(PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン
成果連動型民間委託契約方式
(PFS:Pay For Success)共通的ガイドライン
令和3年2月 公表令和6年2月 改訂
内閣府 成果連動型事業推進室
はじめに
成果連動型民間委託契約方式(Pay For Success)(以下「PFS」という。)は、社会課題の解決に対応した成果指標を設定し、成果指標値の改善状況に連動して委託費等を支払う官民連携の手法です。その成果達成の方法について、民間の創意工夫を最大限引き出すことにより、従来型委託方式に比べて、社会課題が効果的に解決されることが期待されます。
成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン(令和5年度~令和7年度)(令和5年3月2日決定)では、国としての向こう3年間の取組として、案件数・新規取組団体数の増加や、先導的なPFS事業の組成を目指しており、今後一層の普及促進に注力する方針です。
本ガイドラインでは、PFSによる事業(以下「PFS事業」という。)を実施しようとする国又は地方公共団体(以下「地方公共団体等」という。)や、PFS事業に参画する民間事業者、中間支援組織、資金提供者等の共通認識の形成を容易にし、PFS事業の効率的かつ円滑な実施に資するよう、PFS事業の実施に関する一連の手続きを概説するとともに、PFS事業の効果や支払上限額の考え方を示すことにより、地方公共団体等が PFS事業を実施する上での実務上の指針となるよう、留意事項等を含め、まとめたものです。
令和5年度の改訂においては、PFS事業によって生まれる成果や価値を定量的に表し、多くのステークホルダーが議論するための新たな「成果のものさし」として、WTP(支 払意思額)の考え方を導入しました。また、これまでに国内で実施された事例から得られ る知見を踏まえ、官民対話における留意事項や、公募や契約にかかる情報を充実させまし た。
目次
2 民間事業者との対話(マーケットサウンディング等)の全般的な留意事項 13
(1) 本ガイドラインは、地方公共団体等が、PFS事業を実施する上での実務上の指針の一つとして、PFS事業の概要、PFS事業の実施に係る手順、PFS事業の実施体制、成果指標の設定及び評価の方法、成果に応じた支払額等の決定の考え方、契約期間等に応じた予算措置等について、分野横断的な共通的事項を取りまとめたものである。
(2) 本ガイドラインは、主として国内の先行事例から得られた現時点の知見を踏まえたものであり、地方公共団体等がPFS事業を実施する際に、取り組む分野や対象とする社会課題に応じた独自の取組を妨げる趣旨のものではない。
【解説】
① PFS事業の実施は、どのような分野においても幅広く検討に値する。ただし、単に個人、個社、委託者のみが受益するのでなく、広く公共的な効果が生じる分野であることが期待される。
② 本ガイドラインは、令和2年度に策定したものから、民間事業者、評価専門家、有識者等の意見も踏まえながら、内閣府にて改訂したものである。
③ PFS関係府省庁においては、分野ごとの詳細な手引きを作成している。
・医療・健康及び介護分野の手引き(厚生労働省・経済産業省)
・再犯防止分野における PFS/SIB の手引き(法務省)
・まちづくり分野へのソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)導入に係る手引き(国土交通省)
(1) 本ガイドラインの対象とするPFS事業は、地方公共団体等が民間事業者に委託等して実施する事業のうち、その事業により解決を目指す社会課題に対応したアウトカムから成果指標を設定し、地方公共団体等が支払う額等が、当該成果指標値の改善状況に連動する事業方式である。
(2) PFS事業においては、地方公共団体等から民間事業者に対する支払額等が、事業の成果指標値の改善状況に連動するというリスク(以下「成果連動リスク」という。)を民間事業者が負うとともに、事業活動の実施方法に係る一定の裁量を民間事業者に付与し、また、成果連動リスクに見合ったリターンを支払う契約を行う。
(3) PFSの活用により期待される効果として、具体的なアウトカムの達成による社会課題の解決のみならず、委託者、受託者及び資金提供者等の全てのステークホルダーの協力が促されること、事業にまつわる意思決定に関する説明責任がより果たされるようになること、イノベーションが促されて事業効果が高まることなどがある。
【解説】
① PFS事業は、社会課題の解決を目指すものである。地方公共団体等は、このうち対象とする社会課題、成果指標を設定するための適切な検討を行うとともに、成果指標値を改善するための事業活動の実施方法について、民間事業者の選定・契約手続きの中で民間事業者から提案を求め、審査し、決定する。
② 従来型の委託事業(仕様発注)とPFS事業(成果発注)は以下の通りである。
図 1 従来型の委託事業とPFS事業
また、従来型の委託事業とPFS事業を、事業活動の裁量の程度や、事業終了時の評価(検査)方法、リスク、インセンティブ等の観点から比較すると、以下の通りである。
表 1 従来型の委託事業とPFS事業の比較
項目 | 従来型の委託事業 | PFS事業 |
事 業 活 動 の 裁量の程度 | 事業活動の実施方法を、仕様書に定めるため、民間事業者の裁量は小さい。 | 達成すべき成果指標値の改善状況が指定され、そのための事業活動の実施方法については、民間事業者のノウハウを活用するため、民間事業者 に一定の裁量を付与する。 |
事 業 終 了 時 の 評 価 ( 検 査)方法 | 仕様書に定める事業活動の実施方法に則り業務を実施したか、成果物が仕様を満たしているかを検査する。 | 民間事業者の事業活動により、どれだけ成果指標値が改善したかを評価する(固定支払がある場合、その支 払いに対する検査は行われる。)。 |
地 x x 共 団 体 等 か ら の 支払額 | 成果に関わらず、仕様で定めた事業活動や検収する成果物に対して支払うため、予め定めた額である(受託者たる民間事業者が支出した費用に基づく精 算払いもある。)。 | 成果評価で確認される、成果指標値の改善状況により変動する。 |
成 果 を 高 め る こ と に 対 す る イ ン セ ンティブ | 成果指標の改善状況に関わらず支払額が固定であり、収益という面において、成果指標値を改善するインセンテ ィブが働かない。 | 成果指標値の改善状況に対し支払額が連動するため、成果指標値をより改善するインセンティブが効果的に 働く。 |
③ PFS活用の最も本質的な効果は、地方公共団体等及び民間事業者を始め、全てのステークホルダーが、事業活動そのものよりも、それによってもたらされる社会課題の解決への貢献というアウトカムを中心に考えるようになり、連携が強化されることである。アウトカム達成を追求する過程においては、事業と成果の結びつきに関する仮説設定や、既存の科学的知見等の収集、分析・評価、成果指標の設定が行われる。こうしたプロセスは、地方公共団体等による事業にまつわる説明責任(アカウンタビリティ)が果たされることや、EBPMの推進につながる。
④ 従来の仕様発注は、委託者である地方公共団体等が、社会課題の解決までのロジックを具体化し、必要な事業活動(アクティビティ)を仕様書に定めて実施させるものであり、問題の分析や解決策を選択する判断は、基本的に地方公共団体等が責任を持って行う。すでにアウトカムが創出されることが検証済みの事業活動については、従来型の委託事業で財政支出の効率化を図ることが望ましい。一方、PFSにおいては、問題の分析や解決策を選択する判断において、より民間事業者が主体的に関与するとともに、成果未達の際には、支払額の減少も生じる。このように、より多くの関係者が成果未達のリスクを分担して負うことで、成果達成へ向けたインセンティブが、委託者、受託者、資金提供者等の関係者全体に働く構造となっている。
(1) ソーシャル・インパクト・ボンド(以下「SIB」という。)によるPFS事業は、PFS契約による最終的な支払いを前提に、当該事業に係る資金調達を受託者が金融機関等の資金提供者から行い、その償還等が地方公共団体等の成果連動払等の額に応じて行われるものである。
(2) SIBによるPFS事業においては、提供した資金の償還等が成果指標値の改善状況に連動することで、資金提供者も成果連動リスクを負担することになり、
① 規模が大きいPFS事業や成果指標値の改善状況をより大きな割合で連動して支払うPFS事業のように、成果連動リスクの大きな事業の実施が可能となること
② 財務基盤が弱い中小企業やNPO等、複数年にまたがる長期化しやすい事業実施期間中の運転資金の確保や成果連動リスクを負うことが難しい民間事業者も事業に参画することが可能となること
③ 資金提供者が入ることで、事業の採算性や計画性の検証に委託者・受託者以外の第三者の目が入ることとなり、事業に規律が生まれ、実効性が高まる
等のメリットがあり、これにより、さらに効率的、効果的に社会課題の解決が図られることが期待されるものである。
(3) 地方公共団体等は、SIBによるPFS事業においては、民間事業者が資金提供者から資金調達を行うために金融機関等への手数料やSPCを設立する場合の諸費用等、追加的な費用がかかることに配慮の上、案件形成等を進めていく必要がある。
【解説】
① SIBによるPFS事業の一例を下図に示す。事業活動の実施に必要な資金調達の方法は、民間事業者が選択する事項であり、地方公共団体等においては、後述するマーケットサウンディングの結果等を踏まえ、契約書等におけるSIBによる SIB 事業を実施するために必要な条項の記載等、必要な対応を検討していく。
図 2 SIBによるPFS事業の例
② 国内では、SIBによるPFS事業の数は多くなく、多くのPFSは、民間金融機関等からの資金調達を伴わないスキームで実施されている。これまでに実施された SIBによる事業の例として、次のような事業がある。
表 2 SIBによるPFS事業の実施例
事業名 | 発注者 | 資金提供者 | 概要 |
大腸がん検診・精密検査受信率向上事業 | 八王子市 | 式会社デジサーチアンドアドバタイジング、株式会社xxx銀行、個人投資家、一般財団法人社会的投資推進財団(現:一般財団法人社会変革推進財団) ※各資金提供者は匿名組合 に出資。 | 大腸がんの早期発見・早期治療による市民の健康維持、健康寿命の延伸及び医療費の適正化を目指し、前年度大腸がん検診未受診者への検診受診、また、要精密検査判定者への精密検査受診勧奨を実施。 |
ず っ と 元気!プロジェクト | xx市 | Next Rise ソーシャル・インパクト・ファンド投資事業有限責任組合 | 介護予防による介護給付費の適正化を目指し、高齢者を対象に、社会参加促進サービス事業者の創意工夫を凝らした社会活動量を増やすプログラムを提 供。 |
SIB による非行少年への学習支援事業 | 法務省 | 株式会社日本政策投資銀行 (信託受益権投資型スキーム) 株式会社三井住友銀行(変動金利型貸付) 株式会社CAMPFIRE (融資型クラウドファンディング) | 少年院在院者のうち、出院後の継続的な学習に意欲のある者に対し、少年院在院中に学習支援計画の策定等を行った上で、出院後、最長1年間にわたり、継続的な学習支援を実施。 |
(1) PFS事業の実施体制に含まれる者は次のとおりである。
① 委託者(PFS事業を発注し、支払いを実施する地方公共団体等)
② 受託者(PFS事業の事業活動を実施する民間事業者)
③ 第三者評価機関(成果指標の測定、アウトカム評価のほか、事業活動の有効性等について、第三者の立場から評価する者であり、評価の独立性を確保する上では設置が望ましい)
④ 中間支援組織(地方公共団体等やサービス提供者等の事業関係者の間の調整や、案件形成を実施する者)
⑤ 資金提供者(事業活動に必要な資金を提供し、成果連動リスクを負担する者)
(3)PFS事業の実施体制は、地方公共団体等がPFS事業を委託等するために締結する契約(以下「PFS契約」という。)の相手方に応じて分類できる。
① 直接型:地方公共団体等とサービス提供者がPFS契約を締結する場合
② 間接型:地方公共団体等と特定の民間事業者がPFS契約を締結し、同事業者がサービス提供者に再委託して事業活動を実施する場合
【解説】
① 国内の先行事例で、中間支援組織として活動している者としては、コンサルティング会社等があり、地方公共団体等を支援する立場から、案件形成を実施する場合が多い。中間支援組織の役割は、委託者に対して技術的な助言など伴走支援をする場合、成果評価の役割も担う場合など、事業によって様々である。また、第三者評価機関としては、大学や研究機関等が専門的な見地から評価を実施するほか、事業内容に関連の深い住民や業界の代表と専門家が、評価のための委員会を設置する場合もある。
表 3 PFS事業の実施体制と、特徴、事例
【直接型】 | ○直接型PFS事業は、サービス提供者を受託者とするものであり、実施体制が単純で分かりやすく、国内のPFS事業の多くで実施されている。 |
【間接型】 | ○間接型PFS事業は、事業の規模、内容等から、複数のサービス提供者が必要な場合等に、円滑な調整等を図るため、受託者 (SPC等)が複数のサービス提供者に再委託して実施する。 ○間接型PFS事業の実施例 ・【岡山市】生涯活躍就労支援事業 ・【xx市・見附市・白子町】飛 び地自治体連携型大規模ヘルスケアプロジェクト |
(1) PFS事業の実施手順は以下の通りである。
ステップ3
民間事業者の選定・契約
ステップ2案件形成
・成果指標
・成果指標の上限値等
・評価時期、契約期間
・支払上限額
・支払条件
・成果評価の方法
・パイロット期間の検討
ステップ5 評価、支払
ステップ4 事業実施
PFS契約の締結
民間事業者の公募
成果水準書(仕様書)(案)等の作成
実施体制に関する検討
民間事業者との対話
ステップ1 | 社会課題の明確化 PFS導入の検討 WTPの検討 社会課題解決に向けたxxxxの検討 | 民間事業者との対話 |
社会課題解 | ||
決のための | ||
PFS導入 | ||
の検討 |
【解説】
① PFSの検討では、まずは事業の目的、生み出そうとするアウトカムを明確に言語化し、その上で、当該アウトカムにどのくらいの価値(経済価値として換算されるものに限定しない)があるかの検討を、委託者が中心となって行う。その後、アウトカムの受益者である想定する事業対象者(住民等)やノウハウのある民間事業者との対話をしながら案件形成、事業者の選定、契約、実施へと進む。
② 基本的には図示したステップ及び後に詳述する順序で検討を進めていくが、実際には、前のステップに戻り、以前の検討内容を見直す場面も生じることに留意する。たとえ ば、受益者や民間事業者との対話を進める中で、事業者が持つ社会課題に関する情報
(ニーズのある集団の詳細な実情に関するデータ等)を得たことで、設定した社会課題や、その解決のためのロジックを見直すといったことである。
③ PFS事業は新しい官民連携の手法であり、複数の部局にまたがる調整等が必要であるため、官民連携や行財政改革等を担当する部局のほか、PFS事業の実施を具体的に検討する事業担当部局、契約を担当する部局、予算を担当する部局等との間で、緊密な連携、調整を行い、PFS事業の実施に向けた準備を円滑に進めることが望ましい。
2 民間事業者との対話(マーケットサウンディング等)の全般的な留意事項
(1) PFS事業をより効果的で実現可能なものとするため、案件形成の必要な段階において、マーケットサウンディング等の民間事業者との対話を行う。
(2) 委託者と受託者の情報の非対称性に留意し、可能な限り、単一ではなく複数の民間事業者にヒアリングを行う。
【解説】
① PFS事業を効果的に実施するためには、民間事業者との対話による情報収集が重要である。これまでの事例の多くでは、民間事業者が任意かつ無償で意見交換を行うマーケットサウンディングが活用されている。マーケットサウンディング等を行わず、地方公共団体等と民間事業者の間の認識や情報保有の状況の隔たりが大きいまま調達を実施する場合、アウトカムに対する過剰な支払い、過小な支払い(または調達へ参加する民間事業者の不在)などの問題が生じ得る。
② 委託者である地方公共団体等に比べ、実績のある民間事業者は、成果達成と必要なコストとの関係など、多くの知見を有している場合が多い。こうした情報の非対称性を踏まえ、最終的に適正な価格での契約に至るためには、地方公共団体等が複数の民間事業者にヒアリングを行うことが望ましい。
③ 案件形成初期のマーケットサウンディングでは、事業説明会を合わせて行うなど、 事業者に対して広く周知する工夫をすることで、より効果的なノウハウをもった事 業者の参入可能性を高めることができる。内閣府PFSポータルサイトにおいては、社会課題解決のノウハウを持つ民間事業者が関わった過去のPFS事業の事例を公 開している。また、行政機関や企業・団体が運営する官民連携の推進を目的とした プラットフォーム等もある。これらを情報の発信や収集において活用することも有 効である。
④ 案件形成が進んだ後の段階におけるマーケットサウンディングでは、必要な事業費の見積も重要となる。複数の参加者が競争的な関係となることで、事業費に関する的確な情報が得られやすくなる。また、xxかつxxな調達手続きの実施のためには、手続きの一部を公表して行うことも有効である。
⑤ マーケットサウンディングに参加した事業者名や、具体的な提案内容は非公開とする場合もあり、特に、企業秘密に関わる事項は原則として非公開とすることが適当である。地方公共団体等は、適切な秘密保持を確保することで、事業の案件形成に
有 効 と な る 詳 細 な 情 報 を 民 x x 業 者 か ら 得 る こ と が 期 待 で き る 。 他方、民間事業者の同意を前提として、案件形成における官民対話の内容を公表
することにより、行政の透明性を確保するとともに、住民を始めとするステークホルダーの関心を高めることができる場合もある。
⑥ マーケットサウンディングは、原則、民間事業者が任意かつ無償で対応する場合が多 く、過度の負担を強いることは望ましくない。地方公共団体等は、案件形成の各段階に応じ、目的意識を明確にした上で、効率的に実施することが重要である。なお、マーケットサウンディングへの参加により、民間事業者において、社会課題解決への関心が高まることも期待されることに留意し、地方公共団体等は、可能な限り丁寧に情報提供し、意見交換を図ることが望ましい。
(1) PFS事業の検討に当たっては、最初に、解決を図ろうとする課題、社会的ニーズの内容を明らかにする。既存の総合計画や個別計画、それらの策定過程で得られた様々なデータなどは、効果的な資料になると考えられる。また、必要に応じて新たなデータや情報を収集する。
(2) また、社会課題の明確化のためには、社会的ニーズのある人々の特定を行う。事業実施により、直接・間接にメリットを享受する人が誰であるかを整理する。必要に応じて、当該社会課題に関する専門家からの助言や、社会的ニーズのある人の声を聴くための手続き(過去のデータの確認、インタビュー、アンケート等)を行う。
【解説】
① PFSにおいては、事業の活動ではなく、それによって生み出された社会的なアウトカムに対して支払いがなされるという基本的な考え方がある。案件形成から事業実施までを通じ、アウトカムの概念整理が十分になされていないと、事業が本来の目的から外れたり、関係者間での議論が進まなかったり、成果指標が設定できなかったりする事態に陥りかねない。このため、PFS導入の最初のステップとして、社会課題の明確化を行う必要がある。
② ただし、後のステップにおいて、関係者の声や事業に関するデータ等の情報が増えれば、当初に設定した社会課題を見直すことが適当な場合もあり、初期に明確化した社会課題を過度に固定的なものとするべきではない。また、解決すべき社会課題に幅広く気付くため、様々な立場からの声を聞くことが重要である。日頃から民間事業者の事業提案があった場合など、幅広に対話しPFS導入の可能性を探っておくことも有効である。
(1) PFSの活用は、次のような場面において特に効果的である。
① 解決を目指す社会課題に関して、地方公共団体等において解決のための事業の実施方法が明確でない一方、民間事業者側にノウハウの蓄積がある。
② 目標を設定し、成果に応じた支払い条件を設定することで、民間事業者の意欲・ノウハウを引き出し、成果を向上させることができる。
③ 民間事業者に事業活動について一定の裁量を与えることができ、それによって成果が向上する可能性が高まる。
(2) PFSの案件形成においては、民間の事業意欲を引き出すことが重要である。導入に必要な情報収集や、事業のロジックの整理、民間事業者の募集や対話等の調整など、追加的な手間やコストが発生する。こうした負担を上回るだけのメリットの創出を意識して、導入を検討することが望ましい。
改訂前のガイドラインでは、可能な限り、社会的便益(社会的コストの削減額や行財政効果額)または成果改善効率の向上効果を定量的に算出することとしていた。また、民間事業者への支払額について、算出した社会的便益を上回らないように設定することとしていた。しかし実務上、多くの事例では、社会的便益の算出に必要なエビデンスが不足しており、事業が創出しようとする価値の全体のうち、定量的なデータが得られる限られた領域のみに焦点が集中したり、不正確な理解に基づきエビデンスを拡大解釈して便益額を推定したりすることが散見された。
他方、社会的便益や成果改善効率の向上が数値として示せなかったり、または示された数値が事業コストを下回ったりするにもかかわらず、地方公共団体等が事業の推進を望むケースが多くあった。そこでは、地方公共団体等が、住民のニーズを、定量化されていない領域も含めて評価して価値を特定し、その価値に対して支出をするという判断プロセスが暗黙のうちに働いていたとみられる。今後PFSの一層の普及促進に当たっては、こうした暗黙裡の価値判断を「見える化」し、ステークホルダー間で共有するとともに、必要に応じた検証を可能とすることが重要であると考え、本ガイドラインにおいては、事業検討の過程で検討すべき新しい価値判断の尺度として、以下に述べるWT Pの概念を導入することとした。
WTPの設定方法やフレームワークなどは、現時点において確立しておらず、画一的な厳密さが求められることはない。ただし、案件形成の過程では基本的に、社会的便益や成果改善効果が定量的に算出可能であるかを吟味し、可能な場合はその定量的な分析の上で事業化を検討する。この点は、改定前のガイドラインで示した考え方と同様である。
(1) ステップ1-1で明確化した社会課題、社会的ニーズについて、その重要性がどれほどのものかを検討し、支払意思額(WTP: Willingness to Pay)として設定する。WTPは、最終的な事業予算額の上限となる。
WTP:最終的な事業コストの支払者(地方公共団体等)が、目指すべき成果の達成のために最大限支払ってもよいと判断できる額
(2)WTPの設定は、次のような要素を考慮する。
ア 経済価値換算されたアウトカムに関するエビデンス
イ 経済価値換算されていないアウトカムに関するエビデンスウ 既存事業のコストと実績
エ 市場価格調査の結果(※案件形成が進み、後述の成果水準書(案)を作成した後になる)
(3) WTPは容易に設定できない場合が多く、専門家による評価や、住民等のステークホルダーとの対話の場の設定など、その検討自体に一定のコストが発生する。事業の重要性や規模などの特性に応じて、その手続きのあり方を判断する必要がある。
(4) 委託者の視点からはWTPを下回る支払額となればよく、受託者の視点からは支払額と事業に要した実費の差が利益となる。委託者及び受託者共にxxxxが生じるような支払額を設定することが望ましい。
(5) 事業の効果は、多くの場合、複合的であり、誰に対し、どのような効果が、いつ
(時点や持続期間)、どのような確からしさで生じるのかを考える必要がある。整理された効果の全体のうち、委託者(成果支払者)が負担することが適当と判断した金
額が、WTPに相当する。
(6) WTP決定は、政策的な判断をするプロセスである。利用可能なエビデンスに基づくことで科学的な妥当性を高めるとともに、可能な限り住民等のニーズを反映させることが重要である 1。この際、意思決定の根拠や議論の流れを公開し、透明性や事後の検証可能性を確保することが望ましい。
【解説】
実務担当者の
判断
WTP
(何がどれだけ重要か)
既存事業の
費用対効果
住民との対話
ワークショップ
専門家の
助言・監修
将来の社会的便益や社会的コストに関するエビデンス
図 3 WTPを設定するための主な要因
① WTPの設定においては、可能な限り、(2)アの経済価値換算されたアウトカムに関するエビデンスを収集することが効果的である。たとえば、xx市の介護予防事業
「ずっと元気!プロジェクト」においては、介護予防分野のエビデンスに基づき、将来、10 億円の介護保険給付費削減を目指し、5億円の事業費を設定している。社会課題の解決により、行政等が負担する将来のコストを削減できることが期待できる場合、その削減額を上回らない範囲でWTPを設定することは、合理的で住民の理解も得られやすいだろう。
② (2)イ経済価値換算されていないアウトカムに関するエビデンスを収集することも重要である。たとえば、運動の習慣化が健康寿命を延伸することを示唆するエビデンスがあれば、期待できる定量化されたアウトカム(健康寿命の増加量)に基づき、それに対してどのくらいの価値があるかを関係者が議論し、決定することができる。この際、上述(2)アの場合よりもWTPにはぶれが生じやすいと考えられるため、偏りのない判断ができるように丁寧に議論を行うことがより重要となる。
1 政策に関する住民等とのコミュニケーションについては、以下の資料を参照。
③ (2)ア及びイのようなエビデンスが存在しない場合は、ウのように既存事業と比較した際の成果改善効率の向上に基づく設定が考えられる。PFSの導入を検討している領域において、既存事業があり、その効果(経済価値換算されていないものでも可)が測定されている場合には、その費用対効果をもって、WTPを検討する基準とすることができる。たとえば、年間 1000 万円の費用をかけてがん検診受診を 10%向上させてきたという実績があり、かつその実績が住民等のステークホルダーにとって十分満足度できる水準である場合、+10%の受診率に対し、1000 万円/年のWTPがあるとみなすことができるだろう。
④ 上述のようなエビデンスや過去の実績データが存在しない場合は、市場価格調査を実施し、受託する可能性のある民間事業者からの参考見積を得て、初めてWTPを設定することが考えられる。この場合は、本ガイドラインのステップ3-1まで案件形成を進め、成果指標や支払い条件等を含む成果水準書の案を作成する必要がある。
(1) PFSの活用においては、社会課題の解決というアウトカムに到達するまでの道筋を具体的に検討する。実務において最もよく使われるのは、事業がその目的を達成するに至るまでの論理的過程を図示するロジックモデル 2である。その基本形は、次の要素で構成される。
アウトカム
アウトプット
活動
(アクティビティ)
インプット
① インプット
事業を実施するために必要な資金や人材等の資源
② 活動/アクティビティ
インプットを使って実施する活動
③ アウトプット
活動により生み出される直接の結果や状態
④ アウトカム
事業によって生じるサービスの対象者、組織、社会に現れる変化
(※初期アウトカム~最終アウトカムなど、レベルを分けて示すことが多い)
(2) PFSの検討においては、基本的に、社会課題の解決というアウトカムから、その達成のために何が必要であるか逆算して考える(バックキャスティング)。事業検討の初期の段階では、最終的な目標に近いアウトカムに関連する要素と、要素間のロジックを明確にすることに注力し、アウトプット、活動、インプットについては、後の案件形成の過程における民間事業者等と対話する中で具体化する。
(3) ロジックモデルの作成においては、モデルに含まれる要素に過不足はないか、要素間の因果関係は論理的に妥当か、その因果関係の確からしさや影響の大きさはどの程度か、といった視点で検討する。検討においては、実務担当者の経験や知見、他の類似事例、エビデンスを活用する。この際、専門家の意見を仰ぐことも有効である。
【解説】
① ロジックモデル上で最終的な目的に近いアウトカムに紐づく支払いのみが設定された 場合には、PFS事業を通じて収益を得ることが困難と判断されやすく、民間事業者 が参入してこない可能性がある。仮に民間事業者が現れても、最終的な目的を達成し ようとする過程において、事業活動が思わぬ副作用をもたらす場合もあるだろう(詳 細は2-9歪んだインセンティブも参照)。また、アウトカム発現までの流れの検討に ついて、地方公共団体等が主体的に関与せずに民間事業者に任せきりにしていた場合、たとえ効果が出たとしても、その後の政策判断や、新たな政策立案に資する学びを得
2詳細は以下等を参照。
2017 年 1 月、PwCあらた有限責任監査法人「内閣府委託「社会的インパクト評価の普及促進に係る調査」 社会的インパクト評価実践研修 ロジック・モデル作成の手引き」
https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/h28-social-impact-sokushin-chousa-02.pdf
ることが難しくなる上、次回以降、当該事業者以外での受託が難しくなる懸念がある。こうしたことがないように、ロジックモデル等のツールを活用し、事業の全体像を理 解、共有することが重要である。
② ロジックモデル作成においては、民間事業者と対話を重ねながら、アウトカム、アウトプット、活動、インプットを具体的にしていく。事業の質を高めるためには、行政内部の関係者(所管部署と関係部署)、当該事業の専門家、受益者や事業対象者など、関係者が対話に参加することが望ましい。案件形成の初期段階にあって、民間事業者からは、社会課題を解決するためのアイデアや成果改善の可能性等を主に聴取することが考えられる。この段階では、当該社会課題の解決に関連する変数、測定のためのデータの取得方法、社会課題との関連の大きさ等について、民間事業者のインプットを得ながら幅広く検討することが想定される。事業の具体性が見えておらず、事業者の関心が高くない初期段階においては、委託者が積極的に、可能性のある事業者から情報や関心を引き出すため、積極的に動くことが求められる。このような対話を欠いた案件形成は、地方公共団体等が全く知らない新たなノウハウをもつ事業者の参画を遠ざけたり、現実的でないサービスを想定してしまったりすることにつながりかねない。
③ 実務的な見地からは、ロジックモデルは、関係者が課題や事業の意義について、共通の理解を得るためのものであるが、その作成過程で多くの議論をしているうちに、要素が多くなったり、因果関係を示す矢印が増えたりしがちである。過度に複雑なモデルでは、関係者間で認識のずれが生じたり、事前や事後の評価のためのコストが増したりするおそれがある。実務に携わる関係者は、なるべくシンプルなモデルにまとめるように留意しておくとよい。また、ロジックモデルは、ある時点における仮説であり、完全なものや普遍的なものではない。案件形成を進める過程や、実際に事業を開始した後に得られた情報を基に、修正を行うことが必要な場合もある。ただし修正の意思決定は、作成時と同様に関係者での議論や認識の共有を行い、記録を残しておくことが重要である。
④ アウトプットとアウトカムの区別は重要だが、明確な線引きは難しい。判断に当たって留意すべき点は、解決を目指す社会課題との関連性、サービス提供者によるマネジメント/コントロールの可能性、発現の時期などがある。アウトプットと比べ、アウトカムは、社会課題との関連性が高く、事業者のマネジメントにより結果を左右しにくく、発現の時期が遅いといえる。
(1) PFS事業における成果指標は、一定の手続に従って測定され、その値が支払額と連動するものである。地方公共団体等は、PFS事業の成果指標について、次の①から④の点に留意しながら設定する。
① 事業の最終目的との間に一定の因果関係があること
② できるだけ客観的なデータに基づくものであること
③ データへのアクセス、コスト、倫理的な配慮を踏まえ、測定可能なものであること
④ サービス提供を行う民間事業者の努力やサービスの質が反映されるものであること
(2) 類似するPFS事業の実施例がある場合、地方公共団体等は、当該先行事例の成果指標を活用することが可能であるが、地域の実情や特性に留意する。
【解説】
① 国内の先行事例では、次のような社会課題と成果指標が設定された例がある。
事業活動 | ⇔ | 成果指標 | ⇔ | 社会課題 | |
PFS事業の対象者層 | 将来の効果 | ||||
(民間事業者の提案を審査し、決定) | ・生活習慣改善率 ・腎機能低下抑制率 | 糖尿病性腎症等の恐れがある者 | 糖尿病の重症化予防 | ||
・受診率 ・早期がん発見者数 | 大腸がん検診未受診者 | 大腸がんの早期発見、早期治療 | |||
・参加者数 ・継続者数 ・BMI改善率 | 65 歳以上の高齢者 | 社 会 活 動 へ の 参 加、継続 | |||
・参加者数 ・禁煙継続者数 | 20 歳以上の市民及び在勤の喫煙者 | 喫煙による健康の悪化の予防 |
図 4 社会課題に対応する成果指標の例
② 成果指標は、原則として、事業の直接の結果であるアウトプットではなく、アウトプットがもたらす状況等の変化であるアウトカムに相当するもので設定する。一般的 に、アウトカムは、事業の最終目的に近いものであるほど、PFS事業以外の要因による影響を受けやすくなる。委託者である地方公共団体等の立場からすれば、より最終的なアウトカムに支払いを連動することが望ましいが、そうすることにより、事業活動以外の要因によって成果が左右され、民間事業者にとっての成果が低下するリスクが高まる。目指す成果との関連性と、官民連携の実現性のバランスをうまく取れるような成果指標を設定することが求められ、このためには、効果的なマーケットサウンディング等の対話が重要である。具体的には、ロジックモデル上の初期のアウトカムと中長期のアウトカムにかかる成果指標を設定したり、中間的な成果指標を民間事業者に提案させたりすることが考えられる。ステップ2-5も参照。
③ PFS事業は、成果指標の連動が、地方公共団体等の支出を決定するものであり、納税者に対する説明責任を適切に果たす観点から、その指標は客観的なものであることが望ましい。また、指標測定に係る客観性を確保することは、委託者と受託者の間において、認識の食い違いを避け、公正に契約を履行することにもつながる。
④ アウトカムが、Well-being や孤独感など、人々の主観的体験に関するものである場合は、アンケートへの回答を成果指標にすることも考えられる。こうした場合、信頼性や妥当性の高い測定方法を行うためには、先行事例や先行研究を参照するとともに、専門家の助言を得ることが望ましい。
⑤ 評価、支払に係る負担等を考慮し、支払額と連動させる成果指標はある程度限定する
(3つ以下程度)ことが望ましい。
⑥ 成果指標やその測定方法は、PFS活用を検討する他の地方公共団体等にとって、非常に有用な情報である。その詳細について、他の団体が再現可能な程度の詳細さをもって、公開、共有されることが望ましい。
(1) 地方公共団体等は、支払額が最大となる場合の成果指標値(以下「上限値」という。)について、住民の意見や、既存の計画等を参考にして、政策的に達成が必要な水準として設定する。
(2) 地方公共団体等は、最低限の達成すべき成果指標の水準(以下「下限値」という。)を設定してもよい。下限値の設定では、現状値や、法令や地方公共団体等の計画等が設定する最低限の達成すべき水準を考慮する。PFS事業の支払額としては、下限値の水準までは、固定支払のみを行う。
(3) 地方公共団体等は、(1)及び(2)の上限値等を検討するに当たっては、マーケットサウンディング等により、民間事業者との対話を有効に活用する。マーケットサウンディング等の結果、当初に設定した上限値の実現可能性が非常に低いと見込まれる場合、上限値を下方修正することが考えられる。
(4) 上限値等の設定は、事業に活用できる予算や、2-4及び2-5の支払に関する検討結果も考慮する。
【解説】
① 上限値について、地方公共団体等は、社会課題の解決に関し、政策的に達成が必要な目標値を考慮して設定する。既存の総合計画や個別計画に目標値が定められていない場合、国や他の地方公共団体等の事例も参考とすることも考えられるが、そのまま流用することは、地域固有の状況を踏まえると困難な場合が多いだろう。現実的かつ高水準の範囲に上限値を設定するため、マーケットサウンディング等を通じて、関連領域において実績のある民間事業者の声を聴くことが重要である。また、上限値の設定や修正に当たっては、WTP設定の際と同様に、当該事業の専門家、受益者や事業対象者など、関係者が対話に参加することも一考される。
② 下限値については、現状値や、既存事業がある場合はその実績値で設定するほか、地方公共団体等として最低限達成することが必要と考える水準で設定することが考えられる。
③ 新規の成果指標を設定した場合や、従来型の委託事業も含めて実績のない事業では、 その上限値等について、参考となる情報がない場合も想定される。このような場合は、小規模なパイロット事業を実施して成果指標値の取りうる水準を確認することも考え られる。詳細はステップ2-7を参照。
(1) 地方公共団体等は、事業活動による成果指標の変化を適切に評価するための事業実施期間を設定する。通常、事業活動の開始から最終的な目的に近いアウトカムの発現には、1年以上の比較的長期間がかかることから、PFS事業においては、事業実施期間を複数年とすることが望ましい。
(2) 地方公共団体等は、成果指標の測定等及び成果評価を実施する時期(以下、「評価時期」という。)について、成果指標ごとに、次の①及び②を考慮して設定する。この際、必要な場合は、民間事業者の事業活動の実施終了から一定期間経過後に評価時期を設定する。
① 民間事業者の事業活動の影響が現れる時期
② 成果指標の測定等及び成果評価が可能な時期
(3) 地方公共団体等は、評価時期を含む契約期間が複数年となる場合、2-5で設定する支払条件を踏まえ、年度ごとの支出上限額を定めた債務負担行為を設定する。
【解説】
① 国内の先行するPFS事業には単年度の事業も散見されるが、モデル性の高い良事例における契約期間は、3年が多く、長いもので5年となっている。民間事業者にとっての予見可能性を高め、効果的な公共調達を行う上では、債務負担行為の設定が効果的である。地方公共団体等の関係者(事業担当部局、予算や契約の担当部局)においては、債務負担行為の設定になじみがない場合、過去の複数年度にわたる良事例を参照することが望ましい。
② PFSアクションプラン(令和5年度~令和7年度)においても、先導的な事例の要件の一つとして、複数年の事業期間を置いている。
(1) 2-6までのステップにおいて、事業実施の手続きに不確定要素がある場合や、成果指標のベースラインの設定が困難な場合には、パイロット期間(試行期間)を設定することを検討する。
(2) パイロット期間を経ても、基本的には、契約の内容(とりわけ成果指標の内容、目標値及び支払条件など)を見直さないことが望ましい。変更が見込まれる場合は、可能な限り、成果指標や支払条件の変更の範囲や、変更の検討を開始する要件をあらかじめ設定しておく。また、検討の結果を公開して透明性を確保するほか、専門家や関係者の意見を聞くなど、効果的かつ公正な手続きとなるよう努める。
【解説】
① PFSは、仕様発注による契約と比べ、あらかじめ起こり得る事態を想定できない要 素が多い契約である。また、不確定要素によって生じるリスクは、支払額の変動とし て、民間事業者が負担する部分が大きい。特に、前例のないような事業の場合は、民 間事業者がリスクを忌避して参入しなかったり、現実的でない条件で契約をした結果、事業がうまくいかなくなったりするおそれがある。こうした懸念を軽減する一つの方 法として、契約の一部にパイロット期間を設定することがある。
② 国内でパイロット期間を設定した事例として、古河市の古河市参加支援事業(令和3年度~5年度)がある。同事例では、社会参加の支援方法の確立及び成果指標の精度を検証することを目的として、2年6か月の事業期間のうち、最初の2か月程度を試行期(成果連動支払いはなし)とした。試行期に得られた情報は、事業者が発注者である古河市に報告し、これをもとに第三者評価機関(委員会)の専門家等の意見に基づいて、成果指標の基準等の見直しの必要性が検討されることとされた。
(1) 地方公共団体等は、全ての成果指標が上限値まで改善した場合の支払額(以下「支払上限額」という。)を、WTP以下になるよう決定する。
(2) 地方公共団体等は、支払上限額が、民間事業者が事業活動に要する費用を上回るように決定する。
【解説】
予算措置ができる上限額
事業者の利益
価値(WTP)
その他コスト
(案件形成、評価等)
契約額
(最大成果達成時)
事業者が受注できる下限額
受注先の民間事業者の事業実施コスト
発注者の コスト負担
価値(WTP) コスト
図 5 WTPとコストの関係-官民双方にメリットがある契約額の設定
① 委託者の視点からすれば、費用は低額であればあるほど良い。しかし、余りに低額の価格設定で事業を実施し、さらに、将来にわたり、あるいは他の団体において同様の過小な価格設定で事業調達がなされるようになると、当該社会課題の解決に参画する民間事業者がいなくなるかもしれない。WTPと事業者の事業実施コストの間に、バランスの取れた契約額の設定を行うことが大切である。
② 民間事業者の事業活動に要する費用については、企業秘密に含まれることが想定され、地方公共団体等に共有することが難しい場合がある。こうした限界を念頭においた上
で、次の方法により推定することが考えられる。
(ア) マーケットサウンディングでの複数の民間事業者からの聞き取り
(イ) 既存事業や類似事業の事業費の内訳の精査
③ WTPや事業実施コスト等は、いずれも、一定の幅を含む推定値であることに留意が必要である。一定の推定の幅の中で、慎重に判断するか、楽観的に判断すべきかについては、一概には言えず、事業内容やアウトカムの性質、地方公共団体等の財政状況や住民等の声を考慮するべきである。緊縮的な財政支出が必要な場合は、WTPについては小さく想定することが適当であろう。一方、社会課題解決のためのイノベーションが強く求められ、チャレンジをしないことがリスクとなるような場合は、ポジティブな見通しをもって事業を進めるという判断が適当であろう。仮に、WTPを大きく上回る事業費用が推定される場合は、その事業の実施は合理的ではなく、大きな見直しか、事業中止という判断が適当である。
(1) 地方公共団体等は、PFS事業における委託費等の支払時期及び支払額について、民間事業者が負担することができる成果連動リスクや複数年にわたる事業を想定した場合の事業期間中の運転資金の確保や、地方公共団体等の財政的な制約等を考慮し、以下のいずれかで設定する。
① 契約終了時に成果指標値の改善状況に応じた委託費等を一括で支払う
② 事業期間中に確認できる成果指標に応じて、段階的に支払う
(2) 地方公共団体等は、民間事業者や資金提供者にとっての成果連動リスクを軽減するため、中間成果指標を設定することもできる。中間成果指標を設定する場合は、最終的な成果指標と論理的につながる指標とすること。
(3) 地方公共団体等は、委託費等のうち、成果に関わらず支払う部分(以下「固定支払額」という。)を設けることもできる。この場合は、成果指標値の改善状況とは別に、契約上、民間事業者に仕様を定めた業務の実施や成果物を求め、それを確認して支払いを行う。
(4) 以上のような支払条件によって、民間事業者が負う成果連動リスクが変動することから、地方公共団体等は、マーケットサウンディング等を実施し、必要に応じて、民間事業者が参画しやすい条件となるよう見直しを行う。
(5) 新規の事業において、民間事業者にとって成果連動リスクが大きい場合は、パイロット事業を実施することも考えられる。詳細はステップ2-7を参照。
【解説】
① 成果連動支払額と固定支払額に関して、国内の先行事例では、以下のような支払条件が設定されている。
表 4 成果連動支払額と固定支払額の例
地方公共団体 | 事業名 | 支払上限額 (千円) | 固定支払額 (千円) | 成果連動支払額 (千円) | 成果連動支払額/総支 払額 |
八王子市 | 大腸がん検診・精密検査受診率向上事業 | 9,762 | 0 | 9,762 | 100% |
神戸市 | 糖尿病性腎症等 重症化予防事業 | 34,063 | 10,482 | 23,581 | 69.2% |
岡山市 | SIBを活用した健康ポイント事業 | 370,388 | 275,388 | 95,000 | 25.6% |
② 中間成果指標は、2-1で地方公共団体等が事業の最終目的から設定、選定した成果指標と論理的につながるものである限り、アウトプットを活用することも差し支えない。ただし、アウトカムの達成に向けて様々なアクターの協働を強くするというPFSの目的に照らせば、アウトプット指標に連動した支払額の割合が大きくなりすぎることは望ましくない。
③ 支払条件の検討の際は、支払上限額及び下限額の検討の際と同様に、成果連動リス
クを適切に官民で分担し、最も効果的な事業を提案する民間事業者の参入可能性を把握することが重要である。固定支払額の設定、支払いに連動させる中間的な成果指標の追加的な設定は、適切に行うことで、民間事業者のリスクを低くすることができる。中間成果指標は、ステップ3で民間事業者を選定する際に公募条件として示す場合のほか、民間事業者の事業活動の実施方法によって測定等ができる中間成果指標が異なることがある。民間事業者から中間成果指標の提案を求め、選定後に当該民間事業者と協議の上、決定することも一考される。
(1) PFS事業における成果(アウトカム/インパクト)の評価は、事業活動と成果指標の実績との間の因果関係を評価するものである。
(2) 地方公共団体等は、事業の性質、成果評価の目的、成果評価に利用可能なコスト、倫理的な配慮を踏まえ、適切な成果評価の方法を検討する。
【解説】
① 成果評価を適切に行うためには、2-1で検討した成果指標が、適切に設定、測定されることが前提となる。
② 成果評価の妥当性は、因果関係の有無や関係の強さについて、少ない誤差で推定できるほどよい。因果関係の検証の基本的な考え方は、PFS事業が実施されなかった場合の仮想の結果と、実際の結果とを比較することであり、通常、次の3つの条件を満たしているかを検証する。
A.変数間の相関があること B.原因が結果に先行していること
C.その他の要因の影響を分けて考えられること
③ 成果評価の方法には様々のものがある 3。PFS事業における代表的な方法の長所と短所は、次の表のとおりである。地方公共団体等は、案件形成の時点において、適切な評価の方法を選択する必要がある。
3 前掲。
表 5 PFS事業における成果評価の方法の例
方法 | 長所 | 短所 | 事例 |
ランダム化比 較 試 験 (RCT) | ⚫ 因果推論の誤差が小さい ⚫ 評価の専門性がない関係者にもわかりやすい | ⚫ 倫理的に実施できない場合がある ⚫ コストがかかりやすい | 横浜市「 産婦人科 医・助産師・小児科医による遠隔健康医療相談サービス事 業」 |
R CT以外の 2 群 比較、ベースラインとの 比較 | ⚫ 因果推論の誤差を中程度にできる ⚫ RCTを実施できない 倫理的懸念を回避できる場合がある | ⚫ 評価の専門性がない関係者にわかりにくい ⚫ 複雑な手法の場合、支払条件に反映させにくい ⚫ コストがかかりやすい | 法務省「ソーシャ ル・インパクト・ボンド(SIB)による非行少年への学習支援 事業」 |
対照群のない前後比較 | ⚫ コストを抑えやすい ⚫ 評価の専門性がない関 係者にもわかりやすい | ⚫ 因果推論の誤差が大きい ⚫ 倫理的なハードルは低い | 枚方市「いくつになっても誰もが主役の 介護予防事業」 |
※分析対象が個人ではなく、マクロな地域データ(通行量など)において、サンプルが1または 非常に小さいサイズの事業の場合は、前後比較や時系列の分析を行う。この際、適切なベースラインを設定するための配慮が必要である。 |
④ 住民やサービス提供を行う民間事業者において、成果評価にかかる専門性が備わっているとは限らず、外部から高いレベルの厳密性が求められることは考えにくい。しかし、地方公共団体等は、真に成果の高い事業を行う責任を負っているため、成果評価においてどこまでの厳密性を求めるか、すなわち因果推論の誤差をどこまで許容するかについては、自ら主体的に検討する必要がある。行政の事務事業の評価では、対照群のない事前事後比較が用いられることが多いが、実際には、介入の効果を正確に把握する上では限界がある。特に、PFS事業においては、成果に応じて支払いが発生するため、従来の事業よりも成果を厳密に測定することは重要である。適切な成果評価の選択に当たっては、評価の専門家に助言を仰ぐことも有効だろう。
(1) 地方公共団体等は、案件形成後に実施する民間事業者の選定において、直接型、間接型などのいずれの実施体制とするか、資金提供者が事業に参画するかどうか(SI Bとするかどうか)について、民間事業者とも対話しながら検討する。
(2) 地方公共団体等は、評価の透明性、客観性を担保する必要性が高い場合、第三者評価機関の活用を検討する。第三者評価機関においては、適切な成果指標が設定されるか、成果評価の結果が妥当なものであるか、といった判断をすることが期待される。
【解説】
① PFS事業の主要な実施体制のメリット及びデメリットは、以下の通りである。
表 6 PFS事業の実施体制の比較表
直接型 | 間接型 | |
メリット | ・事業受託者と直接契約となるため、調整に係る負担が小さい | ・複数のサービス提供者が事業活動を実施する場合に、円滑な調整等が可能となる。 |
デメリット | ・複数のサービス提供者と契約する場合、事業全体における調整負担が大きい | ・各事業者の意向や考え方を直接把握できないため、認識の齟齬などに留意する必要がある。 |
② 第三者評価機関を設置する場合、その構成は様々な場合が考えられる。事業に関する専門的な知見を活用することが専らの目的である場合、大学の研究者等が評価を担うこともあるだろう。一方、事業のアウトカムに関する価値判断に、関連するステークホルダーの声を適切に反映したい場合、専門家だけでなく、住民や業界団体の代表者を 含 め た 評 議 委 員 会 等 の 組 織 を 設 置 す る こ と が 考 え ら れ る 。
第三者評価機関に諮る事項としては、実施する事業内容や実際の取組内容を踏まえ、指標や目標設定の適切さ、成果評価の適切さ、などが考えられる。第三者評価機関は、事業の実施後だけでなく、評価の目的に応じ、事業の案件形成段階から設置する場合、事業実施後の総括的な評価をさせる場合などが考えられる。
(1)地方公共団体等は、歪んだインセンティブ(成果指標の設定によって、結果的に、成果指標値は改善したものの本来の目的が達成されないような結果を導いてしまうような行動を誘引する可能性をいう。以下、同じ。)が働く可能性を検討し、その恐れがある場合は、歪んだインセンティブを回避する以下の方策を検討する。
①成果指標、支払条件の見直し
②事業対象者の募集・選定への地方公共団体等の関与
③事業活動の対象者のモニタリング
④地方公共団体等による事業対象者へのアンケート調査 等
【解説】
① 成果指標の設定の仕方によっては、民間事業者の事業活動に偏り等が生じ、事業対象者が受け取る全体的なサービスの質が低下する等の可能性がある。こうした可能性を十分に検討し、必要に応じて対策を講じる。
② 歪んだインセンティブの典型例として、以下のようなものがある。
表 7 歪んだインセンティブの典型例
類型 | 具体例 | 対策 |
成果指標値を改善しやすい対象に集中すること (チェリーピッキング、 クリームスキミング) | 健康増進に関する事業で、対象者のうち健康意識の高い人ばかりを対象にする等 | 対象者や優先すべき対象者の具体的な設定、対象者募集・選定への委託者の関与 |
成果を達成できない可能性の高い対象を無視すること (いわゆるパーキング) | 介護予防に関する事業で、成果指標値の改善可能性の低い人にサービスを提供しない等 | 対象者や優先すべき対象者の具体的な設定、対象者募集・選定への地方公共団体 等の関与 |
偏った方法によるデータ取得 | 学力向上事業で、同じ生徒に対して複数回テストを実施し、得点が高い結果のみを報 告する等 | 成果指標と測定方法について、時期や手続きを事前に具体的に設定 |
事業活動の結果、事業の目的や社会課題の解決に反する状況が意図せず生まれること | 介護予防に関する事業で、要介護者のリハビリを強要することで、介護予防は達成できても、事業対象者のQOLが 下がる等 | 事業の実施中や実施後における評価(対象者や実務担当者へのアンケートやインタビュー)、支払いに紐づ けない指標の設定 |
③ ただし、歪んだインセンティブが働く可能性の検討に際しては、マーケットサウンディングを通じて事業イメージの具体化が進んできたところで、中間支援組織や第三者評価機関からアドバイスを求めることも有効である。
成果指標、支払条件の見直し | ・事業のプロセスに関する成果指標を追加する ・事業のプロセスに関する成果指標を支払額と連動させる、又は当該成果指標をモニタリングし、必要な場合に地方公共団体等が是正を求められるようにする |
事業対象者の募集・選定への 地方公共団体等の関与 | ・地方公共団体等が、民間事業者の提案する事業対象 者を確認するプロセスを設ける |
民間事業者による事業活動の対象者のモニタリング | ・地方公共団体等が事業対象者の要件を明示する ・地方公共団体等が、事業実施期間中に、民間事業者の事業活動が特定の者に集中していないか、または特定の者を回避していないか、報告を求めて確認する |
地方公共団体等による事業対象者へのアンケート調査 | ・事業の目的や社会課題の解決に反する状況が生じていないかを、事業対象者へのアンケート等で確認す る |
④ 歪んだインセンティブが働く可能性がある場合の回避方策の例は以下の通りである。表 8 歪んだインセンティブの回避方策の例
(1) 地方公共団体等は、公平性、透明性の観点から、公募により民間事業者を選定することを原則とする。地方公共団体等は、公募を行わない場合、受託者たる民間事業者の選定理由を公表する等、透明性を確保する。
(2) 地方公共団体等は、民間事業者の提案する事業活動の実施方法について、予算の範囲内で、成果指標値の改善がいかに達成されるかを審査する必要があり、基本的に は、競争性のある随意契約(公募型プロポーザル方式等)による調達を行う。
(3) 地方公共団体等において、実施を求める事業活動の大部分の内容が具体的に定まっており、企画内容とともに、支払額によっても競争をさせることが適当である場合 は、総合評価落札方式による一般競争入札も考えられる。
【解説】
① 公募の際に、成果指標やその上限値等、必要最小限の条件を提示し、民間事業者からの提案を踏まえて事業活動の実施方法を決定していく観点からは、公募型プロポーザル方式が考えられる。
② 総合評価落札方式による一般競争入札の場合、応募者に価格の提出を求めることとなるが、PFS事業では、案件形成段階で成果指標値と支払条件を設定するため、何を入札価格とするのかを決める必要がある。入札価格の設定方法としては、固定支払額がある場合は固定支払額を入札価格として成果連動部分は価格の提案を求めない方法や、成果指標1単位あたりの金額の提案を求める方法等が考えられる。
③ 公募資料の例を参考資料1に示す。
(1) PFS事業の委託契約は、契約書と成果水準書(仕様書)で構成される。
(2) 地方公共団体等は、公募型プロポーザル方式や総合評価落札方式による一般競争入札の実施に際して、契約書(案)及び成果水準書(案)を作成し、提示する。
(3) 地方公共団体等は、成果水準書(案)において、主に以下の項目を定める。このうち、④は民間事業者に提案を求めるものであるが、必要最小限の範囲で事業活動の実施方法について記載することも妨げない。
① 事業目的
② 契約期間、事業実施期間、評価時期
③ 事業対象者
④ 委託内容
⑤ 成果指標
⑥ 成果指標値の測定等、評価方法(データの収集、測定、成果評価の方法やその実施者)
⑦ 支払条件(成果指標値の改善状況に応じた支払額)
(4) 契約書(案)は、地方公共団体等における標準的な委託契約約款を活用することが可能である。
【解説】
① PFS事業では、事業活動の実施方法、すなわち仕様を地方公共団体等が特定しないことから、「成果水準書」という名称を使うことが通例である。
② 民間事業者の公募に際しては、民間事業者の提案の自由度を高める観点から、委託内容の記載は最低限にとどめる。また、契約終了時の成果指標値とそれに対応した支払条件を成果水準書(案)に記載し、中間成果指標やそれに対応した支払条件については、民間事業者から提案を求めることも考えられる(2-6【解説】③参照)。
③ 成果水準書の例を参考資料2に示す。
(1) 地方公共団体等は、意欲ある民間事業者の参加機会を必要以上に制限しないよう、参加資格要件を設定する。
(2) 地方公共団体等は、応募者からの提案の審査項目、審査基準、配点等を公募の際にあらかじめ明示する。その際、PFS事業では、民間事業者のノウハウ等を活用することで高い成果を創出することが重要であるため、以下の審査項目等を設定することが望ましい。
① 有効性(提案する事業活動の実施方法が高い成果を生み出すことの理由や根拠となる実績、定量的なデータの有無等)
② 実現可能性(実施計画の具体性、実施体制の構築状況、資金調達方法等)
③ 先進性(従来手法と比べた新しさ、革新性等)
④ 発展性、波及効果(対象事業の範囲外で期待される効果等)
⑤ 効率性
(3) 地方公共団体等は、公平性を確保するため、公告から提案書類の提出まで十分な期間を設けるほか、質問の機会を与えるとともに、質問に対する回答は他の応募者にも公表する。
【解説】
① 専門的な審査を行うことや、公平性・透明性の観点から、有識者等の助言を得る、有識者等からなる審査委員会を設けて意見を聞くことなども考えられる。
② 上記(2)の審査項目の例示は、PFS事業に固有のものを例示したものであり、例えば、地域性等、地方公共団体等が契約の相手方を選定する際に既に設定している審査項目を排除する趣旨ではない。
(1) 地方公共団体等は、選定された民間事業者の提案に基づき、成果水準書(仕様書)、契約書の内容について、当該民間事業者と協議の上、契約を締結する。
(2) 地方公共団体等は、民間事業者が資金提供者から資金調達する場合において、民間事業者の提案する資金調達方法により標準的な委託契約約款の修正を行う必要が生じる場合は、適切に対応する。
【解説】
① 間接型の場合は、受託者たる民間事業者からサービス提供者への再委託を行うため、再委託に関して委託契約約款の修正を行うことが必要になる場合がある。また、信託を活用した資金調達を行う場合、受託者たる民間事業者は委託料の請求権を信託銀行に譲渡することになる。標準的な委託契約約款では、契約上の地位、権利、義務の譲渡は想定されていないことが一般的であり、信託を活用した資金調達を行った国内の PFS事業において、委託契約約款の修正を行った例がある。
(1) 地方公共団体等は、成果連動リスクを民間事業者が負っていることを踏まえ、事業活動の実施方法についての民間事業者の裁量を確保する。
(2) 地方公共団体等は、事業対象者の選定やサービス提供の状況を含む、民間事業者の事業実施状況について、定期的に受託者たる民間事業者から報告を受け、事業のモニタリングを行う。また、事業の効果的な実施のためには、中間支援組織、第三者評価機関、資金提供者などの関係者を交えた情報共有や協議の場があることが望ましい。
(3) 地方公共団体等は、契約期間中に、地方公共団体等及び民間事業者のいずれの責によらない、事業の実施や成果指標に重大な影響を与える事象(不可抗力等のほか、事業分野に関連する社会的影響の大きな事象等)が発生した場合、受託者たる民間事業者から当該事象がPFS事業に与える影響について報告を求めた上で、必要に応じ て、民間事業者が提案し決定した事業活動の実施方法や、場合によっては成果指標の上限値等を含む支払条件の見直し等について、中間支援組織、第三者評価機関、資金提供者の意見も踏まえて、受託者たる民間事業者と協議を行う。こうした協議の在り方について、契約書に盛り込んでおくことが望ましい。
【解説】
① 地方公共団体等は、事業のモニタリングを効果的に実施するため、地方公共団体等と民間事業者とで情報を共有する場を設けることが望ましい。また、中間支援組織、第三者評価機関、資金提供者がPFS事業に参画している場合は、必要に応じてそれらの者も情報を共有する場に参加することも考えられる。
② 一部のPFS事業では、新型コロナウイルス感染症の影響により、事業活動の実施が困難になったり、予め定めた成果指標の上限値等や支払条件等が適さなくなったりする事態が生じた。このような場合、当該事象がPFS事業に与える影響の内容や、民間事業者の事業活動の履行状況等を勘案し、必要な見直し等を柔軟に行うことが望ましい。
(1) 地方公共団体等は、成果評価の方法に沿って、当該PFS事業の参加者の役割分担に基づき、成果指標値の改善状況の測定等及び成果評価を実施する。
(2) 地方公共団体等は、成果評価の結果とPFS契約に定める支払条件に基づき、支払額を決定する。
(3) 地方公共団体等は、契約期間終了後、事例の蓄積という観点から、PFS事業の実施による成果指標値の改善結果等を公表する。
【解説】
① 地方公共団体等は、成果指標値の改善状況の測定等及び成果評価に加えて、以下のような評価を行い、今後の取組に活かすことが望ましい。事業終了時の総括的な評価のほか、長期間の事業においてはモニタリングや事業改善のために適時行うことが望ましい。
(ア) 民間事業者が提案、実施した事業活動の実施方法は、社会課題の解決に有効だったか
(イ) 設定した成果指標は適切なものだったか
(ウ) 設定した成果指標の上限値や支払条件により、民間事業者に成果改善のインセンティブが適切に働いたか
(エ) 案件形成段階で想定したロジックモデルは適当だったか
(オ) 既存事業に比べて、PFSを採用したことにより成果改善効率が向上したか
(カ) 関係者において、アウトカムを志向して協働する意識は高まったか
② 地方公共団体等は、特に、成果指標値の改善状況が、上限値を大幅に下回った場合や、逆に上限値を大幅に上回った場合は、選定した成果指標や、設定した上限値の設定が適切だったかどうかについて分析することが望ましい。
(1) PFS事業を実施することの効果は、当該事業によって社会課題が効果的に解決することだけにとどまらず、案件形成や実施の過程から得られた学びは、その後の地方公共団体等の事業展開に生かすことができる。
(2) 次のような場合においては、PFS事業において設定した社会的便益の創出や社会課題の解決に向け、更なる民間のノウハウ等の取入れを進めるため、PFSの活用による官民連携を継続することが考えられる。
① 当該事業に関連するノウハウを有する民間事業者が存在し、更に効果的な方法で事業が実施できると見込まれる場合
② 事業の評価に基づき、ロジックモデルや成果指標の見直しが必要な場合
③ 外部環境が変化し、当該PFS事業によって提供されたサービス内容等を一般化して仕様を設定することが適当でない場合
(3) 次のような場合においては、PFS事業の実施によって得られた知見や経験に基づき、民間事業者に委託する事業内容を具体的に定め、PFS以外の契約方式による官民連携を継続することが考えられる。
① 当該PFS事業の結果を踏まえ、ロジックモデルや成果指標、支払条件等について、ステークホルダー間で合意できる場合
② 事業の成果に影響する外部環境が一定である場合
③ 当該PFS事業にかかる課題解決の方法が確立されており、同事業において提供されたサービスを一般化して仕様を設定することが適当である場合
(1) 具体的な量的指標によって、事業により実現を目指す成果や、実際に実現した成果を示すことができるPFSの特長を生かすことで、アウトカム/インパクトを重視した資金の流れを生み出すことが期待される。
(2) アウトカム/インパクト重視の資金の流れの一つは、投資や融資による事業資金の拠出(立替)である。投資や融資による資金提供者は、事業が成功して委託者から十分な支払いがなされれば、経済的なリターンを得ることができる。
(3) アウトカム/インパクト重視の資金の源泉は、最終的なアウトカム支払いの負担者である。具体的には以下が考えられる。
ア 委託者の自己資金
地方公共団体等の事業に充てられる支出。地方税や地方交付税を始めとする一般財源。
イ サービス利用者による負担
PFS事業におけるサービス利用者による支払い。事業における最も直接的な受益者が負担。
ウ 寄附
個人又は企業・団体から委託者である地方公共団体等に対する見返りのない資金提供。寄附者には事業による直接的なメリットは生じない。
エ 補助金、助成金
国等から地方公共団体等に対し、一定の条件の下になされる資金提供。国等が財政的な効果を享受する場合もある。
【解説】
① PFSにおいては、事業の活動ではなく、どのような成果に対して支払いがなされたかというより観点で、ステークホルダーに対する説明が可能となる。こうした高い水準のアカウンタビリティの確保は、多様な資金提供者が関わるスキームにおいて、それぞれの目線をアウトカム中心にまとめることができるという点で有効である。
② 資金の流れには、一時的な事業資金の拠出(立替)(SIBの要件)だけでなく、最終的に事業実施を成立させる最終的なアウトカム支払いの一部をなすものがある。
豊田市は、事業財源として企業版ふるさと納税を活用し、SIBによる介護予防事業 「ずっと元気!プロジェクト」を実施している。同事業では、高齢者を対象とした社会参加促進サービスにより、社会活動量を増やすことで介護リスクの低減を目指している。事業実施に当たっては、中間支援組織が設立したSPCが、金融機関等から出資を受けて、20 以上のサービス事業者に業務を委託してサービスを提供し、成果の評価は第三者評価機関が担っている。また、豊田市が支払う事業財源として、企業版ふるさと納税を活用している。
図 6 豊田市「ずっと元気!プロジェクト」のスキーム
(出所)株式会社ドリームインキュベータ) ニュースリリース「豊田市とソーシャルインパクトボンドを活用した新たな介護予防事業を開始」
https://www.dreamincubator.co.jp/news/2021/8772/
1.PFS事業の公募資料の例
枚方市「いくつになっても誰もが主役の介護予防事業」の公募型プロポーザル方式による企画提案書 4には、次のような内容が含まれている。
1. 事業名称
2. 業務の概要
3. 業務履行期間
4. 提案に当たっての確認事項及び加点事項
1. 応募団体の経営方針等に関する事項
2. 企画提案に関する事項
3. 業務実施体制に関する事項
4. 個人情報保護の措置に関する事項
5. 応募者の資格
6. 受注者の義務
7. 提出書類
8. 複数の法人等が構成するグループ(JV)で応募する際の留意事項
9. 募集要項・企画提案書等様式の配布
10. 質疑期間
11. 企画提案書受け付け
12. 選定について
13. 審査結果について
2.PFS事業の成果水準書の例
枚方市「いくつになっても誰もが主役の介護予防事業」の公募型プロポーザル方式による公募時の成果水準書の案 5には、次のような内容が含まれている。
1. 業務名称
2. 事業目的
3. 業務概要
4. 目指す成果
5. 業務内容
(1) 事業者提案による業務
(2) 成果評価に必要な調査等の実施
(3) 業務実施計画書
(4) 業務報告書
(5) 定期連絡会
(6) 実績報告書
6. 支払条件等
(1) 成果指標・測定方法
(2) 支払い基準
(3) 支払い要件
(4) 支払い時期
7. 留意事項
(1) 苦情・事故対応
(2) その他留意
3 PFS事業とエビデンス・EBPMの関係
PFSの活用による効果の一つとして、行政におけるEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)の推進がある。EBPMを推進するためには、
①エビデンスをつかう、②エビデンスをつくる、③エビデンスを伝える、といった一連のサイクルを体制として構築することが重要である。エビデンスとは、狭義では、政策手段の有効性を示す根拠であり、講義では、政策の必要性を示す根拠も含む。
エ ビ デン ス の不 足 領 域 を フィードバック
エビデンスを整理し
誰でもわかりやすい形にまとめる
② エビデンスをつたえる
エビデンスを基に
政策的な意思決定を行う
③ エビデンスをつかう
政策の効果を具体的に測定する
① エビデンスをつくる
図 7 EBPMの推進とエビデンスの関係
(出所)⼩林庸平(2019)「エビデンスに基づく政策形成の考え⽅と本書のエッセンス」デュフロ他(2019)『政策評価のための因果関係の⾒つけ⽅ ランダム化⽐較試験⼊⾨』⽇本評論社
PFS事業の導入においては、まず、社会課題の明確化や、その解決の価値の重要性を決定するステップがある。これは、当該事業に係るステークホルダーによって合意された結果であり、広義のエビデンスに含まれる。当然、そこで得られた結論としての価値額は、他の地方公共団体等や場面でそのまま当てはめるわけにはいかないものの、その検討のプロセスは他の主体にとって非常に参考になるものであり、上図の「エビデンスをつかう」に相当するものである。
また、事業の実施から終了時にかけては、PFS事業の結果として民間事業者の事業活動と成果指標値の改善状況が得られることから、事業活動と成果指標値の改善の間に係るエビデンスを作ることに繋がる。こうしたエビデンスは、資源の投入量に比してどの程度の効果が得られたかという費用効果分析に資するものであり、事業後の政策判断を左右するほか、同様のP FS事業を実施しようとする場合の支払い条件の設定、さらに、当該アウトカムに関する、言わば市場、相場の形成につながる。
一方で、国内のPFS事業の期間は長くても3年から5年程度であり、ロジックモデルの長期アウトカムが達成できたかどうかは必ずしも確認できない。長期アウトカムまで含めたロジックの妥当性を検証するためには、PFS事業の終了後も、対象者等を追跡調査し、効果の持続性や、波及的な効果の観測を行うことが必要である。