本契約における通知事項の原則を定めた規定です。書面以外にUSBメモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メ ールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としています。
利用にあたってのポイント
この書式は初期相談の段階から量産化前の試作までの段階において、スタートアップ企業と設計・製造業者の間で利用することを想定した契約書です。相談を開始してから要求・要件定義を行い試作を進めていく段階では、スタートアップと設計・製造業者で打ち合わせる事項がとても多く、双方の契約内容まで細かな協議する時間がとれないというのが実情でしょう。そこで、協議に入る段階で本契約書を締結することで、貴重な時間を節約しつつ、トラブルを予防あるいはトラブルが発生した時の負担を最小限にして協業を進められるのではないかと思います。
また、契約書は締結できなかった場合でも、発注書などに「本発注書は試作委託標準契約書に従う」といった文言を加えて本契約書と併せて相手に送ることで、トラブル発生時に当事者の問題処理の助けになることもあります。
(目的及び委託業務の内容)
第1条 発注者は、最終製品の顧客訴求力を確認し、要件定義書や仕様書、試作図面等を作成及び改善する目的、または、量産化の観点から試作品及び補助成果物(説明書、量産設備等)を作成及び改善する目的から、本契約の各条項、個別契約及び発注者によって適宜与えられる指示に基づいて、本試作品の開発、設計、製造その他本試作品の試作の過程で必要とされる業務(以下「本試作業務」という。)を受注者に委託し、受注者はこれを受託する。
2 受注者は本試作業務につきxxを旨とし、誠実に履行するものとする。本契約に別段の定めある場合を除き、受注者が善良な管理者としての注意を払って本試作業務を実施した限り債務不履行の責任を負わない。
(ポイント)
この契約の目的が、量産化前の試作段階(要求要件定義、原理試作、量産化試作等)における試作品の「開発・設計」や「試作製造」を行うための委託であることを明確にしています。
(個別契約)
第2条 受注者が開発・設計する本試作品の対象機能、作業人員、作業内容、開発期間、スケジュール、成果物、納期、開発料、支払期日その他開発・設計に必要な条件は、本契約に定めるものを除き、個別契約をもって定める。
2 受注者が製造する本試作品の品名、数量、単価、荷姿、納入期限、納入場所、検収期間、代金支払期日その他製造に必要な条件は、本契約に定めるものを除き、個別契約をもって定める。
3 個別契約は、発注者が受注者に対し、別紙1ないし2の様式を基準とする発注書を発行し、受注者がこれを承諾することにより成立する。
4 本試作品は、本契約あるいは個別契約によって合意した仕様に従うものとする。発注者は受注者との合意により仕様を変更することができる。
(ポイント)
具体的な発注は発注書を使い、発注書に対して受注書などで承諾することなどにより個別契約が発生することとしています。
発注書の書式は「別紙の様式を基準とする」と規定しており、同じような内容であれば別の書式を利用することもありえます。
(知的財産権の帰属)
第3条 本試作業務の遂行過程で生じた特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権、著作権、商標xxの知的財産権(不正競争防止法が定める営業秘密に関する権利を除く。以下総称して「xx的財産権」という。)は、その創作等が発注者または受注者のいずれかの単独で行われた場合には、xx的財産権はそれを行った当事者に帰属し、共同で行われた場合には、発注者及び受注者の共有に帰属するものとする。
2 前項によりxx的財産権が受注者単独に帰属する場合、受注者は、発注者及び発注者の関係会社に対し、無期限に任意の方法で非独占的に実施、使用ないし利用(加工ないし改変を含む)する再許諾可能な権利を無償で許諾し、かつ、これにかかる著作者人格権を行使しないものとする。
3 第1項によりxx的財産権が発注者及び受注者の共有に帰属する場合、各当事者は、互いに相手方の同意なく、第三者への利用許諾を含め、独立してxx的財産権を行使することに同意する。
4 従前から受注者に帰属する知的財産権で、本試作業務の遂行過程で実施、使用ないし利用されているものについては、受注者は、発注者及び発注者の関係会社に対し、本試作品にかかる最終製品の製造及び販売のために、無期限に非独占的に実施、使用ないし利用(加工ないし改変を含む)する再許諾可能な権利を無償で許諾し、かつ、これにかかる著作者人格権を行使しないものとする。但し、発注者は受注者の承諾なくしてかかる知的財産権を利用する権利を第三者に譲渡することはできない。
5 発注者及び受注者は、xx的財産権のうち、特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権及び商標権について出願をしようとするときは、予め相手方にその概要を文書で通知するものとする。
6 両当事者は、協議または個別契約により前5項と異なる合意を行うことができる。
(ポイント)
試作品の開発・設計及び製造の過程で作成される図面等には知的財産権が発生する可能性があるため、その権利帰属などについて定めた規定です。
x条は、創作等を行った当事者に知的財産権が帰属することを原則とし、製造業者に知的財産権が帰属する場合はスタートアップ側がこれを用いて製造ができるように使用許諾する旨規定しています。
但し、製品によっては、すべての知的財産権がスタートアップ側に帰属していることが重要な場合もありうるため、発注書にその旨を定めるチェックボックスを設け、これに製造業者が応じればスタートアップ側にすべての知的財産権が帰属することに変更できる規定となっています。
いずれにしても、知的財産権の帰属は製造業者の対価を決める大きな要素となります。見積りや発注の時点で当事者間に齟齬がないようしっかり確認しておくべき点といえます。
(秘密保持)
第4条 発注者及び受注者は、本契約を通じて知り得た、相手方が開示にあたり、書面・口頭・その他の方法を問わず、秘密情報であることを表明した上で開示した情報(以下「秘密情報」という。)を、厳に秘密として保持し、相手方の書面による事前の承諾なしに第三者に開示、提供、漏えいし、また、秘密情報を本契約に基づく権利の行使または義務の履行以外の目的で使用してはならない。但し、法令上の強制力を伴う開示請求が公的機関よりなされた場合は、その請求に応じる限りにおいて、開示者への速やかな通知を行うことを条件として開示することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報にあたらないものとする。
① 開示の時点で既に被開示者が保有していた情報
② 秘密情報によらず被開示者が独自に生成した情報
③ 開示の時点で公知の情報
④ 開示後に被開示者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
⑤ 正当な権利を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく開示された情報
⑥ 本契約第10条2項(納入)に定める納入時に受注者から発注者に提供された情報
3 被開示者は、本契約の履行のために必要な範囲内に限り、本条第 1 項に基づく秘密保持義務を遵守させることを前提に、自らの役職員または法律上守秘義務を負った自らの弁護士、会計士、税理士等に対して秘密情報を開示することができる。
4 秘密情報の被開示者は、相手方の秘密情報を他の情報と明確に区別して善良な管理者の注意をもって管理・保管しなければならず、適切な管理手段を用いて、自己の営業秘密と同等以上の管理措置を講ずるものとする。
5 本条の義務は、本契約の解除または期間満了に拘らず、個々の情報につき本契約締結後1年間または別途合意する期間中有効とする。
(ポイント)
秘密保持義務に関する一般的規定を定めるとともに、秘密情報の管理措置についても定めています。
本契約を締結する前に、両当事者間で秘密保持契約書を締結している場合も多いと思いますが、両契約に矛盾がない限り重複して契約を締結しても支障はないと思われます。
製造業者が下請け業者を使う場合に、スタートアップ側から預かった図面などの秘密情報を渡す場合も本条により事前の承諾が必要となりますので、製造業者は下請け業者に渡す図面等に秘密情報が入っていないかなどの注意が必要です。
なお、秘密保持期間は原則契約締結後1年としていますが、主として開発・設計を委託する場合については3年程度に延長するなど、発注内容によっては期間変更が望ましいこともあります。
(協働と役割分担)
第5条 受注者が、発注者に対して、本試作業務に合理的に必要な資料及び情報を要求した場合、発注者はこれを提供するものとする。
2 発注者が、受注者に対して、本試作業務及び量産化について技術情報、助言及び指導(以下「本助言等」という。)を要請した場合は、受注者はこれに応じるよう誠実に検討するものとする。但し、本助言等に要する合理的な費用を受注者が事前に要請し、発注者が承諾した場合は、発注者はこれを負担するものとする。
3 発注者は、本件試作業務に基づく受注者の本助言等について、自己の判断によりその採否を決定するものとし、発注者が受注者の本助言等をもとに活動したことによって被った損害その他発注者による判断について、受注者は一切責任を負わないものとする。但し、当該本助言等の誤りについて、受注者に故意または重過失があった場合は、この限りでない。
(ポイント)
試作段階はスタートアップ側と設計・製造業者側の密な打合せが必要であることから、双方に協働を促す条項とするとともに、自己の責任範囲の拡大を恐れるあまり受注者が助言しづらくならないように、助言の採否はスタートアップ側の自己責任を原則とする条項を設けました。
打合せにおいて何らかの問題が発生した時は第7条(合意事項の変更、未確定事項の決定及び中途解約)を活用して解決していくことになります。
(報告及び協議)
第6条 発注者及び受注者は、納品までの間、仕様書、図面、製造方法の決定及び変更、製造の進捗状況、リスクの管理及び報告、発注者及び受注者双方による作業の実施状況、問題点の協議及び解決、その他量産化に向けた工程が円滑に遂行できるよう必要な事項を協議するため、定期的または必要に応じて検討会を開催する。
2 発注者及び受注者は、検討会の議事内容及び結果について議事録を作成する。
(ポイント)
新しい製品の開発においては何かと双方の誤解が生じやすいことから、定期的に協議の場を設け、かつ、議事録で協議結果を確認する条項を設けています。
協議において何らかの問題が発生した時は第7条(合意事項の変更、未確定事項の決定及び中途解約)を活用して解決していくことになります。
(合意事項の変更、未確定事項の決定及び中途解約)
第7条 発注者及び受注者は、両当事者が一旦合意した事項の変更、または、未決定の事項の決定が事後的に必要となる場合があることに鑑み(仕様書、図面、品質水準、試験方法、納入期限、スケジュール、対価等を含むが、これらに限られない。以下総称して「変更等」という。)、一方当事者より変更等についての協議(以下「変更等協議」という。)の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。
2 変更等協議においては、変更等の対象、変更等の可否、変更等による代金及び納入期限に対する影響等を検討し、変更等を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。
3 変更等協議の結果、変更等を行うことが合意された場合には、発注者及び受注者は、変更等の内容が記載された議事録その他の書面により合意する。
4 変更等協議を行っても協議が調わない場合、発注者または受注者は、書面によって相手方に相当期間を定めて通知することにより、本契約を将来に向かって解除することができる。この場合、受注者は当該解除までの作業報告を行うとともに、本契約に基づき開発された成果物(未完成品を含む。)を発注者に納品するものとする。
5 受注者の責に帰すべき事由によらずに合意事項についての変更が必要となった場合において、前項の規定に基づき本契約が解除されたときは、受注者は発注者に対して当該解除までに受注者が負担した合理的費用を請求することができる。
(ポイント)
新しい製品の開発においては様々な変更事項や追加で決定しないといけない事項が発生しますが、限られた時間で製品開発をしないといけないスタートアップにおいてはこれらが決まらないまま時間が経過すること自体がリスクとなります。
そのため、これらの変更・決定プロセスを明確にし、変更・決定ができない場合は契約を解除できるようにし、その場合の清算の規定を設けています。
変更・決定などの合意については、当事者の負担を軽減するため、契約書への記名捺印ではなく、議事録などの書面でよいこととしています。そのため議事録には変更・決定について双方が合意したことを明確に記載した上で、双方の確認を行うことが重要です。
(原材料及び部品の提供)
第8条 発注者は、受注者と協議のうえ、本試作品の製造に使用する原材料、外観デザイン、部品及び半製品(以下総称して「本支給品」という。)を受注者に支給または指定することができる。
2 受注者は、万一本支給品に瑕疵を発見したときは、ただちに瑕疵ある本支給品にかかる作業を中止し、発注者に通知し発注者の指示に従う。
3 発注者は、製造途中で発見することができず、本支給品の隠れた瑕疵が原因で生じた本試作品の損害について、その責を負うものとする。但し、受注者の責に帰す場合はこの限りではない。
4 第1項の場合において、本支給品に起因する可能性がある不具合が発生した場合は、受注者の要請に応じ、発注者はこれを解決するための資料及び情報を可能な限り提供するものとする。
(ポイント)
試作品に不具合が発生した際、スタートアップ側が指定した原材料、外観デザイン、部品、半製品が含まれる場合、この不具合がどの部分を原因とするのかわからないこともあります。そのような場合に双方が協力して原因究明し解決するための条項となっています。
(再委託)
第9条 本契約の自己の義務を履行するため、本試作品の開発・設計を第三者(以下「外注業者」という。)に再委託する必要がある場合、受注者は、発注者の事前の書面による承諾を得るものとする。但し、この場合、受注者は外注業者と書面により契約(以下「再委託契約」という。)を締結し、自己が本契約において負う義務と同様の義務を外注業者に負わせるものとする。受注者は、外注業者の義務違反について責任を負う。
2 発注者は、合理的な理由に基づき、何時でも外注業者に対する前項の承諾を撤回することができる。受注者は、発注者、その親会社、子会社、関連会社、ライセンサー、供給業者について、再委託契約違反に関連する外注業者の請求、訴訟及び損失の危険が及ばないようにし、これらについて補償をするものとする。
(ポイント)
開発・委託業務を外注業者に再委託する場合はスタートアップ側の事前の承諾を必要とする規定です。試作品の製造で下請業者を使う場合は本条では制限されませんが、図面等秘密情報を下請業者に開示する場合は、4条(秘密保持)により事前の承諾が必要となります。
なお、製造の下請自体に事前承諾等の制限を加える場合は、本条の「本試作品の開発・設計」の部分を「本試作品の開発・設計及び製造」と変更することとなります。
(納入)
第10条 本試作品の納入は、個別契約記載の納入期限までに納入場所で行われる。
2 受注者は、本試作品の納入において、個別契約記載の本試作品の納入と共に、本試作品の製造に利用した仕様書、図面、部品の調達に関する情報その他本試作品の製造に必要とされる資料及び情報を提供するものとする。
3 前項にかかわらず、納入期限に本試作品を納入できなかった場合、受注者は直ちに発注者に通知し、可能な手段を用いて直ちに届ける。但し、かかる受注者による措置は、発注者がかかる遅滞により被った損害について受注者に対し請求することを妨げないものとする。
4 発注者及び受注者は、本契約の債務の履行上、納入期限は重要な要素であることを相互に確認し、受注者は納入期限を厳守するものとする。
(ポイント)
試作品はあくまで量産化のために製造するものなので、試作品だけではなくその製造に必要な資料や情報も併せて納品することとしています。時間に制約があるスタートアップにとって納期は非常に重要な要素であるためこれを双方確認する条項(4項)も設けています。
(検収)
第11条 発注者は、受注者が本試作品を納入後、納入した本試作品が合意した数量及び品質に合致しているか否かを遅滞なく検査(以下「検収」という。)するものとし、合格したもののみ受け入れる。発注者は受注者に対し、検収の結果を遅滞なく通知する。
2 受注者は、発注者による検収結果に関し、疑義または異議のあるときは、遅滞なく書面により発注者に申し出て、発注者と協議の上解決するものとする。
3 発注者が、本試作品が納入された日から個別契約で定める検収期間以内に、第2項に定める通知をしない場合には、納入された本試作品は検収に合格したものとみなす。なお、第2項に定める通知が、納入された本試作品の一部についてなされた場合には、その残部について同様とする。
4 本試作品は、第1項に定める検収の合格、または前項の期間が経過した時のいずれかをもって、引渡しがなされたものとする。
(ポイント)
検収の方法を規定した条文です。検収期間は、瑕疵担保責任追求のための通知期間に連動しています(合理的注意を払っても直ちには発見できない瑕疵を除く)。検収期間は発注書で定めることにしています。
(瑕疵担保責任)
第12条 発注者は、本試作品に瑕疵(契約不適合も含む)、その他本試作品の製造に必要とされる資料及び情報の不足等(以下「瑕疵等」という。)を発見した場合(次項に定める瑕疵等を除く)は、発注者は受注者に対し、前条に定める検収の合格までに通知することを要する。
2 発注者は、本試作品に受注者の開発・設計に基づく開発・設計上の瑕疵、その他発注者が合理的注意を払っても直ちには発見できない瑕疵等を発見した場合は、発注者は受注者に対し、瑕疵が発覚した後1年以内に通知することを要する。
3 本試作品に前2項の瑕疵等が発見され、前項の期間内に受注者に通知された場合は、発注者は、受注者に対し、不足品若しくは代品の納入、瑕疵の修補、本試作品の製造に必要とされる資料及び情報の提供または代金の減額を請求することができる。この場合で、個別契約の目的を達成できないときは、発注者は本契約を解除することができる。
4 発注者は、瑕疵等に起因して損害を被った場合には、前項の請求とともにまたはこれに代えて損害賠償を請求することができる。
(ポイント)
瑕疵担保責任(試作品に瑕疵があったときの受注者の責任)については、検収期間中に瑕疵の有無を確認することとし、検収合格までに通知を行わなければならないと規定しています。ただし、開発・設計上の瑕疵、その他発注者が合理的注意を払っても直ちには発見できない瑕疵等については検収期間中に通知を行うことは困難であるため、瑕疵が発覚してから1年内に通知すればよいこととしています。
試作品製造の委託の場合、受注者は仕様書に従って製造を行い保証しますので、仕様書に従っている限り原則として開発・設計上の瑕疵を負うことはありません。
なお、開発・設計の委託において、どのような場合に受注者が開発・設計上の瑕疵についての責任を負うかについては双方で見解の相違が起きやすいところですので、トラブル防止の観点から発注内容等を事前によく吟味しておくことが重要です。
(保証)
第13条 本試作品は、両当事者が本契約第2条4項(個別契約)または第7条3項(合意事項の変更、未確定事項の決定及び中途解約)でその都度合意した仕様書に従うものとする。受注者は、本試作品が仕様書に従っていることのみを保証するものとし、受注者は、その他の使用及び適用にあたっての商業的適合性、あるいは特定目的への適合性に関する保証については、ここで明示的に免責されるものとする。
(ポイント)
受注者の保証の内容及び範囲は、発注書記載の仕様書やその後に変更合意された仕様書で確定されることとしています。
また、本条第2文は、試作品が商品として通常有するような品質・性能を備えているかという点(商業的適合性)や、その他の目的への適合性(例えば試作品が最終製品と同等の耐久性を有するかどうかの検証に利用できるものかなど)という点に関して保証しない、あくまで保証は仕様書の内容に限定されるという条項になっています。
(試作品の所有権、危険負担の移転時期)
第14条 本試作品(発注者が支給した本支給品を除く)の所有権及び危険負担は、検収完了のときに受注者から発注者に移転する。
(ポイント)
試作品の所有権及び危険負担(試作品滅失・毀損時のリスク負担)の移転は検収完了の時点としています。
(対価と支払方法)
第15条 発注者は、個別契約記載の支払期日に従い、受注者が発行する請求書に基づき、受注者に対し本試作業務の対価を受注者の指定する銀行口座に支払うものとする。但し、振込送金に要する費用は発注者の負担とする。本支払日が銀行の休業日にあたるときは、支払日はその後の直近の銀行営業日とする。
(ポイント)
一般的な支払いの規定です。
(第三者との間の紛争)
第16条 本試作品に起因して、第三者との間で知的財産権、権利侵害、製造物責任その他の紛争が生じたときは、発注者は自己の責任と費用負担において処理解決を図るものとする。
2 受注者は、第三者との間で前項に定める紛争を認識した場合には速やかに発注者に通知するものとする。
3 第1項にかかわらず、紛争の原因に受注者の過失が認められる場合は、発注者及び受注者は協力して原因究明と円満、迅速及び合理的な処理解決を図るものとする。この場合における損害賠償等、解決に要した費用の負担は以下の通りとする。
① 本紛争の原因が、専ら受注者に起因し、発注者に過失が認められ得ない場合は受注者の負担とする。
② 本紛争が発注者及び受注者双方の過失に基づくときは、その程度により両者協議のうえ分担額を定める。
(ポイント)
製品開発時及び開発後に起こりうる第三者とのトラブル(知的財産権、権利侵害、製造物責任)については、原則はスタートアップ側の責任と費用で対応すべきとした規定です。但し、その原因が設計・製造業者側の過失によることもありうるため、そのような場合は双方協力の上トラブルを解決するとともに、費用の分担についても過失の度合いにより設計・製造業者も負担する旨規定しています。
(権利義務譲渡の禁止)
第17条 発注者または受注者は、あらかじめ書面による相手方の承諾を得なければ、本契約で生じた自己の権利義務を第三者に譲渡もしくは承継させることはできない。
(ポイント)
契約上の地位については相手方の承諾なく譲渡できないとする一般的規定です。
(解除)
第18条 当事者が次の各号の一に該当するにいたったときは、他方当事者は、書面で通知することにより、両当事者との間に締結されている本契約あるいは個別契約を、直ちに解除することができるものとする。
本契約の条項について重大な違反を犯したとき
当事者の財産に対し差押、仮差押、仮処分または競売の申立を受けたとき
当事者が租税公課を滞納し、滞納処分に付されたとき
当事者に対し、破産、特別清算、民事再生または会社更生手続の申立があったとき
当事者が解散したとき
当事者がその事業の全部または主要な一部を休止しまたは譲渡したとき
当事者が振り出し、引き受け、保証しまたは裏書した手形または小切手が不渡りとなったとき
当事者が支払いを停止したとき
当事者が財産を隠匿し、その他不信用の行為があったとき
当事者の経営状態が著しく悪化したとき
前各号の他、当事者が本契約の条項の一に違反し、通知後30日以内に当該違反を治癒できないとき
2 本契約の終了は、本契約の終了前に本契約から生じた権利・義務あるいは、本契約に規定される本契約期間を超えてその効力を有するとされる条項に何ら影響を及ぼさないものとする。
(ポイント)
契約解除に関する一般的規定です。
(反社会的勢力との絶縁の保証)
第19条 発注者及び受注者は、現在、暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなったときから5年間を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標榜ゴロまたは特殊知能暴力団等その他これらに準ずる者(以下総称して「暴力団員等」という。)に該当しないこと、及び次の各号のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来に亘っても該当しないことを確約する。
暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的または第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
暴力団員等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
役員または経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
2 発注者及び受注者は、自らまたは第三者を利用して次の各号の一にでも該当する行為を行わないことを確約する。
暴力的な要求行為
法的な責任を超えた不当な要求行為
取引に関して、脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
風説を流布し、偽計または威力を用いて相手方の信用を毀損し、または相手方の業務を妨害する行為
暴力団等の反社会的勢力との関係がある旨や過去に反社会勢力であった旨の言動
その他、前各号に準ずる行為
3 発注者及び受注者は、相手方が暴力団員もしくは第1項各号のいずれかに該当し、もしくは前項各号のいずれかに該当する行為をし、または第1項の規定に基づく表明・確約に関して虚偽の申告をしたことが判明し、発注者及び受注者との取引を継続することが不適切である場合には、全ての取引及び契約を解除することができるものとする。
(ポイント)
反社会的勢力排除に関する一般的規定です。
(損害賠償)
第20条 発注者または受注者は、本契約に違反したときは、これにより相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。
(ポイント)
損害賠償に関する一般的規定です。
(期間)
第21条 本契約は下記に規定される日付より有効であり、1年間(以下「当初期間」という。)継続する。本契約は、当初期間や更新期間の満了する60日前までにいずれかの当事者が更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間(以下、それぞれ「更新期間」という。)で、同条件で自動的に更新されるものとする。
(ポイント)
契約期間に関する一般的規定です。
(存続条項)
第22条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第3条(知的財産権の帰属)、第4条(秘密保持)、第12条(瑕疵担保責任)、第13条(保証)、第16条(第三者との間の紛争)、20条(損害賠償)、第24条(通知)、第25条(準拠法及び裁判管轄)及び第26条(協議解決)の定めは有効に存続する。
(ポイント)
契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定です。
(不可抗力)
第23条 いずれの当事者も、その合理的な支配力の及ばない天変地異、法律、法令、条令、規則、政令その他行政上の手続、命令、裁判所命令、地震、洪水、火災、爆発、戦争、テロリズム、暴動、サボタージュ、天災、疫病、ストライキ、ロックアウト、怠業、労働紛争、必要な労働力あるいは原材料の入手困難、輸送手段の欠如あるいは遅延、工場あるいは重要設備の停止、緊急修理あるいはメンテナンス、公共施設の停止または不足、供給者あるいは下請業者の納入遅延あるいは供給者あるいは下請業者により供給される物質の瑕疵(以下総称して「不可抗力」という)に基づく遅延、義務不履行、に関して生じた損失、費用について責めを負わないものとする。
2 不可抗力が発生した場合、その影響を受けた当事者は、直ちに他方当事者に対し、書面により、不可抗力の内容、及び本契約及び個別契約の義務の履行にどのように影響を及ぼすかを特定して通知するものとする。納入遅延の場合には、納入義務は、不可抗力を原因として失われた時間に相当する時間延長されるものとする。但し、不可抗力が予定された納入日より2ヶ月以上継続し、あるいは継続すると予想される場合には、いずれの当事者も他方当事者に何ら責任を負うことなく、その影響を受けた部分に関する義務を免れることができるものとする。
3 両当事者は、第15条に定める発注者の支払い義務が本条によって消滅するものでないことを確認する。
(ポイント)
不可抗力で納品等ができなくなった場合の一般的規定です。なお、代金支払い債務についてはこの規定によっても免れることはできないので注意が必要です。
(通知)
第24条 本契約に基づく他の当事者に対する通知は、本契約に別段の規定がない限り、すべて、他方当事者に書面または各種記録媒体(半導体記録媒体、光記録媒体及び磁気記録媒体を含むが、これらに限られない。)を直接交付し、郵便を送付し、他方当事者が予め了承する電子メールもしくはメッセージングアプリを利用して電磁的記録を送信し、またはファクシミリを送信することにより行うものとする。
(ポイント)
本契約における通知事項の原則を定めた規定です。書面以外にUSBメモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としています。
(準拠法及び裁判管轄)
第25条 本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、被告の本店所在地を管轄する地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
(ポイント)
クロスボーダーの取引も想定し準拠法は日本国法としています。
裁判管轄については一律に決定することが難しいため、本契約では相手方当事者の裁判管轄地と規定しています。どの裁判管轄が適切かは一概には決められませんので、当事者の話し合いで決定するのが本来は望ましいところです。
また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えてもいいかもしれません。
【仲裁条項例】
「本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。」
(協議解決)
第26条 本契約または個別契約に規定のない事項、本契約条項のうち疑義のある事項、本契約の変更については、両当事者協議の上、これを決定する。
(ポイント)
紛争発生時の一般的な協議解決の条項です。原則としては、第5条(合意事項の変更、未確定事項の決定及び中途解約)の規定を用いることを想定しています。
【別紙】
試作製造標準発注書について
発注文言
当事者間で締結した試作委託標準契約書に従い、下記の通り発注いたします。
(ポイント)
試作委託標準契約書が発注書に対する基本契約であることを示しています。仮に試作委託標準契約書自体を締結できていない場合でも、このような記載を発注書に記載することで当事者のトラブル解決の基準となることがあるかもしれません。
「仕様」欄
(ポイント)
仕様欄には「別添の通り」などと記載して別途仕様書や図面などを添付するのが一般的と思われます。
仕様は保証内容を定める重要な要素であるとともに、変更も多いものですので、日付やバージョン管理などの記載をした上で、議事録などで双方確認しておくことが必要です。
「荷姿」欄
(ポイント)
納品時の試作品の梱包の状態を言います。指定がないと到着時に壊れていたなどということもあるので注意が必要です。
「検収期間」欄
(ポイント)
契約書では原則1週間と定めていますが、瑕疵担保責任を追求するための通知期間ともなるため発注内容に応じて変更する必要もあります。
知的財産権の帰属についてのチェックボックス
□ チェックボックスを選択した場合、本試作品にかかる知的財産権はすべて発注者に帰属し、受注者は著作者人格権を行使しないものとする(試作委託標準契約書第3条6項関係)。
(ポイント)
このチェックボックスに選択を入れて発注することにより、試作品に関する図面などの知的財産権はすべてスタートアップ側に帰属することを表明することとなります。
知的財産権の帰属は製造業者の対価を決める大きな要素となります。見積りや発注の時点で当事者間に齟齬がないようしっかり確認しておくべき点といえます。
試作開発・設計委託標準発注書について
発注文言
当事者間で締結した試作委託標準契約書に従い、下記の通り発注いたします。
(ポイント)
試作委託標準契約書が発注書に対する基本契約であることを示しています。仮に試作委託標準契約書自体を締結できていない場合でも、このような記載を発注書に記載することで当事者のトラブル解決の基準となることがあるかもしれません。
「対象機能」欄
(ポイント)
開発・設計の委託内容を決定する重要な部分となります。開発・設計上の瑕疵担保責任の瑕疵の内容を決定する部分となりますのでできる限り明確にしておくことが望ましいでしょう。
知的財産権の帰属についてのチェックボックス
□ チェックボックスを選択した場合、本試作品にかかる知的財産権はすべて発注者に帰属し、受注者は著作者人格権を行使しないものとする(試作委託標準契約書第3条6項関係)。
(ポイント)
このチェックボックスに選択を入れて発注することにより、試作品に関する図面などの知的財産権はすべてスタートアップ側に帰属することを表明することとなります。
知的財産権の帰属は製造業者の対価を決める大きな要素となります。見積りや発注の時点で当事者間に齟齬がないようしっかり確認しておくべき点といえます。
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