Contract
他人の生命保険契約・傷害疾病定額保険契約における被保険者同意不要類型
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■アブストラクト
保険法では,賭博的利用やモラルリスクの防止を目的として,他人の死亡保険契約・傷害疾病定額保険契約において,契約の締結,保険金受取人の変更および保険給付請求権の譲渡又は当該権利を目的とする質権の設定という三局面で原則,被保険者の同意を要する。しかしながら,被保険者を保険金受取人とする傷害疾病定額保険契約では,給付事由が傷害疾病による死亡のみである場合を除き,契約の締結および保険金受取人の変更の際の被保険者の同意を不要とした。保険法部会でもこの点,疑問が呈せられたところであるが,そのありようには更なる検討が求められよう。
■キーワード
被保険者の同意,被保険者の解除請求,保険金受取人の変更
1.はじめに
⑴ 現行商法と保険法
元より他人の生命保険契約,なかでも保険契約者が自己以外の者を被保険者とする死亡保険契約(以下,「他人の死亡保険契約」という)においては,わが国では従来,「同意主義」を採用してきた¹'。保険法は,同38条をもっ
/平成21年9月8日原稿受領。
1) わが国では,明治23年4月26日に法律第32号として公布された♛商法では利益主義を,明治32年3月9日公布,同年6月16日に施行された法律第48号「商
て,「被保険者カ保険金額ヲ受取ルヘキ者」である場合は同意不要とする改正前商法(以下,「商法」という)674条1項但書を削除,その一切の例外を廃止することによりかかる主義を徹底する一方워',新設された傷害疾病定額保険契約では他人の死亡保険契約と同様,被保険者の同意を要することを原則としながらも,「被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,
法」において親族主義を採ったが,その後,明治44年改正をもって同意主義を採用し(同改正については,xxxx「他人ノ生命ノ死亡保險ニ於ケル被保險者ノ同意ニ付テ」同『私法論文集第一』所収298-322頁(巌xx書店,1916年)),今日に至っている。他人の生命の保険契約の弊害を防止するための法規整としては同意主義がベストであるとされており,ドイツ,フランス,スイスなど主要国の保険契約法では同意主義が採用されている(xxxx『保険法』 267頁(有斐閣,2005年))。かかる変遷および比較法的研究に,xxxx「生命保険法に於ける利主義と同意主義」新潟大学法經論集第3集91-119頁
(1952年),xxxx「他人の死亡の保険契約」xxxx=xxxx『生命保険契約法の諸問題』所収255-325頁(有斐閣,1958年),xxxxx「他人の生命の保険契約」ジュリスト764号58-64頁(1982年),xxx「他人の生命の保険」金融・商事判例986号70-75頁(1996年),xxxx「他人の死亡の保険契約における被保険者の同意」愛媛法学会雑誌26巻3・4号196頁(2000年),xxxx「他人の生命・身体の保険契約について」生命保険論集160巻161-196頁
(2007年),xxx「保険法現代化が生保実務に与える影響�プロ・ラタ主義の導入,未xx者の保険の議論を中心に�」保険学雑誌599号125-127頁(2007年),xxx「10 他人の生命の保険」xxxx=xxxx編『新しい保険法の理論と実務〔別冊金融・商事判例〕』所収102-103頁(2008年)。
2) 被保険者自身が保険金受取人となるのであるから,保険の賭博化や道徳的危 険の恐れはないという理由で被保険者の同意を不要としたものと考えられるが,実際には被保険者の法定相続人という被保険者からみれば他人が保険金を受け 取るのであるから,このような例外を認めることについては,諸外国でも立法 例がなく立法論として批判が強いところであった(xx・前掲注1)61頁,xx xx『法律学全集31 保険法〔補訂版〕』269頁(有斐閣,1985年),xxxx
「他人の生命の保険契約�同意主義の問題点とその課題�」日本大学法学紀要 27巻268-269頁(1986年),xxx『現代法律学講座19 商法Ⅳ(保険法)【改訂版】』279-280頁(青林書院,1994年),xxxx『新版 現代保険法』239頁
(文眞堂,1995年),xxxx『保険法〔第三版〕』322頁(悠々社,1998年),xx・前掲注1)273頁)。同項但書の削除は,このような従前よりの学説上の批判に対応した結果である。
被保険者又はその相続人)が保険金受取人である場合」は,給付事由を傷害疾病による死亡のみとする契約を除き,これを不要とした(保67条)。また他人の死亡保険契約・傷害疾病定額保険契約のいずれにおいても,被保険者の同意がその効力要件である旨明示したものの웍',同意の方式웎',時期´'および相手方°'については商法674条1項同様,保険法も何ら規定していない。
3) 商法の規律を維持しつつ,その解釈を明確にするものである(法務省民事xxxx室「保険法の見直しに関するxxxxの補足説明」(以下,「補足説明」という)第3-1⑵・第4-1⑵(2007年))。
4) 商法674条1項は,同意について書面によることを要求していないので,口頭の同意その他の同意とみられる行為があれば同意の要件に欠けることにはならないが,証拠の明確性および被保険者に事柄を認識させる機会の確保の必要性の観点から書面性を要求する例が外国法には多く(xxxxx「第14章 他人の生命の保険」xxx=xxxx=xxxx編『xxxx先生喜寿記念論文集 保険法改正の論点』所収238頁(法律文化社,2009年)),法制審議会保険法部会(以下,「保険法部会」という)でも,これを書面でしなければならないものとすべきとの指摘もあったが,書面性を要求することでむしろ被保険者の意思に反することになってしまうのではないか等の疑問に加え,情報化社会に対応した形で被保険者の同意を得ることを阻害しないためにも,保険者がどのようにして同意を確認するかは監督法上の規律に委ねることを前提として,これを変更しなかった(補足説明第3-1⑵)。とはいえ,被保険者が保険契約申込書の同意欄に署名捺印することによりするのが実務上原則とされてきたし,現在では保険業法施行規則11条2号により原則,書面による同意を得ることが求められている(xx・前掲注1)270頁)。
5) かつては契約成立時までになされなければならないという見解が有力であっ たが(xx・前掲注1)307頁,xxxx=xxxx『新版 保険法(全訂版)』 295頁(千倉書房,1987年),xx・前掲注2)240-241頁),保険法のもとでも商 法と同様,事後の同意も有効と解される(xxx『新保険契約法論(保険法論 集第二巻)』640頁(xxx保険法論集刊行会,1965年),xx・前掲注2)271頁,xx・前掲注2)281頁,xx・前掲注2)325頁,xx・前掲注4)238頁)。同見解 には,「学説が無限定に事後の同意でよいと解するのかどうかは疑問である。 同意のないまま成立した保険契約が不健全であることは間違いなく,事後の同 意でよいとしても,成立と同意の時期が多少前後してもかまわないという程度 のことであるというべきである」との批判がある(xx・前掲注1)269頁)。
6) 被保険者の同意の意思さえ明瞭に表明されれば足りるので,保険者又は保険契約者のいずれか一方に対してなされればよいとするのが,通説的見解である
他人の死亡保険契約はもちろん,かかる規定が類推適用されることが認められてきた傷害疾病定額保険契約においても‘',保険法は,商法674条1項の規律を基本的に維持したものとみてよかろう。
商法674条は,続く2項で当該「契約ニ因リテ生シタル権利ノ譲渡」,同条
3項前段において「保険契約者カ被保険者ナル場合ニ於テ保険金額ヲ受取ルヘキ者カ其権利ヲ譲渡ストキ」,そして同項後段をもって,同1項但書にいう「被保険者カ保険金額ヲ受取ルヘキ者ナル」場合には当該「権利ヲ譲受ケタル者カ更ニ之ヲ譲渡ストキ」にも,被保険者の同意を必要としている。保険法は,これを基本的に維持しつつ,保険給付請求権の質権の設定にも被保険者の同意をその効力要件とする旨追加した(保47条・76条)웒'。
保険金受取人の変更に際しても,保険法は,被保険者の同意を要する旨規
定している。他人の死亡保険契約については,商法677条2項をもって同674条1項を準用することで,原則として被保険者の同意を要しながら,被保険者が保険金受取人である場合には不要としてきた。今改正では,商法674条
1項但書が削除された結果,保険金受取人の変更についても例外なく被保険
xx・前掲注1)314頁,xx・前掲注5)639頁,xxxx『保険法』298頁(文眞堂,1991年),xx・前掲注2)325頁,xx・前掲注1)269頁,xx・前掲注4) 239頁)。
7) xx・前掲注1)310頁,xx・前掲注1)58頁,xx・前掲注2)270頁,xx・前掲注1)268頁。他人の傷害疾病定額保険契約に商法674条1項の適用を認めた事例として,大阪地判昭54・2・27(判例時報926号115頁),東京地判平2・3・ 19(判例タイムズ744号198頁)および同控訴審である東京高判平 3・11・ 27(判例タイムズ783号235頁),東京地判平 3・8・26(判例タイムズ765号286頁),水戸地判平10・5・14(判例タイムズ991号221頁)。
8) 実務では既にこの場合にも被保険者の同意を要求しているが(xx・前掲注1)274-275頁,xxxx「第47条・第76条〔解説〕」xxxx=日本生命保険生命保険研究会編『解説 保険法』所収167頁(弘文堂,2008年)),「質入れ
(転質もこれに含まれる。)の場合には質権者が保険金請求権を直接に取り立てることができることになること(民法第366条第1項)や,現行商法の解釈や立法論的な提案を踏まえ,質入れの場合にも被保険者の同意が効力要件であることを明確にし」た結果である(補足説明第3-2⑴)。
者の同意を要するよう改められている(保45条)。他方,他人の傷害疾病定額保険契約における保険金受取人の変更に関しては,保険法67条1項本文で
「被保険者の同意がなければ,その効力を生じない」が,同但書により「被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,被保険者又はその相続人)が保険金受取人である場合」には同意を必要としない。もっとも給付事由が傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約の場合は,原則に立ち帰って被保険者の同意を要する(保67条2項)。
更に特筆すべきは,「モラル・リスクの問題が頻発する状況に鑑み,生命や身体の危険を感じた当該被保険者に保険契約を失効させる道を開くために,
…当該被保険者に,将来に向かって保険契約を解除できる権限を賦与す」べきとの立法的提言に応え°',保険法が,他人の死亡保険契約・傷害疾病定額保険契約の被保険者に,一定の事由に該当した場合に限って,保険契約者に対して当該契約の解除を請求できる�被保険者による解除請求を認めたことにあろう。かかる規定は,商法は疎か,外国にも類例を見ない¹°'。
保険法38条はじめ,前記列挙した規定はすべて絶対的強行規定である。
⑵ 問題の所在
平成18年9月6日に開催された法制審議会第150回会議において,法務大臣から「広く社会に定着している保険契約について,保険者,保険契約者等の関係者間におけるルールを現代社会に合った適切なものとする必要があると思われるので,別紙『見直しのポイント』に記載するところに即して検討の上,その要綱を示されたい」との諮問を受け,保険法部会による約二年にわたる審議を経て平成20年5月30日,法律第56号として保険法が成立,翌6
9) 傷害保険契約法研究会『傷害保険契約法試案(2003年版)理由書』52頁(生命保険協会・日本損害保険協会,2003年),生命保険法制研究会(第二次)
『生命保険契約法改正試案(2005年確定版)理由書・疾病保険契約法試案
(2005年確定版)理由書』58頁および210頁(生命保険協会,2005年)。
10) xx・前掲注4)239頁。
月6日に公布されるに至ったことは,記憶に新しい。前記「見直しのポイン ト」中の「四 その他,保険契約の成立,変動及び終了に関する規律につい て,保険契約者の保護,保険の健全性の維持,高度情報化社会への対応等に 配慮し,その内容を見直すものとする」¹'点を踏まえ,その実現を目指した 保険法では,従来,賭博的利用やモラルリスクが極めて高いとされ,その取 扱いが注視されてきた他人の死亡保険契約・傷害疾病定額保険契約において,契約の締結,保険金受取人の変更および保険給付請求権の譲渡又は当該権利 を目的とする質権の設定という三局面で原則,被保険者の同意を要する旨規 定している¹워'。その最たるものが,他人の死亡保険契約における同意主義の 例外の廃止,すなわち商法674条1項但書の削除であろう¹웍'。
ところが,である。他人の傷害疾病定額保険契約のその契約の締結および保険金受取人の変更に関して,保険法は,前者につき同67条1項但書および同2項に,後者については同74条1項但書および同2項に「被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,被保険者又はその相続人)が保険金受取人である場合」は,給付事由が傷害疾病による死亡のみである傷害疾
11) 詳細は,保険法部会第1回会議配布資料「諮問78号」および「別紙 見直しのポイント」。
12) 保険契約者を変更する際にも被保険者の同意を要するのが,実務上は通例となっている(xx・前掲注1)274-275頁,xxxx「Q13〔解説〕」xxx監修=xxxx編著『速報 Q&A新保険法の要点解説』所収54-55頁(金融財政事情研究会,2008年),xx・前掲注1)(2008年)104頁)。「xxxxでは,保険契約者の変更の場合についてもxxの規律を設けることとしていたが,そもそも保険契約者が変更される場合としては様々な場合が考えられ,そのすべての場合について被保険者の同意を必要とすべきか慎重な考慮が必要であること,保険契約者の変更に伴って保険金受取人が変更される場合や保険契約者の変更後に保険金受取人が変更される場合には被保険者の同意が必要とされること」等を踏まえ,今改正では,商法と同じく解釈や約款等の規律にゆだねることとした(保険法部会資料25「保険法の見直しに関する要綱案(第1次案・下)」4頁)。
13)「保険法三M条(同四五条も同じ)がその例外を廃止したことには,賛成できる」(xx・前掲注4)235頁)。
病定額保険契約を除き,これを不要とする旨定め,この例外を存置した(図表1参照)。「これは,現行商法674条第1項ただし書の規定をもとにした規律であり,被保険者又はその相続人が保険金の支払を受ける場合を想定している。専ら保険契約者のために契約が締結されること(被保険者のためとはいえない契約が締結されること)を防止するための要件であり,これを要件とすることによって,被保険者の同意が求められている趣旨に反する事態が防止されることになる」というのが,その示された理ℝである¹웎'。
保険法は,平成22年4月1日,その施行を迎えることとなる。その施行が
間近に迫った今,改めてその是非を検討することが,本稿の目的である。
【図表1】保険法における他人の生命保険契約・傷害疾病定額保険契約にかかる被保険者同意の要否
保険法における他人
の生命保険契約・傷害疾病定額保険契約の種類
死亡保険契約
生存保険契約
傷害疾病定額保険契約
契約の効力要件としての被保険者の同意
要
(保38条)
(規定無し)要
保険金受取人の変更についての被保険者の同意
要
(保45条)
(規定無し)要
保険給付請求権の譲渡又は当該権利を目的とする質権の設定(給付事ℝが発生した後にされたものを除く。)についての被保険者の同意
要
(保47条)
(規定無し)要
被保険者(被保険者の死亡
(保67条1項本文) (保74条1項本文)
(保76条)
に関する保険給付にあって 不要 不要 要
傷害疾病定額保険契約
は,被保険者又はその相続人)を保険金受取人とする傷害疾病定額保険契約
(保67条1項但書) (保74条1項但書)
(保76条)
給付事ℝが傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約
要
(保67条2項)
要
(保74条2項)
要
(保76条)
(筆者作成)
14) 保険法部会資料19「保険法の見直しに関する個別論点の検討⑶」3頁。
2.傷害疾病定額保険契約における被保険者同意の例外
⑴ 契約の効力要件�被保険者の解除請求権との攻防�
保険法は,他人の疾病傷害定額保険契約における被保険者の同意について,以下のように規定する。同「67条 傷害疾病定額保険契約の当事者以外の者 を被保険者とする傷害疾病定額保険契約は,当該被保険者の同意がなければ,その効力を生じない。ただし,被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付 にあっては,被保険者又はその相続人)が保険金受取人である場合は,この 限りではない。
2 前項ただし書の規定は,給付事ℝが傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約については,適用しない」。
他人の死亡保険契約および傷害疾病定額保険契約において,保険法が同意主義を貫く中での唯一の例外が,同1項但書である。保険法部会での審議に先駆けて平成18年8月,xxxx教授を座長とする保険法研究会によって作成された「保険法の現代化について�保険法研究会取りまとめ�」(以下,
「保険法研究会取りまとめ」という)は,かかる規定について,他人の死亡保険契約「と基本的に同様とするものとする」としながらも,「他人の傷害・疾病等に関して保険金の支払をすることを定める傷害・疾病保険契約において,被保険者が保険金受取人である場合には,当該被保険者の同意を要しないものとする」と明記する¹´'。保険法部会での審議を経て平成19年8月
8日に公表された「保険法の見直しに関するxxxx」(以下,「xxxx」
という)もまた,「他人を被保険者とする傷害・疾病保険契約は,当該被保険者の同意がなければ,その効力を生じないものとする。ただし,〔一定の場合〕には,この限りでないものとする」とした上で,「『一定の場合』の具
15) 保険法研究会取りまとめ第4-3⑴。これに対して,「他人の死亡によって保険金の支払をすることを定める生命保険契約には,当該他人の同意がなければならないものとする」としてかかる例外を認めていない(保険法研究会取りまとめ第4-2⑴)。
体的内容(被保険者が保険金受取人である場合(被保険者が生存している間に自ら保険金を受け取ることを前提とした契約である場合)はこれに当たると考えられるが,このほかにどのような場合に被保険者の同意を効力要件とする必要がないか)については,なお検討する」と¹°'。
保険が賭博的に用いられることを防ぐとともに,被保険者の意思を尊重し,
モラルリスクを防止するために,被保険者の同意が必要であるという原則をあくまでも基本的に考えるべきであるとの指摘を踏まえつつも,他人の傷害疾病定額保険契約に関しては,いかなる契約を締結する場合をその例外�被保険者の同意を不要とするかが,保険法部会での当初からの議論であった。同部会では,そのうえで「一定の場合」を明確に規定すべく,各契約につき個別具体的な審議が重ねられたが,その主たる論点は「家族をまとめて被保険者とする家族傷害保険契約を締結する場合や,海外・国内旅行傷害保険契約において家族を被保険者としたり,家族が他の家族を被保険者とする契約を締結したりする場合」をここに包含するか否かにあった¹‘'。結果は,周知
16) xxxx第4-1⑵。補足説明によれば,「被保険者を保険金受取人とする限り,他人が保険金を受け取ることは法律上ないから,保険が賭博的に用いられる危 険性やモラル・リスクの危険性を考慮してする必要はなく,被保険者の人格権 という観点からも,被保険者の同意を求める必要はないという考えによるもの と考えられる(現行商法674条1項ただし書も同様の考えに基づいている。)」
(補足説明第4-1⑵)。保険法部会では当初,「他人を被保険者とする死亡保険契約については,…生命保険契約に関する規律と,傷害・疾病等を原因とする死亡給付に関する規律とを分けて」検討していたが,「被保険者が死亡した場合に保険金が支払われるという点で共通することから,これらの規律を整合性のある形で設ける必要がある」との理ℝから,傷害・疾病等を原因とする死亡給付についても併せて検討することとした。xxxxの段階では,かかる契約についても,商法674条1項但書と同様の規定を設ける方向であった(xxxx第3-1⑵)。
17) 自動車保険契約の搭乗者傷害条項や遊園地等の施設の入場者やイベントの参 加者を被保険者とする契約のように,保険契約を締結する時に被保険者が確定 していないという特殊性があると指摘されている契約については,保険契約者 が被保険者について保険契約を締結する合理性があると考えられ,同部会でも,このような契約を締結する場合を「一定の場合」に含める方向で議論が進めら
のごとくである。「ア保険法は保険契約の一般法であり,特定の保険商品だ けを念頭に置いた規律を設けるのは適当でない(このような規律を設けると,将来の商品開発を阻害することになりかねない)こと,イ実務上保険金額を 含む種々の事情を総合的に考慮する形でモラルリスク対策が講じられている にもかかわらず,その一要素である保険金額だけを取り出してこれに一定の 枠をはめるのは適当でないことなどから,最終的に,同部会では,傷害また は疾病による死亡のみを給付事ℝとする場合を除き,被保険者(被保険者の 死亡に関する保険給付については,被保険者またはその相続人)が保険金受 取人となる場合には,被保険者の同意を不要とし,保険金額の上限を定める ことはしない」とした上で¹웒',同意なくして契約が成立した場合には,保険 法87条1項1号をもって被保険者に保険契約者に対して無条件の解除請求を 認めることで,立法上は一応の決着をみる¹°'。
他人の傷害疾病定額保険契約をめぐっては,従来,単純に生命保険契約と同じ規制をするのは適切ではないと考えられてきたし워°',かつ,xxxxに寄せられたパブリック・コメントもその多数が「基本的に被保険者の同意を契約の効力要件とすることを前提としつつ,入院保険金等のように被保険者が生存している間に支払われる保険金については,被保険者が保険金受取人である場合には被保険者の同意を効力要件としなくてもよいとの意見」であ
れ,また旅行者やサークル等のグループの代表者がその全員を被保険者として契約を締結する場合や,クレジットカード会社がカードホルダーを被保険者とする海外旅行傷害保険契約を締結する場合のように,契約締結時に被保険者は確定しているが,保険金受取人が被保険者の相続人であるという点で共通しており,これらの場合についても保険契約者が被保険者のために保険契約を締結する一定の合理性がある点をも考慮して,被保険者の同意を効力要件とはしない考え方について議論がされ,これに積極的に反対する意見はなかった(補足説明第3-1⑵)。
18) xxx編著『一問一答 保険法』174頁(商事法務,2009年)。
19) xxxx「<講演録>保険法制定の総括と重要解釈問題(損保版)」損害保険研究71巻1号53-54頁(2009年)。
20) 例えば,傷害保険契約法研究会・前掲注9)47頁。
った워¹'。保険の賭博的利用およびモラルリスクの抑止という観点から,かつ,保険実務の現状に鑑み,今改正のありようは妥当との評価であろう 워'。
しかしながら,かかる立法目的を翻ったとき,どうしても払拭できない疑問が残る。他人の生命保険契約および傷害疾病定額保険契約における契約の効力要件としての被保険者の同意の要否と,当該被保険者の保険契約者に対する解除請求権の可否との理論的整合性である(図表2参照)。
【図表2】契約の効力要件としての被保険者同意の要否と解除請求との関係
生命保険契約
傷害疾病定額保険契約
被保険者(被保険 給付事ℝが傷害疾者の死亡に関する 病による死亡のみ保険給付にあって である傷害疾病定
傷害疾病定額保険 は,被保険者又は 額保険契約
死亡保険契約 生存保険契約
契約
契約の効力要件としての
被保険者の同意
保険金詐取目的の保険事故招致
要
(保38条)
可
(保58条1項1号)
可
(保58条1項1号)
要
その相続人)を保
険金受取人とする傷害疾病定額保険契約
不要
(規定無し)
(規定無し)
(保67条1項本文) (保67条1項但書)
可
(保87条1項2号)
可
要
(保67条2項)
可
(保87条1項2号)
可
被保
保険金詐欺
(規定無し)
険
者 被保険者の保険契約
(保87条1項2号) 保67条1項の同意 (保87条1項2号)
がある場合を除き,
の 者又は保険金受取人 可 可 事ℝの如何を問わ 可解 (規定無し)
除 に対する信頼関係の (保58条1項2号) (保87条1項3号)
請 破壊
(保87条1項3号) ず,可
(保87条1項1号)
求
同意をするに当たっ
て基礎とした事情の著しい変更
可
(保58条1項3号)
可
(規定無し)
(保87条1項4号)
可
(保87条1項4号)
(筆者作成)
21) xxx=xxx=xxxx「『保険法の見直しに関するxxxx』についての意見募集結果の概要」xxx編著『保険法立案関係資料�新法の概説・新♛
♛新対照表�〔別冊商事法務321号〕』所収170頁(商事法務,2008年)。
22) xxxx「Q11〔解説〕」xxx監修=xxxx編著『速報 Q&A新保険法の要点解説』所収46頁(金融財政事情研究会,2008年),xx・前掲注4)237頁,xx・前掲注18)175頁。
商法674条1項但書に対する学説上の批判に加え워웍',「モラル・リスクの問 題が頻発する状況に鑑み,生命や身体の危険を感じた当該被保険者に…,将 来に向かって保険契約を解除できる権限を賦与す」べきとの立法的要請に워웎',今改正では,他人の死亡保険契約,同契約と等しい死亡のみを給付事ℝとす る他人の傷害疾病定額保険契約については,商法674条1項但書を削除し, いかなる場合にも被保険者の同意を要するとした上で,なおかつ,契約締結 後のモラルリスク発生を念頭に,その防止を目的として被保険者の解除請求 権を認めることで,二重の規制をもってかかる危険性に対処した。残る傷害 疾病定額保険契約についても同様の立場を採る一方で,当該「契約は被保険 者の生存中の事故(例えば,入院,高度障害等)に備えて締結されるのが通 常であり,…モラルリスクや賭博保険のおそれが一般的には少ないことなど を踏まえ」워´',被保険者の同意を不要としたのが,保険法67条1項但書に定 める「被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,被保険者又 はその相続人)が保険金受取人である」傷害疾病定額保険契約である。それ
23) xx・前掲注1)61頁,xx・前掲注2)269頁,xx・前掲注2)268-269頁,xx・前掲注2)279-280頁,xx・前掲注2)239頁,xx・前掲注2)322頁,xx・前掲注1)273頁。
24) 傷害保険契約法研究会・前掲注9)52頁,生命保険法制研究会(第二次)・前掲注9)58頁および210頁。
25) xxx=xxxx=xxx=xxx=xxxx「保険法の解説⑷」NBL887号90頁(2008年)。保険法成立後に公表されたかかる解説書も,軒並み同様に説明する(xx・前掲注22)45-46頁,xxx「38条,67条〔解説〕」xxxx=日本生命保険生命保険研究会編『解説 保険法』所収134頁(弘文堂, 2008年),xxxx「第67条〔解説〕」xxxx=xxxx編『逐条解説 改正保険法』所収202頁(ぎょうせい,2008年),保険毎日新聞社『わかりやすい新保険法ハンドブック~保険契約はどう変わるのか~』125頁(保険毎日新聞社, 2008年),xxx編著『これ一冊でわかる!新しい保険法』101頁(金融財政事情研究会,2008年),xxxx「第67条」xxxx監修・編著『保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険)』所収120頁(損害保険事業総合研究所, 2009年),xxxx=xxxxx編著『契約の成立から保険金の支払いまで図解 新保険法早わかりガイド』74頁(日本実業出版社,2009年),xx・前掲注18)173頁)。
では,保険法87条1項1号をもって被保険者に無制限に解除請求ができると したのはなぜか。他の契約に比して,モラルリスク発生の恐れは極めて低い,したがって被保険者の同意は不要としたとその立法趣旨を説明するのであれ ば,かかる危険を抑止すべく新たに設けられた制度,すなわち被保険者の解 除請求権を認める必要性は無い。ましてや,被保険者の同意が契約の効力要 件と定められた契約のすべてに,その解除請求権の行使を制限している中で である워°'。被保険者の人格権保護というのであれば워‘',本末転倒である。自
26) 被保険者がいつでも一方的に特段の理ℝなく同意を撤回できるとすれば,保険契約の効力があまりにも不安定になり,保険契約者,保険金受取人あるいは被保険者の利益を害することになるとの理ℝから,従来,同意をいったん有効にした被保険者は,保険契約成立後には同意を撤回することができないとするのが通説であった(xx・前掲注1)314頁,xx・前掲注1)64頁,xx・前掲注2)272頁,xx・前掲注1)73頁,xx・前掲注2)325頁,xxx「Ⅵ 生命保険契約に固有の問題」旬刊商事法務1808号48-49頁(2007年))。しかしながら,被保険者の保険契約者又は被保険者が同意を与えた基礎となった事情に変化が生じた場合や当該被保険者の生命・身体に危害が及ぶような場合にまで,被保険者の地位に留まらせることに対する批判もあり(xx・前掲注2)276頁,xx・前掲注2)281頁,xx・前掲注2)241頁),また近年では,被保険者の故殺の未遂行為があった場合など被保険者の特別解約権が認められるような場合に限定して,被保険者は保険契約者に対して保険契約の解約の意思表示をすることを請求する権利を法定するという立法的提案がなされていた(傷害保険契約法研究会・前掲注9)52頁,生命保険法制研究会(第二次)・前掲注9)58頁および210頁)。かかる提案に対して,xxxx教授は,「このような解約の意思表示をすることについての被保険者の保険契約者に対する請求権は,解釈論としても認められるべきであるし,特別解約権の認められる場合に限らず,保険契約者と被保険者との間での被保険者が同意を与えたことの前提の消滅が明らかな場合にも認められてよい」との見解を示していた(xx・前掲注1)271頁)。
27) 本人の知らないまま保険契約が締結されることの弊害を防止するため,例外規定の適用を受けた契約の被保険者にオプトアウトの機会を確保することが,保険法87条1項1号の趣旨である(xx・前掲注1)(2008年)107頁,xxxx「第87条」xxxx監修・編著『保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険)』所収163-164頁(損害保険事業総合研究所,2009年),xx・前掲注 19)53-54頁)。詳細は,保険法部会第20回会議議事録18-35頁。xxxxは「傷害疾病定額保険契約については,死亡保険契約と同様の場合に加えて,契約の
らの生命・身体が他人により勝手に保険に付されないという人格権的な利益の保護を図るためであれば尚更,契約の効力要件として被保険者の同意を課すべきではなかろうか。
損害保険実務では従来,他人の傷害疾病定額保険契約において被保険者またはその法定相続人以外の者を保険金受取人に指定しない限り,保険契約の締結時に被保険者の同意を得ることはしていないことに加え,イベントの主催者等が参加者について包括的に被保険者とするような,被保険者が契約締結時には不特定であって個別の同意を得ることが不可能な保険商品等が既に販売・利用されている現状にあって워웒',他人の傷害疾病定額保険契約に孕む弊害を睨みつつ,様々な契約を整理・検討した結果として導き出された保険法67条は,確かに妥当なものであろう。ただ保険法部会での審議は,終始,先ず実務ありきであったとの感は否めない워°'。
⑵ 保険金受取人の変更
ここでも「変更後の保険金受取人が被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,被保険者又はその相続人)である場合」は,給付事ℝが傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約を除き,保険法74条1項但書をもって同意不要とする웍°'。しかしながら,「保険法六xxx項但書
効力要件として被保険者の同意が不要とされる場合にも,被保険者の意思を反
映する機会を設ける趣旨から,被保険者による解除請求を認めている」と説明するが(xxx「保険法の概要」自ℝとxx60巻1号23頁(2009年)),詭弁に思われてならない。
28) 補足説明第3-1⑵。
29) 保険法部会会議議事録中に「要するに原則の話を思い出して言えば,知らないうちに保険が掛かっているのは困るということとモラルハザードの排除というの,多分,その二つだと。その二つでぎりぎり考えて,ただ,実務上,今,実際に行っている特に損保さんの団体傷害とか家族傷害とか海外旅行保険の家族型ですか,そういうものについては実務的に何もトラブルも生じていないのだから,それを何とか飲む方向でいくというのがここの案なのだろうなと」の発言があったことも,事実である(保険法部会第20回会議議事録26頁)。
30) かかる立法趣旨については,保険法67条1項但書と同様と解されているが
が適用される契約は,通常,約款の上で保険金受取人が『被保険者』または
『被保険者の相続人』と定められているものであって,この場合,保険金受取人の変更はあり得ない。あるいは,同規定は,約款上保険金受取人がそう定められている場合以外を想定しているのかもしれないが,当初第三者を保険金受取人と定めたものを『被保険者』または『被保険者の相続人』と変更する…場合に,保険契約者が被保険者の同意を得ることに,困難はないはずである」から,保険金受取人の変更に関するかかる規定は不要との指摘が挙がっており웍¹',前記⑴での疑義も含めた検討を要しよう。
3.むすびにかえて—残される課題—
保険法部会部会長であったxxxxxxは,今改正作業を振り返って述べる。「一般的に他人の死亡,あるいは傷害疾病の保険について被保険者同意が要るかということについては,…損保会社…では保険金受取人が被保険者自身かその法定相続人である限りは同意が要らないというかたちで従来実務が回っていたものですから,生保会社の実務並みに全部同意を取れということになると従来の実務が大きく変えられるということで損保会社のほうの大きな抵抗」웍워'に,「モラルリスクのことを常に研究しているような研究者の方々は,それは大いに問題であるから本則に戻って生保と同じような原則に
(xx・前掲注18)187頁),これに加えて「被保険者の同意が得られる蓋然性が高いとの考慮によるものと思われる」(xxxx「第74条」xxxx監修・編著『保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険)』所収138頁(損害保険事業総合研究所,2009年))。
31) 保険給付を請求する権利の譲渡又は当該権利を目的とする質権の設定の際にも被保険者の同意を必要とするが,保険法76条には,かかる例外が設けられていないことに照らして,同「条は,立法関係者が保険金受取人による保険給付請求権の譲渡・質入については例外規定を設けるニーズはない,と考えた結果と思われるが,保険金受取人の変更についても,それは同じなのではあるまいか」と続ける(xx・前掲注4)237-238頁)。
32) xxxx「公開講演会 保険法制定の総括と重要解釈問題(生保版)�成立過程の回顧と今後に残された課題�」生命保険論集167号17頁(2009年)。
立つべきだとされますし,それに加えて人の同意も得ないで勝手に高額の死亡保険金が付いた保険に加入できるというのもやはり被保険者にされている人からみれば問題であって,これは人格権的な利益とかいったりしますけれども,そういう観点からいうと従来の損保の傷害疾病保険というのはルーズだったという意見…が強いからといって,今後損保会社の傷害疾病保険について被保険者の同意が全員について必要なので,家族全員分のハンコを取ってこいというようなことをいうと損保会社の実務があまりにも大きな影響を受けることになりかねない。法務省が非常に規制を強化したということにもなるので,そこは必要最低限の範囲で同意を要求すればいいのではないか」との立案担当者のスタンスを受けて 웍',「保険金受取人が被保険者自身かその法定相続人であれば被保険者の同意なしで契約は有効に成立するが,同意なくして契約が成立した場合には被保険者は保険契約者に対して無条件の解除請求ができるとし,あとは自主規制で金額などを限定するということで決着した」웍웎'と。
保険制度を構築するに際しては,その枠組みが法的規整の対象となることは当然であり,とりわけその重点となるのは保険契約である。ここに保険契約とは,保険制度の存在を前提として,当該制度に加入することを目的に締結される。換言すれば,保険という経済制度を形成するための手段であり,保険制度を権利・義務のシステムとして再構築するための法律形式が,保険契約である웍´'。したがって,保険制度の運用に対する阻害要因を予防・除去し,良好な制度構築を目的として,かかる法的規整としての保険法がそれを実現すべく重要な役割を果たすであろうことは想像に難くない웍°'。
今改正では,特に損害保険実務の現状に鑑み,他人の傷害疾病定額保険契
33) xx・前掲注19)53頁。
34) xx・前掲注32)17頁。
35) xx・前掲注2)4頁。
36) 詳細は,xxxx『保険契約における損害防止義務�モラル・ハザード防止機能という観点から�』1-8頁および110-123頁(成文堂,2007年)。
約においては,保険法67条1項但書をもって「被保険者(被保険者の死亡に関する保険給付にあっては,被保険者又はその相続人)が保険金受取人である場合」は,給付事ℝが傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約を除き,一律,契約の効力要件としての被保険者の同意を不要とした。その結果,保険法部会でも「特に海外旅行傷害保険や配偶者同士の場合にはモラル・リスクの危険性が高く,被保険者の同意の趣旨からしても,被保険者の同意を効力要件とすべき等の指摘が」強かった家族をまとめて被保険者とする家族傷害保険契約を締結する場合や,海外・国内旅行傷害保険契約において家族を被保険者としたり,家族が他の家族を被保険者とする契約を締結する場合にも,保険法施行後も従前通り,被保険者の同意は不要ということになる웍‘'。確かにかかる「保険の契約締結時の状況を想定すれば,被保険者の同意を要求したところで,どれほど弊害が防止できるか疑わしい」との指
37) 補足説明第3-1⑵。xxx教授は,同意主義の例外を設けることに関して,
「生命の危険も含む傷害事故に対して,家族全体の保障を得るためであるとしても,保険契約者を含めて家族をまとめて生命保険契約の被保険者とすれば,他人の同意なく死亡保険契約が自ℝに締結できることになる。…このような例外がどうしても必要であるとするならば,やはり保険金額を葬祭費用程度に制限する必要があろう。高額の保険金が支払われることになる死亡保険契約や傷害保険契約が,被保険者の同意なく,容易に締結しうることになるのは,賭博保険の危険や不正な保険金取得目的の保険契約の締結を助長し,道徳危険を増大させることにもつながり,妥当ではない」と主張する(竹濵・前掲注26)50頁)。他方,同部会内から「家族が下宿や単身赴任をしているような場合にまで同意を得なければならないとすることの当否に疑問が提起され,保険契約者
(消費者)にとっての利便性という視点も必要とか,家族傷害保険契約は企業が保険契約者となり,従業員を加入者とする任意加入型の団体保険契約として締結されることが多く,福利厚生としての意味もあるとの指摘がされたほか,保険期間中に家族に変動が生じても自動的に補償の対象となる点で実質的には被保険者が契約締結時に確定していない場合と同じである等として,被保険者の同意を効力要件とする必要はない」との指摘や,「海外・国内旅行保険契約については,出発直前に空港のカウンターや自動販売機等で契約が締結されることが多く,即時締結の必要があるとの指摘」があったことも事実である(補足説明第3-1⑵)。
摘もあるが웍웒',モラルリスクの問題はやはり残る웍°'。保険法87条1項1号は,本人が知らないままに保険契約が締結されることの弊害を除去すべく,同67条1項但書の適用される被保険者に対して無条件の解除請求権を認める웎°'。
「被保険者の同意は不要であっても,のちにその保険契約の存在を被保険者が知り,保険契約の継続を望まない場合には保険契約の解除を求めることができるとの規定が設けられ,これによって被保険者の保護を図ることも可能」との評価もあるが웎¹',当該規定が,このような場合に果たしてどこまで機能するのか極めて疑わしい웎워'。今改正で被保険者に解除請求権を認めるに至った経緯に鑑みれば,歴然であろう。
更には保険法67条1項但書および同2項を奇貨として,脱法的に,多額の
38) xx・前掲注4)237頁。
39) xxxx『新保険法(損害保険・傷害疾病保険)逐条改正ポイント解説』 125-126頁(保険毎日新聞社,2008年),xxxx=xxxx監修『改正保険法早わかり』148-149頁(xx財務協会,2008年),xxxxx「Q82〔解説〕」xxxx=xxxx=xxxxx=xxxx著『保険法バンドブック�消費者のための保険法解説』所収212頁(日本評論社,2009年)。
40) ℝ口・前掲注1)(2008年)107頁,xx・前掲注27)163-164頁,xx・前掲注 19)53-54頁。また,「傷害疾病定額保険契約において被保険者の同意が不要の場合で保険金受取人の変更について被保険者が現に同意をしていない場合は,
(当該保険契約の締結時には同意をしていたとしても)87条1項1号の類推適用により,被保険者の離脱請求が可能」との見解が示されている(xxxx
「Q25〔解説〕」xxx監修=xxxx編著『速報 Q&A新保険法の要点解説』所収46頁(金融財政事情研究会,2008年))。
41) 福ℝ・前掲注25)202頁。
42) 他人の死亡保険契約および傷害疾病定額保険契約に伴う弊害に対処すべく,
「今般の改正は,…被保険者による保険契約者への解除請求権の付与という手段を選択した。そのため,紛争解決および紛争抑止に充分な機能を発揮できるよう,被保険者の解除請求権の解釈論・実務の構築が期待され」ようし(ℝ口
・前掲注1)(2008年)107-108頁),実務として「家族を被保険者とする保険契約等については,機会確保の観点から,申込書や重要事項説明書等において,家族に対して保険をかけていることを周知するよう求める旨の記載を加えるなどの手当てを行うことが望ましい」(xx・前掲注39)157頁,xx=xx・前掲注39)173頁)。
死亡給付に僅少な生存給付を組み合わせたような,その実質は同2項に定める「給付事ℝが傷害疾病による死亡のみである傷害疾病定額保険契約」と差異のない契約への対処が,既に懸念されているところである웎웍'。団体定期保険等をめぐる紛争やモラルリスク事例の頻発という現象を契機として 웎',同意主義への批判が強まる中で웎´',かかる主義を維持し,その徹底を図った今改正であったが,少なくとも他人の傷害疾病定額保険契約における同意主義の例外規定�保険法67条1項但書および同74条1項但書に関しては今後,立法的解決をも視野に入れた検討が避けられないと思われる。
43) この「ような場合についても,第67条第2項が適用されるものと考えられ る」(xx=xx=冨ℝ=嶋寺=xx・前掲注25)90頁,xx・前掲注18)174頁,xx・前掲注25)120頁)。
44) 昨今の状況を踏まえ,進められた今改正作業では,団体定期保険契約および未xx者の死亡保険契約における同意のありようについても様々な観点からの検討が加えられたが,結局,保険法にも商法と同様,規定を設けることは見送られた。「全面的な現代化に向けての保険法部会を中心とする多くの方々の努力を結集して,比較的短期間に大きな変革を実現させたのであるから,わが国の保険法制における画期的成果である」新保険法にあって(xxxx「1 新しい保険法の意義と展望」xxxx=xxxx編『新しい保険法の理論と実務
〔別冊金融・商事判例〕』所収12-13頁(2008年)),他人の生命保険契約・傷害疾病定額保険契約にかかる改正は,「①被保険者の同意を不要とする場合を,生命保険契約については廃止し,傷害疾病定額保険契約につき存置する形で,規制を詳細にしたこと,および,②被保険者が保険契約者に対し契約解除の請求ができる場合を規定したことという,小ぶりなものにとどまっている」と評されるゆえんであろう(xx・前掲注4)244頁)。
45) 同意主義のその要件の厳格化は元より(福ℝ・前掲注2)268頁),利益主義との併用を示唆する見解もある(xx・前掲注1)74頁,藩xx「生命保険契約における被保険利益の機能について�xx法および中国法の視点から�」文研論集129号151-156頁(1999年))。これらの見解について,「利益主義をとるxxにおける被保険利益に関する混乱を見ると,この主義にはにわかに賛成できない」との指摘がある一方(xx・前掲注1)268頁),「契約の効力発生要件として同意の厳格化あるいは利益主義が規定された場合は,一定の条件の下で被保険者による契約無効の請求が容易となり,賭博保険化の防止,モラル・リスクへの配慮,人格的利益の保護について,それぞれの強化を図ることが可能となる」との主張もある(ℝ口・前掲注1)(2008年)107頁)。
最後に,保険契約者が自己以外の者を被保険者とする生存保険契約�他人の生存保険契約については,商法は無論,保険法にも何ら規定はない。したがって,保険法施行後も現行通り,被保険者の同意なくしてかかる契約が有効に成立することとなる。被保険者の同意を要求する立法趣旨に鑑み,他人の生存保険契約にはその必要性がないというのが理ℝであるが웎°',被保険者の人格権という観点からみると,被保険者の知らないところで,一定年齢における自らの生存によって保険金が支払われることに対して,かかる同意を得る必要がないのかとの疑義が呈示されていることは看過できない웎‘'。
(筆者は近畿大学法学部教授)
46) 保険の利害関係者が被保険者を故意に死亡させる危険性のない他人の生存保険契約において,モラルリスク�保険金受取人等の保険金の不正取得を目的とする違法行為を誘発することを防止する趣旨から被保険者の同意を要求する必要性がないのは無論のこと,かかる契約では,保険契約者が支払うべき保険料の総額と保険金の額との間に大差がないのが通常であり,賭博目的に利用される可能性が少ない(xx・前掲注1)294頁,xx・前掲注1)58頁,xx・前掲注2)268頁,xxxx『生命保険入門』64頁(有斐閣,2006年),xx・xx注 26)48頁)。
47) xxx教授は,「かかる観点からみると,被保険者の知らないところで,一定年齢における自らの生存によって保険金が支払われることに対して,被保険者が何も関与できないという事態は,果たして被保険者の人格権を損なうものでないといえるのか,疑問視される余地があろう」とした上で,「しかし,被保険者の同意を要求する法制を持つ諸外国においても,そこまで被保険者の利益を手厚く保護するものは,寡聞にしてまだみられないように思われる。…これらは弊害が少ないとして,法的な規制がされていないものと思われる。わが国でも,現在の保険引受実務からみて,無関係な者の生存を保険事故とする生命保険契約が締結されることは考えにくいことから,諸外国と同様の価値判断は可能であるが,議論の余地はなお残るであろう」と示唆する(竹濵・前掲注 26)48頁)。