在及び将来保有する原材料、半製品、商品、製品等が対象となる。譲渡担保権の設定により、法的には、担保権者に担保対象動産の所有権は移転するため、通常時においては、譲渡担保権の設定にかかわらず、設定者が、その事業サイクルの中で、担保対象動産を管理し、使用し、又は、処分することを認めておく必要がある 16。
(第 1 項・第 2 項)
担保権者としては、一定の担保評価のもとに、貸付を行っているため、保全回収の利益を損なわないように、設定者に対して、担保対象動産の管理について善管注意義務を課すと共に(第 1項)、使用・処分について通常の営業の範囲 17に限り、かつ、相当価格での譲渡に限るといった制限を設けている(第 2 項)。
第 2 項のとおり、設定者は、通常時においては、担保対象動産を通常の営業の範囲で第三者に相当価格で譲渡することが許容される。
(第 3 項)
担保対象動産の譲渡代金を担保権者に開設される銀行口座においてxx的に管理することを規定したものである。このようにすることにより、本契約に基づき製品等の動産を担保対象とし、債権譲渡担保権設定契約書に基づきそれを売却した際の売掛債権等の債権を担保対象とすることと併せて、事業サイクルに沿った資産価値の把握が可能となる。また、このような口座の管理は、担保権者にとって、相殺による回収への備えとなるとともに、設定者の主要な流動資産の販売状況、ひいては財務状況を把握し、また、「通常の営業の範囲」で売却が行われているかを確認するための一助ともなる。なお、通常の営業の範囲で担保対象動産が譲渡される場合の決済方法(銀行振込、約束手形、現金・小切手、クレジットカード、電子債権等)に応じて、譲渡代金の取扱い(管理口座への入金方法、手順等)を定めることも多い。また、このような管理口座に対して質権を設定することもあり得る。
【留意点:「通常の営業の範囲」について】
「通常の営業の範囲」に従った使用・処分であるか否かについて明確な基準はないが、例えば、処分については、売却する数量・売却先・その時点での設定者の信用状況、従前の取引状況や取
16 担保物の性質によって、事業サイクルにおける用途は様々であるため、性質に応じた表現の工夫があり得る。例えば、半製品である場合に「加工」といった表現等。
17 設定者にその通常の営業の範囲内で譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されていることに言及する判例(最判平 18.7.20)の考え方に反するものではない。
引慣行等から総合的に判断することになると考えられる。
一例として、閉店セールのような販売形態は、商品の販売後に同種の商品が補充されることは想定されておらず、一般的には「通常の営業の範囲」に従った処分とは言い難い場面が多い。一方、一時的に売却する数量が増えるとしても、歳末セールのようなものについては、設定者の業種・業態によっては、「通常の営業の範囲」に従った処分と言えるケースが多いと思われる。どのような使用・処分が「通常の営業の範囲」内のものであるかについてはxx的ではないため、当事者間で判断が分かれ、争いの原因となりやすい。
そこで、例えば、①事前に売却を許容する売却金額や数量等で線を引き、それを超える処分については事前に担保権者の同意を要することとする、あるいは、②設定者の事業計画について担保権者と設定者との間で予め、合意し、これに従わない処分については事前に担保権者の同意を要することとする、といった手段が取られることもある。いずれにしても、事前あるいは期中において、どのようなものが「通常の営業の範囲」に従った使用・処分に該当するものであるかを、具体的に、担保権者と設定者との間で共通の理解として形成しておくことが有用である。
また、「通常の営業の範囲」を超えるおそれがあるような使用・処分を行おうとするときは、設定者は事前に担保権者と相談すべきことになろう。
第7条
(損害保険契約の締結)
1. 甲は,乙が必要と認める場合には,本件譲渡動産につき,乙の承諾する条件で損害保険契約を
締結する。損害保険契約の保険料その他の費用は甲の負担とする。
2. 乙は,権利保全のため,甲に代わって損害保険契約を締結することができる。乙が,必要な損害保険契約を締結し,保険料その他の費用を支払った場合には,甲は乙の請求に基づき,乙が支払った保険料その他の費用を直ちに乙に支払わなければならない。
3. 甲は,乙の事前の書面による承諾のない限り,本条に記載する損害保険契約を解約し,又はその内容を変更してはならず,また,更新しなければならない。
4. 甲は,乙に対し,第 1 項に定める損害保険契約に基づく保険金支払請求権に,乙を質権者とし,本件被担保債権とする質権を設定する。ただし,乙が甲に対し,かかる質権の設定を留保する旨を通知したときは,甲はその通知に定められた範囲において質権の設定を要しないものとし,乙がかかる留保を解除し質権の設定を要請した場合には,甲は速やかに当該保険金支払請
求権に質権を設定しなければならない。
【趣旨】
本条は、担保対象動産が消滅、毀損する場合に備えるため、設定者(甲)が損害保険をxxすること、及び権利保全のために担保権者(乙)が設定者(甲)に代わり自らxxすることができること、保険金支払請求権に対して質権を設定すること等を規定している。
【解説】
担保対象動産が火災等により消滅し、毀損してしまった場合には、担保としての目的が損なわれることから、担保権者は、設定者に対して、担保対象動産について損害保険をxxすることを求めることが多い。
本契約では、担保権者が必要と認める場合に、設定者が損害保険をxxすること、及び権利保全のために担保権者が設定者に代わって自らxxすることができることを規定している。保険料その他の損害保険に関する費用は、設定者の負担とすることが実務上多いため、本契約ではそれに倣って設定者の負担としている。
担保対象動産の消滅や毀損に備えて、損害保険をxxする場合、保険金の支払について担保権者が優先権を確保するために、保険金支払請求権に対して質権を設定することが多い。そこで、本契約では、原則としてこのような質権を設定することとし、個別のケースに応じて担保権者がこれを留保できる規定としている。
第8条 (甲による表明・保証)
1. 甲は,乙に対し,以下の事項が本契約締結日においてxxに相違ないことを表明し,保証する。
(1) 甲は,日本法の下に適法に設立され,かつ現在も有効に存在する〔法人〕である。
(2) 甲は,本契約及び貸付契約に定められている規定を遵守・履行するのに必要な法律上の完全な権利能力及び行為能力を有している。
(3) 本契約及び貸付契約は,適法,有効かつ拘束力のある甲の債務を構成し,その条項に従い,甲に対する強制執行が可能である。
(4) 甲は,法令及び定款その他の内部規則に従い,本契約及び貸付契約に基づく甲の義務を履行するために必要な全ての手続を完了している。
(5) 本契約及び貸付契約に基づく甲の義務の履行に重大な悪影響を与え,若しくは与えるおそれのある判決,決定若しくは命令は存せず,かつそのような訴訟,裁判,調査その他の法的手続又は行政手続も存しない。
(6) 甲は,本契約及び貸付契約により甲の債権者を害する意図を有するものではない。
(7) 甲は,支払不能,支払停止又は債務超過に陥っておらず,本契約及び貸付契約に基づく取引をすることにより,支払不能,支払停止又は債務超過に陥るおそれはない。
(8) 甲に対し,破産,民事再生,会社更生,特別清算その他の法的整理手続又は私的整理手続は開始されておらず,かつその申立てもなされていない。
(9) 甲が作成する計算書類及び附属明細書等は,日本国において一般にxx妥当と認められている会計基準に適合しており,正確かつ適法に作成されている。
2. 甲は,乙に対し,以下の事項が本契約締結日においてxxに相違ないことを表明し,保証する。
(1) 本件譲渡動産は,甲が適法に所有し,占有しており,第三者との間で,所有権・占有xxに関する訴訟,調停,仲裁その他の法的手続又は紛争解決手続は一切存在しない。
(2) 本件譲渡動産には,法定担保物権を除き,用益物権,担保物権その他本件譲渡担保権を害するような第三者の権利関係は存在せず,また,差押え,仮差押え,滞納処分その他の乙の本件譲渡担保権の行使を阻害する法律関係及び事実関係は存在しない。
(3) 本件譲渡動産は,第三者が有する特許権,実用新案権,商標権,意匠権,著作xxの知的財産権その他の権利を侵害するものではない。
(4) 本件譲渡動産の所有,取得及び権利行使について,所轄行政機関より取得すべき全ての許可,認可,承認,確認等は取得されており,かつ現在も有効である。
(5) 本件譲渡動産につき,その品質,保存状態及び性能等に何らの物理的瑕疵及び法律的瑕疵は存しない。
(6) 甲は,本件場所について,本件譲渡動産を使用,管理するために必要な使用権限を適法かつ有効に有している。
(7) 本件場所以外に,別紙記載の種類に属する動産を保管する事務所,工場,倉庫,物流センター等の保管場所は存在しない。
(8) 甲が,既に開示した資料の内容はxxかつ正確なものであり,重要なものを欠くものではない。
3. 甲は,乙に対し,前二項に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したときは,直ちに書面により通知しなければならない。
【趣旨】
本条では、設定者(甲)が表明・保証を行うべき契約締結の前提となる基本的事項について規定している。
【解説】
(表明・保証の意義等)
契約上の表明・保証の性質については議論があるが、一般には契約の前提となる事項を確認す
ることにより、これがxxと異なる、又は不正確であった場合に、それにより生じるリスクを表明・保証を行った当事者に負担させようとするものであると理解されている。したがって、表明・保証は、対象となる事項がxxでないリスクをいずれの当事者が負担するかという問題であり、当事者のいずれもがそのxx性・正確性を確認することのできない事項であるとしても、表明・保証の対象となり得る。
もっとも、表明・保証を行う当事者は、その対象となる事項がxxでないリスクを負担することになるから、これがxxであり、かつ、正確なものであることを十分に確認しておく必要がある。
本契約においても、表明・保証がxx又は正確でないことが判明した場合には契約違反に該当し、また、損害補償の対象となるから(第 9 条)、挙げられた事項に関してxxに反するものがあれば、表明・保証を行う設定者は、事前にそれを是正したり、また、担保権者に開示し、協議するなどの必要がある。他方、本契約では、前提となる事項がxxに反する場合(例えば、設定者が担保対象動産を保有していないなど)に担保権が無効となることもあり得る。そのため、貸付が実行された後では、表明・保証の違反として契約違反に該当し、損害の補償請求の対象となるだけでは、担保権者としては本来予定していた譲渡担保権による回収を図ることができないなど、表明・保証条項を設けるだけでは不十分である場合もある。そこで担保権者としても、貸付及び担保権の取得に際しては、事前に、必要に応じて前提となる事項について設定者と協議し、確認しておく必要がある。
表明・保証の基準時については、「本契約締結日」に加えて「貸出実行日」等、別の時点を規定することもある。
(第 1 項 設定者に関する事項)
譲渡担保権が有効に設定されるためには、設定者が本契約や貸付契約の締結権限や能力を有していること、設定者による本契約や貸付契約の締結等が詐害行為取消、否認等の対象にならないこと等、設定者が契約を締結する前提となる諸条件を備えていることが必要になるから、設定者に関する事項について表明・保証が行われるのが通例である。そこで、本契約においても設定者に関する基本的な事項を規定している。
なお、本契約は被担保債権の債務者が譲渡担保権の設定者となることを前提としているため、貸付契約に関する表明・保証を合わせて規定しているが、第三者が設定者となる場合には、貸付契約に関する表明・保証を規定するためには別途貸付契約、覚書等において担保権者と設定者との間で合意する必要がある。
(第 2 項 担保対象動産に関する事項)
譲渡担保権の設定を受けるにあたり、担保権者としては、対象となる動産が適法に譲渡担保権を設定できる動産であること、担保対象動産として担保権者が想定する価値を有すること等を必要とする。そこで、本項においても担保対象動産についてこれらに関する基本的事項を規定している。
すなわち、本契約では、一個一個の個別の動産ではなく、①種類、②所在場所及び③量的範囲によって特定される集合動産を担保対象動産としている。特に、倉庫内の在庫のように入出庫により変動を繰り返す担保対象動産の中には、仕入先との契約に所有権留保特約が付与されているもの、設定者が第三者からリースを受けたもの等、設定者の所有物でないものや、他人の権利が付着しているものが混在していることがある。そこで、各号において、以下を規定している。
⮚ 第(1)号・第(2)号
設定者が担保対象動産を適法に所有し、占有しており、それについて第三者の権利や争いがないこと等の表明・保証を規定している。
⮚ 第(3)号・第(4)号
担保対象動産が第三者の知的財産xxを侵害する場合、あるいは、所有等に関して必要な許
認可を欠いている場合には、譲渡担保権の設定を受けた担保権者の責任が問題になり得るほか、譲渡担保権実行時に適法に換価・処分できないという問題が生じ得る。そこで、本契約では、第三者の知的財産xxを侵害しないことや、必要な許認可を備えていることについて表明・保 証を規定している。
⮚ 第(5)号
担保対象動産が、その品質等について瑕疵がある場合には、そのような瑕疵がないことを前提に担保対象動産の評価をした担保権者が損害を被るおそれがあるため、担保対象動産について品質等について瑕疵がないことを規定している。
⮚ 第(6)号
集合動産譲渡担保権の場合には、担保対象動産を決定するために所在場所を特定する必要があるが、所在場所について設定者が権限を有していない場合には、所在場所の権利者から担保対象動産の撤去を求められ、あるいは、不法行為に基づく損害賠償責任を追及される可能性がある。そこで、本契約では当該所在場所について設定者が必要な使用権限を有していることを規定している。
⮚ 第(7)号
担保対象動産と同種類の商品等を保管する場所が契約に定められた場所以外に存在する場合には、当該場所に搬入される動産は譲渡担保権の対象にならないため、本契約では、担保対象動産と同種類の動産を保管する場所が、本契約で定めた場所以外に存在しないことを表明・保証として規定している。この場合、担保対象動産と同種類の動産を保管する場所が複数ある場合にはすべての場所を、本契約における譲渡担保権の対象動産の所在場所として規定することになる。これに対し、複数ある保管場所のうち、特定の保管場所における動産のみを譲渡担保権の対象とする場合には、第(7)号の規定は、保管場所が複数存在することを前提にした規定に修正して用いることになる。
⮚ 第(8)号
担保権者にとっては、対象となる動産が適法に譲渡担保権を設定できる動産であること、担保対象動産として担保権者が想定する価値を有すること等を事前に確認する必要があるが、そのために必要となる事項の多くは、設定者から開示を受けた情報に依拠せざるを得ないのが実情である。そこで、設定者が開示した情報のxx性等について表明・保証が規定されることが多い。第(8)号では、これについて規定しているが、開示された情報のうち些細な事項についての誤りが契約違反となるのは妥当でないことも多いことから、「『重要な点において』xxかつ正確なものであり」等と限定的な規定とすることもある。
第9条
(甲による表明・保証違反の効果)
1. 甲及び乙は,前条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明し
たときは,xによる本契約に定める条項の違反となることを確認する。
2. 乙は,甲に対し,前条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したときは,それにより甲に生じた損失,経費その他一切の損害についての補償を求めるこ
とができる。
【趣旨】
本条は、表明・保証違反が、本契約の違反となること、及び損害補償の原因となることを規定している。
【解説】
契約上の表明・保証の性質については議論があるが、表明・保証された事項に誤りがあり、又は不正確であった場合に、一般的に、直ちに民法上の債務不履行の効果が生じるとは解されていないため、本条にて契約違反となり損害補償の原因となることを規定している。
第10条 (資料の提出)
1. 甲は,乙に対し,毎月●日(銀行休業日の場合は翌営業日とする。)までに,前月末日を基準日とする保管場所別及び種類別の本件譲渡動産明細表を提出する。
2. 甲は,乙に対し,甲と乙が別途合意する時期に,以下の資料を提出する。
(1) 決算報告書(附属明細書を含む)及び税務申告書
(2) 最新の試算表
(3) 売掛債権に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・回収期間・回収方法その他の取引条件,売掛先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(4) 買掛金に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・支払期間・支払方法その他の取引条件,買掛先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(5) 前受金に関する資料(合計残高,取引先毎の明細・残高・支払期間・支払方法その他の取引条件,前受先の正式名称・郵便番号・住所・信用情報等)
(6) 本件譲渡担保権の目的となる動産を含む棚卸資産に関する資料(資料提出時の簿価,種類・品目,数量,型番形式,保管場所及び保管状況等)
(7) 受注残高に関する資料(合計残高・取引先毎の明細・残高・種類・品目等)
(8) 甲に賦課される公租公課及び社会保険料等の納付書・領収書等の写し
(9) 甲が取得した手形の手形債務者の経営状況及び財務状況に関する資料
(10) その他,xが提出を求めた経営状況及び財務状況に関する資料
3. 前二項に定めるほか,乙は,必要と認めるときは,甲に対し適宜前項各号に記載の資料及び当該資料の根拠となる証憑等の提出を求めることができる。かかる求めがあった場合,甲は,乙に対し速やかに当該資料の提出を行うものとする。
4. 前三項の資料の提出は,紙又は電子データにより行うものとし,資料の様式は甲の経理システム等を考慮しつつ乙が別途指定するものとする。なお,資料作成に費用を要するときは甲の負担とする。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするため、設定者(x)が担保権者(乙)に、担保対象動産に関する各種資料を提出することを規定している。
【解説】
ABLにおける集合動産譲渡担保は、被担保債務の弁済期が経過し、又は、期限の利益が失われた場合に、担保権者が担保対象動産を換価・処分 18して被担保債権の回収にあてる機能を有するとともに、担保を通じて、設定者が担保権者に対し、担保対象動産、売掛債権、買掛金等に関する情報を含め事業収益資産の情報を全面的に開示することで、担保権者が設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い。
本契約では、このような機能に着目し、担保対象動産に関する情報、設定者の決算資料、税務資料に加え、売掛債権、買掛金等、xxな資料の提出を求めることとしている。
【留意点1:提出資料の範囲、及び提出時期について】
個別の案件においては、設定者の通常の事業のあり方によって、本契約に挙げた全ての資料を
18 「換価・処分」とは、融資の返済が滞り、事業収入による返済の見通しも立たないような場合に、融資金の返済に充当するために、担保対象動産を売却することをいう。在庫の場合、通常の販売・商流とは異なる方法で売却することになるため、販売価格や簿価を下回る場合が多い。売り先は、小売店の場合の閉店セール、原材料の商社や同業者への売却、中古品の専門事業者への売却等、動産の種類やタイミング等によってさまざまである。「ABLのご案内」p30 参照のこと。
提示することが適当でない場合もあるから、提出を行う資料の種類、その内容、方法等について担保権者と設定者との間で事前に具体的に協議し、合意することが必要となる。また、本契約においては、各資料の提出時期については、別途定めることとしているが、契約において明示的に提出時期を定めることもあり得る。
【留意点2:ボロイング・ベース型融資の場合について】
提出書類に債務者自身が了承した貸出基準額(ボロイング・ベース)・期限前返済額等を示す資料 19
が追加されることがある。
19 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第11条 (面談)
1. 甲と乙は,甲と乙が別途合意する時期と場所において,甲の財務及び会計の状況並びに本件譲渡動産の管理状況等について確認するための面談を行うものとする。
2. 前項に定めるほか,乙は,自ら必要と認めるときは,甲に対し臨時に前項の面談を申し入れることができ,甲はこれに応じるものとする。
3. 前二項に定める面談において,xは,乙に対し,乙が事前に指定する甲の財務及び会計に関する資料並びに本件譲渡動産の管理状況等についての資料を開示し,これを交付するものとする。なお,開示及び交付の方法は,乙が定めるところによるものとし,資料作成に費用を要するときは甲の負担とする。
4. 乙は本条に基づく面談の全部又は一部を,乙が適当と認める第三者に委託することができるものとする。
5. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
6. 甲は,本条に定める面談を行うにあたり,乙の要請に応じ,甲のグループ会社及び関係会社に協力させるものとする。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が、設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするために、財務及び会計の状況、担保対象動産の管理状況等を確認することを目的として、面談を実施することを規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が担保の価値の増減や担保適格性を把握し、遵守事項の履行状況を確認することで、設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い 20。
本契約においては、第 10 条において、定期的な情報の開示を求めるとともに、第 11 条において財務及び会計の状況、担保対象動産の管理状況等の確認のために、面談の機会を設定することとしている。
20 リレーションシップバンキングの観点からは、資料の提出(第 10 条)(及び実査(第 12 条)と併せて、担保権者として設定者の事業をモニタリングすることに加え、設定者とのコミュニケーションを通じて、経営課題について洗い出し、改善点に関するアドバイスを行ったり、対策を協働で検討したりする機会とすることも考えられる。
第12条 (実査)
1. 乙は,甲が保有する本件譲渡動産を含む在庫の状況を把握するため,甲と乙が別途合意する時期に,当該在庫の保管場所へ立入り実査を行うことができるものとし,甲はこれに協力する。
2. 乙は,自ら必要と認めるときは,甲に予め通知の上,適宜前項に定める実査を行うことができる。
3. 乙は,本条に定める実査の全部又は一部を,乙が適当と認める専門家に委託することができるものとする。
4. 本条に定める実査は,甲の営業の妨げとならぬよう配慮して行わなければならない。
5. 甲は,本条に定める実査を行うにあたり,乙の要請に応じ,甲のグループ会社及び関係会社に協力させるものとする。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が、設定者(甲)の事業を継続的にモニタリングするため、担保対象動産の状況を把握することを目的として、実査を実施することを規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が担保の価値の増減や担保適格性を把握し、遵守事項の履行状況を確認することで、設定者の事業を継続的にモニタリングすることが企図されることが多い。
本契約においては、第 10 条において、定期的な情報の開示を求めるとともに、第 11 条において財務及び会計の状況、担保対象動産の管理状況等の確認のために、面談の機会を設定することとしている。もっとも、流動性のある在庫等については、その状況を適切に把握するためには、担保権者が受動的に情報の提供を受け取るだけでは不十分であることが多い。そこで、本条では、担保権者が、担保対象動産の状況を把握するために、保管場所に立ち入り、実査を行うことができることを規定している。
なお、実査は一般に以下を目的としている 21。
① 数量・金額・所有権・保管場所の正確性の確認
設定者から報告された動産の数量・金額・所有権・保管場所等の情報が、誤り・虚偽ではないことを確認する。なお、帳票突合等の計数上の確認作業に加えて、実際に設定者が行う棚卸に立ち会い、又は専門業者に委託して棚卸を行うこともある。
② 品質・換価性の確認
対象動産を実際に検分し、その品質・換価性等を確認する。専門業者に委託することでより詳細に把握し、担保権者による担保評価額等に反映させることも行われている。
③ 換価方法の把握と準備
上記①②がいかに正確に確認されていても、実際に物理的に担保対象物を確保し、換価するまでを具体的に想定・準備しておかなければ、担保としての実効性が損なわれる。担保権者が対象動産の保管場所に実際に定期的に立ち入り、対象動産の搬出経路等を把握し、有事の際の担保権者のアクションや換価方法について予め準備しておくことは重要である。また、保管場所の現場状況を写真・図面・コメント等を含む記録に残し、組織として継続的に保持・更新していくことが推奨される。業種毎に専門性を要することもあるため、予め専門業者との協働体制を構築して
21 リレーションシップバンキングの観点からは、資料の提出(第 10 条)及び実査(本条)を通じて明らかになった経営課題について、面談(第 11 条)において設定者と協議し、アドバイスや対策検討に活用することが考えられる。
いる金融機関も多い。
【留意点:実査に要する費用負担について】
実査には交通費・外部委託費用等の実費が伴う。費用負担が理由で担保権者にとって必要な実査を先送りすることのないよう、担保権者・設定者の間で、実査に要する費用負担について、予め明確に取り決めしておくことが望ましい。両者で合意した事象が生じ、担保権者が実査を要すると判断した場合には、実査費用は設定者の負担とするなどの取り決めがあり得る。
なお、本契約では第 30 条で設定者が費用を負担することとしている。
第13条 (遵守事項)
1. 甲は,乙に対し,以下の事項を遵守することを確約する。
(1) 本件譲渡担保権の設定により乙から借り受ける貸付金を,甲乙間で定める資金使途以外に使用しないこと。
(2) 甲の計算書類及び付属明細書等について,日本国において一般にxx妥当と認められている会計基準に従って適法かつ正確に作成すること。
(3) 毎決算期末時点での貸借対照xxの純資産の金額を●●●●円以上に維持すること。
(4) 毎決算期末時点での貸借対照xxの棚卸資産残高を当該決算期の平均月間売上高で除した棚卸資産の回転月数を●か月以内に維持すること。
(5) 上記のほか,甲乙間で合意された事項を遵守すること。
2. 甲は,乙に対し,以下の事項を遵守することを確約する。
(1) 本件譲渡動産の全部又は一部の所有,取得,処分その他の権利行使について,所轄行政機関より許可,認可,承認,確認等を必要とするときは,これらの行政手続を全て履践すること。
(2) 本件譲渡動産の全部又は一部の使用,処分等によって,第三者の特許権,実用新案権,商標権,意匠権,著作xxの知的財産権を侵害するおそれがあるときは,適法かつ適式に通常実施権(若しくは通常使用権)又は専用実施権(若しくは専用使用権)の設定,許諾を受けること。
(3) 本件譲渡動産の全部又は一部について,甲を権利者として特許権,実用新案権,商標権,意匠権,著作xxの知的財産権を取得しようとするときは,当該権利若しくは法的地位の取得,保全(対抗要件具備を含む。)等に必要な手続を適法かつ適式に履践すること。
(4) 本件譲渡動産の使用,品質維持,管理等に関して生じる公租公課を含む一切の費用を負担し,支払期限までに適切に支払うこと。
(5) 本件譲渡動産の価値を品質劣化,毀損,処分等により,設定時に比して著しく下回らせないこと。
(6) 本件譲渡動産を適切に管理,生産し,その品質,保存状態及び性能等に物理的瑕疵又は法律的瑕疵を生じさせないこと。
(7) 本件譲渡動産の全部又は一部について,乙以外の第三者に対する占有の移転,譲渡,用益物権の設定,担保物権の設定その他の処分をせず,又は通常の営業の範囲を超えて本件場所から搬出しないこと。ただし,乙の事前の同意があった場合,又は本契約の定めにより認められた場合はこの限りではない。
(8) 本件譲渡動産について,xが本契約の定めにしたがって第三者に譲渡した場合には,同種,同等の代替物を,甲の営業上相当の範囲で補充すること。ただし,別段の合意がある場合はこの限りではない。
(9) 本件譲渡動産を使用,管理するために必要な本件場所の使用権限を適法かつ有効に保持すること。
(10) 本件場所に,第三者が所有権,用益物権,担保物権その他の権利を有する本件譲渡動産と同種の動産を搬入,保管しないこと。
(11) 本件場所以外に別紙記載の種類に属する動産を保管する事務所,工場,倉庫,物流センター等を新たに取得し,若しくは借り受けず,又は本件場所の名称を変更しないこと。ただし,乙の事前の同意があった場合はこの限りではない。
(12) 本件譲渡動産の価値を維持するために必要な事業又は契約関係について,適法かつ適正に維持すること。ただし,乙の事前の同意があった場合はこの限りではない。
3. 甲は,前二項に定める事項について遵守することができないと判断したときは,直ちに乙に対して通知しなければならない。
4. 乙は,必要と認めるときは,本条に定める事項の遵守の有無について,甲の事務所,工場,倉庫,物流センター等に立ち入り,帳簿その他の書類の閲覧,謄写等の調査及び在庫の調査を行うことができ,甲はこれに協力しなければならない。
【趣旨】
本条は、債務者である設定者(甲)及び担保対象動産の健全性確保のため、設定者(甲)が担保権者(乙)に対し遵守を確約する事項を規定している。
【解説】
表明・保証が融資実行、担保設定の時点等の一定の時点において、それらの前提事項を確認するものであるのに対し、遵守事項は、融資期間にわたり、設定者に対して一定の義務を課すことにより、被担保債権の健全性を確保しようとするものである。
(第 1 項)設定者に関する遵守事項
第 1 項は、設定者が借入人であることを前提に、債務者が健全な財務状況、事業サイクルを維持することを求めようとするものである。これらは、基本的には借入人としての遵守事項であり、担保権者と設定者との間の貸付契約あるいは特約書等に規定することもあり得る。他方、第三者が設定者になる場合には、これらの事項は基本的には借入人に遵守させるべき事項であるため、担保契約ではなく、貸付金融機関である担保権者と借入人との間の貸付契約あるいは特約書等に規定する必要がある。
(第 2 項)担保対象動産に関する遵守事項
ABLにおいて対象となる担保対象動産が、設定者の事業サイクルにおいて製造、仕入等がなされ、加工、販売等がなされる商品、製品等の在庫である場合、担保権者の優先弁済権を確保するために、一定の範囲で目的物に対するコントロールを確保することが特に重要となる。そこで、ABLにおける集合動産譲渡担保契約においては、担保対象動産の管理、使用、処分等について設定者に一定の義務を負担させることとなる(この義務を一般に担保価値維持義務という。)。
一方で、担保対象動産は、設定者の事業サイクルの中で、「通常の営業の範囲」内での管理、使用、処分を許容される必要がある。従って、個々の具体的な案件では、担保価値維持義務の内容については、個々の設定者の具体的な「通常の営業」の性質に応じて、これを過度に制約、阻害等しないために、当事者間で慎重に協議の上で規定していく必要がある。
本契約では、そのような背反する要請の中で、設定者が遵守するべき義務を下記のとおりできる限り具体的に規定している。これにより、どのような行為をすれば契約違反となるかを設定者が明確に理解できるようにすることで、設定者が担保対象動産の管理、使用、処分等を行うにあたって判断に迷ったり、躊躇を覚えたりするような事態を避け、設定者が通常の営業を機動的、円滑に行うことを可能にする狙いがある。もっとも、このような厳格な規定を硬直的に運用すると、些細な事項についても逐一担保権者の同意を取得する必要が生じ得るため、却って設定者の営業が阻害される可能性がある。従って、担保対象動産の保全のために、契約上の設定者の義務としては、厳格な義務を明示する必要があるとしても、実際の運用上は一定程度柔軟な運用が許容される必要があるものと思われる。また、言うまでもなく、本項各号の規定については、個々の設定者の具体的な「通常の営業」の内容・方法に照らして、設定者が遵守することが不可能な事項が含まれる場合もあるので、そのような場合には、当事者間で協議の上、追加・削除・調整等を加えて規定する必要がある。
⮚ 第(1)号 許認可等の取得等に関する事項
担保対象動産の所有、取得、処分等について行政機関の許認可等の取得その他の手続を要 する場合に、かかる手続を履践することを規定している。担保対象としての在庫等が医薬品 等取り扱いについて一定の規制を受ける場合には、そもそも担保としての適格性を有するか、担保権者が実行時に取得・処分等を行えるかを予め検討しておくとともに、このような遵守 事項を規定しておくことが想定される。
⮚ 第(2)号・第(3)号 知的財産権に関する事項
第 8 条第 2 項第(3)号において、担保対象動産が、第三者が有する知的財産xxを侵害するものでないことについての表明・保証を規定しているが、担保対象動産を構成する製品の仕様等に軽微な変更があった場合等において事後的に第三者が有する知的財産xxを侵害
するおそれが生じるようなときには、知的財産xxの使用・実施についての権限を得ること、担保対象動産について設定者が知的財産権を取得しようとする場合に必要な手続を取ることを規定している。
⮚ 第(4)号 公租公課の支払に関する事項
担保対象動産について生じる公租公課の納付、費用の支払義務を課している。
⮚ 第(5)号 担保対象動産の価値の維持に関する事項
先に述べた担保価値の維持義務に関する本則的な規定として、品質劣化,毀損,処分等により,設定時に比して著しく下回らせないことを規定している。本規定では、担保対象動産が、譲渡担保権の対象として一定の担保価値を維持する必要があることと、設定者の事業サイクルの中で「通常の営業の範囲」内での管理、使用、処分を許容される必要があること、とのバランスを図り、「価値の維持」を「設定時に比して著しく下回らせない」という範囲で遵守することとしている。
⮚ 第(6)号 瑕疵の不作出に関する事項
担保対象動産が適切に管理等されない場合には、担保対象動産としての価値が毀損することとなるから、保存状態、性能等について物理的な瑕疵、法律的な瑕疵を生じさせないことを規定している。
⮚ 第(7)号 担保対象動産の処分等の禁止に関する事項
担保対象動産が第 6 条第 2 項に定める「通常の営業の範囲」を超えて売却等される場合には、設定者の事業サイクルの中での管理、使用、処分を逸脱するものであるから、これを禁止する必要がある。そこで、本号では、担保対象動産の占有移転、譲渡、担保xxの設定等を原則として禁止し、「本契約の定めにより認められた場合」として第 6 条第 2 項に定める
「通常の営業の範囲」における相当価格での譲渡を許容することとしている。また、個別のケースにおいて、「通常の営業の範囲」を超えた売却等であっても、その時々における設定者の状況によっては許容し得る場合があるから、個別に担保権者の同意を得て担保対象動産の占有移転、譲渡、担保xxを行うことができる規定としている。
⮚ 第(8)号 代替物の補充に関する事項
ABLにおける集合動産担保においては、設定者の事業サイクルの中で「通常の営業の範囲」における譲渡等が許容され、また、担保対象動産と同等の代替物が補充されることによって、担保対象動産全体として、一定の担保価値が維持されることが想定されている。そこで、本号では本契約に従って、通常の営業の範囲において相当価格で譲渡された場合に、同種、同等の代替物を営業上相当の範囲で補充することを定めている。補充の範囲については、
「同種、同等の代替物」であって、かつ、「営業上相当の範囲」とし、定期的に棚卸しを行う等して物理的に同量の動産を厳密に補充することまでは要求していない。また、別段の合意がある場合には当該合意に委ね、本号の補充義務を適用しないこととして、設定者の事業の運営を過度に制約することのないように一定程度配慮した規定としている。
実務上は、この代替物の補充に関する遵守事項として、契約上の義務としては「同種、同等、同額、同量」の代替物を補充する趣旨の厳格な規定を置き、実際上は、これを厳密に取り扱う場合には設定者の事業運営が過度に制約されるおそれがあるため、緩和した運用を行う、ということも行われており、そのような扱いを否定するものではない。
⮚ 第(9)号 保管場所の権限保持に関する事項
設定者が保管場所についての使用権限を失った場合には、権利者により担保対象動産の撤去等が求められることになるから、使用権限を保持することを規定している。
⮚ 第(10)号 第三者の権利が付着した物件の搬入禁止に関する事項
担保権設定時には、設定者が担保対象動産を適法に所有し、占有しており、それについて
争いがないことを表明保証する前提として、これらの事項を十分に確認しておく必要があるが 22、事後的にも、仕入先との契約に所有権留保特約が付与されているものや、設定者が第三者からリースを受けたもの等、設定者の所有物でないものが搬入、保管されることを禁止しておく必要がある。本契約では、端的に第三者が所有xxを有する担保対象動産と同種の動産を搬入、保管しないことを規定しているが、仕入先との契約の内容について所有権留保特約を付さない等の制限を設ける等の補完的な遵守事項を置くことも検討に値する。
⮚ 第(11)号 保管場所の追加等の禁止
担保対象動産と同種の動産を保管する場所が、本契約において特定された保管場所以外に新たに用意された場合、現に担保対象動産として保管されていた場所から移動されたり、本来、設定者の事業サイクルに従って搬入されることが想定されていた動産が他の保管場所に搬入されたりすることにより、担保として把握できない事態が生じうる。そこで、本契約では、このような保管場所の新たな取得等を原則として禁止し、設定者の事業上の必要に応じて担保権者から同意を得てかかる行為を行うことができることとしている。担保権者としては、必要に応じて、当該同意を行うにあたって、新たな保管場所に搬入される動産に対しても譲渡担保権の設定を求めるなどの対応を検討することになる。
⮚ 第(12)号 事業・契約関係の維持
担保対象動産が、設定者の事業サイクルの中で売却され、新たに搬入されることにより、全体として一定の担保価値を維持するためには、設定者が当該担保対象動産に関する事業、契約関係を維持することが前提となるため、そのような維持義務を規定している。
(第 3 項)設定者の通知義務
設定者が第 1 項又は第 2 項に規定された事項を遵守できないと判断した場合には、担保権者に通知することとしている。それにより、担保権者と設定者との間で善後策等を積極的に話し合う等、コミュニケーションを取ることが実務上期待される。なお、設定者が本条項に定める通知をしたとしても、担保権者との間で合意がなされないまま、第 1 項又は第 2 項に規定された事項が遵守されなかった場合には、契約違反となる。
(第 4 項)担保権者の調査権
特に在庫等の担保対象動産に関する遵守事項が適切に守られているかという点は、実際に設定者の事務所、倉庫等に立ち入り、帳簿等の調査を実施しないと明らかにされないことも多いため、事務所、倉庫等への立入りに関する規定を置いている。
【留意点:ボロイング・ベース型融資の場合について】
融資実行時の担保価値を維持するのではなく、「担保価値>融資残高という関係性」を維持するという考え方を取るため、必ずしも第 2 項 第(5)号に規定するように設定時の担保価値を常に維持するという必要があるわけではなく、融資残高に着目した担保価値維持義務を課すことになる 23。
また、第 2 項 第(8)号に規定するような代替物の補充ではなく、融資残高に対する担保価値の不足額分の返済義務または追加保全措置(代替物の補充も含む。)を課すことがある。
こうした意味で、ボロイング・ベース型融資の場合、本契約とは担保価値維持義務の意味合いが異なるものとなる。
22 実際問題として、製品、商品等の納入から代金支払までの間、所有権が留保される場合もあり、表明保証や遵守事項に形式的には違反することもあり得るので、設定者の商流を十分に調査、把握しておくことや、当該製品、商品等が譲渡担保の対象として適切であるかを見極めることが重要である。
23 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第14条 (権利主張等がなされた場合の通知)
甲は,乙に対し,以下の事由が生じたときは,直ちにその旨を通知しなければならない。
(1) 本件譲渡動産につき第三者が所有権その他本件譲渡担保権の行使を阻害するような権利主張をしたとき。
(2) 本件譲渡動産につき第三者が仮差押,仮処分,強制執行,滞納処分による差押えを行ったとき。
(3) 本件譲渡動産が原因の如何を問わず滅失,毀損するなど本件譲渡動産の価値が通常の取引より生ずる価値の変動を超えて変動し,又は変動するおそれがあるとき。
(4) 本件譲渡動産の品質に関する問題その他甲の名誉・信用に関する問題が生じたとき,又は風評等具体的な根拠のないものも含めそれらの問題についての指摘を受けたとき。
(5) 甲が本契約及び本契約に関連する合意書,覚書等の各条項に違反する行為を行ったとき。
(6) 第 8 条に定める表明及び保証のうち,いずれかがxx又は正確でないことが判明したとき。
(7) 甲が負担する債務のいずれかについて期限の利益喪失事由が生じたとき。
【趣旨】
本条は、担保対象動産に対する第三者の権利主張や保全処分等がなされた場合や、期限の利益喪失事由が生じたなどの場合に、担保権者(乙)が当該事象を速やかに把握するため、設定者(甲)から担保権者(乙)に対し、その旨を通知する義務を規定している。
【解説】
ABLにおいては、担保権者が設定者の事業用の資産である在庫等を担保として把握し、そのモニタリングを通じて設定者の事業内容を把握、理解することで、設定者としても、経営内容を把握した担保権者から適切なサービス、アドバイスを受けることが期待されている(リレーションバンキングの機能)。他方で、ABLにおける集合動産譲渡担保も被担保債権の保全のための担保としての機能を有するから、担保対象動産が侵害されるなど、債権保全上問題が生じた場合には、担保権者はそれに対応した手段を講じる前提として、当該事象を把握する必要がある。
そこで、本契約では、担保対象動産に対する第三者の権利主張や、保全処分等がなされた場合、期限の利益喪失事由が生じたなどの場合に、設定者に担保権者に対する通知義務を課している。
第15条 (質問に対する回答)
1. 乙は,甲に対し,本件譲渡動産及び本件被担保債権の管理上必要と認める事項につき任意の時期に質問をすることができる。
2. 前項の質問がなされたときは,甲は,乙に対し,速やかに誠実かつ正確な回答を行わなければならない。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が、担保対象動産及び設定者(甲)の状況を把握するため、設定者
(甲)に対し、任意の時期に質問できる権利を規定している。
【解説】
担保権者が、担保対象動産の状況、設定者の状況を把握するために、本契約では、資料提出、実査、面談等の機会を設けているが、提出された資料や実査、面談の状況を踏まえ、担保対象動産や設定者の信用状況について疑問がある場合には、これを解消し得るべく、任意の時期に質問できる権利を規定している。また、担保権者の質問に対しては、速やかに誠実かつ正確な回答を行うものとしている。
第16条 (増担保)
1. 乙は,甲に対し,以下の事由が生じたと乙が判断したときは,担保の目的となる資産を明示して,増担保を提供するよう求めることができる。
(1) 本件譲渡動産の価値が,品質劣化,毀損,処分等により,設定時に比して著しく下回り,合理的期間内に回復する見込みがないとき。
(2) 甲が本契約の各条項に違反したとき。
(3) 甲が期限の利益を喪失したとき。
(4) その他本件被担保債権を保全するために相当の事由が生じたとき。
2. 甲は,乙が前項の定めに基づき,増担保の提供を求めたときは,これに応じなければならない。ただし,増担保の提供を拒む合理的な理由があるときはこの限りではない。
3. 前二項の定めに基づき,増担保の提供がなされるときは,甲と乙は,速やかに担保権設定契約の締結,対抗要件具備行為,その他担保権の有効な設定に必要な行為を行うものとする。
【趣旨】
本条は、担保価値を維持するため、債権保全の必要が生じた場合に、担保権者(乙)が設定者(甲)に対して増担保を求めることができることを規定している。
【解説】
ABLにおける集合動産担保においても、担保権者は担保対象動産について一定の担保価値を評価して、それを前提に貸付を行うのが通常である。そこで、担保権者としては、担保対象動産の価値が減少した場合や、設定者が本契約の条項に違反したことにより担保価値が減少するような場合には、追加の担保(増担保)提供を求める必要がある。
この点、実務上は、担保権者は債権保全の必要が生じた場合に増担保を求めることができる、とのみ規定し、表面上、広く債権保全の必要がある場合に担保権者の裁量で増担保請求が認められるとも捉えられ得る条項を置くこともある。しかし、本契約では、増担保請求できる事由として、被担保債権を保全するために相当の事由が生じたとき(第 1 項第(4)号)を規定しつつも、担保対象動産が、品質劣化、毀損、処分等により、設定時に比して著しく下回り、合理的期間内に回復する見込みがないとき(第 1 項第(1)号)、本契約の違反があったとき(第 1 項第(2)号)、
期限の利益が喪失されたとき(第 1 項第(3)号)との限定的な事由を受けて、第(4)号を規定することで、同号についても第(1)号乃至第(3)号と同等の債権保全の必要がある場合に限定されることを示唆している。
また、増担保の請求が担保権者の判断においてなされることと規定している関係で、設定者に反論の機会を与えるべく、増担保の提供を拒む合理的な理由がある場合にはこれを拒むことができることとしている。
担保権者が増担保を請求できる場合、本契約とは別に担保契約を締結し、対抗要件を具備する必要があるから、担保権者及び設定者がこれらを行うことを規定している(第 3 項)。
【留意点:第三者保証による増担保を想定する場合について】
増担保の提供にあたっては、第三者の保証(人的担保)を求めることもあるから、その場合には、物上担保のみならず、保証(人的担保)をも求めることができることをより明確に規定しておくのがよい。
【留意点:ボロイング・ベース型融資の場合について】
担保適格評価額が融資元本残高を下回る場合、増担保は期限前返済との選択又は組み合わせで対応される 24。
24 ボロイング・ベース型融資については、巻末の「参考資料」を参照のこと。
第17条 (期限の利益の喪失)
1. 甲が本契約の各条項に違反したときは,乙は,甲に対し,相当な期間を定めて,合理的と認められる是正措置を講じるよう要請することができる。
2. 前項に定める乙による是正措置の要請に甲が従わないとき,又は是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であることが明らかなときは,乙は,甲乙間の平成●年●月●日付金銭消費貸借契約証書第●条●項に定める期限の利益喪失事由とみなすものとし,xはこれに何ら異議を述べない。
3. 前二項に定めるほか,本件被担保債権の期限の利益の喪失については,甲乙間の平成●年●月
●日付銀行取引約定書及び貸付契約により定めるところによるものとする。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行の前提として、設定者(甲)が本契約の条項に違反した場合の設定者(甲)に対する是正措置の要請、及び期限の利益の喪失について規定している。
【解説】
設定者が、本契約の条項に違反した場合には、担保権者としては、設定者の通常の営業を許容する段階(通常営業段階)から、被担保債権を保全する段階(保全段階)へと移行する必要が生じる場合がある。この場合、そのような違反をもって直ちに期限の利益喪失事由とすることも考えられ、実務上もそのような例があるが、それほど重大ではない違反が生じる場合も想定されることから、本契約においては、設定者に対して是正措置による違反状態の解消の機会を与えている。すなわち、設定者による本契約の条項への違反が生じたときには、担保権者は、相当な期間を定めて、合理的と認められる是正措置 25を講じることを要請することができ、それに従わないときには貸付契約における期限の利益喪失事由とみなすこととし 26、設定者に是正の機会を与えている。
もっとも、是正が不可能であり、又は著しく困難である場合には、このような是正の機会を与える意味がないから、直ちに期限の利益喪失事由 27に該当することとしている。このような契約違反を期限の利益喪失に結び付ける仕組みは、第 18 条以下の実行のプロセスと関連して金融機関個別の制度設計の考え方によるところであり、本契約はその一例を示すものである。
本契約で定める第 17 条及び第 18 条以下の実行のプロセスを下図に示す。
25 ここでいう「相当な期間」、「合理的と認められる是正措置」とは、違反を是正するために最小限必要な期間と違反状態を解消する適切な措置を意図しており、違反の内容により必要な期間、是正措置の内容は異なり得る。担保権者としては、期限の利益喪失事由に該当するための手続をとったことを明確にするため、書面等において期間、是正措置の内容を具体的に記載するのが望ましい。なお、違反を是正することが不可能ではないとしても、是正のために長期間を要するような場合には、是正措置を講じることが著しく困難であるとして、直ちに期限の利益喪失事由に該当する場合もあることに留意する必要がある。
26 個別の事例においては、利率上昇等の段階的なサンクションを設けることもあり得る。
27 ここでいう「期限の利益喪失事由」とは、個々の事案において請求失期事由とすることもあり得るが、一度は是正の機会を与えたにもかかわらず是正がなされなかった場合又は是正の機会を与えることが不適当な場合であるから、是正の機会を与える請求失期事由とするのではなく、当然失期事由とすることが多いと思われる。
※当然失期とするか請求失期とするかは、金融機関個別の制度設計による。
図 本契約で定める実行のプロセス
【留意点:「是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であること」の判断について】
本条第 2 項に規定する「是正措置を講じることが不可能若しくは著しく困難であることが明らかなとき」とは、中途処分の制限、補充義務、補完義務といった担保価値の維持義務に対する重大な違反(例えば、設定者が行方不明となった場合のみならず、故意に廉価販売を繰り返す場合や悪意で保管場所を移動させた場合等、是正措置への協力が得られないことが明らかな場合等)は、具体的な場面においては、是正措置を求めることが著しく困難な場合に該当するとみなされる場合があり得ることに留意する必要がある。このようなケースについて担保権者による恣意的な判断がなされるべきでなく、慎重に検討される必要があろう。
第18条 (本件譲渡動産の処分権限の消滅)
本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失したときは,それと同時に,乙の何らの通知を要せず,第 6 条第 2 項に基づく甲の本件譲渡動産についての使用処分権限は消滅するものとする。
【趣旨】
x条は、譲渡担保権の実行プロセスの一環として、被担保債権について弁済期が経過したとき、又は期限の利益が喪失されたときは、通常の営業の範囲での担保対象動産の使用・処分等の権限が消滅することを規定している。
【解説】
使用処分権限の消滅を含む第 18 条以下の実行プロセスに係る事項は、金融機関個別の制度設計に関わる事項であり、本契約とは別の設計もあり得る。例えば、本条においては、弁済期の経過又は期限の利益の喪失をもって、処分権限が消滅するものとしているが、第 17 条に従って是正措置が行われ、契約違反の状態が是正されるまでの間、一時的に処分権限を消滅させることもあり得る。
【留意点:「固定化」に関する議論について】
本条では、弁済期の経過又は期限の利益喪失と同時に当然に設定者の使用処分権限が消滅することとしているが、講学上の「固定化」に関する議論、すなわち、集合動産譲渡担保を実行するために「固定化」が必要となるか、必要として「固定化」がいつ生じるか(実行通知がなされたとき、契約に定める「固定化」の事由が生じたとき等)、設定者の使用処分権限の消滅後に搬入された動産に譲渡担保の効力が及ぶか、といった問題について注意が必要である。
第19条 (本件譲渡動産の引渡し等)
1. 本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失したとき,乙は,いつでも甲から本件譲渡動産の現実の引渡しを受け,又は乙の指示する者に現実の引渡しをさせることができるものとし,甲は,これに対しいかなる権利も主張せず,異議を述べない。
2. 本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失したときは,乙は,いつでも甲に対して本件譲渡動産の保管場所,保管方法,処分方法等につき適宜指示を行うことができるものとし,甲は直ちにその指示に従わなければならない。
3. 本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失したときは,乙は,直ちに第 12 条に定める実査を行うことができるものとし,甲はこれに協力しなければならない。
4. 本件被担保債権について,弁済期が経過したとき,又は甲が期限の利益を喪失した後も,甲は,本件譲渡動産の占有を有する限り,本件譲渡動産を善良なる管理者の注意をもって保管しなければならない。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行プロセスの一環として、被担保債権について弁済期が経過、又は期限の利益が喪失された場合における、担保対象動産の引渡しに関する事項を規定している。
【解説】
第 18 条の規定により、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合には、設定者の担保対象動産に対する使用処分権限が喪失される。この場合、担保権者としては換価・処分に備えて担保対象動産をコントロールできる必要がある。
(第 1 項)
本契約においては、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合における担保対象動産の引渡請求権を契約上規定することにより、担保権者がこれを被保全権利として占有移転禁止の仮処分を得ることができるように設計している 28。それにより、担保権者が、占有移転禁止の仮処分の保全執行と同時に、清算金の存否・金額を記載した実行の意思表示を行い、引渡断行の仮処分を申し立て、xx実行することで、被担保債権の回収を実効的に行うことができることを企図したものである。なお、本契約上、実行の意思表示(いわゆる実行通知)に関するxxの規定を置いていないが、占有移転禁止の仮処分の発令を受けた後の段階では、一方で担保権者は対象動産の管理に不安がなく、他方で実行により設定者は所有権を失うという重大な不利益を受けるため、実際の運用上はこの段階で実行通知を行うことが通常であろう。
(第 2 項・第 3 項)
本契約においては、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合に、担保権者が、設定者に対して、担保対象動産の保管場所、保管方法、処分方法等につき適宜指示を行うことができ、設定者がそれに従うこと(第 2 項)、担保権者が実査を行うことができること(第 3 項)等の規定を置いている。これにより、設定者による担保動産の処分に具体的な制限を課し、これに違反した場合には債務不履行になることが明確になる。また、端的に、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合に設定者が承諾なく担保対象動産を処分できないことを明記することもある。
28 占有移転禁止の仮処分の発令にあたっては、目的動産の重要性の如何によっては、発令の結果、債務者が破綻することも十分に考えられる。そのため、債務者の審尋(民事保全法第 23 条第 4 項参照)を行わないでの発令については、実務上、特に慎重な配慮が要請されており、密行的に実行プロセスを進めることができない場合があることに注意が必要である。また、期限の利益喪失の前段階として契約違反の場合に是正措置を講じるよう要請することが原則であるから(第 17 条第 1 項及び第 2 項)、それにより密行性が阻害される場合もあり得る。
【留意点:設定者が協力的ではない場合について】
本条により可能となる処分禁止の仮処分は動産の不当処分に対する実効性は乏しいため、設定者が協力的でなく、詐害的な搬出や廉価販売を行うような場合には実益が乏しい。そこで、担保対象動産について、いかにして密行的に占有移転禁止の仮処分を得るか、という点が重要となる。
第20条 (資料の提出)
1. 甲は,第 18 条の定めにより甲の本件譲渡動産についての使用処分権限が消滅したときは,乙に対し,直ちに使用処分権限消滅時点及びそれ以降の乙が定める時点における本件譲渡動産の一覧表を別途乙が定める様式により提出しなければならない。
2. 乙は,甲に対し,必要に応じ,本件譲渡動産の使用処分権限消滅時点の直近●ヶ月間の本件譲渡動産についての内容,数量,譲渡価格の推移等について記載した資料の提出を求めることができる。
3. 甲につき法的整理手続の開始決定があったとき,又は私的整理手続が開始されたときは,甲又はその管財人は,乙に対し,かかる開始決定時点(私的整理手続の場合は当該手続において基準日とされる時点,又は手続開始日時点)における本件譲渡動産の一覧表を別途乙が定める様式により提出しなければならない。
4. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)の使用処分権限消滅後に担保対象動産の実態を把握するため、設定者
(甲)が担保権者(乙)に対して担保対象動産に関する各種資料を提出することを規定している。
【解説】
(第 1 項・第 2 項)
保全段階において担保権者は担保権の実行に備えて担保対象動産の実態を把握する必要がある。そこで、第 18 条に基づき使用処分権限が消滅した時点以降の担保対象動産の一覧(第 1 項)、
使用処分権限が消滅した時点の直前の一定期間における譲渡価格等を含めた資料(第 2 項)の提出を設定者に求めることができる旨規定している。
(第 3 項)
管財人に対して強制力を持つか議論があろうが、別除権の額等を確定するために必要となる資料であることから、提出を促す趣旨で規定している。
【留意点:担保対象動産価値の正確な把握の重要性について】
私的整理を含む倒産手続においては、担保対象動産の残高等が担保権者の別除権の額や更生担保権の額を定める重要な資料となるので、正確性は特に吟味される必要がある。
第21条 (本件譲渡動産の処分)
1. 乙は,第 18 条の定めにより甲の本件譲渡動産についての使用処分権限が消滅した時点以降,自ら適当と認める方法,時期,価格,順序等により,本件譲渡動産を処分することができる。
2. 前項に定める処分がなされたときは,乙は,処分代金から公租公課その他の諸経費を差し引いた残額を,法定の順序にかかわらず,自ら適当と認める順序,方法により本件被担保債権に対応する債務の弁済の全部又は一部に充当することができるものとする。
3. 前項に定める債務の弁済充当後に残余金を生じたときは,乙は,甲に対し,これを清算金として返還するものとする。ただし,当該清算金には利息又は損害金を付さないものとする。
【趣旨】
xxは、譲渡担保権の実行として、弁済期の経過又は期限の利益喪失後において、担保権者
(乙)が任意のタイミング、方法、価格等により処分、換価して、処分代金から処分費用等を控除した金銭を被担保債権の弁済に、任意の順序、方法で充当できることを規定している。
【解説】
本条は、担保対象動産の処分・換価、被担保債権への充当に関する譲渡担保権の実行の中心となる規定である。なお、担保対象動産の処分、換価及び被担保債権への充当後残額がある場合には、設定者に清算金として返還されるべきものであるから、第 2 項でその旨規定している。
【留意点:帰属清算型について】
銀行等の金融機関が在庫等を自ら取得することは実務的には想定し難いことから、本条では、担保権者が担保対象動産を第三者に処分してこれを被担保債権の弁済に充てることを規定しているが(いわゆる処分清算型)、担保権者が自ら担保対象動産の価値を評価して取得し、評価額が被担保債権を上回る場合に、当該上回る金額を清算金として設定者に返還することを規定することもある(いわゆる帰属清算型)。
第22条 (本件譲渡動産の甲による譲渡)
1. 第 18 条の定めにかかわらず,乙は,xに対して通知をすることにより,乙が認めた数量,譲渡価格その他の条件の範囲内で,甲が本件譲渡動産を第三者に譲渡することを認めることができる。
2. 甲は,前項の定めにより本件譲渡動産の譲渡を認められたときは,乙が前項に定める通知に別段の定めを設けない限り,かかる譲渡に先立ち,譲渡する動産と同種,同量,同額の代替物を本件場所に搬入しなければならない。
3. 甲は,第 1 項の定めに基づき本件譲渡動産を譲渡したときは,譲渡した本件譲渡動産及びその譲渡価格等の明細及び前項に定める代替物の明細を記録し,乙の求めがあったときには,速やかにこれを乙に交付しなければならない。
4. 甲は,本条に基づき開示する資料の内容を,xxかつ正確なものとしなければならない。
【趣旨】
本条は、保全段階においても設定者(甲)に一定の範囲で営業を継続させるために、設定者
(甲)による担保対象動産の処分を担保権者(乙)が認める場合がある旨等を規定している。
【解説】
(第 1 項)
第 18 条の規定により、弁済期の経過又は期限の利益喪失の場合には、設定者の担保対象動産に対する使用処分権限が喪失される。保全段階に至っては、設定者に通常の営業の範囲での担保対象動産の使用処分を許容する必要性が低く、他方、担保権者としては担保権の実行に備えて担保対象動産をコントロールできる必要があることによる。
もっとも、保全段階に入った場合においても、担保権者として、設定者に一定の範囲で営業を継続させることが、担保権を実行して回収を図るよりも回収可能性を高めることになると考える場合には、そのような選択肢を排除する必要はないとも思われる。そこで、担保権者がその裁量で、設定者に担保権者が認めた範囲で担保対象動産を処分することを認めることができるとの規定を置いている。
(第 2 項)
本契約においては、処分された範囲で担保対象動産が減少することになるため、保全段階にあることに鑑み、原則として処分に先立って処分する動産と同種、同量、同額の代替物を搬入しなければならないこととしている。
場合によっては、第 1 項において処分を許容する際に、処分代金を被担保債権の弁済に充てることを条件とすることもあり得る。
(第 3 項)
担保権者としては、第 1 項の通知において認めた範囲での売却が行われていることを確認する必要があるから、譲渡価格等の明細の記録及びその担保権者への交付義務を規定している
【留意点:担保対象動産の価値評価方法の規定について】
法的整理手続が開始された場合の法的拘束力について議論はあろうが、担保対象動産の価値をどのように評価するかは別除権協定等で重要なポイントとなるため、担保権者側の交渉ツールとして、設定者の通常の営業時における譲渡価格等を基準とする趣旨の規定等を置くこともある。
第23条 (本件譲渡担保権の放棄)
乙は,甲に対して通知することにより,いつでも本件譲渡担保権の全部又は一部を放棄することができる。
【趣旨】
本条は、担保の必要がなくなった場合等に備えて、担保権者(乙)から譲渡担保権を放棄できることを規定している。
【解説】
無価値物については売却処分も難しく廃棄にコストもかかるため、本条により担保の対象から除外し、設定者に処理させることを想定している。また、担保権者が担保対象動産の所有者としての責任を負うかは議論があるが、所有権者としての責任を負わないことを確保することも企図している。
第24条 (通常実施xxの許諾)
1. 乙は,本件譲渡担保権の実行に際し,甲が有し,又は甲が第三者から通常実施権,専用実施xxの設定,許諾を受けている特許権その他の知的財産権を使用することが必要であると認めたときは,甲に対してその旨を通知する。
2. 甲は,前項の通知がなされたときは,本件譲渡動産についての乙による本件譲渡担保権の実行が終了するまでの間,当該知的財産権の全範囲についての通常実施xxを乙に無償で付与することを予め許諾する。なお,乙に対する通常実施xxの許諾について第三者の許諾等を要するときは,xは,自らの負担と責任において必要な措置を講じるものとする。
【趣旨】
本条は、担保対象動産に係る知的財産権が譲渡担保権実行上の支障とならないように、設定者(甲)から担保権者(乙)に対する通常実施xxの付与等を規定している。
【解説】
譲渡担保権の実行について、設定者の知的財産権あるいは設定者が第三者から許諾されている知的財産権を使用することが必要である場合、設定者等の権利を侵害しないため、担保権者が設定者から知的財産権について通常実施xxの付与を受けられること、及び設定者が第三者の許諾等を得るために必要な措置を講じることを規定している。
第25条 (本件場所についての使用貸借契約)
1. 甲と乙は,第 18 条の定めにより甲の本件譲渡動産についての使用処分権限が消滅したときは,それと同時に,甲又は乙の別段の意思表示を要することなく,本件場所につき甲を貸主とし乙を借主として,乙が本件譲渡動産を処分するために必要な措置をとることを目的とする使用貸借契約(諾成的使用貸借契約)が成立することを予め合意する。ただし,第三者の許諾が必要な場合はこの限りでない。
2. 甲は,乙に対し,前項に定める使用貸借契約の成立後直ちに,鍵の交付,暗証番号の開示等乙が本件場所に立ち入るために必要な措置を講じなければならない。
3. 第 1 項に定める使用貸借契約の契約期間は,乙が甲に対し本件譲渡動産を処分するために必要な措置を完了したことを通知した日か,前項に定める甲による必要な措置が完了した日から●か月が経過した日のうちいずれか早い日までとする。
【趣旨】
xxは、担保権者(乙)が適法に担保権を実行できるための、本件場所に関する担保権者(甲)の権限等を規定している。
【解説】
(第 1 項・第 3 項)
担保権者が、担保権の実行にあたり、適法に担保対象動産の保管場所を利用して保管し、その上で担保権の実行に必要な処分等を行うことができるように、自動的に保管場所を対象とした使用貸借契約が担保権の実行に必要と想定される期間にわたり成立することを合意している。特に貸主である設定者からの返還請求権との関係で、返還の時期(期間)を定めることは重要である
(民法第 597 条参照)。
(第 2 項)
保管場所への立入り等にあたっては、保管場所の鍵や電子ロックの暗証番号が必要になる場合が多いから、これらの交付、開示等、担保権者が保管場所に立ち入るために必要な措置を講じることを設定者に義務付けている。
【留意点:本条の実際上の効力について】
もっとも、法的倒産手続において本条に基づく使用貸借契約上の借主の地位は管財人に対抗することができるか議論があり、また、倒産直前時期において設定者が事実上鍵を引き渡さないという事態も想定されるため、本条の実際上の効力については疑問が多いことに留意する必要がある。
第26条 (物xx位権の行使)
1. 乙は,本件被担保債権の弁済期が経過したとき,又は甲が乙に対する債務の全部若しくは一部につき期限の利益を喪失したときは,甲が通常の営業を継続している間といえども,本件譲渡動産の賃貸,滅失,損傷,品質劣化又は腐敗,通常の営業の範囲を超える譲渡等を原因として甲が受けるべき金銭その他の物に対して,本件譲渡担保権に基づき,直ちに物xx位権を行使することができる。
2. 甲は,前項に定める甲が受けるべき金銭その他の物についての交渉,第三者に対する譲渡,担保物権の設定その他の処分,及び当該金銭等の受領をしてはならない。ただし,乙の事前の書面による承諾がある場合はこの限りではない。
【趣旨】
本条は、弁済期の経過又は期限の利益喪失時において、担保権者(乙)が物xx位権を行使することができる旨を規定している。
【解説】
(第 1 項)
弁済期の経過又は期限の利益喪失時において、設定者が通常の営業を継続している場合においても、担保対象動産の滅失、損傷、品質劣化や通常の営業の範囲を超える譲渡等を原因として受けるべき金銭その他の物に対して、担保権者が物xx位権 29を行使することができることを規定している。
(第 2 項)
物xx位権の行使を確保するために、設定者がこれらの金銭等の受領することや、譲渡、担保設定等の処分を行うこと等を原則として禁止している。
【留意点:判例との整合性について】
本条の規定は、弁済期の経過又は期限の利益喪失時における担保対象動産の滅失、損傷、品質劣化や通常の営業の範囲を超える譲渡等を対象とした規定であり、必ずしもこれまでの判例 30に反する内容ではない。
29 物xx位権とは、大要、担保権の目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって受けるべき金銭その他の物に対しても、担保権を行使することができる担保権者の権利をいい、本契約では担保対象動産の価値代替物である金銭等に譲渡担保権の効力が及ぶことを意図している。
30 集合動産譲渡担保に基づく物xx位に関する裁判例担保対象動産が滅失した場合の損害保険金請求権に対する物xx位権の行使の可否が問題とされた事案に係る判例(最決平 22.12.2)等。
第27条 (地位の譲渡等)
甲は,乙による事前の書面による承諾がある場合を除き,本契約に基づく地位及び権利義務の全部又は一部につき,譲渡,質入その他の処分をしてはならない。
第28条 (守秘義務)
1. 甲と乙は,相手方の事前の書面による承諾なしに,本契約に定める事項を履践するにあたり知り得た営業上又は技術上その他一切の情報(以下「機密情報」という。)を第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし,法令,規則,行政庁その他公的機関により開示の義務が課される場合及び本契約に基づき乙が実査,面談業務を委託する第三者に対し,機密保持契約を締結したうえで開示する場合は,この限りではない。
2. 次の各号に該当する情報については,機密情報に該当しないものとする。
(1) 開示の時点ですでに保有しているもの。
(2) 開示の時点で公知のもの及び開示を受けた後に公知となったもの。
(3) 開示を受けた後に独自に開発したもの。
(4) 機密保持義務を負うことなく第三者から適法に入手したもの。
(5) その他甲乙協議の上,特に指定したもの。
3. 甲と乙は,相手方から開示された機密情報を本契約に定める事項以外の目的で使用してはならない。
4. 甲と乙は,善良なる管理者の注意をもって前項の機密情報を厳重に管理するとともに,本契約に定める事項に従事する者に対して,本条の機密保持義務と同等の機密保持義務を負わせるものとする。
第29条 (通知)
1. 甲と乙は,本契約に定める通知,報告等の担当者を次のとおり定める。甲
乙
2. 甲又は乙の相手方に対する通知,報告等は,当該通知が相手方の前項の担当者に到達した時点をもってその効力を生ずるものとする。ただし,相手方の責に帰すべき事由により当該通知が延着し,又は到達しなかった場合,当該通知は,当該通知が通常到達すべき時に到達したものとみなす。
3. 甲と乙は,第 1 項に定める通知,報告等の担当者に変更がある場合,速やかに相手方に書面により報告する。
第30条 (費用)
本契約書の作成,変更,修正に係る全ての費用及び本契約に基づく本件譲渡担保権の設定,対抗要件具備,管理に係る費用,本件譲渡動産の引渡し,本件譲渡担保権の実行に係る費用その他本契約に基づく取引に係る費用は,法令が適法とする範囲内において,甲が負担する。
【趣旨】
本条は、設定者(甲)の費用負担について規定している。
【解説】
本契約書の作成、変更及び修正に係る費用、譲渡担保権の設定及び対抗要件具備、担保対象動産の管理に係る費用、譲渡担保権の実行に係る費用等については、設定者負担とすることが多く、利息制限法等の法令上許容される範囲では、設定者負担として規定している。
【留意点:個別事情に応じた本条の任意性について】
金融機関の個別の制度設計によっては、これと異なる合意をすることが排除されるものではない。
第31条 (準拠法)
本契約は日本法に準拠し,かつこれに従って解釈される。
第32条 (管轄裁判所)
本契約について紛争が生じたときは,●●地方裁判所をもって第xxの専属管轄裁判所とする。
第33条 (xxx)
本契約に定めのない事項又は本契約の解釈に関し当事者に疑義が生じた場合には,当事者双方誠意をもって協議の上,これを決する。
第34条 (xx証書の作成)
甲と乙は,本契約に記載された事項につき,甲の費用にてxx証書を作成することに合意する。
別 紙
担保動産の表示
動産の種類 | 【 】 | |
保管場所 | 郵便番号 | ●●●-●●●● |
所在地 | 【 】 | |
備考(有益的記載事項) |
【趣旨】
担保動産の表示様式を提示している。
【解説】
第 1 条のとおり、担保対象動産の範囲を特定する要素のうち、動産の①種類、②所在場所について個々の案件の特性に応じて記載する。
動産譲渡登記との関係では文字により所在場所を特定することが必要であるが、譲渡担保権を実行する場面における執行を容易にするために、住宅地図、測量図面、建築図面、写真等を併用することも考えられる。
参考資料
ボロイング・ベース型融資について
ABLでは、担保残高に応じて貸出基準額(ボロイング・ベース)を設定して、極度貸出を行う融資形態(以下、「ボロイング・ベース型融資」という。)が採用されることがあり、これを前提にABLの実務について解説している文献も少なくない 31。
ただし、一般的には、ボロイング・ベース型融資を実施するには、貸付金融機関に、相応のノウハウや事務コストが必要であることに加え、借入人側にも十分な理解と協力体制が求められるため、必ずしも貸出実績が豊富にあるわけではない。
しかし、ボロイング・ベース型融資には、以下のメリット(①~③)があると考えられており、今後、この融資形態を採用する金融機関が増えることも見込まれる。
【メリット】
① 貸付金融機関は、借入人の事業サイクルによって生じる売掛債権・在庫の変動等を柔軟に許容することができる。すなわち、貸付金融機関は、借入人が資金を必要としていないとき(事業利益、季節資金回収、資産売却等によって融資返済を進めているなど)において、借入人の本来の事業サイクルに合わない在庫補充義務等を課すといったことが必要ない。
② 貸付金融機関は、自らの担保価値に対する考え方を反映した貸出基準額(ボロイング・ベース)を、借入人と共有し、借入人とのコミュニケーションツールとして機能させることができる。借入人にとっても、貸付金融機関からのモニタリングを意識した事業運営を行いやすくなる。
③ 貸付金融機関は、貸出基準額(ボロイング・ベース)の変動を通して、借入人の事業が、正常時からどの程度乖離しているかを把握することが可能となり、モニタリングや有事の際の意思決定において、定量面からの判断材料となる。
そこで、参考として、以下にボロイング・ベース型融資の一般的な運用方法について、解説を記載する 32。
【ボロイング・ベース型融資の一般的な運用方法】
① 担保評価を行い、貸出基準額(ボロイング・ベース)を定める
貸付金融機関と借入人の間で、担保の種類(売掛債権や在庫等)毎に評価を行い、担保として適格ではないものを差し引き、残った金額を適格担保とする。次に、担保の種類毎に異なる一定の掛目(アドバンス・レート)を定め、適格担保にこれを乗じた金額を貸出基準額(ボロイング・ベース)として合意する。
その際、貸出基準額(ボロイング・ベース)等に関する合意書類が作成される。これには、適格担保の考え方、金額の確定方法やその基準日(頻度)、貸出基準額(ボロイング・ベース)の算定方法、担保適格評価額が融資元本残高を下回った場合の措置 33、手数料等について、貸付金
31 日本公庫総研レポート No.2008-3「米国における動産・債権担保融資(Asset Based Lending : ABL)の機能と実態」等。
32 冒頭の「使用上の留意点」に記載したとおり、本契約はボロイング・ベース型融資を前提としていない。仮に、ボロイング・ベース型融資を前提とした場合は、被担保債権の表示(第 1 条)、資料の提出(第 10 条)、遵守事項(第 13 条)、増担保(第 16 条)の条文に変更等の影響が想定されることから、本解説書で、各該当箇所にこれに関する解説を記載している。
33 担保適格評価額が融資元本残高を下回った場合の措置に関する合意事項は、遵守事項(第 13 条)、増担保
x機関と借入人の間で合意した内容が記載される。
担保適格の範囲を判断するに当たり、専門性が要求されるときは、専門業者が活用されることがある。専門業者は、在庫等の調査を行い、所有権留保が付された在庫等を適格担保から除外したり、担保の種類に応じ、換価時のシナリオを勘案したりして、適格担保の金額の確定をサポートする。
また、アドバンス・レートを定めるには、評価時点と換価時点の時間差や当初予期できない事象に起因する換価額の低下に備え、一定のリスクを見込むことが必要である。
② ボロイング・ベースをもとに、融資の実行・返済及び期中管理を行う
貸付金融機関は、ボロイング・ベースを上限にして最終的な融資額を決定するとともに、譲渡登記等を行い担保について第三者への対抗要件を具備し、借入人と契約を締結して融資を実行する。原則として、借入人は、ボロイング・ベースの枠内で自由に融資と返済を行うことができる
(リボルビング型)。
融資実行後は、貸出基準額(ボロイング・ベース)等に関する合意書類に基づき、借入人は一定期間毎(毎月が一般的)に貸付金融機関に対し、売掛債権、在庫等の担保の残高、適格/不適格等の数値等のデータを提出する 34。
貸付金融機関は、借入人による報告にもとづき、適格担保の残高と融資残高との関係やバラン スをチェックし、担保価値に見合わない過大なリスクを負わないよう調整することが可能となる。さらに、売掛債権や在庫等の残高の異常な動きから、借入人の事業の異常をいち早く把握するこ とも期待できる。
売掛債権や在庫の残高は日々変動するため、借入人自身から現状を報告してもらうこととなるが、期中管理においては、貸付金融機関が定期的に借入人の実地調査に赴き、借入人からの報告内容が正しいか否か確認する必要がある。
③ 回収・処分
何らかの事由により保全不足やデフォルトが発生した場合には、他の融資形態と同様、貸付金の保全確保や回収を図ることになる。
(第 16 条)の条文と整合させる。
34 資料の提出(第 10 条)の解説に記載したとおり、債務者自身が了承した貸出基準額(ボロイング・ベース)・期限前返済額等を示す資料を提出することもある。