Contract
[事案 23-41]損害賠償請求
・平成 23 年 8 月 10 日 裁定終了
<事案の概要>
貸付先の会社を契約者とする保険契約につき、保険会社担当者の質権設定完了との回答があったにもかかわらず、被保険者同意がないため同契約への質権設定が無効で、同契約が契約者から解約されてしまったとして損害賠償を求めるもの。
<申立人の主張>
平成 22 年 12 月、貸付先のA社を契約者とする定期保険(被保険者:A社取締役、受取人:A社、死亡保険金3億円)に質権の設定手続をするため、申立人(法人)質権設定承認通知書に質権者である申立人、保険契約者(質権設定者)であるA社が同意のうえ捺印し保険会社に通知した。後日、質権設定状況について保険契約を取り扱った営業担当者に照会したところ、「質権設定が完了した。本社にも確認はとれている」旨回答があった。
ところが、申立契約への質権設定が被保険者の同意がなかったとして無効となっていて、平成 23 年 3 月、保険契約者A社が、当社の知らない間に質権を設定していたはずの申立契約を解約してしまった。質権者である当社に何の連絡、確認もなく解約手続きに応じたことにつき納得できないので、損害賠償として死亡保険金相当額を支払ってほしい。
<保険会社の主張>
下記理由により、申立人の請求に応ずることは出来ない。
(1) 申立人の質権設定承認通知書には、質権設定に対する被保険者の同意がなく、保険法
47 条により、質権設定は無効である。
(2) 質権設定につき、営業担当者が適切でない回答をしたが、その回答により質権が有効となるものではない。
(3) 申立契約の契約者に対して債権を有していたのは申立人の顧問であり、申立人が債権者であるとは言えないため、もともと質権者であることに疑問がある。
(4) 保険事故も生じていないのに、死亡保険金額を支払わなければならない根拠が全くない。
<裁定の概要>
裁定審査会では、申立人の主張は、法的根拠を営業担当者の不法行為(民法 709 条)に
基づく相手方会社の使用者責任(民法 715 条1項本文)を追及するものであると解し、申立書、答弁書等の書面にもとづき審理した。
審理の結果、使用者責任が成立するためには、営業担当者に民法 709 条に基づく不法行為責任が成立する必要があるが、下記のとおり、不法行為が成立しているとは言えないため、本件申立内容は認められず、指定(外国)生命保険業務紛争解決機関「業務規程」第 37 条にもとづき、裁定書にその理由を明らかにし、裁定手続きを終了した。
(1)営業担当者の不法行為責任について
保険法 47 条によれば、保険事故の発生前における保険契約に基づく死亡保険金請求
権を目的とする質権の設定は、被保険者の同意がなければ、その効力を生じないと規定されており、本件質権設定については、被保険者の同意が得られていないため、当初からその効力を生じておらず、このことは、営業担当者が申立人に対して、質権設定が完了した旨の誤回答をしたことにより左右されない。
本件質権が有効に成立していない以上、営業担当者の誤回答が申立人の質権を侵害した事実は認められず、不法行為は成立しない。
(2)「期待権」侵害を理由とする不法行為の成立について
上記(1)の質権侵害による不法行為が成立しないとしても、営業担当者の誤回答により、本件質権が成立したとものと信じたという、申立人の、いわば「期待権」の侵害を理 由とする不法行為が成立する余地があるかについては、「期待権」が「法律上保護され る利益」(民法 709 条)に該当するか否か自体、疑問といわざるを得えない。
【参 考】
保険法第47条
死亡保険契約に基づき保険給付を請求する権利の譲渡又は当該権利を目的とする質権の設定(保険事故が発生した後にされたものを除く。)は、被保険者の同意がなければ、その効力を生じない。
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第715条1項
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。