緊急状況と M& A 契約
緊急状況と M& A 契約
─ 最近の韓国事例を中心に─
x x x *
1 .概観:緊急状況と M&A 契約
M&A 契約(企業引受契約)において、契約当事者は契約目的物である、会社及び当該事業を取り巻く様々な事項を表明及び保証するが、表明及び保証内容に対する違反は契約違反の責任のみならず、契約の履行可否にも影響を与えるようになる。
特に、契約の締結時には想定できなかった緊急な状況が発生し、売渡人または買受人がその義務を履行することができなくなる場合に、それを解決するにはどうすべきかについて考えてみる必要がある。
特に、自然災害、金融危機、戦争などの予想できない緊急状況が発生し、その対象目的物である企業と経済の全般に悪影響を及ぼすこともあり、また売渡企業または買受企業間の取引の等価性を損なう可能性もある。従って、実務上は緊急状況を踏まえて、M&A 契約には“重大な悪影響を及ぼす事由”( Material Adverse Changes/Effects)条項や、不可抗力条項が定められている。
しかし、日本の2011年 3 月11日に起きた、東日本大震災のような天災地変や、韓国における1997年頃の金融危機などのように、当事者の責めに帰することができない事由により、M&A 契約の当時には想定できなかった状況が生じると、契約の条項にもかかわらず、それの解決策が明確ではない。
それに関連して、実際に契約を締結した以後、急激な事情変更の存否が問題となった韓国での事例をここで紹介し、それに関する論点を検討してみることにする。
2 .韓国での事例1)
(1)事実関係
ア.当事者及び引受対象となる企③
本件の原告は A 社を引き受けた「甲」株式会社であり、被告らは A 社の大株主の韓国資産管理
編集部注 * 高麗大学法学専門大学院助教授 本稿は2011年10月18日に開催された関西大学漢陽大学第12回シンポジウムの報告原稿に、加筆修正したものである。
1)本事件は現在、ソウル高等裁判所で裁判が続いている。
公社及び国内の大手銀行である。
対象企業であるA 社は韓国の中堅建設会社であるが、流動性が悪化し、1999年 3 月頃に韓国資産管理公社などから構成された債券金融機関協議会と企業改善約定(ウォークアウト)を締結し、その後、減資、出資転換、リストラなどの企業改善策を実施し、2004年10月頃にはワークアウト手続きが終了された。上記の債券金融機関協議会はウォークアウトの過程で、出資転換などによりA 社から発行された記名式普通株14,906,103株を取得したが、その株式を売却するため、2004年10月18日に出資転換株式に関する共同売却約定を締結した後に、債券金融機関株式売却協議会を構成し、2007年 6 月22日にサムジョンKPMG Advisory Inc. などを共同売却の主幹社として選定した(本件の被告らはまさに A 社の債券金融機関協議会を構成した韓国資産管理公社及び多数の国内銀行であった)。
イ.2007年11月 9 日の売却公告
被告らはその株式を公開競争入札方式を通して売却することとし、2007年11月 9 日に売却主幹社を通してその株式の売却を公告し、売却に参加する可能性のある法人(潜在的な投資者)などに対して、その株式の売却に関する概要を案内する株式売却案内書などを交付した。
ウ.2008年 1 月 9 日の最終入札対象者の選定と予備調査(2008年 1 . 28.-5. 29.)
「甲」会社は某ファンドとコンソーシアムを構成し、売却主幹社に対して、入札参加意向書を提出し、その後、売却主幹社から予備入札適格者として認められ、2007年12月28日に 1 株当たり引受価格を35,000ウォンとする予備入札提案書を提出した。売却主幹社は2008年1月9 日に上記のコンソーシアムなどの総 5 社を最終入札対象者として選定し、最終入札対象者には被告らから A社の資産、負債実査( Due Diligence)報告書(実査基準日は2007年 6 月30日)などを提供され、 2008年 1 月28日から2008年 5 月29日まで A 社に対する予備実査( preliminary due diligence)(実査基準日は2007年12月31日)を実施した。
予備実査が完了され、被告らは2008年 5 月29日に最終入札対象者らに最終入札案内書2)を交付した。
エ.2008年 6 月11日に原告会社は最終入札提案書を提出する
原告会社は2008年 6 月11日に「乙」株式会社、「丙」株式会社をコンソーシアムの構成員とし、予備実査結果などに基づき、 1 株当たりの引受価格を31,000ウォン、総引受価格を462,089,193,000ウォン(31,000*14,906,103株)とする最終入札提案書を提出した。その時に、「甲」社を含むコンソーシアムから提出された最終入札提案書には、原告コンソーシアムは、協議会、会社及び売却主幹社はいずれの保証や責任も負わないことを認知しており、提供される情報の正確性と完全性に対する確認義務は原告コンソーシアムにあることを認知していることと、優先交渉対象者の責に帰すべき事由により株式の売買契約が締結されない、または優先交渉対象者が了解覚書に定められた義務を履行しないなど、優先交渉対象者の責に帰すべき事由により了解覚書が解除される場合には、既納付された履行保証金及びその発生利息を違約罰として協議会に帰属させること
2)最終入札案内書の主な内容は別添資料 1 で整理した。
を認容し、民・刑事上その他いずれの異議も申し立てないということが確約内容として掲載されていた(下線追加)。
また、原告コンソーシアムは今後進められる交渉対象に関して、了解覚書(下書き:ドラフト)と株式売買契約書(下書き)に対する修正事項を提出したが、その内容の中には最初に提示された最終入札代金の調整限度3)、損害賠償の限度4)及び履行保証金の返還に関しては、修正意見は一切提示しなかった。
オ.2008年 7 月11日に原告会社を優先交渉対象者として選定した後、了解覚書の締結(2008年 7月23日)及び追加調査の実施(2008年 7 月29日-9月9 日)を行う
被告らは2008年 7 月11日に原告コンソーシアムを優先交渉対象者として選定し、原告コンソー
シアムは2008年 7 月16日に履行保証金として最終入札代金の 5 %である23,104,459,650ウォンを納めた。
原告コンソーシアムは2008年 7 月23日に被告公社と‘ A 社株式売買了解覚書’を締結した。
カ.2008年 9 月29日に原告会社の価格調整要因の発見と代金調整の要請;売却主幹社からの回答
(2008年10月30日~11月17日)
原告会社は被告らから予備調査の過程で提供されなかった新しい資料を提出してもらい、2008年 7 月29日から2008年9月9 日まで確認調査を実施した後に、2008年 9 月29日に売却主幹社に対して、約5,965億相当の最終入札代金(引受価格)の調整要因が発見されたと主張し、調整限度及び損害賠償限度を拡大してくれるよう最終入札代金調整要請書を提出し、売却主幹社は原告のコンソーシアムに対して拒否する旨の回答を2008年10月30日と同年11月17日に出した。2008年10月 30日付の回答内容は最終入札代金の調整限度及び損害賠償限度に関する拡大要請は、了解覚書第
5 条第 1 項により受容れることができないという内容であり、同年11月17日付の回答内容は実際
の調整金額は最終入札代金462,089,193,000ウォンの 5 %である 23,104,459,650ウォン( 1 株当
たり31,000ウォン)となり、売買代金は438,984,733,350ウォン( 1 株当たり29,450ウォン)であるという内容であった。
しかし、その間全世界的な金融危機、A 社株価の暴落、為替の急騰、建設業界の流動性危機などにより、建設業界は最悪の状況を迎えることになった。
キ.2008年11月17日、原告会社の代金調整要請(分割納付要請を含む)及び被告らの拒否(2008年11月24日)
原告コンソーシアムは2008年11月17日に再び被告公社に対して、為替急騰、実物経済の停滞による国内建設業界の経営危機、A 社の価値下落などを理由として、最終入札代金の調整、または株式売買代金の分割納付を要求したが、被告公社は2008年11月24日にそれを拒否した。
3)了解覚書(下書き)第 4 条第⑶項には最終入札代金の調整金額は最終入札代金の 5 %を超えてはならないと定められている。
4)株式売買契約書(下書き)第17条第⑷項には本契約における損害賠償は売買代金の10%を限度として定められている。
ク.2008年12月 2 日に交渉期間の延長にもかかわらず、原告会社の内部承認が拒否される
原告コンソーシアムの要請により最終交渉期間が2008年11月11日まで(1 次)、2008年11月25日まで(2 次)、2008年12月 2 日( 3 次)までとxx延長され、その過程で2008年11月25日にコンソーシアム構成員であった「乙」、「丙」は原告コンソーシアムから脱退した。
原告会社及び被告らの実務グループは最終交渉期間満了日である2008年12月 2 日まで株式売買
契約書を締結するイニシャル手続きを進めると協議したが、2008年12月 2 日に原告側の取締役会で多くの取締役がA 社の引受に対して反対立場を表明し、原告の経営陣はA 社の引受を最低 1 年間猶予するという最終結論を出した。そこで、原告会社はそれを被告らに要請したが、被告らは 2008年12月 5 日に原告会社の要請を拒否し、原告会社が株式売買契約書の最終案を締結しないこ
とは、了解覚書第 4 条第 4 項、第 5 条第 1 、 2 項、第13条第 1 項などの義務を違反したものであると主張しながら、是正を要請した。
ケ.2008年12月24日、本件履行保証金の沒取及び訴訟の提起
原告は2008年12月12日に被告公社に対して、再び最終引受時期を 1 年間猶予してくれるように要求したが、被告公社は2008年12月24日に原告会社に対して、原告の株式売買契約書の最終案に対する契約締結義務の不履行、及び了解覚書上の調整限度を超える売買代金の調整要請、または最低 1 年間の取引き猶予要請は了解覚書第 5 条第 2 項、第13条第 1 項を明らかに違反するものとし、被告公社は了解覚書に基づいてその是正を要求し、原告が定められた期間内にそれを是正しなかったため、了解覚書第 9 条第 2 項に基づき、書面をもってその了解覚書を解除するという旨
を通知した。それと同時に、了解覚書第 9 条第 3 項及び最終入札の時に原告から提出された確約書に基づき、原告から既に納められた履行保証金(発生された利息を含む)は被告らに帰属されるという内容の内容証明郵便を発送し、その内容証明郵便はその頃原告に到達された。そして、履行保証金の返還を要求するため、原告は本件の訴訟を提起することに至った。
( 2 )争点
ア.原告会社の主張
原告会社は本件において了解覚書が締結された後に、全世界的な金融危機、為替の急騰、実物経済の停滞、建設業界の流動性危機、A 社の株価暴落、最終入札代金の調整要因の発生、などの事情変更が生じたので、それは了解覚書第 9 条第 2 項第 6 号(不可抗力的な事由)、または同項第
9 号(義務を履行することができない理由が客観的に明らかな場合)の解除事由に当たるため、xxxxの原則上の事情変更の理由により、本件に関する訴状の副本を送逹することで、了解覚書を適法に解除したと主張した。5)即ち、原告会社は履行保証金の沒取条項は、その性質上、損害賠償の予定に当たるもので、被告らが予備調査の過程で企業価値を評価できる資料を充分に提供
5)その他にも、原告会社は被告らが調査資料を充分に提供しなかったため、原告会社が過多に最終入札代金を策定して了解覚書を締結し、A 社の建設業登録の抹消、及び営業停止処分を受ける可能性の高い従業員の非違事実を告知しなかったので、欺罔または錯誤を理由として了解覚書を取り消すという主張などもあったが、本稿では緊急状況と係わる原告会社の主張に限って、検討することにする。
せず、原告会社に株式売買契約の締結を強制すると不当な結果をもたらすほどの急激な事情変更が生じ、被告らは少し譲歩すれば円満な妥協点を模索することができるのにもかかわらず、原告会社に対してだけ一方的な犠牲を強制している点を強調した。
イ.被告らの主張
それに対して被告らは本件において了解覚書が、原告会社の契約義務の不履行、株式売買契約締結義務の不履行、及び誠実な交渉義務の不履行などを理由にして適法に解除され、原告会社の主張する事情だけでは不可抗力、あるいは義務を履行することができないことが客観的で明らかな場合とは考えられず、xxxxの原則上、本件において了解覚書を解除するに値する事情変更はないと主張した。さらには原告会社が経済的な弱者の地位にあるとは考えられないこと、履行保証金の沒取条項は履行を確保する機能が強いこと、本件株式が売却されない場合には被告らに膨大な損害が生じると予想されること、本件において履行保証金の割合が最終入札代金の 5 %に過ぎないこと、などをあげて、本件の履行保証金が不当になるほど過多であるとは考えられないと主張した。
( 3 )判示内容
231億相当の履行保証金の返還を要求する本件において、韓国の裁判所は当事者らが、たとえ確約書の中で履行保証金の沒取条項に対して“違約罰”という用語を使っていても、その性質上、損害の発生事実と損害額に対する立証の難しさを低減し、紛争の発生を事前に防ぐことで、債務の履行を確保するために設けられた損害賠償額の予定として見るべきであるとした。
まず、不十分な調査資料を提供したという原告会社に主張に対しては、原告会社が調査要請資料のリストを作成して被告らに必要な資料の提供を求め、それにより膨大な量の資料が交付され、2008年 1 月28日から2008年 5 月29日まで約 4 ヶ月間にかけて検討、分析し、以後にも 4 回に
わたって書面による質疑をし、また実務陣に対して 2 回のインタビューを行うことで、提供された情報を補っていたこと、特に公開競争入札方式により進められる株式売却の特性上、対象となる企業の情報は制限的なものになるしかなく、制限的な資料を基に入札手続きに参加するか否か、また参加する場合には入札代金はどう決めるかは原告会社の自由な意思に任せられていること、最終入札案内書と原告会社が提出した確約書上の資料の正確性と安全性などに対する検討、確認は全面的に原告会社の責任となっていること、それに対して被告らはいずれの保証や責任も負わないという旨で書かれていることなどを挙げて、仮に被告らから原告会社に提供された資料が多少不十分であったとしても、被告らが原告会社を欺罔したり、錯誤で了解覚書を締結したという原告会社の主張は受け入れがたいと判断した。
そして、特に原告会社から主張された事情変更を理由に了解覚書が適法に解除されたということに関しては、従来の韓国の裁判所が事情変更の法理に関して確立した従来の立場を依然として堅持していることが分かる。
即ち、事情変更による契約の解除は、契約成立の当時には当事者が想定できなかった顕著な事情の変更が発生し、その事情の変更が解除権を取得する当事者の責に帰しない事由で生じたもの
で、契約内容の拘束力を認めることによってxxxxの原則に著しく違反する結果となる場合には、契約遵守原則の例外として認められるもので、ここでの事情とは、契約の基礎となった客観的な事情であり、一方当事者の主観的、または個人的な事情を意味するものではないとし、事情変更の法理に関する従来の判例と多数説の立場を支持している。
また、契約の成立において基礎とならなかった事情が、その後に変更され、一方当事者が契約の当時に意図した契約の目的を果たすことができなくなることによって、損害を受けるようになったとしても、特別な事情のない限り、その契約内容の効力をそのまま維持することがxxxxの原則に反するものとは考えられないとした。
従って、本件において了解覚書の締結経緯と目的、その内容、本件株式売却の特性に照らし、原告会社の主張する事情は本件了解覚書の基礎となった客観的な事情とは見ることができず、また本件了解覚書の拘束力をそのまま維持することがxxxxの原則に反するとは考えられないとした。
3 .判示内容の検討及び事情変更の法理
一般的に事情変更の原則とは、法律行為、特に契約の成立当時にあった状況、またはその基礎となる事情が、その後に著しく変わり、本来予定していた法律行為の効果、あるいは契約の内容をそのまま維持し、強制することがxxxxの原則とxxの原理に反する結果となる場合に、当事者がその法律行為の効果をxxとxxに適合するように変更する、または解消することができるという原則を意味するが、韓国ではまだそれに関する一般的な規定はない。 “契約は守られるべきである( pacta sunt servanda)”という法諺のように、契約には拘束力が あるが、ヨーロッパでは第 1 次世界大戦後に、従来の契約関係を顕著な経済的な変化に伴い合理的に修正するため、多くの論議が行われた。ドイツの行為基礎論や、フランスの不予見論などがそれである。特に、ドイツの場合には、債券法現代化法律が成立され、2002年1月1 日から施行されることによって、ドイツ民法第313条に行為基礎の障害というタイトルの条項が設けられた。xx法においても‘契約目的達成不能の法理’がそれと類似する法理である。それに比べて、韓国ではそれらの問題はxxxxの原則からの派生原理の一つである事情変更の原則(あるいは法理)として説明されて来たが、積極的に事情変更の原則を肯定する見解と、限定的に許容しようという見解、否定する見解とに分けられており、韓国の裁判所は徹底的に消極的な立場を取っている。
但し、継続的な契約関係においては一部肯定する判例はあるものの、経済事情の変更に関する場合には、一貫して許容されてない。従って、朝鮮戦争の前にxxを買取り、その契約金として 10万ウォンを支払った後、戦争の以後に移転登記を請求した事案において、原審は事情変更を認めたが、それに比べ、韓国の大法院は 2 回にわたって実施された貨幤改革など、貨幤価値の急激な下落により物価が200倍くらい暴騰した状況の下で、買取人が元来契約締結当時に表示された金額どおりに残金を支払うとすると、その間に高騰した目的物の価格に比べると、著しく均衡を
失った履行となる場合であっても、売渡人に対して、事情変更の原理による契約解除権を認めないと判示した以来、経済的な状況の変化に対しては、一貫して事情変更の法理の適用を否定している。
最近の建設工事請負契約においても、韓国の大法院は天災地変やそれに準する経済事情の急激な変動など、不可抗力により目的物の竣工が引き延ばされた場合には、受託人は遅滞賠償金を支払う義務がないとするべきだが、いわゆる IMF 事態(金融危機)及びそれによる資材需給の困難などはそのような不可抗力的な事情ではないと解釈した。6)
また、同じ事件において、一般的に受託人が工事請負契約を締結する上、工期を約定すること においては、通常雨によって正常な作業ができないことまで想定して契約期間を決定するので、天災地変に準する異例的な場合でなければ、遅滞賠償金の兔責事由とすることはできないとした。過去にも世界恐慌、二度にわたった世界大戦、朝鮮戦争など、急激な社会的、経済的な変革を
経験しており、現在、全世界的に広がっている経済危機は既に私たちが危機の時代に生きていることを感じさせている。このような過去の経験からみて、M&A 取引きにおいても、当事者ら(特に買受企業)は、事前に充分な安全装置を各種の条項の形で設けようとする。M&A 取引の当事者らは、その地位がほぼ対等で、多くの場合に、専門家の助力を受けて自己責任の下に、契約締結の可否を決めていること等を考えると、事前に緊急状況に対して充分に対処することができるはずだったにもかかわらず、その危険を相手に転嫁することは望ましくないと思われる。従って、xxxの派生法理である事情変更の法理により、解釈上、M&A 取引の当事者の一方に対して契約内容の変更権、乃至は解除権を認めるべきではないという結論は妥当であり、このような観点から、上記の判示内容は適切である思われる。また、実は本件において一番の争点は支払われた履行保証金の性質が損害賠償の予定であるのか、金額の減額の如何等であった。もしその金額の性質が損害賠償の予定であり、もし被告らに書類を充分に提供しないことに対して過失があると認められたら、それに基づいて裁判所は金額を減額することができるからである。これからの裁判所の判断を含め、今後の成り行きを見届けたいと思われる事案である。
6)大法院2002年 9 月 4 日宣告2001タ1386判決
<資料 1 >
最終入札提案書の主な内容
III.最終入札提案書に含まれるべき事項
(省略)
2 .引受価格(最終入札代金)など
最終入札代金は取引が終了する時まで、一括払いで支払われなければならない。
(省略)
8 .了解覚書及び株式売買契約書の修正事項
入札者は本最終入札案内書と共に提供される了解覚書の下書き、及び株式売買契約書の下書きに対する修正事項がある場合に、添付様式による修正事項と共に、了解覚書の下書き及び株式売買契約書の下書きに修正事項が表示された変更追跡本と、変更追跡本が適用された修正案を電子ファイルの形で提出しなければならない。
協議会及び売却主幹社は、優先交渉対象者として選定される入札者から提示された了解覚書及び株式売買契約書の修正事項に対して、交渉を進める予定であり、原則入札者が最終入札時に提示した修正事項が交渉の対象となり、入札者が提示した修正事項より売渡人に不利に変更されることがある。(省略)
VII.最終入札提案書の評価及び評価基準
(省略)
5 .了解覚書及び株式売買契約書の下書きに関する主な内容の修正可否
下記の項目は協議会及び売却主幹社から非常に重要に思われている事項なため、慎重な修正が求められ、修正内容がある場合には評価に大きく反映されるのである。
⑴了解覚書に関して:ii)最終入札代金の調整限度
⑵株式売買契約書に関して:ii)損害賠償の限度
特に、最終入札代金の調整限度及び損害賠償の限度に関して、了解覚書の下書き及び株式売買契約書の下書き上の限度( 5 %及び10%)より低く提示する場合には、評価において肯定的に反映する予定であるが、それを超えて提示する場合には、不利に反映する予定である。(省略)
VIII.最終入札提案書のパッケージ提出後の進行日程
(省略)
2 .履行保証金の支払
優先交渉対象者として選定された者は、通知日から 3 営業日、または通知により新たに案内され
る期限(以下‘履行保証金の支払期限’)以内に、最終入札代金の 5 %にあたる金額(以下‘履行保証金’)を納めなければならない。
一方、優先交渉対象者が履行保証金を納めた後に、最終入札提案書の内容及び関連資料(了解覚
書、株式売買契約書などを含む)などの重大な誤り、または漏れによって優先交渉対象者の地位を維持することができない、また最終入札提案書の内容及び関連資料に反する要求、または追加 的な要求などの事由により株式売買契約の締結を諦める、または入札手続きを重大に違反するなどの場合には、履行保証金の全額は協議会に帰属され、当該優先交渉対象者はそれに対して、いずれの異意も申し立てることができない。(省略 ; 下線追加)
IX.その他の注意事項
3 .入札者は自主的に調査を行い、本件の売却に関する入札手続きに参加することによる利益と危険を独自的に評価することのできる程度の会計と経営問題に関する知識と経験を持っていなければならない。
4 .入札者が会社、協議会及び売却主幹社、または彼らの他の諮問社から提供された、または提供される情報に対して検討及び検証することや、会社、入札手続き及び本件の売却に関する法的、事実的な問題に対する確認の責任は全面的に入札者が負うものとする。協議会及び売却主幹社はいずれの状況においても、上記の事項に関する正確性、完全性、xx性に対して責任を負わないものとする。各入札者は売却主幹社が本件の売却に関して提供した、または提供する情報と、口頭または書面により提供した、または提供する説明に対して、その正確性、完全性、xx性及びその他の事項に関していずれの表明と保証とも、明示上、あるいは暗黙的でも全くしたことがなく、将来にもしないことを受け入れ、同意するものとする。
(省略)
<資料 2 >
了解覚書の主な内容
第 4 条(引受代金の調整)
⑵最終入札代金の調整は次の各号の条件でのみ可能である。
1 .2007年12月31日を調査基準日として、調査基準日現在、被告公社や売却主幹社が最終入札対象者の調査に向けて原告に提供した資料が、確認調査やその他の方法により原告が確認した資料と客観的で明らかな違いがあり、それがA 社の企業価値に著しく否定的な影響を与える場合
2 .調査基準日現在、被告公社や売却主幹社がA 社の営業、資産、財務上、またはその他の条件に関する重要な事実に関する十分な情報を最終入札対象者の調査中に提供せず、それが A社の企業価値に著しく否定的な影響を与える場合
3 .調査基準日以後に、A 社に不利な影響を与える事由や変更が生じて(法令の変更や経済事情(マクロ経済指標)の変更など、A 社の外部で生じた事由は除く)、それが A 社の企業価値に著しく否定的な影響を与える場合(但し、最終入札提案書を提出する前に原告にそれらの事項に関する十分な情報が提供されたり、または既にそれらの事項に対する十分な情報が一般に公開されている場合にはそれを調整事由とすることができない)。
⑷当事者らは本条第⑴による最終入札代金の調整要請書、または最終入札代金の不調整通知書を提出した日の次の営業日から15営業日(以下‘最終交渉期間’)の間に、最終入札代金の調整(最終入札代金の調整要請書が提出された場合)、及び株式売買契約書の最終案を確定するために個別交渉を進めることとするが、最終交渉期間の間に当事者らの間で合意が成されない場合には、原告は15営業日を超えない期間内で最終交渉期間の延長を要請することができ、それによって最終交渉期間は延長される。但し、最終交渉期間は当事者らの相互合意により追加で延長されることができ、被告公社が要請する場合には、最終入札代金の調整要請書、または最終入札代金の不調整通知書が提出される前でも、株式売買契約書の最終案を確定するための交渉を開始することができる。
第 5 条(株式売買契約の締結)
⑴株式売買契約書の最終案に関する交渉は、被告公社が最終入札案内書と共に原告に対して提供した A 社株式売買契約書(下書き)に基づいて進めることとし、原告コンソーシアムは最終入札提案書を提出する時に一緒に提出した A 社株式売買契約書(下書き)の修正事項以外の事項は交渉対象として要求することができない。
⑵最終交渉の期間内に株式売買契約書の最終案の内容一切に対して、当事者間に合意が成される場合には、被告公社と原告はその合意された株式売買契約書の最終案に各々サインして、 1 部ずつ保管し、本条⑶及び⑷項による手続きに従って、その株式売買契約書の最終案に基づき、株式売買契約を締結することとする。
第 9 条(効力の発生、解除など)
⑴本了解覚書は締結日から効力が発生し、各号にあたる事由が発生する場合には、自動的にその効力が喪失される。
1 .株式売買契約が締結される場合
2 .本了解覚書が解除される場合
⑵次の各号にあたる事由が発生する場合に、その事由を問わず、本了解覚書の一方当事者は相手当事者に対する書面による通知をもって、本了解覚書を解除することができる。但し、下記の事由の発生に責任のある当事者は同事由を理由として本了解覚書を解除することができない。
6 .天災地変、法律、政府機関の措置その他の不可抗力的な事由により、本了解覚書に基づく取引の履行ができない、あるいは不法化される場合
7 .本項第 1 号ないしは第 5 号以外の事由として、一方当事者が本了解覚書上の表明及び保証、
または義務を違反し、相手当事者から書面による是正要求を受けた日から 5 営業日以内にそれを改善しない場合
9 .その他一方当事者が本了解覚書の義務を履行することができないことが客観的に明らかな場合
⑶本了解覚書が原告コンソーシアムの責に帰すべき事由により解除される場合に、原告コンソーシアムが既に支払った履行保証金(以下‘損害賠償の予定額’)は被告らに帰属される。原告コンソーシアムはその損害賠償の予定額が被告らに対する損害発生の有無、及び被告らの実際の損害額を算定することが困難である、あるいは不可能なことを踏まえて、算定された合理的な推定値ということに対して同意し、それに対して一切の異意(返還請求が含まれるが、それに限られてない)を申し立てないこととする。本項において‘原告コンソーシアムの責に帰すべき事由’とは、次の各号にあたる事由が発生することを意味する。
6 .本項第 1 号ないしは第 5 号以外の事由として、原告コンソーシアムが本了解覚書上の表明
及び保証、または義務を違反し、被告公社から書面による是正要求を受けた日から 5 営業日以内にそれを改善しない場合
⑷本条第⑶項各号以外の事由により、本了解覚書が解除される場合には、被告公社は 5 営業日以内に原告に履行保証金を返還しなければならない。
第13条(誠実な交渉など)
⑴各当事者は本了解覚書に基づく確認調査及び株式売買契約の締結に向けての交渉と関連して、xxxxの原則に基づき、誠実にその手続きを進めるべきである。
(省略)