medU-net ライセンス管理ワーキンググループ
ライセンス契約における各条項の考え方
平成24年9月
medU-net ライセンス管理ワーキンググループ
目次
はじめに
medU-net ライセンス管理ワーキンググループ委員名簿
ライセンス契約についての考え方… 1
ライセンス契約における各条項の規定例… 3
Ⅰ.一般的なライセンス契約条項… 3
Ⅱ.各条項の規定例… 5
1.定義… 5
2.実施許諾… 7
3.技術援助… 8
4.対価及び支払方法… 9
5.対価不返還… 11
6.実施報告… 11
7.帳簿の保管及び監査… 12
8.特許権の維持… 13
9.実施義務… 14
10.不争条項… 16
11.表示… 16
12.有効期間… 17
13.秘密保持… 18
14.第三者に対する侵害… 19
15.第三者による侵害… 19
16.発明の不保証… 20
17.製造物責任… 21
18.関連発明及び改良技術… 21
19.解約・解除… 22
20.譲渡等の禁止… 22
21.損害賠償… 23
22.裁判管轄… 23
23.存続条項… 23
24.完全合意… 24
25.協議… 24
おわりに
近年、大学、研究機関における研究成果を社会に還元するため、産学連携が盛んに行われるようになり、大学、研究機関の保有する知的財産を外部企業にライセンスする機会が増えてきています。
一方、大学、研究機関においては、知的財産のライセンスについての経験が少なく、ライセンスの実例についても多くは公表されていないことから、各大学、研究機関で個別にライセンス契約時の課題について取り組んでいる現状があります。
このような状況を踏まえ、経済産業省知的財産政策室では、大学、研究機関と企業とがライセンス契約を結ぶ際の基本的な姿勢や、契約条項で留意すべき観点について、各大学の知見を集約し、契約上の参考となる「考え方」を策定するという medU-net 様の活動をささやかながらお手伝いさせていただくことができました。
この検討においては、弁護士、弁理士、公認会計士、企業関係者、大学、研究機関関係者といった幅広い知見を有する方々と共に、大学、研究機関の間だけでなく、ライセンス先となる企業との間でも共通理解が得られるような「考え方」を提示することを目指すという共通理解の下で作業を進めました。
本「考え方」が、大学、研究機関において研究開発を行う方々や、ライセンス契約を担当される皆様のご参考となれば幸いです。
経済産業省 経済産業政策x x的財産政策室
medU-net ライセンス管理ワーキンググループ委員名簿
(委員)
xx | xxx | 東京医科歯科大学 研究・産学連携推進機構 准教授 産学連携研究センター長 |
大x | x | medU-net 事務局長 東京医科歯科大学 監事 |
xx | xx | 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究推進センター調査研究部長 |
同教授 産官学連携推進本部 副本部長 弁理士 | ||
xx | x | 株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 研究開発部 上席研究員 |
xx | xx | 新日本有限責任監査法人 |
国際部 財務会計アドバイザリー シニアパートナー 公認会計士 |
x xx 新日本有限責任監査法人
国際部 財務会計アドバイザリー マネージャー 公認会計士xx xx xx・xx国際特許事務所 弁理士
xx xx 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター企画経営部 企画医療研究課 課長
xx xx TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士
xx x 経済産業省 経済産業政策x x的財産政策室 課長補佐xx xx Japan IP Network 株式会社 代表取締役
(オブザーバ)
xx | xx | 札幌医科大学 医学部 医科知的財産管理学 教授 medU-net 運営委員長 |
xx | xx | 国立精神・神経医療研究センター 臨床研究顧問 医学博士 |
xx | xx | 経済産業省 経済産業政策x x的財産政策室 |
(事務局)
xx xx 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
知的財産コンサルティング室 室長
xx xx 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング
知的財産コンサルティングx xx研究員
基礎研究から製品化に至る技術開発のプロセスが短縮され、その間のフィードバックが重要となる中、大学、研究機関(以下「アカデミア」という)と産業界との連携の必要性は高まり、社会貢献や学術研究の進展の観点から、多くのアカデミアで産学連携が推進されています。
産学連携の形態は様々ですが、アカデミア発の研究シーズないし技術を、産業界で事業化を目指す目的で行われるライセンス活動は、科学技術によるイノベーションの促進に大きな役割を果たすと捉えられます。ライセンス活動を通じ、科学技術の発展を実現するには、大学と企業とが、共通の目的を前提とした信頼関係を構築し、共に努力をしていくことが必要となります。そこで相互にライセンス活動を行う目的・役割等を確認するためライセンス契約を締結し、当該契約条項に従って、信頼関係を維持・発展させていくことが、必要不可欠となります。
以上のような基本認識に基づき、大学と企業間でのライセンス契約の締結に際して、以下のような方針を提案いたします。
①契約書の内容について十分に理解・納得をしてから契約を締結するため、双方から必要な説明や資料の提出を行います。
契約書はお互いの信頼関係構築に向けた最初の重要なステップですから、必ず契約書の内容について不明な点や疑義がないようにするため、双方から必要な説明や資料(例えば会社や大学の概要書、製品や技術の説明資料、製品や技術の利用状況等)の提出を行います。
②不必要なトラブルを避けるため、ライセンス契約に係る条件について明記した契約書を作成します。
明確な契約書を締結することは、信頼関係を構築する上で必須です。特に許諾の範囲や経済上の対価についてはトラブルの多いところですので、お互いに不必要な迷惑を掛けないようにするため、明確に取り決めることが重要です。特に医療系の技術がライセンス契約の目的となっている場合には、製品化・事業化の過程で当事者が当初想定していた以上の経済的価値を持つに至ることもありますので、事前に十分な認識合わせをしておくことが必要です。
1 このペーパはライセンス契約の相手方企業に対して、基本的な考え方を簡潔に示すことを目的としており、契約締結に際して重要となるポイントを網羅的に示したものではありません。実際の契約に際しては学内はもとより、適宜専門家の助言を得る等して、お互いに誤解が無いようにすることが肝要です。
③契約内容の遵守状況について定期的に確認するため、実施報告書を作成します。
小さな疑義であっても長期に亘って積み重なれば大きな不信につながります。その為、双方から例えば半年毎に契約内容の履行状況を積極的に確認します。その前提として、定期的に実施報告書を提出して相互の信頼関係構築に努めます。
④契約締結後もお互いに疑義が発生した場合には、すぐに双方で確認をします。
疑義が発生した場合にこそ、その原因を客観的に明らかにすることで、疑義が相手への不信感へと発展しないように、十分なコミュニケーションを取る必要があると考えます。疑義が生じた場合は、すぐに双方で協議を行ったり、その根拠となる証跡等を確認したりすることが有効です。
ライセンス契約における各条項の規定例
Ⅰ.一般的なライセンス契約条項
ライセンス契約において規定される一般的な項目は、以下の通りである。なお、各項目について、下記の分類を行い、ライセンス契約ないしライセンス管理において特に重要となる項目(カテゴリ A)については、目的や状況において使い分けられるよう、条項の例文を複数掲載した。
カテゴリ凡例:
A_特にライセンス管理上重要な条項
B_契約実務/法務的観点から一般的に重要な条項 C_その他一般的に規定される条項
項目 | カテゴリ | 詳細 |
1.定義 | B | 定義される項目の例としては、以下の通りです。 「本件製品」「本件特許権」「本特許等」「本技術」 「許諾地域」 「技術情報」「秘密情報」 「正味販売価格」「純販売価格」「控除費用」「計算期間」 「実施報告書」「販売報告書」 |
2.実施許諾 | A | ライセンスにかかる具体的な実施態様、地域、期間、独占的か否 か、その他の付加条件が規定されます。 |
3.技術援助 | A | 実施にあたって技術指導が必要な場合、その援助義務及びその条 件を定めます。 |
4.対価及び支払方法 | A | 実施権の許諾/技術情報の開示の対価及びその支払方法を定めます。実施料が実施金額に基づいて定められる場合、実施金額の算 定方法についても定めます。 |
5.対価不返還 | B | 一旦支払われた対価は返還されない旨を定めます。 |
6.実施報告 | A | ライセンシーが実施(生産/販売)した数量、売上高の報告方法、 報告すべき頻度、期間等を定めます。 |
7.帳簿の保管及び監査 | A | 実施料が適切に支払われているか、監査を行う権利を定めます。 併せてライセンシーが保管すべき帳簿とその期間等を定めます。 |
8.特許権の維持 | A | ライセンスの客体である特許権の維持義務、訂正の際の承諾義務 等を定めます。 |
9.実施義務 | A | ライセンシーの実施義務を定めます。 |
10.不争条項 | A | ライセンシーが特許の有効性を争わないことを定めます。 |
11.表示 | A | 特許表示、或いはライセンス契約に基づく製品であることの表示 義務(又は表示が可能である旨)を定めます。 |
12.有効期間 | B | 契約の有効期間、自動延長の有無などを定めます。 |
13.秘密保持 | A | 契約に際して取得する相手方の営業秘密等の情報に関する開 示・漏えい禁止を定めます。残存義務の対象とすることが多い条項です。 |
14.第三者に対する侵害 | B | 特許発明の実施による侵害についてライセンサーの免責を定め ます。 |
15.第三者による侵害 | B | 多くは、第三者による侵害排除につき協働して行う旨を定めま す。 |
16.発明の不保証 | B | 発明の有効性/実施可能性についてライセンサーが保証するもの ではない旨を定めます。 |
17.製造物責任 | B | 実施品について製造物責任を問われた場合のライセンサーの免 責を定めます。 |
18.関連発明及び改良技術 | A | ライセンシー(又はその従業員)による改良発明があった場合の ライセンサーへの通知義務を定めます。 |
19.解約・解除 | B | 債務不履行等に基づく解約の条件を定めます。 |
20.譲渡等の禁止 | A | 契約上の地位或いは権利/義務の譲渡/移転/担保提供などを禁止 する旨を定めます。 |
21.損害賠償 | C | 契約違反から生じた損害に対する賠償義務を定めます。 |
22.裁判管轄 | C | 第xxの専属的合意管轄を定めます。 |
23.存続条項 | C | 契約終了後も権利/義務関係が残る条項を定めます。 |
24.完全合意 | B | 他の契約に優先して本契約が適用される旨を定めます。 |
25.協議 | C | 誠実に協議に応じる旨が通常規定されます。 |
その他 | - | - |
Ⅱ.各条項の規定例
1.定義
(1)「本件製品」の定義
<規定例>
「本件製品」とは、その製造、使用又は販売が本件特許の特許請求の範囲に含まれる製品をいう。
[コメント]
製品と発明・特許権との関係について規定されます。表現は種々考えられますが、当該製造・使用・販売等の実施行為がライセンス対象である特許発明の技術的範囲に属するものを「本件製品」として捕捉しておくことが肝要です。
(2)「特許」「技術」に関する定義
<規定例>
「本件特許」とは、以下の特許出願及び当該特許出願に基づき付与された特許をいう。
(1)出願番号:特願○○○○-○○○○○○
出願日 :○○○○年(平成○○年)○○月○○日出願国 :日本国
甲整理番号 :○○○○
(2)本号(1)に定める出願により生じた優先権の主張に基づく日本国又は日本国以外の国ないしは地域における出願(特許協力条約に基づく国際出願及び当該国際出願に基づく指定国移行出願を含む。)
(3)本号(1)又は(2)に定める出願の変更出願、分割出願、一部継続出願若しくは継続出願
[コメント]
出願番号により発明を特定する場合、地域的な外延、また分割、変更等を行った場合の属否について留意が必要です。
(3)「技術情報」「秘密情報」に関する定義
<規定例:「技術情報」>
「技術情報」とは、本件製品の製造(及び販売)に関して、甲が本契約締結日現在所有している技術知識、ノウハウ、資料及び図面等を意味し、本契約の付属書に記載されているものをいう。
<規定例:「秘密情報」>
秘密情報とは、本技術の実施許諾にあたり、他の当事者から提供又は開示を受けた情報であって、媒体の如何を問わず、媒体に秘密である旨の表示がされた情報、及び口頭等の媒体を伴わない方法で開示され、かつ開示後30日以内に書面で開示者から特定された情報をいう。但し、以下の各号の一つに該当することを証明できる情報については、秘密情報から除外する。
(1)提供又は開示を受けた際、既に自己が保有していた情報
(2)提供又は開示を受けた際、既に公知となっている情報
(3)提供又は開示を受けた後、自己の責めによらずに公知となった情報
(4)正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報
(5)他の当事者から開示された情報によることなく独自に開発・取得した情報
(6)開示当事者から、開示についての事前の書面による同意を得た情報
[コメント]
契約の客体を定義するものであり、当事者間の認識の一致が特に求められるものです。
「技術情報」については、必要に応じ別紙で詳細に定めたり、或いは出願明細書の記載事項をもって特定する例が見られます。また「秘密情報」として有効に保護されるためには外延を明確にすることが重要です。このため、適用除外規定を設けることなどが行われています。なお、ライセンス契約書とは別途、「秘密保持契約書」、「秘密保持誓約書」を締結することと契約書上定めておく例もあります。
(4)ロイヤリティの算定に関わる定義
<規定例:「正味販売価格」>
「正味販売価格」とは、本件製品の販売価格から控除費用を控除した金額をいう。ただし、当該控除は、当該販売価格の20%を上限とする。なお、本件製品の販売価格が税務当局より不xxなものと認定されたときは、当該本件製品の販売価格は、甲及び乙が書面にて合意した独立企業間価額に基づき算出されるものとする。
「控除費用」とは、乙が第三者に対し支払った、本件製品の販売に要するところの以下の費用であって、当該支払いにつき証明可能なものをいう。ただし、控除費用は、販売報告書に記載があったものに限定される。
(1)梱包費、運送費若しくは輸送費、倉庫料、又は商社手数料
(2)運送又は輸送に係る保険料
(3)消費税、物品税又は付加価値税その他本件製品の販売に直接課せられる租税公課
(4)関税
<規定例:「販売報告書」>
「販売報告書」とは、乙が作成する書面であって、各許諾地域の許諾製品の販売数量、販売価額、並びに乙から甲に支払われる対価が記載された報告書をいう。
[コメント]
実施料の算定根拠、或いは報告要件を定める基礎となる定義です。対価の条項で別途定義している例もあります。控除費用について明記することで見解の相違を防ぐことができる場合があります。
2.実施許諾
<規定例1>
1.甲は、乙に対し、○○○の製造、販売の通常実施権を許諾する。
2.前項で許諾された通常実施権の期間は本契約発効日から○年間とする(以下「実施期間」という。)。
3.乙は本契約で許諾を受けた実施権を第三者に移転してはならず、本件特許の実施権に対して質権、抵当権又は譲渡担保を設定してはならない。
<規定例2>
1.甲は、乙に対して本特許等の独占的実施権(再実施権は含まない。)を許諾する。
2.甲は、乙が本契約を交わした後3年間実施しないときは、第三者に実施許諾することができ、乙はこれに同意するものとする。
<規定例3>
1.甲は、乙に対し、本契約の契約期間中、以下の各号に定める行為をすることについて、本件特許に基づき本件発明の実施を許諾する。
(1)本件許諾地域において本件製品を製造すること
(2)本件許諾地域において本件製品を販売(販売の申し出を含む。)すること
(3)本件許諾地域に本件製品を輸入すること
(4)本件許諾地域より本件製品を輸出すること
2.xは、本契約締結の日の翌日から起算して○年間、第三者に対し、本件特許に基づき本件発明の実施を許諾しない。ただし、以下の各号のいずれかに該当するときは、その理由の如何を問わず、甲は、乙に対する通知をもって、第三者に対し、本件特許に基づく本件発明の実施許諾をすることができる。
(1)本契約締結の日の翌日から起算して○年以内に、本件製品の製造又は販売が開始されないとき
(2)本件製品の製造又は販売が開始された翌年1月1日から起算して○年が経過し
たとき
(3)本件製品の製造又は販売の開始後において、本件製品の販売が○○台未満である状態が、計算期間を基準として○期以上継続しているとき
[コメント]
実施許諾の具体的内容を規定します。独占的か否か、再実施許諾を認めるか否か、独占的とする期間とその条件、留意すべき点が多い項目です。
独占的条項を無条件で定めると、ライセンシーにおいて実施困難な事情が生じた場合等に対応が難しくなる場合があります。そうした場合に備え、<規定例2>のように所定期間不実施を独占的条項の解除条件とする規定もみられます。
3.技術援助
<規定例>
1.xは○○受領後30日以内に技術情報を乙に開示する。
2.甲は、前項の技術情報の開示後乙の要請に基づき、乙の技術者に対し本件製品の製造に関する技術指導を甲の施設で行うことに同意する。
3.甲は、乙の要請に基づき、乙の技術者に対し本件製品の製造に関する技術指導を乙の工場で行うことに同意する。
4.乙が本条2項及び3項以外の特別の技術援助を要請した場合、甲は事情が許す限り有償で乙の技術援助を行う。
[コメント]
特許権についてライセンスを供与しても、それだけで実施の道筋が立たない技術も想定されます。そうした場合、多くはライセンシーの要請に応じて技術指導を行う旨の合意をしておく場合があります。この場合、「条件等については別途協議の上で契約を締結する」といった文言を入れたり、原則的な費用負担のルールは本契約で定め、詳細は別途決定するとするのが一般的です。
4.対価及び支払方法
<規定例1>
乙が甲に支払う実施料は、売上金額に○%の料率を乗じた金額(消費税別)に○○%を乗じた金額とする。
<規定例2>
乙は、本契約に基づく本件特許の実施許諾の対価として、次のとおり甲に支払う。
(1) 一時金: ○○万円。
(2) 実施料: 本発明の実施許諾の対価として本発明に係る製品の売上金額に○%を乗じた額とする。ただし、売上金額とは、梱包費、運送費、商社手数料、保険料、消費税を控除したものをいう。
<規定例3>
1.乙は、権利の許諾の対価として、甲に対して以下の各号の金額を支払うものとする。なお、以下の金額には消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を含まない。
(1) 契約時一時金として、本契約締結後2ヶ月以内に、金○万円也
(2) 本出願の特許登録時一時金として、本特許権の最初の登録から2ヶ月以内に、金
○万円也
(3) 経常実施料として、乙が販売する許諾製品の売上額(消費税等を含まない)に○%を乗じた金額(1円未満切り捨て)。但し、当該売上額が金○円に満たない場合、最低経常実施料として金○円也。
2.乙が前項に規定する対価をその支払期限内に支払わなかった場合には、甲は、その支払いがなされるまでの期間、乙に対して、年率〇%で計算した支払遅延利息を請求する。
[コメント]
対価の規定においては、一時金の有無、継続的実施料の算定根拠となる実施金額とその料率、最低実施料を定めるか否か、などの点につき留意して定めるべきです。「定義」の項でも述べたように、対価決定の根拠となる実施金額に関する定義を、本項において併せて規定する場合も多くみられます。「売上金額」「正味販売価格」など、ライセンサー/ライセンシーの両当事者において認識の相違がしばしば見られるところです。ロイヤリティ監査を経ることにより両者の認識擦りあわせがなされる場合もありますが、契約当初において曖昧になることを避ける規定を特に心掛けるべきところです。
対価決定の派生問題として、数値限定特許等でありがちなことですが、ライセンシーの実施態様が本件特許の実施品に該当するか否かで当事者間の紛争を惹起するxxxがまま見られます。このような場合の紛争解決をどうするか、例えば財団法人日本知財仲裁センターの仲裁を利用する旨の合意を予め締結するという方策も考えられます。
また、支払い遅延が発生することが実務上少なくないことから、<規定例3>の第2項のように遅延金の支払について明示するケースもあります。また海外取引の場合には、基準とする為替レートの特定(例えば、「各計算期間末日に発刊される○○新聞朝刊に記載の為替レート(TTS)に基づき」のように)や免税措置の手続負担などについても規定することを検討する必要があります。<規定例3>のような規定は、独占的な実施を定めているような場合で、契約内容を比較的厳密に定める場合に用いられることがあります。
【売上金額の考え方】
売上金額①を使用するメリット、デメリット:
<規定例1>のように別途「売上金額」の定義規定がない場合、「売上金額」が各種費用項目を含めた上記図中の売上金額①を指すと当事者が認識していることも考えられます。特に費用項目が多い製品等を製造しているライセンシーにとっては、事業部門等の現場でも売上金額として把握が容易な定義であり、実施報告も事業部門等で比較的容易に作成することが可能であると考えられます。一方で、費用項目を少なく報告するなどの方法で売上金額を少なく見せるということが考えられる為、疑義があった場合には、費用項目の計上が適正に行われているかどうかを検証するために個別の費用項目毎に証跡や帳簿等を確認する必要が発生し、検証のハードルが上がるというデメリットが考えられます。
売上金額②を使用するメリット、デメリット:
<規定例2>のように費用項目を列挙し、これを「売上金額」から控除している場合には、上記図中の売上金額②の意味となりますが、極力費用項目を減らし、正味販売価格ないし純販売価格とすることで、ライセンサーにとってもライセンシーにとってもロイヤルティ算定の根拠が明確となり、紛争の予防効果が期待されます。一方で、正味販売価格ないし純販売価格については経理部門等、管理部門でしか算出・把握していないケースも考えられ、その場合には実施報告書を事業部門で作成する際、個別に算出する
か、管理部門等に問い合わせを行ない、必要な係数データを入手するというプロセスが生じる場合があります。
5.対価不返還
<規定例>
本契約に基づき乙から甲に支払われた対価は、いかなる事由による場合でも返還されないものとする。但し、明らかな誤計算の場合を除く。
[コメント]
特許無効(不成立)となった場合の返還義務の有無には議論があるところです。しかし、権利が遡及消滅した場合にあっても現実には無効(不成立)確定までは有効なものとして扱われ、ライセンシーも利益を享受していたわけですから、返還義務はないと解すべきものと考えられます。本条項はこの点を明確に規定するものです。
6.実施報告
<規定例1>
1.乙は甲に対し、本契約締結後、毎年3月31日及び9月30日に先立つ6ヶ月間に販売した本件製品の販売数量、総販売額、控除すべき項目と金額、実施料及び技術指導料並びに消費税を記載した実施報告書を、それぞれ3月31日及び9月30日より15日以内に送付するものとする。
2.乙は、当該期間に本件製品の販売実績がない場合も、その旨を記載した報告書を甲に送付するものとする。
<規定例2>
1.乙は、本契約の有効期間中、各計算期間(4月1日~翌年3月31日とする。)における本発明の実施に係る製品の生産数量、販売数量、売上金額その他甲の指定する事項に関する報告書を作成し、当該計算期間終了後15日以内に甲に対して提出しなければならない。
2.乙は、前項にいう報告書に記載する事項に関しては適正な帳簿を備えるものとし、これを本契約有効期間中保存・保管するものとする。甲またはその代理人は必要に応じて当該帳簿を閲覧、検査することができる。
3.甲は、前項の帳簿閲覧、検査により知り得た乙の機密事項は第三者に開示・漏洩してはならない。また、前項以外のいかなる目的・用途にもこれを使用してはならず、当
該代理人に対しても本項に基づいて負うのと同等の義務を課すものとする。
<規定例3>
1.乙は、本件地域において本件製品の製造又は販売(販売の申し出を含む。)が開始されたときは、速やかに、甲に対し、書面にてその旨を報告するものとする。
2.乙は、本件地域において本件製品の製造又は販売(販売の申し出を含む。)が開始された以後、対価の支払いに先立ち、計算期間毎に、当該計算期間における本件製品の製造数量、販売数量、総販売価格、控除費用の費目及び金額並びに正味販売価格その他対価の算出に必要な事項を記載した報告書を作成し、甲に対し、当該計算期間の末日の翌日から起算して1ヶ月以内に当該報告書を送付しなければならない。
[コメント]
報告すべき期間(計算期間)につき、本規定、或いは定義において定めます。次の「帳簿の保管及び監査」と併せて規定されている例も多くみられます。
<規定例1>では、報告期間及び期限、実施実績が無い場合もライセンシーは報告義務を負う旨のみを規定しています。<規定例2>では併せて帳簿の保管及び必要に応じ監査を受けるべき旨が規定されています。<規定例3>では製造販売の開始の報告義務含め、より詳細に、報告書への記載事項、支払いに先立って報告書を提出すべき旨、までが精緻に規定されています。
実施の有無にかかわらず、ライセンシーの多くが、実施報告書自体について契約に従った提出を求める実務が多く見受けられます。ライセンスフィー算定根拠としての意味合いだけにとどまらず、別項(=9.)で定めるライセンシーの実施義務との関係において実施状況の管理の観点からも報告内容を把握する必要があると思われ、実施がない場合も含めて、実施報告書の提出を促すことが肝要です。
7.帳簿の保管及び監査
<規定例1>
乙は、本契約期間中及び終了後5年間、実施料支払いの基礎となる会計帳簿、その他の関係書類を保管する。甲は、本項の会計帳簿その他の関係書類を閲覧、検査できるものとする。
<規定例2>
1.乙は、実施料の報告、支払い基礎となる関係書類を保管するものとし、甲が必要と認めたときは、甲又は甲の指定する代理人に当該関係書類を監査させるものとする。
2.乙は、前項の報告及び関係書類を提出日から5年間保管管理するものとする。
3.甲及び甲の指定する代理人は、前項の監査により知り得た相手方の営業上及び業務
上の情報を、その目的以外に使用してはならない。
<規定例3>
1.乙は、販売報告書の基礎となった証票、会計記録及び帳簿等(以下「帳簿等」という。)を、販売報告書を基礎として算出される経常実施料の支払期限から5年間保存するものとする。
2.乙は、甲の要望に応じて、甲又は甲が指定する第三者に対して、乙の通常の営業時間中、帳簿等を閲覧させるものとする。
3.前項の閲覧に要する費用は甲の負担とする。但し、閲覧の結果、販売報告書に記載された経常実施料が、本来支払われるべき金額より○%超過少であった場合、当該費用は乙の負担とする。
4.販売報告書に記載された経常実施料が、本来支払われるべき金額より過少であった場合には、乙は経常実施料の未払い金額を弁済する。
[コメント]
帳簿の保管期間としては、「契約終了後○年」として定める場合と、個々の計算期間ごとに期限を定める場合とがあります。
ライセンサーの帳簿閲覧が可能な条件を「乙の通常の営業時間中」のように具体的に定めている事例もあります。
ロイヤリティ監査の結果、報告書との不一致が生じるケースは想定されるところです。
<規定例3>においては、そうした場合の費用負担について明確化し、特に過少申告で合った場合にはライセンシーに費用負担を求める旨を規定しています。
なお、実際の監査業務を代理人に委託することが想定される場合、<規定例2>にあるように代理人による監査を行い得る旨を明記しておくことが望ましいと思料します。また、監査によって差額が認識された場合にはその分の遅延損害金の支払いをペナルティとして規定することにより、ロイヤリティ監査の実効性をもたせることも有効な規定といえます。
8.特許権の維持
<規定例1>
甲乙は、本契約の有効期間中、本発明の特許を受ける権利又は特許権(以下、総称して
「本特許権」という)を維持するために最大の努力を払うものとする。
<規定例2>
1.甲は、許諾地域における本出願の権利化にかかる手続き、及び本特許権の維持にかかる手続きを、乙と協議の上で行うものとする。
2.乙は、甲が行う許諾地域における本出願の権利化にかかる手続き、及び本特許権の維持にかかる手続きについて、いつでも協議の申し入れをすることができるものとする。
3.乙は、甲が許諾地域における本出願の権利化にかかる手続き、及び本特許権の維持にかかる手続きを行うにあたり乙の承諾(特許法第127条その他の承諾をいう。)を必要とする場合、承諾を行うものとする。
4.乙は、本契約の有効期間中、許諾地域における本出願の権利化及び本特許権の維持のために必要な費用(弁理士、弁護士及び日本国外の現地代理人等の第三者に依頼してなした業務の費用並びに翻訳費用を含む)を負担するものとする。
5.乙は、前項に定める費用の負担を、当該費用に係る弁理士・弁護士等の債権者に対して直接支払うことにより行うものとする。なお、乙は、その負担額につき、甲に報告するものとする。
<規定例3>
甲は、本件許諾地域の全部又は一部において、本件発明に係る特許権に関し、明細書、特許請求の範囲又は図面を訂正するとき、又は本件発明に係る特許を受ける権利に関し、明細書、特許請求の範囲又は図面を補正するときは、事前に乙に通知し、当該通知をもって、乙はこれに同意したものとみなす。
[コメント]
特許権の維持にあたってはライセンシーの協力が必要な場面もあり、この点を予め定めている規定がみられます。<規定例1>は権利維持を双方の努力義務に留めるものです。一方、第三者との係争可能性がある特許については、訂正による権利維持が必要な場合も想定され、そうした際に備え予め契約書上定めておく(<規定例2>及び<規定例3>)ことは、ライセンサーが機動性をもった対処を行うにあたっては望ましいことと考えます。
9.実施義務
<規定例1>
乙は、本契約の有効期間中、本発明の実施に最大の努力を払わなければならない。
<規定例2>
乙は、本技術を用いた事業の実現に真摯かつ可及的速やかに取組むものとし、正当な理由なくこれに支障をきたしてはならないものとする。
<規定例3>
乙は、本技術を用いた事業の実現に真摯かつ可及的速やかに取組むものとし、正当な理由なくこれに支障をきたすことはできないものとする。乙が本技術を用いた事業を本
ライセンス契約締結後2年~5年以内に正当な理由なく実施しない場合は、通常実施権を放棄したものとみなす。
[コメント]
<規定例1>や<規定例2>のように、努力義務として定められる例も多いですが、
<規定例3>、或いは「2.実施許諾」の<規定例2>のように、一定期間の不実施をもってライセンス放棄や独占性の放棄を擬制する規定例もあります。実務上、5年では短いという理由から10年とする場合や、「実施に向けた努力が認められない場合」といった文言とする場合(例えば医薬を目的としたライセンス契約の場合)もあります。
10.不争条項
<規定例1>
甲は、乙が本件特許権の有効性を直接に又は間接に争ったときは、本契約を直ちに解除することができる。
<規定例2>
1.乙は、本契約期間中、本件特許権の効力を自ら争い、第三者をして争わせないものとする。
2.乙は、第三者が本件特許権の有効性を争う場合に当該第三者に本件特許権の有効性に関するいかなる情報も与えてはならない。
[コメント]
ライセンシーに対し、ライセンスされた特許の有効性について争わない義務を課す条項です。判定請求、先使用権の主張が不争行為にあたるかについては、いずれも特許自体の効力について争うものではなく、該当しないものと解釈されます。
なお、現実に特許権に明白な瑕疵がある場合にあっては、結局ライセンシーによる直接又は間接の行為を抑止することは困難であり、本条項の存在が一定の牽制にはなるとしても、過度に依存することはライセンサーとしては慎むべきところと思料します。
11.表示
<規定例1>
1.乙は、本品の表装に特許表示又は特許出願中表示を行うよう努めるものとする。また、特許表示が法令により義務付けられている国および地域においては、当該法令に従った表示を行うものとする。
2.乙は、本品の販売および提供等のために使用するカタログ、資料、広告等に当該品が、甲乙間のライセンス契約によるものである旨を、甲の同意を得た上で表示することができる。
<規定例2>
乙は、許諾製品及び許諾製品の販売等のために使用するカタログ、資料、広告等に、許諾製品が甲乙間のライセンス契約に基づく製品であること等、大学発の技術である旨を表示することができるものとする。但し、乙は、当該表示の態様について、事前の甲の書面による承諾を得るものとする。なお、当該表示により生ずる第三者からの請求、クレーム、責任その他あらゆる損害、費用につき、甲は一切責任を負わないものとし、乙は自らの責任においてこれを解決するものとする。
<規定例3>
1.本件発明について本件許諾地域において特許権の設定の登録がなされたときは、本件製品の販売及び宣伝広告を行うに際して、乙は、特許権に基づく保護を受けるために法令により特許表示が義務付けられている国においては、当該表示を行うものとし、また、その他の国においても当該表示を行うよう努めるものとする。なお、当該表示は、適用される法令に従い、適正な内容及び態様で行われるものとする。
2.乙は、本件製品の製造に当たり、当該本件製品の製造者及び製造地の表示を行うものとする。
[コメント]
特許表示について規定する例と、ライセンス契約に基づく製品であることの表示について規定する例とがあります。また表示を努力義務とするもの、表示が可能である旨定めるもの、義務とするものなど、規定振りにはバリエーションがあります。更に<規定例1><規定例2>のように都度ライセンサーの同意ないし承諾を求めるものと、<規定例3>のように求めないものとがあります。管理の厳密さという点では前者が優れていますが、管理負担がその分生じることになります。
12.有効期間
<規定例1>
1 本契約は、本契約締結日から○年間とする。但し、期間満了の○ヶ月前までに一方の当事者から終結の申し出がない場合には、自動的に一年間延長され、その後も同様とする。
2 本契約が期間満了または解約等により終了した場合といえども、第○条の規定はなお有効とし、甲及び乙はこれらの規定を遵守するものとする。
3 本契約が期間満了または解約等により終了した場合、第○条に定める計算期間は当該終了日に終了するものとする。
[コメント]
一定期間で失効させる例、自動延長を定める例、自動ではないが原則更新とされる例などがあります。併せて残存義務を定める例も多くみられます。なお残存義務については別途規定する例も見られます。
なお、特許の存続期間との関係においては、存続期間満了とともに当然に契約終了とする規定の仕方と、ノウハウとしての価値に着目し、当然には終了せず、見直し条項を
設ける規定の仕方、或いは自動継続する規定の仕方が考えられます。自動継続する場合
にあっても、その対価については契約の性質の変化に応じた配慮が望ましいものと思料します。
13.秘密保持
<規定例1>
甲および乙は、本契約の履行に関連して知り得た相手方及び相手方の取引先等に関する秘密情報を、相手方の書面による承諾なくして、第三者に開示又は漏洩してはならない。
<規定例2>
1.甲および乙は、相手方より開示された相手方もしくはその顧客の経営上および営業上の情報、本技術および改良技術に関する情報(以下あわせて「機密情報」という)を機密として保持し、相手方の事前の承諾なく、自ら使用(特許権の出願を含む)したり第三者に開示および漏洩したりしないものとする。
2.甲および乙は、機密情報を開示する自らの役員および従業員等に対し、本契約上の自らと同等の機密保持義務を負わせるものとする。
3.甲および乙は、本契約が終了(終了理由の如何を問わない)した場合または相手方からの請求があった場合、相手方から開示を受けた機密情報を含む有体物を直ちに返却するものとする。なお、機密情報を含む無体物については、機密性の保持に十分に配慮した方法で完全廃棄するものとする。
<規定例3>
甲は、第○条の規定に基づく報告又は調査の内容について、当該報告又は調査のあった日の翌日から起算して3年間、これを秘密情報として管理するものとし、乙より事前に書面による同意を得ることなく第三者にこれを開示し、又は漏洩してはならない。加えて、甲は、本契約に定める目的にのみ当該秘密情報を使用し、その他の目的でこれを使用してはならない。
2 乙は、以下の各号に定める情報について、本契約の契約期間中、及び契約終了後又は解除後○年間、これを秘密情報として管理するものとし、甲より事前に書面による同意を得ることなく第三者にこれを開示し、又は漏洩してはならない。加えて、乙は、本契約に定める目的にのみ当該秘密情報を使用し、その他の目的でこれを使用してはならない。
(1)本件発明の内容(本件発明につき特許公報により公開がなされた場合を除く。)
(2)前号に定めるほか、本契約に基づき甲より開示を受けた情報であって、秘密又はこれと同等の表示がなされた上で開示されたもの
(3)前各号に定めるほか、本契約の履行の過程で甲より口頭で開示を受けた情報で
あって、当該情報につき当該開示の前又は当該開示の際に秘密である旨が明言され、かつ当該開示後30日以内に書面にて秘密である旨が確認されたもの。
[コメント]
秘密情報の保持期間として、契約終了後も一定期間秘密保持義務が生じる旨を定めている例が多いです。また過度に拡大解釈されぬよう、適用除外項目を列挙している例もみられます。
<規定例1>は特に適用除外条項を設けず、包括的に秘密保持義務を相互に負う旨定めたものです。一方より具体的に定めているのが<規定例2>ないし<規定例3>で、対象となる情報の外延を明確にすることで、契約当事者が制限を受ける事項が明確となる、秘密情報として保護される蓋然性が高まるなどのメリットがあります。
なお、<規定例2>に定めるように、機密情報を含む有体物の返還義務を明記しておくことにより、情報拡散を防止できる場合があります。
また、「秘密情報」の定義例については、「1.(3)」をご参照ください。
14.第三者に対する侵害
<規定例>
甲は、乙が本件発明の実施により第三者の権利(特許権その他の知的財産権を含むが、これに限定されない。)を侵害するに至ったときにおいても、その侵害についての責任を一切負わないものとする。
[コメント]
ライセンシーによる実施が権利侵害の責めを負った場合でも、ライセンサーは責任を負わない旨を定める例がみられます。もっとも、技術援助等をライセンサーが行っている場合、間接侵害や共同侵害に該当する可能性も否定はできないことから、実際の契約締結時には当該実施行為が他者の権利侵害に該当しないかについては、ライセンサーとしても関心を持っておくべき事項と思料します。
15.第三者による侵害
<規定例>
1.甲および乙は、本特許に関し、第三者の侵害又は侵害のおそれのある行為を発見し
たときは、直ちに相手方に通知するものとする。
2.前項の場合において、乙が当該第三者に対して訴訟、仲裁その他の法的手段を提起し、または和解その他に関する紛争解決を行うことを希望する場合、乙がその費用を負担し、甲乙協力のもとこれを行うものとする。
3.甲は、乙に対して、前項に定める第三者に対する法的な対応に関し、必要な技術的その他の情報を提供する等、合理的な範囲で誠実に協力するものとする。
[コメント]
ライセンス対象となる特許発明を用いて事業を行うのはライセンシーである以上、その事業遂行にあたっての妨害排除は一義的にはライセンシーが負うべきところです。とはいえ、通常実施権者には差止請求権は原則的に認められないことから、費用負担の問題は別として、ライセンサーが権利行使を行うことをライセンシーが求める事には一定の合理性が認められるところです。上記規定例では「求めに応じて権利行使を行う」旨は明確に規定されていません。この点例えば「甲が大学という社会的立場からして当該対抗措置を必要と求める場合に限り、乙が当該対抗措置の全費用を負担することを条件として、甲は当該対抗措置に協力するものとする」との規定例も見られます。
ともあれ、乙の求めに応じて直ちにライセンサーが権利行使の義務を負うようなことがないよう、綿密に条件を吟味し規定すべきところです。
16.発明の不保証
<規定例>
1.甲は、本発明につき拒絶事由又は無効事由が存在しないことを保証しない。
2.甲は、乙による本発明の実施が第三者の権利により制限を受けないことを保証しない。
3.甲は、本特許権の乙による実施から生じるいかなる損害に対しても何ら責任を負わない。
[コメント]
一般的に産学連携においては、権利そのものの有効性を保証しない規定は多くみられるところです。これに加えて、実施可能性についても保証しない旨の規定がなされているものもあります。ライセンスが独占的か否かなど条件面によっても異なるところはあることは否めませんが、特に出願中の発明については、法的には不安定な状態であり、過度な負担をライセンサーが負わない規定とするよう明記しておくべきところです。
17.製造物責任
<規定例>
1.乙は、許諾製品について製造物責任を問われた場合、自らの判断と費用負担において対処するものとする。
2.許諾製品について甲が製造物責任を問われた場合、甲は当該製造物責任に対して一切責任を負わないことを前提として、甲及び乙は互いに協力して対処を行うものとする。なお、乙は、当該対処に甲が要した費用、及び当該対処によって甲が第三者に支払った金員を補償するものとする。
[コメント] PL法上の責任についてライセンサーが負わない旨を規定する例が見られます。
18.関連発明及び改良技術
<規定例1>
1.乙は、本発明を改良し、又は本発明を基にして新規の発明又は考案をした場合は、速やかに甲に通知するものとする。
2.前項の発明又は考案の権利の帰属、並びにその取扱いについては、甲乙協議してこれを定めるものとする。
<規定例2>
1.乙は、乙の従業員が本特許等に関連する発明を独自に行い、当該発明に係る特許出願を行おうとするときは、事前に当該発明を独自に行ったことについて速やかにその概略を甲に通知するものとする。
2.乙の従業員が甲の職員との間で本特許等に関連する発明を共同して行い、当該発明に係る特許出願を行おうとするときは、甲及び乙との間で協議して出願名義人および費用の負担について決定するものとする。
3.前項の規定により共同出願した発明の実施等に関する取り扱いについては、別途協議の上定めるものとする。
[コメント]
改良技術についてのライセンサーへの通知義務を定めた規定が多くみられます。なおこうした規定を超え、ライセンスバックを義務とする条項は独禁法との関係上問題となります。
19.解約・解除
<規定例>
甲及び乙は、他の当事者が正当な理由なく本契約に定めるそれぞれの義務を履行しないとき、または本契約に違反したとき、あるいはその他著しく不信義な行為があったときは、書面により、30日の期間を設けて催告し、当該期間経過後もなお当該事態が是正されないときは、書面で通知し、本契約を解約することができる。この場合、併せてその被った損害の賠償を相手方に請求できるものとする。
[コメント]
契約解除の要件につき、催告の要否及び催告期間もあわせ定めている例が多くみられます。
20.譲渡等の禁止
<規定例>
1.乙は、本件発明を実施する権利その他本契約に定める権利の移転その他の変更をもたらす行為をしようとするときは、事前に書面による甲の同意を得なければならない。
2.前項の規定は、合併による場合、又は本契約の目的に係る事業の全部又は一部の譲渡による場合についても、同様に適用されるものとする。
[コメント]
契約上の地位の譲渡等を禁止する規定です。譲渡のみならず合併においても同様に適用される旨を定める上記のような規定の仕方もあります。
また、ライセンシーがM&Aの対象となる場合も考慮し、いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項(以下COC条項)」を設けることが考えられます。COC条項とは、買収などで一方の会社の支配権が変わった場合に、相手方の会社が契約を破棄できるとする条項であり、ここではライセンシーの支配権の変動があった場合にライセンス契約を破棄できるとする条項を指します。ライセンサーの立場としては不測の買収により好ましくない主体に実施権を享受させないためには有効な条項といえますが、一方ライセンシーがベンチャー企業である場合で当該事業を大手に売却するにあたって、COC条項が知財デューデリジェンスで足枷となる場合もあります。双方にとって将来的に重要な項目であり、事前に入念な擦りあわせが必要な項目であるといえます。
21.損害賠償
<規定例1>
甲および乙は、本契約に違反することにより相手方に損害を与えた場合、本契約に別途定める場合を除き、当該違反から直接生じた通常の損害につき、賠償する義務を負うものとする。
[コメント]
確認的な規定として定めている上記のような例も見られます。
22.裁判管轄
<規定例>
本契約に関する訴訟については、(大学の所在地を管轄する裁判所)を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
[コメント]
合意管轄につき定めている例が多くみられます。訴訟コストを考えた場合上記<規定例>のようにライセンサーの裁判籍に基づいて合意管轄とすることが一般的には合理的といえます。しかし例えば、実施内容がライセンスの範疇か否か、といった高度に技術的な内容が争点となることを考慮した場合、案件実績の多い東京/大阪の各地方裁判所を合意管轄とすることも考えられます。
なお、在外者をライセンシーとする場合の裁判管轄に関しては、一層綿密な取り決めが必要です。また、裁判ではなく国際仲裁による解決のほうが適切な場合もあります。
23.存続条項
<規定例>
1.本契約が終了した場合(終了理由の如何を問わない)でも、第○条の定めは有効に存続するものとする。
2.本契約が終了した場合(終了理由の如何を問わない)でも、本契約上で有効期間の存続を明示して定める条項は、当該存続の期間において有効に存続するものとする。
[コメント]
秘密保持の他、第三者に対する侵害の免責条項、契約に基づく債権の譲渡等禁止につ
いては契約終了後も譲渡を認めない旨の規定がなされている例が見られます。
24.完全合意
<規定例>
甲および乙は、本契約が本技術のライセンスに関する当事者間の完全な合意を定めたものであり、本契約締結以前に甲乙間で取り交わした合意や了解に取って代わるものであることに合意する。
[コメント]
共同研究開発など、他の契約が先行して締結されている場面もあり得ることから、本契約の優先適用について規定する例が見られます。
25.協議
<規定例>
甲および乙は、本契約に定めのない事項または本契約の定めに関する疑義を生じた場合、互いに誠意をもって協議し、これを決するものとする。
[コメント]
信義誠実の原則に基づいた規定をする例が多くみられます。紛争解決については「4.対価及び支払方法」の項参照。
以上
近年、大学及び公的研究機関は、直接的な社会貢献として、産学官連携活動が求められておりますが、代表的な活動として、研究成果を産業界への技術移転、すなわち「ライセンス」活動が活発化しております。しかしながら、知的財産管理やその活用業務に関する歴史が浅く、不慣れなアカデミアにとって、適切なライセンス契約の作成や、ライセンス収入の管理は至難の業であり、対応に苦慮する機関が多く散見されます。
そこで、医学系大学の産学連携機能強化を目指し、2010年に設立された medU-netでは、当該課題に取組むため、2011年度始めから準備を重ね、2011年10月に medU-net ライセンス管理ワーキングを設置いたしました。当該ワーキングは、経済産業省知的財産政策室石原徹弥様(当時)及び三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社渡部博光様、肥塚直人様が中心となって企画して頂き、経済産業省知的財産政策室松岡徹様や弁護士・会計士含む多数の専門家の諸先生方にご協力頂く形で、約半年間調査検討を行いました。具体的には、medU-net 会員大学様はじめ、技術移転を活発に行っている機関様のご協力により実施した、アンケート・ヒアリングから抽出したライセンス実務に関する各種課題について、その解決策を紹介するハンドブックの作成を目指しました。
その成果として、この度「ライセンス契約の考え方・ライセンス契約における各条項の考え方」の公表に至りましたことは大変喜ばしく、今後当該業務に関わる方々の活動の一助となれば幸いでございます。
なお、本ハンドブックはこの度の公表を契機に、皆様からのご意見を賜りながら、適宜改良を重ねていく所存でございますので、忌憚なきご意見・新たな課題等を頂戴できますと幸甚に存じます。今後ともよろしくお願い申し上げます。
最後に、本活動にご協力頂きました、ライセンス管理ワーキングメンバーの皆様・アンケート調査にご協力頂いたアカデミア機関の皆様に、この場をおかりして厚く御礼申し上げます。
医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)会長 森田育男
医学系大学産学連携ネットワーク協議会(medU-net)