JCAA は 2021 年に商事仲裁規則の改正を行いました。この改正では迅速仲裁手続がより利用し易い手続になるように、適用される紛争金額の上限額や手続期間につ いての定めを改めました。第二版では、この改正に基づき「III. 仲裁条項のドラフティング」の該当箇所の記載を修正しました。
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
第二版の発刊に寄せて
JCAA は 2021 年に商事仲裁規則の改正を行いました。この改正では迅速仲裁手続がより利用し易い手続になるように、適用される紛争金額の上限額や手続期間についての定めを改めました。第二版では、この改正に基づき「III. 仲裁条項のドラフティング」の該当箇所の記載を修正しました。
2022 年 10 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
xx xx
そのまま使えるモデル英文契約書シリーズ
はじめに
人口減少が続く中、これまで国内市場のみを対象としてきた日本の中堅・中小企業であっても、ビジネスの維持・発展のためには、海外の旺盛な需要を取り込む必要がある。しかし、同じ文化に属する国内取引先と違って、海外企業との取引では思わぬトラブルが発生することがある。これは、早くから国際取引に乗り出してきた日本の大企業が経験してきたことであり、不慣れだったでは済まないほどの大きな損失を被った例も少なくない。これに対して、中堅・中小企業が国際取引において損失を被った場合、それを吸収するだけの体力がないおそれもある。
先人が経験した苦い経験を繰り返す必要はない。これから国際取引に乗り出そうとする企業は、過去の経験に学び、国際取引に伴うトラブルに備えた適切な予防措置をとるべきである。すなわち、外国企業から示された英文契約書案にそのままサインするのではなく、日本企業の立場から様々な事態を想定し、相手方に対して逆提案をし、きちんとした交渉を経た上で契約を締結すべきである。とはいえ、国際取引に不慣れな企業にとって、自ら詳細な英文契約書を作成することは困難であり、またその作成を渉外弁護士に依頼した場合には高額な費用が発生する。
そこで、JCAA では、これまで日本企業が当事者となった仲裁事件を処理してきた経験に照らし、国際取引に不慣れな中堅・中小企業が契約書を作成する際に参考にして頂くべく、本シリーズを発刊することとした。本シリーズでは、各条項の解説の随所で、その条項の説明にとどまらず、その条項が扱っている事項はどのような意味があるのかを自覚的に考えることができるように工夫している。なお、異なるモデル契約書に登場する類似の条項例や解説は必ずしも同一ではないが、趣旨は同じである。
また、国内の取引では紛争解決はいずれかの地方裁判所での裁判により最終的には解決される旨を定めるのが当然と考えてきたかもしれないが、国際取引をめぐる紛争については、外国での裁判を飲まざるを得ないとすれば、それは外国語で外国訴訟法に基づく手続の末に外国人の裁判官が外国語で判決を下すことを意味する。他方、日本での裁判は相手方の外国企業が拒否することになろう。そのため、国際取引紛争の解決のためには仲裁が用いられることが多い。すなわち、日本人と外国人から構成される仲裁廷により最終的な解決を図るのである。本シリーズでは、 JCAA ならではのこととして、仲裁条項のドラフティングについて詳しく説明している。
本シリーズのモデル英文契約書が実際の契約書作成にあたり参考となれば幸いである。最後に、本シリーズの刊行にあたり、丁寧な監修により最新のモデル契約書に刷新して頂いたアンダーソン・xx・xx法律事務所のxxxxx弁護士及びxxxx弁護士に厚く御礼申し上げたい。
2020 年 4 月
日本商事仲裁協会(JCAA)仲裁・調停担当執行理事
どう が うち
xxx
xx x
正人
目 次
<秘密保持契約>
I. 秘密保持契約の概要
1. 秘密保持契約とは 5
2. 本条項例 5
3. 秘密保持契約のポイント 5
II. Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約)の条項例(英語、日本語)・解説
1. レター形式 1 7
2. レター形式 2 14
3. 通常の契約形式 16
<共同開発契約>
III. | 共同開発契約の概要 | ||
1. | 共同開発契約とは……………………………………………………………………………… | 24 | |
2. | 本条項例………………………………………………………………………………………… | 24 | |
3. | 共同開発契約のポイント……………………………………………………………………… | 24 | |
IV. ■ | Joint Development Agreement(共同開発契約)の条項例(英語、日本語)・解説 Recitals /前文………………………………………………………………………………… | 25 | |
■ Article | 1 | Purpose /目的 ………………………………………………………………… | 26 |
■ Article | 2 | Schedule /スケジュール……………………………………………………… | 27 |
■ Article | 3 | Areas of Responsibilities /責任範囲 ……………………………………… | 27 |
■ Article | 4 | Exchange of Information /情報交換 ……………………………………… | 28 |
■ Article | 5 | Expenses / 用 ……………………………………………………………… | 30 |
■ Article | 6 | Result of Development /開発の成果 ……………………………………… | 31 |
■ Article | 7 | Infringement of Intellectual Property Right /知的財産権侵害 ……… | 34 |
■ Article | 8 | License /ライセンス ………………………………………………………… | 35 |
■ Article | 9 | Commercialization /商品化 ………………………………………………… | 36 |
■ Article | 10 | Confidentiality /秘密保持 …………………………………………………… | 36 |
■ Article | 11 | Prohibition of Competing Development /競合開発の禁止 …………… | 38 |
■ Article | 12 | Modification /修正 …………………………………………………………… | 39 |
■ Article | 13 | Term/Termination /期間/終了 …………………………………………… | 39 |
■ Article | 14 | Assignment /譲渡 …………………………………………………………… | 40 |
■ Article | 15 | Force Majeure /不可抗力 …………………………………………………… | 41 |
■ Article 16 | Arbitration /仲裁 ……………………………………………………………… | 41 |
■ Article 17 | Governing Law /準拠法 ……………………………………………………… | 42 |
■ Article 18 | Notice /通知 …………………………………………………………………… | 43 |
■ Article 19 | Entire Agreement /完全合意 ……………………………………………… | 43 |
■ | 末尾文言および署名欄………………………………………………………………………… | 44 |
V. 仲裁条項のドラフティング 1. 仲裁とは………………………………………………………………………………………… | 46 | |
2. 仲裁条項のヒント……………………………………………………………………………… | 47 | |
(1) JCAA の 3 つの仲裁規則に基づく仲裁条項 …………………………………………… | 48 | |
(2) 機関仲裁条項(仲裁機関を指定する仲裁条項) ……………………………………… | 49 | |
(3) 仲裁規則を規定する仲裁条項 …………………………………………………………… | 50 | |
(4)「商事仲裁規則」の迅速仲裁手続によって仲裁を行う場合の仲裁条項 …………… | 52 | |
(5) 仲裁人の要件や数を規定する仲裁条項 ………………………………………………… | 52 | |
(6) 仲裁手続の言語を規定する仲裁条項 …………………………………………………… | 54 | |
(7) 仲裁 用の負担を定める仲裁条項 ……………………………………………………… | 55 | |
(8) 多層的紛争解決条項 ……………………………………………………………………… | 56 | |
(9) 交差型仲裁条項(クロス条項) ………………………………………………………… | 57 | |
(10)準拠法条項と仲裁条項 …………………………………………………………………… | 58 |
CD-ROM:秘密保持契約書・共同開発契約書【英語、日本語】(MS-Word)
I. 秘密保持契約の概要
1. 秘密保持契約とは
一方の当事者が他方の当事者に対し、秘密情報を開示し、その他方の当事者に対し、当該秘密情報を他社に開示しない旨を義務づける契約である。
秘密保持契約は、独立して締結されるのではなく、契約の交渉に入る前の段階で締結されるなど、別の契約に関連して締結されることが多い。たとえば、共同開発を進めるかどうかを検討するためには、互いに相手方がどのレベルの技術情報をもっているかを知っておく必要がある。そこで、共同開発を進めるかどうかを検討する段階で、相手方のもっている技術情報やノウハウを評価する目的で情報を開示し合うことがよくある。この段階だけで正式な共同開発契約の締結に至らない場合も、正式な共同開発契約の締結に至る場合も、すでに提供した秘密情報の秘密を保持してもらう必要があり、双方向的な秘密保持契約を結ぶことになる。
このような場合と異なり、たとえば、実施許諾契約を締結するかどうかを検討する場合には、特許権などを有する権利者から、許諾を受けようとする当事者に対し、一方通行で秘密情報が開示されることが多い。
2. 本条項例
本条項例は、企業間で取り交わされる秘密保持契約を前提とするが、個人が相手であっても、注意すべき点は同じである。
本条項例では、レター形式のものを 2 例、通常の契約形式のものを 1 例挙げている。レター形式は、上記の一方通行の場合、秘密保持義務を負う当事者が相手方に対して差し入れるものとして用いられる。
3. 秘密保持契約のポイント
秘密保持契約において注意すべきポイントは次のようなものである。
(1) 秘密情報の定義
秘密情報を「有形物の場合は秘密情報というマークをつけ、無形物の場合は開示から何日後までに書面で内容を確認する」などと厳密に定義することはxx正しい方向のようだが、開示者側に立った場合、そのような手続を忘れるリスクもある。そのような限定をせずに、不明確だが広く定義するという方法と、慎重に比較すべきである。
(2) 守秘義務の例外事由
当方が開示する側の場合、例外事由が広く認められていないかをよく検討する必要がある。当方が受領する側の場合、適切な例外事由が定められるよう注意すべきである。
(3) 期間
秘密保持契約の期間を定める場合、他に何も規定しなければ、その期間を経過した後には秘密保持義務を負わないということになってしまう。多くの場合これは不都合であろうから、期間経過後も秘密保持義務は存続するという条項を入れるのが通例である。その場合、永久に存続することにするのか、それとも、期間経過後何年間だけ存続するのかを判断し定めておくのがよい。一定の期間が経過したら情報が陳腐化するなどの状況にある場合、とくに受領者側としては永久に秘密保持時義務を負わされていると、違反しているとの主張を受けるリスクも永久に続くため、一定の期間を経過したら秘密保持義務がなくなるほうが有利である。存続期間を定めるのがよいか、そして定める場合何年がよいかは一概には言えない。
II. Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約)の条項例(英語、日本語)・解説
1. レター形式 1
March 1, 20 ××
To: Y Co., Ltd.
Japan Dear Sirs:
X Corporation [“X”] is interested in discussing with Y Co., Ltd. [“Company”] information concerning possible collaborative
projects in the field of biotechnology.
Much of the information to be disclosed by X to Company is considered by X to be proprietary.
Much of the information to be disclosed by Company to X is considered by Company to be proprietary.
Therefore, we, X, and Company agree to make and to receive the disclosures contemplated hereunder on the following terms and conditions:
20 ××年3月1日
Y 株式会社 御中
日本国拝啓
X 社(以下「X」という)は、Y 株式会社(以下「本会社」という)と、バイオテクノロジー分野における実現可能性のある共同プロジェクトに関する情報について協議することに関心がある。
X から本会社に開示される情報の多くは、 X にとって財産的価値のあるものである。また、本会社から X に開示される情報の多くも、本会社にとって財産的価値のあるものである。
そこで、X および本会社は、本契約に基づき、以下の条件に沿って相互に情報を開示することに合意する。
解説
日付、宛先
レター形式であるから、日付、受取人の住所が入る。会社間の契約であれば、宛先に個人名を書くことは多くないが、“Attention: ” として、個人名や担当部署を書いたりすることはある。
こうしたレターを会社のレターへッド付きのペーパーに印刷することは多い。その場合はとくに、このようなレターの出状が差出人の会社としての契約の申し込み(offer)にあたることがより明確になるので注意が必要である。
前文第xx
レター形式なので、略した内容になることが特徴である。いきなり「X コーポレーション」とあるが、どこに本店があり設立準拠法は何法かといった、通常の契約であれば頭書部分に書かれる事項は省略されている。ここに書かれているのは、通常 whereas 条項に書かれる、契約の目的、背景である。
前文第二文
これも通常の契約であれば、whereas 条項にあたる内容を含んでいる。情報のなかには、財産的価値のあるものとないものがある。本件の場合、技術ノウハウが対象になっている。
これが「営業秘密」として不正競争防止法の下で保護されるためには、情報の技術上・営業上の「有用性」が要件になる(同法 2 条 6 項)が「財産的価値がある」ということは同要件にかかわり、事業活動上有用であることを意味する。
前文第三文
通常の契約において前文の最後に書かれる文章と内容的には共通する。ここまで読めば、当事者がバイオ分野で共同研究を行おうとしていることがわかる。共同プロジェクトであるから、当事者が相互に情報を開示しそれぞれ相手方に対して守秘義務を負う。
■ 第 1 項
1. For the purposes hereof the term “Proprietary Information” shall mean all information relating to:
a. the field of expression of
systems for the purpose of producing and purifying;
b. production of ; and
c. the result of test or evaluation performed by Company hereunder, which is neither in the public domain nor known to the recipient of information prior to the time it is disclosed.
Information initially covered
1. 本契約において、「本件財産的情報」とは、以下に関連する一切の情報で、開示以前には公知ではなく、情報受領者も知らない情報を意味する。
a. 製造と精製の目的のための システムに関する一連の情報
b. の製造に関する情報、および
c. 契約に基づき本会社が行ったテストまたは評価の結果で、それが開示された時点で公知ではなく、あるいは情報受領者に知られていないもの
当初本件財産的情報の定義に含まれていた情報であっても、本契約に違反することなく公知となった情報または
by the definition of Proprietary Information which later enters the public domain, other than by breach of this Agreement, and initially so covered which is later
disclosed by a third party rightfully in possession of the same and under no obligation of secrecy to either party shall forthwith cease to be Proprietary Information for the purposes thereof.
当初本件財産的情報の定義に含まれていた情報であって、当該情報を適法に保有しており、いずれの当事者に対しても秘密保持義務を負わない第三者によって当該情報が開示された情報は、直ちに本契約の目的である本件財産的情報ではなくなる。
解説
第1項
守秘義務の対象となる財産的情報の定義をしている。定義は物質名などを使って具体的にすれば、そのものずばりの侵害に対抗しやすい。半面、改良技術や応用技術に対しては、ある程度幅をもたせた定義にしておいたほうが侵害を主張しやすい。本項の定義は、具体的に絞りこんだ内容になっている。
第 2 文においては、第 1 文で定義された情報から外れ、守秘義務の対象にならない情報について規定している。除外される情報は、公知となった情報、守秘義務を負わない第三者から入手した情報などであるが、もっとも争いになりやすいのは開示の時点ですでに被開示者が保有していたとする情報である。独自に開発し取得した技術情報とたまたま一致していたとしても、独自に開発したことをどうやって証明するかが問われる。
xxxxは、開示を受けただけで一瞬にして移転することがある。コロンブスの卵と同じで、ノウハウの内容を知ったあとだから主張しているのではないかといわれないために、被開示者としてはどうしたらよいかを常に考えておくのでないといけない。レター形式の秘密保持契約においては、守秘義務の対象から外れる情報の書き方が、通常の形式の秘密保持契約と比較して不十分になりがちである。その分、被開示者側のリスクになりうる。
レター形式ではない標準タイプの秘密保持契約書において一般に秘密保持義務の対象から外れる情報を列挙すると以下のようになる。
イ.開示を受けた時点で公知である情報
ロ.開示後、公表その他許されない開示以外の方法によって公知となった情報
ハ.開示の時点ですでに被開示者の所有に属していた情報で、かつ、そのことを文書記録によって証明できるもの
ニ.本契約の当事者から拘束を受けず無関係の第三者から得られた情報ホ.法令に基づき官公署、裁判所から開示を求められた情報