Contract
別紙1
裁 定 案
日本通信株式会社代表取締役社長 福田 尚久 から、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第39条において準用する同法第35条第3項の規定に基づき、株式会社NTTドコモとの間の卸電気通信役務の契約に関して、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は提供の条件その他契約の細目について当事者間の協議が不調であるとして、総務大臣の裁定の申請が行われた。
日本通信株式会社の申請及び株式会社NTTドコモの答弁並びに両当事者からの意見についての調査の結果、下記のとおり裁定する。
記
裁定が求められている事項1について
株式会社NTTドコモは、日本通信株式会社に対して提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定するものとする。
能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額の算定方法、課金方法、精算方法等については、次に掲げるとおりとする。
・ 音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は、当該役務に用いられる設備の使用料とする考え方に基づき、適正な原価は、当該役務に用いられる設備の構築・維持・保全に関連する費用(例:施設保全費、減価償却費、固定資産除却費、通信設備使用料、試験研究費、租税公課)を基本とするが、設備への帰属が認められる営業費及び当該役務の提供の際に必要となる営業費(例:当該役務の販売に係る広告宣伝費)についても原価への算入が許容されるものとする。適正な利潤は、設備構築に係る資本調達コストと捉え、設備等の正味固定資産価額等に基づきレートベースを設定し、これに基づき、自己資本費用、他人資本費用及び利益対応税を算定する方式を採用することとする。
・ 課金単位については、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金のうち、契約数に連動する費用(例:回線管理機能に係る費用)に係る料金については、課金単位を1契約とし、通話時間に連動する費用(例:他の電気通信事業者の電気通信設備の利用に係る接続料支払額)に係る料金については、課金単位を1秒とすることとする。
・ 通話時間に連動する費用に係る料金の課金方法としては、各呼の通信経路に応じて課金する方式と、通信経路に関係なく全ての呼について一律に課金する方式が考えられるところ、どの方式を採用するかは、当事者間の協議に委ねることとする。
・ 音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は、原価、利潤及び課金単位の実
績値を反映し毎年度更新することとする。その際、更新後の料金により当該実績値の発生年度の期首(当該期首が裁定を行った日より前である場合は、裁定を行った日)まで遡及して精算することとする。
本裁定に基づき新たに株式会社NTTドコモが設定する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は、裁定を行った日から適用することとする。当該料金の設定が裁定を行った日の翌日以降となる場合には、設定後速やかに裁定を行った日まで遡及して精算を行うこととする。株式会社NTTドコモは、裁定を行った日から起算して6月を超えない期間内に当該料金を設定するものとする。
将来的に、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の代替手段として、接続による音声通話サービスの提供が実現し有効に機能していると客観的に認められる場合には、該当する接続約款の届出後、当事者の一方は相手方当事者に対し、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の提供料金及び提供条件についての再協議を請求することができるものとし、相手方当事者はこの請求に応じて真摯に協議を行わなければならないものとする。この場合において、当事者の一方は、相手方当事者に対する3月の事前通告により、本裁定による債権債務関係を将来に向かって消滅させることができるものとする。ただし、相手方当事者から、当該通告を行った当事者に対し、本裁定による債権債務関係の継続の申入れがあった場合は、当該通告があった日から1年を超えない期間において本裁定による債権債務関係は継続するものとする。
裁定が求められている事項2について
株式会社NTTドコモは、日本通信株式会社に対して提供する音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金において、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金により、株式会社NTTドコモがエンドユーザ向けの音声通話サービスの料金として設定している「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」と同じ課金単位の料金設定を行うべきとすることは適当ではない。
以上
理 由
第1 裁定が求められている事項
日本通信株式会社(以下「日本通信」という。)が、株式会社NTTドコモ(以下「ドコモ」という。)の卸電気通信役務(以下「卸役務」という。)の提供に関する協議が調わないとして裁定を求めている事項は、次のとおりである。
1.ドコモに対し、音声通話サービスを能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、本件申請の申請人である日本通信に卸役務として提供すべきとの裁定を求める。
2.前記1.で求める事項を具現化した卸役務の一つとして、ドコモが現在「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」の名称で利用者に提供している音声通話料の定額サービスを、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、日本通信に提供すべきとの裁定を求める。
第2 事案の概要
本件申請は、日本通信が、ドコモの音声通話サービスに係る卸電気通信役務(以下「音声卸役務」という。)の提供に関し、ドコモとの協議が調わないとして、電気通信事業法(昭和 59 年法律第 86 号。以下「法」という。)第 39 条において準用する法第 35 条第3項の規定により、第1に掲げる事項について、総務大臣に対して裁定を求めるものである。
1 当事者
(1) 日本通信
日本通信は、法第16条第1項の規定に基づき総務大臣に届出をし、電気通信役務を提供する電気通信事業者である。日本通信は、平成22年4月から、ドコモのネットワークを活用し、MVNOとしてエンドユーザ向けに音声通話サービスを提供している。
MVNOは、MNO(移動通信サービスを提供する電気通信事業を営む者であって、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設・運用する者をいう。以下同じ。)の提供する移動通信サービスを利用して、又はMNOと接続して、移動通信サービスを提供する電気通信事業者であって、当該移動通信サービスに係る無線局を自ら開設・運用しない者をいう。
(2) ドコモ
ドコモは、法第9条の規定に基づき総務大臣の登録を受け、移動通信サービスを
含む電気通信役務を提供する電気通信事業者であり、MNOに該当する。
2 裁定対象となる音声卸役務
(1) 具体的な裁定対象
本件申請は、音声卸役務の料金について裁定を求めるものである。具体的には、日本通信は、ドコモの「卸携帯電話サービス契約約款」に記載される卸役務のうち、
3Gでの携帯電話サービスに係る卸役務である「第3種卸FOMA」の「通話モード」並びに4G及び3Gでの携帯電話サービスに係る卸役務である「第3種卸Xi」の「通話モード」として音声卸役務の提供を受けており、これらの基本使用料及び通信料に関して、裁定を求めるものである。
なお、「第3種卸FOMA」の「通話モード」及び「第3種卸Xi」の「通話モード」は、MVNOのエンドユーザからの発信サービスと、MVNOのエンドユーザへの着信サービスの双方を卸役務としてMVNOに対して提供するものであるところ、「卸携帯電話サービス契約約款」において、その通信料は、MVNOのエンドユーザからの発信呼についてのみ支払を要し、MVNOのエンドユーザへの着信呼については支払を要しない旨規定されている。
(2) 「第3種卸FOMA」の「通話モード」の料金
「第3種卸FOMA」は、音声卸役務に該当する「通話モード」のほか、「64kb/sデジタル通信モード」、「パケット通信モード」及び「ショートメッセージモード」の提供を行うものであるところ、基本使用料は、「通話モード」単独ではなく、当該4種類の通信全体のものとして設定されており、通信料は、「通話モード」単独のものとして設定されている。
ドコモと日本通信との間の「第3種卸FOMA」に係る契約において、基本使用料及び通信料は、定期利用期間3年及び契約数1001回線以上の条件の下、基本使用料の料金種別に応じ、次表に掲げる額を適用することとされている。具体的には、それぞれ、エンドユーザ向けの携帯電話サービスである「バリュープラン」の料金を基礎とし、当該料金から一定割合を控除するいわゆるリテールマイナス方式により設定することとされており、例えば、「卸FOMAタイプSS」では、基本使用料は1契約当たり月額834円、通信料は30秒当たり14円相当となっている。
なお、「バリュープラン」は令和元年9月30日をもって新規申込受付が終了となっている。
基本使用料の料金種別 | 基本使用料の料金額(月額) (注) | 回線卸FOMAの通信に関する料金の月額累計額(注) | 無料通信分(1月あたり) |
卸FOMA タイプSS | バリュープランに係るタイプ SSのFOMAに係る基本使用料の額(1,864円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(1,030円)を控除した額(834円) | その通信をバリュープランに係るタイプSSのFOMAに係る通信とみなして、ドコモのFOMAサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(20円/30秒相当)から、その月間累計額に0.30を乗じて得た額(6円/30秒相当)を 控除した額(14円/30秒相当) | 25分相当 |
卸FOMA タイプS | バリュープランに係るタイプ SのFOMAに係る基本使用料の額(3,000円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(1,650円)を控除した額 (1,350円) | その通信をバリュープランに係るタイプSのFOMAに係る通信とみなして、ドコモのFOMAサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(18円/30秒相当)から、その月間累計額に0.30を乗じて得た額(6円/30秒相当)を 控除した額(12円/30秒相当) | 55分相当 |
卸FOMA タイプM | バリュープランに係るタイプ MのFOMAに係る基本使用料の額(5,000円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(2,750円)を控除した額 (2,250円) | その通信をバリュープランに係るタイプMのFOMAに係る通信とみなして、ドコモのFOMAサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(14円/30秒相当)から、その月間累計額に0.30を乗じて得た額(5円/30秒相当)を 控除した額(9円/30秒相当) | 142分相当 |
卸FOMA タイプL | バリュープランに係るタイプ LのFOMAに係る基本使用料の額(8,000円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(4,400円)を控除した額 (3,600円) | その通信をバリュープランに係るタイプLのFOMAに係る通信とみなして、ドコモのFOMAサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(10円/30秒相当)から、その月間累計額に0.30を乗じて得た額(3円/30秒相当)を 控除した額(7円/30秒相当) | 300分相当 |
卸FOMA タイプLL | バリュープランに係るタイプ LLのFOMAに係る基本使用料の額(13,000円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(7,150円)を控除した額(5,850円) | その通信をバリュープランに係るタイプLLのFOMAに係る通信とみなして、ドコモのFOMAサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(8円/30秒相当)から、その月間累計額に0.30を乗じて得た額(3円/30秒相当)を 控除した額(5円/30秒相当) | 733分相当 |
注:括弧内の金額は、総務省において卸携帯電話サービス契約約款に基づき計算したもの。
(3) 「第3種卸Xi」の「通話モード」の料金
「第3種卸Xi」は、音声卸役務に該当する「通話モード」のほか、「64kb/sデジタル通信モード」、「データ通信モード」及び「ショートメッセージモード」の提供を行うものであるところ、基本使用料は、「通話モード」単独ではなく、当該4種類の通信全体のものとして設定されており、通信料は、「通話モード」単独のものとして設定されている。
ドコモと日本通信との間の「第3種卸Xi」に係る契約において、基本使用料及
び通信料は、定期利用期間3年及び契約数2001回線以上の条件の下、次表に掲げる額を適用することとされている。具体的には、エンドユーザ向けの携帯電話サービスである「タイプXi」の料金を基礎とし、当該料金から一定割合を控除するいわゆるリテールマイナス方式により設定することとされており、基本使用料は1契約当たり月額666円、通信料は30秒当たり14円相当となっている。
なお、「タイプXi」は平成26年8月31日をもって新規申込受付が終了となっている。
基本使用料の料金種別 | 基本使用料の料金額(月額) (注) | 回線卸Xiの通信に関する料金の月額累計額(注) |
卸タイプXi | タイプXiのXiに係る基本使用料の額(1,486円)から、その基本使用料の額に0.55を乗じて得た額(820円)を控除した額(666円) | その通信をタイプXiのXiに係る通信とみなして、ドコモのXiサービス契約約款の規定により算定した料金の月額累計額(20円/30秒相当)から、その月額累計額に0.30を乗じて得た額(6円/30秒相当)を控除した額(14円/ 30秒相当) |
注:括弧内の金額は、総務省において卸携帯電話サービス契約約款に基づき計算したもの。
(4) 音声卸役務の料金の設定の経緯
両当事者は、平成22年4月15日、「第3種卸FOMA」に係る契約を締結している。「第3種卸FOMA」における基本使用料及び通話モードの通信料は、当該契約が締結されて以降、現在に至るまで変更はない。
また、両当事者は、平成25年1月16日、「第3種卸Xi」に係る契約を締結している。「第3種卸Xi」における基本使用料及び通話モードの通信料は、当該契約が締結されて以降、現在に至るまで変更はない。
3 本件に係る交渉の経緯等
本件卸役務の提供に係る交渉の経緯は、大要次のとおりである。なお、交渉過程における両当事者の交渉担当者の各発言の有無、内容、前提条件等についての認識が、両当事者間において異なる部分が認められるところ、両当事者が一致している部分、両当事者の主張等を踏まえ、本件卸役務の提供の交渉に係る事実として認定又は推認できるもののみ記載している。
(1) 平成26年4月10日、ドコモは、エンドユーザ向けの定額課金(一定額を支払えば無制限に国内音声通話が可能となる課金方法。以下同じ。)による音声通話サービスの提供を同年6月から開始することを発表した。同年4月15日、日本通信はドコモに対し、定額課金による音声卸役務の提供の検討を依頼した。同月22日、ドコモは「ユーザへの提供開始前であり、市場の反応やリスクの度合いも不明な状況」であり、MVNO事業者へ提供することは予定していない、「エンドユーザ向け料金については、創意工夫をもって戦略的な料金を、各事業者が自らリスクを負った上
で総合的に判断し、設定するもの」、「弊社のみが一方的にリスクを負うものではない」旨の回答を行った(令和元年11月15日付け卸電気通信役務の提供に係る裁定申請書(以下「申請書」という。)添付の資料3)。
(2) 平成26年12月16日、日本通信は、ドコモに対し、定額課金による音声卸役務の提供を改めて依頼した。その際、同年4月22日の回答においてドコモから示されていた「エンドユーザ向け料金については、創意工夫をもって戦略的な料金を、各事業者が自らリスクを負った上で総合的に判断し、設定するもの」、「弊社のみが一方的にリスクを負うものではない」旨の回答への反論として、「現在の卸サービスは(30秒単位であり)秒単位の課金ではないこと」、「着信接続料(ドコモが料金設定権を有している固定発ドコモ着の音声通話に係る接続料)収入が還元されない仕組み」となっていることから、リスクを取れない旨指摘した(申請書添付の資料5)。平成27年1月9日、ドコモは、当該指摘に対し、「エンドユーザ向けに提供するサービスの料金につきましては、各事業者が自らリスクを負った上で創意工夫をもって戦略的な料金を総合的に判断して設定するもの」、「リスクを、弊社のみが一方的に負うものではない」旨の回答を行った(申請書添付の資料6)。
(3) 平成27年9月16日、ドコモは、エンドユーザ向けの5分間の準定額課金(一定額
を支払えば、一通話当たり一定時間は追加課金なしで国内音声通話が可能となり、一定時間超過後は従量制で課金される課金方法。以下同じ。)による音声通話サービスの提供を同月25日から開始することを報道発表した(申請書添付の資料7)。同年10月15日、日本通信は、ドコモに対し、定額課金及び準定額課金による音声卸役務の提供を依頼した(申請書添付の資料8)。同年11月2日、ドコモは、日本通信に対し、考え方に変わりはない旨回答した(申請書添付の資料9)。
(4) 平成30年6月28日、日本通信は、ドコモに対し、定額課金及び準定額課金による音声卸役務の提供を再度依頼するとともに、「接続事業者間は秒課金であることの卸料金への反映」、「着信接続料の一部還元」等の検討を要望(令和元年12月13日付け日本通信意見書(以下「12月13日付け意見書」という。)添付の資料1)した。同年8月8日、日本通信が、創意工夫をもって戦略的な料金設定を試みてきたが、
1秒単位の課金ではないこと、着信接続料収入の還元がなされないこともあり、限定的かつ高い料金設定にせざるを得ないことを理由として、定額プランの提供を改めて要望する旨をドコモに対して申し入れた(申請書添付の資料10)。同年9月28日、ドコモは、日本通信に対し、考え方に変わりはない旨回答した(申請書添付の資料11)。
(5) 令和元年9月10日、日本通信は、ドコモに協議を申し入れた。同月26日、ドコモが協議の日程を示し、同年10月4日に協議が行われることとなった。協議に先立ち、同月1日、日本通信は、「卸音声通話役務のご提供について」と題する資料をドコモに送付した。当該資料には、「お願いしたい事項」として、「1.音声通話サービ
スを能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、当社に卸していただきたい」、「2.その一形態として、貴社が貴社エンドユーザに提供されている「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、当社に卸していいただきたい」と記載されている(申請書添付の資料13)。同月4日、両当事者は当該資料により対面で協議を行った(申請書添付の資料14)。
(6) 令和元年10月16日、日本通信は、ドコモに対し、要望に対する応諾可否を同月24日まで、応諾可能な場合にはその内容を同月31日までに回答するよう依頼した(申請書添付の資料15)。同年11月8日、ドコモは、「各事業者がエンドユーザ向けに提供するサービスの料金につきましては、各事業者が自らリスクを負った上で創意工夫をもって戦略的な料金を総合的に判断し設定するものである」と従来どおりの回答を行うともに、「「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」につきましては、弊社ユーザ向けに提供している料金プラン「ギガホ・ギガライト」のオプションであり、切り出して卸提供することはできません」との回答を行った(申請書添付の資料16)。その際、ドコモは、「音声通話サービスを能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、当社に卸していただきたい」ことに対する回答は行わなかった。
第3 その他判断において重要と考えられる事項
1 MVNOのネットワーク調達に関する制度の概要
MVNOは、MNOから移動通信サービスに関するネットワークを調達して移動通信サービスを行っているところ、その調達の形態については、法上、卸役務によるものと、MVNOの電気通信設備とMNOのネットワークの接続によるものの2つが並立しており、いずれを採用するかは当事者間の協議に委ねられている。これは、法が、原則非規制の卸役務と、提供料金及び提供条件について厳格な規律が適用される接続を並立させることにより、提供料金及び提供条件の適正性確保と柔軟な設備利用のバランスが図られることを期待したためである。
卸役務は、法第 29 条第1項第 10 号において「電気通信事業者の電気通信事業の用に供する電気通信役務」と定義されている。卸役務については、原則として、役務提供事業者に対して役務提供義務が課されていないほか、提供料金及び提供条件について規制が課されておらず、相対協議による設定が可能となっている。ただし、後述するように一部の卸役務については届出義務の対象となるほか、卸役務の提供について不当な差別的取扱いをしてはならない(法第6条)こととされている。具体的には、 MNOは、他の一般利用者や他のMVNOに提供しているサービスと同一のサービスの提供の申込みがあったときは、合理的な理由がない限り、これを拒んではならない
こととされている(MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン(平成 14 年6月総務省総合通信基盤局策定))。また、卸役務の提供について不当な差別的取扱い等が行われる場合には業務改善命令の対象となり得る(法第 29 条第1項第 10 号)。このほか、一部の卸役務については、指定電気通信役務とし
て、提供事業者に対して、保障契約約款の策定・届出義務が課されている(法第 20 条第1項)。
卸役務については、前述のとおり、原則として提供事業者に役務提供義務は課されていないが、例外的に、線路敷設を行うための土地等の使用権等いわゆる公益事業特権の利用を認められた認定電気通信事業者には、公益事業特権の利用を認められた認定電気通信事業に関し、役務提供義務が課されている(法第 121 条第1項)。なお、ドコモは、その営む電気通信事業の全てが認定電気通信事業となっている。
接続は、電気通信設備相互間を電気的に接続することであり、事業者間の電気通信 設備の接続により利用者が総合的かつ多彩なサービスの提供を受けることが可能と なる電気通信事業の特性に着目して、電気通信回線設備を設置する電気通信事業者に、他の電気通信事業者からの接続請求に応諾する義務が課されている(法第 32 条)。
接続については、法第 34 条各項の規定に基づき、相対的に多数の特定移動端末設備を収容する電気通信設備を第二種指定電気通信設備(以下「二種指定設備」という。)として指定し、二種指定設備を設置する電気通信事業者(以下「二種指定事業者」という。)に対して、接続料及び接続条件について、接続約款の策定・届出、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものとして算定された金額を超えない範囲内での接続料の設定等の規律が課されている。これは、周波数の有限希少性等により新規参入が困難な寡占的市場が形成されているモバイル市場において、相対的に多数の特定移動端末設備を収容する電気通信設備を設置する電気通信事業者が、接続協議における交渉上の優位性を背景に、接続における不当な差別的取扱いや接続協議の長期化等を引き起こすおそれがあることに鑑み、接続料及び接続条件の公平性・透明性、接続の迅速化等を担保する観点から非対称規制として設けられたものである。ドコモの設置する電気通信設備は、平成 14 年に二種指定設備として指定されている。
2 指定設備を用いた卸役務の提供に係る規律
前述のとおり、二種指定設備は、周波数の有限希少性等により新規参入が困難な寡占的市場が形成されているモバイル市場において相対的に多数の特定移動端末設備を収容する電気通信設備であり、二種指定事業者は、接続協議における交渉上の優位性を背景に、接続における不当な差別的取扱いや接続協議の長期化等を引き起こすおそれがある。
こうした二種指定設備の特殊性に鑑み、二種指定設備を用いる卸役務については、
他の電気通信事業者による円滑な利用を図る観点から、法において、他の卸役務とは異なる取扱いがなされている。
具体的には、法第38条の2において、二種指定事業者は、二種指定設備を用いる卸役務の提供の業務を開始したときは、当該業務を開始した旨等を総務大臣に届け出なければならないこととされており、また、法第39条の2では、総務大臣は二種指定設備を用いる卸役務に関する情報を整理し、公表するものとされている。
本件音声卸役務は、二種指定設備を用いる卸役務に該当する。
3 卸役務の提供に関する裁定制度
法第39条において準用する法第35条第3項は、卸役務の提供に関する契約の細目について、協議が調わない場合には、裁定を申請することを可能としている。
電気通信事業者による卸役務の提供は、他の電気通信事業者によるネットワークの迅速かつ円滑な構築を可能とし、より高度かつ多様な電気通信サービスの提供やより広い地域での電気通信サービスの提供を可能とするものであるため、その円滑な提供は、利用者にとっても当事者たる他の電気通信事業者にとっても有益であるなど、特に公共性の高いものである。しかし、現実には全ての電気通信事業者が対等の地位に立って協議ができるわけではなく、協議が円滑に進まず、卸役務の円滑な提供が困難となる場合があり、このような状態を放置することは、公正競争の確保や利用者利益の保護の観点から問題となることから、卸役務を裁定の対象とし、当該役務の迅速かつ円滑な提供を可能とすることで、公正競争の確保や利用者利益の保護を図ることとしたものである。
総務大臣の裁定を申請することができるのは、当事者間において契約を締結することについての合意がなされており、契約の細目についての協議が調わない場合に限られ、こうした要件に該当しない場合は、総務大臣に裁定を申請しても当該申請は不受理となる。
裁定があった場合は、その内容により協議が調ったものとみなされ、両当事者は、私法上の債権債務関係にあることとなる。
4 エンドユーザ向け音声通話サービスの料金の状況
ドコモは、エンドユーザ向けの音声通話サービスについて、日本通信との音声卸役務の提供に関する契約締結後、段階的に、定額課金の料金の設定及び準定額課金の料金の設定並びにそれらの見直しを行ってきている。
その主な変遷は次表のとおりであり、具体的には、例えば、平成26年6月、定額課金の料金である「カケホーダイ」(2,700円/月で国内通話無料)を設定し、平成27年
9月、準定額課金の料金である「カケホーダイライト」(1,700円/月で5分以内の国内通話無料。5分超は20円/30秒)を設定している。
定額課金 | 準定額課金 | |
平成26年6月 | 「カケホーダイ」 ・ 2,700円/月で国内通話無料 | |
平成27年9月 | 「カケホーダイライト」 ・ 1,700円/月で5分以内の国内通話無料 ・ 5分超は20円/30秒 | |
令和元年6月 | 「ギガホ」「ギガライト」のオプション設定 「かけ放題オプション」 ・ +1,700円/月で国内通話無料 | 「ギガホ」「ギガライト」のオプション設定 「5分通話無料オプション」 ・ +700円/月で5分以内の国内通話無料 ・ 5分超は20円/30秒 |
令和元年6月、外出先でも動画等のデータ通信が多いユーザ向けの「ギガホ」、メールやSNSの利用が中心でデータ通信が少ないユーザ向けの「ギガライト」の提供を開始し、音声通話サービスについては、定額課金の料金である「かけ放題オプション」(1,700円/月の追加で国内通話無料)及び準定額課金の料金である「5分通話無料オプション」(700円/月の追加で5分以内の国内通話無料。5分超は20円/30秒)を設定している。
5 音声通話サービスに係るコストの状況
ドコモの音声通話サービス(発信サービス)に係るコストについて公表されている資料はないが、次の状況からその推移については伺い知ることができる。
(1) トラヒックに連動するコストの推移
まず、トラヒックに連動するコストの推移は以下のとおり推定できる。
ドコモの音声通話サービス(発信サービス)は、原則として、ドコモの加入者(ドコモから音声卸役務の提供を受けているMVNOの加入者を含む。以下この項において同じ。)からドコモの加入者への発信と、ドコモの加入者から他の電気通信事業者の加入者への発信に区分できる。前者のトラヒックに連動するコストは、ドコモの音声網の利用に係るコストから構成され、後者のトラヒックに連動するコストは、ドコモの音声網と他の電気通信事業者の音声網の利用に係るコストから構成される。
これを踏まえれば、ドコモの音声網の利用に係るトラヒックに連動するコストは、次のとおり推定される。ドコモは、二種指定事業者として、音声伝送交換機能に係 る接続料を設定している。当該接続料は、他の電気通信事業者のネットワークから の着信呼に関し、当該他の電気通信事業者が支払うべきものとして設定されるもの であるが、その算定に当たっては、着信呼と発信呼の区別なく、音声通話サービス に係る適正な原価及び適正な利潤のうちトラヒックに連動する部分について、総通 話時間で除すことにより設定しているものであり、ドコモの音声網の利用に係る1 秒当たりのコストを示している。この金額の推移は下表のとおりであり、両当事者
が音声卸役務の提供に係る契約を締結した平成22年度以降、一貫して低下している。他事業者の音声網の利用に係るトラヒック連動コストは、他の電気通信事業者の
着信接続料であり、主要な他の携帯電話事業者等の着信接続料は、同表のとおり、平成22年度以降、一貫して低下している。
(単位:円)
年度 | 平成 21年度 | 平成 22年度 | 平成 23年度 | 平成 24年度 | 平成 25年度 | 平成 26年度 | 平成 27年度 | 平成 28年度 | 平成 29年度 |
ドコモ | 0.087 | 0.068 | 0.067 | 0.057 | 0.054 | 0.052808 | 0.044138 | 0.041562 | 0.040181 |
KDDI | 0.104 | 0.093 | 0.082 | 0.071 | 0.066 | 0.064 | 0.056614 | 0.053823 | 0.055500 |
ソフトバンク | 0.127 | 0.099 | 0.082 | 0.073 | 0.069 | 0.069 | 0.056977 | 0.056937 | 0.057436 |
加入電話 (NTT東西) | 6.38 | 6.96 | 6.57 | 6.79 | 6.81 | 6.84 | 7.22 | 7.33 | 7.68 |
ひかり電話 (NTT東) | 5.73 | 5.71 | 5.00 | 4.61 | 4.06 | 3.31 | 2.81 | 2.22 | 1.50 |
ひかり電話 (NTT西) | 6.33 | 6.30 | 5.73 | 5.36 | 4.68 | 3.81 | 3.18 | 2.63 | 1.93 |
※ ドコモ、KDDI及びソフトバンクは1秒当たり、加入電話及びひかり電話は3分当たりの金額を記載。
※ 各社が公表している接続約款に基づき、当該年度の実績に基づき算定された接続料を記載。
※ 加入電話はIC接続料を記載。
なお、加入電話の着信接続料は上昇傾向にあるが、次表のとおり、携帯電話・PH Sから発信された呼のほとんどが携帯電話・PHSに着信していることから、音声通話サービスに係るコストへの影響は軽微であると考えられる。
これにより、ドコモの音声通話サービスに係るコストのうち、トラヒックに連動するコストは一貫して低下していると見ることができる。
(単位:百万時間)
着信先 | 合計 | |||
加入電話 ISDN | IP電話 | 携帯電話・ PHS | ||
携帯電話・PHS発の通信時間 | 201.5 (9.2%) | 256.3 (11.8%) | 1722.6 (79.0%) | 2180.4 (100.0%) |
※ 通信量からみた我が国の音声通信利用状況-平成29年度の利用状況-(総務省、平成31年3月26日)より作成。括弧内は合計に対する比率(%)。
(2) 契約者数に連動するコストの推移
次に、契約者数に連動するコストの推移は以下のとおり推定できる。
ドコモは、二種指定事業者として、データ伝送交換機能の回線管理機能の接続料を設定している。当該接続料は、一の契約に対するコストとして音声・データの区分なく算定されているものであることから、ドコモの音声通話サービスの契約者数に連動するコストにほぼ等しいと考えることができる。
当該接続料の金額の推移は次表のとおりであり、両当事者が音声卸役務の提供に係る契約を締結した平成22年度以降、音声通話サービスに係るコストのうち、契約数に連動するコストは低下傾向にあると見ることができる。
(単位:円/回線・月)
年度 | 平成 21 年度 | 平成 22 年度 | 平成 23 年度 | 平成 24 年度 | 平成 25 年度 | 平成 26 年度 | 平成 27 年度 | 平成 28 年度 | 平成 29 年度 |
接続料 | 96 | 96 | 96 | 99 | 99 | 101 | 97 | 94 | 89 |
※ ドコモが公表している接続約款に基づき、当該年度の実績に基づき算定された接続料を記載。
(3) 音声通話サービスに係るコストの推移
(1)及び(2)から、両当事者が音声卸役務の提供に係る契約を締結した平成22年度以降、ドコモの音声通話サービス(発信サービス)に係るコストは、低下していると合理的に推定できる。
第4 判断
1 裁定事項1について
(1) 裁定が求められている事項
裁定が求められている事項1(以下「裁定事項1」という。)は、ドコモに対し、音声通話サービスを能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、本裁定申請の申請人である日本通信に卸役務として提供すべきとの裁定が求められているものである。
(2) 裁定要件の充足の適否(裁定事項1について、当事者間の協議が調っていないと判断できるか。)
法第39条において準用する法第35条第3項に基づいて、裁定を申請できるのは、
「卸電気通信役務の提供に関し、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は提供の条件その他契約の細目について当事者間の協議が調わないとき」に限られる。この点、日本通信とドコモ間において、裁定事項1に関する協議が行われていたかについて争いがある。
ドコモは、裁定事項1について、現在の従量制の音声卸役務の料金の値下げを求めるものと捉えた上で、「音声卸料金の見直しの要望は2019年10月4日の協議にて伺ったが、具体的な内容について協議を行っていない」(令和元年12月6日付けドコモ答弁書(経企第2280号)(以下「答弁書」という。)4頁)として、裁定事項1については具体的な内容の協議にまで至っていないと主張している。
これに対し、日本通信は、令和元年11月8日付けのドコモから送付のあった回答
文書について、「当該回答文書には、(中略)(裁定を求める事項1)についての記載はなく、協議を行いたい旨の文言も一切記されていない」、「ドコモが裁定を求める事項1について当事者間の協議を進める意思を全く示さなかったために協議が調わなかった」(12月13日付け意見書5頁)とし、裁定事項1は、「協議を継続しても今後の進展は見込めず、協議は不調に終わったと結論せざるを得ない状況になっている」(申請書7頁)と主張している。
この点、卸役務の契約の細目について、当事者間の協議によることを原則とし、協議が調わない場合に限って裁定申請を可能とした、裁定制度の趣旨を踏まえれば、申請要件を充足するためには、十分な協議が行われた結果、協議が不調となってい ることが必要と解することが適当である。
まず、両当事者の主張からは、日本通信がドコモに送付した令和元年10月1日付けの文書において、「お願いしたい事項」の「1」として「音声通話サービスを能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で、当社に卸していただきたい」と記載され、協議事項とされていること、同月4日、日本通信とドコモとの対面での協議において当該文書を用いて、日本通信からドコモに対して要望がなされていることが事実として認められる。また、その後、日本通信からの同月16日付け文書による回答の催促を経て、ドコモは日本通信に同年11月8日付けで文書を送付しており、当該文書において、「お願いしたい事項」の「2」については明確に回答が示されているが、上記「1」の事項については、回答が示されておらず、また、回答を保留する旨の記載がないことが事実として認められる。
こうした事実を踏まえれば、ドコモは、裁定事項1について、日本通信から令和元年10月1日付け文書で要望を受け、同月4日に当該要望について対面で協議を行い、さらに同月16日付け文書において日本通信から回答を催促された上で、要望に係る文書の受領から約1月後に文書で回答を行っていることから、ドコモは裁定事項1について書面による要望及び対面協議を踏まえた十分な検討を行った上で、裁定事項1について回答を示さない判断を行ったと推認できる。よって、両当事者間において、対面及び書面において十分な協議が行われたものと解することが適当である。
さらに、日本通信が、「協議を継続しても今後の進展は見込めず、協議は不調に終わったと結論せざるを得ない状況になっている」(申請書7頁)、「否定的な見解を持っていると解さざるを得ない」(申請書14頁)等としているように、対面協議を経た上で、ドコモが、令和元年11月8日付け文書において、「2」について回答を示したにもかかわらず「1」について回答を示さず、また回答を保留する旨の記載を行わなかったことをもって、日本通信が、協議が調わない状況にあると解釈したことには合理性が認められる。
したがって、裁定事項1については、協議が調わない場合に該当するものであり、裁定申請の要件を充足していると認められる。
(3) 判断基準
裁定を行うに当たっては、法上、明確な判断基準が設けられていないことから、過去の裁定事案に照らし、法の趣旨、すなわち、公正競争の促進の観点、利用者利益の保護の観点、電気通信の健全な発達の観点からそれぞれ検討することが適当である。
なお、総務省では、金額について当事者間の協議が調わない場合について、裁定方針を定めており、具体的には、金額については、当事者間で別段の合意がない場合には、市場における競争状況等を勘案し、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを基本とすること等としており、これも踏まえつつ検討を行うこととする。
(4) 具体的検討
① 公正競争の促進の観点
ア 前述のとおり、卸役務制度は、相対協議による自由な料金その他の提供条件 の設定を認める制度であり、事業者間協議において新たなニーズが生み出され、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供が実現することが期待されるものである。
裁定を行うに際しては、こうした卸役務制度の趣旨を踏まえつつ、公正競争上の弊害の程度を勘案して検討を行うことが適当である。具体的には、現に公正競争上の弊害が顕著に現れていると認められるか、事業者間協議において新たなニーズが生み出され、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供が期待されるサービスかについて検討することが適当である。
イ 日本通信が、エンドユーザ向けに音声通話サービスを提供するためには、M NOから、音声通話サービスに係るネットワークの提供を受けることが必須であるところ、ネットワークの提供に係る市場は、電波の有限希少性等により、実質的に二種指定事業者であるMNO3社(ドコモ、KDDI株式会社及びソフトバンク株式会社)による寡占的な市場となっており、そうした市場においてドコモを含むMNOは、卸役務の提供料金及び提供条件に係る協議において交渉上優位な地位に立つ可能性がある。ドコモを含む二種指定事業者であるM NO3社が、エンドユーザ向け音声通話サービス市場においてMVNOと競合していることを考えれば、ドコモを含むMNOは、卸役務の協議における交渉
上の優位性を背景として、公正競争上の弊害を引き起こすおそれ、すなわち、 MVNOの市場への参入を阻止したり市場から排除したりするような電気通信事業者間の適正な競争関係を阻害する行為が行われるおそれがあり、そうした場合、MNOとMVNOから形成されるエンドユーザ向け音声通話サービス市場において、公正な競争が確保されない。
本事案については、「第3 その他判断において重要と考えられる事項 5音声通話サービスに係るコストの状況」のとおり、両当事者が「第3種卸FO MA」に係る契約を締結した平成22年以降、ドコモにおける音声通話サービスに係る原価は低下していると合理的に推定でき、その間、ドコモは、エンドユーザ向けの音声通話サービスにおいて定額課金及び準定額課金の料金の設定並びにそれらの見直しを行ってきたにもかかわらず、「第3種卸FOMA」については契約締結以降約10年間、「第3種卸Xi」については契約締結以降約
7年間という長期にわたり、音声卸役務の料金は変更されていない。このことから、ドコモは、意図的、非意図的の別にかかわらず、卸役務の協議における交渉上の優位性を背景として、音声卸役務の料金を高止まりさせていると推認できる。
日本通信は、音声通話サービスに係る主要なコストである音声卸役務の料金の高止まりにより、音声通話サービスに係るコストが低下する中で、ドコモが実現してきたエンドユーザ向けの音声通話サービスに対抗できるようなサービスを提供することができなかったと見ることができ、公正競争上の弊害は顕著であると判断できる。
ウ 前述のとおり、卸役務制度においては、相対協議による自由な料金その他の提供条件の設定が認められており、これにより、事業者間協議において新たなニーズが生み出され、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供の実現が期待されるものである。
音声通話サービスは、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供の実現が期待できないとまでは言えないが、音声通話サービスが、携帯電話サービスの導入以来提供されてきた、基礎的で成熟したサービスであることを踏まえれば、多様なサービスの弾力的・柔軟な実現を期待し、その確保を重視するよりも、顕著な公正競争上の弊害に対応することを重視すべきであると判断することが適当である。
エ アに関連し、ドコモは、「音声サービスについても接続は可能」、「自ら交換機を保持する音声サービスの接続を要望し、当社と協議を行っていたが、自社の経営判断として協議を取り下げ、卸方式を選択したもの」と主張している。
具体的には、ドコモは、MVNOが中継事業者として接続を行う方式、いわゆる中継電話の方式を挙げて、日本通信が接続方式を選択することが可能である旨主張している(答弁書6頁)。
確かに、卸役務の代替手段として接続が確保され、接続制度によって適正かつ公平な提供料金及び提供条件が実現している場合、卸役務において適正な契約交渉が行われ、結果的に公正競争が確保されることが期待できる。
これに対し、日本通信は、中継電話について、エンドユーザが事業者識別番号を入力し損ねた場合にはドコモの音声卸役務を利用することとなってしまうこと、事業者識別番号を自動的に入力する中継電話用アプリがあるものの着信履歴からの発信ができない場合がある等操作性に難があること、中継電話であっても日本通信はドコモから音声卸役務の提供を受け、少なくとも基本使用料を支払う必要があること、110、119等の緊急電話に対応していないことといった課題がある旨主張している(12月13日付け意見書8頁)。
ドコモは、こうした課題について、「創意工夫によって解消可能」とし、具体的な創意工夫の一例として、ドコモの交換機において事業者番号を付与する開発を行うことが可能との見解を示している(令和元年12月20日付けドコモ意見書(以下「12月20日付け意見書」という。)6頁脚注)。
確かに、今後、ドコモにおいて、日本通信が主張する中継電話における課題 を解消しつつ音声通話サービスの接続による提供が実現される可能性は皆無 とは言えないが、経済的及び技術的な障壁により、日本通信のみならず大手M VNOにおいても課題が解決されていないことを踏まえれば、現時点において、接続制度による適正かつ公平な提供料金及び提供条件は実現されておらず、接 続により音声卸役務を代替する方法はないと認められる。
なお、ドコモが主張するように、音声通話サービスの接続による提供に関する検討が進められ、将来的に、卸役務の代替手段として接続による音声通話サービスの提供が実現し、有効に機能していると客観的に認められる場合には、卸役務において適正な契約交渉が行われることが期待できる。よって、そうした場合には、両当事者は、音声卸役務の提供料金及び提供条件について再協議を行うこととすることが適当である。
オ こうした状況を総合的に勘案すると、公正競争の促進の観点からは、交渉上の地位の優劣に起因する公正競争上の弊害を排除することが適当であり、音声卸役務の料金を適正な水準とすることが適当である。音声卸役務に係る電気通信事業は、巨額の設備投資を必要とする産業であり、自然独占性を有していることを踏まえれば、音声卸役務の料金については、その提供に要する費用を回収できる限りの水準、すなわち適正な原価に適正な利潤を加えた金額で設定す
ることが適当である。
よって、公正競争の確保の観点からは、ドコモは、日本通信に対して提供する音声卸役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定することが適当である。
② 利用者利益の保護の観点
音声卸役務の料金が、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものとして設定されることで、MVNOである日本通信とMNOとの間の競争が促進され、低廉かつ多様な音声通話サービスが提供され、利用者利益の保護に資することが期待される。
したがって、利用者利益の保護の観点からは、ドコモは、日本通信に対して提供する音声卸役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定することが適当である。
③ 電気通信の健全な発達の観点
ドコモは、「卸においては、自由なビジネスベースでの提供が前提とされている」、「これは、技術革新等の市場変化の激しい市場において」、「5G等多様なプレーヤとの連携によるイノベーション促進を行う上で、当事者間の協議により決定されることが必要」と主張している(答弁書2頁)。これに対し、日本通信は、
「要望する裁定申請の内容が認められることによってイノベーションが阻害され、国際競争力の源泉を抓んでしまうことになるとは到底考えられ」ないと主張している(12月13日付け意見書4頁)。
ドコモの主張するとおり、卸役務においては、相対協議による自由な料金その他の提供条件の設定が認められており、これにより、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供の実現が可能となり、イノベーションの促進の効果ができる。しかしながら、音声通話サービスは、多様なサービスの弾力的・柔軟な提供の実現が期待できないとまでは言えないものの、音声通話サービスが、携帯電話サービスの導入以来提供されてきた、基礎的で成熟したサービスであることを踏まえれば、多様なサービスの弾力的・柔軟な実現を期待し、その確保を重視するよりも、顕著な公正競争上の弊害に対応することを重視すべきであると判断することが適当である。したがって、電気通信の健全な発達の観点からは、ドコモは、日本通信に対し提供する音声卸役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない額で設定することが適当である。
④ 具体的な料金の設定
能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額の算定方法
については、音声卸役務に係る料金は、当該役務に用いられる設備の使用料とすることを基本的な考え方としつつも、卸役務制度において、相対協議による自由な提供条件の設定が認められ、積極的な営業活動が見込まれることを踏まえることが適当である。具体的には、適正な原価は、当該役務に用いられる設備の構築・維持・保全に関連する費用(例:施設保全費、減価償却費、固定資産除却費、通信設備使用料、試験研究費、租税公課)を基本としつつ、設備への帰属が認められる営業費、当該役務の提供の際に必要となる営業費(例:当該役務の販売に係る広告宣伝費)についても原価への算入が認められる。
適正な利潤は、設備構築に係る資本調達コストと捉え、設備等の正味固定資産価額等に基づきレートベースを設定し、これに基づき、自己資本費用、他人資本費用及び利益対応税を算定する方式を採用することが適当である。
課金単位については、音声卸役務の料金のうち、契約数に連動する費用(例:回線管理機能に係る費用)に係る料金については、課金単位を1契約とし、通話時間に連動する費用(例:他の電気通信事業者の電気通信設備の利用に係る接続料支払額)に係る料金については、課金単位を1秒とすることとする。
なお、通話時間に連動する費用に係る料金の課金方法としては、各呼の通信経路に応じて課金する方法や、通信経路に関係なく全ての呼について一律に課金する方法等が考えられるところ、どの方法を採用するかは、当事者間の協議に委ねることとする。
音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は、原価、利潤及び課金単位の実績値を反映し毎年度更新することとする。その際、更新後の料金により当該実績値の発生年度の期首(当該期首が裁定を行った日より前である場合は、裁定を行った日)まで遡及して精算することとする。
⑤ その他検討すべき事項
ア ドコモは、総務大臣による裁定について、「国は、小売業者に商品を卸す際 に、法的根拠がないにもかかわらず、適正な原価+適正な利潤で卸料金を決定 しろと公定力を持って命ずることはできない」、「法改正を伴わずにこれを命ず れば、憲法の保障する営業の自由の侵害になることは論を待たない」と主張し ている(12月20日付け意見書5頁)。上述のとおり、法第39条において準用す る法第35条第3項は、卸役務の円滑な提供の高い公共性を背景に、卸役務の提 供料金や提供条件を総務大臣の裁定に係らしめているものであり、総務大臣が、卸役務の提供料金について、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利 潤を加えた金額を設定することが適当とする裁定を行うことに法的根拠がな いとする主張は当たらない。
イ ドコモは、本件音声卸役務を電気的接続を伴わない卸役務と分類した上で、本件申請について、「日本通信が、電気的接続の実態が全くない卸契約(中略)について、接続協定方式に関する電気通信事業法第34条第3項第2号に基づいて料金を定めよとの裁定を求めるもの」と解釈し、「卸契約であっても電気的接続を伴う場合(中略)であれば、その実態は、接続協定方式による場合と全く同じであるため、接続協定方式による場合と同様に電気的接続があることをもって、電気通信事業法第34条第3項第2号に準じることにも合理性が認められる」、「しかし、(中略)電気的接続も伴わない卸契約(中略)は、接続協定方式による場合(中略)とは、法的整理としても実態としても全く異なるものであり、電気的接続に適用する電気通信事業法第34条第3項第2号に準じる合理的根拠が存在しない」と主張する(12月20日付け意見書4頁~5頁)。しかしながら、そもそも、法上、電気的接続を伴うか否かにかかわらず、卸役務に対して法第34条第3項第2号の規律が直接適用されることはなく、また、電気的接続を伴う等一定の要件を満たす卸役務について同条の規定が準用されるといった措置は講じられておらず、一般的な理解も存在しない。よって、ドコモの主張を、当該判断の検討に当たって考慮することは適当ではない。
(5) 小括
上記の検討の結果からすれば、ドコモは、日本通信に対して提供する音声卸役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を超えない金額で設定することが適当である。
能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額の算定方法については、音声卸役務に係る料金は、当該役務に用いられる設備の使用料とすることを基本的な考え方としつつも、卸役務制度において、相対協議による自由な提供条件の設定が認められ、積極的な営業活動が見込まれることを踏まえることが適当である。具体的には、適正な原価は、当該役務に用いられる設備の構築・維持・保全に関連する費用(例:施設保全費、減価償却費、固定資産除却費、通信設備使用料、試験研究費、租税公課)を基本としつつ、設備への帰属が認められる営業費、当該役務の提供の際に必要となる営業費(例:当該役務の販売に係る広告宣伝費)についても原価への算入が認められる。
適正な利潤は、設備構築に係る資本調達コストと捉え、設備等の正味固定資産価額等に基づきレートベースを設定し、これに基づき、自己資本費用、他人資本費用及び利益対応税を算定する方式を採用する。
課金単位については、音声卸役務の料金のうち、契約数に連動する費用(例:回線管理機能に係る費用)に係る料金については、課金単位を1契約とし、通話時間
に連動する費用(例:他の電気通信事業者の電気通信設備の利用に係る接続料支払額)に係る料金については、課金単位を1秒とすることとする。
なお、通話時間に連動する費用に係る料金の課金方法としては、各呼の通信経路に応じて課金する方法や、通信経路に関係なく全ての呼について一律に課金する方法等が考えられるところ、どの方法を採用するかは、当事者間の協議に委ねることとする。
音声通話サービスに係る卸電気通信役務の料金は、原価、利潤及び課金単位の実績値を反映し毎年度更新することとする。その際、更新後の料金により当該実績値の発生年度の期首(当該期首が裁定を行った日より前である場合は、裁定を行った日)まで遡及して精算することとする。
将来的に、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の代替手段として、接続による音声通話サービスの提供が実現し有効に機能していると客観的に認められる場合には、該当する接続約款の届出後、当事者の一方は相手方当事者に対し、音声通話サービスに係る卸電気通信役務の提供料金及び提供条件についての再協議を請求することができるものとし、相手方当事者はこの請求に応じて真摯に協議を行わなければならないものとする。この場合において、当事者の一方は、相手方当事者に対する3月の事前通告により、本裁定による債権債務関係を将来に向かって消滅させることができるものとする。ただし、相手方当事者から、本裁定による債権債務関係の継続の申立てがあった場合は、通告があった日から1年を超えない期間において本裁定による債権債務関係は継続するものとする。
2 裁定事項2について
(1) 裁定が求められている事項
裁定が求められている事項2(以下「裁定事項2」という。)は、音声卸役務の料金において、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金により、ドコモがエンドユーザ向けの音声通話サービスの料金として設定している「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」と同じ定額課金及び準定額課金での料金設定を行うべきとの裁定が求められているものである。
(2) 裁定要件の充足の適否
上述のとおり、法第39条において準用する法第35条第3項に基づいて、裁定を申請できるのは、「卸電気通信役務の提供に関し、当事者が取得し、若しくは負担すべき金額又は提供の条件その他契約の細目について当事者間の協議が調わないとき」に限られる。
裁定事項2については、音声卸役務の料金における課金方法に係る協議は、平成 26年から継続して行われており、この間、ドコモは、一貫して、定額課金及び準定額課金の設定を拒絶しており、協議の進展が見られないため、協議が調わないと判断することが適当である。
したがって、裁定事項2については、裁定要件を充足していると認められる。なお、当事者間で裁定要件の充足についての争いはない。
(3) 判断基準
裁定が求められている事項は、音声卸役務の料金を、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とした料金水準とすべき旨の要素と、音声卸役務の料金における課金方法に係る要素の2つの要素から構成されている。前者については「裁定事項1について」で能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本として設定することが適当との判断を行ったため、この判断を前提に検討を行う。
判断を行うに当たっては、「裁定事項1について」と同様、法上、明確な判断基準が設けられていないことから、過去の裁定事案に照らし、法の趣旨、すなわ
ち、公正競争の促進の観点、利用者利益の保護の観点、電気通信の健全な発達の観点からそれぞれ検討することが適当である。
(4) 具体的検討
① 公正競争の促進及び利用者利益の保護の観点
裁定事項2については、公正競争の促進の観点からの検討と利用者利益の保護の観点からの検討は密接に関連しているため、本項で一度に扱う。
日本通信は、音声通話サービスの料金についてMNO3社の競争が十分に働いていないとした上で「かかる状況の中、MVNOに音声通話定額サービスを含む音声通話サービスを適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金で卸提供し、さらなる競争促進を図ることは、利用者利益の増大に資するもの」(申請書15頁)と主張している。これに対し、ドコモは、定額課金及び準定額課金での卸役務の提供は、エンドユーザ向けの定額料金の設定を可能とするためのものとの前提に立ち、「MVNOがエンドユーザ向けに定額料金を設定することによるリスクや当該リスクの回避対策を、MVNO自身ではなくMNOに取らせた上、音声定額料金プランを切り出してMVNOに卸すことを強制されるべきではあり得」ない(12月20日付け意見書8頁)と主張している。
確かに、音声卸役務の料金において、定額課金または準定額課金が設定された場合、日本通信は、収入(利用者料金収入)が原価を下回るリスクにさらされることなく確実にエンドユーザ向けの定額料金等の設定が可能となる。この点、日本通信によるエンドユーザ向けの定額料金等の設定が利用者利益の増大に資すると言える。
他方、音声卸役務の提供にあたり定額課金を適用した場合、日本通信のエンドユーザにおける1契約者当たりの通話時間が過剰に生じる局面にあっては、ドコモにおいて、音声卸役務に関し、収入が原価を下回ることは明らかであ る。また、準定額課金を適用した場合についても、課金の設定方法によって は、ドコモにおいて、収入が原価を下回る可能性がある。ドコモに対し、音声卸役務について、定額課金や準定額課金の料金を設定させ、原価割れリスクを負わせることは、不当に有利な条件で日本通信に音声卸役務を提供させることとなり、公正競争確保の観点から妥当性を欠く。
この点、日本通信は意見書の中で、ドコモに原価割れリスクが発生することを認め、原価割れリスクを負うべき主体について「当社は、ドコモが音声通話定額サービスを当社に卸した時に存在するリスクについて、当社分を負担するつもりである」(12月13日付け意見書10頁)として、日本通信において原価割れリスクを負う旨の態度を示し、その具体的な方法として実コストによる精算の仕組みを提案しつつも、「赤字が発生する可能性は少ないと考える」、「精算の仕組みを導入するにしても、全ての通話について実コストによる精算を行うのではな」い(令和2年1月30日付け日本通信意見書1頁)として、原価割れが実際に生じる可能性は小さく、原価割れリスクを全て負うわけではないとの態度を示している。
原価割れが生じる可能性は日本通信のエンドユーザの音声通話の利用傾向に依拠するところ、それが確定的ではない以上、原価割れが実際に生じる可能性は小さいと断言することは困難である。また、前述のとおり、原価割れリスクを部分的にせよドコモに負わせることは、不当に有利な条件で日本通信に音声卸役務を提供させることとなり、公正競争確保の観点から妥当性を欠く。
よって、前述のとおり、定額課金や準定額課金は、利用者利益の増大に資するとしても、こうした公正競争の確保に支障を生じさせてまで実現を図るべきものとは言えない。
以上から、ドコモは、日本通信に対して提供する音声卸役務の料金におい て、定額課金及び準定額課金での料金の設定を行わなければならないと判断することは適当ではない。
ただし、両当事者の協議により、音声卸役務の料金において、定額課金及び準定額課金での料金を設定することまでを否定するものではない。
② 電気通信の健全な発達の観点
電気通信の健全な発達の観点から、定額課金及び準定額課金での料金の設定を行わなければならないと判断する理由は見当たらない。
③ その他検討すべき事項
日本通信は、ドコモが定額課金及び準定額課金のサービスをエンドユーザ向けには提供しているのに日本通信に提供しないのは不当な差別的取扱いに当たる旨主張している(申請書11~12頁)。
前述のとおり、電気通信事業者は、卸役務の提供について不当な差別的取扱いをしてはならない(法第6条)こととされており、具体的には、MNOは、他の一般利用者や他のMVNOに提供しているサービスと同一のサービスの提供の申込みがあったときは、合理的な理由がない限り、これを拒んではならないこととされている。
本件事案については、前述のとおり、ドコモが、日本通信に対して提供する音 声卸役務の料金において、定額課金及び準定額課金での料金の設定を行うことは、ドコモにおける原価割れリスクを生じさせるものであることから、ドコモが、当
該設定を行うことを拒むことには合理的な理由があるものと認められる。したがって、直ちに不当な差別的取扱いに当たるとは言えない。
(5) 小括
上記の検討の結果、音声卸役務の料金において、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えた金額を基本とする料金により、ドコモがエンドユーザ
向けの音声通話サービスの料金として設定している「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」と同じ課金単位の料金設定を行うべきとすることは適当ではない。
ただし、両当事者の協議により、ドコモがエンドユーザ向けの音声通話サービスの料金として設定している「かけ放題オプション」及び「5分通話無料オプション」と同じ課金単位の料金設定を行うことまでを否定するものではない。
第5 その他
本裁定に基づき新たにドコモが設定する音声卸役務の料金は、裁定を行った日から適用することとする。当該料金の設定が裁定を行った日の翌日以降となる場合には、設定後速やかに裁定を行った日まで遡及して精算を行うことが適当である。また、ドコモは、裁定を行った日から起算して6月を超えない期間内に当該料金を設定するものとする。
第6 結論
以上の検討の結果より、上記のとおり裁定することが相当である。