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対中技術供与契約の留意点
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富山県貿易・投資アドバイザー xx xx
はじめに
中国は、第11次5ヵ年計画期において「科学技術立国」を目指して、外国から先進的技術を輸入することに力を入れている。
こうした中、外国企業による技術輸出契約も増えており、大企業・多国籍企業ばかりでなく、中堅・中小企業も固有技術を中国企業に供与するケースが増えてきており、また、本邦法人が在中国の独資企業や合弁企業との間で技術供与契約を締結するということもある。
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このとき、中国政府は、中国企業と外国企業との 間の技術供与契約についての管理を行っているの で、契約にかかわる諸手続を理解しておくことが必 要となる。また、外国企業は中国企業に対して技術 供与する場合の条件(技術料の算定基準や支払方法、企業秘密の保持など)で十分な注意が必要である。
そこで、以下では、(1)中国の最近の技術導入に関する政策・動向、(2)技術供与契約締結時の手続、 (3)技術供与契約書作成上の留意点について、簡単に紹介する。
1 第11次5ヵ年計画期における科学技術立国政策
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商務部、国家発展改革委員会、科学技術部、財政部、情報産業部、税関総署、税務総局、品質検査総局、知 識財産権局、中国科学院は、連合で「科学技術立国" 第11次5ヵ年"計画」を発布した。
これは、第11次5ヵ年計画期に各部門、各地区は 科学技術貿易戦略を策定し、国の産業構造を調整し、国民経済のすみやか、かつ持続的で健全な発展に尽 くさなければならないという指示である。
商務部の統計によると、1999年から2005年の間に科学技術貿易振興政策を具体化して以来、累計で約
5万件の技術導入契約が締結され、この契約金額は
1,000億ドルを超え、うち技術料は623億ドルと契約金額の57.6%を占めたという(証券時報 2006年2月10日)。2005年単年度で見ると、技術導入に支出した技術費は118.3億ドルで、技術導入契約の62.3%を占め、これは1999年に比べて31ポイント増えている。中国の技術導入政策指導のもとで、企業の従来の設備輸入を重視し、技術を軽視する姿勢に変化が現れ、技術導入が主体になりつつあり、導入する技術の質も著しく向上しているという。
そこで、外国企業による技術輸出契約も増えており、大企業・多国籍企業ばかりでなく、中堅・中小企業も固有技術を中国企業に供与するケースが増えてきており、また、本邦法人が在中国の独資企業や合弁企業との間で技術供与契約を締結するということもあるのである。
このように技術導入契約がふえているところ、中国政府は、技術導入を規律するために「中華人民 共和国技術輸出入管理条例」(2001年12月10日公布、 2002年1月1日施行)を制定している(この技術輸 出入管理条例のほかに、技術輸入を制限するもの として、「中華人民共和国輸入禁止輸入制限技術x x弁法」(対外貿易経済合作部、国家経済貿易委員会、 2001年12月30日公布、2002年1月1日施行)および「x x人民共和国輸入禁止輸入制限技術目録」(対外貿 易経済合作部、国家経済貿易委員会、2001年12月30 日公布、2002年1月1日施行)がある。)。そこで、次に 中国企業に技術を供与する場合の手続きについて 叙述する。
2 技術供与契約の許認可手続
「中華人民共和国技術輸出入管理条例」に基づく、技術輸入許認可手続は、以下のとおりである(以下 で示してある条文は、いずれも技術輸出入管理条 例の条文である。)。
技術の輸入について、許認可をとらなければならないとする根拠は、第10条の「輸入制限対象の技術については、許可証制度をとり、許可を受けなければ、輸入してはならない。」という規定による。
輸入する技術は、(1)契約について事前許可を取らなければならない技術と、(2)自由輸入対象の技
術であり、契約を登録するだけでよい技術の2つに分類される。
紙幅の都合上、手続の流れについては、簡単な図示および箇条書きに留めるが、この内容は以下のとおりである。
(1) 輸入許可対象技術の場合の通常手続
ライセンシー(中国企業)
①国務院貿易主管官庁に技術輸入申請を行う(第11条)。
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①技術輸入申請
⑤許可証申請
③技術輸入許可趣意書を交付(第13条第1項)。
技術輸入契約の副本と関係書類を提出(第14条第1項)。
⑦技術輸入を許可するときは、技術輸入許可証を発行(第16条)。
国務院貿易主管官庁
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②技術輸入申請を受理した後、国務院の関係官庁と共同で申請の審査を行い、申請受理の日から30業務日以内に、承認または不承認の決定をする
(第12条)。
⑥国務院の貿易主管官庁は技術輸入契約のxx性を審査し、書類受領日から10業務日以内に、技術輸入の許可または不許可の決定をする
(第14条第2項)。
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④技術輸入契約締結(第13条第2項)。
ライセンサー(外国企業)
(2) 自由輸入対象技術の場合の手続
①自由輸入対象の技術については、契約登録<登記>制度をとる(第17条第1項)。
② 自由輸入対象の技術を輸入するときは、契約 は法によって成立した時に効力を生じるものとし、登録を効力発生の条件とはしない(第17条第2項)。
③次に掲げる書類を提出しなければならない。 a 技術輸入契約登録申請書。
b 技術輸入契約の副本。
c 両契約者の法的地位を示す証明書類。
④国務院の貿易主管官庁は第18条に定める書類を受け取った日から3業務日以内に、技術輸入契約を登録し、技術輸入契約登録証を発行しなければならない(第19条)。
なお、自由輸入技術については、「技術輸出入契約登録管理規則」(2001年12月30日公布、2002年1月 1日施行)があるので、当該技術を供与しようとする契約当事者は、この規則にも目を通しておく必要がある。
3 技術供与契約締結に際しての問題点
対中国企業に技術供与契約が増えているが、こ の契約から生じる紛争も少なくない。例えば、輸入 した技術をもって製品を生産したが、所期の品質 の製品が生産できないとして損害賠償の請求があ ったとか、供与した技術が中国国内の他社に漏洩し、ニセモノが中国国内で出回るとかというトラブル がある。そこで、技術供与契約を締結するに際して
は、十分な注意が必要である。以下、トラブルの原因となる技術供与契約上の重要な条項について、簡単ではあるが留意点を紹介する。
(1) 技術供与契約の主要条項
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一般に技術供与契約には、以下の内容が含まれる。 (1)前文
(2)用語の定義
(3)契約内容および範囲 (4)技術情報およびサービス (5)商標
(6)検収および受領 (7)技術の改良 (8)秘密保持
(9)不争義務
(10)支払いおよび支払義務 (11)最恵待遇
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(12)原材料および部品の供給 (13)不可抗力
(14)準拠法および解釈 (15)仲裁
(16)契約の発効,期間,終結 (17)譲渡
(18)通知
(19)修正
(技術供与契約のモデル書式については、拙著『中国進出企業の各種契約モデル書式集(日中対訳)』日本能率協会マネジメントセンター、2003年)を参照いただきたい。)
(2) 重要用語の定義
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技術供与協議の中で最も基本となるのが、契約 書中で用いられる重要用語の定義についてである。一般に技術供与契約においては、移転するノウハ ウとは何を指すのか漠然としているために、その 混乱を避けるために用語の定義が欠かせないとさ れる。さらに、技術供与契約は、往々にして技術ノ ウハウの供与に際して、ノックダウン方式が用い られるケースが多いため、「製品」「部品」「商標」な どの用語についても詳細な定義をしておくことが 必要である。
たとえば、技術ノウハウの定義は、「ノックダウン生産方式により、ライセンサーの供給する部品を用いて製品を組み立てるまでの工程における設計図面、工程技術、品質管理基準および部品、製品の検査方法などいっさいの必要な技術資料、さらに製品組立後に販売した製品の修理技術およびメンテナンス・マニュアルなどの業務に関する技術資料、情報のことをいう」といった如くである。
中国の場合、技術供与を受けるときにライセンサーに対して極めてxxなさまざまな要求をしてくるという。従って、xxxxxxが当初予期する協議範囲については、可能な限り明確になるようなかたちで表現し、契約書に明記しておくことが望ましい。
(3) 技術情報・ノウハウ・技術サービス
技術輸出入管理条例でいう「技術を移転させる行為」とは、特許権の譲渡、特許出願権の譲渡、特許の実施許諾、ノウハウの譲渡、技術サービスおよびその他の方法による技術の移転が含まれるという
(第2条第2項)。
(4) 保証責任
①技術水準の保証
第25条は、「技術輸入契約の譲渡人は、提供した 技術が完全、確か、有効で、契約に定められた技術 目標を達することができることを保証しなければ ならない。」と規定している。ここに落とし穴があり、技術供与自体には何等問題がなくても、中国側の 工場の周辺環境(原材料の質や部品の品質、規格上 の欠陥)が悪いことから、所期の完成品が生産され
ないとき、往々にして供与者の責任にされ、損害賠償を請求されるということがあるのである。
②第三者保証
第24条第1項は、「技術輸入契約の譲渡人は自ら が提供した技術の適法な所有者でありまたは移転、許諾の権利をもつ者であることを保証しなければ ならない。」と規定している。
第24条第2項は、「技術輸入契約の譲受人は、譲渡人から提供された技術を契約の定めに従って使用するものとし、第3者によって権利侵害を申し立てられたときには、譲受人はただちに譲渡人に通知しなければならない。通知を受けた譲渡人は、譲受人が妨害を排除するのに協力しなければならない。」と規定している。
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第24条第3項は、「技術輸入契約の譲受人が、譲渡人から提供された技術を契約の定めに従って使用し、他人の適法な権益を侵害したときには、譲渡人が責任を負うものとする。」と規定している。
(5) 商標の使用
商標も技術供与を行う中で重要な一部となる。ただし、企業が研究・開発した技術ノウハウは、製品として生産された時に商標によって当該技術が体現されるからである。
従って、外国企業・ライセンサーが中国企業に対して技術供与を行う場合には、商標の使用についても認めるケースが多い。
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但し、この場合、外国企業・ライセンサーとして 注意しなければならないのが、商標の使用を無条 件で許可して良いのか否かである。すなわち、ライ センシー企業によって生産、販売される製品につ いて、当該企業の品質管理などが不十分であるとか、品質基準が緩いといった場合、商標の有する信頼 度に期待して当該製品を購入するユーザーを裏切 り、信用を落とすことにもなり兼ねないからである。ライセンシー企業の能力が未知数である場合、ラ イセンサーとしては、商標の使用に一定の条件を 設けることが必要かと思われる。
従来の技術供与が、ノックダウン生産方式によるものが多いことから、この場合の商標使用条項
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について見ると、「ライセンシーは、ライセンサーから輸入する部品を組み立てて市品を生産し、契約製品の品質が当事者双方の規定する品質基準に達しているか否かの検収を受けた後、ライセンサーの同意をもって商標を使用する」といった規定が考えられる。
(6) 秘密保持
第26条第1項は、「技術輸入契約の譲受人および譲渡人は契約に定められた秘密保持の範囲および期間内に、譲渡人から提供された技術の中でまだ公開されていない秘密の部分について秘密保持の義務を負わなければならない。」と規定している。同規定が、xxxxxxがライセンシーに対し て導入技術の秘密保持を求めるに際しての法的根
拠となっている。
但し、この時、ライセンサーから開示した技術情報、ノウハウなどを全て一律に秘密保持を要求し得るものではない点は注意を要する。秘密を保持すべき技術の範囲、秘密保持期間などについては細かく規定しておくことが肝要と思われる。
(7) 技術改良
第27条において「技術輸入契約の有効期間中、技 術改良の成果は改良側に属する。」と規定している。
一般には、契約書中において「技術供与協議の有効期間内においては、ライセンサーは当該技術の改良および改良の情報と技術資料を適宜ライセンシーに対して提供するものとし、費用は徴収しない。」といった規定が設けられるであろう。技術は絶えず進歩するものであるので、契約当事者双方とも
に技術供与協議の中で用いられている技術につい て、不断の研究・開発を行い、当該技術の改良を図り、より一層のレベルアップを図ろうとする趣旨から、国際慣習上も普通に見られる規定である。
(8) 契約の期間
技術使用料の支払期間は、長ければ長い程外国企業にとって有利である。旧技術導入契約管理条例第8条は、「契約期間は、譲受方の導入技術習得の期間に対応するものとし、認可期間の特別の認可を受けなければ、10年を超えてはならない」と規定していた。この点において、契約期間の制約がなくなったことは改善されたといえる。第28条は、「技術輸入契約の期間満了後も、技術譲渡人および譲受人はxx・合理の原則に従い、技術の継続使用について協議することができる。」としている。
(9) 技術供与契約の禁止条項
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第29条は、技術輸入契約には、次に掲げる制限的条項を設けてはならないとしている。
①譲受人に対し、不必要な技術、原材料、製品、設備またはサービスの購入など、技術輸入に不可欠でない付帯条件を受け入れるよう求めること。
②譲受人に対し、特許権の有効期間が満了し若しくは特許権の無効が宣言された技術の使用料を支払いまたは関連の義務を負うよう求めること。
③譲受人が譲渡人から提供された技術を改良することを制限し、または譲受人が改良された技術を使用することを制限すること。
④譲受人が、譲渡人から提供された技術と類似した技術またはそれと競合する技術を他の供給源から取得することを制限すること。
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⑤譲受人が原材料、部分品、製品または設備を購入するルートまたは供給源を不当に制限すること。
⑥譲受人の製品の生産量、種類または販売価格を不当に制限すること。
⑦譲受人が輸入技術を利用して生産した製品の輸出ルートを不当に制限すること。
おわりに
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日本企業による対中国企業に対する技術供与契約は、今後とも増えると考える。通常の技術・ノウハウの供与のほかに、国際技術コンサルティングのようなものも出てくるであろうし、特許権や商標権の使用許諾契約もある。こうした契約を締結する場合、本稿では単に技術供与契約だけについて叙述したが、企業秘密保持などを考えると、技術供与契約だけではなく、技術の供与先企業において輸入技術の管理がどのように行われているのか、例えば、当該企業の技術者・労働者との間の機密保持契約があるか否かということに関しても管理しておく必要が認められるので、留意していただきたい。