Contract
第一部 序論
26.1.1 シンガポールの建築建設法は、他のコモンロー管轄区域のそれに匹敵する法と共通の特徴を共有し、主に建設業界の関係者間の契約を定めている。その重要性に関わらず、建設計画を規定する契約は大抵の場合、標準書式で行われる。シンガポールで使用される標準書式の契約書における条項および条件は、他国で使用される条項および条件とは異なる場合があるものの、国際的に使用されている条項および条件と同様の基本的構造を有している。
26.1.2 両当事者間の個人的取り決めを規制する契約に加え、建設業界の当事者の権利や自由に多大な影響を与える不法行為法も存在する。さらに、建設業界関係者の行為を規制する、公共政策の様々な検討事項に影響を与える法令や規則が存在する。シンガポールは、支払に関する両当事者の実体的権利と、適時支払の権利を支持する法的紛争解決プロセスとを規制する法律を導入してきた。
第二部 シンガポールの建築契約標準書式の契約
26.2.1 一時期、建築建設契約はシンガポールの植民地時代の名残である調達政策および調達システムによって形成された特定の書式に従う傾向があった。それ以来、シンガポール特有の標準書式契約書は、地元の取り決めや慣習に対応して形成されてきた。
26.2.2 細部において、地元の標準書式は他国で使用されている標準書式とはかなり異なっている。しかし、組織構造に関していえば、両当事者間の契約上の取り決めは、容易に識別可能な複数のカテゴリーに分類される。
26.2.3 まず、「従来の」契約システムがある。このアプローチでは、対象計画の所有者または開発業者が誰かに契約を履行させる。建設計画において、大抵の場合それは建築士である。さらに、積算士、測量士、および機械技術士や電気技術士などの他の専門家も任命する。雇用者とこれらコンサルタントとの間で契約が締結される。建築士との契約の標準書式は、シンガポール建築士協会(SIA)任命約款であり、それには専門家変更の基準が含まれる。シンガポールコンサルタント技術士協会(ACES)が発行する同様の書式も、技術士の任命に利用できる。
26.2.4 建築士(または技術士)は通常、設計図を作成する。建築士は通常、自分で図
面、仕様書、数量書および契約文書を構成する他の文書を作成するか、他のコンサルタントと共にそうする。これらの文書は、請負業者が工作物建設のための競争入札を行えるのに十分な程度詳細なものでなければならない。落札業者は契約を「取る」ことになる。設計業務は通常コンサルタントの手にかかっている従来の構造において、請負業者が提出する競争入札用の設計はない。
26.2.5 「従来のシステム」で企画される高額の建設計画に関し、両当事者間の契約上の取り決めには大抵、標準書式の契約が用いられる。建物の建設について、最も人気のある契約書は SIA 標準書式であり、現在第 7 版である。採用されている他の書式には、英国建築士協会(RIBA)またはジョイント・コントラクツ・トリビュナル(JTC)の標準書式、またはそれらの派生物である。公共部門は独自の標準書式一式を有しており、従来のシステムについては通常、公共部門建設工事標準契約約款(PSSCOC)(2005 年現在第 4 版)(xxxx://xxx.xxx.xxx.xx/を参照)が採用されている。
26.2.6 近年、他国の傾向と調和し、「従来のシステム」から離れる動きが生じてきた。例えば、「設計および建設」契約はより一般的になっている。この取り決めでは、請負業者は実施された作業に対する通常の義務に加えて設計に関連した義務を含め、建設した構造物に対する全責任を受け入れることに同意する。
26.2.7 公共部門のための公共部門設計建設契約標準契約約款が 2001 年に発行された
(2005 年 3 月現在第 3 版)(xxxx://xxx.xxx.xxx.xx/を参照)。同年のしばらく後にシンガポール不動産開発業者協会(REDAS)が契約雇用者設計建設約款を発行した。雇用者は一般にこれら地方の標準書式を用いるか、非地方書式(これに FIDIC 設計建設契約約款(一般に「オレンジブック」として知られている)が含まれている場合がある)および JCT が 1981 年に発行した請負業者設計の建設契約の契約条項と約款(JCT81)を採用することになっていた。
26.2.8 この修正版が現在一般に設計・調達・建設(EPC)契約と呼ばれるものである。この契約は石油化学施設や製薬施設の建設にしばしば使用され、施設の設計や使用される設備や機械の調達における主な請負業者と関係してくる。
26.2.9 小規模計画を除き、建設契約のすべての条項や条件が単一文書内に記載されることは比較的まれである。契約は通常、図面、仕様、数量書並びにしばしば通信交換や引用と共に標準書式契約書に記載されるか、それらをもって証拠文書とされる。どの文書が契約の一部を成すかに関して紛争が生じることはまれである(株式会社大林組対 Kian Hong Holdins Pre Ltd 事件 [1987 年] SLR 94, [1987 年] 2MLJ 110, CA などを
参照)。
26.2.10 標準書式契約書には通常、支払証明、変更および欠陥工事に関する規定が記載される。
第 3 部 建築士、技術士および測量士
26.3.1 シンガポールでは、計画建設法の要件を遵守するため、雇用者による「有資格者 」 の x x が 大 抵 必 要 で あ る ( 建 築 x x 法 、 第 29 章 第 6 条 (3): xxxx://xxxxxxxx.xxx.xxx.xx/)。有資格者は登録建築士もしくは専門技術士でなければならない。有資格者には、適切に果たすべき法的義務がある。
26.3.2 シンガポールの建築士は、建築士法第 12 章(xxxx://xxxxxxxx.xxx.xxx.xx/)で規制されている。建築士法は誰が建築士であるかを定めていないが、「建築士の業務」には、建物またはその一部の建設、拡張または改装に使用する建築計画、図面、トレース図などの販売や、利益、報酬目的での供給が含まれると定めている(s2(b))。資格認定証のある登録建築士かそのような登録建築士の指示もしくは監督の下で働く者でなければ「シンガポールで建物またはその一部の建設、拡張または改装の指示を目的とする建築計画、図面、トレース図を描いたり作成」できない(s10(1))。「建築士」という名称やその類似名称は、登録建築士でなければ使用できない(s10(3))。
26.3.3 建築士の登録は建築士委員会が保管、維持する(s8)(xxxx://xxxxxxxx.xxx.xxx.xx/を参照)。同委員会は、資格認定証の発行およびその職務に対する全般的な監督権の行使についても責任がある。同委員会には、懲罰的手続きを実施する権限があり、登録建築士の登録を取り消したり、特定の状況で業務を停止させることができる。登録に加えて、ほとんどの建築士は専門職団体の一員でもある。シンガポールで主要な団体は、シンガポール建築士協会(SIA)である(xxxx://xxx.xxx.xx/)。SIA の会員であることに加え、海外で教育を受けた建築士は、多くの場合、英国で教育を受けた建築士のための英国建築士協会(RIBA)などの海外の専門職団体の会員でもある。
26.3.4 シンガポールでは、自分のことを「技術士」と呼ぶ人に対する規定は存在しない。しかし、専門技術士法第 253 章(xxxx://xxxxxxxx.xxx.xxx.xx/)に基づいて適切に登録されていない人が、自分のことを「専門技術士」と呼んだり、「技術士」または略号
「Er.」または「Engr.」を自分の名前の前に付けて称号として使用したり、登録専門技術士と間違えられるような言葉、名称もしくは称号を使用することはできない。同法は
「技術士」または「専門技術士」という用語の定義を定めていないが、「専門技術業務」
や「専門技術作業」を規定する意図がある(s2)。
26.3.5 専門技術士委員会は、専門技術士法に基づいて設立されている。同委員会は専門技術士の登録、事業者の登録および免許所有者の登録を保管、維持している。専門技術士の登録には、同法に基づいて登録された者全員の名前、資格および他の特定の情報が含まれ、毎年保管、維持される事業者の登録には資格認定証のある専門技術士の特定情報が含まれる。専門技術士としての登録に加え、シンガポールの技術士は通常、シンガポール技術士協会(IES)またはシンガポール土木技師協会(ACES)の会員でもある。海外で訓練を受ける多くの技術士は、英国土木技師協会など海外の専門家団体の会員でもある。
26.3.6 「測量士」という用語は、数多くの分野を包含する。建物の欠陥を調査、評価する建物測量士、土地および水路測量士、不動産鑑定士や積算士がいる。土地測量士の登録は土地測量士法第 156 章で規定されている。有効な資格証明書を有する登録測量士以外は、権利調査の正確xx精度を証明できないとも規定されている。断層撮影、工事、水路の測量など、他の種類の測量作業を行う測量士は同法に基づいて登録される必要はない。土地測量士委員会も、同法に基づいて設立されている。土地測量士委員会は、他の業務と共に、測量士の登録、事業者の登録、及び免許所有者の登録を保管、維持している。
26.3.7 積算士は、時折「コストコンサルタント」または「建設エコノミスト」と自称したり、他の建設専門家からそのように呼ばれることがあり、建設費用を評価する責任がある。建設費用には通常、敷地造成費用、労務費、材料および設備費、専門家料金、税金および保守費が含まれる。積算士として業務を行う前に登録を行う義務はなく、積算士を名乗ることを禁ずる法律もない。積算士の専門的業務を管理する建築士委員会や専門技術士委員会に相当するものも存在しない。積算士の多くは地元の鑑定士や測量士の専門家団体、すなわちシンガポール測量士・鑑定士協会(SISV)の会員でもある。 SISV には様々な測量分野、すなわち積算士、土地測量士、および鑑定・一般業務測量士を代表する三つの部門がある。会員となるには、承認可能な学位か専門資格および卒業後二年以上の関連経験が必要である。様々な測量分野における試験を実施する英国の英国王立測量士協会のような専門家団体の会員になろうとしてもよい。
26.3.8 シンガポールでは、SIA や ACES のような専門家団体は、建築士や技術士を雇い入れようとしている人が同意するよう同建築士や技術士が提出できる標準書式契約書を発行してきた。雇用契約書を独自に作成したり、その標準書式契約書を調整して作成することもできる。契約書で、雇用の条項および条件は関連専門家団体の標準契約書
に「基づく」ものとすることに言及するだけでもよい( Soon Nam Co Ltd 対
Archynamics Architects 事件 [1978~1979 年] SLR 123) 。第 4 部 契約履行保証状
26.4.1 契約履行保証状が必要な理由は世界の他国と同様、雇用者が請負業者による不履行に対するある程度の安全を確保できるようにすることである(Wah Heng Glass & Metal Products Pte Ltd 対Gammon-CCI Construction Ltd 事件 [1998 年] SGHC 48、この裁判では、裁判所により契約履行保証状の目的と使用法の簡単な説明が出された)。シンガポールでは、保証状は通常、銀行や保険会社のような金融機関(「保証人」)によって発行される。保証金額は通常、契約価格の約 5%から 10%である。そのような保証状は通常一年間有効で、建設計画の完了または保守、瑕疵担保期間の満了まで毎年更新される。同保証状による保証の範囲と性質は、むろんその条項および条件による。シンガポールで使用されている唯一の標準書式契約履行保証状は、PSSCOC の付録に見出すことができる(xxxx://xxx.xxx.xx/)。
性質と種類
26.4.2 一般に契約保証状と呼ばれるものの意味に関して、幾らか混乱がある。まず、その呼び名に関して、契約履行保証状、契約履行保証書、請求払い保証状または米国におけるスタンドバイ信用状など、様々な呼び名がある。二番目に、適用や使用法に関して、同保証状は建設プロセスの様々な段階を確保するために使用され、しばしば特定のプロセスを参照して関係文書に記述される。その例としては、入札保証状、前払金保証状、留保金保証状、瑕疵担保保証状などがある。三番目に、返済要求に付される条項や条件に関して、同保証状は要求に応じて支払うべき(「デマンド・ボンド」と呼ばれる)か、不履行の証拠が提出された場合のみ支払いうべき(「デフォルト・ボンド」と呼ばれる)でも区別されてきた。
26.4.3 金銭の支払以外に、保証人に請負業者による未完了作業や未処理作業の履行を要求する別の種類の契約履行保証状がある。そのような保証状は通常、請負業者の親会社が発行する。この種の保証状は、保証人による現金の支払を大抵好む地元雇用者には人気がない。仮にそれが用いられるとすれば、通常は、シンガポールで活動する多国籍企業である雇用者が、自国の取り決めや条件と類似の取り決めや条件で自国の請負業者を雇い入れる際に同保証状を受け入れる場合である。
「デマンド」ボンドに基づく支払
26.4.4 契約履行保証状、とりわけ要求に応じて支払を行うべきことが記載されている保証状は、取消不能な信用状と同様の効力があり、詐欺や非良心性が関係していない限り、信用状に基づく支払要求や支払を制限する差止命令が発せられることはない
(Bocotra Construction Pte Ltd & Ors 対 Attorney General 事件 (No 2)[1995 年] 2 SLR 733)。銀行に支払を行わせないための試みを扱う事例に適用される原則と、受益者の保証状要求を妨げる試みを扱う事例に適用される原則との間で差異はない
(Bocotra Construction Pte Ltd & Ors 対 Attorney General 事件 (No 2)[1995 年] 2 SLR 733、CA)。
26.4.5 差止請求の申請で唯一考慮すべきなのは、それが詐欺もしくは非良心的であるかという点である。差止請求を求める当事者は、中間手続きにおいて詐欺もしくは非良心的な事例ではないことを確証するよう求められる。それは、「単なる申し立て」では十分ではない。従って、支払を妨げるために保証状もしくは保証書を発行した銀行に対して中間差止請求が発せられることはない。なぜなら銀行は、明白な通知または証拠もしくは詐欺がなければ、信任状の条項に従って履行しなければならないからである (Xxxxxx Xxxx Engineering Ltd 対 Barclays Bank International Ltd 事件[1978 年] 1 All E.R. 976)。詐欺の証拠の基準に関して、裁判所は、信用状が関係した裁判において中間差止申請の中で詐欺を申し立てる際のいわゆる「アクナー基準」を受け入れてきた (United Trading Corporation 対 Allied Arab Bank 事件[1985 年]において L.J.xxxxが提唱。ロイド報告 554; Singapore in Korea Industry Co Ltd 対 Andoll Ltd 事件 [1989 年]で適用。3 MLJ 449)。
26.4.6 最近の一連の裁判(ほとんどは最高裁判所)で、「詐欺」と別に「非良心性」の要件が説明されてきた。Min Thai Holding Pte Ltd 対 Sunlabel & Anor 事件[1999年] 2 SLR 368 の最高裁判所判決で、裁判所は、非良心性の概念「には、不正や詐欺とは別に不xx、または強く非難すべき行為もしくは誠実さの欠如が関係しており、その場合、良心的な裁判所は当事者を抑制するか当事者の支援を拒否するかのいずれかである。」と述べた。非良心性は「詐欺」とは別の根拠であるという考えは、Samwoh Asphalt Premix Pte Ltd 対 Cheong Piling Pte Ltd 事件[2002 年] 1 SLR 1 で踏襲された。
26.4.7 しかし、契約履行保証状の受益者である雇用者が履行要求するのを妨げようとする請負業者は、非良心性を示す強力で明白な事例を確証しなければならない(Liang Huat Aluminium Industries Pte Ltd 対Hi-Tek Construction Pte Ltd [2001 年] SGHC 334)。「シンガポールの裁判所による現在の非良心性の根拠の概念は、契約履行保証状の履行要求を差止する個別の根拠として導入されてきた理由を考えると、過度に範囲が
広いと言えるかもしれない」という点が示唆されてきた(契約履行保証状の履行要求差止: 非良心性の再構築[2003 年]15 SAcLJ 30 を参照)。その記事には、この課題に関する詳細な説明が記載されている。
第 5 部 下請業者
26.5.1 シンガポールでは他国と同様、請負業者が下請業者を業務に携わらせ、下請業者に関する責任および下請契約の条項に基づく契約上の義務を負う場合が多い。大規模な建設計画では下請契約書は通常標準書式であり、ほとんどは主契約書式の派生形である。主契約と下請契約の書式を相互参照するのは適切なことであり、主契約の幾つかの規定と同じ規定を下請契約で用いてもよい。下請業者は通常、雇用者やコンサルタントに対して直接契約上の義務を負うことはない。
26.5.2 下請契約で行われる契約上の取り決めの種類は、かなり幅広いものとなり得る。労働の提供のみ、商品と材料の提供のみ、供給および建設手配、あるいは「設計および 建設」すべての手配の場合もある。主契約に適用可能な法的原則のほとんどは、下請け 契約にも適用される。
雇用者の下請業者選定
26.5.3 従来のシステムでは、主契約において、元請業者、および雇用者が建設計画への参加を望む特定の専門請負業者を雇用者が選定できる条項が通常含まれている。次に専門請負業者は通常、元請業者と下請契約を締結する。このプロセスは通常、「指名」と呼ばれる。
26.5.4 シンガポールでは二つの標準書式下請契約書が広く使用されている。それは、
(1) 公共部門建設工事契約約款と共に使用する指名下請業者標準約款(2005 年)および、(2)主契約と共に使用する SIA 下請契約約款(現在第三版)である。
主契約条項の援用
26.5.5 一般に下請契約の義務は主契約の義務を反映する(部分的に)ため、下請契約の起草者は一般に、主契約の条項を引用により下請契約に援用する。一般則として、主契約の条項のうち下請契約では適用できないもしくは適切ではない部分は、暗示的に援用されるべきではない(Star-Trans Far East Pte Ltd 対 Norske-Tech Ltd 事件[1996年] 2 SLR 409、CA)。
26.5.6 規定や文書が援用されるべきか否かを確認する上での関連原則は、両当事者の意図を確認することである。既に下請契約に存在する規定の意味が完全に明白である場合、それに対して別の意味を付するために他の文書に訴える余地はない。起草者が容易に挿入できた条件を意図的に除外した場合、条項もしくは文書が請負契約の一部を成すのを防ぐため、作成者不利の原則が適用される場合がある( Union Workshop (Construction) Co 対Ng Chew Ho Construction Co Sdn Bhd 事件[1978 年]2 MLJ 22)。
「下請業者は、請負業者が従い、履行し、遵守すべき主契約のすべての規定を、下請契約工事に関係し適用される範囲において従い、履行し、遵守するものとする」とのみ規定する場合のように、主契約の条項を下請契約に援用するという問題の条項が不明確かつ曖昧である場合、裁判所がその条項に主契約の規定を下請契約に援用する効果があると判断する可能性は低い(Kum Leng General Contractor 対 Hytech Builders Pte Ltd事件 [1986 年] 1 SLR 751)。
「ペイ・フェン・ペイド」規定
26.5.7 下請契約でますます一般的になってきている規定として、元請業者が支払を受けて初めて下請業者は支払を受ける権利を得るという規定がある。そのような規定が下請契約に挿入されている場合、支払が証書化されているが元請業者はまだ受け取っていないというだけでは大抵不十分である。元請業者自体の契約不履行もしくは違反ゆえに雇用者が元請業者への支払を控えてきたか否か、および下請業者がその契約不履行や違反の原因となったかそれに寄与したかは問題にさえならない場合がある(Brightside Mechanical and Electrical Services group Ltd 対 Hyundai Engineering and Constructions Co Ltd 事件[1988 年] SLR 186; Interpro Engineering Pte Ltd 対 Sin Heng Construction Co Pte Ltd [1998 年] 1 SLR 694)。
26.5.8 2005 年4 月 1 日に 施 行され た 2004 年建設 業界支 払 安全法
(xxxx://xxxxxxxx.xxx.xxx.xx/)xx 9 部も「ペイ・フェン・ペイド条項」を禁じている。直接請求
26.5.9 一般則として、下請業者は下請契約に基づいて行われる作業や供給される資材に関して雇用者に対して請求を行うことはできない( Henderick Engineering 対 Kansai Paint Singapore Pte Ltd 事件[1992 年] SGHC 184)。雇用者が下請業者に直接支払いを行えるという直接支払条項が存在しても、雇用者と下請業者との契約上の関係は成立しない(A Vigers Sons & Co Ltd 対 Swindell 事件[1939 年] 3 All ER 590)。
同様に、雇用者は下請業者に対して直接請求を行うことはできない( Dawber Willamson Roofing Ltd 対Humberside Country Council 事件 (1979 年) 14 BLR 70)。
26.5.10 2002 年 1 月 1 日に施行された 2001 年契約(第三者の権利)法の制定により、指名された下請業者は雇用者との直接的な契約がなくても雇用者に対して第三者として権利を主張できるようになった。同法第 2 部(3)は、第三者は契約の中で名前で、特定グループの一員として、または特定の説明に該当することにより明示的に識別されているべきと定めている。同法の下では広範なカテゴリーの人々が第三者に該当し得る。
第 6 部 時と完了
26.6.1 この部分では SIA 書式の契約上の枠組みの中で建設計画における完了と時間延長の問題を扱う。この問題に関して多くの場合に法が関係してくるからである。
完了基準
26.6.2 標準書式契約書を使用している場合、完了の問題は大抵、対象の標準書式において「完了」が意味する事柄を解釈すると要約される。1980 年版以前の SIA 契約書を含め、多くの標準書式契約書は「完了」を「実務の完了」という意味で定義してきた。他の幾つかの標準書式契約書では、その語は「事実上完了」という意味でも用いられてきた。SIA 契約書では、「完了」という語は「実務の」あるいは「事実上」という表現が付されることなく使用されている。
完了時
26.6.3 建設計画には、請負業者が実施する作業の開始および完了に関連した規定を含め、契約書にその点が記載されていない場合には、完了のための道理にかなった時間を推測する (Charnock 対 Liverepool Corp 事件[1968 年] 3 All ER 473; Lee Kai Corp (Pte) Ltd 対 Chong Gay Theatres Ltd 事件[1992 年] 2 SLR 689, CA)。標準書式契約で契約書添付書類の完了時の部分が空白になっている場合、裁判所は、道理にかなった時間内で完了する条項を推測する(Hick 対Raymond and Reid 事件[1893 年] AC22; Shia Kian Eng (通称 Forest Contractors)対 Nakano Singapore (Pte) Ltd 事件[2001 年] SGHC 68)。道理にかなった時間は事実問題として扱われる。
26.6.4 ほとんどの建設契約と同様、SIA 契約には時間延長および遅延損害賠償条項が含まれている(それぞれ SIA 契約第 23 条および第 24 条)。遅延損害賠償条項により、
請負業者が納期までに作業を完了できなかった場合に、雇用者は予め同意した損害賠償による救済が得られる。
時間条項の拡大
26.6.5 請負業者の進捗状況と完了は、雇用者もしくはその代理人の行為の影響を受ける場合がある。この雇用者に関連した事象は SIA 契約第 7 版、第 23 条(1)の(f)、(g)、 (i)、(j)、(k)、(n)、(o)、(p)に示されている。第 23 条(1)の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(l)、 (m)は、主に合理的に予見できない状況によって生じた中性事象に言及している。
26.6.6 契約上の完了日は、それが不適用となるほど中性事象や雇用者関連事象の影響を受ける場合がある。適用可能な完了日がない場合、時間は「一般的」に設定され、完了義務は、合意した契約上の枠組みの代わりに合理性の一般的コモンロー原則により評価される。一方で、時間は延長され、新たな完了日および継続される遅延損害賠償権が設定される。
26.6.7 雇用者は、遅延損害賠償に関する明示的な規定が自分の権利に関して無効となり、遅延損害賠償と損害確定額の割合がゼロとなる場合、議論の余地を残しつつも補償の権利を失う可能性がある(Temloc Ltd 対Errill Properties Ltd 事件(1987 年) 39 BLR 34)。しかし、Shia kian Eng(通称 Forest Contractors)対 Nakano Singapore (Pte) Ltd事件(訴訟 No. 600245/2000、HC、非報告)の地方判決では、両当事者は遅延損害賠償がないことに同意した。Judith Prakash J は、「遅延損害賠償条項がないことに同意しただけで、いかなる損害賠償請求もできないという判断を受け入れるのは難しい」と述べた。
起草者不利の原則
26.6.8 「遅延損害賠償」条項や「工期延長」条項は共に(Lian Soon Construction Pte Ltd [2000 年] 1 SLR 495、Warren Khoo J の見解を参照)不可能性や履行の妨害に関するコモンロー規則により元請業者が十分保護されるという意味で、主に雇用者に有利に働く。それで裁判所は、それらを作成者不利の原則に則って解釈し、雇用者に対して厳しい態度をとってきた(Perk Construction Ltd 対 McKinney Foundation Ltd 事件 (1971 年) 1 BLR 111)。
26.6.9 しかし、SIA 第7版の第 7 条は解釈に関して作成者不利の原則の適用を排除している点に注目すべきである。
遅延理由の通知に関する要件
26.6.10 SIA 第 7 版の第 23 条(2)は、請負業者にとって工期延長の正当な理由となる出来事が生じてから 28 日以内に文書で通知を行うことが、請負業者が工期を延長できる先行条件である。しかし、第 23 条(2)には「建築士が請負業者に後記延長を許可する意思があることを既に伝えている場合を除き」という但し書きがある。第 23 条(2)には二つの側面がある。請負業者の通知要件と建築士の原則暗示である。
26.6.11 一旦請負業者が通知を行ったら、建築士は、遅延理由ゆえに請負業者には「原則」として工期延長が許されると考えているか否かを、請負業者による工期延長申請受領から 1 ヶ月以内に文書で請負業者に通知する必要がある。
26.6.12 Assoland Construction Pte Ltd 対 Malayan Credit Properties Pte Ltd 事件 [1993 年] 3 SLR 470 では、とりわけ、建築士が第 23 条(2)の手続き要件を遵守しないと、後日工期延長の許可を授与するための権利の行使が無効となると判断された。それで、遅延損害賠償額の計算の元となる日付は存在しなかった。一方、Aoki Corporation対 Lippoland (Singapore) Pte Ltd 事件[1995 年] 2 SLR 609 では、とりわけ第 23 条(2)に基づく請負業者の通知は、工期延長許可の先行条件である一方で、建築士の「原則」暗示は、その工期延長または遅延許可の決定の有効性の先行条件として言及されなかった。
26.6.13 第 23 条とその要件の詳細な分析は、より最近の Lian Soon Construction PteLtd [2000 年] 1 SLR 495 の判決文に見出すことができる。
26.6.14 最も標準的な契約書式は、請負業者が雇用者かその代理人による契約違反または妨害措置により遅延させられた場合に建築士が認める損失や費用を定めている。しかし、1980 年より後のどの SIA 書式にも、延長に対する損失および費用条項が含まれていない。実際、第 31 条(14)は、建築士には雇用者に対する契約違反に対する請負業者によるクレームを決定もしくは認める権限はないと明示的に定めている。しかし、第 12 条(4)[変更の評価]は、契約上それだけでは契約違反とは言えない変更に関する追加「準備」費用を限定的かつ明示的に認めると定めている、と解釈する人がいるかもしれない。
第 7 部 契約解除
26.7.1 典型的な建設契約は、かなり長い期間にわたって持続することが多く、完了日より前に契約違反当事者による違反により無実な当事者による契約解除の選択は、損害賠償請求権による救済策に加え、重要な救済策である。無実の当事者の契約解除権は、コモンローに基づきもしくは契約の明示的な規定に従って生じる。
26.7.2 両当事者は、特定の契約上の規定に対する違反があった場合、無実の当事者が契約を解除できるという「条件」を明示的に定めてもよい。あるいは、両当事者は、あらかじめ定められた特定の出来事が生じた場合に両当事者が契約を解除できる権利を得られるように契約書に明示的な契約解除規定を挿入してもよい。
26.7.3 明示的な合意もしくは契約上の解除規定がない場合、以下の状況では無実な当事者はコモンローに基づいて契約を解除できる。
a. 違反当事者が契約の根本的違反を犯す場合;
b. 違反当事者が、無実の当事者が繰り返し警告や通知を行ったにも関わらず意図的に一貫して契約に違反するなど、契約に拘束されないとの主観的意図を明白に示す場合、もしくは契約を適切に履行できないことが客観的に示唆されている場合。
c. 一方当事者が、今後契約を履行する意図がないことを他方当事者に通知する、もしくは将来の履行することを不可能とする仕方で行動する場合。これは期限前の契約違反として知られている。
26.7.4 Brani Readymixed Pte Ltd 対Yee Hong Pte Ltd 事件[1995 年] 1 SLR 205 で、上訴裁判所は、単なる支払の不履行または遅延自体、支払拒絶に相当しないとのコモンローの立場を確認した。しかし、上記裁判では事実に基づき、上訴裁判所は支払不履行が単なる時間稼ぎではなく、全く支払わない意図を示す証拠があるとの判断を下した。これは、履行期前違反に相当する。
26.7.5 SIA 主契約の第 32 条(10)によれば、雇用者には、契約を解除する際に請負業者の履行期前違反を受け入れる場合、仮証書に基づいて支払を控える権利がある。SA Shee & Co (Pte) Ltd 対 Kaki Bukit Industrial Park Pte Ltd 事件[2000 年] 2 SLR 12。
26.7.6 無実な当事者が契約の解除を選択する場合、契約解除の際に契約違反の明確な受諾が存在することが重要である。契約解除を有効とする手順や時期が契約で定められている場合、解除を有効とするためにそれらを厳密に遵守しなければならない。そうしないなら、履行期前違反になる可能性がある。
26.7.7 失権約款としても知られているが、契約解除を厳密に解釈すると(Roberts 対 Bury Commissioners 事件(1870 年)LR 5 CP 310、契約解除を有効にするには、契約を終了させる手順を定める契約上の規定に適切かつ忠実に従わなければならない。さもなければ、契約解除は不当なものとなり、雇用者による履行期前違反となりかねない
(Lodder 対 Slowey 事件 [1904 年] AC 442)。請負業者はその後、行われた作業の実際の価値および供給された資材または損害もしくはその両方に関して雇用者を訴えることができる。
26.7.8 雇用者による典型的な契約解除理由には以下が含まれる:
- 請負業者の不履行
- 請負業者の破産
- 作業を開始しない
- 作業を進めない
- 建築士の指示に従わない
- 契約不遵守
- 作業を完了しない
- 不具合を是正しない
26.7.9 失権約款には上記のような深刻な結果が伴うため、作成者不利に解釈され、通知要件を注意深く遵守する必要がある(Central Provident Fund Board 対 Ho Bok Kee事件[1980~1981] SLR 180; AL Stainless Industries 対Wei Sin Construction Pte Ltd事件(2000 年度訴訟 No.221、最高裁判所、2001 年 8 月 28 日付非報告判決)。
26.7.10 契約書に契約解除条項が含まれておらず、請負業者が申し立てられた契約不履行に異議がある場合、その請負業者は現場から追放しようとする試みに対抗もしくは抵抗できる(London Borough of Hounslow 対 Twickenham Graden Developments Ltd 事件[1971 年] Ch. 233。Mayfield Holdings Ltd 対Moana Reef Ltd [1973] 1 NZLR 309 も参照。
26.7.11 しかし、SIA 主契約の第 32 条(4)と第 32 条(5)は、請負業者が契約解除通知を受領した場合、通知の有効性に関わらず現場の占有を引渡すことを請負業者に求めている。
第 8 部 建設上の不法行為
26.8.1 不法行為に関する法律は、建設計画に大きな影響を与える。それは特に、自分の所有物の設計もしくは建設上の不備などに関わってきた人々との契約上の関係がない建物所有者にとって重要である。所有物の販売契約に関して買主危険負担の原則が適用されるため契約上の経路がないことから、上記所有者は自分の所有物の設計もしくは建設に関係する人々からの是正措置を得るには、以前は不法行為に関する法律に訴えていた。その後、シンガポールでは契約(第三者の権利)法(Cap 53B、2002 年改定)が可決され、2002 年 1 月に発行した。
26.8.2 法のこの分野において、財産所有者の請求の性質など、様々な困難な問題が生じてきた。以前の判例には混乱が反映されている。Donoghue 対 Stevenson 事件[1932年]AC 562 の定義では、責任が生じるには建設上の欠陥がある建物を原因とする人の負傷もしくは「他の」財産の損傷を必要としており、建設上の欠陥がある建物そのものの純経済損失にまで拡大されていなかった。それらは、人または「他の」財産に対する損傷とは無関係な損失だからである。Hedlye byrne & Co Ltd 対 Partners Limited 事件 [1964 年]AC 465 の判決で初めて、過失による不法行為の責任に「純経済損失」が含められた。
26.8.3 建設業界に関し、Dutton 対 Bognor Regis Urban District Council 事件[1972年] 1 QB 373 と Anns 対 London Borough of Merton 事件[1978] AC 728 の判決では、建設上の欠陥がある建物の損害に対する請求が、Donoghue 対 Stevenson 事件の定義における「他の」財産に対する損害に分類された。Anns 事件判決文に端を発する過失による不法行為の拡大適用は Junior Books Ltd 対 Veichi Ltd 事件[1983] 1 AC 520 の判決文で最大限行われた。Juniro Books 事件では特に、Anns 事件に基づく近接および政策上の検討事項を扱った二重試験を適用した。Sutherland Shire Council 対 Heyman事件(1985 年) 60 ALR 1 では、オーストラリア高等裁判所は、Dutton 事件と Anns 事件の分類を初めて否定することにより、徹底的に調査された四つの画期的な判決を下した。それ以降、Juniro Books 事件と Anns 事件の二重試験の両方について留保が繰り返された。英国では、D.&F. Estates 対 Church Commissioners 事件[1989 年] AC 177で欠陥建物の責任を認める傾向が衰えはじめ、Murphy 対 Brentwood D.C.事件[1991年]で終結した。Murphy 事件では、とりわけ貴族院は Anns 判決を覆し、過失による不法行為に関する欠陥建物の責任を分類上否定した。同貴族院は 1972 年欠陥建物法を根拠とした。さらに、Hedley Byrne 判決を維持し、その一部として Junior Books 判決を受け入れた。
26.8.4 シンガポール上訴裁判所は、RSP Architects Planners & Engineers 対 Ocern Front Pte Ltd& Anor 事件[1996 年] 1 SLR 113 (「Bayshore Park 事件」)において、
欠陥のある空間所有権登記がなされた共有財産に関する過失による不法行為を見直した。Bayshore Park 事件では、原告は管理会社であり、Bayshore Park と呼ばれるマンション建設計画の共有財産を保守管理するために設立された法定合法組織であった。原告は、共有部分の建設上の欠陥によって生じた損害(駐車場の天井とエレベーター付近の水溜まりにコンクリートの欠片が落下した)に関して開発業者を訴えた。開発業者は元請業者および建設土木会社を第三者として参加させた。シンガポール裁判所は、管理会社による純経済損失に対する請求は可能か否かという問題など、二つの予備的問題に直面した。
26.8.5 上訴裁判所はオーストラリアの全判例を徹底的に検討した後、開発業者と管理会社間の近接の程度は、開発会社が認めた損害を管理会社が被るのを回避する点での開発業者の義務が生じるのに十分なものだったとの判決を下した。とりわけ、管理会社は開発会社により設立され、認識されており、開発会社は共有財産の建設における過失が管理会社により修復されることを知っていたか知っているはずであったことから、関連近接が成立した。さらに、「不定量で不定期間に関する」責任は「不定グループに対して」発生しないため、裁判所は、上記注意義務を怠る政策的理由は存在しないとの判断を下した。
26.8.6 Bayshore Parku 事件の判決は Management Corporation Strata Title Plan No. 1075 対RSP Architects Planners & Engineers (Raglan Squire & Partners)F.R 事件[1999 年] 2 SLR 449(「Eastern Lagoon 事件」)に適用された。Eastern Lagoon事件では、上訴裁判所は、建築士の過失による経済的損失を回復する管理会社の権利を拡大した。上訴裁判所は、Anns 対 Metron London Borough Council 事件[1978 年 AC 728 の二重試験を、Bryan 対 Maloney 事件(1995 年)128 ALR 163 に適用したのと同じように、この裁判でも依拠とした。
26.8.7 さらに Man B&W Diesel S E Asia Pte Ltd 対 PT Bumi International Tankers 事件[2004 年] 2 SLR 300 で上訴裁判所は、建設業界以外の裁判であったにも関わらず純経済損失に対する請求による問題を考慮した。所有者と造船会社との造船契約をよそに、所有者はエンジンが完全に故障した際に過失による不法行為についてエンジンの供給業者とメーカーを訴えた。上訴裁判所は、注意義務の判断が契約上の意図、とりわけ主契約に含まれる責任限度に反することを根拠に原告の請求を退けた。それで上訴裁判所は、Bayshore Park 事件と Eastern Lagoon 事件はその特定の事実関係から検討すべきとの見解を示した。
26.8.8 欠陥のある空間所有権登記済みの共有財産による純経済損失に関する現在の
シンガポールの立場は、不法行為における管理会社による原状回復は許容されてきたというものである。しかし、英国の現在の立場は、Murphy 事件での判決後は一般に欠陥建設工事に関する純経済損失の回復は得られないというものに変更され、他方オーストラリア、カナダ、ニュージーランドなどの他のコモンロー管轄区域では、Bryan 対 Maloney 事件(1995 年) 128 ALR 163、Winnipeg Condominium Corp No.36 対 Bird Construction Co 事件(1995 年) 121 DLR 193、Invercargill C.C.対 Hamilin 事件[1994年] 3 NZLR 513 の各判決で反映されたとおり、回復を許容している。
26.8.9 近年の MCST Plan No 2297 対 Seasons Park Ltd 事件[2005] SGCA 16 では、上訴裁判所は、開発業者が共有財産の欠陥による損害に関して不法行為に基づく MCSTの請求に対して開発業者が「独立請負業者」の防御を行えるかを考慮しなければならなかった。上訴裁判所は、雇用者はその契約履行において独立請負業者の過失に対する責任を負わないという一般則を確認した。一般則の適用は、開発業者は MCST に対して、建設工事を実施する適格請負業者の任命に関連した義務のみを負うことを意味した。
26.8.10 上訴裁判所はさらに、一般則の例外の適用を考慮した。例外が適用される場合、雇用者の義務は、工事の実施に関連して確実に注意を払うことである。MCST は宅地造成業者(管理、許可)法(Cap 130、1985 年改正)および関連規則を引用し、開発業者は独立請負業者に対して適切かつ熟達した方法でマンションを建設する義務を委託することはできないと主張した。上訴裁判所は MCST の主張を退け、その主張を支持する法律または規則は存在しないとの見方を示した。
26.8.11 同上訴裁判所は、消費者保護の分野での政策問題には制限または予防措置が必要となる場合があるため、立法府はそのような問題を扱う上で裁判所より良い立場にあるとの認識を示した。
第 9 部 法律の効果
1989 年建設管理法
26.9.1 建設管理法は規定法であり、安全および適切な建設手順に関する基準を定めている。同法は、建造物の建設を法的に管理し、安全が問題になっている場合に既存建築物を扱う権限を用いてそれらの監視する上での概要を定めている。現在の法律は、ホテルニューワールド崩壊の直接的結果として制定されたことは良く知られている。
26.9.2 同法の核心的特徴は、「公認チェッカー」の役割を定めていることである。公 認チェッカーは、設計プロセスで外部管理者としての役割を果たす。同法は「建設工事 の実施から便益を得る人すべて」に公認チェッカーの任命義務を課している。公認チェ ッカーは、建設局により登録され、関係する建設工事に対して職業的もしくは金銭的利 害関係がない人(規定による任命を除く)でなければならない。さらに、10 年の建物 の設計および建設の実務経験のある土木もしくは建設技術士で、能力、立場または特別 な知識もしくは経験の点で秀でた人を公認独立チェカーに任命できる。これは明らかに、専門家を公認チェッカーに任命する際に、専門家の職業的地位によりその独立性を確保 するためのものである。任命された公認チェッカーには、計画の主な構造的要素を点検 し、それらを承認する証明書および評価報告を発行することが義務付けられている。こ れは、法により規定されている独立技術管理である。
26.9.3 第 6 部(1)は、建設管理局長による計画の承認について定めている。計画とともに提出する文書に、主な構造要素の正確さに関連した公認チェッカーの証明書が含まれている。第 6 条(5)では、建設管理局長には、公認チェッカーの証明書と評価報告のみに基づいて計画を承認する権限が付与されている。それで、建設管理局長には「承認」を行う際に計画を点検する義務はない。
26.9.4 上記に関わらず、第 6 部(6)では、局長に対して建設工事の構造計画や設計計算に関して抜き取り検査を行う裁量を与えている。局長は、承認に関連して与えられた情報が特定の重要事項において誤っていることを確信している場合、建設計画の許可を取り消す権限も保持している。
26.9.5 第 32 部は、政府や公務員の責任を極めて包括的に免除している。同部は建設工事が同法の規定に従って実施され、またはその建設工事もしくは建設工事の計画が局長もしくは公務員の検査あるいは承認の対象であるという理由で生じる訴訟からも政府や公務員を保護している。従って、1991 年の英国における Murphy 対 Brentwood Distric Coucil 事件[1991 年] 1 AC 398 の判決により限定的に達成された絶対的な保護が建設局に与えられてきた。
26.9.6 2003 年 9 月に、同法に対する様々な修正が行われた。それには、調達から設計、建設方法まで従来の方法を変更することを考慮に入れた修正が含まれていた。第 7A 部では、人、財産または他の建物にとって危険な建設工事を直ちに止めさせる命令を発する権限が局長に与えられている。さらに、局長は、工事の便益を受ける人に対してそのような危険を回避する特定の是正措置および他の措置を講じるよう要求することができる。この部分が適用可能な状況の例は、Xpress Print Pte Ltd 対 Monocrafts
Prte Ltd & Anor 事件[2000 年] 3 SLR 545 に見出すことができる。
2004 年建設業界支払安全法
26.9.7 シンガポールでの 2004 年建設業界支払安全法(「同法」)の制定に先立ち、 1996 年英国住宅供給助成金・建設・再生法、1999 年ニューサウスウェルズ州建設業界支払安全法、2002 年ビクトリア州建設業界支払安全法、2002 年ニュージーランド建設契約法など、他の連邦国の法律が研究、考慮された。同法は、ニューサウスウェルズ法の主な特徴のほとんどと残りの幾つかの要素を取り入れ、地元の懸念や状況を考慮に入れた幾つかの重要な修正を行うことにより最終的に制定された。
26.9.8 同法は 2005 年 4 月 1 日に発効した。それ以来、シンガポールで使用される標準書式契約書のほとんどは修正され、同法の規定が取り入れられた。2004 年建設業界支払安全法の第 41 部で授与されている権限を行使するにあたり、国家開発大臣は、同法に付随する 2005 年建設業界支払安全規則(安全規則)を導入した。主体となる同法と同様、安全規則も 2005 年 4 月 1 日に発効した。安全規則にはとりわけ、同法が大臣に委ねた規定要件が含まれている。
26.9.9 法律は、建設業界の慣習に対して広範囲にわたって影響を与える。このことは法律と調和させるために公共部門建設工事標準契約約款に加えられる修正に示唆されている。法律の主な目的は、実施した工事および提供したサービスに対する支払を受け取る点で建設業界が直面する問題を軽減することである。建設業界における支払を確実に促進することこそ立法府の意図である。その点で、同法は支払権を分類別に確認するだけでなく、判決による敏速な紛争解決手順を通して支払を受けるメカニズムも定めている。支払権を妨げる企てが予期されるため、同法は反回避条項により支払権を妨害する試みを禁じている。