もっとも、この労働協約法の中に企業別交渉および協定が位置づけられていなかった時期において、企業レベルの団体交渉および企業別協定の締結が存在しなかったというと、 そうではない。むしろ、国有部門(secteur nationalisé)における企業別交渉および協定は、フランス国内における団体交渉および労働協約の締結につい て、ある種の先駆的な役割を果たしていた。例えば、ルノー公団(Régie Renault)が 1955...
第2章 フランスの企業別労働協約をめぐる法理論343第 1 節 沿革
フランスにおける労働協約システムは、伝統的に産業部門および職種別のレベル344を基本として設計されてきた。すなわち、フランスの労働協約法は、伝統的に、企業別交渉および企業別協定345に対しては副次的な位置付けしか与えてこなかったのである。
もっとも、この労働協約法の中に企業別交渉および協定が位置づけられていなかった時期において、企業レベルの団体交渉および企業別協定の締結が存在しなかったというと、そうではない。むしろ、国有部門(secteur nationalisé)における企業別交渉および協定は、フランス国内における団体交渉および労働協約の締結について、ある種の先駆的な役割を果たしていた。例えば、ルノー公団(Régie Renault)が 1955 年に締結した、労働組合との交渉方針についての合意は、その後の自動車産業および食品産業における団体交渉の交渉方式の先鞭をつける形となったことが知られている346 347。
その後、労働協約法において、企業レベルにおける労働協約の締結が正面から認められることとなったのは、1971 年のことである。1971 年 7 月 13 日の法律は、労働者の団体交渉権をxxで保障し、代表的労働組合の排他的交渉権限を承認した。これらを通じて、賃金協定のみならず、企業レベルのさまざまな労働協約の締結が認められたのである。
343 本章における記述の多くは、本プロジェクト研究において先に取りまとめた報告書(xxx『現代先進諸国の労働協約システム‐フランスの企業別協約』(労働政策研究報告書 No.178、2015 年))の内容について、再構成を行った上で、一部を加筆・修正し、再録したものである。加筆・修正にあたっては、上記報告書執筆後に行なった現地でのヒアリング調査のほか、主に以下の文献に拠っている。 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, Droit du travail, 29e éd., Dalloz.; Xxxx-Xxxxxxxx Xxx,
DROIT DU TRAVAIL DROIT VIVANT, 24e ed, Xxxxxxx Xxxxxx, 2015。
344 以下、本章においては、産業部門レベルと職種別レベルの協約・交渉を、あわせて単に「産業別」、「部門別」、あるいは「産業部門」と表記することがある。
345 フランスにおいては、労働協約を指し示す用語として、’convention collective’ という用語と、’accord collectif ’という用語が存在し、前者を「労働協約」と訳すのに対して、後者に対しては「(集団)協定」という訳語が当てられることがある(前掲注 6 xxほか監訳 5 頁および 124 頁参照)。この両者は、法
律の定義の上では、convention collective は、「労働者の雇用条件、労働条件、および福利厚生条件の
..
総体を決定することを目的とする。」(傍点筆者)のに対し、accord collectif は、「特定の事項のみを対
象とする」点で異なっている。もっとも、両者はその締結の要件、その法的効果等の点において異なる点はなく、両者をあわせて convention collective、また「労働協約」と称されることもしばしばである。また、法律上の convention collective に該当するような協約は、(制度上は企業レベルでも締結可能となっているが)実際には産業部門レベルにおいて締結されるのが一般的であって、企業レベルではあまりみられないこともあり、産業別協約・協定を総称して convention collective、企業別協定を accord collectif とする用語法もしばしばみられる。以上のような状況を踏まえ、本章においては、産業部門レベルで締結される集団的合意については「(労働)協約」の訳語をあてるとともに、一般名詞としてのxxの「協約」として用いる場合には、その個別に指し示す内容が企業別のものであったとしても「協約」との用語を用いることがある。これに対し、(産業部門別協約に対置する意味で)企業・事業所等
のレベルでの集団的合意として用いられている場合においては、原則として企業別(または事業所別)
「(集団)協定」の語をあてることとする。
346 Xxxxxxxx, <<L’accord Renault>>, Dr. soc. jamv. 1956.
347 1950 年代のフランスにおける団体交渉の動態については、xxxx「戦後フランス団体交渉の成立
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--1950 年代における金属産業賃金交渉 」日本労働協会雑誌 29 巻 4 号(日本労働協会、1987 年) 34頁以下に詳しい。
その約 10 年後に行われたいわゆるオルー(Auroux)改革、特に 1982 年 11 月 13 日の法律では、産業部門レベルおよび企業レベルのそれぞれについて、代表的労働組合との団体交渉義務が定められた(産業部門レベルは 5 年毎、企業レベルは毎年の交渉義務)。これにより、フランスの労働協約システムにおける、産業部門レベルおよび企業レベルという、二元的協約システムが、制度上確立されたと評価されている348。
このオルー改革による二元的労働協約システムの確立は、当時、必ずしもコンセンサスを得られたものではなかったようであり、以下のような幾つかの危惧が示されていた。すなわち、企業別交渉の発展が、産業部門別交渉からその実質を取り除くのではないか、あるいは組合支部が定着していない企業において、労働者の協約による保護が後退するのではないかといった危惧である349。実際、産業部門別協約は、使用者および労働者の双方について、(労使のそれぞれが固有の利益を有する)2 つの共同体を構成し、交渉によってこれを調整した成果となる。これに対し、企業別の労使関係の発展の結果、労働者の特定の企業の「従業員」としての帰属が、同一部門の他の労働者との連帯よりも優先されるようになることが考えられる。その結果、企業別交渉の発展は、労働者全体の代表としての「労働組合」と、当該企業における利益にあずかる「従業員」の代表との関係という問題を提起し350、企業別交渉の発展が、使用者の組合無視および労働者の分裂を助長するのではないかという懸念が示されていた351。
もっとも、オルー改革の当時において示されていた上記の懸念は、その後のフランスの労使関係の展開において、必ずしも妥当したわけではない。すなわち、産業部門別交渉は、1982 年法以降も、明らかな衰退傾向までは認められていない352。他方で、企業別団体交渉は、企業レベルの賃金決定等の労働条件決定のみならず、労働時間の柔軟化353、あるいは一定の-例えば、ワークシェアリングのような-雇用政策を企業に浸透させる 354といった、さまざまな方法で用いられることとなった。
この間の企業別交渉の発展について、指摘される 1 つの特徴として、「ギブ・アンド・
348 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op.cit., p.1405, v. Y. Chalaron, Négociation et accords collectifs d’entreprise, Litec 1990, n° 28, p.27.
349 v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1405 ; R. Xxxxxx, L’obligation de négocier et sa
sanction, Dr. soc. 1983. 55 et s. ; G. Xxxxxx, Le double niveau de négociation dans les lois Auroux : un atout pour la politique contractuelle, Dr. soc. 1983. 74 et s. ; P. Rodière, Accord d’entreprise et convention de branche ou interprofessionnelle, Dr. soc. 1982. 711 et s.
350 v. J. Xxxxxxxémy, Collectivité du personnel et notion d’entreprise, D. 2000. Chron. 279.
351 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1405.
352 フランスにおける産業別協約・交渉の状況については、本報告書第 1 章を参照。
353 v. M. –A. Souriac et G. Xxxxxxxxxxx, La négociation collective entre désillution et illusions, Mélanges Xxxxxxx, Xxxxxx, 2001. 383 ; J. –E. Xxx, La négociation collective : quell avenir? , Mélanges Despax, PU Toulouse, 2002, p. 445 et s.
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354 主に、週 35 時間労働の超過時間に関する協定として用いられた。すなわち、フランスにおいては、法定労働時間である週 35 時間を超える労働時間は、超過勤務時間( heures supplémentaires)とされ、週 48 時間かつ任意の連続する 12 週を平均して週 44 時間の枠内で可能とされる。そして、超過勤務時間は、割増賃金の支払または一定の期間の休日を得る権利をもたらすこととされている。こうした超過勤務時間についての取扱について(法定の基準を前提に)企業レベルでの協定を通じてこれに関する規範設定がなされている。
テイク(donnant-donnant)」協定と言われる協定の実務の発展が指摘されている355。とりわけ、近年は雇用の保護を名目とする労働条件の変更(主として不利益変更)がその傾向としてみられる。
この点における法制度上の大きなメルクマールは、2004 年 5 月 4 日の法律-いわゆるxxxx(Fillon)法-とされる。xxxxxは、一定の条件のもとで、企業別協定が産業部門別協約の条項を適用除外することを認めた。これにより、(雇用の保護等を引き換えとした)企業別協定による労働条件の(不利益)変更の可能性が、より広がることとなった。続いて、2008 年 8 月 20 日の法律は、労働時間の体系356、例えば、超過勤務時間の年間割当(contingent annuel d’heres supplémentaires)、包括労働時間制(forfait en heures;forfait-heures)、年間労働日数制(forfait en jours;forfait-jours)、労働時間調整(aménagement du temps de travail)について、企業別協定に主導的な地位を与えており、企業別協定による労働条件の変更の可能性を広げるという傾向は加速している357。また、2013 年 6 月 14 日の法律-いわゆる雇用安定化法(la loi relative à la securisation de l’emploi)-も、企業別協定の重要性を増す改正内容を含んでいる。すなわち、雇用安定化法は、雇用の維持および企業内移動に関する協定(accord de maintain de l’emploi et de mobilité interne)の締結を認め、労働契約を根拠とした企業別協定による労働条件の変更への対抗力を減殺している。
第 2 節 企業別協約をめぐる法理論358
1970 年代以降、フランスにおいては、企業レベルでの交渉が可能であることは、労働法の基本原則であるとされている359。本節においては、企業別交渉の展開についての基本的な法制度について述べる。具体的には、まず、企業別交渉の枠組みに関して、交渉単位(企業別、事業所別、企業グループ別等)について述べ(1)、続いて、交渉の当事者について述べる(2)。続いて、交渉の展開について述べる(3)。さらに、交渉事項についての基本的なルールを確認した上で(4)、フランスの企業別交渉(協定)に関する法制度において、もっとも重要な特徴の 1 つである義務的交渉事項について述べる。最後に、企業別協定の適用をめぐる重要な問題の 1 つである、社会経済単位の移転と企業別協約の帰趨について述べる(6)。
355 R. Soubie, Les accords donnant-donnant, Dr. soc. 1985. 614.
356 以下に述べるフランスの労働時間制度における諸制度の詳細は、労働政策研究・研修機構編「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制に関する調査研究」( 2005 年)129 頁以下、同「労働時間規制に係る諸外国の制度についての調査」( 2012 年)39 頁以下等を参照。
357 もっとも、これらの法改正により、企業別協定による産業別協約の適用除外は、必ずしも著しく進んでいるわけではないようである(本報告書第 1 章○○頁参照)。
358 v. G. Bélier et X. Legrand, la négociation collective en entreprise, éd. Liaisons, 2011 ; La négociation collective d’entreprise : question d’actualité, Dr. soc. sept.-oct. 2009.
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359 CE 21 juill. 1970, Dr. soc. 1971. 112.
1 交渉単位360
便宜上、産業部門別の交渉および協約と対置する形で、企業別交渉および協定と称されるものの、実際には、フランスの労働協約法は、企業の枠内にとどまらない、さまざまな交渉単位を認めている。ここでは、通常の民間企業における企業単位の交渉に加え、こうしたさまざまな交渉の枠組みについて述べる。
(1)公企業
フランスにおいては、私企業のみならず、公企業(entreprise publique)においても団体交渉を行うことができる。かつて、フランス銀行(Banque de France)、フランス国有鉄道(SNCF)、フランス電力(EDF)などといった公企業においては、団体交渉が禁止されていた。もっとも、このような法律の規定に反して、これらの公企業においても団体交渉の実務は存在していた。その後、1969 年に公企業における団体交渉の禁止は廃止されることとなった。
現在、公企業および商工業的公施設法人(établissement public a caractere industriel et commercial)361の経営陣は、雇用および労働の条件について、また特別な法律(loi)上および行政立法(réglement)上の身分規程(statut)362に服することのない従業員に関しては、社会的付加給付保障(garantie sociale des personnel)について交渉することができる(労働法典 L.2233-1 条)とされている。また、経営陣は、身分規程が定める規定を補完し、あるいはその適用の方式を決定するために、身分規程によって定められた制限の範囲内で、その適用を受ける従業員と団体交渉を行うことができる(労働法典 L.2233-2 条)とされている363。ただし、集団協定が身分規程を補完できるとしても、それは規定を付け加えることによる間接的な修正にとどまり、身分規程の規定に反する協定は認められない364。なお、公共部門における民主化のための 1985 年 7 月 26 日の法律
(la loi sur la démocratisation du secteur public)により、あらゆる公企業において、団結権(droit syndicale)の行使についての方式を決定するための交渉が義務付けられている(L.2144-2 条)。
360 v. M.-L. Xxxxx, La firme et la négociation collective. la question des frontières en économie et en droit, Mélanges Despax, PU Toulouse, 2002, p. 497 et s.
361 公施設法人(établissement public)とは、法人格を付与され、公役務活動をその限定された目的の範囲内で管理することを任務とする、(地方公共団体とは異なる)公法上の存在を指し、中でも商工業的公施設法人は、商工業的性質の活動を、私企業に類似する条件で管理する公施設法人とされる(参考: 前掲注 6 xxほか監訳 187~188 頁)。
362 公務員法において、官吏全体または特定の官吏の権利義務を定める規定の総体(参考:前掲注 6 xxほか監訳 404 頁)
363 v. N. Maggi-Germain, Négociation collective et transformation de l’entreprise publique a statut, Th. Nantes, LGDJ, 1996.
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364 Soc. 12 juill. 1999, Bull. civ. V, n° 349 ; Soc. 27 oct. 1999, Dr. soc. 2000. 189.
(2) 事業所365
企業内に複数の事業所が存在する場合、当該企業全体に関する企業単位の団体交渉が実施できることに加え、当該企業内における事業所または事業所集団を単位として交渉を行うことも可能とされている(労働法典 L.2232-16 条)。こうした事業所レベルでの交渉は、企業レベルでの交渉と同一の条件で展開されることとされ、この点において、企業別交渉と事業所別交渉に、交渉レベルの違いに基づく制度上の差異は存在しない366。この結果、(同一の企業内において)ある事業所と他の事業所とで、異なる協定を締結 することが可能となる。すなわち、ある事業所の労働者が、自身が属する事業所における協定の適用下において、同一企業の他の事業所における労働者が受けている利益を享受することができないからといって、そのことのみをもって直ちに差別を受けていることにはならないとされる367。また、例えば、企業別協定において、その具体的な支給に
ついては各事業所協定により定めるとする、特別な報酬を定めることも可能とされる368。実際、事業所別の団体交渉は、産業部門別交渉に対する企業別交渉の主な機能の 1 つ
がそうであるように、同一企業における異なる事業所に属する労働者の間で、異なる取扱い(主として労働者にとって有利となる「上積み」)を実現することを目的としている。もっとも、こうした同一企業内における(事業所の異なる)労働者間の異別取扱いが無条件で正当化されるか否かについては議論がある369。この点について破毀院( cour de cassation)370は、事業所の異なる労働者間における労働条件の差異は、差別的な性格を有するものではないことが要請されるとしている。具体的には、「取扱の違いが、裁判官がその実態および適切性を審査できる客観的な理由に基づいている場合に限り、同一労働または同一価値労働を遂行する、同一企業の異なる事業所における労働者間の取扱の差異の存在は許容される」という371(厳密には、この判決は、使用者による一方的決定によって生じた労働条件の差異に関する事案であるが、その射程は事業所別(企業別)協定によって生じた労働条件の差異に対しても及ぶと解されている372)。これにたいし学説は、こうした労働条件の差異は、あくまでも事業所別協定によって定められる限りにおいて許容されるものであり、企業別協定それ自体によって各事業所において就労する労働者について異なる取扱いを定めることは、それを正当化しうる特別な事情の有無に
365 v. I. Desbarats, L’entreprise à établissements multiples en droit du travail, Th. Toulouse, LGDJ,
1996 ; B. Xxxxx-Xxxxxxxxx, X’xxxxxxxxxxxxx, xx Xxxxxxxxx xx xxxxx xx xxxxxxx, Xxxxxx, 0000, x. 53 et s.
366 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1407.なお、以下では、便宜上、企業別交渉・協定と、事業所別交渉・協定をあわせて単に「企業別交渉」、「企業別協定」と記すことがある。
367 Ibid
368 Soc. 18 janv. 2006, RJS 4/06.
369 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1408.
370 司法系統の民事および刑事裁判所について、階層構造の頂点に位置する裁判所(参考:前掲注 6 xxほか監訳 128 頁)。すなわち、フランスの司法系統における最高裁判所に当たる。
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371 Soc. 21 janv. 2009, n° 07-43. 452, RDT 2009. 321.
かかわらず認められないとしている373。他方で、こうした学説にあっても、平等取扱い原則は、当該事業所別協定の適用範囲内で生じることはあっても、事業所別協定の適用範囲外にいる労働者までがこれを援用することはできないと解されている374。すなわち、事業所 A の労働者は、平等取扱い原則に基づいて、事業所 B において締結された協定で定められた利益の享受を主張することはできない375。
なお、このように同一企業内に複数の事業所が存在する場合に、企業単位の交渉を選択するか、事業所レベルの交渉を選択するかというイニシアチブは、使用者側に存する。すなわち、企業長(chef d’entreprise)が、企業レベルの交渉を選択するか、または事業所レベルの交渉を選択するかを決定することになる。企業または事業所における代表的労働組合は、自らが望む交渉レベルでの交渉を実現するためには、使用者(企業長)に対してストライキ等による圧力をかけることができるにとどまり、法律に基づいて(例えば事業所レベルでの)交渉を要求することはできない。あくまでも、法律に基づいた団体交渉の要求が可能なのは、交渉が義務付けられている事項に関する企業単位での交渉に限られる(後述)。
(3) 地域レベルの交渉:職業別労使同数委員会または職際労使同数委員会
1982 年のオルー法は、職種別協定、職際協定、または企業横断協定を作成することができる労使同数委員会の創設を認めた。これは、小企業のための交渉を実現するために、これらの企業における代表的労働組合組織の欠如を補う方法として制度化されたものであった。
この協定締結のための労使同数委員会の仕組みは、制定後、ほとんど利用実態が存在しなかった。そこで、2004 年 5 月 4 日のxxxxxによって、小企業のみならず、全ての企業に関わる地域レベルの交渉を促進することを目的とする改正が行われた(現 L.2234-1 条および L.2234-2 条)。この改正以降、実務においても、一定の地域的レベル
(都市圏、雇用のエリア、商業圏)を単位として、複数の企業に共通する多くの問題について、交渉による解決が取り組まれているようである376。
L.2234-1 条は、職業別または職際の労使同数委員会の設立を認めるとともに、地方レベル、県レベルまたは州レベルの労使同数委員会の設立を認めている。
これらの労使同数委員会の創設は、一方の当事者を関係する企業の企業長またはその代理人とし、他方の当事者を代表的労働組合組織とする集団協定によって行うものとされている。この地方同数委員会を創設する協定には、委員会の仕事に参加することが必要とされる労働者の地位(欠勤の権利、報酬の維持、出張費の補償、および解雇からの
373 Ibid.
374 Ibid.
375 これを認めると、協定が定める「適用範囲」の意義が問題となることがその理由として挙げられている。
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376 v. M. -L. Xxxxx, Xxxxxxx et enjeux de la négociation collective territoriale, Dr. soc. 1999. 681.
保護)を定めなければならない(L.2234-3 条)。なお、この協定では、地方同数委員会の構成につき職場選挙の実施結果を考慮すること、および L.2234-2 条所定の任務の一部のみを行うことを定めることができるとされている(L.2234-1 条 2 項)。
この地方同数委員会の任務は近年拡大する傾向にあり377、当初、その主要な機能であった、労働者の個別的または集団的異議申立てについての調査にとどまらず、労働者の雇用条件および労働条件に関するあらゆる問題を調査することができるとされている。また、各種の交渉レベルで締結される労働協約および集団協定の作成および適用に協力することができるほか、「地域的利益、とりわけ雇用および継続職業教育に関する協定について、交渉および締結をする」と規定されている(L.2234-2 条 1 号)。
(4) 企業グループ
企業グループ(groupe)単位の団体交渉については、従来、法律上の規定が存在しなかった。しかし、実務においては企業グループレベルの交渉および協定の締結が増加傾向にあり、当初は、判例378を通じてその枠組がコントロールされてきた379。
その後、2004 年 5 月 4 日のxxxxxにより、企業グループ単位の協約または協定に関する法律上の規定が置かれ、従来からの実務に法的基礎を付与している( L.2232-30条以下)380。
まず、企業グループ協定の適用範囲は、当該協約または協定それ自身によって定めることとされている。すなわち、企業グループ協定は、グループを構成する全ての企業をその適用対象とすることも、その一部を適用対象とすることも可能とされる(L.2232-30条)。
次に、企業グループ協定に関する交渉方式については、グループ単位という性質上、一定の特別な規則が定められている。すなわち、使用者側にあっては、支配的企業
(entreprise dominante)の使用者、または交渉の委任を受けた、その適用範囲内にある企業の 1 または複数の代表が交渉に参加する。労働者側については、グループ、または当該交渉に参加する全ての関係企業における、あらゆる代表的労働組合組織が参加するのが原則である(L.2232-31 条)。ただし、これらの代表的労働組合組織が組合代表委
377 xxxx・xxxxx「フランスにおける団体交渉の最近の展開‐伝統、制度の刷新と現在の検討課題」ビジネス・レーバー・トレンド 468 号(2014 年)59~60 頁も参照。
378 Soc. 30 avr. 2003, Dr. soc. 2003. 732.
379 v. J. Savatier, L’organisation de la représentation syndicale dans les groupes de sociétés. L’exemple des accords du groupe AXA, Dr. soc. 2001. 498 ; M.-A. Rotchild-Souriac, Les accords de groupe,
quelques difficulties juridiques, Dr. soc. 1991. 491 ; P. Rodière, l’émergence d’un nouveau cadre de négociation collective?, Sem. soc. Lamy, 2003, n° 1125, p. 6 ; M.-A. Morin, Les accords collectifs de groupe, RJS 10/03, chron. p. 743.
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380 v. R. Vatinet, Négociation d’entreprise et négociation de groupe, JCP S 2012. 1238 ; J.-F. Xxxxxx, La négociation collective dans les groups de societies, Dr. soc. 2010. 780 et s. ; X.-X. Legrand, Accords collectifs de groupe et d’unité économique et sociale : une clarification inachevée, Dr. soc. 2008. 60 ; P.-H. Antonmattéi, l’accord de groupe, Dr. soc. 2008. 57 ; Xxxxxx Xxxxxx, La vie des conventions et accords collectifs de groupe, RDT 2006. 230.
員から 1 または複数の交渉担当者を指名し、この交渉担当者に交渉および協定への署名を授権することも認められている(L.2232-32 条)。
企業グループ協定の有効性は、2008 年 8 月 20 日の法律第 8 条の 8 による改正後381の L.2232-34 条によって定められた 2 つの条件に服する。第一に、当該協定は、企業委員会または単一従業員代表委員、あるいはそれを欠くときには、従業員代表委員の、直近の選挙における第 1 回投票において、投票者数のいかんにかかわらず、有効投票の少なくとも 30%の支持を獲得した、1 または複数の代表的労働組合組織によって署名されなければならない(L.2232-34 条 1 項)。第二に、協定の有効性は、同選挙において、投票者数のいかんにかかわらず、有効投票の過半数の支持を獲得した 1 または複数の代表的労働組合組織による反対がない場合にのみ認められる。この異議申立ての(反対する)権利を行使しようとする労働組合組織は、当該協定の通知の日から起算して 8 日の期間内にその異議を表明しなければならない(L.2232-34 条 2 項)。
このほか、企業グループ協定について指摘しておくべき重要な点として、他の交渉レベルとの関係がある。
まず、適用除外協定の可否について、企業グループ協定は、企業別協定とは異なり、当該産業部門別協約がxxでこれを認めている場合(いわゆる開放条項( clause d’xxxxxxxxx))を除き、当該企業グループが属する産業部門別協約を適用除外することはできない(L.2232-35 条)382。
次に、企業別協定との関係について、法律は企業グループ協定と企業別協定との間の関係については特に定めを置いていない。xxxxx以前の判例は、企業グループレベルの交渉事項について、当該企業グループに関係する企業に属する従業員に共通する利益に関する議題に限定してきた383。しかし、xxxxx改正後のxxは、法律に反しない限りにおいて、多様な企業グループ協定を締結することを認めていると解されている。すなわち、xxxxxによる改正で、それまで企業グループ協定の交渉事項を限定してきた判例は無効化されたものと考えられている384。判例は他方で、企業グループレベルの交渉は、企業別協定に関する交渉に置き換えることはできない385としており、この判
381 なお、同法律は企業グループ協定に関する規則の改正に関しては何らの移行措置を規定していないが、企業別協定の有効性に関する規則と同様に、2009 年 1 月 1 日から適用されるものと解されている。すなわち、この日付までは、企業グループ協定の有効性は 2008 年 8 月 20 日の法律以前の L2232-34 条 によって定められた条件に服するものと解されている( v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1410)。
382 逆に、企業別協定については、xxでこれを禁止する条項(いわゆる閉鎖条項)が存在する場合を除き、産業部門別協約を適用除外する条項を定めることができる。
383 Soc. 30 avr. 2003.
384 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1410.
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385 すなわち、義務的交渉事項については、企業グループ協定で定めがあろうとも、別途企業別での交渉・協定の締結が必要であり、また企業グループ協定の規定は企業別協定の規定と競合の関係となって、各事項について労働者にとって有利な条項が適用される、いわゆる有利原則が適用される。
例の射程は、現在も維持されていると解されている386。
企業グループ協定の効果については、企業別協定の効果と同様とされている
(L.2232-33 条)。すなわち、企業グループ協定は、その適用範囲内にある全ての企業に直接的に適用される。
法律は企業グループの範囲が変更された場合の協定の効力について特に規定を置いていないが、企業別協定に同様の状況が生じた際に適用される規則(この点については後述)が同様に適用されると解されている387。
2 交渉当事者
(1) 交渉当事者の枠組み‐原則
企業別交渉の当事者は、使用者側は企業長(事業所レベルの交渉の場合は事業所長)であり、労働者側は原則として当該企業(または事業所)における代表的労働組合組織で あ る 388 。 こ の 団 体 交 渉 お よ び 協 定 の 署 名 権 限 に 係 る 労 働 組 合 の 代 表 性
(représentativité)は、1971 年 7 月 13 日の法律に基づき、かつては全国レベルの代表 的労働組合組織に加入することで無条件にもたらされていた(いわゆる「代表性の推定」)。しかし、2008 年法による労働組合の代表性に関する改革以降は、全国レベルの代表的労 働組合組織への加入によって、無条件に企業レベルでの代表性がもたらされることはな くなった389。すなわち、2008 年法以降、代表的労働組合組織と認められるのは、L.2121-1 条の基準(共和国の価値の尊重、独立性、少なくとも 2 年の活動実績等)を満たす労働 組合組織であって、企業委員会または単一従業員代表委員、あるいはそれを欠くときに は、従業員代表委員の、直近の選挙における第 1 回投票において、投票者数のいかんにかかわらず、 有効投票の少なくとも 10 % の支持を獲得した労働組合組織となる
(L.2122-1 条)。
使用者は団体交渉を行うに当たっては、全ての代表的労働組合組織に通知をしなければならない。すなわち、特定の代表的労働組合組織のみとの間で交渉を行うことは、法律によって禁止される組合差別行為(L2141-7 条および L.2146-2 条)を構成する390。
そしてその帰結として、全ての代表的労働組合による参加がなされないままに締結された協定は無効とされる391。この義務は協定の改正の場合にも適用される。すなわち、
386 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1410.
387 Ibid.
388 v. V. Xxxxxx, Les choix de l’organe de représentation des salariés lors de la conclusion d’un accord collectif, Dr. ouvrier, 1988. 340 et s.
389 労働組合の代表性に関する改革の経緯については、本報告書第 1 章、およびxxxx「フランスにおける代表的労働組合概念の変容(1),( 2)」、早稲田大学法研論集 140 号(2011 年)143 頁以下、141 号
( 2012 年)153 頁以下、同「フランスにおける労働組合の代表性の機能とその正当性」日本労働法学会誌 124 号(法律文化社、2014 年)181 頁以下等を参照。
390 Soc. 13 juill. 1988, Bull. civ. V, n° 454.
88
-81-
391 Soc. 10 mai 1995, RJS 6/95, n° 676 ; Soc. 2 déc. 1998, RJS 1/99, n° 78.
協定の改正の場合においては、改正前の協定に署名した組合のみならず、当該企業に存在する全ての代表的組合に交渉の実施を通知しなければならない392。
もっとも、使用者は組合に対して当該交渉への参加を強制する権限は有さない。したがって、一定の代表的労働組合組織が交渉の席につくことを望まないときには、企業長がその他の代表的労働組合組織と交渉を開始し、これを続けることは妨げられない。つまり、全ての代表的労働組合組織が交渉に「呼ばれる」ことが必要ではあるが、全ての代表的労働組合が当該企業における全ての交渉に「参加」することは、必ずしも要求されていない。なお、L.2232-19 条は、当該企業のある地域において、または当該企業が管理する作業場において活動している、企業外の代表的労働組合についても、その請求がなされたときには、交渉に参加させなければならない旨を定めている。
使用者は全ての代表的労働組合組織を、単に交渉に参加するように通知しなければな
...
らないだけでなく、全ての労働組合組織を同一の会合に呼び出さなければならない。す
なわち、組合ごとに分かれて交渉を行うことは禁止されている393 394。
代表的労働組合が企業内に存在しない場合、これに代わるものとして従業員から選挙で選ばれた、従業員代表者との間で集団協定を締結することが可能とされる(後述)。ただし、当該企業に代表的労働組合が存在し、年次交渉義務事項に含まれる内容について締結した協定が存在するときは、企業長が従業員代表者との間で集団協定を締結することは、組合活動妨害罪に当たるものとされ、禁止される395。
(2) 組合代表の構成
L.2232-17 条は、労働者側の交渉当事者である組合代表(délégation syndicale)の構成について定めている。同条によれば、組合代表には、1 名または 2 名の組合代表委員
(délégué syndicale)396が含まれていなければならない(1 の組合代表支部につき複数の組合代表委員が指名されているときは、必ず 2 名が含まれていなければならない)。組合代表委員の数が 2 名を超えるとき、各組合組織の代表はそのうちの 2 名を含むものとされ(L.2232-17 条 1 項)、必要に応じて、1 名が補充される。ただし、当該使用者および交渉に参加する労働組合組織との間で、労働者にとってより有利な、すなわち、これを超える委員数を認める協定が締結されている場合は、この限りではないとされる397。裏を返せば、組合代表が 2 名を超える組合代表委員を含むことができるのは、その旨を
392 Soc. 26 mars 2002, Sem. soc. Lamy, n° 1071 du 15 avr. 2002.
393 Soc. 13 juill. 1988, Bull. civ. V, n° 454.
394 v. J. Xxxxxxxxx, La loyauté dans la négociation collective, Dr. ouvrier 1997. 498 et 499.
395 Crim. 18 nov. 1997, Bull. crim. n° 90.
396 組合代表委員(délégué syndicale)とは、(企業内)組合支部を企業長に対して代表する者をいう。組合代表委員、(団体交渉における)組合代表、企業委員会組合代表( représantant syndicale)は、それぞれ概念上区別されている(参考:前掲注 6 xxほか監訳 145 頁)。
89
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397 Soc. 5 janv. 2011 n° 09-69. 732, XXX 0/00, x° 259.
定める協定が、当該企業における交渉に参加する労働組合と使用者との間で締結されている場合に限られる。
組合代表の役割は、企業別協定について交渉することである。交渉に際して、使用者はその権限の有無を確認する必要はない。組合代表に権限がないことの証明は、それを主張する組合が行うものとされる。すなわち、労働組合が組合代表に対して付与した委任の停止を望む場合、協定の締結より以前に、委任を停止する旨を交渉に参加する他の当事者に通知しなければならない。この通知を欠くとき、労働組合が署名された協定に対して、権限を欠くことを理由として異議を申し立てることはできないとされる398。
組合代表には、任意に、当該企業の 1 または複数の労働者を追加することができ、そ
の人数は当該使用者および代表的労働組合組織全体との間で締結された協定によって定めるものとされる(L.2232-17 条 2 項第 1 文)。こうした協定を欠く場合、組合代表には、これを構成する組合代表委員の数を超える数の労働者を追加で含むことはできないとされる(L.2232-17 条 2 項第 2 文)。ただし、組合代表のメンバーが組合代表委員ただ 1 人であるときは、組合代表委員を補助するために例外的に 2 名の労働者を選任することができるとされる(L.2232-17 条 2 項第 2 文ただし書)。なお、組合代表のメンバーに追加で含まれる労働者を指名するのは、当該企業における組合支部ではなく、当該支部が所属する代表的労働組合組織とされる。
これらの組合代表に参加する(組合代表委員ではない)労働者は、組合代表委員ではない以上、その解雇に関する特別な保護制度、およびこれに類する措置を享受しないと解されている。もっとも、組合代表のメンバーは労働組合と同様の役割を果たしており、これに参加する労働者は、(組合員ではなかったとしても)組合の活動に参加していると評価できることから、組合活動を理由として制裁を受け、また解雇されてはならない旨を定める L.1132-1 条の規定を援用することはできると解されている399。
なお、企業グループ協定に関する交渉については、特別な規則が適用されることは前述のとおりである。
(3) 組合代表委員の権利
各組合支部は交渉の準備のための包括的な代表活動時間(crédit d’heures)を有しており、各組合支部は交渉の代表者の間でその時間を自由に分配することになる
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(L.2143-16 条)。この代表活動時間数は、その年における当該企業において締結された 協定の数にかかわらず、年単位の合計で割り当てられる400。また、労働者であって、組合 代表委員の構成員である者は、交渉に要した時間について報酬が支払われる(L.2232-18 条)。
398 | Soc. 19 févr. 1992, CSBP avr. 1992, p. 19. |
399 | Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1412. |
400 | Soc. 2 juin 2004, RJS 11/04, n° 1165. |
(4)組合代表委員を欠く企業における交渉
フランスにおいても、小企業においては組合支部の設置が進まず、団体交渉の展開が困難なものとなっている。こうした認識から、立法者は、企業別交渉に代わるものとして、産業部門別交渉、および1(3)で述べた地域レベルの交渉を強化してきた。これに加えて、1990 年代以降、組合代表委員が存しない企業における、労働組合との交渉に代替する方式の確立が模索されている。その最初の試みは、1995 年 10 月 31 日の全国職際協定(accord national interprofessionnelle:ANI)を受けて成立した 1996 年 11 月 12 日の法律である。この法律は、拡張適用された部門別協定によって認められ、かつ体系化された範囲において、当該企業内における従業員の選挙によって選ばれた代表者、または労働組合によって委任された労働者と使用者との間で協定を締結することを認めたものである。
こうした組合代表委員を欠く企業における交渉の様式は、その後、2001 年 7 月 16 日の労使当事者による共通見解(la position commune des partenaires sociaux du 16 juillet 2001)を受けて、2004 年 5 月 4 日のxxxxxによって一般的なものとして確立された(L.2232-21 条)401。
加えて、2008 年 8 月 20 日の法律により、組合代表委員を欠く企業における適用除外協定の締結について、一定の移行期間を経て施行されている402。なお、2008 年 8 月 20日の法律の公布以前にL.2232-1 条ないしL.2232-29 条の規定の適用のもとで締結された部門別協約および協定は、その従業員数にかかわらず、当該協約または協定の適用範囲内にある全ての企業について効力を持続する。したがって、当該協約または協定が破棄ないし改訂されない限り、原則として下記の適用除外制度の対象とすることはできない。
3 交渉の展開403
(1) 団体交渉の流れ‐企業委員会との関係
(後述する義務的交渉事項にかかる交渉を別にした)労使当事者が任意に行う交渉にあっては、交渉の展開(進め方)について、立法による規制は特に存在しない。労使当事者が、実際に交渉を開始する前に企業または事業所の組合代表委員に対して企業長によって手渡されるべき情報を、協定によって定める旨が規定されている(L.2232-20 条)
401 v. G. Xxxxxxxxxxx, La négociation collective dans les entreprises dépourvues de délégués syndicaux, Dr. soc. 2004. 606.
402 この結果、2009 年 12 月 31 日まではxxxxxの規則が適用され、2010 年 1 月 1 日からは、組合代表委員を欠き、産業部門別協約または職種別協定に服さない全ての企業について、新たな規定が適用されることとなっている(2008 年 8 月 20 日の法律 14 条)。
91
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403 v. J. Xxxxxxxxx, La loyauté dans la négociation collective, Dr. ouvrier 1997. 496 et s. ; Y. Xxxxxxxx, La conduit de la négociation, Dr. soc. 1990. 584 et s. ; M. Miné, La loyauté dans le processus de négociation collective d’entreprise, Travail et Emploi n° 84, 2000, p. 47 et s.
程度である。また、企業長および組合代表委員は、定期交渉およびその対象事項を定めておくことも可能である(L.2232-20 条)。
ただし、企業委員会に対する諮問についての規則との関係が問題になることがある。すなわち、交渉の目的が労働法典 L.2323-6 条に定められた問題(企業の一般的な組織、運営および取引に関わる問題、人員の総量または構成に影響を与える性質を有する措置に関わる問題、労働時間、従業員の雇用、労働および職業教育の条件に関わる問題)を含むときには、使用者は組合と交渉するに際して企業委員会に諮問をしなければならない。この点に関連して、破毀院は、「企業長の決定に、企業委員会の諮問が先んじなければならない」という同条の規定について、この決定が使用者による一方的決定であるか、または企業別協定についての交渉に基づいた決定の形態を採るかによって区別される余地はなく、あらゆる企業長の決定に適用されるとしている404。すなわち、上記の事項に関する団体交渉が実施される場合には、企業委員会に対する諮問が必要となる。この諮問の時期については、団体交渉の開始と同時になされるか、遅くとも当該協定の署名より前になされなければならないとされる405 406。
もっとも、企業委員会に対する諮問を欠いて企業別協定が締結された場合に、諮問を欠くことを理由に当該協定が無効となる、あるいは当該協定を理由に労働者に対抗することができないという効果が生じるわけではない407。企業委員会に対する諮問の義務に対する違反は、企業委員会の運営を規律する規則に応じて、刑事上の妨害罪、あるいは民事上の損害賠償という制裁が課される可能性が生じるにとどまる。
(2) 協定の締結
企業別協定の有効性は 2 つの条件に服する。その第 1 は、当該協定の署名に関するものである。具体的には、企業別協定は、企業委員会または単一従業員代表委員の、あるいはそれを欠くときには、従業員代表委員のにつき、直近の選挙における第 1 回投票において、投票者数のいかんにかかわらず、有効投票の少なくとも 30%の支持を獲得した、 1 または複数の代表的労働組合組織によって署名されなければならない(L.2232-12 条)。破毀院は、集団協定の有効性に関する上記の条件は、公序(ordre public)に基づくものであるとしている。すなわち、法律によって定められた条件とは異なる方法に基づいた、
404 Soc. 13 nov. 2001, Vivendi, Bull. civ. V, n° 343.
405 Soc. 5 mai 1998, Bull. civ. V, n° 219.
406 当該企業内において労働組合の交渉基盤が確固たるものとなっており、企業委員会と労働組合が実質的に一体化しているような企業にあっては、労働組合との団体交渉で議論が進められ、大筋での合意が成立した段階で、この規定を遵守するため(だけ)に、企業委員会に対する諮問のための会合が形式的に開催され、しかるのち、労使当事者が最終的に協定を締結するというプロセスが取られることもしばしばみられるようである。
92
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407 Soc. 19 mars 2003, Bull. civ. V, n° 105.
多数の確保を根拠とする集団協定の有効性の主張はできない408。
有効性の第 2 の条件は、同じ選挙で過半数の支持を獲得した 1 または複数の代表的労働組合組織の反対がないことである。この有効投票数の過半数という条件について、協定に反対するこれらの組合が、互いにそれぞれの異議申立てに加わる意思を示している必要はないとされる。すなわち、反対の意思を示す組合が獲得している支持率が、合計で過半数を満たしていれば足りる409。なお、「過半数( majorité)」という文言は、少なくとも有効投票数の半数に1票を加え多数が要求される、文字通りの過半数である410。協定に反対の意思を示す労働組合組織は、当該協定の通知の日から8日以内にその意
思表示をしなければならない(L.2232-12 条 2 項)。
4 交渉事項
(1) 交渉事項の自由と「有利原則」
労使当事者は、交渉事項の決定については、非常にxxな自由を有している。労働法典は、当該企業における代表的労働組合から提起された交渉議題に関する要求に対して使用者がこれを取り上げる方式を、産業部門別協約において定める旨を規定する
(L.2222-3 条)のみである。すなわち、原則として、後述する義務的交渉事項を除いては、いかなる問題も交渉を行うことが強制されることはなく、反対に、いかなる交渉事項も、原則として排除されないと解されている411。また、L.2253-1 条は、産業部門別協約、職種別協定、あるいは職際協定に、当該企業における特別な条件を付して適合させることができる旨を規定するとともに(同条 1 項)、企業別協約または協定が、「新たな規定」を含みうることを規定(同条 2 項)している。したがって、企業別の団体交渉は、産業部門別協約、職種別協定、または職際協定に記載されている条項を対象とするだけでなく、これらに記載されていない規定についてもその対象とすることができる。なお、こうした部門別協約および職種別協定の当該企業内における適合を目的としない、すなわち、まったくの新たな条項を付け加える趣旨の企業別協定の規定の解釈に当たっては、
(部門別協約および職種別協定の内容を考慮することなく)自律的になされなければならないとされている412。
以上のように、労使当事者は、交渉事項の選択に当たってxxな自由を有しているものの、2004 年のxxxxx改革以前は、いわゆる「有利原則」による制約が強固に存在
408 Soc. 4 févr. 2014, n° 12-35. 333, Lexbase Hebdo, éd. Sociale, n° 559. 本判決は 2008 年法改正以前の事案ではあるが、改正後もその射程は有効であると解されている( v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx
Dockès, op. cit., p.1419.)。
409 Soc. 13 oct. 2010 RJS 12/10, n° 946.
410 Soc. 10 juill. 2013, n° 12-16. 210, RDT 2013. 641.
411 v. A. Supiot, La réglementation patronale de l’entreprise, Dr. soc. 1998. 215 ; J. Xxxxxxxémy, Xxxxxxxx indivisualisés et accords collectifs, Dr. soc. 2001. 720.
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412 Soc. 9 mars 2005, Dr. soc. 2005. 703.
していた。すなわち、労使当事者は、原則として法律および行政立法(réglementaire)の規定と比べて労働者によってより有利な内容に限って、交渉の議題として取り上げることが可能であった。また、企業別交渉は、あくまでも労働者の地位の改善を可能とする手段であって、労働者が負担する義務を重くする性格のものではないとされていた。したがって、企業別交渉を通じて、上位レベルの協約によって労働者に付与されている権利を減じるような不利益を課すことはできなかったのである。
しかし、こうした団体交渉にかかる原則(xxxx)は、2004 年 5 月 4 日のxxxxxによって根底的に変更された。すなわち、xxxxxは法律を適用除外する可能性を増加させ、上位レベルの規範に対する適用除外の可能性を一般化したのである。この有利原則を事実上廃棄する改正に対しては、使用者との団体交渉において労働者が弱い地位にある企業において、企業別協定は、その当初の目的とは逆に、労働条件の悪化の機能をも果たすこととなるとして、根強い批判も存在する413 414。
(2) 法律に対する適用除外ア 沿革
1982 年 11 月 13 日のオルー法以来、労働法典は、法律または行政立法上の規定につい
て、当該規定がそれを認めるときは、企業別または事業所別協定の条項により適用除外 できる旨を定めている。ただし、適用除外協定といえども、集団協定はその署名の前の 時点において法律に基づいて労働者が有していた権利を奪うことはできないとされる415。このように、企業別協定による適用除外は、1982 年以来存在する制度ではあったが、2004 年 5 月 4 日のxxxxxは、この適用除外協定の対象を増加させ、それ以前は拡張適用 された部門別協定に留保されていた適用除外についての多くの権限を、企業別協定に付 与した。現在、企業別協定に基づく法律上の規制の適用除外の対象は、主として、賃金、 労働時間、および不安定雇用に関するものである。
こうした適用除外協定の増加は、労働協約システムおよび労働関係に大きな変化をもたらしていると評価されている416。とりわけ労働法学者からは、これらの適用除外制度の拡大によって、フランス労働法はもはや有利原則を中心とする社会的公序( ordre public social)の概念に基づく法律および協約規範による階層的な規範設定という構造が解体されているとし、特に、法律による労働者の保護が、実質的に企業別協定の留保に付されることとなった(「企業別協定で異なる定めをしない場合にのみ、法律に基づく保
413 M.-A. Souriac, L’articulation des niveaux de négociation, Dr. soc. 2004. 579.
414 もっとも、これらの法改正により、少なくとも産業別協約に対する適用除外については、現時点では必ずしも著しく進んでいるわけではないようである。
415 Soc. 11 juill. 2000, Bull. civ. V, n° 274.
94
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416 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1417.
護が得られる」という構造になった)とする批判も存在する417。
イ 対象事項
(ア) 賃金
オルー改革の一環である 1982 年 11 月 13 日の法律により、企業別または事業所別協定が、一定の労働者に対して不利益に働く賃金条項を含むことはすでに認められていた。この種の賃金協定は、実務においては、賃上げの具体的な適用に関して特別な方式を定めることにより、一般的なレベルでの妥当性をより追求するためのものである。そこで、こうした賃金に格差を設ける条項を定める際は、格付け別最低賃金を定めること、および賃金総額の増額幅について遵守されるべき基準を定めることという 2 つの条件が付されている(L.2253-4 条)。すなわち、例えば産業部門別の賃金協定において 2%の賃上げが決定された場合に、企業別協定において、協定に基づく賃上げを反映した格付け別の最低賃金を定めた上で、(一定の基準に基づいて)賃金総額について 2%の増額を実現しつつ、1.5%の賃上げにとどまる労働者(職種)、逆に 2.5%の賃上げを享受する労働者(職種)を定めるといった方法を取ることが可能とされている。上記のようなケースにおいては、フランスの「伝統的な」有利原則に基づくならば、企業別協定のレベルにおいては、全ての労働者に対して 2%の賃上げを実現することが要請される。そして、その上で、一定の労働者(職種)に対して、プラスアルファを定めることのみが許容されるにとどまった。これに対しオルー法は、格付け別の最低賃金および賃上げ総額という基準を遵守させつつ、その配分に、より柔軟性を持たせることを認めたのである。なお、格付け別最低賃金、および賃金総額の増額幅の基準という以上 2 つの条件が遵守されなかった場合、当該産業別協定で定められた賃上げ幅を、全ての労働者に適用することが義務付けられると解されている418。
(イ) 労働時間
L.3122-47 条は、企業別協定により、労働時間の調整( aménagement)および配分
(répartition)、ならびに失われた労働時間の埋め合わせ労働(récupération)の様式に関する行政立法を適用除外できる旨を定めている。
また、2008 年 8 月 20 日の法律により、超過勤務時間の年間割当時間(contingent annuel d’heures supplémentaires)(L.3121-11 条)、代償休日による超過勤務時間の支払いの代用、労働時間の週ないし年単位調整(L.3122-2 条)について、企業別協定にこれを定める権限が付与されている。
417 v. J.-E. Xxx, Les accords sur le temps de travail, Dr. soc. 1988. 99 ; J.-C. Javillier, Les accords d’entreprise en matière de rémunération, Dr. soc. 1988. 68 ; G. Borenfreund, La résistance du salarié à l’accord collectif, l’exemple des accords dérogatoires, Dr. soc. 1990. 626 et s.
95
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418 Soc. 22 févr. 2006, RJS 0/00, xx 058.
2008 年法に基づく L.3122-2 条は「企業別協定または事業所別協定、あるいはそれを欠くときは、部門別協約または協定は労働時間の調整の方式を定め、週単位から年単位までの労働時間の配分を体系化する。」と規定している。すなわち、これらの事項については、企業別協定または事業所別協定に集団的規範設定にかかる優先的な地位を与えており、産業別協約を(企業別ないし事業所別協定が存在しない場合についての)補足的な地位に後退させている。これは、労働時間の配分を定めることについては、最も現場に近い交渉レベルに優先権を付与したと説明されている。もっとも、こうした産業別レベルの交渉・協約を通過し、直接的に企業レベルで決定する仕組みの導入に対しては、規範の階層的競合(および有利原則)を通じて実現されてきた労働者の保護を弱め、また、上位レベルで交渉された規範について、企業レベルでさらなる再検討を行うことによる労使交渉の活性化が阻害されるとする批判も存在する419。
(ウ) 不安定雇用
企業別協定は、期間の定めのある労働者に対して支払われる不安定雇用補償金
(indemnité de précarité)(L.1243-9 条)、および各種の臨時的労働に関する規定(試用期間(période d’essai)、契約満了補償金(indemnité de fin de mission)等)に関する規則を適用除外することができる。
ウ 組合代表委員を欠く企業における適用除外協定
(ア) 概要
現行の制度においては、当該企業内に組合代表委員がいないとき、集団協定としての効力を有するのは、法律で定められた条件について交渉された協定のみである。この点は、2008 年改正以前のxxに基づいて締結された協定についても同様である420。
他方で、上で触れたように、2008 年 8 月 20 日の法律は、組合代表委員を欠く企業における適用除外協定の締結に関して幾つかの方式を新設している。
2008 年法による改正により、第一に、組合代表委員を欠く企業における協定について、拡張された部門別労働協約または集団協定による当該企業別交渉の規律という要請を取り除いた。すなわち、2008 年法以前は、あくまでも部門別協定によって定められた場合に限って、組合代表委員を欠く企業でも適用除外協定に関する交渉を実施することが可能であったのに対し、2008 年法による改正以降は、組合代表委員が存在しない企業においても、適用除外協定に関する企業別交渉を実施することが(2008 年法の枠内で)一般的に可能となっている。
ただし、この方法は、あくまでも「法律により、集団協定に服することとされた措置
419 v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1418.
96
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420 Soc. 14 janv. 2014, n° 12-19. 412.
の実施について」交渉することのみを可能とするものである。その典型は、労働時間の調整に関する法律上の規定の適用除外についての協定である。2008 年法は、労働時間に関する法律上の規定に対する適用除外の実施を容易にすることを意図しており、こうした観点から、専ら企業別協定によってのみこれを認めることとしたと解されている421。逆に、法律によって特に認められた事項を除いては、企業レベルでの適用上外協定に 関する交渉および協定の締結は、組合支部の代表(組合代表)との間の交渉および協定
の締結のみ認められる。
(イ) 交渉の方式
a 従業員から選ばれた代表との交渉
少なくとも 200 人の労働者がいる企業において、当該企業または当該事業所が組合代表委員を欠くとき、または少なくとも 50 人の労働者がいる企業において組合代表委員として指名された従業員代表委員を欠くとき、企業委員会または単一従業員代表委員会において従業員から選出された代表、または、それを欠くときには、従業員代表委員が、上述の法律が定める内容について交渉し、協定を締結することができる(L.2232-21 条)。この場合、当該企業別協定の締結には、企業委員会でこの目的のために選出された構 成員、またはそれを欠くときは直近の職場選挙について有効投票の過半数を代表する権限を有する従業員代表委員による協定の締結が必要であり、かつその有効性は産業部門
別同数委員会(commission paritaire de branche)の承認に服する(L.2232-22 条)。
b 委任された労働者との交渉
組合代表委員および従業員によって選出された代表がいない企業においては、当該産業部門における 1 または複数の代表的組合組織によってxxで委任された 1 または複数の労働者が、企業別(または事業所別)協定について交渉し、協定を締結することができる(L.2232-34 条)。この方式を用いるためには、従業員によって選出された代表が存在しないことを示す、不存在の調書(procès-verbal)の作成が必要である。委任された労働者によって署名された協定が効力を有するには、有効投票の過半数の労働者によってその有効性が承認されなければならない。
c 組合支部代表者との交渉
少なくとも 200 人の労働者がいる企業において、組合支部代表者(représentant de la section syndicale)422は、全国職際レベルで代表的な組合組織に加入している労働組合
421 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1413.
97
-90-
422 新設であるなどの事情から当該企業内において代表性を有しない労働組合組織が、次期の職場選挙において代表性を獲得することを目的として、企業内組合支部を設置し、組合活動を行う目的で指名された
組織による指名を受けることにより、当該組合組織による委任に基づいて、企業別または事業所別の協定について交渉し、かつこれを締結する権限を有することができる
(L.2143-23 条)。この方式は、当該企業において(代表的労働組合の)組合代表委員が存在しないときにのみ用いることができる。組合支部代表者との間で締結された協定の有効性は、(イ)の場合と同様、労働者による投票における有効投票の過半数による承認に服することとなる(L.2232-14 条)。
(3) 上位レベルの協約に対する適用除外423
これまでも述べてきたように、フランスの労働協約法制においては、伝統的に有利原則に基づいて、企業別協定が部門別協約よりも不利な条項を含むことが禁止されてきた。これは、フランスにおいては、企業内における労働組合の基盤が脆弱であることによるとされている。すなわち、フランスにおいては、使用者と労働組合の力関係に関する均衡は、産業部門のレベルではある程度維持されているが、企業内のレベルにおいては(一部を除き)そのような労使の力関係の均衡はほとんど存在しないと理解されていたのである424。
こうした背景から、企業別協定は、伝統的に部門別協約に基づく労働者の地位をより改善するためにのみ機能することができるとされてきた。しかし、2004 年 5 月 4 日のxxxxxはこうした有利原則の射程を大幅に減じたのである(L.2253-1 条)425。
xxxxxによる改正を受け、現在では、有利原則は 4 つの問題にのみ適用されることとなっている。すなわち、①産業別最低賃金、②格付け(classification)、③補足的社会保護(protection sociale complémentaire)、④職業教育(formation professionnelle)のための基金の拠出負担である。
もっとも、上位レベルの協約に対する適用除外協定の締結には、上記の4つの事項以外についても、幾つかの留保がなお存在する。
まず、2004 年のxxxxxの施行後に締結された企業別協定は、同法の施行日より以前に締結された上位レベルの労働協約に対しては、当該協約の署名者が異なる定めをしていない限り、より不利な条項を定め、適用除外をすることはできない426。
また、xxxxxは、一方では、企業別協定が上位レベルの協約を適用除外することにつき原則として自由としたが、他方で、当該協約または協定が異なる定めをする場合
者のことをいう。この段階では代表性を有していないため、使用者との団体交渉に参加することはできない(この点で、代表的労働組合が企業内に設置した企業内組合支部( section syndicale)の代表である組合代表委員(delégué syndical)とは区別される)が、これを除くあらゆる労働組合活動を行う権利を有するとされる(L.2142-1-1 条、L.2142-1-2 条)。
423 フランスの伝統的な有利原則と、xxxxxによる有利原則の原則的撤廃、およびその影響については、本報告書第 1 章も参照。
424 v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1417.
425 v. M.-A. Souriac, L’articulation des niveaux de négociation, Dr. soc. 2004. 579.
98
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426 Soc. 9 mars 2011, n° 09-696647, RDT 2001. 324 et s.
は除かれる旨を規定している。すなわち、当該部門別協約がxxでこれを禁止している場合(いわゆる閉鎖条項:clause de fermeture)には、企業別協定による適用除外はできない。
この点に関連して、労働時間に関する法律上の規制の適用除外協定と、企業別協定による産業別協約の適用除外を禁止する、いわゆる閉鎖条項との関係について議論がある。すなわち、L.3121-11 条は、例えば超過勤務時間の年間割当の決定について、企業別または事業所別協定に優先的な地位を与えているが、産業別協約が当該事項について適用除外の禁止(閉鎖条項)を定めていた場合、企業レベルの労使は部門別協約による適用除外の禁止(閉鎖条項)の拘束を受けるのかという問題がある。この点について、憲法院は企業レベルの労使当事者は L.3121-11 条に定める事項については、閉鎖条項による拘束を受けず、法律に対する適用除外協定を締結しうると解している427。このほか、学説においては、異なるレベルの適用除外協定が競合した場合の取扱い、すなわち、産業別レベルで締結された法律に対する適用除外協定と、企業別のレベルで締結された適用除外協定が存在する場合、どちらが優越的な地位を有するのかという問題が指摘されている428。
5 義務的交渉事項
現在のフランスにおける(企業別)交渉・協約システムの大きな特徴の 1 つとして、義務的交渉事項が法定化されているという点が挙げられる。そこで、本項ではこのフランスの企業別交渉における義務的交渉事項について検討する。
フランスにおいて義務的交渉事項が初めて定められたのは、1982 年のことである。すなわち、これまでも繰り返し言及したオルー改革において、労働協約の領域にかかる最も重要な改正の 1 つが、この義務的交渉事項の法定である。具体的には、1982 年法は、実賃金、実労働時間および労働時間体系について、企業レベルにおける年次交渉義務を定めた。その後、度重なる改正により、この交渉義務の適用範囲は拡大され、近年では 3年に 1 度の交渉義務として導入された、職業上の平等、雇用能力予測管理に関する事項等が非常に重要な意義があると評価されている429。
この交渉義務については、違反に対する特別な制裁が課される。ただし、ここでいう交渉義務は、あくまでも「交渉」の義務であって、協定を「締結」する義務ではない点に留意する必要がある。
427 Cons. const. 7 août 2008, déc. n° 2008-568 DC, cons. 18 à 20.
428 v. Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1418 ; G. Vachet, L’articulation accord d’entreprise, accord de branche : concurrence, complémentarité ou primauté?, Dr. soc. 2009. 896 ; P. Morvan,
L’articulation des normes sociales a travers les branches, Dr. soc. 2009. 679 ; F. Xxxxx, Le nouvel ordonnancement juridique, Dr. soc. 2010. 379 ; Xxxxxx Xxxxxx, L’articulation des normes
conventionnelles, Dr. ouvrier 2010. 324.
99
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429 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1419.
(1) 交渉義務の内容ア 交渉の発意
L.2242-1 条 1 項は、「1 または複数の代表的組合の企業内組合支部がある企業において
は、当該使用者は毎年…交渉を実施するものとする。」と規定している。したがって、交渉の義務は、労働組合に対して課される義務ではなく、使用者に対して課される義務である。労働組合の側は、法律が労働者に与えた交渉の権利を集団的に行使するに過ぎない。
L.2242-1 条 1 項は、使用者が毎年交渉の発意をしなければならないと定めている。そして、前回の交渉から 12 ヶ月を超えて当該使用者の発意がないときは、代表的労働組合組織が交渉を要求することができ、使用者はこれに応じる義務が生じる(L.2242-1 条 2項)。なお、この交渉要求がなされたとき、当該要求がなされた事実は、使用者によって 8 日以内に他の代表的労働組合組織に伝達されなければならない(L.2242-1 条 3 項)。
なお、L.2242-1 条 1 項が定める「毎年」の意義は、毎「暦年(année civil)」と解されている。すなわち、使用者は毎暦年ごとに(1 度)交渉の発意をする義務を負っており、例えば 2013 年に交渉が行われた場合、2014 年中に交渉が発意されなければならない。したがって、この場合、2014 年が終了しないうちは、使用者の交渉の発意の義務違反が成立することはない430。他方で、前回の交渉から 12 ヶ月の経過後に代表的労働組合組織から交渉の要求がなされたにもかかわらず、使用者が交渉を開始しないときには、 L.2242-1 条 2 項に基づき直ちに交渉義務違反が成立することになる。
複数の事業所を有する企業において、使用者は、この義務的交渉事項に関する交渉の発意について、当該企業に含まれる事業所のレベルで行うのか、当該企業それ自体のレベルで行うのか。
この点、旧 L.132-27 条は、複数の事業所を含む企業については、企業レベルの交渉と事業所レベルの交渉の二者択一を規定していた。そして、判例は当初、事業所レベルの交渉は、当該事業所レベルに設置されている組合支部が所属する労働組合組織の同意がある場合に限って認められるとした431ほか、代表的労働組合組織の反対がなく、かつ各事業所において同一の代表的労働組合組織を有する事業所において交渉が行われる場合について、これを認める判断を示していた432。
これに対し、いわゆる再法典化(codification)後の現行労働法典においては、義務的交渉事項に関する交渉を事業所レベルで実施することについて、何らの特別な条件も課していない。
430 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1420.
431 Soc. 21 mars 1990, RJS 1990. 291.
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432 Crim. 4 déc. 1990 CSBP févr. 1991, p.35. v. M.-A. Rotchild-Souriac, Dr. soc. nov. 1988 ; J. Xxxxxxxxx, Dr. soc. 1984. 680.
他方で、旧 L.132-27 条は、再法典化の結果として、複数の条文に分裂しており、義務的交渉事項に関して、事業所レベルにおける交渉、および企業レベルにおける交渉の双方について明記している条文は、疾病保険制度(prévoyance maladie)についての交渉に関する L.2242-11 条のみである433。すなわち、この事業所レベルでの交渉に関する規定は、他の年次交渉事項(賃金および労働時間、男女間における職業上の平等など)に関する条文には記載がない。
この点について学説は、疾病保険制度を射程とする事業所レベルの交渉が可能であるのに、賃金または労働時間について事業所において交渉できないとする理屈はないとしている。すなわち、使用者は義務的交渉事項一般について、企業レベルに加え事業所レベルでの交渉を発意することができるとし434、他方で、当該企業の全ての労働者が同一の協約の規定を享受する権利を有するときには、使用者は当該企業の全ての事業所において交渉を開始する義務を負う435としている。
イ 交渉の様式
交渉義務は、当然のことながら、定められた日に労使が相対すればそれで足りるというものではない。フランスの労働法典は、交渉の様式についても幾つかの規則を定めている。
まず第一回の協議において、(以降の)協議の場所およびスケジュール(L.2242-2 条 1号)、および使用者が組合代表委員に対して交付される情報(およびその交付の日付)を明らかにすることとされている(同条 2 号)。これらの情報は雇用および資格等級、支払われる賃金、実労働時間および労働時間体系に関する男性と女性の状況の比較分析が可能でなければならない。なお、賃金に関して、使用者は各労働者の個別の賃金についての情報を与える義務までは負わないとされるものの、手当(prime)の総額、労働者の職務カテゴリーごとの手当の個別分配、およびその付与の基準についての情報を伝える義務を負うとされる436。また、ある従業員のカテゴリーを毎年の交渉から排除することはできないとされる437。
次に、交渉が行われている間、使用者は、緊急の場合を除き、交渉の対象となる事項について、労働者の集団的労働条件に関する一方的決定をすることが禁止される
(L.2242-3 条)。また、使用者は賃上げ、労働時間の削減または労働時間の修正を単独で決定することができない。さらに、判例によれば 、(企 業別)協定の破棄通告
433 同条 2 項が「これらの(注:「前項に定める」の意)企業において、区別される事業所または事業所グループを含むとき、この交渉はこれらの事業所または事業所グループレベルで行うことができる」と規定している。
434 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1420.
435 Ibid.
436 Paris, 9 févr. 1996, RJX 0/00, xx 427.
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437 Crim. 28 mars 1995, RJS 10/95.
(dénonciation)は当事者による一方的行為であることから、L.2243-3 条により、交渉期間中にその時点で適用されている企業別協定についての破棄通告を行うことも禁止される438。この使用者の経営管理および指揮監督に関する権限の制限は、交渉を効果的なものとするためのものと理解されており439、交渉の期間中にのみ生じるものである。このため、第 1 回協議の際に作成される、以降の交渉のスケジュール、および協定の締結が不可能であることの確認のために定められる期限は、実務上、重要な意味を有するとされる440。
先に述べたように、法律が定める交渉の義務は、「締結」の義務ではない。したがって、義務的交渉事項に関する交渉は、協定の締結に至る場合もあれば、当然ながら合意に至らない場合もある。合意に至らなかった場合、不合意の調書(procès-verbal de désaccord)を作成するものとされる。この調書には、交渉の最終段階における、労使当事者それぞれによる提案、および使用者が片務的に実施しようとする措置を記載しなければならない。なお、ここでいう「使用者の最終的な提案」と、「使用者が片務的に実施する措置」は、必ずしも一致しなくてもよい441。
ウ 義務的交渉の対象事項442
(ア) 義務的交渉事項の類型 a 年次交渉事項
本節の冒頭で述べたように、1982 年のオルー法により初めて企業レベルにおける年次
交渉義務事項が定められて以降、度重なる改正により、この交渉義務の適用範囲は拡大されている。もっとも、毎年必ず交渉されなければならない、いわゆる年次交渉事項は、オルー法で定められて以降、変化はない。
すなわち、年次交渉事項の第一は、実賃金(salaire effectif)についてである(L.2242-8条 1 号)。ここでいう実賃金とは、「職務カテゴリーごとの額面の賃金のことであり、そこには手当および現物支給も場合によっては含まれる。それは、これらの手当および支給が部門別協約または協定の適用から生じる場合である」とされる。ただし、個別の労働者の賃金額そのものを対象とするものではない443。なお、判例によれば、この実賃金に関する交渉義務の射程は、従業員の一部の実賃金の額に影響をもたらすような新商品
(製品)の商品化についても及ぶとされる444。
438 Soc. 29 juin 1994. CSB 1994, A. 52.
439 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1421.
440 Ibid.
441 典型的には、賃金額について、交渉の最終段階で使用者が提示した案と労働組合が提示した案の中間的な額を使用者が実施することを決定することなどが想定される。
442 v. M.-A. Souriac, Actualité et devenir de l’obligation de négocier, etudes offertes à Xxxx Xxxxxxxxx,
Paris, Dalloz, 2004, 489.
443 Circ. DRT n° 15 du 25 oct. 1983, Liaisons soc., n° 5412 du 9 nov. 1983, p.7.
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444 Soc. 28 nov. 2000, UAP, Bull. civ. V, n° 398.
年次交渉事項の第二は、実労働時間(durée effective)および労働時間の体系についてである。なお、パートタイム労働の実施については、特に労働者の要求があった場合には交渉が義務付けられる(L.2242-8 条 2 号)。
b 毎年、または 3 年毎の義務的交渉事項
次に、以下の 2 つの問題についても、使用者は毎年交渉を開始しなければならないとされる。ただし、これらについては、一度協定が締結されて以降は、この交渉の周期は 3年とされる。
その第一は、当該企業における男性および女性の間の職業上の平等に関する目標およびその達成を可能とする措置についてであり(L.2242-5 条)、第二は、障害を有する労働者の雇用にかかる職務への組込みおよび雇用の維持(L.2242-13 条)についてである。
c 協定の締結以前における年次交渉事項
以下の 2 つの事項については、当該企業の労働者に適用される協定がない場合にのみ、毎年交渉を実施する義務が生じる。
すなわち、第一に、疾病扶助(prévoyance maladie)の制度の実施(L.2242-11 条)についてであり、第二に、利益参加(intéressement)、経済的利益参加(participacion financiere)、および企業貯金制度(épargne d’entreprise)の実施(L.2242-12 条)についてである。
d 大企業において 3 年毎に交渉が義務付けられる事項
大企業またはグループ企業-具体的には、少なくとも 300 人の労働者が就労するか、または共同体レベルの企業であってフランスに 150 人の労働者が就労する事業所を 1 つでも有する企業または企業グループ-においては、以下の 5 つの事項について、3 年ごとの交渉が義務付けられる。これらの事項は、主に企業戦略およびその雇用に対する影響に関する事項である(L.2242-15 条)。
その第一は、雇用能力予測管理( GPEC) 445の措置の実施に関する事項であって、企業委員会が情報提供を受ける事項、ならびに、それに加えられる可能性のある付随的措置、とりわけ、職業教育、職業教育用企業負担型財形貯蓄助成金(abondement du compte personnel de formation)、職業経験認定(validation des acquis l’expérience)、職業能力診断(bilan de compétence)、ならびに、企業内異動協定(accord de mobilité interne)
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445 雇用能力予測管理( GPEC)とは、企業等において人材配置の適正を保つことを目的として、人材の予測的管理を行う措置を言う。典型的には、当該企業等において今後予想される雇用・職種等の増減の予測を行い、それを元にした職業訓練、人員配置計画等をおこなう。
446によって定められているものとは異なる措置としての、労働者の職業的地理的可動性
支援(accompagnement de la mobilité professionnelle et géographique)についてである。
第二に、L.2242-21 条所定の企業内における職種ないし地理的異動の条件を定める場合、これについて 3 年毎の交渉が義務付けられる。
第三に、当該企業において実施される職業教育および職業教育計画の対象についての 3年間の大枠、とりわけ、優先的にその対象となる労働者および雇用、当該協定により 3年間で獲得されることが予定される能力および職業資格、ならびに使用者が負担する職業教育用財形貯蓄助成金の基準および様式についてである。
第四に、各種の労働契約、すなわちパートタイム労働契約、研修契約(contrat de travail aux stages)についての利用見通し、ならびに当該企業において不安定雇用を減少させるために実施される措置についてである。
第五に、下請企業が、その職種、雇用、および能力について影響を有する、当該企業の戦略方針について情報提供を受ける条件についてである。
(イ) 各交渉事項に関する交渉の様式
アで述べたこれらのさまざまな義務的交渉事項についての交渉は、これらを全て同時に展開することが義務付けられているわけではない。もっとも、包括的な交渉枠組みのほうが、相互の妥協を引き出し、合意の基礎を見出す可能性は高いと考えられている。したがって、実務においては、複数の事項についての包括的な交渉が行われるケースが多いとされる447。
なお、2014 年 3 月 5 日の法律 33 条は、1 つの協定によって、法律によって列挙され ている義務的交渉の全部または一部について、「労働生活の質(qualité de vie au travail)」と呼ばれる単一の交渉に統一することを認めている。同法によれば、この「労働生活の 質に関する協定」は、それが有効となるためには代表的労働組合の過半数の支持が要求 される。そして、同協定は 3 年の期間で締結され、その間、協定が定めた内容を対象と する年次交渉義務が停止されるとしている。
(2) 交渉義務に関する制裁ア 民事制裁
使用者が義務的交渉事項について交渉を開始しない、または交渉手続の間にその課さ
れている義務を遵守しない(情報提供の懈怠、交渉中における一方的決定、等)とき、当該使用者は労働者および労働組合が被った損害について民事上の責任を追及されるこ
446 L.2242-21 条以下。
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447 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1422.
ととなる448。また、交渉が行なわれる前に使用者が義務的交渉事項に関する一方的決定を行った場合、事実審裁判官はこの交渉が行われるまでの間、当該決定の実行の停止を命じることができる449とされている。
このほか、労働組合組織は、交渉を開始し、あるいは必要な情報の提供の拒絶から生じる障害を回避するために、大審裁判所(tribunal de grande instance)450所長に対して急速審理(référé) 451の請求を申立てるという手段をとることができる。判例によれば、民事手続法典 808 条および 809 条に基づき、急速審理裁判官は、必要がある場合には罰金強制を付して、交渉の開始および文書の作成を命じることができる452とされる。
イ 刑事制裁453
L.2243-1 条および L.2243-2 条は、使用者が「L.2242-1 条、または L.2242-5 条、L.2242-8条、L.2242-9 条、L.2242-11 ないし 14 条、および L.2242-19 条所定の義務を履行しない」という事実に対して、刑事制裁を定めている。これにより、使用者は、義務的交渉事項について毎年の交渉の発意をしないとき、刑事罰を受ける可能性がある。また、前回の交渉から 12 ヶ月以内において代表的労働組合組織によって示された交渉要求について、使用者がこれを 8 日以内に他の労働組合組織に通知せず、あるいはこの要求から 15 日以内に当事者となる組合を交渉に呼び出さなかったときも、同様に刑事罰を受ける可能性がある。この場合に使用者が受ける制裁は、1 年間の拘禁刑および 3,750 ユーロの罰金とされる。
これに対し、使用者による交渉中または交渉終了時における不作為、または不正は、 L.2243-1 条および L.2243-2 条に基づいて刑事上の罪に問われることはない。例えば、交渉中において、使用者が徹底して否定的・消極的に振る舞うことは、L.2243-1 条および L.2243-2 条の罪を構成することはないとされる454。また、使用者が必要な情報提供をしないこと、交渉中に一方的決定を行うこと、あらゆる決定を拒否することについても、ひとたび交渉が開始されていれば、L.2243-1 条および L.2243-2 条に基づく罪に問われることはない455。ただし、このことは、団体交渉中に不当に振る舞う使用者が、団体交
448 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1423.
449 Soc. 28 nov. 2000, UAP, Bull. civ. V, n° 398.
450 民事事件に関する普通法上の裁判所。事件の性質または請求額を理由として明示的に他の裁判所に管轄権限が付与されている事件を除く、全ての事件を審理する。
451 民事事件における急速審理( référé civil)とは、いかなる実質的な争いも存しないか、または紛争の存在により裁判が正当化される場合にあって当事者が一定の条件に従い単独裁判官から迅速な裁判を得ることができる対審的手続を言う。急速審理裁判官は、差し迫った損害を予防し、または明らかに違法な侵害を停止するため、実質的な争いが存在する場合であっても、保全措置を許可し、または、原状回復を命じることができるとされる(参考:前掲注3・xxほか監訳 361 頁)。
452 Soc. 13 juill. 1988.
453 v. M. Puech, L’obligation, au regard du droit pénal, d’engager une négociation annuelle dans les entreprises, Dr. soc. 1984. 19.
454 Crim. 4 oct. 1989, D. 1989. IR 306.
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455 前述のとおり、労働者側としては、民事的な救済を受けることは可能である。
渉に関する刑事上の罪(L.2243-1 条および L.2243-2 条)に問われることがないということを示すにとどまる点に留意する必要がある。すなわち、これらの多くの場合においては、L.2146-1 条(企業内における団結権の行使の侵害)、および L.2146-2 条(組合差別)に基づいて刑事制裁が言い渡される余地があるものと解されている456。
6 経済的単位の移転の場合における企業別協約および協定の帰趨457
企業別協定は、原則として、当該協定が締結された企業において、その適用範囲に関する規定が定める領域に適用される。もっとも、企業別協定が適用されている状況において、事業譲渡その他により使用者の変更が生じる場合がある。このような場合に、企業別協定の適用関係がいかなることになるか、その概要について述べる458。
(1) 沿革
企業別協定の適用範囲については、原則として労働協約に関する一般法の規則に服するとされる。フランスにおいては、労働協約および集団協定の規定は、当該協定に署名した労働組合組織が存在しようとしなかろうと、さらにいえば労働組合が存在しようとしなかろうと、締結された協約および協定が現に存在する限りにおいて、使用者に対して、これを当該企業(または事業所)の全ての労働者に享受させることを義務付けている459。したがって、産業別協約については、使用者に経営主体の変更が生じたとしても、協約の適用それ自体に影響が生じるのは、基本的にその事業内容そのものが(産業部門の枠を超えて)変更される場合に限定される。これに対し、企業別協定に関しては、経営主体の変更は、協定の適用関係に重要な影響をおよぼすことになる。
この点について、かつての判例は、事業譲渡(vente)の場合について、あるいは事業
の全部または一部の吸収合併(absorption)の場合について、使用者によって署名された集団協定は、後の、すなわち譲渡先の使用者を拘束しないとしていた。そしてとりわけ、営業財産の譲受人によって解雇された労働者は、以前の、すなわち譲渡人使用者によって署名された企業別協定に基づく利益を主張できないとしていた。事業譲渡時における労働契約の移転に関する規定である旧 L.122-12 条 2 項は、あくまでも個別労働契約に関する規定でしかなく、集団的な労働条件には適用されないと解されていたのである。
456 Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1424.
457 フランスにおける企業組織再編と労働関係をめぐる問題については、xxx一「フランスにおける企業移転と労働契約」日本労働法学会誌 94 巻(1999 年、法律文化社)95 頁以下、xxxx「EU における企業組織変動--欧州司法裁判所判決にみる経済的一体の発展」季刊労働法 222 号(2008 年、労働開発研究会)105 頁以下、同「フランス・EU 法における企業組織変動と労働契約の承継--経済的一体とは何か」日本労働法学会誌 108 号( 2006 年、法律文化社)169 頁、xxx「フランスの事業譲渡における労働関係規制--その現状と課題」世界の労働 60 巻 9 号( 2010 年、日本 ILO 協会)22 頁以下等を参照。
458 なお、本報告書第 1 章もあわせて参照のこと。
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459 Soc. 13 mai 1982, Bull. civ. V, n° 305 ; Soc. 25 avr. 2001, Bull. civ. V, n° 134.
そして、労働協約に基づく利益は、個別の労働契約に組み込まれていないとされていた460 ため、新たな使用者は労働条件を修正することができ、解雇の場合においては、事業譲 渡前の協定に含まれていた保護条項に拘束されることはないと解されていたのである461。そして、労働者が新たな使用者によって示された新たな労働条件を拒否した時、新たな 使用者は労働契約の解約を発意することができ、それは辞職とみなされていた462。しかし、1971 年 7 月 13 日の法律により、こうした判例による解釈は修正され、現在では以 下で述べるような規則が適用されている。
(2) 労働協約の暫定的維持463
L.2261-14 条によれば、合併(fusion)、会社分割(cession)、または事業活動の変更の場合においては、従業員に対して従前適用されていた協定は、新たな協定によって置き換えられるまで、または、予告期間の満了から起算して 1 年の間、暫定的にその効力が維持される。これらの旧協定は、新たな使用者が他の産業部門別協約に加入した場合であっても維持されると解されており、その場合には協約の競合(concours)の問題として処理されることとなる。すなわち判例は、「譲受人が属する産業部門別協約は、労働者に直ちに適用され、L.2261-14 条所定の条件において、当該事項において最も有利な協定上の規定が適用され続けることとなる」としている464。そして、この効力の維持は、 L.2261-14 条はその適用範囲をxxで述べてはいないが、あらゆる自律的経済単位
(entité économique autonome)の譲渡について適用されると解されている465。判例によれば、例えば、企業がある経済活動を下請け化する場合もその射程が及ぶとされている466。譲受人使用者は、この暫定期間中に、協約の規定を適合し、あるいは更新するための交渉を開始することが義務付けられている。
(3) 獲得された利益の確定的な維持
旧協約の暫定的適用期限が満了する前にいかなる新たな協約も締結されない場合、労
460 フランスにおいては、労働協約と労働契約の関係について、多くの議論を経ていわゆる化体説が否定されており、労働協約は規範的効力に基づきその適用範囲内における個別の労働契約を法規範的に規律するものと解されている。
461 Soc. 29 avr. 1965, D. 1966. 760.
462 Soc. 10 févr. 1965, D. 1966. 760 ; Soc. 21 juin 1967, Dr. soc. 1968. 177 ; Soc. 5 mars 1969, Dr. soc.
1969. 508.
463 v. J. Pélissier, Les restructurations d’entreprise et leurs effets sur l’emploi, RID comp. 1990. 160 et
s. ; F. Xxxxxxxx-Xxxx, Restructurations : le rôle de la négociation collective, Dr. soc. 2004. 279 ; A. Xxxxxxx, La négociation collective en cas de restructuration consecutive à un transfert, Dr. soc.
2004. 290 ; J.-M. Xxxxxxx, L’impact des transferts sur les normes collectives en vigueur dans
l’entreprise, Dr. soc. 2005. 743 ; Ph. Raymond, Fusion d’entreprise et fusion des statuts collectifs, Dr. soc. 2006. 303.
464 Soc. 10 févr. 2010, Dr. soc. 2010. 476.
465 Soc. 22 mai 2002, RJS 8-9/02, n° 1012.
107
-100-
466 Soc. 31 janv. 2001, Bull. civ. V, n° 31.
働者はこの旧協約の適用において獲得した個別的な利益を保持するとされる(L.2261-14条 2 項)。この 1 年の期限は、予告期間の満了時から起算されると解されている467ため、実質的に、新たな協定の交渉のための期間は 15 ヶ月となる。
L.2261-14 条 2 項に基づく、(法律による)獲得された個別の利益の維持の射程については、判例は厳格に解釈する傾向にある。これに対し、旧協約に置き換えられる新たな協定の中に、「獲得された利益を維持」する旨を定める一般条項を組み込む実務がしばしばみられ、こちらについてはその射程を広く解する傾向にあるとされる468。こうした条項がその維持を保証した利益は、それが旧使用者のもとでは慣行または使用者の一方的債務負担に基づくものであったとしても、協約としての性質を獲得することとなる469。
(4) 譲受人企業においてすでに存在する企業別協定との関係
以上に述べたように、フランス労働法典は、使用者の経営主体に変更が生じた場合について、新たな協定に関する交渉を実施し、もって旧協定に置き換えることを基本姿勢としていると思われる。しかし、譲受人企業においてすでに企業別協定が存在する場合においても、旧協定に置き換わる協定について交渉をしなければならないのか、それとも、譲受人企業においてすでに適用されている企業別協約が旧協約に置き換わればよいのかという問題がある。
この点について破毀院は、「(旧 L.132-8 条 3 項に基づく)協定の置き換えに当たって
は、それが旧協定の規定を新協定の規定に適合させるものであれ、必要に応じて新たな 規定を作成するものであれ、当該企業における交渉に由来するものでなければならない。」との判断を示している470471。また、旧協定の適用を受けていた労働者に対抗できる協定 となりうるのは、代表的労働組合との間で交渉された協定のみとされる472。
7 小括
108
-101-
フランスにおける企業別協定に関する法制度の特徴を考えるにあたっては、まずその歴史的経緯を押さえておく必要がある。すなわち、(程度の差はあれ、他の欧州諸国とも共通するが)フランスの労働協約システムにおいては、伝統的には、産業部門および職種別のレベルの交渉および協約が、その中心として存在してきた。そして、企業別交渉および企業別協定 に対しては、副次的な位置付けしか与えられてこなかった。
467 | Soc. 27 oct. 1998, RJX 00/00, xx 1520. |
468 | Xxxxxx Xxxxxx et Xxxxxxxx Xxxxès, op. cit., p.1425. |
469 | Soc. 10 juill. 2001, Bull. civ. V, n° 257. |
470 | Soc. 14 mai 1992, RJS 6/92, n° 768 ; Soc. 1 déc. 1993, D. 1994. 334 ; Soc. 31 janv. 1995, RJX 0/00, xx |
471 | 277. なお、これ以前には、譲受人企業においてすでに適用されている協定が置き換わるとの判断もみられた |
ようである( Soc. 16 mai 1990, RJS 7/90, n° 600 ; Soc. 9 oct. 1990, RJS 11/90, n° 903.) | |
472 | Soc. 9 oct. 2001, Dr. ouvrier 2002. 450. |
すなわち、第一に、1968 年以前においては、そもそも企業内に組合支部を設置することが認められておらず、この時代において企業レベルで存在した交渉および協定は、あくまでも従業員の代表との間での非典型協定としての位置付けにとどまった。第二に、フランスの労働協約システムの伝統である有利原則の存在により、企業別協定は、あくまでも法律および産業別協約によって定められた労働条件について、これを下回らない、すなわち、労働条件の上乗せをすることができるにとどまっていたのである。
1970 年代に入り、企業内組合支部の設置が可能となったものの、当初、企業内組合支部における活動は、労使対話としての団体交渉、またそれを通じた労使合意としての企業別協定の締結に至ることは多くなかった。
こうした状況を大きく変えたのが、1982 年のオルー法であり、このオルー法が、近年のフランスにおける企業レベルの交渉および協定の基礎をなしていると評価することができよう。
そのオルー法の内容は多岐にわたるが、企業別交渉および企業別協定と労働協約システムとの関係という視点から見た場合に、最も重要なことは、企業レベルでの義務的交渉事項を定めたことであろう。すなわち、オルー法が、実賃金および実労働時間について、毎年の交渉を義務付けたことが、その後の企業レベルにおける交渉の活性化に結びついたことは、ほとんど評価の一致したところである。このように、毎年の団体交渉の実施を義務付け、かつ交渉すべき事項を法律を通じて定めることによって、労使に対して交渉の実施を促すという手法を採用していることが、フランスにおける労働協約システムの大きな特徴の 1 つといえる。
109
-102-
フランスにおける企業別交渉および企業別協定に関する法制度について、もう 1 つの特徴は、交渉当事者の枠組みについて、企業内組合支部の代表である組合代表による交渉の他に、組合代表委員を欠く企業における交渉方法をさまざまに定めていることである。これは、伝統的に、フランスにおける労働組合の組織力が脆弱であり、加えて、上記のように、フランスにおいては企業内に組合支部を置くことが認められていなかったことから、企業レベルでの組織基盤を形成することが労働組合にとって困難であったという事情が影響している。すなわち、国が企業レベルでの労使交渉を促すにあたって、企業内の組合支部を主体とする交渉の実施を促すだけでなく、こうした組合による交渉の基盤を有さない企業において、いかにして労使の対話を促すかという方法を模索することを余儀なくされたのである。こうして、フランスにおいては、企業内における交渉にあっては、企業内組合支部が存在する企業については、組合支部の代表である組合代表委員を主体として、義務的交渉事項に関する交渉を促してきた。その一方で、こうした企業内組合支部を有さない企業に関する労使対話については、従業員代表者による交渉および協定の締結という代替手法、あるいは、企業の外のレベルでの対話の促進および規範設定の促進、具体的には、産業レベルでの団体交渉及び労働協約の拡張適用制度、
さらには地域レベルでの交渉制度を用いることによって、補完的に企業レベルでの労働条件の規範設定の実現を模索していると評価できよう。もっとも、こうした国の試みが、その目的の通りの成果を挙げているかはまた別の問題であり、この点については、次章において検討する。
第3節 企業別労働協約の実際473
1 沿革
フランスにおける労働協約システムの大きな特徴の 1 つとして、1936 年法に基づく労働協約の拡張適用制度が、システムにおいて大きな役割を果たしてきたという点があることは、これまでも述べてきたところである474。そして、このことは、企業レベルの交渉・協定という視点から見た場合には、フランスの労働組合には企業レベルでの労働組合組織および団体交渉等を通じて、自ら労働協約の影響を企業レベルにまで及ぼし、労働者をカバーするだけの能力がなかったことを示していると評価することができる。すなわち、フランスにおける集団的労働条件規範の決定システムにあっては、歴史的に共同決定がなされてきたドイツなどとは対照的に、労働組合運動の成果としてのみならず
(あるいはむしろ)、国家の支援によって産別協約が「職業の法」となるシステムが形成されてきたといえる。
こうした、集団的労働条件規範の決定システムにおける国家の関与という側面は、こうした労働協約法制の面だけではなく、団体交渉システムにおいても現れている。すなわち、フランスにおける団体交渉制度は、比較的歴史が浅く、1950 年代以降に形成されてきたと評価されているが、これは、第二次世界大戦後、国が主導する形で制度が形作られ、1950 年代以降の高度成長(黄金の 20 年)を背景に団体交渉システムが形作られてきたと評価されている。そして、この 1950 年~70 年代にかけては、あくまでも団体交渉の中心は産業別交渉であった。これに加えて、1968 年のxx革命の産物として、社会保障制度、具体的には年金金庫、医療保険、および失業保険の運営について、産業部門の枠組みを超えた全国職際交渉が 1970 年代以降発達・普及してきたのである。
これに対し、企業レベルにおいては、第二次大戦後の 1945 年 2 月 22 日のxxxxxx及び 1946 年 5 月 16 日の法律によって、従業員の選挙によってメンバーが選出される組織である企業委員会が創設されたものの、労働組合が企業に入り込むことはできず、
473 本節における主な記述は、xxx『現代先進諸国の労働協約システム-フランスの企業別協約』(労働政策研究報告書 No.178、2015 年)、xxx=xxxx=xxx『現代先進諸国の労働協約システム- まとめと論点』(労働政策研究報告書 No.184、2016 年)「第二章 フランス」(xxx執筆担当)の内容の一部に加筆修正を加えたものである。なお、加筆修正に際しては、Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016) のほか、2016 年 6 月に実施した現地ヒアリング調査で得られた知見によっている(調査先一覧は本文末尾に記載)。ご多忙の折、ヒアリングに応じていただいた皆様には篤くお礼申し上げたい。
110
-103-
474 1936 年法の成立に至る過程については、本稿第1章を参照。
1968 年に、企業内における組合支部の設置が可能となったのである。これによって、企業内における労働組合活動の基礎となる企業内組合支部と、従業員代表組織である企業委員会という、企業内における二元的な労使関係が形成されることとなった。そして、 1960 年代当時は、フランスにおいても労働組合の組織率は 20%を超えており、企業内で活発な活動を展開していたものの、こうした企業内組合支部の活動は、必ずしも団体交渉という形式を採用せず、一部の大企業を除いては、1970 年代までは、企業レベルの団体交渉はそれほどみられず、産業レベルの賃金交渉が、企業における職種・等級別賃金の決定に対する強い影響力を有していたようである。
なお、近年では、男女間における職業上の平等、あるいは従業員数 300 人以上の企業
に義務付けられている雇用能力予測管理(GPEC)等の事項が重要性を増していると評価されている。
このほか、フランスにおける企業内労使関係を形成するもう 1 つの機構である、企業委員会がその役割を拡大していったことも、重要な変化として指摘しておく必要があろう。すなわち、当初から認められていた福利厚生活動に加え、企業の経営に関する様々な事項について、情報提供を受け、また協議を行うという役割である475。
2 総論-フランスにおける近年の企業別交渉の概況
本項では、2015 年において企業レベルで作成され、地方労働局(DIRECCTE)に対して届出がなされた、企業別協定を中心とする各種の協定文書476に関する統計資料等477、
475 なお、企業委員会等の従業員代表組織と、企業内組合支部との関係性については、後述する。
111
-104-
476 労働組合(ないし従業員を代表する者)による団体交渉を経て署名された企業別協定( accord collectif)、
および現地におけるヒアリング調査で得られた知見をもとに、フランスにおける企業別交渉の近年における概況について整理する。
(1) 概況
まず、近年のフランスにおいて企業内組合支部の代表である組合代表委員、および(部門レベルの)労働組合組織によって署名権限者として任命された者(以下、本章においては両者をあわせて「組合代表委員等」と記す)が署名した企業別協定の件数の推移をみると、図2-2-1のようになる。
すなわち、2009 年以降についてみると、企業別協定の件数は、年間 35,000 件~40,000件前後でほぼ安定して推移している。
図 2-2-1 近年のフランスにおける企業別協定の件数の推移
45000
40000
35000
30000
25000
20000
2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2015年
次に、組合代表委員等により署名されたものに加え、各種の方法により定められた企業レベルでの各種協定文書全体についてみると、2015 年におけるその総数は 60,000 件を越えること、おおむね前年と比べて変化がないことがわかる(表2-2-2参照)。
更新協定(renouvellement d’accord)、付加文書( avenant)、および不合意の調書( procès-verbal)に加え、従業員の承認投票( référendum)によって承認された文書、および使用者による片務的決定。
112
-105-
477 主として、Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)に収録されているデータを参照した。
表 2-2-2 2015 年における企業レベルの協定文書数
(締結方式別)
2015 年478 | 前年比 | |
組合代表委員等479による署名 | 31,461 | +1% |
従業員を代表する者による署名 | 5,163 | -7% |
従業員による承認投票 | 11,322 | ±1% |
使用者による片務的決定480 | 13,223 | ±3% |
合計 | 61,169 | ±1% |
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)
企業レベルの協定文書を、その作成方式によって区分する(図2-2-3参照)と、約 6 割の協定文書が、使用者と組合代表委員等ないし従業員を代表する者との間の団体交渉の枠組みを通じて作成されている。そして、その約 8 割は、組合代表委員等の署名によって企業別協定が作成されていることになる。残りの 2 割は、企業委員会、従業員代表委員、または単一従業員代表の署名によっている。すなわち、企業レベルで集団的労働条件を決定する文書が作成され、行政に届け出がなされているもののうち、約半数が組合代表委員等との交渉を経て作成されており、かつその大半は組合代表委員によって署名されているものと理解できる。フランスにおいては、とりわけ企業レベルにおける団体交渉の基盤、その前提となる労働組合が脆弱であるという歴史的な問題を抱えている。そして、企業レベルでの交渉および協定の締結、とりわけ企業内組合支部が存在しない企業におけるそれを促進するために、一定の場合に、従業員代表委員あるいは産別労組に委任された労働者による協定の締結を可能とする立法がとられてきた。しかし、こうした従業員代表委員等の従業員代表組織による交渉および協定の締結はそれほどには普及しておらず、交渉・協定も少ないとの見解がヒアリング調査においても多く聞かれた。図2-2-3、表2-2-4が示すデータは、統計面からも、企業レベルにおける交渉は、企業内組合支部に大きく依存する現状であることが裏付けるものといえよう。加えて、ヒアリング調査においては、従業員代表委員によって署名される協定の多くは、賃金、労働時間等の基本的な労働条件を定めるものではなく、利益参加、企業内賃金貯蓄(épargne salariale)、企業年金積立(plan d’épargne pour la retraite collectif: PERCO)についてのものであるとの説明が聞かれた。これらの内容に関しては、従業員
478 数値は 2016 年 1 月 1 日時点での暫定値。
479 組合代表委員および労働組合組織に委任を受けた者。
113
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480 労働組合との交渉が妥結に至らなかった場合に、最終的に使用者が提示した案を基礎に、使用者が片務的決定として書面化することもあるが、通常は、労働組合等の交渉基盤が存在しない企業において、(産業別労働協約の規定を前提として)使用者が一方的に集団的労働条件について作成する形をとることが多い。
代表委員を欠く場合には従業員による承認投票によって決定されることとされている。以上のことから、従業員代表委員の署名による協定および従業員による承認投票による企業レベルの集団的労働条件規範の決定は、これらの特殊な手当等の決定に偏っており、実賃金、労働時間等の基本的労働条件の決定を担うには至っていないものと考えられる。
図 2-2-3 2015 年における企業レベルの協定文書の作成方式割合
不明
0%
使用者による
片務的決定
22%
よる承認投票 19%
組合代表委員
等による署名
51%
従業員代表に
よる署名
8%
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2012 (2013)
(2) 企業別交渉における交渉事項
2009 年から 2015 年にかけての、組合代表等が署名した企業別協定について481、交渉事項別に分類した表が以下の表2-2-4である。
114
-107-
481 前記のとおり、組合代表委員等が署名した企業別協定とは異なる、従業員を代表するものによる署名その他の方式による協定は、その内容が利益参加、企業内賃金貯蓄等の特殊な手当に関する協定に偏っている(Ministere du travail, op. cit., p.505.)ことから、ここでおこなう企業別協定に関する交渉事項の分析については、こうした偏りのない組合代表委員等が署名した企業別協定にしぼって検討を行うこととする。
表 2-2-4 組合代表が署名した企業別協定(交渉事項別)482
交渉事項 | 2015年 | 2012年 | 2011年 | 2010年 | 2009年 | |||||
協定の数 | 割合 | 協定の数 | 割合 | 協定の数 | 割合 | 協定の数 | 割合 | 協定の数 | 割合 | |
賃金・手当 | 11853 | 38% | 11408 | 36% | 14211 | 37% | 12068 | 34% | 11598 | 29% |
労働時間 | 7424 | 24% | 7112 | 23% | 9186 | 24% | 9011 | 25% | 9345 | 23% |
利益参加・賃金貯蓄 | 5886 | 19% | 5577 | 18% | 6607 | 17% | 7305 | 21% | 7140 | 18% |
職業上の平等 | 3788 | 12% | 5716 | 18% | 6334 | 16% | 3319 | 9% | 2637 | 7% |
雇用 | 3348 | 11% | 2921 | 9% | 3844 | 10% | 4876 | 14% | 9488 | 23% |
労働者の意見表明権 | 2806 | 9% | 2297 | 7% | 2987 | 8% | 3335 | 9% | 2811 | 7% |
相互扶助・補足健康保険・補足年金 | 2554 | 8% | 2506 | 8% | 3494 | 9% | 3115 | 9% | 3449 | 9% |
就労環境 | 833 | 3% | 1671 | 5% | 1502 | 4% | 689 | 2% | 517 | 1% |
職業教育 | 447 | 1% | 552 | 2% | 790 | 2% | 596 | 2% | 669 | 2% |
格付け | 416 | 1% | 483 | 2% | 618 | 2% | 661 | 2% | 620 | 2% |
合計 | 31449 | 31310 | 38935 | 35696 | 40496 |
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)
フランスにおいては、1982 年のオルー法以降、一定の事項について、企業レベルでの団体交渉が法律により義務付けられている。これを受け、企業レベルの労使においては、毎年の交渉が義務付けられている年次交渉事項、とりわけ賃金および労働時間についての交渉が、毎年の団体交渉の中心となっていることが分かる。
(3) 企業別交渉における労働組合の動向
使用者と組合代表委員との間で締結され、地方労働局に届け出られた協定には、当該企業に含まれる労働組合および署名した労働組合組織が記されている(当該企業に存在するものの、協定に署名しなかった労働組合組織については、組合組織名が記され、署名欄が空欄となっている)。こうした手続により、企業別協定に対する各組合の対応が分かる。
表 2-2-5 企業別協定に署名がなされている組合の比率
2015年 | 2012年 | 2011年 | 2010年 | 2009年 | 2008年 | 2007年 | 2006年 | |
CGT | 46% | 50% | 51% | 52% | 53% | 54% | 55% | 54% |
CFTC | 20% | 21% | 24% | 27% | 30% | 33% | 33% | 32% |
CFDT | 56% | 57% | 58% | 60% | 61% | 61% | 62% | 61% |
CFE-CGC | 32% | 32% | 34% | 36% | 35% | 38% | 39% | 38% |
CGT-FO | 34% | 36% | 38% | 41% | 43% | 44% | 44% | 44% |
その他の組合 | 18% | 16% | 16% | 16% | 17% | 17% | 16% | 16% |
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)
フランスにおいては、1966年に CGT、CFDT、CGT-FO、CGC(現 CFE-CGC)、 CFTC の 5 つの労働組合が、全国レベルにおいて(すべての労働者を代表する)代表的
115
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482 2015 年の協定の数は 2016 年 1 月 1 日時点での暫定値
な労働組合であることが法的に承認された483。そして、それ以降、これらのいわゆる五大労組がフランスの労使関係の中心を担ってきた。
そして、表2-2-5によれば、CGT および CFDT は、組合代表委員が署名した協定ないし付加文書の約半数について署名があることが分かる。これに対し、全国職際レベルでの代表性を有する他の労働組合をみると、CGT-FO および CFE-CGC は 30~40%、 CFTC は 2 割強の協定に署名があることが分かる。
署名率は、組合代表委員および組合支部の活動の活発さ、当該企業における労使関係政策ないし経営方針、労使関係の文脈によって決定される部分が大きい。しかし、当該企業における組合支部の設置の有無、および 2008 年法以降の重要な点として、代表性の有無を決することとなる直近の職場選挙の支持率も大きな影響を与えることとなる。すなわち、2008 年法以前は、当該企業内に組合支部を設置することができれば、表2-2
-5に挙げられているいわゆる五大労組は無条件に代表性を獲得し、当該企業における 団体交渉に参加し、協定に署名をすることが可能であった。しかし、2008 年法施行以降は、直近の職場選挙において 10%の支持を獲得できなければ代表性を喪失し、団体交渉への参加および協定への署名が不可能となる。そこで、当該企業に組合支部が存在する場合における企業別協定への署名率と、企業別協定に署名がなされている組合の比率を対照することで、当該組合の企業内における勢力をある程度推測することが可能である。そこで、表2-2-6をみると、いわゆる五大労組は、企業内に組合支部が存在する
場合においては、2008 年法の前後にかかわらず、協定に対して一貫して高い比率で署名をしていることが分かる。上位の交渉レベルにおいては戦闘的な立場をとることが圧倒的に多いと一般的に評価されている CGT についても、他の 4 労組に比べれば 10%前後低いとはいえ、8 割を超える高い協約署名率であることが分かる。
表 2-2-6 当該企業に組合支部がある場合における企業別協定への署名率
2015年 | 2012年 | 2011年 | 2010年 | 2009年 | 2008年 | 2007年 | 2006年 | |
CGT | 84% | 85% | 85% | 84% | 84% | 82% | 82% | 83% |
CFTC | 89% | 90% | 88% | 88% | 88% | 88% | 89% | 90% |
CFDT | 94% | 94% | 93% | 93% | 93% | 91% | 92% | 92% |
CFE-CGC | 92% | 92% | 91% | 91% | 91% | 90% | 91% | 92% |
CGT-FO | 90% | 90% | 90% | 88% | 88% | 87% | 87% | 87% |
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)
他方で、表2-2-5および表2-2-6を対照すると、以下のような傾向がみてとれる。すなわち、表2-2-6から、組合支部が存在する場合においては、五大労組のいずれもが 2008 年以前と同等かそれより若干高い署名率を示している。これに対し、協
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483 これらのフランスにおける労働組合運動の変遷については、前掲注3・労働政策研究・研修機構 11 頁以下等を参照。
定の総数に占める各組合の署名率は、五大労組のいずれもが 2008 年以前と比べて低下していることが分かる。このうち、CFDT については、2015 年は 2008 年と比べて 5 ポイントの減少と、若干の減少にとどまっている。これに対し、CGT は、企業内組合支部がある場合の署名率は変わっていないにも関わらず、署名に占める割合は 2008 年に比べて 8 ポイント減少し、50%を割っている。このことから、CFDT は、(各企業における支持率の高さそれ自体はともかくとして484)2008 年以降も各企業内において代表的労働組合としての基盤をおおよそ維持していることが推測される。これに対し、CGT は CFDT に次ぐ地位は確保しているものの、全体として退潮傾向にあることは否めないようである。そして、同様に大幅な減少がみてとれるのは CGT-FO および CFTC であり、CGT-FO は 2008 年と比べて 10 ポイントの減少、CFTC に至っては 12 ポイントの大幅減となっている。CGT-FO は、全国レベルの集計結果では 15.9%の支持を獲得したが、CFTC は 9.3%の支持にとどまった。これは、全国レベルでの代表性を確保するのに必要な 8%はクリアしているものの、企業レベルでの代表性の確保には 10%の支持の獲得が必要であり、このラインをクリアできずに代表性を喪失し、あるいは組合支部を失ったケースが生じていることが推測できる。
こうした傾向は、やや古いデータではあるが、図2-2-7からも確認できる485。すなわち、企業別協定が署名されている企業における組合支部の数の平均と、協定に署名した組合の数の平均の推移をみると、2008 年には 2.68 存在した企業内組合支部の数は、 2012 年には 2.29 まで減少しており、それに伴って、協定に署名した組合の数も 2.35 から 2.00 に減少している。
全国レベルの集計結果をみると、CFE-CGC は、9.4%の支持にとどまっており、CFTCと同程度である。しかし、協定全体に占める署名の割合について見た場合、全国レベルの集計結果では同等の支持率であった CFTC、あるいは CFE-CGC を上回る支持を獲得している CGT-FO が、前述のとおりの大幅減となっているのに対し、CFE-CGC は 6%の減少にとどまっている。その背景について、CFE-CGC はいわゆる管理職組合として独自のカテゴリーを享受しており、このことが組合代表委員および企業別協定への署名の権限を維持するに当たって、2008 年法による影響を緩和する方向に作用したものと解されている。すなわち、CFE-CGC は、企業内における代表性を獲得するに当たっては、その管理職組合としての特殊性から、管理職(cadre)、上級専門職・技師(ingénieur)、
(中級・下級)技術者(technicien)、および職長(agent de maitrise)の 10%の支持を獲得すれば足りる486とされ、他の労働組合組織とは異なり、全従業員の 10%の支持を獲
484 参考までに、2013 年 3 月 29 日に確定し、発表された全国レベルの集計結果によれば、CGT が 26.7%、 CFDT が 26%の支持率を獲得している。
485 Ministere du travail, La negociation collective の 2015 年版ではこれについてのデータが確認できなかったため、2012 年版を参照した。。
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486 なお、これらの地位にある労働者が、CFE-CGC とは異なる他の労働組合組織に加入する、あるいは選
得することが要求されていないことによると解されている。
図 2-2-7 企業内における組合支部の数および協定に署名した組合の数(平均)
2.7
2.6
2.5
2.4
2.3
2.2
2.1
2
1.9
企業内における組合支
部の数
企業別協定に署名した組合の数
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2012 (2013)
(4) 企業別交渉に関する産業別の状況
以上において、フランスにおける企業別交渉および企業別協定の締結についての状況を概観してきた。もっとも、企業別交渉および協定に関する状況は、産業部門の違いによって大きく異なることがヒアリング調査において明らかとなっている。
すなわち、現状において、企業レベルの労働組合との団体交渉を中心とする労使対話
(dialogue social en entreprise)については、以下の 4 つの類型に分類することができるという。その第一は、対話が活発であり、かつ労使の対立が激しい企業であり、全体の 1/4 がこれに当たるという。その典型は、労働組合の組織基盤が比較的強固であることが多い大企業・グループ企業であり、工業・製造業に多く見られるという。第二は、労使対話が殆ど行われていない企業であり、全体の 1/4 がこれに該当するという。こうしたケースは、その多くが労働組合の組織基盤が脆弱である、さらには労使対話の基盤がそもそも成立していない、という事情がその背景に存在している場合が多い。結果、労使対話が殆ど行われていない一方、労使間の(主として集団的な)紛争および対立も生じていないようである。このような企業は、小規模・零細企業が多いサービス産業、とりわけ小売業・宿泊業・飲食業・理容業に多くみられるようである。第三は、第一の類型と第二の類型の中間に位置付けられる企業であり、これも全体のおおよそ 1/4 を占
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挙で支持を表明することも可能である。
めるという。また、第四の類型として、近年見られるようになってきているのが、対話が活発でありながら、他方で労使間の対立が少ない企業である。これらの企業においては、とりわけ職業訓練に関する労使対話が活発であるという傾向あり、かつ上部団体(産別組織)からの自律の程度が高いという傾向があるという。
以上のような状況は、産業部門別に見た企業別協定の数を、当該産業部門における労働者数と比較した場合に、これを推測できる状況がみてとれる。すなわち、表2-2-
8によれば、工業部門においては、労働者数は 18.2%を占めるのに対し、企業別協定の数は 38.3%を占めている。他方で、サービス産業は労働者数では 73.9%を占めているにもかかわらず、協定の数としては 57.2%にとどまっている。このことは、製造業においては労使対話が比較的活発であるのに対し、サービス産業、とりわけ卸売・小売、宿泊業において労使対話があまり活発に行われていないことが推測できる。
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表 2-2-8 産業部門別企業別協定の件数
産業部門 | 企業別協定数(2012年) | 割合 | 労働者数(千人) | 割合 | |||||
工業 | 11881 | 38.3% | 3267.6 | 18.2% | |||||
(内訳) | (内訳) | (内訳) | (内訳) | (内訳) | |||||
採掘・精製・エネルギー | 1070 | 3.5% | 377 | 2.1% | |||||
食品製造・飲料・タバコ | 1682 | 5.4% | 547 | 3.0% | |||||
電機・機械製造 | 2056 | 6.6% | 450.7 | 2.5% | |||||
輸送機械製造 | 934 | 3.0% | 368.6 | 2.0% | |||||
繊維・衣料・革製品 | 409 | 1.3% | 113.7 | 0.6% | |||||
木材・製紙・印刷 | 745 | 2.4% | 208.3 | 1.2% | |||||
化学 | 848 | 2.7% | 141.6 | 0.8% | |||||
薬品製造 | 448 | 1.4% | 82 | 0.5% | |||||
ゴム・プラスチック・非金属 | 1430 | 4.6% | 292 | 1.6% | |||||
金属産業 | 1533 | 4.9% | 400.6 | 2.2% | |||||
その他 | 726 | 2.3% | 286.1 | 1.6% | |||||
建設業 | 1390 | 4.5% | 1435 | 8.0% | |||||
サービス産業 | 17738 | 57.2% | 13290.4 | 73.9% | |||||
(内訳) | (内訳) | (内訳) | (内訳) | (内訳) | |||||
卸売・小売 | 3228 | 10.4% | 3028 | 16.8% | |||||
運輸・倉庫 | 3100 | 10.0% | 1352.1 | 7.5% | |||||
宿泊業 | 528 | 1.7% | 969.9 | 5.4% | |||||
情報通信 | 975 | 3.1% | 705.9 | 3.9% | |||||
金融・保険 | 1913 | 6.2% | 839.9 | 4.7% | |||||
不動産 | 749 | 2.4% | 235.6 | 1.3% | |||||
科学技術・行政・支援 | 3082 | 9.9% | 2927.2 | 16.3% | |||||
公共・教育・健康・福祉 | 3196 | 10.3% | 1933.2 | 10.7% | |||||
その他 | 967 | 3.1% | 1298.6 | 7.2% | |||||
合計 | 31009 | 100.0% | 17993 | 100.0% |
出典:Ministere du travail, La negociation collective en 2015 (2016)
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