Contract
主文
1 被告株式会社甲は,原告に対し,1062万5820円及びこれに対する平成10年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告乙は,原告に対し,811万8090円及びこれに対する平成10年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを5分し,その1を被告株式会社甲の,その1を被告乙のそれぞれ負担とし,その余を原告の負担とする。
5 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告らは,原告に対し,連帯して,2649万円及びこれに対する平成8年4月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要(以下,丙株式会社承継人被告株式会社丁を「被告丁」,丙株式会社を「丙」,被告株式会社甲を「被告甲」<中略>という。)
本件は,原告が,被告甲及び丙の従業員であった被告乙との間で,建物建築工事請負契約及び同工事の監理契約を締結したが,工事完成後に被告甲から引渡しを受けた建物には瑕疵があり,また,その他未施工工事及び施工不良工事が存在するとして,被告甲に対して請負契約の債務不履行責任,瑕疵担保責任ないし有限会社法32条,商法78条,民法44条1項に基づき,また,被告乙に対し,監理契約の債務不履行ないし不法行為責任に基づき,さらに,合併により丙の権利義務を承継した被告丁に対し,乙の使用者であった丙の使用者責任に基づき,それぞれ連帯して損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠上容易に認定することができる(末尾の証拠は,当該事実を認定した証拠である。)。
(1) 当事者
ア 戊及び己は,いずれも原告の子であり,原告の代理人として,原告が被告甲及び被告乙に対して発注した新築建物工事について,同被告らとの交渉にあたった者である。
なお,戊は,平成7年当時,被告丁の従業員であった。
(弁論の全趣旨)
イ 丙は,建築工事・大工工事などの設計・監理及び請負等を目的とする会社であった。丙は,平成14年3月1日,被告丁に吸収合併された。
(争いがない。)
ウ 被告甲(平成10年1月22日までは有限会社であった。)は,建築工事の請負業務などを目的とする会社であり,平成7年ころ,丙の下請会社として登録されていた会社である。
(争いがない。)
エ 被告乙は,本件請負契約当時丙の従業員であり,一級建築士である。被告乙は,平成8年12月31日,丙を退職した。
(被告乙,弁論の全趣旨)
(2) 阪神淡路大震災による被災
平成7年1月17日に阪神淡路大震災が発生し,原告が当時居住していた建物(以下,「旧建物」という。)も被災し,損壊した。
(3) 請負契約の締結
原告は,平成7年9月28日,被告甲及び被告乙との間で,以下の内容で,建物建築工事請負契約を締結し(以下
「本件請負契約」という。但し,完成建物の階数については争いがある。),旧建物に代わる新たな居住家屋の建築を発注した(なお,本件請負契約はその後追加工事及び工事内容の変更により修正されているが,追加工事の範囲については争いがある。以下,本件請負契約による建物建築工事を「本件工事」という。)。
ア 注文者 原告
イ 建築工事請負人 被告甲ウ 監理技師 被告乙
エ 工事場所 A市Ba丁目b-c(以下,「本件敷地」という。)オ 工事名 庚邸新築工事
カ 工期 着手:平成7年9月28日完成:平成8年3月31日
キ 請負代金額 3069万4000円(消費税込)
(但し,追加工事により請負代金総額はその後変更されている。)ク 支払方法 契約成立時 600万円
上棟時 800万円
中間時 600万円
完成引渡時 1069万4000円ケ 引渡時期 検査合格後3日以内
コ 建物階数 3階建て
(甲1,弁論の全趣旨)
(4) その後,原告と被告甲との間で,追加工事により下記のとおり請負代金の変更がなされ,本件請負契約の代金総額は,3133万7417円(消費税込)となった。
ア 見積書(甲6,乙4,以下,見積書及び図面については,「甲6の見積書」などと表記することがある。)による請負代金増加額
71万1075円
イ 見積書(甲7)による請負代金増加額 15万5920円ウ 見積書(甲8)による請負代金減少額 24万2318円エ 差引増加額 62万4677円
オ 消費税額(3パーセント) 1万8740円
カ 請負代金増加額合計 64万3417円
(甲6ないし8,乙4)
(5) 原告は,被告甲に対して,以下のとおり,請負代金を支払った。ア 平成7年9月28日 600万円
イ 同年10月31日 800万円ウ 同年12月29日 600万円エ 平成8年5月24日 930万円オ 合計 2930万円
(乙6の1ないし4)
(6) 原告は,被告乙に対して,平成7年10月11日,50万円を支払った。
(争いがない。)
(7) 原告は,平成8年4月28日,被告甲から完成建物(以下,「本件建物」という。)の引渡を受け,以後,原告は,本件建物に居住している。
(争いがない。)
2 本件の争点
(1) 施工不良による本件建物の瑕疵及び未施工工事等の内容とそれによる被告甲及び同乙の責任(争点1)
(2) 民法636条の適用の有無(争点2)
(3) 原告の権利濫用ないし信義則違反の有無(争点3)
(4) 被告乙の行為が,外形上丙の業務の範囲内にあるか否か(争点4)
(5) 被告乙が本件請負契約に基づき行った本件工事の監理業務が丙の職務の執行と無関係に行われたことについての原告の悪意・重過失の有無(争点5)
(6) 原告の損害額(争点6)
(7) 相殺(争点7)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(施工不良による本件建物の瑕疵及び未施工工事等の内容とそれによる被告甲及び同乙の責任)について
(原告の主張)
ア 本件建物の瑕疵及び未施工工事等の内容とそれによる損害に関する主張は,別紙瑕疵一覧表及び未施工工事等一覧表の各「原告の主張」欄記載のとおりである。
なお,被告乙及び被告甲は,本件請負契約において建築することが合意されていた本件建物は2階建て建物であったと主張するが,否認する。原告と上記被告らとの間では,当初から3階建て建物を建築することで合意していたのであるから,本件建物の瑕疵の有無についても,本件建物が3階建て建物であることを前提として判断すべきである。
被告乙は,平成7年3月16日作成の庚邸計画案(丙1)を提出し,本件建物はもともと2階建てであり当初は3階部分は存在しないと主張するが否認する。
丙1・3枚目の東立面図及び北立面図,特に北立面図によれば,道路に面した玄関側の3階部分が非常に大きくかつ人目を引く出窓が取り付けられており,その形状の大きさは東立面図からも分かる。
仮に本件建物が2階建てであるのであれば,このような目立つ出窓を取り付けるはずがない。
また,同東立面図には,合計3つの窓(ジャロジー式)があるが,その左端の窓から出窓までは,図面上で約62ミリメートルあり,同図面は約115分の1の縮尺(図面には100分の1とあるが,コピーの際,若干縮小されている。)であるか ら,実際には7メートル13センチメートルあることとなり,当然左端の窓の左側にも若干の空間があることから,同図面によれば,3階の部屋の南北方向(東立面図から左から右方向)は少なくとも7メートル50センチメートル以上はある。そして,かかる部屋の長さは,丙4・4枚目及び丙5・3枚目の3階平面図にある3階の南北方向7メートル60センチメートルという長さにほぼ合致する。
よって,丙1・3枚目東及び北立面図を見れば,それより後に作成された丙4・5枚目東側及び北側立面図などに比しても一見して本件建物が3階建てとして計画されていた事実は明白であるといえる。
なお,原告は,丙1・3枚目北立面図を見て,いくら3階建てとはいえ,3階の出窓が好みでなかったことから変更を希望し,それゆえ現在の外観となったものである。
小屋裏物置には梯子で登るようになっていたところを,原告が階段の取り付けを依頼した事実は否認する。
本件建物には,第1種第2級の身体障害者であり介護なくしては自由に行動できない原告,その配偶者である高齢の妻,そして原告の2人の子供(姉妹)が居住する予定であり,梯子でしか昇り降りができないような3階であれば,たとえそれが物置であったとしても,荷物の運搬に困難をきたすことは明白であり,希望するはずがない。
住宅検査協会での検査は,被告乙,同甲及び原告との平成8年8月12日の会合において概略決定したものであり
(甲14),中立の第三者機関であって,疑問を呈されるような機関ではない。
仮に被告乙が主張するようなやりとりが原告と同被告との間であったとすれば,当然,被告乙にはそのような違法建築の防止に努めるべき注意義務があり,場合によっては監理技師を辞任する自由すらあったにもかかわらず,そのまま違法行為に積極的に加担したものであり,専門家が負うべき職務の放棄に他ならない。
イ 被告甲の責任
(ア) 使用者責任及び民法44条に基づく責任
被告甲は,建設業法3条に基づき一般建設業の許可を得ているから,同法により,施工技術の確保に努めなければならず(建設業法25条の25),またその職責を具体的に担保するため,請け負った建設行為を施工するときは,当該工事に関し,当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(主任技術者)を置かなければならない(同法26条)。
そして,主任技術者は,技術上の管理及び建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならないとされている(同法26条の3)。
しかしながら,本来,木造軸組3階建ての建物を建築する場合には,構造上の安全性能を確保する上で必要となる各部の詳細,例えば,どの柱の柱脚にどのような種類のホールダウン金物を使用すべきなのかなどについて定めた上で工事を行うべきであるが,それらが全く明らかになっていなかったにもかかわらず,単に経験と勘を頼りにして施工を強行したため,本件建物は欠陥建築物となったものである。そして,本件建物が木造軸組3階建て建物として建築確認申請を受けていないことも,被告乙及び被告甲が,本件建物の施工を漫然と強行ないし放置した場合には,その構造上の安全性 能が確保できないことを本件請負契約の締結時において既に認識していたからであった。
そして,本件工事の主任技術者である被告甲の代表者も,上記各法令上の義務に違反しており不法行為責任を負うところ,同被告は,民法44条1項に基づいて,損害賠償責任を負う。
よって,被告甲は,有限会社法32条,商法78条,民法44条1項に基づき,原告に対して,本件建物の欠陥により原告が被った損害を賠償する義務がある。
(イ) 債務不履行責任
被告甲は,本件請負契約に基づき,建築工事を行って,原告に対し瑕疵のない建物を引き渡す義務があったにもかかわらず,本件建物には前記のとおり瑕疵が存在し,また,未施工箇所ないし施工不良箇所があった。
したがって,被告甲は,債務不履行責任に基づき,原告に対して,本件建物の欠陥により原告が被った損害を賠
償する義務がある。
(ウ) 瑕疵担保責任
被告甲は,本件請負契約に基づき,本件建物について瑕疵担保責任を負う。
本件建物には前記のとおり瑕疵が存在し,また,未施工箇所ないし施工不良箇所があったことから,被告甲は,瑕疵担保責任に基づき,原告に対して,本件建物の欠陥により原告が被った損害を賠償する義務がある。
ウ 被告乙の責任
被告乙は,建設大臣から一級建築士の免許を受け,その業務を営むものであり,原告から委託を受けて本件建物の監理を行った。
被告乙は,建築士法(平成9年の改正前のもの,以下同じ。)18条(業務執行)により,その業務を誠実に行い,建築物の質の向上に努めなければならず(同条1項),設計を行う場合においては,これを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならず(同条2項),工事監理を行う場合において,工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは,直ちに,工事施工者に注意を与え,工事施工者がこれに従わないときは,その旨を建築主に報告しなければならない(同条3項)との法律上の注意義務を有しており,また,設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない(同法22条1項)。
しかしながら,被告乙は,本件建物の監理業務を行うにあたり,構造計算による詳細な検討を経た所定の設計図 書がなければ,工事監理を行うことができないにもかかわらず,資格ある一級建築士・工事監理者として,施工者である被告甲に対し,正規の設計図書の作成・入手を促すことなく,漫然と被告甲のなすがままの施工を放置するなど上記注意義務に明らかに違反して,被告甲をして,本件建物について適法な施工を行わせなかったため,本件建物には欠陥が存することとなった。そして,被告甲及び同乙が,本件建物の施工を漫然と強行ないし放置した場合には,その構造上の安全 性能が確保できないことを本件請負契約の締結時において既に認識していたが故に本件建物が木造軸組3階建て建物として建築確認申請を受けていないこともまた前記のとおりである。
よって,被告乙は,原告に対し,不法行為責任,債務不履行責任ないし本件請負契約5条に基づき,損害賠償の義務を負う。
(被告甲の主張)
本件建物の瑕疵及び未施工工事等の内容に関する主張は,別紙瑕疵一覧表及び未施工工事等一覧表の各「被告甲及び同乙の主張」欄記載のとおりである。
なお,現時点における本件建物が建築基準法上3階建て建物であることは認める。
しかしながら,本件建物の瑕疵及びその修理見積額については,建築基準法に違反した設計図書に基づいて施工したために生じている瑕疵ないし3階建て建物についての建築基準法の基準を前提として主張される法律的瑕疵と,それ以外の純然たる施工上の瑕疵とは明確に分けて論じられるべきである。そして,後者の瑕疵については,被告甲がそれによる損害賠償責任を負うとしても,前者については責任を負わない。
すなわち,被告甲は,原告から本件建物の施工のみを請け負ったものであり,被告乙から交付を受けた設計図書どおりに建築工事を行ったものである。そして,本件請負契約上は,専門家たる建築士である被告乙に設計及び監理業務を依頼しており,原告側には複数の専門家が関与している。
したがって,本件建物が建築基準法上3階建て建物としての安全性を有していないとしても,施工する権限及び義務しか有していない被告甲が,一級建築士であり建築工事の専門家である被告乙の指示どおりに工事を行った以上何ら責任を負わない。
また,施工上の瑕疵の有無を判断するにあたっては,原則として甲5の見積書を基準とすべきであるが,同見積書を作成した時点以後に被告乙から甲5の見積書と工事内容が一部異なる甲2の仕様書及び設計図面(以下,「本件設計図書」という。)の交付を受けており,被告甲はこれらに基づいて施工を行ったものである。被告甲は,見積書を作成する段階で請負契約の内容となっている設計図面より以前に作成された設計図面をも見せられているが,設計そのものには全く関与していないので,設計変更された経過及び理由は知らない。
そして,本件請負契約上被告乙の意思表示は原告の意思表示とみなすものとされており(同契約書約款5条),実際に被告甲が本件工事に関して受けた指示は全て被告乙からのものであって,原告から直接工事内容について指示を受けたことはない。
したがって,原告と被告甲との間で合意された工事内容は,最後に被告乙から交付を受けた本件設計図書の内容を基準とし,それに従って施工上の瑕疵及び未施工工事等の有無を判断すべきである。
また,公庫仕様書は,本件請負契約の内容とはなっていないから,これに基づく瑕疵の有無に関する主張も理由が
ない。
本件建物は木造2階建ての建物として設計され,施工以後の段階で,屋根裏部分の設計を変更して,居住できるだ
けの広いスペースをとったものであり,構造耐力上主要な部分(施行令1条3号)は,当初設計の建物と異なることはなく,構造耐力上の問題を論じる限り,木造2階建ての建物とみなされる。
(被告乙の主張)
施工不良による本件建物の瑕疵及び未施工工事の内容とそれによる損害に関する主張は,別紙瑕疵一覧表及び別紙未施工工事等一覧表の各「被告甲及び同乙の主張」欄記載のとおりである。
但し,未施工・施工不良の主張については,被告乙が負担している責任が監理契約上のものであることから,この部分についてまでは被告乙はそもそも責任を負担しない。
すなわち,被告乙は,本件建物の施工を監理しただけであり,設計をしたのは,辛である。
そして,監理契約は施工者が設計図書どおりに建物を建築しているかどうかを確認することを内容としており,未施工部分に関しては原告が現に施工工事の実施を拒絶している以上,被告乙としては監理契約上の義務履行をすることができない状態にあるのであって,未施工部分について被告乙が原告に対し賠償責任を負担する理由はない。
また,施工不良部分についても,被告乙が負担している監理契約上の義務の内容は,自らの一級建築士としての技量を尽くして施工不良の存在とその手直し方法を施工者に指示することであって,この点の義務は既に履行されている。
したがって,本件においては,既に受領済みの請負代金を超えるような未施工部分や,甲45に記載されている以上の施工不良など存在していないが,仮にこれが存在したとしても監理契約の法律的な性格上,被告乙の責任は未施工・ 施工不良に関する工事代金相当額の賠償にまで及ぶものではなく,この点に関する原告の被告乙に対する請求は失当である。
本件建物が仮に3階建建物として強度を欠くというのであれば,原告が小屋裏物置の床面積を縮小してその使用を止めれば足りる。
甲9の作成者である住宅検査協会は,公の機関であるかのような名称を名乗っているが,その実態は個人企業であり,報酬を取って建築クレームを見つけることを商売にしている業者であり,その調査結果は信用できない。
(2) 争点2(民法636条の適用の有無)について
(被告甲の主張)
民法636条は,請負の目的物に瑕疵が生じた場合に,注文者またはその委任を受けて設計・監理をした設計者の責任であるか,あるいは請負人の責任であるかを判定する際の規定である。
被告甲は,被告乙から本件設計図書を交付され,それに従った施工をしたものである。しかも,原告は本件設計図書とは異なる設計図書を提出して建築確認を得ているのであり,有効な建築確認を得ないまま,換言すれば無許可で違
法な建築物について何も知らない被告甲にその施工だけを依頼したものであって,その結果被告甲は違法な建築工事を行ったものである。
原告側は,本件工事を被告甲に依頼するまで,当初から建築設計の専門家である被告乙を通じて,何度も設計の手直しを別の建築士に依頼していたが,その都度作成された設計図面(甲2,乙1,丙1ないし5)の変更の内容からも明らかなように,当初2階建て建物であったものが小屋裏物置部分の面積が拡げられた設計に変更されている。このような設 計変更が原告側の意思によるものではないとは考えられず,設計に関与した専門家たる建築士が建築基準法上も問題となることを知って原告側に告げなかったとも考えられない。
そして,本件設計図書とは別の設計図書を提出して建築確認申請がなされたことが原告側に無断でなされたともまた考えられない。
確かに,民法636条但書によれば,請負人が指図の不適当なることを知りて告げざりし場合には,瑕疵担保責任を免れないとされているが,本件においては,上記事情からすれば,仮に被告甲が違法建築のおそれがあることを知ってこれを原告に告げなかったとしても,民法636条但書の適用はなく,設計図面通りの建物を建築し,その結果瑕疵が生じたとしても,原告に対して瑕疵担保責任を負わない。
(原告の主張)
本件建物が違法建築物となったことが原告の指図によるものであるとの事実は否認する。
(3) 争点3(原告の権利濫用ないし信義則違反の有無)について
(被告甲の主張)
原告が3階建て建物を前提として本件建物の法的な瑕疵を論ずることは,原告が依頼した設計が,建築基準法に違反する違法な設計であって,有効な建築確認を得ていないことを前提とする主張であり,そのような原告の主張を是認すれば,原告の上記法令違反行為を免罪することとなる。
本件建物は,当初木造2階建て建物であったにもかかわらず,その小屋裏物置部分の面積を拡大することによって違法建築物となったのであるから,原告は,小屋裏物置の面積を当初設計依頼したときの広さに縮小することによって本来の木造2階建て建物に変更し,同建物の違法性を取り除くことができるのであり,それを行うべきである。
どのような方法によって建築確認を得たかその事情を知らない被告甲に対して,その施工のみを依頼して本件請負契約を締結し,違法な本件建物を建築させた上,自己の違法行為を棚上げにして完成した工事の責任を追及するのは,違法な建築物の建築工事を請け負わせた点で公序良俗に反し,その違法行為の法的救済を求める点で権利の濫用である。
(被告乙の主張)
原告は,自ら建築基準法に違反していることを認識した上で小屋裏物置の床面積を拡大する設計変更を行ったも のであるから,完成した建物が3階建建物としての建築基準法上の基準を満たしていないことも,あらかじめ認識していた。
すなわち,本件建物は,もともと2階建てとして設計され,3階部分は存在せず,単に小屋裏物置が存するにすぎなかった。実際,平成7年3月16日に作成された平面図(丙1)には,3階部分は存在しない。
その後,同図面に基づいて,被告乙と戊が打ち合わせを行った際,戊は,収納部分をできるだけ大きくしたいので,小屋裏物置の床面積を広げてほしいと要望したものである。
被告乙は,小屋裏物置の床面積を増やすことにより,建築基準法上の制限を超過し,完了検査を受けることができなくなると説明したが,戊は,住宅金融公庫から融資を受けないので,小屋裏物置の床面積を増やしてほしいと強く要求した。
原告側としては,費用的に木造3階建建物の建築費用を支出することは考えておらず,木造3階建についての建築基準法上の制限を無視して単純に小屋裏物置の床面積を広げたいということであり,原告側の設計変更の意思が固かったことから,被告乙は,設計を担当していた辛にこれを取り次いだものである。
また,戊は,平成7年6月10日ないし同月11日ころに行われた被告乙との打ち合わせの際に,従前の設計では梯子で小屋裏物置に登ることとなっていたところ,階段を取り付けてほしいと要望した。
これに対して,被告乙は,繰り返しそのような設計変更は建築基準法に違反しており,階段を取り付けるとなると違法建築であることが発覚しやすくなるということも警告したが,原告の意向が固かったため,結局小屋裏物置に階段を取り付ける設計変更をすることとし,被告乙は,丙3の「2階平面図」のとおり,原告の要望を聞き,手書きで階段の絵を書き入れ たものである。
本件建物が仮に3階建て建物として強度を欠くというのであれば,原告が小屋裏物置の床面積や天井高さを縮小して建築基準法上の定義からする2階建て建物に戻すことは容易であり,その使用を止めれば足りる。
自らが違法状態を希望し設計変更の依頼をしたことを棚に上げ,小屋裏物置の縮小をしないで当初から3階建て建物の建築が合意されていたことを前提として被告乙の責任を問おうとする原告の態度は,自己矛盾しておりクリーンハンズの原則に違反している。
したがって,原告が3階建て建物についての建築基準法上の基準に基づいて本件建物の瑕疵を主張して被告らの責任を追及することは,信義則に反し許されない。
(原告の主張)
原告が,自ら建築基準法に違反していることを認識した上で小屋裏物置の床面積を拡大する設計変更を行った事実は否認し,権利濫用及び信義則違反の主張は争う。
(4) 争点4(被告乙の行為が,外形上丙の業務の範囲内にあるか否か)について
(原告の主張)
使用者責任の要件たる「事業の執行に付き」とは,被用者の職務の執行行為そのものには属しないが,その行為の外形から観察してあたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含すると解すべきであり,したがって,被用者がその職務を濫用して自己または他人の利益を図ったような場合においても,その被用者の行為は業務の執行に付きなされたものと認められ,使用者はこれにより第三者の被った損害につき賠償の責めを免れることをえないとするのが最高裁判所の判例である。
本件において,丙は,建築工事,大工工事などの設計,管理及び請負などを目的とする会社であり,その事業目的も「建築工事,大工工事などの設計,監理及び請負」を掲げて個人住宅の建設全般の業務を手がけるなどしている会社である。
そして,被告乙は,丙において不動産事業部・技術部・次長との肩書及び一級建築士その他の資格において上記職務を執行しており,本件でも,当初の原告と被告乙との交渉は,まさに丙の職務の執行行為そのものであった。その後,被告乙が被告甲とも相談の上,原告に秘して本件から丙を外して自らの利益を図ったというものである。
したがって,本件はまさに被告乙の行為の外形からして,丙の職務の範囲内の行為にほかならない。
(被告丁の主張)
被告乙の行為が,外形上丙の業務の範囲内にあることは争う。
本件請負契約に基づき被告乙が行った行為は監理業務に限定されているところ,丙が請負契約を締結せずに下請業者の工事に監理業務だけを行うことはあり得ないし,契約書に調印せずに工事監理を行うこともあり得ない。
本件では,戊が丙との契約締結を拒否した時点からの被告乙の行為は,いずれも丙の業務執行とは関係がない。同被告は個人的に戊の相談に応じていたものであり,本件請負契約の締結以降は,個人として工事監理を行ってきたものである。
(5) 争点5(被告乙が本件請負契約上に基づき行った本件工事の監理業務が丙の職務の執行と無関係に行われたことについての原告の悪意・重過失の有無)について
(被告丁)
原告は,本件建物の建築請負工事を丙に依頼した場合,請負代金額が高額になり原告の想定していた予算を上回ることから,工事代金を下げるべく丙との契約を拒否し,工事請負業者である被告甲と直接本件請負契約を締結することとしたものである。
実際,戊は,被告乙に対して被告甲との契約締結について不安を述べたことがあり,被告乙は,これに対して,被告甲が信用できないのであれば契約の締結を中止しようかと意見を述べたこともあったほか,戊は,独自に被告甲の信用や技術力について調査をしていた。
また,本件請負契約において本件工事について被告乙との間で同被告が監理業務を行うことで合意したが,その 際,被告乙は個人として本件工事の監理行為を行うものであり,したがって,丙の業務時間外か土曜日,日曜日等の休日しか現場に行けないことを説明していた。また,甲1の契約書においても,被告乙は,その住所として,丙の住所ではなく同被告の自宅の住所を記載している。そして,実際に,同被告は,本件建物の工事監理は,休日夜間など時間外で行い,業務時間中には行っていない。
したがって,原告は,本件請負契約は丙とは無関係に締結されたものであり,被告乙が個人として監理契約を締結し,監理業務を行うことについても認識していた。
監理料の内金50万円は,被告乙個人の銀行口座に振り込まれており,丙は,監理料の請求書及び領収書等を発行していない。したがって,原告は,被告乙が丙と関係なく個人として監理を引き受けていることを十分に認識していたことを示すものである。
また,仮に,原告が丙が本件請負契約の当事者と誤信し,被告乙が丙の業務としてではなく,個人として監理業務を行っていた事実を知らなかったとしても,本件請負契約の契約態様,被告乙の言動からすれば,丙の業務として行われたものではないことを,極めて容易に認識することができたものであり,少なくとも原告には重過失があるというべきである。
そして,民法715条の使用者責任は,取引の安全の確保の観点から第三者の信頼を保護しようとするものである が,本件では,原告は,被告乙の行為が丙の業務としてなされるものではないことを知っていたか少なくとも重大な過失によりこれを知らなかったものであるから,保護すべき信頼を欠き,使用者責任は成立しない。
原告が居住していた旧建物が,阪神淡路大震災によって大きな被害を受けたことから,被告丁の従業員であった戊は,同被告のグループ会社であった丙に,旧建物の被害調査や建替えの相談をし,平成7年2月ころから被告乙が担当 者として戊の相談に応じていた。
住宅建築の場合には,相談を受け,図面を作成し,見積をしても結局受注に至らないことが多いが,丙など多くの住宅建設会社は,特別の経費を要した場合以外は,顧客へのサービスとして無償で相談や図面作成,建築費の見積りを行っていた。
したがって,正式契約に至らない段階で住宅の新築について戊から被告乙が相談を受けていたとしても,それは契約締結までの準備行為であって,費用負担の問題を除いて何らの法律効果をもたらすものではなく,原告が住宅の建築を依頼したということはできない。
(原告)
旧建物が阪神淡路大震災により被災した後,戊は本件について一貫して丙へのみ用件を依頼し,被告乙も丙の従業員として行動していた。
丙の当時の壬営業部課長び技術部次長であった被告乙は,戊の依頼に応じ,平成7年2月5日午前,旧建物を検査して全壊と判定し,同月11日に壬課長は,旧建物について全壊であるとの検査報告書を戊に交付した。
その際,戊は,検査報告書の結果を受けて,丙に対し,新家屋の建築を依頼したものである。その後,壬課長は,上記検査の費用について,戊の依頼を受けて新家屋の建築の受注を頂いたので,費用の支払は不要であると述べ,その後も検査関連費用について丙から支払請求はなく,原告もこれを支払っていない。
被告乙は,平成7年3月5日,敷地の測量に来て,隣接する家屋の居住者に対して測量の挨拶をした際にも,丙が原告宅の新築工事を行う旨述べた。
戊は,被告丁の上司である土建技術部長癸を介して,丙の技術部長子に対して,今般,原告宅の新築工事を丙へ注文したこと,実際には被告乙が原告方へ訪問していることを伝え,よろしく取りはからって欲しい旨も伝えていた。
被告乙は,平成7年3月末ころ,戊方を訪問し,「丙御中,庚邸新築工事」と題する見積書を持参して,木造軸組での新家屋の建築を勧めたが,戊は,在来工法は地震に弱いので心配なこと,阪神淡路大震災と同じ地震にも耐えうる建物にしたい旨を述べた。
戊は,他の建築業者からも見積りを取り寄せてこれを検討していたが,被告乙から,「身体障害者のためにもっと配慮した新家屋を建築することが可能,自分は会社(丙)でよく行っており,顧客に喜ばれている。」「明日,丙のショールームである「アクトワン」へ来るように。高齢者用,身体障害者用の資料をお見せします。」「新家屋は,丙のPR雑誌「スマイル」 に掲載しましょう。」と言われ,従前どおり丙と契約するよう強く説得された。
そこで,戊は,平成7年5月20日,丙ショールームにて丙の他の従業員も立ち会いのもと,被告乙と打ち合わせを行い,丙と契約する前提で本件建物を在来工法による3階建てとするが,必ず阪神淡路大震災と同じ地震にも耐えられるような設計・施工にすることとし,その他の細部も詰めた。
また,一方,戊は,平成7年4月ころ,隣家から境界についてクレームがあった際に,被告乙と丑測量事務所の丑氏が,丙からの仕事として出所したこと,実際に同事務所は丙宛てに請求書を提出したことを確認している。
戊から被告乙への連絡は,主として丙へ架電する方法により行った。戊は,平成7年2月5日から平成8年1月6日までの間,被告乙と少なくとも64回連絡をとっており,そのうち24回は面談し,残りの40回は丙へ架電して連絡をとったものである。
被告乙は,その勤務する丙から,戊の勤務先である被告丁へ頻繁に架電し,常に「丙の乙ですが。」と名乗っており,戊周辺の者は,誰もが戊らが丙に対し新家屋の建築を依頼していると信じていた。
また,戊から被告乙に対する連絡も,丙宛てに架電した上で,被告乙に取り次いでもらっていた。
原告は,旧建物が阪神淡路大震災により全壊した恐怖感や原告が第一種第二級の身体障害者であるため介護なくして自由に行動できず,災害時に家屋から迅速に避難することが非常に困難であることから,本件請負契約により建築する建物は,価格的に割高であっても十分な構造耐力を有するものとすべきと考えており,そのために信頼の置ける丙へ施工を依頼したものである。したがって,請負代金の問題で丙への依頼を取りやめることなどあり得ないし,また,原告は,本件建物の請負工事代金を自己資金で支払っており,特段住宅ローンなどを組むなどしていない。
したがって,契約金額がわずか200万円から300万円程度下げることを理由として,大手で信頼の置ける丙を契約の相手方から外すことはありえない。
本件建物の建築確認申請を行う際,施主である原告の委任状が必要であったが,被告乙は,戊に対して白紙の委任状を示し,受任者名に丙を明記するので,押印して欲しいと依頼した。
戊は,被告甲が丙宛てに提出した原告宅新築工事の見積書の交付を受けている。
被告乙は,平成7年6月29日,戊を同行してTOTOを訪れた際,対応したTOTOの従業員に対して,丙の名刺を差し出した上,見積書等は丙宛てに交付するよう,同従業員に伝えていた。
確かに,本件請負契約の契約書(甲1)には,丙の会社名は明記されていないが,戊が被告乙に対してその点につ
いて確認したところ,同被告から,これが丙の契約書式であり,被告甲も丙の登録会社であるから丙が責任をもって施工すると回答したことから,戊らは,安心して本件請負契約を締結したものである。
本件請負契約を締結するに際し,被告乙が,戊らに対して本件請負契約にかかる監理業務については,丙の勤務時間外である土曜日,日曜日及び夜間にしか現地に行くことはできないことを説明した上で,原告がこれを了解した事実は否認する。むしろ,戊は,平日の昼間に丙に勤務する被告乙に対して,丙宛に架電し,多数回にわたって被告乙との間で電話連絡を取っていた。
したがって,丙は,被告乙の本件請負契約への関与を知っていたものであり,同被告が丙のために行動しているものとしてそれを許容していたというべきである。
また,原告が丙との契約を拒否した事実もなく,被告乙から個人として行動しているとの事実を聞かされたこともな
い。
したがって,丙の権利義務を承継した被告丁は,丙の使用者責任に基づき,原告に対し,被告乙及び被告甲と連
帯して,原告が負った損害を賠償する義務がある。
(6) 争点6(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 本件建物の瑕疵及び未施工工事等による損害 1626万1367円
別紙瑕疵一覧表及び別紙未施工工事等一覧表の各「原告の主張」欄の「損害額」欄に記載した金額及び本件建物の瑕疵及び未施工工事等の修補工事を行うために必要である設計・監理費用123万6000円(消費税込)の合計1626万1367円が原告の損害となる。
イ 修補工事及び未施工工事期間中の代替建物の賃借費用 100万円
修補等の工事期間は少なくとも4か月必要であり,その間の原告及びその家族4人の代替住居としての賃借費用は,少なくとも100万円必要である。
ウ 引越し費用 30万円
原告及びその家族が,本件建物の修補工事のため,代替建物へ転居し,同工事完成後再度本件建物へ転居するための引越し費用として,1回につき15万円,合計30万円必要である。
エ 調査・鑑定費用 100万円
本件建物が構造上の安全性能を欠いており,数多くの欠陥を有していることを究明するため,一級建築士寅に本件建物の調査鑑定を依頼し,その費用として少なくとも100万円を要した。
オ 慰謝料 200万円
原告は,本件建物に入居した後,その未施工工事箇所の施工及び施工不良箇所の修補を被告らに依頼したにもかかわらず,被告乙及び被告甲はこれに対して誠意ある対応をせずに放置し,工事代金の支払を求めるばかりであった。
そして,原告と被告乙及び被告甲との間で,平成8年8月12日午後1時30分から同日午後2時40分までサンサイドホテルにて打ち合わせを行い,その場で第三者機関たる住宅検査協会に対して本件建物の調査を依頼し,その結果に従い,本件建物を修補することで合意した。
その後,同協会の調査結果(甲9)が出たにもかかわらず,被告乙及び被告甲は上記合意を翻し,修補を行わないばかりか,未施工工事についての続行工事も放棄し,その責任を放棄する言動を繰り返した。
被告甲代表者は,とりあえず本件建物が入居可能となったことから,戊らの不在時を狙って直接車椅子生活を余儀なくされている原告に対して執拗に残代金の請求をしたものであり,原告らはその異様さに恐怖心を抱いたことから,本件建物に未施工工事などがあるにもかかわらず残代金を支払ったものである。
また,原告は,本訴提起に至るまでに,相談料,交通費,諸文書の取り寄せ費用及び通信費など数多くの雑費の支出を要した。
被告甲は,戊がトラブルを増大させたと主張するが,そのような事実はない。
このように,本件建物の欠陥により,原告は多大な精神的苦痛を被ったのであり,上記各事情及び本件請負契約の工事代金が高額であることも考慮すれば,本件において原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,200万円が相当である。
カ 弁護士費用 369万円
本件における弁護士費用としては369万円が相当である。
(被告甲の主張)
損害はいずれも否認ないし争う。
ア 本件建物の瑕疵及び未施工工事による損害
別紙瑕疵一覧表及び未施工工事等一覧表の各「被告甲及び同乙の主張」欄の「損害額として自認する額」欄記載のとおりである。
また,未施工工事等の修補工事を行うために必要であると原告が主張する設計・監理費用については,設計費用については不要であり,管理費用については補修費用額の5パーセントが相場である。
イ 修補工事及び未施工工事期間中の代替建物の賃借費用及び引っ越し費用が損害であることは否認する。ウ 調査・鑑定費用も不要であり,損害であることは否認する。
すでに原告の依頼に基づいて専門家による調査鑑定を行っており,その費用は被告乙が支払った。エ 慰謝料も否認する。
被告甲は,原告が依頼して作成した設計図面及び仕様書に基づいて施工したものであり,設計に起因する構造耐力の問題の責任は原告側にある。
また,本件建物は2階建ての建物であり構造耐力上その安全性に問題はない。工期の遅れは,被告甲の責めに帰することはできない。
被告甲及び被告乙は,原告と話し合って,原告が第三者である住宅検査協会に依頼した調査鑑定費用を同被告らが支払うなど誠実に対応したものの,原告側の感情的な対応により工事の一部がストップして,トラブルを増大させたものである。
被告甲代表者が,戊らが不在の際に直接原告宅に立ち入って残代金の支払を請求したことは全くない。
住宅検査協会の調査結果に基づいて,その後の対応を協議することにはしたが,調査結果に従って本件建物を修補することで,原告,被告甲及び被告乙が合意した事実はない。
オ 弁護士費用が損害であることは否認する。
(被告乙及び被告丁の主張)
損害はいずれも否認ないし争う。
(7) 争点7(相殺)について
(被告甲の主張)
本件請負契約における請負代金総額は,前記前提事実(4)記載のとおり,3133万7417円(消費税込)であるところ,これから原告の既払金額2930万円を控除した203万7417円について,被告甲は原告に対し本件請負契約に基づいて請負代金残債権を有している。
被告甲は,平成10年11月30日に原告訴訟代理人が受領した同日付被告甲の準備書面の到達をもって,原告の被告甲に対する本訴請求債権と上記請負代金残債権を対当額で相殺するとの意思表示をした。
第3 当裁判所の判断
1 事実経過
(1) 本件では,事実関係に争いがあることから,まずその点について検討した上で,各争点について判断することとする。
(2) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(末尾掲記の証拠は,当該事実を認定した証拠である。)。これに反する甲51,53及び証人濱田戊の証言は,上記各証拠に照らし,採用できない。
ア 本件請負契約締結当時の被告乙及び同甲について
被告乙は,一級建築士の資格を有しており,丙に入社するまで西松建設関西支店で現場監督をした後,丙に入社した。
同被告は,平成7年当時,丙の技術部次長として,一戸建て住宅の受注を同社の営業担当者とともに担当し,丙が請け負った住宅建設工事の見積,積算,現場監理をしていた。
(被告乙)
被告甲は,昭和47年に創業した建設業法3条に基づく一般建設業の許可を受けた株式会社であり(但し,本件請負契約締結当時は有限会社であった。),加古川市で約30年間にわたり,1年につき平均20棟から25棟くらいの1戸建て住宅を建築していた。
同被告代表者卯(以下,「被告甲代表者」という。)は,兵庫県立C工業高校建築科を卒業した後,二級建築士の資格を取得し,昭和62年ないし同63年ころから,実際に住宅建築工事を手がけるようになった。その後,同人は,平成4年に一級建築士の資格を取得した。
(被告甲代表者)
イ 丙と被告乙及び同甲の関係
被告乙は,平成元年6月ころ,丙に入社してから平成8年12月末まで,丙の社員として,前記アのとおり,住宅建築工事の見積等を行っていた。
(丙8,被告乙)
被告甲は,平成6年ころ,丙との取引を開始し,丙の下請けとして,主に増改築,震災後は修理,補修工事を行っていた。
丙から請け負った1戸建て住宅の新築工事は,本件請負契約締結当時は1件だけであった。
その後,平成8年初めころには丙からの下請け工事の発注はなくなり,現在では丙の下請け工事は行っていない。
(被告甲代表者)
ウ 丙と顧客との間で一戸建て住宅の新築工事を請け負う場合の流れ
丙では,注文主から一戸建て住宅の建築について相談を受けた場合には,営業及び技術の各担当者がペアになって担当していた。
そして,注文主の意向に基づいて設計図面を作成して工事内容を注文主と詰めた上で見積りを行うこととしていたが,相談を受けた場合でも実際に請負契約の締結に至る場合は非常に少なく,実際に請負契約の締結に至るのは相談 を受けた件数の2,3割だった。
丙では,請負契約の締結前に細かく本格的な設計図面を作成することもあったが,設計図面の作成やプランの見積りをするにとどまり,請負契約の締結前の段階では,注文主に代金を請求していなかった。
(丙8,被告乙)
エ 旧建物の被災と被告乙らによる旧建物の調査
平成7年2月5日,丙の壬課長と被告乙が旧建物の応急危険度判定調査を行い,同月2月12日ころ,同課長は,原告に対し,旧建物は,①危険であり立ち入りには注意する必要がある,②建物の1階に10分の1以上の傾斜が生じている,③建物の壁面や柱などにはっきりと見えるひび割れなどの損傷部分が多い,などの診断結果を記載した建物診断書
(甲11の2)を送付した。
(甲11の1,2,被告乙)
オ 積水ハウス株式会社(以下,「積水ハウス」という。)への紹介
戊は,上記エの旧建物の調査結果を受けて,本件土地上に旧建物に代わる新たな家屋を建築することを希望し,その旨被告乙に伝えた。
そこで,被告乙は,同年3月16日ころ,丙1の図面を交付するなどして戊との間で新家屋の建築について具体的な交渉を行ったが,実際に請負契約を締結するにあたっては,当時は丙が震災による他の建築工事を多数受注し,極めて繁忙な状態であったことから,戊に対し,建築業者として積水ハウスを紹介した。
なお,丙1には3階部分の図面は存在せず,同号証の1枚目の図面の右下部分には,3階部分の床面積は記載されていない。
戊は,これを受けて積水ハウスと数回交渉を行い,平成7年5月19日ころには,積水ハウス神戸西支店明石営業所に被告乙も同行して交渉を行った。
同月21日ころ,戊は,被告乙に対し,丙のショールームにおいて,金額的にできるだけ代金を抑えたいが,積水ハウスによる見積金額が高いと伝えたところ,同被告は,丙の方で設計図面と見積書を作成してもよい旨を伝え,その後,戊は,同被告に対し,積水ハウスに建築を依頼することを断ったことを伝えるとともに,正式に設計図面と見積書を丙の方で 作成してほしいと依頼した。その際,戊は,地震に強い家を造って欲しいこと,丈夫な家を建てたいことなどを同被告に伝えた。
(甲22,52の1,2,丙1,8,被告乙)
(戊は,平成7年5月19日に積水ハウスから受け取った見積書に記載されていた金額は甲52の3に記載されている金額であり,積水ハウスに発注するのを断念したのは,予算的な問題ではなかった旨供述するが,甲52の3は,あくまで最低限必要な工事に原告が希望する工事内容を若干記載したものに過ぎず,さらに同号証の見積条件要項欄に記載されている工事や甲5の見積書に記載されているような様々な工事が必要となることから,最終的な金額が甲52の3の見積書 記載の金額にとどまるとは考えられないこと,また,同号証の見積番号は「30950526」と記載されており,作成日が平成7年5月26日であることを窺わせること,原告が当然所持していると思われる同号証の見積のもととなった設計図面を提出しないことなどの事情に鑑みれば,上記戊の供述を採用することはできない。)
カ 本件請負契約締結までの被告乙との交渉等
(ア) 上記オのとおり,戊が,被告乙に対して,丙としての見積書及び設計図面の作成を依頼したころ,被告乙は,戊との間で,丙1の図面に基づき,新家屋の建築について具体的な交渉を行った。
その際,戊は,同被告に対し,収納部分を広げたいこと,そのため2階の屋根裏部分に相当する小屋裏を物置として使用するために,その面積を広げてほしいと要望した。
同被告は,これに対し,小屋裏面積を広げると建築基準法の規制基準に違反することから,建築確認や住宅金融公庫からの融資を受けるために必要となる最終完了検査を受けることができなくなる旨を説明した。
しかしながら,戊は,住宅金融公庫に対し融資を申請しないので,最終の完了検査を受けることができなくても構わないから,収納部分を増やしてほしいと同被告に求めた。
(甲22,丙1,8,被告乙)
(イ) そこで,被告乙は,同年6月11日ころ,丙2の図面を交付して,戊との間でさらに交渉を行った。
なお,丙2の図面では,①1階部分について,(あ)丙1の図面で建物南東に存在する居間・洋室9畳が和室6畳となり,新たに納戸を設ける,(い)台所部分に床下物入を設ける,(う)便所を狭くして階段部分の物入れを広げる,②2階部分について,(あ)建物南西側の洋室及び便所の面積を縮小し,新たに納戸を設ける,(い)東側の真ん中の洋室6畳のクローゼットの面積を広げる,(う)新たに建物北西側に納戸を設ける,など収納部分を広げる設計変更を行っている。また,丙
2の図面でも3階部分の図面は存在せず,同号証の1枚目の図面の右下部分にも,3階部分の床面積は記載されていないが,同号証3枚目の東側立面図には,「屋根裏部屋」との記載がなされている。
また,屋根裏物置へは,2階から梯子で登るよう設計されていた。
交渉の際,戊は,丙2の図面における2階部分のうち,①北東側和室8畳を建築しないこと,②北東側中央の洋室6畳を和室6畳へ変更し,①の和室8畳の押入となっていた部分を同部屋の床の間とし,クローゼットを押入とすること,
③西側の納戸のうち北側部分1畳分について縮小し,便所との間に生じた同部分を3階への階段とすること,④3階を物置としてできるだけ広い面積を有するように設計すること,などを被告乙に要望した。
これに対し,同被告は,戊に対して,屋根裏部屋の面積が建築基準法の基準に違反していることに加え,なおかつ階段を付ければ,さらに建築基準法違反の事実が発覚しやすくなると説明したが,戊は,それでも階段を取り付けて欲しいと同被告に話した。
そこで,同被告は,戊の要望を容れた設計図面を作成することとしたが,その際,戊に対して,実際に建てる図面と建築確認申請の図面とは食い違いが生じることになるという説明をした。
(甲22,丙1,2,3,4,8,被告乙)
(ウ) 平成11年6月末ころ,被告乙は,辛から,設計図面が添付され,必要事項が全て記載された状態で製本されており,原告の押印箇所に鉛筆で丸印が付けてあった建築確認申請書の正本と副本を受け取り,これらを戊に交付した。
上記申請書の1枚目,3枚目,7枚目,8枚目,13枚目及び14枚目には,いずれも申請建物が2階建て建物である旨記載されており,3階部分の設計図面は添付されていなかった。また,同15枚目の2階平面図では,小屋裏物置へは
2階から梯子で登ることとされており,その天井高は1.4メートル,面積は7.22平方メートルとされ,建築基準法上3階と扱われない範囲にとどまっていたほか,同17枚目の断面図にも小屋裏物置と記載されていた。また,同申請書11枚目に
は,本件土地とは別の敷地の写真が添付されており,同12枚目にも,本件土地とは別の敷地の位置を示した地図が添付されていた。
その際,同被告は,戊に対して,辛に設計図面の作成費用及び建築確認申請費用などを支払うように指示し,原告は,平成7年6月29日に,辛名義の口座に33万円を振り込んでこれを支払った。
その後,戊は,上記丸印部分に原告の押印をした上記申請書の正本及び副本を被告乙に手渡し,被告乙がこれらを辛に手渡して,建築確認申請を行い,同年7月11日ころ,A市建築主事酉から,上記申請にかかる建築計画が関係法令の規定に適合することの確認通知を受けた。
(甲3,丙6,8,被告乙)
(エ) 同年6月ころ,被告乙は,丙2の図面に基づく打ち合わせに基づいて,辛に丙4の図面を作成させ,同図面を被告甲に交付して,丙宛てに請負代金の見積書を作成するよう指示した。
被告甲代表者は,被告乙から受領した丙4の図面を見て,設計建物が3階建て建物であること,3階建て建物としては柱の柱径が細いことを認識したが,その点について被告乙に対して質問等をすることはなく,設計図面に従って,同 年6月中旬ころ,請負代金総額を消費税別で3073万0000円とする甲4の見積書を作成して,これを被告乙に交付した。
(甲4,丙4,8,丁5,被告乙,被告甲代表者)
(オ) 被告乙は,甲4の見積書を戊に交付して,請負代金について交渉を行った。
その際,被告乙は,戊に対し,丙が原告と間で請負契約を締結すれば,原告が負担する建築費用は,甲4の見積書による請負代金額に丙の経費を上乗せすることになる旨を説明した。
それに対して,戊は,原告の予算額が,エアコンやカーテンなどの費用もあわせて全体で3200万円程度しかないと話した。
そこで,被告乙は,戊に対して,甲4の見積書を作成した被告甲と原告が直接契約すれば丙の経費分の金額を負担しなくとも済むので,同被告と原告が直接契約してはどうかと提案したところ,戊は,被告甲がどのような建築業者であるか分からないことから不安である旨を述べた。
被告乙は,それに対して,被告甲に不安を抱いているのであれば,自分が個人的に監理業務を行ってもよいが,個人的に同業務を引き受けるので,丙の業務が休みである土曜日及び日曜日ないしは被告乙の丙での勤務時間外にしか現地に行くことができないことになるが,それでもよければ引き受けてもよいと提案した。
その後,戊は,原告が被告甲と直接請負契約することを被告乙に伝え,同被告は,被告甲に対して,原告と直接請負契約を締結するよう依頼し,同被告は,これを引き受ける旨を被告乙に対して伝えた。
このときまで,被告乙は,戊との電話連絡の際には,「丙の染矢」と名乗り,これ以後も,同様であったが,被告乙以外の丙の従業員と戊が交渉をしたことは,後記キ記載のとおり,戊が丙へ本件について正式にクレームを申し入れた平成8年7月ころまでの間,一度もなかった。
(甲4,乙11,丙8,被告乙,被告甲代表者)
(カ) 戊は,被告乙との間で,丙4の図面に基づいて,さらに交渉を行い,その結果,平成7年8月11日ころ,丙5の図面が辛によって作成され,被告乙が同図面を戊に交付した。
そして,丙5の図面に基づいて,被告乙と戊が交渉を行い,システムバス及び洗面化粧台の仕様を変更することとし,被告乙が上記変更を被告甲に伝え,同被告が,同年9月1日ころ,甲4の見積書の内容を一部変更した原告宛の甲
5の見積書を作成し,これを被告乙を通じて,戊に交付した。
この間,被告乙は,己から,同年8月ころ,同被告に支払うべき監理料の金額について尋ねられ,監理料を100万円とし,請負契約締結時に半金,竣工時に半金をそれぞれ原告が同被告に支払うことで合意がなされた。
その後,さらに丙5の図面では,3階部分について洋室15畳と設計されていたのを,2つの部屋に区切ることとする設計変更がなされ,最終的に,本件設計図書が作成された。
(甲2,4,5,乙11,丙8,被告乙,被告甲代表者)
(キ) 戊及び己は,同年9月8日ころ,被告甲の事務所を訪れて同被告代表者と会い,同行していた被告乙から,同代表者を紹介された。その際,戊らは,被告甲の会社の概要等を知りたい旨同被告代表者に伝え,同代表者は,後日,被告乙を通じて,被告甲及び同代表者の経歴を記載した書類を交付し,また,同月24日ころ,同被告が実際に建築工事を請け負っている工事現場に戊らを連れて行き,実際に工事の様子を見せた。
(甲22,乙11,被告甲代表者)
キ 本件請負契約の締結とその後の事情
被告甲は,本件請負契約締結後,主任技術者(建設業法26条)を同被告代表者とし,本件設計図書の内容に基づいて,本件建物の建築工事を行った。また,被告乙も,本件工事の監理業務を行ったが,被告乙が本件工事の現場に赴いて監理業務を行うのは,土曜日,日曜日及び平日の夕方以降に限られていた。
その後,被告甲は,数回にわたり,変更工事及び追加工事を行ったが,これらはいずれも被告乙の指示に基づいて行われたものであり,戊ないし己と被告甲が直接交渉することはなかった。
(被告甲代表者)
原告は,平成8年4月28日,被告甲から本件建物の引渡を受けたが,その後,施工不良箇所を多数発見したた
め,被告乙及び同甲にクレームを言ったことから,同年7月28日ころ,被告乙と同甲代表者が,本件建物の調査を行って,同月30日付で「庚邸 建物調査報告書」と題する書面(甲46)を共同で作成するとともに,これを手直し工事の内容を記載した書面(甲45)とともにそのころ戊に交付した。
戊は,平成8年7月ころ,丙に対して,本件工事についてのクレームを言った。
その後,平成8年10月21日から同月24日まで及び同年11月5日に住宅検査協会(代表者辰)が本件建物の調 査を行い,その結果,同協会が11月24日付で建築物調査報告書(甲9)を作成し,同年12月16日,戊,被告乙及び同甲代表者が,住宅検査協会事務所において,辰から,上記報告書の交付を受けるとともに,同人から本件建物の調査結果について報告を受けた。
その場で,被告乙は,平成9年1月13日までに,本件建物の手直しについての具体的な計画書を提出することを約束した。
被告乙は,平成8年12月に就業規則違反で出勤停止7日の懲戒処分を受け,同月末に丙を依願退職した。
(甲9,36,45,46,丁5,8,被告乙,被告甲代表者)
(3) 以上の事実経過を前提として,以下,争点について判断する。
2 争点1(施工不良による本件建物の瑕疵及び未施工工事等の内容とそれによる被告甲及び同乙の責任)について
(1) 被告甲の責任
ア 前記前提事実(3)のとおり,被告甲は,原告との間で,本件請負契約を締結していることから,後記7で認定する本件建物の瑕疵及び未施工工事等についてそれぞれ瑕疵担保責任及び債務不履行責任を負う。
そして,前記1カ(カ)及び(キ)で認定したとおり,丙5の図面が作成された後,本件設計図書が作成されていることからすれば,本件建物の瑕疵及び未施工工事の有無については,本件設計図書を基準として判断すべきである。
イ なお,被告甲は,本件建物が現時点で建築基準法上の3階建て建物であることは認めるものの,被告乙から交付を受けた設計図書の記載内容ないしその後になされた同被告の指示どおりに本件建物の建築工事を行ったにすぎない から,本件建物の瑕疵及びその修理見積額の算定に際しては,建築基準法に違反した本件設計図書に基づいて施工したために生じている瑕疵ないし3階建建物についての建築基準法の基準を前提として主張される法律的瑕疵と,それ以外の純然たる施工上の瑕疵とは明確に分けて論じられるべきであり,前者については被告甲は責任を負わないと主張する。
しかしながら,建設業法26条によれば,同法3条に基づき一般建設業の許可を得ている建設業者が建築工事を 請け負う場合に設置することを義務付けられる主任技術者は,技術上の管理及び建設工事の施工に従事する者の技術上の指導監督の職務を誠実に行わなければならないとされているところ(同法26条の3),上記義務は,完成建物の技術的水準を確保し,もって安全性が確保された建築物を建築するために課せられた義務であるというべきであるから,仮に 設計図書どおりに建築した場合に当該建物が法令上要求される基準を満たさない違法建築物となり安全性を欠くことが明らかである場合には,主任技術者は,当該建物の安全性を確保するために設計者ないし監理者に対して建築確認申請 の内容を確認したり,場合によっては設計の変更を求める義務を負うというべきであり,これを行わずに漫然と建築工事を行った結果,完成建物に瑕疵が生じた場合には,仮に設計図書どおりに建築工事を行ったとしても瑕疵担保責任を免れることはできないと解すべきである。
ウ 本件についてこれをみると,前記1キで認定したとおり,本件工事において,被告甲は,同被告代表者を主任技術者として設置していたから,同被告代表者は,主任技術者として,本件設計図書に基づいて工事を行った場合に完成建物が違法建築物となることが明らかである場合には,監理者である被告乙に対して設計の変更を求める義務を負うと解すべきである。そして,甲2添付の設計図面によれば,本件建物が3階建て建物であり,そのことを前提とすれば,後記の通し柱の小径や軸組が建築基準法等で要求される基準に比して不足していること,3階部分に振れ止めないしこれに相当 する構造補強材が使用されていないことは,いずれも容易に看取することができ(特に,本件では,証拠(被告代表者)によれば,同被告代表者は一級建築士であること,また,本件工事の時点で14,5年の実務経験があることがそれぞれ認められることからすれば,建築基準法上の基準についても精通していたと認めることができる。),だとすれば,同代表者は,本件設計図書の交付を受けた時点で,本件建物が構造上の安全性を欠くことが明らかであることを,容易に認識することができたということができる。
したがって,本件工事の主任技術者である同代表者としては,監理者である被告乙に対して設計変更を依頼するなどして,本件建物が構造上の安全性を有するよう努める義務を有していたということができ,にもかかわらず,これを行わずに漫然と建築工事を行った以上,本件建物に生じた瑕疵について,被告甲が単に本件設計図書ないし被告乙の指示どおりに工事を行ったことのみをもって,請負人としての瑕疵担保責任を免れることはできないというべきである。
(2) 被告乙の責任
ア 被告乙は,本件請負契約において,本件工事の監理技師として工事監理を行う義務があるところ,その具体的内容について規定する建築士法18条3項によれば,建築士が工事監理を行う場合において,工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは,直ちに,工事施工者に注意を与え,工事施工者がこれに従わないときは,その旨を建築主に報告しなければならないとされている。
そして,本件建物の瑕疵には,純然たる被告甲の施工上の瑕疵と本件建物が3階建て建物であることを前提として建築基準法等の基準に適合していないという点の瑕疵が存在するところ,前者の瑕疵については,特段の事情ない限り,被告乙は,本件工事の監理技師として負う上記建築士法の規定による義務に違反し,本件工事が本件設計図書のとおりに実施されているかどうかの確認をしなかったために施工上の瑕疵を発見できず,その結果工事施工者に注意を与える 等の方法により被告甲に本件設計図書のとおりに工事を行わせることもしなかったため,工事完成後本件建物に瑕疵が生じたのであるから,被告乙は,本件請負契約の債務不履行責任として,瑕疵の存在によって原告が負った損害を賠償する義務を負う。
イ これに対し,本件建物が3階建て建物であることを前提として建築基準法等の基準に適合していないという点の瑕疵については,被告乙自身は設計を行っていないことから,本件請負契約に基づいて,設計上の瑕疵についてまで債務不履行責任を負うと解することはできない。
しかしながら,本件においては,確かに,原告は,本件建物の設計者である辛に対して,設計費用及び確認申請 に必要な費用を支払ったと認められるが,原告側が辛との間で設計内容について具体的な交渉を行った事実は認められず,間取りの変更等設計に関する原告側との交渉は全て被告乙との間で行っていたものであり,弁論の全趣旨によれば,辛も被告乙の設計変更の指示どおりに設計図面を作成したと推認される。そして,被告甲代表者によれば,辛は二級建 築士の資格を有するにとどまると認められるのに対し,被告乙は一級建築士であること,木造3階建て建物の建築にあたっては,建築基準法が工事着手前の建築主事による建築確認及び工事完了後の建築主事による完了検査を義務づけ(同法6条1項,6条の2),また,建築士法も一級建築士ないし二級建築士による設計及び工事監理を義務づける(同法3条の2第1項)などその安全性を確保すべく適正な工事が行われるよう厳しい要件を定めていることなどの事情を総合すれ ば,本件においては,設計に関して具体的に原告と交渉を行うとともに,本件工事の監理技師として施工者の工事を監理する立場にあった一級建築士たる被告乙は,建築に関する専門的知識を欠く原告に対して,設計内容について,原告の設計変更の指示が不適当である場合にはこれを原告に警告して建築基準法等の基準に適合するように原告の設計変更の希望を翻意させる義務があり,これに反する原告の希望には応じてはならない義務を有しており,また,設計変更に関 する事情を知らない設計図面作成者に対しても,上記法令の基準に適合するような設計に基づいて設計図面を作成するように指示すべき注意義務を監理契約の付随義務として負っていたというべきであり,にもかかわらず,かかる義務を怠って法令等の基準に違反するような形で設計図面を作成させてこれを施工者に交付し,施工者が設計図面どおりに工事を
行った結果,完成建物が法令等の基準に適合しないとの瑕疵を有するに至った場合には,当該瑕疵の存在によって注文者たる原告が負う補修費用等の損害額について,監理者たる被告乙もまた,設計上の瑕疵について債務不履行責任を 負うと解すべきである。
したがって,本件においては,被告乙は,本件建物が3階建て建物であることを前提として建築基準法等の基準に適合していないという点の瑕疵の存在によって注文者たる原告が負う補修費用等の損害について賠償する責任を負う。
しかしながら,本件建物の3階建て建物への設計変更に際しては,前記1で認定したとおり,被告乙は,戊に対し て,完成建物が建築基準法違反となることを警告したと認められ,にもかかわらず,戊がこれを強く希望したため,やむなく被告乙がこれに応じて設計変更がなされたとの事情が認められ,戊自身も本件建物が完成後に建築基準法等の基準に適合しないとの瑕疵が生ずることについて十分認識していたと認められる。
したがって,かかる場合に,被告乙が,本件建物が3階建て建物であることを前提として建築基準法等の基準に適合していないという点の瑕疵の存在により原告が負う補修費用等の損害について全て責任を負うと解することは相当でなく,民法418条の規定により,被告乙は,上記損害の5割について賠償する責任を負うと解すべきである。
ウ これに対し,未施工工事等については,甲45,46,被告乙及び同甲代表者及び弁論の全趣旨によれば,被告乙は,被告甲に対して,工事の変更や補修工事等について適切に監理し,かつ指示をしていると認められ,にもかかわら
ず,未施工工事等が生じたのはもっぱら被告甲の責めに帰すると認められるから,未施工工事等の存在による原告の損害について,被告乙は,債務不履行責任を負わないと解すべきである。
3 争点2(民法636条の適用の有無)について
(1) 民法636条によれば,仕事の目的物の瑕疵が注文者の指図によって生じた場合には,請負人は瑕疵担保責任を負わないとされている。
そして,前記1オ及びカ(ア)ないし(ウ)で認定した事実によれば,①当初作成されていた丙1の図面では,建築予定建物は2階建て建物とされていたこと,②戊が,被告乙との間で,丙1の図面に基づき,交渉を行った際に,収納部分を広げるため2階の屋根裏部分に相当する小屋裏を物置として使用するために,その面積を広げてほしいと要望したのに対 し,被告乙は,小屋裏面積を広げると建築基準法の規制基準に違反するために建築確認や住宅金融公庫による最終完了検査を受けることができなくなる旨を説明したが,戊が,住宅金融公庫に対し融資を申請しないので,最終の完了検査を受けることができなくても構わないから,収納部分を増やしてほしいと同被告に求めたことから,屋根裏部分の面積を拡大するなど丙1に比べて収納部分を増やした丙2の図面が作成されたこと,③同図面に基づく交渉の際に,戊が,被告乙に対し,当初屋根裏部分へは梯子で登るよう設計されていたが,これに代えて3階への階段を設置すること及び3階を物
置としてできるだけ広い面積を有するように設計することなどを被告乙に要望したところ,同被告は,戊に対して,屋根裏部屋の面積が建築基準法の基準に違反していることに加え,なおかつ階段を付ければ,さらに建築基準法違反の事実が発覚しやすくなると説明したが,戊は,それでも階段を取り付けて欲しいと同被告に話したことから,同被告は,戊の要望を容れた設計図面を作成することとしたが,その際,戊に対して,実際に建てる図面と建築確認申請の図面とは食い違いが生じることになると説明したこと,④本件建物の建築確認申請書類(甲3)の記載内容によれば,申請建物は明らかに2階建 て建物であるところ,原告(戊)は,これに対して何らかの疑問を呈した事実は認められないこと(この点,証人濱田戊は, 甲3の建築確認申請書類に押印する際,内容をよく見なかったと供述するが,甲14,22の存在からすれば,当時の状況を詳細にメモをとる等戊の几帳面な性格を窺うことができ,にもかかわらず,本件建物の確認申請書類という重要な書類について何ら中身を確認せずにただ被告乙の言を信用して押印だけをしたとの供述は,これを採用することはできない。)が認められる。
加えて,甲3に添付されている本件建物の設計図面(同号証14枚目及び15枚目)が,丙4における1階及び2階部分の各図面とその内容がほぼ同じであることからすれば,建築確認申請時において既に3階建て建物を建築することで合意していたと認められ,にもかかわらず,前記④のとおり戊が甲3の確認申請書類に何らかの疑問を呈した事実は認められないことの各事実を総合すれば,戊と被告乙との間で当初建築を予定していた建物は2階建て建物であったが,戊が収納部分を増やすために,屋根裏部分の面積を拡張することを希望し,その際被告乙から当該設計変更により本件建物が建築基準法上3階建て建物として扱われ,違法建築物となることの説明を受け,設計変更の違法性を十分に認識しなが ら,あえて自らの希望を貫いて屋根裏部分の面積の拡張を被告乙に対して要望し,最終的には,前記1カ(カ)で認定した
とおり,本件設計図書に添付されている図面の記載内容のとおり,3階部分を部屋として使用することができるように設計が変更されたものであると認めることができる。
(2) しかしながら,通常,戸建て住宅建築の注文主は,建築に関する専門的知識が乏しいにもかかわらず,注文者の 指示があればその内容如何を問わず民法636条の「指図」にあたり,請負人は瑕疵担保責任を免れると解することは,完成建物の安全性を確保すべく建築士ないし主任技術者の建築工事への関与を義務づけ,建築基準法等の設計基準を 遵守させることによって,専門的知識に乏しい注文主による安全性を損なうような設計に基づく建物の建築を防止しようとした建築士法ないし建設業法の趣旨に反することは明らかである。
したがって,工事請負人の担保責任を免除するような注文者の「指図」とは,注文者の十分な知識や調査結果に基づいて行われた指示,あるいはその当時の工事の状況から判断して事実上の強い拘束力を有する指示などであると制限的に理解しなければならないというべきである。
本件においては,注文主である原告及びその代理人である戊は一般人であり,注文者の希望が十分な建築に関する専門的知識に基づいて行われたものであるとはいうことができず,実際に指示を行ったのは一級建築士の資格を有する被告乙であったとしても,被告甲が本件設計図書の交付を被告乙から受けた時点で,設計内容が建築基準法に違反していることを容易に看取することができたのであるから,その時点で,被告乙に設計変更を行うよう求めるか工事の受注を拒否するなどの対応をとることができたというべきである。
また,後記のとおり,べた基礎部分について,本件設計図書ではワイヤーメッシュとなっていたのを,被告甲の裁量 で鉄筋を入れることに変更するなどしていたことからすれば,被告乙の指示が絶対的なものではなく,工事施工者である被告甲が自らの裁量で工事内容の変更を行うこともできたということができ,被告乙の指示が,上記「指図」にあたると言えるほどに事実上の強い拘束力を有していたと認めることはできない。
にもかかわらず,被告甲は,本件設計図書に従って本件工事を続行した結果,本件建物に瑕疵が生じたのであるから,被告乙が建築の専門家であったとしても,請負人である被告甲は民法636条によって瑕疵担保責任を免れることはできないと解すべきである。
(3) しかしながら,設計まで含めて本件建物の建築を請け負ってはいない被告甲に対し,専門家の行った設計の不備の責任を全面的に負わせると解することもまた衡平の観念(信義則)に反することになる。
したがって,注文主がその指示に従って請負人が工事を完成させた場合に当該完成建物が違法建築物となることを認識した上で,当該指示を行い,その結果,請負人が当該指示に従って工事を行った結果,瑕疵が生じた場合には,民法636条の法意に従い,裁判所は注文主側の過失を斟酌し,請負人が負う損害賠償額を算定するにあたり,過失相殺をすることができると解するのが相当である。
本件についてこれをみると,前記(1)で述べたとおり,戊は,屋根裏部分の面積を拡大する設計変更をすることによって,完成建物が違法建築物となることを被告乙から説明を受けて認識しており,さらに3階部分への階段を設置するよう設計変更を同被告に要望した際にも,再度建築基準法違反の事実が発覚しやすくなる旨を説明されていたのであり,完成建物が違法建築物となることを十分認識していたと認めることができ,その他本件に現れた一切の事情を斟酌すれば,本件建物が3階建て建物であることを前提とする瑕疵の発生についての注文者たる原告側の過失は5割であると認めるのが
相当である。
よって,被告甲は,本件建物の瑕疵のうち,本件建物が建築基準法上の3階建て建物であることを前提とする瑕疵については,その損害の5割について原告に対し賠償する義務を負うことになる。
4 争点3(原告の権利濫用ないし信義則違反の有無)について
被告甲及び被告乙は,本件建物が建築基準法で要求される3階建て建物としての強度を欠く違法建築物であることを認識しているにもかかわらず,同被告らに対して本件建物が同法上3階建て建物としての強度を有していないことに基づいて責任を追及するのは権利濫用ないし信義則違反であると主張する。
確かに,本件においては,前記3で認定説示したとおり,当初の設計の段階では本件建物は2階建て建物であった が,その後,主要構造部を変更しないまま屋根裏部分の設計を変更して2部屋を設け,本件建物が建築基準法上3階建 て建物としての強度を欠く違法建築物となる建物へと設計変更を行っており,戊自身も,本件建物が違法建築物となることを認識していたと認められる。
しかしながら,前記3で述べた完成建物の安全性を確保すべく建築士ないし主任技術者の建築工事への関与を義務づけ,建築基準法等の設計基準を遵守させることによって,専門的知識に乏しい注文主による安全性を損なうような設計に基づく建物の建築を防止しようとした建築士法ないし建設業法の趣旨からすれば,完成建築物が違法建築物となることについて注文主が了解していたとしても,監理業務を行う建築士としては,注文主に対して違法な設計変更について翻意するよう説得を行い,また,請負業者に対して,工事内容の変更を促すなどして,完成建物を建築基準法上の基準に適合させ,もって建物の安全性を確保する義務を負うというべきであり,専門的知識を有しない注文主が完成建物が違法建築物となることを了解していたことのみをもって,事後に完成建物が違法建築物であることを前提として監理者である建築士に対して責任を追及することが直ちに信義則に違反するとはいうことができない。
また,請負人に対しても,前記2で説示したとおり,主任技術者の設置を義務づけることで施工技術の確保を図り,も って完成建物の安全性を確保しようとした建設業法の趣旨からすれば,建築の専門家である主任技術者としては,設計建物が明らかに建築基準法で要求される基準を満たしていない場合には,監理者に対して設計変更を行うよう求め,それが承諾されない場合には工事を中止して違法建築物の建築を防止する義務があるというべきであり,専門的知識を有していない一般人たる注文者が完成建物が違法建築物であることを了解していたとしても,上記義務が免除されるものではなく,また,事後に完成建物が違法建築物であることを前提として請負人に対して責任を追及することが直ちに権利濫用にあたるということもできない。
よって,権利濫用ないし信義則違反を主張する被告甲及び被告乙の主張は理由がない。
5 争点4(被告乙の行為が,外形上丙の業務の範囲内にあるか否か)について
前記前提事実(1)イによれば,丙は,建築工事・大工工事などの設計・監理及び請負等を目的とする会社であったところ,本件において,被告乙は,本件工事の監理業務を行う旨原告との間で合意し,同合意に従って監理業務を行ったものであること,及び前記1(2)エ,オ,カのとおり,丙の旧建物調査に端を発し,丙による建築工事代金の見積りもなされたが,結局下請の被告甲と原告が直接本件請負契約を締結するに至ったという経過からすれば,被告乙の行為は外形上丙の業務の範囲内にあるということができる。
よって,この点に関する原告の主張は理由がある。
6 争点5(被告乙が本件請負契約に基づき行った本件工事の監理業務が丙の職務の執行と無関係に行われたことについての原告の悪意・重過失の有無)について
前記1(2)カ(オ)ないし(キ)及び同キで認定したとおり,①被告乙が,甲4の見積書を戊に交付して,請負代金について交渉を行った際,戊に対し,丙が原告と間で請負契約を締結すれば,原告が負担する建築費用は,甲4の見積書による 請負代金額に丙の経費を上乗せすることになる旨を説明し,それに対して,戊は,原告の予算額が全体で3200万円程度しかないと話したことから,被告乙が,被告甲と原告が直接契約すれば丙の経費分の金額を負担しなくとも済むので,同被告と原告が直接契約してはどうか,被告甲に不安を抱いているのであれば,自分が個人的に監理業務を行ってもよいが,個人的に同業務を引き受けるので,丙の業務が休みである土曜日及び日曜日ないしは被告乙の丙での勤務時間外にしか現地に行くことができないので,それでもよければ引き受けてもよいと提案したこと,②その後,戊は,原告が被告甲と直接請負契約することを被告乙に伝え,同被告は,被告甲に対して,原告と直接請負契約を締結するよう依頼し,同被告
は,これを引き受ける旨を被告乙に対して伝えたこと,③その後,被告乙以外の丙の従業員と戊が交渉をしたことは,戊が丙へ本件において正式にクレームを申し入れた平成8年8月ころまでの間,一度もなかったこと,④戊及び己が,平成7年
9月8日ころ,被告甲の事務所を訪れて同被告代表者と会い,被告甲の会社の概要等を知りたい旨同被告代表者に伝 え,同代表者は,後日,被告乙を通じて,被告甲及び同代表者の経歴を記載した書類を交付し,また,同月24日ころ,同被告が実際に建築工事を請け負っている工事現場に戊らを連れて行き,実際に工事の様子を見せたこと,⑤被告乙が本件請負契約に基づいて本件工事の現場に赴いて監理業務を行うのは,土曜日,日曜日及び平日の夕方以降のみであったことの各事実が認められ,かかる認定事実及び甲1には丙の社名が全く記載されていないことを総合すれば,戊は,本
件請負契約において,契約当事者から丙を外すこと,及び被告乙が本件請負契約を締結すること及び同契約に基づいて本件工事の監理業務を行うことは,いずれも丙とは無関係に個人的に行ったものであることを認識できたというべきであり,少なくとも,被告乙の行為が丙の職務執行として行われたものでないことを知らなかったことについて戊には重過失があるということができ,原告が主張するその余の事情を考慮しても上記判断を覆すには足りないというべきである。
したがって,被告乙の行為が丙の業務外の行為としてなされることについて,原告には悪意ないし重過失があったというべきであるから,結局,丙を吸収合併した被告丁は,被告乙の行為について使用者責任を負わないというべきであり,原告の被告丁に対する請求は理由がない。
7 争点6(原告の損害額)について
(1) 本件建物の瑕疵修補費用ア 瑕疵の有無について
そもそも建築基準法は,建築物の構造に関する最低の基準を定めて国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とすると定めるとともに(同法1条),同法に違反した者に対して懲役刑を含めた刑事罰を科すことを定めていることからすれば,原告が補修工事を要すると主張する各項目が瑕疵にあたるか否か,すなわち当該欠陥の存在により建物が通常有すべき性状を欠いているといえるか否かの判断にあたっても,まず建築基準法 及び施行令の基準に違反しているか否かによって判断すべきである。
そして,建築基準法及び施行令に規定がない項目については,証人巳の証言及び弁論の全趣旨により,建築物の設計基準として普遍的に用いられていると認められる日本建築学会が定める建築工事標準仕様書(JASS)等の設計基準に合致しているか否かで判断すべきであるが,証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,住宅金融公庫が作成した 同公庫標準仕様書(以下,「公庫仕様書」という。)は日本建築学会の基準を集約したものであること,本件建物のグレードはごく一般的な通常住宅金融公庫の融資を利用して建築される建物と同等であることが認められることからすれば,公庫 仕様書による基準も本件建物の瑕疵の有無の判断にあたり基準となり得るというべきである。
したがって,本件建物の瑕疵の有無は,建築基準法及び施行令の規定,日本建築学会の基準,公庫仕様書による基準の3基準に合致しているか否かによって判断すべきである。
(ア) 基礎コンクリートの強度不足(施行令38条1項違反)(通し番号A)
施行令38条1項によれば,「建築物の基礎は,建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え,かつ,地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。」と規定されているところ,甲9,29及び弁論の
全趣旨によれば,日本建築学会が作成した「小規模建築物基礎設計の手引き」及び平成7年版公庫仕様書によれば,基礎に用いるコンクリートの設計基準強度は,180kg/?以上が必要であるとされていることが認められる。
そして,甲9,23,31ないし34及び弁論の全趣旨によれば,住宅検査協会が,平成8年11月5日に,本件建物 の1階台所部分の鉄筋コンクリート(RC)基礎スラブから,圧縮強度試験の供試体として円柱形のコンクリートコアーを採取してこれを財団法人日本建築総合試験所に提出したこと,同法人が上記コアーについて日本工業規格等の規格に基づ いて圧縮強度試験を行い,その強度は179kgf/?,補正強度は160kgf/?との結果であったこと,日本建築学会及び住宅金融公庫の各仕様書が要求する強度を有しているか否かの判断にあたっては,補正強度の数値を基準に判断すべきであること,同協会が本件建物から採取した他のコンクリートコアーにはひび割れが生じているものがあったこと,本件建物の基礎コンクリートには豆板が生じている箇所が多数存在することがそれぞれ認められ,上記認定事実によれば,本件建物の基礎コンクリートには,日本建築学会及び住宅金融公庫の各仕様書が要求する強度を有していない箇所があり,他の基礎コンクリートの部分にその構造耐力の弱体化を示す豆板やひび割れが多数生じている箇所が存在することからす れば,本件建物の基礎コンクリートには上記供試体以外にも上記日本建築学会及び住宅金融公庫の各仕様書が要求する強度を有しない箇所が多数存在しているものと推認することができ,結局,本件建物の基礎コンクリートは,その強度が 不足していて構造耐力上の安全性を欠いており,補修工事を要する瑕疵があるということができる。
これに対し,被告甲及び同乙は,コンクリートは時間の経過により強度を増していくのであり,現在では,検査時の強度を上回る強度になっていると考えられると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 基礎の鉄筋のかぶり厚さ不足(施行令38条1項,79条違反)(通し番号B)
甲2,5,13,35及び弁論の全趣旨によれば,本件建物の基礎は,本件設計図書においては,べた基礎とされていること,甲5の見積書においても基礎工事の欄にべた基礎と記載されていること,基礎工事の際に底盤内の鉄筋と見ら れる配筋を行っていること(甲35・1枚目),その後基礎の立ち上がり部の型枠を組んだ時点では底盤が形成されていること(同・2枚目),土被り寸法が5センチメートル程度しかないことがそれぞれ認められ,かかる認定事実からすれば,本件建物の基礎は布基礎等ではなく,べた基礎であると認められる。
そして,施行令69条及び79条によれば,べた基礎の場合の底盤の厚さは12センチメートル以上でなければならず,また,鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さは,6センチメートル以上としなければならないと規定されているところ,甲
13,証人巳の証言,被告甲代表者によれば,基礎工事の前に捨てコンクリートを打設していなかったこと,基礎工事の配 筋の際にスペーサー等を用いていなかったこと,底盤の厚さは8ないし10センチメートル程度しかないことがそれぞれ認められるところ,上記認定事実によれば,本件におけるべた基礎の底盤部分の厚さは全体として均一ではないと推認するのが相当であり,上記施行令79条の基準を満たしておらず,鉄筋の配筋が底盤の地盤との接触部分に極めて近接した箇所に存在してコンクリートのかぶり厚さがほとんど存在しないため,地盤からの湿気等により腐食する危険が極めて高い状態にあると認められる。加えて,底盤の厚さが上記施行令69条の基準からそもそも不足している上に鉄筋部分の直径も考慮すれば,底盤部分の厚さは6ないし8センチメートルしかないものと推認され,以上からすれば,本件建物のべた基礎の底盤部分は,施行令で要求されている基準を満たしておらず,腐食の危険性が極めて高いという欠陥を有していると認められる。そして,基礎部分の設計図面等がそもそも存在せず,他に本件建物の基礎立ち上がり部分について,十分な土被り寸法が確保され,また,立ち上がり部の基礎の深さも十分確保されていることやフーチングが基礎の外側及び内側に施されるなどの方法によって底盤部分の耐力が不足していても立ち上がり部のみで十分な構造耐力を有するという事実を認 めるに足りる証拠もない以上,本件建物の基礎は構造耐力上十分な安全性が確保されておらず,甲13及び証人巳の証 言によれば,構造計算上耐圧版(底盤)について,現状の耐圧版の上にさらにもう1枚シングルクロスの鉄筋を入れ,コンクリートで固める方法による修補を必要とする瑕疵が存在すると認められる。
被告甲及び同乙は,本件建物の基礎には,甲5の見積書ではワイヤーメッシュを用いることとなっていたのを鉄筋を用いることで構造上の安全性を高めていると主張するが,前記認定説示のとおり,本件では,むしろ鉄筋を用いてかぶり厚さをほとんど確保しないまま底盤部分にコンクリートを流し込んだが故に鉄筋の腐食による底盤の弱体化の危険性を高めてしまったというべきであるから,上記被告らの主張は理由がない。
(ウ) 基礎のコンクリートの打ち込み,養生不良(施行令38条1項,75条違反)(通し番号C)
甲9,13,23,証人巳の証言によれば,本件建物の基礎には,外観上数多くの亀裂やひび割れが存在していること,外周を含め広範囲にわたって豆板(ジャンカ)が存在していたことがそれぞれ認められるところ,上記認定事実及び証人巳の証言を総合すれば,本件基礎コンクリート部分はひび割れや亀裂部分に水が入り,それが凍結して破壊現象が生じる危険性があり,また,豆板が生じている部分についても想定されているコンクリートの強度が確保されていないと認められ,これら亀裂や豆板等が生じている部分についても,構造耐力上の安全性が確保されておらず,修補を必要とする瑕疵が存在すると認められる。
(エ) 土台と基礎との緊結不良(施行令42条違反)(通し番号D)
施行令42条1項によれば,構造耐力上主要な部分である柱で最下階の部分に使用するものの下部には,土台を設けなければならないとされ,同条2項によれば,土台は,一体の鉄筋コンクリート造の布基礎(前記(イ)で認定したとおり,本件建物の基礎は一応べた基礎であり,一体の鉄筋コンクリート造の布基礎であると認められる。)に緊結しなければならないとされている。
そして,上記施行令の規定が,土台と基礎とを緊結することにより土台と基礎とを一体化し,地震等によって生ずる横力によって建物全体が倒壊するのを防止しようとの趣旨に基づくものであることからすれば,緊結とは,土台の場合には,土台を布基礎にアンカ一ボルト等の金具で緊密に結合させることをいうと解すべきである。
そこで本件についてみると,甲9,13,23及び証人巳の証言によれば,本件建物の物入り間仕切り基礎のうち2 か所が寸法違いのまま施工されており,下に基礎がそもそも存在しない箇所に土台が存在すること,また,土台と基礎の位置がずれているために,土台と基礎がアンカーボルトで緊結されておらず,アンカーボルトが剥き出しとなっている箇所が存在すること,土台の継手部分と基礎とがずれている箇所も存在することが認められるところ,上記認定事実及び甲9を総合すれば,本件建物においてはさらに12箇所について土台と基礎をホールドダウン金物とアンカーボルトで緊結する必 要があることが認められる。
そして,かかる土台と基礎との緊結は,建物の倒壊を防止するために基準であることからすれば,それらの緊結を欠くことにより建物自体の安全性を欠いているといわざるをえず,上記緊結する必要がある12箇所について瑕疵が存すると認められる。
(オ) 柱の小径の不足(施行令43条2項違反)(通し番号E)
施行令43条2項によれば,地階を除く階数が2を超える建築物の1階の構造耐力上主要な部分である柱の張り間方向及び桁行方向の小径は,13.5センチメートルを下回ってはならないとされている。
そして,本件建物の柱の小径はいずれも10.5センチメートル以下であることは当事者間に争いがないところ,前記2(1)で述べたとおり,本件建物が建築基準法上の3階建て建物であることは当事者間に争いがないから,本件建物が3階建て建物であることを前提とすれば,本件建物の柱の柱径は,上記施行令の基準に照らし明らかに不足しているといえる。
そして,本件建物については,構造計算又は実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた事実は認められないから,同項但書の適用はなく,柱が建築基準法上の主要構造物であり,その柱径が建物の安全性にとって重要であることは明らかであるから,柱径が基準に照らして3センチメートル不足していることは,修補を必要とする瑕疵であると認められる。
そして,同様に前記2(1),(2)で述べたとおり,被告甲及び同乙はいずれも本件建物が3階建て建物であることを前提とする瑕疵について瑕疵担保責任ないしは債務不履行責任を負う。
(カ) 筋かい端部の緊結不良(施行令45条3項違反)(通し番号F)
施行令45条3項によれば,筋かいは,その端部を柱と梁その他の横架材との仕口に接近して,ボルト,かすがい,くぎその他の金物で緊結しなければならないとされている。
そこで,本件についてこれをみると,甲9によれば,本件建物の筋かい端部では,いずれの箇所も金物が使用さ れてはいることが認められ,同号証及び弁論の全趣旨によれば,金物の取付方法が若干不適切である箇所が存在することが認められるが,筋かい部の金物の使用方法が原因となって筋かいが有効に働かず,建物の構造耐力上の安全性を欠くといえるほどの欠陥であるとまで認めるに足りる証拠はない(証人巳の証言によっても,この点を直ちに瑕疵であると認めるには足りない。)から,この点が修補を要する本件建物の瑕疵にあたると認めることはできない。
(キ) 構造耐力上必要な軸組の不足(施行令46条1項4項違反)(通し番号G)
施行令46条1項によれば,構造耐力上主要な部分である壁,柱及び横架材を木造とした建築物にあっては,全ての方向の水平力に対して安全であるように,各階の張り間方向及び桁行方向に,それぞれ壁を設け又は筋かいを入れた軸組を釣合いよく配置しなければならないとされており,また,同条4項は,階数が2以上又は延べ面積が50平方メートルを超える木造の建築物においては,第1項の規定によって各階の張り間方向及び桁行方向に配置する壁を設け又は筋かいを入れた軸組は,それぞれの方向につき,同項表1の軸組の種類の欄に掲げる区分に応じて当該軸組の長さに同表の倍率の欄に掲げる数値を乗じて得た長さの合計を,その階の床面積に同項表2に掲げる数値を乗じて得た数値以上
で,かつ,その階(その階より上の階がある場合においては,当該上の階を含む。)の見付面積(張り間方向又は桁行方向の鉛直投影面積をいう。以下,同じ。)からその階の床面からの高さが1.35メートル以下の見付面積を減じたものに同項 表3に掲げる数値を乗じて得た数値以上としなければならないとされているところ,甲13(13ないし15頁の構造計算書),証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,本件建物の耐力壁の量(壁量)は,3階建て建物であることを前提とすれば,施行令46条1項,4項で規定されている法令上必要とされる耐力壁の長さに不足しており,特に1階の耐力壁の不足が著しいことが認められるところ,前記2(1)で述べたとおり,本件建物が建築基準法上の3階建て建物であることは当事者間に争いがないから,本件建物が3階建て建物であることを前提とすれば,本件建物の耐力壁の壁量は,上記施行令の基準に照らし不足していると認められ,軸組の不足により,地震ないし風圧に対する安全性を欠くことは明らかであるから,構造耐力上不足している軸組の不足箇所を補足する方法によって,その修補を必要とする瑕疵があると認められる。
そして,同様に前記2(1),(2)で述べたとおり,被告甲及び同乙はいずれも本件建物が3階建て建物であることを前提とする瑕疵について瑕疵担保責任ないしは債務不履行責任を負う。
(ク) 主要構造部材の緊結不足(施行令47条1項違反)(通し番号H)
施行令47条1項前段によれば,構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は,ボルト締,かすがい打,込み栓打その他の構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならないとされているところ,甲9,13,2
3,証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,継手について,土台の継手に隙間があるなど継手及び仕口の木工事が 雑である箇所があること,引きボルト等の金物によって継手部分を緊結すべき箇所であるにもかかわらず,金物が使用されていない箇所があること,金物が使用されていても締め付けが不足している箇所があることが認められ,上記認定事実によれば,本件建物の主要構造部の部材が緊結されていない箇所が多数存在し,それらのいずれの箇所も,所定の継手ないし仕口,金物による緊結,ボルトの十分な締め付け等の修補を要する瑕疵があると認められる。
(ケ) 3階部分の小屋組(通し番号I)
施行令46条3項によれば,床組及び小屋ばり組の隅角には火打材を使用し,小屋組には振れ止めを設けなけ ればならないとされているところ,弁論の全趣旨によれば,本件建物の3階部分が小屋組であること,及び同部分には振れ止めないしそれに相当する構造補強材が使用されていないことが認められ,同項但書の適用もなく,他に構造補強材を不要とする特段の事情も認められない以上,この点は上記施行令の規定に違反しており,構造補強材を設ける等の修補を要する瑕疵があると認められる。
被告甲は,同被告が原告から依頼された工事は,屋根裏部屋を居室とした設計であり,そもそも原告の主張するような小屋組が施工できない設計であると主張するが,3階部分の小屋組について上記施行令の規定に従って小屋組を施工する義務があるにもかかわらず,本件建物の3階部分には設計上構造補強材が使用されていないこと,したがって,これをそのまま施工すれば同部分が安全性を欠くことはいずれも容易に看取することができたというべきであるから,かかる場合には施工者は監理者に対して設計変更等を促すべきであり,にもかかわらず,そのような設計変更等を何ら促すことなく,単に設計書どおりに施工した以上施工者は瑕疵担保責任を免れると解することができないことは,前記2(1)で述べたとおりであるから,被告甲の主張は理由がない。
(コ) 1階床下の部分について(通し番号J)
前記(ク)で述べたとおり,施行令47条1項前段によれば,構造耐力上主要な部分である継手又は仕口は,ボルト締,かすがい打,込み栓打その他の構造方法によりその部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならないとされているところ,甲23によれば,本件建物において使用されている床束は木材ではなくプラスチック製であり,床束と大引きは仕口によって接続されているものではなく,ボルトによって固定されていることが認められるところ,上記認定事実によれ ば,床束と大引きの接合に瑕疵があるとまで認めることはできない。
また,本件建物において,床束に根がらみ貫が取り付けられていないことは当事者間に争いがないところ,床束が木材ではなくプラスチック製の場合にも根がらみ貫が必要であると認めるに足りる証拠はないから,この点が瑕疵であると認めることはできない。
(サ) 屋根補修(通し番号69-2)
甲43,49及び証人巳の証言によれば,本件建物の屋根部分について,軒先,妻側,棟部分の各下地木材が不良であったために,屋根瓦が釘で固定されておらず,浮き上がって下地との間に隙間がみられること,そのため,本件建物の東側及び西側について雨漏りが発生したことがそれぞれ認められ,上記認定事実によれば,本件建物の屋根の下地を改修補強し,コロニアル材料の不足を補充し,屋根瓦を下地に固定する等の方法による修補を行う必要が存する瑕疵が あると認められる。
イ 補修費用
(ア) 補修の方法について
被告甲が本件設計図書の交付を受けた時点で,同被告は,本件建物が3階建て建物であることが明らかだったのであるから,当該設計図書に基づく本件建物の建築工事を請け負った以上,被告甲としては施工を行った建物について,工事完成後瑕疵の存在が明らかとなった場合にも,3階建て建物として建築基準法等の基準に適合するよう補修すべきであり,たまたま建築確認申請の際の申請建物が2階建て建物であったとしても,それによって同被告が実際に請け負った建築工事についての瑕疵担保責任に基づく修補義務ないしこれに代わる損害賠償義務が,申請建物同様に2階建て建物として関係法令の基準に適合するように修補すれば足りると解することはできない。
したがって,甲13の鑑定書が指摘するとおり,本件建物の瑕疵修補費用を算定するにあたっては,本件建物が3階建て建物として建築基準法等の基準に適合すべく行われる補修工事の費用を算定すべきであり,2階建て建物として建築基準法の基準に合致するよう補修すれば足りるとの被告甲及び同乙の主張は理由がない。
(イ) 補修費用について
甲13,49,証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,本件建物の瑕疵の修補費用として,以下の金額が必要
であると認められる。被告甲提出の乙12及びこれと同旨の被告甲代表者の供述は,本件建物を2階建て建物に戻す方法による補修に要する費用として見積もられていることからその前提を欠くし,これを裏付ける客観的証拠をも欠くことから採用できない。
なお,前記認定のとおり,原告が主張する本件建物の瑕疵のうち,筋かい端部の緊結不良及び1階床下の床束と大引きとの接合等について瑕疵と認めなかったものであるところ,筋かい部の緊結不良については,各筋かい部に一応金物が用いられていると認められることから,その補修工事としては,ボルトの締め直しや釘の打ち直し等が考えられるが,その修補費用は僅少なものにとどまると推認されること,甲13の鑑定書において,1階床下の瑕疵について特段触れられていないことからすれば,同号証における補修費用には,1階床下における上記瑕疵の補修費用は含まれていないと推 認され,前記アで認定した本件建物に存する瑕疵は,同号証記載の補修費用と同額であると認めるのが相当である。
ただし,設計,管理費については,甲13の鑑定書記載の金額は,本件建物の瑕疵補修工事と未施工工事等についての補修工事とを一体として算出しているところ,同号証及び弁論の全趣旨によれば,設計監理費用は,工事代金の約9パーセントであると認めるのが相当であり,本件建物の瑕疵補修工事代金が,下記のとおり737万円であることからすれば,同補修工事に要する設計監理費用は66万円であると認めるのが相当である(なお,屋根補修費用の設計・管理費用については,そもそも原告はこれを請求していない。)。
a 基礎工事 83万0000円
b 外壁下地及び屋根補修 22万5000円 c 木工事 177万0000円
d 建具工事 4万7000円
e 内外装・雑工事 235万0000円
f 設備工事 電気 12万0000円給排水衛生ガス 9万8000円
g 解体工事 35万0000円
h 外構工事 11万0000円
i 一般管理費,諸経費 147万0000円
j 設計,監理費 66万0000円
k 屋根補修費用 54万1500円
このうち,本件建物が3階建て建物であることを前提とした場合に,建築基準法及び施行令の基準を充足すべく補修を要する瑕疵については,前記のとおり,その修補費用相当額の5割について被告甲及び同乙が責任を負う。
そして,過失相殺される瑕疵は,前記ア(ア)(柱の小径不足),(キ)(耐力壁の壁量不足)及び(ケ)(3階部分の小屋組への構造補強材の不存在)であり,弁論の全趣旨によれば,上記aないしjの補修費用の合計額の7割であると,認めるのが相当である。
(ウ) 結論
したがって,補修工事費用のうち,被告甲及び同乙が支払義務を負う金額は,以下のとおりとなる。 a (イ)aないしjの合計額 803万0000円
b 過失相殺される瑕疵についての修補費用 562万1000円
(aの7割)
c 過失相殺されない瑕疵についての修補費用 240万9000円
(aの3割)
d bについての過失相殺後の修補費用 281万0500円 e 屋根補修費用 54万1500円
f 合計(c+d+e) 576万1000円
g 消費税額(3%) 17万2830円
h 合計 593万3830円
ウ 雨漏り補修費用(通し番号71) 24万9260円
甲21,39の1,2及び弁論の全趣旨によれば,平成8年5月ころ以降,本件建物の東側及び西側で雨漏りが生じたこと,特に東側の雨漏りが顕著であったこと,雨漏りの応急処置として東側部分についてのみ外壁をコーキングする方法により応急処置を施したことが認められるところ,前記ア(サ)のとおり,雨漏りの原因が屋根工事の瑕疵によるものであっ
て,その補修に相当期間が必要であると認められること及び東側の雨漏りの状況が顕著であったことからすれば,当面の応急措置として東側部分についてのみ外壁をコーキングして応急処置を施したこともやむを得ない措置であったというべきであるから,屋根の補修費用との二重請求になるということはできず,かかる費用も原告の損害であると認められる。
そして,甲39の1ないし3によれば,原告が,平成10年6月30日,ハンシン総業株式会社に,本件建物の雨漏りの補修費用として,25万4100円(消費税込み)を支払ったことが認められるから,上記金額が原告の損害であると認めることができ,原告の求める範囲で24万9260円の損害の発生を認めることとする。
エ 本件建物の瑕疵による損害額合計 618万3090円
(2) 未施工工事等による損害額
ア 外構工事(通し番号14) 115万5340円争いがない。
イ 手すり工事(通し番号15) 12万0000円争いがない。
ウ 雨戸付き出窓サッシ工事(通し番号16) 11万5245円争いがない。
エ 仮設費,諸経費(通し番号18) 20万8587円
甲5,甲13,証人巳の証言及び弁論の全趣旨ならびに未施工工事がいずれも本件建物の構造に関する修補費 用でないことから仮設費が必要とされる工事はあまりないということができることを総合して判断すれば,上記未施工工事に要する仮設費,諸経費は,工事代金の1割5分が相当であると認められる。
したがって,アないしウの工事を行うために必要な仮設費,諸経費は,これらの工事代金の合計金額の1割5分に相当する20万8587円であると認められる。
オ 消費税額(3%,通し番号20) 4万7975円 カ 仮設工事,掃除片づけ(通し番号25) 8万0700円
甲23によれば,本件建物の床下には,鳥の死骸やおがくず等の埃が残存しており,また,1階部分の畳の下の床には埃が残存しているなど掃除片づけが充分に行われていないと認められる。そして,甲5によれば,1平方メートルあたりの掃除片づけ費用は500円であることから,これに本件建物の建築面積である床下部分の面積と1階部分の床面積(甲2によればそれぞれ83.60平方メートル,77.80平方メートルであると認められる。)を乗じた8万0700円が損害であると認められる。
キ 左官工事,和室,ジュラク塗り(通し番号26) 0円
甲2によれば,1階和室6畳及び2階和室8畳の壁は,いずれもビニールクロス貼りで施工することとなっていたことが認められることから,被告甲が本件設計図書の指示通りに,上記各部屋の壁をビニールクロス貼りで施工したとしても何
ら問題ではない。
ク 金属製建具工事,雨戸付サッシ(通し番号27) 4万4609円
弁論の全趣旨によれば,1か所のみ設置されていたことが認められる。
甲5によれば,金属製建具工事のうちベランダ手すりの設置工事を除いた工事(雨戸付サッシ設置工事もこれに含まれる。)については,当初の見積金額が202万1630円であったが,これが本件請負契約時には131万4059円へと35パーセント減額されていることが認められることから,各工事の代金も,甲5の見積書記載の金額の65パーセントであると 認められる。
したがって,甲5の雨戸付サッシ12個分の金額である82万3570円の12分の1である6万8630円に65パーセントを乗じた4万4609円が雨戸付きサッシ工事を行うのに必要な金額として損害であると認められる。
ケ 金属製建具工事,ジャロジー(通し番号28) 0円
甲5の見積書においてジャロジー窓が8か所設置されることとなっていたこと,現時点においてそのうち4か所について引違窓が設置されていることは当事者間に争いがない。
しかしながら,証拠(乙4,被告乙本人,被告甲代表者)によれば,戊は,当初設置していたジャロジー窓について引違窓に変更するよう被告乙に求めたこと,被告乙は引違窓に変更すれば3階建て建物であることが発覚しやすくなることから変更を思いとどまるよう戊に警告したこと,戊は,警告に一旦応じたものの,後日再度引違窓へ変更するよう被告乙に 求めたことから,被告乙は戊の説得を断念し,被告甲に対し,4か所のジャロジー窓を引違窓に変更したこと,その後ジャロジーを引き違いサッシに変更したことによる工事費の差額は,追加工事見積書(乙4)の「4 三階サッシ変更工事」の欄に記載し,清算されていることがそれぞれ認められるところ,上記認定事実によれば,現時点において4か所について引違窓が設置されていることはあくまで原告側の指示によるものであり,被告甲が同指示に基づいて4か所について引違窓に変 更工事を行ったものであるから,現時点において4か所について引違窓が設置されていることは何ら問題はなく,この点を指示がされていない工事がなされたことによる損害であると認めることはできない。
コ 金属製建具工事,雨戸付き出窓サッシ(通し番号28-2)
10万0000円雨戸部分が設置されていないことには争いがない。
証拠(乙11,被告甲代表者)及び弁論の全趣旨によれば,その費用は10万円であると認められる。サ 金属製建具工事,普通サッシ(通し番号29) 3万5500円
甲13,43によれば,木造用アルミサッシを使用しており,外周のシーリングが不十分であるために,1階部分の上げ下げ窓が故障しており,交換する必要があることが認められる。そして,その交換に要する費用は,甲13によれば,3万
5500円であると認められる。
シ 木製建具工事,片開きドア(通し番号30) 3万9650円
甲43によれば,2階の片開きドアの内側の枠部分から内側部分が外れかけていることが認められるところ,同部分についてはドア自体に欠陥があるものと考えられるから,交換する必要があると認められる。そして,交換に要する金額は,甲5によれば1枚あたり3万9650円であり,同金額が原告の損害であると認められる。
ス 木製建具工事,襖,小(通し番号31) 3万3000円
使用された襖の枚数が2枚であることは当事者間に争いがないから,6枚分の代金は過払いとなっており,原告の損害であると認めることができる。被告甲は,費用の増減はないと主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。よって,6枚分の代金である3万3000円(甲5)が原告の損害であると認めることができる。
セ 木製建具工事,紙張障子,中寸(通し番号32) 2万8000円
使用された襖の枚数が6枚であることは当事者間に争いがないから,2枚分の代金は過払いとなっており,原告の損害であると認めることができる。被告甲は,費用の増減はないと主張するがこれを認めるに足りる証拠はない。よって,2枚分の代金である2万8000円(甲5)が損害であると認めることができる。
ソ 雑工事,物干し金物(通し番号33) 0円
甲43・1頁の写真2及び4によれば,物干し金物が設置されていることが認められるところ,これに加えて別途物干し金物の設置工事について,被告らとの間で合意したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
タ 給排水衛生設備工事,内部給水栓工事,1階(通し番号34)
8000円
甲13及び弁論の全趣旨によれば,1階洗面器からはお湯が出るものの,水が出ないことから補修が必要であると認められるところ,その補修費用は甲13及び弁論の全趣旨によれば,8000円が相当であると認められる。
チ 設備機器工事,洋式便器(通し番号35) 0円
弁論の全趣旨によれば,2階部分に設置されている洋式便器は,被告乙の指示によって設置されたものであると認めることができ,その後原告ないし被告乙と被告甲との間でこれと異なる便器を設置することで合意した事実を認めるに足りる証拠はないから,現在設置されている洋式便器は,原告との合意に基づいて被告甲が施工したものであり何ら問題はないから,原告が損害を被ったと認めることはできない。
ツ 設備機器工事,洗濯パン(通し番号36)
1万4200円
争いがない。
テ 設備機器工事,手洗い器(通し番号37) 0円
乙4,被告乙の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被告乙は,1階トイレのキャビネットについて,当初 の見積で設置することとなっていたTOTOL833より手洗い付きキャビネットを設置した方が使い勝手がよいと判断したことから,その旨戊に伝えたところ,戊がこれに同意したことから,被告甲に対して,手洗い付きキャビネットを設置することを依頼した事実が認められるところ,その後に原告から再度TOTOL833を設置するよう被告甲に対して指示した事実を認めるに足りる証拠はなく,TOTOL833と実際に設置された手洗い付きキャビネットの設置費用の差額は,乙4によればすでに清算していることが認められることからすれば,結局,被告甲は,本件請負契約上,原告の意思表示とみなされる被告 乙の指示どおりに手洗い付きキャビネットを設置したものであり,当初の見積で設置することとなっていたTOTOL833を設置しなかったことは何ら問題はなく,この点は損害であると認めることができない。
ト 給湯器接続工事(通し番号38) 2万0000円
前記タで認定したとおり,1階洗面器からはお湯が出るものの,水が出ないことから補修が必要であると認められるものの,お湯は出ていることから,給湯器接続工事全体に問題があったとまで認めることはできず,補修を要するのはその一部にとどまると認めるのが相当であり,その補修費用は弁論の全趣旨によれば,2万円が相当であると認められる。
ナ 住宅設備機器工事,床下収納,スライド式(通し番号39)
5万2800円
床下収納が設置されていることは当事者間に争いがないところ,甲45によれば,手直し日程表の中に床下収納庫移動と記載されていることが認められ,仮に補修が可能なのであれば移動する必要はないものと認められるから,かかる事実によれば,床下収納庫は完全に壊れており交換する必要があると認めるのが相当である。そして,甲5によれば,床下収納庫の見積代金は5万2800円であると認められるから,同金額が交換に要する費用であり,原告の損害であると認められる。
ニ 住宅設備機器工事,堀こたつ(通し番号40) 16万0000円
被告甲が,止め金具やコンクリートブロックの設置工事を行っていないことは当事者間に争いがなく,甲9によれ ば,堀こたつが設置されている部分の大引及び根太が切断されている事実が認められることから,かかる部分は修補工事を行う必要があると認められ,甲5の見積書,乙11及び弁論の全趣旨を総合して判断すれば,同部分の修補費用は16万円が相当であると認められる。
ヌ 住宅設備機器工事,キッチンパネル(通し番号41) 6万0125円
弁論の全趣旨によれば,1階台所にタカラ製のキッチンパネルが設置されておらず,タイル貼りで施工されていること,当初タカラ製のキッチンパネルを設置するよう見積がされていたこと,キッチンパネル及びタイル貼りに要する費用はそれぞれ13万5000円及び7万4875円であることが認められ,その差額である6万0125円は減額されるべきであり,同金 額分が清算されず過払いとなっていると認められることから,同金額分が原告の損害であると認められる。
ネ 1階裏天井裏断熱工事(通し番号43) 6万5840円争いがない。
ノ 3階サッシュ変更工事(通し番号44) 0円
前記ケで認定したとおり,ジャロジー窓を引違窓に変更されたのは,戊の依頼を受けた被告乙の指示に基づくものであり,それによって生じた費用も原告が負担すべきものである。したがって,同費用は,原告の損害であると認めることができない。
ハ 床下換気ファン取付工事(通し番号45) 19万8830円
床下換気ファンが設置されていないことは当事者間に争いがなく,乙4によれば,19万8830円が原告の損害であると認められる。
ヒ トイレ手洗器の手洗器付きキャビネットへの取付変更工事(通し番号46)
0円
前記テで認定したとおり,1階トイレの手洗器付きキャビネットは,被告乙の指示に基づいて被告甲が設置したものであること,被告乙は,同キャビネットを設置することについて,戊に話をしたことが認められるから,手洗器付きキャビネットが設置されていることは何ら問題はなく,その設置費用が損害であると認めることはできない。
フ 金属製建具追加工事,3階,階段室,アルミ立て格子・取付込(通し番号48)
1万3500円
争いがない。
ヘ 金属製建具追加工事,3階,洋室,アルミ立て格子・取付込(通し番号49) 5万4000円
争いがない。
ホ 金属製建具追加工事,クレセント錠取手取替え(通し番号50)
5万1000円
争いがない。
マ 雑工事,棚・造作,1階廊下,棚+パイプ(通し番号51) 0円
乙11及び弁論の全趣旨によれば,本件建物1階廊下の棚とパイプは被告甲代表者によって施工済みであることが認められるから,未施工であることを前提とする原告の主張は理由がない。
ミ 雑工事,棚+造作,2階居室,ハンガーパイプ(通し番号52) 0円
乙11及び弁論の全趣旨によれば,甲8の見積書に記載された2階居室のハンガーパイプは,甲5の見積書記載のハンガーパイプとは別途原告側の注文で数を増やしたものであり,被告甲代表者が,2階洋間のクローゼットの中に取り付けたことが認められるから,二重請求であることを前提とする原告の主張は理由がない。
ム 内装クロス下地変更(通し番号54) 0円
弁論の全趣旨によれば,当初ブラスターボードを使って工事を行う予定であったが,後日原告側の指示で高額のコンパネを使用したことが認められるところ,かかる追加工事によって生じた増加費用分は原告に請求しないとの合意が原告ないし被告乙と被告甲との間で合意されたとの事実を認めるに足りる証拠はないから,被告甲はかかる追加工事による増加代金を原告に当然に請求することができると認められ,原告の過払いによる損害があると認めることはできない。
メ 木工事,釘・金物・ボンド費(通し番号56) 0円
甲5によれば,釘,金物及びボンドを用いるのは木工事であることが認められるところ,修補や交換が必要なこれらの材料の調達に要する費用は,本件建物の瑕疵の修補費用に含まれていると解され,さらに釘などの代金を損害と認めることは,損害を二重に評価することになるから,かかる費用が更に別途損害となると認めることができない。
モ 塗装工事(通し番号57) 84万4000円
塗装工事に問題があり,修補が必要であることは当事者間に争いがなく,その補修費用は,甲13及び弁論の全趣旨によれば,84万4000円であると認めることができる。
ヤ 内装工事,畳敷き(通し番号58) 11万4000円
和室の畳にカビが発生していることは当事者間に争いがなく,その補修費用は甲13及び弁論の全趣旨によれば,
11万4000円であると認められる。
ユ 雑工事,防火工事,ラストップ,窓周りコーキング(通し番号59)
6万0000円
窓周りコーキング工事について補修工事が必要であることは当事者間に争いがなく,弁論の全趣旨によれば,その補修費用は6万円であると認められる。
ヨ カないしユの未施工工事による過払金ないし修補費用合計(通し番号62) 20
7万7754円
ラ カないしユの未施工工事に要する仮設費,諸経費(通し番号64)
31万1663円
甲5,甲13,証人巳の証言及び弁論の全趣旨ならびに未施工工事がいずれも本件建物の構造に関する修補費 用でないことから仮設費が必要となる工事は塗装工事を除き存在しないということができることなどを総合して判断すれば,上記未施工工事に要する仮設費,諸経費は,工事代金の1割5分が相当であると認められるから,ヨの金額に1割5分を乗じた31万1663円が損害であると認められる。
リ 設計費,監理費用 23万0000円
甲13,証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,上記未施工工事箇所の修補工事に要する設計費及び監理費は,23万0000円であると認められる。
ル ラないしルの合計額に対する消費税額(3%) 7万8583円レ 未施工工事修補等費用合計 434万5147円
(3) 修補工事及び未施工工事期間中の代替建物の賃借費用 80万円
甲9,証人巳の証言及び弁論の全趣旨によれば,本件建物の修補工事期間は,少なくとも4か月間を要すること,その間原告及びその家族が本件建物に居住することは不可能であると認められるところ,その間の原告及びその家族の代 替住居としての賃借費用として本件建物の瑕疵と相当因果関係を有する原告の損害であると認められる金額は,弁論の全趣旨によれば,80万円が相当である。
(4) 引越し費用 30万円
弁論の全趣旨によれば,原告及びその家族が,本件建物の修補工事のため,代替建物へ転居し,同工事完成後再度本件建物へ転居するための費用として,本件建物の瑕疵と相当因果関係を有する原告の損害であると認められる金額は,弁論の全趣旨によれば,30万円が相当である。
(5) 調査・鑑定費用 80万円
弁論の全趣旨によれば,本件建物の調査鑑定費用のうち,本件建物の瑕疵の存在と相当因果関係を有する原告の損害であると認められる金額は,80万円が相当である。
(6) 慰謝料 0円
本件建物における瑕疵の存在の発覚後の原告側と被告甲及び同乙との交渉経過等弁論に現れた本件に関する一切の事情を考慮しても,上記補修費用相当額等の損害賠償をもってしても償うことができない精神的損害が原告にあると認めることはできない。
(7) (3)ないし(6)のうち,被告甲及び同乙が支払義務を負う金額
上記(3)ないし(6)の損害は,本件建物の瑕疵に基づく損害であると認められるところ,その7割が過失相殺される瑕疵に基づく損害であると認めるのが相当であるから,被告甲及び同乙は,それぞれ過失相殺後の減額分についての責任を負う。
ア (3)ないし(6)の合計額 190万0000円
イ 過失相殺される瑕疵についての損害額 133万0000円
(アの7割)
ウ 過失相殺されない瑕疵についての損害額 57万0000円(アの3割)エ イについての過失相殺後の損害額 66万5000円
(イ×0.5)
オ 合計(ウ+エ) 123万5000円
(8) 弁護士費用
本件に現れた諸般の事情を考慮すれば,本件の弁護士費用としては,それぞれ本件建物の瑕疵に基づく損害として70万円,未施工工事等による損害として20万円であると認めるのが相当である。
(9) 損害額合計 1266万3237円
うち,本件建物の瑕疵に基づく損害額 811万8090円
8 争点7(相殺)について
前記前提事実(3)ないし(5)及び(7)によれば,被告甲は,原告に対し,203万7417円の請負代金残金の請求権を有しているから,同被告の本訴における相殺の意思表示により,これを前記未施工工事修補等費用合計1266万3237円から控除するのが相当である。
9 請求認容額
(1) 被告甲に対する請求認容額
原告は,前記7で認定したとおり,原告に対し,本件建物の瑕疵及び未施工工事等により,1266万3237円の損害賠償請求権を有しているところ,これと被告甲が原告に対して有している203万7417円の未払代金債権とを対当額で相殺した後の,被告甲に対する請求認容額は,1062万5820円となる。
また,遅延損害金の起算点は,瑕疵担保責任ないし債務不履行に基づく原告の損害賠償請求権はいずれも履行期の定めがない債務であるから原告の請求によって遅滞に陥ると解されるところ,本訴訟記録によれば,訴状が被告甲に送達されたのは平成10年5月28日であるから,その翌日である同月29日が遅延損害金の起算日となると解すべきであ る。
(2) 被告乙に対する請求認容額
被告乙も,監理契約の債務不履行に基づき,本件建物の瑕疵と相当因果関係を有する損害について損害賠償責任を負うところ,前記7で認定した損害額合計のうち,未施工工事等による損害を除いた損害額811万8090円について,原告に対し損害賠償義務を負う。
また,遅延損害金の起算点は,前記(1)で述べたとおり債務不履行に基づく原告の損害賠償請求権はいずれも履行期の定めがない債務であるから原告の請求によって遅滞に陥ると解されるところ,本訴訟記録によれば,訴状が被告乙に送達されたのは平成10年5月28日であるから,その翌日である同月29日が遅延損害金の起算日となると解すべきであ る。
10 結語
以上のとおり,原告の被告甲及び同乙に対する請求は,いずれも主文掲記の限度で理由があるから一部認容することとし,その余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行宣言につき,同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官 前 坂 光 雄
裁判官 寺 本 明 広
裁判官 窪 田 俊 秀