Contract
別紙4
トラヒック・ポンピングの発生に係る着信インセンティブ契約に関する業務改善命令の適用に関するガイドライン
令 和 6 年 9 月x x 省
1 ガイドラインの目的
電気通信事業は、国民生活や産業経済活動に必要不可欠な通信サービスを提供する事業であって、高い公共性を有している。同時に、ある電気通信事業者のネットワークが他の電気通信事業者のネットワークと様々な形で接続されることによって、利用者が総合的かつ多彩なサービスの提供を受けることができるという性質を有している。
このような接続の重要性に鑑み、電気通信事業法(昭和 59 年法律第 86 号)第
32 条においては、ネットワークを有する電気通信事業者は、原則として、その設置する電気通信回線設備との接続に関する他の電気通信事業者からの請求に応じなければならないとされている。一方で、電気通信設備の接続を含め、電気通信事業者等の業務の方法等が不適切に行われ、利用者の利益や公共の利益が阻害されている場合においては、総務大臣が電気通信事業者等に対して、業務の方法の改善等を命ずること(業務改善命令)ができることとしている1。
昨今、音声伝送役務に係る接続において、携帯電話事業者が提供する「かけ放題サービス」を利用して、意図的に接続料収入を得ようとする「トラヒック・ポンピング」が発生していると指摘されている2。
本ガイドラインは、このような行為を抑止するとともに、このような行為が発生した場合の迅速な解決を図るため、「トラヒック・ポンピング」において見られる「着信インセンティブ契約」に関する業務改善命令の適用の考え方を示すものである。
2 用語の定義
本ガイドラインは、電気通信事業法、電気通信事業法施行規則(昭和 60 年郵政
1 その他、電気通信設備間の接続について、総務大臣の協議再開命令及び協定の細目について当事者の協議が不調の場合には、総務大臣の裁定を行うことができる。
2 接続料の算定等に関する研究会 第七次報告書(令和5年9月)69 頁
省令第 25 号)において使用する用語の例によるほか、次のとおりとする。
(1) 着信インセンティブ契約
音声伝送役務に係る接続協定(発着トラヒックの量に応じて相互に接続料を支払う通常の電気通信事業者間精算方式が採用されているものに限る。以下同じ。)の一方の電気通信事業者が他方の電気通信事業者の電気通信役務の利用者(以下「利用者」という。)との間で締結する契約であって、着信側の電気通信事業者( 以下「着信側事業者」という。) が、発信側の電気通信事業者
(以下「発信側事業者」という。)の利用者が当該着信側事業者の利用者に発 信するトラヒックの量に応じて当該発信側事業者の利用者に対して金員等(※1)を支払うもの(卸電気通信役務の提供を受ける電気通信事業者や媒介等業務受 託者と契約し、間接的に利用者に金員等を支払う場合を含む。)のことをいう。
(※1)インセンティブの態様が金員であるか否かを問わないので、例えば、特定の電話番号への通話時間
に応じて懸賞として景品等を提供する場合も含む。
(2) トラヒック・ポンピング
着信インセンティブ契約を締結することにより、トラヒックの量を意図的に増大させ、それに伴う接続料収入を増加させることをいう。
(3) 他者料金設定トラヒック
接続協定において他の電気通信事業者が電気通信役務に関する利用者料金を定めることとされているトラヒックをいう。
(4) 他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約
着信インセンティブ契約のうち、他者料金設定トラヒックの量に応じて金員等を支払うものをいう。
3 トラヒック・ポンピングの禁止
トラヒック・ポンピングは、トラヒックの量を意図的に増大させ、それに伴う 接続料収入を増加させるものであり、他の電気通信事業者の業務への影響のほか、ネットワークの輻輳や利用者料金の不適正な設定等を発生しかねず、電気通信の 健全な発達や利用者の利益の保護などの公共の利益を著しく阻害するおそれがあ る。このため、トラヒック・ポンピングを発生させるおそれのある、以下のよう な典型的な不適切な着信インセンティブ契約については、業務改善命令の要件に 該当し得る。
なお、以下の事例は、あくまでも例示であって、これに該当しない場合であっても、業務改善命令の要件に該当する場合には、業務改善命令の対象となり得 る。
(1) 接続協定において料金を定めることとされている電気通信事業者の合意のない他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約
電気通信事業者間で合意した接続協定に関して、一方の電気通信事業者が他方の電気通信事業者の同意を得ずに当該接続協定に反する行為を行うことは、通常、接続に関し不当な運営を行っているものであり、他の電気通信事業者の業務の適正な実施に支障が生じるおそれがあると言うことができる。
この点、着信インセンティブ契約に関し、他者料金設定トラヒックについて、その料金を定める電気通信事業者の同意を得ずに、他者料金設定トラヒック・ インセンティブ契約を締結することは、料金設定に実質上関与し、接続協定に 反することとなるため、他の電気通信事業者の業務の適正な実施に支障を生じ るおそれがあると考えられる。
特に、料金設定に当たっては、需要の的確な把握が不可欠であるが、他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約を締結した電気通信事業者が、料金を定める電気通信事業者の求めに応じず、そのような契約の有無及びその内容を明らかにしない場合、料金を定める電気通信事業者は、場合によっては、需要の的確な把握が困難となり、料金設定等の適正な実施に支障を生じ、不適切な料金設定や一部のサービスの停止等をせざるを得なくなり、利用者の利益の侵害など公共の利益が著しく阻害される可能性も否定できないと考えられる。
したがって、着信インセンティブ契約に関して、上記に該当すると考えられる場合、他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約を締結した電気通信事業者は、電気通信事業法第 29 条第1項第 10 号の要件に該当し、同号の業務改善命令の対象となる可能性があると考えられる。
なお、利用者料金の設定権の所在を含む接続協定の細目について、電気通信事業者間の協議が不調であるときは、総務大臣への裁定申請を行うことが可能であるが、利用者料金の設定権の所在に関する裁定については、「利用者料金の設定権に関する裁定方針」(令和4年1月6日総務省)に基づき、当該利用者料金を負担する利用者が当該利用者料金の支払い先として認識し、又は自ら選択していると認められる電気通信事業者(通常の通話であれば、発信側事業者)が有することを基本的な方針として裁定することになるから、他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約のように、着信側事業者が料金設定に実質
上関与することを認める裁定は、通常、行われない(※2)。
(※2)また、接続料の水準について裁定申請があった場合、「接続等に関し取得・負担すべき金額に関する裁定方針」(平成 30 年1月 16 日総務省)を基本的な方針として裁定することになるが、当該方針において、一般には「適正な原価」に販売促進費用( 他者料金設定トラヒック・インセンティブ契約におけるインセンティブの原資を含む。)が含まれると考えることは難しい。
協議の慣行としてのベンチマークの採用は否定しないものの、その趣旨は「事業者間でネットワーク使用の精算として行われる接続料の支払いは、ネットワークの効率的な構築・利用を促すためにも、実際にかかった費用を超えるものではなく、効率性を踏まえた金額により行われることが望ましい」(平成 30 年 10 月 16 日情報通信審議会答申「平成 31 年度以降の接続料算定における長期増分費用方式の適用の在り方について」)との考え方に立つものであり、実際のコストを上回る金額をベンチマークとすることを慫慂するものではなく、実際のコストとベンチマークの差額をインセンティブとすることを認めるものでもない。
(2) 接続する他の電気通信事業者の契約約款に違反する行為を助長する蓋然性の高い着信インセンティブ契約
着信インセンティブ契約が電気通信役務の利用者が契約約款に違反する行為 を助長する蓋然性の高いものである場合、着信側事業者がその旨を認識しつつ 当該行為を防ぐための必要な措置を講じないことは、通常、適正かつ合理的な 事業の運営とは言えないと考えられる。このため、発信側事業者が自己の電気 通信役務の利用者による当該行為を防止するために着信側事業者が締結してい る着信インセンティブ契約の是正を図ることが必要だと考える合理的な理由が ある場合、当該発信側事業者が当該着信側事業者に対して着信インセンティブ 契約の是正を要請したにも関わらず、当該着信側事業者が当該要請に真摯に応 じないことも、通常、適正かつ合理的な事業の運営とは言えないと考えられる。
また、他の電気通信事業者の利用者に当該電気通信事業者の契約約款に違反する行為をその旨認識しつつ行わせることによって、接続料収入を増加させようとすることも、通常、適正かつ合理的な事業の運営とは言えないと考えられる。
上記の適正かつ合理的な事業の運営とは言えない行為が継続的に行われると、契約約款に違反する行為が行われた発信側事業者に、違反行為の察知や利用停 止などの対応をとる業務が発生して通常の業務が妨げられるのみならず、当該 利用者に対し約款違反行為を行わせ、その結果、当該発信側事業者の利用者に 電気通信役務の提供が拒否されるなどの重大な不利益を被らせるおそれがある。これに加え、「かけ放題サービス」という利用者利便の向上に大きく資するサ ービスの提供促進も阻害されかねない。
したがって、着信インセンティブ契約に関して、上記の行為が継続的に行われた場合、結果として電気通信の健全な発達や国民の利便の確保に支障が生じる可能性は否定できないため、電気通信事業法第 29 条第1項第 12 号の要件に該
当し、同項に基づく業務改善命令の対象になる可能性があると考えられる。
4 その他
総務省は、着信インセンティブ契約の締結状況や電気通信事業者間の協議の状況について注視するとともに、今後、必要に応じて本ガイドラインの見直しや所要の行政上の対応を行っていくこととする。
(参考)典型的なトラヒック・ポンピングとされるもの