草野真樹 京都大学大学院経済学研究科准教授(E-mail: kusano@econ.kyoto-u.ac.jp)
xx価値評価の拡大と会計の
契約支援機能
xx x xx x
xxxx
要 旨
本稿の目的は、私的契約(経営者報酬契約と債務契約)に焦点を当て、xx価値評価の拡大が会計の契約支援機能(利害調整機能)に及ぼす影響について検討することである。
経営者報酬契約において、会計上の利益や株価といった経営者の業績指標に基づいて報酬が支払われる。利益を業績指標として使用する場合、xx価値評価の拡大によって、利益に期待される役割が損なわれるため、利益の業績指標としての重要性が低下するであろう。また、ストック・オプションに代表されるように、株価を業績指標とする場合、ストック・オプションのxx価値評価を推定する際に、経営者の裁量的な行動の余地を拡大させる可能性がある。さらに、xx価値評価の拡大は、経営者が自らの報酬を増やすために、エージェンシー・コストを増大させる企業行動を助長させると考えられる。
他方、債務契約において、財務制限条項等が設定され、当該条項等で会計情報が使われる。xx価値評価の拡大は、会計の質を低下させることで、市場型の債務から相対型の債務へのシフトを促すほか、その中間形態であるシンジケート・ローンの構造にも影響を与える可能性がある。また、xx価値評価の拡大は、財務制限条項等で会計数値の一部修正や契約内容の変更を必要とさせるため、会計情報の契約上の有用性を引き下げるであろう。さらに、xx価値評価の拡大によって、会計の質が低下し、エージェンシー・コストが大きくなる場合、借入企業の負債コストが増加するという経済的帰結が生じるであろう。
キーワード:xx価値、契約支援機能、経営者報酬契約、債務契約、エージェンシー・コスト、経営者の裁量的行動
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本稿は、日本銀行金融研究所からの委託研究論文であり、同研究所が 2013 年 3 月 8 日に開催したワークショップ「xx価値評価の拡大が会計の契約支援機能に与える影響について」(座長:xxxx教授)における導入論文である。本稿を作成するに当たっては、上記ワークショップ、現代会計フォーラム(代表者:xxx x教授)、ならびに科研研究会(代表者:xxxx教授)の参加者、そして日本銀行金融研究所のスタッフ(とくに、xxxx〈現北九州支店長〉およびxxxxの各氏)から有益なコメントを頂いた。記して感謝申し上げる。ただし、本稿に示されている意見は、筆者個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。また、ありうべき誤りは、すべて筆者個人に属する。
xxxx 京都大学大学院経済学研究科准教授(E-mail: xxxxxx@xxxx.xxxxx-x.xx.xx)
日本銀行金融研究所/金融研究/2014.1
無 断 で の 転 載 ・ 複 製 は ご 遠 慮 下 さ い 。 61
1.はじめに
本稿の目的は、xx価値評価の拡大が会計の契約支援機能(利害調整機能)に及ぼす影響について検討することである。とりわけ、本稿は、経営者報酬契約と債務契約に焦点を当て、米国を中心とする先行研究のサーベイを通じて、xx価値評価の拡大によって、会計情報に期待される役割を十分に果たせない可能性があることを指摘する。
近年、国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: IASB)と米国財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board: FASB)は、会計基準のコンバージェンスを推進するが、両審議会の会計基準設定の動きを観察すると、
「xx価値を多くの状況で適切な測定基準と考えている」(Xxxxx [2007] p. 11)ように思われる。IASB と FASB は、xx価値評価とオンバランス項目の拡大を通じて、資産と負債の認識と測定を重視する会計基準(案)の作成を進めることから(xx
[2011])、しばしば貸借対照表を重視する会計モデルを採用すると指摘される(AAA’s FASC [2007]、Penman [2007]、Nissim and Penman [2008]、Xxxxxx [2008]、X’Xxxxx [2009]、AAA RITF [2009]、Xxxxxxxxx [2011])。
IASB と FASB がxx価値評価の拡大を進める背後には、両審議会が意思決定支援機能(情報提供機能)を重視する考え方がある。意思決定支援機能とは、投資意思決定など「意思決定が行われる前に期待を改定する意味で有用である」(Beaver and Demski [1979] p. 43)会計情報の提供によって、投資家と経営者間の情報の非対称性を小さくし、逆選択を回避するという財務会計の機能である(xx[2000])。IASBと FASB は、概念フレームワークにおいて、投資家の意思決定に有用な会計情報を提供することを財務報告の目的とすることから、意思決定支援機能に基づいて会計基準の作成を進めている1。
意思決定支援機能に加えて、契約支援機能(利害調整機能)も財務会計の機能として期待される。後述するように、株主や債権者などの利害関係者は、自己の利益に一致した行動を経営者に動機付けるために、経営者報酬契約や債務契約といった契約を締結する。その際に、契約当事者たちが契約の履行状況を確認できなければ、かかる契約を締結してもエージェンシー・コストの削減を期待できない。そこで、観察可能な経営者の行動の結果に基づいて契約が作成されるが、そのときに監査済みの財務諸表本体の会計数値またはそれに基づいた財務比率が使用される。このように、「契約の基礎を提供〔し、その履行状況を確認〕2する意味で有用である」(Beaver and Demski [1979] p. 43)会計情報の提供も期待される。契約支援機能とは、かかる会計情報の提供によって、利害関係者と経営者間の情報の非対称性を小さくし、モラル・ハザードを抑制する財務会計の機能である(Watts and Xxxxxxxxx [1986, 1990]、
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1 IASB と XXXX は、財務報告の目的を「現在および将来の投資家、融資者、その他の債権者が報告実体に対して資源提供の意思決定を行う際に、当該実体に関する有用な財務情報を提供すること」(IASB [2010] par. OB2、FASB [2010] par. OB2)と規定する。
2〔 〕箇所は、筆者による補足(以下同様)。
Ball [1989]、xx[2000])。
xx価値評価の拡大が意思決定支援機能に及ぼす影響については、多くの先行研究で議論されてきた3。これに対して、xx価値評価の拡大が契約支援機能に及ぼす影響については、少数の先行研究を除き、十分に議論されているとは言い難い4、5。 Xxxxxxx, Ramanna, and Xxxxxxx [2010] が強調するように、取引コストや情報の非対称性など市場の摩擦(market frictions)のもとで、財務会計が経済的帰結(economic consequences)をもたらすことから、xx価値評価の拡大が市場の摩擦に及ぼす影響を分析する必要がある。こうした影響を明らかにするためには、意思決定支援機能だけではなく、契約支援機能についても分析しなければならない。そこで、本稿は、先行研究で十分に検討されていない契約支援機能に焦点を当て、xx価値評価の拡大が及ぼす影響について検討する6。
なお、契約支援機能が対象とする契約には、株主や債権者などの利害関係者と経営者が締結する経営者報酬契約や債務契約などの私的契約に加えて、配当規制や金融規制(例えば、自己資本比率規制やソルベンシー・マージン)などの公的規制も含まれる。このように、契約支援機能における契約の概念は幅広いので、本稿では、契約のうち私的契約に焦点を当て、xx価値評価の拡大が契約支援機能に及ぼす影響について検討することとする。
本稿の構成は、次のとおりである。2 節では、株主と経営者の間で締結される経営者報酬契約を取り上げて、xx価値評価の拡大が経営者報酬契約に及ぼす影響について検討する。3 節では、債権者と株主の間で締結される債務契約を取り上げて、xx価値評価の拡大が債務契約に及ぼす影響について検討する。4 節では、本稿の
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3 意思決定支援機能の観点から、近年のxx価値情報に関する先行研究については、xx[2011]、xxx
[2012a, b]、徳賀[2012]で包括的にサーベイされている。また、xx価値評価を重視する会計が投資家の意思決定に有用な会計情報を必ずしも提供するとは限らないことに関して、xx[2012b, c]で検討を行っているので、参照されたい。
4 契約支援機能に照らして、xx価値評価の実証研究の成果をサーベイした先行研究として、徳賀[2012]、x
xx[2013]、Xxxxxxxxxx [2013] などがある。なお、xx価値評価の実証研究をサーベイしたものではないが、Bru¨ggemann, Hitz, and Sellhorn [2013] は、欧州連合(EU)の国際財務報告基準(IFRS)の強制適用について、意思決定支援機能に関する実証研究は多いが、契約支援機能に関する実証研究が少ないことを指摘する。
5 会計情報の有用性に関連する価値関連性(value relevance)を巡る Holthausen and Watts [2001] と Xxxxx,
Xxxxxx, and Xxxxxxxx [2001] の論争に端的に表れているように、従来、意思決定支援機能と契約支援機能は、対立して捉えられる傾向にあった。ところが、近年、意思決定支援機能に有用な会計情報と契約支援機能に有用な会計情報は同じではないが、重なる部分が多いことが指摘される(Xxxxxxx [2010])。例えば、 Xxxxxxx, Xxxxx, and Xxxxx [2006] と Banker, Xxxxx, and Xxxxxxxxx [2009] は、経営者報酬契約において、契約支援機能に有用な利益情報と意思決定支援機能に有用な利益情報との間に正の関係があることを示した。
6 金融危機以降、xx価値評価と歴史的(償却)原価評価が併存する混合測定アプローチを強調して、会計基
準のコンバージェンスが進められているが、依然としてxx価値評価が重視されていることに変わりはない(xx[2013])。本稿では、xx価値評価の拡大が進められた場合、契約支援機能にどのような影響を及ぼすと考えられるのかについて、実証研究の結果を用いて検討する。ただし、本稿は、研究蓄積が多い米国の先行研究をサーベイの対象とするため、本稿で得られた知見がそのまま他国に当てはまるとは限らない点に注意が必要である。なぜならば、契約支援機能が対象とする契約のパターンや状況は、会計実務や会計規制、法制度、金融システムなどさまざまな制度的な環境要因の影響を受けるため(例えば、配当制限や配当規制に関して、Leuz, Deller, and Stubenrath [1998] を参照)、xx価値評価の拡大が契約支援機能に及ぼす影響に差異をもたらす可能性があるからである。
検討結果を要約したうえで、今後の検討課題について言及する。
2.xx価値評価の拡大と経営者報酬契約
所有と経営が分離するとき、通常、株主と経営者との間に利害の対立が生じる。株主は、経営者が最善の努力を行い企業価値が最大化されることを期待するが、経営者は、自己の効用最大化を目標に合理的に行動するために、経営者の行動が企業価値の最大化に結びつくとは限らない。経営者は、自己の効用を高めるために、努力を怠り、また自己の評判など非金銭的便益を享受する行動を選択するかもしれない。株主は、経営者の機会主義的行動を抑制し、自己の利益とできるだけ一致するよう経営者を動機付け、コントロールする必要がある(Xxxxxx and Meckling [1976])。
そこで、株主と経営者との間の利害をできるだけ一致させ、株主の富を増加させる行動を経営者に促すために、経営者報酬契約が締結される7。経営者報酬は経営者の業績指標に基づいて支払われるが、多くの経営者報酬契約は、株価に加えて、会計上の利益(以下「利益」)が使用される(Xxxxxx [1999, 2013]、Aggarwal [2008]、 Xxxxxxx and Jenter [2010])。また、株価を業績指標とする経営者報酬契約の代表的なものとして、ストック・オプションがある。今日、ストック・オプションの会計処理にxx価値評価が導入されている。したがって、近年のxx価値評価の拡大は、経営者報酬契約に大きく影響を与えるものと考えられる。
本節では、以下、業績指標とストック・オプションを取り上げ、xx価値評価の拡大が経営者報酬契約に与える影響についてそれぞれ検討した後に、xx価値評価の拡大が報酬契約を通じて、経営者の行動に及ぼす影響について考察する。
(1)xx価値評価の拡大と業績指標
イ.経営者報酬契約
経営者と株主は、エージェンシー問題を解決するために、経営者報酬契約を締結する。経営者と株主の間に情報の非対称性がある場合、株主は経営者の行動(努力)を直接観察できないので、経営者の努力水準に基づいて経営者報酬契約を締結することができない。しかしながら、株主は、利益や株価など経営者の行動の結果である成果(業績)を観察することはできるので、その成果に基づいて、経営者報酬契約を締結することができる。ただし、経営者の成果(業績)は、経営者の努力水準の代
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7 経営者と株主との間の利害の対立を緩和するために、経営者にインセンティブを付与し、モニタリングするメカニズムは、コーポレート・ガバナンスと総称される。経営者報酬契約をはじめ、経営者交代、株主所有構造、取締役の構成などがコントロール・メカニズムとして期待される。本稿では、コントロール・メカニズムのうち、経営者報酬契約に焦点を当てる。会計情報とコーポレート・ガバナンスに関する研究は、 Xxxxxxx and Xxxxx [2001] と Xxxxxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010] で幅広くサーベイされているので、参照されたい。
理指標のため、通常、経営者の努力水準とは関連しないノイズが含まれる。さらに、偶然の環境要因などで成果(業績)が大きな影響を受けるような状況では、経営者の努力がそのまま成果に直結せず、経営者の努力水準と無関係な成果が算定されるであろう。そこで、経営者の努力水準の代理指標として、どのような業績指標を使用するのかが重要な問題となるが、利益は会計ルールなどの影響を受け、また株価は市場環境などの影響を受けることから、どちらの業績指標が経営者の努力水準の代理指標として適切なのか一概にいうことはできない(xxx[2013]316~317 頁)。ここで、経営者報酬は、おもに基本給、ボーナス(短期インセンティブ契約)、そし て長期インセンティブ契約から構成される(Xxxxxx [1999, 2013]、Aggarwal [2008]、 Xxxxxxx and Xxxxxx [2010])。まず、基本給は、業界の動向などを参照して決定され、企業の業績とは無関係に支払われる。経営者報酬全体に占める基本給の割合は低いものの、経営者は基本給の決定プロセスに注目する。なぜならば、基本給が経営者報酬契約の主要な項目かつ固定的な項目であり、さらに他の経営者報酬の項目(例えば、ボーナス)が基本給をベースに決定されるからである(Xxxxxx [1999] pp. 2497– 2498)。次に、ボーナスとは、1 年間の業績に基づいて毎年支払われるが、通常、業績の下限と上限が定められている。すなわち、業績がある一定の水準に達しないとボーナスは支払われず、また業績がある一定の水準を超過した場合、その超過部分については支払われない(Healy [1985])。ボーナスの業績指標として、多くの場合、
純利益など利益数値が使用される(Xxxxxx [1999] pp. 2500–2502)。
最後に、長期のインセンティブ契約は、利益に基づくインセンティブ契約と株価に基づくインセンティブ契約に分かれる。利益に基づくインセンティブ契約は、3~ 5 年の業績(利益)に基づいて、ボーナスと同様に、一定の水準に達したときに報酬が支払われる(Xxxxxx [1999] p. 2516)。他方、株価に基づくインセンティブ契約として、ストック・オプションや譲渡制限付株式などが支給される。米国では、多くのストック・オプションや譲渡制限付株式は、一定期間が経過すれば、権利行使が可能であった。例えば、Xxxxxx [1999] は、調査対象 1,000 社で 1992 年度に付与されたストック・オプションのうち、2 社(2 つ)以外は、オプションの権利行使の条件が時間であることを報告した(pp. 2507–2510)。ところが、近年、ストック・オプションや譲渡制限付株式の権利行使の条件として、時間だけではなく、一定の業績を達成することが要求される(Bettis et al. [2010]、Xx Xxxxxxx and Xxxxxxxxx [2012])。その際に、業績指標として、利益、株価、またはその双方が使用される。
このように、経営者報酬は、基本給、ボーナス、利益に基づく長期インセンティブ契約、そして株価に基づく長期インセンティブ契約(ストック・オプションや譲渡制限付株式など)から構成されるが、インセンティブ、時間的視野(time horizon)、そしてリスクの特性を考慮してそれぞれの企業における経営者報酬の体系が決定される(Murphy [1999]、xx[2000]、乙政[2004]、Xxxxx [2012])。経営者報酬は、ストック・オプションなどの株式ベースの報酬とボーナスなどの非株式ベースの報酬に分けられるが、米国では、1970 年代初頭まで経営者報酬に占める株式ベースの報酬はわずかであった。ところが、1990 年代以降、株式ベースの報酬が急激に増加し
た。米国では、1990 年代以降、株式ベースの報酬としてストック・オプションが多用されたが、その 1 つの要因として、後述するストック・オプションの会計基準が挙げられる(Xxxxxx [1999, 2013]、Core, Xxxx, and Xxxxxxx [2003])。多くのストック・オプションは、付与日の市場価格が権利行使価格として設定されたので、会計上、費用が認識されなかった。2000 年以降、株価の低落を受けて、ストック・オプションの行使が困難になったために、譲渡制限付株式の使用が増え、さらに会計基準の変更に伴って、ストック・オプションに代わって譲渡制限付株式が使用されるようになった(Xxxxx and Xxx [2011]、Xxxxx, Xxxxxx, and Qiu [2012]、Skantz [2012]、 Xxxxxx [2013])。
ロ.xx価値評価の拡大による業績指標への影響
経営者報酬は、基本給を除くと、基本的には経営者の業績に基づいて支払われるが、大きく利益に基づく報酬と株価に基づく報酬とに分けられる。近年、株価に基づく報酬が経営者報酬の大部分を占めるものの、依然として、利益に基づく報酬も経営者報酬として使用されている。それでは、xx価値評価の拡大は、利益の業績指標としての役割にどのような影響を及ぼすのであろうか。以下では、業績指標の特性に基づいて検討を行った後に、先行研究を用いてxx価値の評価損益が経営者報酬契約でどのように取り扱われているのかについて確認する。
(イ)業績指標の特性
経営者報酬契約を経営者の業績に基づいて締結するときに、経営者の業績指標として、何を使用するのかが重要な問題となる。経営者報酬契約の目的が経営者に株主の富を増加させるインセンティブを与えることであれば、株価を用いて、経営者報酬契約を締結する方が直接的である。それにもかかわらず、前述のように、多くの経営者報酬契約において、株価に加えて、利益も経営者の業績指標として使用される(Xxxxxx [1999, 2013]、Aggarwal [2008]、Xxxxxxx and Jenter [2010])。
経営者報酬契約で複数の業績指標が使用される理由として、利益と株価の業績指標の役割が異なることが挙げられる。株価は、企業の将来指向的な情報を反映するために、長期的な業績指標として適するが、市場環境など経営者の努力と無関係な要因の影響を受けやすい。他方、利益は、経営者の実際の行動に基づくために、市場環境などの影響を受けにくいが、利益を計算する際に経営者の裁量が反映される。事実、経営者報酬契約を動機とした利益調整は、数多く報告されている(Xxxxxx, Xxx, and Xxxxxxx [2001]、Ronen and Xxxxx [2008]、xx[2010]、Xxxxxx and Kasznik [2010]、 Xxxxxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010])。
Ho¨lmstrom [1979] は、業績指標の追加によって、エージェント(経営者)の努力に関する情報が増える場合、複数の業績指標の使用によって契約の効率性が高まることを指摘する。Banker and Datar [1989] は、複数の業績指標を用いて報酬を決定する場合、業績指標の相対的なウエイトが感度(sensitivity)と精度(precision)の
組合せで決定されることを示した。ここで、感度とは、他の業績指標との相関を調整したうえで、エージェント(経営者)の行動(努力)の変化に対するある業績指標の変化の期待値を意味する。つまり、感度は、経営者の努力の水準によって変化する業績指標の期待値の変化によって測定される。一方、精度は、業績指標に含まれるノイズの小ささを指し、ノイズの分散の逆数によって測定される。Xxxxxxx and Xxxxxxx [1987] は、業績指標の感度と精度の組合せを考慮して経営者の現金報酬が決定されていることを明らかにした。さらに、Sloan [1993] は、経営者報酬契約における利益の役割について検証し、利益が株価に含まれる市場全体の動きに起因するノイズを取り除いた評価を行うことに役立つことを示した。
このように、株価に加えて、利益も経営者の業績指標として経営者報酬契約に使用されるのは、利益が株価に含まれるノイズを取り除いた業績評価を可能にするという役割を果たすためである(Xxxxxxx [2001]、Xxxxxxx and Xxxxx [2001]、Xxxxxxxxx,
Xxxx, and Xxxxx [2010])。
それでは、xx価値評価の拡大は、業績指標の特性(感度と精度)にどのような影響を及ぼすのであろうか。まず、xx価値評価の拡大が感度に及ぼす影響について検討する。xx価値評価は、歴史的原価評価と比較すると、将来キャッシュ・フローの認識のタイミングを早めるために、経営者の努力から期待される成果が当期の利益のなかにより多く反映されるので、その限りでは、利益の感度を高める可能性はある(Xxxxx [2012] p. 390)。ただし、複数の業績指標を使用する場合、業績指標間の相関を調整して感度が決定されるので、利益と株価を業績指標として使用する場合、利益の感度は、経営者の努力の変化が利益の変化に及ぼす直接的な影響だけではなく、利益と株価の共分散も考慮しなければならない。xx価値評価の拡大によって、利益のなかに市場全体の要因による変動も含まれるために、利益と株価の正の共分散は大きくなるであろう。そこで、利益と株価の(正の)共分散が大きくなると、利益の感度は低くなるため、業績指標の組合せにおける利益の重要性は減少する8(Xxxxx [2012] p. 419)。このように、xx価値評価の拡大は、利益の感度を高める可能性はあるが、その効果は利益と株価の相関によって弱められる。
次に、xx価値評価の拡大が精度に及ぼす影響について検討する。xx価値評価は、資産と負債の市場価格を用いてxx価値を算定するmark-to-market と評価モデルを用いてxx価値を推定する mark-to-model に分類される。xx価値を mark-to-marketで測定する場合、利益のなかに一時的利益が占める割合が大きくなることから、ノイズが大きくなり、精度は低くなるであろう。さらに、xx価値を mark-to-model で推定する場合、資産と負債の測定額に測定誤差が含まれる。測定誤差は、内在的な測定誤差と経営者誘導の測定誤差に分けられる(Xxxx, Xxxxxx, and Xx [2010] p. 1379)。内在的な測定誤差は、測定対象や測定方法の不確実性に起因する測定誤差である。測定対象の不確実性が高い場合、あるいは評価モデルの選択やインプット情報の見
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8 利益と株価の相関は株価の感度にも影響を与えるので、利益と株価の(正の)共分散が大きくなると、株価の感度も低くなる。
積もりに不確実性が高い場合、測定誤差が大きくなると考えられるので、精度は低くなるであろう。一方、経営者誘導の測定誤差は、測定主体(経営者)の意図的または非意図的なバイアスに起因する測定誤差である。経営者が自らの裁量を用いて測定誤差を大きくする可能性もあれば、それを小さくする可能性もある。ただし、 mark-to-model に関して、経営者の裁量部分を外部者が見抜くことは困難であるため
(xx[2011])、経営者は自らに有利な方向にバイアスをかけるインセンティブを有するであろう。以上の考察結果を、全体として評価すれば、xx価値評価の拡大は利益の精度を低くすると考えられる。
このように、xx価値評価の拡大は、利益の感度と精度に影響を及ぼすが、経営者報酬契約における利益の業績指標の重要性を大きくするのか明らかではない。なぜならば、xx価値評価の拡大によって、利益の精度に対するマイナスの影響が利益の感度に対するプラスの影響を上回る場合、利益の業績指標の重要性は減少するからである。このような場合、xx価値評価の拡大によって、利益が株価に含まれる市場全体の動きに起因するノイズを取り除いた評価を可能にするという、利益に期待される役割が損なわれるであろう。
(ロ)業績指標への影響
株主と経営者のエージェンシー問題を解決するために、利益が業績指標として経営者報酬契約で使用されるが、純利益の公表数値をそのまま用いて経営者報酬契約を締結しても、エージェンシー・コストの削減が期待されない場合がある。もし公表済みの会計数値を一部修正して経営者報酬契約を締結したときに、経営者報酬契約の交渉コストや再計算に伴うモニタリング・コストなどを負担しても、エージェンシー・コストの削減の効果が大きいと期待されるのであれば、公表済みの会計数値を一部修正して経営者報酬契約は締結されるであろう。先行研究は、報酬委員会が報告利益数値の性質やその状況などを考慮して、経営者報酬(現金報酬)を決定することを報告する(Dechow, Xxxxx, and Xxxxx [1994]、Xxxxx and Xxxxx [1998]、Xxxxxx [1998]、Adut, Cready, and Xxxxx [2003]、Xxxxx et al. [2012])。それでは、xx価値の評価損益は、経営者報酬契約で業績指標としてどのように取り扱われるのであろうか。
Xxxxx, Xxxxxxxxx, and Xxxxx [2011] は、米国の銀行をサンプルとして、売買目的金融商品のxx価値評価損益には現金報酬に対する感応度が観察されないことを報告した。このことは、最高経営責任者(CEO)の現金報酬を決定する際に、売買目的金融商品のxx価値評価損益が業績指標として利益のなかに含められていないことを示唆している。彼らは、CEO の現金報酬が売買目的金融商品のxx価値評価損益に対して感応度が観察されないことについて、報酬委員会が現金報酬の返却(clawback)を求められることを懸念して、売買目的金融商品のxx価値評価損益が現金報酬に含められないと解釈した9。
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9 Xxxxx, Xx, and Xxxxxxxxx [2006] は、正(負)の株式リターンを未実現利益(未実現損失)の代理指標と
また、Xxxxxxxxxx et al. [2011] は、米国の石油・ガス会社をサンプルとして、純利益に計上されたデリバティブのxx価値評価損益に対する経営者の現金報酬の感応度を検証した。検証の結果、デリバティブのxx価値評価損益は、その他の利益項目と比較すると、現金報酬の感応度が低いことが明らかとなった10。さらに、彼らは、デリバティブのxx価値評価損益の間で現金報酬に対する感応度に差異が観察されるのか分析したところ、経営者の現金報酬は、デリバティブのxx価値評価損よりもそのxx価値評価益に対する感応度が著しく高いことを示した。ただし、報酬委員会または監査委員会に会計専門家がいる企業や社外取締役の比率が大きい企業などガバナンスが強固な企業では、デリバティブのxx価値評価損益の間で現金報酬の感応度の差異が小さくなる。
さらに、Xxxx and Xxxx [2009] は、香港の投資不動産会社をサンプルとして、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards: IFRS)適用前後で投資不動産のxx価値評価損益に対する経営者の現金報酬の感応度を検証した。香港では、 IFRS 適用前後で投資不動産のxx価値評価損益の会計処理が異なっていた。xx価値評価損益は、IFRS 適用前は貸借対照表の純資産に再評価剰余金として計上されるが、IFRS 適用後は当期の損益として損益計算書で認識される。IFRS 適用前においては、投資不動産のxx価値評価益とxx価値評価損の双方に対する経営者の現金報酬の感応度は観察されなかった。ところが、IFRS 適用後では、投資不動産のxx価値評価益に対する経営者の現金報酬の感応度は観察されたが、そのxx価値評価損に対する経営者の現金報酬の感応度は観察されなかった。さらに、彼らは、創業者の持株比率が大きい同族会社や社外取締役の比率が大きい同族会社などガバナンスが強固な企業において、IFRS 適用後に投資不動産のxx価値評価益に対する経営者の現金報酬の感応度が低くなることも示した。彼らの結果は、IFRS 適用後に経営者の現金報酬を決定する際に、投資不動産のxx価値評価益のみが経営者の業績指標として利益のなかに含まれ、こうした傾向はエージェンシー問題が大きな企業で強いことを示している。
以上の先行研究の結果は、xx価値の評価損益に関して、報酬委員会が公表数値を一部修正して、経営者報酬契約を締結するが、ガバナンスに問題がある場合には、経営者が有利になるような方向でバイアスのかかった修正が行われる可能性を示し
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して使用し、CEO の現金報酬に対する負の株式リターンの感応度は正の株式リターンの感応度の 2 倍であることを示した。彼らは、この結果を、現金報酬の返却問題を懸念して、未実現利益は未実現損失よりも CEO の現金報酬に反映されないと解釈した。
また、Xxxxxxxxx, Xxxx, and Xxxx [2012] は、米国の銀行をサンプルとして、信用状態の変化に起因する負債の評価損益と経営者報酬契約の関係について分析した。分析の結果、負債の評価益は経営者報酬と負の感応度が観察されたが、負債の評価損は経営者報酬と正の感応度が観察された。このことは、負債の評価損のみならず、負債の評価益を計上したときも経営者報酬が少なくなるように公表数値が修正されていることを意味する。ただし、彼らのサンプルの多くが不良資産救済プログラム(TARP)に参加することから、上述の結果については慎重に解釈する必要がある。
10 Xxxxxxxxxx et al. [2011] は、その他の包括利益に計上されたデリバティブのxx価値評価損益に対する経
営者の現金報酬の感応度が観察されなかったことを報告する。このことは、報酬委員会がその他の包括利益の項目を経営者の業績指標として捉えていないことを意味する。
ている。それでは、xx価値評価がさらに拡大したとしても、経営者報酬契約の業績指標を決定するときに報酬委員会は利益数値を適切に修正できるのであろうか。以下では、金融資産の証券化取引を取り上げて、複雑な取引にxx価値が適用されたときに、報酬委員会が公表数値を適切に修正することができるのか否かについて検討する。
金融資産の証券化取引の会計処理として、大きく 2 つの方法がある。1 つは債権の売却として処理する売却会計であり、他の 1 つは債権を担保とした借入れとして処理する担保付借入会計がある。ほとんどすべての譲渡人(オリジネーター)は、売却会計の要件が満たされるように証券化取引を構築し、金融資産の譲渡時に売却益(gains on sale)を計上する。ここで、譲渡人が譲渡資産のリスクの大部分を保有する場合、売却益は、事実上、未実現利益として捉えられると考えられる11(xx[2004])。なぜならば、譲渡時の売却益は、契約上の遡求(contractual (explicit) recourse)と自発的な遡求(non-contractual (implicit) recourse)によって、譲渡後の損失と相殺される場合もあり、売却益の不確実性が大きいからである(xx[2012a])。
Dechow, Xxxxx, and Shakespeare [2010] は、企業が金融資産の証券化取引の売却益を用いて利益管理を行っているかどうかを検証し、売却益と売却益前利益(売却益前利益の変化)との間に負の関係があることを明らかにした。この結果は、企業が売却益を用いて利益管理を行っていることを示している。次に、この結果を踏まえて、彼女たちは、金融資産の証券化による売却益の経営者報酬(現金報酬と株式報酬)に対する感応度を検証したところ、売却益の感応度が他の利益項目の感応度と差異がないことを明らかにした。このことは、売却益が他の利益項目と同様に、経営者報酬契約の業績指標として利益のなかに含められていることを示している。
さらに、Dechow, Xxxxx, and Xxxxxxxxxxx [2010] は、報酬委員会と監査委員会の財務専門性、社外取締役の比率、現在の CEO が就任する以前から取締役会に参加していた取締役の比率などに焦点を当て、取締役のモニタリングが利益管理と経営者報酬に対する売却益の感応度に影響を与えるのかについて調査した。この結果、社外取締役の比率が 90%以上の場合のみ、利益管理を抑制することを明らかにしたが、いずれの場合も、売却益と他の利益項目の感応度に差異はみられなかった。このことは、xx価値評価が拡大され、複雑な取引にxx価値が適用される場合、ガバナンスを強化しても、売却益が利益管理の手段として用いられ、経営者報酬に含まれる可能性があることを示している。
このように、xx価値評価が拡大し、金融資産の証券化取引など複雑な取引にxx価値が適用されると、報酬委員会は経営者の裁量を見抜けず、経営者報酬契約の業績指標を決定する際に公表数値を適切に修正できない可能性がある。このことは、xx価値評価の拡大によって資産と負債のxx価値をmark-to-model で推定するよ
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11 先行研究は、概ね株式市場と債券市場が証券化取引を売却ではなく、担保付借入と捉えている結果を報告する(Xxx and Xxxxxxxxxx [2006]、Xxxx, Xxx, and Xxxx [2008]、Xxxxxxxx, Xxxxxxxx, and Xxxxxxxxxxx [2008]、 Xxxxx, Ormazabal, and Xxxxxx [2012])。このことは、市場が売却益を未実現利益と捉えていることを示している。
うな項目が増加し、報酬委員会が経営者の裁量を見抜けない場合、公表数値が適切に修正されない可能性を示唆する。xx価値の評価損益に関して公表数値が適切に修正されないと、前述した利益の精度に対するマイナスの影響が大きくなるため、利益の業績指標の重要性が小さくなる可能性がある。さらに、利益数値の一部修正ができないのであれば、報酬委員会は、他の業績指標を使用することによって、利益の業績指標としての使用を減少させる可能性もある12。xx価値評価の拡大は、経営者報酬契約において、利益情報の契約上の有用性を引き下げると考えられる。
(2)xx価値評価の拡大とストック・オプション
イ.ストック・オプションの会計処理
株価を業績指標とする経営者報酬契約の代表的なものとして、ストック・オプションがある。ここでは、ストック・オプションを支払対価とした場合、その会計処理におけるxx価値評価の拡大が、経営者の報酬契約のあり方や、経営者の行動に影響を与えているかという点について検討する。以下では、議論の前提として、まずは評価方法を中心にストック・オプションの会計処理の変遷について確認しておくこととする。
米国公認会計士協会の会計原則審議会(Accounting Principles Board: APB)は、1972年に APB 意見書 25『従業員に発行した株式の会計』を公表し、ストック・オプションの会計処理として本源的価値法を要求した。本源的価値法とは、ストック・オプションを付与日の本源的価値(市場価格と行使価格の差額)で評価し、費用計上する会計処理である。多くのストック・オプションは行使価格を付与日の市場価格とするため、このような場合、本源的価値法のもとでは、費用計上は行われない。
このような状況を疑問視した FASB は、1995 年に財務会計基準書(Statement of Financial Accounting Standards: SFAS)123『株式に基づく報酬の会計』を公表し、ストック・オプションの会計処理を規定した。SFAS123 は、原則、ストック・オプションを付与日のxx価値で評価し、それを対象勤務期間(vesting period)にわたって配分して費用を認識する会計処理(xx価値法)を要求した。ストック・オプションのxx価値は本源的価値と時間的価値から構成されるので、付与日の市場価格が行使価格と同額で本源的価値がゼロであっても、時間的価値はゼロではない。そこで、xx価値法では、対象勤務期間にわたって費用認識が行われることとなる。ところが、FASB は、SFAS123 の公開草案でxx価値法を提案したときに、産業界からの
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12 英国では、1990 年代後半以降、経営者報酬の長期インセンティブ契約として、経営者が一定の業績を達成したときに、権利行使が可能となるストック・オプションや株式が付与されてきた(Xxxxxx and Xxxxxx [2000])。その際に、会計数値(利益)、株価、またはその双方が業績指標として使用される。Voulgaris, Stathopoulos, and Walker [2012] は、英国において、英国基準と比べてxx価値を重視する IFRS が強制適用されたことによって、長期インセンティブ契約の業績指標として、会計数値の使用が減少したことを明らかにした。
猛反対や議会からの圧力を受けたために、xx価値法に基づくストック・オプションの情報を注記で開示することを条件として、本源的価値法の使用も容認した。この結果、SFAS123 は、xx価値法を原則的な処理方法として推奨するにもかかわらず、ほとんどすべての企業は、例外的な処理方法である本源的価値法を採用し、xx価値法に基づくストック・オプションを注記情報として開示した。
もっとも、2000 年代初めのエンロンやワールドコムなどの会計不正を契機として、多くの企業は、xx価値法を自発的に採用し、ストック・オプションを費用処理した。このため、2002 年以降は、自発的にxx価値法を採用する企業(自発的適用企業)と本源的価値法の採用を続ける企業が併存した。そのような状況のなかで、FASBは、2004 年に SFAS123 を改訂した SFAS123 (R)『株式に基づく支払い』を公表し、本源的価値法を廃止して、ストック・オプションのxx価値法を強制適用した。
このように、ストック・オプションの会計処理は、① APB 意見書 25 の本源的価値法、② SFAS123 のxx価値法(原則)と本源的価値法(例外)の「選択適用」、そして③ SFAS123 (R) のxx価値法という変遷を経て、xx価値評価が拡大された。ストック・オプションをxx価値で評価するためには、xxxxxxxxxx・モデルなどのオプション価格モデルを用いてxx価値を推定しなければならない。オプション価格モデルを用いてxx価値で推定する場合、株価ボラティリティ、配当利回り、オプション期間、無リスクxx率などさまざまなインプット情報が必要である。ここで、インプット情報に経営者の見積もりが反映されるために、経営者は、インプット情報を操作して、ストック・オプションのxx価値の金額を操作することができる。とりわけ、ストック・オプションの費用は、付与日のxx価値を対象勤務期間にわたって配分することで決定されるために、他の会計処理のように、会計発生高の反転(経営者が利益調整を通じて、当期の利益を増加〈減少〉させた場合、将来利益がその分だけ減少〈増加〉する現象)は生じない。このため、経営者は、自己が有利になるような方向にストック・オプションのxx価値を操作するインセンティブを強く有する。
ストック・オプションに関連して、経営者がさまざまな裁量を施してきたことは先行研究で明らかにされている(Xxxxxx and Kasznik [2010])。例えば、経営者は、ストック・オプションを保有する場合に利益管理をより積極的に行うほか、オプションの付与時や行使時を利用して利益管理を行ってきた(Xxxxx, Xxxxxxx, and Xxxxxxxx [2003, 2009]、Xxxxxx and Xxxxxxxx [2004]、Xxxxx and Xxxxxxxx [2005]、Bergstresser, Xxxxx, and Rauh [2006]、Bergstresser and Xxxxxxxxx [2006]、XxXxxxxx, Xxxxxxxxxx, and Xxxxxx [2008])。また、経営者は、自己に有利になるように、ストック・オプションの付与を行っている可能性がある(Yermack [1997])。とくに、経営者は、ストック・オプションの付与前に自発的に情報を開示して、株価の誘導を行ってきた(Xxxxxx and Kasznik [2000])。さらに、経営者は、行使価格を引き下げるために、株価が低い日を付与日とするように、ストック・オプションの付与を遡及している可能性も指摘された(Lie [2005]、Xxxxx and Lie [2007, 2009])。このように、ストック・オプションに関連して、経営者はさまざまな裁量を施してきたことが知られている。
ロ.ストック・オプションのxx価値評価
それでは、経営者は、ストック・オプションのxx価値評価の拡大に伴って、どのような裁量を施すのであろうか。以下では、ストック・オプションのxx価値評価に関する先行研究を整理して、xx価値評価の拡大が経営者報酬契約に及ぼす影響について検討する。
前述のとおり、SFAS123 は、企業が本源的価値法を採用する場合、xx価値法に従ってストック・オプションの費用額を注記で開示することを要求する。その際に、経営者は、モデルのインプット情報を操作して、ストック・オプションのxx価値を過小評価することができる(Xxxxxxx [1998])。Xxxxxx, Xxxxx, and Kasznik [2006]は、コーポレート・ガバナンスが脆弱な企業やストック・オプションを多く付与する企業が評価モデルのインプット情報(オプション期間、株価ボラティリティ、そして配当利回り)の見積もりを操作して、ストック・オプションのxx価値を過小評価することを明らかにした。また、Xxxxxx, Xxxxxxxx, and Xxxxxx [2007] は、オプションの付与額と保有額が大きい企業やアナリスト、機関投資家、そして取締役のモニタリングが脆弱な企業において、株価ボラティリティの見積もりを操作して、ストック・オプションのxx価値が過小評価されていることを示した。
一方、Hodder et al. [2006] は、企業がオプションの評価モデルのインプット情報、とりわけ株価ボラティリティを用いてxx価値を過小評価する場合もあれば、過大評価する場合もあることを明らかにした。また、彼らは、事後的にストック・オプションのxx価値を再計算し、企業が公表したxx価値との差の絶対値で正確度(accuracy)を測定し、経営者がストック・オプションのxx価値を過小(過大)評価するインセンティブを分析した。分析の結果、ストック・オプションのxx価値を過小(過大)評価する企業はxx価値の推定額の正確度が低く(高く)なる傾向にあるが、xx価値を過小評価する企業において、ストック・オプションの付与額や費用額が大きくなるとき、xx価値の推定額の正確度が低くなるが、xx価値を過大評価する企業において、事業リスクが小さくなるとき、xx価値の推定額の正確度が高くなることを示した。これらの結果は、経営者は、機会主義的な動機からストック・オプションのxx価値を過小評価する一方で、事業リスクが小さい企業の経営者は、自らの事業見通しに関する私的情報を伝達するためにxx価値を過大評価する場合もあることを示唆している。
このように、経営者は、評価モデルのインプット情報の見積もりを操作して、ストック・オプションのxx価値を推定する際に自らの裁量を反映する。これらの先行研究は、SFAS123 のもとで、ほとんどすべての企業が本源的価値法を採用し、ストック・オプションのxx価値を注記で開示する期間をサンプルとする。財務諸表本体
(認識)と注記(開示)の間で会計情報に差異が生じる可能性を踏まえると(Schipper [2007])、xx価値法を採用する経営者は、本源的価値法を採用していた時期と比べて、さらに本源的価値法を採用する企業と比べて、異なる行動をとるであろう。事実、Xxxxxxxx [2006] は、多くの企業がストック・オプションのxx価値法を自発的に採用した 2002 年をサンプル期間として、自発的適用企業が本源的価値法を採用す
る企業と比べて、評価モデルのインプット情報のなかで株価ボラティリティの見積もりを操作し、ストック・オプションのxx価値を過小評価していることを明らかにした。
Xxxxxxxxx [2011] は、企業がxx価値法を採用する際に、株価ボラティリティ、配当利回り、無リスクxx率といった評価モデルのインプット情報の見積もりを操作して、ストック・オプションのxx価値を過小評価し、費用額を小さくしていることを明らかにした。とりわけ、彼女は、SFAS123 のもとでxx価値法を自発的に適用した企業(自発的適用企業)または SFAS123 (R) のもとでxx価値法を適用した企業(強制適用企業)にかかわらず、本源的価値法を採用していたときと比較して、株価ボラティリティを用いてストック・オプションのxx価値を過小評価し、費用額を小さくすることを明らかにした。一方、xx価値の推定額の正確度は、本源的価値法を採用していたときと比較して、自発的適用企業では低くなるが、強制適用企業では差異が見られなかった。
この点に関し、Xxxxx and Xxxxx [2013] は、ストック・オプションの付与額が大きい強制適用企業が、本源的価値法を適用していたときや自発的適用企業と比べて、ストック・オプションのxx価値を過小評価することを報告すると同時に、xx価値の推定額の正確度は、強制適用企業において、本源的価値法を適用していたときや自発的適用企業と比較して、事業リスクが小さいときに高くなり、さらに事業リスクが小さくかつストック・オプションの付与額が大きいときにも高くなることを示した。
これらの先行研究の結果をみると、xx価値法を適用する企業において、経営者がインプット情報の見積もりを操作して機会主義的な動機からストック・オプションのxx価値を過小評価する傾向にある一方で、とくに強制適用企業において、事業リスクが小さい場合には、経営者が自らの事業見通しに関する私的情報を伝達するために、インプット情報の見積もりを操作する可能性を示唆している。
ストック・オプションのxx価値は、評価モデルに代入するインプット情報だけでなく、使用する評価モデルにも大きく影響を受ける。Bratten, Xxxxxxxx, and Schwab [2013] は、ストック・オプションの付与額が大きい企業や収益性が低い企業などが経営者の裁量余地の大きい格子モデル13(lattice model)を選択する傾向にあり、格子モデルを採用する企業は、当該モデルの選択前やxxxxxxxxxx・モデルを選択する企業と比較して、ストック・オプションのxx価値を過小評価することを報告する。さらに、彼らは、格子モデルの選択によって、xx価値の推定額の正確度が改善するのかどうか調べたところ、そのような証拠は得られなかった。これらの結果は、経営者が機会主義的な動機から格子モデルを選択して、xx価値を過小
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13 二項モデルに代表される格子モデルは、オプション期間を細分化して、配当や株価ボラティリティなどオプション期間にわたって異なるインプット情報を用いて、オプションの価格を決定することができる。そのため、格子モデルは、xxxxxxxxxx・モデルと比較して、オプション期間にわたって変化するオプションの権利行使パターンやその他のインプット情報の変動を柔軟にオプション価格に反映することができる(Xxxxxxx, Xxxxxxxx, and Schwab [2013])。
評価することを示している。
さらに、企業は、xx価値法の強制適用に先立ち、ストック・オプションの条件も変更している14。SFAS123 (R) は、たとえ SFAS123 (R) 適用前に付与されていても、その適用後に権利確定日が到来するストック・オプションについて、適用日から権利確定日までの期間に配分される費用を認識することを要求する。前述したように、xx価値法は、付与日のxx価値を対象勤務期間にわたって配分することで費用を認識する。そこで、xx価値法の強制適用の際に、すでに付与したストック・オプションの費用計上を回避するためには、SFAS123 (R) 適用前に権利確定日が到来するように対象勤務期間を短縮すればよい。事実、Xxxxxxxxx, Xxxxxxxx, and Xxxxxxxxxxxxx [2009] は、一部の企業が SFAS123 (R) 適用前に対象勤務期間を短縮したことを報告した。とりわけ、SFAS123 (R) の適用に伴って、ストック・オプションの費用認識額が大きくなる企業や経営者上位 5 名のストック・オプションの付与額が大きい企業は対象勤務期間を短縮する傾向にあるが、大量保有者(block holders)や公的年金ファンドによる株式の保有割合が大きな企業は対象勤務期間を短縮しない傾向にあることを明らかにした。Xxxxxx, Xxxxxxxx, and Xxx [2008] も同様に、ストック・オプションの費用認識額が大きくなる企業は、SFAS123 (R) 適用前に対象勤務期間を短縮することを示した。これらの結果は、ストック・オプションのxx価値法の強制適用に伴って、経営者が機会主義的に行動することを示している。
以上のように、ストック・オプションのxx価値評価は、評価モデルの選択とインプット情報の見積もりを通じて、経営者の裁量の余地を拡大する。現行のストック・オプションの会計処理では、ストック・オプションの付与日のxx価値を勤務対象期間にわたって配分することで費用の金額が決定されるために、会計発生高の反転は生じない。そこで、経営者は、評価モデルの選択やインプット情報の見積もり等を操作して、ストック・オプションのxx価値を過小評価するインセンティブを強く有する。経営者が自らの事業見通しに関する私的情報を伝達するために、xx価値の推定額の正確度が高くなること示す先行研究もあるが、多くの先行研究は、将来事象の見積もりの難しxx経営者の機会主義的な行動によって、xx価値の推定額の正確度は低くなることを報告する。このことは、ストック・オプションのxx価値評価は、経営者の機会主義的行動を助長していることを示唆している。
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14 企業は、ストック・オプションのxx価値法を適用する際に、ストック・オプションの条件を変更するだけではなく、ストック・オプション取引自体の見直しも行っている。Xxxxxx, Xxxxx, and Tuna [2007] は、自発的適用企業がストック・オプションの使用を減少し、譲渡制限付株式の使用を増加していることを明らかにした。また、Xxxxx and Xxx [2011] と Xxxxx, Xxxxxx, and Qiu [2012] は、SFAS123 (R) 公表後に、ストック・オプションに代えて、譲渡制限付株式や他の長期インセンティブ契約が使用される傾向にあることを報告する。とくに、Xxxxx, Xxxxxx, and Qiu [2012] は、SFAS123 (R) の適用で費用額への影響が大きい企業がストック・オプションの使用を減らしていることを明らかにしている。さらに、Skantz [2012] は、ストック・オプションのxx価値法適用後にストック・オプションの使用が減少し、譲渡制限付株式の使用が増加したことを示す。とりわけ、xx価値法適用前にストック・オプションの付与が大きい企業ほど、xx価値法適用後にストック・オプションの使用を減らし、譲渡制限付株式の使用を多くすることを明らかにした。これらの結果は、企業がxx価値法を適用する際に、経営者報酬契約の体系を見直していることを示している。
(3)xx価値評価の拡大と報酬契約を通じた経営者の行動への影響
会計情報は、経営者報酬契約の業績指標として使用されるだけではなく、経営者報酬契約を通じて、経営者の行動にも影響を与える。以下では、xx価値評価の拡大と経営者の行動の関係について検討する。
近年、xx価値評価は、金融商品のみならず、非金融商品へと適用対象が拡大している。その代表的な例として、買入のれんが挙げられる。米国では、企業結合の会計処理について持分プーリング法を廃止し、パーチェス法に一本化することについて長らく議論が行われてきた。持分プーリング法を選択する場合、買入のれんは計上されないが、パーチェス法を選択する場合、買入のれんは計上される。買入のれんを償却する場合、純利益の金額は小さくなるので、他の条件が同じであれば、企業結合後の純利益は、持分プーリング法よりもパーチェス法を選択した方が小さくなる。そこで、利益を業績指標として使用する経営者報酬契約を締結する企業は、持分プーリング法を選択する傾向にある(Aboody, Kasnik, and Xxxxxxxx [2000])。
FASB は、2001 年に SFAS141『企業結合』と SFAS142『のれんとその他の無形資産』を公表し、企業結合時の会計処理をパーチェス法のみに限定する一方で、買入のれんを非償却・減損処理する会計処理を採用した。つまり、買入のれんは規則的に償却されるのではなく、買入のれんのxx価値が毎期推定され、それが帳簿価額を下回るときに減損処理が行われる。このように、SFAS142 は、買入のれんの処理方法を配分から測定へと変更したために、買入のれんにxx価値評価を導入したと考えられる。それでは、買入のれんのxx価値評価は、経営者報酬契約を通じて、経営者の行動にどのような影響を及ぼすのであろうか。
有形固定資産や買入のれんを除く無形資産は償却の対象となるが、買入のれんは非償却のため、買入のれんが減損されない限り、買収額のうち買入のれんに配分される金額の割合を大きくすることにより、利益を相対的に大きく計上することができる。このことは、経営者が現金報酬を増やすために、企業買収時に、有形固定資産や買入のれんを除く無形資産の額をより少なく、逆に買収額のより多くを買入のれんに配分するインセンティブを有していることを示している15。Xxxxxx, Xxxxx, and Xxxxx [2013] は、SFAS142 適用後に買収を行った米国の上場企業をサンプルとして、買入のれんへの配分金額が、その他の買入のれんの決定要因をコントロールしても
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15 買収額の多くを買入のれんに配分することによって、買入のれんの減損の可能性を高めるが、経営者の現金報酬(ボーナス)は、ストック・オプションなどの株式ベースの報酬と比べると、大きな影響を受けないと考えられる。まず、現金報酬への影響をみると、SFAS142 の適用後、経営者は買入のれんの減損を機会主義的に遅らせて認識することができる(Xxxxxx and Xxxxx [2006]、Xx and Xxxxx [2012]、Xxxxxxx and Watts [2012])ほか、買入のれんの減損など一時的な損失は、現金報酬を決定するときの業績指標に含まれない傾向にある(Dechow, Huson, and Xxxxx [1994]、Xxxxx and Xxxxx [1998]、Adut, Cready, and Xxxxx [2003])ため、大きな影響はないと考えられる。一方、株式ベースの報酬への影響をみると、買入のれんの減損計上時に負の市場の反応が生じることを示している(Bens, Heltzer, and Xxxxx [2011]、Xx et al. [2011])。このように、買入のれんの減損は株式ベースの報酬と比較して現金報酬に大きな影響を与えないことから、経営者は、現金報酬を増やすために、買入のれんの配分額を大きく計上する可能性がある。
なお、経営者報酬に占めるボーナスの割合に比例して大きくなることを示した。また、IASB は、2004 年にIFRS3『企業結合』を公表し、SFAS142 と同様に、買入のれんの非償却・減損処理を導入したが、Detzen and Zu¨lch [2012] は、IFRS3 適用後の欧州企業においても、CEO の現金報酬と比例し買入のれんの金額が増加するとの結果を示した。
さらに、先行研究は、買収後に買収企業の経営者報酬が増加することを報告する
(Xxxxxxxxx and Xxxxxx [2004]、Xxxxxxx and Xxxxxxxxxx [2006]、Xxxxxxx and Xx [2007]、 Xxxxxx et al. [2012])。これらの結果は、経営者が自らの(現金)報酬を増加させるために、多額の買収プレミアムを支払ってでも買収を実行する可能性を示唆する16。その際に、買入のれんの非償却・減損処理は、買収企業が被買収企業に支払う買収プレミアムの金額にも影響を及ぼす可能性がある。なぜならば、多額の買収プレミアムを支払って買収を実行したとしても、経営者が買収額の多くを買入のれんに配分すれば、買入のれんの非償却・減損処理のもとでは、買入のれんの減損が生じない限り、利益を相対的に大きく計上することができるからである。本来、買収プレミアムの金額は、取得する資産と負債から期待される将来キャッシュ・フローの金額、時期、不確実性に変わりがなければ、できるだけ小さい方が望ましい。なぜならば、買収プレミアムが小さいほど、無駄な支払いや流出する企業財産が少なくなり、企業価値を毀損する危険性が小さくなるからである17(xxx[2012c])。例えば、自信過剰な経営者は、多額の買収プレミアムを支払い、企業価値を毀損する買収を行うことが指摘されている18(Roll [1986]、Xxxxxxxxxx and Xxxx [2008]、Xxxx, Xxx, and Taffler [2010])。また、株価が過大評価された企業の経営者は、買収時に多くの金額を支払うが、買収後に多額の買入のれんの減損損失を認識し、企業価値を毀損する無分別な買収を行ってきた(Gu and Lev [2011])。
Xxxxxx and Loyeung [2011] は、オーストラリア企業をサンプルとして、IFRS3 の
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16 Xxxxx, Xxxxxxxx-Xxxxx, and Raman [2001] は、買収前年度に株式報酬を多く付与する企業は買収プレミアムを小さくする傾向にあることを報告する。他方、Xxx and Vijh [2007] は、多くの株式とストック・オプションを保有する経営者は多額の買収プレミアムを支払う傾向にあることを報告する。Datta, Xxxxxxxx-Xxxxx, and Xxxxx [2001] と Xxx and Vijh [2007] の間で結果が異なる 1 つの要因として、Xxxxx, Xxxxxxxx-Xxxxx, and Xxxxx [2001] は、買収前年度に付与した上級経営者 5 人の株式報酬額と買収プレミアムの関係を検証したのに対して、Xxx and Vijh [2007] は、CEO が保有する株式とストック・オプションの金額と買収プレミアムの関係を検証したことが挙げられる。
17 多額の買収プレミアムの支払いによって企業価値を毀損する危険性は、経営者と株主間の利害対立を大き
くするだけではなく、後述する株主(あるいはそのエージェントである経営者)と債権者間の利害対立も大きくする。
18 自信過剰の経営者は、将来業績を楽観的に見積もるために、xx価値を過大に計上すると考えられる。
Xxxxx and Xxxxxxxx [2013] は、自信過剰の経営者と保守主義の関係を検証したところ、両者の間に負の関係があることを報告する。さらに、取締役の構成などガバナンスの強弱は、自信過剰の経営者と保守主義の関係に影響を与えないことが明らかとなった。彼らの結果は、自信過剰の経営者が保守的でない会計方針を採用した場合、ガバナンスを強化しても、それを抑制できないことを示している。
さらに、自信過剰の経営者は、将来業績に関する見通しや利益調整が見抜かれないという楽観的なバイアスによって非意図的または意図的に利益を過大計上し、その結果、財務諸表を虚偽記載することとなるのである。Xxxxxxx and Xxxxxxx [2012] は、自信過剰の経営者が米国証券取引委員会(SEC)の会計・監査執行通牒(AAER)の対象となる傾向が高くなることを示した。
買入のれんの非償却・減損処理が買収プレミアムに及ぼす影響について分析した。 IFRS 導入前のオーストラリアでは、パーチェス法が強制され、買入のれんは 20 年以内に償却することが要求されていた。2005 年の IFRS 適用に伴って、買入のれんは非償却・減損処理されることとなった。分析の結果、買収企業は、IFRS 適用前は被買収企業にかかるのれんの金額が大きくなるときは買収プレミアムを小さくするが、経営者が利益を業績指標とする経営者報酬契約を締結している場合に限り、 IFRS 適用後には、このような関係は観察されなくなったことが示された。オーストラリアにおいても、買収後に買収企業の経営者報酬が増えることから(Xxxxxx et al. [2012])、上記の結果は、買入のれんの非償却・減損処理の導入に伴って、経営者が現金報酬を増やすために、多額の買収プレミアムを支払ってでも買収を実行する可能性を示唆する。
以上のように、xx価値評価の拡大は、経営者報酬契約と関連して、経営者の行動に大きく影響を及ぼす。買入のれんのxx価値評価によって、経営者は、経営者報酬を増やすために、多くの買収額を買入のれんに配分するだけではなく、多額の買収プレミアムを支払う可能性がある。経営者報酬契約は、経営者と株主の利害をできるだけ一致させ、エージェンシー・コストを削減するために締結されるが、xx価値評価の拡大は、経営者が自らの報酬を増やすために、多額の買収プレミアムを支払うなどエージェンシー・コストを増大させる行動を助長させている可能性がある。
3.xx価値評価の拡大と債務契約
エージェンシー問題は、株主と経営者との間だけでなく、株主(あるいはそのエージェントである経営者)と債権者との間にも発生する19(Xxxxxx and Xxxxxxxx [1976]、 Xxxxx [1977])。企業価値が負債額面を超過した場合、当該超過部分は株主のみに帰属する。その一方で、企業価値が負債額面を下回った場合、株主と債権者はともに有限責任であり、おのおのの下方リスクは投資額を限度とするが、優先権は債権者にある。このように、株主と債権者のペイオフは異なるために、企業価値が負債額面の近傍にあるとき、株主と債権者の間で鋭く利害が対立する(xxx[2013]306~ 307 頁)。
Xxxxx and Xxxxxx [1979] は、株主(経営者)と債権者間のエージェンシー問題として、次の 4 つを列挙する。株主と債権者間の利害の対立として、まず、配当の支払いがある。債権者は、株主への配当が増加すれば、債権の返済の原資が減少することから、配当の増加を懸念する。次に、追加借入が挙げられる。将来に追加借入が行われ、例えば配当の支払いに充当された場合、既存債権の回収可能性は低下する。また、企業がリスクの低いプロジェクトからリスクの高いプロジェクトに変更
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19 本節では、株主と経営者間の利害は一致することを前提として、議論を進めることとする。
する資産代替が行われた場合、株式価値は増加するが、既存の負債価値は減少する。さらに、ある投資から生じる価値の多くが債権者に帰属する場合、この投資の正味現在価値が正であったとしても、企業は当該投資を差し控えるという過少投資が生じる。なぜならば、当該投資から期待される便益の多くは債権者に帰属するが、投資のすべてのコストを株主が負担するからである(Xxxxx [1977])。このような資産代替などの経営者行動を通じて、債権者から株主へ富が移転するために、株主と債権者の間で利害が対立するのである。
ここで、経営者が債権者と債務契約を締結するときに、エージェンシー・コストを削減するために制限条項(covenants)を設定する。制限条項には、借入企業に担保提供を制限することなど会計数値を使用しない非会計ベースの制限条項に加え、負債比率やインタレスト・カバレッジ・レシオなど財務諸表上の会計数値を使用する制限条項(財務制限条項)もあり、会計数値が経営者行動に対する一定の歯止めやモニタリングの手段として活用される(Watts and Xxxxxxxxx [1986])。そこで、近年のxx価値評価の拡大は、債務契約に大きく影響を与えるものと考えられる。
本節では、以下、xx価値評価の拡大が債務契約形態に及ぼす影響と財務制限条項など契約条項に及ぼす影響について、それぞれ検討した後に、xx価値評価の拡大が負債コストに与える影響について考察する。
(1)xx価値評価の拡大と債務契約形態
イ.債務契約形態
企業が負債で資金調達を行う場合、債務契約は、大きく 2 つに分類される。1 つは、公募社債に代表される市場型の債務契約(public loan)であり、他の 1 つは銀行借入に代表される相対型の債務契約(private loan)である。前者は、不特定多数から資金を調達する方法であるのに対して、後者は、特定少数から資金を調達する方法である。
ここで、市場型の債務契約と相対型の債務契約との間には次のような差異がみられる。まず、市場型の債務契約の場合、債権者は、通常、企業の私的情報を入手することが難しいが、相対型の債務契約の場合、企業の私的情報を入手することが比較的容易である。そのため、市場型の債務契約では、企業の情報公開が要求されるが、相対型の債務契約では、通常、その限りではない(Xxxxxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010] p. 214)。
こうした私的情報の入手可能性や後述する再交渉コスト等の違いから、制限条項に関して、相対型の債務契約と市場型の債務契約で次のような違いがある(Nikolaev [2010] p. 53)。相対型の債務契約で設定される制限条項は、市場型の債務契約のそれと比べて、より厳格な範囲で会計数値に基づく財務比率を維持することを企業に要求することが多い。他方、市場型の債務契約は、合併・買収や追加借入などを制約
する制限条項(negative covenants)を幅広く使用するが、財務比率の維持をあまり要求しない。また、市場型の債務契約の場合、制限条項に抵触したとしても、債権者と債務者の再交渉が難しいために、近年、財務制限条項の使用が少なくなっている20(Xxxxxxx and Xxxxxxx [2004])。
このように、市場型の債務契約と相対型の債務契約は異なっており、借入企業は、効率的に資金調達を行うために、エージェンシー・コストの大きさなどを考慮して債務契約形態を選択するものと考えられる。相対型の債務契約では、市場型の債務契約と比べると、債権者は借入企業の私的情報を容易に入手でき、財務制限条項を用いた借入企業のモニタリングを容易にし、財務制限条項に抵触したとしても債務契約の再交渉コストも小さいと考えられる。そこで、信用力が高い企業は、市場型の債務契約を選択するが、信用力が低い企業は、相対型の債務契約を選択する傾向にある21(Xxxxx and Xxxxx [2003]、Xxxxxxx and Xxxxxxx [2004])。
さらに、近年、シンジケート・ローンが企業の重要な資金調達手段となっている。シンジケート・xxxとは、複数の金融機関等が共同で企業に資金を提供する融資のことである。そこでは、1 社(または複数)の金融機関がアレンジャーとなり、複数の参加金融機関等とシンジケート団を構成し、単一の契約内容(元本、xx率、期間、制限条項等)に基づいて、企業に融資が行われる。ここで、借入企業と貸出契約の内容を交渉し、貸出を実施し、融資後も債権管理や債権回収を担当し、契約の履行状況をモニタリングするのはエージェント(アレンジャー)の役割である22。一方、参加金融機関等は、アレンジャーを通じて、融資の一部を引き受ける。このように、アレンジャーが借入企業と相対型の関係を持つ一方で、参加金融機関等は借入企業と市場型の関係を持つことから、シンジケート・ローンは、市場型の債務の特徴を兼ね備えた相対型の債務と捉えることができる。
シンジケート・xxxは、「市場型の債務と相対型の債務のハイブリッド」(Xxxxxx and Xxxxxxxxxx [2000] p. 404)構造を有することから、幅広い企業のニーズに対応
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20 米国の 1939 年信託証書法(Trust Indenture Act of 1939)において、特定の制限条項の変更は、債権保有者の少なくとも 2/3 以上の承認が必要とされている(Xxxxx and Xxxxxx [1979] p. 151)。1970 年代半ばに米国で発行された市場型の債務の約 91%に追加借入制限条項、そして 23%に配当制限条項が設定されていた
(Xxxxx and Xxxxxx [1979])。ところが、1989~93 年に米国で発行された市場型の債務の 22%に追加借入制限条項、そして 25%に配当制限条項が付され、さらに 1999~2000 年に発行された市場型の債務では、追加借入制限条項と配当制限条項の使用は 9%だけであった(Xxxxxx and Xxxxxxxx [2004])。
このように、市場型の債務契約で財務制限条項の使用は減少しているが、借入企業の状況によって、財務制限条項の使用状況は異なるであろう。例えば、投資適格債と投資不適格債を比較した場合、投資適格債は 5.0~6.2%の配当制限条項を設定するが、投資不適格債は 39.0~44.0%の配当制限条項を設定する(Xxxxx, Xxxxx, and Warga [2010] p. 1129, Table 2)。また、近年、日本でも市場型の債務契約、とりわけ公募型の普通社債において、財務制限条項の使用は少ないが、格付けが低い企業ほど財務制限条項を設定する傾向にある(xx[2004])。
21 他方、市場型の債務契約の相対的なメリットとしては、転売が容易であるなど流動性が相対的に高いこと、
債権者が債務者にかかる信用リスクを分散しやすいことなどが挙げられる。
22 本来、シンジケート・ローン調印後に契約の履行状況をモニタリングするのはエージェントであるが、多くのシンジケート・ローンにおいて、アレンジャーがエージェントの役割を担っている(大垣[2010])。本稿では、以下、アレンジャーとエージェントを区別せず、議論を展開する。
することが可能である。その一方で、参加金融機関等がかかわるために、情報の非対称性は、借入企業と金融機関等(アレンジャーと参加金融機関等)との間だけではなく、アレンジャーと参加金融機関等との間にも存在する。アレンジャーは、参加金融機関等よりも借入企業の状況に精通しているために、参加金融機関等が知らない借入企業に関する私的情報を有している。さらに、アレンジャーは、参加金融機関等に代わって契約の履行状況をモニタリングするが、当該業務を怠る可能性もある。そこで、エージェンシー問題に対処するために、アレンジャーは、参加金融機関等に対して借入企業の情報開示を行ったうえで財務制限条項を用いて契約の履行状況を確認するだけではなく、通常、参加金融機関等よりも多くの融資額を保有する。借入企業と金融機関との間の情報の非対称性が大きい場合、アレンジャーが保有する融資額の割合は大きくなる傾向にある(Xxxxxx and Xxxxxxxxxx [2000]、Xxx and Xxxxxxxxxx [2004]、Xxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2005]、Sufi [2007])。
ロ.xx価値評価の拡大による債務契約形態への影響
xx価値評価の拡大が債務契約の形態に与える影響を直接分析した先行研究は存在しない。そこで、以下では、会計の質(accounting quality)または利益の質(earnings quality)が債務契約の形態に与える影響を分析した先行研究を手がかりとして、xx価値評価の拡大と債務契約の形態との関係について検討する23。
Bharath, Xxxxxx, and Xxxxxx [2008] は、借入企業の会計の質が債務契約の選択(市場型の債務と相対型の債務の選択)に与える影響について調査した24。彼らは、会計の質が低い借入企業は、相対型の債務契約を選択する傾向にあることを明らかにした。また、Xxxxxxxx, Xxxxxxx, and Pereira [2011] は、Xxxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxxx [2008] と同様に異常発生高を会計の質と捉え、会計の質が債務契約の選択に影響を与えることを明らかにした。Xxxxx, Xxxx, and Xx [2012] は、前述の 2 つの先行研究と異なり、利益の予測可能性を会計の質と捉え、利益の予測可能性が高い企業ほど市場型の債務を選択する傾向にあることを明らかにした25。これらの結果は、市場
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23 会計の質は、利益の質と同様に多義的に使用されており、利益の質と同義に使用される場合もあれば、異なって使用される場合もある。本稿では、会計の質と利益の質の用語を区別せずに相互補完的に使用する。なお、本稿で取り上げる会計の質または利益の質は、先行研究で使用されるそれらの概念の一部である。利益の質については、Xxxxxxx and Xxxxxx [2009]、Xxxxxx, Ge, and Xxxxxxx [2010]、Xxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxxxxx [2013] などで包括的に論じられているので、参照されたい。
24 Bharath, Sunder, and Xxxxxx [2008] は、会計の質を符号無しの異常営業発生高(unsigned abnormal operating
accrual)の大きさで定義する。異常発生高(裁量的発生高)は、発生高から会計発生高モデルで算定した正常発生高(非裁量的発生高)を控除して算定される。異常発生高は、会計ルールの適用や利益調整によって引き起こされる歪みを捉えるため、異常発生高が大きくなれば、利益の質が低くなると考えられる
(Xxxxxx, Ge, and Xxxxxxx [2010])。Bharath, Sunder, and Sunder [2008] は、① Dechow and Dichev [2002] に基づく異常営業発生高、② Xxxx, Xxxxx, and Xxxx [1998] に基づく異常営業発生高、③ Dechow, Sloan, and Xxxxxxx [1995] に基づく異常営業発生高、そして④上記 3 つの異常営業発生高を用いて主成分分析で算定した異常営業発生高を使用して、会計の質を測定した。
25 Xxxxx, Xxxx, and Xx [2012] は、アナリストの利益予想と利益の時系列を用いて、利益の予測可能性を測定
した。ただし、会計の質と債務契約の選択の関係については、アナリストの利益予想(アナリストの利益予想の誤差とその分散)のみの結果しか報告されていない(Xxxxx, Xxxx, and Xx [2012] p. 1088, Table 5)。
型の債務契約と比較したときに相対型の債務契約において、金融機関が借入企業の私的情報を容易に入手でき、エージェンシー・コストを削減することができることと整合する。このように、会計の質は、借入企業の債務契約の選択に影響を与えるのである26。
さらに、先行研究は、会計の質がシンジケート・ローンの構造に影響を及ぼすことを明らかにしている27 。Xxxx, Xxxxxxx, and Xxxxxxx [2008] は、会計情報の債務契約の価値(debt-contracting value)がシンジケート・ローンのアレンジャーが保有する融資額に与える影響について分析した。彼らは、債務契約の価値を会計情報が企業の信用状態の悪化を適時的に示す能力と位置付け、その代理指標の 1 つに Basu [1997]による損失の適時性を使用した。債務契約の価値が大きいほど、債権者にとって会計の質が高いと考えられる。分析の結果、債務契約の価値が高い企業は、アレンジャーが保有する融資額が小さくなることが明らかとなった。アレンジャーは、参加金融機関等に代わって契約の履行状況をモニタリングする役割を担っているので、アレンジャーの債権保有は、モニタリング実施に対するアレンジャーへの規律付けとして機能する。上述の結果は、借入企業の会計の質の高さがアレンジャーと参加金融機関等との間の情報の非対称性を小さくすることを示している。
また、Xxxxxx, Xx, and Xxx [2008] は、財務諸表の修正再表示(restatement)がシンジケート・ローンの構造に影響を与えることを示した。財務諸表の修正再表示は、通常、過去の不正行為や虚偽記載を契機として行われるために、借入企業と貸付金融機関との間で情報の非対称性を大きくするであろう。ここで、借入企業と貸付金融機関との間で情報の非対称性が大きい場合、交渉や集約的な意思決定を容易に行うことができるようシンジケート・ローンへの参加金融機関は少なくなる(Xxx and Xxxxxxxxxx [2004]、Sufi [2007])。分析の結果、彼らは、財務諸表の修正再表示後、シンジケート・ローンへの参加金融機関数が減少することを明らかにした。
このように、借入企業の会計の質は、借入企業の債務契約の選択とシンジケート・ローンの構造に影響を与える。それでは、xx価値評価の拡大は、会計の質にどの
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26 会計の質が企業の債務契約の選択に影響を与えるのかどうかについて分析した先行研究として、Xxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010] などもある。Xxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010] は、会計の質が企業の資産購入またはリースの選択に影響を与えるのか否かを分析した。彼女たちは、Xxxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxxx [2008] と同様に、Dechow, Xxxxx, and Xxxxxxx [1995]、Dechow and Xxxxxx [2002]、そして Xxxx, Xxxxx, and Xxxx [1998]による異常営業発生高による主成分分析で算定した異常営業発生高を会計の質と定義する。検証の結果、会計の質が低い企業は、資産を購入するより、オペレーティング・リース取引を選択する傾向にあることを明らかにした。
27 Xxx and Song [2011] は、監査の質がシンジケート・ローンの構造に影響を与えることを明らかにした。つ
まり、借入企業が大手監査法人(Big X)から監査を受けている場合、大手監査法人以外から監査を受けている場合と比較して、シンジケート団に多くの金融機関が参加し、アレンジャーの債権の保有額が減少することを示している。また、Xxxxxxx et al. [2012] は、借入企業のコーポレート・ガバナンスがシンジケート・xxxの構造に影響を与えることを報告する。すなわち、社外取締役の比率が大きくなるほど、そして監査委員会で社外取締役の比率が大きくなるほど、シンジケート団に多くの金融機関が参加することを示した。これらの結果は、監査の質の増加やコーポレート・ガバナンスの強化が借入企業と貸付金融機関との間の情報の非対称性を小さくすること、さらに監査の質の増加がアレンジャーと参加金融機関等との間の情報の非対称性を小さくすることを示唆する。
ような影響を与えるのであろうか。以下では、Dechow, Ge, and Xxxxxxx [2010] による利益の質の分類を参照して、利益の質を利益の属性と利益の虚偽記載に分けて、xx価値評価の拡大が債務契約の形態に与える影響について検討する。
まず、異常発生高、利益の予測可能性、そして損失の適時性といった利益の属性について考察する。資産と負債のxx価値を mark-to-model で測定する場合、資産と負債の測定額に測定誤差が含まれる。測定誤差は、内在的な測定誤差と経営者誘導の測定誤差に分けられる(Xxxx, Xxxxxx, and Xx [2010] p. 1379)。内在的な測定誤差は、測定対象や測定方法の不確実性に起因する測定誤差である。測定対象の不確実性が高い場合、あるいは評価モデルの選択やインプット情報の見積もりに不確実性が高い場合、異常発生高は大きく、利益の予測可能性は低くなるであろう。一方、経営者誘導の測定誤差は、測定主体(経営者)の意図的または非意図的なバイアスに起因する測定誤差である。経営者は、異常発生高を大きくするよう操作する可能性がある一方で、それを小さくするよう操作する可能性もある。同様に、経営者は、利益の予測可能性を低くするよう操作する可能性がある一方で、それを高くするよう操作する可能性がある。前述したストック・オプションのxx価値評価では、経営者は、評価モデルの選択やインプット情報の見積もりを操作して、概ね機会主義的に行動していた。mark-to-model でxx価値を推定する場合、適正なxx価値の評価額を把握することが難しいので、経営者の裁量部分を外部者が見抜くことは困難である(xx[2011])。また、経営者は、損失を回避するために利益調整を行うことから(Xxxxxxxxxxx and Xxxxxx [1997]、Xxxxxxxxxxxx [2006]、xx[2010])、経営者誘導の測定誤差によって、損失の適時性は小さくなるであろう。例えば、経営者は買入のれんの減損を機会主義的に遅らせて認識している28(Xxxxxx and Xxxxx [2006]、 Xx and Xxxxx [2012]、Xxxxxxx and Watts [2012])。このように、xx価値評価の拡大は、異常発生高を大きくし、利益の予測可能性を低くし、そして損失の適時性を小さくするために、会計の質を引き下げると考えられる。
次に、財務諸表の修正再表示などの利益の虚偽記載について考察する。Xxxxxxx and Yohn [2010] は、修正再表示の発生原因を調査し、①企業内部の誤謬、②経営者の意図的な操作、③取引の複雑性、④会計基準の誤用を指摘する。このうち会計基準の誤用を原因とする修正再表示は、2003~06 年で行われた修正再表示のうち企業内部の誤謬に続いて、2 番目に多かった(pp. 47–48, Table 1)。また、彼らは、会計基準の誤用を原因とする修正再表示について、①会計基準の不明確さと会計基準の増加、②会計基準適用時の判断、③ルール適用時の複雑さに分類して調査したところ、その割合はおのおの、58%、37%、5%であった(pp. 50–51, Table 2)。Xxxxxxx and Yohn [2010] は、xx価値の影響について直接言及していないが、彼らの結果は、xx価値評価の拡大が修正再表示の原因となりうることを示唆する。上述したように、資産と負債のxx価値を mark-to-model で推定する場合、内在的な測定誤差が
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28 他方、Xxxxx [2009] は、経営者が買入のれんの減損を機会主義的に遅らせて認識するという明確な証拠を得られなかった。
含まれる。測定対象の不確実性が高い場合、あるいは評価モデルの選択やインプット情報の見積もりに不確実性が高い場合には、xx価値を推定する際に、多くの経営者の判断を必要とする。さらに、mark-to-model でxx価値を推定する場合、経営者誘導の測定誤差も含まれるが、経営者は、評価モデルの選択やインプット情報の見積もりを操作して、xx価値の評価額を操作することができる。このように、xx価値評価の拡大は、修正再表示の発生可能性を高める可能性があり、このような場合、会計の質を引き下げると考えられるのである。
以上のように、xx価値評価の拡大は、会計の質を引き下げることで、債務契約の形態に影響を及ぼすと考えられる。会計の質が低い借入企業は、株主と債権者のエージェンシー問題が大きいために、エージェンシー・コストの負担が比較的小さい相対型の債務契約を選択する傾向にある。さらに、会計の質が低い企業がシンジケート・ローンで資金調達を行う場合、アレンジャーは多くの債権を保有し、シンジケート団に参加する金融機関数が減少する。このように、xx価値評価の拡大は、借入企業の債務契約の選択やシンジケート・ローンの構造に影響を与え、企業の借入をより相対型の債務契約に近い形態へ移行を促す可能性が考えられる29。このような資金調達手段の移行は、債権の流通市場が十分に発達していなければ、金融機関の流動性リスクや与信集中リスクを高める可能性がある。
(2)xx価値評価の拡大と契約条項
イ.契約条項
(イ)財務制限条項
株主と債権者との間に利害対立が生じている場合、エージェンシー問題を解決するために、債務契約に制限条項が設定される。制限条項は、借入企業の事業活動や財務活動全体に及ぶが(Smith and Warner [1979])、大きく 2 つに分類することができる。1 つは、合併・買収の実施を制約する条項、あるいは担保提供を制限する条項など、財務諸表上の会計数値を直接使用しない非会計ベースの制限条項である。他の 1 つは、借入企業にある一定水準の純資産や利益の維持を要求する条項、あるいは追加借入や配当を制限する条項など、財務諸表上の会計数値やそれに基づいて算定した財務比率を使用する財務制限条項である。
さらに、Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2012] は、財務制限条項を資本型の制限条項
(capital covenants)と業績型の制限条項(performance covenants)の 2 つに分類して
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29 その一方で、xx価値評価の拡大による会計の質の低下を補うために、借入企業は、自発的に情報開示を行って、市場型の債務契約を選択する可能性、あるいはシンジケート・ローンにおいても市場型の債務契約に近い形態にとどまる可能性も考えられる。このような場合、借入企業は、従来と同様の債務契約を締結するために、追加的に情報開示コストや負債コストを負担しなければならないであろう。この点については、東京大学大学院教授のxxx xxより有益な示唆を得た。
いる。まず、資本型の制限条項は、資本の源泉や使用に関する情報に基づいて構成され、貸借対照xxの会計数値のみが使用される。多くの株主と債権者間の利害対立は、債権者から株主へ富が移転することによって発生する。そこで、債権者は、借入企業に対して十分な資本を維持することを要求することで、借入企業の機会主義的行動によって、株主へ富の移転が生じることを制約する。資本型の制限条項は、事前に株主と債権者間の利害対立を調整することで、エージェンシー問題に対処するために使用される。
一方、業績型の制限条項は、当期の業績や効率性の指標から構成され、損益計算書またはキャッシュ・フロー計算書のみの会計数値や損益計算書またはキャッシュ・フロー計算書と貸借対照表の双方の会計数値が使用される。借入企業の業績が悪化し、財務制限条項に抵触または倒産する場合、株主から債権者に支配権(経営権)が移転する。負債価値が企業価値の近傍にある場合、借入企業は、企業価値の増加を期待して過大なリスクをとることによって、債権者から株主に富が移転するために、株主と債権者の利害が強く対立する。そこで、債権者は、企業の業績が一定以上に悪化した場合に支配権を獲得することによって、債権者の富を大きく損なう経営者の行動を回避する。業績型の制限条項は、適時的な業績悪化の指標として機能し、事後に株主と債権者間の利害対立を調整することで、エージェンシー問題に対処するために使用される。
資本型と業績型の財務制限条項は、債務契約の摩擦を調整するために、異なる方法で機能する。Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2012] は、借入企業が財務的に困窮している場合、資本型の制限条項よりも業績型の制限条項が使用される傾向にあること、そして会計情報の契約上の有用性が減少するにつれて、業績型の制限条項よりも資本型の制限条項が使用される傾向にあるなど、借入企業の状況によって、2 つの制限条項が使い分けられていることを明らかにした。
このように、会計数値を使用する財務制限条項は、株主と債権者間のエージェンシー問題に対処するために使用されるので、財務制限条項のパターンは借入企業の状況などによって異なる(Xxxxxx [2013])。さらに、会計数値が経営者行動に対する一定の歯止めやモニタリングの手段として使用されるために、財務制限条項は、会計基準の変更の影響を受ける(Holthausen and Leftwich [1983])。ここで、債務契約の期間中に会計基準が変更した場合、どの時点の会計基準で計算した会計数値によって契約の履行状況を確認するのかについて、大きく 2 つの方法がある(Leftwich [1983]、 Xxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxx [2002])。1 つは、財務諸表作成時点の会計基準に基づいて計算した会計数値を制限条項に使用する方法(rolling GAAP)であり、すべての会計基準の変更が財務制限条項に反映される。他の 1 つは、契約締結時点の会計基準に基づいて計算した会計数値を制限条項に使用する方法(無条件 frozen GAAP)であり、会計基準の変更は財務制限条項に反映されない(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013])。
経営者は、会計基準の変更の実施時期やその方法について、裁量を有している。そこで、rolling GAAP の場合、借入企業が会計基準の変更の際に裁量を行使すること
から、エージェンシー・コストが大きくなる。他方、無条件 frozen GAAP の場合、契約締結時の会計基準に基づいて契約の履行状況を確認するために、記録コストや追加的な監査または証明コストが必要である。相対貸出の場合、貸付金融機関のモニタリングが効果を発揮し、仮に借入企業の裁量によって、債権者から株主に富が移転するような事態が生じても、相対的にコストをかけずに再交渉ができるため、 rolling GAAP が使用される。一方、シンジケート・ローンのように貸付金融機関数が増加した場合、再交渉コストが大きいために、frozen GAAP が使用される。ただし、frozen GAAP の場合、借入企業が記録コストの増加を避けるために、貸付金融機関に rolling GAAP へ変更するための再交渉を申し入れても、通常、再交渉は難しく、借入企業の負担も大きい(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2009])。
そこで、近年、「rolling GAAP と〔無条件〕frozen GAAP のハイブリッド」(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2009] p. 3)構造を有する「条件付 frozen GAAP」(GAAP frozen-on- request)も債務契約で使用されるようになっている(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013])。これは、当初、rolling GAAP と同様に、契約締結時以降の会計基準の変更が財務制限条項に反映されるが、貸付金融機関と借入企業のいずれかが会計基準の変更による財務制限条項への影響を中止するオプションを行使したときに、それ以後、frozen GAAP となる。シンジケート・ローンへの参加金融機関数が増加するなど債権の所有権者が広がるほど、rolling GAAP よりも無条件 frozen GAAP、そして無条件 frozen GAAP よりも条件付 frozen GAAP が使用される傾向にある(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2009])。さらに、Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013] は、会計基準の変更に伴う借入企業と貸付金融機関の機会主義的行動を抑制するために、rolling GAAP とfrozen GAAPが使い分けられていることを明らかにした。
(ロ)業績連動型価格条項
近年、経営者と債権者が債務契約を締結するときに、業績連動型価格条項(per- formance pricing)が設定される傾向にある。業績連動型価格条項とは、債務契約の期間中に借入企業の信用状態が変化したときに、債務契約のxx率を調整することを事前に契約に織り込むための条項である。当該条項は、住宅ローンや市場型の債務ではほとんど使用されず、相対型の債務で使用される(Asquith, Beatty, and Xxxxx [2005] p. 106)。
このように、業績連動型価格条項は、借入企業の業績の変化に合わせてxx率を調整するが、その業績指標として格付けまたは財務諸表上の会計数値に基づいて算定した財務比率(例えば、負債比率やインタレスト・カバレッジ・レシオ)が使用される(Asquith, Xxxxxx, and Xxxxx [2005]、Ball, Bushman, and Vasvari [2008])。財務諸表上の会計数値に基づく業績指標を使用する場合、借入企業は、財務比率を操作するために、利益調整のインセンティブを有する。事実、Xxxxxx and Xxxxx [2003] は、業績連動型価格条項で会計数値に基づく業績指標を使用する場合、借入企業が利益増加型の会計方針の変更を行う傾向にあることを報告する。格付けは、借入企業の
信用状態を包括的に評価して決定されるので、単一の財務比率よりも借入企業の信用状態に関する多くの情報を含むために、相対的に情報量が多い業績指標といえる。その一方で、格付けを業績指標として使用する場合、借入企業の信用状態の変化が格付けに反映されるまでに、通常、借入企業の経営者との会合など時間を必要とするので、格付けは会計情報に比べて適時性を損なう場合が多いと考えられる30(Asquith, Xxxxxx, and Xxxxx [2005]、Ball, Bushman, and Vasvari [2008])。したがって、業績連動型価格条項の業績指標は、借入企業の信用状態に関する情報量(informativeness)と適時性(timeliness)の間のトレードオフを考慮して選択される(Ball, Bushman, and Xxxxxxx [2008])。
業績連動型価格条項は 1990 年代後半まで幅広く使用されなかったが(Xxxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxx [2005] p. 104)、この条項は、制限条項に加えて、なぜ債務契約に設定されるのであろうか。前述したように、制限条項は、経営者が資産代替や追加借入などによって債権者から株主に富を移転し、負債価値を減少させる行動を制約するために設定される。ところが、制限条項は、借入企業の予期しない信用状態の悪化に対して、部分的にしか対応できない。なぜならば、貸付金融機関は、借入企業が制限条項に抵触するまで金利の引き上げなどを行えず、さらに再交渉を行う場合、コストを負担しなければならないからである。また、借入企業の予期しない信用状態の改善に対しても、制限条項は対処できない。借入企業が将来の業績に関する私的情報を信頼性と検証可能性を確保して開示できない場合、借入企業と貸付金融機関との間の情報の非対称性は縮小しない。この場合、貸付金融機関は、借入企業の将来の業績を反映したxx率を設定できず、借入企業に将来の業績改善を反映しない高いxx率を課すことになる。借入れ後に予想以上に信用状態が改善した企業は、債務の返済または再交渉を要求するために、貸付金融機関は、期限前返済リスクまたは追加的な再交渉コストを負担しなければならない(Xxxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxx [2005] pp. 109–110)。
業績連動型価格条項は、債務契約のxx率を引き下げる利息減少型の業績連動型価格条項とxx率を引き上げる利息増加型の業績連動型価格条項に分類される。 Xxxxxxx, Xxxxxx, and Xxxxx [2005] は、期限前返済の可能性が高く、再交渉コストが高く、そして借入企業のリスク水準を事前に決定することが難しいときには、利息減少型の業績連動型価格条項が債務契約に含まれる傾向にあることを示した。一方、格付けが低下する可能性が高く、経営者のモラル・ハザードの可能性が高いときには、利息増加型の業績連動型価格条項が債務契約に含まれる傾向にあることを示した。さらに、利息増加型の業績連動型価格条項が債務契約に含まれる場合、業績連動型価格条項が含まれない場合と比べて、契約締結時のxx率が引き下げられることも明らかにされた。
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30 前述したように、経営者報酬契約は、複数の業績指標(株価と利益)を使用し、精度と感度を考慮して業績指標の比率が決定される。これに対して、業績連動型価格条項は、通常、1 つの業績指標しか使用されないので、かかる制約の中で、業績指標の情報量と適時性のトレードオフの中で業績指標が選択される(Ball, Bushman, and Xxxxxxx [2008])。
このように、制限条項のみでは借入企業の信用状態が変化したときに迅速に対応できず、再交渉コストなどが発生する。そこで、このような問題を解決するために、業績連動型価格条項が使用され、とくに利息増加型の業績連動型価格条項の使用によって、xx率が低下している。このことは、業績連動型価格条項がエージェンシー問題の解決に貢献していることを意味する。
ロ.xx価値評価の拡大による契約条項への影響
債務契約に関連して、経営者はさまざまな裁量を施してきたことが報告されている(Xxxxxx, Xxx, and Xxxxxxx [2001]、Xxxxxxxxx, Xxxx, and Xxxxx [2010]、Xxxxxxxxxx [2013]、Xxxxxx [2013])。例えば、Xxxxxx and Xxxxxxx [2002] は、財務制限条項に抵触するまでの余裕度(covenant slack)を測定し、余裕度がゼロの近傍にあるシンジケート・ローンの数の分布がプラスの方向に著しく歪んでいることを明らかにした。このことは、債務不履行を回避するために、経営者が利益調整など会計数値を操作していることを意味する。それでは、xx価値評価の拡大は、契約条項にどのような影響を与えるのであろうか。以下では、会計数値の修正と契約内容の変更に分けて、xx価値評価の拡大が契約条項に与える影響について検討する。
(イ)契約条項への影響(1):会計数値の修正
株主と債権者間のエージェンシー問題を解決するために、財務諸表上の会計数値が財務制限条項で使用されるが、純利益や純資産など公表済みの会計数値をそのまま用いて財務制限条項を設定しても、エージェンシー・コストの削減が期待されない場合がある。もし公表済みの会計数値を一部修正して財務制限条項を設定したときに、債務契約の交渉コストや再計算に伴うモニタリング・コストなどを負担しても、エージェンシー・コストの削減の効果が大きいと期待されるのであれば、公表済みの会計数値を一部修正して債務契約は締結される。財務制限条項で公表済みの会計数値をそのまま使用するのか、それとも一部修正して使用するのかは、コスト・ベネフィットによって異なる。
従来、買入のれん相当額を貸借対照表から控除した会計数値を用いて、債務契約が締結されてきた(Leftwich [1983])。債務契約において貸借対照表の純資産が清算価値を表示することが期待される場合、買入のれんは、清算時に価値がないので、債務契約を締結する際に貸借対照表から控除される(Xxxxxxxxxx and Watts [2001])。ところが、無形資産が重要視されるなか、買入のれんを含めない有形純資産(tangible net worth)だけではなく、買入のれんも含めた純資産も純資産維持条項で使用されるようになってきている。Frankel, Seethamraju, and Xxxx [2008] は、純資産維持条項で買入のれんを含めた純資産を使用するのか、それとも買入のれんを含めない有形純資産を使用するのかに関して、買入のれんの金額が大きい企業ほど有形純資産を使用しない傾向にあることを明らかにした。同様に、Xxxxxx, Xxxxx, and Yu [2008]も、買入のれんと無形資産の金額が大きい企業ほど、買入のれんと無形資産を控除
する有形純資産を使用しない傾向にあることを示した。買入のれんの償却・減損処理は、純資産の金額に影響を与えるが、有形純資産の金額に影響を与えないので、買入のれんを大きく計上する企業ほど、債務契約の履行状況を確認するために、買入のれんなど無形資産を含めた純資産を使用するものと考えられる(Xxxx [2008])。前述したように、FASB は、買入のれんを非償却・減損処理することで、xx価 値評価を導入した。それでは、買入のれんのxx価値評価は、財務制限条項に影響
を及ぼすのであろうか。Frankel, Seethamraju, and Xxxx [2008] は、SFAS142 適用後、純資産維持条項で有形純資産の使用が増加していることを明らかにした。このことは、債務契約の履行状況を確認する際に、買入のれんを含めた純資産の数値を使用することが難しいことを意味する。つまり、SFAS142 の適用後、買入のれんの契約上の有用性が減少しているのである。SFAS142 は買入のれんを非償却・減損処理するが、買入のれんのxx価値評価によって経営者の裁量が増加するため(Watts [2003a, b, 2006], Xxxxxx and Xxxxx [2006]、Xx and Xxxxx [2012]、Xxxxxxx and Watts [2012])、買入のれんの測定値をそのまま債務契約で使用すれば、株主と債権者の利害対立を解消できないと考えられる。そこで、債務契約の交渉コストや再計算に伴うモニタリング・コストなどを負担してでも、純資産維持条項で有形純資産が使用されるのである(xxx[2012c])。このことは、xx価値評価の拡大が契約上の有用性を引き下げていることを意味する。
また、xx価値評価の拡大は、こうした資本型の制限条項だけではなく、業績型の制限条項にも影響を与える。Xxxxxx, Xxxxx, and Xxxx [2011] は、買入のれんを大きく計上する企業は、SFAS142 適用後に業績型の制限条項(負債/ EBITDA)で特別損益の項目を控除する傾向にあることを明らかにした。また、Li [2010] は、債務契約の契約条項(財務制限条項と業績連動型価格条項)において、財務諸表上の純利益と純資産の数値が債務契約で直接使用されるのか、それとも一時的利益の項目を控除して使用されるのかについて調べたところ、純資産については約 11%のみしか一時的利益の項目を控除していないのに対して、純利益については約 51%で一時的利益の項目を控除していることを示した。これらのことは、買入のれんの減損を含む一時的利益の項目は、とくに業績型の制限条項において業績指標として有用性が低いことを意味する。xx価値評価が拡大すれば、利益のなかに測定誤差や経営者のバイアスが含まれ、一時的利益が増加する。一時的利益の増加に伴って、債務契約で純利益の公表数値をそのまま使用することができず、一部修正が必要とされる。このように、xx価値評価の拡大は、純利益の契約上の有用性を引き下げると考えられる。
以上のように、xx価値評価の拡大は、債務契約の契約条項に使用される会計数値の一部修正をもたらす。とりわけ、純資産と純利益の公表数値がそのまま財務制限条項で使用されず、部分的に修正される。公表数値の修正には、債務契約の交渉コストや再計算に伴うモニタリング・コストなどが必要となることに着目すれば、xx価値評価の拡大は、債務契約において、会計情報の契約上の有用性を引き下げているといえるであろう。
(ロ)契約条項への影響(2):契約内容の変更
財務諸表上の会計数値の修正コストが大きくなり、ある会計数値を用いた財務制限条項を使用するベネフィットが小さくなった場合、その会計数値は債務契約で使用されなくなるであろう。債権者と株主の利害対立を解消するために、資本型と業績型の制限条項が使用される(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2012])。ところが、資本型の制限条項は、1996 年で 80%以上の相対型の債務契約で使用されていたが、2007年で 32%に減少した31。その一方で、業績型の制限条項は、74~82%の間で使用され、時系列で大きな変動は観察されなかった32(Demerjian [2011])。近年、FASB と IASB が貸借対照表を重視する会計モデルを採用すると指摘されるが(AAA’s FASC [2007]、Penman [2007]、Xxxxxx and Penman [2008]、Xxxxxx [2008]、X’Xxxxx [2009]、 AAA RITF [2009])、Demerjian [2011] は、xx価値評価の拡大によって貸借対照表に測定誤差が含まれ、貸借対照表の契約上の有用性が小さくなる結果、資本型の制限条項が使用されなくなったと考えた。
そこで、Demerjian [2011] は、変動性比率33(volatility ratio)を代理指標として貸借対照表重視の会計モデルの影響を測定し、変動性比率が大きい企業ほど資本型の制限条項を使用しない傾向にあることを明らかにした。その一方で、業績型の制限条項に影響はなかった。また、彼は、資本型の制限条項が減少している他の理由として、①有形固定資産の減少に伴う担保の利用の縮小、②オペレーティング・リース取引によるオフバランス金融の利用、③債権の証券化の進展と流通市場の発展といったシンジケート・ローン市場の変化を挙げ、これらの影響も分析した。その結果、これらの要因は資本型の制限条項の減少を部分的に説明するが、検証方法によって結果にばらつきがあることを示した。以上のことから、Demerjian [2011] は、貸借対照表を重視する会計モデルの採用が、これのみが単独の理由ではないにしても、資本型の制限条項の減少の原因であると結論付けた。このことは、xx価値評価の拡大が貸借対照表の債務契約の有用性を引き下げる可能性を示唆する。
Xxxx, Xx, and Xxxxxxxxxx [2013] は、xx価値評価の拡大によって、一時的利益が増加し、xx価値を推定する際に経営者の裁量余地が拡大し、さらに負債がxx価値で評価されることから、xx価値会計が債務契約の有用性を引き下げると考えた34。
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31 資本型の制限条項は、金融危機前まで減少するが、金融危機後に増加していることが報告されている
(Xxxxxxxxx [2011]、Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2012])。
32 Ball, Xx, and Xxxxxxxxxx [2013] は、米国企業を対象として、相対型の債務契約の制限条項の動向を調べたところ、Demerjian [2011] と同様の時系列の傾向を確認した。ところが、市場型の債務契約も含めると、
2007 年以降に業績型の制限条項が減少することを報告する(Xxxx, Xx, and Xxxxxxxxxx [2013] p. 23, n.24)。
33 Demerjian [2011] は、純資産の変動額の分散を(特別損益前の)修正後純利益の分散で除した比率として変動性比率を定義する。ここで、分子の純資産の変動額の分散は、修正後純利益の分散と修正額(特別損益とその他の包括利益)の分散の合計で構成されるので(修正後純利益と修正額の共分散はゼロとして取り扱われている)、修正後純利益に対する修正額の影響が大きいほど、変動性比率が大きくなる。
34 金融負債をxx価値で評価する場合、報告企業の信用状態の変動に伴って、xx価値の評価損益が計上さ
れる。報告企業の信用状態の変動が事業機会の現在価値の増減に起因する場合、金融負債のxx価値評価損益は、事業機会の現在価値に含まれる無形財の価値の増減によって減殺されるはずである。ところが、現行の会計システムでは、無形財の価値の増減が財務諸表上で認識されないので、金融負債をxx価値で評価すれば、その評価損益のみが計上される。この場合、報告企業の信用状態が悪化したときには、負債
そこで、彼らは、xx価値を重視する IFRS の強制適用が財務制限条項に与える影響を調査し、IFRS の強制適用前、そして IFRS を適用していない国と比較して、IFRSの強制適用後に財務制限条項の使用頻度と使用数が減少したことを明らかにした。さらに、財務制限条項の減少は、資本型の制限条項だけではなく、業績型の制限条項でも観察されており、IFRS の強制適用前の国内会計基準が IFRS と異なる国ほどその減少の程度が大きいことが示された。Xxxx, Xx, and Xxxxxxxxxx [2013] は、IFRSの強制適用による透明性の向上に伴って制限条項が減少するという代替的仮説を検証し、それを支持する結果が得られなかったことから、xx価値会計が財務制限条項の使用を減少させたと結論付けた。彼らの結果は、xx価値評価の拡大が会計情報の債務契約の有用性を引き下げる可能性を示している。
xx・xx[2004a]は、わが国において、有価証券の時価評価の導入が社債契約の財務制限条項に与えた影響を調査した。彼らは、有価証券の時価評価によって会計数値のボラティリティが増加し、経営者が財務制限条項の抵触を懸念することから、社債契約において財務制限条項の使用が減少すると考えた。事実、有価証券の時価評価を提案する公開草案の公表後に発行された社債において、公開草案の公表前の社債と比較して、財務制限条項の設定が減少した。さらに、有価証券の保有高が大きい起債企業ほど、公開草案の公表後に財務制限条項の設定を回避したことが明らかとなった。
また、xx価値評価の拡大は、会計基準の変更への財務制限条項の規定にも影響を与えるであろう。会計基準の変更を財務制限条項に反映させるのか否かについては、前述したとおり、rolling GAAP とfrozen GAAP という大きく 2 つの方法がある。 rolling GAAP は契約締結後の会計基準の変更を財務制限条項に反映させるので、契約締結後に mark-to-model で資産と負債を測定する会計基準が導入され、会計数値が契約上の有用性を引き下げたとしても、当該数値を用いて、契約の履行状況を確認しなければならない。このため、rolling GAAP を使用する場合、xx価値評価の拡大は、債務契約に直接的に影響を与える。一方、frozen GAAP は会計基準の変更を反映させないので、その限りでは、xx価値評価の拡大は財務制限条項に影響を与えない。ただし、契約の履行状況を確認するために、以前の会計基準を用いて再計算しないといけないので、記録コストや追加的な監査または証明コストが発生する。したがって、frozen GAAP を使用しても、xx価値評価の拡大は、債務契約に間接的に影響を与えるであろう。
相対型の債務契約において、もともと、frozen GAAP ではなく、rolling GAAP が使用されてきたが(Leftwich [1983])、1990 年代半ばの債務契約では、frozen GAAPの使用が増加し、財務制限条項を設定する債務契約の 73%が frozen GAAP を使用し、27%がrolling GAAP を使用する(Beatty, Ramesh, and Weber [2002])。Xxxxxxxxxxx
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比率などの資本型の制限条項は改善するため、経営者が債権者の利害を損なう行動をとる可能性が大きくなる。さらに、固定資産の減損損失が計上された場合、負債のxx価値の評価益と減殺されるので、経営者の機会主義的行動を抑制するという資本型の制限条項に期待される効果を弱める可能性がある(Xxxx, Li, and Xxxxxxxxxx [2013]、Xxxxxxxxxx [2013])。
and Nikolaev [2013] も同様に、1996~2005 年の相対型の債務契約において、74%が frozen GAAP を使用し、26%が rolling GAAP を使用することを報告する。
時系列で見てみると、rolling GAAP は 1996 年の 36%から 2005 年の 17%に減少する一方で、frozen GAAP は 1996 年の 64%から 2005 年の 83%に増加している35
(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013])。近年、rolling GAAP ではなく、frozen GAAP が使用される傾向にあるが、Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013] は、新会計基準の増加や複雑さ(適用期間の長さ、会計基準のボリューム)が rolling GAAP の減少要因であることを明らかにした。ここで、会計基準設定主体が債務契約に有用な会計基準を設定するのであれば、会計基準の変更を反映する rolling GAAP が使用されると考えられるが、rolling GAAP の使用は減少している。このことは、近年の会計基準設定の動向が会計情報の契約上の有用性を低下させていることを示唆する(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013])。新会計基準の増加や複雑さは、xx価値評価の拡大と直接的に関連するものではないが、xx価値評価の拡大によって、mark-to-model で資産と負債を測定する項目が増えれば、測定方法や開示内容の記述の増加、あるいは会計基準適用の準備のために多くの時間が必要とされるであろう。
さらに、xx価値評価の拡大に伴って、業績連動型価格条項の業績指標として会計数値が使用されない可能性がある。業績連動型価格条項の業績指標は、格付けと会計数値(財務比率)に分けられるが、通常、単一の業績指標が使用されるため、情報量と適時性のトレードオフの制約のなかで業績指標が選択される36。Ball, Bushman, and Xxxxxxx [2008] は、債務契約の価値(会計情報が企業の信用状態の悪化を適時的に示す能力)の指標の 1 つに損失の適時性を使用するが、会計情報の債務契約における価値が増加するにつれて、シンジケート・ローンのアレンジャーが業績連動型価格条項の業績指標として、格付けよりも会計数値に基づく業績指標を使用する傾向にあることを明らかにした37 。また、Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] は、サーベンス=オクスリー法(SOX 法)302 条に従って、経営者が重大な内部統制の不備を開示した場合、内部統制の不備を開示する前後を比較して、使用する業績連動型価格条項の業績指標として会計数値の使用が減少し、格付けの使用が増加する傾向にあることを示した38。これらの結果は、xx価値評価の拡大によって、会計情報の契約上の有用性が減少する場合、業績連動型価格条項の業績指標として、会計数値ではなく、格付けが使用されることを示している。
以上のように、xx価値評価の拡大は、債務契約の契約内容に変更をもたらしう
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35 frozen GAAP の内訳をみてみると、無条件 frozen GAAP は 1996 年の 43%から 2005 年の 28%に減少する一方で、条件付 frozen GAAP は 1996 年の 21%から 2005 年の 55%に増加している(Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2013])。
36 詳細は、前掲 3 節(2)イ.(ロ)の業績連動型価格条項の説明を参照すること。
37 Xxxxxxxxxxx and Nikolaev [2012] は、会計数値を業績指標として使用する業績連動型価格条項を資本型の価格条項と業績型の価格条項に分けて分析したところ、契約上の有用性が上昇するにつれて、業績型の価格条項が使用される傾向にあることを明らかにした。
38 その一方で、Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] は、財務諸表の修正再表示が債務契約の条項に与え
る影響を分析したところ、業績連動型価格条項の業績指標として会計数値の使用が減少していないことを報告する。
る。財務制限条項は、エージェンシー・コストを削減するために、借入企業の状況などを踏まえて設定される。ところが、xx価値評価の拡大によって資本型の制限条項や rolling GAAP の使用が減少し、他の契約条項に代替することで、他の条件が同じであれば、エージェンシー・コストが十分に削減できない可能性がある。また、xx価値評価の拡大によって、業績連動型価格条項の業績指標として会計数値が使用されない場合もある。このように、xx価値評価の拡大は、会計情報の契約上の有用性を引き下げていると考えられる。
(3)xx価値評価の拡大と負債コスト
本節では、以上、財務諸表本体の報告数値が債務契約の条項で直接使用される状況に焦点を当てて、xx価値評価の拡大が債務契約にどのような影響を与えるのかについて検討してきた。会計情報は、経営者のモラル・ハザードを抑制するために、制限条項や業績連動型価格条項で使用されるが、xx価値評価の拡大によって、会計情報に期待された役割を果たせなくなり、エージェンシー・コストが増加する可能性がある。
会計情報は、債権者が債務契約の締結や再交渉時にどのような価格条項(xx率)と非価格条項(期間、担保、制限条項、業績連動型価格条項)を設定するのかを適切に判断するためにも必要とされる。なかでも、xx率(負債コスト)への影響は、借入企業のキャッシュ・フローに大きく影響を与えるため、xx価値評価の拡大の経済的帰結を端的に示している39。そこで、以下では、負債コストに焦点を当てて、xx価値評価の拡大が負債コストに及ぼす影響について検討する。
xx価値評価の拡大が負債コストに与える影響の検討に先立ち、会計の質と負債コストの関係について分析する。Bharath, Sunder, and Sunder [2008] は、会計の質を異常営業発生高と捉え、相対型の債務契約において、会計の質が低い借入企業は、価格条項(xx率)と非価格条項(期間と担保)の両者が厳しくなるが、市場型の債務契約では、価格条項のみが厳しくなる。さらに、会計の質が価格条項に与える影響は、相対型の債務契約よりも市場型の債務契約の方が大きくなることを明らかにした。また、Xxxxx, Park, and Xx [2012] は、会計の質を利益の予測可能性と捉え、相対型の債務契約において、会計の質が低い借入企業は、価格条項(xx率)と非価格条項(期間、担保、制限条項)の両者が厳しくなることを報告した。これらの結果は、会計の質の低下に伴うエージェンシー・コストの増加を、相対型の債務契約の場合、価格条項に加えて非価格条項でも補填することが可能であるが、市場型の債務契約の場合、再交渉コストの高さから、価格条項のみで補填するため、負債コ
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39 もともと、会計基準の新設・改廃の経済的帰結は、Lev [1979] に代表されるように株価を用いて検証されてきた。例えば、xx価値評価の拡大の経済的帰結を直接検証したものではないが、英国企業を対象として、英国基準と比べてxx価値を重視する IFRS が強制適用されて財務制限条項に抵触する可能性が高められた結果、株価に負の影響を及ぼすことを示唆する研究として、Xxxxxxxxxxx, Xxx, and Xxxxxx [2009] がある。
ストの増加が大きいことを示している。
xx価値評価の拡大以前より、会計の質の 1 つの指標として保守主義が指摘され、債務契約の観点から、保守主義の重要性が指摘されてきた(Watts [1993, 2003a, b]、 Ball [2001]、Xxxxxxxxxx and Watts [2001]、Xxxxxxx, Xxxxxxx, and Xxxxxxx [2010])。すなわち、保守的な会計処理によって、経営者の機会主義的な行動を抑制し、株主と債権者の利害対立を解消することで、負債コストを削減することが期待される。Xxxxx et al. [2002] は、格付けを負債コストの代理指標として使用し、保守主義が負債コストを低下させていることを示した。また、Xxxxx [2008] は、債務契約のxx率がより保守的な会計処理を行う借入企業で低下していることを明らかにした。さらに、 Wittenberg-Moerman [2008] は、損失を適時的に認識する借入企業のローンが売買されるとき、そのビッド・アスク・スプレッドが小さくなる(流動性リスクプレミアムが低下する)ことを報告する。つまり、彼女の結果は、保守主義が情報リスクを小さくすることで負債コストを引き下げることを示唆する。これらの結果は、保守主義が経営者と債権者間の情報の非対称性を小さくすることで債務契約の有用性を高め、負債コストを小さくすることを示している40。
前述したように、会計の質は、財務諸表の修正再表示など利益の虚偽記載の有無の観点からも捉えることができる。Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] は、SOX法 302 条に従って、経営者が重大な内部統制の不備を開示した場合、内部統制の不備を開示する前と比較して、財務制限条項は減少するが、xx率が上昇したり担保の設定が増加したりすることを明らかにした。Xxx, Xxxx, and Xxxxx [2011] は、SOX法 404 条による内部統制の不備の開示が相対型の債務の契約内容に与える影響について分析した。内部統制の不備を開示した借入企業は、それを開示していない借入企業よりも、xx率が上昇したり担保の設定が増加したりすることを明らかにした。さらに、彼らは、借入企業が SOX 法 404 条に従って内部統制の不備を初めて開示した前後を比較して、xx率が上昇したことを示した。Xxxxxxxx et al. [2011] も同様に、SOX 法 404 条による内部統制の不備の開示が市場型の債務のxx率に与える影響を調べたところ、内部統制の不備を開示した場合、それを開示する前と比較して、xx率が上昇することを確認した。
また、Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] は、財務諸表の修正再表示が債務契約の条項に与える影響を分析したところ、財務諸表の修正再表示を行った場合、それを行う前と比較して、xx率の上昇、担保の設定の追加、会計数値以外の制限
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40 債務契約の効率性を高める方法として、会計ルールに保守主義を利用するのではなく、債務契約の条項を保守的に設定することで対応できるという考え方もある(Xxxx and Verrecchia [2006])。Xxxxxx, Xxxxx, and Xx [2008] は、借入企業の保守的な会計方針の選択と純資産維持条項の利益制限(純資産維持条項を算定する場合、利益のうち一定の割合のみしか純資産に含められない)との間に正の関係があることを示した。また、Nikolaev [2010] は、市場型の債務契約に焦点を当て、損失の適時的な認識が制限条項の使用頻度に
伴って増加し、この傾向は、市場型の債務の発行後に強くなることを報告する。さらに、Kravet [2012] は、保守的な会計処理を行う借入企業とリスクの高い買収との間に負の関係があり、この関係は、債務契約に財務制限条項を使用しない企業で弱くなることを明らかにした。これらの結果は、債務契約の制限条項を保守的に設定するのみでは、債権者の保守主義の要求に応えられないことを示唆する。
条項の追加、および借入期間の短期化などがみられることを明らかにした。Xxxxxx, Xx, and Xxx [2008] は、SOX 法施行前をサンプル期間として、Xxxxxxxx and Wittenberg- Moerman [2011] と類似の結果を報告した。すなわち、財務諸表の修正再表示は、債務契約の価格条項(xx率)と非価格条項(期間、担保、会計数値以外の制限条項)に影響を与えるのである。さらに、Xxxx and Xx [2009] は、借入企業が財務諸表の修正再表示を発表したときに、ローンの流通市場において、当該企業のローンの異常リターンが負となり、そのビッド・アスク・スプレッドが大きくなることを明らかにした。これらの結果は、内部統制の不備の開示や財務諸表の修正再表示に伴って、エージェンシー・コストが増加し、負債コストが増加していることを示している41。
mark-to-model でxx価値を推定する場合、xx価値の評価額に内在的な測定誤差と経営者誘導の測定誤差が含まれる。前述したように、xx価値評価の拡大は、内在的な測定誤差と経営者誘導の測定誤差によって、異常発生高を大きく、利益の予測可能性を低く、そして経営者誘導の測定誤差によって、損失の適時性を小さくするであろう。さらに、内在的な測定誤差と経営者誘導の測定誤差によって、内部統制の不備や修正再表示といった虚偽記載をもたらすであろう。つまり、xx価値評価の拡大は、会計の質を引き下げると考えられる。そこで、xx価値評価の拡大は、エージェンシー・コストを増加させ、それを補填するために借入企業の負債コストを増加させる可能性がある。このようにxx価値評価の拡大が負債コストに及ぼす影響を直接検証した先行研究として、xx・xx[2004b]がある。
xx・xx[2004b]は、日本企業を対象に、有価証券の時価評価を提案する公開草案公表後に起債された社債の負債コストが増加するのか否か調べたところ、起債企業や発行社債の属性をコントロールしてもなお、公開草案公表前と比較して、負債コストが増加したことを明らかにした。さらに、起債企業を財務制限条項の設定の有無で分けてみたところ、財務制限条項を設定していない起債企業では、公開草案公表後に負債コストが統計上有意に増加したのに対して、財務制限条項を設定する起債企業では、公開草案公表後に負債コストが統計上有意に増加していないことを示した。彼らの結果は、有価証券の時価評価の導入に伴って、財務制限条項が社債に設定されていない起債企業では、エージェンシー・コストが増加し、それを補填するために負債コストが増加するという経済的帰結が生じることを示している。以上のように、会計情報は、債務契約の条項で直接使用されるだけではなく、債権 者が債務契約の締結や再交渉時にどのような価格条項等を設定するのかを適切に判断するためにも必要とされる。xx価値評価の拡大は、会計の質を低下させ、エー
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41 財務諸表の虚偽記載は、xx率の上昇や担保設定の増加など債務契約の契約条項に影響を与えるが、内部統制の不備と修正再表示との間で、財務制限条項と会計数値に基づく業績連動型価格条項に与える影響について結果が異なっている。財務諸表の修正再表示は、通常、過去の不正行為や虚偽記載から生じ、過去の会計数値の訂正とともに行われるが、内部統制の不備は、潜在的な虚偽記載を回避または発見するのに不十分であることを意味する(Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] p. 119)。Xxxxxxxx and Wittenberg-Moerman [2011] は、潜在的な虚偽記載を示す内部統制の不備は、報告数値の信頼性を小さくするので、債務契約で会計数値の依存を小さくするが、虚偽記載が事実となった修正再表示は、会計情報を引続き利用しつつ他の契約条項も追加することにより、経営者の行動のモニタリングを強化すると解釈する(p. 130)。
xxxxx・xxxが大きくなる場合、それを補填するために負債コストの増加をもたらす場合がある。
4.おわりに
本稿では、私的契約(経営者報酬契約と債務契約)に焦点を当て、xx価値評価の拡大が会計の契約支援機能(利害調整機能)に及ぼす影響について検討した。
経営者報酬契約は、株主と経営者間の利害をできるだけ一致させ、株主の富を増加させる行動を経営者に促すために締結される。経営者報酬は、基本的には、経営者の業績に基づいて支払われるが、経営者の業績指標として利益と株価の双方が使用される。経営者の業績指標として利益と株価が使用されるのは、利益と株価に期待される業績指標の役割が異なるからである。まず、利益を経営者の業績指標として使用する場合、xx価値評価の拡大は、株価に含まれる市場全体の動きに起因するノイズを取り除いた評価を可能にするという利益に期待される役割を損なうため、利益の業績指標の重要性を低下させる可能性がある。また、株価を業績指標とする経営者報酬契約の代表例としてストック・オプションが挙げられるが、ストック・オプションのxx価値評価は、評価モデルの選択とインプット情報の見積もりを通じて、経営者の裁量の余地を拡大させる。さらに、xx価値評価の拡大は、経営者報酬契約と関連して、経営者の行動に大きな影響を及ぼす可能性がある。とくに、xx価値評価の拡大は、経営者が自らの報酬を増やすために、エージェンシー・コストを増大させる行動を助長させている可能性がある。このように、xx価値評価の拡大は、業績指標の重要性を低下させ、経営者の機会主義的行動を助長させる可能性が大きいことから、経営者報酬契約にマイナスの影響を及ぼすと考えられる。
他方、債務契約は、株主(あるいはそのエージェントである経営者)と債権者間のエージェンシー・コストを削減するために締結される。債務契約は、市場型の債務と相対型の債務に分類され、その中間形態としてシンジケート・ローンがあるが、xx価値評価の拡大は、会計の質を低下させることで、債務契約の形態やシンジケート・ローンの構造に影響を及ぼす可能性がある。その 1 つの帰結として、企業の借入がより相対型の債務契約に近い形態へ移行する可能性が考えられるが、相対型の債務契約は、エージェンシー問題を解決するために、債務契約に財務制限条項や業績連動型価格条項を設定する傾向にある。こうした財務制限条項や業績連動型価格条項に会計数値が使用されるが、xx価値評価の拡大は、会計数値の一部修正や契約内容の変更を必要とさせるため、会計情報の契約上の有用性を引き下げるであろう。さらに、xx価値評価の拡大は、会計の質を低下させることで、エージェンシー・コストが大きくなる場合、それを補填するために負債コストの増加という経済的帰結をもたらしうる。このように、xx価値評価の拡大は、会計情報の契約上の有用性を低下させ、負債コストの増加をもたらす可能性があることから、債務契約にマイナスの影響を及ぼすと考えられる。
ただし、本稿では、次のような検討課題が残されている。まず、本稿では、①経営者と株主の利害対立と②株主と債権者の利害対立を取り上げ、その利害対立を緩和するための経営者報酬契約と債務契約といった正式な契約(formal contract)について検討した。利害の対立を緩和するためには、文章化された正式な契約または明示的な契約(explicit contract)だけではなく、文章化されていない正式ではない契約(informal contract)または暗黙的な契約(implicit contract)も使用される。本稿では、xx価値評価の拡大が正式な(明示的な)契約にマイナスの影響を及ぼす可能性があることを指摘したが、正式ではない(暗黙的な)契約にどのような影響を及ぼすのかについて検討する必要がある。さらに、現実には、経営者、株主、そして債権者の 3 者が利害対立するなかで、それを緩和するためにコーポレート・ガバナンスが構築されている。xx価値評価の拡大が私的契約にどのような影響を及ぼすのかについて、経営者、株主、そして債権者の 3 者の利害対立を踏まえつつ、幅広く検討しなければならない。
また、本稿では、私的契約に焦点を当て、xx価値評価の拡大と契約支援機能の関係について検討した。前述したように、契約支援機能が対象とする契約には、私的契約だけではなく、配当規制や金融規制などの公的規制も含まれる。xx価値評価の拡大と契約支援機能の関係を包括的に分析するためには、公的規制も取り上げて分析しなければならない。
さらに、本稿では、契約で使用される会計情報として、経営者報酬契約や債務契約で直接使用される財務諸表本体の会計数値を取り上げて、検討を進めてきた。例えば、債務契約の契約条項を決定する際に、債権者は、財務諸表本体の会計数値だけではなく、注記情報や「経営者による財務状態および経営成績の検討と分析(Management’s Discussion and Analysis: MD&A)」情報なども使用するであろう。契約支援機能で期待される会計情報を分析するためには、財務諸表本体以外の会計情報の役割についても検討が必要である42。これらの問題については、今後の検討課題とする。
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42 契約支援機能における財務諸表本体以外の会計情報の役割について、徳賀・xx[2014]で検討が行われている。
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