Contract
24 パート・有期労働者の住宅手当
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Q
当社では、全国転勤のある正社員には住宅手当を支給していますが、全国転勤のない契約社員やパートタイマーには支
給していません。契約社員やパートタイマーから、なぜ自分たちには住宅手当が支給されないのかと説明を求められましたが、どのように対応すればよいでしょうか。また、契約社員やパートタイマーにも住宅手当を支給すべきでしょうか。
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A
パート有期法では、使用者に対して、非xx社員(パート・有期労働者)の待遇内容及び待遇決定に際しての考慮事項に
加え、正社員との待遇差の内容及び理由についても説明義務を定めていることから、これらについての説明が必要となります。パート・有期労働者に住宅手当を支給すべきか否かは、住宅手当の趣旨(住宅費の補助)に照らして十分検証する必要がありますが、正社員に全国転勤があり、パート・有期労働者に全国転勤がないという点は、不合理性を否定する方向に働く重要な要素です。
解 説
1 パート有期法による不合理な待遇差の禁止
令和2年4月1日から施行されたパート有期法8条は、「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性
質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」(均衡待遇)と定め、同一企業内における通常の労働者(いわゆる正社員などの無期雇用フルタイム労働者)と非xx社員(パート・有期労働者)との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。また、パート有期法
9条は、通常の労働者と同視すべきパート・有期労働者については、通常の労働者との差別的取扱いを禁止しています(均等待遇。パート有期法8条及び9条は、中小企業については令和3年4月1日から適用されます(働き方改革附則11①)。なお、派遣労働者に対しては、別途派遣法において不合理な待遇差の禁止が定められています。)。
パート有期法は、均等・均衡待遇の確保に向けた行政指導を予定しており(パート有期18①)、どのような待遇差が不合理となるかについて、行政の考え方を「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平30・12・28厚労告430)(以下「ガイドライン」といいます。)で明らかにしています。ガイドラインでは、基本給や賞与のほか、手当として役職手当、特殊作業・勤務手当、精皆勤手当、時間外労働・深夜労働・休日労働に対して支給される手当、通勤手当及び出張旅費、食事手当、単身赴任手当、地域手当、その他福利厚生等に関し、どのような場合に不合理な待遇差となり得るかについて問題となる例・問題とならない例という具体例を挙げながら説明がなされています。
2 住宅手当に関する不合理な待遇差の禁止
住宅手当は、ガイドラインでは触れられておらず、どのような場合に不合理な待遇差となるかについての行政の見解は明らかではありません。
旧労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件
の禁止。令和2年3月31日をもってパート有期法8条への統合により削除)に関し蓄積された裁判例から、パート・有期労働者に対する住宅手当の不支給がどのような場合に不合理と判断されるかを検討していきます。
(1) 不合理ではないとした裁判例
ア ハマキョウレックス事件(最判平30・6・1判時2390・96)
正社員と契約社員間における住宅手当の支給の相違が問題とされた事案です。最高裁は、住宅手当の趣旨を従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものとした上で、正社員と契約社員との間に職務の内容に違いはないものの、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は、出向を含む全国規模の広域移動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、会社の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるとして、正社員に対して住宅手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができないとしました。
イ xx運輸事件(最判平30・6・1判時2389・107)
正社員と嘱託乗務員(定年後再雇用)間における住宅手当の支給の相違が問題とされた事案です。最高裁は、住宅手当は従業員の住宅費の負担に対応する補助として支給されるものとした上で、正社員には、嘱託乗務員と異なり、幅広い世代の労働者が存在し得るところ、そのような正社員について住宅費を補助することには相応の理由があるということができる一方、嘱託乗務員は、正社員として勤続した後に定年退職した者であり、老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、その報酬比例部分の支給が開始されるまでは使用者から調整給を支給
されることとなっているものであるとして、これらの事情を総合考慮すると、嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても、正社員に対して住宅手当を支給する一方で、嘱託乗務員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないとしました。
ウ 中央学院大学事件(東京地判令元・5・30労判1211・59)
大学の専任教員と非常勤講師との間の住宅手当の支給の相違が問題とされた事案です。裁判所は、住宅手当が教職員の住宅費の負担に対する補助として支給されるものであるとした上で、専任教員は、授業を担当するほか大学運営に関する幅広い業務を行うものであり、専任教員として相応しい人材を安定的に確保するために、専任教員について福利厚生の面で手厚い処遇をすることに合理性がないとはいえないこと、専任教員が原則として兼業が禁止され、その収入を大学から受ける賃金に依存せざるを得ないこと等からすると、専任教員のみに対して住宅手当を支給することが不合理であると評価することはできないとしました。
(2) 不合理とした裁判例
正社員に住宅手当を支給し、非xx社員は不支給とすることを不合理とした裁判例として、メトロコマース事件(東京高判平31・2・20労判 1198・5)、日本郵便(東京)事件(東京高判平30・12・13判時2426・77)、日本郵便(大阪)事件(大阪高判平31・1・24労判1197・5)、xxxx製造所事件(xxx判令元・7・8労判1208・25)があります。
これらの裁判例は、住宅手当を、「主として従業員の住宅費を中心とした生活費を補助する趣旨で支給されるもの」(前掲メトロコマース事件)、「従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるもの」
(前掲日本郵便(東京)事件)、「住宅に係る費用負担の軽減」「職務内容に関係がない福利厚生ないし生活保障としての性質を有するもの」(前掲
日本郵便(大阪)事件)、「住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨」(前掲xx松山製造所事件)などと認定した上で、正社員において転居を伴う配置転換が予定されておらず、正社員と非xx社員において住宅費用の負担の程度は変わらないとして、正社員に住宅手当を支給し、非xx社員に支給しないことは不合理な待遇差であるとしました。
(3) まとめ
旧労働契約法20条は、不合理な労働条件の禁止に当たるかどうかを、
①「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(職務の内容)、②「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」、③「その他の事情」の三つの観点から判断することを定めていました。これらの判断要素はパート有期法でも引き継がれていますので(条文は上記1参照)、旧労働契約法 20条に関する裁判所の考え方は、パート有期法における均等・均衡待遇においても基本的に妥当すると思われます。
ただし、均衡待遇を定めるパート有期法8条では、上記の三つの観点に加えて、旧労働契約法20条にはなかった「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」との文言も加わっています。よって、どのような趣旨で、何に対する補助として住宅手当を支給するのかを改めて整理し、正社員には支給するがパート・有期労働者には支給しないことについて、①職務の内容や、
②当該職務の内容及び配置の変更の範囲などから説明できるかどうかを十分検証する必要があるでしょう。正社員には全国転勤がある一方で、契約社員やパートタイマーには全国転勤がないという点は、②との関連で重要な点となります。住宅手当を社員の住宅費の補助として支給する場合には、全国転勤が予定される正社員の方が契約社員やパートタイマーよりも住宅費の負担が大きくなることが見込まれるため、手当支給の相違と配置の変更の範囲とが結びつきやすいからです。
3 使用者による説明義務
パート有期法では、使用者に対して、非xx社員(パート・有期労働者)について、雇入れ時に雇用管理上の措置の内容を説明するとともに(パート有期14①)、非xx社員から求めがあった場合には待遇決定に際しての考慮事項に加え、正社員との待遇差の内容及び理由についても説明する義務を課しています(パート有期14②)。そのため、使用者は、非xx社員に対して、正社員には住宅手当を支給し、非xx社員には支給しないこととする場合には、その理由を①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情の観点から説明する必要があります。
なお、説明に当たって比較する対象となる正社員(通常の労働者)は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、パート・有期労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等と最も近いと事業主が判断する者とするとされています(平31・1・30基発0130第
1・職発0130第6・雇均発0130第1・開発0130第1 第3・10(6))。
advice
〇割増賃金の算定基礎から除外される賃金としての住宅手当
労基法施行規則21条3号において、住宅手当は、割増賃金の算定の基礎から除外されるとされていますが、この場合の住宅手当とは、通達によれば、「住宅に要する費用に応じて算定される手当」をいうものであり、
「費用に応じて算定」とは、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるに従って額を多くするものであるとされています(平11・3・31基発170)。
同通達では、労基法施行規則21条3号にいう住宅手当に当たらない例として、全員に一律定額で支給されている場合を挙げるほか、住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの(例えば、賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給するなど)、住宅以外
の要素に応じて定率又は定額で支給することとされているもの(例えば、
扶養家族がある者には2万円、扶養家族がない者には1万円を支給するなど)を挙げています。
パート・有期労働者に関し、均等・均衡待遇の要請を受けて支給条件を整備する場合には、このような観点にも留意するとよいでしょう。
書 式
DL
〇回答書(有期社員から正社員との待遇の相違理由に関する説明を求められた場合)
△△△△殿
〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇〇〇
あなたと正社員との待遇の違いの有無と内容及びその理由は、以下のとおりです。
1 比較対象となる正社員
〇〇部の正社員で、おおむね勤続〇年の者
(理由)
あなたと職務の内容や人事異動の範囲が同一である正社員はいませんが、上記の者が、あなたが従事する業務の内容と最も近い職務に従事しているため。
2 待遇の違いの有無とその内容、理由
(1) | 基本給 | ||
① | 待遇の違い( | あり | ・ なし ) |
② 待遇の違いの内容
契約社員は、時給換算で〇〇円、比較対象となる正社員は、売上目標の達成状況に応じて、時給換算で〇〇〜〇〇円です。
③ 待遇の違いがある理由
正社員には月間の売上目標があり、その達成のために責任を課すとともに、会社の中核、幹部要員として雇用され
ているところ、契約社員には売上目標がなく、補助的・限定的な職務に従事するためです。
(2) …… (3) 住宅手当
正社員として相応しい人材を安定的に確保するとともに、転勤を伴う配置転換が予想されることにより住宅にかかる費用が増加することに対する補助として支給するもの。
① 待遇の違い( あり ・ なし )
② 待遇の違いの内容
比較対象となる正社員には、住宅手当として月額〇万円を支給し、契約社員には支給していません。
③ 待遇の違いがある理由
会社の中核、幹部要員として相応しい人材を正社員として安定的に確保するため、また、正社員には転勤を伴う配置転換が予想されることにより住宅にかかる費用が契約社員より増加することが見込まれるためです。
〔説 明〕
待遇差の有無及びその内容、待遇差がある場合にはその理由も明記します。また、比較対象となる労働者が、どの部門の正社員(無期雇用フルタイム労働者)となるのかについても説明します。
なお、パート有期法14条2項に基づく説明は、資料を活用し、口頭により行うことが基本ですが、説明すべき事項を全て記載した資料を用意し、それがパート・有期労働者が容易に理解できる内容のものであれば、資料の交付でも差し支えないとされています(平31・1・30基発0130第1・職発0310第6・雇均発0310第1・開発0310第1 第3・10(9))。
〔xxxx〕
30 兼業をしている労働者に対する割増賃金
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Q
当社の正社員から、土日の副業・兼業を認めて欲しいという要望が出されています。複数の声が上がっていることか
ら、今後は、従業員からの副業・兼業の申出を積極的に認めていこうと思っています。
副業・兼業を始めた従業員への割増賃金の支払は、これまでどおりで問題ないでしょうか。
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A
所定労働時間が1日8時間・1週40時間であるフルタイムの従業員に対しては、割増賃金の支払に関する事務運用を変
更する必要はありません。
解 説
1 副業・兼業で割増賃金が発生する場合
労働時間に関する規定は、事業場を異にする場合であっても、通算して適用されます(労基38①)。この「事業場を異にする場合」には、事業主を異にする場合も含まれるとされています(昭23・5・14基発769)。
したがって、同一企業内での労働時間が法定労働時間内に収まっていたとしても、自社と副業・兼業先の労働時間を通算した結果、法定時間外労働が発生していれば、割増賃金の支払義務は発生します。
2 割増賃金の支払義務の所在
労基法上の割増賃金の支払義務を負うのは、当該労働者を使用することにより法定時間外労働を発生させた使用者であるというのが厚生労働省の見解です(「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』Q&A」(厚生
労働省)【労働時間管理等】(答)3参照)。厚生労働省は、この考え方に従って、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を「時間的に後から締結した使用者」が割増賃金の支払義務を負うとしています。なぜなら、労働契約を時間的に後から締結する使用者は、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきだからです(同ガイドライン4)。ただし、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が割増賃金の支払義務を負うとしています(同ガイドライン5)。
なお、労働時間に関する規定(労基38①)は、前記のとおり事業主を異にする場合にも通算されるため、労働者が、自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合には、その使用者が当該労働者の他社での労働時間も適正に把握する責務を有しており、労基法36条6項の上限規制は、副業・兼業先での労働時間も含めた時間について適用されます(平30・9・7基発0907第1)。
3 雇用型の副業・兼業を認める場合の処理
1日8時間・1週40時間のフルタイムで働く従業員に、他社での副業・兼業を認める場合の割増賃金の取扱いは、従前と同様であり、原則として自社就労にかかる部分のみ割増賃金を支払えば足ります。
気を付けなければならないのは、自社単体では法定労働時間の枠が埋まっていなかったものの、副業・兼業先の所定労働時間を加味すると法定労働時間の枠が埋まってしまう場合です。この場合、副業・兼業の開始の前後で割増賃金の支払の要否を見直す必要があります。質問のケースからは離れますが、例えば、自社で所定労働時間4時間で労働契約を締結している労働者が、副業・兼業先で所定労働時間を4
時間とする労働契約を締結したとします。この場合、1時間の時間外労働をさせても、従来は法内残業として割増賃金を支払う必要はありませんでした。しかし、副業・兼業の開始後は、労働時間が通算される結果、法定時間外労働をさせたことになるため、1時間分の割増賃金を支払う必要があります(「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』 Q&A」(厚生労働省)【労働時間管理等】実例(3)参照)。
〇他社就労か個人事業主か
他社就労している従業員の割増賃金を正確に計算するためには、副業・兼業先の実労働時間数を把握しておく必要があります。これは他社就労の時間数に応じて法内残業と法外残業とが切り替わる労働者に限ったことではありません。月の法定時間外労働が60時間を超える以前と以後とで割増率が変わるため(労基37①但)、フルタイムの労働者であったとしても、他社で何時間労働しているのかを把握しておかなければなりません。
他社での実労働時間を厳密に把握することには困難が伴うため、副業・兼業を認める場合、割増賃金支払の要否に影響しない個人事業主としての形態でのみ認めることも考えられます。
advice
書 式
DL
〇申請書(副業・兼業の許可を申請する場合)
〇年〇月〇日
〇〇〇〇株式会社
代表取締役 〇〇〇〇殿
副業・兼業の許可申請書
所属部署 〇〇部〇〇課氏 名 △△△△ ㊞
貴社の業務に支障を生じさせないこと、自己の健康管理を徹底することを約束した上、下記の副業・兼業先の業務に従事する許可を申請します。
【副業・兼業先の表示】
1.個人事業の場合
商 号 | |
所 在 地 | |
電話番号 | |
事業内容 | |
就労時間 | 1日〇〜〇時間程度、週〇〜〇時間程度 |
商 号 | 株式会社〇〇 |
所 在 地 | xxx新宿区〇〇町〇― 〇 |
電話番号 | 03 ― 〇〇〇〇― 〇〇〇〇 |
事業内容 | Web製作 |
就労形態 | 役員・被用(管理監督者)・被用(管理監督者以外) |
期 間 | 〇年4月1日〜6月30日 |
勤務日等 | 週1日(毎週土曜日) |
勤務時間 | 9時始業、15時終業(12〜13時休憩) |
2.他社就労の場合
〔説 明〕
個人事業主や委任契約上の受任者、労基法上の管理監督者として副業・兼業が行われる場合には、労基法上の労働時間に関する規定は適用されません。しかし、この場合においても、自己申告により就業時間を把握すること等を通じて就業時間が長時間にならないよう配慮することが望ましいとされています(平30・1・31基発0131第2別添1「副業・兼業の促進に関するガイドライン」3※1参照)。
〔師子xxx〕
38 残業代請求に対する和解
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Q
ある社員から未払残業代があるとの指摘を受けました。社内調査の結果、当該社員に未払残業代が発生していることが
分かったため、当該社員との間で和解をした上で未払残業代を支払いたいと思いますが、和解をするに当たり留意すべき点を教えてください。
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A
未払残業代の金額を相互に確認し支払う旨の条項と、清算条項を含んだ和解合意書を締結することが重要です。その際
は、源泉徴収義務に留意する必要があります。
解 説
1 和解合意書の締結
労働者から未払残業代が請求され、未払残業代を支払う旨の和解がなされる場合、和解成立時点までの未払残業代を精算し、労使間の紛争を終局的に解決するため、労使間において和解合意書を締結することが重要です。
和解合意書の内容としては、①未払残業代の金額を確認する旨の条項、②上記金額を支払う旨の条項、③守秘条項、④清算条項(和解合意書に定めるものの他に、当事者間に債権債務がないことを確認する条項)を設けることが一般的です。労使間の紛争を終局的に解決するためには、④清算条項を挿入する必要があります。
2 和解金における源泉徴収
使用者が労働者に和解金を支払う場合、和解金の性質が賃金であれば、所得税の源泉徴収義務を負います(給与所得について所税183、退職所
得について所税199)。一方、和解金の性質が損害賠償金であれば、所得税の源泉徴収義務は負いません(労働者においても所得税が課せられないことにつき所税9①十七、所税令30一)。
そこで、和解合意書における和解金の支払名目として、その性質をxx的に明確にせず、「解決金として金○○円を支払う」旨を記載し、源泉徴収しない扱いとするケースがよく見られます。和解金の性質を損害賠償金と評価し得る事案であれば、xxxx義務がないと解することもできますが、質問のように未払残業代の請求に応じて和解金を支払う場合には、損害賠償金と評価することは困難です。この場合、和解金の実質は未払賃金であると解するのが自然ですので、「給与等」
(所税183)の支払として源泉徴収義務が課せられることになるでしょう。課税当局においては、和解合意書の記載文言にかかわらず、和解金の性質の実態に即した判断がなされるため、「給与等」の支払であることが明確な場合には、支払名目を「解決金」とするのではなく、端的に賃金である旨明示し、源泉徴収した上で支給した方がよいと考えられます。
なお、和解金の支払時に差し引く源泉税その他法令上控除が必要な租税公課については、和解後に労使間で争いが生じることを防ぐために、あらかじめ控除額を確認した上で、和解合意書に記載することが望ましいといえます。もっとも、「和解において、当事者間で源泉徴収される税額や社会保険料額を確認することもあるが、これらは国やその機関等が決めるものであり、当事者が処分できるものではないため、当事者の合意により税額等を決定することはできず、あくまで和解において当事者間において前提とした事実を示す意味があるにすぎない」(xxxxxほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』37頁(青林書院、2017))とされていることに留意してください。
〇未払残業代の支払における源泉徴収
課税当局においては、和解合意書の記載文言にかかわらず、和解金の性質の実態に即した判断がなされるため、質問のように賃金であることが明確な場合には、支払名目を「解決金」とするのではなく、端的に賃金である旨明示した方がよいといえます。
advice
書 式
DL
〇和解合意書(未払残業代について)
和解合意書
株式会社○○○○(以下「甲」という。)と△△△△(以下「乙」という。)は、未払となっている賃金等(遅延損害金を含み、以下
「xx払賃金等」という。)について、以下のとおり合意し、合意書(以下「本合意書」という。)を作成し締結する。
1 甲及び乙は、○年○月○日から○年○月○日までの時間外労働時間・休日労働時間・深夜労働時間、及びその時間に対するxx払賃金等の金額が下記のとおりであることを相互に確認する。
① 時間外労働時間 ○○時間○○分
② 休日労働時間 ○○時間○○分
③ 深夜労働時間 ○○時間○○分
①ないし③の時間に対するxx払賃金等の金額 ○○円
2 甲は、乙に対して、○年○月○日までに、前項の金額から源泉税その他法令上控除が必要とされる金額○○円を差し引いた上、乙が指定した給与振込口座に振り込み支払うものとする。なお、振込手数料は甲の負担とする。
3 甲及び乙は、本合意書締結に至る協議の経過及び本合意書の内容を守秘し、これを第三者に漏洩しないものとする。
4 甲及び乙は、xx払賃金等については、本合意書に定めるほか、甲乙間に何らの債権債務がないことを相互に確認する。
本合意書成立の証として、本合意書2通を作成し、甲は記名押印、乙は署名捺印の上、各1通を保有するものとする。
○年○月○日
甲 住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号株式会社○○○○
代表取締役 ○○○○ ㊞
乙 住所 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
△△△△(署名) ㊞
〔説 明〕
未払残業代の金額を確認する旨の条項(第1項)では、未払残業代の金額について、その計算方法も含め、あらかじめ労働者と確認・協議をした上で確定することが重要です。未払となっている時間外労働時間・休日労働時間・深夜労働時間がどの程度発生していたのか、労使間で齟齬が生じないよう、記載することが望ましいといえます。
〔xxxx〕