『アジルアソシエイツレポート』 Vol.7
『アジルアソシエイツレポート』 Vol.7
購買契約業務の重要性とその課題
―購買契約管理をどのように実現するか―
2008 年 3 月
1. 重要性が高まる購買契約業務 2
2. 購買契約業務における問題点 3
3. 購買契約業務の 3 つの課題 4
3.1 購買契約業務が未整備 4
3.2 契約条項の判断基準が不明確 5
3.3 交渉窓口である購買担当者および購買部門のスキル不足 5
4. 課題解決のために何をすればよいか? 6
4.1 課題解決の方向性. 6
4.2 課題解決のための具体的方策 6
5. 購買契約管理の仕組みづくり事例 12
6. まとめ. 14
【株式会社 アジル アソシエイツについて】 15
1. 重要性が高まる購買契約業務
2007 年に社団法人日本能率協会と株式会社アジルアソシエイツが共同で実施した「購買・調達に関する調査」によると、近年特に経営陣から購買部門に期待する課題として、「コンプライアンス・内部統制強化等」が 40%を占めている。この点からコンプライアンス対応が既に購買業務の大きな役割であることがわかる。
これは、2007 年に完全施行されたJ-SOX 法による「内部統制の強化が主要な買掛金勘定に係わる業務である購買部門にまで求められるようになったこと」、 また、2004 年に施行された改正下請法により、下請法の対象範囲が広がり、「購買担当者の責任が高まってきたこと」等が背景としてあげられる。
また、近年の企業活動のグローバル化、コア業務への自社リソースの集中化を受け、「新しいサプライヤとの取引の必要性の高まり」、テクノロジーの進化に伴う「社外ノウハウの積極的かつ戦略的な取得」、「知的財産権の重視」のような経営環境の変化を背景にして、購買契約業務の重要性は益々高まっている。
このような背景の下、ある電機メーカーが、サプライヤに対して電子部品の 開発委託をする際に仕様変更時の取り決めを契約上に明記していなかったため、後日、開発委託費用の支払いについて紛争となり、損害を被った事件が発生し た。また、もうひとつの例では、ある機械メーカーが、自社製品の一部をサプライ ヤに対して開発委託した際に、知的財産の帰属に関して明確に定めていなかっ たために、サプライヤとの間で長期間の紛争事案となったケースもあげられる
これは、契約管理の未整備が企業に損失を与えたり、訴訟の原因となったりした事例であり、あくまでも数少ないxxした事案にしかすぎない。これらの事案の水面下では数多くの購買取引にかかるトラブルが発生していると考えられる。
このような購買取引リスクの高まりから、購買担当者は、xxxxxとの購買契約業務にかなりの工数を要するようになっている。しかし、工数増加の要因は購買契約業務の重要性が増しただけではない。一連の購買業務プロセスが購買システムの導入等によって過去に比べ効率化されたにもかかわらず、購買契約締結やそれに関わる交渉業務は未だシステム化されておらず、マニュアル作業に頼っていることも工数増大原因の一つである。
今まで述べてきたように購買契約業務の重要性が高まっている一方で、購買契約業務の問題点やあるべき姿に関する書籍や論文は、法律家の観点から論
ぜられたものは存在するが、購買担当者の観点から論ぜられることは少なかった。
本レポートでは、購買担当者の観点から購買契約業務の現状とその課題を整理した上で、改善策を提示したい。
2. 購買契約業務における問題点
購買担当者より、よく聞く購買契約業務における問題点(悩み)としては、①購買契約に関する知識の不足 ②契約締結業務に要する多大な工数 ③契約締結業務に要する多大な期間、があげられる。
① 購買契約に関する知識の不足
契約条項に対する知識が少なく不利な契約を締結してしまう。もしくは契約書に曖昧な表記を残す等の不備が残ってしまう。最悪の場合、購買企業側とサプライヤとの間で紛争が発生した際に、会社に損害を与えてしまう、等の問題点。
昨今の企業の不正表示や食品偽造等の問題でもわかるように、企業は自社の問題だけではなく、問題を有するサプライヤとの取引によっても多大な損害を被るような環境になっている。このような損害を被るリスクを軽減するために、購買企業側は、購買契約締結時に、損害発生時における賠償金額の上限を設けずに契約条項を提示するのが通常である。一方で、サプライヤは、損害額の上限を設けた条件で、再提案を提示するのが一般的である。
本来であれば、購買企業側は、条項の変更で発生するリスクを評価した上で、サプライヤの主張を受け入れるか否かを判断することが必要である。しかし、購買企業側、特に購買部門では契約業務に関する知識が不足し、リスクを評価する方法を持っていない。このため、購買企業側にとって不利な契約を締結し、購入した物件に関連してトラブルが発生し、損失が発生したにもかかわらず、充分な賠償請求ができず、購買企業側が損失を被ってしまうケースは少なくない。
② 「契約締結業務に要する多大な工数」
ある企業の内部統制強化プロジェクトで、購買契約の未締結のリスクが指摘され、経営層より至急全てのサプライヤとの間で取引基本契約を締結するよう指 示された。しかし、契約未締結のサプライヤ数は1,000 社以上あり、それらのサプ
ライヤとの契約内容の確認、交渉を行うため、多大な工数を要した。この企業では基本契約締結が最重要課題であったため、他の全ての購買業務がストップしてしまった。
このような事例に代表されるように、企業のリスク管理の強化が購買部門の多大な工数につながるケースは少なくない。
③ 「契約締結業務に要する多大な期間」
購買契約の交渉は購買部門の役割である企業が多い。しかし、そもそも契約に関する知識や意識の低さ、工数の問題等から、実質的にはサプライヤと自社の法務部門の窓口となっているだけの企業も少なくない。そのため、契約書の不備の指摘を始め、細かな点についても法務へ確認を行う必要がある。一方で、 サプライヤの営業部門も同様である。であれば両社の法務部門同士が話しをするのが一番早いが、間に法律や契約の専門家ではない購買担当者や営業担当者が入っているため、契約締結までに多大な期間がかかっている。
逆に言うと、購買担当者は、購買契約について付加価値をつける仕事ができていない。
3. 購買契約業務の 3 つの課題
前述したように購買契約業務に関連して様々な問題点が顕在化しているが、これらの問題点は大きく 3 つの課題に整理される。
1. 購買契約業務が未整備
2. 契約条項の判断基準が不明確
3. 交渉窓口である購買担当者および購買部門のスキル不足以下でこれらの 3 つの課題について解説をする。
3.1 購買契約業務が未整備
購買契約交渉時には通常、契約当事者が用意している契約書の雛型を提示し、その内容を他方の企業が検討することから始まる。この場合、契約書雛型を購買企業側またはサプライヤ側のどちらのものを使うかで、結果は大きく異なってくる。なぜなら、購買企業側にて準備した契約書雛型を使うと、契約 に関する方針を、漏れなく明確にサプライヤ企業に提示できるからである。しかし、現状の購買契約業務においては、サプライヤの雛型を使い交渉を行う
ケースも少なくない。また、自社に雛型があるにもかかわらずその存在を知らずに、使用していないケースも多い。そのため、結果的に契約交渉に多大な 工数や期間を費やしていることが多い。また、法務部門、購買部門、評価部門
(法務部門、購買部門以外でリスクを評価する部門)等の各契約関連部門が、各条項についてどういう役割分担で交渉判断をするか?等の役割とフローが 明確になっていない為、その都度多大な工数を費やしているケースも多い。
3.2 契約条項の判断基準が不明確
購買企業が購買取引リスクを最小限に抑えるためには、各契約条項について、サプライヤより提示された条件を受け入れるか否か、または、どのような条件で妥結するかについて、判断基準が必要である。
現状、多くの企業では、判断基準が不明確であり、サプライヤからの提示条件をそのまま呑み込んで契約を行ったり、契約書にあいまいな事項を残す等のリスクを抱えたりするケースも多い。
先の損害賠償条項を例にとると、損害額の推計とリスクの発生確率から、リスクの評価を行い、サプライヤからの提案を受け入れるか否か、または、どのような反対提案を提示するかを判断する必要がある。
しかし、現状多くの企業は、合理的なリスク評価ができていない。あくまでも購買担当者や法務担当者の属人的な裁量によって判断している。
これは、企業の購買取引契約におけるリスク回避に大きな影響を与えるだけでなく、その場しのぎの対応となることで、多大な工数、期間を費やすことにつながっている。
3.3 交渉窓口である購買担当者および購買部門のスキル不足
近年法律実務は購買部門や購買担当者にとっても必須になってきている。しかし、現実には購買担当者のスキル向上の機会がなく、その場しのぎの対応や単なる法務部門の窓口になっている。
具体的には「なぜこの条項が必要か?」程度の知識や、「xxxxxの提示した条項が、リスクにどの程度影響を与えるか?」について、推定ができる必要がある。このようなスキルを補っていくことも課題の一つである。
4. 課題解決のために何をすればよいか?
4.1 課題解決の方向性
これらの 3 つの課題は仕組みの見直しで、ある程度解決が可能である。仕組みの見直しをしていくために、実行しなければならないのは、大きく分けると、以下の 3 点である。
① 購買契約プロセスの標準化
購買契約プロセス標準化の重要なポイントとしては、購買契約書雛型 の整備があげられる。最初に購買企業側が自社雛型を準備し、サプライ ヤへ提示、サプライヤからの条項変更の申入れ、変更内容検討のフロー、交渉、最終決定、レビューというような標準プロセスを整備する。
② 契約条項毎の判断基準、担当部署の明確化
契約交渉の過程において、購買企業側がサプライヤより契約条項の変更提案を受けた際に、その条項変更によってどのようなリスクが発生するか、そのリスクは許容できる範囲か否かについて、判断する基準と判断する部署を明確化する必要がある。
③リスク評価の仕組みづくり
購買契約に関連して発生したトラブル事例を、購買部門、法務部門、評価部門等において共有する。また、各契約条項の責任部署がこの事例を定常的に蓄積、分析して契約条項変更時のリスク評価の指針とする仕組みを構築する必要がある。
4.2 課題解決のための具体的方策
本項では、前述の 3 点の仕組みについて実行すべきことを具体的に解説する。
4.2.1 契約プロセスの標準化
契約プロセスの標準化としては、購買契約書雛型の整備と購買契約プロセスの明確化があげられる。
4.2.1.1 購買契約書雛型の整備
各種契約書雛型を、購買担当者と法務担当者が中心となり作成する。契約書雛型作成時のポイントは、契約条項に漏れがないこと、過去のリスク及びリスク評価事例を極力反映させること、法律上の規定や購買額と購買件数に従い優先順位をつけて整備していくことである。
契約書雛型の類型例は大きく、(1)購買品目による類型、(2)取引形 態による類型に分けられる。企業により様々なケースが考えられるが、おおよそ 10 種類程度の雛型を整備しておき、場面に応じて使い分ける必要がある。
(1)購入品目による購買契約雛型の類型
物品・設備系の購買を例にとると、材料を購買する場合と設備を購買する場合では、検査条件や保証条件が異なることが多いため、物品取引契約と設備取引契約を分けて雛型を作成する。
役務系の契約に関しては、人材派遣契約や工事請負契約は、法令により契約への記載事項が定められているため、独立した雛型を作成す る。
ソフトウエアを購入するケースにおいても、ソフトウエア開発委託契約とソフトウエアライセンス許諾契約では、知的財産の帰属条件が異なるためそれぞれの雛型を作成する。
(2)取引形態による購買契約雛型の類型
①契約の継続性
契約の継続性による区分においては、例えば月に 10 件以上の取引がある場合は、基本契約を雛型として準備し、月に 10 件未満の取引しかな い場合は、個別契約の雛型を使用する。このように継続的取引があるか、否かを判断したうえで、雛型を整備する必要がある。
②購買品目の用途
購買品目の用途による区分においては、契約書雛型を分けて整備している。これは、販売することを目的とした購買の場合、購買契約内容には顧客販売との契約条件を最大限反映させる必要があるためである。
③下請法対象取引先
下請法対象取引先による区分においては、主に支払い条件において法令に定められた条件を遵守する必要があるため個別に雛型を整備する必要がある。
④取引先の属性
取引先の属性による区分においては、関係会社との取引と一般会社との取引とで支払条件を変えるケースが多いため、関係会社取引用の購買契約と一般会社取引用の購買契約とでは別の雛型を整備しているケースが多い。
4.2.1.2 プロセスの標準化
購買契約業務プロセスを整備する。下図は、購買契約の標準プロセスの事例である。
購買契約業務プロセス事例
① 購買担当者と法務担当者が中心となって購買契約書雛型を作成
② サプライヤとの取引開始前に購買担当者は、その取引に応じた購買契約書雛型をサプライヤあてに送付
③ サプライヤは、購買担当者より送付された購買契約書雛型を精査した上で、契約条項に異義がある場合は、購買担当者あてに修正提案を送付
サプライヤにおいて、異義がない場合は、購買契約書締結を実施
④ 購買担当者は、サプライヤより入手した購買契約書雛型修正提案を確認後、条項修正リスク評価をする担当者あてに送付(本例では、リスク評価担当者は評価担当者であるが、法務担当者や購買担当者であるxxx、複数の部門の担当者であるxxxもありうる)
⑤ 評価担当者は、xxxxxより送付された契約書雛型修正提案のリスク評価を実施
⑥ 評価担当者は、評価の結果を踏まえて、xxxxxに対する回答案を作成し購買担当者宛に送付
⑦ 購買担当者は、評価担当者より送付された回答を確認した上で、サプライヤあてに送付
⑧ xxxxxは、回答を確認した上で、再度修正提案を送付
③~⑧までを購買企業側とサプライヤとの契約内容合意まで繰り返す
⑨ 購買担当者とxxxxxとの間で契約内容の合意
⑩ 購買担当者とxxxxxとの間で、契約調印
企業によっては、⑥と⑦との間に、法律上の課題の最終確認を目的として必ず法務部門のチェックを受けるケースもある。いずれにしても、このような標準プロセスの整備、ルール化を行う必要がある。
4.2.2 契約条項毎の判断基準、担当部署の明確化
購買企業側は、リスク回避のために、サプライヤより提示された条項変更を受け入れるか、反対提案を提示するかについて論理的な判断基準を持つことが必要である。その判断基準は、購買企業側において発生したトラブル事例の発生頻度と損害金額を元に評価を行うことによって可能となる。トラブル事例を蓄積、分析し、リスク評価をした上で、xxxxxの提案を受け入れるか、反対提案を提示するか、基準と判断を行う責任部署をあらかじめ定めておくことで、的確かつ迅速な対応が可能となる。次表には、契約書雛型毎の各条項の責任部署例を記載した。
一般的な契約条項毎の責任部署
物品売買契約書 | 業務委託契約書 | ||
条項 | 責任部署 | 条項 | 責任部署 |
第 1 条 目的 | 購買部門 | 第 1 条 目的 | 購買部門 |
第 2 条 個別契約の成立 | 購買部門 | 第 2 条 委託業務内容 | 購買部門 |
第 3 条 納入 | 購買部門 | 第 3 条 個別契約 | 購買部門 |
第 4 条 検査条件 | 購買部門 | 第 4 条 再委託 | 評価部門 |
第 5 条 所有権移転 | 法務部門 | 第 5 条 受託企業の責任 | 購買部門 |
第 6 条 支払条件 | 財務部門 | 第 6 条 支払条件 | 財務部門 |
第 7 条 瑕疵担保 | 評価部門 | 第 7 条 機密保持 | 評価部門 |
第 8 条 知的財産の侵害 | 知的財産部門 | 第 8 条 報告 | 購買部門 |
第 9 条 機密保持 | 評価部門 | 第 9 条 個人情報の扱い | 法務部門 |
第 10 条 権利義務の譲渡 | 法務部門 | 第 10 条 有効期間 | 購買部門 |
第 11 条 損害賠償 | 評価部門 | 第 11 条 変更 | 購買部門 |
第 12 条 契約期間 | 購買部門 | 第 12 条 解約 | 法務部門 |
第 13 条 契約解除 | 法務部門 | 第 13 条 監査 | 購買部門 |
第 14 条 存続事項 | 法務部門 | 第 14 条 存続事項 | 法務部門 |
第 15 条 協議 | 法務部門 | 第 15 条 管轄裁判所 | 法務部門 |
第 16 条 管轄裁判所 | 法務部門 | 第 16 条 協議 | 法務部門 |
第 17 条 準拠法 | 法務部門 | 第 17 条 準拠法 | 法務部門 |
4.2.3 リスク評価の仕組みづくり
購買契約に関連して発生したトラブル事例を、購買部門、法務部門、評価部門にて共有する。尚、このトラブル事例の中には、トラブル発生によって購買企業側が実際に損害を被ったケースの他、トラブルを解決し損害を被らなかったケースの両方を含むものとする。購買企業は、このトラブル事例を蓄積し分析したうえで、契約条項変更時のリスク評価の指針とする仕組みを構築する必要がある。実際には、トラブル発生の事例を収集できるのは、購買担当者であるため、購買担当者がトラブル事例を発生の都度、報告書の形でまとめて法務部門、評価部門等の責任部署に送付し、責任部門がそれらを分析し、判断基準を定期的に改訂してくことが現実的な方法である。
購買担当者は、トラブル事例を漏れなく収集し、責任部署が定期的にリスク評価を実施したうえで判断基準を改訂していること、さらにその判断基準に沿って、的確にサプライヤに対する回答案を作成していることをモニタリングする必要がある。このような継続的なリスク評価が、企業のリスク評価力を高めていく。
5. 購買契約管理の仕組みづくり事例
本項では、先進的な購買契約管理業務を実施している企業における事例として、契約ガイドラインの活用方法を紹介する。これは、契約ガイドラインの作成により、契約条項を変更する際に、リスク評価の判断基準と判断部署を明確にし、より的確かつ迅速なサプライヤとの交渉を実現している企業の事例である。
契約ガイドライン例では、最初に債権譲渡禁止に関する原契約の条文を提示し、次の条項解説においては債権譲渡禁止条項を設ける意義と、設けなかった際のリスク及びトラブル発生時の対処について解説している。
次に、条項に関して、サプライヤより変更提案が送付された際に、許容可能な内容、条項例を記載している。さらに、各条項について、リスク評価をした上でサプライヤへの対案を作成する部署を記載している。 最後に、債権譲渡に関するトラブル発生と契約条項に基づくリスク回避例を記載している。
契約ガイドラインを整備することにより、下記のことが可能となる。
⚫ 契約締結までの期間の短縮と工数の削減
⚫ サプライヤからの変更提案について的確なリスク評価が可能
⚫ 購買担当者が、知識を蓄積、整理し、契約ガイドラインに則って購買契約交渉を実施することが可能
契約ガイドラインの整備は1回限りで完結するものではない。なぜなら、定期的に情報を蓄積し、契約ガイドラインの改訂を実施していくことが、より確実な購買契約管理の条件となるためである。
このように、継続的に各責任部署が連携をとりながら、トラブル事例を蓄積、分析した上で合理的なリスク評価をすることで、適切な購買契約を迅速に締結していく仕組みが、購買契約業務の 3 つの課題解決に役立つのである。
契約ガイドライン例(抜粋)
第○条債権譲渡禁止 <条項原文> 売主は事前に書面による買主の承諾を得ることなく、本契約 及び個別契約に定める自己の権利または義務を第三者に譲渡しまたは担保に供してはならない。 | 契 約 条 項 x xについて記載 |
<条項解説> 本条項は、主にサプライヤによる債権の譲渡を禁止する条項で ある。債権譲渡は民法上では認められているが、これを契約書 上で禁止しないと、第三者へ送金せざるを得なくなってしまうケースがある。このため、当社としては、本条項を基本契約に盛り込むが、仮にそのような契約を締結していたとしても、サプライヤが経営危機等に陥った場合には、内容証明で、当社に債権譲渡通知書が送付されてくることがある。その際は、経理部門、法務部門と相談し、法務局への供託手続きをとることが必要である。 | 条項の意義、条 項 に 関 連 するトラブル発 生 時 の 対 処について記載 |
<サプライヤとの妥協ライン>双務契約への変更 売主及び買主は事前に書面による相手方の承諾を得ることなく、本契約及び個別契約に定める自己の権利または義務を第三者に条と譲渡しまたは担保に供してはならない。 | サプライヤより反対提案を受け入れる際の x x 可 能 な範囲および条項例を記載 |
<条項責任部署>法務室 | サプライヤの反対提案を検討する部署を 記載 |
<トラブル発生事例> ○ 月○日 サプライヤA 社より、債権譲渡通知が到着 ○ 月○日 第○条(債権譲渡禁止条項)を根拠に債務額を法務局に供託した | 過去のトラブル発生事例を記載 |
6. まとめ
前述の通り、一連の購買プロセスがシステム導入等によって以前に比べ効率化された中で、購買契約業務は最後まで取り残されたマニュアル作業である。従来は、購買契約業務の標準化は難しい業務であると考えられてきた。しかし、事例にあげた契約ガイドラインを整備することによって、ある程度の標準化は可能である。
コンプライアンスや内部統制の強化が購買取引に強く要求されるようになったこと、企業活動のグローバル化や社外ノウハウの戦略的な取得の要求が高まったことを受け、購買取引リスクも高まっている。
このような今般の経営環境変化の下、購買契約業務の仕組みの見直しは、全ての企業にとって急務である。当初は、購買部門を初めとして契約に関連する部門の工数を要するが、事例で取り上げたようなガイドライン作りはリスク管理と効率化の点で大きな意味がある。
一方、購買契約業務の今後の大きな課題は、リスク評価の精度の向上である。購買契約に関するリスク事例を整備、構築し、過去および今後の実績や経験を組織的、継続的に蓄積し、より精度の高いリスク評価を行っていくことが、購買契約管理業務に求められている。
(2008 年 3 月 xxxx)
【株式会社 アジル アソシエイツについて】
アジル アソシエイツは「調達購買マネジメント実現企業」です。調達購買 BPO サービス事業、コンサルティング事業、バイヤーアカデミーの3つを柱に、顧客企業の皆様が調達購買マネジメントを実現していくのに必要となるサービスを提供しています。
<会社概要>
会社名:株式会社アジルアソシエイツ
所在地:107-0052 xxx港区赤坂2-13-19 多聞堂ビル5F設立:2002年3月
代表取締役社長:xx xx
Tel:00-0000-0000 Fax:00-0000-0000
ホームページ: xxxx://xxx.xxxxx-xxxxxxxxxx.xxx/
<問い合わせ先>:
株式会社アジルアソシエイツ xx xx Tel:00-0000-0000 Fax:00-0000-0000