Contract
共同研究開発契約書(大学・事業会社)
想定シーン
1. 発電施設の開発事業を営む X 社は、早期の売上・利益の実現は難しいと思われるものの、カーボンニュートラルへの取り組みを本格化させるべく、再生可能エネルギーの 1 つであるxxx発電に関する技術開発を行うことを検討していた。検討の結果、X 社は、現時点では性能もコストもシリコン系xx電池に劣るものの、変換効率が高く将来的にはコスト面でも優位となることが期待される新型xx電池(有機系xx電池の一種。以下単に「新型xx電池」という。)の事業化を目指した研究開発に注力することを決定し、特に、基盤技術の 1 つである変換効率と耐久性を両立する最適な材料の組成を目指すこととした。
2. X 社は、最適な材料組成を検討するにあたり、マテリアルズ・インフォマティクス(機械学習を含む情報科学技術を用いて効率的に材料開発を行う手法をいう。)を活用すべきだと考えたが、同社は同手法についての経験・xxxxが乏しかった。そのため、X 社は、同手法に強みを持つ外部のパートナーとアライアンスを組んで研究開発を進めていく必要があると考えた。
3. そこで、X 社は、素材分野におけるマテリアルズ・インフォマティクスを注力分野の 1つとする Y 大学の A 教授にコンタクトをとり、変換効率と耐久性を両立する最適な材料の組成を目指して、Y 大学と共同研究開発に取り組むこととした。なお、今回の共同研究開発に取り組むにあたって、Y 大学には権利処理の必要な特許xxの権利は存在しなかった。
4. X 社として、Y 大学との取り組みで目指していることは以下のとおりである。
① 早期の事業化はできずとも良いが、共同研究開発が時間と費用をかけてダラダラと進んでいくことは回避したい。そのため、大学が共同研究開発を積極的に進めるインセンティブを設定したい。ただし、事業化ができるか否かも不透明な段階なので、インセンティブを設定するにしても、事業化した後の事業の収益に連動させるような報酬体系は採用できない。
② 研究期間や工数は正確には見通せないことは理解するが、大学に支払う対価が青天井にならないように、何らかの上限は定めたい。
③ 成果物に関する知的財産権は、共有による弊害を回避するべく、遅くとも事業化が現実的になった段階では自社に単独帰属させたい。
④ 技術力をアピールするために、共同研究開発やその成果を利用した製品を公表するにあたり、Y 大学の名称を使用したい。
5. 他方、Y 大学として、X 社との取り組みで目指していることは以下のとおりである。
① 学内でも先進的な研究をリードする研究者である A 教授を、学内の研究活動ではなく、X 社との共同研究開発に従事させる分、「知」への価値付けとして、相応の対価は欲しい。事業化が不透明な段階であるので、共同研究開発の成否やその後の事業化の成否に関わらず一定額の報酬を受け取れる報酬体系にしたい。
② さらに、共同研究開発が成功した場合、X 社は事業で大きな売上や利益を獲得できる可能性を得ることとなる一方、大学は事業の実施主体とはなれず、同売上・利益の恩恵を直接受けることができないため、その点に関する何らかの成功報酬は欲しい。
③ 成果物の知的財産権を X 社に単独帰属させる場合、将来の研究活動の支障にならないよう、Y 大学や関連する研究機関(アカデミア)には権利行使を控えてほしい。
④ 共同研究開発を推進するにあたって必要な経費(直接経費・間接経費・戦略的産学連携経費1等)はすべて X 社に負担してほしい。
1 戦略的産学連携費の意義については、「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン 【追補版】」
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxxx_xxxx/000000_xxxxxxxxx_xxxxxx_x0.xxx)22 頁以降を参照されたい。
目次
前文 4
1 条(目的) 5
2 条(定義) 7
3 条(役割分担) 9
4 条(スケジュールの作成) 10
5 条(報酬) 12
6 条(経費負担) 16
7 条(情報の開示) 19
8 条(知的財産xxの帰属および成果物の利用) 20
9 条(名称使用) 27
10 条(公表) 27
11 条(第三者との間の紛争) 29
12 条(秘密保持義務) 30
13 条(権利義務譲渡の禁止) 33
14 条(解除) 33
15 条(期間) 34
16 条(存続条項) 35
17 条(損害賠償) 35
18 条(通知) 36
19 条(準拠法および紛争解決手続き) 36
20 条(協議解決) 38
前文
X 社(以下「甲」という。)と Y 大学(以下「乙」という。)は、第 1 条で定め
る研究開発を共同で実施することについて、以下のとおり合意したので、共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。
<ポイント>
本モデル契約は、事業会社が大学と共同研究開発を行うにあたって締結する契約である。
<解説>
大学等のアカデミア(以下本解説において単に「大学」という。)と共同研究開発を行う場合、事業会社と共同研究開発を行う場合とは異なり、以下の点に留意する必要がある。
① 大学は企業と異なり、大学単独で発明を事業化することが想定されていないこと
(この点は、8 条の解説で述べる不実施補償の議論とも関連する。)。
② 大学が企業と共同研究開発を行う主たる動機は、共同研究開発を通じて実社会の現場での技術課題や問題に触れて、大学の研究活動を活性化させることおよび研究費を企業から得ることにあること
③ 大学職員による研究成果については、学会発表の時期や内容に対する配慮が必要となること
想定シーンのような事業会社と大学との共同研究開発契約においては、成果物に関する権利帰属および利用関係の整理、研究開発費用や成果物に関する知的財産権の出願費用等の費用負担、不実施補償の取扱い等が主たる争点となるところ、上記の留意点を踏まえつつ、交渉していく必要がある。
また、大学と事業会社間で複数の共同研究開発の実施が見込まれる場合、包括連携契約が締結される場合がある。
個別の共同研究契約ごとに、「知」への価値付けを踏まえた契約交渉を実施すると、交渉に伴う負担が大きくなるおそれがあるが、包括連携契約にて一括で実施する形であれば交渉コストを下げ得る点がメリットである。
また、包括連携契約のメリットとして、大学内の他の研究者のつながりが形成されることも挙げられる。すなわち、各研究プロジェクトの報告会を開催することが、取り組
んでいる研究テーマの大学内の他の研究者への広報の役割を果たしうるということである。
さらに、包括連携契約を締結する場合、大学が、各共同研究開発に係る実務面での交渉や調整をすぐに実施・相談できる専任の産学連携本部の担当者を用意する場合が多い。このような体制が構築されることにより、迅速に複数の共同研究開発を進めることができるというメリットがある。
なお、共同研究開発において、大学の技術力や研究者の共同研究開発への従事等に対し、「知」への価値付けとして、一定の対価を支払うことが必要である(後述の 6条)
1 条(目的)
第 1 条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。
記
本研究のテーマ・目的:乙が保有するマテリアルズ・インフォマティクスに関する技術(以下「本件技術」という。)を活用した、新型xx電池に用いる、
変換効率と耐久性を両立する最適な材料の研究・開発
<ポイント>
共同研究開発(本研究)のテーマおよび目的に関する規定である。
<解説>
共同研究開発のテーマ
共同研究開発のテーマの記載の抽象度
共同研究開発のテーマは、抽象的に規定し過ぎると双方の認識に齟齬が生じやすい。一方、具体的に規定し過ぎると拡張や変更の度に契約修正の必要が生じる。
そこで、ある程度の幅を持たせつつ抽象的過ぎず、かつ、具体的過ぎない記載とすることも考えられる。
他方で、大学・事業会社間の共同研究開発に関する本モデル契約においては、想定するシーンがまだビジネスモデルや製品の仕様等も定まっていない段階であり、目指していくゴールも共同研究開発の過程で試行錯誤しながら具体化していく段階であるため、「乙が開発した技術(以下「本件技術」という。)の改良・深化」として、抽象的な記載に留めた。
本モデル契約書においては、想定シーンが、同じくビジネスモデルや製品の仕様等も定まっていない段階ではあるものの、大学が保有するマテリアルズ・インフォマティクスに関する技術を活用すること(手段)および同手段を用いて新型xx電池における最適な材料組成を検討するという明確な目標があるため、やや具体的な記載とした。
共同研究開発のテーマの広狭
共同研究開発のテーマの定義は、知的財産xxの取扱い等に影響する。
例えば、共同研究開発のテーマの定義が広すぎると、自社固有の研究成果(知的財産xx)が共同研究開発(本研究)の成果と解釈され、本モデル契約に従って知的財産権の帰属や成果物の利用関係が規律される(双方が活用可能なものとなる)リスクがある。
他方、共同開発のテーマの定義が狭すぎると、実際は共同研究の成果であるにもかかわらず、本モデル契約書の枠外とされてしまい、当該成果に関して勝手に特許出願をされてしまうまたは本来禁止したい範囲の競業行為を規制できない等の弊害を生じる可能性がある。さらに、研究のスコープがピボットするたびに、本モデル契約の範囲から逸脱してしまい、再交渉を余儀なくされるリスクもある。
上記の留意点を踏まえ、共同研究開発のテーマが具体的に定まってきた段階で、共同研究開発のテーマを、xxxず狭すぎない実態に即したものに修正するこ とも考えられる。
共同研究開発の目的
共同研究開発の目的は、両当事者の秘密保持義務の内容および範囲を画するものとしても重要である。
秘密保持義務条項では、両当事者は共同研究開発の目的以外の目的で秘密情報を使用してはならないとの条件が設けられることが一般的である(本モデル契約では 12 条 3 項)。
秘密保持義務の内容および範囲を確定する際に、本条で定める共同研究開発の目的が参照されることになる。
2 条(定義)
第 2 条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。
① バックグラウンド情報
本契約締結日に各当事者が所有しており、本契約締結後 30 日以内に、当該当事者が他の当事者に対して書面で、その概要が特定された、本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見、データおよびノウハウ等の技術情報を意味する。
② 本単独発明
特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で各当事者が、相手方から提供された情報に依拠せずに独自に創作した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果を意味する(本プログラム発明を除く。)。
③ 本プログラム発明
特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で開発または取得した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果であって、最適な組成の発見を可能とするプログラムに関する発明を意味する。
④ 本発明
特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で開発または取得した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果であって、本単独発明および本プログラム発明以外のもの(本件技術による解析の結果発見された材料および素材の組成に関する発明を含むが、これらに限らない。)を意味する。
<ポイント>
本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。
<解説>
バックグラウンド情報(本条①)
共同開発を始めるにあたり、最も重要な事柄の一つがバックグラウンド情報(共同研究開発契約締結時にすでに保有していた技術情報)の管理である。
この管理を怠ると、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に新たに生じた情報が混在することにより、バックグラウンド情報であることの主張立証が困難となり、各情報に関する知的財産権の帰属が曖昧になってしまう。
そうなると、本来単独の特許として出願できたはずのバックグラウンド情報が、共同研究開発上の成果物とされてしまい、共有特許や相手方の単独特許となってしまうリスク(コンタミネーションリスク)が生じる。
このリスクを極小化するため、本モデル契約では、共同研究開発の開始時点において既に各自が保有しているバックグラウンド情報をリストにして開示・交換することとしている。その他、以下のような管理を行うことも考えられる。
(i) 特許出願になじむ技術情報(例:ノウハウ・データ・ソースコード以外のもの)については特許出願をしておく。
(ii) (i)以外の技術情報については、公証制度やタイムスタンプサービスの利用により、共同開発契約締結時に既に保有していたという証拠化を図る。
また、相手方による必要以上の技術情報の開示要求リスクを回避するため、本条ではバックグラウンド情報を当該当事者が「必要とみなす」ものとの定義し、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できることとしている。
このように、(i)開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できるようにしておくこと、(ii)開示したバックグラウンド情報の相手方における扱い(例:秘密保持義務、目的外使用禁止義務、特許出願禁止義務等)を定めておくことが重要である(本モデル契約では第 12 条第 1 項の「秘密情報」の定義にバックグラウンド情報を含めることでこの点に対処している。)。
「本単独発明」、「本発明」および「本プログラム発明」(本条②③④)
本モデル契約では第 8 条において、「本単独発明」に関する知的財産権は当該発明を創出した者に帰属し、「本発明」については大学と事業会社の共有とし、「本プログラム発明」については大学に単独帰属する旨規定しているため、「本単独発明」、「本発明」と「本プログラム発明」の区別は極めて重要である。
3 条(役割分担)
第 3 条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。
① 甲の担当:材料候補の選定に要するデータの提供乙が選定した材料候補の評価
② 乙の担当:本件技術を活用した最適な材料候補の選定
<ポイント>
両当事者の役割分担(担当業務)を定めた規定である。
共同研究開発契約は、基本的にはそれぞれの役割分担(担当業務)の範囲内で、誠実に研究開発を行い、その成果を報告し合う義務を相互に負う、準委任契約であるという考えが有力である。役割分担を研究実態に沿って明記することで、それぞれの当事者が行うべき義務の範囲が明確になる。
なお、共同研究開発契約は、請負ではないので、契約中に特記事項がない限り、一定の成果を求められることはない。
<解説>
役割分担の範囲の考え方
役割分担は、双方の認識の齟齬を回避すべく、当事者間で認識のすり合わせをしておく必要がある。これを怠ると、ある役割については双方ともに全く着手がなされていないということになりかねない。
もっとも、共同研究開発が未実施あるいは開始直後の段階では詳細な役割分担を決めることが困難である。また、共同研究開発の進行に伴って発生する新たな役割
(作業)が不明であることからも、詳細な役割分担を定めることは困難であろう。
そのような場合においても、本条のように、役割分担の大きな枠組みについてだけでも規定しておくことが望ましい。双方が合意した「枠組み」があれば、後に役割分担の詳細を協議する際もスムーズだからである。
4 条(スケジュールの作成)
第 4 条 甲および乙は、本契約締結後速やかに、前条に定める役割分担に従い、本研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、両社協議の上これを決定する。
2 甲および乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を逐次相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を
行うものとする。
<ポイント>
共同研究開発(本研究)の具体的内容として、スケジュールの定め方を規定する条項である。
<解説>
どのようなタイミングで両者が協議し、具体的なスケジュールや研究テーマ等をどのように確定し、どのように本研究遂行中の問題を解決していくかを決めておくことが重要である。
本条では、本モデル契約の締結後速やかにスケジュールを定めることとなっているが、契約締結時に詳細なスケジュールを定めることは困難である場合も多い。そのような場合は、契約締結時に大まかなスケジュールだけでも定めておき、研究開発の進行に応じ、その都度スケジュールを具体的なものにアップデートしていくことが望ましい。なお、契約締結後に、スケジュール等を協議する場として協議会を設定することがあり、かかる場合には以下のオプション条項を導入することも考えられる。 なお、研究プロジェクトの規模や状況に応じて、進捗管理や各種調整等を行う人材
(主に大学等に所属するリサーチ・アドミニストレータ―(URA)や産学連携部署等に所属するコーディネーター等)を参画させることも効果的な場合がある。その場合、
契約前段階から背景事情、人的関係も含めて、関係構築をしておくことが望ましい
(関与度に応じて直接経費・間接経費で費用計上することも考えられる。)。
【オプション条項:協議会の設置】
第●条 甲および乙は、本研究の効率化および甲乙間の合意形成を容易にするため、甲乙各々から選ばれた委員からなる協議会を設ける。
2 甲および乙は、自らが選任した協議会の委員の変更・追加・削減を行う場合は、その変更・追加・削減に関わる委員の名前と共にその旨を相手方当事者に連絡する。
3 協議会での決定は、全委員の合意により行われる。協議会において全委員の合意が得られず決定ができなかった問題は、甲および乙の最高責任者間の協議により決められる。
4 協議会は、次の事項について決定を行う。
(1)本研究の具体的な遂行方法
(2)各当事者への担当業務の進捗状況
(3)本研究の遂行方法またはスケジュールの変更
(4)本研究が事業化した際の当事者の権利
(5)本研究の内容変更または中止
(6)その他協議会が定める事項
5 甲および乙は、本契約の目的を達成するために、別途定める頻度で定期的に、協議会を開催して、甲および乙が行う本研究の成果の報告を受けると共に、前項に挙げられた事項について協議決定する。さらに、甲および乙は、甲または乙が必要と認める場合は協議会を随時開催するものとする。
6 協議会の議事は、その都度、議事録その他の書面により合意する。
<ポイント>
当事者同士の協業を円滑にするために、情報交換や進捗方法の調整を行うための会議の開催について定める規定である。
3 項の最高責任者間の協議にてどうしてもまとまらず、協議会として決定できない(デッドロックになる)場合の処理も定めておくことも考えられる。もっとも、決定できない事項が本モデル契約を継続する上で必須のものであるならば、最終的には「本契約
を継続し難い重大な事由」(14 条 1 項④号)にあたるとして、本モデル契約を解除することになろう。
<解説>
オープンイノベーションにあたっては、学術的な価値を追求するべく丁寧に時間をかけて研究開発を進めたい大学のスピード感と、事業化に向けて完成までの期間や費用対効果を意識する事業会社のスピード感が合わず、アライアンスがうまくいかないケースが少なくない。
この課題を解決するために、協議会への出席者について、本研究について一定の決裁権をもったメンバーを入れることを義務化することも考えられる。
5 条(報酬)
第 5 x xは、乙に対し、本研究への取り組みの対価として、●万円を支払うものとする。
2 本研究の結果、以下に定める変換効率と耐久性を両立する材料が発見された場合、甲は、乙に対し、前項に定める報酬に加えて、●万円を支払うものとする。
変換効率:●
耐久性 :●
<ポイント>
1 項は、本研究において大学の人員・知見の提供を受けることに関する対価を定める条項である。
2 項は、成功報酬について定めるものであり、大学が本研究にコミットするインセンティブを高めることが狙いである。
<解説>
大学が共同研究開発における報酬をどのように考えているか、という点は、企業におけるそれと異なる点があるため、まず大学の考え方を紹介する。大学においては、共同研究開発における「報酬」について、従来、コスト積み上げ方式と呼ばれる手法によってその金額を算出していた。具体的には、共同研究開発に要すると見込まれ
る直接経費に、間接経費(直接経費×一定率)を加算した金額が「報酬」であるとして、予想外の直接費用が生じた場合には、別途経費の規定(本モデル契約では 6 条
1 項)でその負担等について定める、といった方式によるものとされていた。
本モデル契約においてもこの考え方を尊重し、本条に基づく報酬の金額は、契約締結時点で予想される共同研究開発に要する直接経費(後述の施設利用料を除く。)は全てこの「報酬」で賄えることは前提とした上で、コスト積み上げ方式において間接経費として扱われていた部分の金額について、文部科学省・経済産業省「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」および同追補版、FAQ 等
( xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxxx_xxxx/xxxxxxxxx.xxxx) でも採用される「知への価値付け」という観点を踏まえ、従前のコスト積み上げ方式で算出される金額を少なくとも超えるような金額が設定されることを想定している(「知への価値付け」の意義および考え方については後述のコラムを参照されたい。)。
以上を踏まえ、本件での報酬額の設定について検討する。第 1 項の報酬額の算定方法について、本想定シーンのように、事業化の成否も見えない段階での共同研究開発においては、成果を活用した事業からの収益をベースに報酬額を定めることは困難である。そこで、研究に従事する研究者の時間単価(タイムチャージレート)を設定し、これに契約期間に従事するであろう時間を乗じた額とすることが考えられる。 また、契約締結後において、A教授が自らの研究活動に集中し、本研究にリソースを割かないといった事態を防止するために、大学が本研究にリソースを割くインセンティブを設定することが有用である。第 2 項では、一定のスペックを満たす材料を発見した際に成功報酬を支払うとすることで、かかるインセンティブの設定を試みている。成功報酬を定める際は、成功報酬の発生条件(成功の定義)を明確にしておくことが重要である。本件の場合、「変換効率と耐久性を両立する材料」だけでは、いかなる場合に「両立する」といえるのかが不明確であるため、達成すべき変換効率と耐久性の性能を具体的に特定している。
成功報酬の算定方法についても、本モデル契約のように固定額で定める他、研究に従事する研究者の稼働時間に応じて設定する方法が考えられる。もっとも、契約締結時点では研究者が本研究のために従事する時間を予測することが困難であるため、報酬が青天井になるリスクがある。対処法としては、大学における業務管理上、当該研究に割くことができるエフォートには上限があるため、エフォート上限範囲内
に相当する報酬の支払額を設けておくことなどが考えられよう。なお、大学によっては、支払い上限額が設けられている場合もあるが、「知」への価値付けという観点からは、不当に安価な上限額が設定されることにならないよう、大学とは十分に協議しておくことが肝要である。
なお、「知」への価値付けを行うには、個人としての「研究者の価値」と、結果として得られる「研究成果の価値」、これらの価値を高める「研究マネジメントの価値」に大別することができるが、本案では、共同研究への関与時間に対する報酬(タイムチャージ)を料金に計上する場合を想定し、以下のオプション案を採用することも考えられる。
詳細については、文部科学省・経済産業省「産学官連携による共同研究強化のための ガ イ ド ラ イ ン 」 お よ び 同 追 補 版 、 FAQ 等 を
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxxx_xxxx/xxxxxxxxx.xxxx)参照されたい。
【変更オプション条項:タイムチャージ方式】
甲は、乙に対し、本研究への取り組みの対価として、以下の計算式で算出する金額を支払うものとする。
【●教授が本研究に従事した時間】×●万円/時間
【コラム】大学との共同研究における報酬について~知への価値付け~
大学等、特に国立大学法人においては、実務上の慣習に基づき、コストの積算という考えに基づいた共同研究費の算定が行われている。
もっとも、あらかじめ企業側の予算が決まっていたり、研究に費やされる知識や時間を大学から企業に適切に提示できていなかったりする場合には、結果的に大学等にとっては低廉な料金で合意されることが多く、本来必要なコストの積み上げも十分に行えていないという声もある。
この問題に対処するためには、産学官連携を通じた価値創造を行うにあたり、まずもって、大学等の「知」に対してきちんと社会的な価値付け(値付け)を行うというマインドが重要である。大学等にとっては、財務基盤を強固にすることに加え、自身が有する研究の価値に対する投資をうけるという意識付けがなされることを通じて、企業に
対してより責任ある対応を行い、研究成果の社会還元を一層強力に進める誘因が働くことになる。
共同研究における報酬には、直接経費・間接経費を積算したものの他、今後の産学官連携活動の発展に向けた将来への投資や、そうした活動に伴うリスクの補完のための経費(戦略的産学連携経費)も含まれよう。戦略的産学連携経費としては、例えば、大学・国立研究開発法人の産学官連携機能強化のため企画・提案関連経費や知財マネジメント関連経費、インフラ整備経費、広報関連経費等が考えられる。
詳細については、文部科学省・経済産業省「産学官連携による共同研究強化のための ガ イ ド ラ イ ン 」 お よ び 同 追 補 版 、 FAQ 等 を
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxxx_xxxx/xxxxxxxxx.xxxx)参照されたい。
【コラム】医療分野における「知」への価値付け
共同研究開発契約においては、研究の「価値」を考慮した項目(「知」への価値付け)を上乗せすることが重要であるが、ここでは、医療分野における論点を取り上げてみたい。
医療分野では、大学と企業が共同で新たな知的財産を生み出す主な活動として、共同研究開発のほか、臨床開発(特に治験)が重要な意味を持つ。前者の共同研究開発については、他業界と同様に、新たな研究成果(特許、xxxx等)を生み出すことを目的としているが、治験については、その目的が臨床試験データの収集となる。このうち、臨床試験データに対する対価の考え方が論点となっている。具体的には、臨床試験データの価値は、データ取得にかかる実費(研究費)の支払いや治験薬の提供をもって対価と考えている企業が多く存在するが、大学が生み出した付加価値を対価に組み込む必要があるのではないかという点である。
大学の付加価値対象事例としては、①(医学専門領域の見地から)依頼する研究者のみが策定できるであろう適切な治験計画の策定や実施、②企業単独で実施する場合と比較した治験に係る低コスト化、③適切な被験者の選定・リクルートや、希少な症例に該当する被験者へのアクセスの容易性、④単なるデータではなく周辺知見・知識などを含む著作物としての成果(総括報告書)の提供等が考えられる。これら①~④は企業のみでは得難い価値であるから、データ取得の実費のみならず、①
~④で得られる市場価値等から判断した適正な対価を大学へ還元すべきとの議論である。
現状では、ARO2等において、臨床試験データの対価の算定について議論が進み始めている段階であり、ARO 協議会において医師主導治験に関する契約ひな形も公開している。
大学によっては、研究者の価値(関与時間に対する報酬・人件費や知的貢献への評価等)や研究成果の価値に対する付加価値相当額の上乗せや、直接経費に対する付加価値率の上乗せ等のプラクティスが実践され始めているが、企業側に理解を得られないケースも多い。
大学は、臨床試験実施に対するクオリティを十分に担保すると同時に、大学が提供する「価値」(代替が効かない、競争力があるなど)を明示化し、場合によってはそれに必要な具体的なリソース(人件費)やインフラ等を項目として洗い出し、相手企業に対して説明し理解を得ようとする姿勢が大事である。
企業側も、同等の内容を社内実施した場合の必要経費等を鑑みるなど、その大学が提供する「価値」を適切に評価し、企業と大学の双方の得意領域を認識し一体的に研究開発を目指すことが大事である。
6 条(経費負担)
第 6 条 本研究を行うにあたって生じた経費(間接経費および次項で定める利用料等を除く。)のうち、本契約締結時点で想定されなかったものについては、書面によって別途合意されない限り、甲の書面による承諾を得ることを条件に、甲が全て負担する。ただし、甲は、本研究に必要であると合理的に考えられる経費については、不当に承諾を拒否しないものとする。
2 本研究を行うにあたって乙の施設・設備を利用する場合、甲は、乙に対し、別
紙●に定める利用料を支払うものとする。
<ポイント>
本研究に必要な経費を誰が負担するかを定める条項である。
2 ARO:Academic Research Organization の略。研究機関や医療機関等を有する大学等がその機能を活用して、医薬品開発等を含め、臨床研究・非臨床研究を支援する組織
(出所:国立研究開発法人日本医療研究開発機構)
経費については、直接経費および間接経費等のそれぞれの扱いが問題となる。基本的な考え方については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・大学発ベンチャー)」の「【コラム】共同研究における対価の考え方」を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(大学・大学発ベンチャー)
URL : xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxx-xxxxxxxxxx-
portal/index.html
施設利用料を除く直接経費のうち、契約締結時に想定されるものについては、5 条の報酬の算定にあたって考慮済みであることについては、5 条の解説において述べたとおりである。
また、いわゆる間接経費等を本条の経費に含めてしまうと、次条に定める報酬の中で研究者の人件費等において、事業会社側の二重負担が発生するおそれがあるため、本条の経費には間接経費を含まず、直接経費のみとした。
また、大学・事業会社間の共同研究開発の事案において、大学の施設・設備の利用料を定めない場合、大学と共同研究開発契約を締結すれば、事実上大学の研究施設等を無償で利用できるといった事態に陥りかねない。このような事態を回避するべく、直接経費のうち、大学の施設の利用料金については、個別具体的に施設・設備を特定し、それぞれの利用料金を予め定めておくことが合理的であろう(モデル契約とは異なり、別途施設利用契約を締結することも考えられる。)。
大学によっては、利用料金を定めている(有償の)施設・設備とそうではないものが混在していることが少なくないと思われるが、価値ある物を使用させる以上は原則として対価を取る、という観点から、有償の範囲および価格を(類似事例等も参照しながら)設定し、適切な対価を漏れなく回収するという姿勢が重要となろう。
具体的には、購入金額の高低や運用コストを基に単価を設定する場合は、比較的少額なものの利用については、大学としても管理コストの観点から、個別に請求(徴収)することが難しい場合も想定される。しかしながら、機器・設備利用には(研究者の意識の有無とは別に)一定のコストが発生している。そのため、予め利用が見込まれる相当額を、設備・機器利用料等として計上することや間接経費に上乗せするといった整理も考えられる。
なお、共同研究開発の実施場所、研究・開発担当者、購入した施設・設備の所有xxが契約終了後どちらの当事者に帰属するかについての規定を定めることも考えられる。
<解説>
研究開発の経費をめぐる交渉
大学との共同研究開発の場合、大学が共同研究開発の結果生じる成果物を活かした事業の実施主体にならないこと、それゆえ事業からの収益に依らずに研究開発の費用を大学外から調達する必要性が高いこと等の理由から、本条のように、共同研究開発の費用は事業会社が負担するということも珍しくはない。但し、本条では、本研究が時間と費用をかけてダラダラと進んでいくことを回避したいという事業会社の希望を踏まえ、費用負担については事業会社の承諾を要することとしている。この承諾のプロセスにより、不要な費用および作業の発生を相当程度防ぐことが期待できる。もっとも、事業会社が不合理に経費を承諾しないことで本研究が滞っては本末転倒であるから、合理的に必要であると考えられる経費については承諾すべきことを但書で定めている。
経費をどちらが負担するかという点は、後述する成果物の利用関係(特に事業会社の独占実施を認めるか否か)、不実施補償の支払の有無および内容等の交渉等と密接に関連している、ということに留意されたい。
そのため、これらの各項目をそれぞれ独立して交渉するのではなく、相互に関連する項目として意識して交渉することが重要となる。
【コラム】5 条(報酬)と 6 条(経費負担)の関係性
本モデル契約書では、5 条および 6 条において、「知」への価値付けを踏まえた対価を設定している。
6 条 1 項では直接経費を経費負担の対象としているが、これは 5 条で規定した報酬の算定時には想定していなかった経費が発生した場合に、その経費を負担することを指している。また、6 条 2 項では利用料の支払いを定めているが、これは報酬または 6 条 1 項の経費とは別に利用料の支払いが生じることを指している。
一方、5 条で規定している報酬は、解説に記載したとおり、研究に従事する研究者の時間単価に契約期間に従事するであろう時間を乗じた額等を想定したものである。算出された金額は当然ながら当初想定の直接経費よりも大きな金額となり、少なくとも直接経費分については企業側が負担することを前提としている。
5 条と 6 条の関係性の観点では、当初想定の直接経費も含んだ対価については 5
条に規定されており、その後に発生する対価については 6 条で規定されている点に留意されたい。
【変更オプション条項:各自負担】
甲および乙は、本研究を行うにあたって自己に生じた経費を、書面によって別途合
意しない限り、甲乙各自が負担しなければならない。
7 条(情報の開示)
第 7 条 甲および乙は、本契約締結後 30 日以内に、各自のバックグラウンド情報(もしくはその概要)を書面で相手方に開示し、特定しなければならない。
2 甲および乙は、本契約の有効期間中、自己が担当する業務から得られた技術情
報を速やかに相手方当事者に開示する。ただし、第三者との契約により当該開示を禁止されているものについては、この限りではない。
<ポイント>
両当事者がバックグラウンド情報と各自の担当業務から得られた技術的情報を相手方に開示する規定である。
<解説>
バックグラウンド情報のうち、特許出願等に馴染むものについては、コンタミ防止の観点から、相手方に開示する前に特許出願等を済ませておくことが望ましい。
ただし、特許出願等を済ませていたとしても、特許出願等の内容が公開前の場合は、相手方に開示するかどうかを慎重に判断する必要がある。
また、バックグラウンド情報は、「本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見
…」であるから、これに該当しない情報、つまり、本研究に関連しない情報や本研究に必要でない情報まで開示しないように注意する必要がある。
なお、一部のノウハウ等が文章化されていない場合(特定の技術者の頭の中にしかない場合)には、本条 1 項に基づきバックグラウンド情報をリストにして開示させることにより、ノウハウ等の文章化を図ることができる(可視化することができる)というメリットもある。
8 条(知的財産xxの帰属および成果物の利用)
第 8 条 本単独発明にかかる知的財産権は、その発明等をなした当事者に帰属するものとする。甲は乙に対し、甲の単独発明の実施をすることを、また、乙は甲に対し、乙の単独発明を実施することを、それぞれの知的財産権の権利存続期間満了までの間、許諾する。実施許諾の具体的な条件は、別途協議の上定めるものとする。
2 本発明にかかる知的財産権は、甲乙の共有とする。共有持分の割合は、本発明の創出にあたっての寄与度に応じて決定するものとする。ただし、甲は、乙に対し、甲乙別途協議の上定める金額を支払うことにより、乙の共有持分の全部を買い取ることができるものとする。
3 本プログラム発明にかかる知的財産権は、乙に帰属するものとし、乙は、本プログラム発明にかかる知的財産権の権利存続期間満了までの間、甲に対し、本プログラム発明を無償で実施すること許諾する。
4 甲が単独または乙と共同して本発明にかかる知的財産権を取得するべく、出願等(知的財産権の取得、維持および保全をいう。)を行うときは、当該出願等の費用は甲が負担するものとする。
5 乙は、本発明にかかる知的財産権の権利存続期間満了までの間、本発明を自ら実施せず、また、甲以外の第三者に対し、本発明の実施許諾を行わないものとする。ただし、甲が正当な理由なく●年間本発明を実施しなかった場合にはこの限りではない。
6 甲は、乙の事前の承諾を得ることなく、第三者へ本発明の実施許諾を行うことができるものとする。この場合、甲は、乙に対し、当該第三者への許諾により得られたライセンス料の●%(以下「乙ライセンス報酬」という。)を支払うものとする。ただし、本条 2 項ただし書に基づき、甲が乙の共有持分を買い取った場合には、同支払義務は発生しないものとする。
7 甲は、乙に対し、乙ライセンス報酬の算定のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の本発明の第三者への実施許諾の状況(許諾先、許諾条件その他ライセンス料の計算に必要な情報を含む。)を当該期間の末日から 15 日以内に書面で報告するとともに、同 30 日以内に当該期間に発生した乙ライセンス報酬を、乙の指定する銀行口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙が負担する。
8 前項の支払いが遅延した場合の遅延損害金は年 14.6%とする。
9 甲は、乙を含む学術または研究機関による、研究・開発・教育のいずれかの目的による本発明の実施について、本発明にかかる知的財産権を行使しないものとする。
10 甲および乙は、本研究の遂行の過程で発明等を取得した場合は、速やかに相手方にその旨を通知しなければならない。相手方に通知した発明が本単独発明または本プログラム発明に該当すると考える当事者は、相手方に対して、その旨を理由とともに通知するものとする。
11 甲および乙は、相手方の同意なくして、相手方から開示等を受けた技術情報
(バックグラウンド情報を含む。)およびサンプル、本研究の遂行の過程で相手方が創作した本単独発明、考案またはその他の相手方が取得した技術情報もしくはノウハウについて、日本を含めたいかなる国にも特許、実用新案、商標、著作権またはその他のいかなる知的財産権も出願または登録してはならず、いずれかの当事者がこれに違反した場合は、その違反した当事者に当該出願または登録に関する権利またはその持分を無償で譲渡すべき旨を請求することができる。
12 甲および乙は、本発明に改良、改善等がなされた場合、その旨を相手方に対して速やかに通知した上で、本条の定めを適用して当該改良、改善等に係る成果を取り扱うものとする。
<ポイント>
本共同開発に関わる知的財産xxの帰属や成果物の利用について定めた規定である。
本モデル契約では、両者の利益の最大化を目指すべく、以下の点に留意した。
① 最適な組成の発見を可能とするプログラムについては、同発明の創出にあたっての大学の寄与が大きく、また、マテリアルズ・インフォマティクスに関する十分な知見がない事業会社が保有する実質的な意味がないと考え、大学に単独帰属させ、事業会社には無償の非独占的通常実施権を設定することとした(大学から第三者へのライセンスの制限も特段設けていない。)。
② 他方で、本件技術による解析の結果発見された材料および素材の組成に関する発明については、事業会社の事業における必要性が高く、事業会社の寄与も見込まれることから、事業会社にも権利を認めるべきであると考えた。ただし、事業化できるかどうかも不透明な段階であるため、この段階で事業会社の単独帰属にこだわる必要はないと考え、事業会社・大学との共有とした上で、事業会社が望めば、大学の持分を事業会社が購入できることとした。このようなスキームとすることで、大学も、技術による解析の結果発見された材料および素材の組成に関する発明について、より良い本件発明を創出させるインセンティブが発生することとなる(良い発明を創出できれば持分を事業会社に売却することができる)ため、事業会社・大学の双方の利益になるものと見込んでいる。
③ また、事業化できた場合には、事業会社単独で完結する事業ではない(他の要素技術等を有する会社との連携が不可欠となる)ことを踏まえ、事業会社が大学の事前の同意がなくとも第三者に「本発明」の実施許諾を行うことができるようにした。
<解説>
知的財産権の帰属の考え方
知的財産権の帰属の決定方法は、
①誰が発明したかを問わず、いずれかの当事者に単独帰属させる、 ②全て当事者間の共有、
③当該知的財産等を発明した当事者に帰属、 ④当事者間で都度協議、
に大別できるが、事業との関係が深い本発明については、創出された発明の最大活用の観点から、事業会社に(一部または全部を)帰属させることが望ましい(共有とする場合には、事業会社が大学の事前の同意なく第三者にライセンスできることを
事前に合意しておくべきである。)。
また、以前は、大学の公的な性格等に鑑み(特に国立大学法人の場合)、研究成果に係る知的財産権を一私企業に独占させることが困難な場合があると大学から主張されるケースも散見された。しかし、近時においては、大学自身が事業を実施できないことを踏まえた上で双方の利害調整がなされれば、事業会社への知的財産権の単独帰属を認めるケースも珍しいことではなくなってきた。
そこで、本モデル契約においては、事業との関係性が乏しい本プログラム発明については大学に単独帰属させ、事業との関係性が強い本発明については、研究成果に係る知的財産権を大学と事業会社の共有とした上で、事業会社が大学の共有持分を買い取ることができるとする権利を付与することとした。なお、この手法によることで、本発明について、大学がより良い発明を創出させるインセンティブが発生することに期待している。知的財産権を共有とする場合の留意点については、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)」第 7 条の解説を参照されたい。
モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)
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成果の利用についての考え方
事業との関係性が強い本発明については、上述の理由から共有とするものの、研究費用を負担する事業会社に先行投資回収の機会を与える必要がある(事業実施主体である事業会社に収益・利益が生まれなければ、大学も同事業から得られる分配額が小さくなる(分配については後述する。))。そこで、X 社の排他的な利用を確保するべく、大学の実施および大学から第三者へのライセンスを禁止することが考えられる(本条 5 項本文)。なお、当該排他的な利用期間について、十分な期間が確保できていなければ、先行投資分の回収の計画が立てられないおそれがある。そこで、本モデル契約においては、「本発明にかかる知的財産権の権利存続期間満了までの間」との期間を設定した。
ただし、大学としても、特定の事業会社に独占を許したものの、当該事業会社が研究成果を活用しないことにより研究成果が塩漬けになってしまうことは、研究の発展や研究成果の活用を通じた研究開発費用の回収などの観点から、望ましくない。そ
のため、本モデル契約においては、一定期間事業会社が本発明を正当な理由なく実施しない場合には、大学は自己実施や第三者へのライセンスが可能となるようにしている(本条 5 項ただし書)。
第三者へのライセンス
成果物にかかる知的財産権が共有となる場合、特許権を例にとると、共有持分権者が第三者に通常実施権を許諾する場合には、他の共有持分権者の承諾が必要となる(特許法 73 条 3 項)。
他方で、本件の新型xxx発電の事業は、X 社単独で完結するものではなく、X社としては、事業戦略上、他社とのアライアンスの方法等について選択肢を残すため、本発明に関する特許権について、迅速かつ自由度高く第三者にライセンスアウトしていく必要がある。
そこで、事業会社が、大学の事前の承諾なく、自由に第三者へのライセンスを行えるようにすることが望ましい(本条 6 項)。
他方、事業会社による本発明の排他的利用を認めるために第三者へのライセンスや自己実施を控えている大学との関係では、第三者へのライセンス収入を事業会社のみが得られるとすることは、不xxとなる。そこで、第三者から得られたライセンス収入を大学・事業会社間で分配することが望ましいといえよう(本条 6 項)。ただし、事業会社が大学の本発明に関する共有持分を買い取った場合、買取価格の算定において、将来における見込分配額も考慮に入れることを前提に、共有持分を買い取り後は分配義務が消滅することとした(本条 6 項ただし書)。
アカデミアへの権利不行使
大学が特定の事業会社に成果物の排他的な利用を許すことへの懸念の 1 つには、そのことにより研究や教育活動に支障が生じることをおそれることが考えられる。
特許法 69 条 1 項においては、「試験又は研究」のためにする実施については特許権の効力が及ばないとしているものの、「試験又は研究」の意義等、解釈の余地が残ることから、契約において上記大学の懸念を払しょくするための条項を設けることも有用といえよう。
具体的には、事業会社からアカデミアによる研究や教育等の目的による本発明の実施については権利行使をしないこととしている(本条 9 項)。
不実施補償
大学と企業間の契約では、大学が、自ら事業を実施することが想定されないことを理由に、企業に対して、「不実施補償」なるものを求めることが少なくない。
不実施補償とは、大学と企業との間で共同研究開発を行って成果物に関する特許権が共有となった場合、両者ともに共有持分権者として各々相手方の同意なく実施できるところ(特許法 73 条 2 項)、大学がそもそも商業的自己実施を行わない機関であり、共同研究開発の成果を第三者へのライセンス以外に実質的な収入源がないという不利な立場を補償するものとして大学が企業に対してその支払を求めるものがその典型である。企業に独占実施を認める場合には、大学の収入源は事実上当該企業を通じた収益のみとなるため、求められる補償の程度は、大学から第三者へのライセンスを認める非独占時よりも高いものとなる。
また、不実施補償について、合意により企業の独占実施を認める際に、共有者である大学が「本来実施できたにもかかわらず、合意により自己実施をする権利を放棄する」ことの対価(いわば不実施とすることへの補償)として、支払われているものとする理解もある3。
これらの理解によれば、企業に独占実施が認められない場合には、大学には自己実施を行う権利が留保されることとなるため、不実施補償を支払うべき実質的理由はない。
ところが、企業に独占実施が認められない場合であっても、不実施補償の名目で、例えば、特許権取得の実費等に相当する金員の支払が要求される場合が少なからず存在する。しかし、それは不実施補償の本来の趣旨からは離れたものであり、株主に対して各種支出について説明責任を負う事業会社としても、社内での稟議にかける際に、決裁が通りづらくなってしまう。大学としては、不実施補償名目ではなく、
3 同様の考えによると思われるものとして、産総研が共有特許について、企業側に独占実施を認めない場合には不実施補償は請求せず、企業に独占実施を認める場合に限り、「独占実施料」を請求する旨表明している例がある
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxx_x/xxxx/xxxxxxxx/xx00000000.xxxx)。
実態に則した(そして支払根拠等を明確にできる)名目で請求することが望ましい。大学としても、適正な対価を得られれば、その名目にこだわる必要はないはずであり、不実施補償をめぐる無用な混乱を生じさせないことは、両者にとって望ましい運用といえよう4。
例えば、共同研究開発に至る前の大学の保有する技術を活用することへの対価として、成果物の利用関係について事業会社に独占実施を認めるか否かを問わず、何らかの支払いを求める場合がある。このような場合、かかる保有技術に価値があるのであれば、不実施補償としての対価ではなく、当該技術を特定した上で、これに対するライセンス料として支払う整理が考えられる(例えば、「モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材))第 7 条 2 項参照。)。
モデル契約書_共同研究開発契約書(新素材)
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また、大学のブランドを利用することを理由に対価の支払いを求められる場合がある。この場合においても、例えば「●●大学」の名称使用の許諾に対する対価として整理することが望ましいであろう。
本モデル契約においては、上記の懸念も考慮し、不実施補償としての対価は発生させず、代わりに、事業会社から大学に一定の報酬(成功報酬を含む。)を支払い(6条)、成果物に関する権利帰属を共有としつつも(8 条 2 項)、出願費用および研究開発費用の全てを事業会社が負担することとした(8 条 4 項)。
なお、交渉が難航する場合に、「別途協議により定める」ことがある。しかし、性質上、契約締結時点では定められないものは別論、定めることが可能であるのに合意が難 しいから「別途協議」とするのは、議論の先送りに過ぎないことは銘記する必要がある。また、先送りにした結果、結局は交渉力の強弱で決まったり、協議が成立しない方が得となる当事者が協議を成立させないというリスクが生じうる点にも留意が必要である。したがって、可能な限り、契約締結時点で議論を尽くして合意に至ることを目指すべきであり、「別途協議」という先送りを安易に選択することは避けるべきである。
4 例えば、電気通信大学は、企業が不実施補償を嫌うことに配慮し、不実施補償の支払いは不要としつつも、共有となる特許の取得費用や維持管理費用を企業のみが負担するという形で調整している(xxxx://xxx.xx.xxx.xx.xx/xxx/xxxxxx/xxxxxxxxxxx.xxxx#00)。
9 条(名称使用)
第 9 条 乙は、甲に対し、乙の名称、略称、マーク、エンブレム、ロゴタイプ、標章、乙の本研究担当者等の氏名等(以下「乙名称等」という。)を甲の製品の広告の目的その他の営利目的に使用することを許諾する。
2 甲は、前項の許諾に基づき乙名称等を使用する場合、以下の各号に定める事項遵守するものとする。
(1) 乙の信用・ブランド等を毀損する態様で乙名称等を使用しないこと
(2) 乙名称等について、乙の事前の書面による承諾なく商標出願を行わないこと
<ポイント>
大学の名称等についての使用許諾について定めた規定である。
<解説>
新規事業に取り組む事業会社としては、新たな事業に優れた技術を使用していることをアピールするために、例えば「●●大学との共同研究開発により創出した技術を採用」等、大学の名称等を使用することによりブランディングを図ることが有益な場合が少なくない。
そこで、本モデル契約においては、大学の名称等の使用を許諾する条項を入れている(本条 1 項)。本条では、事業会社の製品全般について大学名称等の使用を許諾しているが、本研究にかかる成果を利用した製品に限定して大学名称等の使
用を許諾することも考えられる。
他方、大学としては、大学の信用等を棄損する態様で大学の名称等を使用されては困るという懸念もあるため、事業会社による大学の名称等の使用にあたっての遵守事項も併せて定めることとした(本条 2 項)。なお、大学として、大学の名称等の使用についてのガイドラインを保有している場合においては、当該ガイドラインをリファーして遵守事項を定めることも考えられよう。
10 条(公表)
第 10 条 甲および乙は、相手方の事前の同意を得ることなく、本研究開始の事
実として、別紙●●に定める内容を開示、発表または公開することができる。
2 甲および乙は、本研究にかかる成果の公表(以下「本公表」という。)を行う場合は、その内容および時期について事前に協議し、相手方の合意を得なければならない。
3 前条の定めに関わらず、乙は、その学術的使命を果たすため、本研究期間中および本研究終了日から 6 ヶ月以内に行われる本公表については、以下の各号に規定する事項を遵守することを条件に行うことができるものとする。
①本公表にあたっては第 12 条(秘密保持義務)を遵守すること
②甲に対し、本公表の予定日の 30 日前までに、その内容を通知すること
③甲が本発表の内容に第 12 条(秘密保持義務)に規定される秘密情報等が含まれていると判断したときまたは甲が本研究に関して特許出願を行うに際してその準備期間を要すると判断したときは、甲は、当該通知後 15 日以内に、乙に対し、当該部分につき合理的な範囲で内容修正または本公表の延期を求めるこ
とができ、この場合、乙は、甲と協議の上対応すること
<ポイント>
共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。
<解説>
まず、共同研究開発を開始した事実については、契約締結の時点で具体的な公表内容を合意し、それを記載した別紙を契約書に添付しておくことが望ましい。
共同研究開発の成果の公表については、大学との共同研究開発特有の事情に留意する必要がある。すなわち、事業会社としては、共同研究開発の成果に関して、当該成果を自社事業の成長に効果的に活用するべく、慎重に出願戦略を検討したいという要望がある。
他方、大学は学術研究のために共同研究開発に取り組んでいるという側面があり、当該研究成果を学会や学術論文等で迅速に発表したいという要望があり、研究者が学術発表の準備ばかりに注力している場合や、その発表時期次第では、学術発表用の論文を下書きに出願書類を作成せざるを得ず、十分な出願戦略を検討することができなかったという事案も散見される。
しかし、当然のことながら、学術発表の観点から優れた論文と、出願戦略の観点から優れた特許明細書は異なるものである。そのため、当該論文がいかに学術的に優
れているか等大学の研究者に対して十分な配慮をしたうえで、事業成長のためのツールたる特許としては価値がなくならないように注意する必要がある。
そこで、事業会社が出願戦略を検討する時間を確保するべく、学術発表を行うにあたっては、その内容を発表の 30 日以上前に通知することとし、その内容次第では、特許出願の準備のために発表内容の変更や発表時期の延期を求めるについて協議できるものとした。
11 条(第三者との間の紛争)
第 11 条 本研究に起因して、第三者との間で権利侵害(知的財産権侵害を含む。)および製造物責任その他の紛争が生じたときは、甲および乙は協力して処理解決を図るものとする。
2 甲および乙は、第三者との間で前項に定める紛争を認識した場合には速やかに他方に通知するものとする。
3 第 1 項の紛争処理に要する費用の負担は以下のとおりとする。
① 紛争の原因が、専ら一方当事者に起因し、他方当事者に過失が認められない場合は当該一方当事者の負担とする。
② 紛争が当事者双方の過失に基づくときは、その程度により負担割合を定める。
③ 上記各号のいずれにも該当しない場合、甲乙協議のxxx負担割合を定める。
<ポイント>
研究開発時に起こりうる第三者との主なトラブルは、知的財産xxの権利の侵害または製造物責任に関するものである。本条はこのようなトラブルが発生した場合の両当事者の責任と費用負担について定めた規定である。
<解説>
開発委託の場合には、開発者側に、成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことの表明保証を求める場合も少なくないが、本件は両当事者の知見を合わせて成果物の創出に向けて取り組む共同研究開発であるから、第三者の知的財産権の侵害が発覚した場合には、両者協力して処理解決することとし、紛争を認識した場合は他方に速やかに通知することとしている。
責任と費用は、紛争の原因がある当事者の負担とし、当事者双方の過失による場合には過失の度合いにより協議の上負担する旨規定している。
12 条(秘密保持義務)
第 12 条 甲および乙は、本研究の遂行のため(以下「本目的」という。)、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法および媒体を問わず、また、本契約締結の前後にかかわらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物、本研究のテーマ、本研究の内容および本研究によって得られた情報(別紙●●に列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者
(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならない。
2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報等に該当しない。
① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの
② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由xxxxに公知となったもの
③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの
④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの
⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得しまたは創出したもの
3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本目的のために合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。
4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。
5 受領者は、秘密情報等を、本目的のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に
基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。
6 本条第 1 項および同条第 3 項ないし第 5 項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができる。
① 法令の定めに基づき開示等すべき場合
② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合
③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合
7 本研究が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他の有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。
8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。
9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。
10 本条の規定は、本契約が終了した日からさらに 5 年間有効に存続するものとする。
<ポイント>
相手から開示提供等を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。
<解説>
従前に締結した秘密保持条項との関係整理
秘密保持契約やPoC 契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。
共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条 9 項)。
共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。
秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否)
秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、本モデル契約では、様々な情報、データ、素材等がやりとりされることが多い共同研究開発段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクが大きいと考え、秘密である旨の特定を要さない前者を採用している。
他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、
「秘密を指定」する条文を採用すればよい。
なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。
モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)
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秘密情報の定義(秘密情報に有体物を含めるか否か)
共同研究開発では、無体物である情報やデータに加え、有体物である素材それ自体がやり取りされることが多いところ、この素材は、当事者にとっては秘密情報と同
様の重要性を持つものである。そこで、本モデル契約では、素材を含む有体物をも保護することとし、有体物を含む保護の対象全体を「秘密情報等」と整理している。 また、本モデル契約では、秘密情報等に「別紙●●に列挙のもの・・・を含む」という文言を入れることで、特に秘密情報等として保護すべきものが(別紙●●に列挙することで)秘密情報等の範囲から漏れることを防止できる立て付けにしている。
さらに、本モデル契約では、「本契約締結の前後にかかわらず」の文言を入れることで、締結前の秘密情報も保護の対象となることを明らかにしている。
13 条(権利義務譲渡の禁止)
第 13 条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させまたは本契約から生じる権利義務の全部もし
くは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、もしくは担保に供してはならない。
<ポイント>
第 14 条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。
① 本契約の条項について重大な違反を犯した場合
② 支払いの停止があった場合または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部ま
たは一部を解除することができる。
権利義務の譲渡禁止を定めた一般的条項である。 14 条(解除)
<ポイント>
契約解除に関する一般的な規定である。
<解説>
【コラム】契約解除時における対価の返還の必要性有無について
契約解除時に、事業会社と大学間で争点となるポイントの一つに、契約締結から解除までの期間に購入された施設・設備の費用について、解除時点までに対価の支払が行われている場合、当該施設・設備の費用を返却する必要があるのか否かという点が挙げられる。
この点については、契約解除時の返金の対象となりうる金額のボリューム感、(手続的な問題も含めた)返金の可否等を踏まえ、協議の上、合意によりその取扱いを明らかにしておくことが望ましい(特に、返金が困難という場合には、他の契約条件の調整もしつつ、不返還の合意を目指して協議することが考えられる。)。また、関連して、経費や報酬の支払い方法(年払いまたは月払い等)を検討する際にも上記観点を踏まえることが重要である。
15 条(期間)
第 15 条 本契約の有効期限は本契約締結日から 1 年間とする。本契約は、当初
期間や更新期間の満了する 60 日前までにいずれかの当事者が更新しない旨を
書面で通知しない限り、さらに 1 年間、同条件で自動的に更新される。
2 乙は、本研究が技術的に見て成功する可能性が低いと合理的に判断されるまたは事業環境が変化し本研究の事業化が困難であると合理的に判断される等の合理的理由がない限り、前項に定める更新を拒絶することができない。
<ポイント>
契約の有効期間を定めた一般的条項である。
<解説>
共同研究開発契約の有効期間は、「1 年間」などの具体的な期間を定めるケースや開発の進捗を終了条件として定めるケースなどがあるが、いずれのケースにおいても契約の終了時期が明確に分かることが重要である。
本条 2 項は、大学が更新を拒絶できる場合を、本研究の成功や事業化が困難と判断されるような合理的理由がある場合に限定している。本研究の費用は原則として
事業会社(X 社)が負担することとなっているところ、当該費用負担が徒に無駄なものとされないよう、大学からの合理性のない更新拒絶を防止する趣旨である。
このような「合理的理由」は、様々なものが考えられるため契約締結時点でxx的に定めることは困難である。もっとも、研究テーマによっては更新拒絶を可能とすべき具体的な数値基準を定めることもできよう。当事者間のトラブルを避ける観点からは、可能であれば、そのような具体的な基準を定めておく方が望ましい。
他方で、大学が更新後に更新期間に対応する報酬なしに共同研究開発に従事させられるのではないかという懸念を有することもあるが、本条第 1 項のように「通知しな
い限り、さらに 1 年間、同条件で自動的に更新される」場合、更新期間についても、更新前の期間に対応するものとは別に、5 条に基づき報酬支払を求めることができると合理的に解釈できるため、かかる懸念はあたらないであろう。ただし、更新後は共同研究開発へ従事する条件(工数や報酬等)を変更することを考えている場合には、同条件の更新とするとこれを実現することができないため、更新後の条件について予め定めるかまたは別途協議とすることも考えられる。
16 条(存続条項)
第 16 条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第 8 条(知的財産xxの帰属および成果物の利用)ないし第 10 条(公表)、第 11 条(第三者との間の紛争)、第 17 条(損害賠償)、第 18 条(通知)、第 19 条(準拠法お
よび紛争解決手続き)および第 20 条(協議解決)の定めは有効に存続する。
<ポイント>
第 17 条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の停止または
予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。
契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 17 条(損害賠償)
<ポイント>
契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。
<解説>
損害賠償責任の範囲・金額・請求期間は、本研究の内容やコストの負担等を考慮して当事者間の合意により決められる。
本研究は、損害立証が困難な秘密情報を取り扱うものであり、かつ、収益性が不明確な研究開発段階の契約であることから、本条では、損害賠償請求だけでなく違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。
18 条(通知)
第 18 条 本契約に基づく他の当事者に対する通知は、本契約に別段の規定がない限り、すべて、他方当事者に書面または各種記録媒体(半導体記録媒体、光記録媒体および磁気記録媒体を含むが、これらに限らない。)を直接交付し、郵便を送付しまたは他方当事者が予め了承する電子メールもしくはメッセージ
ングアプリを利用して電磁的記録を送信することにより行うものとする。
<ポイント>
本モデル契約における通知方法の原則を定めた規定である。書面だけでなく USB メモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としている。
19 条(準拠法および紛争解決手続き)
第 19 条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判
所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
<ポイント>
準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。
<解説>
クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。
紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、調停や仲裁によるとする場合がある。
また、事業会社と大学の所在地が遠く離れる場合もあり、当事者間のxx性を保つという観点から、「被告の所在地を管轄する地方裁判所」とする案も考えられる。
【変更オプション 1:知財調停】
第 19 条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。
2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
3 第 1 項に定める紛争を除く本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法
とし、第 1 項に定める地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
<解説>
紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。
「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。
運用面では、原則として、3 回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。
知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。
知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。
【変更オプション 2:仲裁】
本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲
裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。
<ポイント>
紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。
<解説>
仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。
20 条(協議解決)
第 20 条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、xxx
xに協議の上解決する。