~連合本部、高知市、札幌商工会議所 WEB ページ等を参考に会計局作成
公契約のもとで働く人の賃金について
1 (一般的な)労働契約のもとで働く人の賃金
労働契約のもとで働く人の賃金は、労働者と使用者の合意によって決定されるが、最低賃金額以上で定めなければならない。
◆労働契約法(平成 19 年法律第 128 号)第 6 条
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
◆最低賃金法(昭和 34 年法律第 137 号)第 4 条第 1 項
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 公契約における労働条項に関する条約(ILO第 94 号条約)
国際労働機関が 1949 年に採択した条約(1952 年発効)。公契約は法定の最低賃金よりも有利な労働条件を定めるべき旨を規定しているが、日本は批准していない。
条約の概要(ILO駐日事務所WEBページより)
この条約は、公の機関を一方の契約当事者として締結する契約においては、その契約で働く労働者の労働条件が、団体協約または承認された交渉機関、仲裁裁定あるいは国内の法令によってきめられたものよりも有利な労働条件に関する条項を、その契約の中に入れることをきめたものである。
3 最近の動き
(民間委託・競争入札の拡大)
近年の地方財政の悪化に伴い、公共施設の運営管理が民間事業者に委ねられる事例が増えたことや、公共工事の減少傾向が続いたことに加え、契約の相手方の選定にあたって競争入札の導入拡大が図られたことに伴い、これらの業務従事者の賃金が低下した、との指摘がなされるようになった。
(公契約に関する条例制定)
そうした中、首都圏の自治体を中心に、法に基づき定められた最低賃金を上回る賃金の下限額(作業報酬下限額)を定め、受注者や下請け業者等に対して、その額以上を従事者に支払うよう求める条例を制定する動きがある。
資料2
平成21 年9 月にxx県xx市で初めて制定され、現在は8 自治体で制定されている。
xx県:xx市公契約条例
xxx:xx区公契約条例、xx区公契約条例、国分寺市調達基本条例、多摩市公契約条例
神奈川県:xx市契約条例の一部改正、相模原市公契約条例、厚木市公契約条例
一方で、「作業報酬下限額」の規定がない、契約に関する条例を制定する自治体もある。
xx県:xx市公契約基本条例、山形県:山形県公共調達基本条例、 群馬県:xx市公契約基本条例、xxx:江戸川区公共調達基本条例、高知県:高知市公共調達基本条例
作業報酬下限額に関する規定を含む条例制定の当否をめぐっては、各自治体で様々な議論があり、兵庫県尼崎市、北海道札幌市では、議会において条例案が否決されている。
4 公契約のあり方検討と「作業報酬下限額」
愛知県では、「公契約を活用して、幅広く政策を推進できないか」との切り口から、検討を行っているが、この「作業報酬下限額」の導入は、推進すべき政策分野の1つである“xx労働の確保”の一側面ととらえることもできる。
全国各地の自治体では、この「作業報酬下限額」導入の当否をめぐり、様々な議論がなされており、考え方を整理しておく必要がある。
「作業報酬下限額」導入の是非をめぐる意見の例
~連合本部、高知市、札幌商工会議所 WEB ページ等を参考に会計局作成
◆導入すべき、との意見
(労働者をとりまく環境)
・ 過当競争で受注価格が低下し、賃金など労働条件の悪化を招いている。
・ 下請けの重層構造の中で、現場で働く労働者の賃金が削減されている。
・ 他の産業と比べて、建設技能者の賃金が低く、若年層が入職しない。また、近年、公共工事の設計労務単価が下落しつづけてきた。
(行政サービスの質の向上)
・ 賃金など労働条件の確保で、行政サービスの質の維持・向上につながる。
(その他)
・ 公契約において、法定の最低賃金よりも有利な労働条件を定めるべき旨を規定するILO条約は、普遍的な理念に基づく国際的な要請と考えるべきである。
・ 法定最低賃金と違い、公契約は「当事者の合意」であり、法令上問題ない。
◆導入すべきでない、との意見
(既存の取組が重要)
・ 最低制限価格の引き上げなど、入札制度の改善をまず行うべきであり、仕様書をしっかり作り履行をチェックすれば、良質なサービスが維持可能だ。
・ 公共工事については、品質確保法や経営事項審査などの取組が進んでいる。特に、平成 25 年度からは公共工事設計労務単価が 15%上がったので、改善が進む。
・ 公契約に従事する者とそれ以外の者との賃金格差が生じかねないが、それは同一労働同一賃金の原則に反する。賃金の底上げは法律(最低賃金法)で対応すべき事案である。
(法令・実務上の課題)
・ そもそも、労働者の賃金は労使間の合意で定めるべきであり、最低賃金を上回る労務賃金の支払いを強制することは、企業経営への介入である。
・ 下請の賃金支払状況の把握、立入調査などは、事務作業の煩雑化を招く。
・ 設計労務単価の一定割合を作業報酬下限額にするという、その数値(85%:xx市、90%:xx市)には合理的な根拠がない。