Contract
治験手続きの電磁化における標準業務手順書
さいたま赤十字病院
第 1.0 版
1. 目的
本手順書は、「さいたま赤十字病院 治験業務手順書(「治験審査委員会業務手順書」を含む)(以下、原手順書という)に定める治験手続きについて、電磁的に治験関連文書を作成、交付、受領又は保存(以下、保存等という)する場合に特有の手順を定め、電磁的記録の信頼性を確保することを目的とする。
なお、製造販売後臨床試験に本手順書を適用する場合には、「治験」を「製造販売後臨床試験」と読み替えるものとする。
2. 適用範囲
2.1 本手順書の適応となる業務範囲
(1) 実施医療機関による治験関連文書の作成、交付、受領及び保存
(2) 治験審査委員会による治験関連文書の作成、交付、受領及び保存
(3) 治験関連文書の破棄
2.2 本手順書の適応となる治験関連文書
(1) 最新の「治験の依頼等に係る統一書式」で規定される書式及びその添付資料
(2) 上記以外の原手順書に規定した文書であって、GCP 省令等において記名押印又は署名することが規定されていない文書(症例報告書の写しを除く)
2.3 本手順書の適応外となる治験関連文書
(1) 署名等が求められる以下の文書
・ 治験実施計画書の合意を証するための記録
・ 契約書
・ 同意書
・ 症例報告書
3. 電磁的記録の保存等に関する基本事項
3.1 交付及び受領の手段
治験関連文書を授受する相手方との協議により、以下のいずれか又は複数の手段を用いる。
・ 電子メール(e-メール)
・ 再書き込み、修正等が不可能な DVD-R 等の記録媒体(以下、DVD-R 等という)
・ クラウド等システムの交付及び受領のログ記録が残るシステム
3.2 保存の手段
以下のいずれか又は複数の手段を用い治験関連文書を保存する。
・ 再書き込み、修正等が不可能な DVD-R 等
・ 自施設専用サーバー
・ クラウド等システム
3.3 利用可能な電磁的記録のファイル形式
特定のシステムや環境によらず広く利用され、十分な使用実績があるファイル形式であることを鑑み、原則として以下のファイル形式を用いる。
・ Adobe Portable Document Format(PDF)
・ Microsoft Word/Excel/PowerPoint
3.4 授受及び保存時のフォルダ名及びファイル名
「治験関連文書における電磁的記録の活用に関する基本的考え方」の一部改正について
(平成 26 年 7 月 1 日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡)をもとに、授受の相手方と協議し決定する。
3.5 システムが ER/ES 指針に適合していることの確認
(1) コンピュータ・システム・バリデーション
自施設専用サーバー又はクラウド等システム(以下、本項及び次項においてシステムという)を利用する場合において、事実経過を検証するための記録としてログを活用することは有用な手段であるが、ログの信頼性を確保するためには、そのシステムが「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」
(平成 17 年 4 月 1 日付け薬食発第 0401022 号厚生労働省医薬食品局長通知)(ER/ES 指針)に適合している必要がある。システムを利用する場合は、予め以下の要件を満たしていることを確認し記録する。
・ 実務担当者の業務内容に応じた権限(入力権限、閲覧権限)が付与されていること
・ 電磁的記録がセキュリティで保護されており、改変された場合は記録が残される機能が備わっていること
・ バックアップ、リストア(最新のバックアップ時の状態に復元すること)できるプロセスが確立されていること
・ 見読性が確保されており、電磁的記録をプリンタ等により書面として出力できること
・ 必要な期間、保存が可能であること
・ 他の記録媒体やファイル形式にデータを移行した場合でも、上記の要件を満たすこと
(2) システム管理体制
前述のシステムを利用するにあたっては、当該システムの管理、運営に必要な責任者、管理者、組織、設備を以下のとおり定めるとともに、システムの運用手順を定め、教育訓練を行う。
・ 責任者:院長
・ 管理者:システム毎に別途定める
・ 組織:治験事務局がシステムの管理に関する実務を行う
・ 設備:システムが定める要件に従う
3.6 外部が保有するシステムの利用
電磁的記録の保存等を行うにあたり、企業、団体等が管理するシステムを利用する場合
は、治験依頼者から提供されたシステムを利用する場合を除き、予め業務委託先の管理体制(特にバックアップの実施状況、リカバリー手順及び報告連絡体制等)や事業継続性について十分に確認した上で、GCP 省令第 39 条の 2 に基づく契約を締結する。
3.7 業務責任の明確化
書面による治験関連文書の保存等と同様、各治験関連文書の作成責任者が電磁的記録の保存等に関する業務責任を負う。
なお、原手順書、「治験分担医師・治験協力者リスト」又は治験施設支援機関との契約において、治験関連文書の保存等に関する事務的作業の支援又は委託を規定している場合は、規定の範囲において当該業務支援者に業務を代行させることができるが、最終責任は各文書の作成責任者が負う。
3.8 受領側からの電磁的記録による交付の承諾
本手順書で示す電磁的記録での治験関連文書の授受について、予め以下の点を受領側に提示し、承諾を得る。
(1) 通知上、確認すべき承諾の範囲
・ 電磁的記録を用いて授受を行う治験関連文書
・ 授受の手段
(2) 業務上、確認すべき承諾の範囲
・ 授受を行う際に用いるファイル形式(バージョン情報を含む)、ファイル名、フォルダ名
・ 機密性確保策及び改変防止もしくは検知策
・ 保存及び破棄の手段
4. 電磁的記録の保存等に係る具体的な手順
4.1 電磁的記録の作成
原則として 3.3 で定めたファイル形式で作成し、相手方に交付する直前に作成日を記載する。
4.2 電磁的記録の授受
(1) 交付時の留意事項
1) 3.4 の定めに従い作成した交付用フォルダ内に、相手方に交付する電磁的記録を保管する。
2) 上記 1)の保管の際は、3.5 で定めたシステムを利用する場合を除き、以下の措置を講じる。
・ 機密性を確保するため、交付用フォルダに読み取り制限パスワードを設定し、解除パスワードを別途送付する
・ 改変を禁止する電磁的記録に関しては、改変を防止又は検知できるよう、画像 PDF への変換、電磁的記録への変更不可パスワードの設定又は再書き込み、修正等が不可能な DVD-R 等を利用する
3) 書面をスキャンして電磁的記録として交付する場合は、4.3(3)の定めに従い電磁的
記録に変換する。
4) 原データを含む電磁的記録(統一書式 12[重篤な有害事象に関する報告書]等)を交付する場合は、作成責任者が直接交付する、又は電子メールを用いる場合は送信先に作成責任者を含める、若しくは当該電磁的記録の内容を作成責任者が確認した記録を残す(電磁的記録の内容を作成責任者が確認した記録の例:当該電磁的記録を書面として出力し、作成責任者が書面を確認、当該書面に確認日、記名押印又は署名を付す。ただし、この場合であっても電磁的記録を原本とする)。
なお、統一書式 12[重篤な有害事象に関する報告書]等の一部書式について記名押印又は署名が必要と規定している場合であっても、当該書式を電磁的に保存等する際に上記の措置を講じた場合は、記名押印又は署名は不要とする。
5) 交付時に電磁的記録に対しファイル形式を変更する等の見読性に影響を与える可能性のある変更を行う場合(例:Word の保存形式を Word2003 から Word2013 にバージョン変更する、Word ファイルを PDF に変換する等)は、変更前後の出力内容に変更がないことを確認する。
6) 交付後の相手方において、以下の点が実施可能であることを予め確認する。
・ 授受の相手方が電磁的記録を書面として出力できること
・ 授受の相手方が授受された治験関連文書を保存していること
・ 授受の相手方が授受された事実経過を検証できるように記録し、その記録を保存していること
(2) 授受の手順
1) 電子メールを用いる場合
交付者は、宛先に間違いがないことを確認の上、送信する。
授受後は、交付者、受領者の双方において、4.2(3)の定めに従い、事実経過を検証するための記録を残す。なお、代理受信を行う場合は、速やかに本来の受領者へ連絡する。
2) DVD-R 等の記録媒体を用いる場合
特定のシステムや環境によらず、広く利用され汎用性のある読み取り装置を介し閲覧でき、消去や上書きのできない記録媒体として、DVD-R 等を用いて交付する。
授受後は、交付者、受領者の双方において、4.2(3)の定めに従い、事実経過を検証するための記録を残す。
3) クラウド等システムを用いる場合
3.1 で相手方から使用の承諾を得たクラウド等システムを用いて授受する。事実経過を検証するための記録としてシステムの操作ログを活用する場合は 3.5 に準拠することとし、それ以外の場合は、交付者、受領者の双方において、4.2(3)の定めに従い、事実経過を検証するための記録を残す。
(3) 授受の事実経過を検証するための記録
治験関連文書を電磁的記録として授受するにあたっては、その授受の事実経過を後から第三者が検証できるよう、その授受の方法に応じて、以下のいずれか又は複数の方法を用いて、その記録を残す。
1) 電子メールによる授受の場合
・ 授受メール及び授受に対する返信メールを保存する
・ 送信簿/受信簿を作成し、授受者、授受日時、授受内容を記録する
・ 電話等で授受されたことを確認し、文書に記録する
2) DVD-R 等による授受の場合
・ 授受資料に添付された送付状又は授受の記録(宅配便伝票等)を保存する
・ 送付簿/受領簿を作成し、授受者、授受日時、授受内容を記録する
3) クラウド等システム(3.5 の規定を準拠していないもの)による授受の場合
・ 送付簿/受領簿を作成し、授受者、授受日時、授受内容を記録する
4.3 電磁的記録の保存
(1) 電磁的記録を作成又は受領し、電磁的記録として保存する場合
1) 3.2 で定めた手段を用い、記録媒体の劣化が進みにくい高温、多湿、直射日光、埃を避けた所定の場所にて保存する。
2) 3.5 に準拠した自施設専用サーバー又はクラウド等システムを利用する場合を除き、電磁的記録にパスワード等の機密性確保措置を講じる。
3) 所定の場所に保存するまでに一時保管をする場合、作成又は受領資料が所在不明にならないよう、一時保管場所を定め定期的に確認する等、確実に所定の場所に保存できる措置を講ずる。
4) 作成又は受領した電磁的記録に変更が生じ、電磁的記録を新たに作成又は受領する際は、経緯が検証可能なよう変更前後の電磁的記録の両方を保存する。
5) 電子メールを用いて電磁的記録の授受を行い、受領した電磁的記録を 3.5 に準拠した自施設専用サーバー又はクラウド等システムに保存する場合は、電子メールの受信者は、電子メール受信後速やかに自施設専用サーバー又はクラウド等システムに電磁的記録を保存する。またその際、当該電磁的記録が添付されていた電子メールも合わせて保存する。
(2) 電磁的記録を作成又は受領し、書面として保存する場合
受領した電磁的記録を書面として出力し、電磁的記録と書面の出力内容に変更がないことを確認の上、書面を保存する。
(3) 書面で作成又は受領し、電磁的記録として保存する場合[スキャンによる電磁化]
1) 元の書面の記載内容を判別できる解像度及び階調(200dpi、RGB256 程度)で書面をスキャンし、電磁的記録に変換する。
2) 元の書面と変換した電磁的記録の出力内容が同一であることを確認の上、スキャンした実施者、実施日付、実施内容の記録を作成し、速やかに電磁的記録を所定の場所に保存する。なお、3.5 に準拠した自施設専用サーバー又はクラウド等システムにスキャンした電磁的記録を保存する場合は、当該自施設専用サーバー又はクラウド等システムへの保存をもって、スキャンの実施記録とすることができる。
3) スキャンした資料については、元の書面と変換した電磁的記録の出力内容が同一であることを確認し、上記 2)の記録を作成した後、xxxxxx等により識別不可能かつ復元不可能な方法で破棄する。
4.4 電磁的記録の破棄
1) 電磁的記録を原手順書に規定した期間保存し、 治験依頼者に保存期間延長の有無を確認した上で、復元ができない消去又はシュレッダーを用いた物理破壊等により、読み出し可能なデータが残存しない方法で破棄する。
2) 読み出し可能なデータが残存していないこと、実施者、実施日付、記録名、破棄方法を記録する。
4.5 バックアップ及びリストア
保存した電磁的記録の見読性が失われることに備え、定期的に正副 2 種類の多重化バックアップを実施する。バックアップは電磁的記録の記録媒体によらず 5 年以内を目安とし、保存した電磁的記録毎にバックアップ時期を定め、毎月対象記録を確認のうえ作業を実施する。
保存中の電磁的記録の見読性が失われた場合には、失われた記録の交付者に連絡のうえ、バックアップを用いて元のデータにリストアする。
バックアップ及びリストアを実施した際は、実施者、実施日付、記録名に加え、バックアップ又はリストアした電磁的記録と元の電磁的記録を比較する等により、両者が同一であることを確認し記録する。
4.6 保存された電磁的記録の他の記録媒体やファイル形式(バージョン変更も含む)への移行
他の電磁的記録媒体に移行した場合は、4.5 バックアップ及びリストア同様、実施日付、
移行した電磁的記録名に加え、移行した電磁的記録と移行前の電磁的記録のハッシュ値を比較する等により両者が同一であることを確認し結果を記録する。また、移行時に方式も変更した場合は移行後の見読性が失われていないことを確認し結果を記録する。
4.7 電磁的記録の監査・規制当局による調査等への提供
モニター、監査、治験審査委員会並びに規制当局等による調査の際は、必要な電磁的記録を DVD-R 等にて提供する、クラウド等システムにて閲覧に供する等の対応を取る。なお、DVD-R 等にて提供する場合は、DVD-R 等はバックアップに準じ、電磁的記録の同一性と見読性に問題が無いことを確認する。
4.8 本手順書に関する教育
本手順書に従って業務を実施する者は、事前に本手順書の内容について学習し、その内容、学習日及び学習者を別紙に記録する。なお、3.5 で定めるクラウド等システムを利用する場合は、当該システムに特有の手順や内容についても学習し、その内容、学習日及び学習者を記録する。
以上
附則
本手順書は、西暦 2022 年 12 月 1 日より施行する。(第 1.0 版)