Contract
2 農事組合法人の具体的な運営方法
農事組合法人の運営は、定款やその他の規約に基づいて行うことになります。その他、定款等に定めがない事項については、その根拠法令である農業協同組合法(以下農協法という)等の法令の定めによります。
1)組合員の新規加入
①新たに農事組合法人に加入するには加入申込書を組合に提出し、総会で承認を
得る必要があります。
②具体的な手順は通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.新規加入の手順
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく、手順は次のとおりです。
① 加入申込書の提出
組合員になろうとする者は、「引き受けようとする出資の口数及びこの組合の事業に常時従事するかどうか」等を記載した加入申込書を組合に提出します。
※加入申込書については特に指定された様式はありませんので、上記内容で適宜、作成します。
(参考)加入申込書例
加入申込書
平成○○年○月○日
農事組合法人○○代表理事 様
住所
氏名
○○市○○町○○番地
○○○○
(印)
次のとおり農事組合法人○○への加入を申し込みます。
1.出資引受口数
2.組合事業の従事状況
○口
金額 ○○円
組合の要請に従い、常時従事(します・しません)
② 総会での承諾
組合は、加入申込書の提出があったときは、総会で、その加入の諾否を決定します。
※組合員の加入(持分の相続又は譲受による加入を含む。)については、農協法上、総会の議決事項ではなく、例えば、理事会で加入の諾否を決することも可能です。
(定款に定めが必要)。
※組合員の加入(持分の相続又は譲受による加入を含む。)については農協法上、総組合員の2/3以上の議決( 特別議決)の必要はありませんが、一般的には特別議決事項として定款に規定しています。
③ 加入承諾の通知
総会で加入を承諾したときは、その旨を申込者に通知します。
※加入承諾の通知には加入の承諾に加え、出資の手続(出資払込先、払込期限等)などを記載します。
④ 出資金の払い込み
組合から加入承諾の通知を受けた者は、出資金の払込を行います。
※出資の払込みをした時に組合員となります。
※組合は出資の払込を確認した場合、出資金領収書を発行します。
⑤ 組合員名簿の記載
加入手続きが完了すれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
2.注意事項
① 出資口数及び出資総額の変更に伴う変更登記の実施
組合員の新規加入に伴い、通常、出資総口数及び払込済み出資総額が変更(増加)することになります。出資総口数及び払込済み出資総額は登記事項ですので、変更になった場合には変更登記が必要です。
② 資本金額の変更に伴う税務関係機関への変更・異動届出書の提出
出資額(資本金額)当法人の内容に変更があった場合には税務関係機関(税務署、都道府県税事務所及び市町村税務課)に変更・異動届出書の提出が必要となります。
③ 新規加入組合員の組合員資格に留意してください。
※組合員の資格は農協法の規定に基づき定款に記載があります。
④ 組合員名簿は農業協同組合法第73条で準用する第27条の2の規定により作成が義務づけられています。
(参考)農協法27条の2
二十七条の二 理事は、組合員名簿を作成し、各組合員について次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。ただし、非出資組合の組合員名簿には、第三号及び第四号に掲げる事項を記載し、又は記録しなくてもよい。
一 氏名又は名称及び住所
二 加入の年月日及び組合員たる資格の別三 出資口数及び出資各口の取得の年月日
四 払込済みの出資(回転出資金を除く。以下同じ。)の額及びその払込みの年月日
(参考)農事組合法人組合員名簿例
氏 名 (又は名称) | 加 入年月日 | 組合員たる資格の別 | x x 口 数 | 出資各口の取得年月日 | 払込済出資額 | 払 込年月日 |
2)増資(出資口数の増加)
①出資額を増やす増資を行う方法には①出資の口数を増やす方法と②出資1口の
金額を増やす方法があります。
②具体的な手順は、通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.増資の手順(出資口数の増加による場合)
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
① 出資引受書の提出
出資の口数を増やそうとする者は、「引き受けようとする出資の口数」等を記載した書面(出資引受書など)を組合に提出します。
※書面(出資引受書など)については特に指定された様式はありませんので、上記内容で適宜、作成します。
(参考)加入申込書例
出資(増資)引受書
平成○○年○月○日
農事組合法人○○代表理事 様
住所
氏名
○○市○○町○○番地
○○○○
(印)
次のとおり、出資を引き受けます。
1.出資引受口数
○口
金額 ○○円
② 総会での承認
組合は、増資に係る書面(出資引受書など)の提出があったときは、総会でその可否を決定します。
③ 増資決定の通知
総会で増資を決定したときは、その旨を組合員(申込者)に通知します。
※増資決定の通知には増資決定の旨に加え、通常、出資の手続き(出資払込先、払込期限等)についても記載します。
④ 出資金の払い込み
組合から出資口数の通知を受けた者は、出資金の払込を行います。
※組合は出資の払込を確認した場合、出資金領収書を発行します。
⑤ 組合員名簿の変更
増資の手続きが完了すれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
2.注意事項
① 出資口数及び出資総額の変更に伴う変更登記の実施
組合員の出資口数の増加に伴い、出資総口数及び払込済み出資総額が変更(増加)することになります。出資総口数及び払込済み出資総額は登記事項ですので、変更になった場合には変更登記が必要です。
② 資本金額の変更に伴う税務関係機関への変更・異動届出書の提出
出資額(資本金額)等法人の内容に変更があった場合には税務関係機関(税務署、都道府県税事務所及び市町村税務課)に変更・異動届出書の提出が必要となります。
3)持分の譲渡
①持分を譲渡する場合は組合の承認が必要となります。
②組合員でない者が持分を譲り受けようとするときは、「新規加入」の例にならい行うことになります。
③具体的な手順は次のとおりですが、通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.持分譲渡の手順
組合員は、組合の承認を得なければ、その持分を譲り渡すことができません。 組合員でない者が持分を譲り受けようとするときは、「新規加入」の例にならい
行うことになりますが、農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
◎組合員でない者への譲渡(持分譲渡による加入)の手順
① 持分譲渡の申請
持分を譲渡しようとする者は、「譲り渡す相手先及び口数」等を記載した書面(持分譲渡承認申請書など)を組合に提出します。
※書面(持分譲渡承認申請書など)については特に指定された様式はありませんので、上記内容で適宜、作成します。
(参考)持分譲渡申請書例
持分譲渡申請書
平成○○年○月○日
農事組合法人○○代表理事 様
住所
氏名
○○市○○町○○番地
○○○○
(印)
次のとおり、持分譲渡の承認を申請をします。
1.譲渡先
住所氏名
組合員の別
2.出資口数
(組合員・組合員以外)
○口
金額
○○円
② 総会での承認
組合は、持分譲渡に係る書面(持分譲渡承認申請書など)の提出があったときは、総会でその可否を決定します。
※組合員の加入(持分の相続又は譲受による加入を含む。)については農業協同組合法上、総組合員の2/3以上の議決(特別議決)の必要はありませんが一般的には特別議決事項として定款に規定しています。
③ 持分譲渡承認の通知
総会で持分譲渡を承認したときは、その旨を該当する者にに通知します。
※通知をした時に組合員となります。
④ 組合員名簿の記載
持分譲渡が完了すれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
2.注意事項
① 組合員への譲渡の場合、定款例では、総会での承認しか規定していませんので、持分譲渡申請の提出の有無等、具体的な手順については組合の実情にあわせ、行ってください。
なお、持分譲渡が総会で承認されれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
② 組合員でない者への譲渡の場合は新規加入組合員の組合員資格に留意してください。
※組合員の資格は農協法の規定に基づき、定款に記載があります。
4)相続による加入
①組合員の死亡により、その後継者等がその持分を相続し組合に加入する場合は、
一定の期間内に組合に加入の申込みをし、組合の承諾を得なければなりません。
②具体的な手順は通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.相続による加入の手順
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
① 相続による加入の申請
組合員の相続人で、その組合員の死亡により、持分の払戻請求権の全部を取得した者は、相続開始後、60日以内に組合に加入の申込みを行います。
※加入の申込みをしようとするときは、当該持分の払戻請求権の全部を取得したことを証する書面を提出しなければなりません。
② 総会での承認
組合は、相続による加入の申請があったときは、総会でその可否を決定します。
※組合員の加入(持分の相続又は譲受による加入を含む。)については農協法上、総組合員の2/3以上の議決(特別議決)の必要はありませんが一般的には特別議決事項として定款に規定しています。
③ 承認の通知と組合員名簿の記載
総会で相続による加入を承認したときは、その旨を該当する者に通知するとともに組合員名簿に記載(又は記録)します。
5)組合員の脱退
①持分全部の譲渡等の一定の事由により、組合を脱退する場合は一定の期日まで
に書面をもって組合に予告をしなければなりません。
②具体的な手順は通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.脱退の手順
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
① 脱退の予告
次の理由により、組合を脱退する場合は事業年度末の60日前までに書面をもって組合に予告をし、当該事業年度の終わりにおいて脱退することができます。
※脱退の事由
1.組合員たる資格の喪失 2.死亡又は解散 3.除名 4.持分全部の譲渡
② 組合員名簿の記載
脱退手続きが完了すれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
6)組合員の除名
①組合員が組合の事業を妨げる行為をしたときなど一定の事由に該当するとき
は、総会の議決を経て、組合員を除名することができます。
②組合員の除名を行う場合には、一定の期日までにその組合員に対し除名の旨を通知し、かつ、総会において弁明する機会を与えなければなりません。
②具体的な手順は通常、定款に定めがありますので、それに基づいて行うことになります。
1.除名の手順
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
① 組合員が次の各号のいずれかに該当するときは、総会の議決を経てこれを除名することができるます。
除名の理由(農林水産省作成農事組合法人定款例の場合)
1.正当な理由なくして1年以上この組合の事業に従事せず、かつ、この組合の施設を全く利用しないとき(※組合員の資格が「この組合の地区内に住所を有する農民」に該当する組合員の場合に限る)
2.この組合に対する義務の履行を怠ったとき
3.この組合の事業を妨げる行為をしたとき
4.法令、法令に基づいてする行政庁の処分又はこの組合の定款若しくは規約に違反し、その他故意又は重大な過失によりこの組合の信用を失わせるような行為をしたとき
※組合員の除名については、総組合員の2/3以上の議決(特別議決)を必要とします
(農協法72条の14)。
② 除名を行う場合には、総会の日の10日前までにその組合員に対し、その旨を通知し、かつ、総会において弁明する機会を与えなければなりません。
③ 総会で除名を議決したときは、その理由を明らかにした書面により、該当する組合員にその旨を通知しなければなりません。
④ 組合員名簿の記載
除名手続きが完了すれば、その内容を組合員名簿に記載(又は記録)します。
7)役員の選任と解任
①組合の役員は定款の定めるところにより総会において選任します。この場合、
総組合員の過半数による議決を必要とします。
②任期中でも総会において役員を解任することができます。
③具体的な手順は定款の規定に基づいて行うことになります。
1.選任・解任の手順
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
(1)役員の選任
任期満了等によって役員を選任(改選)する場合は、総会において総組合員の過半数による議決を必要とします。
※農業経営を行う法人の場合、役員のうち理事は、組合員の資格が「この組合の地区内に住所を有する農民」に該当する組合員でなければなりません。
※役員の定数は定款記載事項ですので、役員定数を変更する場合は定款の変更が必要となります。定款の変更は総会において総組合員の2/3以上の議決(特別議決)を必要とします。
※役員の定数に幅を持たせる場合は次のように定款に定めることも可能です。
(役員の定数)
第○条 この組合に、役員として、理事○人以上○人以下及び監事○人以上
○人以下を置く。
(2)役員の解任
役員は、任期中でも総会においてこれを解任することができます。
※役員の解任については総組合員の2/3以上の議決(特別議決)を必要とします。
(3)代表理事の選任
代表理事の選任については定款の定めにより行うこととなりますが、一般的には
「理事の互選」による方法が一般的です。
※代表理事は農協法上、必置ではありませんが、通常、定款に定め、設置しています。
2.注意事項
① 役員(理事)の改選に伴う変更登記の実施
役員に関する事項(理事の氏名、住所)は登記事項ですので、役員改選により理事に変更があった場合は変更登記が必要です。
② 役員(理事)の改選に伴う税務関係機関への変更・異動届出書の提出
役員改選により法人の代表者(通常は代表理事)に変更があった場合には税務関係機関(税務署、都道府県税事務所及び市町村税務課)に変更・異動届出書の提出が必要となります。
8)総会の開催
①理事は、定款の定めるところにより毎事業年度に1回、通常総会を招集しま
す。総会を招集する場合には、総会開催日の一定期日までに、会議の目的たる事項(総会の議案等)を示して組合員に通知を行います。
②具体的な手順は定款の規定に基づいて行うことになります。
農林水産省作成の農事組合法人定款例に基づく手順は次のとおりです。
1.総会の招集
① 通常総会の招集
理事は、定款の定めるところにより毎事業年度に1回、通常総会を招集します。総会招集の通知は、総会開催日の一定の期日(※農林水産省作成の定款例では5日前)までに、会議の目的たる事項(総会議案等)を示して行います。
② 臨時総会の招集
理事は、定款の定めるところにより、臨時総会を招集します。なお、下記の2(組合員の5分の1以上の請求による総会)に該当する場合には、その請求があった日から一定の期日(※農林水産省作成の定款例では10日以内)までに、総会を招集しなければなりません。
臨時総会開催事由(農林水産省作成農事組合法人定款例の場合)
1.理事の過半数が必要と認めたとき。
2.組合員がその5分の1以上の同意を得て、会議の目的とする事項及び招集 の理由を示して招集を請求したとき。
③ 監事による招集(監事を置いている場合)
定款の定めるところにより、監事は、財産の状況又は業務の報告について不正の点があることを発見した場合で、総会に報告する必要があると認めたときは、総会を招集します。
2.総会の開催方法
① 総会の議案
総会では、定款の定めるところにより議決しますが、一般的には下記の総会議決事項(総会の議決を経なければならない事項)のうち、総会招集通知で通知した事項に限って、議決します。ただし、次の特別議決事項を除き、緊急を要する事項(緊急議案)についてはこの限りではありません。
総会議決事項(農林水産省作成定款例の場合)
1.定款の変更
2.規約の設定、変更及び廃止
3.毎事業年度の事業計画の設定及び変更
4.事業報告、貸借対照表、損益計算書及び剰余金処分案又は損失処理案
5.団体への加入(○○農業協同組合への加入を除く。)又は団体からの脱退
6.持分の譲渡又は出資口数の減少の承認
② 総会の議決方法
総会の議事は、定款の定めるところにより決することとなりますが、一般的には出席した組合員の議決権の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによります。
ただし、定款変更等の重要な事項については総組合員の3分の2以上の多数による議決
(特別議決)を必要とします。
特別議決事項(農林水産省作成定款例の場合)
1.定款の変更
2.解散及び合併
3.この組合への加入(持分の相続又は譲受けによる加入を含む。)の承認
4.組合員の除名
5.役員の解任
※農事組合法人が、定款を変更したときは、変更の日から2週間以内に、変更に係る事項を行政庁(都道府県知事)に届け出なければなりません。(農業協同組合法72条の13,2項)
③ 総会の議長
総会の議長は定款の定めるところにより選出しますが、一般的には総会において、出席した組合員の互選により選任します。なお、議長は、組合員として総会の議決に加わる権利を有しません。
④ 総会の定足数
総会の定足数は定款の定めるところによりますが、一般的には、組合員の半数以上が出席しなければ、議事を開き議決することができません。この場合において、定款で定めれば、書面又は代理人により議決することができます。
書面又は代理人による議決の定款記載例
(書面又は代理人による議決)
第○条 組合員は、書面又は代理人をもって議決権を行うことができる。
2 前項の規定により書面をもって議決権を行おうとする組合員は、あらかじめ通知のあった事項につき、書面にそれぞれ賛否を記入してこれに署名又は記名押印の上、総会の日の前日までにこの組合に提出しなければならない。
3 第1項の規定により組合員が議決権を行わせようとする代理人は、その組合員と同一世帯に属するxx者又は他の組合員でなければならない。
4 代理人は、2人以上の組合員を代理することができない。
5 代理人は、代理権を証する書面をこの組合に提出しなければならない。
3.議事録の作成
総会の議事については、議事録を作成し、次に掲げる事項を記載、又は記録しなければなりません。
議事録記載事項(農林水産省作成農事組合法人定款例の場合)
1.開催の日時及び場所
2.議事の経過の要領及びその結果
3.出席した理事及び監事の氏名
4.議長の氏名
5.議事録を作成した理事の氏名
6.前各号に掲げるもののほか、農林水産省令で定める事項
4.行政庁への業務報告書の提出
農事組合法人は、事業年度ごとに、業務及び財産の状況を記載した業務報告書を作成し、行政庁に提出しなければなりません(農業協同組合法73条2項で準用する54条の2)。そのため、総会で事業報告及び決算報告が決定したならば、速やかに都道府県知事に報告書を提出します。