Contract
第4章 特定継続的役務提供
(定義)
第 41 条 この章及び第 58 条の 22 第1項第1号において「特定継続的役務提供」とは、次に掲げるものをいう。
一 役務提供事業者が、特定継続的役務をそれぞれの特定継続的役務ごとに政令で定める期間を超える期間にわたり提供することを約し、相手方がこれに応じて政令で定める金額を超える金銭を支払うことを約する契約(以下この章において「特定継続的役務提供契約」という。)を締結して行う特定継続的役務の提供
二 販売業者が、特定継続的役務の提供(前号の政令で定める期間を超える期間にわたり提供するものに限る。)を受ける権利を同号の政令で定める金額を超える金銭を受け取つて販売する契約(以下この章において「特定権利販売契約」という。)を締結して行う特定継続的役務の提供を受ける権利の販売
2 この章並びに第 58 条の 22 第1項第1号及び第 67 条第1項において「特定継続的役務」とは、国民の日常生活に係る取引において有償で継続的に提供される役務であつて、次の各号のいずれにも該当するものとして、政令で定めるものをいう。
一 役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもつて誘引が行われるもの
二 役務の性質上、前号に規定する目的が実現するかどうかが確実でないもの
趣 旨
第4章では、特定継続的役務提供に係る規定を設けているが、本条は、その前提としての定義規定である。
解 説
1 第1項は「特定継続的役務提供」の定義規定である。
本法では、第1号の特定継続的役務(第2項で定義されているもの)の提供と、第2号の特定継続的役務の提供を受ける権利の販売を「特定継続的役務提供」と定めている。第1号は、①役務提供事業者が、②特定継続的役務を、③それぞれの特定継続的役務ごとに政令で定める期間を超える期間にわたり提供することを約し、④相手方(消費者)が政令で定める金額を超える金銭の支払いを約する契約(「特定継続的役務提供契約」)を締結して行う特定継続的役務の提供であり、第2号は、①販売業者が、②特定継続的役務の提供(第1号の③の期間の要件を満たすものに限る。)を受ける権利を、③第1号の④の金額の要件を満たして販売する契約(「特定権利販売契約」)を締結して行う特定継続的役務の提供を受ける権利の販売である。
「特定継続的役務提供」に該当するかの判断は必ずしも個々の役務(コース)の契約締結という外形的な要素のみで判断されるのではなく、実態を踏まえて判断される。例
えば、当該役務(コース)の契約延長を当初から当然に予定していた場合や、延長前と延長後の契約が実質的には一体であると判断される場合には、延長前後の契約を一体としてみて政令で定める期間及び金額の要件に該当する場合に当初の契約の時点で規制対象となる。
一方、例えば、コース契約を締結せずにその都度役務提供を行う場合について、役務提供の継続について消費者が自由に選択することが可能である場合には、「特定継続的役務提供」に該当しない範囲での契約を繰り返しているものと判断される。なお、例えば、
「次は○○(2か月超)後に来てください」と告げ、消費者に予約させる場合、一般的には役務提供計画や役務提供を行う事務所の運営その他の観点から、仮に消費者が次回の役務提供を受けることを選択した場合に適当と考えられる時期について情報提供を行うという趣旨が明確であれば、このように告げる行為があったこと自体をもって、直ちに実質的に消費者の選択の自由を妨げていることにはならない。
また、当初政令で定める期間又は金額を満たさない契約の内容が変更された場合、基本的には新たに契約が締結された場合と同様に考えて、変更後の契約内容が政令で定める期間及び金額の要件該当する場合には、契約変更の時点で、書面交付義務(法第 42 条
の解説を参照)が生じるほか、クーリング・オフ(法第 48 条の解説を参照)又は中途解
約(法第 49 条の解説を参照)ができることとなる。ただし、変更後の契約内容のみを見た場合に政令で定める期間及び金額の要件に該当しない場合であっても、当初の契約と実質的に一体と評価される場合には、全体として政令で定める期間及び金額の要件に該当すれば、上述のとおり、規制対象となる。
なお、「特定継続的役務提供」には、いわゆる店舗外で契約が締結されたもののみならず、店舗で契約されたものも対象となる。
(1) 「役務提供事業者」について
法第2条第1項から第3項までと同様、役務の提供を業として行う者の意味であり、
「業として営む」とは、営利の意思をもって、反復継続して取引を行うことをいう。なお、営利の意思の有無についてはその者の意思にかかわらず客観的に判断されることとなる。(例えば、学校教育法第1条に規定する学校、同法第 124 条に規定する専修
学校、同法第 134 条第1項に規定する各種学校、私立学校法第3条に規定する学校法
人、同法第 64 条第4項の法人又は宗教法人法第4条第2項に規定する宗教法人が行う
特定継続的役務の提供又は特定継続的役務を受ける権利の販売、及び社会教育法第 50
条に規定する通信教育のうち同法第 51 条の認定を受けたものは、営利の意思をもって行われるものではないと解される。)
(2) 「特定継続的役務」について後述2を参照。
(3) 「特定継続的役務ごとに政令で定める期間」及び「政令で定める金額」についてこの期間及び金額については政令第 11 条において以下の通り規定されている。
特 定 継 続 的 役 務 | 期 間 | 金 額 |
いわゆるエステティック | 1月を超えるもの | いずれも5万円を超えるもの |
いわゆる美容医療 | 1月を超えるもの | |
いわゆる語学教室 | 2月を超えるもの | |
いわゆる家庭教師 | 2月を超えるもの | |
いわゆる学習塾 | 2月を超えるもの | |
いわゆるパソコン教室 | 2月を超えるもの | |
いわゆる結婚相手紹介サービス | 2月を超えるもの |
(注)役務の提供がファクシミリや電話、インターネット、郵便等を用いて行われる場合も広く含まれる。
期間については、法第 42 条第2項第4号又は第3項第4号に掲げる交付書面の記載事項である役務の提供期間を指す。当該期間は、①始期と終期(例:「役務の提供期間は○月○日から○月○日までとする。」)又は②具体的な期間(例:「○月○日(特に定めのない場合には契約締結の日)から○カ月間(○日間)」をもって定められることとなるが、①の場合には当該始期と終期を暦に照らし、当該政令で定める期間を超えているかを判断し、②の場合には当該期間の始期と終期を実際の暦に当てはめて、当該政令で定める期間を超えているかを判断するものとする。具体的には、エステティックの契約で「1月1日から1月 31 日まで」又は「1月1日から 31 日間」は政令で定める期間(エステティックの場合は1月)を超えないが、「4月1日から5月1日まで」又は「4月1日から 31 日間」は政令で定める期間を超えることになる。(いずれも初日算入の場合。)
チケットや回数券等であって有効期限が示されているものは当該有効期限をもって役務の提供期間とし、有効期限の定めのないもの(無期限に有効なもの)については特段の事情のない限り常に政令で定める期間を超えるものとして扱う。
また、例えば、契約において一定の期間は無料で役務提供することとしているような場合には、消費者はこの無料役務提供期間も含めて役務提供を受ける権利を有していることとなる。したがって、政令で定める期間を超えているか否かについては、当該無料提供の期間も含めて判断することになる。
なお、小規模学習塾に多く見られるような契約形態としてあらかじめ期間を定めて契約するのではなく、月謝払いで役務提供し、解約も自由にできるというような場合は、月ごとに契約が更新されていると考えられ、基本的には役務提供期間は政令で定める期間(学習塾においては2か月)を超えていないと評価されるが、契約の実態によっては該当する場合もある。例えば、契約の実態が役務の提供を誘引とした教材販売の場合などは、支払形態が月払いであっても、実質的に拘束される役務提供期間が
2か月を超える期間にわたると評価される場合がある。
金額については、法第 42 条第2項第2号又は第3項第2号に掲げる交付書面の記載事項である「役務の提供を受ける者(又は特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者)が支払わなければならない金銭の額」を指す。これには、狭義の役務の対価に限らず、入学金、入会金、施設利用料等も含めた役務の対価のほか、役務の提供に際し購入しなければならない商品がある場合には当該商品の対価も含めた額をもって政令で定める額(5万円)を超えているかを判断するものである。なお、消費税等諸税についてはこれを含めた額で判断するものとする。
したがって、役務提供の対価の部分は5万円に満たない場合でも、抱き合わせで販売される商品等の価額と合計した額が政令で定める額を超えていれば、全体としてこれに該当するものである。
(4) 「特定継続的役務の提供を受ける権利の販売」について
販売業者が、(当該販売業者以外の第三者である役務の提供を行う者から)特定継続的役務の提供を受けることができる権利を販売する場合を規定したものである。
したがって、事業者が自ら行う継続的役務の提供について○○会員権の販売と称して取引していたとしても、本法においてはこれは特定権利販売契約ではなく特定継続的役務提供契約に当たる。
2 第2項は「特定継続的役務」の定義規定である。「特定継続的役務」とは、国民の日常生活に係る取引において有償で継続的に提供される役務であって、①役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が行われるもの、②役務の性質上、その目的が実現するかどうかが確実でないものに該当するものとして、政令で指定するものである。
(1) 「国民の日常生活」については、法第2条の解説4に係る記述を参照。
(2) 「有償で継続的に提供される」とは、特定継続的役務提供に係る規制導入の趣旨に鑑み、無償又は継続性を持たずに提供される場合まで本法の対象とする必要がないことから有償かつ継続的に提供される場合に限っているものである。なお、ここで言う無償で提供されるとは、単に役務のみが外見上「無償で」提供されることを意味するのではなく、実質的に「無償で」提供されることを意味している。例えば、商品販売に付随して外見上無償で役務提供がなされる場合に、取り扱い方法の説明や一定の修理補修(いわゆるアフターサービス)等社会通念上も無償で提供されることが通常である役務はともかく、社会通念上独立して経済的価値を有する役務であって役務の提供を受ける者も当該役務の提供について経済的価値を認識して(すなわち有償であると認識して)いる場合においては、実質的には当該取引全体として有償の役務提供がなされているものと考えられる。
(3) 「心身又は身上に関する目的を実現させることをもつて誘引が行われる」とは、当該役務の提供に関して、痩せる、肌がきれいになる、成績が向上する、外国語が上達する、知識が向上するといった役務提供を受ける者の心身又は身上に関する目的を掲
げて、勧誘が行われる役務であることを意味する(個別に「誘引が行われる」ことをここで要件としているわけではない。)。
(4) 政令第 12 条で定める特定継続的役務は、以下の7役務である。
① 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、又は体重を減ずるための施術を行うこと(②を除く。)。
いわゆる「エステティック」の役務等である。美顔や脱毛、体型補正、痩身のための施術を行うことを指す。
単にリラックスのために音楽を聴かせるとか、お香を焚くものについては「施術」には当たらないと考えられる。
また、いわゆる増毛、植毛の類は、通常「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」には当たらないと考えられる。育毛については、施術の一過程で「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」に該当するものがあるが、これらが一過程に過ぎず、実現する目的が異なる場合には該当しないと考えられる。他方、脱毛については実現する目的(体毛の除去)が「人の皮膚を清潔にし若しくは美化し」に該当すると考えられる。
なお、①の範囲から②を除くとしているのは、両者に定義上の紛れがないように確認的に規定しているにすぎず、「施術」のうちに「医学的処置、手術及びその他の治療」が含まれるという趣旨ではない。なお、「施術」とはアロマオイルの塗布等、医師等の資格を有しない者でも行える行為であり、人体に対する影響が限定的であるものが該当する。「医学的処置、手術及びその他の治療」とは、医薬品の塗布や注射、患部の縫合等といった人体に対する一定程度の影響を及ぼすもので、医師等の資格を有する者でなければ行えない行為が該当する。これらは、行為の主体や実施されている場所ではなく、あくまで行為の内容に基づいて分類されることになる。
② 人の皮膚を清潔にし若しくは美化し、体型を整え、体重を減じ、又は歯牙を漂白するための医学的処置、手術及びその他の治療を行うこと(美容を目的とするものであつて、主務省令で定める方法によるものに限る。)。
いわゆる美容医療の役務のうち一定範囲のものである。
「美容を目的とするもの」であるかどうかについては、個別の事案ごとに当該医療行為の内容等に即して客観的、類型的に評価される。主務省令で定める方法に該当する医療行為であっても、例えば傷病からの回復等を目的とするものであると認められる場合は、美容を目的とするものには該当しない。具体的には、例えば、病理検査を行ったうえで、悪性と判断してほくろを除去した場合等は、傷病からの回復等を目的とする場合に該当する。
「主務省令で定める方法」は省令第 31 条の4各号の規定ごとに以下のとおり規定されている。
○ 脱毛については、「光の照射又は針を通じて電気を流すことによる方法」であり、
例えば、レーザー脱毛や針脱毛などが該当する。
○ にきび、しみ、そばかす、ほくろ、入れ墨その他皮膚に付着しているものの除去又は皮膚の活性化については、「光若しくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法」であり、例えば、レーザー又は超音波を照射する機器によるもの、ケミカルピーリングや高周波を照射する機器によるものなどが該当する。
○ 皮膚のしわ又はたるみの症状の軽減については、「薬剤の使用又は糸の挿入による方法」であり、例えばヒアルロン酸注射や糸によるリフトアップなどが該当する。
○ 脂肪の減少については、「光若しくは音波の照射、薬剤の使用又は機器を用いた刺激による方法」であり、例えばレーザー又は超音波を照射する機器によるもの、脂肪溶解注射によるものや脂肪を冷却する機器によるものなどが該当する。
○ 歯牙の漂白については、「歯牙の漂白剤の塗布による方法」であり、例えばホワイトニングジェルを注入したマウストレーを装着させることによるものなどが該当する。
③ 語学の教授(学校教育法(昭和 22 年法律第 26 号)第1条に規定する学校、同法
第 124 条に規定する専修学校若しくは同法第 134 条第1項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験に備えるため又は同法第1条に規定する学校(大学を除く。)における教育の補習のための学力の教授に該当するものを除く。)
いわゆる語学教室の役務である。語学(日本語を含む。)の教授を行うものが対象となるが、小学校、中学校、高等学校、大学、専修学校、各種学校等の入学試験準備又は小学校、中学校、高等学校等の学校教育の補習に特化したものについては本号で言う「語学の教授」からは除かれる。他方、英検等の資格試験等のための語学の教授もこれに該当する。
④ 学校教育法第1条に規定する学校(幼稚園及び小学校を除く。)、同法第 124 条に規定する専修学校若しくは同法第 134 条第1項に規定する各種学校の入学者を選抜するための学力試験(義務教育学校にあっては、後期課程に係るものに限る。5の項において「入学試験」という。)に備えるため又は学校教育(同法第1条に規定する学校(大学及び幼稚園を除く。)における教育をいう。同項において同じ。)の補習のための学力の教授(同項に規定する場所以外の場所において提供されるものに限る。)
いわゆる家庭教師の役務である。中学校、義務教育の後期過程、高等学校、大学、専修学校、各種学校等の入学試験に備えるため、又は小学校、中学校、高等学校の学校教育の補習のための学力の教授であって、5の項に規定するいわゆる学習塾等以外の場所において提供されるものである。したがって、小学校・幼稚園受験のための役務並びに大学及び幼稚園の補習のための役務は除かれる。
なお、ピアノ、絵画、そろばん、習字等の技芸については、通常はこれに該当しないと考えられるが、例えば当該技芸が音楽大学や美術大学等の大学入試準備や、高等学校の音楽科の補習として提供されている場合等は、技術指導も含めて特定継続的役務に該当し得る。
⑤ 入学試験に備えるため又は学校教育の補習のための学校教育法第1条に規定する学校(大学及び幼稚園を除く。)の児童、生徒又は学生を対象とした学力の教授(役務提供事業者の事業所その他の役務提供事業者が当該役務提供のために用意する場所において提供されるものに限る。)
いわゆる学習塾の役務である。中学校、高等学校、大学、専修学校、各種学校等の入学試験に備えるため、又は小学校、中学校、高等学校の学校教育の補習のための学力の教授であって、小学生、中学生、高校生等を対象としていわゆる学習塾等において提供されるものである。
本項の役務は、小学生、中学生、高校生等を対象としたものに限られ、したがってもっぱらいわゆる浪人生等こうした児童、生徒又は学生以外の者のみを対象とした役務は除外される。(ただし、これら双方を対象とする役務については、全体としてここに掲げる役務に該当する。)
「役務提供事業者が用意する場所」とは、典型的には学習塾の教室であるが、集会所やマンションの1xxを役務提供事業者が借り上げ、当該場所において役務を提供する場合にもこれに含まれる。
なお、④同様、ピアノ、絵画、そろばん、習字等の技芸については、通常は「学力の教授」に該当しないが、当該技芸が各種学校等の入学試験に備えるためや学校教育の補習として提供されている場合等は、技術指導も含めて特定継続的役務に該当し得る。
⑥ 電子計算機又はワードプロセッサーの操作に関する知識又は技術の教授
いわゆるパソコン教室である。電子計算機とは、演算機能と入出力装置を持つものを広く想定したものであり、パーソナル・コンピュータのほか、タブレットPCやスマートフォンについても電子計算機に該当する。これら電子計算機やワードプロセッサーの操作に関する知識や技術を教授するものが対象である。
この電子計算機やワードプロセッサーの操作に関する知識や技術と共に他の知識や技術を教授するような役務の場合であっても、それらが一体不可分となっており、全体としてパソコンの操作に関する知識又は技術の教授を行っていると考えられる場合には、そういった他の知識や技術の教授の部分を含め当該役務全体として規制対象となる。他方、他の知識や技術の教授の部分が役務として明確に分割できるのであれば、分割された電子計算機やワードプロセッサーの操作に関する知識や技術の教授の部分が特定継続的役務の要件を満たす限り、当該部分のみで規制対象となる。
⑦ 結婚を希望する者への異性の紹介
いわゆる結婚相手紹介サービスである。男女を問わず結婚を希望する者に対して異性の紹介を行うものが対象となる。
(特定継続的役務提供における書面の交付)
第 42 条 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務の提供を受けようとする者又は特定継続的役務の提供を受ける権利を購入しようとする者と特定継続的役務提供契約又は特定権利販売契約(以下この章及び第 58 条の 22 において「特定継続的役務提供等契約」という。)を締結しようとするときは、当該特定継続的役務提供等契約を締結するまでに、主務省令で定めるところにより、当該特定継続的役務提供等契約の概要について記載した書面をその者に交付しなければならない。
2 役務提供事業者は、特定継続的役務提供契約を締結したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、次の事項について当該特定継続的役務提供契約の内容を明らかにする書面を当該特定継続的役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
一 役務の内容であつて主務省令で定める事項及び当該役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品名
二 役務の対価その他の役務の提供を受ける者が支払わなければならない金銭の額三 前号に掲げる金銭の支払の時期及び方法
四 役務の提供期間
五 第 48 条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項(同条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
六 第 49 条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項(同条第2項、第5項及び第6項の規定に関する事項を含む。)
七 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
3 販売業者は、特定権利販売契約を締結したときは、遅滞なく、主務省令で定めるところにより、次の事項について当該特定権利販売契約の内容を明らかにする書面を当該特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者に交付しなければならない。
一 権利の内容であつて主務省令で定める事項及び当該権利の行使による役務の提供に際し当該特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品名
二 権利の販売価格その他の当該特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者が支払わなければならない金銭の額
三 前号に掲げる金銭の支払の時期及び方法
四 権利の行使により受けることができる役務の提供期間
五 第 48 条第1項の規定による特定権利販売契約の解除に関する事項(同条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
六 第 49 条第3項の規定による特定権利販売契約の解除に関する事項(同条第4項から第6項までの規定に関する事項を含む。)
七 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
趣 旨
特定継続的役務提供等契約は、①取引の対象である役務提供の内容を事前に確定することが難しいこと、②一定期間の継続的な役務提供に対する金銭の支払を約定するものである(したがって往々にして高額取引となり、前払形態がとられることが多い。)など、役務の提供を受ける者にとって不確実性の高いものであり、契約締結にあたり役務の提供を受けようとする者に、その内容、条件、いわゆるクーリング・オフ及び中途解約に係る事項等に関して十分な情報提供を行い、適正な情報に基づいた自由な意思決定を確保する必要がある。
このため、役務提供事業者又は販売業者に対して一定の事項を記載した書面を、契約締結にあたって及び契約締結時において交付することを義務付け、契約条件及び内容の明確化・透明化を図ることとしたものである。
また、本条第2項及び第3項の書面は、第 48 条のいわゆるクーリング・オフの期間の起算点としての意味も有している。
解 説
1 第1項は、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務の提供を受けようとする者又は特定継続的役務の提供を受ける権利を購入しようとする者と特定継続的役務提供契約又は特定権利販売契約を締結するまでに行わなければならない書面交付についての規定である。
契約に至るまでの間に消費者に対し、契約を締結するにあたって、その判断材料となる十分な情報の提供を行う観点から、その契約の概要について記載した書面の交付を義務付けている。
なお、書面の交付は、必ずしも、契約の当事者である販売業者又は役務提供事業者のみならず契約締結事務を行っている者に代行させてもよい。ただし、本法は、書面と電磁的記録を別個のものとして書き分けているため、電磁的記録は書面に含まれない。記載について、本法は国内法であるため、原則として日本語が基準となるが、当事者が合意した場合、日本語以外の言語を使用することも可能である。
(1) 「当該特定継続的役務提供等契約を締結するまでに」
本項の書面については、役務の提供を受けようとする者又は特定継続的役務の提供を受ける権利を購入しようとする者が契約を締結するにあたって知っておくべき必要な情報を記載したものであることに鑑み、「契約を締結するまで」に交付すべきとしているものである。
具体的には、契約を締結するために事業者の店舗等を訪れた消費者に対して、未だ契約が成立していない時点での契約内容等についての説明に先立って、あるいは同時並行的に交付すべきものである。
(2) 「主務省令で定めるところにより」
省令第 32 条では、交付書面に記載すべき事項として以下のような事項が規定されている。(具体的な記載事例等については第2項の解説を参照。)
① 特定継続的役務提供契約については、次に掲げる事項
イ 役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
ロ 提供される役務の内容
ハ 役務の提供に際し役務の提供を受けようとする者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品名、種類及び数量
ニ 役務の対価その他の役務の提供を受けようとする者が支払わなければならない金銭の概算額
ホ ニに掲げる金銭の支払の時期及び方法ヘ 役務の提供期間
ト 法第 48 条第1項の規定によるクーリング・オフに関する事項(同条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
チ 法第 49 条第1項の規定による中途解約に関する事項(同条第2項、第5項及び第6項の規定に関する事項を含む。)
リ 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項ヌ 前受金の保全に関する事項
ル 特約があるときは、その内容
② 特定権利販売契約については、次に掲げる事項
イ 販売業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
ロ 権利の行使により受けることができる役務の内容
ハ 権利の行使による役務の提供に際し特定継続的役務の提供を受ける権利を購入しようとする者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品名、種類及び数量
ニ 権利の販売価格その他の当該特定継続的役務の提供を受ける権利を購入しようとする者が支払わなければならない金銭の概算額
ホ ニに掲げる金銭の支払の時期及び方法
ヘ 権利の行使により受けることができる役務の提供期間
ト 法第 48 条第1項の規定によるクーリング・オフに関する事項(同条第2項から第7項までの規定に関する事項を含む。)
チ 法第 49 条第3項の規定による中途解約に関する事項(同条第4項から第6項までの規定に関する事項を含む。)
リ 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項ヌ 特約があるときは、その内容
(注) 特定権利販売契約の場合には、その法的性格は「特定継続的役務の提供を受ける権利」の「売買」であるため、将来にわたって継続的に役務の提供が予定されている特定継続的役務提供契約の場合と異なり「前受金の保全に関する事項」について記載させる必要性が低いため、記載事項とはなっていない。
なお、顧客が書面の記載事項をよく読むことが、後日のトラブルを防ぐ意味からも重要であるため、省令第 32 条第2項及び第3項において、①書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載しなければならないこと、②日本工業規格Z 8305 に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いなければならないと規定している。
2 第2項は、特定継続的役務提供契約の締結時に交付する書面についての規定である。当該契約に基づく当事者の権利義務(役務提供の内容やその履行に関する事項、支払うべき金銭及びその時期、クーリング・オフ及び中途解約に関する事項等)を明確にするものである。これは、後日のトラブルの発生を防ぐ意味からも重要である。
(1) 「遅滞なく」
本項の書面は、締結した契約の内容及び当該契約に関して法律で定められた事項について情報提供するものであり、「遅滞なく」交付されるべきものであるが、特段の事情がない限り、契約の締結を行ったその場で交付することが望ましい。
なお、当該書面の交付は法第 48 条に定めるいわゆるクーリング・オフを行使できる期間の起算点となる。
また、当該書面は、所要の記載事項が満たされていれば、法の他の規定に基づく交付書面又は割賦販売法等他の法令上義務付けられている交付書面等とあわせてxxに記載することも可能である。
(2) 「主務省令で定めるところにより」
省令第 34 条第3項から第5項まで並びに省令第 36 条第3項から第5項までにおいて、①書面の内容を十分に読むべき旨及びクーリング・オフ等の一定の重要事項について赤枠の中に赤字で記載しなければならないこと、②日本工業規格Z8305 に規定する8ポイント以上の大きさの文字及び数字を用いなければならないこと等を規定している。
(3) 「役務の内容であつて主務省令で定める事項」(第1号)について
省令第 33 条第1項では、交付書面に記載すべき事項として以下のような事項が規定されている。
イ 役務の種類
提供される役務の種類について、例えば、「エステティック」、「英会話指導」等の形で分かりやすく記載する。
ロ 役務提供の形態又は方法
フリータイム制か固定コース制か、個別指導かグループレッスンか、又は施術や治療の具体的内容等を記載する。
ハ 役務を提供する時間数、回数その他の数量の総計
学習塾等については役務を提供する時間数の総計を、結婚相手紹介サービスについては役務を提供する回数その他の数量の総計を具体的に記載する。例えば、「全 24回コース(20 時間)」、「週2コマ×3か月 計 24 時間」といった形で、当該契約により全体でどのくらい役務提供が受けられるのかがわかるような形で記載する。なお、有効期間内であれば提供される時間数、回数等に制限がない場合にはその旨記載する。逆に、役務提供の形態等の関係で、どの程度の回数の役務を提供するのか等について自らの責任において約束ができない場合には、例えば、「役務の提供回数については約束できない」等を明確に記載する必要があろう。
ニ 施術を行う者、講師その他の役務を直接提供する者の資格、能力等に関して特約があるときは、その内容
(4) 「当該役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者が購入する必要のある商品」(第
1号)について
「当該役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者が購入する必要のある商品」とは、特定継続的役務提供等事業者により販売又は代理若しくは媒介されるものであって、当該商品を購入しないと役務の提供を受けられないものを指す。なお、クーリング・オフ及び中途解約の対象となる関連商品はこれらのうち、政令で定められたものに限られる。(法第 48 条の解説を参照。)
なお、特定継続的役務提供の関連商品(詳細は法第 48 条の解説を参照)については、原則として契約締結時の書面に全て記載することとなる。したがって、契約の変更について消費者との合意がない限り、当該書面に記載されていない関連商品を追加で購入させることはできない。仮に正当な理由により、契約の締結後に関連商品の追加・変更等の必要が生じることが想定される場合には、交付書面において、追加・変更等の可能性及びその際の取扱いについて、あらかじめ特約として記載しておくことが望ましい。
(5) 「役務の対価その他の役務の提供を受ける者が支払わなければならない金銭の額」
(第2号)について
「役務の対価」については、役務提供事業者が消費者から消費税を徴収する場合には、消費税を含んだ価格を意味するものとする。
また、ここでいう「支払わなければならない金銭の額」には、入学金、入会金、施設利用料等の納付金、カウンセリング料、諸経費の類も含め、名目の如何を問わず契
約に関し特定継続的役務の提供を受ける者が支払わなければならない金銭の総額を意味する。当該特定継続的役務の提供に際し当該特定継続的役務の提供を受ける者が購入する必要のある商品がある場合にはその商品の代金もこれに含まれる。
なお、当該金銭の額については、支払わなければならない金銭の総額の他、その内訳として、a)入学金、入会金等の納付金、b)狭義の役務の対価(入学金等の納付金を除いた授業料等)、c)施設整備費等の諸経費、d)購入する必要のある商品等の費目ごとに分けて、金額及び明細(例えば、「(1回あたり又は1か月あたりの単価)
×(回数又は期間)」という形で費目名並びに単価及び数量等の算定根拠を明らかにする)を記載しなければならない。(省令第 34 条第1項第1号参照)
(6) 「前号に掲げる金銭の支払の時期及び方法」(第3号)について
「代金支払方法」として記載すべき事項は、持参・集金・振込、現金・クレジット等の別であり、分割して代金を受領する場合には各回ごとの受領金額、受領回数等が含まれる。
(7) 「役務の提供期間」(第4号)について
「役務の提供期間」については、例えば、「役務提供の開始日と終了日」又は、「役務提供の開始の日と提供期間(回数券方式をとるものについては、役務提供を受けることが可能になる日及び有効期間又は期限)」といった形で記載しなければならない。なお、期限のない回数券については、例えば、「無期限(回数券 50 回分)」といった記載が望ましい。
また、役務提供の開始日の記載がない場合には、特段の事情がない限り、契約締結の日をもって当該開始日と推定するものとする。
(8) 「第 48 条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項」(第5号)について
いわゆるクーリング・オフに関する事項について、次に掲げる事項を記載しなければならない。(省令第 34 条第1項第2号参照)
イ 契約書面を受領した日から起算して8日を経過する日までの間は、書面によりクーリング・オフを行うことができること。
ロ イに記載した事項にかかわらず、特定継続的役務の提供を受ける者が、役務提供事業者が法第 44 条第1項の規定に違反して法第 48 条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより誤認をし、又は役務提供事業者が法第 44 条第3項の規定に違反して威迫したこと
により困惑し、これらによって法第 48 条第1項の規定による特定継続的役務提供契
約の解除を行わなかった場合には、当該役務提供事業者が交付した法第 48 条第1項の書面を当該特定継続的役務の提供を受ける者が受領した日から起算して8日を経過するまでは、当該特定継続的役務の提供を受ける者は、書面により当該特定継続的役務提供契約の解除を行うことができること。
ハ クーリング・オフは、当該契約の解除に係る書面を発した時に、その効力を生ずること。
ニ 役務提供事業者は、クーリング・オフに伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができないこと。
ホ 既に当該特定継続的役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、役務提供事業者は、当該特定継続的役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができないこと。
ヘ 当該特定継続的役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、役務提供事業者は、速やかに、その全額を返還すること。
ト 役務提供事業者が関連商品の販売又はその代理若しくは媒介を行っているときは、関連商品販売契約についてもクーリング・オフを行うことができること。
チ 関連商品販売契約のクーリング・オフの申出先が役務提供事業者と異なる場合には、その旨及び申出先
リ 関連商品販売契約のクーリング・オフは、当該契約の解除に係る書面を発した時に、その効力を生ずること。
ヌ 関連商品の販売を行った者は、クーリング・オフに伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができないこと。
ル 当該関連商品販売契約に係る商品の引渡しが既にされているときは、その引取りに要する費用は関連商品の販売を行った者の負担とすること。
ヲ 当該関連商品販売契約に関連して金銭を受領しているときは、関連商品の販売を行った者は、速やかに、その全額を返還すること。
なお、本号に掲げる事項は、赤枠の中に赤字で記載しなければならない。(省令第 34
条第3項)
また、法第 48 条第2項ただし書の政令で定める関連商品(いわゆる消耗品)についてクーリング・オフの適用除外とする場合は、次の事項を赤枠の中に赤字で記載する必要がある。(省令第 34 条第2項)
イ 当該商品の名称その他当該商品を特定し得る事項
ロ 当該商品を使用し又はその全部若しくは一部を消費したとき(当該販売業者が当該特定継続的役務の提供を受ける者に当該商品を使用させ、又はその全部若しくは一部を消費させた場合を除く。)は契約の解除を行うことができないこと。
(9) 「第 49 条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項」(第6号)について
いわゆる中途解約に関する事項について、次に掲げる事項を記載しなければならない。(省令第 34 条第1項第3号参照)
イ クーリング・オフ期間経過後においては、将来に向かって中途解約を行うことができること。
ロ 役務提供事業者は、提供された役務の対価及び当該解除によって通常生ずる損害の額又は契約の締結及び履行のために通常要する費用の額にこれらに対する遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を請求することができないこと並びに提供された役務の対価の精算方法
ハ 役務提供事業者が関連商品の販売又はその代理若しくは媒介を行っているときは、関連商品販売契約についても中途解約を行うことができること。
ニ 関連商品の中途解約の申出先が役務提供事業者と異なる場合には、その旨及び申出先
ホ 関連商品の販売を行った者は、関連商品の通常の使用料に相当する額(当該関連商品の販売価格に相当する額から当該関連商品の返還されたときにおける価格を控除した額が通常の使用料に相当する額を超えるときは、その額)、関連商品の販売価格に相当する額又は契約の締結及び履行のために通常要する費用の額にこれらに対する遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を請求することができないこと。
ヘ 特定継続的役務提供契約又は関連商品販売契約の中途解約について特約がある場合には、その内容
(10) 「主務省令で定める事項」(第7号)について
省令第 33 条第2項では、交付書面に記載すべき事項として以下のような事項が規定されている。
イ 役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は、戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては、登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号は認められない。「住所」については、法人にあっては、現に活動している住所(通常は登記簿上の住所と同じと思われる)を、個人事業者にあっては、現に活動している住所をそれぞれ正確に記述する必要がある。いわゆるレンタルオフィスやバーチャルオフィスであっても、現に活動している住所といえる限り、法の要請を満たすと考えられる。また、「電話番号」については、確実に連絡が取れる番号を記載することを要する。発信専用の番号で消費者側から架電しても一切つながらない等のような場合は、確実に連絡が取れる番号とはいえない。
ロ 特定継続的役務提供契約の締結を担当した者の氏名ハ 特定継続的役務提供契約の締結の年月日
ニ 役務の提供に際し役務の提供を受けようとする者が購入する必要のある商品がある場合にはその種類及び数量
「種類及び数量」とは、特定継続的役務提供等事業者により販売又は代理若しくは媒介されるものであって、当該商品を購入しないと役務の提供を受けられない商
品の種類及び数量を具体的に記載することで、特定継続的役務提供受領者等が購入する商品の内容について認識できるようにするものである。
ホ 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
割賦販売法第2条第2項に規定するローン提携販売の方法又は同条第3項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条第4項に規定する個別信用購入あっせんに係る提供の方法により役務の提供を行う場合には、同法第 29 条の4第2項(同条第
3項において準用する場合を含む。)又は同法第 30 条の4(同法第 30 条の5第1項
において準用する場合を含む。)若しくは同法第 35 条の3の 19 の規定に基づきローン提携販売業者又は包括信用購入あっせん関係役務提供事業者若しくは個別信用購入あっせん関係役務提供事業者に対して生じている事由をもって、役務の提供を受ける者はローン提供業者又は包括信用購入あっせん業者若しくは個別信用購入あっせん業者に対抗することができる(いわゆる「抗弁権の接続」)旨を記載する。
ヘ 特定継続的役務提供に係る前払取引を行うときは、当該前受金について保全措置を講じているか否か及び、講じている場合には、その内容
いわゆる前受金の保全措置を指す。この保全措置については、金融機関の保証等、役務提供事業者が万一倒産した場合であっても一般債権者に優先して弁済が受けられるものである必要がある。
ト 役務の提供に際し役務の提供を受ける者が購入する必要のある商品がある場合には、当該商品を販売する者の氏名又は名称、住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名
チ 特約があるときは、その内容
3 第3項は、特定権利販売契約の締結時に交付する書面についての規定である。当該契約に基づく当事者の権利義務(役務提供の内容やその履行に関する事項、支払うべき金銭及びその時期、クーリング・オフ及び中途解約に関する事項等)を明確にするものである。これは、後日のトラブルの発生を防ぐ意味からも重要である。なお、具体的な事項の説明については2を参照されたい。
4 本条の交付義務違反(不交付、虚偽記載、記載不備等)に対しては6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第1号)ほか、指示(法第
46 条)や業務停止命令(法第 47 条)等の対象となる。
(誇大広告等の禁止)
第 43 条 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供をする場合の特定継続的役務の提供条件又は特定継続的役務の提供を受ける権利の販売条件について広告をするときは、当該特定継続的役務の内容又は効果その他の主務省令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。
趣 旨
通信販売と同様、特定継続的役務提供における広告は、特定継続的役務提供等事業者が一般消費者に対して勧誘する際の主な手段となっており、かつ顧客は効果の発生又は目的の実現を謳った広告をもって誘引されることが多いため、虚偽・誇大広告を禁止し、消費者トラブルの未然防止を図るものである。
解 説
1 「特定継続的役務提供をする場合の特定継続的役務の提供条件又は特定継続的役務の提供を受ける権利の販売条件について広告をするとき」
法第 11 条の解説1を参照。
2 「当該特定継続的役務の内容又は効果」
「当該特定継続的役務の内容又は効果」は、これらに関する広告表示がトラブル発生につながっているとの実態を踏まえて例示したものである。
3 「主務省令で定める事項」
省令第 37 条で次のように定めている。
① 役務又は権利の種類又は内容
「内容」とは、役務の実質のことである。例えば、エステティックにおける具体的施術等がこれに該当する。
② 役務の効果又は目的
「効果」とは役務の提供を受けること等により得られる効き目のことであり、「目的」とは役務提供により達成することが意図されている目標のことである。例えば、家庭教師による成績のxxxがこれらに該当する。
③ 役務若しくは権利、役務提供事業者若しくは販売業者又は役務提供事業者若しくは販売業者の行う事業についての国、地方公共団体、著名な法人その他の団体又は著名な個人の関与
法令上の権限によるものであるかどうかを問わず、当該商品等への国、地方公共団体等のかかわりのことであり、例えば、「○○省推薦」、「○○県公認」等の表示はこれに該当する。また、商品・権利・役務についての認定等(例えば、「この製品は○○省認定」等の表示)のほか、事業者についての認定等(例えば、「当社は、○○省認定事業者」の表示、オンライントラストマークの不正表示等)、事業についての認定等(例えば、「○○省認定事業」等の表示)が含まれる。
④ 役務の対価又は権利の販売価格
⑤ 役務の対価又は権利の代金の支払の時期及び方法
⑥ 役務の提供期間
⑦ 役務提供事業者又は販売業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
⑧ ④の金銭以外の特定継続的役務提供受領者等の負担すべき金銭があるときは、その名目及びその額
役務の対価の他に、入会金や試験料、購入する必要がある商品等の代金等を指す。
4 「著しく事実に相違する表示をし、・・・人を誤認させるような表示」
虚偽・誇大広告の基準として、「事実に相違する」と「実際のものよりも優良・有利であると人を誤認させる」の2点が設けられているが、共に「著しい」場合のみを対象としている。これは、通常の商取引においては顧客を引きつけるためにある程度の誇張がなされ、かけ引きが行われるのが常態であり、顧客の側においても当然に予想し得るところ、そのような通常の場合を超えた「著しい」場合のみ適用することとしている。
具体的に何が「著しい」に該当するかの判断は、個々の広告について判断されることになるが、例えば、「一般消費者が広告に書いてあることと事実との相違を知っていれば、当然契約に誘い込まれることはない」等の場合は、該当すると考えられる。
また、誇大広告であるかどうかの判断基準は、一般消費者から見て誤認するような表示であれば足り、専門的知識を有する者にその基準を求めるものではない。
なお、特定継続的役務提供においては、役務の提供により著しい効果の発生、目的の実現があった者を広告上で紹介し、「体重 -○○㎏」、「××テスト +○○点」等の著しい効果の発生、目的の実現を強調した広告が見受けられる。こういった場合の誇大広告等に該当するか否かの判断基準は、他の不特定多数についても、同様の役務提供により同様の効果の発生、目的の実現を、実態上は不確実であるにもかかわらず、広告上謳っているか、又は謳っていると見なし得るか(すなわち、あたかも役務提供を受ける全ての者について、このような効果があると誤認されるような記述、表現があるか否か)によるものと考えられる。具体的には、例えば、「-○○㎏、あなたにも可能です。」といった記述、根拠がないにもかかわらず「+○○点の実績を誇ります。」との記述は、誇大広告に該当する可能性が高いと考えられる。
5 本条に違反して虚偽又は優良と誤認させるような広告をした者に対しては 100 万円以下の罰金が科される(法第 72 条第1号)ほか、指示(法第 46 条)や業務停止命令(法
第 47 条)の対象となる。
(合理的な根拠を示す資料の提出)
第 43 条の2 主務大臣は、前条に規定する表示に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした役務提供事業者又は販売業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該役務提供事業者又は当該販売業者が当該資料を提出しないときは、第 46 条第1項及び第 47 条第1項の規定の適用については、当該表示は、前条に規定する表
示に該当するものとみなす。
趣 旨
平成 16 年改正時、特定継続的役務提供において、役務の「効果」等に関して誇大な広告
等に起因する消費者トラブルが見受けられたことを踏まえ、迅速な行政処分を可能とするため本条を規定することとした。
解 説
本条は、役務提供事業者又は販売業者が、法第 43 条の規定に違反して誇大広告等をした疑いがあり、その判断をするために必要な場合には、主務大臣が当該役務提供事業者又は販売業者に対して、期間を定め、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができることとし、当該役務提供事業者又は販売業者がその資料を提出しない場合には、行政処分を行うに際して法第 43 条に違反して誇大広告等をしたものとみなすこととする規定である。
(1) 「前条に規定する表示」
法第 43 条の禁止規定に違反する誇大広告等の表示である。
(2) 「期間を定めて」
「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針」に規定されているとおり、資料の提出を求められた日から原則として 15 日間とする。
(3) 「合理的な根拠を示す資料」
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること、及び②広告において表示された性能、効果等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること、の双方の要件を満たすことが必要である。
(4) 「第 46 条第1項及び第 47 条第1項の規定の適用については、」
本条は、指示及び業務停止命令に際して適用される。法第 43 条違反行為は、罰則の対象ともなっているが、役務提供事業者又は販売業者の違反状態を「みなす」という本条の効果にも鑑み、罰則については適用されない。
※なお、詳しくは「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針」を参照のこと。
(禁止行為)
第 44 条 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供等契約の締結について勧誘をするに際し、又は特定継続的役務提供等契約の解除を妨げるため、次の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
一 役務又は役務の提供を受ける権利の種類及びこれらの内容又は効果(権利の場合にあつては、当該権利に係る役務の効果)その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二 役務の提供又は権利の行使による役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者又は当該権利の購入者が購入する必要のある商品がある場合には、その商品の種類及びその性能又は品質その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
三 役務の対価又は権利の販売価格その他の役務の提供を受ける者又は役務の提供を受
ける権利の購入者が支払わなければならない金銭の額
四 前号に掲げる金銭の支払の時期及び方法
五 役務の提供期間又は権利の行使により受けることができる役務の提供期間
六 当該特定継続的役務提供等契約の解除に関する事項(第 48 条第1項から第7項まで及び第 49 条第1項から第6項までの規定に関する事項を含む。)
七 顧客が当該特定継続的役務提供等契約の締結を必要とする事情に関する事項
八 前各号に掲げるもののほか、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、顧客又は特定継続的役務の提供を受ける者若しくは特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供等契約の締結について勧誘をするに際し、前項第1号から第6号までに掲げる事項につき、故意に事実を告げない行為をしてはならない。
3 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供等契約を締結させ、又は特定継続的役務提供等契約の解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
趣 旨
本条は、特定継続的役務提供において、強引な勧誘、虚偽の説明による勧誘等顧客等の意思決定を歪めるような不当行為により契約の相手方たる消費者が適正な判断ができないまま契約してしまったり、また、同様な不当行為によりクーリング・オフの行使や中途解約が妨げられるという事態を防止するため、特に不当性が強いものについては、罰則を規定することによりこれを禁止している。
解 説
1 第1項は、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供等契約の締結についての勧誘を行う際又は契約の解除を妨げるため、契約に関する重要な事項について不実のことを告げることを禁止する規定である。
(1) 「契約の締結について勧誘をするに際し」とは、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務の提供を受ける者等に対し最初に接触してから契約を締結するまでの時間的経過においてという意味である。
(2) 「解除を妨げるため」とは、法第 48 条に規定するクーリング・オフの行使及び法第 49 条に規定する中途解約を妨げる不当行為を念頭においており、契約の相手方たる消費者の正当な行為を妨害することをいう。
(3) 「次の事項につき」
平成 16 年改正により不実のことを告げてはならない事項を各号列記することとした。旧法においては、「顧客又は特定継続的役務の提供を受ける者若しくは特定継続的役務 の提供を受ける権利の購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき」と なっていたが、消費者保護の観点から、規制の実効性を高めるため可能な限りこれを 具体的に列挙し、構成要件の明確化を図ることとした。
イ 「役務又は役務の提供を受ける権利の種類及びこれらの内容又は効果(権利の場合にあつては、当該権利に係る役務の効果)その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」(第1号)
これは、当該役務の提供を受けるとき等にあたって、その役務の魅力を判断する要素となる事項である。
例えば、予約制のエステティックサロンや美容医療クリニック等で、実際には予約が殺到しており、希望に応ずることは不可能な状況にあるにもかかわらず、「いつでも希望の時間に必ず(役務提供の)予約が取れます。」との説明を行うこと等が、本号に関する不実の告知に該当し得る。
なお、現時点においては、「その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」は定めていない。
ロ 「役務の提供又は権利の行使による役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者又は当該権利の購入者が購入する必要のある商品がある場合には、その商品の種類及びその性能又は品質その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」(第
2号)
これは、関連商品(法第 48 条参照)の購入にあたって、その商品の価値を判断する要素となる事項である。
一般には、商品の品質が類似のものと比較して劣るにもかかわらず優良と告げることや、根拠もなく商品の品質等について公的機関から認定を受けているかのごとき説明を行うこと等は、本号に関する不実の告知に該当する。
また、「その他これらに類するものとして主務省令で定める事項」として、「商品の効能」、「商品の商標又は製造者名」、「商品の販売数量」、「商品の必要数量」を規定している。これらは、例えば、家庭教師が教える際に使わないにも関わらず、「家庭教師をつけるためには教材の購入が絶対必要」といって教材を買わせる行為等が、本号に関する不実の告知に該当し得る。
ハ 「役務の対価又は権利の販売価格その他の役務の提供を受ける者又は役務の提供を受ける権利の購入者が支払わなければならない金銭の額」(第3号)「前号に掲げる金銭の支払の時期及び方法」(第4号)「役務の提供期間又は権利の行使により受けることができる役務の提供期間」(第5号)
役務の取引条件に関する重要な事項として規定した。
ニ 「当該特定継続的役務提供等契約の解除に関する事項(第 48 条第1項から第7項まで及び第 49 条第1項から第6項までの規定に関する事項を含む。)」(第6号)
法第 48 条に規定するクーリング・オフに関する事項及び法第 49 条に規定する中途解約に関する事項のほか、それ以外に契約の解除ができる場合及びその解除を行ったときの損害賠償又は違約金についての取決め等のことである。
例えば、クーリング・オフ(又は中途解約)を申し出ようとした消費者に対して、
「この契約は、モニターとして特別に安い料金で提供しているため、クーリング・オフ(又は中途解約)してもほとんどお金が返ってこない。」、「この契約は、店舗契約のためクーリング・オフ(又は中途解約)は一切できない。」等の説明を行うことが、本号に関する不実の告知に該当し得る。
ホ 「顧客が当該特定継続的役務提供等契約の締結を必要とする事情に関する事項」
(第7号)
従来から不実告知の対象となる「顧客等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」に含まれていたが、平成 16 年改正時のトラブルを見ると、特に役務の提供を受ける動機付けとなる背景・事情に関する不実告知が多かったことから明示的に規定したものである。
例えば、(エステティックの勧誘において)「このままではお肌がボロボロになってしまう。」、(美容医療の勧誘において)「今脱毛をしないと傷が残ってしまう。」、(パソコン教室の勧誘において)「法律上資格を取る義務がある。」、等と告げる行為は、本号に関する不実の告知に該当し得る。
ヘ 「前各号に掲げるもののほか、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、顧客又は特定継続的役務の提供を受ける者若しくは特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」(第8号)
特定継続的役務の提供を受ける者等が契約を締結する場合や契約の解除をする場合の意思形成に対して重大な影響を及ぼす事項であって、第1号から第7号までに該当しないものをいい、契約内容のみならず当該契約に関連ある事項が広く対象となる。
(4) 「不実のことを告げる行為をしてはならない。」
「不実のことを告げる行為」とは、虚偽の説明を行うこと、すなわち事実と異なることを告げる行為のことである。事実と異なることを告げていることにつき主観的認識を有している必要はなく、告げている内容が客観的に事実と異なっていることで足りる。相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要としない。本項の違反行為が詐欺罪の要件にも該当する場合に、両罪は観念的競合となる。
なお、刑事罰との関係では、刑法総則の適用により、不実の告知が故意になされた場合について処罰されることになる。他方、本項の違反は主務大臣の指示(第 46 条)
及び業務停止命令(法第 47 条)といった行政措置の対象行為ともなっているところであるが、上記の通り、不実の告知に対する主務大臣の指示、命令は、過失によりなされた場合であっても法第 46 条、第 47 条の要件を満たせば行い得る。
また、契約締結段階で告げている内容が実現するか否かを見とおすことが不可能な場合であっても、告げている内容が客観的に事実と異なっていると評価できる限り不実の告知に該当する。
2 第2項は、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供等契約についての勧誘
を行う際に、契約に関する重要な事項について故意に告げないことを禁止する規定である。勧誘に際して、役務の内容等について故意に告げないことによる消費者トラブルが増加していたことから、それまでは主務大臣による行政処分の対象となっていたところを平成 16 年改正において罰則をもって禁止することとした。
(1) 「役務提供事業者又は……契約の締結について勧誘をするに際し」解説1(1)を参照
(2) 「前項第1号から第6号までに掲げる事項につき、」
重要な事項とはいえ不告知という不作為を禁止する規定であるため、その中でも当然告げられるべき第1項の第1号から第6号を対象事項とすることとした。例えば、フリータイム制の語学教室で会員がキャパシティを大幅に超えており、満足に予約が取れない状況にあることを告げない場合等は本項に規定する故意の事実不告知に該当するものと考えられる。
なお、第7号及び第8号に該当する事項については、平成 16 年改正以前と同様、主務大臣の行政処分の対象となることとした。
(3) 「故意に事実を告げない行為」
ここでいう「故意」とは、「当該事実が当該購入者等の不利益となるものであることを知っており」、かつ、「当該購入者等が当該事実を認識していないことを知ってること」をいう。「故意に事実を告げない行為」をもって足り、相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要としない。本項の違反行為が詐欺罪の要件にも該当する場合に、両罪は観念的競合となる。
3 第3項は相手方を威迫し困惑させることを禁止する規定であり、「威迫」とは脅迫に至らない程度の人に不安を生ぜしめるような行為をいい、「困惑させる」とは字義の通り困り戸惑わせることをいう。具体的にどのような行為が該当するかについては個々の事例について、行為が行われた状況等を総合的に考慮しつつ判断すべきであるが、例えば、次のような事例が該当するものと考えられる。
イ 契約を締結させるための例
① 「契約書にサインしてくれないと困る。」と声を荒げられて、誰もいないのでどうしてよいかわからなくなり、早く家に帰りたくなって契約をしてしまった。
② エステティックサロンの無料体験を受けているときに衣服を脱がされた状態で多数の者に囲まれて執拗に勧誘され、怖くなって契約をしてしまった。
ロ 契約の解除を妨げるための例
「手間をとらせたんだから今更クーリング・オフ(中途解約)するなどと言ったらただでは済まさないぞ。」、「この契約を解除したら後でどうなるかわかってるんだろうな。」、「残金を支払わないと現住所に住めなくしてやる。」等と言われ、不安になってクーリング・オフの行使を思いとどまった。
4 刑法の詐欺罪、脅迫罪とx条との関係については、訪問販売における禁止行為(第6
条)の解説を参照されたい。
5 本条の規定に違反した者には、3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金が科せられる
(併科あり。)(法第 70 条)ほか、指示(法第 46 条)や業務停止命令(法第 47 条)等の対象となる。
(合理的な根拠を示す資料の提出)
第 44 条の2 主務大臣は、前条第1項第1号又は第2号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該役務提供事業者又は当該販売業者に対し、期間を定めて、当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該役務提供事業者又は当該販売業者が当該資料を提出しないときは、第 46 条第1項及び第 47 条第1項の規定の適用については、当該役務提供事業者又は当該販売業者は、前条第1項第1号又は第2号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたものとみなす。
趣 旨
平成 16 年改正時、特定継続的役務提供において、役務の「効果」等に関して虚偽の説明を受けたことによる消費者トラブルが見受けられたことを踏まえ、迅速な行政処分を可能とするため本条を規定することとした。
解 説
本条は、役務提供事業者業者又は販売業者が、法第 44 条第1項に違反して同項第1号に掲げる事項(役務又は役務の提供を受ける権利の種類及びこれらの内容又は効果(権利の場合にあっては、当該権利に係る役務の効果)その他これらに類するものとして主務省令で定める事項)及び同項第2号に掲げる事項(役務の提供又は権利の行使による役務の提供に際し当該役務の提供を受ける者又は当該権利の購入者が購入する必要のある商品がある場合には、その商品の種類及びその性能又は品質その他これらに類するものとして主務省令で定める事項)につき不実告知をした疑いがあり、その判断をするために必要な場合には、主務大臣が当該役務提供事業者又は販売業者に対して、期間を定め、告げたことの裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができることとし、当該役務提供事業者又は販売業者がその資料を提出しない場合には、行政処分を行うに際して法第 44条第1項に違反して不実告知をしたものとみなすこととする規定である。
(1) 「前条第1項第1号又は第2号に掲げる事項につき」
役務提供事業者又は販売業者による不実告知において、告げる以上は当然、合理的な根拠を保持していて然るべき事項(性能、効能、品質、効果等)につき適用することとした。例えば、化粧品の特定継続的役務提供においてその美容効果を告げる場合等が該当する。
(2) 「期間を定めて」
「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針」に規定されているとおり、資料の提出を求められた日から原則として 15 日間とする。
(3) 「合理的な根拠を示す資料」
①提出資料が客観的に実証された内容のものであること、及び②勧誘に際して告げられた性能、効果等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること、の双方の要件を満たすことが必要である。
(4) 「第 46 条第1項及び第 47 条第1項の規定の適用については、」
本条は、指示及び業務停止命令に際して適用される。法第 44 条第1項違反行為は、罰則の対象ともなっているが、役務提供事業者又は販売業者の違反状態を「みなす」という本条の効果にも鑑み、罰則については適用されない。
※なお、詳しくは「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針」を参照のこと。
(書類の備付け及び閲覧等)
第 45 条 役務提供事業者又は販売業者は、特定継続的役務提供に係る前払取引(特定継続的役務提供に先立つてその相手方から政令で定める金額を超える金銭を受領する特定継続的役務提供に係る取引をいう。次項において同じ。)を行うときは、主務省令で定めるところにより、その業務及び財産の状況を記載した書類を、特定継続的役務提供等契約に関する業務を行う事務所に備え置かなければならない。
2 特定継続的役務提供に係る前払取引の相手方は、前項に規定する書類の閲覧を求め、又は前項の役務提供事業者若しくは販売業者の定める費用を支払つてその謄本若しくは抄本の交付を求めることができる。
趣 旨
役務提供事業者や販売業者の倒産等により、特定継続的役務提供受領者等が引き続き役務の提供が受けられなくなった場合において、既に払い込み済みの金銭の返還が一切受けられなくなるといった状況を予め回避するための手段として、事業者の財務状況等を把握できるように、一定金額以上の前払取引を行う事業者に対して業務及び財産の状況を記載した書面(以下「財務等書類」という。)の作成と開示を義務付けるものである。
解 説
1 第1項について
第1項は、役務提供事業者又は販売業者が行う財務等書類の作成及び備え付けについて定めるものである。
(1) 「前払取引」について
ここでいう「前払取引」とは「特定継続的役務提供に先立つてその相手方から政令で定める金額を超える金銭を受領する特定継続的役務提供に係る取引」である。
「特定継続的役務提供に先立つて」とは、役務の提供の開始前にという意味である。
「政令で定める金額」については、政令第 13 条において「5万円」と定められている。
「その相手方から……金銭を受領する」とは、当該前払取引に係る契約の他方の当事者である特定継続的役務提供受領者等から、金銭の支払を受けるということであり、現金払や事業者の銀行等の口座への振込、特定継続的役務提供受領者等の銀行等の口座からの引落とし等の他、クレジットカードのxxxxx・xxx(翌月1回払い)も含まれ得る。(なお、割賦販売法第2条第2項に規定するローン提携販売の方法又は同条第3項に規定する包括信用購入あっせん若しくは同条第4項に規定する個別信用購入あっせんの方法により特定継続的役務の提供又は特定継続的役務の提供を受ける権利の購入を行う場合は、通常この「前払取引」には当たらない。※)
※これは、xxxxx・xxx等による支払の場合には、法律上いわゆる抗弁権の接続等により特定継続的役務提供受領者等に対して保護が与えられておらず、また、実質的にも、1か月~2か月程度で特定継続的役務提供受領者等とクレジットカード会社との間の決済が済んでしまい、それ以降に生じたトラブルについて、特定継続的役務提供受領者等の側で有効に対処する法的手段が基本的に存在しないと考えられるのに対し、割賦販売法に基づく包括信用購入あっせん又は個別信用購入あっせんについては、割賦販売法上、事業者の倒産等により役務の提供が受けられなくなった場合には抗弁権の接続による保護を受けうるためである。
(2) 「主務省令で定めるところにより」
本条に基づき、備え付けるべき書類の様式等について、省令第 38 条において以下の事項が定められている。
イ 法第 45 条第1項に規定する業務及び財産の状況を記載した書類は、貸借対照表、損益計算書及び事業報告書(会社以外の者にあつては、これらに準ずる書類)とすること。
ロ 当該書類は、事業年度ごとに当該事業年度経過後3月以内に作成し、特定継続的役務提供等契約に関する業務を行う事務所に遅滞なく備え置かなければならないこと。
ハ 備え置いた書類は、備え置いた日から起算して3年を経過する日までの間、保管すること。
(3) 書類を備え置く場所について
「特定継続的役務提供等契約に関する業務を行う事務所」とは、契約の締結、解除に関する業務を行う事務所、締結された契約に基づき役務の提供を行う事務所等を指す。
(4) 書類の保存方法について
特定商取引に関する法律に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則に基づき、書類の保存に代えて以下のいずれかの
方法による電磁的記録による保存が認められている。
① 作成された電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
② 書面に記載されている事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む。)により読み取った電磁的記録を民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等をもって調製するファイルにより保存する方法
上記の電磁的記録の保存を行う場合は、必要に応じ電磁的記録に記録された事項を 出力することにより、直ちに整然とした形式及び明瞭な状態で民間事業者等の使用に 係る電子計算機その他の機器に表示及び書類を作成することができなければならない。
また、同一内容の書面を2以上の事務所等(書類の保存が義務付けられている場所)に保存しなければならないとされている民間事業者等が、1つの事務所等に当該書面に係る電磁的記録の保存を行うとともに、当該電磁的記録に記録されている事項を他の事務所等に備え付けた電子計算機の映像面に表示及び当該事項を記載した書面を作成することができる措置を講じた場合は、当該他の事務所等に当該書面の保存が行われたものと評価される。
なお、同規則第4条第1項の規定に基づく電磁的記録の保存を行う場合は、内閣総理大臣及び経済産業大臣が定める基準を確保するよう努めなければならない。
2 第2項について
(1) 閲覧又は謄本若しくは抄本の交付を請求することができる「前払取引の相手方」について
ここでいう「相手方」とは実際に契約を締結した者で、契約を締結する前の段階にある者は含まれないが、契約を締結していればよく、実際に支払を行っているかどうかを問うものではない。
(2) 謄本又は抄本の交付に際して事業者が請求できる費用について
前払取引の相手方に謄本又は抄本を交付する際、事業者は交付にかかる費用を請求することができることになっているが、当該費用については、原則として複写等に要する実費額である。(閲覧に関しては費用の請求を行うことはできない。)
なお、「謄本」とは全体の写しであり、「抄本」とは部分の写しである。
(3) 書類の閲覧又は謄本若しくは抄本の交付を情報通信の技術を利用して行う場合の方法について
特定商取引に関する法律に係る民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則に基づき、書類の閲覧に代えて、当該書類に係る電磁的記録に記録されている事項の閲覧させるに当たっては、民間事業者等の事務所に備え置く電子計算機の映像面における表示により行わなければならない。
また、同規則に基づき、書類の交付に代えて当該書類に係る電磁的記録に記録されている事項を交付するに当たっては、次に掲げる方法により行わなければならない。
① 電子情報処理組織を使用する方法のうち、
イ 民間事業者等の使用に係る電気計算機と交付の相手方の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法
ロ 民間事業者等の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに規則された書面意記載すべき事項を電気通信回線を通じて交付等の相手方の閲覧に供し、当該相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該事項を記載する方法
②磁気ディスク等をもって調製するファイルに書類に記載すべき事項を記録したものを交付する方法
また、①及び②の方法は、交付の相手方がファイルへの記録を出力することによる書類の作成ができるものでなければならない
3 本条の規定に違反した者には、100 万円以下の罰金が科せられる(法第 72 条第1項第
6号及び第7号)ほか、指示(法第 46 条)や業務停止命令(法第 47 条)等の対象となる。
(指示等)
第 46 条 主務大臣は、役務提供事業者又は販売業者が第 42 条、第 43 条、第 44 条若しくは前条の規定に違反し、又は次に掲げる行為をした場合において、特定継続的役務提供に係る取引のxx及び特定継続的役務提供契約を締結して特定継続的役務の提供を受ける者又は特定権利販売契約を締結して特定継続的役務の提供を受ける権利を購入する者
(以下この章において「特定継続的役務提供受領者等」という。)の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その役務提供事業者又は販売業者に対し、当該違反又は当該行為の是正のための措置、特定継続的役務提供受領者等の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる。
一 特定継続的役務提供等契約に基づく債務又は特定継続的役務提供等契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。
二 特定継続的役務提供等契約の締結について勧誘をするに際し、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
(第 44 条第1項第1号から第6号までに掲げるものを除く。)xxx、故意に事実を告げないこと。
三 特定継続的役務提供等契約の解除を妨げるため、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、特定継続的役務提供受領者等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと。
四 前3号に掲げるもののほか、特定継続的役務提供に関する行為であつて、特定継続的役務提供に係る取引のxx及び特定継続的役務提供受領者等の利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの
2 主務大臣は、前項の規定による指示をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
特定継続的役務提供においても、訪問販売等と同様、違法又は不当な行為が行われた場 合において、役務提供事業者又は販売業者に対してその営業を継続しながら必要な是正又 は改善措置をとらせることにより、法違反若しくは不当な状態を解消し、又はこうした状 態に至った原因となる事由を除外して、特定継続的役務提供の適正化を図るため、主務大 臣が役務提供事業者又は販売業者に対して指示を行うことができることとしたものである。解 説
1 本条により主務大臣が指示を行える場合は次に掲げる2又は3に該当する場合であって、「特定継続的役務提供に係る取引のxx及び役務の提供を受ける者又は購入者の利益が害されるおそれがあると(主務大臣が)認めるとき」である。
2 「役務提供事業者又は販売業者が第 42 条、第 43 条、第 44 条若しくは前条の規定に違反した場合」
これらの規定の違反行為について、役務提供事業者又は販売業者に対してその営業を継続しながら必要な是正又は改善措置をとらせることにより、法違反若しくは不当な状態を解消し、又はこうした状態に至った原因となる事由を除外して、特定継続的役務提供の適正化を図るものである。
3 「次に掲げる行為をした場合」
(1) 「特定継続的役務提供等契約に基づく債務又は特定継続的役務提供等契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。」
① 本号は、役務提供事業者又は販売業者が行う民事上の債務不履行についての規定である。
② 「特定継続的役務提供等契約に基づく債務」は、契約に基づく役務の提供又は権利の引渡しが基本的な債務であるが、当事者間で役務提供事業者又は販売業者の債務に関する特約が存在すれば、それに基づく債務も含まれる。
「特定継続的役務提供等契約の解除によつて生ずる債務」とは、役務提供事業者又は販売業者の原状回復義務等であり、受領済の金銭の返還義務等である。
したがって、例えば、特定継続的役務の提供を受ける者がクーリング・オフ行使が可能な場合にその通知を出しているにもかかわらず、業者が「クーリング・オフには応じない」等と言って受領した代金の返還を拒否することや、中途解約を申し出た場合にこれに応じないこと、不当に精算を遅らせることは本規定の違反となる。
(xxxxx・xxは、特定継続的役務受領者等が書面で通知を発した時点で効力を発生するものであり、業者がそれを承諾するか否かという問題ではない。)
③ 「履行の拒否」は、契約相手方の請求に対して明示的に拒否する場合もあろうが、明示的に拒否することはしないまでも、実態上「拒否」と認められる場合(契約の
相手方の請求を聞こうとしないなど)も含む。
④ 「不当な遅延」について、「不当」とあるのは、債務の履行の遅延につき、①同時履行の抗弁権があるなど、役務提供事業者又は販売業者に正当事由がある場合もあり得ること、②解除がなされた時から直ちに本号違反状態が発生すると解釈することは現実的ではなく、精算等に要する合理的な期間等社会通念上認められ得る猶予期間の間は、本号違反にならないと解釈することが妥当であること(ただし、この猶予期間は、客観的に判断されるものであって、当該役務提供事業者又は販売業者の独自の事情のみによって左右されるものではない。)という理由による。
(2) 「特定継続的役務提供等契約の締結について勧誘をするに際し、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(法第 44 条第1項第1号から第6号までに掲げるものを除く。)につき、故意に事実を告げないこと。」
当然告げられるべきもの(法第 44 条第1項第1号から第6号までに掲げているも
の。)については法第 44 条第2項において罰則の担保によって禁止されている。本号ではそれ以外の「購入者等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」を対象としている。
(3) 「特定継続的役務提供等契約の解除を妨げるため、当該特定継続的役務提供等契約に関する事項であつて、特定継続的役務提供受領者等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げないこと。」
法第 44 条第2項及び前号の規定において、勧誘の場面において顧客に対して重要事項を故意に事実を告げない行為が禁止され、または、主務大臣による指示の対象とされているのに加え、本号においては、申込みの撤回等を妨げるため重要事項を故意に告げない行為を禁止している。「(特定継続的役務提供受領者等の)判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」の範囲は、勧誘及び申込みの撤回等のいずれの場面においても同一である。
(4) 「前2号に掲げるもののほか、……主務省令で定めるもの」省令第 39 条において次のとおり定めている。
① 「特定継続的役務提供等契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘をし、又は特定継続的役務提供等契約の解除について迷惑を覚えさせるような仕方でこれを妨げること。」
「迷惑を覚えさせるような仕方」とは、客観的に見て相手方が迷惑を覚えるような方法であればよく、実際に迷惑と感じたか否かを問わない。具体的には深夜早朝や長時間の勧誘、帰宅の意思を表明しているのにこれに応じずさらに勧誘を継続すること等は、特に相手方がそれを承諾しているケース等を除いてこれに該当することが多いと考えられる。
② 「老人その他の者の判断力の不足に乗じ、特定継続的役務提供等契約を締結させ
ること。」
「老人その他の者」には、老人、未xx者等が一般的には該当し得るが、これらの者に対し、通常の判断力があれば締結しないような、本人にとって利益を害するおそれがあるような契約を締結させることは本号に該当する。なお、一般的に該当し得る者を例示しているが、外形的な要件のみによって判断されるものではなく、上記に限らず本号に該当する場合もある。
③ 「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行うこと。」
顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして客観的に見て不適当と認められる勧誘が行われた場合に適用されることとなる。いわゆる適合性原則を定めたものである。具体的には、販売業者等が顧客に対して、その商品等に関する知識や経験の不足につけ込む勧誘や、財産の状況に照らして不相応又は不要な支出を強いる契約の勧誘を行うことは該当する。
④ 「特定継続的役務提供等契約を締結するに際し、当該契約に係る書面に年齢、職業その他の事項について虚偽の記載をさせること。」
「その他の事項」とは、顧客の信用能力についての情報(持家の有無、勤続年数、収入等)が中心であるが、特にこれに限定するものではない。
⑤ 「特定継続的役務提供等契約の相手方に当該契約に基づく債務を履行させるため、次に掲げる行為を行うこと。
○ 当該特定継続的役務提供等契約の相手方の年収、預貯金又は借入れの状況その他の支払能力に関する事項について虚偽の申告をさせること。
○ 当該特定継続的役務提供等契約の相手方の意に反して貸金業者の営業所、銀行の支店その他これらに類する場所に連行すること。
○ 当該特定継続的役務提供等契約の相手方に割賦販売法第 35 条の3の3第1項に規定する個別信用購入あつせん関係受領契約若しくは金銭の借入れに係る契約を締結させ、又は預貯金を引き出させるため、迷惑を覚えさせるような仕方でこれを勧誘すること。」
「年収、預貯金又は借り入れの状況その他の支払能力に関する事項」とは、消費者が特定継続的役務提供等受領契約の履行に要する金銭を得るための契約を締結する際に、事業者が消費者の支払能力について調査を行う際の調査事項であり、年収、預貯金、借入れの状況の他に、例えば信用購入あつせんに係る債務の支払の状況なども含まれる。
「その他これらに類する場所」とは、消費者が特定継続的役務提供等契約の履行に要する金銭を得るための契約を締結する営業所等の場所であり、例えばATMなどを指す。
「連行」とは事業者が消費者を物理的に連れて行くことを意味しており、事業者
が同行しない場合は対象にはならない。
「迷惑を覚えさせるような仕方」については、①参照。なお、事業者が迷惑を覚えさせるような仕方で消費者に対し金銭の借入れ等に関する契約の締結のため貸金業者の支店等に赴くべき旨の勧誘を行う場合は、当該事業者自身が貸金業者の支店等に同行するしないにかかわらず、これに該当することとなる。
⑥ 「法第 48 条第2項ただし書の政令で定める関連商品の販売に係る契約の解除を妨げるため、当該商品の販売に係る契約を締結した際、特定継続的役務提供受領者等に当該商品を使用させ又はその全部若しくは一部を消費させること。」
本号は、クーリング・オフを妨げるために消耗品を契約したその場で使用又は消費させることを規定したものである。
⑦ 「関連商品販売契約に基づく債務又は関連商品販売契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること(役務提供事業者又は販売業者が関連商品の販売の代理又は媒介を行つている場合にあつては、関連商品販売契約に基づく債務又は関連商品販売契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させることを唆すこと。)。」
本号は、関連商品の解約・返品を巡るトラブルが相当数みられることに対応するため、関連商品販売契約の解除によって生ずる債務の履行を拒否又は遅延させることを規制するものである。
なお、関連商品の代理・媒介については、法第 48 条の解説2を参照。
4 「利益が害されるおそれがある」とは役務提供事業者又は販売業者が法第 42 条から第 45 条までの規定に違反し、又は本条に規定する行為を行った事実のみならず、その違反行為が本法の保護法益を害するおそれがあると主務大臣が認めるに足りる程度の場合をいう。
5 「当該違反又は当該行為の是正のための措置、特定継続的役務提供受領者等の利益の保護を図るための措置その他の必要な措置をとるべきことを指示することができる」とは、主務大臣が役務提供事業者又は販売業者に対し、違法状態又は不当な状態を改善させたり、消費者利益の保護を図るため必要な措置を行わせることを具体的に指示できることをいう。
「当該違反又は当該行為の是正のための措置」とは、例えば、役務提供事業者が特定継続的役務提供契約の締結について迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘していると認められる場合など、役務提供事業者又は販売業者について認定された具体的違反行為について、違反行為を今後繰り返さないために当該違反に係る規制の遵守を求め、改善のための取組等について報告をさせること等である。
「特定継続的役務提供受領者等の利益の保護を図るための措置」とは、例えば、役務提供事業者又は販売業者が勧誘の際に不実告知を行っていた場合に、特定継続的役務提供受領者等の誤認を排除するため当該告知が事実に反していた旨の通知をさせる(例:
パソコン教室の勧誘にあたり、事実に反して「法律上資格を取る義務がある」と告げており、当該販売業者等の不実告知を認定した場合に、特定継続的役務提供受領者等に対し「実際にはそのような法律上の義務はない」旨の通知をさせる)こと等である。
上記は主務大臣が指示できる事項の例示であり、これら以外の措置についても、その必要性が認められる限り指示を行うことができるという旨を明らかにするために、「その他の必要な措置」と規定している。
6 なお、本条に基づき主務大臣が指示する場合については、平成 14 年2月1日より消費者保護の強化等の観点から事業者名を含め、原則として指示をした旨を公表するよう運用していたが、平成 28 年改正により公表を主務大臣の義務とした(第2項)。
7 本条第1項の規定に違反して指示に従わない者に対しては6月以下の懲役又は 100 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 71 条第2号)ほか、業務停止命令(法第
47 条)等の対象となる。
(業務の停止等)
第 47 条 主務大臣は、役務提供事業者又は販売業者が第 42 条、第 43 条、第 44 条若しく
は第 45 条の規定に違反し若しくは前条第1項各号に掲げる行為をした場合において特定継続的役務提供に係る取引のxx及び特定継続的役務提供受領者等の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は役務提供事業者若しくは販売業者が同項の規定による指示に従わないときは、その役務提供事業者又は販売業者に対し、2年以内の期間を限り、特定継続的役務提供に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。この場合において、主務大臣は、その役務提供事業者又は販売業者が個人である場合にあつては、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止を併せて命ずることができる。
2 主務大臣は、前項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
特定継続的役務提供をめぐり違法行為等が行われた場合、その行為は罰則の対象となる場合もあるが、このような行為を引き続き行うおそれのある悪質な業者を放置しておくことは被害の拡大を招くものである。このため、主務大臣はこのような業者を名宛人として、業務停止命令及び業務禁止命令を発することができることとするものである。
解 説
1 本条により主務大臣が業務停止を命ずることができる場合は、
(1) 法第 46 条に規定する指示を行うことができる場合であって「取引のxx及び役務の提供を受ける者又は購入者の利益が著しく害されるおそれがあると(主務大臣が)認めるとき」又は、
(2) 法第 46 条の規定による指示に従わないときである。
2 法第 46 条に規定する「利益が害されるおそれがあると認めるとき」(指示のみが行われる場合)と本条に規定する「利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき」(業務停止命令が行われる場合)の違いについては、当該違反行為の個々の実態に即して、購入者の利益の保護を図るために業務を停止させるまでに至らずとも必要な措置をとることで改善されると判断できる場合と、業務停止命令を発動しなければ実態が改善されないと判断される場合との違いである。なお、当然のことながら、業務停止命令を行う場合において、併せて法違反又は不当な状態の改善等のための措置を指示することも可能である。
3 業務停止命令の実効性をより高めるため、平成 28 年改正により、業務停止命令の対象となる個人事業者に対して、業務停止命令と併せて業務禁止命令を発出することができることとした。業務禁止命令は、後述のとおり、①業務停止命令を受けた範囲の業務を新たに開始すること、②同種業務を行う会社の役員となることを禁止するものであるが、個人事業主の場合、業務停止命令によって当該個人事業主は新たに業務を開始することは禁止されることとなり、①の内容について改めて規定する必要はないことから、②の内容のみを規定してい(法人の役員等又は個人事業者の使用人に対する業務禁止命令については法第 47 条の2を参照)。
4 業務禁止命令に係る条文の解釈は以下のとおり。
(1) 「この場合において」
「業務停止命令を発出する場合において」の意である。業務停止命令の発出がされない場合に業務禁止命令のみを発出することはできない。
(2) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」
業務禁止命令は、業務停止命令と同一の期間を定めて発出される。これは単に期間の長さが一致しているというだけでなく、始期と終期についても一致することとなる。そのため、例えば業務停止命令を発出し、その期間が明けた後に業務禁止命令を発出することはできない。
(3) 「当該停止を命ずる範囲の業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることの禁止」
「当該停止を命ずる範囲の業務」とは、業務停止命令によって停止が命じられる業務であり、その範囲内において業務禁止を命じることができる。例えば「特定継続的役務提供に係る契約の締結に関する業務」について業務停止命令が発出されている場合には、業務禁止命令の内容としては、「特定継続的役務提供に係る契約の締結に関する業務を営む法人において、特定継続的役務提供に係る契約の締結に関する業務を担当する役員となることを禁止する」等ということになる。
(4) 「法人」
法第8条第1項後段に規定する「法人」と同様に、いわゆる人格のない社団におけ
る役員に相当する者になることついても禁止している。
(5) 「当該業務を担当する役員」
法第8条第1項後段に規定する「役員」と同様に、「業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者をいい、相談役、顧問その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、法人に対し業務を執行する社員、取締役、執行役、代表者、管理人又はこれらに準ずる者と同等以上の支配力を有するものと認められる者」になることも禁止している。
5 第2項は、主務大臣が業務停止命令又は個人事業主に対する業務禁止命令を発したときは、その旨の公表を義務付けるものである。これは、事業者名を広く消費者に知らしめて被害の拡大の防止を図るとともに、会社等の使用者側が、事情を知らずに、業務禁止を命じられた者に対し業務禁止を命じられた範囲の業務を行わせてしまうことや当該業務の担当役員に就任させてしまうことを防止するためのものである。
6 本条第1項の命令に違反した者に対しては3年以下の懲役又は300 万円以下の罰金(併科あり)が科せられる(法第 70 条第2号)。
(業務の禁止等)
第 47 条の2 主務大臣は、役務提供事業者又は販売業者に対して前条第1項の規定により業務の停止を命ずる場合において、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による特定継続的役務提供に関する業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者に該当するときは、その者に対して、当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて、当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)の禁止を命ずることができる。
一 当該役務提供事業者又は当該販売業者が法人である場合 その役員及び当該命令の日前 60 日以内においてその役員であつた者並びにその使用人及び当該命令の日前 60日以内においてその使用人であつた者
二 当該役務提供事業者又は当該販売業者が個人である場合 その使用人及び当該命令の日前 60 日以内においてその使用人であつた者
2 主務大臣は、前項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。
趣 旨
本条においては、特定継続的役務提供を行う法人の役員等及び個人事業主の使用人に対する業務禁止命令について規定している。
解 説
業務停止命令と同時に、処分を受けた法人の役員等に対し、新たに業務を開始すること等を禁止し、業務停止命令が実質的に遵守されるようにするものである。
1 条文の解釈は以下のとおり。
(1) 「前条第1項の規定により業務の停止を命ずる場合において」
第 47 条後段と同様に、「業務停止命令を発出する場合において」、の意である。
(2) 「当該各号に定める者が当該命令の理由となつた事実及び当該事実に関してその者が有していた責任の程度を考慮して当該命令の実効性を確保するためにその者による特定継続的役務提供に関する業務を制限することが相当と認められる者として主務省令で定める者」
業務停止命令を受けた法人の役員について、役員であることをもって一律に同種の業務を行う他の法人の役員となること等を禁止することとした場合、問題となった違反行為について責任の薄い者が業務禁止命令の対象となり得ることとなるため、業務停止命令を発出する事案ごとに業務禁止命令の対象となる者を特定すべく、主務省令で定める者に該当する場合に限って業務禁止命令の対象となることとしている。こうした者について、省令第 39 条の2において、「法第 47 条第1項の規定により停止を命ぜられた業務の遂行に主導的な役割を果たしている者」と規定している。
なお、個人事業主に対して業務禁止命令が行われる場合(法第 47 条第1項後段)においては、当該個人事業主が停止を命じられた業務の遂行に主導的な役割を果たしその責任を負うことは明らかであることから、このような要件は規定されていない。
(3) 「当該停止を命ずる期間と同一の期間を定めて」法第 47 条の解説4(2)を参照。
(4) 「当該停止を命ずる範囲の業務を新たに開始すること(当該業務を営む法人の当該業務を担当する役員となることを含む。)」
「当該停止を命ずる範囲の業務」については法第 47 条の解説4(3)を参照。
例えば「特定継続的役務提供に係る契約の締結に関する業務」について業務停止命令が発出されている場合には、業務禁止が命じられる内容としては、「法人を新たに設立し、当該法人において特定継続的役務提供に係る契約の締結に関する業務を開始する(特定継続的役務提供に係る契約に関する業務を担当する役員となることを含む。)ことを禁止する」等となる。なお、「役員」については法第 47 条の解説4(5)を参照。
(5) 「当該販売業者又は当該役務提供事業者が法人である場合」
法第8条第1項後段で定義している「法人」が該当し、人格のない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。
(6) 「当該命令の日前 60 日以内においてその役員であつた者」
「役員」とは第8条第1項後段において定義されている「役員」である。これは、実質的に支配力を有している者も含まれることから、例えば形式的に取締役の立場から退任しながらも実質的にはそれ以後も特定継続的役務提供に関する営業活動の具体的な指示を引き続き行っていたような者は、退任の日が当該命令の日前 60 日以内であったか否かを問うまでもなく、当該命令の日においても「役員」に該当するものと評
価されることになる。
(7) 「使用人」
「使用人」の定義は第8条の2第1号で規定されており、「その営業所の業務を統括する者その他の政令で定める使用人」である。これは、役員には該当しないものの、これに準ずるような役割を果たす立場にある使用人は法人の業務の中核を担っているものと評価されることから、そのような従業員についても、業務禁止命令の対象となり得ることを規定したものである。具体的には政令第3条の3において以下のとおり規定しており、「その他これに準ずる者」をそれぞれ主務省令で規定している。
①(第1号)営業所又は事務所の業務を統括する者その他これに準ずる者として主務省令で定める者
営業所長や事務所長といった、一定の区域内における業務を統括する者を表している。
②(第2号)法第8条第1項、第 15 条第1項、第 23 条第1項、第 39 条第1項から第
3項まで、第 47 条第1項、第 57 条第1項又は第 58 条の 13 第1項の規定により停止を命ぜられた業務を統括する者その他これに準ずる者として主務省令で定める者
(前号に掲げる者を除く。)
本法の対象となる各取引類型について業務停止命令を受けた業務を統括する者及びこれに準ずる者を表しており、例えば、特定継続的役務提供について業務停止命令を受けた法人においては、停止を命ぜられた業務を統括する部署の長ということになる。
また、①及び②の「これに準ずる者として主務省令で定める者」は、省令第7条の2において、「部長、次長、課長その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、これらの号に規定する業務を統括する者の職務を日常的に代行する地位にある者その他の実質的に当該職務を代行する者」と規定しており、このような者についても業務禁止命令の対象となり得る。
2 前条及び本条による業務禁止命令についてまとめると、以下のとおりとなる。
① 業務停止命令が法人に対して行われた場合は、当該法人の役員若しくは使用人又は当該命令以前 60 日以内にこれらの立場にあった者であって、かつ、停止を命じられた業務に主導的な役割を果たしている者に対し、業務停止命令と同一の期間において当該命令の範囲の業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できる。
② 業務停止命令が個人事業主に対して行われた場合は、
x 当該個人事業主本人に対し、業務停止命令と同一の期間において当該業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できるほか、
ロ 当該個人事業主の使用人又は当該命令以前 60 日以内に使用人であった者であって停止を命じられた業務に主導的な役割を果たしている者に対し、業務停止命令と同
一の期間において当該命令の範囲の業務を新たに開始すること及び当該業務を営む法人の担当する役員となることの禁止を命令できる。
3 第2項は、主務大臣が業務禁止命令をしたときは、その旨の公表を義務付けるものである。解説についてはx条の5を参照のこと。
4 本条第1項の命令に違反した者に対しては3年以下の懲役又は 300 万円以下の罰金
(併科あり)が科せられる(法第 70 条第2号)。
(特定継続的役務提供等契約の解除等)
第 48 条 役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供等契約を締結した場合におけるその特定継続的役務提供受領者等は、第 42 条第2項又は第3項の書面を受領した日から起算して8日を経過したとき(特定継続的役務提供受領者等が、役務提供事業者若しくは販売業者が第 44 条第1項の規定に違反してこの項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は役務提供事業者若しくは販売業者が同条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでにこの項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除を行わなかつた場合には、当該特定継続的役務提供受領者等が、当該役務提供事業者又は当該販売業者が主務省令で定めるところによりこの項の規定による当該特定継続的役務提供等契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日を経過したとき)を除き、書面によりその特定継続的役務提供等契約の解除を行うことができる。
2 前項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除があつた場合において、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務の提供に際し特定継続的役務提供受領者等が購入する必要のある商品として政令で定める商品(以下この章並びに第 58 条の 22 第2項及
び第 66 条第2項において「関連商品」という。)の販売又はその代理若しくは媒介を行
つている場合には、当該商品の販売に係る契約(以下この条、次条及び第 58 条の 22 第
2項において「関連商品販売契約」という。)についても、前項と同様とする。ただし、特定継続的役務提供受領者等が第 42 条第2項又は第3項の書面を受領した場合において、関連商品であつてその使用若しくは一部の消費により価額が著しく減少するおそれがあ る商品として政令で定めるものを使用し又はその全部若しくは一部を消費したとき(当 該役務提供事業者又は当該販売業者が当該特定継続的役務提供受領者等に当該商品を使 用させ、又はその全部若しくは一部を消費させた場合を除く。)は、この限りでない。
3 前2項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除及び関連商品販売契約の解除は、それぞれ当該解除を行う旨の書面を発した時に、その効力を生ずる。
4 第1項の規定による特定継続的役務提供等契約の解除又は第2項の規定による関連商品販売契約の解除があつた場合においては、役務提供事業者若しくは販売業者又は関連商品の販売を行つた者は、当該解除に伴う損害賠償若しくは違約金の支払を請求するこ
とができない。
5 第1項の規定による特定権利販売契約の解除又は第2項の規定による関連商品販売契約の解除があつた場合において、その特定権利販売契約又は関連商品販売契約に係る権利の移転又は関連商品の引渡しが既にされているときは、その返還又は引取りに要する費用は、販売業者又は関連商品の販売を行つた者の負担とする。
6 役務提供事業者又は販売業者は、第1項の規定による特定継続的役務提供等契約の解 除があつた場合には、既に当該特定継続的役務提供等契約に基づき特定継続的役務提供 が行われたときにおいても、特定継続的役務提供受領者等に対し、当該特定継続的役務 提供等契約に係る特定継続的役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。
7 役務提供事業者は、第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除があつた場合において、当該特定継続的役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、特定継続的役務の提供を受ける者に対し、速やかに、これを返還しなければならない。
8 前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。
趣 旨
特定継続的役務提供においては、取引の対象である役務提供の内容を客観的に確定することが難しいこと、また、その内容が専門的であること、その効果の達成等が不確実であること等から、勧誘にあたり巧みな言辞で必ず効果があがると信じ込まされてしまうなど不適切な誘引行為等が行われることにより、特定継続的役務提供に係る取引に不慣れな契約の相手方が契約内容を十分理解・検討せず契約締結の意思が不安定なまま契約の締結に至り、後日トラブルを生じたり、思わぬ損失を被る場合が少なくない。
このような弊害を除去するため、いわゆるクーリング・オフ制度、すなわち契約の締結後一定期間内は特定継続的役務提供受領者等が無条件で契約の解除を行うことができる制度を設け、特定継続的役務提供受領者等に再考の機会を与えるものである。
解 説
1 第1項について
(1) 行使期間について
クーリング・オフを行使することができる期間は、訪問販売、電話勧誘販売同様、 法第 42 条第2項又は第3項の書面を受領した日を含めて8日間を経過するまでである。なお、これらの書面を交付されなかった場合等には、この期間が進行しないため、ク ーリング・オフをする権利が留保されていることになる。
(2) 「特定継続的役務提供受領者等が、……書面を受領した日から起算して8日を経過したとき」
平成 16 年改正によって導入された規定である。それ以前は、消費者がクーリング・オフをしようとした際に、役務提供事業者又は販売業者が「これは特別な契約なので
クーリング・オフできない。」等と虚偽の説明をしたり威迫を行ったりして、消費者が誤認(法第 49 条の2の解説1参照)・困惑(法第 44 条の解説3参照)してクーリング・
オフできなかった場合でも、法第 42 条第2項又は第3項の書面を受領した日から8日を経過したときは、クーリング・オフをすることができなくなってしまう状況にあった。
消費者からのクーリング・オフを妨害するため、事業者が虚偽の説明を行ったり威迫して困惑させたりする行為は、罰則をもって禁止しており、このような違法行為を受けてクーリング・オフできなくなった消費者が救済されないのは妥当でない。
したがって、このような事業者の違法行為を受けて消費者が誤認又は困惑してクーリング・オフしなかった場合には、その消費者は、法定書面を受領した日から起算して8日を経過した場合であっても、いつでもクーリング・オフできることとした。ただし、法律関係の安定性の確保にも配慮して、その事業者がクーリング・オフできる旨を記載した書面を改めて交付し、それから8日を経過すると、その消費者は、クーリング・オフをすることができなくなることとした。(法第9条の解説1(4)ハの図解参照)
なお、事業者が上記法定書面を交付するにあたっては、「主務省令で定めるところにより」交付する必要があり、省令では、当該書面の記載事項、様式の他、交付の際の事業者の説明義務を定めている(省令第 39 条の2の2)。よって事業者は、上記書面を交付するとすぐに、消費者がその書面を見ていることを確認した上で、消費者に対して「これから8日経過するまではクーリング・オフできる」こと等を口頭で告げる必要があり、そのようにして交付されなかった場合は、交付より8日間経過した場合であってもその消費者は依然としてクーリング・オフすることができることとなる。一度、不実告知や威迫といったクーリング・オフ妨害行為を受けた消費者は、クーリング・オフできないと思い込んでいることも多く、「依然としてこれら8日経過するまではクーリング・オフできる」旨が記載された書面をただ交付されただけでは、このような消費者の十分な救済とはならないことから、このような説明義務を規定したものである。
(3) 「書面により」
これは、クーリング・オフが契約の相手方たる消費者からの一方的な契約の解除についての意思表示であるので「口頭」ではなく、「書面」によってその意思を表示することにより、当事者間の法律関係を明確化するとともに、後日紛争が生ずることのないようにする趣旨である。(仮に書面でなく、口頭でクーリング・オフを認めると証拠が残らないため、業者が「聞いていない」と抗弁すると紛争となるおそれがある。そのため、証拠を残すという意味で内容証明郵便で行うことが望ましい。)本法は、書面と電磁的記録を別個のものとして書き分けているため、電磁的記録は書面に含まれず、例えば電子メールでクーリング・オフの申出をすることは、「書面」によって意思表示
したとはいえない。
なお、書面ではなく口頭で特定継続的役務提供受領者等がクーリング・オフを申し出て事業者が異議を唱えずこれを受領した場合には、クーリング・オフと同趣旨の合意解除が成立したものと考えることができる。
2 第2項について
第2項については、関連商品に係るクーリング・オフについて定めたものである。
特定継続的役務提供に係る取引に際しては、役務の提供に際しその相手方が購入する必要のある商品の販売等があわせて行われる場合が多い。このような場合において、役務提供契約に係るクーリング・オフが認められても、当該商品の販売に係る契約についてもクーリング・オフが認められないと相手方が十分に保護されないことになる。
このため、こうした商品に係る販売契約についてもクーリング・オフをすることができることとするものである。ただし、取引の安定性を確保する観点から、クーリング・オフを行使することができる商品は、特定継続的役務ごとに、政令で指定する商品(「関連商品」)に限るとともに、関連商品についてクーリング・オフができるのは本体の契約がクーリング・オフされた場合に限られる。
「特定継続的役務の提供に際し特定継続的役務提供受領者等が購入する必要のある商品」とは、役務提供事業者又は販売業者により販売(代理又は媒介を含む。)されるものであって、当該商品を購入しないと役務の提供を受けられないものを指す。(法第 42 条第2項第1号の用語と同義。)他方、役務の提供を受けるに当たって必ずしも購入する必要がないいわゆる「推奨品」はこれに含まれない。したがって、仮に関連商品として政令別表第5で指定されている商品(具体的な品目は(1)参照)であっても、当該商品を購入しないと役務の提供を受けられないものとして販売(代理又は媒介を含む。)されたものでない場合には、本条のクーリング・オフや次条の中途解約の対象外となる。
例えば、エステティックサロンの店舗において、施術の際に使うローション(化粧品)はもちろん、家庭において継続的に飲む必要があるとして購入させられた健康食品や定期的に歯に塗布する必要があるとして購入させられたホワイトニングジェルなどについても当てはまる。
なお、「関連商品」であるか「推奨品」であるかは、①商品販売時に当該商品の購入が必要である旨の説明がなされているか、②必要である旨の説明がなされていない場合においては商品と役務との関連性(一体性)で実質的に判断される。
例えば、①「この化粧品を購入しなければ役務の提供は受けられない。」と説明している場合や、②「この学習用ソフトの購入は任意です。」と説明しているが、実際には当該学習用ソフトを閲覧していることを前提に役務提供が行われており、購入していなければ役務提供を受ける価値がなくなるような場合には、上述の観点から「関連商品」に該当すると考えられる。
(1) 政令で定める関連商品について
関連商品については、各特定継続役務の特性に応じて以下の商品を政令で指定している。(政令別表第5)
イ 別表第4の1の項に掲げる特定継続的役務(いわゆるエステティック)については、次に掲げる商品
① 動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって、人が摂取するもの(医薬品を除く。)
いわゆる健康食品、栄養補助剤等を指す。
② 化粧品、石けん(医薬品を除く。)及び浴用剤
③ 下着
④ 電気による刺激又は電磁波若しくは超音波を用いて人の皮膚を清潔にし又は美化する器具又は装置
いわゆる美顔器、脱毛器等を指す。
ロ 別表第4の2の項に掲げる特定継続的役務(いわゆる美容医療)
① 動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって、人が摂取するもの
② 化粧品
③ マウスピース(歯牙の漂白のために用いられるものに限る。)及び歯牙の漂白剤
④ 医薬品及び医薬部外品であって、美容を目的とするもの
役務提供事業者又は販売業者が、美容を目的とした商品として販売等を行った医薬品及び医薬部外品を指す。よって、美容医療契約の治療に伴う傷の治療のために販売された抗生剤などの医薬品等は、美容を目的とするものではないため関連商品に含まれない。
ハ 別表第4の3から5の項に掲げる特定継続的役務(いわゆる語学教室、家庭教師、学習塾)については、次に掲げる商品
① 書籍
② 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法により音、影像又はプログラムを記録した物
いわゆる学習用ソフトを記録した、USB、SDカード、カセット・テープ、ビデオ・テープ、CD、CD-ROM、DVD等が該当する。
③ ファクシミリ装置及びテレビ電話装置
ニ 別表第4の6の項に掲げる特定継続的役務(いわゆるパソコン教室)については、次に掲げる商品
① 電子計算機及びワードプロセッサー並びにこれらの部品及び附属品
② 書籍
③ 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法により音、映像又はプログラムを記録した物
ホ 別表第4の7の項に掲げる特定継続的役務(いわゆる結婚相手紹介サービス)については、次に掲げる商品
① 真珠並びに貴石及び半貴石
② 指輪その他の装身具
(2) いわゆる消耗品のクーリング・オフについて
第2項ただし書きは、消費者がいわゆる消耗品を「使用又は消費」してしまった場合にはクーリング・オフができなくなる旨を定めたものである。
消耗品の場合には、一度開封したり、その一部を使用又は消費しただけでもその商品価値が全くなくなってしまうものが多い。このような消耗品について、その使用又は消費後もクーリング・オフを認めることは、関連商品の販売を行った者に不合理な負担を過度に負わせることとなるので、クーリング・オフができる場合を限定している。
イ 「第 42 条第2項又は第3項の書面を受領した場合において」
クーリング・オフに関する事項は、法第 42 条第2項及び第3項の書面の必要的記
載事項となっているが、これに関して省令第 34 条第2項及び第 36 条第2項では、消耗品についてクーリング・オフできないこととする場合には所要の事項を記載すべきことが定められている。したがって、法第 42 条第2項及び第3項の書面に「ク
ーリング・オフできる」旨のみ記載されており、省令第 34 条第2項及び第 36 条第
2項に規定する事項の記載が欠如している場合には、消耗品以外の商品同様に第1項の期間内はクーリング・オフできることとなる。
ロ 「その使用若しくは一部の消費により価額が著しく減少するおそれがある商品として政令で定めるもの」
「使用若しくは一部の消費」とは、減耗の有無にかかわらず、要するに使ったときの意味であり「価額が著しく減少する」とは、その商品としての価値がほとんどなくなるという意味である。政令指定の要件は、このように一度使えば商品価値がほとんどなくなってしまう「おそれがある」ことであるが、その商品の性格から通常の場合このような危険性が生ずると合理的に予見されればよい。
具体的には、政令第 14 条第2項で、エステティックの関連商品のうち以下の商品及び美容医療の関連商品の全てが指定されている。
① 動物及び植物の加工品(一般の飲食の用に供されないものに限る。)であって、人が摂取するもの(医薬品を除く。)
② 化粧品、石けん(医薬品を除く。)及び浴用剤
ハ 「使用し又はその全部若しくは一部を消費したとき(当該役務提供事業者又は当該販売業者が当該特定継続的役務提供受領者等に当該商品を使用させ、又はその全部若しくは一部を消費させた場合を除く。)」
どのような状況に至ったとき、この「使用し又はその全部若しくは一部を消費し
た」という要件に該当することとなるかは、個々具体的なケースに応じて判断せざるを得ないが、一般的な目安としては、商品価値の回復が困難になったときと考えられる。したがって、容易に包装し直せる商品の包装を破いただけでは「使用又は消費」とは言えないが、密封されている商品の密封を開けてしまった(例えば、缶詰を開けてしまったとき等)には「使用又は消費」ということになる。
また、セット商品等の場合、そのうち一品を使用又は消費したときでも、そのセット商品全体についてクーリング・オフができなくなるのか、それとも使用又は消費した商品以外の商品については、クーリング・オフができるのかは、通常販売されている商品の最小単位を基準として判断される。すなわち、使用又は消費した商品にかかる最小単位部分については、クーリング・オフすることができない。これは売買契約の形式如何を問わない。例えば、化粧品セットのうちクリームだけを消費した場合、他の化粧水、ファウンデーション、口紅等についてはクーリング・オフを妨げない。また、その際、クーリング・オフをすることができない部分の価格は、その単位部分がばら売りされる時の通常の販売価格と考えるべきである。
したがって、セット商品であるが故に全体の価格が割引になっている場合において、クーリング・オフがされたときは、通常、代金の支払いが未だなされていなければ、関連商品の販売を行った者は、当該使用又は消費した商品のばら売り価格に相当する額の金銭の支払いを請求することができ、また、代金の支払いが済んでいれば、関連商品の販売を行った者は、割引価格から当該使用又は消費した商品のばら売り価格を差し引いた価格に相当する額を払い戻さなければならないということになる。
なお、事業者が商品を販売したときにその場で消費者を促してその商品を使わせたような場合は、本項本文の原則にもどり、所定の期間内はクーリング・オフできることとなる。
(3) 関連商品の販売の代理、媒介について
関連商品については、当該役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供受領者等に直接販売する場合はもちろん、当該関連商品を役務提供事業者又は販売業者以外の第三者が販売する場合についても、①関連商品の販売を行う者の名前で役務提供事業者又は販売業者が代理人として、関連商品販売契約を締結する(代理)、②役務提供事業者又は販売業者が、特定継続的役務提供受領者等と関連商品の販売を行う者との間を取り持つ(媒介)、といったケースがあり得るため、このようなケースについても、契約解除の対象とするものである。(したがって、「代理」の場合については、役務提供事業者又は販売事業者が関連商品の販売を行う第三者を代理して関連商品販売契約に直接関与するのに対して、「媒介」の場合には、役務提供事業者又は販売業者は特定継続的役務提供受領者等と関連商品の販売を行う者との間を取り持つに過ぎないという違いがある。具体的には、特定の業者との了解のもとに、関連商品を当該業者
から買うべきことを指定すること等がこの「媒介」に該当する。)
また、役務提供事業者又は販売業者が一方的に関連商品の販売を行う第三者を紹介したに過ぎない場合にはこの「代理、媒介」には当たらない。(例えば、ある書籍について、「B書店に行けばおいてある。」と紹介した場合。)
3 第3項関係
第3項は民法第 97 条の到達主義の例外を定めるものである。特定継続的役務提供受領者等が検討できる期間を、実質8日間確保することとしたものである。
4 第4項関係
第4項は、クーリング・オフがなされた場合、役務提供事業者若しくは販売業者又は関連商品の販売を行った者は、債務不履行に基づく損害賠償の請求ができないことはもちろんであるが、クーリング・オフの趣旨に鑑み、単なる損失補償の意味を持つ損害賠償、違約金も請求できないことを規定するものである。
5 第5項関係
第5項は、特定権利販売契約又は関連商品販売契約についてクーリング・オフをした場合において、権利・商品の返還又は引取りに要する費用により、関連商品の代金等相当額が一部相殺されてしまうことを防ぎ、クーリング・オフの趣旨を徹底させるため、関連商品の返還等の費用は販売業者又は関連商品の販売を行った者の負担とすることを規定するものである。
6 第6項関係
第6項は、クーリング・オフの効果の特例を設けたものである。
クーリング・オフの趣旨に鑑み、特定継続的役務提供受領者等の保護を徹底させるため、民法上の不当利得返還請求の特例を設けたものである。
本項の規定により、クーリング・オフ期間内に役務の提供がなされた後、クーリング・オフが行使されると、業者は何らの対価も得られないこととなるため、その反射的効果として、クーリング・オフ期間内に行う役務の提供は一般的には自粛されることとなると考えられる。
7 第7項関係
第7項は、クーリング・オフの効果の特例を設けたものである。
クーリング・オフされた役務提供契約の性質によっては、その解除の効果が非遡及となる(民法第 620 条(賃貸借の解除)、第 652 条(委任の解除)等)ことから、入会金等の名目で既に金銭を支払った者が役務の提供を受ける前にクーリング・オフを行使しても、当該クーリング・オフの効果が非遡及となると解される場合には、民法上当然には当該入会金等は返還されないおそれがあるので、これら入会金等の返還義務を規定したものである。
8 第8項関係
第8項は、役務提供事業者若しくは販売業者又は関連商品の販売を行った者に対する
いわば片面的強行規定であることを明らかにしたものである。
第 49 条 役務提供事業者が特定継続的役務提供契約を締結した場合におけるその特定継続的役務の提供を受ける者は、第 42 条第2項の書面を受領した日から起算して8日を経過
した後(その特定継続的役務の提供を受ける者が、役務提供事業者が第 44 条第1項の規定に違反して前条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は役務提供事業者が第 44 条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに前条第1項の規定による特定継続的役務提供契約の解除を行わなかつた場合には、当該特定継続的役務の提供を受ける者が、当該役務提供事業者が同項の主務省令で定めるところにより同項の規定による当該特定継続的役務提供契約の解除を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日を経過した後)においては、将来に向かつてその特定継続的役務提供契約の解除を行うことができる。
2 役務提供事業者は、前項の規定により特定継続的役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
一 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始後である場合 次の額を合算した額
イ 提供された特定継続的役務の対価に相当する額
ロ 当該特定継続的役務提供契約の解除によつて通常生ずる損害の額として第 41 条第
2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
二 当該特定継続的役務提供契約の解除が特定継続的役務の提供開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額として第 41 条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額
3 販売業者が特定権利販売契約を締結した場合におけるその特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者は、第 42 条第3項の書面を受領した日から起算して8日を経過した後
(その特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者が、販売業者が第 44 条第1項の規定に違反して前条第1項の規定による特定権利販売契約の解除に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者が第 44 条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに前条第1項の規定による特定権利販売契約の解除を行わなかつた場合には、当該特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者が、当該販売業者が同項の主務省令で定めるところにより同項の規定による当該特定権利販売契約の解除を
行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日を経過した後)においては、その特定権利販売契約の解除を行うことができる。
4 販売業者は、前項の規定により特定権利販売契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務の提供を受ける権利の購入者に対して請求することができない。
一 当該権利が返還された場合 当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額
(当該権利の販売価格に相当する額から当該権利の返還されたときにおける価額を控除した額が当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額を超えるときは、その額)
二 当該権利が返還されない場合 当該権利の販売価格に相当する額
三 当該契約の解除が当該権利の移転前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
5 第1項又は第3項の規定により特定継続的役務提供等契約が解除された場合であつて、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供受領者等に対し、関連商品の販売又 はその代理若しくは媒介を行つている場合には、特定継続的役務提供受領者等は当該関 連商品販売契約の解除を行うことができる。
6 関連商品の販売を行つた者は、前項の規定により関連商品販売契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を特定継続的役務提供受領者等に対して請求することができない。
一 当該関連商品が返還された場合 当該関連商品の通常の使用料に相当する額(当該関連商品の販売価格に相当する額から当該関連商品の返還されたときにおける価額を控除した額が通常の使用料に相当する額を超えるときは、その額)
二 当該関連商品が返還されない場合 当該関連商品の販売価格に相当する額
三 当該契約の解除が当該関連商品の引渡し前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
7 前各項の規定に反する特約で特定継続的役務提供受領者等に不利なものは、無効とする。
趣 旨
特定継続的役務提供においては、①契約期間が一定程度長期にわたるため、役務受領者の側に事情変更が生じ、引き続き役務の提供を受けることが困難となる状況が発生した場合、②取引の対象である役務提供の内容を客観的に確定することが難しいこと、提供され
る役務の効果や目的の実現が不確実であること等から、役務受領者が期待した役務の提供又は効果等が得られず、以後の役務提供を望まない場合等において、役務受領者が契約の解除を希望しても、事業者がこれに応じないなどのトラブルが多発している。
そこで、このようなトラブルを解決するため、中途解約制度を設けるとともに、中途解約に伴い事業者が請求し得る金額の上限を規定するものである。
解 説
1 特定継続的役務提供契約の中途解約(第1項関係)
第1項は、クーリング・オフ期間の経過後も、役務提供契約の期間内であれば役務受領者は将来に向かって契約を解除できることとする法定解除権を規定するものである。この解除権はクーリング・オフ同様、形成権であり、解除の一方的意思表示をもって効力を生ずるものであり、また、その理由の如何を問わない。当該解除の意思表示を書面で行うことはxx上定められていないが、後日のトラブルを防止する観点から、書面をもって(証拠を残すためできれば内容証明郵便で)行うことが望ましいと考えられる。
なお、本条の規定は事業者の債務不履行等の場合において契約の相手方たる消費者が民法等の規定に基づき契約を解除することを妨げるものではない。
(1) 「第 42 条第2項の書面を受領した日から起算して8日を経過した後」とは、法第 48 条第1項に規定するクーリング・オフの行使が可能な期間を経過した後という意味である。
(2) 「将来に向かつて」とは、中途解約の効果が遡及しないことを意味する。民法の解除の効果は、原則として遡及する(第 545 条)が、典型契約のうち、賃貸借(第 620条)、委任(第 652 条)、組合(第 684 条)等については解除の効果が遡及しない。連鎖販売契約に係る本法第 40 条の2第1項、特定商品等の預託等取引契約に関する法律第9条も同様である。これは、これらの契約は継続的な契約であるため、遡及効を認めるとすでに提供が終わった部分の原状回復等が複雑になるからである。特定継続的役務提供も継続的な役務の提供契約であり、これらの規定と同様の扱いをすることが適当であるからである。
例:役務提供を開始して3か月後に解除した場合、遡及効とした場合、事業者側に当該正常に終了した3か月分の役務の対価についても利息分も含めて返還義務が生じる一方、消費者側にも役務提供により得られた利益の返還義務も生じるなど精算関係が複雑化する。
2 特定継続的役務提供契約の中途解約の場合の損害賠償等の額の上限(第2項関係)
第2項は、第1項の解除がなされた場合に役務提供事業者が請求し得る金額の上限を定めたものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を役務提供事業者に与えたものと解してはならない。具体的には、次に掲げる額に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(商法第 514 条の商事法定利率年6分等が適用になる。)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払いを請
求することができないこととしたものである。なお、中途解約の時点でこの請求可能な金額を上回る金銭を既に受領している場合には、超過部分は返還しなければならないことになる。
(1) 役務提供開始後である場合には次の額を合算した額(第1号関係)イ 「提供された役務の対価に相当する額」
中途解約の効果が非遡及であることから、中途解約の時点で既に提供済みの役務の対価相当額については事業者が正当に請求可能であることを確認的に記載したものである。なお、この既提供部分の対価の算出にあたっては、契約締結時の単価を上限とする。
例えば、契約締結時には「キャンペーン特別価格」と称して安い金額で積算しておきながら中途解約時には「通常料金」を用いて精算することや、(中途解約のペナルティも加味した)精算用の単価を用いることは許されない。具体的には、通常価格1回1万円のエステティックを期間限定特別価格3千円で契約を締結した場合には、後者の単価を用いて精算することとなる。
また、解除があった場合にのみ適用される高額の単価を定める特約は、実質的に損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するものであって、無効である。よって、そのような特約がある場合であっても、「提供された役務の対価」の計算に用いる単価は、契約締結の際の単価である。なお、有料の役務提供に無料の役務提供サービスを付して契約した場合においては、精算については交付書面に記載された単価で行うこととなることから、原則として、役務の対価に係る精算金は有料提供部分には発生するが、無料提供部分は発生しないこととなる。ただし、業として役務提供を行っている以上、完全に無料で役務を提供するということは考えにくいことから、無料提供と称している部分に係る人件費、施設整備費、化粧品代等は基本契約部分に転嫁されていると判断されることもある。したがって、この点をめぐって精算金のトラブルが生じた場合には、無料提供分に係る経費について、役務を無料で提供できる合理的な説明を含めて、精算方法の合理性について事業者側が立証する責任を負うこととなると考えられる。
また、月をもって役務の対価が計算されている場合には、社会慣行等に照らし1ヶ月又はこれより短い期間を単位として精算することとし、回数をもって役務の対価が計算されている場合については、特別な理由がない限り1回を単位として精算することとなる。
また、役務提供と純粋に比例的に生じる狭義の役務の対価のほかに、役務提供の開始時に発生する初期費用(具体的には、例えば、入会諸手続、レベルチェック又はクラス分けテストに要する費用等が考えられる。)についても、「提供された役務の対価」といえる合理的な範囲に限ってこれに含めることができるが、契約締結時の書面において「精算に関する事項」としてその内容が明らかにされており、かつ、
中途解約の場合には請求することができる旨明示しておくことが望ましい。入学金・入会金等の名目の金銭についても、既に提供された役務の対価に相当する合理的な範囲に限って、これに含まれ得る。
ロ 「通常生ずる損害の額」
本条に規定する中途解約が、理由の如何を問わず認められるものであることから、クーリング・オフの場合とは異なり、役務提供事業者に当該中途解約に伴う通常生ずる損害の額(政令で特定継続的役務ごとに上限額を設定)を請求することを認めるものである。政令では各特定継続的役務ごとに以下の上限が定められている。
○エステティック:
(当該特定継続的役務提供契約が締結された時の全体の価格 - 既に提供された役務の対価に相当する額)×10/100 に相当する額又は2万円のいずれか低い額
○美容医療:
(当該特定継続的役務提供契約が締結された時の全体の価格 - 既に提供された役務の対価に相当する額)×20/100 に相当する額又は5万円のいずれか低い額
○語学教室:
(当該特定継続的役務提供契約が締結された時の全体の価格 - 既に提供された役務の対価に相当する額)×20/100 に相当する額又は5万円のいずれか低い額
○家庭教師:
1か月分の授業料相当額又は5万円のいずれか低い額
○学習塾:
1か月分の授業料相当額又は2万円のいずれか低い額
○パソコン教室:
(当該特定継続的役務提供契約が締結された時の全体の価格 - 既に提供された役務の対価に相当する額)×20/100 に相当する額又は5万円のいずれか低い額
○結婚相手紹介サービス:
(当該特定継続的役務提供契約が締結された時の全体の価格 - 既に提供された役務の対価に相当する額)×20/100 に相当する額又は2万円のいずれか低い額
【参考】上記の考え方を適用した場合の具体的な精算事例
例:エステティックサロンで、入会金5万円、施術料 60 万円(2万円×30 回)の契約で、役務提供開始後 20 回消化したところで中途解約した場合
契約締結時の全体価格 65 万円
既に提供された役務相当額 (2万円×20 回)=40 万円
損害賠償額の上限 (65 万円-40 万円)×10/100=2万5千円
→40 万円+2万円=42 万円が事業者が役務受領者に要求し得る金額の上限
(23 万円については返還しなければならない。)
(2) 役務提供開始前である場合には、契約の締結及び履行のために通常要する費用(特定継続的役務ごとに政令で定める次に掲げる額を上限とする。)なお、これらはあくまでも上限であり、役務提供事業者にこれらの金額を請求する権利を認めたものではない。
○エステティック:2万円
○美容医療:2万円
○語学教室:1万5千円
○家庭教師:2万円
○学習塾:1万1千円
○パソコン教室:1万5千円
○結婚相手紹介サービス:3万円
(3) 同項第1号又は第2号の政令で定める額はあくまでも上限であり、個別ケースにおいて生じている損害又は費用の額がこれを下回っている場合にまで当該上限額を請求できることを容認するものではない。
3 第3項は特定権利販売契約の中途解約について定めたものである。なお、特定権利販売契約は民法上の「売買契約」に当たり解除の効果は原則通り遡及する。
4 第4項は第3項の解除がなされた場合に販売業者が請求し得る金額の上限を規定したものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を販売業者に与えたものと解してはならない。具体的には、次に掲げる額に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(商法第 514 条の商事法定利率年6分等が適用になる。)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払いを請求することができないこととしたものである。なお、中途解約の時点でこの請求可能な金額を上回る金銭を既に受領している場合には、超過部分は消費者に返還しなければならないことになる。
(1) 権利が返還された場合 当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額(当該権利の販売価格に相当する額から当該権利の返還されたときにおける価額を控除し
た額が当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額を超えるときは、その額)イ 「当該権利の行使により通常得られる利益」
その権利を有する者が当該権利を行使して役務の提供を受けたことにより、当該権利を有していない者が同種の役務の提供を受ける場合と比較して得られる利益である。例えば、権利を有する会員の料金と一般の料金に差がある場合には当該差額が「権利の行使により得られる利益」となる。なお、当該利益は「通常」のものであり、特殊事情は考慮されない。
ロ 「当該権利の返還されたときにおける価額」
購入者から返還された権利の時価をいう。なお、全く流通性を持たず、時価相場のない権利については当該権利の販売価格をもって時価と推定することになろう。
(2) 権利が返還されない場合 当該権利の販売価格に相当する額
(3) 契約の解除が権利の移転前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
「契約の締結及び履行のために通常要する費用の額」としては、契約の締結に際しての書面作成費、印紙税等、契約の履行のために要する費用としては、代金取り立ての費用、催告費用等があるが、当該契約のみに特別に費用をかけた場合でも、それをそのまま請求することはできない。
5 第5項は、第1項又は第3項の規定に基づき特定継続的役務提供契約又は特定権利販売契約が解除された場合においては、関連商品販売契約についても解除を行うことができる旨を規定したものである。取引の安定性を確保する観点から、関連商品販売契約について中途解約ができるのは本体の契約が中途解約された場合に限られる。なお、関連商品、関連商品販売契約については法第 48 条の解説を参照されたい。
6 第6項は、第5項の規定により関連商品販売契約が解除された場合に、当該関連商品の販売を行った者が請求し得る金額の上限を規定したものである。あくまで上限を規定したものであり、本項に定める額まで請求できる権利を関連商品の販売を行った者に与えたものと解してはならない。具体的には、次に掲げる額に、これらの金額の支払遅延があった場合には法定利率(商法第 514 条の商事法定利率年6分等が適用になる。)による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の支払いを請求することができないこととしたものである。なお、関連商品販売契約の解除の時点でこの請求可能な金額を上回る金銭を既に受領している場合には、超過部分は消費者に返還しなければならないことになる。
(1) 関連商品が返還された場合 当該関連商品の通常の使用料に相当する額(当該関連商品の販売価格に相当する額から当該関連商品の返還されたときにおける価額を控除した額が通常の使用料に相当する額を超えるときは、その額)
イ 「当該関連商品の通常の使用料に相当する額」
その商品の賃貸借が営業として行われているような場合には、その賃貸料が参考
となるが、そのような営業がない場合には、その商品の減価償却費、金利、マージン等に見合って、その額が合理的範囲で算定されることとなる。
具体的な使用料については、商品によってはその商品を販売する業界において、標準的な使用料率が算定されているものもあるので、それを参考とされたい。業界において算定されていない場合は、その販売業者が請求する損害賠償等の額の積算根拠を確認し、その妥当性を個別に判断する必要がある。
ロ 「当該関連商品の返還されたときにおける価額」
返還された商品の時価をいう。したがって、使用されて中古品となり、又は損傷によって商品価値が下がった場合には、その商品の転売可能価格ということになる。
(2) 関連商品が返還されない場合 当該関連商品の販売価格に相当する額
(3) 契約の解除が関連商品の引渡し前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
第4項の解説を参照されたい。
7 第7項は、x条が役務提供事業者若しくは販売業者又は関連商品の販売を行った者に対するいわば片面的強行規定であることを明らかにしたものである。したがって、例えば、「入学金(入会金)は返還しない」等、本条で請求することが認められている以外のものについて返還しない旨の特約は無効となる。
(特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第 49 条の2 特定継続的役務提供受領者等は、役務提供事業者又は販売業者が特定継続的役務提供等契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 第 44 条第1項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 第 44 条第2項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
2 第9条の3第2項から第4項までの規定は、前項の規定による特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しについて準用する。
3 前条第5項から第7項までの規定は、第1項の規定により特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示が取り消された場合について準用する。
〔平成 32 年4月1日以降の第 49 条の2の規定〕
(特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)第 49 条の2 (同上)
2 第9条の3第2項から第5項までの規定は、前項の規定による特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しについて準用する。
3 (同上)
趣 旨
法第 44 条において、事業者の不当な勧誘を抑止するため、不実告知及び事実不告知について罰則をもって禁止しているが、これら禁止行為が行われたこと自体は、民事上の契約の効力には直ちに影響を与えないと解されている。事業者の行為が民法の詐欺や消費者契約法の不実告知等に該当すれば消費者は当該契約を取消しうることとなるが、それらでは取り消すことのできない場合も多く、トラブルに遭遇した個々の消費者の救済は難しい状況にあった。
そこで、平成 16 年改正において、事業者が不実告知や事実不告知といった特定商取引法上の禁止行為を行った結果として消費者が誤認し、そのために契約の申込みあるいはその承諾の意思表示をしたときは、民法や消費者契約法では取り消せない場合であっても当該意思表示を取り消せるものとして、被害を受けた消費者の救済を図ることとした。
解 説
1 第1項は、役務提供事業者又は販売業者が、特定継続的役務提供等契約の締結についての勧誘を行う際に、法第 44 条第1項又は第2項の規定に違反して不実のことを告げる行為あるいは故意に事実を告げない行為をした結果、誤認をして申込み又は承諾の意思表示をしてしまった特定継続的役務提供受領者等は、その意思表示を取り消すことができることとする規定である。
(1) 「特定継続的役務提供受領者等は、役務提供事業者又は販売業者が……行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて……意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」
特定継続的役務提供受領者等が意思表示を取り消すことができるのは、「役務提供事業者又は販売業者の違反行為」と「特定継続的役務提供受領者等が誤認したこと」及び「特定継続的役務提供受領者等が誤認したこと」と「特定継続的役務提供受領者等が意思表示したこと」の間の双方に因果関係が認められる場合であるが、役務提供事業者又は販売業者の違反行為の事実があれば、通常はこの2つの因果関係が認められる事例が多いものと考えられる。
(2) 「役務提供事業者又は販売業者が……契約の締結について勧誘をするに際し」法第 44 条の解説1(1)を参照
(3) 「不実のことを告げる行為」
法第 44 条の解説1(4)を参照
(4) 「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」
「誤認」とは、違うものをそうだと誤って認めることをいう。例えば、エステティックの勧誘において、とてもそのような状況でない消費者に対して「このままでは、あなたの肌は数年後にはボロボロになってしまう。」と告げ、その消費者が「このままでは自分の肌は数年後にはボロボロになってしまう。」という認識を抱いた場合には、その消費者は「誤認」しているといえる。
(5) 「故意に事実を告げない行為」法第 44 条の解説2(3)を参照
(6) 「当該事実が存在しないとの誤認」
例えば、フリータイム制の語学教室で会員がキャパシティを大幅に超えており、満足に予約が取れない状況にあるにもかかわらず、それを告げられなかった消費者が、そのような事実はないと認識した場合、その消費者は「誤認」しているといえる。
(7) 「これを取り消すことができる。」
契約に係る申込み又はその承諾の意思表示が取り消された場合には、その契約は当初からなかったことになる(無効:民法第 121 条本文。)。その行使方法、効果等については、本法に特段の定めがないかぎり、「取消し」に関する民法の規定による。
契約に係る意思表示が取り消された場合、その効果として民法の一般原則により両当事者はそれぞれ不当利得の返還義務を負うことになる。事業者が既に代金を受領している場合には、それを特定継続的役務提供受領者等に返還しなければならないとともに、商品の引き渡し等が既にされていれば、特定継続的役務提供受領者等はその商品等を事業者に返還する義務を負うこととなる。
2 第2項は、取消しの第三者効や時効などについて、訪問販売における取消し規定である法第9条の3を準用しているものである。これらについては、取引形態の違いによって規定を異にする必要がなく、準用することとした。なお、民法の一部を改正する法律
(平成 29 年法律第 44 号)の施行にあわせ、平成 32 年4月1日より第2項中「第4項」
が「第5項」と改められることとなる(〔平成 32 年4月1日以降の第 49 条の2の規定〕参照。)。
3 第3項は、法第 49 条第5項から第7項までの規定を準用することで、第1項の規定により特定継続的役務提供等契約の申込み又はその承諾の意思表示が取り消された場合には、特定継続的役務提供受領者等に、関連商品販売契約の解除を認めたものである。
(適用除外)
第 50 条 この章の規定は、次の特定継続的役務提供については、適用しない。
一 特定継続的役務提供等契約で、特定継続的役務提供受領者等が営業のために又は営業として締結するものに係る特定継続的役務提供
二 本邦外に在る者に対する特定継続的役務提供 三 国又は地方公共団体が行う特定継続的役務提供
四 次の団体がその直接又は間接の構成員に対して行う特定継続的役務提供(その団体が構成員以外の者にその事業又は施設を利用させることができる場合には、これらの者に対して行う特定継続的役務提供を含む。)
イ 特別の法律に基づいて設立された組合並びにその連合会及び中央会ロ 国家公務員法第 108 条の2又は地方公務員法第 52 条の団体
ハ 労働組合
五 事業者がその従業者に対して行う特定継続的役務提供
2 第 49 条第2項、第4項及び第6項(前条第3項において準用する場合を含む。)の規定は、特定継続的役務又は関連商品を割賦販売により提供し又は販売するものについては、適用しない。
趣 旨
本条は、特定継続的役務提供に係る本章の規定の適用が除外される場合について規定したものである。
解 説
1 第1項は、特定継続的役務提供に関する規定が全て適用除外される場合である。
(1) 第1号は、本法が一般消費者を保護するための法律であるので、特定継続的役務提供受領者等が営業のために又は営業として締結する契約に係るものには適用しない旨の規定である。「営業のために又は営業として」とは、本法においては商行為に限定するものではない。通常、事業・職務の用に供するために役務の提供を受ける場合は本号に該当する。
(2) 第2号は、特定継続的役務提供受領者等が本邦外にある場合は、本法を適用するよりはむしろ一般の商慣行にまかせる方が適当であると考えられるため、本章の適用除外としている。
なお、本邦外に在る者が本邦内に通常居住する消費者に対し商品若しくは権利の販売又は役務の提供を行う場合には、消費者は、法の適用に関する通則法第 11 条の規定に従って本法の民事ルールの適用を主張することができる。
(3) 第3号は、「国又は地方公共団体が行う特定継続的役務提供」については、国や地方公共団体が行う場合は本法の趣旨たる消費者保護に欠けることはないものと考えられるので、適用除外としている。
(4) 第4号は、団体の内部自治の観点から、イ、特別法に基づく組合、ロ、公務員の職員団体及び、ハ、労働組合がそれぞれの組合員に対して行う役務の提供は適用除外としている。この場合、「間接の構成員」とは、連合会の会員である組合の組合員等をいい、括弧内は、その法律の規定によって、特に員外利用が認められている場合には、
その員外者に対する役務の提供も適用除外になるという意味である。また、イの「特別の法律に基づいて設立された組合」としては、農業協同組合、消費生活協同組合、国家公務員共済組合、市町村職員共済組合等が挙げられる。
(5) 第5号は、事業者が従業員に対して行う役務の提供(セミナー、研修等)は会社内部の問題であることから、適用除外とする。
2 第2項は、割賦販売との適用関係を明らかにした規定である。
具体的には、特定継続的役務提供における損害賠償等の額の制限を定めた法第 49 条第
2項、第4項及び第6項の(第 49 条の2第3項において準用する場合を含む。)規定は、割賦販売法第2条第1項に規定する割賦販売にあたるものについては適用されない旨を定めている。これは、役務提供の対価等の支払について割賦販売の形態をとるものについては、当該取引に係る特殊性を勘案した割賦販売法の規定を適用することが適当であるからである。