IASB 公開草案「保険契約」の概要
IASB 公開草案「保険契約」の概要
有限責任 xxx監査法人
金融事業部 パートナー
xx
xx
国際会計基準審議会(IASB)は、2013 年6 月20 日に公開草案「保険契約」(以下
「本公開草案」という)を公表しました。本公開草案は、2010 年7月公表の公開草案(以下「2010 年公開草案」という)のコンセプトである保険会計の透明性、比較可能性を向上させるという目的を堅持しながら、2010 年公開草案に寄せられたコメントを検討した結果、提案内容の変更を行ったため、再度公表されたものです。
本公開草案では、2010 年公開草案からの重要な変更点、提案の費用対効果および提案内容の明瞭性についてコメントを募集しており、コメントの締切りは 2013 年10 月25 日となっています。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめお断りいたします。
xx xx
みの わ こう き
有限責任 xxx監査法人
金融事業部パートナー
【ポイント】
2010 年公開草案からの重要な変更点
◦ 測定アプローチの改善
・ 将来の保険カバーおよびサービスに関連する将来キャッシュ・フローの現在価値の見積りの変動について、契約上のサービス・マージンを調整する。
・ 契約、法令または規制により、裏付け資産を保有することが要求され、かつ、保険契約者に対する支払いがそれらの裏付け資産の運用益と明確に関連付けられている場合は、裏付け資産の運用益により直接的に変動すると予想される履行キャッシュ・フローを、裏付け資産の測定および表示と整合的な方法で測定および表示する。
◦ 新しい表示アプローチの提案
・ すべての保険契約について、保険契約収益および発生保険金等の情報を表示する。
・ 割引率の変動に起因する保険契約負債の変動は、その他の包括利益
(OCI)に含めて表示する。
◦ 移行アプローチの見直し
・ 原則として遡及適用する。ただし、遡及適用が実務上不可能な場合は、契約上のサービス・マージンを見積りにより算定する。
Ⅰ 検討の背景
保険者の会計については、適用されている会計基準が国によって大きく異なることから比較可能性を妨げているのではないか、計算された保険契約負債が現在価値を反映していない
ため保険者の経済的実態を表していないのではないか、といった点が指摘されていました。IASBでは、これらの指摘に対応するために、保険者の会計処理を国際的に統一し、保険契約負債を現在価値で評価することについて15年以上議論を重ねてきました。
その成果として2010年に公表された公開草案では、市場整合的な方法による保険契約負債の測定と保険契約収益の表示
方法・開示項目の改善によって、保険者の会計の透明性・比較可能性の向上を目指すとされていました。
しかしながら、2010年公開草案に対しては様々なコメントが寄せられ、その中には懸念のコメントも多数含まれていました。そこで、IASBは、2010年公開草案のコンセプトは堅持しながら、特に懸念の多かった論点を中心に改善を図った結果として、本公開草案を公表しました。
Ⅱ 提案の概要
1. 保険契約負債の測定の基本的な考え方
本公開草案では、2010年公開草案における提案を引き継ぎ、保険契約について、観察可能な市場情報と整合するすべての入手可能な情報を使用して現在価値アプローチにより測定することを提案しています。具体的には、保険契約負債を、 i)将来キャッシュ・フロー、ii)割引計算、iii)リスク調整、iv)契約上のサービス・マージンの4つの構成要素(この構成要素を「ビルディング・ブロック」と呼ぶ)により測定します。このうち、i)からiii)を合わせて「履行キャッシュ・フローの現在価値」と呼んでいます。この履行キャッシュ・フローの現在価値を算式で表すと、「将来キャッシュ・アウトフロー(保険金支払等)+リスク調整(将来キャッシュ・フローに関する不確実性)-将来キャッシュ・インフロー(保険料収入等)」の現在価
値となります。
本公開草案では、履行キャッシュ・フローの現在価値がゼロを下回る限りにおいては、下回る金額を契約上のサービス・マージンとして認識することを提案しています。これにより、保険契約の当初認識時に利得が認識されることはありません。他方、履行キャッシュ・フローの現在価値がゼロを上回る不利な契約については、上回る金額を当初認識時において損失として認識することを提案しています。具体的なイメージについては、図表1の設例をご参照ください。
2. 2010年公開草案からの重要な変更点
(1)保険契約の測定方法の改善
① 契約上のサービス・マージンの調整
本公開草案では、履行キャッシュ・フローは各報告期間末において再測定することが提案されています。このうち、将来xxxxx・xxxの再測定は、2010年公開草案でも提案されていましたが、契約上のサービス・マージン(2010年公開草案では「残余マージン」と呼んでいた)は再測定せずに、将来キャッシュ・フロー見積りの変動額については、すべて当期純利益を通じて認識することとされていました。しかし、将来キャッシュ・フロー見積りの変動は保険契約から生じる利得に影響を与えるにもかかわらず、契約上のサービス・マージンを変動させないのは、当該保険契約の収益性を正しく表せていないのではないかとのコメントが寄せられました。そこで、本公開草案では、将来キャッシュ・フロー見積りの変動額のうち、
図表1 保険契約負債の測定のイメージ
履行キャッシュ・フローの現在価値
割引計算
契 約 時
保 険 事 故
割引計算
:将来xxxxx・xxx
契約上のサービス・マージン
10
リスク調整 50
直接新契約費 40
保険金等支払 1,000
保険金等支払の現在価値 900
支出
保険料 260
保険料 260
保険料 260
保険料 260
保険料の現在価値 1,000
収入
将来の保険カバーおよびサービスに関連する将来キャッシュ・フロー見積りの変動額については、契約上のサービス・マージンを将来に向かって調整する提案に変更されています。
② 保険契約者に対する支払いが裏付け資産の運用益により直接的に変動する契約
本公開草案では、保険契約の発行者である企業が、保険契約の裏付け資産を保有することを要求され、かつ、保険契約者に対する支払いが特定の裏付け資産の運用益と明確に関連付けられる契約については、裏付け資産の運用益により直接的に変動すると予想される履行キャッシュ・フローを測定および表示することが提案されています。このような保険契約としては、たとえば、わが国の変額保険や変額年金のようなものが該当すると思われます。
(2)新たな表示アプローチの提案
① 保険契約収益および発生保険金等の表示
本公開草案では、純損益及びその他の包括利益計算書上に保険契約収益および発生保険金等の情報を表示することが新たに提案されました。保険契約収益は、保険契約に基づくサービスの提供と交換に企業が受け取る権利を有すると予想される対価の金額として表示することが提案されています。具体的には、保険金等支払額の見積り、リスク調整の変動額、報告期間に当期純利益を通じて認識された契約上のサービス・マージンの金額、直接新契約費の回収に相当する保険料の一部の合計が、保険契約収益として表示されます。
また、保険契約から区分されなかった投資要素については、保険事故の発生の有無にかかわらず支払われる金額であることから、関連する金額を純損益及びその他の包括利益計算書上の保険契約収益および発生保険金等から控除して表示することを提案しています(図表2参照)。
図表2 保険契約収益および発生保険金等の表示
出典:IASB Exposure Draft / Snapshot: Insurance Contracts
2010年公開草案では、純損益及びその他の包括利益計算書上に収入保険料や保険金等支払いといったボリューム情報を
20XX年 | |
保険契約収益 発生保険金および費用 | X (X) |
営業損益 | X |
投資収益 保険契約負債に係る利息費用 | X (X) |
投資損益 当期純利益 | X X |
割引率の変動による影響 | (X) |
包括利益合計 | XX |
表示せず、リスク調整の変動額や契約上のサービス・マージンの解放額を純額で表示する要約マージン・アプローチが提案されていました。当該提案に対しては、保険会社の主要な指標である保険料や保険金のボリューム情報が失われてしまうことなどに対する懸念が多数寄せられたため、本公開草案では、保険契約収益および発生保険金の表示について新たなアプローチが提案されました。
② 割引率の変動による保険契約負債の変動のその他の包括利益(OCI)での認識
本公開草案では、割引率の変動による保険契約負債の変動額をOCIで認識するという会計処理を提案しています。
2010年公開草案では、割引率の変動による保険契約負債の変動額については、当期純利益を通じて認識することを提案していましたが、保険契約負債として計上される金額は多額なため、割引率のわずかな変動でも再測定に伴う保険契約負債の変動は大きくなり、当期純利益のボラティリティが増大するという懸念が多数寄せられました。この懸念を解消するため、割引率の変動による保険契約負債の変動額をOCIで認識することが検討されました。ここで、保険契約負債の変動額をOCIで認識するならば、その見合いの運用資産の評価差額もOCIで認識しなければ整合的とはいえませんが、当時の IFRS第9号「金融商品」では、債券の評価差額はOCIで認識できなかったため、資産と負債で会計処理に不整合を生じさせることが懸念されました。そこでIASBは、適格負債性金融商品についてOCIを通じてxx価値で測定する区分を導入するというIFRS第9号「金融商品」の限定的改訂を行うことにより、会計処理の不整合を緩和し、割引率の変動による保険契約負債の変動額をOCIで認識することを可能にしました。
(3)移行アプローチの見直し
本公開草案では、表示する最も古い期間の期首現在で存在する保険契約について新たな基準書を遡及適用し、履行キャッシュ・フローと契約上のサービス・マージンの合計額として保険契約負債を測定することを提案しています。ただし、遡及適用が実務上不可能な場合には、履行キャッシュ・フローは、表示する最も古い期間の期首現在の仮定に基づき測定し、契約上のサービス・マージンは、合理的に利用可能で客観的なすべての情報を考慮して、当初認識時における予想に基づいて見積ることを提案しています。
2010年公開草案では、新たな保険契約に関する基準書への移行措置として、表示する最も古い期間の期首現在において、既存の保険契約ポートフォリオにおける契約上のサービス・マージンを測定しない(ゼロとする)ことを提案していました。しかし、この提案は保険者の将来の収益性、特に長期の保険契約を取り扱う保険者の収益性に対して重要な影響を与えることが懸念されたため、本公開草案では新たな移行アプローチが提案されました。
(4)本公開草案における履行キャッシュ・フローの再測定による影響の会計処理
最後に、本公開草案における履行キャッシュ・フローの再測定による影響の会計処理について以下に整理します。
◦ 将来の保険カバーおよびサービスに関連する将来キャッシュ・フローの現在価値の見積りの変動について、契約上のサービス・マージンを調整する。ただし、将来キャッシュ・フローの現在価値の見積りの不利な変動が契約上のサービス・マージンの残高を超過する部分については、当期純利益を通じて認識する(2010年公開草案からの変更点 前述(1)①を参照)。
◦ 上記以外の将来キャッシュ・フローの現在価値の見積りの変動は、当期純利益を通じて認識する。
◦ 割引率の変更に起因する保険契約負債の変動は、OCI を通じて認識する(2010 年公開草案からの変更点 前述(2)②を参照)。
◦ リスク調整の変動は、当期純利益を通じて認識する。
また、前述の4つの構成要素(ビルディング・ブロック)と、履行キャッシュ・フローの再測定および契約上のサービス・マージンの調整による会計処理との関係については、図表3のとおりです。
3. 本公開草案のその他の主な提案
(1)保険契約の定義と適用範囲
保険契約とは「一方の当事者(保険者)が、もう一方の当事者(保険契約者)から、特定の不確実な将来事象(保険事故)が保険契約者に不利益を与えた場合に保険契約者に補償を行うことを同意することにより、重要な保険リスクを引き受ける契約」と定義されています(本公開草案Appendix A参照)。この定義に該当する契約を発行している場合にはIFRS「保険契約に関する基準書」が適用されるため、保険会社以外の企業がそのような契約を発行している場合にも同基準が適用されます。また、保険契約発行者が提供する裁量権のある有配当性を含む投資契約、従前から保険契約として会計処理されている金融保証契約についても保険契約の会計処理が適用されます。
(2)保険契約から区分される要素
保険契約にはいくつかの構成要素に分解できるものがあり、その要素が別個の契約であったならば他の基準書が適用されるケースがあります。そのような構成要素として、組込デリバティブ、投資要素、および物品またはサービスを提供する履行義務が挙げられています。本公開草案は、2010年公開草案
当 初 測 定:
ビルディング・ブロック1
ビルディング・ブロック2
ビルディング・ブロック3
ビルディング・ブロック4
ゼロ
契約上の
サービス・マージン
予想キャッシュ・インフロー
割引計算
予想キャッシュ・アウトフロー
リスク調整
表 示 の 変 更:
ロックインされた割引率による利息費用の計上: 当期純利益
マージンの解放:当期純利益
リスク調整の変更: 当期純利益
割引率の変更: OCI
将来のサービスに関連する変更と相殺
将来のサービスに関連する
キャッシュ・フローの変更: xxxxと相殺※
図表3 ビルディング・ブロック・アプローチにおける認識パターン
※ 契約上のサービス・マージンがない場合には、当期純利益を通じて認識出典:KPMG IN THE HEADLINES / Insurance Contracts
過去および現在のサービスに関連するキャッシュ・フローの変更: 当期純利益
サービスに関連しないキャッシュ・フローの変更: 当期純利益
における提案を引き継ぎ、図表4で示すように、一定の要件を満たす場合に、そのような構成要素があたかも別個の契約であるかのように区分して他の基準書を適用することを提案しています。
(3)認識および認識の中止
◦ 企業が特定の保険契約者のリスクを再評価する権利または実務上の能力を有し、リスクを完全に反映する価格を設定できる時
◦ 次の両方を満たす時
– 企業が保険契約のポートフォリオのリスクを評価する権利または実務上の能力を有し、ポートフォリオのリスクを完全に反映する価格を設定できる。
– その時点までの保険カバーに対する保険料の価格設定が将来期間に関連するリスクを考慮していない。
本公開草案は、保険契約を以下のいずれかのうち最も早い時点で当初認識することを提案しています(本公開草案第12項参照)。
xx・xxxを将来の契約に関連するキャッシュ・フローと区別するための契約の境界線が必要となります。本公開草案は、 2010年公開草案の提案を見直し、企業が保険契約者に保険料の支払いを要求できるか、もしくは保険契約者に対して保険カバーまたは他のサービスを提供する実質的な義務を負う場合に、キャッシュ・フローをその保険契約の境界内に含めることを提案しています。そして、保険カバーまたはサービス提供の実質的な義務は、次のいずれかの時点で終了するとみなすことを提案しています(本公開草案第23項参照)。
◦ カバー期間開始時
◦ 保険料の最初の払込期日
◦(該当する場合)保険契約ポートフォリオが不利な契約であると認識した時点
また、本公開草案は、保険契約負債(またはその一部)が消滅した時(保険契約で定められた義務から免除、解約または期間満了となった時)にのみ、財政状態計算書から保険契約負債
(またはその一部)の認識を中止することを提案しています。
(4)測定
① 契約の境界線
保険契約の測定においては、既存の契約に関連するキャッ
図表4 保険契約から区分される構成要素
組込デリバティブ
組込デリバティブの経済的特徴およびリスクが主たる保険契約の経済的特徴およびリスクに密接に関連しておらず、かつ、組込デリバティブと同一条件の別個の契約がデリバティブの定義を満たす場合、主たる保険契約から区分して、IFRS第9 号または IAS 第 39 号に従いxx価値で測定する。
物品およびサービスを提供する履行義務
物品およびサービスを提供する履行義務を明確に区分できる場合、保険契約から区分して収益認識に関するガイダンスを適用する。
区分できる場合とは、
または
投資要❹
製品およびサービスを提供する履行義務を明確に区分できる場合、保険契約から区分して収益認識に関するガイダンスを適用する。
高い相互関連性があることを示す指標
区分できる場合とは、
同一の市場または地域で通常個別に販売しているまたは販売可能である
投資要素と保険要素のそれぞれが他方の存在なしでは便益を生み出さない
投資要素と保険要素のそれぞれが他方の要素なしでは測定できない
顧客がそれ単独で、または容易に入手可能な他の財・サービスと組み合わせて便益を受けることができる
同一の市場または地域で通常個別に販売している
② 将来キャッシュ・フロー
本公開草案は、2010年公開草案における提案と同様に、将来キャッシュ・フローを、測定日現在の仮定に基づいて、(単一の最も可能性の高い値としてではなく)期待値として見積ることを提案しています。ただし、将来キャッシュ・フローの見積りが測定目的と整合している限り、期待値を見積る際に、発生する可能性のあるすべてのシナリオを特定または測定することまでは要求しないことを明確にしています。
③ 割引計算
本公開草案は、2010年公開草案における提案と同様に、保険契約負債の特徴を反映する割引率により、将来キャッシュ・フローに貨幣の時間価値を反映することを提案しているものの、その具体的な決定方法は示していません。ただし、適用ガイダンスにおいて、割引率の決定方法としてトップ・ダウン・アプローチおよびボトム・アップ・アプローチが取り上げられています(本公開草案B70項参照)。
④ リスク調整
リスク調整は、企業が保険契約を履行することにより生じるキャッシュ・フローの金額と時期に関する不確実性を負うことに対して要求する対価と定義されています。本公開草案は、リスク調整を見積る際には、保険者のリスク回避の度合いを反映する方法で、有利・不利の両方の不確実性による結果を考慮することを提案しています。ただし、リスク調整の具体的な測定方法は提案されていません。
⑤ 契約上のサービス・マージン
契約上のサービス・マージンについて本公開草案は、2.(1)
①で述べた履行キャッシュ・フローの再測定時の調整を除き、
Ⅳ 保険会社経営に与える影響
2010年公開草案における提案を引き継いでおり、本公開草案においても次の会計処理が提案されています(本公開草案第 30項、第32項参照)。
◦ 当初認識時における割引率を用いて契約上のサービス・マージンに対する利息を認識する。
◦ 保険契約に基づいて提供されるサービスの移転を最も適切に反映する規則的な方法により、保険カバー期間にわたって契約上のサービス・マージンを認識する。
最後に、本公開草案の適用は保険会社に限定されるわけではありませんが、最も大きな影響があると想定される保険会社への影響について以下で考察します。
⑥ 新契約費
本公開草案は、保険契約獲得時に生じるすべての直接コストである新契約費を、成約に至ったか否かにかかわらず、履行キャッシュ・フローに含める(すなわち、発生時費用処理しないまたは繰延新契約費として別個認識しない)ことを提案しています。
(5)簡素化された測定アプローチ
本公開草案は、保険契約を履行キャッシュ・フローと契約上のサービス・マージンの合計として測定する原則的な測定アプローチのほか、一定の要件を満たす保険契約について保険料配分アプローチに基づく簡素化された測定アプローチを提案しています。この簡素化された測定アプローチでは、保険カバーの未経過期間に対応する保険契約負債は、保険契約の当初認識時点で受け取った保険料から直接新契約費を控除して測定し、当該負債はその後のカバー期間にわたって規則的な方法で配分されます。なお、簡素化された測定アプローチは、その測定値が原則的な測定アプローチによる測定値と合理的に近似している場合および保険カバー期間が1年以内の保険契約について、適用することができます(強制ではない)。
(6)表示
本公開草案は、保険契約に係る権利および義務を純額で財政状態計算に表示することを提案しています。ただし、資産ポジションとなる契約ポートフォリオと負債ポジションとなる契約ポートフォリオとを相殺表示することはできず、また、元受保険契約と再保険契約は区分して表示します。
Ⅲ 適用日
本公開草案は、適用日の提案をしていません。ただし、基準書の発行日から適用日までの期間を概ね3年とすることが提案されています。
1. 当期純利益および純資産のボラティリティの増大と会計上のミスマッチ
今回の提案により、保険契約負債を毎期ロック・インされた仮定を使用するのではなく、現在価値に基づいて再測定することが必要となるため、大部分の保険会社の当期純利益および純資産のボラティリティは全体的に増大することになります。これは特に、保険負債の測定および保険会社が保険契約負債の裏付けとして保有する資産の測定が、金利変動に対してそれぞれ異なる反応を示す際に生じるボラティリティに関連しています。本公開草案は、IFRS第9号「金融商品」の改訂案とともに、この当期純利益のボラティリティを「軽減する」ことを目的としており、割引率の変動が保険者の負債および一部の金融資産の評価に及ぼす影響は、損益計算書から除外され OCIに表示されることで、会計上のマッチングが図られます。ただし、保険契約負債に対応する金融資産をIFRS 第9号に 基づいてOCIを通じてxx価値で測定する区分(FVOCI)では
なく、当期純利益を通じてxx価値で測定する区分(FVTPL)または償却原価区分に分類している場合には、この規定によって新たな会計上のミスマッチが生じる可能性があります。また、たとえ金融資産がFVOCIに分類されている場合であっても、その資産が売却される場合には会計上のミスマッチが生じる可能性があるため、必ずしも企業の経営成績を適切に表現しない場合が想定されます。
2. 表示方法の変更に伴う財務諸表利用者への影響
現行の保険会社の損益計算書のトップラインには、保険契約者から受領した保険料が表示されています。しかし、本公開草案の提案では、純損益及びその他の包括利益計算書のトップラインで表示される保険契約収益は実際に保険契約者から受領する保険料とはまったく関係のない、保険金等支払額の見積りやリスク調整の変動額、契約上のサービス・マージンの解放額などを積み上げた金額で表示されることになります。そのため、財務諸表作成者および市場関係者双方にとって、新しい表示方法への対応には、多大な時間および労力を要する可能性があります。
3. システム、プロセスおよび人員への予想される重要な影響
本公開草案で提案されている保険契約負債の測定手法には、割引率の決定やリスク調整など複雑な計算を必要とするものも含まれており、実務上これらに対応するためには大規模なシステム構築が必要になることが予想されます。また、このような複雑な計算実務の実施可能性に加え、現状の決算スケジュールでその監査対応まで含めて実施する場合の実現可能性といった影響も考えられます。そして、これらに対応するための人的リソースをどのように確保するかについても重要な経営上の課題と考えられます。
本公開草案については、IASBはコメント募集に加え、アウトリーチ活動とフィールドテストを行う予定です。特にフィールドテストでは、本公開草案で提案されている内容が、技術的な観点や費用対効果の観点から実務的に対応可能なレベルかどうかが明らかになると思われます。コメント募集、アウトリーチ活動、フィールドテストによって明らかになった本公開草案の課題については、今後IASBにおいて、最終基準化に向けてさらなる議論が必要になるかもしれません。
本稿に関するご質問等は、以下までご連絡くださいますようお願いいたします。
有限責任 あずさ監査法人 IFRS 本部
TEL: 03-3548-5112(代表番号)