⑴ 澤野順彦「サブリースと賃料増減請求」NBL554号36頁以下(1994年),同『借家契約』107頁以下(住宅新報社,1993年)。 ⑷ 道垣内弘★「不動産の一括賃貸と借賃の減額請求」NBL580号27頁以下(1995年), 加藤雅信「不動産の事業受託(サブリース)と借賃減額請求権(上)(下)」 NBL568号19頁以下(1995年)・569号26頁以下(1995年)。
建物賃貸借契約をサブリース契約(転貸借契約)に変更する契約の諸問題
Ⅰ はじめに
x x x
かつては,賃貸住宅は,建物所有者が賃貸★となり,管理は賃貸した所有者自身でおこなうのが通常であったが,最近では,管理の煩わしさから解放されるなどの理由から,管理業者に管理を委託するケースが増加している。賃貸住宅の所有者が業者に管理を委託するにあたっては,物件管理,入居者の使用状況管理,家賃管理等を委託して管理料を支払う通常の管理委託契約を締結する場合と,所有者が賃貸★,管理業者が賃借★となって,あらかじめ賃借★たる管理業者に転貸の同意を与えた賃貸借契約(原賃貸借契約または特定賃貸借契約という。)を締結する,いわゆるサブリース方式による場合がある。サブリース方式による場合は,空室が生じた場合も所有者は安定した収入を得られることから,近年増加傾向にある。
これらの管理委託関係を図解すると,下図のようになる。
転借人入居者
サブリース契約転貸借契約
マスターリース契約原賃貸借契約又は 特定賃貸借契約
+
管理委託契約
者
業
サブリース
貸 主所有者
サブリース方式による管理委託
賃貸住宅管理業者
管理
管理委託契約
借主 入居者
賃貸借契約
貸 主所有者
委託管理のみ
なお,本稿では,サブリース方式による管理委託関係を,国土交通省の「サ ブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」(令和2年10月16日)に 従い,上図のように,建物所有者とサブリース業者との建物賃貸借契約をマス ターリース契約(原賃貸借契約又は特定賃貸借契約)とよび,サブリース業者 と入居者との建物賃貸借契約をサブリース契約(転貸借契約)とよぶものとする。
サブリース方式による建物賃貸借には,①用地確保,建物建築,建物賃貸借 の管理まで一貫してディベロッパーに委託する総合事業受託方式,②用地確保,建物建築は貸主側で行い,借主側はその建物を一括して借り上げ,賃貸事業に ついての知識・経験を提供して最低家賃を保証する賃貸事業受託方式,③建物 を一括して賃貸し,みずからも使用・利用するが他に転貸することができる転 貸方式があるとされる⑴。そのいずれであるにせよ,サブリース方式による賃 貸借については,賃料増減額請求権(借地借家法32条)や契約解除の問題を中 心に,建物所有者(賃貸★)とサブリース業者(賃借★・転貸★)間の諸問題 が議論され,建物所有者(賃貸★)を保護するため,令和2年に「賃貸住宅の 管理業務等の適正化に関する法律」(令和2年法律第60 号。以下「賃貸住宅x x業法」という。)が制定されている⑵。
しかし,サブリース方式による入居者(転借★)保護については,原賃貸借契約終了による入居者(転借★)に対する明渡し請求の問題が取り上げられてきたにとどまり,賃貸住宅管理業法にも,原賃貸借契約終了による転貸★たる地位の承継に関する規定が設けられているだけである⑶。本報告は,これまでほとんど議論されてこなかった,賃貸借契約をサブリース方式の転貸借に変更する契約の諸問題について,入居者(転借★)の保護という視点から検討するものである。
賃貸借契約をサブリース方式の転貸借に変更する契約の諸問題について検討するにあたり,まず,サブリース方式の法的性質及び転貸借に関する民法・借
地借家法の規定,判例・学説を要約しておく。
1.サブリース方式の法的性質
サブリース方式による管理委託については,賃料増減額請求権を定めた借地借家法32条の適用の有無をめぐって,原賃貸借契約(マスターリース契約)の法的性質が議論されてきた。学説は,民法の規定する賃貸借として構成する賃
貸借契約説⑷と,サブリース方式は,賃貸★と賃借★とが共同して行う収益事業で,賃借★が賃貸★に対して支払う賃料は収益事業からの分配であるとする共同事業説⑸に大別される。賃貸借契約説によれば,借地借家法の適用肯定に傾き,共同事業説によれば借地借家法の適用否定に傾くことになる。このような学説の対立のもとで,平成15年から16年にかけて,最高裁は,サブリース方式の原賃貸借契約(マスターリース契約)は建物賃貸借契約であるとして借地借家法の適用を肯定し,借地借家法32条1項は強行法規であるから,賃料自動増額特約があってもその適用を排除することはできず,賃料減額請求の当否および相当賃料額を判断するに当たっては,当事者間のxxの見地に照らして,マスターリース契約が締結された事情を総合的に考量して判断すべきものとす
る判決を繰り返している⑹。この最高裁判決に従って,サブリース方式による管理委託における原賃貸借契約(マスターリース契約)は建物賃貸借契約であるとするなら,賃借★(サブリース業者)による入居者への賃貸は,転貸借契約(サブリース契約)ということになり,入居者(転借★)の権利義務は,原則として,民法および借地借家法の転貸借に関する規定に従って考察すべきこ
とになる。
2.転貸借の成立・効力・消滅
民法および借地借家法によれば,賃借物転貸には賃貸★の承諾を必要とし(民法612条1項),無断転貸は賃貸借契約の解除原因となる(民法612条2項)⑺。
原賃貸★が転貸借を承諾しても,転貸借が適法となるだけで,原賃貸★と転 借★との間に賃貸借関係が成立するわけではなく,転借★は原賃貸★に対して 賃貸借上の権利をもたず,原賃貸★に対して目的物の修補請求などをすること はできない。これに対して,転借★は,原賃貸★と原賃借★(転貸★)との間 の賃貸借に基づく原賃借★(転貸★)の債務の範囲を限度として,原賃貸★ に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う(民法613条1項前段)。すなわち,目的物の保管義務,その違反による損害賠償義務,賃料支払義務, 契約終了時の目的物返還義務などを,原賃貸★に対して負担する。賃料支払x xについて,転借★は賃料の前払をもって原賃貸★に対抗することができない
(民法613条1項後段)⑻。前払をもって原賃貸★に対抗できないときは二度支払わなければならないが,その場合には原賃借★(転貸★)に対して不当利得返
還請求することになる。原賃貸★は,転借★が原賃借★(転貸★)に負担する賃料の範囲内で,原賃借★(転貸★)に対する賃料債権を転借★に対しても行使することができる。転借★に賃料支払を請求できる時期は,原賃借★(転貸
★)および転借★の賃料債務が弁済期にきた時である。
転貸借の成立によって原賃貸★と原賃借★の関係は影響を受けず,原賃貸★は,従来通り原賃借★(転貸★)に対してその権利を行使することができる(民法613条2項)。
転貸借は原賃貸借の存在を前提とするものであるから,原賃貸借が終了したときは,原則として転貸借も終了するが,原賃借★が適法に賃借物を転貸した場合には,原賃貸★は,原賃借★との間の原賃貸借を合意により解除したことをもって転借★に対抗することができない(民法613条3項本文)。ただし,その解除の当時,原賃貸★が原賃借★の債務不履行による解除権を有していたときは,この限りでない(民法613条3項但書)。したがって原賃借★の債務不履行により原賃貸借が解除され,終了した場合には,原賃貸★が転借★に対して目的物の返還を請求した時に,原賃借★(転貸★)の転借★に対する債務の履行不能により転貸借は原則として終了する⑼。賃料の延滞を理由に原賃貸借を解除するには,原賃借★に対して催告すれば足り,転借★に支払の機会を与える必要はない⑽。
原賃貸借が普通建物賃貸借契約で,賃貸★の更新拒絶又は解約申入れによって終了する場合は,正当事由が必要であり(借地借家法26~28条),正当事由の判断において転借★が建物の使用を必要とする事情も考慮される。原賃貸借が普通建物賃貸借契約で,賃借★の更新拒絶又は解約申入れによって終了する場合は,正当事由が不要であるから,賃借★の更新拒絶によって原賃貸借契約は終了するが,最高裁は,原賃貸★が再転貸借を承諾したにとどまらず,「再転貸借の締結に加巧し」,再転貸借部分の「占有の原因を作出したものというべき」ときは,xxx上,原賃貸借の終了もって再転借★に対抗できないとしている⑾。したがって,サブリース方式のように,原賃貸★が転貸借を承諾したにとどまらず,転貸借の締結に積極的に関与したと認められる特段の事情があるときは,賃借★の更新拒絶による原賃貸借の終了をもって,原賃貸★は転借★に対抗することができないといってよいであろう。
なお,原賃貸借が期間満了又は解約申入れによって終了するときは,原賃貸
★は,転借★にその旨の通知をしなければ,その終了を転借★に対抗できず(借地借家法34条1項),通知したときは,通知された日から6月を経過することによって転貸借は終了する(借地借家法34条2項)。
Ⅱ 問題の所在
上記のような効力を有する転貸借契約は,サブリース方式による賃貸住宅の新規入居者との契約でなされるだけでなく,すでに入居している賃借★との間でも,賃貸借契約を合意解除(又は賃貸★の地位を譲渡)して転貸借契約に切り替えるという方法でも行われている⑿。その一例として,次のような消費者
相談事例がある。
<消費者相談事例>
Cは,終戦後間もなくから約70年にわたり,Xから建物を賃借して居住してきたが,賃貸★(所有者)XからAへ当該建物が譲渡された。新所有者Aは,当該建物をサブリース業者Bに賃貸し,X・B・C連名で下記のような「所有者・賃貸★の地位変更通知書(兼承諾書)」を送付したが,X・Aの売買契約
賃貸借をサブリース方式の転貸借に変更する契約事例
物件の表示 〇〇市△ △ 町✕✕ 番地 木造階建て住宅 棟
所有者・賃貸人の地位変更通知書 兼承諾書
通知人 旧所有者・ 旧賃貸人 X 印
新所有者・賃貸人 A 印
賃借人・転貸人 B 印
令和3年〇月〇日付けで本物件の所有権が上記,旧所有者 X から新所有者 A に移転されました 。これに 伴い旧所有者 X の賃貸人の地位も新所有者 A に承継されます。そして, 同日付けにて, 賃借人 B は新所有者 A より, 本物件を一括借上げ,転貸人になりましたことを通知いたします。今後の賃料等の支払先と敷金など契約終了時に転借人に返還すべき債務を負う者は転貸人 B です
なお, これまでの契約条件は以下の≪取り決め事項≫ を除いて従前のままとします。また,同日付けで本物件の管理を転貸人 B に依頼しましたのであわせてお知らせいたします。
≪ 取り決め事項≫ ※ 従前の賃貸借契約は, 承継日以降,次の限りで変更します。
① 【賃料の支払先】
〇〇銀行△△支店 普通 * * * * B
② 【その他】原契約書の通り,転貸禁止とする。
以上
上記について賃借人は異議なく承諾しました。
住所
氏名 C 印
の内容,A・Bの賃貸借契約(定期建物賃貸借契約)の内容は,一切知らされていない。
この場合,賃借★Cは建物賃貸借の対抗力(建物の引渡し)を有する(借地借家法31条)から,X・A間の売買によって,所有者Xの賃貸★たる地位が譲受★Aに移転することについては問題がなく(民法605条の2第1項),賃借★Cは新所有者Aに対して,従来通りの正当事由がない限り更新拒絶又は解約できない普通借家権(借地借家法28条)を主張できることは疑いない。また,新所有者Aに対して有するCの賃借権は対抗力を有するから,新所有者Aが転貸★ Bとの間で賃貸借契約を締結(二重賃貸)しても,先に引渡しを受けている賃借★Cが優先することも疑いない⒀。したがって,賃借★Cは転貸★Bの賃借権(転貸権)を否定して,自己の賃借権を主張することができる。
問題となるのは,上記書面に捺印して承諾した場合,賃借★Cは,このよう な権利を放棄して新所有者Aとの賃貸借契約を合意解除し(又はAの賃貸★た る地位の譲渡に同意し),転貸★Bとの間に転貸借契約を締結したものとして, A・B間の原賃貸借(定期建物賃貸借)が期間満了により終了したときは,当 該建物を明け渡さなければならないかである。この問題を検討するにあたって は,次の諸点が問題になる。
①借地借家法平成11年改正附則第3条の適用問題
原賃貸借契約が定期建物賃貸借契約(借地借家38条)であるから,まず,借地借家法平成11年改正附則第3条の適用が問題になる。同条は,居住用建物の賃借★を保護するため,定期借家制度が施行された平成12年3月1日前に締結された,従来の正当事由がない限り更新拒絶や解約をすることができない普通賃貸借契約を,合意解除により終了させ,更新のない定期建物賃貸借に変更することは,「当分の間」認められていないとしているからである。
平成12年3月1日前から居住している賃借★については,同条により普通建物賃貸借を合意解除して定期建物賃貸借にすることが禁止されているが,合意解除して転貸借契約に切り替えることはできるとすると,原賃貸借が定期建物賃貸借である場合には,その期間満了によって原賃貸借が終了すると転貸借も終了し,転借★たる入居者は退去せざるをえなくなる。このように,定期建物賃貸借に切り替えたのと同様の結果になる転貸借への切り替えは,同条に反しな
いかが,まず問題になる。
②賃貸★による賃借★(サブリース業者)の地位承継問題
次に,新規入居者との転貸借契約でも同様であるが,原賃貸借契約が定期建物賃貸借である場合には,原賃貸借の定期建物賃貸借契約が期間満了によって終了したとき,転貸借も無条件で終了するかが問題になる。この問題は,原賃貸借終了にともなう原賃貸★(所有者)による転貸★たる地位の承継の問題として論じられている⒁が,定期建物賃貸借の原賃貸借が期間満了によって終了しても,転借★がいる場合には,賃貸★は転貸★の地位を引き継がなければならないとすると,結局,原賃貸借は消滅しないのと同じことになる。転借★の保護にはなるが,正当事由を必要とせず,期間満了によって当然に賃貸借関係が終了するものとした定期借家制度の趣旨に反することにならないか,慎重に検討しなければならない。
③説明義務違反の問題
さらに,転貸借は,転貸借契約の内容に拘束されるだけでなく,上述のように原賃貸借の契約内容の影響も受けるものであるから,xxx上,転貸借契約締結にあたっては,転貸借契約の内容を説明するだけでなく,原賃貸借契約の内容についても説明する義務があるか否かも問題になる。このことは,新規入居者との転貸借契約でも同様であるが,普通建物賃貸借をサブリース方式の転貸借契約に切り替える場合は,転借★にとって一方的に不利益な内容への変更であるから,説明の必要性は一段と大きい。
以上のような諸問題について,xx検討していくこととする。
Ⅲ 論点の検討
1.借地借家法平成11年改正附則3条の適用問題
借地借家法平成11年改正附則3条は,定期借家制度が施行された平成12年3月 1日前に締結された居住用建物の賃貸借契約を合意解除により終了させ,定期建物賃貸借に変更することは,「当分の間」認められないとしている。
居住用建物の賃貸借について,このような経過措置が規定されたのは,普通借家契約は正当事由制度によって賃借★が保護されているが,定期借家契約は正当事由制度による保護がなく,期間満了によって確定的に借家関係が終了す
るので,このことを十分に理解しないまま,合意によって普通借家契約から定 期借家契約に切り替えてしまうと,生活基盤である住居について,期間満了時 に予定外の明渡しを求められるといった不利益を受ける危険があるからである。定期借家制度が広く一般に普及し,居住用借家の賃借★も,定期借家の内容を 十分に理解した上で判断することが期待できるような状況になったときは,切 り替えが認められることになるが,その状況になる日がxxxは不明であるた め,「当分の間」と規定されたのである。
立法当初は,「当分の間」とは,定期借家制度の見直しが予定されている4年後(平成16年)が目途であるとする考えも示されていた⒂が,その後法改正はなされていないので,この規定は現在も有効であると解するべきである⒃。したがって,現在もなお,平成12年3月1日前に締結された居住用建物の賃貸借契
約を合意解除により終了させ,定期建物賃貸借に変更しても無効と解すべきである。
下級審判決には,70年間にわたり居住している,81歳で月額10万円の年金暮らしをしている賃借★との間の居住用建物の賃貸借契約を合意解除により終了させ,定期建物賃貸借に変更した契約を有効として,定期建物賃貸借期間満了による賃貸★の明渡し請求を認めたものがある⒄が,妥当とはいえない⒅。
借地借家法平成11年改正附則3条は現在も効力を有しており,平成12年3月1日前に締結された居住用建物の賃貸借契約を合意解除により終了させ,定期建物賃貸借に変更することは認められないとする場合,平成12年3月1日前に締結された居住用建物の賃貸借契約を合意解除により終了させ,原賃貸借が定期建物賃貸借である転貸借に変更することは認められるかが問題になる。転貸借は原賃貸借の終了に伴って終了するという原則によれば,原賃貸借が定期建物賃貸借であれば,その期間満了に連動して転貸借も終了することになるから,実質的には定期建物賃貸借に変更したのと変わりがない。本条の立法理由が前述のようなものであることからすれば,本条を適用または類推適用して,原賃貸借が定期建物賃貸借の場合には,転貸借への変更を認めず,無効と解すべきである。
以上により,本稿で取り上げた相談事例の場合は,BCの転貸借契約(サブリース契約)は無効で,AC間の賃貸借契約が存続しており,AB間の管理委
託契約部分のみ有効で,Bの賃料受領等は,管理委託契約に基づく代理行為になると解する。
2.賃貸人による賃借人(サブリース業者)の地位承継問題
借地借家法平成11年改正附則3条は,現在は失効していると解する場合や,失効していないが,転貸借には適用も類推適用もされないと解する場合は,平成12年3月1日前に締結された居住用建物の賃貸借契約を合意解除により終了させ,または賃貸★たる地位を譲渡して,サブリース方式により,原賃貸借が定期建物賃貸借の転貸借とすることが可能になる。しかし,その場合も,それによって成立した転貸借は,原賃貸借の定期建物賃貸借が期間満了によって消滅したときには,転貸借も消滅して明け渡さなければならないかについては,別途検討しなければならない。
多くのサブリース契約では,「原賃貸借契約(サブリース原契約)が終了したときは,転貸借契約の貸主(管理業者)の地位を賃貸不動産所有者が承継する」旨が定められており⒆,国土交通省の示す「特定賃貸借標準契約書」の21条1項においても,「本契約が終了した場合(第19条の規定に基づき本契約が終了した場合(筆者註:物件の全部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合)を除く。)には,xは,転貸借契約における乙の転貸★の地位を当然に承継する。」と規定され,権利義務関係の承継が推奨されている⒇。
これらのことをもって,「当該条項が定められることがほぼ常態化しており,ある程度の慣習法化なされているものといえるのではないだろうか。」とし,「サ ブリース契約に上記のような条項がない場合であっても,賃貸★が賃借★の 地位を承継することが上記のとおり慣習法化しているものと捉えるのであれば,賃貸★はサブリース業者たる賃借★の転貸★たる地位を承継することになる。」 とする見解がある 。しかし,原賃貸借が,正当事由がない限り更新拒絶又は 解約申入れができない普通建物賃貸借の場合には,そのようにいうことができ るとしても,原賃貸借が,期間満了によって確実に終了する定期建物賃貸借(借 地借家法38条)の場合には,「原賃貸借契約が終了した場合には,原賃貸★は 転貸借契約における転貸★の地位を当然に承継する」旨の条項がなくても,原 賃貸★はサブリース業者たる原賃借★の転貸★たる地位を承継しなければなら ないとすると,原賃貸★は,原賃貸借終了後も引き続き転借★に貸し続けなけ
ればならず,定期建物賃貸借契約を締結したことの意味がなくなる。原賃貸借が定期建物賃貸借の場合には,転貸借の権利義務を承継する旨の特約がない限り,期間満了によって原賃貸借が終了したときは,転貸借も終了すると解すべきである。
国土交通省も,原賃貸借が終了すれば転貸借も終了することを前提に,「サ ブリース住宅標準契約書」(令和2年12月版・家賃債務保証業者型)の〔権利 義務の承継〕第18条に,「甲(管理事業者・転貸★)と頭書(5)に記載する建 物の所有者との間の本物件に関する賃貸借契約が終了した場合(第13条の規定 に基づき本契約が終了した場合(本物件の全部が滅失その他の事由により使用 できなくなった場合)を除く。)には,甲は建物の所有者に対し,本契約にお ける貸主の地位を当然に承継する。」という条項を設け,標準契約書の使用を 推奨している。さらに,「貸主が建物所有者でない住宅に入居する方は必ずご 確認ください!」と題するパンフレットで,「入居物件の賃貸借契約書と,建 物の所有者(オーナー)と貸主(サブリース業者)間の賃貸借契約の両方に, 地位の承継に関する規定(※)があるかどうか,貸主や不動産業者に確認しま しょう。なお,賃貸借契約書にこの規定があれば,建物の所有者と貸主間の賃 貸借契約が終了しても,建物の所有者から退去を求められることはありません。
※「この契約が終了したときは,貸主の地位を,建物の所有者が引き継ぐ」旨の規定」と注意をうながしている。
このように解する場合,前述のように,最高裁は,原賃貸★が転貸借を承諾したにとどまらず,サブリース方式のように,「転貸借の締結に加巧し」,転貸借部分の「占有の原因を作出したものというべき」ときは,信義則上,原賃借
★(転貸★)の更新拒絶による原賃貸借の終了もって転借★に対抗できないと
している ので,この判決との整合性が問題になる。しかし,この判決は,原賃貸借が原賃借★(サブリース業者)の更新拒絶によって終了する場合,すなわち普通建物賃貸借に関するものであって,更新のない定期建物賃貸借は射程外と解すべきであるから,原賃貸借契約(マスターリース契約)が定期建物賃貸借契約の場合には,原賃貸借の終了もって転借★に対抗できるとしても矛盾はない。また,原賃貸借契約が普通建物賃貸借契約で,原賃貸★(所有者)の更新拒絶によって終了した場合も,同様に本判決の射程外で,原賃貸借の終了
もって転借★に対抗できるというべきである。
ただし,原賃貸★が転貸借を承諾したにとどまらず,転借★を紹介して転貸 借契約の仲介をするなど,転貸借契約の締結に積極的に関与したと認められる 特段の事情があるときは,本判決の趣旨からみて,原賃貸借契約(マスターリー ス契約)が定期建物賃貸借契約の場合も,信義則上,原賃貸借の終了をもって 原賃貸★は転借★に対抗することができないといってよいであろう。したがっ て,賃貸借契約をサブリース方式の転貸借に変更したような場合には,信義則上,原賃貸借の終了をもって原賃貸★は転借★に対抗することができないというべ きである。本稿で取り上げた相談事例は,まさにこれにあたるので,借地借家 法平成11年改正附則3条は,現在は失効していると解する場合や,失効してい ないが,転貸借には適用も類推適用もされないと解する場合も,ACの賃貸借 からBCの転貸借への変更は有効であるが,Aは,AB間の原賃貸借契約(マ スターリース契約)の終了をもって転借★(入居者)Cに対抗することができ ず,BC間の転貸借契約を引き継がなければならないと解するべきである。
3.説明義務違反の問題
賃貸借をサブリース方式の転貸借に変更する契約は,①従来の賃貸借契約を合意解除し,新たに転貸借契約を締結する,原賃貸★(所有者),原賃借★
(転貸★=サブリース業者),転借★(従来の賃借★)の複合契約か,②賃貸★ たる地位を譲渡する契約と解されるが,その多くは,相談事例に示したように,賃貸★A(所有者)と新賃借★・転貸★B(サブリース業者)が連名で,従来 の賃借★=転借★C(入居者)に承諾を求めるという形式でなされる。このよ うな形式による場合,従来の賃借★C(入居者)としては,賃貸★A名義が賃 貸★(転貸★)Bという名義となり,賃借★Cという呼称が転借★Cという呼 称に変わって,賃料支払先が変更されるだけで,従前の契約内容はそのままで あるから,何ら不利益はないと考えがちである。
しかし,賃貸借と転貸借では大きな違いがあり,普通建物賃貸借の場合は,賃貸★は正当事由がない限り更新拒絶又は解約することができない(借地借家法28条)が,転貸借の場合は,原賃貸借の存在を前提とするから,原則として原賃貸借が消滅すれば転貸借も消滅する。したがって,転借★が転貸★にきちんと賃料を支払っていても,転貸★(原賃借★)が所有者(原賃貸★)に賃料
を支払っていないと,債務不履行で原賃貸借契約が解除され,転借権も消滅して転借★は建物を明け渡さなければならなくなる。原賃貸借が定期建物賃貸借契約で,期間が満了した場合も同様である。
このように,転貸借は賃貸借に比べて入居者にとって不利益であることを,事業者は知っており,消費者は知らないというのは,一般に,事業者と消費者との間には,経験・専門的知識に格差があるからである。このような格差を是正して消費者を保護するものとして,事業者の重要事項説明義務が認められている。本稿で取り上げた相談事例においても,サブリース業者Bが,転借★に変更される賃借★Cに対して,転借★に変更されることによる不利益を,十分にわかりやすく説明した上で同意を得たのなら,問題はない。そこで,不動産
賃貸に関する説明義務の法規定をみると,およそ以下のようになっている。
(1)宅地建物取引業法
宅地建物取引業法35条は,宅地建物取引業者は,宅地若しくは建物の売買, 交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が 行う媒介に係る売買,交換若しくは貸借の各当事者に対して,その者が取得し,又は借りようとしている宅地又は建物に関し,その売買,交換又は貸借の契約 が成立するまでの間に,宅地建物取引士をして,同法の掲げる重要事項につい て,これらの事項を記載した書面(図面を必要とするときは図面)を交付して 説明をさせなければならないと規定している。
ここで「宅地建物取引業」とは,宅地若しくは建物の「売買若しくは交換」 又は宅地若しくは建物の「売買,交換若しくは貸借の代理若しくは媒介」をす る行為で業として行うものをいう(同法2条2号)。したがって,賃貸の代理又 は媒介をおこなう者は宅地建物取引業者となるが,みずから賃貸をおこなう者 は宅地建物取引業者にあたらず,宅地建物取引業法は適用されないので,同法 35条の重要事項説明義務はない。したがって,所有者およびサブリース業者は,みずから賃貸(転貸)する者であるから,宅地建物取引業法は適用されず,同 法35条の重要事項説明義務もない。その結果,賃貸マンションに入居しようと する消費者は,宅地建物取引業者の媒介で賃貸借契約を締結する場合は重要事 項説明を受けられるが,サブリース業者と賃貸借契約を締結する場合には重要 事項説明を受けることができない。
(2)賃貸住宅管理業法
賃貸住宅管理業法30条は,特定転貸事業者は,特定賃貸借契約を締結しよう とするときは,特定賃貸借契約の相手方となろうとする者(特定転貸事業者で ある者その他の特定賃貸借契約に係る専門的知識及び経験を有すると認められ る者として国土交通省令で定めるものを除く。)に対し,当該特定賃貸借契約 を締結するまでに,特定賃貸借契約の内容及びその履行に関する事項であって 国土交通省令で定めるものについて,書面を交付して説明しなければならない としている。ここで「特定賃貸借契約」とは,賃貸住宅の賃貸借契約であって,賃借★が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結さ れるもの(原賃貸借契約・マスターリース契約)をいい,「特定転貸事業者」とは,特定賃貸借契約に基づき賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者(サ ブリース業者)をいう。
このように,サブリース業者は,特定賃貸借契約を締結する場合には重要事 項説明をしなければならないとしているのは,住宅を賃貸しようとする建物所 有者とサブリース業者との間には,経験・専門知識・交渉力等に格差があるた め,サブリース業者の中には,建物所有者が契約内容を誤認していることに乗 じて特定賃貸借契約を締結する悪質業者が存在して,トラブルが多発したため である。その例として,将来的には賃料減額等が生じる可能性があるにも関わ らず,賃料改定条件,契約解除条件等について十分な説明を行わず,特定賃貸 借契約を締結させる場合などがある。そこで,原賃貸★が契約内容を正しく理 解し,適切なリスク判断をした上で特定賃貸借契約を締結することができるよ う,サブリース業者に重要事項説明義務が課されているのである。これにより,建物所有者(原賃貸★)が悪質なサブリース業者の被害にあう可能性は大きく 減少するであろうが,サブリース業者のもう一方の相手方となる転借★(入居者)に対する重要事項説明義務については,賃貸住宅管理業法に規定がない。宅地 建物取引業法が,みずから賃貸する場合を同法の適用除外とし,重要事項説明 義務を課していないこととの関係性・整合性を考慮したことによるものと推測 される が,サブリース業者による転貸は,賃貸マンションに入居しようとす る一般消費者からすれば,宅地建物業者による賃貸の代理・媒介と大差ないの であるから,入居者(転借★)保護という視点からは問題があるといわなけれ
ばならない。
(3)消費者契約法
すでに述べてきたように,賃貸借をサブリース方式の転貸借に変更する契約は,賃借★の利益を一方的に害する契約である。そこで,消費者契約法10条の,「法 令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限 し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第1条第2項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とす る。」という規定の適用の有無が問題になる。しかし,「契約の主要目的に関す る条項または物品・権利・役務の価格・対価に関する条項は,本条の対象から 除外されると解される。」 ので,賃貸借契約を合意解除して転貸借契約に変 更するという主要目的は,消費者に一方的に不利益であるとしても,消費者契 約法10条の対象外である 。したがって,主要目的の効力については,民法(公
序良俗違反,信義則違反,権利の濫用等)によることになる 。
(4)民法
契約締結の準備段階においても,信義則が当事者の法律関係を規律し,信義則上の義務として説明義務があることは,判例・通説の認めるところである。しかし,判例は,この説明義務を,後に締結された契約に基づいて生じた債務であるとするのは,「契約上の本来的な債務というか付随義務というかにかかわらず,一種の背理であるといわざるを得ない」として,説明義務違反を債務不履行ではなく不法行為としている 。したがって,賃貸借をサブリース方式の転貸借に変更する契約を締結にあたって,サブリース業者が何ら説明をしなかったとしても,不法行為による損害賠償を請求することはできるが,債務不履行による転貸借契約の解除(民法542条)はできない。
これに対して,原賃貸★は,もともと賃貸借契約関係にあったのであるから,原賃貸借契約を転貸借契約に変更する際の説明義務は,信義則に基づく賃貸借 契約上の義務であるといえよう。したがって,原賃貸★に対する関係では,変 更契約を解除して原賃貸借への回復を主張することも可能であると思われる。
契約解消によって転借★を保護する途として,錯誤(民法95条)または詐欺(民 96条)による取消しも考えられるが,転貸借の法知識に乏しく,契約内容を誤認したことをもって錯誤の要件を充たしているとはいい難く,その誤認を解く
べく説明しなかったことをもって詐欺いうことはできないであろう。
4.サブリース方式を委任契約とすることによる問題解決
平成15年に,最高裁がサブリース方式の原賃貸借契約(マスターリース契約)は建物賃貸借契約であるとして借地借家法の適用を肯定した後,平成26年に, サブリース方式による賃貸借契約の内容を詳細に検討し,賃貸借契約ではなく,実質的に委任契約であるとして借地借家法の適用を排除した,注目すべき下級 審判決がある 本判決は,本件の事案は,契約期間が2年間という比較的短期間
(通常は20~30年間)で,収納賃料等から管理料(管理委託料),管理組合へ支 払う管理費・修繕積立金を差し引いた残額の60%を賃料として支払うものとし,転貸による収納賃料がない物件に関しては賃料を支払わなくてもよいとされて いることなどから,通常のサブリース方式の管理委託契約と異なり,賃料最低 保証額が定められておらず,空室部分については賃料支払義務がないから,賃 料を約定した賃貸借契約というよりは,入居者から賃料を収集し,管理費と報 酬分を控除して賃貸★に引き渡す委任契約であるとして,借地借家法の適用を 排除し,委任の規定に従って,正当事由がなくても契約解除できるとしている。
このように考えれば,サブリース方式の管理委託契約には,建物賃貸借契約類型と委任契約類型があることになる。委任契約類型の場合には,各当事者はいつでもその解除をすることができ(民651条1項),サブリース業者が入居者と締結した転貸借契約は,サブリース業者が所有者の代理★として締結した賃貸借契約ということになるから,委任契約が解除され又は終了しても影響を受けない(民法652条)。サブリース方式の管理委託契約で,形式上,転借権を与えた賃貸借契約が締結され,それに基づいて転貸借契約が締結されていても,賃料最低保証額が定められておらず,実質的には,建物所有者の代理★となって入居者と賃貸借契約を締結し,賃料を収集して,管理費と報酬分を控除して賃貸★に引き渡すに過ぎない場合は,これを委任契約として借地借家法の規定
(定期建物賃貸借の規定を含む。)の適用を排除した方が,原賃貸借契約(マスターリース契約)終了後の転貸★の権利義務の継承問題も起こらず,転借★の保護という点で優れているといえよう。
本稿で問題とした相談事例も,まさにこのようなサブリース方式の管理委託契約であった。
Ⅳ まとめ
建物賃貸借契約をサブリース契約(転貸借契約)に変更する契約は,建物所有者,サブリース業者,入居者の3者間でなされる,従来の建物所有者と入居者との間の賃貸借契約を合意解除(又は賃貸★の地位を譲渡)し,サブリース業者との転貸借契約に切り替える複合契約である。
1.建物所有者とサブリース業者との間で締結される原賃貸借契約(マスターリース契約)は,期間を20~30年とする定期建物賃貸借契約であることが多いが,原賃貸借契約(マスターリース契約)が定期建物賃貸借契約(借地借家法38条)である場合には,入居者との従来の賃貸借契約が平成12年3月1日前に締結された居住用建物の賃貸借契約であるときは,定期建物賃貸借契約への切り替えを禁じた借地借家法平成11年改正附則3条が適用または類推適用により,無効と解するべきである。したがって,サブリース業者との間の転貸借とはならず,建物所有者との間の従来の賃貸借契約が継続する。
2.平成12年3月1日以後に締結された居住用建物の賃貸借契約をサブリース 方式の転貸借に変更することは是認されるが,その場合には,国土交通省の「特 定賃貸借標準契約書」の21条1項に,「本契約が終了した場合(第19条の規定に 基づき本契約が終了した場合を除く。)には,甲は,転貸借契約における乙の 転貸★の地位を当然に承継する。」と例示されているような,転貸借の権利義 務関係の承継条項を規定しておくことが望ましい。多くのサブリース契約には,
「原賃貸借契約(サブリース原契約)が終了したときは,転貸借契約の貸主(管理業者)の地位を賃貸不動産所有者が承継する」旨が定められるようになっているが,強制されているわけではない。
権利義務関係の承継条項が規定されていない場合,民法の原則に従って,原賃貸借の終了により転貸借も終了する。権利義務関係の承継条項が規定されていなくても,転貸借の権利義務関係を承継する慣習法が成立しているとして,これを認める説もあるが,原賃貸借契約が普通建物賃貸借契約の場合には,そのようにいうことができたとしても,原賃貸借契約が定期建物賃貸借契約(借地借家法38条)の場合には,期間満了によって確実に賃貸借関係を終了させることができなくなるので,特約もないのに,転貸借を承諾したという理由だけで,原賃貸★(所有者)転貸借関係を承継させることはできない。ただし,原
賃貸★が転貸借を承諾したにとどまらず,転借★を紹介して転貸借契約を媒介するなど,転貸借の締結に積極的に関与したと認められる特段の事情があるときは,信義則上,原賃貸借の終了をもって原賃貸★は転借★に対抗することができないといってよいであろう。
3.賃貸借契約をサブリース方式の転貸借契約に変更することは,転借★にとって一方的に不利益となる契約であるから,転借★への説明義務も問題になるが,サブリース業者(転貸★)はみずから賃貸する者であるから宅地建物取引業法は適用されず(同法2条2号),同法の規定する重要事項説明義務はなく(同法35条),賃貸住宅管理業法も,原賃貸借契約(マスターリース契約)の原賃貸★(所有者)に対する重要事項説明義務を規定している(同法30条)が,転借★に対する重要事項説明義務は規定していない。また,消費者契約法10条の
[消費者の利益を一方的に害する条項の無効]の規定も,契約の主要目的に関する条項は,対象から除外されると解されているので,適用されない。したがって,転借★は,転貸★たるサブリース業者に対して,信義則上の義務としての説明義務違反を問うことになるが,判例 によれば,債務不履行ではなく,不法行為であり,転借★は損害賠償を請求することができるだけである。
4.以上のように,建物賃貸借契約をサブリース方式の転貸借に変更した場 合,転借★の保護は極めて不十分といわなければならないが,それを補充する ものとして,東京地裁が示した ,サブリース方式の管理委託契約を,建物賃 貸借契約類型と委任契約類型にわける考え方がある。すなわち,サブリース方 式の管理委託契約で,形式上,転借権を与えた賃貸借契約が締結され,それに 基づいて転貸借契約が締結されていても,賃料最低保証額が定められておらず,実質的には,建物所有者の代理★となって入居者と賃貸借契約を締結し,賃料 を収集して,管理費と報酬分を控除して賃貸★に引き渡すに過ぎない場合(本 稿の相談事例もまさにこのようなものであった。)には,これを委任契約とし て借地借家法の規定の適用を排除するのである。この委任契約類型の場合には,各当事者はいつでもその解除をすることができ(民651条1項),サブリース業 者が入居者と締結した転貸借契約は,サブリース業者が所有者の代理★として 締結した賃貸借契約ということになるから,委任契約が解除され又は終了して も影響を受けない(民法652条)。委任契約類型と認定されれば,原賃貸借契約
(マスターリース契約)終了後の転貸★の権利義務の継承問題を論ずるまでもなく転借★が保護されるので,委任契約類型を認めることに賛同する。
註
⑴ 澤野順彦「サブリースと賃料増減請求」NBL554号36頁以下(1994年),同『借家契約』107頁以下(住宅新報社,1993年)。
⑵ サブリース業を規制する内容として,①誇大広告等の禁止(法第28条),②不当な勧誘等の禁止(法第29条),③契約締結前における契約内容の説明及び書面交付(法第30条),④契約締結時における書面交付(法第31条),⑤書類の閲覧(法第32条)等が定められている。
⑶ 賃貸住宅管理業法30条, 同法施行規則46条13号。
⑷ 道垣内弘★「不動産の一括賃貸と借賃の減額請求」NBL580号27頁以下(1995年), 加藤雅信「不動産の事業受託(サブリース)と借賃減額請求権(上)(下)」 NBL568号19頁以下(1995年)・569号26頁以下(1995年)。
⑸ 平井宜雄「いわゆる継続的契約に関する一考察」星野古希『日本民法学の形成と課題・ 下』697頁以下(1996年),下森定「サブリース訴訟最高裁判決の先例的意義と今後の理論的展望(下)」金商1192号16頁(2004年)。
⑹ 最三小判平15・10・21民集57巻9号1213頁,判タ1140・68(センチュリータワー対 住友不動産事件),最三小判平15・10・21判時1844・50(住友不動産対横浜倉庫事件),最一小判平15・10・23判時1844・54,判タ1140・79(個★対三井不動産販売事件), 最二小判平16・11・ 8判時1183・52(三和リール事件)。
⑺ この解除権は信頼関係破壊理論によって制限される傾向にある。なお,借地★が借地上に所有する建物を第三者に賃貸しても,借地★は建物所有のため自ら土地を使用しているものであるから借地を第三者に転貸したとはいえない(大判昭8.12.11大審院裁判例第7民277)。また,転借★に独立の使用・収益権が与えられていない場合には転貸とはいえないので,居住用家屋の賃借★が妻子や家事使用★を同居させても転貸にならない。営業用建物の賃借★が第三者と共同経営を始めた場合,第三者が賃借★と対等ないし主導的な立場で共同経営にあたる場合は転貸になる(最判昭28.11.20民集7.11.1211)。
⑻ 何を標準として前払というかについて,判例は,転貸借契約で定められた賃料支払時期を標準としている(大判昭7.10.8. 民集11.1901)。
⑼ 最判平9.2.25民集51.2.398。
⑽ 最判昭37.3.29民集16.3.662。
⑾ 最判平14年3月28日民集56巻3号622頁。
⑿ 松田佳久「サブリースにおける更新拒絶と正当事由-サブリース業者からの更新拒絶,賃貸★による賃借★(サブリース業者)の地位承継問題を含む-」創価法学第47巻第3号52頁(2018年)。
⒀ 最判昭和38.1.25民集17.2.41。
⒁ 松田佳久・前掲⑿ 41頁,亀田浩一郎「サブリース取引における転貸借法理の変容」法律論叢第84巻第2・3合併号233頁以下(2012年)など。
⒂ 原田純孝「定期借家権の問題点」法律時報72巻2号(2000年), 澤野順彦『Q&A定期借家の実務と理論』175頁(住宅新報社,2000年)。
⒃ 藤井俊二「定期建物賃貸借をめぐる法的諸問題」澤野順彦編『不動産法論点体系』 377頁(民事法研究会,2018年)。稲本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法・第4版』406頁〔藤井俊二〕(日本評論社,2020年)。
⒄ 東京地判平成27年3月27日LEX/DB 文献番号25525277
⒅ 同旨・藤井俊二・前掲⒃ 378頁。
⒆ 長井和夫「不動産サブリースのしくみ-管理・原契約を中心に-」国民生活ウェブ版25・10頁(2014年)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11436742/www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-
201408_03.pdf(2022.1.31), 太田秀也『賃貸住宅管理の法的課題2-迷惑行為・自殺・サブリース』219頁(大成出版,2014年)。
⒇ 「特定賃貸借標準契約書」(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001403658.pdf
(2022.1.31)
松田佳久・前掲⑿ 58頁。
前掲⑾の判決。
饗庭未希子「サブリース契約における重要事項説明義務違反の私法上の問題」神戸法学年報32巻34頁(2018年)。
落合誠一『消費者契約法』152頁(有斐閣,2001年)。
第16次国民生活審議会消費者生活部会「消費者契約法(仮称)の具体的内容につ いて(概要)」4(1)平成10年。第17次国民生活審議会消費者生活部会消費者契約 法検討委員会「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」第3-4(1)1,2平成11年。
前掲 ・「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」第3-4(1)2平成11年。
最判平23年4月22日民集65巻3号1405頁。
東京地判平26.5.29LEX/DB25519736。本判決を丁寧に分析し,サブリースと称する契約には建物賃貸借契約類型と委任契約類型があることを承認するものとして,松田佳久・前掲⑿50頁以下がある。
前掲 の判決。
前掲 の判決。
Various Contractual Problems Concerning Changing Building Lease Agreements into Sublease Agreements
Saki Arishima
There are two ways in which the owner of rental housing can entrust the management of rental housing, the former is to execute an entrustment of management agreement, and the latter is to execute a lease agreement granting a sublease to a
management agent in advance(the sublease method). Until recently, various problems between building owners(lessors)and sublease agents(lessees/sublessors)have been discussed in the case of sublease method, usually centered on problems concerning rent increase/decrease claims and agreement termination. However, there has been hardly any discussion on the protection of tenants(sublessees), and even if such topic were discussed, they was limited to the extent of problems concerning demand for surrender against the tenant(sublessee)due to the termination of a former lease agreement. Hence, this paper examined various contractual problems concerning changing lease agreements into sublease agreements based on the sublease method, from the perspective
of protection of tenants(sublessees).
This paper points out that(i)Article 3 of the Supplementary Provisions of the Act on Land and Building Leases, amended in 1999, that prohibited shifting to fixed term building lease agreements is to be applied or analogically applied in cases in which the conventional lease agreement before changing to sublease agreement is a lease agreement for a residential building executed before March 1, 2000;(ii)it should be construed that a former lessor may not assert against a sublessee on the grounds of termination of a former lease agreement under the principle of good faith if there are special circumstances in which the former lessor not only agreed to the sublease but was actively involved with the execution of a sublease agreement such as mediating a sublease agreement by introducing
sublessees;(iii)sublease agent is obliged to explain matters to tenants under the principle of good faith; and(iv)there are two types of entrustment of management agreement under the sublease method, the former being the building lease agreement and the latter the entrustment agreement.