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投資助言・代理業について
~資産管理型ビジネスの先導役として
平成27年11月4日
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株式会社資本市場研究所きずな
投資助言・代理業の概要
証券会社や信託銀行が、個人の資産管理型ビジネスとしてラップ口座などに注力しているが、投資家との間で投資一任契約を結ぶ必要があり、これに対応するためには投資助言・代理業としての体制整備が必要となっている。今回は、この投資助言・代理業について取り上げたいが、金融商品取引法(以下、金商法)では第28条3項に定義され、かつ金融商品取引業者としての登録制となっている。
この制度の元をたどれば、1986年に制定された投資顧問業法で、証券投資の助言については登録制を、投資一任業務については認可制となっていた。この制度が、200
7年9月末に施行された金商法に証券投資信託法(1951年制定、現投資信託及び投資法人に関する法律、以下投信法)の業者規制とともに統合され、以下の様に整理された。(日本投資顧問業協会、説明文より)
【投資運用業】
◇投資一任業務:投資一任契約に基づき、投資家から投
資判断や投資に必要な権限を委任されて投資を行う。
◇ファンド運用業務:(投信法に定める資産の運用受託以外)ベンチャー企業の育成や事業会社の再生を目的として組成されたファンドの財産を主に有価証券等への投資として運用を行う。
【投資助言・代理業】
◇投資助言業務:投資家との間で締結した投資顧問(助言)契約に基づいて、有価証券等への投資判断について助言を行う。
◇代理・媒介業務:投資家と投資運用業者との投資一任契約または投資助言者との投資顧問(助言)契約の締結の代理・媒介を行う。
今年7月末時点で、投資運用業者は330社だが、その内の75%(248社)が投資助言・代理業の登録を行ってお り、資産運用と投資助言が密接な関係にあることが分かる。投資助言・代理業者数は、986社で資産運用業者や第1種金融商品取引業者(証券会社等)に比べて多いが、これは制度設計時(金商法制定時)において、投資助言・
代理業者について米国などを参考として小規模な業者も想定していた為に、他の金融商品取引業に比べて業規制が緩かった。例えば、最低資本金要件はなく、営業保証金
500万円(有価証券も可)の供託義務のみに限られている。業務遂行の為の人的構成要件については、当初課せられていなかったが、2011年金商法改正で対象となっている。また、第1種金融商品取引業者である証券会社においては、ラップ口座などに投資一任契約に関係しようとした場合、上記の代理・媒介業務に該当するので、リテール証券ではこの業務の登録を進めている。
上記の様に、投資助言・代理業は投資運用業など他の金融商品取引業との関係が密接だが、2015年10月に、積極的に個人向けヘッジファンド投資の広告やCMなど
行っていた業界大手のアブラハム・プライベートバンクに対して、投資助言・代理業の業務範囲を逸脱し、第1種若しくは第2種金融商品取引業の登録が必要な海外ファンドの販売を実質的に無登録で行ったとして、当局は行政処分 を行っている。
投資運用業者
第1種金融商品取引業者
その他
82社
25%
330社 投資運用業 277社
第1種で投資助言・代理業, 65社
23%
であって投資助言・代理業
248社
75%
その他
212社
77%
投資運用業
投資助言・代理業
代理・媒介業務
投資助言業務
ファンド運用業務
投資一任業務
金融商品取引法
投資顧問業法
※平成27年7月末の状況:金融商品取引業者一覧(金融庁)より作成
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投資助言業務について
投資助言業務の内容について、金商法に沿って見ていきたい。(金商法、投資助言業務に関する特則より)
先ず、業務の遂行にあたっては、他の金融商品取引業と同様に、顧客の為の善良なる管理者としての義務が課せられている。次に、以下の行為が禁止されている。
・顧客相互間で、他の顧客の利益を図るため特定の顧客の利益を害することとなる取引を行うことを内容とした助言を行うこと
・自己又は特定の第三者の利益を図る目的で助言を行うこと
・通常の取引の条件と異なる条件で、顧客の利益を害する助言を行うこと
・顧客が行う取引に関する情報を利用して、自己の有価証券等の取引を行うこと
・助言により生じた損失の補填行為 等
また、第1種金融商品取引業者が兼業する以外、自己の有価証券の売買において顧客の相手方のなることも禁止
されている。顧客からの金銭や有価証券の預託についても、第1種金融商品取引業者や投資運用業者などの有価証券等管理業務でなければ受け入れることが出来ない。加えて、証券会社が行う信用取引以外で金銭又は有価証券の貸付けも禁止されている。
前章の通り、投資助言・代理業については他の金融商品取引業者が兼業している場合も多い。その為に、顧客の利益を守る為の利益相反措置などが業務遂行上重要になってくるので、次の様な内容の自主規制(日本投資顧問業協会:投資助言業に関する業務運営基準より、その内容を簡略化)が定められている。
◇業務運営の基本=顧客の資金性格・属性等を十分把握し、顧客に適合した投資助言を行うこと。他の顧客の利益を図るため特定の顧客の利益を害することや自己の利益を優先させるといった利益相反行為を防止し、xx性・適正性を確保すること。
◇適正な価格による取引の助言=助言は、市場価格若しくは市場価格を基準とした適正な価格、又は諸般の状況から総合的に適正と判断される価格に基づかなければならない。
◇損失の負担、特別の利益の提供の禁止=直接、 間接を問わず損失の負担、特別の利益の提供を行わない旨を明らかにする。
◇有価証券等の取引 =自己の計算による有価証券等の取引を行うときは、顧客の利益及び信頼を損なうことのないよう留意しなければならない。また顧客の取引の相手方となってはならない。(役社員等の自己取引も同様だ が、その為に社内規程や管理責任者を設置)
◇自ら発行や引受けた有価証券の契約資産への組入れに関する助言など =自ら発行した有価証券、投資信託委託業を兼業している場合に自ら設定するファンド、証券会社を兼業している場合に引受けた有価証券を契約資産に組み入れる場合、以下を遵守する。
・契約資産に対する割合は、株式が10%以下、それ以外の有価証券は30%以下、ファンドは50%以下(※ファンド組み入れでは、顧客が金融機関、特定投資家、文書による顧客の同意がある場合は除く。またファンド総額規制として、組み入れ自己設定ファンド総額が、自己設定 ファンド総額の30%以下)
・顧客に対して、契約時、組入れ時、売価時それぞれで組入れ情報を開示する必要がある。
・親法人・子法人等は発行もしくは引受けた有価証券や設定したファンドも同様。
・関係する外国法人が行っている有価証券の募集において、顧客の立場にたって利益相反行為を防止する。
◇顧客の自主的判断に基づく契約の締結=関係会社などからの金銭等の貸付けを条件として顧客開拓を行わない。この為、自己を含めた関係会社等の貸付部門と取引きがある場合は、投資顧問契約の締結に当たって、顧客の自主的意思による締結であることの確認文書を残す。
(特定投資家以外)
◇適正な業務運営にあたっての体制整備=コンプライアンス管理責任者を設置し、社内体制を整備しなければならない。
兆円
250
200
150
100
50
0
投資一任契約資産
199.1
205.1
億円
5,000
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
投資助言契約資産
3,298
3,318
※日本投資顧問業協会:統計資料より作成 投資助言業務の定義
(金商法より)
善良な管理者としての注意義務
禁止行為
(顧客利益を害する行為や損失補填等)
助言を行う顧客との有価証券売買等の禁
止(第1種金商業として行う場合等は除く)
金銭・有価証券の預託の受入れ等の禁止
金銭又は有価証券の貸付け等の禁止
業際問題における留意点について
一般的な助言行為と、金商法に定める助言業務に関する線引きについては、金融庁の監督指針(平成27年9月版より)では以下の様に整理されている。
【投資助言・代理業に該当しない行為】
・不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、投資情報等を提供する行為(但し、インターネットを利用して個別・相対性の高い投資情報等を提供する場合や、会員登録を行わなければ購入・利用できない場合は、投資助言業として登録が必要。)
○新聞・雑誌・書籍等の販売=一般の書店、売店等の店頭に陳列され、誰でも、いつでも自由に内容をみて判断して購入できる状態にある場合(直接業者等に申し込まないと購入できないレポート等の販売等に当たっては、助言業と見做される可能性がある。)
○投資分析ツール等のコンピュータソフトウェアの販売=販売店による店頭販売や、ネットワークを経由したダウンロード販売等により、誰でも、いつでも自由にコンピュータソフトウェアの投資分析アルゴリズム・その他機能等の
ソフトウェアを購入できる状態にある場合(販売業者等から継続的に投資情報等に係るデータ・その他サポート等の提供を受ける必要がある場合は、助言業と見做される可能性がある。)
○金融商品の価値等について助言する行為=単にその価値やオプションの対価の額、指標の動向について助言し、その分析に基づく投資判断についての助言を行っていない場合、又は報酬を支払うことを約する契約を締結していない場合
・投資助言業者や投資一任業者(投資運用業)から、投資一任契約に係る事務処理の一部を受託した行う次の様な場合、投資一任契約の媒介に至らないケース
○商品案内xxx・xxxxxx・契約申込書等の単なる配布・交付(配布・交付する書類の記載方法等の説明をする場合は媒介に当たる)
○契約申込書及びその添付書類等の受領・回収(契約申込書の記載内容の確認等まで行う場合は、媒介に当たる)
○金融商品説明会等における金融商品の仕組み・活用法等についての一般的な説明
【登録が不要である場合】
・外国の投資顧問業者が、投資運用業等を相手方としてのみ投資助言業を行う場合 等
また、金融商品取引業者として投資助言以外の複数の業務を行う場合、次の様な弊害防止措置を取らなければならない。
【二つ以上の種類の業務を行う場合の弊害防止措置に
ついて】
・業務内容に応じた弊害発生防止に関する社内管理体制の整備
・インサイダー取引となるような「非公開情報」について、管理責任者の選任及び管理規則の制定等による情報管理措置等が整備されていること
投資助言・代理業務は、顧客の有価証券売買や投資資産運用などの行為に繋がっていくので、他の金融商品取引業務との関係が密接になっていく。その為、単独で行う場合、兼業する場合のそれぞれの業際の線引きと、業務
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株式会社資本市場研究所きずな
管理が重要視されている。
投資助言業務の業際
投資情報の提供
投資助言業
投資助言業ではない
投資家の「投資
判断」に影響
投資家の
「投資行動」へ
他の金融取引業との兼業
有料会員制で提供
不特定多数が対象
◆新聞・雑誌・書籍等の販売
◆コンピュータソフトウェアの販売
◆金融商品の価値等のみの助言(投資判断ではない)
インターネット利用で個別に
有料で提供
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業者の分化と業としての成長性
投資助言業務の変化は、当然投資家の変化によって 引き起こされる。例えば年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を始めとする年金基金等の運用改革、NISA利用拡大による個人投資家の裾野拡大、それぞれが必要とする投資助言は異なったものだ。一方ではより高度で複合的な投資助言が求められ、もう一方ではより多くの個人が理解しやすい汎用的な助言活動が必要になってくる。その為のインフラや、フレームワークも全く違ったものになるだろうが、金融商品取引業としては投資助言業に纏められて いる。
投資助言・代理業において、他の金融商品取引業との兼業なしに単独で業務を行うものは今年7月末で478業者と全体の半数弱だが、その内容は多彩だ。大手証券や金融機関などの調査機関もあれば、不動産リートやヘル スケアリートに特化した業者もいる。なお、個人も投資助言業として登録することが可能だが、現在(7月末時点)は2
5名と全体の2.5%に留まっている。なお、個人の助言業者に対しては法人ではないので、金融行政上は人的構成
要件は問われないが投資助言業者としての知識や職業倫理に対する認識は求められている。加えて、法人・個人を問わず業務を継続的に行うことが可能か財務状況や顧客との契約状況については、当局による任意のヒアリングが行われる。また、助言業者が一層の収益化を図る為、投資一任勘定契約の代理・媒介を行うことが多いが、この場合、業務を委託する運用業者の委託責任が行政的にも問われる仕組みとなっている。
現在の日本市場において、個人・年金基金を含めた年金制度化改革や、NISA・金融所得一体課税の進展などで個人の投資が拡大することなどを考えると、今後益々投資助言に関する投資家サイドの需要が高まっていくことが予想される。問題はその投資助言活動を誰がどの様に行っていくかだが、概ね4つの方向性が強まることが考えられ
る。
○年金基金等大手の機関投資家への助言強化=国内外の市場や、各金融商品その他の投資対象商品及び代替投資について分析を総合的に行い、投資家のポートフォリオ構築を支援するためには、総合的な情報収集力と
分析力が必要になっている。その為、海外助言業者や内外の運用業者との提携強化やアナリスト強化が必要だ
が、xxxな動きは大手証券系調査会社で見られる一 方、メガバンク系では運用機能強化とともに投資助言強化を図っている。
○富裕層特化の助言活動=プライベートバンク業務は、内外の金融機関間で競争が激しい部分だが、日本アナリスト協会では、昨年より事業承継や相続実務を強化したプライベートバンカー資格制度を始めている。これは金融機関側の富裕層向け投資助言機能の強化ニーズを受けたものだが、アナリスト資格に加えてプライベートバンカー資格があれば、営業戦略上優位かも知れない。
○ラップ口座等の代理・媒介業務増加=リテール証券の中では、資産運用型営業を強化する動きが強まっているが、SMAやラップ口座(総じて所謂ラップ口座)獲得に注力するところも増えている。証券会社にとっては、投資一任契約の取次ぎでの代理・媒介業務なので兼業としての登録が必要になる。なお、今年6月末で、ラップ口座数は3
6.9万口座、契約金額は4.75兆円(投資顧問業協会
調べ)となっている。
○個人への投資助言活動増加予想=NISAなどによって個人投資家の裾野が拡大している。一般的な市場分析や投資手段の解説などは投資教育の中で行われるが、個人の投資活動に繋がるような有料の助言は投資助言業となる。その為、日本FP協会では会員のファイナンシャル・プランナー(会員のFP資格者数17.4万人)に対して、有料で投資助言行為を行う場合、投資助言・代理業への登録が必要となることの注意喚起を行っている。
何れにしても投資助言活動は個人の助言者が投資家に向かって行う行為であるので、個人の事業者が増加しても良いように思われるが、その為には他の金融商品取引業者への監督とは異なった自主規制ルールに基づく管理が必要かも知れない。
投資助言業務
汎用化
個人化
複合化
組織化
専門化
年金基金などの運用改革
ラップ口座等の増加による投資一任契約の増加
年金基金等への
助言強化
富裕層特化の助言活動
ラップ口座等の
代理・媒介
高度化
助言業務発展の方向性
NISAや確定拠出年金制度による個人投資拡大
個人への投資助言活動増加予想
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