ソーシャルローン評価 by Japan Credit Rating Agency, Ltd.
2022.6.1
五常・アンド・カンパニー㈱と 「ソーシャルローン」の契約を締結
静岡銀行(頭取 xx x)では、SDGs への取り組みの一環として、事業活動を通じて持続可能な社会の 実現に取り組む企業を金融面から支援するため、「サステナブルファイナンス」の提供に取り組んでいます。
このたび、五常・アンド・カンパニー㈱(代表執行役 x xx)と静岡銀行初となる、社会課題の解決への 貢
献と金融包摂を目的とした「ソーシャルローン(※)」の契約を締結しましたので、その概要をご案内します。
※資金使途がソーシャルプロジェクト(社会的課題への対処・軽減、ポジティブな社会的成果の達成を目指す プロジェクト)に限定されるローン。ソーシャルローンとしての適合性について、第三者評価の取得が推奨されている。
1.契約日 6 月 1 日(水)
2.融資金額 5 億円
3.五常・アンド・カンパニー㈱の取り組み(詳細は㈱日本格付研究所の「評価書」をご参照ください)
〇同社は、「誰もが自分のxxを決めることができる世界」というビジョン、「すべての人に金融包摂を」というミッションおよび「低価格で良質な金融サービスを 2030 年までに 50 カ国 1 億人以上に届ける」という長期目標を掲げたマイクロファイナンス※事業者です。
※銀行や関連サービスにアクセスできる手段に乏しい個人や零細事業者に対する少額の融資、預金、保険、送金といった金融サービスの総称
〇新興国を中心に、10 億人以上の人が十分に金融サービスにアクセスすることができないという社会的課題に対して、同社では独自のテクノロジー開発やオペレーションの最適化を通じ、現在 5 カ国(インド、スリランカ、ミャンマー、カンボジア、タジキスタン)で金融サービスを提供しています。
〇今回、静岡銀行では、同社グループ会社がインドで取り組むマイクロファイナンス事業の資金として、同社に対してソーシャルローンを実行しました
<本ソーシャルローンの対象となるプロジェクトの概要>
x x | インドの金融グループ会社を通じたマイクロファイナンス事業 <グループ会社概要> 企業名:Satya MicroCapital Limited(以下、Satya 社)所在国:インド 事業内容:インド国内でのマイクロクレジット |
目的・効果 | ・Satya 社を通じ、金融サービスにアクセスできない人々に対してマイクロファイナンスを提供 ・Satya 社の顧客の 99.6%(2022 年 2 月末時点)が女性であり、女性の収入向上や女性起業家の売上拡大など、女性の経済的自立を促進 |
関連する SDGs |
|
22-D-0213
2022 年 6 月 1 日
ソーシャルローン評価 by Japan Credit Rating Agency, Ltd.
株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおりソーシャルローン評価の結果を公表します。
五常・アンド・カンパニー株式会社長期借入金に対してSocial 1 を付与
借 | 入 | 人 | : | 五常・アンド・カンパニー株式会社(証券コード:-) | ||
貸 | 付 | 人 | : | 株式会社静岡銀行 | ||
評 | 価 | 対 | 象 | : | 五常・アンド・カンパニー株式会社 長期借入金 | |
分 | 類 | : | 貸付金 | |||
借 | 入 | 額 | : | 5 億円 | ||
実 | 行 | 日 | : | 2022 年 6 月 1 日 | ||
返 | 済 | 日 | : | 2025 年 6 月 6 日 | ||
返 | 済 | 方 | 法 | : | 満期一括返済 | |
資 | 金 | 使 | 途 | : | グループ会社のマイクロクレジット事業に関する貸出資金 |
<ソーシャルローン評価結果>
s1
ソーシャル性評価(資金使途)
Social 1
総合評価
管理・運営・透明性評価 m1
第 1 章:評価の概要
五常・アンド・カンパニー株式会社(五常)は 2014 年に設立されたマイクロファイナンスを中心とする金融会社である。五常は 2022 年 3 月時点でインド、カンボジア、スリランカ、ミャンマーおよびタジキス
タンに 6 つの子会社および 2 つの関連会社を有し、それぞれの子会社及び関連会社ではマイクロファイナンスや、それに関連する法人向け融資などを行っている。
五常は、民間版の世界銀行を目指し、「誰もが自分のxxを決めることができる世界」というビジョン、
「すべての人に金融包摂を」というミッションおよび「低価格で良質な金融サービスを 2030 年までに 50 ヵ国 1 億人以上に届ける」という長期目標を定め、新興国の金融機関に投資を実行し子会社化し、金融包摂を行うミッションに取り組んでいる。
今般の評価対象は、五常が借り入れて、関連会社の Satya MicroCapital(Satya 社)に対して転貸する貸付金(本貸付)である。JCR は本貸付が、「ソーシャルローン原則1」および SDGs に適合しているか否かの評価を行う。
資金使途の対象である Satya 社は 2017 年にインドで事業を開始したマイクロファイナンス事業を行うノンバンク事業者である。インド準備銀行の“NBFC-MFI”(Non-Banking Financial Company – Micro Finance Institution) 事業ライセンスを有し、Limited Liability Loan(共同債務グループ向け少額融資)、Individual Micro Loans(個人向け少額融資)、Micro Business Loan(法人向け少額融資)、Water & Sanitation Loan(水・衛生のための少額融資)等を提供している。今回の資金使途は、全額が Satya 社の新規融資に用いられる。
JCR は、資金使途が「ソーシャルローン原則」における、女性を対象とする「必要不可欠なサービスへのアクセス(金融)」に該当すると評価している。
資金使途の対象となるプロジェクトの選定に際しては、専門性を有する人材によって検討が行われた後に、取締役会で最終決定が行われており、経営陣が適切に関与していると考えられる。調達資金に関する資金管理および内部管理に関する体制についても十分に整備されており、資金充当状況および社会改善効果にかかるレポーティング内容についても適切である。
以上より、JCR は本貸付による調達資金に係る管理・運営体制が適切であり、透明性も確保されていると評価している。
この結果、本貸付について JCR ソーシャルファイナンス評価手法に基づき、「ソーシャル性評価(資金使途)」を“s1”、「管理・運営・透明性評価」を“m1”とし、「JCR ソーシャルローン評価」を“Social 1”とした。本貸付は、「ソーシャルローン原則」において求められる項目について基準を十分に満たしているほか、SDGs目標にも合致すると考えられる。
1 ソーシャルローン原則
2021 年度版 xxxxx://xxx.xxxx.xxx/xxxxxxx/xxxxxx-xxxx-xxxxxxxxxx-xxx/
第 2 章:各評価項目における対象事業の現状とJCR の評価
評価フェーズ1:ソーシャル性評価
JCR は評価対象について、以下に詳述する現状およびそれに対する JCR の評価を踏まえ、本貸付の資金使途の 100%がソーシャルプロジェクトであると評価し、評価フェーズ1:ソーシャル性評価は、最上位である 『s1』 とした。
(1) 評価の視点
本項では、最初に、調達資金が明確な社会改善効果をもたらすソーシャルプロジェクトに充当されているかを確認する。次に、資金使途がネガティブな社会・環境への影響が想定される場合に、その影響について社内の専門部署又は外部の第三者機関によって十分に検討され、必要な回避策・緩和策が取られているかについて確認する。最後に、持続可能な開発目標(SDGs)との整合性を確認する。
(2) 評価対象の現状と JCR の評価資金使途の概要
本貸付によって調達された資金は、最終的に Satya 社が行う新規の少額融資に充当される。本貸付は、
五常によって借り入れが行われた後、五常が貸付人である静岡銀行の口座から送金によって、Satya 社に対して転貸される。
五常および Satya 社の概要
(五常)
会社名称 | 五常・アンド・カンパニー株式会社 |
本社所在地 | xxxxx区 |
代表執行役 | 慎 泰x |
xx | 2014 年 7 月 |
事業内容 | 新興国にてグループ会社を通じたマイクロファイナンス事業等 |
連結営業収入 | 29.6 億円(2021 年 3 月期) |
連結当期純利益 | 0.5 億円(2021 年 3 月期) |
(Satya 社)
会社名称 | Satya MicroCapital Ltd. |
本社所在地 | デリー(インド) |
Managing Director, CEO | Xxxxx Xxxxxx |
創業 | 2016 年 10 月(事業開始:2017 年 1 月) |
事業内容 | インド国内へのマイクロファイナンス事業 (インド準備銀行“NBFC-MFI”事業ライセンス) (主な商品概要) Limited Liability Loan (共同債務グループ向け少額融資) Individual Micro Loans(個人向け少額融資) Micro Business Loan(法人向け少額融資) Water & Sanitation Loan (水・衛生のための少額融資) Consumer Durable Loan (耐久消費財購入用少額融資) |
経常収益 | 2,672 百万インド・ルピー(4,008 百万円に相当)(2021 年 3 月期) |
包括利益 | 102 百万インド・ルピー(153 百万円に相当)(2021 年 3 月期) |
五常は、民間版の世界銀行を目指して設立された会社であり、日本にあってマイクロファイナンスを行うインド、カンボジア、スリランカ、ミャンマーおよびタジキスタンにある 6 つの子会社および 2 つの関連会社(グループ会社)を統括する役割を有しており、グループ会社においてマイクロファイナンス事業が行われている。
今回の資金使途の対象となる Satya 社は、2016 年創業、2017 年から事業を開始したインドのマイクロファイナンス事業を行っている企業であり、中小零細事業者及び個人、に向けた様々な少額ローンを提供している。
a. プロジェクトの社会便益効果について
i. 本貸付は、資金使途の 100%が、インドでマイクロファイナンスを行う五常の関連会社の新規融資資金に充当される予定であり、社会改善効果が期待される。
上記の通り、本貸付は五常のグループ会社である Satya 社に五常から転貸され、新規融資に充当される。
Satya 社はインドでマイクロファイナンスを行うノンバンク事業者であり、2021 年 3 月期の経常収益は 2,672 百万インド・ルピー(4,008 百万円に相当)2、包括利益は 102 百万インド・ルピー
(153 百万円に相当)である。
マイクロファイナンスとは、少額の融資、預金、保険、送金といったサービスの総称であり、サービスの受益者は主に商業銀行やその他の金融サービスにアクセスできる手段に乏しい個人や零細事業者に対する金融サービスである。融資金額については一般的にxxであり、2022 年 3 月時点で Satya 社が提供するマイクロファイナンスでも、最大貸付額は 20 万インド・ルピー(30 万円に相当)である。
マイクロファイナンスが対象とする人々は、上述の通り従来の金融サービスにアクセスできない個人や零細事業者である。インドでは、約 14 億の人口のうち、銀行口座を持っていない人が約
1 億 9000 万人存在すると言われている。また、銀行口座を持っている人々のうち、約半数は不稼働口座となっているという研究もある3。インドでは、政府の政策により、自ら望めばほぼすべての国民が銀行口座を開設することができるものの、貸出金利の返済に見合うだけのリターンを上げられる収入がない限りは貸付を受けることができない。また、貸付を受けるためには審査が必要であるが、その期間が数か月に及ぶこともあり、資金需要に適切に応じられていない実態がある。従って、政府の政策だけでは金融サービスにアクセスするには十分とは言えない状況が存在する。
また、2014 年のデータではあるが、マイクロファイナンスのうち、Satya 社のようなノンバンク(“NBFC-MFI”)が 8 割4を占めるという研究もあり、今回の資金使途である Satya 社の新規融資を通じてマイクロファイナンスをそれらの人々に対して提供することは、社会的意義を有していると JCR では評価している。
Satya 社が提供するマイクロファイナンスの金利は代表的な Limited Liability Loan(共同債務グループ向けマイクロファイナンス)および Individual Micro Loans(個人向けマイクロファイナンス)、Water & Sanitation Loan(水・衛生のためのマイクロファイナンス)などで年利 21.65%である。インドのマイクロファイナンスにおける主要な同業他社の金利は年利約 21%~25%程度であり、Satya 社が提供する少額融資の貸出金利水準は同業他社並みであるといえる。JCR では、五常がこれらの少額融資の貸出金利について、DX によるコスト減やオペレーションの最適化、またビ
2 2022 年 3 月時点で、1 インド・ルピー=約 1.5 円
3 Xxxxxxx Xxxxxxx “Study examines India's policies for financial inclusion of the unbanked” Illinois New Bureau, 2020 xxxxx://xxxx.xxxxxxxx.xxx/xxxx/0000/000000
4 Parijat Dhar “Microfinance Penetration in India: a State Wise Analysis” International Journal of Interdisciplinary Research in Science Society and Culture(IJIRSSC), 2016, xxxx://xxxxxxx.xx/xxx/0000000000.xxx
4/15
ジネスの拡大による規模の経済の実現等により引き下げていきたい意向を有していることを確認している。
貸金業の免許を持たない金融業者による高利貸しは、国内外で一定程度存在する。インドにおいては、マイクロファイナンスの顧客層を対象とするサービスとして、中央銀行が許認可を管理する貸金業の免許を持たない金融事業者による融資もあるが、当局の規制がかかっていないこともあり、金利が年利換算で数百%に及んだり、既存債務者に過剰な貸付を行ったりと、借入人を経済的困難に追いやることも見られる。Satya 社では、マイクロファイナンスの事業ライセンスを持つ事業者として、後述する Client Protection Principle や Code of Conduct 等を遵守し、顧客が経済的困難に陥らないように保護する仕組みを有している。
また、Satya 社の顧客のうち、99.6%が女性である。Satya 社ではマイクロファイナンスの返済にキャッシュレス決済の導入を進め、返済時に現金を持ち歩くことによる身体的危険に遭うリスクを低減する取り組みを進めている。このような取り組みと Satya 社による新規融資によって、女性の収入向上や女性起業家の売上拡大など、女性の経済的自立が促され、エンパワーメントの向上が期待されると JCR では評価している。
ii. 資金使途は、「ソーシャルローン原則」における、女性を対象とする「必要不可欠なサービスへのアクセス(金融)」に該当する。
b. 社会的リスクへの対応について
五常では、社会的リスクについて、下記の通り特定を行っている。
マイクロファイナンスにおいても、従来の銀行などと同様に、過剰債務や過剰な利息での融資、金融知識の乏しい顧客への情報の非対称性など、借り手側の保護がなされないリスクがある。
また、現地の法規制、景気動向の変化の影響を受けやすく、特に Satya 社が事業を行っているインドは州政府ごとに方針が異なるなど、外部環境の変化による事業運営の支障が生じるリスクがある。
これらの社会的リスクに対して、五常では、グループ会社の候補となる事業者を買収する際に総合的にデューデリジェンスを行っている。xxxxxxxxxでは、財務的な分析とともに、 Social Performance に関するデューデリジェンスを組み込んでいる。Social Performance に関するデューデリジェンスでは、五常の経営企画部内にある Social Performance Management および Impact Measurement を専門に担当するチームによってチェックが行われている。メンバーは Social Performance を監査するツールである SPI45Auditor の資格を有しており、SPI4 のチェックリストに沿って確認を行っている。
上記確認と併せて、マイクロファイナンスの業界団体(SPTF、CERISE)が定めた Client Protection Principle にある 7 つの基準に準拠しているかについても確認を行い、ネガティブ・インパクトを出さないように取り組みを行っている。
5 SPI4 xxxxx://xxxxxx-xxx.xxx/xx/xxx0/
5/15
Client Protection Principle(顧客保護原則) | |
1 | Appropriate product design and delivery(適切な商品設計と販売体制) |
2 | Prevention of over-indebtedness(過剰債務の防止) |
3 | Transparency( 融資契約の透明性) |
4 | Responsible pricing(責任ある貸出金利及び手数料の設定) |
5 | Fair and respectful treatment of clients(顧客対するxxかつ尊厳ある対応) |
6 | Privacy of client data(顧客の個人情報保護) |
7 | Mechanism of complaint resolution(苦情対応窓口の設置や連絡方法の明確な開示) |
(引用元:CERISE ウェブサイト6)
五常では、買収時に上記を含むソーシャル・パフォーマンス・マネジメントの体制に関するデューデリジェンスを行うことで、買収先事業による社会的なネガティブ・インパクトの発現を抑止していることに加えて、買収後も毎期ごとに明確な目標を設けながら運営体制の強化に努めている。
また、Satya 社が事業ライセンスを持つインドのノンバンク事業者においては、業界内で統一した Code of Conduct の制定が求められており、Satya 社も業界の Code of Conduct に準拠して対応している7。
JCR は、これらの社会的リスクに対する手当てについて、適切であると評価している。
c. SDGs との整合性について
JCR は、国際資本市場協会(ICMA)の SDGs マッピングを参考にしつつ、本貸付の資金使途が以下の SDGs の目標およびターゲットに貢献すると評価している。
目標 1:貧困をなくそう
ターゲット 1.2. 2030 年までに、各国定義によるあらゆる次元の貧困状態にある、全ての年齢の男性、女性、子供の割合を半減させる。
ターゲット 1.4. 2030 年までに、貧困層及び脆弱層をはじめ、全ての男性及び女性が、基礎的サービスへのアクセス、土地及びその他の形態の財産に対する所有権と管理権限、相続財産、天然資源、適切な新技術、マイクロファイナンスを含む金融サービスに加え、経済的資源についても平等な権利を持つことができるように確保する。
目標 8:働きがいも経済成長も
ターゲット 8.3. 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性及びイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零
細企業の設立や成長を奨励する。
ターゲット 8.10.
国内の金融機関の能力を強化し、全ての人々の銀行取引、保険及び金融サービスへのアクセスを促進・拡大する。
6 xxxxx://xxxxxx-xxx.xxx/xx-xxxxxxx/xxxxxxx/0000/00/Xxx-Xxxxxx-Xxxxxxxxxx-Xxxxxxxxxx_XX.xxx
7 MicroFinance Institutions Network’s Code of Conduct xxxxx://xxxxxxxxxxxxxxxxx.xxx/xxxxxxx/XXXX%00Xxxx%00xx%00Xxxxxxx.xxx
目標 10:人や国の不平等をなくそう
ターゲット 10.2. 2030 年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政
治的な包含を促進する。
第 2 章:各評価項目における対象事業の現状とJCR の評価
評価フェーズ2:管理・運営・透明性評価
JCR は評価対象について、以下に詳述する現状およびそれに対する JCR の評価を踏まえ、管理・運営体制がしっかり整備され、透明性も非常に高く、計画どおりの事業の実施、調達資金の充当が十分に期待できると評価し、評価フェーズ2:管理・運営・透明性評価は、最上位である 『m1』 とした。
1. 資金使途の選定基準とそのプロセスにかかる妥当性および透明性
(1) 評価の視点
本項では、本貸付を通じて実現しようとする目標、ソーシャルプロジェクトの選定基準とそのプロセスの妥当性および一連のプロセスが適切に投資家等に開示されているか否かについて確認する。
(2) 評価対象の現状と JCR の評価
<資金使途にかかる本フレームワーク>
a. 目標
五常は、自社のビジョン、ミッション、2030 年までの目標について、以下のように定めている
五常・アンド・カンパニーのビジョン・ミッションおよび 2030 年までの目標ビジョン:誰もが自分のxxを決めることができる世界
ミッション:すべての人に金融包摂を
2030 年までの目標:低価格で良質な金融サービスを 2030 年までに 50 ヵ国 1 億人以上に届ける
五常では、長期目標として「低価格で良質な金融サービスを 2030 年までに 50 ヵ国 1 億人以上に届ける」を掲げている。「低価格」とは、貸出金利の低減を指し、主に人件費および借入費用を圧縮することで、貸出金利の低減を目指している。
人件費の削減については、テクノロジーの導入およびオペレーションの最適化により実現を目指している。借入費用の削減は規模の経済の実現と利益率改善による与信費用の改善、または相対的な資本コストが低い日本を含む先進国の投資家・金融機関からの借入によって総額での借入コストの低減を目指している。
JCR では、本貸付の実行は、Satya 社の新規融資に用いられることによって、五常の 2030 年までの目標および取り組みに貢献するものであると評価している。
b. 選定基準
五常は、本貸付に関するソーシャルローン・フレームワークにおいて、適格クライテリアを以下の通り定めている。
(適格性基準)
ソーシャルローンによる調達資金の充当対象プロジェクトは、以下の適格性基準を満たすものとします。
・当社の経営方針の実現に資するグループ会社への資金供給であること。
・事業実施に際しては、環境・社会へのネガティブな影響等を特定し、必要に応じて、その回避策及び緩和策を講じていること。
評価フェーズ 1 で既述の通り、上記の適格クライテリアは中小零細事業主の女性に対して便益をもたらすものであり、適切であると評価している。
また、Satya 社の融資については、その事業に伴うネガティブな影響が特定され、回避・緩和策が採られている。
c. プロセス
五常が転貸を行う Satya 社を含むグループ会社を買収時のデューデリジェンスによって適格性基準への確認が行われている。適格性基準の確認については、前述の通り五常の経営企画部内にある Social Performance Management および Impact Measurement を専門に担当するチームによってチェックが行われている。
投資実行前後において、五常内で事業活動に纏わる社会的インパクトの策定やモニタリングを担うインパクト委員会において買収候補先もしくはグループ会社企業のソーシャル・パフォーマンス・マネジメントの状況に関する議論が行われる。インパクト委員会では、マイクロファイナンス業界でもっとも経験の深い研究者であり実務家が社外取締役の立場から議長務めている。
上記のみならず、新規買収時の案件検討については、五常内の決裁規定に従い、投資委員会、経営会議で討議されたのちに取締役会で決定が行われており、Xxxxx 社の適格性判断のプロセスにおいて専門部署及び経営陣が関与しており、適切であると評価している。
なお、上述の選定基準、プロセスが記載されたソーシャルローン・フレームワークが貸付人に対して提供されており、貸付人に対する透明性は確保されている。
2. 資金管理の妥当性および透明性
(1) 評価の視点
調達資金の管理方法は、借入人によって多種多様であることが通常想定されるが、本貸付により調達された資金が、確実にソーシャルプロジェクトに充当されること、また、その充当状況が容易に追跡管理できるような仕組みと内部体制が整備されているか否かを確認する。
また、本貸付により調達した資金が、早期にソーシャルプロジェクトに充当される予定となっているか否か、加えて未充当資金の管理・運用方法の評価についても重視している。
(2) 評価対象の現状と JCR の評価
五常は、静岡銀行から借り入れた資金を Satya 社に転貸することにより、全額を Satya 社による新規融資に充当する予定である。
本貸付によって調達した資金は、社内規程に基づき資金管理担当部署である Finance Department の指示に従い、速やかにインドの Satya 社が発行する NCD を引き受けるための資金移動を実施し、Satya 社と結ぶ NCD 引受契約書により追跡管理が行われる。なお資金移動に際しては経理部長の決裁が行われる。
調達資金の入出金を記録した帳簿は、内部監査および外部監査の対象とされる予定であり、調達資金の管理に関する証憑等は返済期限まで保存される予定である。
仮に上記の資金移動指図によって Satya 社への送金ができない場合には、貸付人へ電子メールもしくは電話で事前に連絡のうえ、普通預金口座にて管理される予定である。
JCR は、本貸付による調達資金の充当計画が適切に策定され、その下で当該資金が確実にソーシャルプロジェクトへ充当されること、未充当資金が発生した場合には適切に管理・運用されること、そして資金充当状況の追跡管理が適切に図られていることから、本貸付に係る資金管理は妥当であり、透明性も高いと評価している。
3. レポーティング
(1) 評価の視点
本項では、本貸付の貸付人への開示体制が詳細かつ実効性のある形で計画されているか否かを、本貸付実行時点において評価する。
(2) 評価対象の現状と JCR の評価
a. 資金の充当状況に係るレポーティング
五常では、借入金の資金使途を金銭消費貸借契約書等によって、事前に貸付人に連絡する予定である。
また、インド向けの送金については貸付人を通じて行うほか、資金充当状況についてはインドの Satya 社が発行する NCD 引受契約書等の証憑を必要に応じて貸付人に開示する予定である。その他、Satya 社の経営状況を含む月次試算表については月次にで貸付人に開示する予定である。
b. 社会的便益に係るレポーティング
五常では、本貸付に関する社会改善効果について、四半期ごとに発行している投資家向けレポート、年次で発行しているインパクトレポート、不定期で開催を予定している面談もしくは電子メール、電話といった手段を通じて報告をしていく予定である。
<アウトプット指標>
・対象となるプロジェクトにおける概要等
(SATYA MicroCapital Limited の概要、貸付金)
<アウトカム指標>
・Satya の女性顧客数、一人当たりの貸付額等
<インパクト(定性目標)>
・社会的に弱い立場にある人々や金融アクセスを持たない人々の側に立ち、事実に誠実に向き合い、創意工夫、思いやり、技術を結集して貧困や金融サービスからの排除に立ち向かうこと
・すべての人に金融アクセスを届けることを目指すこと
・SDGs への貢献を果たすこと
JCR では、上記レポーティングについて、資金の充当状況および社会的便益の両方について、貸付人に対して適切に開示される計画であると評価している。
4. 組織の社会的問題への取り組み
(1) 評価の視点
本項では、経営陣が社会的問題について、経営の優先度の高い重要課題と位置づけているか、社会課題を含むサステナビリティの推進を専門的に扱う部署の設置または外部機関との連携によって、本貸付に基づく調達方針・プロセス、ソーシャルプロジェクトの選定基準などが明確に位置づけられているか、等を評価する。
(2) 評価対象の現状と JCR の評価
五常は 2014 年に設立されたマイクロファイナンスを中心とする金融会社であり、2022 年 3 月時点で
インド、カンボジア、スリランカ、ミャンマーおよびタジキスタンに 6 つの子会社および 2 つの関連会社を有し、それぞれの子会社および関連会社ではマイクロファイナンスや、それに関連する法人向け融資などを行っている。
五常は、民間版の世界銀行を目指し、「誰もが自分のxxを決めることができる世界」というビジョン、
「すべての人に金融包摂を」というミッションおよび「低価格で良質な金融サービスを 2030 年までに 50
ヵ国 1 億人以上に届ける」という長期目標を定め、新興国の金融機関に投資を実行し子会社化し、金融包摂を行うミッションに取り組んでいる。
五常では、金融包摂を、「有益かつ満足できる価格の金融サービスへのアクセスを有しているか」と定義しており、途上国の人口のうち 80%が未だ金融包摂されていないと評価している。Satya 社の例で引いた通り、途上国では適時に、望む借り入れが行うことができない例が多く、五常ではそれらの人々に対するマイクロファイナンス事業を通じて顧客の経済的な状況を好転させられる機会や雇用機会創出の機会を提供すると共に、自社のビジネスの拡大も企図している。
五常の事業エリアは、現時点でアジアの 5 カ国であるものの、長期目標である「低価格で良質な金融
サービスを 2030 年までに 50 ヵ国 1 億人以上に届ける」の達成に向けて、将来的にはアフリカ、中南米の発展途上国への事業拡大を目指して取り組みを進めている。
また、五常では、2020 年からの新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)において、グループ会社の顧客および従業員の安全を図り、出勤する従業員の感染防止対策を徹底させたほか、顧客に対しては顧客保護とグループ会社の手元流動性の状況のバランスを保ちつつ、返済猶予や新規融資のタイミングを適切に判断し、30 日延滞率の比率を低く保つことに成功している8。また、前述の通り、 Satya 社ではキャッシュレス決済を推進していたが、その割合が 9 割を超え、主要な返済手段として重要な役割を果たした。また、Satya Client Connect と名付けた Android アプリを立ち上げ、顧客は融資や返済に関する最新の情報やスケジュールにいつでも、どこでもアクセスできるようになった。このアプリは、通話料無料の医療ヘルプラインともつながっており、インド最大の一次医療ネットワークである HealthAssure と連携し電話相談を受け付け、2020 年 8 月時点で約 7 万人が利用するサービスとなっている。
五常では、グループ会社の候補となる事業者を買収する際のデューデリジェンスにおいて、経営企画 部内にある Social Performance Management および Impact Measurement を専門に担当するチームによって Social Performance に関するデューデリジェンスを行い、そこでは Social Performance を監査するツールで ある SPI4 の資格を有するメンバーにより確認が行われているほか、上部組織のインパクト委員会におい てはマイクロファイナンスにおいて十分な経験を積んだ人物が社外取締役兼議長として検討を行うなど、専門性を有する人材によってソーシャルプロジェクトの適格性が検討されている。また、インパクト委 員会では、五常グループの事業が顧客の生活を改善させることができたかに重点を置きながら、事業活
8 五常インパクトレポート 2020 P20
xxxxx://xxxx.xx/xx-xxxxxxx/xxxxxxx/0000/00/XxxxxxXxxxxx-XX_xxx.xxx
動全般と経営方針をモニタリングする役割も有しており、五常のビジョン、ミッションおよび長期目標についても検証が行われていると JCR では評価している。
以上から、JCR では五常の経営陣が社会的課題を経営の優先度の高い重要課題と位置づけており、専門性を有する組織がソーシャルプロジェクトの決定に関与し、また、自社のソーシャルプロジェクトおよび社会貢献に係る方針が検証していると評価した。
■評価結果
本貸付について、JCR ソーシャルファイナンス評価手法に基づき、「ソーシャル性評価(資金使途)」を
“s1、「管理・運営・透明性評価」を“m1”と、「JCR ソーシャルローン評価」を“Social 1”とした。本貸付は、
「ソーシャルローン原則」において求められる項目について基準を十分に満たしているほか、SDGs 目標にも合致すると考えられる。
【JCR ソーシャルローン評価マトリックス】
管理・運営・透明性評価 | ||||||
m1 | m2 | m3 | m4 | m5 | ||
ソーシャル性評価 | s1 | Social 1 | Social 2 | Social 3 | Social 4 | Social 5 |
s2 | Social 2 | Social 2 | Social 3 | Social 4 | Social 5 | |
s3 | Social 3 | Social 3 | Social 4 | Social 5 | 評価対象外 | |
s4 | Social 4 | Social 4 | Social 5 | 評価対象外 | 評価対象外 | |
s5 | Social 5 | Social 5 | 評価対象外 | 評価対象外 | 評価対象外 |
(担当)xx xx・xx xx
本評価に関する重要な説明
1. JCR ソーシャルファイナンス評価の前提・意義・限界
日本格付研究所(JCR)が付与し提供する JCR ソーシャルファイナンス評価は、評価対象である調達資金が JCR の定義するソーシャルプロジェクトに充当される程度ならびに資金使途等にかかる管理、運営および透明性確保の取り組みの程度に関する、JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、評価対象である調達資金の充当ならびに資金使途等にかかる管理、運営および透明性確保の取り組みの程度を完全に表示しているものではありません。
JCR ソーシャルファイナンス評価は、評価対象となる調達計画時点又は調達実行時点における資金の充当等の計画又は状況を評価するものであり、将来における資金の充当等の状況を保証するものではありません。また、JCR ソーシャルファイナンス評価は、評価対象となる調達資金が社会的課題に及ぼす効果を証明するものではなく、社会的課題に及ぼす効果について責任を負うものではありません。評価対象となる調達資金が社会的課題に及ぼす効果について、JCR は借入人または借入人の依頼する第三者によって定量的・定性的に測定されていることを確認しますが、原則としてこれを直接測定することはありません。
2. 本評価を実施するうえで使用した手法
本評価を実施するうえで使用した手法は、JCR のホームページ(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/)の「サステナブルファイナンス・ESG」に、「JCR ソーシャルファイナンス評価手法」として掲載しています。
3. 信用格付業にかかる行為との関係
JCR ソーシャルファイナンス評価を付与し提供する行為は、JCR が関連業務として行うものであり、信用格付業にかかる行為とは異なります。
4. 信用格付との関係
本件評価は信用格付とは異なり、また、あらかじめ定められた信用格付を提供し、または閲覧に供することを約束するものではありません。
5. JCR ソーシャルファイナンス評価上の第三者性
本評価対象者と JCR の間に、利益相反を生じさせる可能性のある資本関係、人的関係等はありません。
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、またはその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、または当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。JCR ソーシャルファイナンス評価は、評価の対象であるソーシャルファイナンスにかかる各種のリスク(信用リスク、価格変動リスク、市場流動性リスク、価格変動リスク等)について、何ら意見を表明するものではありません。また、JCR ソーシャルファイナンス評価は JCR の現時点での総合的な意見の表明であって、事実の表明ではなく、リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするものでもありません。JCR グリーンファイナンス評価は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。JCR ソーシャルファイナンス評価のデータを含め、本文書にかかる一切の権利は、JCR が保有しています。JCR ソーシャルファイナンス評価のデータを含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。
JCR ソーシャルローン評価:ソーシャルローンにより調達される資金が JCR の定義するソーシャルプロジェクトに充当される程度ならびに当該ソーシャルローンの資金使途等にかかる管理、運営および透明性確保の取り組みの程度を評価したものです。評価は 5 段階で、上位のものから順に、Socia l、Social 2、Social 3、Social 4、Social 5 の評価記号を用いて表示されます。
■サステナブルファイナンスの外部評価者としての登録状況等
・ 環境省 グリーンボンド外部レビュー者登録
・ ICMA (国際資本市場協会に外部評価者としてオブザーバー登録)
・ UNEP FI ポジティブインパクト金融原則 作業部会メンバー
■その他、信用格付業者としての登録状況等
・ 信用格付業者 金融庁長官(格付)第 1 号
・ EU Certified Credit Rating Agency
・ NRSRO:JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の
4 クラスに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。米国証券取引委員会規則
17g-7(a)項に基づく開示の対象となる場合、当該開示は JCR のホームページ(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xx/)に掲載されるニュースリリースに添付しています。
■本件に関するお問い合わせ先
情報サービス部 TEL:00-0000-0000 FAX:00-0000-0000