Contract
平成28年3月
有期雇用の従業員に関する『雇止め』
前回のおさらい
<有期雇用の無期転換について>
前回のメモでは、有期雇用契約により雇用している従業員に対して、その有期雇用契約の更新を繰り返し行った通算雇用期間が 5 年を超えることになった場合、その雇用契約で働いている従業員には、雇用契約を無期のものに転換できる権利が発生することを説明しました。(無期転換権)
この無期転換権には一定の条件や制約はあるものの、原則として従業員が申込んだ場合、使用者はこれを拒むことが出来ません。要するに従業員側に一方的に発生する権利となります。
それは大きな勘違いです!!!
有期雇用の契約に関して、その契約期
間が満了したからといって、「契約を更
新しない」権利が使用者側にあるとは限りません!!!
この無期転換権は上記解説の通り、従業員側に一方的にある権利です。この無期転換権のことを認識している場合、「無期の雇用契約に転換されるのは避けたい」と考える使用者も少なからずいるかと思います。そうした使用者の中には「通算期間が 5 年になる前にその有期雇用契約を更新せず、契約を終わらせれば問題ない」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。
今回の労働法律相談は、無期雇用契約への転換権の場合に限らず、有期雇用契約の契約満了時に更新しない、いわゆる『雇止め』についての正しい理解を持って頂くための解説を行います。
有期雇用契約における契約更新義務の考え方
まず始めに、期間の定めのある雇用契約(『有期雇用契約』)についての考え方を整理しましょう。前述の通り、『有期』だからといって、契約期間が満了したら「はい、おしまい」ということができない場合があります。
① 契約の自由について
民法においては、当事者間の合意があれば、その契約内容は有効とされるのが一般的です。従って、期限を定めている雇用契約を使用者と労働者で合意した場合、その契約が満了した時点で契約を更新(継続)するかしないかの自由は、本来、使用者にも労働者にもあります。当然ですが、契約を更新するかどうかということのほか、どのような契約内容を合意するのかという自由も両者にあります。
② 過去の判例、及び、法改正
しかしながら、雇用契約に関しては労働者保護の観点から、「使用者が雇用契約を更新しない」とする権利を認めない判断を裁判所が下すケースがいくつも見られます。
「東芝xx工場事件」や「xxxx倉庫事件」を始め、その後の雇止めの考え方に大きく影響を与える著名な判例が幾つかあります。
平成 24 年に、それまでに確立された『雇止め法理』に基づき労働契約法が改正され、
『雇止め』に関する具体的な内容が条文化されました。
③ 労働契約法19条の条文
⚫ 19 条 1 号
当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
⚫ 19 条 2 号
当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであること。
条文だけ読んでもどういうことか、わかりにくいので、簡単に説明します。
合意した雇用契約が、たとえ有期雇用契約であったとしても、『無期雇用契約と実質的に同じですよね』といわれるような内容の雇用契約である等、雇用契約の形式だけが
『有期』になっている場合は、「契約期間満了です」という理由だけではダメですよ。また、そうでない場合でも『契約期間が満期になっても更新されるだろう』と労働者が信じるだけの言動が使用者側からあったりするなど、それなりの理由がある場合、
『更新しない』ということは認められない可能性がありますよ
ということになります。
でも、どのような場合に『そのような扱
いになるの』?ということがまだ
「ピンと」きませんよね。
そこで、これまでの裁判例を下にして
『雇止め』の有効性を判断する具体的な要素があるとされています。この判断要素について次に詳しく説明致します
具体的な判断要素を確認する
① 具体的な判断要素とは
⚫ 業務の客観的内容
⚫ 当事者の主観的態様
⚫ 更新の実態
⚫ 更新手続き厳格性
⚫ 他の労働者の更新状況
② 判断要素の検証
これらの主な判断要素について具体的に解説します
(1) 業務の客観的内容
従事する仕事の内容がどのようなものか?
臨時的な仕事で、有期雇用契約で行うべき業務なのか、そもそも恒常的に発生している様な業務なのか。正社員も同じ業務を行っているのか。
(2) 当事者の主観的様態
継続雇用を期待させるような使用者側からの言動があったのか。あった場合、それがどのような言動であったのか。例えば、「最初の契約は有期契約だけど、それは形式的なものだから」という直接的なものから、「長いお付き合いをお願いしたいと思っているよ」という間接的なものまで考慮されます。
(3) 更新の実態
それまでに契約が更新されてきた回数や通算の勤続年数というように、これまでどのように更新されてきたか。
(4) 更新手続きの厳格性
契約の満了日前に、更新を行うのか否か、また更新後の雇用条件をどうするか等について毎回しっかりと面談を行った上で更新手続きがなされているのか。或いは、そうした面談は行われておらず、ほぼ自動的に更新されていたのか。
(5) 他の労働者の更新状況
同様の有期契約労働者で雇用されている従業員も『雇止め』されているのか、その従業員だけが『雇止め』されているのか
③ その他の要因
前記判断要素の他に、当該有期雇用契約を締結した経緯等、特に考慮すべき事由があった場合は要因となりえますが、大きくは前記 5 つの要素がを考慮すべきかと思います。
最後に、最も重要な確認点です。
『雇止め』が無効と判断された場合どうなるのか
『雇止め』の有効性を判断する要素に抵触する場合、雇用契約が満了したという理由だけで雇用関係を解消することは難しいということになります。その環境で『雇止め』を強行すると、従業員を『解雇』する場合の『解雇法理』が適用されます。
これまでの『解雇シリーズ』で詳しく解説した内容を参考にして頂ければと思いますが、
『普通解雇』『懲戒解雇』『整理解雇』のいずれかに該当する正当な理由があれば問題ありません。ただ該当しない場合は雇用継続される扱いとなるリスクが高まります。
従業員を『雇止め』する場合は、雇用契約が満了することで自動的に雇用関係を解消できるという認識をもたず、正しい知識と手続きを経て行うよう注意しましょう。