①賃金の支払に関して特に注意を要する項目は、支払5原則のうち、全額支払の例外が認められていることです。その例外とは、a法令による控除(賃金から所得税、健康保険 料、厚生年金保険料等を控除すること)、b労使協定による控除の2点です。 bについては、寮費・給食費、社内預金、親睦旅行積立金及び親睦会費、社内売店の購入費等の 控除に関して、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合(労働組合がない場合は事業場の過半数の労働者を代表とする者)との間に書面での「賃金控除協定」がある場合に 控除することができます。
【雇止めの理由の明示例】
・前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
・契約締結当時から更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係るものであるため
・担当していた業務が終了・中止したため
・事業縮小のため
・業務遂行能力が十分でないと認められるため
・職務命令に違反する行為をしたこと、無断欠勤をしたこと等勤務不良のため等
※雇止め後に労働者から請求された場合も同様です。
(4)契約期間についての配慮
使用者は、契約を1回以上更新し、1年以上継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態およびその労働者の希望に応じて、契約期間をできるだけ長くするように努めなければなりません。
(5)労働条件の明示(労基法第15条)
使用者が労働者を採用するときは、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません。労働条件のうち特に賃金に関する事項等5項目については書面で明示しなければなりません。
【書面の交付による明示事項】
①労働契約の期間
②就業の場所・従事する業務の内容
③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
➃賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
【口頭の明示でもよい事項】
①昇給に関する事項
②退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項
③臨時に支払われる賃金・賞与などに関する事項
➃労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
⑤安全衛生に関する事項
⑥職業訓練に関する事項
⑦災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
⑧表彰、制裁に関する事項
⑨休職に関する事項
(注)就業規則に当該労働者に適用される条件が具体的に規定されている限り、契約締結時に労働者一人一人に対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。
[参考]
労働条件通知書について(平成11年2月19日基発81号) 37ページのように労働条件の明示は、法では書面によるもの5項目と口頭の明示でも
よい9項目とに分かれていますが、この双方をあわせて41・42ページのような「労働条件通知書」を作成し、雇い入れの際、労働者に交付するよう強く行政指導が行われています。
なお、常時10名以上の従業員を使用している事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられていますが、従業員との雇用契約の際は労働条件通知書の交付にあわせて就業規則で呈示または配付して就業規則の内容の周知を図ることも必要です。
また雇用契約書を交わす事業場もありますが、雇用契約書の内容に上記の労働条件通知書の内容も盛り込む方法もあります。(一つですむため)
(6)賠償予定の禁止(労基法第16条)
従業員の労働契約の不履行を防止するため、不履行の場合の違約金を定めたり損害賠償を予定する契約を結んではなりません。
(例)ア 途中でやめたら違約金を払え
イ 会社に損害を与えたら○○円を支払え
ただしあらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することは禁止されていません。
(7)前借金相殺の禁止
使用者は、前借金その他の、労働をすることを条件とする前借りの債権と賃金を相殺することは禁止されています。
ただし従業員が使用者から人的信用に基づいて受ける金融・生活資金など明らかに身分的拘束を受けないものは本条の債権に該当せず、賃金から控除できますが、労使の協定書作成は必要です。
(8)強制貯金の禁止(労基法第18条)
使用者は労働契約を結ぶ際、貯金の契約(社内預金)をさせたり、または貯蓄金を管理する(例、貯金通帳を預かる等)契約をしてはなりません。
使用者は従業員の貯蓄金をその委託(自由意思)を受けて管理しようとする場合は、従業員の過半数を代表する者と社内預金の管理に関する書面協定を結び、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
(9)採用時の健康診断の実施(労働安全衛生法第66条)
使用者は、常時使用する従業員を雇い入れるときは、次の項目について医師による健康診断を行うことが義務づけられています。
(1)既往歴及び業務歴の調査 (6)貧血の検査
(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査 (7)肝臓の検査
(3)身長・体重・視力・聴力の検査 (8)コレステロールの検査
(4)胸部エックス線検査 (9)血糖検査
(5)血圧の測定 (10)尿中の糖及び蛋白の検査
これらの検査結果は健康診断個人票に記録しておく必要があります。
3)その他、雇用契約時の留意事項
(1)労働者名簿等人事関係書類の取扱いについて(昭和50年労働省労働基準局長、同婦人少年局長連盟通達、昭和54年労働省労働基準局監督課長通達)
ア 満18歳未満の年少者は年齢証明書の備え付けが必要とされているが、「住民票記載事項証明書」を備えれば足りること
イ 労働者名簿の記載事項のうち履歴については、労働者の提出した履歴書その他労働者本人の申告による履歴を記入すれば足りること
ウ 戸籍謄(抄)本及び住民票の写しは、画一的に提出又は提示を求めないようにし、それが必要になった時点(たとえば冠婚葬祭等に際して慶弔金等が支給されるような場合で、その事実の確認を要する等)でその具体的必要に応じ、本人に対し、その使用目的を十分説明したうえで提出を求め、確認後速やかに本人に返却すること
エ 就業規則等において、一般的に採用時、慶弔見舞金支給時等に戸籍謄(抄)本、住民票の写し等の提出を求め、確認後速やかに本人に返却すること
オ 採用決定・入社後において、家族の職業、収入、家族状況等家族に関する状況を画一的に報告、提出させる例があるが、本人の配置、給与等の面において必要がある場合のほかは報告・提出を求めないこと
・なお家族手当その他の給付金の支給、勤務場所の決定、緊急時の連絡等のため必要がある場合には、その使用目的を十分説明のうえ、その必要事項について報告を求めること。なおその記録の保管に適正を期すること。
(2)身元保証、身元引受契約
従業員と使用者は労働の提供と賃金の支払という相関関係であり、使用者は従業員に対し誠実に勤務することを要求します。そのことから従業員を採用する際に身元保証書の提出を求める事業場が多く、就業規則にその旨規定しています。根拠は「身元保証ニ関スル法律」です。同法第1条は「被用者ノ行為ニヨリ使用者ノ受ケタル損害ノ賠償ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ三年間xx効力ヲ有ス…」を規定しています。期間を定めていないときは3年、期間を定めたときは5年間が最長期間です。
なお、すべての事業場が従業員の採用時に身元保証契約を結ぶ必要はなく、各事業場の独自の方針に基づいて自由に判断すればよい、としています。
(3)試用期間の設定と本人への告知
従業員を採用するにあたって、はじめから正社員とせずに、3ヵ月とか6ヵ月とかの期間を試用期間とし、その間本人の能力、性格等を見定めようとする事業場が多い。試用期間の長さについては特に法律では定めてはいませんが、試用期間中の解雇について入社後14日を超えて解雇する場合は、労基法第20条による解雇手当の支払を要する。
試用期間制度を運用する場合、就業規則に規定するのは当然ですが、従業員の採用時には説明、周知しておくことが必要です。
4)雇用後のコンプライアンス
施設の本来的機能を発揮するためには、施設職員が健康で高い意識を持って労働することが最も重要となります。そのためには、労働基準法、労働安全衛生法等に定める法定労働条件を確保し、合法的・効率的な人事管理を実践しなければなりません。ここでは、従業員雇い入れ後の法令遵守(コンプライアンス)項目について、主なものを以下に示します。
(1)賃金
賃金は、定期賃金に関しては通貨払・直接払・全額払・毎月払・一定期日払の支払方法5原則を定めています。使用者が支払を義務づけられるのは、就業規則等に定めた労働基準法上の賃金に限られますので、賃金の定義をまず理解することが重要といえます。
(労働基準法第24条)
①賃金の支払に関して特に注意を要する項目は、支払5原則のうち、全額支払の例外が認められていることです。その例外とは、a法令による控除(賃金から所得税、健康保険料、厚生年金保険料等を控除すること)、b労使協定による控除の2点です。 bについては、寮費・給食費、社内預金、親睦旅行積立金及び親睦会費、社内売店の購入費等の控除に関して、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合(労働組合がない場合は事業場の過半数の労働者を代表とする者)との間に書面での「賃金控除協定」がある場合に控除することができます。
②最低賃金の支払に関しては、平成20年7月1日から最低賃金法が改正となっていますので、特段の注意が必要です。
ア)地域別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合の罰金の上限額が2万円から50万円に引き上げられました。(最低賃金法第4条第1項、第40条)
イ)産業別最低賃金額を下回る賃金を支払った場合については、最低賃金法の罰則が適用されなくなり、労働基準法第24条の賃金の全額払違反の罰則(労働基準法第120条。罰金の上限3万円)が適用されます。
ウ)適用除外規定が見直され、障害により著しく労働能力が低い者、試の使用期間中の者、認定職業訓練を受けている者等に関する適用除外許可規定が廃止され、最低賃金の減額特例許可規定が新設されました。(最低賃金法第7条)
エ)派遣労働者の適用最低賃金は、派遣先の地域(産業)に適用される最低賃金が適用されることとなりました。(最低賃金法第13条、第18条)
オ)最低賃金額の表示が、時間額のみとなります。(最低賃金法第3条)
③割増賃金制度とは、使用者が労働者に時間外労働・休日労働・深夜業のいずれかを行わせた場合において、通常の賃金の25%または35%以上割増をした賃金(平成22年 4月1日から1ヵ月60時間を超える時間外労働については50%の割増賃金の支払が必要。ただし当分の間(3年間)中小企業については猶予されます。(医療、福祉業は資本金5000万円以下、または従業員100人以下))を支払うべきことが法的に義務づけられていることをいいます(労働基準法第37条)。使用者が法定の割増賃金を支払わない場合には、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金の適用を受けることとなりますので、詳細について十分な理解と対応が求められます(労働基準法第119条)。
(2)労働時間
使用者は、1日に8時間、1週間に40時間又は44時間を超えて労働者に労働させてはならないと規定されています。これを法定労働時間といいます(労働基準法第32条、第40条)。介護老人保健施設は、保健衛生業に該当することから、常時10人以上の労働者を使用する施設は、1日8時間・1週間40時間が法定労働時間となります(常時9人以下の労働者を使用する施設は1日8時間、週44時間)。ここでは、時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定)、年次有給休暇の付与について概説します。
①時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)は、使用者が労働者に時間外労働・休日労働を行わせようとする場合において、労働者側との協定を書面により行い、その協定内容を法定様式により時間外労働又は休日労働を行う所轄労働基準監督署長に届け出るべきものと規定されています(労働基準法第36条)。当然この36協定が有効に成立・届出されていれば、時間外労働又は休日労働を行わせた場合の罰則(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)の適用はありません、しかし、その協定の内容を超えた時間外労働又は休日労働を行わせた場合は罰則の適用を受けることになります。
また、協定の効力が及ぶ範囲として、年少者(18歳未満の男女)、妊産婦で使用者に請求した者については、時間外労働及び休日労働が禁じられているので十分に配慮する必要があります(労働基準法第60条、第66条)。
②年次有給休暇とは、使用者が法律の規定に基づいて労働者に与えなければならない有給の(賃金の支払を伴うべき)休暇のことをいいます。この休暇制度は、労働者に週休日以外に継続的な休暇を与えることによって、心身の休養を与え、労働力の保全を期することを目的としている点を認識しておくべきです(労働基準法第39条)。労働者の年次有給休暇を取得することができる法定の要件は「最初は6か月・その後は1年間継続勤務して、全労働日の80%以上出勤すること」となっており、それぞれ取得できる年次有給休暇の日数が定められています。詳細については、各労働局ホームページを参照して適切な運用が求められます。
(参照:xxxx://xxx.xxxxxxxxxxx.xx.xx/xxxxx/xxxxxxxx/xxxxx.xxxx)
(3)女性労働者の保護
女性労働者は、生理的・体力的に男性労働者と異なる特性を有し、女性労働者には主に次のような保護規定が定められています。女性労働者が他の業種と比べてその比重が高い老健施設においては、特に十分な配慮が求められています。
i募集、採用、配置、昇進、教👉訓練、福利厚生、定年、退職、解雇に関する男女雇用機会均等。ii 男女同一賃金、iii 重量物取扱業務・有害物質取扱等の就業制限。iv生理日の休暇。v セクシャルハラスメントへの配慮。vi 妊産婦に対する保護規定。
(4)育児・介護休業
①👉児休業の内容に関する主なポイントは下記のとおりです。
○1歳までの子を養👉する場合に取得できる。
○日雇労働者・期間雇用者等は休業を取得できない。
(1年以上雇用された期間がある等一定の要件があれば取得できる。)
○事業主は、👉児休業の申出を拒むことはできない。
○休業期間の最長は、原則として連続した1年である。
○休業の回数は、子1人につき1回である。
○休業の申出は、書面で1か月前までに行う。
○事業主は、休業の申出又は取得に対して不利益な取扱いをしてはならない。
○小学校就学の始期に達するまでの子を養👉する労働者が請求した場合は、原則として時間外労働・深夜業に従事させてはならない。
②介護休業の内容に関する主なポイントは下記のとおりです。
○要介護状態にある対象家族を介護する場合に取得できる。
○日雇労働者・期間雇用者等は休業を取得できない。
(1年以上雇用された期間がある等一定の要件があれば取得できる。)
○事業主は、介護休業の申出を拒むことはできない。
○介護休業は、対象家族1人につき通算93日までである。
○休業の回数は、家族1人につき1回である。
○休業の申出は、書面で2週間前までに行う。
○事業主は、休業の申出又は取得に対して不利益な取扱いをしてはならない。
○介護をする労働者が請求した場合は、原則として時間外労働・深夜業に従事させてはならない。
詳細について十分に検討し、適切な運用が求められています。
(5)就業規則
就業規則とは、常時10人以上の労働者を使用する事業場の使用者が労働基準法によって作成することを義務づけられているその事業場における賃金、労働時間、退職等の労働条件および職場規律等に関するxxの事業場内の規則です(労働基準法第89条)。作成義務、届出義務、周知義務に違反した場合には、罰則規定があるので、使用者としては、注意が必要です。
①就業規則の作成義務は、前述のとおり事業の種類のいかんを問わず、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対してあり、就業規則を作成しない使用者には、 30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。あわせて、労働者からの意見聴取、内容に関しても十分詳細を確認しておくべきといえます。
②就業規則の届出義務は、作成した就業規則を行政官庁(所轄労働基準監督署長をいう)に届け出なければならないと規定されています(就業規則を変更した場合も同様です)。届出を行わない使用者には、30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。
③就業規則の周知義務は、次のいずれかの方法で労働者に周知させなければならない
と規定されています。周知を行わない使用者には、30万円以下の罰金が適用されます(労働基準法第120条)。
○常時各作業場の見やすい場所に掲示する。
○常時各作業場の見やすい場所に備え付ける。
○書面を労働者に交付する。
○磁気テープ、磁気デスクその他これらに準じるものに記録し、内容を確認できる機器を設置する。
(6)労働災害の防止
労働災害とは、業務に起因して発生する労働者の負傷・疾病・死亡をいいます。健康障害も含まれます。
事業主は、労働災害を防止するために労働安全衛生法に基づいて、安全衛生教👉の実施・健康診断の実施・危険有害業務への有資格者の就労、設備的対策・安全衛生管理者の選任・安全衛生委員会の設置等の措置を講じる法的義務を負っています。
①法定健康診断については、事業主が労働安全衛生法によって実施することを義務づけられています。老健施設における主要な健康診断は、i 雇入れ時の一般健康診断、 ii 定期一般健康診断、iii 結核健康診断、iv 給食従業員の検便、v 深夜業に従事する者の特定健康診断(年2回)、vi 歯科医師による健康診断、vii 有害業務の特殊健康診断、viii 寄宿舎における健康診断となります。この健康診断等を実施しなかった場合には、50万円以下の罰金が適用されます(労働安全衛生法第120条)。
事業主は、健康診断の記録を作成して5年間保存しなければならないと規定されています(労働安全衛生法第66条の3)。
②行政指導基準(腰痛の防止)
腰痛の発生数は、現在の全業種における業務上疾病の発生数の中で最も多く、老健施設においても可能性は高いものといえます。腰痛防止のための行政指導基準(平成6年9月6日)も定められていますので、特段の配慮が必要となります。
(参照:xxxx://xxx.xxxxxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxx/xxxxx_xxxxxx.xxx#xxxxxxx「職場における腰痛予防対策指針」)
(7)労働契約の終了
労働契約は、当事者の死亡、契約期間の満了等の労働契約における修了に関する約定・解雇・自己都合退職・合意解約等の理由によって終了します。各理由によって労働基準法、民法等の法規則の適用が異なり、各理由に関する用語の定義が法令上・実務上確定していないために、解雇等を行う場合就業規則に記載する場合等においては注意が必要になります。ここでは特に解雇権に関する要点を示します。
①解雇権
解雇権とは、使用者が労働契約を解約して労働者との労働契約を解消することができる権利をいいます。ただし、無制限に認められているものではなく、労使間の経済的優劣を考慮して労働者を保護するために、解雇権の制限が存在します。
解雇権の制限のうち、最低限理解しておくべきポイントは、労働契約法の制限だと
いえます。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」(労働契約法第16条)。この規定により、使用者は適法な解雇権を行使する限り、労働者を解雇することができますが、解雇が有効であるためには、法令・判例上の解雇制限に違反しないことおよび労使間の約定(労働契約、就業規則、労働協約等)に定める自主規制に反しないことが必要になります。
(8)雇用保険・社会保険への加入について
労働者を雇用する場合、加入要件を満たせば社会保険(健康保険・厚生年金保険)や 労働保険(労災保険(労働者災害補償保険))・雇用保険)に加入させる必要があります。社会保険や労働保険は、国等が労働者のために運営する強制加入の保険です。保険へ の加入の有無は、各保険の適用の要件に照らして判断します。雇用される人の希望や社内的な身分(臨時社員・パート等)、国籍、性別、給料の多寡等で加入の有無を決める
わけではありません。また、加入の手続き等は、労働者を雇用する事業所が行います。なお、加入の有無の判断は、雇用契約書に定めた契約の内容や仕事を始めた時の条件 だけではなく、その後の就労の実態で判断します。従って、勤務している途中でも各保
険の加入(資格取得)や脱退(資格喪失)をさせることになります。
■ 表1:各保険の給付事由と注意点等
保険の名称 | 給付事由 | 備考 | |
社会保険 | 健康保険 (注1) | 業務や通勤途上以外の事由による病気・ケガ・出産・死亡に対して給付される。 | 加入は75歳まで。75歳以上は在職中でも長寿医療制度(後期高齢者医療制度)に加入 する。 |
介護保険 (注2) | 介護が必要になった被保険者に対して、自立した日常生活をおくるための給付が行われ る。 | 事業所での加入は40~65歳まで。65歳以上は在職中でも、保険料は本人の年金より 徴収される。 | |
厚生年金保険 (注1) | 老齢・障害・死亡に対して被保険者や被保険 者の遺族に対して給付される。 | 加入は、70歳まで。ただし、受給資格がない 場合は、任意加入することも可能。 | |
労働保険 | 雇用保険 (注3) | 失業の際の生活の保障・雇用の安定や継続等に対して給付される。 | 新規加入や保険料徴収は、64歳まで。ただし、加入中に65歳以上になった場合は給付 対象になる。 |
労災保険 | 業務上や通勤途上の病気やケガによる休業・障害・死亡に対して給付される。 | 年齢制限や雇用期間等による加入制限はない。雇用する労働者個々について加入・脱退 の手続きは必要ない。 |
■ 表2:保険加入の目安表 (○=加入、×=加入できない)
正社員 | 非正社員(派遣・パート等) (注3) | 適用除 外 | |||||
就労の見込(①と②は2カ月以上、③は6カ月以上) | |||||||
あり | なし | ||||||
3/4以上 | 3/4未満 | 3/4以上 | 3/4未満 | ||||
① | 健康保険(注1) | ○ | ○ | × | × | × | あり |
② | 厚生年金保険(注1) | ○ | ○ | × | × | × | あり |
③ | 雇用保険(注3) | ○ | ○ | ○(注3) | × | × | あり |
➃ | 労災保険 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | なし |
注1:健康保険や厚生年金保険は、社内的な身分(臨時社員・パート等)に関係なく①勤務時間と②勤務日数が、それぞれ一般の社員の3/4以上あれば加入させるのが妥当とされています。
2:介護保険は、健康保険とセットで加入手続きや保険料の徴収を行います。
3:パートや派遣の雇用保険は、6ヵ月以上就労の見込みがあり、週20時間以上就労することが加入の要件です。また、派遣社員は派遣元で加入します。
以上、雇用後のコンプライアンスの要点を記してきましたが、いずれにしても施設で働く職員の労働条件と勤労意欲も、老健施設の運営にあたり重要な要素であることを理解し、人事管理を考えるべきだと思われます。
(参考文献)
「新版 改正労働基準法の実務知識」(xx社発行)
「介護老人保健施設リスクマネジメント法律顧問シリーズ1 人事・労務」(ぎょうせい発行)
7 退職金・年金制度について
雇用環境の変化、公的年金の支給開始年齢の引き上げ、税制適格退職年金制度の廃止、退職給付会計の導入など退職金をめぐる環境は変化しています。介護人材確保の面からも、退職金制度による雇用環境の充実を図り、長期に安心して働ける環境の整備が不可欠です。
また、キャリアアップシステムにおいて、職員を管理指導する役割を担う管理監督者としてのスキルを習得し、最終的には施設の経営に携わる経営職を含めたキャリアアップを図るうえでも、退職金制度の理解は非常に重要となります。ここでは、退職金制度に関して最低限理解しておくべき事項について示します。
1)退職金制度の意義
「退職金制度があるのは当たり前」といえるほど、退職金制度の普及率は非常に高くなっています。「常用労働者が30人以上の民営企業」では83.9%、常用労働者が30人以上100人未満の小規模の企業でも8割を超える割合となっています(平成20年就労条件総合調査)。
退職金制度は、法律で設立が強制されているわけではありませんが、職員の安心を高め、長期勤続を促進し、モチベーションアップにもつながります。将来の自分の働き方や生活を具体的にイメージできるようにするためにも、退職金制度は、老健施設の一層の発展を考えるうえで必須の条件であり、介護関連事業における雇用管理・待遇改善にとって重要取組課題となっています。
2)退職金制度の設計
退職金制度を用意する場合、自前で作る方法と中小企業退職金共済制度に加入する方法とがあります。自前で作る場合には、自社に合った設計をすることができます。中小企業退職金共済制度への加入は、サービス業では常用従業員数100人以下または資本金5000万円以下の場合に可能です。その制度の詳細は、独立行政法人勤労者退職金共済機構のホームページ
(xxxx://xxxxxxxxx.xxxxxxxxxxx.xx.xx/xxxxx.xxxx)をご覧ください。
自前で作る場合には、どのような制度内容とするのかを考える必要があります。まず、退職金の金額水準ですが、日本経団連・東京経営者協会の2008年9月度調査では、次のようになっています。
出典:「2008年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」
(社)日本経済団体連合会、東京経営者協会
■ 図表2 標準者退職金の支給額および支給月数 -総額-
次に、賃上げ額との関係ですが、退職金の基礎とは無関係となっているのが7割以上となっています。また、そのうち約8割は、ポイント方式(点数×単価)となっています。
退職金を新たに設計する場合はもちろんですが、継続的に運営している場合でも、こうした水準や設計の動向には十分注意する必要があります。
なお、退職金制度を作った場合には、労働基準法(第89条第3の2号)により、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項を就業規則に定める必要があります。
3)企業年金制度
企業年金制度は、そのほとんどが退職金制度(の一部)から切り替えられたものです。退職金制度では、従業員が一度に大量に退職すると、多額の資金が必要になりますので、将来の資金負担に備えるためには、事前に少しずつ資金を準備しておくことが考えられます。また、支払う退職金を分割して少しずつ支払うことが考えられます。どちらも、資金負担の平準化
(平均化)を図るものですが、こうした考え方が企業年金につながっていくことになります。
(1)税制適格退職年金制度
1962年に創設された税制適格退職年金(適格年金)制度は、企業と金融機関が締結する企業年金契約のうち、一定の要件を充足するものについて、掛金を非課税(損金算入可能)にすることを中心とする税制優遇を認めるものです。中小企業にとっても簡便に設立することができ、退職一時金の場合に比べて、計画的な資金準備ができて税法上も有利でしたので、xxに利用されてきました。しかし、21世紀になって、後述の確定給付企業年金制度と確定拠出年金制度が創設されたことにより、歴史的使命を終えたものとして、2012年3月31日をもって廃止されることになっています。このため、適格年金制度を有している場合には、一刻も早く、他の制度に切り替えることを検討する必要があります。
(2)厚生年金基金制度
1965年にスタートした厚生年金基金制度は、母体企業とは独立して設立される特殊法人の厚生年金基金が制度の運営主体であり、基金は公的年金である厚生年金の給付の一部である代行部分と、母体企業の独自の上乗せ給付と合わせて支給する半官半民の性格を持っています。現在、厚生年金基金制度では、中小企業が集まって設立している総合型が主体ですが、運用環境が厳しく、脱退する場合でも基金が解散する場合でも、思わぬ追加費用がかかる懸念があります。基金の財政状況などには、十分に注意を払う必要があるでしょう。
(3)確定給付企業年金制度
2002年4月にスタートした確定給付企業年金制度は、受給権保護を強化した企業年金です。退職金やそれを移行した適格年金に近い構造で、企業が給付を約束する年金です。受給権保護の内容としては、積立義務が明記された点があげられます。また、過去
の加入期間に対する給付を支払えるだけの積立金を保有しているかどうか、積立状態を毎年チェックする仕組みが導入されています。さらに、受託者責任、情報開示なども規定されています。
(4)確定拠出年金制度
2001年10月にスタートした確定拠出年金制度は、企業が給付を約束する給付建て制度ではなく、掛金を約束する掛金建て制度です。基本的な仕組みは、非課税で拠出された掛金を、加入者が自ら運用し、老後に年金として受け取るというものです。制度は、企業が掛金を拠出する企業年金と加入者が掛金を拠出する個人型年金とに分かれています。
■ 給付建て制度と掛金建て制度の構造の違い
給付建て制度)
+ 収益
(予定→変動)
掛金
(変動)
給付 =
(約束)
(掛金建て制度)
= 給付
(変動)
収益
(変動)
掛金 +
(約束)
4)退職金・企業年金改革の選択肢
(1)適格年金制度からの移行問題
退職金制度は、すでに税制優遇措置を失っており、合理的な経営判断としては、掛金を損金扱いにすることのできる企業年金制度に移行することを考えることが、資金準備を計画的に行うことができるだけでなく、従業員の安心につながることにもなります。先に述べたように、適格年金制度は、2012年3月末には廃止されることになってい ます。この「廃止」の意味は、掛金が損金扱いされなくなることだけでなく、適格年金の資産が行き場を失うことになって加入者・年金受給者に分配せざるを得ず、退職所得控除や公的年金等控除を受けることができず大変不利な状況になるものと思われます。廃止期限が刻一刻と近づいているにもかかわらず、2009年3月31日時点で、25,441 件もの適格年金が残っている現状です。企業年金に移行するためには、検討開始から行政の認可・承認まで1年半から2年程度かかることとなりますので、一刻も早い検討が
必要です。
(2)退職金・企業年金の移行の選択肢
移行先の選択肢としては、確定拠出年金、確定給付企業年金、中小企業退職金共済制度などがありますが、退職金・企業年金の改革にあたっては、広い意味での退職金を、賃金と同質の前払いにするのか、後払いにするのかという選択が必要になります。
■ 退職金・企業年金の移行の選択肢
「前払い」には、賃金に振り替えて支給する「賃金としての前払い」と、確定拠出年金制度を導入して「掛金」として前払いする方法があります。中小企業にとっては、 2012年3月末までの期間に限って、中小企業退職金共済(中退共)制度への移行も可能です。
一方、「後払い」の受け皿としては、基本的には確定給付企業年金制度への移行ということになります。
退職金・企業年金の改革を考えるにあたっては、十分な労使合意が欠かせません。雇用状況の悪化の中で、職員の気持ちを理解し、施設の立場も理解してもらうよう労使協議を重ね、施設経営の体質が一段と強化される選択を行うことが必要でしょう。
(3)移行先のメリット・デメリット
移行方法には、それぞれにメリットとデメリット(留意点)とがあります。経営者の立場から、これを比較してみますと、表のようになります。
■ 移行先のメリットと留意点
区分 | 確定給付企業年金 | 確定拠出年金 | 中小企業退職金共済 |
メリット | ○基本的に退職金体系のまま移行可 ○積立不足でも移行可 ○投資教育不要 | ○企業は資産運用リスクを負わない | ○企業は資産運用リスクを負わない ○積立不足でも移行可 ○投資教育不要 |
留意点 | ○企業が資産運用リスクを負う | ○退職金を前払いに変更する必要あり ○積立不足の解消要 ○投資教育必要 | ○退職金を前払いに変更する必要あり ○中小企業のみ可能 |
なお、確定拠出年金制度を共同で運営するものとして、平成21年7月1日に「全老健共済会連合型確定拠出年金制度」が設立されています。これに加入すると、①離転職した場合でも制度に加入している企業・団体同士であれば継続して資産形成が可能となる、②基本的な設計はできているので検討期間を短くすることができ、投資教👉にも対応しやすい、といった利点があります。確定拠出年金制度を検討する場合には、有力な選択肢になるでしょう。
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人材育成システムのモデル例の作成
1)実践型人材養成システム・有期実習型訓練のモデル例
(1)実践型人材養成システムのモデル例
①実践型人材養成システムとは
実践型人材養成システムは、「企業が主体」となり、「新規学卒者」を主たる対象として、「自らの企業における雇用関係の下での実習(OJT)」と、「教👉訓練機関における自社のニーズに即した学習(OFF-JT)」とを組み合わせて行う、実践的な訓練です。
■ 実践型人材養成システム
現場の中核的人材の確保
訓練生と面接し、採用
教育訓練機関との協議
自社で現場の中核的人材を育てたい企業
訓練の実施
認定計画に基づく
厚生労働大臣認定
訓練実施計画の
能力評価の実施
教育訓練機関における学習
(OFF-JT)
企業における雇用関係の下での実習
(OJT)
6ヵ月以上~2年以下
厚生労働大臣の認定を受けます
②認定のための要件
・訓練期間は6ヵ月以上2年以下であること
・総訓練時間は、訓練期間1年あたり850時間以上であること
・総訓練時間に占めるOFF-JTの時間数の割合は、2割以上8割以下であること
・対象者は、新たに雇い入れる15歳以上40歳未満の者であること
・訓練の修了時に客観的かつxxな方法で職業能力を評価すること
③実践型人材養成システムのメリット
a.若者育成に積極的な施設であることのPRが可能となる
厚生労働省の認定を受けると、募集広告等に「認定実践型人材養成システム」と表示することができます。これにより、若者の人材👉成に積極的な企業であることの評価を得て、優れた人材の確保、定着等の効果が期待できます。
b.国の助成制度を活用することにより、訓練にかかる負担を軽減できる
実践型人材養成システムを実施するとともに、一定の手続きを行い、要件を満たした場合に、国の助成制度を活用することができます。
c.施設が求める現場の中核的人材の育成・確保が可能となる
実践型人材養成システムでは、仕事の興味や問題意識を喚起しながら理論面での学習に取り組ませつつ、現場の生きた技能・技術を習得させることにより、実践的かつ体系的な能力を備えた人材の👉成・確保が可能となります。
d.計画的な技能の継承が可能となる
訓練実施計画の策定や教👉訓練機関を通じた介護分野での専門家のアドバイスが得られるので、施設に必要な技能の継承を計画的に行うことができます。
e.介護サービスの質が向上する
就業者のキャリアアップによる技術の向上が、ひいては介護サービスの質の向上を招き、利用者の満足度を高めます。
➃助成金支給額
a.座学等(OFF-JT)による訓練の実施に要した経費の4/5(大企業は2/3)
(教👉訓練機関に支払う入学料および受講料)
b.座学等(OFF-JT)による訓練の実施時間に応じて支払った賃金の4/5
(大企業は2/3)
c.座学等(OFF-JT)による訓練(事業主が自ら運営する訓練に限る)の実施時間に応じて、受講者1人につき1時間800円(受講者1人あたり544,000円を限度)
(中小企業に限る)
d.実習(OJT)による訓練の実施時間に応じて支払った賃金の4/5(大企業は2/3) e.実習(OJT)による訓練の実施時間に応じて、受講者1人につき1時間800円(大
企業は600円)(受講者1人あたり544,000円(大企業は408,000円)を限度) f.登録キャリア・コンサルタント(※)により実施されるxxxx・xxxxxx
xxへの助成
・外部の専門機関等へ委託して実施するもの
中小企業・大企業とも委託費の1/2(1事業所につき50万円が限度)
・企業内に配置して実施するもの 15万円(1事業所に1回限り)
・実施期間中に支払った賃金の1/2(大企業は1/3)
g.訓練修了後、ジョブ・カード様式6号により能力評価を実施
受講者1人あたり4,880円
h.訓練の導入に対する助成(中小企業に限る)
訓練を実施し、1人目の訓練受講者が生じた場合、20万円(1事業所1回に限り)
※「登録キャリア・コンサルタント」とは、ジョブ・カード講習(厚生労働省または厚生労働省により委託を受けた団体(登録団体)によって実施される講習)を受講し、厚生労働省または登録団体に登録されたキャリア・コンサルタントのことをいいます。xxx・xxxは、登録キャリア・コンサルタントが交付します。
(2)有期実習型訓練のモデル例
①有期実習型訓練とは
有期実習型訓練は、企業現場における実習(OJT)と企業ニーズに即した座学等
(OFF-JT)を組み合わせた実践的な訓練です。優秀な人材の確保のため、新たに雇い入れて訓練を実施する場合(基本型)や、すでに雇用している自社内のパート労働者等の非xx労働者に訓練を実施する場合(キャリア・アップ型)に活用できます。
■ 有期実習型訓練
優秀な人材の確保・育成
訓練生の募集、採用
訓練実施計画を作成
優秀な人材の育成・確保を行いたい
訓練の実施
認定計画に基づく
認定
都道府県センターの雇用・能力開発機構
ジョブカードによる能力評価の実施
教育訓練機関における学習
(OFF-JT)
企業における雇用関係の下での実習
(OJT)
3ヵ月超~6ヵ月以下
雇用・能力開発機構都道府県センターの認定
②認定のための要件
・訓練期間は3ヵ月超6ヵ月以下であること
(資格取得のため等特別な場合には1年以内)
・総訓練時間は、訓練期間6ヵ月当たり425時間以上であること
・総訓練時間に占めるOFF-JTの時間数の割合は、2割以上8割以下であること
(訓練修了後に訓練受講者を正社員として雇用(xx雇用)する場合には、総訓練時間に占めるOFF-JTの割合は「1割以上9割以下」)
・訓練の修了時にジョブ・カード様式6(評価シート)による能力評価を実施すること(汎用性のある評価基準を活用するものに限る)。
・OFF-JTの実施主体について、次のいずれかに該当するもの。