Contract
第1 はじめに
1 貸金庫1
貸金庫と相続
弁護士 xx xx
類似の無名契約と考えられている。
2 利用者死亡の場合
利用者が死亡した場合、賃貸借契約上の地位は相続人に承継される3。
一方、銀行は、一般に、貸金庫規定上、利用者に相続が開始した場合は貸金庫契約を解約できる旨の条項があり、死亡後はいつでも解約すること
貸金庫は、銀行など金融機関(以下、銀行という)が貸金庫室内に備え付けられた貸金庫ないし貸金庫内の空間を利用者に貸与し、有価証券、貴金属、預金通帳・契約書類等の重要書類等の物品を格納するために利用させるものである。貸金庫取引は、銀行の付随業務又は併営業務として認められてい る(銀行法10条2項10号、信用金庫法53条3項9号、信託業法21条2項等)。
貸金庫には、開閉手続の違い、銀行の関与の程度等により、銀行が貸金庫室に入室させ、銀行が保有するマスターキーと利用者が銀行から交付を受けた鍵の両方で貸金庫ボックスを開いて保護箱を取り出す手動型、利用者が銀行からカードの交付を受けて貸金庫室に入室し、利用者の鍵で貸金庫ボックスを開いて保護箱を取り出す半自動型、利用者があらかじめ暗証番号を届け出てカードと鍵の交付を受け、これにより銀行の関与なしに貸金庫室に入室し貸金庫ボックスを開いて保護箱を取り出す全自動型があり、これらの間でも機種によって種々のものがある。
銀行は、いずれのタイプの貸金庫であっても、貸金庫ボックスを開くまでは関与するが、保護箱の開閉や内容物の出し入れは、利用者が自ら行い、銀行は、内容物の有無、内容について関与しない。
これらのことから、最判平成11年11月29日民集 195号513頁は、銀行は、貸金庫の内容物の個別の占有をしているのではなく内容物全体について一個の包括的な占有をしていて、利用者と共同して民法上の占有をしており、利用者は、銀行に対して、貸金庫契約に基づき内容物全体を一括して引き渡すことを請求する権利を有しているとしている2。
そして、貸金庫契約の法的性格について、前記最判は判示するところではないが、銀行は、貸金庫を貸与し、これを自由に使用させるための安全な場所を提供して、貸金庫を安全な状態に保つ義務と貸金庫の開閉に協力する義務を負うが、内容物に責任を負わないという賃貸借契約乃至賃貸借
ができる。また、利用者の死亡が判明したときは、貸金庫の開閉停止の措置をとるのが一般である。
貸金庫契約では代理人の契約がなされることがあるが、死亡により委任・準委任契約が終了する
(民法653条1号)ので、代理人も開閉することはできない。
利用者の死亡により、貸金庫契約上の地位は、遺産分割があるまでは相続人の準共有となり、相続人は、民法251条により、内容物の引渡請求権や相続人からの解約は、全相続人の同意の下に行使することとなる。
前記最判平成11年は、利用者の内容物引渡請求権について「利用者は、貸金庫契約に基づいて、銀行に対し、貸金庫室への立ち入り及び貸金庫の開扉に協力すべきことを請求することができ、銀行がこれに応じて、利用者が貸金庫を開扉できる状態にすることにより、銀行は内容物に対する事実上の支配を失い、それが全面的に利用者に移転する。」と判示しており、これをもって法的には「内容物の引渡し」と評価することができると考えられている4。
相続人全員の同意の下に、この意味での内容物の引渡請求権が行使される場合は、貸金庫契約上の内容物引渡請求権に基づく、引渡請求ということができる。
しかし、一部の相続人や遺言執行者や受遺者から、内容物の確認をしたいということで貸金庫の開扉を求められた場合や貸金庫保護箱から内容物の一部の引渡を求められた場合は、貸金庫契約上の内容物引渡請求権の行使とは言えず、これに応じた銀行は、善管注意義務違反の責任を問われかねない5。
このような場合、銀行は貸金庫契約上の義務がないとして、すべて拒否するべきなのか、拒否することが妥当なのかが問題となる。
第2 一部の相続人等から貸金庫内の内容物の確認を求められた場合
1 相続人は、相続承認・放棄(民法 915 条 2 項)
や遺産分割協議の前提として相続財産を調査することができ、また、遺言書の有無を調査する必要がある場合があり、遺言執行者の場合は、財産目録を作成しなければならず(民法 1011 条 1 項)、これらのために、貸金庫の内容物の確認を求められることがある。
この場合、全相続人の同意が得られず、一部の相続人から要求があった場合に、開扉に応じると、前記の貸金庫契約上の義務を超える責任を負担することになりかねない6。
しかし、相続人他に開扉請求する必要があり、これは他の相続人にも一般的には有用であるものである。一方、貸金庫契約上、銀行は、善管注意義務を負い、貸金庫規定上も銀行の責めによる事由により内容物の紛失、滅失、毀損、変質等の損害が発生したときは、損害賠償責任を負うことになるが、このような損害が発生しないような場合は、貸金庫契約上の義務とは言えないとしても、応じることが妥当であると考えられる7。
遺留分権利者が、減殺請求権者を行使した場合は、貸金庫内容物に対して共有持分権を有しており8、遺留分減殺請求権を行使した者も、同様に、貸金庫内に内容物が存在しないことが明らかなような特段の事情のない限り、貸金庫の内容物の確認請求をすることができると考える。遺留分減殺請求権を行使する前にも、行使するために必要のある場合は、応じても良いのではないかと考えられる。
2 この場合の方法として、銀行が善管注意義務違反を問われないために、銀行員の立会 and / or公証人による「事実実験xx証書」の作成(公証人法 35 条)が考えられる 9。
銀行員だけの立会か、xx証書の作成かは、全員の相続人による貸金庫契約上の引渡請求権による開扉請求ができない事情によると考えられる10。
この場合、xx証書作成費用は、開扉請求をする相続人の負担となる。
第3 一部の相続人等から内容物の引渡を求められた場合
1 遺言書検認申立のために遺言書の引渡を求められた場合
相続人全員の同意を得ることを必要とする否定説11と一部の相続人からの請求で引渡を認めるべきであるとする肯定説12がある。
前者は「貸金庫の開扉に関わること」であること
を理由とする。
後者は、相続人がxx証書以外の遺言書を発見した場合、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならないこと(民法1004条1項)、これを怠った場合過料に処せられること(民法1005条)、遺言書の偽造・変造・隠匿は相続欠格事由とされていること(民法891条5号)、事後の相続手続を進める上で遺言書の検認・開封が不可欠であること、遺言書の引渡によって他の相続人に損害が発生するわけではないこと、銀行がこれに応じることは社会的に相当な行為として違法性を欠き、他の相続人に対する債務不履行とはならないと考えられることを理由とする。
しかし、前者は、遺言書の検認の性質から考えて硬直した考えではないかと思われる。一方、後者について、民法の各規定は相続人に対する義務であり、銀行に対する義務とはいえず、これが銀行の行為を直ちに正当化できるとは考えにくい。また、仮に引渡された遺言書が破棄・隠匿等された場合には、他の相続人から、前記貸金庫契約上の義務を果たしていないとして銀行の善管注意義務違反を問われるおそれが大きいと考えられる。
私見は、遺言書の検認手続の法的性質は証拠保全のための検証手続と考えられている13ので、家事審判規則7条6項により民訴232条219条が準用されるため、一部の相続人の遺言書検認の申立により、家庭裁判所が、銀行と他の相続人に検証物提示命令を出し、そして銀行や相手方には検証協力義務(検証物提示義務と検証受忍義務)があるので
14、これに銀行は応じることにより、遺言書の引
渡をする方法によることが妥当ではないかと考える15。
2 貸金庫内の現金について持分の払戻請求を受けた場合、貸金庫に預金通帳があり、預金の持分の払戻請求を受けた場合
貸金庫内に預金通帳があることが分かり、預金の持分の払戻し請求を受けた場合は、もはや、貸金庫内の物の引渡の問題ではなく、預金債権の払戻請求の問題である。最判昭和29年4月8日民集8巻4号419頁は、可分債権は各共同相続人が相続分に応じて承継するとしており、これと異なる遺言があったり、遺産分割協議がなされているなど特段の事情のない限り、銀行がこれに応じざるを得ないと考えられる。裁判実務では、特段の事情がないのに、これを拒否した場合、法定利息による
遅延損害金を支払うことになる。
一方、現金については、前記の通り、現金は相続人の準共有となり、遺産分割協議が整うまでは、銀行は引き渡すことはできない16。
3 遺言執行者や受遺者から引渡請求を求められた場合
(1) 遺言書に遺言執行者や受遺者に貸金庫内の内容物引渡請求権を付与する記載のある場合最近は、公証人から、貸金庫について「遺 言執行者は、各金融機関における遺言者の権利に属する貸金庫が存するときは、当該貸金庫に関する契約を解約し、同金庫内に存する蔵置品を取り出して、本遺言を執行することができる。」等の規定を遺言書に記載することを勧められることがある。このような記載のあるときは、この規定に基づき、銀行は引渡
請求に応じることになる。
(2) 包括遺贈の場合
包括遺贈の場合は、遺言執行者や受遺者から貸金庫の内容物の引渡しを求められた場合は、前記の貸金庫契約上の内容物引渡請求権の行使として、銀行はこれに応じることとなる。
なお、神戸地判平成11年6月9日判時1679号 91頁は、遺言書に特定財産の記載しかない場合でも、それ以外の相続財産の存在を窺わせる事情は存在しない場合には、包括遺贈したものであると解するのが相当であるとして遺言執行者に開扉請求権を認めている。
(3) 特定遺贈の場合
(1)の様な遺言書の記載の無い場合であって、前記第2の貸金庫内の内容物確認請求による等して、貸金庫内に遺贈物が存在することが判明している場合、受遺者・遺言執行者が他の相続人の同意なしに引渡請求ができるかである。
前記注7両部氏及びxx弁護士は、公証人等の立会を条件に、これを認める。但し、xxxx、xxxx受遺者が相続人以外の者であるときは、「従前一面識もないであろう受遺者に対する内容物の引渡しには抵抗感があり、・・相続人全員の同意と依頼を得たいところである。」とする17。
銀行が、他の相続人の同意なしには引渡をしないということになると、受遺者は、遺贈物の引渡請求訴訟をして、この債務名義により動産
執行か遺贈物の引渡請求権の差押をせざるを得ないが18、受遺者にそのような負担を強いる必要性に乏しく、他の相続人が、遺言の無効を主張している等の特段の事情のない限り、応じてもいいと考える。
(4) 遺留分減殺請求権が行使された場合
遺留分減殺請求権が行使された場合は、前記注8記載の通り、遺留分権利者は共有持分権を有するので、前記と同様、特段の事情のある場合は別として、遺留分権利者の同意がない限り、受遺者に引渡をすることはできない。
4 貸金庫内の内容物を確認した結果、減価・滅失などの危険が生じる可能性のある者が発見された場合
例えば、貸金庫に投資信託受益証券があり償還期日が到来した場合や利付国債の利札の支払期限が到来している場合等である。前記注7のxxxx、これらを資金化する行為は、共有持分権者の管理行為もしくは保存行為に該当するとして、銀行が一部の相続人から委任を受け、有価証券を資金化したうえで共有資産としての預り金等の形で保管のうえ遺産分割協議の成立を待たざるをえないであろうとしている19。
5 なお、以上のような場合であっても、将来の紛争を避けるため、できるだけ他の相続人に立会の機会を与えることが望ましい。
第4 終わりに
本稿の意見にわたるものは、銀行の実務を示すものではなく、私見にすぎない。
1 貸金庫一般について、xxxx「貸金庫取引をめぐる諸問題」金法1551号34頁(1999)、xxxx「1 貸金庫の内容物についての強制執行の可否及び方法、2 貸金庫契約上の内容物引渡請求権に係る取立訴訟における個々の動産の特定及び存在の立証の要否」最高裁判例解説民事編平成11年度908頁以下が詳しい。
2 最判平成11年のxx裁判官の補足意見は、この理は貸金庫の種類によっても変わらないとする。
3 東京高判昭和58年7月28日金法1054号46頁は、遺産分割協議条項中に被相続人の銀行に対する貸金庫使用権の帰属者明示がない場合、右協議条項により「その余の遺産全部」を取得するとされた相続人がこれを相続すると判示している。
4 前掲1河邊924頁
5 前掲1河邊924頁は、銀行が特定の内容物の引渡義務を負うとなると、銀行としては、貸金庫を開扉して、動産の存否の確認、選別をする必要が生じ、貸金庫契約上の義務を超える責任を負担することになりかねないとする。
6 xx「貸金庫と公証実務」公証110号5頁(1995)、最新金融判例に学ぶ営業店OJT「相続人の1人からの貸金庫の開扉請求」金法
1494号51頁(1997)は、貸金庫契約は不可分債権であるから民法428条により、また、xxxx「貸金庫・保護預りの法務マニュアル第4回 相続人からの開扉請求」金法1467号54頁(1997)は共有物の保存行為(民法252条但書)により、相続人単独で開扉請求ができるとする。
しかし、これらは、いずれも、貸金庫契約上の引渡請求権に基づくものとなり、開扉により一部の相続人が内容物を処分等することができることとなり、賛成できない。
7 前掲1xx37頁、前掲6の各文献、xxxx「特集=相続実務をめぐる最近の問題3 貸金庫利用者と相続」金法1959号22頁
(2000)、xxxx「貸金庫の開扉」判タ1100号448頁(2002)も結論は同旨。xxxx「ケーススタディ相続実務第2回 一部相続人からの貸金庫開扉請求」金法1769号20頁(2006)も同旨であり法的義務まではないとする。xx是壽「第2版相続預金取扱事例集」211頁(銀行研修社平15)は、「相続人全員の総意により相続人代表に行わせるのが一般的です。」「相続人間に争いがある場合は、相続人全員による立会が望まれます。」とする。
8 通説判例は、遺留分減殺請求権の行使により遺産すべてにつき遺留分割合による共有持分権を有するとする。そして、東京地判平成15年5月22日金法1694号67頁は、貸金庫内に遺産を構成する物が存在していると推認できるとし、具体的遺留分を有していないと積極的に認定することができない場合に、共有持分権を有していると考えざるを得ないと判示する。
9 前掲6xx xx7両部、xx、xxも同旨
10 前掲7xxは、他の相続人が海外にいる等という理由ではなく相続人間に争いがある場合はxx証書の作成を勧める。また、前掲1xx37頁は、銀行員のみの立会は適切ではないとする。一方、前掲7xx214頁215頁は、一般にxx証書の作成を勧め、相続人間に争いがある場合は、相続人全員の立会を求めることは当然であるとする。 しかし、xx説によると、相続人間に争いがある場合は、法的手続をとられない限り、確認行為ができないことになり、銀行のリスクと比較して他の相続人に加重の負担を掛けるものと考えられる。
11 前掲7xx212頁
12 前掲7両部22頁、同xx449頁、同xx
13 新版注釈民法補訂版28巻305頁(平14)、xxxx「家庭裁判所における開封・検認手続の実際」判タ1100号478頁(2002)、xxxx「遺言検認制度の現状と課題」新家族法体系第4巻相続Ⅱ
-遺言・遺留分-」37頁(新日本法規平20)
14 xxxx「新民事訴訟法第3版補訂版」557頁(xx堂平17)
15 民法1004条1項前段は、遺言書の保管者は遺言書を家庭裁判所に提出することを要件としているが、後段は遺言書を発見した相続人は「同様とする」としていて、遺言書を提出することは必ずしも要件とはなっていないと考えられ、また、自分のなし得る範囲で「提出」していると法的に評価できる。
16 最判平成4年4月10日金法1330号32頁は「相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできない」と判示している。
17 前記7xx449頁 同両部23頁
18 動産執行(民事xxx124条)の場合は、銀行の同意が必要である。東京高判平成21年4月30日判時2053号43頁は、特定の動産引渡請求権に基づき、当該動産のみの引渡しを求める旨明示した上、債務者が銀行に対して有する貸金庫の内容物引渡請求権を差し押さえることができると判示している。
19 前記7両部22頁