Contract
維持管理等の入札契約方式ガイドライン(案)
~ 包括的な契約の考え方 ~
本 編
平成27年3月
公益社団法人 土木学会 建設マネジメント委員会維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会
はじめに
本書は、公益社団法人土木学会建設マネジメント委員会維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会で検討した成果を取り纏めたものである。
インフラの維持管理の業務は、新規整備事業に比較して小規模・複雑な案件が多く、受注企業が効率的に業務を実施することが困難と言われている。 また、業務の個別性が高いことから、発注者の仕様書作成が難しく、技術者の能力を適切に評価することが困難であり、維持管理・更新の高度な技術的判断が必要とされる場合でも、適切な評価が行われない場合がある。さらに、単年度の契約方式では、業務の習熟が乏しいため高品質の成果の提供が難しく、受注企業の技術力を活かすことも困難である。
そこで、インフラの維持管理・更新の業務に関して、民間技術力を効率的・効果的に投入可能な入札・契約制度を検討し、提案することを目的として、平成 25 年 10 月に建設マネジメント委員会内に、維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会を設置することとした。
約 1 年間に亘る委員会での議論に基づき、主として地方公共団体が管理するインフラの維持管理等を効率的、かつ確実に実施することを目的として、維持管理等のサイクルにおける各段階において、民間事業者のノウハウや技術力を活用するための入札・契約方式の選択の考え方、契約方法、事業者選定方法の考え方について、ガイドラインとして取り纏めている。「包括的な契約」は、効率的な維持管理を実践するためのひとつの有効な方策であり、インフラの量や種類だけでなく、業務のプロセスや契約の年数、さらには、性能発注のような注文方法等も含む概念である。
本書は、地方公共団体が置かれたそれぞれの状況に応じて、自己診断による課題の認識に基づき、適切な入札契約方法を選択し、戦略的に維持管理を実施できるよう、その考え方、具体的手順、事例紹介等を分かりやすく記載している。この「本編」で全体概要を理解頂き、「参考資料編」で契約手法の具体的手順や留意事項を確認して頂きたい。「参考資料編」には、インフラの維持管理に関する基礎的情報と委員会における検討資料も添付した。
最後に、熱心な議論を重ねて頂いた委員各位、本書の取り纏めに事務局として献身的にご尽力頂いた幹事各位に心から御礼申し上げるとともに、本書が地方公共団体におけるインフラの維持管理・更新等の実践に有効に活用されることを祈念する次第である。
平成 27年3月
公益社団法人土木学会 建設マネジメント委員会維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会
委員長 x x x x
目 次
1. 策定の趣旨等 1
1.1. 策定の趣旨 1
1.2. ガイドラインの構成 2
1.3. ガイドラインの活用方法 5
2. 自己診断 6
2.1. 維持管理・更新計画の立案と維持管理等のサイクルの考え方 6
2.2. 現状把握 6
2.2.1 対象資産の現状把握 6
2.2.2 維持管理の担い手等の現状把握 8
2.3. 維持管理方法の現状評価と課題の抽出 9
2.4. 改善目的の明確化 13
3. 維持管理・更新の戦略立案 14
3.1. 事業の枠組みの検討 14
3.1.1 改善目的達成のための改善方策の検討 14
3.1.2 活用可能な入札契約方式とその選択の考え方 19
3.1.3 戦略的な取り組みへの展開 25
3.2. 実施手順の検討と維持管理等のマネジメントの継続的改善 25
3.2.1 実施手順 25
3.2.2 維持管理等のマネジメントの継続的改善 28
4. 個別施策 31
4.1. 発注規模の拡大・複数年契約 31
4.2. 地域維持型契約 34
4.3. 性能規定型契約 38
4.4. 設計者と施工者の連携を図る契約 44
4.5. 発注者を支援する方式 50
4.6. 実施事例に見る取り組み方 54
1. 策定の趣旨等
1.1. 策定の趣旨
公共サービスを提供するために整備されたインフラを適切に維持管理及び更新(以下、「維持管理等」1という)することは、地方公共団体等の公物管理者にとって重要な責務の一つである。高度経済成長期に大量に建設されたインフラが、同時に高齢化を迎えるなかで、財政的に厳しい状況にある地方公共団体にとっては、これらの維持管理等を効率的に、かつ確実に実施するための体制を確保することは、重要課題のひとつとして認識されている。
本書(以下、「ガイドライン」という)は、地方公共団体等が管理するインフラの維持管理等を効率的、かつ確実に実施することを目的として、維持管理等のサイクル全体ならびにサイクルにおける各段階での考え方や取り組み方、民間事業者のノウハウや技術力を活用するための入札契約方式の選択の考え方、契約方法、事業者選定方法等の考え方について取り纏めたものである。なお、このガイドラインで用いる維持管理等に関する主要な用語の定義は図 1-1のとおりとする。これ以外の用語については適宜脚注で説明するほか、これらをとりまとめた参考資料編の巻末の用語集を参照されたい。
■管理: 公物管理者が行う当該公物管理法上のすべての管理行為
(例えば道路の新設、改築、維持、修繕、災害復旧その他の管理)
■維持管理: 管理のうち、維持、修繕、災害復旧その他の管理行為
■維持: 機能及び構造の保持を目的とする日常的な行為
(例えば道路の巡回、清掃、除草、剪定、舗装のパッチング 等)
■修繕: 損傷した構造を当初の状態に回復させる行為
付加的に必要な機能及び構造の強化を目的とする行為
(例えば橋梁、トンネル、舗装等の劣化・損傷部分の補修、耐震補強 等)
■更新:
公物(例えば道路構造)を全体的に交換するなど、同程度の機能で再整備する行為
(例えば橋梁架替 等)
(a)管理に関する用語2
□保全(維持管理に関する活動):
施設・設備を使用及び運用可能状態に維持し、又は故障、欠陥などを回復するためのすべての処置及び活動
□予防保全:
□事後保全:
施設・設備の使用中の故障の発生を未然に防止するために、規定の間隔又は基準に従って遂行し、施設・設備の機能劣化又は故障の確率を低減するために行う保全。
故障発見後,施設・設備を要求機能遂行状態に修復させるために行われる保全。
(b)保全(維持管理に関する活動)に関する用語3
図 1-1 用語の定義
1 本文中で特に維持管理と更新を個別に強調したい場合は「維持管理・更新」と表記する。
2 国土交通省:国が管理する一般国道及び高速自動車国道の維持管理基準(案),平成 25 年 4 月に基づき作成。なお用語の定義は同基準(案)の検討にあたり、道路法、道路維持修繕要綱等の定義を参考に定義がなされた (国道(国管理)の維持管理等に関する検討会とりまとめ 参考資料p2 参照)。
3 JIS 規格(JIS Z 8115:2000 信頼性用語)に基づき定義した(定義にあたり、「アイテム」を施設・設備、「フォールト」を故障に置き換えた)。
1.2. ガイドラインの構成
維持管理等を効率的に行うためには、自らが直面している課題を正確に把握することから始まる。維持管理等の進め方(図 1-2)のサイクルの中でどの部分で困っており、困っている要素が何であるかを(何をどうしたいか)を具体的に整理する必要がある。
インフラの維持管理等のサイクルは、点検・診断によってインフラの物理的状態を把握し
Check
Do
Act
更新もしくは
大規模修繕
補修設計
補修工事
Plan
健 x
x更新
①現状
何もせずに放置した場合
老朽化度
やや老朽化
・道路巡回
・舗装
→路面清掃
→雪氷対策
・橋梁等構造物
・道路付属物等
→植栽管理
→排水溝清掃
・設備
→照明・・・など
・舗装 例えば
→
・橋梁 例えば
→沓座面清掃など
健全
観察型
(更新)
予防保全→事後保全
( )
保守業務
工 事
架け替え等設計
現地踏査・点検計画
↓
点検実施・調書作成
↓
診断・対策区分評価
長寿命化修繕計画の更新
工事発注
工事発注
健全度回復
工事実施
↑
図面数量等作成
↑
三者協議
↑
現地(詳細)計測
↑
工事計画
工事実施
↑
図面数量等作成
↑
三者協議
↑
現地(詳細)計測
↑
工事計画
発注図書作成
↑
補修設計
↑
現地(詳細)調査
↑
大規模補修計画
発注図書作成
↑
補修設計
↑
現地(詳細)調査
↑
補修計画
更新・大規模修繕
(Check)、その結果に基づきインフラの維持管理や更新に関する計画4が作成済みの場合はこれを更新し(Act)、管理しているインフラの改善目標を設定し(Plan)、目標を実現するために、維持、修繕、更新等の行動をとる(Do)ことから構成される。この維持管理等のサイクルを確実に回すためには、マネジメントシステムを構築する必要がある。すなわち、これらの作業を実施する担い手を確保し、実施に必要な財源を確保し、全体計画を立案し戦略的にマネジメントする体制を確保する必要がある。
保全方法の決定
不具合発見
個別修繕計画立案
健全度維持
日常点検・管理
x 繕
維 持
施設数
図 1-2 維持管理等の進め方
そこで、まず、公物管理者が望ましい維持管理等のマネジメントサイクルのあり方を理解した上で、管理している対象資産の状況を整理することが必要である。次いで、担い手の現状を
4 地方公共団体の場合は、「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」(平成 26 年 4 月 22 日付総財務第 74 号総務大臣通知)に基づく公共施設等総合管理計画や、同計画に基づく個別施設ごとの長寿命化計画である個別施設計画が該当する。詳しくはxxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxx/xxxxxxxxxxxx.xxxx を参照されたい。
把握し、現状評価と課題の抽出を行う。そして、課題に応じた改善目的を明確化する (詳細は、 2.自己診断)。次に、維持管理等を着実に推進するための計画をとりまとめ、同計画に則り抽出された各々の課題に対する改善目的に適した方策を組み合わせ、事業の枠組みを作成し、これを確実に実施するための手順を検討する(詳細は、3.維持管理・更新の戦略立案)。こうした自己診断から戦略立案の流れを図 1-3 に示す。
本ガイドラインで対象としている改善方策としては、発注規模の拡大・複数年契約、地域維持型契約(地域維持型 JV 及び共同受注方式)、性能規定型契約、設計者と施工者の連携を図る契約、及び発注者を支援する方式である(詳細は、4.個別施策)。なお、このほか、入札時における競争参加者の設定において入札手続きの迅速化を図ったフレームワーク方式や、修繕や更新のための資金調達も含めて民間に委託する PFI/PPP 方式が有効な場合も想定され、その活用が期待されるが、本ガイドラインではその位置づけを示すにとどめ、詳細な解説は行わない。
本ガイドラインは、「本編」、「参考資料編」の 2 編で構成される。「本編」は、自己診断から維持管理等の事業スキームの検討を含む戦略立案にxxx全体の概要を説明するものであり、
「参考資料編」は、維持管理等に関する入札・契約に関する基本的な考え方と個別施策の具体的手順や留意事項を解説している。併せて我が国のインフラの維持管理の現状に関する資料、委員会における検討資料等の参考資料を取り纏めている。
図 1-3 自己診断から戦略立案までの流れ
1.3. ガイドラインの活用方法
地方公共団体が管理しているインフラは、その種類や量、また、維持管理等のために必要な対策、さらに維持管理等の担い手の状況等が異なり、地方公共団体ごとに解決すべき課題もさまざまである。維持管理等のサイクルは同じとしても、地方公共団体の実情に応じて構築すべきマネジメントシステムは異なると言える。すなわち、本ガイドラインでは改善方策として前述の五つの改善方策(発注規模の拡大・複数年契約、地域維持型契約(地域維持型 JV 及び共同受注方式)、性能規定型契約、設計者と施工者の連携を図る契約、及び発注者を支援する方式)の活用方法を主に解説するが、その改善方策の適用等の基本的な考え方を示すものであり、示した実例もその事例の一つにすぎない。
そのため、実際に本ガイドラインを活用して改善に取り組むにあたっては、対象となる地域におけるインフラの量や分布、老朽化の程度や内容、老朽化や損傷を引き起こす原因、地域の担い手の体制や技術力、発注者側の体制や技術力、これまでの維持管理等の仕組みと実施してきた内容等、そうした状況を十分に理解・勘案し、それらを前提としつつ、官民が連携して実効性が期待できる新しい維持管理等のマネジメントの仕組みを再構築するという視点が重要である。
加えて、特に維持管理の効率化はそうした効果が期待できる新しい仕組みを導入しても、必ずしも一朝一夕に効果が得られない場合も想定される。これは維持管理の効率化は、上述した状況を理解すること自体に時間を要したり、予防保全効果が期待できる日常管理のあり方や、現場や維持管理のマネジメントに習熟した人材の育成に時間を要したりするのが一般的なためである。また、改善効果が乏しい期間であっても、新しい維持管理の仕組みを受・発注者がそれぞれの役割を果たし、根気よく改善に取り組むパートナーシップも不可欠である。
このように、本ガイドラインの活用にあたっては、単なる「当てはめ」的に利用するのでは なく、対象とする地域やインフラの状況を十分理解して維持管理等の仕組みを再構築すること、並びに官民のパートナーシップが必要不可欠な要素であることを理解して活用していただき たい。
2. 自己診断
2.1. 維持管理・更新計画の立案と維持管理等のサイクルの考え方
自己診断にあたり、まず維持管理等を効率的に進めるための基本的な維持管理等のサイクルを理解することが必要である(前出図 1-2 参照)。これらのステップは、個々の過程が独立することなく、情報を引き継ぎながら継続して循環させることが重要である。
・現状のインフラの健全度(劣化程度)の把握と計画の立案 【Plan】
地域には既に損傷レベルが進んでしまったものと、健全度が維持されているインフラが混在しているので、点検、診断を行いその全容を把握する。それら診断結果に基づき、インフラの維持管理・更新を着実に推進するための中期的な取り組みの方向性を示したインフラ長寿命化計画(行動計画)や、同計画に基づき個別施設ごとの具体の対応方針を定めた個別施設計画を策定する。
・健全なインフラは健全性を維持【Do】
健全度が保たれているものを対象に、的確な日常管理による予防保全により計画で定めた一定水準以上の健全性の維持を図る。
・損傷レベルが進んだインフラの健全度回復【Do】
構造物単位で損傷レベルが進んだものは、事後保全(修繕あるいは更新)を行い健全度回復を図る。健全度が回復した後は的確な日常管理による予防保全により一定水準以上の健全性を保つ。
・保全対策後のモニタリングによる経過観察【Check】
修繕後は構造物を定期的に点検、診断することにより構造物の健全度をモニタリングし、対処方法等の適切性を確認する。
・維持管理・更新に係る計画の更新【Act】
点検、診断の結果に基づきインフラの維持管理・更新に関する計画を更新する。
2.2. 現状把握
2.2.1 対象資産の現状把握
効率的な維持管理等を行う上で、自らの保有している資産の状況を把握することは必須である。具体的に、以下の 2 つの視点から、対象資産を整理する(表 2-1)。これらの整理を、保有している資産の種類別にその量と健全性の状況を関連づけて行うことで、公物管理者として健全性ランク別の構成比を知ることができる(図 2-1)。
(1) インフラの種類と量
自治体が保有している施設の種類、またその量を把握する。
(例:道路であれば、舗装、橋梁、トンネル、法面、設備等)
(2) 物理的劣化の程度
対象資産の種類毎に、これまで実施してきた維持・修繕により実現している現状の健全性を把握する。併せて現状で抱えている課題(苦情含む)も把握・整理する。
(3) 今後対応が必要な課題、修繕等の計画の把握・整理
道路であれば、例えば大型車混入率の増加による床版補強や塩害環境下における対応など、路線別、施設別に将来対応すべき課題や修繕等の計画を把握し整理する(表 2-1)。これらの整理結果は、課題解決の方向性の検討に利用する。
表 2-1 対象資産の整理例(橋梁の場合)5
写 真
健 x
x更新
①現状
何もせずに
放置した場合
施設数
老朽化度
図 2-1 対象資産の現状把握イメージ
5 道路橋定期点検要領(国土交通省,平成 26 年 6 月)。なお、国土交通省 HP(政策・仕事>道路>主な施策>道路の老朽化対策)には、表 2-1 の道路橋点検表記録様式の他、道路トンネル、シェッド、大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等の点検表記録様式が掲載されている。
2.2.2 維持管理の担い手等の現状把握
維持管理には、維持、点検、診断、修繕(設計、工事)の段階がある。まず、前述の計画を実現するために、対象とするインフラ毎に、各段階の担い手等を整理することが必要である。内部であれば、どの組織が行っているのか、外部であれば、どのような担い手がどのように調達されているか、また、毎年どの程度の予算を計上しているかなどを整理する(表 2-2)。
これら具体的な管理や実施方法に関するレビューは、公物管理者自身も含め、現受注者にインタビューすることが有効である。インタビューは現在の健全性とこれまで実施してきた維持や修繕との関連性を結びつける視点から実施し、その結果は対象施設や維持業務毎に整理するとわかりやすく、また、課題はできるだけ詳細に記録に残すことで業務効率化の戦略立案のための一助となる。
表 2-2 維持管理の担い手等の現状整理例(対象資産別に作成)
橋 梁 | |||||
維持 | 点検 | 診断 | 修繕設計 | 修繕工事 | |
主体 (直営/外部) | 直営 | 日常点検は直営 | 同左 | 外部 (コンサル) | 外部 |
外部の場合の調達方法 | - | 定期点検はコンサルに外注 (一般競争入 札) | 同左 | 総合評価一般競争入札 | 一般競争入札 |
予算 (百万円/年) | △百万円 | △百万円 | △百万円 | △百万円 | △百万円 |
実施上の課題 | ・苦情対応しか | ・定期点検・診断結果に基づく修繕が実施できてない ・業務位で点検、診断の判断水準が同様か判断できない。 ・前回の点検結果との整合がとれていない。 ・------------ ・------------ ・実施数量が少なく採算性が合わない。 ・------------ ・------------ ・------------ ・------------ ・------------ | ・専門的な技術を要する工事の設計であったため、職員による技術的な判断が困難。 ・------------ ・------------ ・------------ ・詳細調査なしの設計となっている。 ・------------ ・------------ ・------------ ・------------ | ・専門的な技術を要する工事であったため、監督職員による技術判断が困難。 ・設計変更が何度も必要になった。 ・------------ ・図面通りに施工できない。 ・市の積算(歩掛かり)が実態と合っていない。 ・------------ ・------------ | |
できない。 | |||||
公物 | ・------------ ・------------ | ||||
管理者 | ・------------ ・------------ | ||||
・------------ | |||||
・------------ | |||||
・業務間の連携 | |||||
がなく非効率。 | |||||
受注者 | ・------------ | ||||
(実施者) | ・------------ ・------------ | ||||
・------------ |
2.3. 維持管理方法の現状評価と課題の抽出
2.2 による現状の把握を踏まえて、評価と課題の抽出を行う。どの程度、維持管理等のサイクルを回せているか、適切に施設を維持管理できているかについて評価(レベル A,B,C)を行い、その評価の過程で課題を抽出する。
■(レベル C) 維持管理等のサイクルが構築できていない
これまでの自己診断のプロセスで、整理表が作成できない、あるいは、表の空欄が多い場合には、C 評価(=維持管理等のサイクルが構築できていない)となる。また次のような場合も C 評価となる。
⚫ 維持管理・更新に関する計画がない。
⚫ 維持管理・更新に関する計画はあるが、運用していない。
⚫ 点検は行っているが、点検結果を活用していない。 など
これらの場合には、まず、対象とするインフラごとに、維持、点検、診断、修繕(設計、工事)の維持管理等のサイクルを回すために必要な体制と予算を確保する必要がある。
また、検討にあたっては以下のような取り組みの要請等が地方公共団体に通知されているので参考とされたい。
i) インフラ維持管理・更新の進め方等
「インフラ長寿命化基本計画」が平成 25 年 11 月 29 日にインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議によってとりまとめられ、その中で地方公共団体においてはインフラ長寿命化計画(行動計画)4 を策定することが期待されており、公共施設等総合管理計画がこれに該当するものとされている。
社会資本の維持管理・更新にあたっては、それぞれの管理主体が人口減少やコンパクトシティ化等を見据え、インフラ長寿命化計画(行動計画)等を策定し、これに基づき効率的に対応していかなければならない。さらに、限られた財源の中で効率的な老朽化対策を実施するためには、今後の老朽化対策は、インフラ長寿命化計画(行動計画)に基づき計画的かつ効率的に実施する必要がある。反対に、同計画に基づかない老朽化対策は非効率である可能性があり、抜本的に見直すべきであり、また、インフラ長寿命化計画(行動計画)を策定している場合であっても、単に計画が策定されていればよいのではなく、将来の社会経済状況の変化を見据えた具体的な集約・統廃合等の計画を含むものとするべき6とされている。インフラ長寿命化計画の体系を図 2-2 に示す。
効率的かつ効果的な維持管理・更新は、図 2-2 に示す行動計画や個別施設計画に基づき実施されるが、その際、各施設の必要性自体についても再検討し、検討の結果、必要性が認められない施設については廃止や撤去を進めるほか、必要性が認められる施設にあっては、更新等の機会を捉え、社会経済情勢の変化に応じた用途変更や集約化なども含めて対応を検討することや、また、維持管理・更新等に当たり、兼用工作物や占用物件が存在する施設等については、
6 財務省xx局:社会資本整備を巡る現状と課題,平成 26 年 10 月 20 日
工事内容や実施時期等について事前に十分な調整を行うなど、効率的に実施することとされていること7に留意が必要である。
図 2-2 インフラ長寿命化計画の体系8
ii) インフラ長寿命化計画(行動計画)の作成について
インフラ長寿命化計画(行動計画)の作成にあたっては、脚注 4 で示した総務省のホームページが参考となる。同ホームページでは、公共施設及びインフラの更新費用の簡便な推計を行うための維持管理費用試算ソフトも提供されている。
iii) 個別施設計画ごとの長寿命化計画(個別施設計画)の作成について
インフラ長寿命化基本計画においては、地方公共団体をはじめとする各インフラの公物管理者への支援として、国が有する技術的知見やノウハウを提供することが定められている。また、個別施設ごとの長寿命化計画である個別施設計画の策定にあたっては、各インフラの所管省庁より技術的助言等が実施される予定となっていることから、これらを参考にされたい。例えば、道路分野では道路メンテナンス会議等において、研修・基準類の説明会等の調整や、点検・修繕において、優先順位等の考え方に該当する路線の選定・確認等を行い、さらに、国が直接調査し技術的な助言を行う仕組み(直轄診断)について試行が始まっている。
また、各施設分野において維持管理に係る基準やマニュアルの整備もxx進められているところである(表 2-3)。
7 インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議:インフラ長寿命化基本計画,平成 25 年 11 月,p9
8 「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」の概要(平成 26 年 4 月 22 日)より
表 2-3 各施設分野において維持管理に係る基準やマニュアルの整備状況9(2014 年 10 月現在)
iv) 計画の推進について
上記計画の策定がなされただけ、もしくは点検を行っただけでは、維持管理等のサイクルを回せていることにはならない。公物管理者は点検・診断により蓄積されたデータを活用し、それらを反映した計画に見直しを行い、更新された計画に基づく修繕・更新を的確に推進するサイクルを回し続けるための体制が必要であり、こうしたいわゆるアセットマネジメントの導入方法についは、例えば、「アセットマネジメントの導入への挑戦」(土木学会, 2005)が詳しいので参考にするとよい。また、職員のみでの対応が困難な場合は、建設コンサルタント等を活用するなどして対応することも望ましい。
さらに、市町村等の地方公共団体ではかつて経験したことがない技術等が必要で対応が困難な場合も想定される。そうした場合は、国や都道府県等から適切な技術的アドバイスを受けて対応する仕組みが検討10されているところである。
このような取り組みを経て維持管理等のサイクルを回せる体制を整備することができれば、次に、各プロセスにおける課題を検討するレベル B へと進むことができる。
■(レベル B) 維持管理等のサイクルは概ね回せているが、部分的に課題を有している
維持管理等のサイクルは概ね回せているが、部分的に課題を有している場合は B 評価となる。現状評価から抽出される B 評価となる状態、課題としては、例えば、維持業務が非効率
9 点検診断に関するマニュアル・基準の一覧は、例えば、第 15 回社会資本メンテナンス戦略小委員会(第 2 期第 6 回)(平成 26 年 10 月 29 日開催)の委員会資料(参考2)市町村における持続的な社会資本メンテナンス体制の確立を目指して参考資料p6 から転載。
10 第 15 回社会資本メンテナンス戦略小委員会(第 2 期第 6 回)(平成 26 年 10 月 29 日開催)の委員会資料(参考1)などに紹介されている。
となっていること、修繕設計・工事が非効率となっていること、あるいは、維持管理等のサイ クルを計画どおりに回すことが困難となっていること等が挙げられる。これらの原因としては、例えば、技術職員が不足していること、技術力や担い手の確保が困難であること、維持管理等 の発注業務が不調・不xxで非効率であること等が考えられる。これらの課題を分析し、それ ぞれに対応した課題の解決策を考える必要がある。
i) 維持業務に課題がある
インフラの維持管理、除雪、災害対応といった、地域社会を維持し、地域住民の安全・安心の確保に不可欠な役割は地域の建設企業が担っているが、これら維持事業は分離・分割発注されている事例が多く、新設工事に比して小規模施工、作業制約、緊急対応に備えて一定数の労働者や機械を常時確保する必要がある等、一般的に採算性が低いと考えられている。
また、建設投資の減少に伴い、財務状況が比較的健全な企業においても技術者の高齢化、技術者及び経営者の後継者不足等が進み、地方圏やxx間地域において地域維持事業の担い手が減少している。
一方で、公物管理者側においても管理体制が縮小化するなどにより、維持業務に対する十分な対応が実施できていない、若しくはできなくなる不安を抱えている地方公共団体も多い。
ii) 維持修繕工事で不調・不xxもあり、非効率である
発注規模(金額)が小さい・労力に見合わない、技術者を一年間拘束される、待機時間が長いと言ったことを要因として不調、不落となる事例が見られている。また、実施にあたっても実施時期の偏り、同じ場所での別作業の実施、事務作業の増加、技術者の拘束など、公物管理者、受注者双方にとって非効率である事も少なくない。
iii) 修繕工事の発注において仕様の確定が困難、あるいは設計変更が頻発する
修繕においては、工事着手前に足場を活用した近接目視やコンクリートはつり検査等による詳細調査を行うことが困難な場合も多く、設計時点で想定していない新たな条件が施工段階で発覚し、設計及び施工の手戻りが生じることもある。さらに、修繕設計において、十分な現地調査が困難である場合に、修繕工事の発注において仕様の確定が困難となったり、工事契約後の設計変更が頻発したり、その手間がかかる等の課題を抱える場合がある。
iv) 維持管理等のサイクルを回すにあたって内部職員の体制確保が困難である
発注者が適切な調達管理を行うために発注者が全うしなければならない業務として、①点検・診断結果に基づき修繕計画の策定、②発注計画(適切な発注規模の設定、特記仕様書の作成 等)、③積算、入札・契約(技術審査)、④監督・検査(給付の検査、技術検査)があるが、技術職員数の不足、業務の多様化、現場離れによる要素技術力の低下等の体制の脆弱化が進んでいる一面もあり、特に中小規模の地方公共団体においては、上記の業務を厳格に運用することが困難な現状もある。
■(レベル A)維持管理等のサイクルを十分回せているが、民間の技術力を導入し、さらに改善したい
現時点では、維持管理等のサイクルを回すことができているが、より効率的な維持管理等を実施し、将来に向けて改善段階にある場合は A 評価となる。
より効率的な予防保全型維持管理へ転換するためには、性能規定11や品質保証等を活用した新しい事業の枠組みの活用が期待される。
また、危機管理上、早急な更新や大規模修繕を必要とする施設や設備が多数存在する場合であっても、一時的に多額の予算措置が困難なことが想定される。このような場合、地方公共団体としては長期債務負担を積極的に活用してその費用を確保しつつ負担を平準化する方法が考えられる。PFI 方式12もその解決手法の一つである。
このように、入札契約方式の工夫により、民間の技術力、ノウハウ等をさらに活用する方策を検討することが望ましい。
上記、B 及び A 評価で示した課題が発生する要因は、以下の 4 項目に整理される。
①技術職員の不足
②担い手不足
③業務の非効率性
④財源不足
2.4. 改善目的の明確化
2.3 で抽出された課題に対する改善目的を明確化し、とるべき方策について検討を行う。B及び A 評価の課題解決のための改善目的を概括すると、技術力確保(公物管理者側)、担い手の確保、業務の効率化、民間事業者の能力の活用という4つの大きな視点で整理することができる(図 2-3)。
(公物管理者側)技術力確保
担い手の確保
業務の効率化
民間事業者の能力の活用
図 2-3 維持管理等に関する改善目的の4つの大きな視点
11 公物管理者が予め規定した機能や性能(管理水準)に対し、受注者がノウハウや創意工夫を活かした自主的な方法でその機能や性能を確保することを要件とする仕組み。
12 PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う方式。
3. 維持管理・更新の戦略立案
3.1. 事業の枠組みの検討
3.1.1 改善目的達成のための改善方策の検討
改善の目的が明確になった段階で、次にインフラごとに維持管理等をどのように改善するか、その実現のために適用する事業の枠組みを選択する必要がある。実施にあたっては、複数の要 素を見直して実施することが有効な場合もあり、これらについて検討する必要がある。
まず、改善目的(図 2-3)を達成するための改善方策として、下記の項目が考えられる。
⚫ 発注規模の拡大(数量、業務、施設及び複数発注者)
⚫ 契約期間の複数年化
⚫ 複数企業による共同受注
⚫ プロセス間の連携
⚫ 性能規定型契約の活用
⚫ 入札手続きの迅速化(フレームワーク方式)
⚫ 民間資金の活用
⚫ 発注者を支援する仕組みの活用
1) 発注規模の拡大(数量、業務、施設及び複数発注者)
業務の効率化、情報伝達の確実さ、維持と修繕の切れ目ない実施等の視点から、これまで発注してきた発注業務単位を基本に包括化する方法がある。
包括化のパターンとしては、以下のパターンがある。
① 対象範囲(数量)の包括化 ・・・ 個別発注だと規模が小さく、業務時期の偏りや技術者の拘束など受注者にとって魅力のない場合は、対象範囲(数量)を包括化することで、受注者の意欲・工夫を引き出し維持管理業務の効率化を図る。
② 対象業務の包括化 ・・・ 業務ごとに別契約となっていた同種構造物の業務 を包括化することで他業務の成果を別業務に反映させる連続性のある維持管理を行い、効率化を図る。
③ 対象施設の包括化 ・・・ 同一エリア(区間)に複数種の構造物が点在する 場合に対象施設を包括化することで維持管理業務の効率化を図る。
④ 複数発注者による共同処理13 ・・・ 個々の発注者単位だと、例えば構造物 点検等の数量が少なく効率化が図れない場合は、近隣発注者が共同処理することで量を確保し、効率化を図る。
上記のうち①から③の対象範囲(数量・業務・施設)の組合せは多様であり、事業の特性や受・発注者の実態を踏まえて特徴を整理しておく必要がある(図 3-1)。参考資料編には道路事業を例にいくつかの組み合わせパターンを整理したので検討の参考としていただきたい。
13 例えばxx県では、県内市町村などで構成する協議会が、今年度から橋梁点検の一括発注を始める方針としている。xxxx://xxx.xxx.xxxx.xx.xx/xxxx/xxxxx/xxxxx_xxx0/xxxxxxxxxxx00/xxxxx/xxxx0/xxxxxx.xxx
その1業務 | 業務A | その2業務 | その1業務 | 業務B その2業務 | ··· |
その1業務 | 業務A | その2業務 | その1業務 | 業務B その2業務 | ··· |
施設の包括化
数量の包括化
業務の包括化
図 3-1 発注規模拡大のイメージ
なお、複数業務を包括化する場合、各業務に内在するリスクに応じた対価の支払い方式(単価精算業務、定額業務等)を採用する配慮が必要である。
2) 契約期間の複数年化
維持管理の効率化は受注者が対象とするインフラ、例えば道路の特性や、構造物毎の維持管理上の特性を理解することから始まり、そうした特徴を理解することで後年に改善や工夫が生まれる。維持を中心とした複数年契約の期間は、国(道路)では 2 年が多いが、道路の維持管理において複数年契約を活用してきた米国や英国の事例14では 3 年~5 年間(オプションによる延長期間あり)としている事例が多い。複数業務を包括で複数年実施することは、受注者に対して「良い仕事をする」という動機付けにもなる。
なお、国の資金では PFI 法などの適用がある場合を除き、財政法の定めにより国庫債務負担行為の上限は 5 箇年とされ、道路維持事業(路面維持、除草、清掃、構造物維持、巡回
及び点検作業)に係わる国庫債務負担行為の設定年限は 4 箇年以内15、道路修繕事業では設
定年限を 5 箇年以内16としている。一方、地方自治法において債務負担行為の期間に定めはない。
3) 複数企業による受注
景気低迷や公共事業の減少が続いてきたことから、企業従事者の不足・高齢化等の問題により、単独企業では必要な体制の確保が困難となった場合には、契約の相手方を事業協同組
14 事例としては、英国道路庁が 2001 年から採用したMAC(Managing Agents Contract)と呼ばれる幹線道路の日常管理と修繕を対象とした維持管理契約(2012 年からより発注ロットを大きくするなどして管理費縮減に着目したASC(Asset Support Contract)に移行を進めている)や、米国各州での取り組みがある。
15 国土交通省道路局:平成 21 年度予算参考資料新規制度概要,平成 20 年 12 月 20 日
16 国土交通省道路局:平成 26 年度予算概要,平成 26 年 1 月
合としたり、共同企業体としたりするなど、複数企業により実施体制を確保する方法がある。また、例えば道路の維持・修繕業務は、通常、道路維持、植栽管理、一般土木、舗装、電 気機械・設備、点検、設計等の専門性が異なる企業がその役割を担っているが、業務をどのような範囲で包括化するによるが、これら専門性の異なる企業がひとつのチームを組んで取り組む方法も考えられる。なお、このように専門性が異なる複数企業が一体となって維持、修繕等を行う場合は、共通の方向性の下で各業務を実施することが適当なことから、受託業
務全体のマネジメントを担う企業の配置が必要である。
4) プロセス間の連携
修繕等における「設計」と「施工」や、「維持」と「修繕」、あるいは維持における「点検・診断」と「維持」などのプロセス間の連携を密にすることによって、修繕等の円滑な実施、品質確保等の効率化を図る方法がある。
5) 性能規定型契約の活用
性能規定型契約は、インフラの供用中の状態を機能や性能で定義し、作業の実施時期、設計方法、新技術あるいは新材料の採用、施工、管理に関する事項等は原則として受注者の責任で決定し実施がなされることで改善が期待できる業務に適用できる。対価は定額払いであり、実施した数量で精算はなされないが、ノウハウを活用して効率的に性能を確保できれば、受注者は利益額を増大させることが可能になる。我が国では、巡回、植栽管理、舗装等を対象に主に利用されているが、欧米では、照明や構造物も対象に利用されている。
なお、管理水準の性能規定化にあたっては、法令等に基づく各公物管理者が適用する管理基準を満たすことを前提とした上で、これまで投下した予算で実際に実現してきた管理水準との関係から指標と管理水準を設定することを基本とすることが適当である。このようにすることで、これまで仕様規定で実施してきた方法も管理水準を実現するための実施手法の一つとして位置づけることができ、性能規定に不慣れな企業にとっても取り組みやすくなる。こうした取り組みからはじめることで、受注者に性能規定の仕組みを理解してもらうことができ、受注者はコスト縮減方策の提案も可能となり、最終的には発注者も維持管理費の縮減というメリット獲得につながる。
なお、管理水準をこうした考えに基づくことなく、予算は従来と同じにもかかわらず管理水準を公物管理者にとって理想的な水準に引き上げて設定するようなことは、適正利潤の確保のための予定価格の設定とならないことに留意すべきである。
6) 入札手続きの迅速化(フレームワーク方式)
契約内容が類似しているが、一括発注できずに発注時期がずれてしまう場合や、予算確保の都合で一括発注できず、高い頻度で断続的に発注を繰り返す必要がある場合など、発注ニーズが生じたときに速やかに適切な受注者を選定し、工事を完了させることが必要な場合がある。欧米各国においても、発注事務を効率的に実施するための努力が求められており、その改善策の一つとしてフレームワーク方式が導入されている。フレームワーク方式とは、予め指名候補者(フレームワーク企業)を選定した上で、これら企業との間で一定期間内に予
定している予定工事に関する受注者及び契約額の決定方法、契約条件等について予め合意しておく方式であり、この合意に基づく工事が発注された場合にはその合意内容に基づいて入札を実施する。なお、同方式の入札は公共事業を契約内容と規模で分類し、各分類別に通常の指名競争入札と同様な方法で実施される。この方式によれば入札期間の短縮、工事の早期完成といった効果や、発注者の事務負担の軽減につながる。フレームワーク合意は契約ではないので、我が国の現行法令下でも実施可能17と考えられる。
7) 民間資金の活用
従来型の公共事業では、起債や補助金、独自財源という方法で資金を調達してきた。このうち、地方公共団体が行うインフラの補修・改修に係る事業であって、施設等のxxxや機能強化に資する事業に要する経費(施設の建設事業を実施するために直接必要と認められる点検・調査等に要する経費も対象)は、公共施設の建設事業費として、地方債の対象とすることができる18。このほか、民間資金を活用した PFI 方式19がある。PFI 方式では、民間事業者が金融機関から借り入れて更新等に必要な資金の一部を調達し、更新または大規模修繕といった業務を一括で実施し、その発注に際しては、“提供する成果のみを規定し、成果を達成するための手段については、全てを民間事業者にゆだねる”性能発注方式を一般に採用するため、民間事業者による効率的なリスクの管理などを期待することができる20。また、対価を完工後に複数年に亘って支払うことから、当該期間中については受注者に品質確保等のリスクを合理的に移転できる。
欧米では道路の改良工事など更新・大規模修繕にも利用21されており、その取り組みが参考となる。なお、我が国で更新、大規模修繕で PFI 方式が利用されている事例としては学校施設の改築や耐震化対策、庁舎のエコオフィス化、浄水場の更新事業などがある22。
8) 発注者を支援する仕組みの活用
維持管理等の業務を行うにあたり、新しい仕組みの導入や既存の方式の組合せによって業務の効率化を図る際に必要な入札契約制度に関する専門的な技術が不足している場合には、設計や施工の実施者と独立し、発注者側の立場に立って発注者の支援を行う建設コンサルタント等を調達し、CM 方式23等の発注者を支援する方式を活用して体制の補完を図ることが有効である。
17 xxxx:英国の公共事業フレームワーク入札方式,経済調査研究レビュー Vol.11 2012.9
18 各都道府県財政担当課、各都道府県市区町村担当課、各指定都市財政担当課あて総務省自治財政局地方債課事務連絡:平成 26 年度地方債についての質疑応答集(抄),平成 26 年 4 月 1 日
19 民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(最終改正:平成 25 年 6 月 12 日)
20 内閣府:PFI 事業の手引き(xxxx://xxx0.xxx.xx.xx/xxx/xxxxxx/xxxx/xxxx00_00.xxxx)を参考に記述。
21 例えば米国フロリダ州交通局(FDOT)ではインターステート I-595 線の大規模改良・改築事業(約 17km の改良・改築、ランプの改良等と同区間の 30 年間の維持管理)をDBFOM(Design Build Finance Operate and Maintain)方式でおこなっている。また、米国ミズーリ州交通局では 802 橋の橋梁の一括更新事業に取り組んだことがあり、「第 41 回海外道路調査団報告-米国ミズーリ州の性能規定による橋梁改良事業に関する調査-,高速道路と自動車 第 52 巻第 4 号,2009 年 4 月」に詳しい。
22 内閣府資料 xxxx://xxx0.xxx.xx.xx/xxx/xxxxxx.xxxx より
23 CM(Construction Management)方式とは、発注者・受注者の双方が行ってきた様々なマネジメント(発注計画、契約管理、施工監理、品質管理等)の一部を、これまでの発注方式とは別な方式で、別の主体に行なわせる契約方式である。CM 方式には発注者側マネジメントを行うピュア型 CM 方式(発注者支援型 CM 方式とも呼ばれる。)と、受注者側マネジメントを行うアットリスク型 CM 方式があるが、ここでは前者を指している。
また、公物管理者に十分技術力があるものの、体制が不十分なため平常業務の逼迫により維持管理の計画・戦略の立案や方針策定等が実施できない場合も、平常業務の一部を発注者を支援する方式の活用により補うことで内部技術の蓄積を図りながら維持管理業務を実施する事が可能となる。
改善目的に対するこれら 1)~8)の改善方策との関係を整理すると表 3-1 のようになる。
表 3-1 改善目的に対する改善方策の関係
改善方策 改善目的 | 発注規模の拡大 (数量・業務・施設・複数発注者) | 契約期間の複数年化 | 複数企業による共同受注 | プロセス間の連携 | 性能規定型契約 | 入札手続きの迅速化 (フレームワーク方式) | 民間資金の活用 | 発注者を支援する仕組み |
担い手の確保 | ○ | ○ | ○ | - | - | - | - | - |
業務の効率化 | ○ | ○ | ○ | ○ | - | ○ | - | - |
民間事業者の能力の活用 | ※ | ※ | ※ | ※ | ○ | - | ○ | - |
技術力確保 | - | - | - | - | - | - | - | ○ |
※:民間事業者の能力の活用にあたり、一般的に併用する基本的要素
3.1.2 活用可能な入札契約方式とその選択の考え方
(1) 課題と解決方策の関係
維持管理等の改善を図るための入札契約方式として以下の方式が利用できる。なお、( )付きの入札契約方式は海外では維持管理等に適用している事例は多いものの、国内では実施事例が限定的でり、今後のその活用が期待される方式である。また【 】内記号は後述する図 3-3中の記号を示している。
⚫ 発注規模の拡大・複数年契約【M-1】
⚫ 地域維持型契約(地域維持型 JV、共同受注方式)【M-2】
⚫ 性能規定型契約【M-3】
⚫ 設計者と施工者の連携を図る契約【R-1~R-3】
⚫ (PFI 方式【R-3+民間による資金調達】)
⚫ (フレームワーク方式【R-4】)
⚫ 発注者を支援する方式24【CM-1】
これらの方式と課題、改善目的を関連づけると図 3-2 のようになる。同図に示すように、改善目的にふさわしい入札契約方式を選択するのがよい。維持管理データの蓄積、改善効率の程度、受注者の習熟度の向上の状況等を再評価し、B 評価となった課題が解決すれば、現状評価は A 評価となる。A 評価となれば、より民間事業者の能力を活用する入札契約方式(例えば性能規定型契約等)の採用を検討することが望ましい。
また、課題は複数に及ぶこともあり、状況に合わせて、とるべき方策を組み合わせて実施することが必要な場合もある。各入札契約方式の特徴は、「4.個別施策」に記載する。
24 設計や施工の実務実施者と独立し、発注者側の立場に立って発注者の支援を行う方式。発注者を支援する方式には、このほか従来から行われてきた工事目的物の監督業務の補完の一方策としての発注者支援業務があるが、本ガイドラインでは対象としていない。
Q1:維持管理等のサイクルを理解しているか? |
Q2:対象資産(道路なら舗装、橋梁・・)の量と健全性等を把握しているか? |
Q3:維持管理の担い手の現状(実施主体,調達方法,予算、実施上の課題等)を把握しているか? |
Q4:その他 ・維持管理や更新に関する計画があるか? ・維持管理や更新に関する計画を運用しているか? ・点検結果を維持管理に活用しているか? |
自 己 診 断 | 現状把握 |
現状評価 | |
課題抽出 | |
改善目的の 明確化 |
いずれかがNO いずれもYES
維持管理等のサイクルが構築できていない
C
B
維持管理等のサイクルの導入
維持管理等のサイクルを概ね回せているが、部分的に課題を有している
B
維持管理等のサイクルを十分回せているが、さらに改善したい
A
技術職員の不足
(公物管理者側)
技術力確保
発注者を
支援する仕組み
担い手不足
担い手の確保
業務の非効率性
業務の効率化
財源が確保できない
発注規模の拡大(数量、業務、施設および複数発注者)
(更新・大規模修繕用)
(仕様規定)
複数企業による共同受注
契約期間の複数年化
性能規定・品質保証
共同企業体
事業 協同組合
改 善 方 策
プロセス間の連携(点検・診断+維持,維持+修繕,設計+施工)
(設計+施工)
入札手続きの迅速化
民間資金の活用
活用可能な入札契約方式
戦 略 立 案
維持・修繕
発注者を支援する方式
地域維持型契約 | |
共同受注方式 | 地域維持型JV |
更新・大規模修繕
発注ロットの拡大
・複数年契約
フレームワーク方式※1
PFI方式
設計者と施工者の連携を図る契約
※1:予め指名候補者を選定した上で、これら企業と一定期間内に予定している予定工事に関する受注者及び契約方法等を予め合意しておく方法。発注ニーズが生じたときに速やかに適切な受注者を選定し、工事を完了させることが出来る。
図 3-2 自己診断から入札契約方式選択までのフローチャート
(2) 担い手の確保
地域維持事業の担い手確保が困難となるおそれがある場合には、人員や機械等の効率的運用と必要な施工体制の安定的な確保を図る観点から、地域の実情を踏まえた契約方式が活用されている。本来、地域維持事業の担い手は、迅速かつ確実に現場へアクセスすることが可能な体制を備えた地域精通度の高い建設業者等が望ましいが、担い手の確保が差し迫って重要課題となっている場合には、契約の相手方を事業協同組合とする「共同受注方式」、共同企業体を相手方とする「地域維持型 JV」が活用されている(図 3-3【M-2】)。
(3) 業務の効率化(維持、修繕、更新・大規模修繕)
i) 維持、修繕
維持管理の単位が小さい、維持、点検・診断、設計、修繕工事のそれぞれのフェーズにおける情報の伝達不足等の課題がある場合など、業務の効率化の観点から、地域の実情に合わせて、維持管理業務を対象範囲(数量)、対象業務、対象施設、及び発注者どうしの共同処理も含め、包括化することがあげられる(図 3-3【M-1】【M-2】)。
また、修繕事業を円滑に実施し品質確保を図るために、修繕事業のプロセス間での連携を密にして構造物の損傷状況や損傷度を的確に把握した上で、設計に反映する仕組みが必要である。具体的には、設計の受注者が工事段階で関与する方式(図 3-3【R-1】)、工事の受注者が設計段階から関与する方式(図 3-3【R-2】)、設計と施工を一括して発注する方式(図 3-3
【R-3】)などが検討されている。
なお、我が国では実施された事例はないが、英国ではある程度の規模の工事に対して、入札期間の短縮(すなわち事業の早期完成)、予算等の都合で一括発注が出来ないものの、断続的に発注を行う必要がある場合、発注者側技術職員の体制が十分でない場合でも効率的に事業を進めたい場合などにフレームワーク方式(図 3-3【R-4】)が利用されている25。
ii) 更新・大規模修繕
修繕と同様に、設計者と施工者が連携を図る方式が利用できる。
また、更新や大規模修繕には多くの予算を必要とするため、特に老朽化施設が多数ある場合は通常の予算措置ではその健全化にかなりの期間を要してしまい、危機管理上好ましくない状況となる。こうした場合、民間資金を活用し、更新等費用を一時的に立て替えてもらうことで、発注者が通常確保できる予算で更新等をやり終えるのに要する期間より短期間で更新等が完了させる方法として PFI 方式が利用されている(図 3-3【R-3】で民間資金を活用するケース)。
(4) 技術力確保
新しい維持管理方式の調達の方法は従前の方法と異なるため、地方公共団体で直ちに導入するにはハードルが高い場合、技術力の確保、発注者側の体制補完の観点から、発注者側を代理してそのマネジメントにあたる発注者を支援する方式(図 3-3【CM-1】)の活用が期待
25 xxxx:英国の公共事業フレームワーク入札方式,経済調査研究レビュー Vol.11 2012.9
される。発注者を支援する方式による支援の範囲としては、「組織に対する支援」と、「個別事業に対する支援」26がある。国では、直轄工事における CM 方式として、工事段階の監督体制が不足する懸念がある場合に、民間企業の専門技術者を配置させることによって、監督業務を補完する方策の1つとして活用してきている。その活用により、工事目的物の品質あるいは複数の工事間の円滑な調整等を図るだけでなく、工事特性及び CM 方式の導入時期によっては、コスト縮減や工期短縮等が期待されており、その実施事例27も多い。
また、人員・技術力の確保が困難な場合の対応として、国では民間企業等で活躍する維持管理に精通した技術者や経験者を活用することが現実的な対応策と考え、また、市町村自身が組織としての技術力向上を図る観点からも、経験豊富な技術者等からの技術移転等を検討することも有効であるとし、資格や経験等を要件とした技術者登録制度の構築を検討している28ところである。
(5) 民間事業者の能力の活用
予防保全による施設の長寿命化と管理水準の安定的維持がなされ、コスト縮減及び魅力ある市場として民間事業者の参加が見込まれる仕組みとするには、性能規定、品質保証の仕組みを有する性能規定型契約(Performance-Based Maintenance Contracting : PBMC)(図 3-3【M-3】)が有効である。具体的には、公物管理者が予め規定した機能29や性能30(管理水準)に対し、受注者がxxxxや創意工夫を活かした自主的な方法でその機能や性能を確保することで維持管理の効率化を図る契約方式である。これは、複数年・複数業務包括委託として活用されることが多い。なお、全ての維持業務を性能規定化する必要はなく、仕様規定型業務(例えば道路清掃)と性能規定型業務(例えば植栽管理)が混在したもので構わない。
この方式の場合の主たる実施主体は、迅速かつ確実に現場へアクセスすることが可能な体制を備えた地域精通度の高い建設業者等が中心となるが、異なる専門性を有する複数企業からなる体制とする場合は、受託業務全体のマネジメントを担う企業の配置が必要である(後述 4.3 参照)。
また、更新・大規模修繕においては、本ガイドラインでは詳しく説明しないが、前述した民間資金を活用した PFI 方式が有効な場合も想定される。対象事業の特性を踏まえ、PFI方式の有効性を検証31した上で取り組むことが望ましい。
26 ピュア型CM 方式の導入の手引きとして、建設コンサルタンツ協会が作成した「CM方式活用の手引き(案)」
(平成 24 年 6 月)があり、標準契約約款(案)、共通仕様書(案)、業務費用の積算の考え方等が示されている。
27 国土交通省:国土交通省直轄事業における発注者支援型CM方式の取組み事例集(案),平成 21 年 3 月
28 第 15 回社会資本メンテナンス戦略小委員会(第 2 期第 6 回)(平成 26 年 10 月 29 日開催)委員会資料 資料
2「市町村における持続的な社会資本メンテナンス体制の確立を目指して」(案)より
29 機能とは目的又は要求に応じてものが果たす役割。機能は性能の上位概念。
30 性能とは目的又は要求に応じてものが発揮する能力で、指標を用いて数値により定義することができるもの。
31 PFI 事業として実施することにより、効率的かつ効果的に実施できることが基準( 同一サービス水準の下での公的財政負担の縮減、同一負担水準の下での公共サービス水準のxxx)であり、その検討の進め方等は内閣府でガイドラインをとりまとめている。xxxx://xxx0.xxx.xx.xx/xxx/xxxxxxxxx.xxxx
(6) 見直しの要素と入札契約方式との関係
自己診断から入札契約方式の選択までのフローチャートである図 3-2 と、維持管理等のサ
イクルと活用可能な入札契約方式の関係を示した図 3-3 を併せて眺めると、以下のことがわかる。
⚫ 発注規模の拡大・複数年契約及び地域維持型契約は維持業務における担い手の確保、業務の効率化に有効な方式。
⚫ 設計者と施工者の連携を図る方式は、修繕及び更新・大規模修繕の効率化に有効な方式。
⚫ 性能規定型契約は一般的には維持業務と修繕業務を一体的に扱い、業務の効率化(積極的な予防保全への転換)により民間事業者の能力を活用する方式。
⚫ 民間資金を活用するPFI 方式は、更新や大規模修繕において効率的なリスクの管理、などを期待する方式。
⚫ 発注者を支援する方式は、発注者側の組織や個別事業を発注者の立場で支援する方式(受注者側を対象とした改善手法ではない)。
このように、各入札契約方式は、それぞれカバーする分野が異なるため、これらを組み合わせて活用したり、また維持管理等のサイクルに従って実施する順序を設定したりする必要がある。
■官民連携による効率的な維持管理の基本的な考え方 Do
【R】更新・大規模修繕
①地域にはすでに損傷レベルが進んでしまったものと、健全性が維持さ
凡例: コンサル 建設企業
れているインフラが混在している(Plan頻度分布図参照)。
②まず、健全度が維持されているものを対象に、こまめな日常管理による予防保全により一定水準以上の健全性を維持を図る(M-1~3)。
③構造物単位で損傷レベルが進んだものは、まず事後保全(修繕または更新)を行い健全度回復を図る(R-0~4)。健全度が回復した後はこまめな日常管理(予防保全)によって一定水準以上の健全性を保つ。
■実施にあたっての主な留意点
・欧米では、日常管理と修繕を切れ目なく実施する仕組みが活用され、実効を挙げている(M-3+ex.R-3)。
・包括的に業務を委託する場合は、受注者側の業務全体をマネジメントする役割の企
■設計の受注者が工事段階で関与する仕組み
戦略的包括化のパターン
・修正設計は随意契約
■工事の受注者が設計段階から関与する仕組み
・技術提案・交渉方式
■設計と施工を一括して発注する方法
・設計・施工一括発注
・詳細設計付き工事発注
修繕(更新)設計
修正設計
修繕(更新)工事
【R-1】
【R-2】
修繕(更新)設計
(足場設置など)
修繕(更新)工事
【R-3】(民間資金を活用するとPFI方式となる)
修繕(更新)設計
修繕(更新)工事
修繕(更新)工事
修繕(更新)設計
【R-4】
(民間資金を活用した)更新・(大規模)修繕業務
【R-1~4】
業の配置が必要かつ適切。
・同様に発注者側マネジメントを代理する企
更新
【R】 修 繕
もしくは 大規模修繕
■設計施工分離発注の改善
多様な入札契約方式
・フレームワーク方式
迅速化
業の配置も有効(CM-1)。
Plan
多様な入札契約方式
【CM-1】 発注者を支援する方式
■発注者側マネジメントを代理
■現状
注)修繕と更新・大規模修繕はほぼ手続きが同じため区別せずにパターン整理している。
工事実施
↑
図面数量等作成
↑
三者協議
↑
現地(詳細)計測
↑
工事計画
工 事
工事発注
発注図書作成
↑
設 計
↑
現地(詳細)調査
↑
修繕(更新)計画
修繕(更新)設計
現 状
・設計施工分離発注
【R-0】
健全度回復
【M-3】
【M-1】
【M-2】
(定期点検・診断並びに)維持及び修繕の複数年・包括委託
+ ex.【R-3】
施設数
個別修繕計画立案
x x x更新
①現状
何もせずに放置した場合
保全方法
の決定
老朽化度
24
やや
保守業務
不具合発見
日常点検・管理
【M】維 持
老朽化
★日常管理と修繕を切れ目なく結ぶ仕組みを与えることがポイント
【M-3】性能規定型契約
維持業務の複数年・包括委託
多様な入札契約方式
■性能規定や品質保証の仕組みを利用し民間事業者の能力を活用
・地元企業+コンサル
【M-1】発注規模の拡大・複数年契約 (仕様規定)
■発注規模の拡大、複数年契約、複数企業による受注
・舗装 例えば
→
・橋梁 例えば
→沓座面清掃
→桁洗浄塩分除去
■現状
・業務別契約
・施工単価契約
・道路巡回
・路面確認・清掃
・排水溝清掃
・雪氷対策
・植栽管理
・設備管理 など
健全度維持
複数企業からなるため、全体マネジメントを担える企業の配置が必要かつ適切
観察型
(更新)
予防保全→事後保全
( )
健全
Act
多様な入札契約方式
【M-2】 地域維持型契約 (地域維持型JV,共同受注方式)
・複数企業(共同企業体または事業協同組合)による受注
・発注ロットの拡大、契約期間の複数年化 ・仕様規定
現地踏査・点検計画 → 点検実施・調書作成
Check
・コンサル、建設系企業が実施
■地域維持事業の担い手の確保が困難となるおそれがある場合に、作業を包 括して発注する方式
・コンサル、建設系企業が実施
診断・対策区分評価
健全度確認
診断
長寿命化修繕計画の更新
図 3-3 維持管理等のサイクルと活用可能な入札契約方式の関係
3.1.3 戦略的な取り組みへの展開
前項に示した入札契約方式は、例えば維持ならば維持の範疇、修繕なら修繕の範疇での改善を基本とした手法であるが、更なる維持管理等の効率化を図る視点や、諸外国での実施事例、我が国で新たな維持管理方式を実施する際に担当するであろう潜在的な企業構成(一体として実施することで効率性を上げ、リスクの顕在化が抑えられるチーム構成)を踏まえると、さらに効率化を進めることが可能な業務包括化のパターンも考えられる。具体的には、定期点検、診断、維持、修繕及び更新について、図 3-3 の右端に示すような、より包括度(業務間の連携)を高めたパターンである。我が国においても、社会資本の維持管理に必要な技術を有した技術者を活用し、橋梁の点検調査・設計・診断までを一連で実施する取り組みを行っている事例32がある。こうした取り組みも参考として、対象地域にふさわしいより効率的・効果的で、実効性の高い事業スキームの採用も検討すべきである。
3.2. 実施手順の検討と維持管理等のマネジメントの継続的改善
3.2.1 実施手順
維持管理等の実施体制確保(発注者側技術力確保)も含め、課題解決に用いる入札契約方式とその構成の大要が定まった段階で、これを具体的に実施する手順を検討する必要がある。入札契約方式ごとの手続きの進め方は参考資料編に譲るものとし、ここではインフラ全体に対する対策の進め方を入札契約方式の視点から示す。
(1) 着手手順について
着手手順と入札契約方式の関係を図 3-4 に示す。
1) 健全性が保たれている施設への対応
健全性が保たれている施設については、発注規模の拡大・複数年契約【M-1】もしくは地域維持型契約【M-2】を活用して、維持を中心とした日常管理の改善に取り組み健全性を維持する。この場合、日常点検・管理の中で発見した不具合を保守業務や修繕業務で速やかに対処する仕組みとすることが望ましい。また、従来より業務を担ってきた企業が取り組みやすい契約方式で取り組みつつ、業務の性能規定化に必要な情報が蓄えられたら、契約方式を性能規定型契約【M-3】に切り替えるなど、業務単位で情報の蓄積と改善に取り組むことが適当である。
2) 修繕または更新・大規模修繕が必要な施設への対応
修繕または更新・大規模修繕が必要な施設については、なるべく早い段階で、これまで通りの設計・施工分離発注方式【R-0】に加え、設計者と施工者が連携を図る方式【R-1~3】やフレームワーク方式【R-4】が有効な場合はその採用を検討して更新もしくは健全度の回復を図る。更新もしくは健全度が回復した後は、【M-1~3】の対象として的確な日常管理を行い健全性を維持する。
なお、更新や大規模修繕が必要な施設については、民間資金を活用した PFI 方式も有効な
32 岐阜県の「道路維持修繕業務委託(効果促進)(橋梁修繕全面委託)」では ME(社会基盤メンテナンスエキスパート)認定者を活用し、小規模橋梁の点検から補修計画、修繕工事までを一連して実施している。
個別修繕計画立案
施設数
場合がある。
健 x
x更新
①現状
何もせずに
放置した場合
老朽化度
<STEP①>インフラ長寿命化計画等の策定
<STEP②-2>
<STEP➂>
修繕・更新
(点検・診断+)維持+修繕
【R-0~4】
【M-1~3】 + 【R-0~4】
<STEP②-1>
【M-1または2】→【M-3】(性能規定型契約に移行)+【R-0~4】
(点検・診断+)維持+修繕
時間
観察型
( )
予防保全→事後保全
( )
<STEP①>
・インフラ長寿命化計画の策定
・個別修繕計画の策定
■健全性が保たれている施設
<STEP②-1>
・日常管理の改善により健全性を維持
■修繕または更新・大規模修繕が必要な施設
<STEP②-2>
・修繕もしくは更新・大規模修繕を実施して健全度を回復 。
<STEP➂>
・日常管理の改善により健全性を維持
更新 大規模修繕
事業の実施
維持・修繕
・
図 3-4 着手手順と入札契約方式との関係
(2) 事業の仕組みの作成手順
1) 事業の仕組みの作成にあたっての留意事項
採用する入札契約方式は決まっても、対象とする業務、対象とする施設、JV を構成する業種構成、契約期間、官民の役割分担、業務内容に応じた対価の支払い方、事業のモニタリング手法など、事業内容の具体化、すなわち事業の仕組みの詳細を決定しなければならない。ここでは、その大まかな検討の流れを説明する。
まず、事業の仕組みの作成にあたっては以下の点に留意する必要がある。
⚫ 予防保全による施設の長寿命化と管理水準の安定的維持がなされること。
⚫ コスト縮減が見込まれること。
⚫ 魅力ある市場として民間事業者の参加が見込まれること。
2) 検討すべき事項
事業の仕組みの検討にあたっては、次の内容を明らかにする必要がある。
i) 対象施設と改善目的
自己診断での整理結果と先導事例の課題解決方策を参考としながら、どの施設を対象にして、どのような改善を図りたいのかを明確化する。
① 対象施設を何にするか(例えば、橋梁だけか、舗装だけか、道路全体か)
② 改善目的に何を据えるか
→維持のみの改善か
→修繕のみの改善か
→更新や大規模修繕の改善か など
ii) 改善対象の業務の抽出
改善対象業務、項目の抽出にあたっては自己診断結果を利用して以下の観点から行う。
⚫ 過去の実績に基づき、維持、修繕の別に費用負担が大きな業務の改善を図る。
⚫ 発注方法や情報伝達の仕組み等に内在する課題の改善を図る。
⚫ 将来計画において、維持、修繕の別に費用負担が大きくなると予想されている業務の改善を図る。
iii) 課題解決の方向性
解決方策の検討にあたっては「3.1.1 改善目的達成のための改善方策の検討」に示した項目ごとに検討する。また、予防保全へ転換するためなど、新しい業務構成のあり方を検討する。一例として以下のような取り組みが考えられる。
⚫ 損傷事例を踏まえた維持(日常管理)業務の見直し。
⚫ 維持と修繕を切れ目なく実施する仕組みの導入。
⚫ 性能規定、品質保証の仕組みの活用。
⚫ 維持管理上重要な情報を日々蓄積する仕組み。 など
iv) 対価の支払い方、公物管理者及び受注者によるモニタリング方法等を設定
新たに性能規定や品質保証の仕組みを利用する業務については、その業務目的、管理指標、管理水準、要件未達時における回復までの時間的措置の制限、対価の支払い方、公物管理者及び受注者によるモニタリング方法等を予め設定する必要がある。特に、コストと実施体制確保に影響が出る業務については、受・発注者双方が仕組みを共有できるように具体化しなければならない。
また、業務内容に応じた適切な対価の支払い方法を採用することは、適切な官民のリスク分担の観点から重要である。業務対価は、各業務の特性に応じた適切な支払い方法を用いることとし、基本的な考え方は以下のとおりである。
⚫ 仕様で実施時期、実施方法及び実施数量が決まっている業務は定額払い。
⚫ 管理水準を確保していれば実施した作業数量に関わらない業務は定額払い。
⚫ 実施時期、実施方法及び実施数量が実施段階まで確定できない業務(公物管理者の指示に基づき実施する業務を含む)は精算払い。
v) 市場調査
新たな維持管理等の仕組みは、受注者にとっても新しい仕組みであるため、民間事業者の理解が十分でないことが想定される。そのため、対面による市場調査において事業の仕組み(案)を提示し、理解を深めながら丁寧に意見聴取を行うことが適当である。
市場調査では主に以下の事項について意見聴取を行い、事業の仕組みへの反映を検討する。
⚫ 包括的な維持管理に対する評価、意見
⚫ 効率的な管理につながる対象業務の組み合わせ形態(維持のみ、もしくは、維持+修繕等)に対する評価、意見
⚫ 複数年度契約に対する評価、意見
⚫ 事業規模、契約年数に対する評価、意見
⚫ 性能規定や品質保証を採用する業務に対する評価、意見
⚫ 異業種 JV 等の執行体制に対する評価、意見
⚫ 事業に内在するリスクに対する官民の役割分担に対する評価、意見(民間事業者では分担できないリスクの確認)
⚫ 民間ノウハウでどの程度のコスト縮減が可能かの見通し
⚫ 民間事業者の本事業への参画の意向 など
3.2.2 維持管理等のマネジメントの継続的改善
(1) 入札契約方式の改善
維持管理等の改善にあたっては、全ての改善要素を盛り込んだ最終形を目指して一気に進めるよりも、「できることから実施する」ことで少しずつでも改善を進めることが重要である。現状、維持業務を単年度・分離発注で実施しているのであれば、まずは複数業務を包括化す
る、又は単年度契約を複数年化するといった取り組みからスタートすること等が考えられる。特に、性能規定型契約では、対象資産の管理水準確保に対して民間事業者が責任を負うため、現状の施設の劣化状況や過去の修繕履歴等の情報を予め提示する必要があるが、こうした情報は必ずしも公物管理者側で整理されているとは限らない。このような場合に、維持業務のみを発注規模の拡大・複数年契約として発注し、その業務に基づき対象資産の現状(数量や健全度等)を調査・整理する業務も含めて台帳等を整備・更新する方法なども考えられる。このようにして性能発注に必要なデータが整理・蓄積された段階で性能規定を導入するといった段階的な維持管理手法の改善も有効である(図 3-5(a))。
そうした観点からは、地方公共団体として性能規定型契約等のようなより効率的な管理を目指す場合であっても、まずは比較的導入が容易な業務の包括化、複数年化から着手し、業務改善に必要な情報を蓄積・整理した上で、より効率的な契約に移行するといった中長期的な視点に立った戦略的な官民連携手法の導入の考え方が適切である。こうした段階的な調達方法の改善は維持管理の中心的な役割を担う企業にとっても取り組みやすい。
また、修繕、更新・大規模修繕業務についても同様のことが言える。現状は設計・施工分離発注がなされているが、損傷状況の調査結果や、現場の制約条件を踏まえて修繕事業を円滑に実施し品質確保を図る必要がある場合は設計者と施工者が連携を図る契約を活用したり、さら
に PFI 方式を活用したりするなど、段階的な入札契約方式の改善に取り組む方法が想定される(図 3-5(b))。
■性能規定型契約(PBMC)
■地域維持型契約
あるいは
■発注規模の拡大・複数年契約
・複数企業による受注
・発注規模の拡大
・契約期間の複数年化
□第1段階
複数年契約の契約期間中に実施することが明かな修繕を包括業務の一部として発注する。
□第2段階
複数年契約の契約期間中に実施する予定の修繕ではあるが、発注段階ではその実施時期、仕様、数量等が未確定な修繕も包括業務の一部として発注する。
・維持と修繕のプロセス間の連携
・性能規定・品質保証の仕組みの活用
・複数企業による受注
・発注規模の拡大
・契約期間の複数年化
現在の調達方法
(単年度・分離発注)
・事業協同組合,共同企業体による受注
・発注規模の拡大
・契約期間の複数年化
■PFI方式
・民間資金の活用
・性能規定、品質保証の仕組みの活用
・設計、施工及び維持管理を一括して発注
・契約期間の複数年化
・複数企業による受注
現在の調達方法
(設計施工分離発注)
■設計者と施工者の連携を図る契約
・設計の受注者が工事段階で関与する方式
・
・設計と施工を一括して発注する方式
(a)維持、維持及び修繕の改善 (b)修繕、更新・大規模修繕の改善
図 3-5 段階的な入札契約方式の改善の一例
(2) 組織マネジメントの改善
1) 基本的な考え方
インフラの維持管理・更新を戦略的に進めるためには、維持管理や更新の現場マネジメントに組織として共通の方向性を持たせること、長期的な組織目標や外部環境変化等への対応も含めた視点から全体調整を図り、PDCA を機能させることが重要である33。
維持管理・更新はインフラの管理水準を長期・安定的に確保するという高度なマネジメント業務であり、調達の視点からみると機能維持サービスと捉えるべきである。その実施にあたっては、性能規定型契約等を活用するなどして、公物管理者の安定的経営の継続・改善がなされ、維持管理市場が魅力ある産業となり、担い手が育成されることを期待するところである。
2) 変革推進のための取り組み体制
本ガイドラインで示した新たな入札契約方式は現場レベルでの維持管理等のサイクルの改善方策として活用するものであるが、例えば性能規定を利用した契約は、モニタリング方法や対価の支払い方が従来方式と異なっている。そのため、公物管理者側の担当者もその内容や方法の理解が必要だが、そうした情報は担当者の人事異動等によって失われやすい。こうしたことを理由として現場での先導的な取り組みが継続的に改善されないことや中断することも危
33 このような公物管理者の安定的経営の継続・改善のためのツールとして活用できるアセットマネジメントシステムの国際標準であるISO55000s が 2014 年 1 月に発行した。
惧されている。こうしたことを防ぐためにも、インフラを管理する組織全体の業務の進め方の改善を目的とした取り組みは非常に重要である。
このような組織マネジメントの改善も含め、民間ノウハウを活用した官民連携による改善への取り組みには、現場における維持管理に関する知見のみならず、維持管理情報の蓄積と活用のあり方、老朽化の進捗に合わせたふさわしい維持管理調達手法への切り替え、現場の維持管理等のマネジメントの改善、それらを実現する調達の仕掛け作りなど、高度な専門性も求められるので、そうした専門性を有している建設コンサルタント等の人材活用も検討することが望ましい。
4. 個別施策
4.1. 発注規模の拡大・複数年契約
4.1.1 発注規模の拡大・複数年契約の取り組み方
発注規模の拡大は、規模の経済性を通して、維持管理等の業務の効率性を改善する取組である。また、複数年契約は、民間事業者による経験の蓄積を通して技術力を活かした維持管理等の業務の改善を図る試みである。この取り組みが有効な場合には、現状の取組を改善するための目標を定め、段階的かつ継続的に改善を図る取り組みが望まれる。
以下では、実施事例を通して発注規模の拡大・複数年契約の活用方法、取り組み方の視点を示す。
4.1.2 事例
(1) 青森県県土整備部における事例34
青森県では、橋梁の維持管理において、これまでの「傷んでから直すまたは作り替える」という対症療法的な維持管理から、「傷む前に直して、できる限り長く使う」という予防保全的なものとし、将来にわたる維持更新コスト(ライフサイクルコスト)を最小化することを目指している。「いつ、どの橋梁に、どのような対策が必要か」をアセットマネジメントと呼ばれるシステムにより的確に判断し、橋梁の長寿命化を図り、将来にわたる維持更新コストの削減を図るものである。
この維持管理体系の枠組は「点検・調査」と「維持管理対策」から構成される(図 4-1)。
「点検・調査」の結果は、直接あるいはシステム35を介して「維持管理対策」に反映される。維持管理体系の中心には「計画管理」があり、5 年に 1 回行う定期点検の結果からシステムを介して計画的な維持管理がなされる。この「計画管理」をサポートする位置付けとして「日常管理」と「異常時管理」がある。
このうち、年に 1 度以上の日常点検から、支承の清掃や点検で発見された箇所の対策を行うメンテナンスと、長寿命化修繕計画に計上されている小規模な長寿命化補修工事を包括的に発注する「橋梁維持工事」を出先機関管内ごとに発注している。包括発注の対象工事、業務を図 4-1 中に赤枠で示した。
⚫ 発注者: 青森県県土整備部(七つある出先機関単位で発注)
⚫ 受注者: 対象となる管内(又は地域)に本店を有し、土木一式工事特 A 級に格付けされることなどの要件を満たす企業
34 青森県 xxxxほか:青森県における入札・契約の取り組みについて(総合評価落札方式の取り組み、プロポーザル方式による橋梁維持工事の取り組み), 建設マネジメント技術 2012 年 5 月号のほか、青森県ホームページの情報に基づき作成。xxxx://xxx.xxxx.xxxxxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxx/xxxx/xxxxxxxx-xxxxx.xxxx
35 点検、劣化予測、LCC 算定、重要度評価、維持管理目標設定、予算シミュレーション(平準化)、中長期予算計画策定、中期事業計画(長寿命化修繕計画)策定、中期事業計画の進捗管理、事後評価(フィードバック)といった橋梁維持管理に必要な業務を支援する機能を有する青森県橋梁アセットマネジメントシステムのこと。
※小規模工事
図 4-1 青森県における橋梁の維持管理体系
(2) 導入前の状況
青森県には当時 15m 以上の橋梁が 747 橋36あり、高度経済成長時代後期の 1970 年以降に建設が集中しており、大量の更新時代が到来することが予測されていた。その一方で、平成 15 年度当時の、橋梁の維持管理のための予算は年間わずか 5,000 万円しかなく、十分なメンテナンスを行えない状況にあり、場当たり的な対応を余儀なくされている状態だった。また、平成 14 年に策定された「財政改革プラン」により、投資的経費は平成 20 年度には前年度比で 40%の削減が見込まれるなど、ますます厳しい財政運営を強いられることは確実な状況にあった。
青森県は、冬期は季節風の影響で奥羽山脈を挟んで大きく気候条件が異なり、xxx側では雪が降りやすく、太平洋側では晴れた日が多く、空気も乾燥している。そのため、xxx側は積雪地域となり橋梁は塩害による被害が発生しやすくなり、また太平洋側は凍結地域となり凍害の被害が発生しやすくなる状況にある。
(3) 業務の内容
青森県では、平成 16、17 年度の 2 カ年で橋梁アセットマネジメントシステムを構築し、平成 18 年度よりシステムの運用を開始した。システムの運用に当たり、まずシステムによる予算シミュレーションと事業計画の作成を行い、予算を確保した。
橋梁維持工事については、出先機関ごとにそれぞれが所管する橋梁(65~169 橋程度)37について、日常的な現状把握と早期の対策工事により、安全の確保と長寿命化を目的に、以下の業務を包括して発注した。
① 日常点検
② 詳細・追跡調査
③ 異常時点検
36 青森県県土整備部道路課:青森県橋梁アセットマネジメント年次レポート【平成 18 年度】,平成 19 年 7 月
37 平成 26 年度報告(平成 24 年度実績)では、15m 以上の橋梁が 795 橋、15m 未満の橋梁が 1,456 橋、計 2,251
橋あり、そのうち 2,236 橋について日常点検、清掃・維持工事等の一括発注を行っていると報告されている。
④ 清掃
⑤ 維持工事
⑥ 対策工事
⑦ 緊急措置(コンクリートの浮き部分の叩き落としなど)
コンクリートの叩き落とし
図 4-2 維持工事の状況
選定に当たっては、配置予定技術者の資格、業務の実施スケジュール、各地域の橋の劣化状況やアセットマネジメントに対する会社の取り組み、さらに特定のテーマに対する技術提案を提出してもらっている。工期は1年間で金額は各管内 4,000~5,000 万円程度とし、受注後の点検結果などに応じて工事量が増えれば、工期末に精算することを前提に契約している。
このほか、工事を実施する担当部署を横断するチームを設置し、重点的に橋梁補修事業に取り組み、さらにアセットマネジメントに携わる「人」の教育が必要と考え行政職員や建設会社・建設コンサルタントの技術力向上のための研修等にも取り組んでいる。
(4) 効果・フォローアップ
包括発注により以下のような効果があった。
⚫ 点検、清掃、緊急措置から小規模修繕工事まで包括的に発注することにより、建設会社にとっては、まとめて発注することで年間の計画がたてやすくなる。
⚫ アルカリ骨材反応による鉄筋の破断や、支承台座コンクリートの破損など、定期点検では発見されなかった損傷の早期発見につながっている。
⚫ 発注者にとっては、細かな発注業務が軽減されるというメリットがあり、緊急時などの対応も地元の機動力を活かした、すばやい対応が可能となった。
今後の課題としては、現在は単年度契約であるため1年間の工事終了後、次年度は別の建設会社が業務を引き継ぐ可能性がある。本工事は日常点検を含むことから継続して同じ建設会社が点検していくことが効率的であり、長寿命化にも有効であると考えられることから、今後は複数年契約も視野に入れた検討が必要となっている。
本事例は、アセットマネジメントの構築にはじまり、橋梁の長寿命化を実現するために予防保全を支える日常管理の充実を果たす仕組みとして包括発注が活用されている。日常管理で得られたれたデータはデータベースに記録・活用され、着実なアセットマネジメントサイクルが実施されている事例と評価できる。
4.2. 地域維持型契約
4.2.1 概要
(1) 地域維持型契約が導入された背景
地域の建設企業は、インフラの維持管理、除雪、災害対応といった、地域社会を維持し、地域住民の安全・安心の確保に不可欠な役割を担っている。しかし、これら維持事業は分離・分割発注されている事例が多く、新設工事に比して小規模施工、作業制約、緊急対応に備えて一定数の労働者や機械を常時確保する必要がある等、一般的に採算性が低いと考えられ、魅力的な市場が形成されているとは言い難い。
こうした状況下、建設投資の減少に伴い、企業数の減少や小規模化、企業体力の低下が生じている。また、財務状況が比較的健全な企業においても、技術者の高齢化、ひいては技術者及び経営者の後継者不足等が進んでいることから、地方圏やxx間地域において地域維持事業の担い手が減少している。
地域維持事業に係る入札契約においては、建設機械の固定経費や除雪における待機費用など、実施に要する経費が積算に十分に反映されていない事例も多く、建設企業の受注意欲が低下している。また、短期間・小規模の工事では人員や機械の確保が困難であり、経営リスクを取りづらくなっていることなども課題となっている。
一方で、公物管理者側においても厳しい財政上の制約や行政サービスの多様化により、これまでインハウスで担ってきた維持業務における技術の継承が困難となっていることや、管理体制が縮小化するなどにより、維持業務に対する十分な対応が実施できていない、若しくはできなくなる不安を抱えている地方公共団体も多い。また、実際に、入札が不調・不落となる事例が増加しており、入札参加者の確保に向けた対応策が強く求められている。
地域維持業務を適切に実施し、地域社会の維持を図るためには、その担い手の確保と公物管理者側の業務の効率化が不可欠である。入札契約制度においても、地域の建設企業の経営リスクを抑え、経営の安定化と人員・機械の効率的運用が可能となるような工夫を行い、サービス水準の向上を図りつつ、維持業務の効率化を図る仕組みが必要である。
地域維持型契約方式については、契約の相手方を事業協同組合とする方式の「共同受注方式」、共同企業体を相手方とする方式の「地域維持型 JV」があるが、地域の建設企業の入札参加を 確保し維持業務に活用する方法として、ここでは共同受注方式について記述する。
(2) 共同受注方式の取り組み方
共同受注方式を活用するにあたっては、インフラの維持管理に必要な事業のうち、地域事情に精通した建設企業等が継続的に実施することで効率的な業務の実施が期待でき、かつ地域の安全・安心への寄与が大きくなると考えられる各種工事・業務を対象とすることが望ましい。例えば道路であれば、道路巡回・路面清掃・雪氷対策・植栽管理等の「日常点検・管理」、日常点検・管理の実施により発覚した不具合に対するポットホール修繕などの「保守業務」が該当する。
また、共同受注方式の導入は「担い手の確保」の要素が強いものの、維持管理の体制を十分に確保できない行政(発注者)に対する補完機能、事業協同組合のスケールメリットを活かしたサービス水準のxxx、その必要性や効果は様々であり、地区事情や潜在的な需要を踏まえ
て適用することが望ましい。具体的な実施手順と留意事項については、参考資料編に詳述する。
1) 共同受注方式に期待される効果
共同受注方式の活用により、受発注者及び地域住民に以下の効果が期待される。
(発注者)
• 業務内容・地域の包括化に伴う発注事務の縮減
• 発注規模の拡大に伴う費用の縮減
• 入札参加者の確保による地域の維持管理の継続的な実施
• 地域事情に精通した事業協同組合の迅速、きめ細かな対応に伴うサービス水準の向上
(受注者)
• 受注機会の増加に伴う事業協同組合を構成する建設企業の利益の確保
• 業務の平準化に伴う人員・機械の確保、効率的な配置・運用の実現
• ノウハウの蓄積・共有化に伴う技術力の向上及び業務効率化の促進
• 包括発注に伴う維持業務の市場拡大
(地域住民)
• 享受するサービス水準の向上
• 地域建設企業の施工による安全・安心感の増加
• 雇用創出による地域経済の活性化
2) 対象工事の種類・規模
インフラの維持管理のうち、地域事情に精通した建設企業が継続的に実施することで、より効果が期待できる道路維持補修、舗装修繕、除雪、河川維持管理、災害応急対応などを対象とする。
また、事業協同組合のスケールメリットを活かし、一定規模以上の業務量や対象地域の広域性を確保する。ただし、地域維持型 JV でも対応可能な場合は混合入札38を併用し、透明性・競争性の確保に努めることが望ましい。
また、単年度契約であっても業務の平準化を図ることは可能だが、複数年契約とした場合は、経営の安定化、人員・機械の効率的運用面、ノウハウの蓄積などにおいて、より一層の効果が期待できると考えられる。
38 入札参加条件にあった企業であれば、共同企業体でも単体企業でも参加できる入札契約方式のこと。
4.2.2 事例
(1) xx県土木部における事例39
奥会津地域においては、豪雪期における迅速な対応を可能にするためには、個々の建設企業 では限界があることから、この維持補修業務を組合の共同受注事業として取り組むこととした。同事業の実施により、①人材確保や遂行予定・計画が立てやすくなり計画性のある経営が可能 となる、②緊急性を要する業務が発生した場合でも遂行期間を短縮できる、③組合の内部調整 により対応可能な組合員を即座に選定できるなど、組合員の経営の安定に寄与するだけでなく、地域を守るという視点から質の高い住民サービスの提供につながっている。
⚫ 発注者: xx県土木部
⚫ 受注者: xx地区建設業協同組合
(2) 導入前の状況
対象地域は、柳津町、三島町、xx町、昭和村(3 町 1 村)であり、面積 770.21km2、人口 9,423 人(平成 24 年 6 月 1 日現在)で、xx振興・過疎・特別豪雪の特殊立法指定地域になっている。この地域の建設産業は、公共事業の削減や入札制度の改革等により、競争が激化し、厳しい経営環境に置かれており、特に、xx間地域は公共事業の減少が著しく、建設企業数の減少、人員削減や保有機械の処分などの深刻な状況が進んでいた。当該地域の県管理公共土木施設の概要を図 4-3 に示す。
図 4-3 県管理の公共土木施設の概要
(3) 業務の内容
これまでの維持管理は、道路維持補修業務委託、除雪業務、舗装修繕業務委託、河川維持管理委託、砂防施設維持管理委託などを年に 2 回それぞれの項目で入札し、受注者を決め、維持管理業務を実施していた。
このような発注を見直し、奥会津地域の安全安心を守り、維持管理や防災活動を持続できる
39 xxxx(xx県):xx間地域道路等維持補修業務委託モデル事業(奥会津モデル), 2013 年度第 5 回公共調達シンポジウム(土木学会)xxxx://xxxxxxxxxx.xxxx.xx.xx/xxx/xxxx/00 に基づき作成。
体制の確保のため、平成 21 年度からモデル事業として、複数ある項目を集約し、年間を通し、共同受注できる方式とした(一括発注+通年契約(単年度契約)+共同受注)。なお、受注者選定方式は、競争性、xx性、透明性、実施体制の確認等の面から公募型プロポーザル方式で実施した。
図 4-4 従来型契約とモデル事業の契約方法
(4) 効果・フォローアップ
共同受注とすることにより、仮に建設企業が倒産した場合でも柔軟に対応できることや、住民の安全安心を継続して確保することができ、また、企業側としては雇用の安定化が見込まれ、地域貢献度の向上により就業意欲の向上にも繋がる結果となった(図 4-5)。発注側としても、事務の簡素化や監督業務の効率化が図られた。例えば、契約件数は 58 契約から 1 契約となった。
図 4-5 道路利用者、建設企業に対する調査結果
平成 21 年度から平成 24 年度の 4 年間試行運用し、モデル事業の有効性について検討会で
評価した結果、奥会津地域にとって最良な手法と判断され、平成 25 年度からは単年度契約から複数年契約とし、本格運用に移行している。
4.3. 性能規定型契約
4.3.1 概要
(1) 性能規定契約とは
性能規定型契約(Performance-Based Maintenance Contracting : PBMC,以下、「PBMC」という。)とは、公物管理者が予め規定した機能40や性能41(管理水準)に対し、受注者がxxxxや創意工夫を活かした自主的な方法でその機能や性能を確保することで維持管理の効率化を図る契約方法である。
PBMC では、道路等の最低限の機能や性能を定義し、定義された管理水準に達しているか否かに基づいて委託先に支払いがなされ、実施された作業方法や量は問題としない。すなわち委託先に対する契約では供用中の状態だけが機能や性能で定義されており、作業の実施時期、設計方法、新技術あるいは新材料の採用、実施時期や頻度等の管理に関する事項等は原則として受注者の責任で決定される契約体系である(図 4-6)。
図 4-6 従来型維持管理と性能規定型維持管理の対比42
40 機能とは目的又は要求に応じてものが果たす役割。機能は性能の上位概念。
41 性能とは目的又は要求に応じてものが発揮する能力で、指標を用いて数値により定義することができるもの。
42 xxxx:米国の性能規定型維持管理契約(PBMC)の概要と我が国への示唆 ―道路の地管理業務を題材として―,土木技術 66 巻 3 号(2011.3)図-1 に加筆して作成。
(2) PBMCの担い手
民間事業者の能力を活かした PMBC 導入の主なねらいは以下のとおりであり、施設や設備の予防保全を着実に進めるには、きめ細かな日常管理や即応性のある体制での維持と修繕を実施する必要がある。
⚫ 予防保全による施設の長寿命化と管理水準の安定的維持
⚫ コスト縮減
⚫ 維持管理市場を魅力ある産業化(担い手の育成)
維持と修繕を切れ目なく実施する仕組みとするには、即応性のある地元企業を中心とした企業群により行なわれることが効果的であると考えられており、そのような体制でなければその実効性を担保できない。すなわち PBMC が導入されても、実務の担い手は引き続き地元企業が担うことが望ましい。
これまで維持業務は、植栽管理、路面清掃、巡回、照明など業務別に、複数の企業に個別に発注されてきた。PBMC では、これらの企業群がひとつの共同企業体となって、複数業務包括かつ複数年の維持管理業務を共通の方針の下で取り組むことが適当なことから、業務全体をマネジメントする役割を果たす企業が参加することが望ましい(図 4-7)。欧米でも同様な体制で取り組んでおり、仮に受注者が変更となっても、全体マネジメントを担う企業が交代になり、当該道路の管理に精通した地元企業構成に大きな変更はないとされている。
また、「維持管理業務」は、傷んだ部位を修繕したり、そうならないように丁寧に清掃したりするという、労働集約的業務ではない。路線やインフラ全体を対象とし、民間ノウハウを最大限投入してインフラの管理水準を長期・安定的に確保するという「高度なマネジメント業務」であり、「機能維持サービス」と捉えるべきである。このためには民間のxxと工夫に対して対価を支払う仕組みを備え、こうした仕組みを通じて維持管理市場を魅力ある産業とし、担い手を育成することが必要である。
図 4-7 実施体制(イメージ)
(3) 公物管理者にとってのPBMC導入メリット及び留意事項
構造物等の健全度を一定の水準以上に保つ予防保全へ転換を図るためには軽微な損傷段階での工事が増えてくることが予想される。すなわち、日常的な的確な維持管理が重要となり、日常点検、清掃、日常的な維持工事などの小規模工事の重要性が増す。これらの工事は日常的に行う必要がある一方で、工事規模が小さく、従来のような個別契約方法はなじまない。公物管理者の立場から見れば、管理業務(点検・設計・積算・入札・契約・施工管理・検査検収)が飛躍的に増え、そうした事務に忙殺され公物管理者でなければ出来ない肝心の法律行為(意思決定等)に手が回らなくなってしまうことになる。
PBMC を利用するメリットは、維持や修繕の実務(事実行為)のほとんどは受注者が包括的に実施することになるため、公物管理者としての役割は受注者の成果・パフォーマンスの管理が主となり、公物管理者の体制を大きく変更することなく予防保全に転換することが出来ることにある。このように、予防保全への転換は公物管理者の発注業務内容(投資的修繕から日常管理業務へ)及びマネジメント方法に変革を求めており、その対応方法のひとつが PBMCの活用である。
なお、上述のように受注者は公物管理のうちの事実行為のみを行うものであり、公物管理者に成り代わるものではないことや、受注者にリスク移転が可能なリスクは、受注者がコントロール可能(当該事象が予見可能であり、対応措置を講じてリスクを回避または影響を低減させることが可能)な範囲とするなどの点に留意が必要である。また、PBMC は公物管理者にとっても新しい取り組みとなるため、その導入効果や民間事業者の参画が見込まれる仕組みとなっていること等を事前に検証する必要がある。このプロセスを経ずに実施すると調達を失敗することになりやすい。そのため、性能規定型契約方式の取り組み方を参考資料編に示したので参考としていただきたい。
(4) PBMCの適用業務
維持管理業務は維持と修繕に区分されるが、PBMC の先進国である英国や米国では、ほとんど全ての維持業務(巡回、清掃、除草、剪定、除雪、舗装のパッチング等)を対象に PBMCを利用してきた。このような維持業務(日常管理)を対象とした PBMC でコスト縮減等の成果が得られたため、その後、修繕業務(構造物や舗装等の劣化・損傷部分の補修等)も PBMCに含めて活用している。
4.3.2 事例43 44
(1) 奈良県道路公社における事例
奈良県道路公社(以下、「公社」という。)では第二阪奈有料道路45(図 4-8)の道路維持業務について、平成 24 年度から構造物の健全性が比較的良好であったメリットを生かし、積極的に予防保全に転換する目的から性能規定や品質保証の仕組みを取り入れた、性能規定型維持
43 xx xx:第二阪奈有料道路 道路維持管理業務の取り組みについて,平成 25 年度 近畿地方整備局研究発表会 論文集(行政サービス部門)
44 xx xx:道路維持管理の包括マネジメント-第二阪奈有料道路の取組み-,土木技術 67 巻 11 号(2012.11)
45 第二阪奈有料道路は奈良市xxxxx大阪市西石切町を結ぶ第 1 種第 3 級の自動車専用道路で、平成 9 年 4
月 23 日に供用を開始した。管理は奈良県道路公社と大阪府道路公社が共同で行っており、大阪府域 3.8km,奈良県域 9.6km からなる延長 13.4km の有料道路。このうちPBMC を導入したのは奈良県道路公社管理区間である。
管理契約を開始した。1 年間の実施内容をレビューし、平成 25 年度からは 3 ヶ年の複数年、複数業務包括委託を実施している。
⚫ 発注者: 奈良県道路公社
⚫ 受注者: 阪神高速技術・xx道路・阪神高速道路共同企業体
図 4-8 第二阪奈有料道路位置図
表 4-1 従来の管理水準(一部抜粋)
(2) 導入前の状況
維持業務の管理水準は、公社が実施時期、頻度を指定する仕様規定で行われてきた(表 4-1)。清掃関係業務、本線除草、トンネル覆工清掃、雪氷作業、ポットホール修繕等は、これら業務を包括的に1社に単価精算方式で委託してきたが、同じ除草や舗装修繕でも別業務で別業者に発注しているものもあった。
こうした維持管理方法の課題を受・発注者双方へのインタビューなどにより整理すると、以下のような非効率な事象等が挙げられた。
⚫ 維持業者が清掃・除草作業中に発見した不具合・破損が公社に報告されていない。
⚫ 維持業者が清掃・除草作業中に発見したガードレールのボルトの緩みなど、軽作業で即時回復可能な不具合も対応がなされていない(公社から指示があれば実施)。
⚫ 大阪府道路公社が発注している道路巡回業務で発見した奈良県区間の不具合情報の奈良県側への伝達が不確実。
⚫ 除草は路内と路外が別業者に発注。
⚫ 不具合の判断基準が明確になっていない。
(3) 業務の内容
これまで実施してきた業務を表 4-2 に示す 11 業務に再構成した。xxで【新】とあるのは新規に導入した業務、【性能】とあるのは性能規定を利用した業務、【品質】とあるのは品質保証付き契約とした業務である。また、保守業務は路面清掃業務及び植栽管理業務と同時に実施する業務で、即時保守業務(施設の不具合を発見時にその場において人力による軽作業で回復させる作業)と確認報告業務(施設の劣化、損傷の確認と公社への報告作業)からなり、規制を行う機会を活かして一つの作業動線上で複数の業務をこなす仕組みとしている。
性能規定を活用した植栽管理業務(除草)の要求水準を表 4-3 に示す。要求水準を達成するための作業実施日、方法、回数、範囲は受注者が設定できる。
表 4-2 再構成した業務構成 表 4-3 植栽管理業務(除草の)要求水準46
①【新】全体マネジメント業務
②保守業務
③修繕業務
④路面清掃業務
⑤水路清掃業務
⑥【性能】植栽管理業務(除草)
⑦【品質】舗装補修業務
⑧雪氷業務
⑨【新】改善提案業務
⑩【新】引継業務
⑪緊急措置業務
業務名
性能要件 | 要件未達成時の時間的措置の制限 |
①建築限界の確保 ・交通安全上、支障を来さない状態を保持する。 ②視距の確保 ・本線、ランプ、側道において視認性を阻害しない状態を保持する。 ③視線誘導標等の視認性確保 ・視線誘導標、標識等が目視確認できる状態を保持する。 ④排水能力の確保 ・側溝等の排水能力に影響を損なわない状態を保持する。 ⑤苦情(景観性を含む) ・交通安全上、支障を来さない状態を保持する。 | 3 時間以内に対応 24 時間以内に対応 24 時間以内に対応 24 時間以内に対応 30 日以内に完了させる |
(4) 効果・フォローアップ
以下のような効果があった。
⚫ 性能規定の導入
⮚ 植栽管理業務の一部に、建築限界、視認性確保等を性能要件に定め、除草の範囲・時期・方法を事業者が自由に定められる性能規定を導入。
⮚ 民間の創意工夫の余地が生まれたことにより、性能規定の対象となる除草業務で
25.6%のコスト縮減。
⚫ 保守業務の効率化
⮚ 路面清掃業務及び植栽管理業務の実施中に発見した不具合について、即時対応又は公社へ報告を行う保守業務を設定。
⮚ 即時保守ではポットホール修繕や雑草駆除の迅速化、確認報告業務では橋梁ジョイント部の破損など、不具合の早期発見が可能となった。
46 公募図書である第二阪奈有料道路 道路維持業務委託 要求水準の記載内容を簡略化して記載。
⚫ 改善提案業務
⮚ 受注者が、維持管理の効率化やサービスxxxに関する改善提案を行うことを業務として定めた。
⮚ 受注者のさまざまな知見を現場の改善につなげることが可能になった。
次期調達では、構造物点検、計画修繕業務等を加えるなど、地元企業の育成、性能規定業務の一層の拡大を図り、効果を検証しながら段階的に合理化を進める予定としている。
4.4. 設計者と施工者の連携を図る契約
4.4.1 概要
(1) 事後保全(修繕)の課題
現在の修繕事業においては、定期の点検・診断により把握された対策区分に基づき構造物の補修優先度を設定し、設計及び工事を実施している。また、設計段階における対策工法の検討や設計計算・図面作成・数量計算等は、点検・診断の段階で把握された損傷状況や損傷度を与条件として行われるものである。一方で、工事着手前に足場を活用した近接目視やコンクリートはつり検査等による詳細調査を行うことが困難な場合も多く、設計時点で想定していない新たな条件が施工段階で発覚し、設計及び施工の手戻りが生じることもある。更に、施工段階で発覚した新たな条件が設計成果に影響を及ぼすことに気付かずに、不適切な対策工法のまま修繕工事を完成させてしまうケースも想定される。
また、修繕設計を行う際に仮設足場を用いた詳細調査が実施できない場合など、設計時に検討する施工計画が現場の制約条件を考慮したものとなっていない場合もある。工事発注時の予定価格は設計時に立案した施工計画を根拠とし、更に施工計画が任意の取扱いであるため設計変更の対象となりにくい。さらに、修繕工事に関する積算基準類が十分に整備されていない現状も相まって、工事契約の不調・不落の大きな要因の一つになっているものと考えられる。
このような現状の下、修繕事業を円滑に実施し品質確保を図るために、修繕事業のプロセス間での連携を密にして、損傷状況の詳細調査の結果や現場の制約条件を考慮した施工計画(工事図面)が設計と大きく異ならないようにする仕組みが必要である。本ガイドラインにおいては、設計と施工を分離発注する方式【R-0】に加えて、設計と施工の連携を図るための方式【R-1
~R-3】の考え方を示すものとする(図 4-9)。
(2) 「設計」と「施工」の連携を図る契約
修繕事業における設計と施工の連携を図るためには、設計者が施工者の協力に基づき足場を活用した近接目視やコンクリートはつり検査等による詳細調査を行い、構造物の損傷状況や損傷度を明確化した上で設計を行うこと、施工者の経験に基づき設計時の施工計画を見直した工事図面の作成(並びに工事契約の変更)を行うことが有効と考えられる。具体的には、設計成果品の引き渡し後に施工者の調達を開始する現状の方式に対し、事業プロセスの中で設計者と施工者が相互に協力する仕組みとして以下の 3 つの事業方式がある。
⚫ 設計の受注者が工事段階で関与する方式【R-1】
「設計の受注者が工事段階で関与する方式」は、設計の受注者が工事段階において施工者からの技術協力(足場の設置、コンクリートはつり作業、施工計画に関する助言など)を受けて、詳細調査や修繕設計の見直し(施工計画、工事図面作成を含む)を行う方式であり、施工段階での手戻りや施工不良の発生を防止する。また、見直した設計図書に基づき工事契約の変更を行うことで工事費の適切な支払を徹底する。
⚫ 工事の受注者が設計段階から関与する方式【R-2】
「工事の受注者が設計段階から関与する方式」は、設計段階で事前に選定した施工予定者とともに対策工法の選定を含む設計を行う方式であり、施工場所・工期・コスト等の特別な制約を満足した補修や重度の損傷に対する補修を実現することが期待される。
なお、設計段階における施工予定者の選定にあたっては、技術提案・交渉方式47を活用することが考えられる。
⚫ 設計と工事を一括して発注する方式【R-3】
「設計と工事を一括して発注する方式」は、特殊な状況下48において、設計・施工一括発注方式や詳細設計付き工事発注を活用し、設計と施工の一体性を確保する方式である。設計・施工一括発注方式及び詳細設計付き工事発注方式については、「設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式 実施マニュアル(案)(平成 21 年 3 月:国土交通省)」等の既存のマニュアル類にその手順が解説されていることから、本ガイドラインでは詳述しない。
建設企業
コンサルタント
凡例:
設
図計るとた施め工
xの
約連
携を
【R-0】 設計と施工を分離して発注する方式
【R-1】 設計の受注者が工事段階で関与する方式
◇修正設計は随意契約
【R-2】 工事の受注者が設計段階から関与する方式
◇技術提案・交渉方式
【R-3】 設計と施工を一括して発注する方式
◇設計・施工一括発注 ◇詳細設計付き工事発注
修繕工事
修繕設計
修繕工事
(足場設置など)
修繕設計
修繕工事
修正設計
修繕設計
修繕工事
修繕設計
図 4-9 設計者と施工者の連携を図る契約
4.4.2 事例
(1) 設計の受注者が工事段階で関与する方式【R-1】
※本事例は想定例を作成して掲載する。
1) 概要
A 市においては、過年度に策定された長寿命化修繕計画に基づき修繕設計と修繕工事を発注している。修繕設計では、仮設足場を用いた詳細調査が実施できないことや施工計画作成時に現場の制約条件を十分に考慮できていない等の問題があり、施工段階における手戻りや工事の
47 技術提案を公募の上、その審査の結果を踏まえて選定した者と工法、価格等の交渉を行うことにより仕様を確定した上で契約する方式を言う。(「公共工事の品質確保の促進に関する法律(改正:H26.6.4)」より引用)
48 特殊な状況下とは、例えば以下を想定している。
・急激な事業量の増大等により発注者の体制が確保できず、設計業務の十分な監理・意思決定が難しい場合
・実証実験を伴う新工法や製品開発を伴う新材料等の極めて特殊な技術の活用せざるを得ない場合
収益性の低下に起因する不調・不落の発生が増加傾向にある。
このような環境の下、修繕設計の受注者が工事段階で詳細調査及び工事図面の作成を含む設計の見直しを行い、工事契約の設計変更を行う仕組みを導入した。この仕組みによって着工後の大幅な手戻りの防止や適切な支払いが徹底されるようになり、不調・不落の発生が減少した。
⚫ 発注者: A 市
⚫ 受注者: 設計者 建設コンサルタント
施工者 地元建設会社
2) 導入前の状況
導入前段階における修繕設計・補修工事における課題を図 4-10 に示す。同図に示すように設計段階の情報不足や、検討した施工計画に現場の制約条件が十分に考慮なされていなかったことによって、工事段階での不都合が顕在化していた。
修繕設計
修繕工事
近接目視(機械足場等)
現地調査・設計照査
損傷要因決定・程度把握
修正設計(コンサルタントが実施)
対策工法の比較検討
設計変更
施工計画の検討
設計計算・図面作成・数量計算
施工
施工計画は任意であるため変更が認められにくい
↓
・参加企業数の減少
・不調・不落に起因
現地の制約条件が十分に考慮されていない施工計画の立案
(例:搬入不可能な機械の使用など)
未把握損傷の発覚による設計の見直し
(気付かない場合はそのまま施工)
仮設足場が無ければ確認ができない不可視部分は状況把握が困難
図 4-10 導入前の修繕設計・補修工事における課題
3) 業務の内容
課題解決のため、以下のような対策を講じた。現状の進め方との対比を図 4-11 に示す。
① 発注者は、修繕設計発注時の条件明示として、当該設計に係る工事の着工後に、詳細調査(鉄筋探査や採寸)及び工事図面作成(工事受注者の施工計画を反映した施工手順・
施工図面の作成、構造計算、数量算出)等の業務に関する「随意契約」を締結する旨を発注関係図書に記載する。
② 設計者は、施工者の設置した足場等を利用して詳細調査(鉄筋探査や採寸)を実施し、現場の実態を把握する。また、必要に応じて工事図面作成(工事受注者の施工計画を反映した施工手順・施工図面の作成、構造計算、数量算出)を行う。
③ 発注者(必要に応じて発注者を支援する方式を活用)は、工事図面の有効性を判断し、工事契約に関する必要な設計変更を行う。
:コンサルタント :施工者
調査・計画 | 概略・予備設計 | 詳細設計 | x x | |
現状やニーズを把握した上で | 計画段階で決定した諸元や方 | 予備設計で決定した構造形式 | 詳細設計で決定した設計書に | |
目的物の諸元や事業方針を | 針に基づき目的物の構造形 | 等を対象として、構造細目・工 | 基づき、現場の状況に合わせ | |
決定 | 式等を決定 | 事数量を決定 | て施工計画の見直しを行い目 | |
(保全:対策工法の決定) | (保全:細目決定・数量算出) | 的物を建設 | ||
設計と施工を分離して 発注する方式 【R-0】 | 橋梁修繕設計 ※施工方法の変更可能性や未把握損傷の内在リスクが大きい場合は、概算数量で発注 | |||
点検・診断・計画 | 橋梁修繕工事 | |||
・施工計画によって細目や数量が大きく 異なる補修 ・未把握損傷の内在リスクが高い補修 |
設計の受注者が工事段階で 関与する方式 【R-1】 | 点検・診断・計画 | 橋梁修繕設計 施工者が設置した足場や施工計画に基づき詳細調査・工事図面作成 (工事発注後に設計業務の受注者と随意契約を締結し) | 設計 詳細調査・ 変更工事図面作成 (随意契約) 橋梁修繕工事 |
足場設置
図 4-11 現状の進め方との対比
4) 効果・フォローアップ
設計の受注者が工事段階で関与する方式を適用することにより、以下のような改善が図られた。
⚫ 損傷実態を踏まえた適切な設計の見直しにより、品質確保がなされた。
⚫ 設計者の修正設計費と施工者の工事費の支払いの適正化により、案件の魅力が向上し、不調・不落の防止効果が期待される。
(2) 工事の受注者が設計段階から関与する方式【R-2】
※本事例は想定例を作成して掲載する。
1) 概要
B 県においては、管内の橋梁を対象に点検・診断を行った結果、鋼床版箱桁橋の鋼床版下面にき裂が発見された(図 4-12)。この路線は近くに代替え路線がないため、供用を続けながら補修を行う必要があった。
xxの補修においては、専門的な補修技術が必要となることから、修繕設計の実施中に施工予定者を選定し、その施工予定者の保有する独自技術を設計に反映して、制約条件を満足する設計を実施した。
⚫ 発注者: B 県
⚫ 受注者: 設計者 建設コンサルタント
施工者 鋼橋専門会社
図 4-12 鋼床版のき裂の状況(イメージ)
2) 導入前の状況
これまでの方法によれば、通常の修繕設計において、専門外の施工者が実施可能な対策工法を採用される可能性もあり、特殊な対策工法の採用も含めて比較検討を行えないことが考えられる。
特殊な対策工法の採用も含めて比較検討を行うべき補修の例として、以下の事例が挙げられる。
⚫ 施工場所・工期・コストの制約がある場合
⚫ 損傷の内容、程度が重大である場合
⚫ 上記の複合的な要因がある場合
⚫ 難易度の高い対応が必要である場合 など
3) 業務の内容
課題解決のため、優先交渉権者(施工予定者)の選定にあたり技術提案・交渉方式を活用し
た。現状の進め方との対比を図 4-13 に示す。
① 発注者は、修繕設計の実施中に、当該設計に係る工事の優先交渉権者(施工予定者)をプロポーザル方式により選定する。
② 優先交渉権者は、別途実施している修繕設計に対し、足場設置等の「補助協力」や独自のノウハウ・工法技術に基づく「技術協力」を行う。設計者は、優先交渉権者の「補助協力」や「技術協力」を踏まえて、対策工法の最適案を選定し、細部構造や数量の算出を行う。
③ 発注者と優先交渉権者は、上記②の設計成果を見積条件として価格等の交渉を行う。
④ 発注者は、優先交渉権者との交渉が合意に至った場合は、その合意内容に基づき予定価格を作成し、随意契約を締結する。交渉が不成立となった場合は、プロポーザル方式における次順位者との交渉に移行する。
:コンサルタント :施工者
調査・計画 | 概略・予備設計 | 詳細設計 | x x | |
現状やニーズを把握した上で | 計画段階で決定した諸元や方 | 予備設計で決定した構造形式 | 詳細設計で決定した設計書に | |
目的物の諸元や事業方針を | 針に基づき目的物の構造形 | 等を対象として、構造細目・工 | 基づき、現場の状況に合わせ | |
決定 | 式等を決定 | 事数量を決定 | て施工計画の見直しを行い目 | |
(保全:対策工法の決定) | (保全:細目決定・数量算出) | 的物を建設 | ||
設計と施工を分離して 発注する方式 【R-0】 | 点検・診断・計画 | 橋梁修繕設計 ※標準的な施工技術に加えて、施工者の独自技術を活用できるのであれば施工上の課題に対応可能 | ||
橋梁修繕工事 | ||||
・特殊な対策工法の採用も含めて比較検討すべき補修 |
工事の受注者が | 橋橋梁梁修補繕修設設計計 橋梁修補繕修工事 施工予定者による技術協力(独自技術に基づく対策工法等の代替案など) | |
設計段階から | 点検・診断・計画 | |
関与する方式 | ||
【R-2】 |
図 4-13 現状の進め方との対比
4) 効果・フォローアップ
工事の受注者が設計段階から関与する方式を適用することにより、以下のような改善が図られた。
⚫ 従来の設計では採用できない施工技術を活用した最適な修繕設計が実現
・交通規制日数の短縮
・厳しい制約条件下での適切な補修
・重度の損傷の補修
⚫ 技術競争環境の定着による民間企業の研究開発とイノベーションの促進
4.5. 発注者を支援する方式
4.5.1 概要
(1) 発注者を支援する方式の活用
前項までに示した維持管理等に関する入札契約方式は、民間企業の技術力や体制をこれまで以上に有効に活用し、社会資本の適切な維持管理・更新を目指すものである。これらの外部調達の工夫によって公物管理者の実作業面での負担は軽減されるものの、適切な調達管理を行うために発注者が全うしなければならない業務として以下の事項が挙げられる。
⚫ 点検・診断・設計等の委託業務に関する調達管理
⚫ 点検・診断結果に基づく修繕計画の策定
⚫ 発注計画
⚫ 積算
⚫ 入札・契約
⚫ 監督・検査
しかしながら、技術職員数の不足、業務の多様化、現場離れによる要素技術力の低下等の体制の脆弱化が進んでいる一面もあり、特に自己診断により内部職員の体制確保が困難との課題が抽出された発注者においては、上記の業務を厳格に運用することが困難な現状もある。この場合、設計や施工の実務実施者と独立した立場で、発注者が行う調達管理を支援する第三者を活用し、技術力や人員の体制を補完することが有効と考えられる。
(2) 支援範囲と支援内容
発注者を支援する方式による支援の範囲としては、「組織に対する支援」と「個別事業に対する支援」が考えられる(表 4-4)。
「組織に対する支援」では、分野別に支援者を調達し、維持に関する支援や修繕に関する全般的な支援を受けるものとする。この際、当該分野における幅広い知識・経験を有する技術者を支援者として選定するとともに、発注者の異動サイクルと切れ目が重ならないように 2~3年の期間で専任させることが望ましい。
「個別事業に対する支援」では、修繕対象が明確化した後で、修繕に関する専門性の高い支援が必要となった場合に、上記の「組織に対する支援」に加えて活用する。この場合は明確化した対象物に対する専門的な知識・経験を有する技術者を支援者として選定し、事業期間中は専任の義務付けが望ましい。
表 4-4 支援範囲と支援内容
支援の範囲 | 支援の内容 | 支援者に求める能力 | 支援者の選定時期 | 専任期間 |
組織に 対する支援 | ○ 維持に関する支援 ・修繕計画の策定補助 ・点検診断の技術支援 ○ 修繕に関する全般的な支援 ・一般的な修繕設計の技術審査 ・一般的な修繕工事の指導 | 当該分野における幅広い知識・経験 | 任意の時期 (対象の確定前) | 2~3 年 |
個別事業に対する支援 | ○ 修繕に関する専門性の高い支援 ・特殊な修繕設計の技術支援 ・特殊な修繕工事の指導 | 明確化された対象物に応じた専門的な知識・経験 | 設計発注前 (対象の確定後) | 事業期間 |
(3) 支援費用の積算
維持管理事業においては、調達プロセス間の連続性、損傷状態、現場条件を踏まえた適切な技術的判断が求められるが、発注者を支援する方式においては、一部の発注者支援業務49,50を除き共通仕様書や積算基準が整備されていない。このため、求める支援の範囲と内容を明確化した上で、民間企業から徴収した見積りに基づき積算することが必要となる。
(4) 内部技術力の継続的な蓄積
発注者を支援する方式を活用した場合、業務効率の向上、民間企業のノウハウ活用等のメリットが得られる反面、外部活力に過度に依存した場合は、内部職員の経験・ノウハウの喪失が懸念される。このため、全ての調達管理業務をアウトソーシングするのではなく、内部職員が直営で実施する範囲を設定する等、職員の人員配置や外部との技術交流等の人材育成方策と併せて計画的に支援を活用することが必要である。特に組織に対する支援については、支援を受ける範囲を拡大すればするほど全体を統括するための高度な技術力を有し、意思決定できる管理者(たとえば副市長とか部課長といったレベル)が必要である。地方公共団体はこのような内部技術力の確保にも留意しなければならない。
4.5.2 事例
(1) 概要51
※本事例は維持管理に関するものではないが、発注者を支援する方式の事例として掲載する。
釜石市では、東日本大震災に伴う復興まちづくりに際し、実施計画策定や詳細設計、施工と膨大な事業量が見込まれる中、復興事業の推進をより強化するため、民間企業力の活用を図るべく、発注者を支援する方式(CM 方式)による復興事業を実施した。
49 発注者支援業務積算基準(H22.1.12:関東地方整備局)
50 発注者支援業務共通仕様書(H26.4.1:関東地方整備局)
51 「釜石市記者会見資料(H24.11.21)」及び「復興事業マネジメントに関する講演会(H25.12.10)」配布資料より作成
⚫ 発注者: 釜石市
⚫ 受注者: 釜石市復興事業 CM 業務建設技術研究所・UR リンケージ共同提案体
(2) 導入前の状況
東日本大震災に伴う復興まちづくりに際し、実施計画策定や詳細設計、施工と膨大な事業量が見込まれる中、事業知識や経験、マンパワーが相当量必要になった。これに対し、釜石市においても復興推進本部の設置、国土交通省のリエゾンや他自治体からの応援の受け入れ、復興プロジェクトチームを立ち上げる等の体制整備に取り組んでいたものの、更なる事業推進に向けた工夫が求められていた。
このため、釜石市では、復興まちづくり事業への「工事の受注者が設計段階から関与する方式」の活用を検討したが、これまでに実施した経験のない新たな契約方式であったことから、導入に向けて多くの検討課題が残されていた。また、事業実施段階において市が締結する個々の契約間の相互協力を機能させるためにも、各契約に関するより適切な監理·協議·調整等を行う必要があった。
(3) 支援の内容
「工事の受注者が設計段階から関与する方式」の導入に向けたスキームの検討、及び事業実施段階における各契約間の監理・協議・調整に際し、外部専門家の幅広い知識・経験やの活用を図るべく、支援者(CMR52)を調達した。
1) 「工事の受注者が設計段階から関与する方式」の導入に向けた支援
支援者は、釜石市が行う「工事の受注者が設計段階から関与する方式」の基本スキーム、事業者選定手法(参加要件、評価基準、特定テーマ等)、契約手続きの検討の支援を行っている。また、正式な公募手続きに先立ち、応募を予定する民間企業と対面による競争的対話に同席 し、民間企業側の実情を踏まえて事業者選定手法の検討支援に反映している(競争的対話:4
日間にわたり 27 社 19 グループが参加)。
2) 事業実施段階における各契約間の監理・協議・調整
支援者は、北ブロック・中央ブロック・南ブロックにおける復興まちづくり事業を推進するために、市の立場で、設計者、施工者等に対する監理・調整を行っている。
52 チームとしての支援者を「CMR」と一般に表記する。なお、CMR の管理技術者としての個人は「CMr」と表記される。
監理・協議・調整(復興JV の構成員は個別に釜石市と契約)
図 4-14 釜石市における CM 方式の実施体制
用地買収補助
業務委託契約
測量調査設計
業務委託契約
工事監理
業務委託契約
技術提案
基本協定(予約契約)
工事予定価格の決定(釜石市・CMR)
入札(見積合せ)
建設工事請負契約の締結(必要に応じて議決)
図 4-15 建設工事請負契約までの流れ
(4) 効果・フォローアップ
CM 方式を活用し、「工事の受注者が設計段階から関与する方式」を導入したことによって、復興事業の更なる推進が期待されている。
4.6. 実施事例に見る取り組み方
いくつかの実施事例における調達対象業務の維持管理等のサイクル上の位置づけ及び改善方策の関係を図 4-16 に整理した。同図より以下のような取り組みの特徴がうかがえる。
主に担い手の確保を目的とした改善に地域維持型契約を利用している。xx県の事例では単年度契約での試行期間を経て複数年契約に移行した。
維持管理等のサイクルが構築されている場合は、そのサイクルの中において発注規模の拡大・複数年契約がふさわしい業務を抽出して包括的に委託している。青森県の事例では、橋梁長寿命化修繕計画の策定に併せて橋梁の日常点検や維持工事等を包括化した契約方式を採用した。この事例のように個別施設計画が立案済みの場合、または作成に併せて、同計画の着実な遂行のために施設別を基本に維持管理調達の改善に取り組むことは効果的である。なお、一つの地方公共団体単位では十分な数量がなく効率的な執行が難しい場合には近隣地方公共団体と共同処理することも検討するのがよい。
民間事業者の能力をより活用することを目的とした性能規定や品質保証の仕組みを活用した性能規定型契約は工種別の調達(例えば国交省で取り組んでいる舗装のみを対象とした大宮国道事務所の事例53)、維持業務だけを対象にした調達、地方道路公社が管理する特定の路線における調達などで活用されている。いずれの事例も試行期間を経て調達内容を見直したり、契約期間を単年度から複数年度にしたりするなどの継続的改善に取り組んでいる。
一方、諸外国における先進事例と対比すると以下のように考察でき、今後の我が国における改善の余地は大きいこともわかる。
まず一点目として、我が国では維持管理等のサイクルのうちの維持管理・更新の実施(D)のプロセスでの取り組みが中心であり、個別施設計画の立案・更新(P,A)や定期点検(C)も包括で発注した事例は見当たらない。定期点検ならびに・個別施設計画等の更新も含め、包括度を一層高めて調達することで以下のような効果が期待できる。
⚫ 業務規模、包括度を高めることでより多くの競争参加者が期待できる(新たな業種として建設コンサルタント等も参加)。
⚫ 受注者が定期点検、診断結果に基づき個別施設計画等の計画更新を行うため、同計画の的確な運用によるコスト縮減獲得が可能になる。
⚫ 受注者は定期点検を自ら行うため、長寿命化のための的確な日常管理への反映や改善提案が出来るため、維持管理の効率化につながる。
⚫ 点検、維持、修繕及び計画更新まで一式を受注者が行うため地元企業の人材育成につながる。
二点目として、民間資金を活用して更新(橋梁の架け替え、大規模修繕等)工事を包括化し て発注し、予算制約を受けずに早期に改善を図り、効率的なリスク管理、などが期待できる。上記のように、発注規模の拡大・複数年契約は、段階的・継続的な維持管理等の改善のプロ
セスの中で、それぞれの段階においてふさわしい事業の仕組みを構築して利用されている。一般的な活用方法としては、個別施設計画の立案に併せ、維持管理等のサイクルの中で維持と修繕の包括化を基本に活用を検討し、その後、性能規定型契約の活用や定期点検・個別施設計画
53 x xx:「性能規定型」道路維持管理工事の試行状況報告,平成 26 年度スキルアップセミナー関東,平成
26 年 7 月 3 日(木)、4 日(金)開催
の更新といった業務の包括化も検討するのがよいと考えられる。
その際、公物管理者は、維持管理の業務の一部或いは全部を外部の民間組織に委ねたとしても、その責任を免れることはできない。利用者に対する安全なサービスを提供する責任を負っているからである。また、インフラの点検·診断や、修繕や更新のための設計・施工に関する専門的知見を必要とする業務を実施する場合には、資格等の一定の知識と経験を有する技術者が担当することが求められる。さらに、公物管理者は、利用者或いは納税者に対して、インフラが健全な状態で維持されていることを説明する責任を負っていることに留意する必要がある。
Plan
計画立案支援等
維持管理等のサイクル
Do
維持の効率化
(日常点検,清掃,など)
修繕の効率化
(ex舗装修繕,対策工事など)
更新の効率化
(橋梁の架け替え など)
C
定期点検
・
診断
Act
計画更新支援
橋 梁
米国ミズーリ州
(約800橋の一括架替え)
舗 装
国交省大宮国道等
(性能規定型契約:維持のみ)
奈良県道路公社
(性能規定型契約:維持+舗装修繕)
道路全体
福島県土木部
(地域維持型契約:維持(道路,河川,砂防)+舗装修繕)
)
米国フロリダ州交通局 I-595
(性能規定型契約(DBFOM):17km 改良・改築(5年以内に完工)+維持管理(30年間)
英国ASC(旧MAC)方式
(性能規定型契約:維持+各種修繕)
ASC
英国
青森県県土整備部
(発注規模の拡大:日常点検+追跡調査+維持+対策工事)
Doにおける改善方策
国内事例 海外事例
凡例: 凡例:○該当,×該当せず,-未確認
× | × | × | × | × | × | ||
× | |||||||
× | × | × | × | × | |||
単→複数年 | ×× | ||||||
ASCと 別運用 | × | ||||||
- | |||||||
単→複数年 | × | × | × | × |
56
インフラの種類
図 4-16 実施事例における調達対象業務の維持管理等のサイクル上の位置づけ及び改善方策の関係54
54 xxxx 他:維持管理調達の制度改善に向けた課題に関する調査,土木学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),Ⅵ-316 に加筆して作成。なお、米国ミズーリ州交通局が取り組んだDBFM (Design, Build, Finance and Maintain)方式による約 800 橋の一括更新事業は、サブプライム住宅ローン問題に端を発する世界的な金融資本市場の混乱により契約内容の一部と事業手法を見直して事業が行われることになったが、当初のコンセプトが非常に示唆に富むことから修正前のスキームについて整理している。
土木学会建設マネジメント委員会維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会
委員構成
(50 xx、敬称略)
委 員 長 xx xx 東京大学大学院工学系研究科
委 | 員 | xx | xx | xx建設株式会社 |
〃 | x x | x | 国土交通省 | |
〃 | xx | xx | xx市 | |
〃 | xx | xx | 株式会社xx組[インフラPFI/PPP研究小委員会] | |
〃 | xx | xx | 一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会 | |
〃 | xx | xx | 日本大学生産工学部 | |
〃 | x x x | xxxx株式会社 | ||
〃 | xx xx | 株式会社淺沼組 | ||
〃 | x x x | 東日本旅客鉄道株式会社 | ||
〃 | x x x | xx工業株式会社 | ||
〃 | xx xxx | 公益財団法人xxx道路整備保全公社 | ||
〃 | xx xx | 首都高速道路株式会社 | ||
〃 | xx xx | 広島工業大学工学部 | ||
〃 | xx xx | xx市 | ||
〃 | xx xx | xxxxxxxxリング株式会社 | ||
〃 | xx xx | 一般社団法人日本道路建設業協会 | ||
〃 | xx xx | 株式会社建設技術研究所[インフラPFI/PPP研究小委員会] | ||
委員xxxx | xx xx | 国土交通省 | ||
委員兼幹事 | x x x | 株式会社 IHI インフラシステム | ||
〃 | x x x | 鹿島建設株式会社 | ||
〃 | xx xx | 一般財団法人経済調査会 | ||
〃 | xx xx | 鹿島建設株式会社 | ||
〃 | xx xx | 株式会社建設技術研究所 |
維持管理等の入札契約方式ガイドライン(案)
~包括的な契約の考え方~本 編
平成 27 年 3 月
公益社団法人 土木学会 建設マネジメント委員会維持管理に関する入札・契約制度検討小委員会