④)等を勘案して合理性を肯定したもの(第四銀行事件・最判H9.2.28民集51巻2号705頁)や、満55歳以上の管理職を専任職に移行させて業績給削減や専任職手 当の廃止等した事案で、変更の必要性は認められる(=②)が、労働の減少もなく標準賃金額削減が33~ 46% となり不利益が大きすぎ(=①)、高齢の特定層にのみ不 利益を受忍させることは相当でなく、代替措置は不十分で(=③)、従業員の約73%で組織する労働組合の同意は不利益性の程度や内容からすれば大きな考慮要素とすること...
Q
就業規則を変更したいのですが、労働者に不利益なものでも認められる場合はありますか。
A
1 労働条件の変更
労働契約の内容である労働条件(賃金、就業時間等)を変更するときは、使用者及び労働者の合意が必要であり、一方的な変更は認められないのが大原則です(労働契約法第8条)。
同様に、使用者が定めた就業規則についても、原則として、労働者と合意することなく就業規則を変更し、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません(同法第9条)。
2 労働者に不利益な就業規則の変更
では、労働者と合意することなく就業規則を変更できるのは、どのような場合でしょうか。この点について、労働契約法第10条では、就業規則の変更が合理的(要件①)であり、変更後
の就業規則が周知(要件②)されている場合が規定されており、この場合は、変更に同意していない労働者についても変更後の就業規則に拘束されることになります。
⑴ 要件① 変更の合理性
変更に合理性があるかどうかは、①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉状況、⑤その他の就業規則の変更に係る事情から判断します(同条)。③には変更後の内容自体の相当性だけでなく、代替措置その他関連する他の労働条件の改善状況、同種事項に関する我が国社会における一般的状況が、④には多数労働組合や過半数代表者のほか少数労働組合や他の従業員の対応が考慮する要素に含まれるとされています。
判例は、定年を55歳(58歳までは通例再雇用)から60歳に延長するに際して55歳以上の給与と賞与を削減した事案で、賃金削減の不利益はかなり大きい(=①)が、定年延長及び賃金水準の見直しの必要性も高度で(=②)、変更後の内容は同業他社とほぼ同様で賃金水準は他社と比較して高く、定年延長は労働条件改善の効果があり、福利厚生制度の適用延長等不利益緩和措置がとられ(=③)、従業員の約90%で組織する労働組合との交渉・合意があること(=
④)等を勘案して合理性を肯定したもの(第四銀行事件・最判H9.2.28民集51巻2号705頁)や、満55歳以上の管理職を専任職に移行させて業績給削減や専任職手当の廃止等した事案で、変更の必要性は認められる(=②)が、労働の減少もなく標準賃金額削減が33~ 46% となり不利益が大きすぎ(=①)、高齢の特定層にのみ不利益を受忍させることは相当でなく、代替措置は不十分で(=③)、従業員の約73%で組織する労働組合の同意は不利益性の程度や内容からすれば大きな考慮要素とすることはできない(=④)として合理性を否定するもの(みちのく銀行事件・最判H12.9.7民集54巻7号2075頁)など様々です。内容の精査はもとより、従業員の労 働組合加入率にかかわらず協議を重ねる等丁寧に説明し、従業員の理解を進める努力が必要です。
⑵ 要件② 周知
「周知」とは、「事業場の労働者に対して変更内容を知り得る状態におくこと」です。変更内容を労働者に個別的に認識させる必要はなく、その方法も作業場への掲示・備付け、書面交付、パソコン等常時確認できる機器の設置等に限られず、実質的に事業場の労働者が変更内容を知り得る状態にあればよいとされています。
なお、周知内容は、どのような変更かを見て理解できる具体的なものを示しましょう。
P □
■ 労働条件の変更は、使用者と労働者の合意が大原則です。
■ もっとも、労働者の同意がなくても、⑴就業規則の変更が合理的であり、⑵変更後の就業規則が周知されている場合は、労働者に不利益な就業規則の変更も行うことができます。
■ 変更の合理性は、諸要素を総合考慮して判断されます。各要素を十分検討し、労働組合や労働者への丁寧な説明等を心掛けましょう。