Contract
A1 詳しくは,お手元にある賃貸借契約書をご覧ください。簡単にご説明しますと,借り上げ民間賃貸住宅の賃貸借契約は,貸主・県(借主)・被災者( 入居者)の三者により締結し,県は借り上げた物件を被災者に応急仮設住宅として供与しています。
県は,毎月の賃料,共益費・管理費,火災保険等損害保険契約及び仲介料を負担しています。その契約による供与期間は 2 年間,再契約による供与期間は 1 年間です。
なお,県が借り上げた民間賃貸住宅を契約期間の途中で解約(退去)する時は,賃貸借契約書に基づいて,必ず解約(退去)しようとする月の1か月前(xx県のホームページでは,退去しようとする月の前月1日)までに,お住まいの市町村窓口に解約申出書を提出する必要があるとされています。解約申出書の用紙については,市町村の担当課窓口でも入手できます。
Q2 契約書をなくしてしまったのですが,どうしたらよいでしょうか。
A2 xx県応急仮設住宅契約事務センター (022-745-0565,平日午前8時30分~午後5時15分)までお問い合わせください。
Q3 借り上げ民間賃貸住宅についての敷金等の扱いはどのようになっていますか。
A3 借り上げ民間賃貸住宅では,最初の契約時に,県は貸主に対して,「物件の明け渡し時における原状回復(通常損耗,経年変化を含む)に要する費用」として,「退去修繕負担金」を支払っております。この退去修繕負担金については,原状回復費用(ただし,県又は入居者の故意又は過失による損壊に係る修繕費用を除く)が退去修繕負担金額に満たない場合であっても,貸主は県に差額分を返還する必要はないものとされている点で,敷金とは異なる趣旨の金銭といえます。
他方,契約書には「入居者の故意過失により必要となった修繕に要する費用は,入居者が負担しなければならない」と規定され,また,「貸主は,県及び入居者の故意又は過失による損壊に対する修繕費用を除き,県及び入居者に対し,退去修繕負担金以外の原状回復に要する費用の請求は行わない。」と規定されております。これら規定からすると,入居者が故意または過失によって物件を損壊した場合には,損壊箇所の修繕費用(ただし,通常損耗,経年変化に係る修繕費用を除く)を負担する必要があります。
Q4 賃貸借契約では,契約終了時に「原状回復」しなければならないと聞きましたが,
「原状回復」とは何ですか?
A4 賃貸借契約終了時,入居者は,部屋に置いてある荷物(入居者自身が購入・設置したもの)を全て搬出し,部屋の掃除をして貸主に明け渡す必要があります。これを「原状回復」といいます。入居者が購入して部屋に取り付けた物(エアコン・ガスコンロ等)がある場合にも,原則として,それを部屋に残してはいけません。
Q5 賃貸借契約における「原状回復」の一般的な考え方を教えてください。
A5 原状回復といっても,借りていた部屋を入居当初と同じ状態に戻す必要まではありません。借主が通常の使用方法で生じた汚損・損耗(これを「通常損耗」といいます。)はそのままでよく,借主・入居者がわざと(故意)又は不注意(過失)で付けてしまったキズや汚れ等についてのみ,原状回復が求められます。
Q6 借り上げ民間賃貸住宅の場合,「原状回復」についてどのように規定されていますか。
その規定の意味・内容はどのようなものですか。
A6 借り上げ民間賃貸住宅の場合, 入居者は,契約終了日までに,残置物を全て処理し物件を明け渡さなければならないと規定されています。同規定は, 入居者が,契約終了時までに,部屋に置いてある入居者の荷物等をすべて搬出するという,原状回復の内容を示した規定といえます( A4参照)。
また,明渡し時における原状回復工事は,貸主が行い,貸主は, 借主に対して,入居者の故意又は過失による損壊に対する修繕費用を除く,原状回復に要する費用の請求は行わないとされています。これらの規定は,通常損耗(A5参照)の原状回復費用を入居者に負担させないことを意味しており,入居者は,入居者の故意又は過失によって生じた損壊に対する修繕費用のみを負担することを内容としています。
なお,県は貸主に「退去修繕負担金」を支払っており,通常損耗・経年変化に係る費用は退去修繕負担金から精算される取り決めとなっておりますので, 入居者の故意または過失によって生じた損壊箇所の修繕費用について,入居者は,通常損耗・経年変化に係る修繕費用を除く修繕費用を負担することとなります(A3参照)。
Q7 では,次のような場合に,私が原状回復の責任を負う部分があるとしたら,どのよ
うな範囲になりますか。
(事例①) みなし仮設住宅から復興住宅への転居に伴い,高額な原状回復費用を請求された。ハウスクリーニング費用は一律2万5000円と言われすでに支払った。他にクロス全面張替費用を請求すると言われている。ペット可のワンルームで犬を飼っていたものの
壁をダンボールで覆い,気をつけていた。
A まず,ハウスクリーニングですが,あなたが通常の清掃(具体的には,ゴミの撤去,掃き掃除,拭き掃除, 水回り,換気扇,レンジ回りの油汚れの除去等)を実施している場合は,ハウスクリーニングは次の入居者を確保するためのものとなりますので,その費用は貸主が負担するのが原則となります。あなたの場合,ペット可のワンルームで犬を飼っていたということですが,ペットを飼育した場合には,臭いの付着や毛の残存,衛生の問題等があるので,その消毒の費用についてはあなたの負担とされることがあります。もっとも,そもそもハウスクリーニングの必要がない場合やxx県が貸主に渡している退去修繕負担金でハウスクリーニング代を賄えるものであった場合には, クリーニング費用の2万5000円は,本来は払わなくてよかったものということになりますので,貸主などに返還を求めることができるということになります。
次に,クロスですが, 原状回復は毀損部分の補修の範囲で行うというのが原則です。あなたは,壁をダンボールで覆っていたということですが,もし仮に犬が壁にキズをつけてしまった部分があるのであれば,その修理は必要となり,修理代金(ただし,通常損耗・経年変化に係る修繕費用を除く)を負担しなければなりません。その場合でも,各部位ごとの経過年数を考慮した上,最低限可能な施工単位(㎡単位や毀損させた箇所を含む1面分の張替え)で修理するのが妥当と考えられます。
貸主が話し合いに応じない場合には,弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口への相談をお勧めします(問い合わせ先はA11)。
(事例②) 4年前に大規模半壊で未修繕のみなし仮設住宅のマンションに入居し,今年退去する際に高額な修繕費を請求された。入居時に家賃2か月分をxx県から不動産屋に渡しているが,その分を差し引いた負担は50万円とのこと。子どもがいるため,床や壁につけた傷に関しては修繕費を払うつもりであるが,天井クロス張替え,もともと汚れていた換気
扇の取り換え費など納得できない請求が多い。
A お子さんが床や壁につけた傷について, 修繕費が発生するのはあなたのおっしゃる通りです。ただ,天井のクロスについては,xxxのヤニ等で張替えが必要な程度に汚れて
いる場合は別として, そのような事情等がない場合には,あなたがxxxxxの張替費用を負担する理由はありません。
また,換気扇についても,使用期間中に清掃・手入れを怠った結果汚損が生じた場合はあなたに費用負担が発生することもありますが,今回の場合はもともと汚れていたと言うことですので,あなたに費用負担は発生しないものと思われます。
貸主に入居時の状態等を示す写真などを提示してその請求を撤回してもらうのが望ましいですが,貸主があなたの説明に応じないような場合には,一度, 弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口への相談をお勧めします( 問い合わせ先はA11)。
(事例③)4年間居住したみなし仮設住宅から退去したが,貸主から家具の置き跡などを指摘され,高額な原状回復費用を請求されている。貸主は「県が負担した敷金なので返す必要はない」などとも言っており,敷金は返されないまま高額な原状回復費用を請求される
のではないかと不安。
A 貸主が言っている敷金とは,「退去修繕負担金」のことです(A 3参照)。退去修繕負担金は退去時の原状回復費用に要する費用として,県が貸主に支払ったお金であり,入居者に返還されるお金ではありません。
家具の置き跡は,普通に使っていても生じる汚れですから通常損耗(A5参照)にあたります。したがって,貸主から高額の原状回復費用を請求されても,支払う必要はありません。貸主があなたの説明に応じないようであれば,一度,弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口への相談をお勧めします(問い合わせ先はA11)。
(事例④) みなし仮設住宅入居時,県から敷金相当分として8万円が支払われているが,退去時に敷金の返金はなく,また相殺もせずにクロス張替え等の修繕費用として7万円を
請求されている。
A 敷金相当分(退去修繕負担金)は,入居者に返還されるお金ではありません(事例③への回答を参照)。また,クロス張替え等の修繕費用が,通常損耗(A5参照)の範囲内ならば貸主の請求に応じる必要はありません。仮に,入居者の故意または過失によりクロス等が毀損した場合には,入居者は,クロス等の修理費用(ただし, 通常損耗・経年変化に係る修繕費用額を除く)を負担しなければなりません。まずは,これらの点を貸主に確認し,貸主が話し合いに応じない場合には,弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口への相談をお勧めします(問い合わせ先はA11)。
(事例⑤)冷蔵庫やxxxが転倒するのを防ぐため,壁にビスで固定していました。壁についたビス穴についても,原状回復義務を負うのでしょうか。また,線香のにおい
が壁についていると言われましたが,月命日につけていただけです。
A 争いがあるところです。原状回復義務を負うのは,損傷が通常損耗を超える場合のみです(A5参照)。したがって,ビス穴が通常損耗にあたるならば, あなたは原状回復義務を負いません。
ビス穴が通常損耗にあたるか否かは,一般的な生活をする上で必要な行為によって生じたかによります。たとえば,エアコン設置のために生じたビス穴は,エアコンは一般的な生活をするうえで必需品になっているので,エアコン設置のために付いた穴は通常損耗だとされます(国土交通省住宅局『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(再改訂版)
19頁)。これに対して,転倒防止の措置については,同ガイドラインは,「地震等に対する家具転倒防止の措置については,予め,賃貸人の承諾,または,くぎやネジを使用しない方法等の検討が考えられる。」とし,通常損耗には含まれないとしています(同ガイドライン18頁)。
しかしながら,地震大国日本においては,地震が頻発しており,安全な住まいのためには,家具等を壁に固定する必要があり,そのためにはビスで留めることも,今や常識となっています。したがって,地震による転倒防止のために冷蔵庫やタンスを壁に固定するために開けたビス穴は,一般的な生活をする上で必要な行為といえ,通常損耗にあたるので,あなたは原状回復義務を負わないと考えるべきです。
それから,線香の臭いについては,クリーニングで除去できる程度ならば通常の損耗の範囲ですが,クリーニングで除去できない程度に臭いや色が染みついていれば,部分補修は困難なので全体の張替が必要となり,張替費用(ただし,通常損耗・経年変化に係る修繕費用を除く)を負担しなければならなくなることもあります。もっとも,あなたの場合,線香は月に1回しか付けていないということですので,クリーニングで除去できる範囲を超えていない可能性が高いといえます。その場合は,全面張替までの必要性はないということになります。
貸主が話し合いに応じない場合には,弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口への相談をお勧めします(問い合わせ先はA11)。
Q8 私は被災後すぐに,自ら賃貸物件を借りて引っ越しました。その時貸主に敷金も-払いました。その後その賃貸物件は,遡って仮設住宅扱いとされましたが,私が最初に支払った敷金は返ってこないのでしょうか。
A8 ご質問のような場合,貸主はあなたが支払った敷金をあなたに返還し,県から修
繕負担金を受け取ることになっています。従って,あなたが最初に支払った敷金は,貸主から返還を受けられることになります。
もっとも,貸主の中にはあれこれと理由をつけて敷金を返還しようとしない方もおられるようです。もし, あなたが貸主に敷金の返還を請求しても貸主が敷金を返さないような場合には,一度, 弁護士会や各自治体の消費生活相談窓口へ相談してみることをお勧めします(問い合わせ先はA11)。
Q9 プレハブ仮設に済んでいる知人から, 退去にあたり持ち出していい物品があると聞
きましたが,借り上げ民間賃貸住宅の場合も同じでしょうか。
A9 同じではありません。プレハブ仮設の設備(エアコン,ガスコンロ等)は,行政が設置したもので,使用者本人が継続して使用すること等を要件として許可を得た上で,持ち出しが認められます。しかし,借上げ民間賃貸住宅の設備は,貸主が設置した設備なので,入居者自身が購入・設置したもの以外の持ち出しは認められません。
Q10 借り上げ民間住宅として借りていた住居を,今度は自分自身が借主となって契約したいのですが,誰と話をすればよいのでしょうか。また,契約締結までの一般的な流れ
を教えてください。
A10 仲介不動産業者又は貸主に,みなし仮設住宅としての契約終了後もその賃貸住宅に入居したいという意向があることを伝え,貸主の了解を得る必要があります。また,契約締結までの一般的な流れは,①上記の相談→②入居審査→③住宅の現況確認→④原状回復費用の精算→⑤重要事項説明→⑥契約締結というものです。
(注意点)
②について
主に,入居者の収入状況や連帯保証人の有無について審査します。
③④について
住居の汚損状況を調査し,(ア)通常損耗・経年変化の場合には退去修理負担金での精算を貸主にお勧めし,(イ)故意又は過失に基づく毀損部分が確認された場合には,契約締結に先立って修理代金を精算することをお勧めします(修理代金の算出方法についてはA3参照)。仮に,⑥の契約に先立って退去修繕負担金の精算を明示的にしなかった場合であっても,住宅の現況や汚損状況について貸主側と確認の書面を作成しておくと,自分自身で契約した後,同賃貸住宅から退去する際の原状回復に関するトラブル回避につながります。
⑥について
みなし仮設から通常の賃貸借契約に移行する場合は,新たに契約を締結することになります。その際,契約に基づき,敷金,礼金, 仲介手数料等を支払う必要があります。
Q11 貸主側との話し合いがまとまらず困っています。どこか相談できる場所はありま
せんか。
A11 仙台弁護士会の被災者電話相談・面談無料相談,各自治体の「消費生活相談窓口」をご利用ください。連絡先は下記のとおりです。
①被災者無料電話法律相談(仙台弁護士会法律相談センター)
022-722-0737(毎週月曜日午前10時~午後7時,祝日除く)
現在または東日本大震災時に宮城県内に在住の方を対象とする,電話による無料の法律相談です。なお,通話料金は相談者の負担となります。
②面談無料法律相談( 仙台弁護士会法律相談センター)
022-223-2383(平日午前9時~午後5時)
※法律相談センターは,仙台市のほか, xx市,xx市,大河原町,xx市,気仙沼市にもあり,東日本大震災当時に宮城県内などに住んでいた方を対象とする無料相談も行っています。詳しくは,仙台弁護士会のホームページをご覧いただくか,上記番号(0
22-223-2383)にお問い合わせください。なお,同一の相談回数には制限があります。
③各自治体の消費生活相談窓口
宮城県消費生活センター 022-261-5161仙台市消費生活センター 022-268-7867
その他の市町村「消費生活相談窓口」については,各市町村へお問い合わせください。
Q12 貸主との話し合いがまとまらなかった場合の紛争解決方法にはどのような方法が
ありますか。
A12 少額訴訟,民事調停,ADRによる解決が考えられます。
①少額訴訟
60万円以下の金銭の支払いを求める簡易裁判所における訴訟です。通常の訴訟と異なり,原則として1回の審理(平日昼間のみ)で終了します。1回の審理で解決を目指すため,証拠については審理の日にすぐに調べることができるものに限られます。審理
の中で話し合いによる解決(和解)をすることもできます。簡単な法律知識が必要となりますが,貸主との話し合いがまとまらなくても,最終的には裁判所の判断(判決)を求めることができます。
問い合わせ先 仙台簡易裁判所・訴訟受付係( 022-745-6082)
②民事調停
裁判所において,調停委員を介する話し合いの手続です(平日昼間のみ)。少額訴訟と異なり,法的知識は必要ありません。話し合いによる解決を目指したいが第三者を介したい,という場合に相応しい手続といえます。なお,合意に至らない場合には,調停は不成立となり,紛争解決に至りません。
問い合わせ先 仙台簡易裁判所・調停受付係( 022-745-6083)
③ADR
仙台弁護士会による身の回りのトラブルの迅速な解決を目指す紛争解決のための制度です。弁護士が貸主側との間に入って,迅速に,形式にこだわらない柔軟で納得のいく解決を目指すものです。法的知識は不要です。和解が難しい場合で当事者双方が仲裁人の仲裁判断を求めそれに従うという場合には,仲裁法に基づく仲裁手続に移行します。なお,審理は原則として平日に行われますが,事案の内容などに応じて,土日・夜間に行うことも可能です。
問い合わせ先 仙台弁護士会紛争解決支援センター( 022-223-1005,平日午前10時~午後4時)