Gusmão & Labrunie(ブラジル法律事務所) Laetitia d`Hanens
ブラジルにおける現地法人の知財問題
-雇⽤契約における留意点【その1】
Gusmão & Xxxxxxxx(ブラジル法律事務所) Laetitia d`Hanens
弁護士
Gusmão & Xxxxxxxx は、ブラジルの⼤⼿法律事務所の⼀つで、弁護⼠、弁理⼠、及びスタッフを約 130 人有し、主に知的財産に関する法律および技術関連サービスを提供している。Laetitia d`Hanens 氏は、同事務所のパートナー弁護士であり、商標、ドメイン名、著作権、ソフトウエアおよび不正競争の分野における契約や法律アドバイスにおいて、20 年の経験を有する。また、ブラジル知的財産権代理⼈協会の理事会のメンバーであるほか、国際商標協会(INTA)における非伝統的商標委員会および MARQUES(欧州で 1986 年に発足した商標保護団体)の周知著名標章チームのメンバーでもある。
目次
1. 序
2. 従業者等による発明の所有権及び報酬に関する法的規定 (以下、その2)
3. 従業者等との関係における営業秘密の保護
4. 従業者等による発明についての裁判所の判断
5. リスクを抑える方策についての提案 (雇⽤契約における留意点)
1. 序
ブラジルの現⾏法制下では、使用者、法人、国または地方公共団体(以下、「使用者等」という。)が従業者、法人の役員、国家公務員または地方公務員(以下、
「従業者等」という。)による発明に対して権利を取得し、実施するために、特に雇用契約における従業者等による発明の所有権と報酬に関する規定に留意する必要がある。また、特許により保護されるか否かにかかわらず、従業者等が職務を通じて獲得し、または知り得た使用者等の営業秘密を保護するために、雇用契約その他の契約において適切な条項を設けることが重要である。本稿では、従業者等による発明に関連するブラジルの主な法規定を紹介するとともに、雇⽤契約における留意点を解説する。
2. 従業者等による発明の所有権及び報酬に関する法的規定
ブラジル産業財産xx(Brazilian Industrial Property Law: IPL)(法律第 9279/96 号)では、従業者等による発明の所有権及び報酬に関し、以下の三つの場合に分けて規定している。
(1)従業者等の雇用目的に沿って発生した職務上の発明(「職務発明」)(IPL 第 88 条)
(2)従業者等の職務の範囲から完全に外れてなされた発明(「自由発明」)(IPL第 90 条)
(3)従業者等の職務の範囲から外れているものの、使用者等の資源を用いてなされた発明(「混合発明」)(IPL 第 91 条)
2-1. 研究開発のために雇用された従業者等による発明(「職務発明」)
IPL 第 88 条は「発明及び実用新案が、ブラジルで履⾏される雇用契約であって研究又は発明活動をその対象に含むものに起因している場合、又は従業者等の雇用目的である職務の性質に起因している場合は、使用者等に排他的に帰属する」と規定する。
ただし、使用者等が従業者等による発明に対し完全な権原を保有するためには、従業者等に求められる職務の内容およびその職務が発明的または創作的性質を伴 うものであることを、適切かつ正確に雇⽤契約に記載する必要がある。
IPL 第 88 条はまた、「契約に別段の明示規定がある場合を除き、本条が言及する業務の報酬は合意されている給与を限度にする」と規定している。すなわち、従業者等が発明活動を目的として雇用された場合、発生した発明は雇用の範囲内の成果となる(従業者等はそのために「賃⾦を支払われている」)。雇用に際し合意された給与が、なされた努⼒と得られた結果に対する十分な報酬とみなされるのである。
一方、IPL 第 89 条は、従業者等による特許発明の実施から得られた経済的利益については、その一部を従業者等に与える権限(義務ではない)を使用者等に与え
ている。このような報奨⾦については、使用者等の社内規程の中で事前に定めておくことも、あるいは適宜従業者等と交渉することもできる。
使用者等の権限として 使用者等はこの付加的「報奨⾦」の額、形式及び時期を
自由に規定し、これらの条件について従業者等と交渉することができる。交渉が成
⽴しなかった場合は、従業者等に提示されている会社方針に基づいて報奨⾦が発⽣する場合、もしくは報奨⾦が雇⽤契約で明⽰規定されている場合を除き、使用者等は従業者等に追加の⾦銭を⽀払う義務を負わない。
2-2. 創作または発明を伴う職務以外の目的で雇用された従業者等により、使用者等の資源等を用いないで作られた発明(「自由発明」)
IPL 第 90 条は次の通り規定する。「従業者等がなした発明又は実用新案は、雇
用契約と関係せず、かつ 使用者等の資源、資産、資料、原料、施設⼜は設備の使
用から発生したものでない場合には、従業者等に排他的に帰属する」
このような発明は、使用者等の資源等を用いることなく、かつ雇用契約が規定する給与の支払い対象となる活動の範囲外でなされたものであるので、「自由発明」として完全に従業者等によって保有される。使用者等が希望する場合、使用者等は、
別途の契約により自由発明を従業者等から取得することができるの通り、従業者等に対する支払いについて、検討が必要になる。
この場合、以下
IPL は、使用者等と従業者等で合意されている給与は、従業者等による権利譲渡の返礼または対価とみなされてはならない旨を定めている。しかし、自由発明をなしたことについて、使用者等が従業者等に特別手当を与えることを禁止する法規定はない。むしろ、このような場合に特別手当を給付することは、「従業者等の発明に対する奨励⾦プログラム」の形式として広く採用されつつある。会社によっては、当事者(使用者等と従業者等)が発明の譲渡やライセンス契約の交渉を⾏うための方針をもつところもある。いずれも別途契約を締結するものとし、⽀払われる⾦額は雇用契約と結びつけるべきではない。
2-3. 創作または発明を伴う職務以外の目的のために雇用された従業者等が、使用者等の資源等を⽤いて⾏った発明(「混合発明」)
IPL 第 91 条では、「発明又は実用新案が、従業者等の個人的貢献及び使用者等の資源、資料、資産、原料、施設⼜は設備を使用してなされた場合であって、契約に別段の明示規定がある場合を除き」、その発明又は実用新案は、使用者等と従業者等それぞれに、その持ち分が均等に共有されることが規定されている。これは、従業者等の雇用契約が従業者等の職務として、発明的または創作的性質の活動を規定していない場合であって、従業者等が会社の資源等を用いて発明または実用新案をなした場合に生じる。
IPL 第 91 条はさらに、かかる「混合発明」においては、使用者等が実施に関する排他的権利を有し、従業者等は正当な報奨⾦を受ける権利を有することを定めている(第 91 条 2 項)。この場合、使用者等は特許または実用新案の発明をその登録日から⼀年以内に実施しなければならない。実施しない場合には、実施しなかったことを正当化する合理的な根拠を⽰せない限り、従業者等が単独の所有者となる
(第 91 条 3 項)。
混合発明においては、基本的に発明が共有扱いとされるため、予防措置として、特許取得の過程(特許の草案作成から取得及び維持のための各種費用の支払まで)、特許発明の実施の過程(実施が第三者へのライセンスによる場合、その管理)および⾒込まれる改良開発の過程における各当事者の役割、権限および義務に関して、明確なルールを定めておく必要がある。これらの事項について使用者等と従業者等とが合意したルールを、明白かつ正確な形で策定できない場合、共同所有権に関するブラジル⺠法の規定が適⽤される(法律第 10,406/2002 号第 1,314 条以降)。
IPL は、従業者等が自らの有する所有権を使用者等に譲渡することを禁止していない。したがって、使用者等は雇用契約において、混合発明がなされた場合で使用者等がその発明を実施することに関心がある場合、従業者等は雇用契約で予め設定
された基準に従い、自らの持分を譲渡しなければならないと規定することができる譲渡に伴う義務負担について法律上の規定はないが、雇用契約で予め設定する基準により「xxな」対価が決定されるようにすべきである。なぜならば、使用者等が不当に富を得ていることを根拠に、労働裁判所に対する訴えが起こされ、会社にとって不利益をもたらす可能性があるからである。
同様に、従業者等の職務とは無関係であるが、会社の資源等を用いた従業者等の創作や発明に関する知的財産権の譲渡について、雇用契約に単なる包括的な規定が
あるに過ぎない場合には 従業者等が、本来支払われるべきxxな報酬の返済を求
めて、労働裁判所に訴えを起こす可能性がある。
【その2】に続く
(編集協⼒:⽇本技術貿易株式会社)