③構成員課税…組合には課税せず、組合員に直接課税する仕組みをいう。これにより、LLPで利益が出たときには、LLPに法人税課税等は課税されず、組合員への利益配分 に直接課税されることとなる。LLPで損失が出たときは、出資の価格を基礎として定められる一定額の範囲内で、組合員の他の所得と損益通算することができる。
■特
集
LLP(有限責任事業組合)の概要について
― 事業に適した組織形態の選択のために ―
民法上の組合の特例として施行された「有限責任事業組合契約に関する法律」に基づく有限責任事業組合(L LP)の設立が、平成17年8月の制度施行後順調に増加しており、経済産業省経済産業政策局の発表によれば設立件数は、平成17年12月末で約300件、18年12月末で約1600件となっている。組合員の組み合わせとしては、「個人と個人」の連携が約1080件で65%を占め、次いで「個人と法人」が約370件で22%「法人と法人」が約200件で13%である。全国中央会が実施した調査では平成18年4月~ 10月の7ヶ月で289件の相談があり、そのうち31件が設立に成功している。千葉県内では昨年12月末で44件のLLPが登記されている。以下、LLPについて概要を紹介する。
1.制度の概要
(1)制度の特徴 LLP(法律上の名称は「有限責任事業組合」であるがLimited Liability Partnershipの略称で以下LLP)は、個人又は法人が共同して事業を行う新たな連携組織体であり、以下3つの特徴をもっている。
①有限責任…出資者が、出資額の範囲までしか事業上の責任を負わないこととする制度である。これにより、組合員の事業上のリスクが限定され、事業に取り組みやすくなる。
②内部自治…組織の内部ルール(利益や権限の配分運営)が、法律によって詳細に決められているのではなく、組合員同士の合意により決定できることである。具体的には2つあり、(イ)出資比率によらず、損益の配分が柔軟にできること、(ロ)代表者、取締役などの機関の設置が強制されず組合員の間で柔軟に決めることができること、である。これにより、重要な組合員のインセンティブを高めることができ、事業ニーズに応じた柔軟な組織運営が可能となる。
③構成員課税…組合には課税せず、組合員に直接課税する仕組みをいう。これにより、LLPで利益が出たときには、LLPに法人税課税等は課税されず、組合員への利益配分に直接課税されることとなる。LLPで損失が出たときは、出資の価格を基礎として定められる一定額の範囲内で、組合員の他の所得と損益通算することができる。
(2)メリットとディメリット
○メリット
①組合員全員の有限責任
②組合運営の内部自治の徹底
③構成員課税の適用
④登記による公示
⑤安価、簡易に短時間で設立
○ディメリット
①法人格がない
②資金調達が困難
③業務執行の決定は総組合員の同意が原則
④不動産登記等財産帰属は組合員連名
⑤制度創設が間もないため認知度、信頼度が低い
(3)LLPと他の組織の制度比較
LLP | (協) | (株) | |
根拠法 | A | B | C |
法人格の有無 | × | ○ | ○ |
出資者の有限責任 | ○ | ○ | ○ |
所有と経営の分離 | × | × | ○ |
内部自治 | ○ | × | × |
構成員課税 | ○ | × | × |
決算公告 | × | × | ○ |
A…有限責任事業組合契約に関する法律 B…中小企業等協同組合法
C…会社法
2.LLPの設立の手続き
設立に際して、行政庁による認可、公証人による認証などの手続きは必要ない。登記の際の登録免許税が6万円、登録申請書類の審査は1週間程度であり、LLPは、設立する際に要する費用と時間が最も少ない連携組織と言える。
①LLPの組織概要の確認
名称・事業目的を決定する。
①現在は、同一市区町村内でも、所在地さえ異なれば類似商号で同一目的の登記が可能となったが、有名企業、有名ブランド等を名称にするのは、不正競争防止法等で問題となる可能性がある。事業活動上支障となることが予想される場合、法律上問題はなくても、類似商号は避けるべきである。
②LLP印鑑作成、組合員個人印鑑証明書(法人の場合は、登記事項証明書、法人の印鑑証明書、職務執行者個人の印鑑証明書)の準備
②目的文言の事前確認をする。原則、誰もが理解できる言葉や言い回しでないと認められない場合がある。法務局で事前に目的文言の適否を相談しておけば、登記申請をスムーズに完了できる。
2007.10
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■特 集
組合名称が決まり次第、LLP印鑑の作成を注文する。併せて印鑑証明書等を準備しておくこと。法人の場合、法人が登記されている法務局に登記申請する場合は、登記事項証明書と法人印鑑証明書の添付は不要となる。
(法人の職務執行者の個人印鑑証明書は必要)
④組合員の氏名又は名称(法人の場合)及び住所⑤契約効力発生日⑥存続期間⑦組合員が法人の場合の職務執行者⑧組合契約で特に解散事由を定めた場合はその理由
③LLP契約書の作成
次の絶対的記載事項をチェックする。
①組合事業(変更には必ず総組合員の同意)
②組合名称(変更には必ず総組合員の同意)
③事務所所在地
④組合員の住所・氏名(法人は所在地・名称)(変更には必ず総組合員の同意)
⑤契約効力発生日
⑥契約存続期間(LLPは有期契約である。変更には必ず総組合員の同意)
⑦出資額と出資目的(出資金の全額振込みの確認を判断する。変更には必ず総組合員の同意)
⑧事業年度(財務諸表の作成は事業年度経過後2 ヶ月と法定されている)
この他、相対的記載事項及び任意的記載事項などを契約書に記載。LLP設立には契約書を作成し、毎事業年度毎に貸借対照表、損益計算書及びその付属明細書の作成が義務付けられている。
④便宜上の代表者を決定
LLP印鑑証明書に名前が記載される。
出資金を振り込む代表の個人口座を開設する。
便宜上であっても、事業のリーダー的な存在の組合員が望ましい。
⑤出資金の全額の払込み
契約に記載した出資金を全額払い込むこと。組合員各個人名義で、各個人別々に代表者個人の口座に出資金を払い込む。出資の履行は、全額払い込むことが LLP契約の効力発生要件である。出資金が1円以上あればいくらでも可能であるが、LLPの設立には2以上必要なので、最低出資金は2円となる。現金だけでなく、貸借対照表に計上可能である動産、不動産、有価証券、知的財産xxの現物出資も可能。
⑥出資金払込み証明書の作成
銀行の通帳をコピーする。通帳の見開き1ページ目と各組合員からの振込み金額が記載されているページのコピーをとる。
⑦契約書の登記申請
事務所の所在地を管轄する法務局(支局、出張所)に登記申請をする。登録免許税は、6万円。
(登記簿記載事項)①事業②名称③事務所の所在地
⑧登記完了
補正日までに署名不備の連絡がなければ完了(平均1週間程度で完了する)。完了後は各官公署に次の届出を行う。 1.給与支払い事務所等の開設届出書…税務署 2.源泉所得税の納期の特例の承認に関する届出書…税務署 3.保険関係成立届(労災・雇用保険)…労働基準監督署 4.適用事業所設置届(雇用保険)…公共職業安定所 5.社会保険新規適用届…社会保険事務所
3.LLPの運営
①業務執行の決定…LLPの業務執行に関する意思決定は、組合事業の健全性及び債権者の保護の観点から、原則として総組合員の全員一致で行わなければならない。
②業務の執行…LLPの組合員は、全員が業務を執行する権利と義務を負う。組合員は善良なる管理者の注意をもって自己の職務を遂行する義務を負っており、何らかの形で、業務執行を行わなければならない。
③契約の主体…LLPは、組合員の肩書き名前で契約し、その効果は当該組合員のみでなくすべての組合員に及ぶ。業務委託契約、売買契約、雇用契約、ライセンス契約等は、下記のような組合員である旨の肩書き付き名義で締結される。
有限責任事業組合中小企業連携支援センター組合員 A
④財産の管理…LLPは法人格がなく財産は総組合員の共有とされる。LLPでの財産の所有形態は、組合員すべての「合有」(持分権はあるが、持分の処分は制約され、目的物の分割を請求することが出来ない)財産として、不動産、動産、知的財産を所有する。
⑤加入脱退…LLPの加入及び脱退は制限されている。新規に組合員が加入することは、他の組合員の利害に大きく影響するので、組合員の全員一致による決定と組合契約の変更を必要とする。
⑥計算規定…貸借対照表、損益計算書及びその付属明細書の作成が毎事業年度ごとに、義務づけられている。
⑦損益分配…LLPは出資比率に応じない柔軟な損益分配が可能である。例えば、技術、知識、ノウハウなどによる組合員の組合事業への貢献を勘案して分配を決定することができる。これにより、組合員のインセンティブが高まり、人的な資産を活かしやすい組織とすることが期待できる。
⑧解散・清算…LLPの解散は、LLP法上の解散事由及び契約書に記載された解散事由の発生により解散する。LLPは、法人格を持たないため、法人格のある株式会社などの会社形態への組織変更はできない。
Chiba Federation of small Businessssociations 4