参考:経済産業省「グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~企業間研修送出事業の取扱いについて~」(平成30年5月9日公表) https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinji gyo- kaitakuseidosuishin/press/180509_press.pdf
スタートアップ出向 モデル契約書
第1 本モデル契約書の使い方
1 本モデル契約書の前提
企業等においては、イノベーション人材の育成等を目的として、自社の人材をスタートアップ企業に送り出すという人材育成手法(以下「スタートアップ出向」といます。)が取られることがあります。その送り出しの形式としては、在籍型出向の形もあれば、スタートアップ企業で研修を受けるという形もあるようです。
本モデル契約書は、大企業の人材の育成を目的として、スタートアップ企業に在 籍型出向をさせるケースを前提に、出向元企業(大企業)と出向先企業(スタート アップ企業)との間で締結する出向契約において定めておくべき主な条項について、条項例を示すものです。「第2」においては条項例及び各条項例の留意点等に関す る解説を記載しており、「第3」においては条項例のみをまとめています。
2 本モデル契約書の利用上の注意点
本モデル契約書は、あくまでモデルを示すものです。したがって、具体的な事案においてどのような内容の契約書を締結するかについては、解説も参照しながら、当事会社である出向元企業と出向先企業の間で協議の上で決定してください。
この点、大企業とスタートアップ企業の間では、事業運営の方法や企業文化はもちろんのこと、労務管理の手法や賃金水準をはじめとした労働条件等においても大きな差異があることが一般です。協議を行うに際しては、双方に尊重し合い、出向者が出向先企業において十分な能力発揮と経験獲得ができる環境を構築すること、出向先企業に過度の負担が生じないようにすることを十分に意識してください。
なお、出向者の具体的な労働条件については、必要に応じて、出向者本人との協議を行うべきであることにも留意してください。
第2 出向契約モデル契約書及び解説
出向契約書
株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社(以下「乙」という。)とは、甲の従業員 (以下「出向者」という。)を乙に出向させるにあたり、その取扱いについて、以下のとおり出向契約(以下「本契約」という。)を締結する。
⮚ 大企業の従業員をスタートアップ企業に送り出す際の形式としては、出向(在籍型出向)、研修等が考えられます。本モデル契約書は、大企業の従業員がスタートアップ企業による指揮命令のもと労働に従事し、その中で経験を積んでいくケースを想定して、出向の形式を取ることを前提としています。
⮚ なお、大企業の従業員をスタートアップ企業に出向させるにあたっては、原則として、大企業が当該従業員(出向者)に一方的に出向を命じるのではなく、当該従業員(出向者)から、出向についての個別の同意を取得することが適当と考えられます(※)。事前に、スタートアップ企業へ出向することについて、本人の意思を確認するようにしてください。
(※)通常、大企業において、例えば子会社へ従業員を出向させる際には、就業規則で定めた出向命令に関する包括的規定等に基づき、従業員の個別の同意を得ずに出向を命じることが多く行われています。もっとも、スタートアップ企業(特に、当該大企業と特段の資本関係等のないスタートアップ企業)への出向については、従業員がこれを当然に受容しているものとはいえず、包括的規定等を根拠として出向を命じることは適当ではありません。
したがって、スタートアップ出向を行う際には、出向元企業は、出向者から、個別に書面等で出向についての同意を取得することが適当です。なお、出向に際しては、出向中の労働条件を出向者に明示することが必要となりますので(労働基準法第 15 条第 1 項)、当該労働条件の明示とあわせて上記同意を取得することも考えられます(労働条件の明示は、出向元企業が出向先企業に代わって行っても差し支えないとされています。)。出向元企業が出向者から取得する同意書のひな形は、別添のとおりです。
(目的)
第1条 甲は、出向者の職業能力の開発を目的として、出向者を乙に出向させるものとする。 ⮚ いわゆる在籍型出向とは、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいいます(平成24年8月10日基発0810第2号)。 ⮚ 在籍型出向は、その形態が「労働者供給」(職業安定法第4条第7項)に該当するため、その在籍型出向が「業として行われる」場合には、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当し得ます。もっとも、一般的に、在籍型出向のうち、 ① 労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する ② 経営指導、技術指導の実施 ③ 職業能力開発の一環として行う ④ 企業グループ内の人事交流の一環として行う 等の目的を有しているものについては、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと整理されています。 ⮚ スタートアップ出向においても、出向が「業として行われる」ものでないことを明確にするために、出向契約書上、その目的を明記することが考えられます。本条項例では、出向者の「職業能力の開発」をその目的として明記しています。 ⮚ なお、在籍型出向は、出向先企業と出向者との間に雇用契約関係があるため、 「労働者派遣」(労働者派遣法第2条第1号)には該当しません。 (出向期間) 第2条 出向期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までの○か月とする。 2 前項にかかわらず、甲及び乙は、甲乙協議の上、前項に定める出向期間を短縮又は延長することができるものとする。 | ||
⮚ 出向元企業の就業規則において、「出向を行う場合には期間を定めて行う」等と定めた規定がない限り、出向に際し、必ずしも出向期間を定める必要はありません。もっとも、出向期間が定められていない場合、出向者を不安定な地位に置いてしまうとともに、出向元・出向先企業のいずれにとっても予測可能性を欠き人員配置等の関係で不都合であると考えられますので、本条項例のよう に、出向期間を明確に定めることが適当です。 |
⮚ スタートアップ出向については、出向期間を6か月~1年程度と設定している例が多く見られます。他方で、スタートアップ企業において勤務することで職業能力の開発を行うことを目的とするものであること等を踏まえ、1年を超え る期間とする場合もあります。 | ||
(就業場所及び業務内容等) 第3条 乙における出向者の就業場所、所属部署、役職及び業務内容は次のとおりとする。 就業場所:○○所属部署:○○役 職:○○業務内容:○○ 2 前項にかかわらず、甲及び乙は、甲乙協議の上、前項の就業場所、所属部署、役職又は業務内容を変更することができるものとする。 3 乙は、出向者を他の会社に出向させてはならない。 ⮚ 出向元企業及び出向者としては、出向先企業の特定の部署又は業務内容に関する経験を積むことを目的として、スタートアップ出向を実施することが多いと思われます。そのような場合、出向先企業が出向者の勤務する部署又は業務内容等を自由に変更できてしまうと、スタートアップ出向の目的を達成することができない事態になることも想定されます。他方で、出向先企業の都合や出向者のさらなる成長のために、出向期間中にそれらを変更することが適当となる場合もあり得ます。 ⮚ そこで、本条項例第2項においては、出向元企業と出向先企業の同意の上で、就業場所等を変更することができる旨を定めています。 (賃金等の支給) 第4条 出向期間中の出向者に対する賃金は、甲の賃金規程に基づき、甲が出向者に支払う。ただし、出向者の乙への通勤費については、乙の規程に基づき、乙が出向者に支払う。 2 出向者の出張に伴う旅費その他乙における業務に関連する費用は、乙の規程に基づき、乙が出向者に支払う。 | ||
⮚ 在籍型出向の場合、出向者の賃金は、多くのケースで出向元企業における賃金 |
水準が維持されています(独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査結果 (『労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査―労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅱ)―』(2005))によれば、82.0%の企業で出向元の賃金水準となっています。)。そこで、本条項例においても、出向者の賃金は、出向元企業の賃金規程に基づいて支給するものと定めています。 | ||
(給与負担金) 第5x xは、出向者に係る給与負担金として、1か月あたり金○万円を負担する。 2 乙は、甲に対し、前項の給与負担金を当月末日までに甲の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。 | ||
⮚ スタートアップ出向を行う場合、出向者の賃金等の負担に関して、出向元企業及び出向先企業における課税関係に留意する必要があります。 ⮚ そもそも、在籍型出向においては、出向者は出向先企業に対して労務を提供することになりますので、労務提供の対価である賃金は、出向先企業が負担するのが原則です(※)。そこで、出向者の賃金を直接支払うのは出向元企業とする場合でも、出向先企業が自社の負担すべき賃金に相当する金額(給与負担金)を出向元企業に支出することが多く行われています(法基通9-2-45は、当該給与負担金の額は、出向先企業におけるその出向者に対する給与として取り扱うとしています。)。 (※)なお、出向元企業が出向者の賃金の全額を負担する(出向先企業は一切負担しない)場合には、原則として、出向元企業から出向先企業に対して無償で経済的利益の供与が行われたものとして、出向元企業において「寄付金」(法人税法第 37 条)として取り扱われ、また、出向先企業においては受贈益として益金算入することになります。 ⮚ 一方、スタートアップ企業(出向先企業)に対して、大企業(出向元企業)における賃金水準に従った賃金全額の負担を強いることは、スタートアップ企業にとっては負担が大きく、スタートアップ出向の受け入れ自体を躊躇する要因になりかねません。そういった事情も踏まえ、スタートアップ出向を行う場合には、出向先企業が、自社の賃金水準等に従った一定の金額のみを給与負担金として出向元企業に支出する旨合意することも考えられます。本モデル契約書ではこれを前提としています。 ⮚ なお、本モデル契約書とは異なり、出向先企業が自社の賃金水準に従った賃金を出向者に支払い、他方で、出向元企業は、自社の賃金水準との差額にあたる 金額を較差補填金として出向者に支払うという形も考えられます(法基通9- |
2-47は、出向元企業が出向先企業との給与条件の較差を補填するため出向者に対して支給した給与の額は、出向元企業の損金の額に算入するとしていま す。)。 | ||
(労働条件) 第6条 出向者の出向期間中の労働条件は、乙の就業規則等が定めるところによるものとする。 2 前項にかかわらず、以下に定める事項については、甲の就業規則等が定めるところによるものとする。 ① 出向者の年次有給休暇及び特別休暇(ただし、労働基準法第39条第7項に基づく年次有給休暇の時季指定は、乙が行う。) ② 出向者の退職及び解雇(懲戒解雇、諭旨解雇を含む。) ③ 出向者の利用可能な福利厚生制度 | ||
⮚ 在籍型出向においては、出向元企業と出向者、出向先企業と出向者との間に二重の労働契約が成立(併存)し、労働契約上の権利義務が、出向元企業と出向者、出向先企業と出向者との間に分かれて存在しているものと考えられます。 ⮚ したがって、出向元企業及び出向先企業における労働基準法上の各規定や就業規則等は、必ずしもどちらか一方の企業のもののみが適用されるというものではなく、個別に判断されることとなります。あらかじめ出向契約において適用関係を明確に定めておくことが適当です。 ⮚ なお、出向者の健康管理等の観点からは、労働条件のうち、労働時間についてどのように取り決めておくかが重要です。この点、就業規則上の労働時間に関する規定や三六協定の内容(時間外労働時間の上限等)については、労務の提供相手である出向先企業が定めているものが出向者に適用されると考えることが一般的です。もっとも、出向元企業と比べ出向先企業の方がより長時間の労働を可能とする制度となっている場合、出向開始前に比べて労働時間が長時間化する可能性があり、また、出向元企業としてはより多くの割増賃金の支払義務を負う等の可能性もあります。そこで、出向契約においては、出向者の時間外労働時間の上限等については出向元企業の規程等に従うものと定めることも考えられます。 ⮚ 他方で、出向先企業としては、出向先企業の勤務実態に合わせて労働時間を設定している場合もあり、出向者に対して当該労働時間の範囲で働かせることができないということになると、業務上の支障が生じることも想定されます。出 xx企業と出向先企業の間で協議し、出向先企業における勤務実態等も踏まえ |
た適当な定めにすることが望ましいでしょう。 | ||
(勤務実績の報告) 第7条 乙は、甲に対して、出向者の毎月の勤務実績を当月〇日までに別途甲の定める様式にて報告するものとする。 ⮚ 本モデル契約書においては、出向者の賃金は、出向元企業の「賃金規程に基づき」支給するものと定めています(前掲第4条第1項参照)。そのため、出向元企業としては、当該出向者の労働時間を含む勤務実績を、月ごとの割増賃金の計算等のために必要かつ適切なタイミングで、正確に把握する必要があります。 ⮚ また、出向元企業としては、支給する賃金額との関係だけでなく、人事考課や健康管理等の観点からも、出向者の出向先企業における勤務実績を適切に把握する必要がある場合があります。 ⮚ そこで、本条項例においては、出向先企業が出向元企業に対し、毎月、勤務実績に関する報告をする旨を定めています。出向先企業に報告を求める内容については、出向先企業において過度な負担にならないよう、出向元企業における人事考課・労務管理上の必要性や、スタートアップ出向を行う目的との関係で必要な範囲・頻度とすることが望ましいでしょう。 (社会保険等) 第8条 出向期間中の出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は、甲において被保険者資格を継続し、甲が各保険料を負担する。 | ||
⮚ 健康保険及び厚生年金保険の被保険者は、法律上、いずれも、「適用事業所に使用される」者と定められていますが(健康保険法3条1項柱書、厚生年金保険法9条)、実務上の取扱いとしては、出向元企業又は出向先企業のいずれかによってその賃金全額が支給されている場合には、支給している企業との間で当該「使用」関係が成立すると考えられています。本モデル契約書第4条第1項においては、出向元企業が賃金を支払うものと定められていますので、実務上の原則に従って、本条項例では、出向元企業において被保険者資格を継続し、各保険料を負担するものと定めています。 ⮚ また、雇用保険の被保険者は、法律上、適用事業に「雇用される労働者」であ って、適用除外にあたらない者と定められており(雇用保険法第4条第1項)、 |
また、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となると考えられています。したがって、本モデル契約書第4条第1項のように、出向元企業が出向者に対して賃金等を支払うこととした場合には、出向者は、出向元企業との関係で雇用保険の被保険者となると考えられ ます。 | ||
(労災補償) 第9条 出向期間中に出向者が、乙において業務上又は通勤途上に負傷し、疾病にかかり又は死亡した場合には、乙がその補償を行うものとする。 2 出向期間中における出向者の労働者災害補償保険における事業主は乙とし、乙が当該保険料を負担する。 ⮚ 労働者災害保険法第3条は、労災保険が適用される事業を「労働者を使用する事業」と定めています。この点、在籍出向に際しては、「出向労働者が、出向先事業の組織に組み入れられ、出向先事業場の他の労働者と同様の立場(ただし、身分関係及び賃金関係を除く。)で、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合」には、当該出向者を出向先企業に係る保険関係によるものとして取り扱うとされています(昭和35年11月2日基発第932号参照)。本モデル契約書においては、出向者が出向先企業の直接の指揮監督を受けるケースを想定しておりますので、出向元企業が出向者の賃金を支払っていたとしても、出向者は、出向先企業との関係で労災保険の適用を受けることになります。本条項例もその旨を定めるものです。 ⮚ なお、大企業であれば、労災に関して法定外xx補償制度を設けていることも多いといえますが、スタートアップ企業においてそのような制度を設けていることはまれです。したがって、仮に労働災害が発生した場合、出向者としては、出向前と比較して受けられる補償の程度が低いものになりかねませんが、そのような事態は望ましいものではないため、出向元企業の定める規程に従ってxx補償を受けることができる旨を定めることも考えられます。 (知的財産権の帰属等) 第10条 甲及び乙は、出向期間中に、出向者が乙において創作ないし開発した職務発明(特許法第35条第1項に定める職務発明をいう。)、及び作成した著作物(著作xx第15条に定める著作物をいう。)その他職務xxxされた知的財産については、乙の職務発明規程及び職務著作規程その他知的財産に関する定めに従 |
い、その権利の帰属を決定し処理するものとする。 ⮚ スタートアップ企業にとって、知的財産権は、その事業上の最も重要な要素に位置付けられることも多いといえます。したがって、スタートアップ出向を行うにあたり、出向者が出向期間中に創出するなどした知的財産権の帰属等については、あらかじめ出向契約書上明確に定めておくことが適当です。 ⮚ 本モデル契約書は、出向先企業が一定の給与負担金を負担し(第5条参照)、また、出向者が出向先企業において労務を提供し、直接の指揮命令を受けるようなケースを前提にしておりますので、出向者による職務発明等の帰属については、出向先企業の規程に従うものと定めています。 (秘密保持) 第11x xxx乙は、出向者の出向期間中に知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報(以下「秘密情報」という。)を、次項に定める場合を除き、相手方の承諾を得ない限り、第三者に開示若しくは漏えい、又は本契約の目的以外に使用してはならない。ただし、以下に定める情報は秘密情報の対象外とする。 ① 開示を受けたときに既に保有していた情報 ② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 ③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報 ④ 開示を受けたときに既に公知であった情報 ⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報 2 甲又は乙は、法令に基づき秘密情報の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。 | ||
⮚ スタートアップ出向を受け入れるにあたって、出向先企業側の重大な懸念事項としては、本モデル契約書第10条において挙げた知的財産xxの取扱いと同程度に、自社の重要な技術情報・ノウハウ等の流出に関する問題が挙げられます。そこで、出向先企業としては、出向元企業との間で秘密保持に関する合意をしておくとともに(出向契約書とは別に秘密保持契約書を締結することも考えられます。)、出向者からは別途、秘密保持義務について定めた誓約書等を取得しておくことが考えられます。 ⮚ 出向元企業においても、出向者の復帰後に、出向者を通じて意図せぬ形で出向 先企業の営業秘密を取得してしまうリスクが生じ得ます。出向元企業として |
は、出向先企業の営業秘密であると知らずに取得したのだとしても、知らなかったことに「重大な過失」がある場合には(不正競争防止法第2条第1項第5号参照)、不正競争防止法に基づく損害賠償請求や差止請求の対象となり得るた め注意が必要です。 | ||
(契約の終了) 第12条 第2条に定める出向期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。ただし、出向期間を短縮又は延長した場合には、当該短縮又は延長後の期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。 2 前項にかかわらず、本契約終了後も、第10条(知的財産権の帰属等)、第11条 (秘密保持)及び第13条(合意管轄)の効力は継続するものとする。 (合意管轄) 第13条 本契約に関する一切の紛争は、○○地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。 (協議条項) 第14条 甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約に関する解釈上の疑義については、誠実に協議の上、解決するものとする。 本契約締結の証として、本書を2通作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保有する。 __年__月__日 (甲)______________ (乙)______________ |
【その他の条項例等】
1 出向者の引き抜きに関する条項
⮚ スタートアップ出向を実施するにあたり、出向元企業側の懸念点としては、出向者が、出向期間中にスタートアップ企業の魅力に直接触れることで、出向期間満了後に出向元企業を退職し、出向先企業を含むスタートアップ企業に転職してしまうのではないか、という人材流出(さらには出向者自身が保有する出向元企業におけるノウハウ等の流出)に関する問題が挙げられます。
⮚ そこで、出向元企業としては、出向先企業による積極的な引き抜き行為による人材の流出をできる限り防止するために、出向先企業との間で、例えば、出向先企業による引き抜き行為を禁止する旨を合意しておくことが考えられます。
⮚ ただし、出向者の転職先の選択肢を広範囲、かつ、長期間にわたって制限するような条項は、出向者の職業選択の自由(憲法第22条1項)を制限するものであり、公序良俗(民法第90条)に反し無効であると解されるおそれがありますので注意が必要です。
2 スタートアップ出向に係る出向元・出向先企業における窓口に関する条項
⮚ 出向期間中、出向元企業と出向先企業との間においては様々な事務連絡(例えば、出向に係る勤務実績の報告(本モデル契約書第7条)等)が必要になることが想定されます。事務連絡窓口については必ずしも出向契約において定める必要はありませんが、出向後の事務連絡を円滑に進めるためにあらかじめ定めておくことも考えられます。
(事務連絡窓口)
第○条 甲及び乙は、本契約に係る事務連絡の担当窓口をそれぞれ以下のとおりとする。
①甲:氏 名:○○○○(○○部所属) 電話番号:○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○@○○○○
②乙:氏
名:○○○○(○○部所属)
電話番号:○○-○○○○-○○○○
メールアドレス:○○○@○○○○
3 研修を受けるという形でスタートアップ企業に送り出される場合について
⮚ 冒頭で述べたとおり、人材をスタートアップ企業に送り出すにあたっては、スタートアップ企業で一定期間研修を受けるという形もあります。
⮚ この場合、送り出された人材は、あくまで研修を受けるのであって、労務を提供するわけではありません。したがって、賃金は当然送り出し元企業が支払うことになりますし、一般論としては、スタートアップ企業が負担金を支払う必要もありません。また、労働条件や懲戒に関しても、変わらず送り出し元企業の就業規則等が適用されますし、社会保険料や労災補償についても、送り出し元企業が負担することが原則です。
⮚ もっとも、送り出された人材の研修時間については、送り出し元企業が直接把握することはできないため、本人又はスタートアップ企業から送り出し元企業に報告することと定めておくことが適当でしょう。
⮚ なお、資本関係のない企業への研修送出しという人材育成手法の法的位置付けについては、厚生労働省が、一定の条件下であれば、職業安定法上の「職業紹介事業」や労働者派遣法上の「労働者派遣事業」等に該当しないものと認めています。
参考:経済産業省「グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~企業間研修送出事業の取扱いについて~」(平成30年5月9日公表) xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxx_xxxxxx/xxxxxxxxxxxx_xxxxxx/xxxxxx gyo-kaitakuseidosuishin/press/180509_press.pdf
別添:労働条件通知書兼出向同意書
年 月 日
労働条件通知書兼出向同意書
株式会社●●
代表取締役社長 ●● 殿
●●部 ●●課
● ● ● ● 印
私は、下記のとおり出向することに同意します。
記
出向期間 | |
出向先 | 住所 社名 |
就業場所 | |
配属先 | |
役職・職種 | |
業務内容 | |
始業及び終業の時刻、 休憩時間 | |
時間外労働の有無 | |
休日 | |
休暇 | |
賃金 | |
退職に関する事項 |
以上
(※)個別の項目において、出向元の就業規則等が適用されるときは、「出向元の就業規則
の定めによる」等と記載することが考えられます。
(※)上記項目はあくまで例示です。必要に応じて追記してください。
第3 出向契約モデル契約書
出向契約書
株式会社(以下「甲」という。)と 株式会社(以下「乙」という。)とは、甲の従業員 (以下「出向者」という。)を乙に出向させるにあたり、その取扱いについて、以下のとおり出向契約(以下「本契約」という。)を締結する。
(目的)
第1条 甲は、出向者の職業能力の開発を目的として、出向者を乙に出向させるものとする。
(出向期間)
第2条 出向期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までの○か月とする。
2 前項にかかわらず、甲及び乙は、甲乙協議の上、前項に定める出向期間を短縮又は延長することができるものとする。
(就業場所及び業務内容等)
第3条 乙における出向者の就業場所、所属部署、役職及び業務内容は次のとおりとする。
就業場所:○○所属部署:○○役 職:○○業務内容:○○
2 前項にかかわらず、甲及び乙は、甲乙協議の上、前項の就業場所、所属部署、役職又は業務内容を変更することができるものとする。
3 乙は、出向者を他の会社に出向させてはならない。
(給与、賞与及び通勤費等の支給)
第4条 出向期間中の出向者に対する賃金は、甲の賃金規程に基づき、甲が出向者に支払う。ただし、出向者の乙への通勤費については、乙の規程に基づき、甲が出向者に支払う。
2 出向者の出張に伴う旅費その他乙における業務に関連する費用は、乙の規程に基
づき、乙が出向者に支払う。
(給与負担金)
第5x xは、出向者に係る給与負担金として、1か月あたり金○万円を負担する。
2 乙は、甲に対し、前項の給与負担金を当月末日までに甲の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
(労働条件)
第6条 出向者の出向期間中の労働条件は、乙の就業規則等が定めるところによるものとする。
2 前項にかかわらず、以下に定める事項については、甲の就業規則等が定めるところによるものとする。
① 出向者の年次有給休暇及び特別休暇(ただし、労働基準法第39条第7項に基づく年次有給休暇の時季指定は、乙が行う。)
② 出向者の退職及び解雇(懲戒解雇、諭旨解雇を含む。)
③ 出向者の利用可能な福利厚生制度
(勤務実績の報告)
第7x xは、甲に対して、出向者の毎月の勤務実績を当月〇日までに別途甲の定める様式にて報告するものとする。
(社会保険等)
第8条 出向期間中の出向者の健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は、甲において被保険者資格を継続し、甲が各保険料を負担する。
(労災補償)
第9条 出向期間中に出向者が、乙において業務上又は通勤途上に負傷し、疾病にかかり又は死亡した場合には、乙がその補償を行うものとする。
2 出向期間中における出向者の労働者災害補償保険における事業主は乙とし、乙が当該保険料を負担する。
(知的財産権の帰属等)
第10条 甲及び乙は、出向期間中に、出向者が乙において創作ないし開発した職務発明(特許法第35条第1項に定める職務発明をいう。)、及び作成した著作物(著作xx第15条に定める著作物をいう。)その他職務xxxされた知的財産については、乙の職務発明規程及び職務著作規程その他知的財産に関する定めに従
い、その権利の帰属を決定し処理するものとする。
(秘密保持)
第11条 甲又は乙は、出向者の出向期間中に知り得た相手方の営業上又は技術上の秘密情報(以下「秘密情報」という。)を、次項に定める場合を除き、相手方の承諾を得ない限り、第三者に開示若しくは漏えい、又は本契約の目的以外に使用してはならない。ただし、以下に定める情報は秘密情報の対象外とする。
① 開示を受けたときに既に保有していた情報
② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
④ 開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
2 甲又は乙は、法令に基づき秘密情報の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。
(契約の終了)
第12条 第2条に定める出向期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。ただし、出向期間を短縮又は延長した場合には、当該短縮又は延長後の期間満了をもって、本契約は当然に終了するものとする。
2 前項にかかわらず、本契約終了後も、第10条(知的財産権の帰属等)、第11条
(秘密保持)及び第13条(合意管轄)の効力は継続するものとする。
(合意管轄)
第13条 本契約に関する一切の紛争は、○○地方裁判所を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
(協議条項)
第14条 甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約に関する解釈上の疑義については、誠実に協議の上、解決するものとする。
本契約締結の証として、本書を2通作成し、甲乙記名捺印の上、各自1通を保有する。
__年__月__日
(甲)______________
(乙)______________
⚫ 本モデル契約書は、経済産業省 令和元年度「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」に係る事業の一環として、一般社団法人環境共創イニシアチブが実施主体として、業務の一部を株式会社xx総合研究所に委託のうえ、作成したものです。作成にあたっては、東京八丁堀法律事務所 xxxx弁護士の協力をいただいています。
⚫ 一般社団法人環境共創イニシアチブその他本モデル契約書の作成に携わった法人・個人は、本モデル契約書に関して、法律上の責任又は明示若しくは黙示の保証責任を問わず、いかなる責任も負担しません。なお、本モデル契約書は将来予告なく変更されることがあります。