「もの」とは,精神活動の結果として生み出されたもの或いは作り出されたものを意味しており,例えば,ストーリーが書かれている原稿や書物といった有体物それ自体,或い は歌詞やメロディーが録音されている CD やメモリといった有体物それ自体を指すものではないとされる。
x,xx xx
xx
会員
講演契約及びその留意点
特集《著作権》
1.はじめに
講演は言語の著作物とされる(著作xx第 10 条第 1項第1 号)。
この条文上,「講演」とは,もっぱら講演者による口演或いは口述(文書ではなく口で述べること)を指し,無形的なものと理解される。本解説においては,「講演」を無形的なものとし,講演で使用又は配布される資料は有形的な「講演資料」として「講演」とは区別する。
著作xx第 10 条第 1 項第 1 号には,著作物のうち,言語の著作物(言語体系によって表現される著作物)が例示されている。言語の著作物とは,言語もしくはそれに類する表現手段(記号,暗号,点字,手話等)により思想・感情が表現された著作物である(例えば,xxxx著『著作xx』)。
言語の著作物には,文書として有形的に作成されるものの他,口頭による無形的なものも含まれる。前者としては,小説,脚本,論文が例示されており,講演は,後者の例である。
著作xxにおける思想又は感情を創作的に表現した
「もの」とは,精神活動の結果として生み出されたもの或いは作り出されたものを意味しており,例えば,ストーリーが書かれている原稿や書物といった有体物それ自体,或いは歌詞やメロディーが録音されている CD やメモリといった有体物それ自体を指すものではないとされる。
思想又は感情が著作物として保護されるためには,それらは必ずしも紙やディスクといった媒体に固定される必要はないが「表現」される必要はある。思想又は感情は,媒体に固定されなくとも,それが人の意識の中から外部にxxされた段階で,著作物となり得る。
講演(口演或いは口述)は,講演者の思想又は感情が「表現」されたものであるから,その口演或いは口
述が,思想又は感情が「表現」されたもの(即ち著作物)として保護されることになる。
2.契約マインド
近年,日本における商取引においても契約重視の傾向が徐々に浸透してきている。
その傾向は今後も一層高まると考えられる。認識や常識が必ずしも一致しない相手との間で双方の約束を明確化し,その約束を遵守する指針となる契約は非常に重要である。
しかし,我が国ではまだまだ契約に関する認識(契約マインド)が浸透していない場面も見受けられるように思う。会員各位においては,例えば講演の場面において契約書を交わすことはあるだろうか。前述したように講演は言語の著作物であり,その著作権及び著作者人格権は講演者に原始的に帰属するが(著作xx第 2 条第 1 項第 2 号,同第 17 条),権利の帰属について講演者及び講演会主催者の間で共通認識を持ち,権利譲渡や利用許諾等についても予め明確にしておくことが求められよう。
以下に留意点とともに解説する本講演契約書例は,どのような場面においても利用し得る,という万能な例では無いものの,参考とされて多くの場面で活用され,ひいては会員各位の契約マインドの向上に資することができれば幸いである。以下の講演契約書例は,講演者(甲)の立場から,その講演者(甲)が講演会主催者(乙)と契約を締結することを想定したものである。
講演契約書
(以下「甲」)と
は,以下の通り契約を締結する。
(以下「乙」)
第 1 条(主旨)
xは,乙の依頼により,乙が主催する次条に規定
の講演会において講師を務め,これを誠実に遂行することを約束する。乙は,これに対し甲に報酬を支払うことを約束する。
別途契約を交わすことが望ましい。
なお,止む終えない事情等により講演会の日時や場所を変更せざるを得ない場合の取扱いについては,別途規定しておくのが望ましい。
第 3 条(定義)
(1)講演の著作物とは,講演者の口演や口述であって講演者の思想又は感情が表現されたものを言う。
(2)講演資料とは,講演に付随して使用又は配布され,講演内容の情報が固定された有体物を言う。
重要度☆☆☆
本条は,契約の本旨となる規定である。具体的には,本件契約が講演契約に係るものであり,講演会の講師を甲,講演会の主催者を乙として本件契約が締結されることを規定するものである。
本条においては,当事者の果たすべき責務を明確にしておくことが求められる。その責務は,本件契約の前提となるものだからである。上記の例においては,甲,乙双方の責務が規定されている。
第 2 条(講演の内容)
(1)日時:20 年 月 日
(2)場所:
(3)講演会等の名称:
(4)テーマ:
甲については,「誠実に講師を務める」ことが責務として明確にされている。乙については,「甲に対し対価(報酬)を支払うこと」が責務として明確にされている。なお,対価(報酬)の具体的な額については後述の第 7 条にて規定している。
重要度☆☆☆
本条は,用語の定義規定である。
一般的に講演の概念は,講演者による口演或いは口述であり,講演における配布資料等は含まれないと考えられる。
講演や講演資料の著作物の定義や範囲が不明確であると,後に規定される著作物の利用許諾に係る規定においても範囲が不明確となってしまう。つまり,著作物のどの範囲まで利用許諾されるのかが不明確となり得るため,本条は利用許諾の規定とセットで考えるべき重要な規定である。なお,条項中,「固定」とは,記録,記憶,印字,印刷といったような趣旨である。
第 4 条(利用の許諾)
xは,xxx乙の指定した者が次に掲げる方法で講演の著作物を利用することを許諾する。
(1)講演の録音
(2)講演を文章化すること又は講演要旨を作成すること
2 甲は,乙又は乙の指定した者が次に掲げる方法で講演資料を利用することを許諾する。
(1)複製,頒布,貸与
(2)講演資料に基づき講演要旨を作成すること
重要度☆☆
本条は,本件契約の前提となる講演会を特定する規定であって,双方の責務が及ぶ範囲を特定する規定である。
ここでは,条項中にあるように,日時,場所を明確にするのはもちろんのこと,少なくとも講演会の名称を明確にすることによって,講演会を特定することが求められよう。講演会の名称が未決定であるというような事情があれば,例えば講演会のテーマ等を少なくとも明確にすることが考えられる。
講演会が複数回にわたるものであれば,各回について,日時,場所,講演会の名称,などを明確にすべきことに注意する。双方の責務がどこまで及ぶのかを明確にするためである。次回以降の講演会の日時,場所,名称等が未決定であれば,明らかになった時点で
重要度☆☆☆
本条は,著作物の利用許諾に係る規定である。
著作権の対象となる講演は無体物たる情報であっ
て,情報の無体性という特殊性から言えば,著作権の実体は禁止権である。禁止権は,第三者の使用(利用)を排除し得る権利である。
利用許諾の実体は,その禁止を解除することであり,利用行為に対し,差止請求,損害賠償請求,不当利得返還請求,刑事告訴等の責任訴追をしないことである。
契約の範囲外の利用行為は,勿論甲の著作権の権利侵害となり,その契約の範囲外の利用行為に対しては,甲は,差止請求,損害賠償請求が可能である(著作xx 112 条,民法 709 条)。
第 4 条(著作権の譲渡)
甲は乙に対し,本著作物に関する全ての著作権
(著作xx第 27 条,同第 28 条に定める権利を含む)を譲渡する。
なお,甲が乙に対し著作権の全てを譲渡する場合には,上記の(利用の許諾)の規定に代えて以下のような規定を設けることができる。
る。
第 6 条(氏名の表示)
乙は,xxx乙の指定した者が,第 4 条の規定に基づき講演の著作物又は講演資料を利用する場合には,合理的と認められる方法により甲の氏名を表示しなければならない。
重要度☆☆
本条は,甲に帰属する著作者人格権のうち氏名表示権(著作xx第 19 条)を担保する規定である。
第 7 条(対価)
乙は,甲に対し,第 2 条に掲げる講演会の講師料として,及び第 4 条に掲げる著作物の利用許諾の対価として,合わThて 円(消費税込)を,
20 年 月 日までに下記口座に銀行振込みにて支払う。
銀行・支店名 口座番号 名義人
具体的には,「著作者は,著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際し,その実名若しくは変名を著作者名として表示する権利を有する。」(著作xx第 19 条)という規定を担保するものである。
譲渡には,全部譲渡と一部譲渡とがあるが,上記規定は全部譲渡の趣旨である。甲から乙に著作権を全部譲渡した場合,乙は,講演に係る著作権を専有する。そして,xは,著作権を乙に全部譲渡すると,自身 で作成した講演資料等も利用できなくなる(利用すると乙の著作権の権利侵害となる)ので留意が必要であ
第 5 条(確認の機会)
乙は,x又は乙の指定した者が,前条の規定に基づき講演の著作物又は講演資料を利用しようとするときには,予め甲に対して内容確認の機会を与えなければならない。
る。
重要度☆
本条は,具体的な対価の額,及び支払い条件に関する規定である。
第 8 条(保証)
甲は乙に対し,講演の内容が第三者の著作権,著作者人格権,意匠権,商標権その他の権利を侵害しないものであることを保証する。
重要度☆☆
本条は,甲に帰属する著作者人格権のうち同一性保持権(著作xx第 20 条)を担保する規定である。
具体的には,「著作者は,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けないものとする。」
(著作xx第 20 条)という規定を担保するものであ
重要度☆
本条は,講演内容が他の権利を侵害しないことを,講演者であるxが保証することを規定したものである。
近年,講演会の主催者側としては,このような規定を設けておくことを求める場合が多いように見受けられる。講演者としても,臆することなく積極的に盛り込むようにすることが好印象な姿勢であると考えられる。
実際問題として,講演については,講演者自身の言葉で説明が展開される限り第三者の著作権侵害に該当するような場面はほとんどないであろう。ただし,講演資料については,例えば第三者の作成資料を引用するような場合には,引用元を明記するなどの留意が必要である(著作xx第 32 条)。
重要度☆
本条は,本契約書に定めのない事項が生じた場合の対応について確認的に記載したものである。
参考文献
xxxx著『著作xx』(有斐閣 2007 年)
xxxxx『著作xx 基礎と応用』(発明協会 2005年),『著作xx講座』(社団法人著作権情報センター
(CRIC) 2003 年)
xxxx著『著作xx逐条講義』(社団法人著作権情報センター(CRIC) 平成 13 年)
xxxxx,xxxxx『著作権ビジネス最前線』(中央経済社 平成 12 年)
『「著作権」に係る「契約業務」の基礎知識』(日本弁理士会 平成 14 年)
第 9 条(協議)
本契約に定めのない事項,又は本契約について甲乙解釈を異にした事項については双方誠意を持って友好的に協議して解決するものとする。
(原稿受領 2010. 6. 18)