マレーシアにおける技術ライセンス契約 TAY & PARTNERS(マレーシア総合法律事務所) Lee Lin Liパートナー(弁護士) Low Kok Jinアソシエート (弁護士) TAY & PARTNERS は、1989 年にマレーシアで設立された総合法律事務所である。現在、30 名の弁護士および 37 名のスタッフを擁し、クアラルンプールとジョホールバルにオフィスを有している。Li 氏は 15 年以上の経験を有するパートナー弁護士で、知的財産権全般を統括している。Jin...
マレーシアにおける 技術ライセンス契約 | ||
TAY & PARTNERS (マレーシア総合法律事務所) | Xxx Xxx Xxxxxxx (弁護士) | Low Kok Xxx xxxxxx (弁護士) |
TAY & PARTNERS は、1989 年にマレーシアで設立された総合法律事務所である。現在、30 名の弁護士および 37 名のスタッフを擁し、クアラルンプールとジョホールバルにオフィスを有している。Xx 氏は 15 年以上の経験を有するパートナー弁護士で、知的財産権全般を統括している。Xxx 氏は知的財産権部門に所属しているアソシエートであり、商標、特許、コピーライト、ライセンス及び意匠を主に担当している。 |
1. マレーシアにおける産業技術の保護
マレーシアには、産業技術の保護に利用できる知的財産権が複数存在する。技術の保護に適用される法律としては、1987 年著作xx(以下「著作xx」と称する)、 1983 年特許法(以下「特許法」と称する)、1976 年商標法(以下「商標法」と称する)、2000 年集積回路配置法が挙げられる。
2. 技術ライセンス契約
ライセンス契約(実施許諾契約)とは、知的財産権の所有者であるライセンサーと、実施料その他の支払もしくは対価と引き替えに特定の知的財産権を合法的に使用および利用する許可を得るライセンシーとの間で交わされる、法的拘束力を有する契約である。知的財産の所有権は契約後も引き続きライセンサーに帰属し、xxxxxxは単に許諾された範囲内で知的財産を使用する権利を得るだけである。技術的な実施許諾に関して言えば、技術を保護する知的財産権(特許、意匠、ノウハウ、営業秘密等)がライセンス契約の主題となるのが一般的である。
2-1. ライセンスの種類
一般に、ライセンス(実施許諾)は、ライセンシーに付与される権利の排他性の度合いに応じて、独占的ライセンス、準独占的ライセンス、非独占的ライセンスの 3 種類に分けられる。独占的ライセンスとは、ライセンス適用地域において知的財
産権を使用しうる者を独占的ライセンシーのみに限定し、それ以外の者(ライセンサーを含む)を排除するものである。つまり、独占的ライセンスの下で知的財産権の使用が許されるのは当事者の一方(独占的ライセンシー)のみである。準独占的ライセンスとは、ライセンス適用地域において準独占的ライセンシーとライセンサーの両者が知的財産権を使用することを認めるものである。非独占的ライセンスとは、ライセンス適用地域において非独占的ライセンシー、ライセンサー、さらにはライセンサーから同様の権利を付与された第三者が知的財産権を使用することを 認めるものである。最後の例では、複数のライセンシーが存在する可能性がある。コンピュータソフトウェアのライセンスは、非独占的ライセンスの例として通常挙げられるものの一つである。一般にソフトウェアの所有者は、当該ソフトウェアの使用に関して非常に多数のユーザーにライセンスを与えるからである。
2-2. ノウハウに関するライセンス契約
ノウハウとは営業秘密の一形態で、技術的な性質の情報および独自の知識がこれ に含まれるが、ソフトウェアもしくはコンピュータプログラムの製造や運用に関わ る技能もノウハウに含まれる。技術的情報や学術的情報(公式、方式、仕様等)は ノウハウの一例であるが、コンピュータのソースコードが公開されていないか公衆 がそのコードに容易にアクセスできない場合、ソースコードもノウハウに含まれる。ノウハウが技術的情報で、それについては制定法上の保護は適用されないが、その 秘密性ゆえに高い経済的価値を持っており、それが当該情報の所有者に競争上の優 位を与えている場合もある。
ノウハウは他の知的財産権とセットにして扱われる場合がある。このような扱いが最もよく見られるのは特許ライセンス契約の規定である。それにより、xxxxxxは本来なら公衆が知り得ないか容易にアクセスできない情報や知識にアクセスする権利を得ることができる。このようなライセンス契約が結ばれるのは、単に特許の実施権を得るだけで当該特許に関する技術的な情報もしくは知識にアクセスできなければライセンシーが関連の発明の使用もしくは利用を効率的に行うことができない場合があるからである。他の知的財産権を補足する技術的ノウハウに
基づく独占権を定めたライセンス契約は一般的に存在しており、H&R Johnson Tiles Ltd & Anor v H&X Xxxxxxx (M) Bhd の判例([1998] 4 MLJ 13)および Haw Par Brothers International Ltd & Anor v Jack Chiarapurk & Ors の判例
( [1991] 2 MLJ 428)がある。これらの訴訟の当事者は、特許や商標に関するライセンス契約とともにノウハウに関するライセンス契約を締結していた。
ノウハウに関するライセンス契約の場合、xxxxの秘密保持が重要となるため、契約の主題や与えられる権利の範囲を契約書の中で慎重に定義し、守秘義務や情報 の非開示に関する詳細で徹底した規定を設けるべきである。
2-3. 特許権に関するライセンス契約
特許法第 36 条は、ライセンス契約の締結に関する排他的な権利を特許権者に与
えている(特許法第 36 条(1))。当事者間で特許ライセンス契約が締結される場合、当事者は当該ライセンス契約を登録機関に任意で登録することができる(特許法第 42 条)。マレーシア知的財産公社へのライセンス契約の登録は強制的な要件ではないが、第三者への対抗要件であるため、契約当事者は登録を行うことが望ましい。特に契約の事実関係や条件に関する紛争が後日に発生した場合、登録された契約期間や条件を確認し、疑義を明確にすることができるため、ライセンサーにとってもライセンシーにとっても好都合である。
任意のライセンス契約による実施許諾の他に、特許法には一定の状況で認められる強制ライセンスに関する規定もある(特許法第 49 条)。特許法第 48 条は、「強制ライセンス」を以下のように定義している。
「強制ライセンスとは,特許発明に関して、特許権者の合意を得ることなく、特許発明に関して第 36 条(1)(a)及び(3)に定める行為のいずれかをマレーシアにおいて行うことについての許可をいう。」
この規定は、公益を理由として政府が申請する「政府の権利によるライセンス」にも関係することがある。最近、C 型肝炎治療のための薬剤の利用機会を拡大するため、マレーシア厚生省は、特許医薬品「ソホスブビル」の利用に関して特許法に基づく強制ライセンスの付与を決定した(Y.B. Datuk Seri Dr. S. Xxxxxxxxxxx、 2017 年 9 月 20 日付厚生省プレス発表「マレーシアにおける C 型肝炎治療を目的としたソホスブビル錠剤の利用機会拡大のための政府の権利の行使について」、 xxxxx://xxxxxxxxxxx.xxx/0000/00/00/xxxxx-xxxxxxxxx-xxxxxxxx-xx-xxxxxx- 20th-september-2017-implementation-of-the-rights-of-government-for-so fosbuvir-tablet-to-increase-access-for-hepatitis-c-treatment-in-malaysia)。この強制ライセンスは、特許権者である製造業者がマレーシア政府に任意のライセンス提供を申し出たにも関わらず、付与された(内閣が C 型肝炎用ジェネリック に関する強制ライセンスを承認(2017 年 9 月 14 日)、 xxxx://xxx.xxxxxxxxxxxxxxxxxx.xxx/xxxxxxxx/xxxxxxx/xxxxxx-xxxxxxx-xxxx oves-compulsory-license-for-hepatitis-c-generics)。強制ライセンスの付与についてマレーシア政府が示した理由は、薬剤の利用機会を拡大することで公衆衛生を保護する必要があるということであった。強制ライセンスがあれば特許権者の同意なしにより安価なジェネリック医薬品を製造できるのに対し、任意のライセンス提供の場合、特許の使用はライセンス契約の条件(特許権者への実施料支払を含む)に基づくからである。厚生省によれば、強制ライセンスに関する特許法の規定を通じて政府の権利を発動させた国はマレーシアが初めてである。
2-4. 著作権および集積回路の回路配置権に関するライセンス契約
著作物もしくは回路設計の権利者は、ライセンス契約を通じて自らの著作物もしくは回路設計の第三者による使用に許可を与える権利を有する(著作xx第 27 条
および集積回路配置法第 19 条(1))。著作権および集積回路の回路設計に関する登録制度はマレーシアにはなく、特許と異なり、ライセンス契約の登録を円滑化するような規定も関連法規の中に含まれていない。しかし、著作xxの規定によれば、著作権者のみならずライセンシーも、ライセンス契約によって許諾された著作物に
ついて自らが権利を有することを宣言するために任意の届出を行うことができる
(著作xx第 26 条)。
2-5. 商標権に関するライセンス契約
特許法の場合と同様に、登録上の商標所有者は、合法的な契約を通じて、他の者 による登録商標の使用を許諾する権利を有し、契約当事者は当該商標の登録上の使 用者としてライセンシーを登録機関に任意登録することができる(商標法第 48 条)。
当事者双方がライセンス契約の登録を選んだ場合、ライセンサーは商標法第 48 条の規定に従い、所定の手数料と書類を添えたライセンス契約の登録申請書を登録機関に提出する。ライセンス契約の登録は強制的な要件ではないが、第三者への対抗要件である。
3. 技術ライセンス契約で規定される重要な条件
技術ライセンス契約に関する条件のほとんどは交渉次第であり、契約当事者によ る取引のニーズと性質を反映する形で契約書に記載することができる。ライセンス 契約書を作成する際には、実施許諾される技術の使用範囲に関係する分野について、様々な要素や検討事項を考慮する必要がある。当事者双方が契約に基づく自らのx xを十分に認識できるようにするためには、ライセンス契約書が明瞭で透明性を備 えていることが不可欠である。
ライセンス契約の当事者双方は、両者の交渉の成果である条件を自由に契約に盛り込むことができるが、通常契約に規定される条件として以下のようなものが挙げられる。以下に挙げる条件だけがすべてではないという点と、それらの条件を契約に盛り込むか否かの決定は最終的には当事者双方の裁量事項であるという点に留意が必要である。
3-1. 当事者
契約書には当事者に関する十分な情報が明記されるべきである。そのような情報としては、会社の法人登記番号、設立された国ならびに登記上の住所および事業所
住所などが挙げられる。さらに、契約を締結する権利もしくは権限を自らが有していることを当事者は確認しなければならない。ライセンサーの場合、本質的にはライセンサーであるという事実それ自体が、その者が実施許諾される技術に関して有効な法的権原もしくは受益的権原を有しているか、それら権原の最終的な所有者から実施許諾の権限を適正に与えられていることを意味している。
ライセンス契約に基づいて付与される権利がライセンシーの子会社もしくは関連会社にも及ぶか否か、権利が及ぶとすればどのような条件が適用されるか等の事項も、契約書に明記しておくべきである。
3-2. 主題
当事者は、実施許諾される知的財産権の種類、範囲および領域を定義し、ライセンシーが実施権の行使を許される範囲を規定すべきである。知的財産権の説明および(登録があれば)その登録の詳細も示すべきである。さらに、xxxxxxは知的財産権の利用に関してライセンシーに制限を課すか否かを検討しなければならない。たとえば、xxxxxxによる知的財産権の再実施許諾を許可する場合、ライセンサーは慎重に熟考すべきである。
3-3. 使用分野および契約地域
契約書には、ライセンシーの権利の及ぶ使用分野と領土的ないし地理的な範囲が明記されなければならない。地域無限定のライセンスを与えることもできるし、特定の地域に限定されたライセンスを与えることもできる。様々な地域において権利の利用が可能である場合、それぞれの地域で権利の利用が認められる条件を契約書に示すべきである。権利付与を特定の分野もしくは業界に限定すべきか否か、ライセンシーが他の分野もしくは業界でも権利の利用を認められるか否かといった問題についても考慮しなければならない。
3-4. ライセンスの種類
ライセンシーに与えられるのが独占的ライセンスであるか、非独占的ライセンスであるか、準独占的ライセンスであるかは、契約書に明らかに示しておくべきである。独占的ライセンスの場合、その排他性の度合い(その排他性が特定の地域や業界の内部もしくは特定の期間に限定されるか否か等)を契約書に記載しなければならない。
3-5. 改良
実施許諾された技術(ライセンス技術)に対する改良が契約期間中になされる可能性がある場合、それらの改良に関する当事者双方の義務や権利取得の条件を検討し、明示的に規定しておくことが重要である。
3-6. 当事者の義務
契約当事者の具体的な義務を契約書に明記しておくべきである。ライセンサーの場合、様々な時点における技術支援およびノウハウの提供や、知的財産権を維持する義務といった事項について規定すべきである。ライセンシーの場合、一般にライセンシーの契約義務に含まれるものとしては、実施料の支払、改良、ライセンス技術の使用、販売促進および販売に関する債務履行の質、ライセンス技術の保護、法および規則に定められた要件の順守、守秘義務、製品がライセンスに基づき製造されたという事実の明瞭な表示等の事項が挙げられる。
3-7. 金銭的対価
実施料の支払がライセンス供与の前提条件である場合、実施料計算の方法や実施許諾される知的財産権の評価方法に関する規定を契約書に盛り込むべきである。この他にも契約で定めるべき問題として、実施料支払の時期、頻度、通貨単位、最低保証額、延滞利息などが挙げられる。適用される税もしくは課徴金を誰が負担するかも、当事者双方の交渉によって取り決めておくべきである。
3-8. ライセンス契約の存続期間と契約の解消
ライセンス契約の存続期間、当初の契約期間の満了時に契約の更新もしくは契約 期間の延長を行う権利がライセンシーにあるか否か、更新および延長の前提条件は、契約書に記載されるべきである。また、契約の解消が認められる条件も契約書に明 記しておくべきである。通常、契約解消が認められる条件となるのは、重大な虚偽 表示、重大な契約条件の不履行、実施料の不払い等である。さらに、契約解消に伴 う当事者双方の義務も示しておくべきである。これらの義務には、xxxxxxが ライセンス技術の利用を停止する義務や、ライセンサーから提供された文書や情報 を返却もしくは破棄する義務などが含まれる。
3-9. 表明および保証
ライセンシー側は、標準的な契約に盛り込まれる通常の表明とは別に、ライセンス技術に関するライセンサーの所有権および権原についての表明や、当該技術に適用される権利上の負担、担保権もしくは用益権が一切存在しない旨の表明を契約書に盛り込むことができる。
3-10. 免責
免責条項を契約書に盛り込めば、当事者は、相手方の行為の結果として発生した損害について賠償を受けることができる点で安心を得られる。相手方の過失行為や契約違反が原因となって第三者が提起した訴訟から当事者を保護するという点で、免責条項は特に有用である。
3-11. 準拠法および紛争解決
当事者双方は、契約の準拠法に関する合意を取り交わすべく努力すべきである。一般に、契約が履行される国の法律が準拠法とされることが多い。
契約に起因する紛争が発生した場合を想定して、当事者双方は、そのような紛争を解決する方法も決めておくべきである。当事者が選択できる紛争解決手法としては、裁判訴訟、仲裁、調停などがある。
4. 技術ライセンス契約に関係する紛争の解決
現在、技術ライセンス契約に関係する紛争を扱った法規定はマレーシアには存在しない。そのため、技術ライセンス契約に起因する紛争は、他の契約の場合と同じ方法で解決されることになる。契約の中で準拠法としてマレーシア国法が指定されている場合、その契約は制定法上の関連法規(1950 年契約法を含む)に従って解釈されることになる。さらに、実施許諾される技術が特許発明に関係している場合、特許法の関連規定も適用される。たとえば、特許法第 45 条の規定によれば、ライセンシーに制限を課す条項は、特許法の第 IX 部により与えられる権利から生じたものでない限り無効とされる。
■参考情報
・マレーシア 1983 年特許法
・マレーシア 1976 年商標法
・マレーシア 1987 年著作xx
・マレーシア 2000 年集積回路配置法
・マレーシア 1950 年契約法
(編集協力:日本技術貿易株式会社)