Contract
第 518 回企業会計基準委員会
日付 2024 年 1 月 23 日
プロジェクト
2024 年 1 月開催会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)への対応
項目 電力購入契約
本資料の目的
1. 本資料は、2024 年 1 月 29 日に臨時開催される会計基準アドバイザリー・フォーラム
(ASAF)で取り上げられる予定である電力購入契約(Power Purchase Agreements: PPA)に関する論点について、2023 年 12 月の IASB ボード会議(以下「本ボード会議」とい う。)における審議の概要をご説明することを目的としている。
2. 電力購入契約は、2023 年 7 月の国際会計基準審議会(IASB)ボード会議において IFRS第 9 号「金融商品」(以下「IFRS 第 9 号」という。)の狭い範囲の修正に関するリサーチ・プログラムとして作業計画に追加することが決定されている。
本ボード会議の結論
3. IASB は、次のことを暫定的に決定した。
(1) IFRS 第 9 号「金融商品」を修正する狭い範囲の基準設定に取り組み、次のプロジェクト・マイルストーンは公開草案とする。
(2) IFRS 第 9 号における「自己使用」及びヘッジ会計の要求事項を修正することを含む、基準設定アプローチを探求する。
14 名の IASB メンバー全員がこの決定に賛成した。
本ボード会議のAP の概要
リサーチの概要
4. IASB は、2023 年 7 月の IASB ボード会議以降、次の 2 つの質問に基づき会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)、大手会計事務所、及び複数の法域の発電事業者及び買手1(参加者 31 名)に対してリサーチを実施した。なお、現在まで財務諸表利用者
1 プロジェクト・ファイナンスでは通常、「オフテーカー」という用語が使われる。これは、プロジェクトによって生産される製品を購入したり、プロジェクトによって販売されるサービス(例えば、電気、採掘された銅、パイプライン)を利用したりする当事者を指す。なお、IASB が質問した発電事業者の多くは電力の引取手でもあり、顧客に電力を売るために PPA を締結することもある。
とは限定的なやり取りしか行っていないが、追加的な開示要求を含め、PPA についてどのような情報が必要であり有用であるかについて理解するために今後働きかける予定である。(AP3 第 5 項から第 9 項)
(1) 普及―PPA に関する会計上の課題が広く存在し、企業の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるか、又は及ぼすと予想されるか。
① 各法域における PPA の利用
② 事業戦略及びリスク管理
(2) 範囲-修正の範囲を十分に狭く保ち、効率的かつ適時に修正を完了できるように基準設定の範囲を限定することが可能か。
① 意図せぬ結果が生じるリスクを限定するために使用できる非金融項目の特性
また、2023 年 11 月には、(2)の観点から基準を修正する際のアプローチについて
IFRS 解釈指針委員会(以下「IFRS-IC」という。)にインプットを要請している。
5. IASB スタッフは、前項のリサーチによりを得た知見(本資料別紙参照)に基づき、狭い範囲の基準設定を行う場合に考え得るアプローチについての分析及び提案を行っている。
狭い範囲の基準設定を行う場合に考え得るアプローチに関する IASB スタッフの分析
6. 2023 年 7 月の IASB ボード会議での審議、及びリサーチにおける発見事項の検討を踏まえ、IASB スタッフは、考え得る基準設定による解決策として次の 2 つの側面について予備的な見解を示した。(AP3 第 47 項及び第 48 項)
(1) 提案する狭い範囲の修正の範囲を定義すること
(2) 狭い範囲の基準設定を行う場合に考え得るアプローチ
IASB スタッフは、2023 年 11 月の IFRS-IC においても予備的見解を示しており、本リサーチへの参加者及び IFRS-IC からのフィードバックに対する回答は、次項以降のスタッフの見解に反映されている。
(会計処理に関するその他の検討事項)
7. PPA に関する IASB のプロジェクトは、IFRS 第 9 号の修正の可能性にのみに焦点を当
てているが、企業は、IFRS 第 9 号の検討を行う前に、以下のような他の IFRS 会計基準が契約に適用されるかどうかを検討する必要がある。(AP3 第 49 項)。
(1) 電力生産者の IFRS 第 10 号「連結財務諸表」に基づく連結の要否
(2) PPA が IFRS 第 16 号「リース」の適用対象となるリースに該当するか
(3) PPA が IFRIC 解釈指針第 12 号「サービス委譲契約」の適用対象となるサービス委譲契約に該当するか
8. 再生可能エネルギーの一般的な PPA では、固定契約価格には再生可能エネルギー証書 (以下「REC」という。) の引き渡しの対価も含まれる。買手は REC を化石燃料由来の電源からのエネルギー使用量をオフセットするために使用(償却)する。(AP3 第 51項)
9. すべての参加者は、買手は、フィジカル PPA 及びバーチャル PPA において REC を別個に会計処理していることを確認したが、IASB は排出物価格設定メカニズムに関するプロジェクトを予備リストに含めているため、PPA に関する狭い範囲の基準設定プロジェクトには REC の会計処理を含まない。そのため、企業が REC をどのように会計処理しているかについての詳細な情報は提供しない。(AP3 第 52 項)
(狭い範囲の修正を行う場合における範囲の決定)
(1) 売手も買手も、非金融商品の生産又は引渡しの時期及び量を完全にコントロールできず、その結果、供給と需要との間に短期的なミスマッチが生じる。生産及び引渡しは、特に電力が必要とされる又は使用される可能性のある個別の区間ごとに、散発的で予測不可能(すなわち天候に左右される)である可能性がある。
(2) 企業の使用又は販売見込みは、期間(契約期間よりも短い可能性がある)にわたって高い程度の確実性をもって予測できる。
(3) 非金融商品が供給され、買手が供給量を使用できなかった場合、市場の構造により、未使用の電力は市場の実勢価格で市場に戻すことが要求される(すなわち、企業は販売の時期や価格をコントロールできない)。
11. 非金融項目の性質及び市場構造が前項に列挙された特徴を有する場合、狭い範囲の修
正のアプローチとして次のいずれか又は両方が考えられる。(AP3 第 54 項及び第 55 項)
(1) IFRS 第 9 号の第 2.4 項2の自己使用の例外における予想される購入を企業がどのように評価する必要があるかについての要求事項を修正する。(アプローチ 1)
(2) IFRS 第 9 号の第 6.3.3 項3に従って、非金融項目の売買について予想される取引の
「可能性が非常に高い」かどうかを企業がどのように評価するかについての要求事項を修正する。(アプローチ 2)
一方、狭い範囲の修正の範囲を決定するために非金融項目の特性や市場構造を使用しない場合の代替的なアプローチとしては、PPA について IFRS 第 9 号の範囲に対する例外を設けることが考えられる。(アプローチ 3)。
(アプローチ 1-IFRS 第 9 号の「自己使用の例外」規定の修正)
12. このアプローチは、IFRS 第 9 号 2.4 項の「自己使用」要求事項の修正の可能性に焦点を当てている。IASB スタッフは、IFRS 第 9 号において、基礎となる非金融項目が本資料第 10 項に記載しているような特徴を示す市場において、企業の予想される使用についての要求事項をどのように評価するかに関する適切な適用指針が欠如しているとの見解を有している。特に、そのような特定の市場構造を考慮する場合、現行基準は以下について明確でないと考えている。(AP3 第 56 項)
(1) 企業の予想される使用を、どの期間にわたって評価する必要があるか。
(2) どの程度の引渡後のスポット市場における取引が、PPA が自己使用で又は自己使用以外で保有されていることを示すか。
13. 基準設定には、これらの特定の非金融項目に関する要求事項を明確にするための適用指針の開発が含まれる可能性がある。例えば、適用指針によって、企業が「自己使用」の評価を行うにあたって考慮する事項を明確にすることが考えられる。(AP3 第 57 項)
(1) 契約を締結する目的と理由(例えば、契約の構造及びデザインは、契約期間にわたる企業の予想される使用に関する要求事項を満たすか)
2 IFRS 第 9 号の第 2.4 項「本基準書は、現金又は他の金融商品での純額決済又は金融商品との交 換により決済できる非金融商品項目の売買契約に、あたかも当該契約が金融商品であるかのように、適用しなければならない。ただし、企業の予想される購入、販売又は使用の必要に従った非金融商品項目の受取り又は引渡しの目的で締結され、引き続きその目的で保有されている契約は除く。ただし、本基準書は、企業が 2.5 項に従って純損益を通じてxx価値で測定するものとして指定した契約に適用しなければならない。」
3 IFRS 第 9 号の第 6.3.3 項「ヘッジ対象が予定取引(又はその構成要素)である場合には、その取引は発生する可能性が非常に高くなければならない。」
(2) 需給の短期的なミスマッチの結果として、必要とされるもの以外の市場との取引の頻度及び量(例えば、供給量又は消費量の見積りは平均使用量又は累積使用量に基づき予測されているか)
(3) 契約開始以降の使用に関する予想と実績との比較に関する証拠(例えば、購入企業は売買の純額で買手の立場にあるか)。
(4) トレーディング(売買)の意図を示すもの(例えば利益獲得目的での売却)。
14. IASB スタッフの見解では、本資料第 10 項の固有の特徴は、他の非金融項目の供給契約と異なり、自己使用の要件を評価する際に、前項に列挙した追加的な要素を考慮するアプローチを正当化する。言い換えれば、フィジカル PPA は、単にその固有の特徴によって自動的に自己使用のための保有ではないとみなされるべきではない。そのため、IASB スタッフは、IASB が自己使用の要求事項に焦点を当てたアプローチを開発する際には、xxな商品契約を検討する必要があるとの利害関係者の意見には同意しない。電力以外の非金融項目で、このような固有の特徴、特に未使用の数量を市場の実勢価格で売却するという要件を有するものがある場合、企業は、それらの非金融項目について自己使用の要求事項を検討する際に、前項に列挙している要因も考慮すべきである。(AP3 第 58 項)
15. IASB スタッフは、PPA の一部に自己使用の要求事項を適用するアプローチを検討したが次の理由により推奨していない。(AP3 第 59 項)
(1) 契約上の会計単位を分割することは、IASB が過去に自己使用の文脈において否定してきたものである。このようなアプローチは、現行の IFRS 第 9 号の要求事項におけるxx的な変更を意味するだけでなく、意図せぬ結果をもたらす大きなリスクを伴う。なぜなら、契約の一部のみ自己使用のために保有し、一部を売買目的で使用することは PPA に固有でなく、これまで自己使用の目的のみで保有されていないものとみなされなかった他の契約にも同様に適用される可能性があるからである。
(2) このようなアプローチでは、(ヘッジ対象の一部がヘッジ関係に指定されている場合と同様に)どの部分がヘッジ適格となるのか、また、企業はどのように自己使用の要求事項を適用する必要があるのかに関する詳細な要求事項が必要となる。これには、自己使用部分の継続的な評価や、その部分の事後的な変更が可能かどうかについての要求事項も含まれる。
(3) 市場での取引について、IFRS-IC に提出された要望書のような疑問が生じる可能性がある。例えば、PPA の開始時に契約の 80%が自己使用に指定されていたが、
その後に未使用電力の販売が 20%以上に達した場合、企業の当初の意図と市場で行った実際の行動との整合性をとることは困難である。
(4) 自己使用目的で保有する部分に関する経営者の意図に基づいて会計上の結果を頻繁に変更することは、財務諸表の利用者に有用な情報を提供しない可能性が高く、また、デリバティブ部分のxx価値をどのように会計処理するかなどについて非常に複雑な会計上の疑問を生じさせる可能性がある。一方、自己使用部分の事後的な変更を認めない場合、多くのデリバティブが当初から自己使用目的で保有されているものとして指定され、当該デリバティブがその後に売買目的で保有される場合であっても未履行契約として会計処理されることになる可能性がある。
16. IASB スタッフの見解では、このようなアプローチは自己使用の要求事項をxx的に変更するものであり、狭い範囲での基準設定にとどまらず、完了までにかなりの時間とリソースを要することになり、利害関係者にとって適時の解決策に繋がらない。(AP3第 60 項)
17. アプローチ 1 のメリット及びデメリットは次のとおりである。(AP3 第 61 項から第 63
項)
メリット
(1) 現行の自己使用に関する要求事項をxx的に変更するものではなく、効率的な方法で最終決定できる狭い範囲の修正である。
(2) PPA の目的を継続的に評価する必要があるため、現行の規律を維持することができる。
(3) 意図せぬ結果を招いたり、自己使用に関する現行の実務を混乱させたりする大きなリスクがなく、グロスで引き渡される非金融項目を基礎とする他の未履行契約と整合的な会計結果を達成することができる。
デメリット
(1) フィジカル PPA は、通常、5 年以上の契約である。このような契約により企業はリスク(例えば価格リスク)に晒されるが、現行の IFRS 第 7 号は、企業の金融商品から生じるリスクについて開示を要求しているものの、自己使用とされる契約についての具体的な開示要求を定めてない。PPA に固有の特徴を考慮すると、投資家は、これらの契約から生じる将来キャッシュ・フローの時期、金額及び不確実性を理解できるような追加的な情報開示を要求するかもしれない。
(2) 自己使用の要求事項を修正することは、フィジカル PPA に関する実務的な懸念を
解決するだけで、バーチャル PPA には適用されない。このため、フィジカル PPAを契約できない多くの利害関係者は、契約に関する会計上の解決策がないままとなる。
(アプローチ 2-IFRS 第 9 号のヘッジ会計に関する要求事項の修正)
18. このアプローチは、IFRS 第 9 号の予定取引に関するヘッジ会計の要件に焦点を当て、他の明確化とともに、基礎となる非金融項目が本資料第 10 項に記載しているような特徴を有する契約について、予定取引の「可能性が非常に高い」という要件をどのように評価するかに関する次のような追加的な要求事項を含めることを検討するものである。このようなアプローチにより、フィジカル PPA における自己使用の要求事項の評価と同様の原則に基づき、バーチャル PPA をキャッシュ・フロー・ヘッジ関係におけるヘッジ手段に指定することが可能とすることができる可能性がある。(AP3 第 64項から第 67 項)
(1) 例えば、ヘッジ指定時点でアウトプット数量がxxの予定取引について、アウトプットの全量をヘッジ対象として指定するなど、ヘッジ対象として変動額や不特定額を指定することを認めることで、発電事業者がバーチャル PPA をヘッジ手段として使用する場合に、より容易にヘッジ会計を適用できるようにできる可能性がある。
(2) 電力の需要家におけるヘッジ会計適用上の制約を軽減できる可能性のある追加的な修正として、「可能性が非常に高い」の要件の適用に関し、予定数量を見積る上での時間軸について、例えば、短期・中期の電力購入については「可能性が非常に高い(highly probable)」ことを要求するが、長期の電力購入については「発生が見込まれる(expected to occur)/発生する可能性が高い(probable to occur)」ことを要求することが考えられる。
19. なお、IASB スタッフは、ヘッジ会計の要求事項の検討は複雑であり、基準設定上の解決策が見出されることを保証するものではないこと、及び関係者からフィジカル PPAに対応する解決策を遅らせることのないよう、ヘッジ会計の要件の修正は自己使用の要件の修正とは切り離して策定すべきとの提案があることを認識している。一方、IASBスタッフは、基準設定の解決策を 2 つのプロジェクトに分離することは、両アプローチが同じ基本的な特徴にも基づいているため実行可能でない可能性があること、及びいずれかのアプローチに対するフィードバックやインプットは、もう一方のアプローチに影響を与える可能性があると考えている。(AP3 第 68 項)
20. アプローチ 2 のメリット及びデメリットは次のとおりである。(AP3 第 69 項及び第 71
項)
メリット
21. バーチャル PPA に対してヘッジ会計を利用することは、当該契約に関する企業のリスク管理戦略と整合的である。例えば、バーチャル PPA の期間中、原資産である非金融商品の価格を固定することを目的とする企業は、キャッシュ・フロー・ヘッジ会計を適用することにより、当該リスク管理戦略を次のように財務諸表に反映させることができる。
(1) バーチャル PPA のxx価値変動のすべてを変動が発生した期間の損益として認識するのではなく、ヘッジの有効な部分はその他の包括利益として認識する。
(2) 電力のスポット購入とバーチャル PPA の純決済との間のタイミングやベーシスの違いなどによって生じる非有効部分を損益として認識することで、バーチャルPPAがキャッシュ・フローの変動を完全にヘッジしていないという経済的実態を反映する。
22. ヘッジ会計を適用すると、バーチャル PPA は財政状態計算書に認識され、IFRS 第 7 号
「金融商品:開示」(以下「IFRS 第 7 号」という。)のヘッジに関する要求事項の対象となるため、利害関係者が IASB に報告した会計上の問題に対処すると共に、財務諸表利用者に対し、企業が予想する電力購入又は売却にキャッシュ・フローの変動をヘッジするための企業の戦略に関する有用な情報を提供することになる。
デメリット
23. キャッシュ・フロー・ヘッジ関係においてヘッジ対象として指定される予定取引について、「可能性が非常に高い」という要件を修正することは、意図せぬ結果を招く危険性が高い。ヘッジ会計は、ヘッジ指定されたデリバティブについて測定の例外を設けるものであるため、予定取引に対して意図的に高いハードルを設定している。したがって、この問題を解決するためには、ヘッジ会計の要求事項を一層複雑にさせる可能性がある。
24. ヘッジ会計の適用は任意であり、現在ヘッジ会計を適用していない企業にとって適用コストが高くなる可能性がある。
(アプローチ 3-PPA を IFRS 第 9 号の範囲からの除外)
25. このアプローチは、PPA をデリバティブの定義から除外する、又は IFRS 第 9 号の第
2.1 項に適用除外を追加することで、IFRS 第 9 号の範囲に対する例外を設けるものである。このアプローチは以下についての検討を含む。(AP3 第 73 項)
(1) PPA の定義を策定する必要がある。
(2) 「サンセット条項」(例外の終了期限)が含まれる場合がある。
(3) 追加の開示要件が含まれる可能性がある。
このアプローチを提案した利害関係者の多くは、IASB が PPA に関するプロジェクトの一環として、より長期的な解決策を開発する間、デリバティブ会計からの一時的な例外を提供できるとしている。
26. アプローチ 3 のメリット及びデメリットは次のとおりである。(AP3 第 74 項及び第 75
項)
メリット
27. 例外を設けることの一般的なメリットは、IFRS 第 9 号の範囲から PPA を除外するための理由の正当性次第で、プロジェクトを比較的迅速に進捗させることができるということである。例外規定は原則に基づくものでなくルール・ベースであるため、その適用は特定の非金融商品の売買に関する適格な契約に限定される。
デメリット
(1) 意図せぬ結果を招くリスクを取り除くものでなく、必ずしもより迅速な解決策に繋がるものでない。どのように例外規定の範囲を設けるにせよ、例外が濫用されるリスクを回避するために十分に狭い範囲であると同時に、正確かつ慎重な文言が必要となる。例えば、例外の文言によっては、PPA は電力の売買とほとんど関係がないにもかかわらず、特定の会計結果を達成することのみを目的として、他の基礎的項目(金融項目又は非金融項目)を含むようにストラクチャリングされる可能性がある。したがって、このような例外のための十分に堅牢な基準の開発には、かなりの時間がかかると考えられる。
(2) 金融商品が IFRS 第 9 号の範囲から除外された後は、通常、金融商品の目的を継続的に評価する必要はない。したがって、その後、金融商品の目的が変更された場合、再評価が必要となる可能性があり、また、金融商品に関する情報を財務諸表利用者に提供する必要があるかもしれない。
(3) バーチャル PPA をIFRS 第 9 号の範囲から除外する概念的根拠はなく、他の差金決済契約(例えば金利スワップ)や、名目金額が特定されていないその他のデリバ
ティブの会計処理と矛盾を生じさせる。
(4) PPA は通常、長期契約である。また、ネット・ゼロ目標に向けた取り組みに伴い、今後数年のうちに PPA が増加することが見込まれるとのフィードバックを踏まえると、IFRS 第 9 号の範囲に対する例外規定は、自己使用やヘッジ会計に関するより一般的なプロジェクトが完了するまで多くの PPA に適用される可能性がある。仮に将来的なプロジェクトが PPA を財政状態計算書で認識することを要求した場合、その時点における経過措置は、実務適用可能性と財務諸表利用者にとっての情報の有用性のバランスをとるために、大きなプレッシャーを受けることになる。
(5) IASB はつい最近、第 3 回アジェンダ協議を終えたばかりである。IASB の作業計画に大規模な基準設定プロジェクトを追加することは、次回のアジェンダ協議においてのみ妥当である可能性がある。このため、自己使用又はヘッジ会計の要求事項を変更するような大規模なプロジェクトは、しばらく遅れる可能性がある。
IASB スタッフの提案及び本ボード会議における議論の概要
IASB スタッフによる提案
29. IASB スタッフは、PPA の普及に関するリサーチ結果(本資料別紙参照)及び利害関係者から得たその他の情報によれば、PPA は複数の法域で普及していること、及び多くの場合、財務諸表からは読み取れないものの、利害関係者から IFRS 第 9 号の既存の要求事項の適用において実務の不統一や、フィジカル PPA とバーチャル PPA の両方において実務上の問題があると聞かれていることから、IASB に対して PPA をより適切に財務諸表に反映させるための狭い範囲で IFRS 第 9 号を修正する基準設定に着手すること、及び次のプロジェクトのマイルストーンとして公開草案を作成することを提案した。(AP3 第 75 項及び第 76 項)
30. また、IASB スタッフは、基準設定を行う場合の範囲と望ましいアプローチとして 3 つのアプローチ(本資料第 12 項から第 28 項参照)のメリット及びデメリットを検討した結果、次の理由により、IASB が、自己使用とヘッジ会計に関する要求事項を同時に修正する狭い範囲の基準設定を行うアプローチ 1 及び 2 をさらに検討することを提案した。(AP3 第 78 項及び第 79 項)
(1) IFRS 第 9 号の範囲に例外を設けるアプローチ 3 は、意図せぬ結果をもたらす重大なリスクがあり、IFRS 会計基準の原則主義的な性質を損なうリスクがあり、デメリットがメリットを上回る。我々の見解では、これは今回のケースでは正当化されない。
(2) 他の 2 つのアプローチ(アプローチ 1 とアプローチ 2)は相互に排他的ではなく、組み合わせてさらに検討することができる。なぜなら、本資料第 10 項に記載している特徴は、かなりの程度、両方のアプローチに利用できるからである。これらの特徴により、自己使用の評価だけでなく、ヘッジ会計についても修正範囲を絞り込むことができる。
(3) フィジカル PPA とバーチャル PPA について提起された会計上の問題の両方に対処することができる。
本ボード会議における議論の概要
31. 本ボード会議では主に次のような意見が聞かれた。
(1) 本ボード会議では IASB スタッフから、フィジカル PPA とバーチャル PPA の経済的実質が同じであるかに関し、両取引の目的は共通であるが、電力の物理的な引渡しを伴い総額決済される前者に対し、後者は差金決済を行うデリバティブ取引であり経済的に同じ取引ではないとの考えが示されたが、これについて反対する意見は聞かれなかった。
(2) 原則に基づく解決策を検討すべきであり、IFRS 第 9 号に対する例外を設けるアプローチ 3 は支持しない。
(3) アプローチ 1 とアプローチ 2 の優先順位に関し、多くの理事から、ヘッジ会計はバーチャル PPA だけでなくフィジカル PPA がデリバティブとして処理される場合にも適用可能であるため、アプローチ 2 をアプローチ 1 に優先して検討すべきであるとの意見が聞かれる一方、一部の理事から PPA が行われる主な理由は価格の固定でなく温室効果ガスの排出削減目標の達成であるため、自己使用の例外に関するアプローチ 1 を優先すべきとの意見も聞かれた。
(4) 電力市場のメカニズムが他の取引と異なることは認めるが、PPA の会計上の問題について解決策を検討する上では、過去から議論されてきた他の取引と明確に区別することが必要である。
(5) PPA から生じるリスクについて財務諸表利用者が理解できるような透明性を確保するための開示が必要である。
32. Xxxxxxx 議長からは、アプローチ 1 とアプローチ 2 の両方について、本プロジェクトについて次の点に注意する必要があるとの発言がなされた。
(1) 既存の実務慣行に意図せぬ結果を生じさせないよう、プロジェクト範囲を絞り込
むこと。
(2) 実務上の問題に適時に対処するため、最良の解決策を見つけることと、適時の解決策を見出すこととのトレードオフを考慮する必要があり、いずれかの解決策により多くの時間を費やすのであれば、より困難な方から始め、追加的な開示についても検討すべきであること。4
以 上
4 本ボード会議ではIASB スタッフにより、2024 年 1 月のボード会議の教育セッションで、アプローチ 1 とアプローチ 2 における解決策のいくつかを示す予定であると言及された。
別紙 IASB による PPA に関するリサーチ結果の概要
1. 本資料第 4 項に記載した、IASB がPPA に関して実施したリサーチ結果の概要は次項以降のとおりである。
普及
2. PPA はほとんどすべての地域5で業種を問わず利用されており、さまざまな規模や洗練度において発展中である。
PPA の種類
3. フィジカル PPA とバーチャル PPA のどちらの契約が締結されるかは関連する電力市場の設計や構造による。発電量、送電網へのアクセス、引取りの位置が一致しにくいため、再生可能エネルギーへのアクセスを確保するためにバーチャル PPA が利用されることがある。 また、バーチャル PPA の方が利用し易いため、小規模な事業者がバーチャル PPA を締結しやすいのではないかとの指摘があった。
PPA の主な条件
4. PPA の主な条件は次のとおりである。
(契約期間)
10 年から 30 年と長期にわたる傾向がある。契約条件に違反した場合以外には解約できないか、又は多額の早期解約違約金が課されることで、実質的な解約ができない契約も一般的である。
(価格設定)
合意された電力価格は通常固定されているが、場合によっては、インフレ指数や管轄地域の関税に連動して、契約期間中に調整/段階的に設定されることもある。
(電力量)
一定量、生産量に比例した量又は最大量や最小量を含むことができるが、多くの参加者は、発電量の全量又は一定割合(発電量従量制)の場合が多いと述べた。
5 特にオーストラリア、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、スペイン、フランス、イギリス、アメリカ
(再生可能エネルギー証書(REC))
PPA のほとんどには REC の購入が含まれる。REC は、保有者が再生可能エネルギー施設から発電された電力を所有していることを証明する市場ベースの商品であり、購入した電力と別個に他者に販売することができる(例えば、自らの排出量を相殺するためのカーボンクレジットとして他の企業に販売する)。REC の価格は、必ずしも PPA の中で個別に指定されるわけではない。なお、ブラジルとカナダの参加者からは、PPA の中には REC が含まれていないものもあると聞かれている。
事業戦略及びリスク管理
5. PPA に係る事業戦略及びリスク管理として次の意見が聞かれている。
(発電事業者)
再生可能電力インフラへの投資のための長期資金を調達するため、固定価格による電力の確実な引取りをもたらす安定した信頼できる収益源を確保するため、需要家と長期 PPA を締結する必要がある。
(需要家)
(1) 主として気候変動に関するコミットメント達成のため、また、自社製品の電力投入価格を安定化・固定化することを考慮して PPA を締結する。
(2) ほぼすべての需要家は、REC は通常、自己使用しており、また、自社で電力を使用できない場合のスポット市場への売却について、電力の売買のタイミング、量及び価格をコントロールできないため、利益目的で行われることは決してないと説明している。
(3) 利害関係者は、PPA は、スポット市場での電力購入取引と同様に取引発生時点で売上原価又は営業費用の一部として会計処理すべきであり、デリバティブとして契約期間中の予想電力使用量と電力スポット価格の将来予想に基づく評価損益を損益に含めることは業績指標を歪ませ、非 GAAP 指標を使う必要を生じさせると考えている。電力価格は商品価格の変動によって大きく変動する可能性があるため、公正価値の変動を損益として認識することは、電力コストを固定化することによる PPAの事業活動への影響を反映した情報にはならず、PPA がない場合の結果を反映した情報にもならない。
(4) 需要家にとっての PPA に関する主なリスクは次のとおりである。
① 需要家が必要とするときに十分な電力が供給されず、スポット市場で電力を契約価格より高い価格で購入する必要が生じること、及び需要家が必要とし
ないときに電力を引取り対価の支払いを行う必要がある場合に、余剰電力を | ||
スポット市場で契約価格より低い価格で売却する必要が生じること。 | ||
② | バーチャル PPA では発電事業者から電力がスポット市場に送出されるごとに (例えば 1 時間ごと)、契約価格とスポット市場価格との差額を精算する必要があるが、このタイミングと同量をスポット市場から購入するタイミングに | |
差が生じる場合がある。 | ||
③ | PPA は契約期間中の価格が固定されるため、スポット価格が当該固定価格を下回るリスクがあるが、将来なスポット価格が PPA の契約価格を大幅に下回 る不利な価格シナリオであっても、その影響は製品価格を通じて吸収できる | |
ため、不利な契約になる可能性はないと考えている。 | ||
範囲 |
(1) 経済的に貯蔵することができない。かつ、
(2) 当該項目が売買される市場構造によって決定される短期間のうちに消費するか又は販売する必要がある。
7. また、IASB は、会計基準アドバイザリー・ フォーラム(ASAF)、IFRS-IC、及び大手会計事務所のメンバーに以下について質問を行った。
(1) プロジェクトの範囲を限定するうえで、基礎となる非金融項目の特性を利用することに同意するか。
(2) 同意する場合、どのような特徴が電力に固有であり、それを利用できるのか。
8. 本別紙第 6 項及び第 7 項について利害関係者から得られたフィードバックは以下のとおりである。
(原資産の特徴に基づく範囲の限定)
9. ほとんどの委員を含む一部の参加者は、原資産の特徴を用いることで原則に基づく結果を達成できることに同意したが、他の参加者からは、特徴のリストについて、他の非金融項目や将来の発展によっては意図せぬ結果をもたらす可能性があるのではないかとの疑問も聞かれた。また、ある参加者は、天然ガスが電力と同様の特性を持つかどうか質問した。
10. 少数の参加者は、IFRS 第 9 号の自己使用の要求事項を修正し、フィジカル PPA に対する解決策を開発するにあたっては、契約締結に関する経営者の意図や事業モデル・テストに基づく方がより良いアプローチであると提案した。これらの参加者の中には、企業が契約期間中、電力の純購入者であり続ければ、その意図が証明される可能性があるとの意見もあった。また、IFRS 第 9 号の第 2.4 項の自家使用の要求事項を PPA の一部/部分に適用6する際の基礎として、経営者の意図を利用することも提案された。
(範囲を限定する上での特徴に関する提案)
11. 参加者の中には、電力の特徴として次のようなものを挙げるものもいた。
(1) 電力の売手も買手も、電力供給のタイミングと量をコントロールできない。
(2) 買手が供給された数量を使用できない場合、未使用の数量を市場の実勢スポット価格で市場に売却することを余儀なくされる。
(3) 買手は一定期間では電力の消費量と引取量は信頼性をもって一致させることができるが、売手が電力を引渡した個々の時点では一致させることができない。
12. なお、少数の参加者からは、電力を物理的又は経済的に貯蔵できるかは、将来的な発展を考慮すると、将来にわたって適用可能(viable)な特性ではないと述べた。
(追加的な考慮事項)
13. 一部の参加者は、フィジカル PPA とバーチャル PPA のどちらが締結されるかは電力市場の構造による所が大きく、通常、需要家による選択の余地は小さいこと、及びこれらは同じ目的で締結され、経済的に非常に類似しているため、どのような基準設定を行う場合であっても、同じ会計処理にする必要があるとコメントした。
狭い範囲の基準設定を行う場合に考え得るアプローチ
(「自己使用の例外」規定に関する適用指針を設ける)7
14. 参加者及び委員は、IFRS 第 9 号の自社使用に関する要求事項を修正することで、企業が予想される使用をどのように評価するかを明確にすることができることについて異論はなかった。参加者は、このような修正の結果、フィジカル PPA を未履行契約として会計処理することは、フィジカル PPA を締結する事業戦略を反映した有用な情報を提供するため、重要な要素であると考えた。
6 例えば契約の 80%部分を自己使用部分で保有し、残りの 20%部分をデリバティブとして保有するというように契約を分割する。
7 本資料におけるアプローチ 1 に対応
15. 一方、一部の委員は、IASB がこれらの特性が意図せざる結果を招かないと結論付ける前に、さまざまな商品契約を広範に検討する必要があるのではないかと懸念していた。
(IFRS 第 9 号のヘッジ会計に関する要求事項を修正する)8
16. 参加者の大半と IFRS-IC メンバーの多くは、IASB がフィジカル PPA とバーチャル PPAの両方について基準設定を検討することを支持している。これらの回答者は、基準設定による解決策の一部として、プロジェクトに自己使用とヘッジ会計の両方の要求事項を含めることを提案している。
17. 少数の委員からは、原則に基づくアプローチの下で範囲を限定してヘッジ会計を修正することは、自己使用の要件を修正するよりも実現が難しいのではないかという懸念が示された。
18. 他の委員からは、IASB がフィジカル PPA とバーチャル PPA の会計処理を 1 つのプロジェクトとして扱うのではなく、別々のプロジェクトとして扱うことで、例えばヘッジ会計の要求事項に関してより多くの作業を行う必要がある場合、自己使用の要求事項に関する基準設定を進めることができるのではないかとの意見があった。
(IFRS 第 9 号の範囲に対する例外を設ける)9
19. 一部の委員を含む他の少数の利害関係者は、原則に基づくアプローチによる狭い範囲での基準設定は、IASB が広範な商品契約をカバーするリサーチを行わない限り、意図せざる結果をもたらす可能性があると懸念した。少数の委員は、IASB は原則に基づく解決策と適時の対応のどちらを優先するのかを検討する必要があるかもしれないとコメントした。これらの委員は原則に基づく解決策に賛成しているが、適時に対応を行うためには、IASB がすべての PPA を IFRS 第 9 号の範囲から一時的に除外するなど、よりルールに基づくアプローチを検討する必要があるかもしれないと指摘している。
20. 多くの委員が、IASB は例外規定を用いることで、現在の懸念に迅速に対応しつつ、物理的実体のない非金融項目に自己使用及びヘッジ会計の要求事項をどのように適用するかという、より広範な概念的な問題に取り組むことができると提案した。少数の委員は、短期的にルール・ベースの例外規定を開発する場合、IASB は追加的な開示要求の追加を検討することができると提案した。
以 上
8 本資料におけるアプローチ 2 に対応
9 本資料におけるアプローチ 3 に対応