プログラムについては,動作についての保証ならびに動作しない場合の責任および補償が規定される。プログラムの交換または購入代金の返還を責任の限度とすることが多い。 プログラムの動作を補償するハードウェア環境についてはマニュアル等の書類に記述されることとなると思われる。記述されるべきハードウェア環境については,OS の種類とバージョン,CPU の種類と演算速度,メイン・メモリの空き容量,ハード
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xx 19 年度著作権・コンテンツ委員会 第 1 部会
特集《平成 19 年度著作権・コンテンツ委員会》
1.コンピュータ・プログラム使用許諾契約の意義コンピュータ・プログラムは著作物であるから,コ ンピュータ・プログラムの著作権者とそのコンピュータ・プログラムのユーザとの間で使用許諾契約を結ばなくとも,著作権者は著作権法上認められている権利
を有する。
著作xxでは,著作権者は複製権(21 条),公衆送信xx(23 条),譲渡権(26 条の 2)などを有している。著作権者が著作権法上認められている権利については,著作権者は,ユーザを拘束できる。一方,著作xxでは,独占的な使用権は認められていないから,ユーザは,コンピュータ・プログラムを著作権者の許諾を得ることなく原則として使用できる(1)。
このように,著作権者は著作権法上で認められている権利を有し,ユーザは,コンピュータ・プログラムを使用できるから,著作権者とユーザとの間でコンピュータ・プログラムの使用許諾契約を結ぶ必要は無いとも一応は考えられる。しかしながら,著作xxでユーザを拘束できない行為について著作権者を保護するという考えに立った場合,著作権者とxxxとの間で使用許諾契約を結ぶ必要が生じる。
コンピュータ・プログラムの使用許諾契約には,コンピュータ・プログラムの複製物を売買する形態での使用許諾契約,コンピュータ・プログラムの複製物を賃貸する形態での使用許諾契約などが含まれる。
以下,プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムの複製物を売買する形態での使用許諾契約,およびプロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムの複製物を賃貸する形態での使用許諾契約のそれぞれの契約条項について例を挙げながら説明する。なお,プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムのほかにオープン・ソース・タイプのプログラムも浸透してきている。オープン・ソース・タイプのプログラムでは,プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムとは異なる特有の使用許諾契
約となるが,このオープン・ソース・タイプのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約についても,概要を簡単に紹介する。
2.プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムの複製物を売買する形態での使用許諾契約
売買形態での使用許諾契約(2)には,コンピュータ・プログラムが格納された媒体のパッケージに記載するものやパッケージの中に契約書を入れるもののように不特定多数のユーザに対して一律に適用する契約と,特定の顧客に対して特別に適用する契約とがある。前者による契約は比較的安価なコンピュータ・プログラムについて適用され,後者による契約は比較的高価なコンピュータ・プログラムについて適用されることとなろう。
2.1 不特定多数のユーザに適用する使用許諾契約
不特定多数のユーザに適用する使用許諾契約においては,著作権者側からユーザに一方的に契約書等が提示されることとなるから,著作権者側の立場から契約書を作成することとなる。したがって,著作権者に有利となるような契約書が作成されることとなるが,ユーザにあまりにも不利な契約は無効となることがある点に注意する必要がある(3)。
また,不特定対数のユーザに適用する使用許諾契約では,契約形態がシュリンク・ラップ契約,クリック・オン契約などとなるのが通常であるために,契約自体の有効性を担保できるようにする必要がある点にも注意が必要である(4)。
使用許諾の範囲,禁止行為および責任制限の各条項がプログラム使用許諾契約の中核をなす(5)。
2.1.1 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の例
第 1 条 定義
(1)本契約において,「本プログラム」とは,本契約にしたがって提供される○○○○(具体的な
商品名)のコンピュータ・プログラムをいいます。
(2)本契約において,「本ソフト」とは,「本プログラム」と「本プログラム」とともに提供されるマニュアル等の書類とをいいます。
第 2 条 使用許諾の範囲
(1)本プログラムを一台のコンピュータにインストールして使用することができます。
(2)本プログラムを同時に使用しない場合には,本プログラムを複数台のコンピュータにインストールすることができます。
(3)本プログラムのバックアップ用に一つの複製物を作成することができます。
(4)本プログラムを譲渡する場合には,譲渡された第三者は本契約に同意するものとし,譲渡したお客様のコンピュータにインストールされた本プログラム,バックアップ用のプログラムをすべて消去するものとします。
第 3 条 禁止行為
本契約において許諾されている場合を除き,次の行為を禁止します。
(1)本ソフトの複製
(2)本プログラムの貸与
(3)本プログラムの改変,リバース・エンジニアリング
第 4 条 責任制限
(1)本ソフトの購入日から○○日間に限り,マニュアル等の書類に乱丁,落丁があった場合には弊社の判断にもとづきマニュアル等の書類を交換いたします。
(2)本ソフトの購入日から○○日間に限り,本プログラムがマニュアル等の書類通りに実質的に動作することを保証します。本プログラムがマニュアル等の書類通りに実質的に動作しない場合の弊社の責任および補償は,弊社の選択により本プログラムの取替えまたは本ソフトの購入代金の返還に限られます。
(3)弊社は,前二項に定める以外の責任を負いません。本ソフトの使用から生じるいかなる損害の責任も,直接,間接を問わず,弊社は一切負いません。いかなる場合も弊社の責任は,本ソフトの交換または本ソフトの購入代金の返還に限られます。
(4)本契約内容を遵守し,ユーザ登録を行うことにより,本ソフトの購入日から○年間(通常は 1年間)本プログラムの改訂版に関する情報,新製品に関する情報を提供します。
第 5 条 契約期間
(1)本契約期間は,本契約成立時からお客様が本ソフトの使用を中止するまでとします。
(2)お客様が本契約に違反した場合,弊社は本契約を解除することができます。
(3)本契約が終了または解除された場合,お客様の負担で本ソフトおよびその複製物を弊社に返却するか破棄するものとします。
第 6 条 個人情報の取扱い
(1)お客様は,氏名,住所等,お客様によるユーザ登録により知り得るお客様の個人情報を弊社が必要な安全管理措置を講じた上で収集し,利用することに同意します。
(2)お客様は,サポート・サービスの提供,弊社の製品案内,アンケート調査に関してお客様の個人情報を利用することに同意します。
(3)お客様は,弊社が前項の行為を実施するに当たり必要な第三者に個人情報を提供することに同意します。
(4)お客様は,弊社に対して必要な手続きおよび手数料を支払うことによりお客様の個人情報を開示するように請求することができます。お客様は,弊社に対してお客様の個人情報の訂正または利用停止を請求できます。弊社はお客様からの個人情報の訂正または利用停止の請求に対してお客様の個人情報の訂正または利用停止を行うものとします。
第 7 条 一般条項
(1)本契約は,日本法を準拠法とします。
(2)本契約に関する紛争は東京地方裁判所を第xxとしての管轄裁判所とします。
2.1.2 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の解説
(1)定義
定義については,使用許諾するコンピュータ・プログラムの範囲を明確にするとともにコンピュータ・プログラムの具体的な商品名を使用許諾契約上で簡便な用語を用いることができるようにするために規定される。簡便な用語を使用する必要が無い場合には,定義
をあえて設けることは不要であろう。
コンピュータ・プログラムにマニュアル等の書類が添付される場合には,コンピュータ・プログラムと書類とを区別するための定義が設けられる。現在では,マニュアルはデータによりユーザに付与されることもある。マニュアルがデータによりユーザに付与される場合には,「書類」の文言は変更されよう。
(2)使用許諾の範囲
著作xxにおいては著作権者に使用権が認められていないために,プログラムの使用は著作権者の承諾が不要である。このことを前提として,プログラムの使用を限定するために使用許諾の範囲の規定が設けられる。使用許諾の範囲の規定が設けられることにより,著作権者はプログラムの自由使用を制限できる。
著作xxでは,プログラムの著作物の複製物の所有者は,必要な限度において,その著作物を複製できるが(第 47 条の 2),プログラム使用許諾契約において複製物を生成する個数を一つに規定することが多い。著作xxにおいては,xxxによる著作物の私的複製
(第 30 条),プログラムの著作物の複製(第 47 条の 2)が認められているが,これらの規定を任意規定と捉えてプログラム使用許諾契約において制限する場合に,私的複製の完全禁止,著作物の複製の完全禁止は無効とされる可能性がある。
(3)禁止行為
使用許諾の範囲の規定がプログラムの使用許諾の範囲を積極的に規定することにより,プログラムの使用を間接的に制限するのに対し,プログラムの使用態様の禁止行為を直接的に制限するために設けられる。著作xxにおいて規定されている禁止行為についても確認のための規定を設ける場合がある。
(4)責任制限
著作権者の責任の範囲,補償範囲をあらかじめ明らかにするために規定する。マニュアル等の書類とプログラムとをそれぞれ別々に規定することが多い。
プログラムについては,動作についての保証ならびに動作しない場合の責任および補償が規定される。プログラムの交換または購入代金の返還を責任の限度とすることが多い。プログラムの動作を補償するハードウェア環境についてはマニュアル等の書類に記述されることとなると思われる。記述されるべきハードウェア環境については,OS の種類とバージョン,CPU の種類と演算速度,メイン・メモリの空き容量,ハード
ディスクの空き容量などが考えられる。
補償期間は,購入日から○○日以内と制限されることが多いが,あまりに短い場合には無効となる可能性がある(消費者契約法第 10 条)。
プログラムを用いて発生した損害の責任を一切負わない旨も規定することが多い。
ユーザ登録をすることにより,サポート・サービスを行う旨を規定することもある。
(5)契約期間
契約の始期,終期を規定するともに,契約解除についても規定する。
契約期間自体よりも契約の終了,契約解除の効果が重要である。契約の終了,解除により,著作権者から提供されている書類,プログラムの返却,破棄,複製物の破棄を規定することが多い。
(6)個人情報の取扱い
プログラムを提供することにより著作権者が知り得たエンド・ユーザの個人情報の取扱いについて規定する。著作権者がxxx・xxxの個人情報を取得したり,利用したりしなければ,個人情報の取扱いの規定は不要であろう。
個人情報保護法においては,利用目的の明示,適正な取得,安全管理措置,第三者提供の制限,本人管理対応(個人情報保護法第 15 条~第 27 条)が規定されている。これらの規定を遵守して規定することとなろう。
(7)一般条項
準拠法および第xxの管轄裁判所を規定することが多い。エンド・ユーザとの間のプログラム使用許諾契約では,シュリンク・ラップ契約,クリック・オン契約が行われることが多いが,管轄合意は書面によらなければならないので(民事訴訟法第 11 条第 2 項),クリック・オン契約での管轄合意は裁判所を拘束しないと考えられる。
2.2 特定の顧客に適用する使用許諾契約
不特定多数のユーザに一律に適用する使用許諾契約では,著作権者の立場から契約書が作成される。これに対して,特定の顧客に適用する使用許諾契約では,著作権者と顧客との間で契約書を自由に作成すればよい(6)。著作権者と顧客とのどちらの立場に立つかによって,作成しようとする契約書の内容が異なるし,著作権者と顧客との力関係によっても契約書の内容が異なる点に注意が必要である。したがって,使用許諾
契約を一律に規定することはできないが,一例を挙げることは使用許諾契約書の作成に一助となると考えられるので,以下に使用許諾契約書の一例を示す。
使用許諾契約書において,xが著作権者,乙が顧客である。
2.2.1 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の例
(前文)
株式会社○○○○(以下,甲という)と株式会社×
×××(以下,乙という)とは,コンピュータ・プログラムの使用許諾に関し,次の通り契約する。
第 1 条 定義
(1)本契約において,「本プログラム」とは,本契約にしたがって契約される○○○○(具体的な商品名)のコンピュータ・プログラムをいう。
(2)本契約において,「本ソフト」とは,「本プログラム」と「本プログラム」に関するマニュアル,仕様書などの関連資料をいう。
第 2 条 使用許諾の範囲
甲は,乙に対し,本ソフトの譲渡不能な非独占的使用権を許諾する。但し,本プログラムは,別紙記載のコンピュータにのみインストールすることができ,かつ別紙記載の条件で使用できるものとする。
第 3 条 納入,インストール,稼動,検査
(1)甲は,別紙記載の期日までに本ソフトを乙に提供するものとし,別紙記載の期日までに本プログラムを別紙記載のコンピュータにインストールするものとし,別紙記載の期日までに稼動できるようにする。
(2)乙は,本プログラムが稼動可能となった後,○
○日以内に本プログラムが仕様書通りに稼動するかを検査し,検査結果を乙に報告する。本プログラムが仕様書通りに稼動しない場合には,乙は,甲に対し,本プログラムが仕様書通りに稼動するように要求できる。本プログラムが稼動可能となった後,○○日以内に乙への検査結果報告が無かった場合には,本プログラムは仕様書通りに稼動したものとみなす。
第 4 条 使用料
乙は,本ソフトの使用料として,甲に対し,別紙記載の金額を別紙記載の期日までに別紙記載の方法により支払うものとする。
第 5 条 禁止行為
乙は,甲の書面による承諾を得ない限り,本ソフト
の少なくとも一部について次の行為をしてはならない。
(1)本ソフトの譲渡
(2)本契約にもとづく使用許諾権の譲渡
(3)本ソフトの貸与
(4)本プログラムの改変,リバース・エンジニアリング,逆コンパイル,逆アセンブル
第 6 条 責任制限
(1)甲は,本プログラムが仕様書とおりに稼動することを保証する。
(2)甲は,本プログラムのインストール後○月以内に乙より通知された瑕疵を無償で修正する。
(3)甲は,乙に対し,前項以外に瑕疵担保責任を負わないものとする。
(4)甲は,本プログラムのインストール後○月以後に乙より通知された本プログラムの修正依頼に対し,別途保守契約にしたがって本プログラムを修正する。
第 7 条 契約期間
契約期間は,甲および乙の双方が本契約書に署名または記名押印した日から開始し,甲または乙の解約により終了するものとする。
第 8 条 解約
(1)甲または乙は,相手方が本契約に違反した場合,本契約を解約できる。
(2)解約した場合,乙は,本ソフトおよび本プログラムの複製物を廃棄または甲に返還しなければならない。乙は,本ソフトおよび本プログラムの複製物を廃棄した場合には,甲に廃棄証明書を提出しなければならない。
(3)本契約が解約された場合でも乙は,甲に対し支払った使用料の返還を求めることはできない。
第 9 条 管轄裁判所
本契約に関する訴訟については,東京地方裁判所を第xxの管轄裁判所とする。
第 10 条 協議
本契約に定めない事項または本契約の各条項に疑義を生じた場合には,甲および乙は協議し,xxxxの原則にもとづき円満に解決するものとする。
本契約の証として,本契約書を 2 通作成し,甲および乙は,署名または記名押印の上各自 1 通を保有するものとする。
平成○○年○○月○日
④使用料
使用料は,一括払い,定期払いなどがある。
甲 | ⑤禁止行為 | |
住所 | 不特定多数との使用許諾契約の場合と特に変わらな | |
会社名 | い。但し,ソフトウェアが,モジュールと,使用許諾 | |
代表者 | 印 | を受けたモジュールを管理するファイルとからなる場 |
合に,使用許諾を受けたモジュールを超えて他のモ | ||
乙 | ジュールに使用できるように,その管理ファイルを改 | |
住所 | 変することは,翻案権(著 27 条)侵害と認められた | |
会社名 | 例がある(7)。モジュールと管理ファイルとがある場合 | |
代表者 | 印 | に,その管理ファイルの変更も禁止することをあらか |
2.2.2 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の解説
(前文)
一般的には,甲と乙との間に以下の契約がなされることを前文として記載することが多い。
①定義
定義については,不特定多数のユーザとの使用許諾契約書の定義とあまり変わりないと思われる。
②使用許諾の範囲
使用権が「譲渡不能」であり,かつ「非独占」である点がポイントである。「譲渡不能」とすることにより,使用可能な顧客を契約当事者である乙だけに限定することができ,甲は使用者をコントロールできる。「非独占」とすることにより,甲は,乙以外の顧客に使用権の設定を担保できる。
コンピュータ・プログラムとそのコンピュータ・プログラムをインストールするコンピュータとは一対一に対応するために,本プログラムをインストールできるコンピュータの範囲を,別紙で決定している。また,本プログラムをインストールするコンピュータを一台に限定しても,その一台のコンピュータにアクセスして本プログラムを利用したのでは,本プログラムをインストールできるコンピュータの台数を限定した意味が無い。このために,本プログラムをインストールするコンピュータの利用条件を別紙で詳細に規定する必要があろう。
③納入,インストール,稼動,検査
本プログラムが仕様書通りに稼動するように著作権者に義務を課すものである。顧客には検査義務を課し,検査義務を果たさない顧客にはみなし合格としている。
じめ契約で規定しておくことも考えられる。
⑥責任制限
一定期間内に見つかった瑕疵については無償で修正し,その後については保守契約によるものとされている。
⑦契約期間
本契約では,不特定多数のユーザに一律に適用する場合のシュリンク・ラップ契約,クリック・オン契約を想定していず,書面による契約を想定しているので,著作権者と顧客との双方の署名または記名押印により契約が開始されるものとした。
⑧解約
催告なしに解約できるとしたが,一定期間の催告後に本契約違反が是正されない場合に解約できる,としてもよい。
本ソフトの所有権は,著作権者が有しているものとされるために,解約の効果として,本ソフトの乙への返還または廃棄を規定した。
⑨管轄裁判所
東京地方裁判所としたが,著作権者および顧客の本社所在地に応じて他の地方裁判所としてもよい。
⑩協議
慣例として加入される定型文にすぎず,あまり意味は無い。
3.プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムの複製物を賃貸する形態での使用許諾契約
この使用許諾契約では,上述したように売買契約での使用許諾契約と異なり,不特定多数のユーザとの間での契約は考えられず,特定の顧客に適用するものとなる。売買契約と異なると考えられる使用料,契約期
間および解約についてのみ述べる。
3.1 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の例
第 4 条 使用料
本契約にもとづく本ソフトの使用料は,月額○○○
○円とし,乙は,甲に対し,毎月末日までに翌月分の使用料を銀行振り込みにより支払う。1 ヶ月に満たない月の使用料は,月額の使用料をその月の日数により日割り計算する。
第 7 条 契約期間
本契約は,契約の開始日の 1 年間とする。但し,甲または乙から期間満了日の 1 ヶ月以前に書面による解約の通知が無い限り,その後 1 年間延長するものとし,その後も同様に延長するものとする。
第 8 条 解約
(1)乙は,本契約期間中に甲に対し,○月前に解約の申し込みをすることにより,解約することができる。
(2)甲または乙は,相手方が本契約に違反した場合,本契約を解約できる。
(3)解約した場合,乙は,本ソフトおよび本プログラムの複製物を廃棄または甲に返還しなければならない。乙は,本ソフトおよび本プログラムの複製物を廃棄した場合には,甲に廃棄証明書を提出しなければならない。
(4)本契約が解約された場合でも乙は,甲に対し支払った使用料の返還を求めることはできない。
3.2 コンピュータ・プログラム使用許諾契約書の解説
①使用料
賃貸のため,月額払いとしている。
②契約期間
1 年単位であり,相手方への通知が無い限り,自動継続としている。
③解約
契約期間中であっても事前通告により解約可能としている。
4.オープン・ソース・タイプのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約
4.1 オープン・ソース・ソフトウェア
オープン・ソース・ソフトウェアという言葉が世の中に登場する以前からソース・コードをオープンにしようという考え方およびソース・コードをオープンにしたソフトウェアは存在していた。そのようなソフト
ウェアは,フリー・ソフトウェアと呼ばれ,フリー・ソフトウェア・ファウンデーションという団体で推進されている。
フリー・ソフトウェア・ファウンデーションでは,フリー・ソフトウェアであるための定義を規定している。その定義は,次の通り(8)であり,ソフトウェア・ユーザの 4 種類の自由を指している。
・第 0 の自由:目的を問わず,プログラムを実行する自由。
・第 1 の自由:プログラムがどのように動作しているか研究し,そのプログラムにあなたの必要に応じて修正を加え,採り入れる自由。
・第 2 の自由:身近な人を助けられるよう,コピーを再頒布する自由。
・第 3 の自由:プログラムを改良し,コミュニティ全体がその恩恵を受けられるようあなたの改良点を公衆に発表する自由。
その後,オープン・ソース・ソフトウェアという言葉が使い出され,オープン・ソース・イニシアチブという団体が組織された。
オープン・ソース・イニシアチブにおいて,オープン・ソース・ソフトウェアが定義されている。その定義は,次の通りである(9)。
①自由な再頒布が可能であること。
②ソース・コードを公開すること。
修正版や派生版の作成が許されること。
③ソース・コードの全体性を保持すること。
④ライセンス対象を差別しないこと。
⑤利用分野による差別もしてはならないこと。
⑥ライセンス条件を維持すること。
⑦元のライセンスは特定製品固有のものに束縛されないこと。
⑧他のソフトウェアのライセンス条件には影響を与えないこと。
これらの定義に合致したコンピュータ・プログラムがフリー・ソフトであり,オープン・ソース・ソフトウェア(プログラム)(10)である。
4.2 オープン・ソース・プログラム契約
オープン・ソースのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約は,パブリック・ドメインとする契約ではなく,コピーレフト契約である。オープン・ソースのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約が,仮に,
オープン・ソース・ソフトウェアをパブリック・ドメインとする契約であるとするならば,パブリック・ドメインとなったソフトウェアを変更したソフトウェアに著作物性があれば,コピーライトを主張することができるようになる。このような主張は,オープン・ソースの理念に反する。コピーレフトのゴールは,オープン・ソース・ソフトウェアをプライベートから守ることである。このために,コピーライトを放棄することなく,ソフトウェアを自由にするために考えられたのがコピーレフトであり,オープン・ソースのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約である。コピーレフトは,わずかしか権利を主張していないが,権利を放棄している訳ではない。コピーライトの存在を前提として,コピーレフトが存在するのである。オープン・ソース・タイプのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約には,プロプラエタリィ・タイプのコンピュータ・プログラムの使用許諾契約とは全く異なる特殊性を有している。
オープン・ソース・ソフトウェア契約については
『オープンソフトウェアの法的諸問題に関する調査 調査報告書』(11)に詳しく記載されているので,興味のある方はそちらを参照されたい。また,オープン・ソース・ソフトウェア契約の代表的なものとして GPL があるが,そのバージョン 3 が 2007 年 6 月 29 日に公開された(12)。
5.おわりに
以上,コンピュータ・プログラムの使用許諾について契約書例をあげて簡単に解説を試みた。契約書を作成する場合,著作権者側,ユーザ側のどちらに立場となるかによって異なったものとなってしまうが,契約書作成の一助になれば幸いである(13)。
以上
注
( 1 )但し,侵害行為によって作成されたコンピュータ・プログラムの複製物を使用する行為は,著作権侵害とみなされる(著作xx第 113 条第 2 項)。
( 2 )売買形態の使用許諾契約であるから,フリーウェア(無料のコンピュータ・プログラムの意味であり,フリー・ソフトと呼ばれるものではない)は想定してないし,
シェア・ウェアも想定していない。
( 3 )消費者契約法による制限もある。
( 4 )シュリンク・ラップ契約,クリック・オン契約では,ユーザへの契約内容の提示方法いかんでは契約自体が不成立となることがあるために,契約内容を慎重にユーザに提示する必要がある。詳しくは,xxxxほか『電子商取引に関する準則とその解説』 別冊 NBL no. 73
株式会社商事法務(2004)を参照。
( 5 )フリーウェアであれば,使用許諾,複製,貸与の禁止行為は問題とならず,プログラムの改変,リバース・エンジニアリングの可否,責任制限が契約の中核をなすこととなろう。
( 6 )当事者間の自由により契約することができるとはいえ,独占禁止法などのような強行法規に反する契約はできない。
( 7 )東京地裁平成 19 年 3 月 16 日判決 平成 17 年(ワ)
第 23419 号
( 8 )available at xxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxxxxxx/xxxx-xx. ja.html。
( 9 )available at xxxx://xxx.xxxxxxxxxx.xx/xxx/xxx- japanese.html。
(10)ここでは,フリー・ソフトとオープン・ソース・ソフトウェアとを区別しないこととする。
(11)『オープンソフトウェアの法的諸問題に関する調査 調査報告書』財団法人 ソフトウェア情報センター(平成 15 年)
available at xxxx://xxx.xxx.xx.xx/XXX/xxxxxx/00xx-xxx/ chosa/15-907.pdf。
(12)available at xxxx://xxx.xxx.xxx/xxxxxxxx/xxx.xxxx。日本語訳は,available at xxxx://xxxxxxxxxxxxx.xx/xxxxx ource/07/09/02/130237.shtml。
(13)参考文献 xxxx『ソフトウェア取引の契約ハンドブック』(共立出版株式会社,xxx年),企業法務実務研究会『リスク管理と契約実務』(第一法規出版,平成 16 年),xxxxほか『ライセンス契約のすべて』
(レクシスネクシス・ジャパン株式会社,平成 18 年),大阪弁護士会知的財産法実務研究会『知的財産契約の理論と実務』(株式会社商事法務,平成 19 年),その他の使用許諾契約書。
(原稿受領 2008. 7. 4)